説明

星型ポリマー

【課題】 炭素同素体を核とし、ポリマー鎖を腕とする星型ポリマー、及び該星型ポリマーの製造方法を提供すること。

【解決手段】 本発明の星型ポリマーは、中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有する星型ポリマーであって、上記アーム部は、ポリヒドロキシカルボン酸構造単位を含み、上記中心核が炭素同素体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素同素体を中心核とした、星型ポリマー及びその製造方法に関する。特に、従来報告のない、新規な構造を有する星型ポリマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラーレンは、例えば、太陽エネルギー変換及び貯蔵、燃料電池、高分子材料、生物医学及び生化学の分野における有望な応用の可能性のために、フラーレンに関する研究が展開されている(例えば、非特許文献1及び2)。特に、1990年に炭素数60のフラーレンの大量合成法が確立されて以来、フラーレン に関する研究が精力的に展開されている。しかしながら、フラーレンが毒性を有していること、黒鉛、カーボンブラック、ダイヤモンド、炭素繊維、カーボンナノチューブ等の他の炭素材料と同様、疎水性が高く、そのため、各種極性溶媒への溶解度が低く、特に水にはほとんど溶解しないという特性を有し、応用に限界があった。
【0003】
そこで、フラーレンの誘導体として、毒性の少ない、フラレノールが提案されており、フラレノールはフラーレンの優れた特性を維持していることが知られている(非特許文献3)。例えば、太陽エネルギー変換に用いられ(非特許文献1)、プロトン導電率に優れいる(非特許文献2)ことが知られている。
また、フラレノールは、遊離基捕捉剤、ヒト免疫不全ウィルスプロテアーゼの阻害剤として有用であることも報告されている(例えば、特許文献4)。
【0004】
一方、グラファイトに代表される炭素同素体は優れた特性を有しており、例えば、電池の負極活物質等として用いられてきた。このようなグラファイトも、フラーレンと同様、各種の極性溶媒への溶解度が低いものであった。
【0005】
上述したように、フラーレン、その誘導体及びグラファイトに代表される炭素同素体は優れた特性を有するため、その特性が維持でき、かつ種々の分野において応用可能な誘導体を得るため、種々の開発がなされ、ポリマーを含有するフラーレン組成物を製造することが行われてきた(非特許文献5)。例えば、ポリマーを含有するフラーレンは、ポリマー太陽電池、光学リミッター、エレクトロルミネセンス装置等に用いらている(例えば、非特許文献5)。上記非特許文献に用いられているポリマーは、ポリ(スチレン)、ポリ(メチルメタクリレート)であり、グラフト重合によって製造されるものであった。
【0006】
一方、近年においては、医療用材料に対する関心が高まりつつあり、生分解性高分子に対する研究が盛んに進められている。このようなものとしては、例えば、医用高分子材料や高機能性生分解性高分子材料等が知られており、このような材料としては、例えば、天然の生分解性高分子と、合成された生分解性高分子とが報告されている。また、このような生分解性高分子は、化粧品や医薬品等の分野、包装用、農業用、食品用等の分野においても重要なものであると考えられている。
従って、上述した炭素同素体は優れた特性を有していることから、これらをポリマーと結合させた化合物は、化粧品や医薬品等の分野において有用なものであると考えられる。
【0007】
一方で、高分子化合物の物性を改良しようとする試みもなされており、このような方法としては、例えば、モノマーの種類、モル比等を調整する方法や、ランダム、ブロック等のモノマー配列を変える方法等があり、従来から種々の方法が試みられている。高分子化合物の物性を改良する試みの一つとして、いわゆる星型ポリマーを製造する方法が知られている。
【0008】
例えば、特許文献1には、第1の成分がポリマー鎖を含み、第2の成分が、中心部分から伸びている少なくとも3つの腕を有する中心部分を有する分子を含み、それぞれの腕が反応基を有する骨格を含む低誘電率材料が開示されている。該特許文献においては、中心部分としてはかご型化合物が用いられ、ポリマー成分として、ポリ(アレーン)が用いられることが開示されている。
【0009】
特許文献2には、フラレノールが導入されたポリウレタンエラストマーにより構成されている、圧電素子が開示されている。
上記特許文献1によれば、理論限界値のより近くまで絶縁材料の誘電率を下げることができることが記載されており、また、上記特許文献2によれば、ポリウレタンエラストマーが用いられていても、効果的に圧電効果を発揮することができることが記載されている。
【0010】
しかしながら、上記特許文献に開示された発明は、ポリ(アレーン)やポリウレタンエラストマーを用いたものであり、生分解高分子であるポリマーを導入したものでなかった。また、生分解性ポリエステルを用いた報告として、特許文献3に、カーボン系ナノ物質を含有する生分解性ポリエステルが開示されている。特許文献3には、カーボン系ナノ物質としてフラーレンが、生分解性ポリエステルとしてポリ乳酸が用いられているが、該特許文献3においては、フラーレンポリ乳酸とを結合させたものではなく、単に分散させた組成物である。
【0011】
【特許文献1】特表2004−504424号公報
【特許文献2】特開2003−282983号公報
【特許文献3】特開2005−290288号公報
【非特許文献1】Rincon M. E. et al., J. Phys.Chem. B 2003, 107, 4111
【非特許文献2】Hinokuma K., Ata M., Chem. Phys. Lett. 2001, 341, 442
【非特許文献3】Anderson R., Barron A.R., J.Am.Chem.Soc. 2005, 127, 10458
【非特許文献4】Chiang L.Y., et al., Chem.Commun. 1994, 1283
【非特許文献5】Innocenzi P., Brusatin G. Chem. Mater. 2001, 13, 3126
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、フラーレンやグラファイト等の炭素同素体は、優れた特性を有しており、これらの炭素同素体を化粧品や医薬品の分野において利用するためには、その特性を損なわずに機能を発揮し得る誘導体とすることが重要であり、炭素同素体とポリマーとを結合させた化合物を製造することが重要であると考えられる。しかし、このような化合物は未だ報告されていない。従って、本発明の目的は、炭素同素体を核とし、ポリマー鎖を腕とする星型ポリマー、及び該星型ポリマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意検討した結果、特定の構造を有する星型ポリマーが、化粧品や医薬品等の分野へ応用することが可能であるという知見を得た。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有する星型ポリマーであって、上記アーム部は、ポリヒドロキシカルボン酸構造単位を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーを提供するものである。
【0014】
また、本発明は、中心核と、該中心核とエステル結合したポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有し、上記アーム部はポリヒドロキシカルボン酸単位を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーの製造方法であって、下記工程(a)及び(b)を含む製造方法を提供する。
(a)炭素同素体を水酸化する工程;
(b)工程(a)で得られた化合物と、開環重合することによってポリヒドロキシカルボン酸単位となり得る化合物とを開環重合させる工程。
また、本発明は、中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有し、上記アーム部は、一般式(2)で表されるポリマー鎖を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーの製造方法であって、下記工程(a)及び(c)を含む製造方法を提供する。
(a)炭素同素体を水酸化する工程;
(c)工程(a)で得られた化合物と、一般式(3)又は一般式(4)で表わされる化合物とを開環重合させる工程。
【0015】
【化1】

