説明

昇華転写機とその使用方法

【課題】 昇華転写機において、ニットやフリース等の毛足の長い厚手の生地にも、本来の風合いを損なうことなく且つ色合いのよい染色がてきるようにする。
【解決手段】 通気性マット13の上に、生地17と昇華転写シート18と飛散防止シート19とを囲繞するスペーサ15を設ける。加熱板11の下降限をスペーサ15で規制する。加熱板11の下降限は、加熱板11がスペーサ15内部で最上部に位置する飛散防止シート19と隙間なく密着する位置とする。台盤12の通気性マット13の下側位置に複数の吸気孔20を上下方向に貫通して設ける。吸気孔20の下端に吸気装置15を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料品製造や絵柄染色分野において、昇華転写シートにプリントした染料を昇華させて生地に染色する昇華転写に係り、特に、フリースやマイクロフリース,ニット,パイル生地等の厚手の生地に昇華転写で染色する際にも、起毛を倒して生地本来の風合いを損なうことがないようにした昇華転写機とその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昇華転写による染色技術は、古くから陶器等で利用されてきたが、近年コンピュータとインクジェット・プリンタの技術進歩と普及により、デジタル処理された画像を様々な素材へダイレクトに転写することが可能になってきている。
【0003】
例えば、特定の図柄をディスプレイ上で加工成型するコンピューターシステムと、該コンピューターシステムからのデータにより、昇華染料インクを離型紙に吹き付けて前記特定図柄を反転させた反転図柄が印刷された転写シートを形成するプリンタと、前記転写シートを加熱加圧することにより、被転写物へ前記反転図柄を昇華転写するためのプレス式の昇華転写機とから構成された転写システムが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
図5は、上記特許文献1等に用いられる従来の一般的な昇華転写機を示しており、この昇華転写機1は、上下に加熱板2と台盤3とを対向配置し、該台盤3にマット4を介して生地5を載置し、さらにこの生地5の上に昇華転写シート6と飛散防止紙7とを順次重ね置きしたのち、前記加熱板2を下降して昇華転写シート6を生地5に押圧することにより、昇華転写シート6にプリントした図柄や文字等の染料を昇華させて生地5に染色するようにしている。
【特許文献1】特開2002−69866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような転写システムは、毛足が長い起毛のニットやフリース,マイクロフリース,パイル生地等の生地の起毛が高圧のプレスによって押し倒され、生地そのものが薄くなって本来の風合いが著しく損なわれるばかりか、染色も色合いのぼけたものとなるため、厚手の生地への昇華転写は無理とされていた。
【0006】
本発明は、かかる実情を背景にしてなされたもので、その目的とするところは、フリースやマイクロフリース,ニット,パイル生地等の毛足の長い厚手の生地にも、本来の風合いを損なうことなく且つ色合いのよい染色を行うことのできる昇華転写機とその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明の昇華転写機として、台盤上に敷設した通気性マットに、生地と昇華転写シートとを重合して載置し、前記台盤の上方に位置する加熱板の下降により、前記昇華転写シートにプリントした染料を昇華させて前記生地に染色する昇華転写機であって、前記台盤の上に、前記加熱板の下降限を規制するスペーサを載置するとともに、前記加熱板の下降限を、該加熱板が前記生地と前記昇華転写シートのいずれか上側に位置するものと隙間なく密着する位置となし、前記台盤の通気性マット下側位置に複数の吸気孔を上下方向に貫通して設け、該吸気孔の下端に吸気装置を接続したことを特徴としている。
【0008】
上記発明の昇華転写機において、昇華転写シートは生地の上下いずれか一方または双方に設けられる。加熱板の下降限は、スペーサとの当接によって、加熱板が上側に配設された生地または昇華転写シートと隙間なく密着する位置に規制される。加熱板は、この下降限位置において、所定時間の間、所定温度で生地と昇華転写シートを加圧することなく加熱し、昇華転写シートにプリントされた絵柄や文字等の染料を昇華させて生地に染色する。
【0009】
