星形ポリカルボナート及びその製造方法
【課題】星形ポリカルボナート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物と、アルキレンオキシドと、二酸化炭素との反応生成物を含む星形ポリカルボナートであって、当該星形ポリカルボナートに含まれる各ポリカルボナート鎖の一つの末端が、多官能性化合物の官能基部分を介して多官能性化合物の残基と結合している、星形ポリカルボナート、及びその製造方法が提供される。
【解決手段】活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物と、アルキレンオキシドと、二酸化炭素との反応生成物を含む星形ポリカルボナートであって、当該星形ポリカルボナートに含まれる各ポリカルボナート鎖の一つの末端が、多官能性化合物の官能基部分を介して多官能性化合物の残基と結合している、星形ポリカルボナート、及びその製造方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレンオキシドと二酸化炭素との反応によって得られる星形ポリカルボナート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキレンオキシドと二酸化炭素との共重合によって得られる脂肪族ポリカルボナートは、二酸化炭素を合成樹脂の直接原料に利用する点で興味深い。また、脂肪族ポリカルボナートは、透明性を有しかつ所定温度以上に加熱すると完全に分解するため、一般成形物、フィルム、ファイバーなどの用途に使用できることに加えて、光ファイバー、光ディスクなどの光学材料、あるいはセラミックバインダー、ロストフォームキャスティングなどの熱分解性材料として利用することも可能である。さらに、脂肪族ポリカルボナートは、生体内で分解可能であるため、徐放性の薬剤カプセルなどの医用材料、生分解性樹脂の添加剤又は生分解性樹脂の主成分として応用できる。
【0003】
特許文献1には、コバルトポルフィリンクロリド錯体とピリジン系化合物又はイミダゾール系化合物との存在下で、脂肪族エポキシドと二酸化炭素とを反応させて得られた、脂肪族ポリカルボナートが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ポルフィリン系化合物が配位した金属錯体の存在下で、活性水素を有する連鎖移動剤を用いて、アルキレンオキシドと二酸化炭素の共重合体を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−241247号公報
【特許文献2】特開2008−81518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリマーの物性は、その分子構造によって大きく影響されることが知られている。特に、ポリマー鎖の一端が1つのコア単位に複数結合して、当該コア単位から複数のポリマー鎖が放射状に伸びている多分岐構造を有するポリマー(以下、星形ポリマーという)は、一般的な直鎖構造のポリマーと比較して特異な物性を有することが多い。そのため、そのような多分岐構造を有する星形ポリカルボナートは、例えば、密度、流体力学体積、粘弾性、ガラス転移温度Tg、熱分解開始温度Td、熱分解速度などの特性が、一般的なポリカルボナートとは異なることが期待される。
【0007】
以上の観点から、本発明は、星形ポリカルボナート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様は、活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物と、アルキレンオキシドと、二酸化炭素との反応生成物を含む星形ポリカルボナートであって、当該星形ポリカルボナートに含まれる各ポリカルボナート鎖の一つの末端が、多官能性化合物の官能基部分を介して多官能性化合物の残基と結合している、星形ポリカルボナートである。
【0009】
本発明の他の実施態様によれば、星形ポリカルボナートが、下記一般式(I):
【化1】
(式中、R1は、多官能性化合物のn価の残基であって、その残基の炭素数は1〜100、R2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族基、又は置換もしくは非置換の芳香族基であるか、あるいはR2とR3が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよく、kはそれぞれ独立して0又は1、lはそれぞれ独立して0又は1、但し各ポリカルボナート鎖についてk=1の場合l=0でありk=0の場合l=1、mはそれぞれ独立して1〜10000の整数、nは3以上の整数である)で表されるものであってよい。
【0010】
本発明の他の実施態様によれば、上記一般式(I)において、R1が、ペンタエリスリトール、1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,3,5−シクロヘキサントリオール、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラオール、1,3,5−アダマンタントリオール、1,3,5,7−アダマンタンテトラオール、単糖類、二糖類、クエン酸、イソクエン酸、cis−アコニット酸、trans−アコニット酸、リンゴ酸、オキサロコハク酸、アスコルビン酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,3,5−アダマンタントリカルボン酸、及び1,3,5,7−アダマンタンテトラカルボン酸、並びにこれらの誘導体からなる群から選択される多官能性化合物の残基であってよい。
【0011】
本発明の他の実施態様によれば、上記一般式(I)において、R2及びR3の両方が水素原子、R2及びR3のいずれか一方がメチル基で他方が水素原子、又はR2及びR3のいずれか一方がフェニル基で他方が水素原子であるか、あるいはR2とR3が−(CH2)4−を介して互いに結合してシクロヘキサン環を形成してもよい。
【0012】
本発明の他の実施態様によれば、上記一般式(I)において、R1がトリメシン酸又はピロメリット酸の残基であり、k=1かつl=0であってよい。
【0013】
本発明の他の実施態様によれば、上記一般式(I)において、nが4以上の整数であってよい。
【0014】
また、本発明の別の実施態様は、下記一般式(II)又は一般式(III):
【化2】
【化3】
(式中、R4はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子、nはそれぞれ独立して0〜5の整数、一般式(II)のM1は、Co又はMnを含む金属塩、一般式(III)のM2は、Niを含む金属塩である)で表されるポルフィリン系化合物が配位した金属錯体を用い、活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物の存在下で、アルキレンオキシドと二酸化炭素とを共重合させる、星形ポリカルボナートの製造方法である。
【0015】
本発明の他の実施態様によれば、多官能性化合物が、下記一般式(IV):
【化4】
(式中、R1は、多官能性化合物のn価の残基であって、その残基の炭素数は1〜100、kはそれぞれ独立して0又は1、nは3以上の整数である)で表されるものであってよい。
【0016】
本発明の他の実施態様によれば、アルキレンオキシドが、下記一般式(V):
【化5】