【0016】
(上記式中、Rは水素原子又はアルキル基であり、mは0〜8の整数であり、nは50〜2,000の整数である。)
【0017】
【化2】

【0018】
(上記式中、Rは水素原子又はアルキル基であり、mは0〜8の整数である。)
【0019】
【化3】

【0020】
(上記式中、Rは水素原子又はアルキル基であり、mは0〜8の整数である。)
【0021】
また、本発明は、中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有し、上記アーム部は、一般式(5)で表されるポリマー鎖を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーの製造方法であって、下記工程(d)、(e)及び(f)を含む製造方法を提供する。
(d)中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有する星型ポリマーであって、上記アーム部は、一般式(2)で表されるポリマー鎖を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーの末端の水酸基をハロゲン化する工程;
(e)工程(d)で得られた化合物をアジド化する工程;
(f)工程(e)で得られた化合物をRで表わされる炭素同素体と反応させる工程。
【0022】
【化4】

【0023】
(上記式中、Rは水素原子又はアルキル基であり、Rは炭素同素体であり、mは0〜8の整数であり、nは50〜2,000の整数である。)
【0024】
【化5】

【0025】
(上記式中、Rは水素原子又はアルキル基であり、mは0〜8の整数であり、nは50〜2,000の整数である。)
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、化粧品や医薬品等の分野において利用することのできる、炭素同素体を核とし、ポリマー鎖を腕とする星型ポリマーが提供される。また、本発明によれば、上記星型ポリマーの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、先ず本発明の星型ポリマーについて説明する。
本発明の星型ポリマーは、中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有する星型ポリマーであって、上記アーム部は、ポリヒドロキシカルボン酸構造単位を含み、上記中心核が炭素同素体である。
【0028】
本発明の星型ポリマーにおいて、中心核は炭素同素体であり、該炭素同素体としては、例えば、フラーレン、グラファイト、ダイヤモンド、アモルファス・カーボン、カーボンナノチューブ等が挙げられる。本発明においては、フラーレン及びグラファイトが好ましい。炭素同素体としてフラーレンを用いるのが更に好ましい。ここで、フラーレンとは、炭素原子が球状又はラグビー状に配置して形成される閉殻状の骨格(以下、本明細書において、「フラーレン骨格」という場合がある)を有する炭素クラスターを意味する。その炭素数は、通常、60〜120であり、具体的には、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びより高次の炭素クラスターが挙げられる。上記の中でも、製造時における反応原料の入手の容易さから、C60及びC70が好ましく、C60が特に好ましい。
【0029】
本発明の星型ポリマーを構成するアーム部は、ポリヒドロキシカルボン酸構造単位を含む。ポリヒドロキシカルボン酸構造単位を含むアーム部としては、例えば、下記一般式(1)で表わされるポリマー鎖を含むものが挙げられる。具体的には、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(γ−カプロラクトン)、ポリ(δ−カプロラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)、ポリ(γ−カプロラクトン)、ポリ(γ−ブチロラクトン)、ポリ(ラクチド)等が挙げられる。
すなわち、本発明の星型ポリマーとしては、中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有する星型ポリマーであり、上記アーム部は、一般式(1)で表されるポリマー鎖を含み、上記中心核が炭素同素体であるものが挙げられる。
【0030】
【化6】

