説明

昇降機ケーブル架設装置および昇降機ケーブル架設方法

【課題】ケーブルの架設の作業性を向上することにより、ケーブルの架設作業者がケーブルを短時間で交換できる昇降機ケーブル架設装置および昇降機ケーブル架設方法を提供する。
【解決手段】昇降機ケーブル架設装置1は、昇降機100のケーブル20を架設するための昇降機ケーブル架設装置1であって、ケーブル20を巻き回し可能であり、かつケーブル20を巻き上げおよび送り出し可能に回転する回転ドラム5と、ケーブル20を巻き上げる方向D2への回転ドラム5の回転を所定の回転角度でロック可能なロック機構10と、ロック機構10がロック解除された状態で、ケーブル20を巻き上げる方向D2に回転ドラム5を回転させるように付勢する付勢手段8とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機ケーブル架設装置および昇降機ケーブル架設方法に関し、特に、昇降機のケーブルを架設するための昇降機ケーブル架設装置および昇降機ケーブル架設方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータなどの昇降機の耐用年数は、20年〜25年程度が一般的である。長年使用されると老朽化のため昇降機の制御盤、巻上機、ブレーキ機構などの各装置および機器が劣化する。老朽化した昇降機の機能および安全性などを改善するため改修工事(所謂、モダニゼーション工事)および修理工事などが実施されている。
【0003】
改修工事および修理工事などでは昇降機の全体または一部が改造あるいは交換される。そのため工事期間中は、昇降機を停止する必要がある。特に、改修工事は昇降機の既設部分の取り外しから始めて新しい機器の設置まで長時間を要し、昇降機を停止する期間も長時間となる。
【0004】
その結果、利用者は昇降機を長時間に亘って使用することができなくなる。このため、工事期間中における昇降機の停止期間の短縮が望まれている。特に、住宅または事務所のように昇降機が1台のみ設置されている場合、昇降機の停止期間の短縮が強く望まれている。
【0005】
たとえば、特開2000−44142号公報(特許文献1)には、可動部の経年劣化した部分の既設制御ケーブルのみを新設ケーブルと交換するエレベータ制御ケーブルの交換工法が提案されている。このエレベータ制御ケーブルの交換工法では、既設制御ケーブルの交換は、昇降路側とかご下に設けたケーブル接続箱間で行われる。昇降路内をかごが昇降することに伴って屈曲移動する可動部の経年劣化による断線しやすい部分が交換されるため、その他の固定されている静止部分の劣化のない既設制御ケーブルを除去する必要がない。そのため、交換の作業時間の短縮が図れ、利用者の不可動時間を削減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−44142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この公報のエレベータ制御ケーブルの交換工法は、新たに接続箱を2つ設け、接続箱に対して既設制御ケーブルと新設制御ケーブルを接続するなど、従来の交換作業では発生しなかった余分な作業が発生するため、作業時間の短縮が図れない。
【0008】
また、制御系が変更される改修工事では、新設制御ケーブルと20年以上前に設置された既設制御ケーブルとはほとんどケースにおいてケーブル規格(信号)が違うため、既設制御ケーブルを流用することは不可能であり、この交換工法が実施できない。したがって、必然的に全線交換となり作業時間が長くなってしまう。以上により、この交換工法は、昇降機の停止時間が長いことにより利用者へ不便を与えている。
【0009】
また、全線交換の際に一般的に行われている架設方法では、かご、または乗場に置かれた治工具(ターンテーブル)の上に制御ケーブル(ケーブル)がセットされ、治工具を回しながらケーブルの送り出しが行われている。この治工具ではケーブルの架設作業者とは別にケーブルを送り出す作業者が必要であり、ケーブルの架設は人手がかかる作業となっいる。そのためケーブルの架設の作業性が悪い。