本発明のスペーサは、下降する加熱板を支承して該加熱板の下降限を規制するストッパであり、その内部に収容される生地や昇華転写シートの積み重ね高さと同一高さのものが選択して用いられる。スペーサは、生地や昇華転写シートを挟んだ左右両側部や前後部に配設され、あるいはこれらの外側を枠状に囲って設けられる。生地や昇華転写シートの外側をスペーサで枠状に囲った場合には、スペーサの内側が密閉状態となって吸気作業を困難にするため、スペーサ内部にエアの取り込み孔を貫通形成するとよい。また、加熱板の下降限をスペーサで規制する際の衝撃をやわらげるために、スペーサの下に緩衝材を設けることもできる。
【0010】
上記発明の昇華転写機を使用する方法として、前記通気性マットの上に、前記生地と前記昇華転写シートとを重合して載置する準備工程と、前記加熱板を下降させて、該加熱板の下降限を前記スペーサとの当接により、前記加熱板が前記生地と前記昇華転写シートのいずれか上側に位置するものと隙間なく密着する位置に規制する加熱板下降工程と、前記加熱板が、前記下降限位置で前記生地と前記昇華転写シートとを加圧することなく所定時間,所定温度で加熱する加熱工程と、該加熱工程中に、前記吸気装置を稼働して、前記通気性マットの上部周辺のエアを吸気孔を通して取り込む吸気行程とを含むものとする。
上記の方法における吸気行程は、通気性マットの上部周辺のエアが吸気孔を通して吸引されることにより、通気性マット上に重ね合わせされた生地と昇華転写シートとが吸着固定され、昇華転写シートの染料が生地の所定位置へ正確に染色される。さらにこの吸気行程は、昇華転写シートの染料が生地へ浸透するのを高める。またこの吸気行程は、少なくとも加熱工程と平行して行われるが、その前工程である加熱板下降工程中に行うことも妨げない。
【0011】
また、本発明の昇華転写機を、台盤上に敷設した通気性マットに、生地と昇華転写シートと飛散防止シートとを重合して載置し、前記台盤の上方に位置する加熱板の下降により、前記昇華転写シートにプリントした染料を昇華させて前記生地に染色する昇華転写機であって、前記台盤の上に、前記加熱板の下降限を規制するスペーサを載置するとともに、前記加熱板の下降限を、該加熱板が前記生地と前記昇華転写シートと前記飛散防止シートのうちの最上部に位置するものと隙間なく密着する位置となし、前記台盤の通気性マット下側位置に複数の吸気孔を上下方向に貫通して設け、該吸気孔の下端に吸気装置を接続した構成とすることもできる。
【0012】
上記発明の昇華転写機において、昇華転写シートは生地の上下いずれか一方または双方に設けられ、また飛散防止シートは、昇華転写シートにプリントした染料が加熱板の下面や通気性マットに付着してこれを汚損しないように、これら生地と昇華転写シートの上下いずれか一方または双方に設けられる。
加熱板の下降限は、スペーサとの当接によって、加熱板が最上部に位置する生地と昇華転写シートと飛散防止シートのいずれかと隙間なく密着する位置に規制される。加熱板は、この下降限位置において、所定時間の間、所定温度で生地や昇華転写シート,飛散防止シートを加圧することなく加熱し、昇華転写シートにプリントされた絵柄や文字等の染料を昇華させて生地に染色する。
【0013】
本発明のスペーサは、下降する加熱板を支承して該加熱板の下降限を規制するストッパであり、スペーサは、その内部に収容される生地や昇華転写シート,飛散防止シートの積み重ね高さと同一高さのものが選択して用いられる。このスペーサは、生地や昇華転写シート,飛散防止シートを挟んだ左右両側部や前後部に配設され、あるいはこれらの外側を枠状に囲って設けられる。生地や昇華転写シート,飛散防止シートの外側をスペーサで枠状に囲った場合には、スペーサの内側が密閉状態となって吸気作業を困難にするため、スペーサ内部にエアの取り込み孔を貫通形成するとよい。また、加熱板の下降限をスペーサで規制する際の衝撃をやわらげるために、スペーサの下に緩衝材を設けることもできる。
【0014】
上記発明の昇華転写機を使用する方法として、前記通気性マットの上に、前記生地と前記昇華転写シートと前記飛散防止シートとを重合して載置する準備工程と、前記加熱板を下降させて、該加熱板の下降限を前記スペーサとの当接により、前記加熱板が前記生地と前記昇華転写シートと前記飛散防止シートのうちの最上部に位置するものと隙間なく密着する位置に規制する加熱板下降工程と、前記加熱板が、前記下降限位置で前記生地と前記昇華転写シートと前記飛散防止シートとを加圧することなく所定時間,所定温度で加熱する加熱工程と、該加熱工程中に、前記吸気装置を稼働して、前記通気性マットの上部周辺のエアを吸気孔を通して取り込む吸気行程とを含むものとする。
