説明

易溶性スポンジ白金の製造方法

【課題】 操業中の水素爆発の危険など安全に関するリスクがなく、コスト的にも有利であって、王水に溶解する際に簡単に溶解して溶解残渣が発生しない易溶性スポンジ白金の製造方法を提供する。
【解決手段】 塩化白金酸アンモニウムに水酸化ナトリウムのようなアルカリを加えて溶解し、得られた溶液にヒドラジンなどの還元剤を添加してスポンジ白金を得た後、分離回収した湿潤状態のスポンジ白金をそのまま800〜1000℃の温度に昇温して焙焼し、得られた焙焼物を解砕して粒径が1〜3mmの範囲の乾燥したスポンジ白金を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金粉末の製造方法に関し、更に詳しくは王水に溶解する際に溶解残渣が実質的に発生しない白金粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、白金粉末(以下、スポンジ白金と称する)の製造方法としては、塩酸酸性の白金溶液に塩化アンモニウムを添加して塩化白金酸アンモニウム(白金ケーキとも言われる:(NH)PtCl)を得、これに水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)等のアルカリを添加して溶解し、この溶液にヒドラジンなどの還元剤を添加して白金を沈殿させ、濾過及び洗浄した後、乾燥させてスポンジ白金を得ることが行われてきた。
【0003】
上記の湿式法で製造されたスポンジ白金は、概ね粒径10μm程度の微細な粉末として得られる場合が多く、この湿潤状態のスポンジ白金を洗浄及び乾燥して製品としている。また、スポンジ白金を他の粉体と混合してペーストを製造する場合、粒度が10μm程度のものが良好な混合性を有するため好ましいとされている。更に、10μm程度の粒径のスポンジ白金は王水に溶解し、白金を含有する化合物などを製造する中間製品としても取り扱い易いという特長がある。このため、スポンジ白金の粒度は10μm程度を目安にすることが多かった。
【0004】
ところが、10μm程度の微細な粉末粒子の表面は酸化され易い性質がある。そのため、上記従来の方法で得られた粒径が10μm程度のスポンジ白金においても、その表面での酸化物の生成を完全に防ぐことは実質的に困難である。その結果、スポンジ白金の表面が酸化されると、王水を加えて溶解する際に溶解され難く、溶解残渣が発生する。具体的な例として、粒径が10μm程度のスポンジ白金の場合、スポンジ白金のおよそ2〜10重量%は王水に溶解しない酸化物の状態で存在することが知られている。
【0005】
スポンジ白金を王水に溶解する際に溶解残渣が発生すると、溶解液との濾別が必要となるうえ、溶解残渣を繰り返して再度処理する必要がある。そのため、多くの手間がかかるうえ、溶解残渣を再処理するためにコストの増加をもたらし、生産性を低下させるなどの不都合が生じていた。
【0006】
溶解残渣の発生を抑制するためには、スポンジ白金における酸化物の生成をできるだけ抑制すると共に、生成した酸化物をメタルに戻すことが望ましい。例えば、特許文献1には、白金の溶解残渣を低減するための技術として、スポンジ白金を予め2mm以下に粗粉砕し、還元炉に入れて水素ガスを流しながら600〜800℃の温度に保持して脱酸素を行う方法が記載されている。この方法によれば、スポンジ白金中の酸化物が除去されるため、王水に溶解する際の溶解速度が向上し、溶解残渣を低減できるとされている。
【0007】
しかしながら、特許文献1のような高温下において水素ガスを用いた還元炉で操業を行うことは、水素ガスが爆発する危険性があるため、防爆仕様の機器の使用並びに警報装置や遮断装置の設置、更に換気など厳重な安全対策が必要となる。このため設備投資や管理費用がかさむうえ、水素ガス自体のコストも無視できないことから、工業的に容易に実施できる方法とはいえなかった。
【0008】
また、水素を用いた還元を白金などのように水素を吸蔵しやすいメタルの処理に用いると、供給された水素が白金メタル中に吸蔵され、反応終了後に大気雰囲気に接したとき発熱ないし発火して再酸化が促進されることがある。このため、水素還元が終わった後、炉内を減圧するか若しくは不活性ガスに置換するなどの方法を用いて、白金に吸蔵された水素ガスを放出させる処理を施す必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−089808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来のスポンジ白金の製造方法における問題点に鑑み、操業が簡単で且つ操業中の安全に関するリスクがなく、コスト的にも有利であって、王水に溶解する際に簡単に溶解して溶解残渣が発生しない、易溶性のスポンジ白金の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため本発明が提供する易溶性スポンジ白金の製造方法は、塩化白金酸アンモニウムにアルカリを加えて溶解し、得られた溶液に還元剤を添加してスポンジ白金を得た後、分離回収した湿潤状態のスポンジ白金を800〜1000℃の温度に昇温して焙焼し、得られた焙焼物を解砕することを特徴とするものである。