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ケーブルの架設の作業性を向上することにより、ケーブルの架設作業者がケーブルを短時間で交換できる昇降機ケーブル架設装置および昇降機ケーブル架設方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の昇降機ケーブル架設装置は、昇降機のケーブルを架設するための昇降機ケーブル架設装置であって、ケーブルを巻き回し可能であり、かつケーブルを巻き上げおよび送り出し可能に回転する回転ドラムと、ケーブルを巻き上げる方向への回転ドラムの回転を所定の回転角度でロック可能なロック機構と、ロック機構がロック解除された状態で、ケーブルを巻き上げる方向に回転ドラムを回転させるように付勢する付勢手段とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の昇降機ケーブル架設装置によれば、ケーブルを巻き上げる方向への回転ドラムの回転を所定の回転角度でロック可能なロック機構により、所定の回転角度に応じて所定の長さずつケーブルを引き出すことができる。またロック機構がロック解除された状態で、ケーブルを巻き上げる方向に回転ドラムを回転させるように付勢する付勢手段によりケーブルを巻き上げることができる。そのため、ケーブルの巻き上げ量および送り出し量の調整が容易にできる。これにより、ケーブルの架設の作業性を向上することができる。ケーブルの架設の作業性を向上することにより、ケーブルの架設作業者がケーブルを短時間で交換できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置がかごに設置された状態を示す昇降機の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置の概略斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置を構成する回転ドラムの概略側面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置を構成する回転ドラムの内部構造を示す概略図であって、図3のIV−IV線から見た概略図である。
【図5】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置を使用してケーブルをかご上へ引き出す様子を示す概略斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置を使用してケーブルを機械室へ立ち上げる様子を示す概略斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置のケーブルを送り出す動作を示す概略斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置のロック機構がロック解除された状態を示す概略図である。
【図9】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置のケーブル巻き上げるためにケーブルを送り出す動作を示す概略斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置を構成する回転ドラムの巻き上げ動作時の内部構造を示す概略図である。
【図11】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置のケーブルを巻き上げる動作を示す概略斜視図である。
【図12】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置を使用してケーブルを昇降路の最下階まで架設する様子を示す概略斜視図である。
【図13】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置を使用してケーブルをピット内でかご下ハンガーへ取り付ける様子を示す概略斜視図である。
【図14】本発明の実施の形態1における昇降機ケーブル架設装置を使用してケーブルの架設が完了した状態を示す概略斜視図である。
【図15】本発明の実施の形態2における昇降機ケーブル架設装置の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
最初に本発明の実施の形態1の昇降機ケーブル架設装置が設置された昇降機の構成について説明する。
【0015】
以下、本実施の形態の昇降機ケーブル架設装置が昇降機のかごに設置された場合について説明するが、昇降機ケーブル架設装置の設置場所はかごに限定されずたとえば乗場であってもよい。また、本実施の形態の昇降機ケーブル架設装置が設置された昇降機として、機械室有りの昇降機を例にして説明するが、機械室無しの昇降機であってもよい。また、ロープ式の昇降機を例として説明するが、油圧式の昇降機であってもよい。また、本実施の形態の昇降機ケーブル架設装置に用いられる制御ケーブル(ケーブル)として平らな帯状のケーブルを例に説明するが、ケーブルの断面はたとえば円形または楕円形であってもよい。
【0016】