【0015】
上記方法における吸気行程では、通気性マットの上部周辺のエアが通気性マットと吸気孔を通して吸引される。これにより、スペーサ内で重ね合わせされた生地と昇華転写シートと飛散防止シートとが吸着固定され、昇華転写シートの染料が生地の所定位置へ正確に染色される。この吸気行程は、少なくとも加熱工程と平行して行われるが、その前工程である加熱板下降工程中に行うことも妨げない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加熱板の下降限が、スペーサとの当接によって生地と昇華転写シートと飛散防止シートのうちの最上部に位置するものと隙間なく密着する位置に規制され、加熱板は生地や昇華転写シートあるいは飛散防止シートを加圧せずに染色するので、従来は加圧による影響を受けにくかった薄手の生地はもとより、フリースやマイクロフリース,ニット,パイル生地といった毛足の長い厚手の生地にも風合いを損なわずに染色することが可能であり、しかも色合いのよい染色が施せるようになる。
また、スペーサ内に配置される生地や昇華転写シート,飛散防止シートは、加熱板を用いた加熱工程時に、吸気装置からの吸引力によって所定の重ね合わせ状態が崩れないように密着固定されるので、昇華転写シートの絵柄や文字等を生地に精度よく染色することができる。さらに、吸気装置による吸引は、昇華転写シートの染料を生地により浸透させるのに役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施例を図1〜図3に基づいて説明する。
図中、図1は昇華転写機の非作動状態を示す断面正面図、図2は図1におけるA部詳細図、図3は昇華転写機の作動状態を示す断面正面図、図4は加熱板を取り除いた昇華転写機の平面図である。
【0018】
図1〜図3に示す昇華転写機10は、上下に対向配置される加熱板11及び台盤12と、該台盤12上に略同サイズで敷設される通気性マット13と、前記台盤12に緩衝材14を介して載置される左右一対のスペーサ15,15と、台盤12の下側に配設される吸気装置16,16とを備えており、昇華転写機10を用いて染色作業を行う際には、スペーサ15,15に挟まれた通気性マット13上に、生地17と昇華転写シート18,飛散防止シート19とが順次重合して設けられる。
【0019】
台盤12には、通気性マット13の下側位置に、複数の吸気孔20が上下方向に貫通して設けられ、これら吸気孔20の下端に前述の吸気装置16,16が接続されており、生地17や昇華転写シート18が載置される通気性マット13の上部周辺のエアを、通気性マット13と吸気孔20を通して吸引するようにしている。
【0020】
スペーサ15は、昇華転写作業で加熱板11が下降する際に、該加熱板11の下降限を規制するストッパであり、金属製の加熱板11の重量を支承すべく同じく鋼鉄等の金属材料を用いて断面矩形に形成されている。緩衝材14とスペーサ15との高さは、通気性マット13とその上部の生地17,昇華転写シート18,飛散防止シート19の積み重ね高さと同一に設定されていて、加熱板11の下降限を、最上部に位置する飛散防止シート19との間に隙間なく密着する位置に規制するようにしている。加熱板11と吸気装置16,16は、図示しないコンピュータに接続されており、作動や停止,温度等をコンピュータによって制御される。
【0021】
次に、上記のように構成される本実施例の昇華転写機10を用いた染色方法を説明する。染色する生地17には、例えば毛足の長い起毛のフリースやマイクロフリース,ニット,パイル生地のいずれかを選択する。
まずステップS1として、図1に示すように、台盤12の通気性マット13上に生地17と昇華転写シート18と飛散防止シート19とが順次積み重ねし、その両側に緩衝材14を介して一対のスペーサ15,15を載置する(準備工程)。
前述のように、緩衝材14とスペーサ15との高さは、通気性マット13とその上部の生地17,昇華転写シート18,飛散防止シート19の積み重ね高さと同一に設定される。
【0022】
次に、ステップS2で吸気装置16,16をONして、通気性マット13の上部近傍のエアを該通気性マット13と吸気孔20とを通して吸引し、これによりスペーサ15内の生地17と昇華転写シート18と飛散防止シート19とを一体に吸着させる。そして、これらの重ね合わせ状態を保ちながら、ステップS3で加熱板11を下降させ、該加熱板11の下降限をスペーサ15との当接により規制する。この状態において、加熱板11は、最上部に位置する飛散防止シート19と隙間なく密着する(加熱板下降工程)。