【0012】
上記本発明の易溶性スポンジ白金の製造方法においては、前記焙焼を不活性雰囲気中にて行うことが好ましい。また、前記焙焼物を解砕する際には、粒径が1〜3mmの範囲になるように解砕することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安全で且つコスト的にも有利な方法により、王水に容易に溶解して溶解残渣が発生しないスポンジ白金を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるスポンジ白金の製造工程を示す図面である。
【図2】従来のスポンジ白金の製造工程を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、湿式法により塩化白金酸アンモニウムからスポンジ白金を得る工程と、得られたスポンジ白金を湿潤状態のまま焙焼する工程と、その焙焼物を解砕する工程とからなる。更に具体的には、スポンジ白金を得る工程では、公知の湿式法に従って、塩化白金酸アンモニウムを苛性ソーダなどに溶解してアルカリ溶液とし、ヒドラジン等の還元剤により白金を還元し、生成したスポンジ白金を固液分離して回収する。
【0016】
湿式法により塩化白金酸アンモニウムから得られたスポンジ白金は、次の焙焼工程に移る前に洗浄することが好ましい。例えば、回収したスポンジ白金を純水中に懸濁させ、撹拌することにより付着している還元母液を分離する。このようにして得られた湿潤状態のスポンジ白金を次の焙焼工程に供給する。
【0017】
ここで、湿潤状態のスポンジ白金とは、例えば、常温下で固液分離し若しくは更に洗浄した後のスポンジ白金で、表面が水分によりコーティングされている程度の水分状態のものを言う。尚、スポンジ白金の湿潤状態での具体的な水分率については、一概に規定できないが、スポンジ白金の表面が水分によりコーティングされる程度、具体的には数〜20重量%程度であることが好ましい。
【0018】
上記の湿潤状態のスポンジ白金は、次の焙焼工程において、湿潤状態のまま加熱炉などに装入し、大気雰囲気若しくは不活性ガス雰囲気の下において800〜1000℃の範囲の温度まで昇温して焙焼する。この焙焼処理によって、スポンジ白金中に含まれている水分は熱分解して分離される。尚、加熱炉としては、通常の電気炉などを用いることができる。
【0019】
上記焙焼処理の温度(焙焼温度)が800℃未満では、得られるスポンジ白金の王水への溶解性が悪くなる。逆に焙焼温度が1000℃を超えると、焙焼が進み過ぎて塊状のスポンジ白金が生成し、ハンドリングが難しくなるなどの不都合が生じるため好ましくない。尚、目標とする焙焼温度は、予め少量での焙焼テストを実施して、得られるスポンジ白金の解砕後の粒径が最適な粒径になる焙焼温度を求めれば良い。また、室温からの昇温時間、即ち昇温時の温度勾配は特に限定されるものではない。
【0020】
上記焙焼処理に要する時間(焙焼時間)は、スポンジ白金の水分率や焙焼温度によって異なるが、所定の焙焼温度に到達後少なくとも5分以上保持することが好ましい。また、焙焼雰囲気については、酸素を供給するなど極端に酸化を促進する雰囲気でなければ良く、通常の大気雰囲気中で行うことも可能であるが、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気がより好ましい。
【0021】
上記焙焼工程で得られた焙焼物は、簡単に解砕できる状態となっている。最後の解砕工程においては、この焙焼物を粒径が1〜3mmになるように解砕して製品とする。スポンジ白金の粒径を1〜3mmの範囲とする理由は、1mm未満では容器や袋に静電気で付着しやすくなり、秤量が困難となるなど取り扱い上の問題が生じる。更に、1mm未満の微粉は溶解時に激しい溶解反応を起こし、安全上も問題である。一方、粒径が3mmを超えると反応槽で混合にする際に分散しにくく、溶解が困難となり、また溶解槽の磨耗や破損を促進するために好ましくない。