図1を参照して、本実施の形態の昇降機100は、巻上機101と、制御盤(制御部)102と、つり合いおもり104と、昇降路105と、機械室106と、ワイヤーロープ107と、かご108と、かごドア109と、乗場ドア110とを主に有している。
【0017】
本実施の形態の昇降機ケーブル架設装置1は、昇降機100の制御ケーブル(ケーブル)20を架設するためのものである。図1では、昇降機ケーブル架設装置1は、新しく架設されるケーブル20がセットされた状態で昇降機100のかご108の内部に設置されている。この場合、昇降機ケーブル架設装置1によってかご108の上部に設けられた図示しない救出口または開放されたかごドア109からかご上103までケーブル20が導かれ得る。なお、昇降機ケーブル架設装置1は乗場111に設置されていてもよい。昇降機ケーブル架設装置1が乗場111に設置される場合には、開放された乗場ドア110からかご上103にケーブル20が導かれ得る。
【0018】
続いて、本実施の形態の昇降機100の構成について詳しく説明する。昇降機100を制御するための制御盤(制御部)102と、制御盤102に接続されたかご108を巻き上げるための巻上機101とが機械室106に設置されている。巻上機101の下方には、昇降路105がかご108を昇降させる方向に伸びるように形成されている。昇降路105は、かご108を取り囲むように形成されている。なお、機械室106が設けられていない場合には、巻上機101および制御盤102は昇降路105内に設置される。
【0019】
かご108は、昇降路105内を巻上機101とつり合いおもり104とによって昇降可能に、巻上機101を挟んでつり合いおもり104とワイヤーロープ107で接続されている。かご108のかごドア109は、乗場ドア110と向きあう方向に配置されている。乗場ドア110は、かごドア109の開閉機構により、かごドア109と連動して開閉するよう構成されている。
【0020】
制御盤102はかご108の昇降を制御可能に構成されている。制御盤102が巻上機101を制御することにより、かご108が昇降路105内を所定の階に昇降する。かご108が所定の階に移動すると、かごドア109が所定の階の乗場ドア110と対向するよう位置する。その位置で制御盤102がかごドア109を開閉するためのモータを制御することによって、かごドア109が開閉される。
【0021】
この際、かごドア109の開閉機構と係合することにより、モータの駆動力によってかごドア109の開閉に従って乗場ドア110が開閉する。このように制御盤102によってかごドア109および乗場ドア110の開閉が制御される。
【0022】
続いて、本実施の形態の昇降機ケーブル架設装置1の構成について詳しく説明する。
図2〜図4を参照して、昇降機ケーブル架設装置1は、台部2と、囲い部3と、出入口部4と、回転ドラム5と、マーカー6と、固定バンド7と、付勢手段8と、ロック機構10とを主に有している。なお、図2では、昇降機ケーブル架設装置1に設置されたケーブル20も図示されている。
【0023】
主に図2を参照して、台部2は、ケーブル20を保持可能に設けられている。台部2は、渦巻き状に巻かれたケーブル20を設置可能に設けられている。台部2は、たとえば円板状に形成されている。囲い部3は、台部2のケーブル20が設置される面の外周部に設けられている。囲い部3は、台部2のケーブル20が設置される面より高さが高くなるように形成されている。囲い部3は、ケーブル20が台部2の外周部からはみ出さないように設けられている。
【0024】
出入口部4は、台部2に対してケーブル20を出入可能に囲い部3の一部に設けられている。出入口部4は、囲い部3の一部を開口するように形成されている。出入口部4は、たとえば矩形状に形成されている。なお出入口部4の形状はこれに限定されず帯状などであってもよい。
【0025】
回転ドラム5は、ケーブル20を巻き回し可能に設けられている。回転ドラム5は、ケーブル20を巻き上げおよび送り出し可能に回転するように設けられている。回転ドラム5は、台部2のケーブル20が設置される面に設けられている。回転ドラム5は、たとえば台部2のケーブル20が設置される面の中央部に設けられている。
【0026】
図2および図3を参照して、回転ドラム5の外周面の一部に、ケーブル20の端部を固定するための固定バンド7が設けられている。固定バンド7によりケーブル20の端部のうちの一端が回転ドラム5に固定されている。回転ドラム5は、固定バンド7によりケーブル20の一端が回転ドラム5の外周面に固定された状態で、ケーブル20を回転ドラム5の外周面に渦巻き状に巻き回し可能に構成されている。
【0027】