【0031】
上記一般式(1)において、Rは水素原子又はアルキル基である。上記アルキル基としては、例えば、炭素数が1〜4のアルキル基が挙げられ、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソブチル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基が挙げられる。また、mは0〜8の整数であり、好ましくは0〜6の整数であり、好ましくは0〜5の整数であり、更に好ましくは0〜4の整数である。また、nは50〜2,000の整数であり、好ましくは50〜500の整数である。また、Rは水素原子又は炭素同素体である。Rが炭素同素体の場合、中心核からポリマー鎖が伸び、そのポリマー鎖の末端に更に中心核が結合し、アーム部の両端に炭素同素体が結合した形状となる。
該炭素同素体としては、例えば、フラーレン、グラファイト、ダイヤモンド、アモルファス・カーボン、カーボンナノチューブ等が挙げられる。本発明においては、フラーレン及びグラファイトが好ましい。
【0032】
本発明の星型ポリマーの具体例としては、一般式(1)において、Rが水素原子であり、mが2〜4の整数である星型ポリマー、Rがメチル基であり、mが0である星型ポリマーが挙げられる。
が水素原子であり、mが4である場合は、本発明の星型ポリマーのアーム部はポリ(ε−カプロラクトン)となり、Rが水素原子であり、mが3である場合は、本発明の星型ポリマーのアーム部はポリ(δ−バレロラクトン)となり、Rが水素原子であり、mが2である場合は、本発明の星型ポリマーのアーム部はポリ(γ−ブチロラクトン)となり、Rがメチル基であり、mが0である場合は、本発明の星型ポリマーのアーム部はポリラクチドとなる。
【0033】
本発明の星型ポリマーのアーム部は、その重量平均分子量が好ましくは10,000〜100,000であり、更に好ましくは10,000〜50,000である。アーム部の重量平均分子量が5,000より小さいと、星型ポリマーの溶解度が低下する場合があり、一方、アーム部の重量平均分子量が100,000より大きいと星型ポリマーの性質にフラーレンの望ましい性質が反映されなくなる場合がある。
【0034】
本発明の星型ポリマーは、アーム部を少なくとも2個有し、好ましくはアーム部を2〜4個、更に好ましくはアーム部を2〜3個有する。アーム部が4個を超えると、得られる星型ポリマーの取り扱い性が低下する場合がある。なお、本発明の星型ポリマーの有するアーム部は全てが同一でなくてもよく、すなわち、一般式(1)における、m及びnは全てが同一でなくてもよく、混合物であってもよい。
なお、本発明の星型ポリマーにおいては、上記中心核と上記アーム部とは、エステル結合している。本発明の星型ポリマーは、後述するように、中心核の炭素同素体を水酸化し、次いで、ここにアーム部を開環重合させて製造される。この開環重合によって形成されるポリヒドロキシカルボン酸単位のカルボキシル基が炭素同素体の水酸基と結合し、エステル結合を形成する。
【0035】
本発明の星型ポリマーの具体例としては、例えば、アーム部が下記式(6)で表されるポリマーであり、中心核がフラーレンであるものが挙げられる。下記式(6)で表わされる化合物が、一般式(1)において、Rが水素であり、mが4であり、Rが水素である化合物であり、アーム部がポリ(ε−カプロラクトン)となっている化合物である。また、アーム部が式(6)で表わされるポリマーは、全体として、下記式(7)で表わされる構造をとっている。式(7)においては、アーム部が2個のものと3個のものとの混合物として表されている。また、Rがフラーレンの場合のポリマーは、構造式(8)で表わされる。式(8)においては、アーム部が3個のものとして表されている。
【0036】
【化7】