【0022】
本発明においては、上記したように湿潤状態のスポンジ白金を、湿潤状態のまま加熱炉などを用いて焙焼することによって、スポンジ白金に含まれる酸化物が熱分解を開始するまでの間、スポンジ白金の表面に存在している水分が一種の保護皮膜として作用するため、スポンジ白金の再酸化を効果的に防止することができる。また、焙焼温度に達した加熱炉などに直接スポンジ白金を添加しないので、水蒸気爆発を生じる心配はなく、安全に操業することができる。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
白金を含む原料の精製により得られた塩酸酸性の白金溶液に、塩化アンモニウムを添加して塩化白金酸アンモニウムを生成させ、濾過して分離した。この塩化白金酸アンモニウムを、図1に示すように、水酸化ナトリウムに溶解した後、その溶液にヒドラジンを添加して還元し、スポンジ白金を生成させた。生成したスポンジ白金を濾別し、純水を加えてレパルプ洗浄した後、5C濾紙とヌッチェを用いて真空ポンプで吸引して濾過し、スポンジ白金から分離された水分が濾瓶内に滴下しない状態となったところで濾過を止めた。
【0024】
得られた湿潤状態のスポンジ白金を坩堝に入れ、電気炉に装入して室温から900℃まで30分かけて昇温した。900℃に達した後5分間保持し、その後放冷した。回収した焙焼後のスポンジ白金は、従来の乾燥品と比べると良く焼き締まっていたが、乳鉢に入れ乳棒を用いれば手でも簡単に解砕することが可能であり、粒径1〜3mmの粉体を得ることができた。
【0025】
次に、上記のごとく得られたスポンジ白金の粉末5gを採取し、ビーカーに入れた。これに濃塩酸40mlを添加し、次いで撹拌しながら濃硝酸13mlを徐々に添加して王水としたところ、溶液の色は透明感のあるオレンジ色となり、1時間も撹拌しないうちにスポンジ白金が完全に溶解し、ビーカーの底に溶解残渣は認められなかった。
【0026】
[比較例1]
上記焙焼時の設定温度を700℃とした以外は、上記実施例1と同じ条件で焙焼した。得られたスポンジ白金の粉末5gを溶解試験に供し、上記実施例1と同じ方法で濃塩酸40mlを添加した後、撹拌しながら濃硝酸13mlを徐々に添加した。
【0027】
しかし、スポンジ白金が完全に溶解しなかったため、ビーカーをホットプレート上に載せて90℃以上に加熱した。1時間以上経過して反応がほぼ終了したと思われる状態であっても、溶液の色は黒く濁っており透明感がなかった。濾過して回収した溶解残渣の重量は、溶解試験に供したスポンジ白金の重量に対して3重量%であった。
【0028】
[比較例2]
上記実施例1と同様にして、湿潤状態のスポンジ白金を得た。次に、図2に示す従来の方法に従って、得られたスポンジ白金を純水でレパルプ洗浄した後、乾燥機に入れて105℃にて24時間保持し、完全に乾燥したスポンジ白金を得た。得られたスポンジ白金の粒径は約10μmであった。
【0029】
上記従来の方法により得られたスポンジ白金を5g採取して溶解試験に供し、上記実施例1と同じ方法で濃塩酸40mlを添加した後、撹拌しながら濃硝酸13mlを徐々に添加した。しかし、スポンジ白金が完全に溶解しなかったため、ビーカーをホットプレート上に載せて90℃以上に加熱した。
【0030】
1時間以上経過して反応がほぼ終了したと思われる状態でも、溶液の色は黒く濁っており透明感がなかった。濾過して回収した溶解残渣の重量は、溶解試験に供したスポンジ白金の重量に対して5重量%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化白金酸アンモニウムにアルカリを加えて溶解し、得られた溶液に還元剤を添加してスポンジ白金を得た後、分離回収した湿潤状態のスポンジ白金を800〜1000℃の温度に昇温して焙焼し、得られた焙焼物を解砕することを特徴とする易溶性スポンジ白金の製造方法。
【請求項2】
前記焙焼を不活性雰囲気中にて行うことを特徴とする、請求項1に記載の易溶性スポンジ白金の製造方法。
【請求項3】
前記焙焼物を粒径が1〜3mmの範囲になるように解砕することを特徴とする、請求項1又は2に記載の易溶性スポンジ白金の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−153925(P2012−153925A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12761(P2011−12761)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】