また回転ドラム5は、ケーブル20の一端を回転ドラム5の外周面の一部に固定した状態でケーブル20を回転ドラム5の外周面に沿って渦巻き状に巻き回すことによりケーブル20を巻き上げ可能に構成されている。また回転ドラム5は、回転ドラム5の外周面に沿って渦巻き状に巻き回されたケーブル20をケーブル20の端部のうちの他端側から送り出し可能に構成されている。
【0028】
マーカー6は、ケーブル20にマーキングするためのものである。マーカー6は、計測手段61と、マーキング手段62とを主に有している。計測手段61は、回転ドラム5からのケーブル20の送り出し量を計測可能に設けられている。計測手段61は、ケーブル20の送り出し量を設定するための図示しないカウンタを有している。カウンタは、たとえば回転式カウンタであってもよい。
【0029】
計測手段61は、ケーブル20の送り出し量を計測するための図示しないローラを有していてもよい。この場合、計測手段61は、たとえばケーブル20を送り出す際にケーブル20とローラとが接触して、ローラが回転することによりケーブル20の送り出し量を計測可能に構成されている。
【0030】
マーキング手段62は、ケーブル20にマーキング可能に設けられている。マーキング手段62は、たとえばスタンプなどでケーブル20にマーキングが行えるように構成されている。ケーブル20のマーキングされる位置は出入口部4からのケーブル20の送り出し量に基づいて定められる。マーキング手段62は、計測手段61が予め設定されたケーブル20の送り出し量を計測すると、ケーブル20の送り出し量に対応する位置にマーキング可能に構成されている。
【0031】
図3および図4を参照して、回転ドラム5は付勢手段8に接続されている。付勢手段8の一端は回転ドラム5に接続されており、他端は台部2に支持されている。図4では、図中矢印D1方向がケーブル20を送り出す方向(送り出し方向D1)であり、図中矢印D2方向がケーブル20を巻き上げる方向(巻き上げ方向D2)である。図4では、付勢手段8は、ケーブル20を巻き上げる方向D2に回転ドラム5を付勢可能に設けられている。付勢手段8は、付勢可能な手段であればよいが、たとえばゼンマイが適用可能である。この場合、付勢手段8では、回転ドラム5が図中矢印D1方向に回転されることにより、ゼンマイが巻かれるように構成されている。
【0032】
回転ドラム5は、ロック機構10に接続されている。ロック機構10は、ケーブル20を巻き上げる方向D2へ回転ドラム5の回転を所定の回転角度でロック可能に設けられている。ロック機構10は、爪10aと、歯車10bとを有していてもよい。爪10aと歯車10bとはラチェット式に構成されていてもよい。爪10aと歯車10bとがラチェット式に構成されていることにより、爪10aと歯車10bとは送り出し方向D1では係合せず、巻き上げ方向D2では係合可能に構成されている。
【0033】
爪10aは台部2に回動可能に支持されている。爪10aは歯車10bの外側に配置されている。歯車10bは回転ドラム5の内周側に設けられている。歯車10bは、歯が回転中心に対して所定の回転角度で配置されている。爪10aは図示しないバネにより歯車10b側に付勢されている。爪10aは歯車10bの歯の形状に習って図中矢印D3方向に回動可能に設けられている。
【0034】
歯車10bは爪10aと係合することにより付勢手段8による付勢力に抗して回転ドラム5を係止可能に構成されている。歯車10bは、爪10aと巻き上げ方向D2で噛み合い可能に設けられている。
【0035】
爪10aと歯車10bとは送り出し方向D1に係合を解除可能に構成されている。爪10aと歯車10bとは、爪10aが歯車10b側に位置した状態で巻き上げ方向D2に係合可能に構成されている。爪10aと歯車10bとは歯車10bの歯が配置された間隔で係合可能に構成されている。一方、爪10aと歯車10bとは、爪10aが歯車10bと離れた状態で巻き上げ方向D2にも係合を解除可能に構成されている。
【0036】
爪10aと歯車10bとの係合が解除された状態では、ロック機構10はロック解除された状態となる。ロック機構10がロック解除された状態で、付勢手段8はケーブル20を巻き上げる方向D2に回転ドラム5を回転させるように構成されている。
【0037】
なお、上述では、爪10aが歯車10bの外側に配置された場合について説明したが、爪10aが歯車10bの内側に配置された構成も採用することができる。
【0038】
次に、昇降機ケーブル架設装置を用いた昇降機ケーブル架設方法について説明する。以下、ケーブル20の全線を架設する場合の昇降機ケーブル架設方法について説明する。
【0039】