【0037】
【化8】

【0038】
【化9】

【0039】
本発明の星型ポリマーは、溶媒に対する溶解性に優れているため、化粧品、医薬用途や、塗膜形成などの分野において幅広く用いることができる。
例えば、塗膜形成に用いられる場合には、本発明の星型ポリマーを溶媒に溶解させ、この溶液を塗膜形成に用いることによって、容易かつ安全に塗膜を形成することが可能となり、また、塗膜の膜厚を精密に制御することもできる。この塗膜を用いることにより、例えば、フラーレンの電子受容体を活用した有機薄膜太陽電池への用途に適用することもでき、また紫外線をカットするための塗膜を形成する用途としても適用することができる。
【0040】
本発明の星型ポリマーを用いて塗膜を形成する方法としては、例えば、星型ポリマーを有機溶媒に溶解させた溶液を用いて、スプレー法やワイヤーバー等によるバーコート法や転写ロール法による塗布、スピンコート法等の方法が挙げられる。
本発明の星型ポリマーは、水を含む溶媒に対する溶解度が上昇しており、医用高分子材料、高機能性生分解性高分子材料を創製するための材料として、また、バイオセンサー、ガス分離膜、生物工学リミッターとして適用することができる。
【0041】
次に、本発明の星型ポリマーの製造方法について説明する。
本発明の星型ポリマーの製造方法は、中心核と、該中心核とエステル結合したポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有し、上記アーム部はポリヒドロキシカルボン酸単位を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーの製造方法であって、下記工程(a)及び(b)を含む。
(a)炭素同素体を水酸化する工程;
(b)工程(a)で得られた化合物と、開環重合することによってポリヒドロキシカルボン酸単位となり得る化合物とを開環重合させる工程。
【0042】
まず、工程(a)について説明する。
工程(a)においては、まず、炭素同素体を水酸化する。ここで、炭素同素体とは、上述した、本発明の星型ポリマーにおいて説明したのと同様である。炭素同素体としては、例えば、フラーレン、グラファイト等が挙げられる。炭素同素体を水酸化する方法としては特に制限はなく、従来公知の方法で実施することができる。例えば、炭素同素体に、ポリシクロ硫酸基、シクロ硫酸エステル基、硫酸水素エステル基等を付加した後、加水分解することにより、ポリシクロ硫酸基、シクロ硫酸エステル基、硫酸水素エステル基を除去して、炭素同素体を水酸化することができる。炭素同素体としてフラーレンを用いる場合、水酸化され、水酸基が導入されたフラーレンを、ポリ水酸化フラーレン又はフラレノールという。
【0043】
例えば、炭素同素体としてフラーレンを用いて、フラレノールを製造する場合、まず、フラレノールを発煙硫酸を用いてポリシクロ硫酸化フラーレンとする。この場合の反応は窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。反応は50〜70℃の温度で、1〜4日程度行なうことが好ましい。
次いで、上述のようにして得られた、ポリシクロ硫酸化フラーレンを水酸化ナトリウム等のアルカリで処理することにより、ポリシクロ硫酸基を除去し、水酸基とし、フラレノールを得る。この反応は、70〜100℃の温度で、1〜100時間程度行なうことが好ましく、また、反応は窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。このようにして得られたフラレノールは、通常、分子あたり10〜12個の水酸基を有する。
【0044】
次に、工程(b)について説明する。
工程(b)においては、工程(a)で得られた化合物と、開環重合することによってポリヒドロキシカルボン酸単位となり得る化合物とを開環重合させる。
工程(b)における開環重合においては、工程(a)で得られた水酸化された化合物(例えば、フラレノール)が重合開始剤として作用する。工程(b)においては、開環重合の際に、開環付加重合触媒が用いられる。用いられる触媒としては、無機塩基、無機酸、有機アルカリ金属触媒、スズ化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、モリブデン化合物およびジルコニウム化合物などが例示できる。中でも、取り扱い易さ、低毒性、反応性、無着色性、安定性などのバランスからスズ化合物およびチタン化合物が好ましく用いられる。
【0045】
上記スズ化合物としては、例えば、スズ2−エチルヘキサノエート、オクチル酸第一スズ、モノブチルスズオキシド、モノブチルスズトリス(2−エチルヘキサノエート)、ジブチルスズオキシド、ジイソブチルスズオキシド、ジブチルスズジアセテート、ジ−n−ブチルスズジラウレート等のスズ化合物が挙げられ、チタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラn―プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよく、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
開環重合を実施する際の重合温度は、好ましくは50〜250℃であり、更に好ましくは90〜220℃、最も好ましくは100〜200℃の範囲である。重合温度が50℃より低いと重合速度が小さくなりすぎ、一方、重合温度が250℃を超えると、得られる生成物の熱分解反応が発生し、生成物が着色したり、分解物が生成する場合がある。重合反応を行う場合、反応装置内で行ってもよく、その場合の反応装置としては、公知の反応装置を用いることができる。このような反応装置としては、例えば、攪拌羽根式バッチ型反応装置、半連続および連続式反応装置、ニーダー型混練機、押出機などのスクリュウ型混練機、スタティクミキサー型反応装置およびこれらを連続的に連結した反応装置などが挙げられる。
【0047】
なお、反応は溶媒中で行うことが好ましく、用いられる溶媒としては、反応に関与する各成分に対して好ましくない作用を有していたり、目的とする反応を阻害するものでない限り、その種類に制限はない。好ましくは、反応に関与する各成分を良好に溶解するものが好ましい。このような溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系炭化水素;トルエン、キシレン類、トリメチルベンゼン類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族系化合物類;N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ピリジン等の含窒素化合物類等が挙げられる。上記溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
溶媒の使用量は、反応に関与する成分が十分に溶解することができれば特に制限はないが、通常は、工程(a)においては、炭素同素体の濃度が1〜5質量%程度になる量でよい。工程(b)においては、開環重合することによってポリヒドロキシカルボン酸単位となり得る化合物を上記溶媒に溶解したものを工程(a)で得られた化合物の溶液中に加えるが、このときに、水酸化された炭素同素体の濃度が0.1〜1質量%程度になるように実施することが好ましい。
【0049】
本発明の星型ポリマーの製造方法においては、開環重合することによってポリヒドロキシカルボン酸単位となり得る化合物の使用量は、炭素同素体の水酸化物1モルに対し、好ましくは10〜200モルである。
本発明の星型ポリマーの製造方法において得られる星型ポリマーは、アーム部を少なくとも有しており、好ましくはアーム部を2〜4個、更に好ましくはアーム部を2〜3個有している。
【0050】
工程(b)で用いられる、開環重合することによってポリヒドロキシカルボン酸単位となり得る化合物としては、例えば、一般式(3)又は一般式(4)で表わされる化合物が挙げられる。工程(b)において、一般式(3)又は一般式(4)で表わされる化合物を用いた場合、得られる星型ポリマーのアーム部は、一般式(2)で表わされるポリマー鎖を含むものとなる。
【0051】
【化10】