【0023】
そして、ステップS4として、図2に示すように、例えば190〜210℃まで加熱した加熱板14を、例えば90sec程度加熱することにより、昇華転写シート18に図柄や文字等でプリントされた染料が昇華し、フリースやマイクロフリース,ニット,パイル生地等の生地17の繊維に浸透して、該生地17の所定位置に染色が施される(加熱工程)。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施例を示す昇華転写機の非作動状態を示す断面正面図である。
【図2】本発明の一実施例を示す図1におけるA部詳細図である。
【図3】本発明の一実施例を示す昇華転写機の作動状態を示す断面正面図である。
【図4】本発明の一実施例を示す加熱板を取り除いた昇華転写機の平面図である。
【図5】従来の一般的な昇華転写機の断面正面図である。
【符号の説明】
【0025】
10…昇華転写機
11…加熱板
12…台盤
13…通気性マット
14…緩衝材
15…スペーサ
16…吸気装置
17…生地
18…昇華転写シート
19…飛散防止シート
20…吸気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台盤上に敷設した通気性マットに、生地と昇華転写シートとを重合して載置し、前記台盤の上方に位置する加熱板の下降により、前記昇華転写シートにプリントした染料を昇華させて前記生地に染色する昇華転写機であって、
前記台盤の上に、前記加熱板の下降限を規制するスペーサを載置するとともに、
前記加熱板の下降限を、該加熱板が前記生地と前記昇華転写シートのいずれか上側に位置するものと隙間なく密着する位置となし、
前記台盤の通気性マット下側位置に複数の吸気孔を上下方向に貫通して設け、
該吸気孔の下端に吸気装置を接続した
ことを特徴とする昇華転写機。
【請求項2】
台盤上に敷設した通気性マットに、生地と昇華転写シートと飛散防止シートとを重合して載置し、前記台盤の上方に位置する加熱板の下降により、前記昇華転写シートにプリントした染料を昇華させて前記生地に染色する昇華転写機であって、
前記台盤の上に、前記加熱板の下降限を規制するスペーサを載置するとともに、
前記加熱板の下降限を、該加熱板が前記生地と前記昇華転写シートと前記飛散防止シートのうちの最上部に位置するものと隙間なく密着する位置となし、
前記台盤の通気性マット下側位置に複数の吸気孔を上下方向に貫通して設け、
該吸気孔の下端に吸気装置を接続した
ことを特徴とする昇華転写機。
【請求項3】
前記請求項1に記載の昇華転写機を使用する方法であって、
前記通気性マット上に、前記生地と前記昇華転写シートとを載置する準備工程と、
前記加熱板を下降させて、該加熱板の下降限を前記スペーサとの当接により、前記加熱板が前記生地と前記昇華転写シートのいずれか上側に位置するものと隙間なく密着する位置に規制する加熱板下降工程と、
前記加熱板が、前記下降限位置で前記生地と前記昇華転写シートとを加圧することなく所定時間,所定温度で加熱する加熱工程と、
該加熱工程中に、前記吸気装置を稼働して、前記通気性マットの上部周辺のエアを吸気孔を通して取り込む吸気行程と、
を含むことを特徴とする昇華転写機の使用方法。
【請求項4】
前記請求項2に記載の昇華転写機を使用する方法であって、
前記通気性マット上に、前記生地と前記昇華転写シートと前記飛散防止シートとを載置する準備工程と、
前記加熱板を下降させて、該加熱板の下降限を前記スペーサとの当接により、前記加熱板が前記生地と前記昇華転写シートと前記飛散防止シートのうちの最上部に位置するものと隙間なく密着する位置に規制する加熱板下降工程と、
前記加熱板が、前記下降限位置で前記生地と前記昇華転写シートと前記飛散防止シートとを加圧することなく所定時間,所定温度で加熱する加熱工程と、
該加熱工程中に、前記吸気装置を稼働して、前記通気性マットの上部周辺のエアを吸気孔を通して取り込む吸気行程と
を含むことを特徴とする昇華転写機の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−308803(P2008−308803A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160668(P2007−160668)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(507202851)有限会社シード (1)
【Fターム(参考)】