まず、図2を参照して、ケーブル20を昇降機ケーブル架設装置1に設置する方法について説明する。ケーブル20は、一般的に渦巻き状に梱包されている。ケーブル20が開梱された後、ケーブル20が渦巻き状のまま台部2に載置され、ケーブル20の一端が固定バンド7に固定される。これにより、ケーブル20を昇降機ケーブル架設装置1にセットする時間を短縮することができる。
【0040】
なお、セットする時間は長くなるが、ケーブル20が開梱された後、ケーブル20を全て伸ばした状態から少しずつ回転ドラム5に巻きつけてケーブル20が昇降機ケーブル架設装置1にセットされてもよい。
【0041】
ケーブル20が昇降機ケーブル架設装置1にセットされた後には、囲い部3によって台部2から長く重量物であるケーブル20の脱落が抑制される。
【0042】
続いて、昇降機ケーブル架設装置1を使用したケーブル20の架設方法について説明する。
【0043】
図5を参照して、かご上103に位置する作業者(架設作業者)60によってかご108の内部に設置された昇降機ケーブル架設装置1からケーブル20が図示しないかご108の救出口を通ってかご上103まで引き出される。作業者60は、かご108の内部で昇降機ケーブル架設装置1からケーブル20を引き出した後、かご上103に移動してもよい。
【0044】
図6を参照して、ケーブル20がかご上103に送り出された状態で、昇降路105のトップ部(最上部)までかご108が移動される。機械室106に設置されるケーブル20の長さを考慮して昇降路105のトップ部でケーブル20が作業者60によって固定される。
【0045】
機械室106に設置されるケーブル20が昇降路105内に位置する作業者60から機械室106に位置する作業者60aに渡される。作業者60aによってかご108の外側に設けられた制御盤102にケーブル20が電気的に接続される。このようにかご上103の作業者60と機械室106の作業者60aとが連携することによってケーブル20が機械室106に立ち上げられる。
【0046】
ここで上述のようにケーブル20が架設される際の昇降機ケーブル架設装置1の動作について説明する。
【0047】
図7を参照して、図5に示すようにケーブル20を作業者60が引っ張ると、回転ドラム5が図中矢印D1方向(時計周り方向)に回転し、ケーブル20が送り出し方向D1に引き出される。
【0048】
図8を参照して、ケーブル20が送り出し方向D1に引き出されている状態では、ロック機構10の爪10aが歯車10bの歯の形状に習って図中矢印D4方向に移動する。これにより爪10aと歯車10bとの係合が解除されるため、ロック機構10がロック解除された状態で歯車10bが図中矢印D1方向に回転する。歯車10bが図中矢印D1方向に回転することにより回転ドラム5が図中矢印D1方向に回転する。
【0049】
回転ドラム5が図中矢印D1方向に回転することにより付勢手段(ゼンマイ)8が巻かれる。そのため、付勢手段8によってロック機構10の歯車10bは図中矢印D2方向(巻き上げ方向D2)に付勢される。付勢手段8によって歯車10bが付勢されているため、図8に示す状態から図4に示す状態に爪10aが歯車10b側に移動すると、図4に示すように図中矢印D2方向に爪10aと歯車10bとが係合される。
【0050】
歯車10bの歯が歯車10bの回転中心に対して所定の回転角度で配置されているため、所定の回転角度ごとに爪10aと歯車10bとが係合され得る。所定の回転角度ごとに爪10aと歯車10bとを係合させることで、回転ドラム5に巻き回されたケーブル20が回転ドラム5から所定の回転角度ずつ送り出される。ケーブル20を所定の回転角度ごとに引き出すことにより、所定の回転角度に応じて所定の長さずつケーブル20を引き出すことができる。そのためケーブル20の送り出し量を容易に調整することができる。
【0051】
また、引き出しすぎたケーブル20の長さを調整する場合には、次のようにケーブル20を付勢手段8により自動的に回転ドラム5に巻き上げることでケーブル20の長さを調整することができる。ケーブル20の送り出し量が多すぎる場合には、ロック機構10を解除してケーブル20を巻き上げることができる。
【0052】
図9を参照して、まずケーブル20が回転ドラム5から送り出し方向D1に少し引き出される。図8に示すように爪10aが歯車10bから外れた状態となり、ロック機構10がロック解除された状態となる。図10を参照して、ロック機構10がロック解除された状態で、ケーブル20が離されると、爪10aが歯車10b側に移動する前に、付勢手段8によって歯車10bが図中矢印D2方向(半時計周り方向)に回転する。このため、爪10aが歯車10bに引っかからずに歯車10bは図中矢印D2方向に回転し続ける。歯車10bが図中矢印D2方向に回転し続けることで回転ドラム5が巻き上げ方向D2に回転し続ける。