【0052】
上記一般式(2)において、R、m及びnは一般式(1)において説明したのと同様である。
【0053】
【化11】

【0054】
上記一般式(3)において、R、m及びnは一般式(1)において説明したのと同様である。
【0055】
【化12】

【0056】
上記一般式(4)において、R及びmは一般式(1)において説明したのと同様である。
【0057】
すなわち、本発明は、中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有し、上記アーム部は、一般式(2)で表されるポリマー鎖を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーの製造方法であって、下記工程(a)及び(c)を含む製造方法をも提供する。
(a)炭素同素体を水酸化する工程;
(c)工程(a)で得られた化合物と、一般式(3)又は一般式(4)で表わされる化合物とを開環重合させる工程。
【0058】
本発明の星型ポリマーの製造方法において、一般式(3)で表わされる化合物として、Rがメチル基であり、mが0である化合物、すなわちラクチドを用いた場合、得られる星型ポリマーは、アーム部としてポリラクチドを有するものとなる。
また、本発明の星型ポリマーの製造方法において、一般式(4)で表わされる化合物として、Rが水素原子であり、mが4である化合物を用いた場合、すなわち、ε−カプロラクトンを用いた場合、得られる星型ポリマーは、アーム部としてポリ(ε−カプロラクトン)を有するものとなる。
また、本発明の星型ポリマーの製造方法において、一般式(4)で表わされる化合物として、Rが水素原子であり、mが3である化合物を用いた場合、すなわち、δ−バレロラクトンを用いた場合、得られる星型ポリマーは、アーム部としてポリ(δ−バレロラクトン)を有するものとなる。
また、本発明の星型ポリマーの製造方法において、一般式(4)で表わされる化合物として、Rが水素原子であり、mが2である化合物を用いた場合、すなわち、γ−ブチロラクトンを用いた場合、得られる星型ポリマーは、アーム部としてポリ(γ−ブチロラクトン)を有するものとなる。
【0059】
次に、本発明の第2の実施の形態にかかる、星型ポリマーの製造方法について説明する。本発明の第2の実施の形態にかかる、星型ポリマーの製造方法は、中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有し、上記アーム部は、一般式(5)で表されるポリマー鎖を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーの製造方法であって、下記工程(d)、(e)及び(f)を含む。
(d)中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部を有する星型ポリマーであって、上記アーム部は、一般式(2)で表されるポリマー鎖を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーの末端の水酸基をハロゲン化する工程;
(e)工程(d)で得られた化合物をアジド化する工程;
(f)工程(e)で得られた化合物をRで表わされる炭素同素体と反応させる工程。
【0060】
【化13】