【0053】
図11を参照して、回転ドラム5が巻き上げ方向D2に回転し続けることによりケーブル20は回転ドラム5に巻き上げ方向D2に巻き取られる。ケーブル20が回転ドラム5に巻き上げられている状態でケーブル20を掴むなどしてケーブル20の移動を中断させると、爪10aが歯車10b側に移動する。この状態でケーブル20が離されると、歯車10bが爪10aと係合する位置まで最大1つの歯の角度だけ巻き上げ方向D2に回転して、爪10aと歯車10bとが係合される。
【0054】
これにより、回転ドラム5の回転を終了させて、ケーブル20の巻き取りを終了させることができる。このようにして、ケーブル20の巻き上げ量を容易に調整することができる。上述のようにケーブル20の巻上げ量および送り出し量を調整することにより、所定長さのケーブル20を回転ドラム5から引き出すことができる。これによりケーブル20の長さを容易に調整することができる。
【0055】
ケーブル20が余分に引き出された場合には、ケーブル20の巻き癖によってケーブル20がからむためケーブル20に力がかかり断線することがあるが、上述のように引き出しすぎたケーブル20の長さを調整することができるためケーブル20の断線を抑制することができる。
【0056】
続いて、ケーブル20へのマーキングについて説明する。
本実施の形態では、マーカー6によって所定の送り出し量でケーブル20がマーキングされてもよい。図6および図7を参照して、ケーブル20の架設作業が進み、あらかじめ昇降路105の長さなどからマーカー6の計測手段61で設定した数値まで回転ドラム5からケーブル20が引き出されると、マーキング手段62によって回転ドラム5から引き出された所定長さのケーブル20の送り出し量に対応する位置にマーキング11が施される。
【0057】
たとえば、機械室106に必要なケーブル20の長さでケーブル20にマーキングすることができる。この場合、たとえば以下の計算式によって求められる数値が図示しない回転式カウンタに設定される。
【0058】
(ケーブル20の全長)−(昇降路105の長さ(既定))−(かご下からかご上103までのケーブル20の長さ)=(機械室のケーブル長さ)
ここで「昇降路105の長さ」は、昇降路105が設置される建物が建築される際に決定されており、図面上の情報により設定できる。「かご下からかご上103までのケーブル長さ」は、図示しないかご下ハンガーへの取付寸法を決定することにより算出できる。
【0059】
計測手段61の図示しないローラが回転することによりケーブル20の送り出し量が計測される。計測手段61の図示しない回転式カウンタで予め設定されたケーブル20の送り出し量の数値と計測手段61で計測されたケーブル20の送り出し量が合致すると、ケーブル20の送り出し量に対応する位置にマーキング手段62によってマーキング11が施される。
【0060】
機械室106のケーブル20の長さでマーキング11が施された所定長さのケーブル20は、マーキング11にあわせてケーブル20の長さを調整して機械室106に立ち上げられる。この際、マーキング11が施された所定長さのケーブル20は、かご108の外側に設けられた制御盤102に電気的に接続される。
【0061】
続いて、機械室106にケーブル20が立ち上げられた後、昇降機100の最下階までのケーブル20を架設する方法について説明する。
【0062】
図12を参照して、上述のようにケーブル20が機械室106に立ち上げられた後、かご108の内部に設置された昇降機ケーブル架設装置1からケーブル20が送り出されながらかご108が最下階まで移動される。作業者60が適宜ケーブル20を昇降路105内に取り付ける。このようにして、昇降機100の最下階までケーブル20が架設される。
【0063】
図13を参照して、ケーブル20の昇降路105内への架設が完了すると、昇降機ケーブル架設装置1の台部2に残ったケーブル20はピット112内に送られる。作業者60はピット112内に移動する。作業者60によってピット112内でかご下に図示しないかご下ハンガーが取り付けられる。なお、図示しないかご下ハンガーは既設かご下ハンガーが流用されてもよい。作業者60によってこのかご下ハンガーにケーブル20が取り付けられる。
【0064】
図14を参照して、作業者60がかご上103に移動する。かご上103に位置する作業者60によってかご108にケーブル20が電気的に接続される。ケーブル20がかご上103へ立ち上げられることによりケーブル架設作業が完了する。これにより、ケーブル20の全線の交換が完了する。