上記一般式(5)において、Rは炭素同素体であり、R、m及びnは、一般式(1)において説明したのと同様である。
【0061】
まず、工程(d)について説明する。工程(d)は、中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部を有する星型ポリマーであって、上記アーム部は、一般式(2)で表されるポリマー鎖を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーの末端の水酸基をハロゲン化する工程である。星型ポリマーの末端の水酸基をハロゲン化する工程としては、ポリマーの末端の水酸基をハロゲン化することのできる方法であれば特に制限なく用いることができ、従来公知の方法が用いられる。例えば、ハロゲン化剤を用いる方法が挙げられる。ハロゲン化剤としては、例えば、塩化チオニルが挙げられる。ハロゲン化剤の使用量は、原料である星型ポリマー1モルに対し、好ましくは2〜3モルである。工程(d)は、20〜120℃程度の温度で 1〜50時間程度行なうことが好ましい。工程(d)は、例えば、トルエン、ジクロロメタン等の溶媒中で行われる。
【0062】
次に、工程(e)について説明する。工程(e)は、工程(d)で得られた化合物をアジド化する工程である。アジド化は、例えば、アジ化ナトリウム、アンモニウムアジド、アジ化水素等を用いて行われる。上記の中でもアジ化ナトリウムが好ましい。工程(e)は、50〜90℃程度の温度で5〜50時間程度行なうことが好ましい。工程(d)は、例えば、ジオメチルホルムアミド等の溶媒中で行われる。
【0063】
次に、工程(f)について説明する。工程(f)は、工程(e)で得られた化合物をRで表わされる炭素同素体と反応させる工程である。工程(f)は、工程(e)で得られた化合物と、Rで表わされる炭素同素体とを、環化付加反応して実施される。工程(e)で得られた化合物と炭素同素体との環化付加反応としては、どのような付加反応であってもよいが、例えば、アジド環化付加反応等が挙げられる。工程(f)は、100〜150℃程度の温度で5〜50時間程度行なうことが好ましい。工程(d)は、例えば、クロロベンゼン等の溶媒中で行われる。
本発明の第2の実施の形態にかかる星型ポリマーの製造方法において得られる星型ポリマーは、アーム部を少なくとも有しており、好ましくはアーム部を2〜4個、更に好ましくはアーム部を2〜3個有している。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、かかる実施例に限定されないことはいうまでもない。
実施例1
フロンティアカーボン(株)から購入したフラーレン(ロット番号:4A0248-A)、ナカライテスク(株)から購入した発煙硫酸、関東化学(株)から購入したε−カプロラクトンを原料として用いた。また、スズ2−エチルヘキサノエートは、関東化学(株)から購入した。
【0065】
フラーレン(10g)を、発煙硫酸(200ml)と、窒素雰囲気下で、65℃の温度で、ガスをパージしながら、3日間反応させた。3日反応させた後、ポリシクロ硫酸化されたフラーレン誘導体をオレンジがかった褐色の固体として得た。乾燥させた後、得られた化合物を、1モル/L濃度のNaOH水溶液中に投入し、窒素ガスをパージしながら、80℃の温度で10時間加水分解を行い、褐色固体のフラレノールを得た(収量:9g、収率:90%)。
【0066】
上述のようにして得られたフラレノール(0.2g)を、ε−カプロラクトン(20mL)中に懸濁し、30分間超音波処理を行った。次いで、懸濁液を、予め150℃の真空オーブンで乾燥させた3口フラスコ(100mL容量)に注ぎ、スズ2−エチルヘキサノエート(0.2g)を窒素ガスを流しながら加えた。フラスコ内の溶液を激しく撹拌しながら、140℃まで温度を上昇させ、3時間開環重合反応を行い、灰色の溶液を得た。得られた生成物を、10,000rpmで遠心分離を行い、ろ過し、クロロホルム/エタノール(100/100)で3回沈殿させ、灰色の固体の星型ポリマーを得た(収量:5g、収率:25%)。
【0067】
実施例2
ε−カプロラクトンに代え、ε−カプロラクトン/トルエン(10/100、110mL)を用い、ろ過後の沈殿用溶媒として、トルエン/ジエチルエーテル(10/1000mL)を用いた以外は、実施例1と同様に操作を行い、星型ポリマーを得た(収量:6g、収率:60%)。
【0068】
上述のようにして得られた星型ポリマーについて、以下の特徴づけを行った。
(1)フーリエ変換赤外(FT−IR)スペクトル
パーキンエルマースペクトル2000シングルビームIR分光光度計を用い、4cm-1の解像度で、室温で測定を行った。試料は、KBrに分散させ、圧縮してディスク状としたものを用いた。
(2)UV/可視スペクトル
JASCO V−550 UV/VIS分光光度計を用いて室温で測定を行った。
(3)1H NMRスペクトル
1H NMRスペクトルは、CDCL3溶液中、室温で、JELO GXS-270分光計を用い、45°パルス、5s−パルス保持時間、2500Hzスペクトル幅、32Kデータポイント及び64FID蓄積で測定した。
【0069】
(4)CP/MAS 13C NMR
JASCO V−550 UV/VIS分光光度計を用いて、Hについて270.1MHzで、13Cについて60.8MHzで測定した。
(5)分子量
東ソー(株)製のHLC-8020ゲルパーミーションクロマトグラフィー(GPC)システムを用い、40℃の温度で、TSKゲルG2000HXLカラムを用い、SC-8010コントローラー及び屈折計を用いて測定した。クロロホルムを溶出溶媒として用いて、流量は1mL/分とし、試料の濃度を1mg/mlとした。低多分散性のポリスチレンをポリエチレン標準として用いた。
【0070】
実施例1及び実施例2で得られた星型ポリマーについて上述の特徴付けを行った結果について以下に説明する。
FT−IRスペクトルは、図面に示さないが、ポリ(ε−カプロラクトン)に典型的な吸収バンドを示した。
図1は、実施例1で得られた星型ポリマー、フラーレン及びフラレノールのUV/可視スペクトルの測定結果を示す図である。図1において、横軸は波長を示し、縦軸は吸光度を示す。図1において、実施例1で得られた星型ポリマーについては、SPCLF−1として示した。図1に示すように、実施例1で得られた星型ポリマーは、300〜800nmにおいて安定した減少カーブを示し、これはフラーレン及びフラレノールと同様であった。このことは、ポリマーとなったことにより、成膜しやすくなり、紫外線を吸収する特性を有しているので、実施例1で得られた星型ポリマーが、紫外線を除去するためのコーティング剤として用い得ることを示す。なお、図示していないが、実施例2で得られた星型ポリマーについても同様の結果が得られた。
【0071】
図2は、実施例1で得られた星型ポリマーのNMRスペクトルを示す図である。図2(A)は実施例1で得られた星型ポリマーの1H NMRスペクトルであり、図2(B)は、実施例1で得られた星型ポリマーの13C NMRスペクトルである。なお、図2の上部に構造式を示し、対応するスペクトルの部位に記号を付した。図2(A)に示すように、1H NMRスペクトルは、ポリ(ε−カプロラクトン)に特徴的なピークを示した。また、13C NMRスペクトルについても、ポリ(ε−カプロラクトン)に特徴的なピークを示した。また、約150ppm(図2(B)の矢印部分)にピークが出現し、これはフラーレンの存在を示す。図2(Aの)1H NMRスペクトルにおいては、メテン基(t、2H、−CH2-OOC-)及び(t、2H,-CH2-OH)に対応する、4.0ppm及び3.6ppmにピークが認められた。実施例2で得られた星型ポリマーについては図示しないが、実施例1で得られた星型ポリマーと同様であった。
【0072】
NMRスペクトルから、生成物が、フラーレンを中心核とし、アーム部がポリ(ε−カプロラクトン)であることが確認され、実施例1で得られた星型ポリマー、及び実施例2で得られた星型ポリマーのアーム部の分子量は、それぞれ、11,000及び13,000であることがわかった。
【0073】
図3は、実施例1及び実施例2で得られた星型ポリマーのGPCカーブを示す図である。図3において、横軸は溶出容積であり、縦軸は任意の単位である。図3において、s−PCLFと記載されたものは実施例1で得られた星型ポリマーであり、Ds−PCLFと記載されたものは実施例3で得られた星型ポリマーである(本明細書において、以下、同様である)。図3(A)に示すように、実施例2で得られた星型ポリマーのRIにより検出されるGPCカーブは1つの連続的なピークを示すが、実施例1で得られた星型ポリマーは、低溶出容積側に肩を有する非常に鋭いピークを示す。実施例1で得られた星型ポリマーの2つの保持容積の存在は、実施例1で得られた星型ポリマーが、アームの数の異なる2種類の星型ポリマーからなることを示す。実施例1で得られた星型ポリマーのGPC DPカーブは2つのピークを示すが、実施例2で得られた星型ポリマーは1つのピークを示し、SPCLF−1が異なるアームの数を有する2種類の星型ポリマーからなり、実施例2で得られた星型ポリマーは、単一のアーム数を有する星型ポリマーからなることが確認された。
【0074】
単分散ポリスチレン標準を用いて、実施例1で得られた星型ポリマーについては、多分散PDIs-1=1.19を有し、数平均分子量は23,500であった。実施例2で得られた星型ポリマーについては、多分散PDIs-1=1.38を有し、数平均分子量は35,000であった。すなわち、NMRの結果に基づき、実施例1で得られた星型ポリマー及び実施例2で得られた星型ポリマー、各アーム部は11,000及び13,000の分子量を有している。これより計算すると、フラーレンコア上のアームの平均数は、実施例1で得られた星型ポリマー及び実施例2で得られた星型ポリマーについて、それぞれ、約2.2及び2.7であった。
【0075】
実施例1で得られた星型ポリマーについてのアーム数を更に詳細に検討するため、実施例1で得られた星型ポリマーのGPC RIカーブを、カーブフィッティングから分子量(Mn)及びその分散について、2つの画分、Mn1=33000,PDI1=1.24及びMn2=20000,PDI2=1.17について計算を行った。画分1及び画分2の各フラーレンコア上には、3個及び2個のアーム部があることがわかった。それぞれの画分のピーク面積から、それぞれの割合を求めたところ、アーム部を2個有するものと3個有するのとは、ほとんど等量存在した。
【0076】
実施例3
実施例1で得られた星型ポリマー(5g)及び塩化チオニル(2g)を、トルエン中で、110℃の温度で6時間反応を行い、星型ポリマーの末端の水酸基に塩素を導入した。次いで、反応容器にアジ化ナトリウム(2g)を加え、65℃の温度で24時間反応を行い、アジド化された化合物を得た。得られた、アジド化された化合物にフラーレン(4g)を加え、環化重合反応を行い、実施例1で得られた星型ポリマーの末端にフラーレンが結合した、星型ポリマーを得た。
【0077】
得られた星型ポリマー、及び中間で得られたアジド化された星型ポリマーのFTIRスペクトルを図4に示す。図4において、横軸は波長であり、縦軸は任意の値である。図4において、s−PCLFNと記載されたものは中間体のものであり、Ds−PCLFと記載されたものは実施例3で得られた星型ポリマーである。図4から、約2400cm-1のピークが消失していることより、実施例1で得られた化合物は、ほとんど100%フラーレンが付加されたことが明らかである。
【0078】
実施例3で得られた星型ポリマーのUV/可視スペクトルをヘキサン溶媒中で測定し、その結果を図5に示す。図5において、横軸は波長であり、縦軸は任意の値である。また、フラーレンの測定値も同時に示した。
図5において明らかなように、実施例1で得られたものは、329nm及び377nmにピークを示さないが、実施例3で得られたものは、329nm及び377nmにピークを示した。
【0079】
図6に、実施例1で得られた星型ポリマー及び実施例3で得られた星型ポリマーのGPCカーブを示す。図6において、横軸は溶出容量(ml)であり、縦軸は任意の値である。図6に示すように、実施例3で得られた星型ポリマーは、低溶出時間側にピークが移動していた。分子のサイズよりも、むしろ疎水性相互作用又は吸収のためであると考えられる。
【0080】
実施例3で得られた星型ポリマーに導入されたフラーレンの量を計算するため、TGカーブを測定した。結果を図7に示す。図7において、横軸は温度であり、縦軸は純粋なフラーレンは600℃以下で安定であるが、ポリ(ε−カプロラクトン)は465℃以上で完全に分解する。図7に示すように、500℃まで加熱した後に、約8%が残存していた。フラーレンに結合したポリ(ε−カプロラクトン)の末端に存在する水酸基の85%にフラーレンが結合したと推定される。
【0081】
実施例4
フラーレンを0.2g用い、ε−カプロラクトンに代え、5gのラクチドを用いた以外は実施例1と同様に操作を行い、星型ポリマーを得た(収量:3g、収率:60%)。
GPCカーブによりアーム部の分子量を求めたところ(図示せず)、アーム部の分子量は17,000であった。
次いで、1H NMRスペクトルの測定を行ったところ、得られた星型ポリマーは、5.1ppm及び4.0ppmにピークが見られ、これらは、それぞれメチン基(-CH-OOC-)及び(-CH-OH)に対応するピークであり、これから計算したところ、アーム部の分子量は9,000であった。上述した、GPCカーブによるアーム部の分子量の結果とあわせ、1分子あたりのアーム部は約1.9個である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】星型ポリマー、フラーレン及びフラレノールのUV/可視スペクトルの測定結果を示す図である
【図2】星型ポリマーのNMRスペクトルを示す図である。
【図3】星型ポリマーのGPCカーブを示す図である。
【図4】星型ポリマーのFTIRスペクトルを示す図である。
【図5】星型ポリマーのUV/可視スペクトル示す図である。
【図6】星型ポリマーのGPCカーブを示す図である。
【図7】星型ポリマーのTGカーブを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有する星型ポリマーであって、
上記アーム部は、ポリヒドロキシカルボン酸構造単位を含み、
上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマー。
【請求項2】
上記アーム部が、一般式(1)で表されるポリマー鎖を含む、請求項1に記載の星型ポリマー。
【化1】