【0065】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態の昇降機ケーブル架設装置1によれば、ケーブル20を巻き上げる方向D2への回転ドラム5の回転を所定の回転角度でロック可能なロック機構10により、所定の回転角度に応じて所定の長さずつケーブル20を引き出すことができる。またロック機構10がロック解除された状態で、ケーブル20を巻き上げる方向D2に回転ドラム5を回転させるように付勢する付勢手段8によりケーブル20を巻き上げることができる。
【0066】
そのため、ケーブル20の巻き上げ量および送り出し量の調整が容易にできる。これにより、ケーブル20の架設の作業性を向上することができる。ケーブル20の架設の作業性を向上することにより、ケーブル20の架設作業者60がケーブル20を短時間で交換できる。よって、ケーブル20の交換のための昇降機100の停止時間を短縮することができる。
【0067】
また、本実施の形態の昇降機ケーブル架設装置1によれば、ロック機構は、爪と、爪と係合することにより付勢手段8による付勢力に抗して回転ドラム5を係止可能な歯車とを含んでいるため、ケーブル20を所定の長さで保持することができる。そのため、ケーブル20の長さの調整が容易にできる。
【0068】
また、本実施の形態の昇降機ケーブル架設装置1によれば、ケーブル20にマーキングするためのマーカー6をさらに備えている。マーカー6は、計測手段61が予め設定されたケーブル20の送り出し量を計測すると、ケーブルの送り出し量に対応する位置にマーキング可能なマーキング手段62を含んでいる。これにより、マーキングにあわせてケーブル20の長さを調整することができるので、ケーブル20の架設の作業性をさらに向上することができる。
【0069】
たとえば、機械室106に必要なケーブル20の長さがマーカー6によってマーキングされているため、機械室106へのケーブル20の立ち上げの際にそのマーキング11にあわせてケーブル20の長さを調整することができる。マーキング11にあわせてケーブル20の長さを調整することによりケーブル20の架設の作業性を向上することができる。
【0070】
また、本実施の形態の昇降機ケーブル架設方法によれば、上記の昇降機ケーブル架設装置1を用いて、ケーブル20を回転ドラム5から所定の回転角度ずつ送り出し、かつ回転ドラム5からのケーブル20の送り出し量が多すぎる場合にはロック機構10を解除してケーブル20を巻き上げることにより、所定長さのケーブル20を回転ドラム5から引き出すことができる。これにより、ケーブル20の架設作業を容易にすることができる。
【0071】
また、本実施の形態の昇降機ケーブル架設方法によれば、上記の昇降機ケーブル架設装置1のマーカー6を用いて、回転ドラム5から引き出された所定長さのケーブル20の送り出し量に対応する位置にマーキング11が施される。マーキング11にあわせてケーブル20の長さを調整することができる。これにより、ケーブル20の架設作業をさらに容易にすることができる。
【0072】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2は、実施の形態1と比較してケーブルを2本同時に架設可能である点で主に異なっている。
【0073】
地震時管制装置、防犯カメラなどのオプション品を多数取り付けるため制御信号が多く必要な場合には、ケーブルが2本必要となる場合がある。そのような場合に本実施の形態の昇降機ケーブル架設装置1は特に有用である。
【0074】
図15を参照して、本実施の形態の昇降機ケーブル架設装置1に設置される制御ケーブル(ケーブル)20は複数のケーブル部20a,20bを含んでいる。
昇降機ケーブル架設装置1は2本のケーブル部20a,20bを同時に架設可能に構成されている。出入口部4は、ケーブル部20a,20bを2本同時に出入可能に設けられている。固定バンド7はケーブル部20a,20bを2本同時に固定可能に設けられている。マーカー6は、2本のケーブル部20a,20bのそれぞれにマーキング可能に出入口部4の両側に2つ設けられている。
【0075】
なお、本実施の形態のこれ以外の構成は、上述した実施の形態1の構成と同一であるため、同一の要素ついては同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。また、昇降機ケーブル架設装置1を使用したケーブル20の架設方法については、ケーブル部20a,20bを2本束ねて架設する以外は実施の形態1と同様のため、その説明を繰り返さない。
【0076】
本実施の形態の昇降機ケーブル架設装置1によれば、ケーブル20は、複数のケーブル部20a,20bを含んでいるため、複数のケーブル部20a,20bを同時に架設することができる。これにより、ケーブル20の架設時間を短縮することができる。よって、ケーブル20交換のための昇降機100の停止時間を短縮することができる。
【0077】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【符号の説明】
【0078】
1 昇降機ケーブル架設装置、2 台部、3 囲い部、4 出入口部、5 回転ドラム、6 マーカー、7 固定バンド、8 付勢手段、10 ロック機構、10a 爪、10b 歯車、11 マーキング、20 ケーブル、20a,20b ケーブル部、60,60a 架設作業者(作業者)、61 計測手段、62 マーキング手段、100 昇降機、101 巻上機、102 制御盤(制御部)、103 かご上、104 つり合いおもり、105 昇降路、106 機械室、107 ワイヤーロープ、108 かご、109 かごドア、110 乗場ドア、111 乗場、112 ピット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降機のケーブルを架設するための昇降機ケーブル架設装置であって、
前記ケーブルを巻き回し可能であり、かつ前記ケーブルを巻き上げおよび送り出し可能に回転する回転ドラムと、
前記ケーブルを巻き上げる方向への前記回転ドラムの回転を所定の回転角度でロック可能なロック機構と、
前記ロック機構がロック解除された状態で、前記ケーブルを巻き上げる方向に前記回転ドラムを回転させるように付勢する付勢手段とを備えた、昇降機ケーブル架設装置。
【請求項2】
前記ロック機構は、
爪と、
前記爪と係合することにより前記付勢手段による付勢力に抗して前記回転ドラムを係止可能な歯車とを含む、請求項1に記載の昇降機ケーブル架設装置。
【請求項3】
前記ケーブルは、複数の前記ケーブル部を含む、請求項1または2に記載の昇降機ケーブル架設装置。
【請求項4】
前記ケーブルにマーキングするためのマーカーをさらに備え、
前記マーカーは、
前記回転ドラムからの前記ケーブルの送り出し量を計測可能な計測手段と、
前記計測手段が予め設定された前記ケーブルの送り出し量を計測すると、前記ケーブルの前記送り出し量に対応する位置にマーキング可能なマーキング手段とを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の昇降機ケーブル架設装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の昇降機ケーブル架設装置を用いて、前記昇降機に含まれる昇降可能なかごと、前記かごの昇降を制御可能な制御部との双方に前記ケーブルを電気的に接続するための昇降機ケーブル架設方法であって、
前記回転ドラムに巻き回された前記ケーブルを前記回転ドラムから前記所定の回転角度ずつ送り出し、かつ前記回転ドラムからの前記ケーブルの送り出し量が多すぎる場合には前記ロック機構を解除して前記ケーブルを巻き上げることにより、所定長さの前記ケーブルを前記回転ドラムから引き出す工程と、
前記回転ドラムから引き出された前記所定長さの前記ケーブルを、前記かごの外側に設けられた前記制御部に電気的に接続する工程とを備えた、昇降機ケーブル架設方法。
【請求項6】
請求項4に記載の昇降機ケーブル架設装置を用いて、前記昇降機に含まれる昇降可能なかごと、前記かごの昇降を制御可能な制御部との双方に前記ケーブルを電気的に接続するための昇降機ケーブル架設方法であって、
前記回転ドラムに巻き回された前記ケーブルを前記回転ドラムから前記所定の回転角度ずつ送り出し、かつ前記回転ドラムからの前記ケーブルの送り出し量が多すぎる場合には前記ロック機構を解除して前記ケーブルを巻き上げることにより、所定長さの前記ケーブルを前記回転ドラムから引き出す工程と、
前記回転ドラムから引き出された前記所定長さの前記ケーブルの前記送り出し量に対応する位置に前記昇降機ケーブル架設装置の前記マーカーを用いてマーキングを施す工程と、
前記マーキングが施された前記所定長さの前記ケーブルを、前記マーキングにあわせて前記ケーブルの長さを調整して前記かごの外側に設けられた前記制御部に電気的に接続する工程とを備えた、昇降機ケーブル架設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−148857(P2012−148857A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8830(P2011−8830)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】