(上記式中、Rは水素原子又はアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素同素体であり、mは0〜8の整数であり、nは50〜2,000の整数である。)
【請求項3】
上記アーム部が、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)、ポリ(γ−ブチロラクトン)、又はポリラクチドである、請求項2に記載の星型ポリマー。
【請求項4】
上記中心核が、フラーレン又はグラファイトである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の星型ポリマー。
【請求項5】
が水素原子である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の星型ポリマー。
【請求項6】
が炭素同素体である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の星型ポリマー。
【請求項7】
がフラーレン又はグラファイトである、請求項6に記載の星型ポリマー。
【請求項8】
上記中心核と上記アーム部とが、エステル結合してなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の星型ポリマー。
【請求項9】
上記アーム部の重量平均分子量が5,000〜2000,000である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の星型ポリマー。
【請求項10】
中心核と、該中心核とエステル結合したポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有し、上記アーム部はポリヒドロキシカルボン酸単位を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーの製造方法であって、下記工程(a)及び(b)を含む製造方法。
(a)炭素同素体を水酸化する工程;
(b)工程(a)で得られた化合物と、開環重合することによってポリヒドロキシカルボン酸単位となり得る化合物とを開環重合させる工程。
【請求項11】
中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有し、上記アーム部は、一般式(2)で表されるポリマー鎖を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーの製造方法であって、下記工程(a)及び(c)を含む製造方法。
(a)炭素同素体を水酸化する工程;
(c)工程(a)で得られた化合物と、一般式(3)又は一般式(4)で表わされる化合物とを開環重合させる工程。
【化2】

(上記式中、Rは水素原子又はアルキル基であり、mは0〜8の整数であり、nは50〜2,000の整数である。)
【化3】

(上記式中、Rは水素原子又はアルキル基であり、mは0〜8の整数である。)
【化4】

(上記式中、Rは水素原子又はアルキル基であり、mは0〜8の整数である。)
【請求項12】
上記アーム部が、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)又はポリ(γ−ブチロラクトン)である、請求項11に記載の星型ポリマーの製造方法。
【請求項13】
上記炭素同素体が、フラーレン又はグラファイトである、請求項10〜12のいずれか1項に記載の星型ポリマーの製造方法。
【請求項14】
中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有し、上記アーム部は、一般式(5)で表されるポリマー鎖を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーの製造方法であって、下記工程(d)、(e)及び(f)を含む製造方法。
(d)中心核と、該中心核より伸びるポリマー鎖からなる少なくとも2個のアーム部とを有する星型ポリマーであって、上記アーム部は、一般式(2)で表されるポリマー鎖を含み、上記中心核が炭素同素体である、星型ポリマーの末端の水酸基をハロゲン化する工程;
(e)工程(d)で得られた化合物をアジド化する工程;
(f)工程(e)で得られた化合物をRで表わされる炭素同素体と反応させる工程。
【化5】

(上記式中、Rは水素原子又はアルキル基であり、Rは炭素同素体であり、mは0〜8の整数であり、nは50〜2,000の整数である。)
【化6】

(上記式中、Rは水素原子又はアルキル基であり、mは0〜8の整数であり、nは50〜2,000の整数である。)
【請求項15】
上記アーム部が、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)、ポリ(γ−ブチロラクトン)、又はポリラクチドである、請求項14に記載の星型ポリマーの製造方法。
【請求項16】
上記炭素同素体が、フラーレン又はグラファイトである、請求項14又は15に記載の星型ポリマーの製造方法。
【請求項17】
が、フラーレン又はグラファイトである、請求項14〜16のいずれか1項に記載の星型ポリマーの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−246598(P2007−246598A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69031(P2006−69031)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】