(式中、R2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族基、又は置換もしくは非置換の芳香族基であるか、あるいはR2とR3が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよい)で表されるものであってよい。
【0017】
本発明の他の実施態様によれば、金属錯体が、(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリドであってよい。
【0018】
本発明の他の実施態様によれば、上記方法は、ピリジン系化合物、イミダゾール系化合物及びホスフィン系化合物からなる群から選択されるルイス塩基の存在下で共重合を行うことができる。
【0019】
本発明の他の実施態様によれば、ピリジン系化合物が、下記一般式(VI):
【化6】
(式中、R5は、置換又は非置換の、メチル基、ホルミル基又はアミノ基から選択され、nは0〜5の整数)で表されるものであってよい。
【0020】
本発明の他の実施態様によれば、イミダゾール系化合物が、下記一般式(VII):
【化7】
(式中、R6は、置換又は非置換のアルキル基)で表されるものであってよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、多官能性化合物の残基がコア単位となり、3つ以上のポリカルボナート鎖がそのコア単位から放射状に伸びている多分岐構造を有するポリマー、すなわち星形ポリカルボナートを得ることができる。
【0022】
また、本発明によれば、多官能性化合物の官能基部分を重合開始点とし、そこからアルキレンオキシドと二酸化炭素の共重合によりポリカルボナート鎖を成長させることによって、多官能性化合物の残基をコア単位とし3つ以上のポリカルボナート鎖がそのコア単位から放射状に伸びている星形ポリカルボナートを製造することができる。
【0023】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】ピロメリット酸残基をコア単位とした、例1の星形ポリプロピレンカルボナートの1H−NMRスペクトルである。
【図1B】芳香族水素の化学シフト領域を部分的に拡大した、図1Aの1H−NMRスペクトルである。
【図2】トリメシン酸残基をコア単位とした、例2の星形ポリプロピレンカルボナートの1H−NMRスペクトルである。
【図3A】例1の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:90度光散乱)である。
【図3B】例1の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:UV)である。
【図3C】図3Aと図3Bのチャートを重ね合わせたチャートである。
【図4A】例2の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:90度光散乱)である。
【図4B】例2の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:UV)である。
【図4C】図4Aと図4Bのチャートを重ね合わせたチャートである。
【図5A】例1の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:RI)である。
【図5B】例1の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:UV)である。
【図5C】図5Aと図5Bのチャートを重ね合わせたチャートである。
【図6A】例2の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:RI)である。
【図6B】例2の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:UV)である。
【図6C】図6Aと図6Bのチャートを重ね合わせたチャートである。
【図7A】多官能性化合物を用いずに共重合したポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:RI)である。
【図7B】多官能性化合物を用いずに共重合したポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:UV)である。
【図7C】図7Aと図7Bのチャートを重ね合わせたチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0026】
本発明の星形ポリカルボナートは、活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物と、アルキレンオキシドと、二酸化炭素との反応生成物を含む。多官能性化合物の残基は、星形ポリカルボナートのコア単位を構成する。ここで「残基」とは、多官能性化合物から、上述の活性水素を有する官能基を除いた部分を指し、活性水素を有する官能基の数と同じ価数(例えば官能基数が3の場合は3価)を有する。アルキレンオキシドと二酸化炭素は共重合してポリカルボナート鎖を構成する。複数のポリカルボナート鎖の一つの末端は、多官能性化合物の官能基部分を介して多官能性化合物の残基すなわちコア単位と結合している。
【0027】
そのような星形ポリカルボナートの一実施態様として、下記一般式(I):
【化8】
で表されるものが挙げられる。
【0028】
R1は、多官能性化合物のn価の残基であって、星形ポリカルボナートのコア単位に相当する。残基の炭素数は一般に1〜約100であり、1〜約50であることが好ましい。そのようなR1として、以下に限られないが、例えば、ペンタエリスリトール、1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,3,5−シクロヘキサントリオール、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラオール、1,3,5−アダマンタントリオール、1,3,5,7−アダマンタンテトラオール、単糖類(例えばグルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノースなど)、二糖類(例えばマルトース、スクロースなど)、クエン酸、イソクエン酸、cis−アコニット酸、trans−アコニット酸、リンゴ酸、オキサロコハク酸、アスコルビン酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,3,5−アダマンタントリカルボン酸、及び1,3,5,7−アダマンタンテトラカルボン酸、並びにこれらの誘導体などの多官能性化合物の残基が挙げられる。
【0029】
k及びlは、多官能性化合物の、活性水素を有する官能基に由来する部分、及び当該官能基部分とポリカルボナート鎖との連結部分に関係している。kはそれぞれ独立して0又は1、lはそれぞれ独立して0又は1であり、各ポリカルボナート鎖についてk=1の場合l=0でありk=0の場合l=1である。k=0の場合、多官能性化合物の活性水素を有する官能基が水酸基であったことを意味し、その水酸基にはポリカルボナートのうち二酸化炭素に由来する単位が結合しているため、l=1となる。一方、k=1の場合、多官能性化合物の活性水素を有する官能基がカルボキシル基であったことを意味し、そのカルボキシル基にはポリカルボナートのうちアルキレンオキシドに由来する単位が結合しているため、l=0となる。
【0030】
上記一般式(I)において、R1がトリメシン酸又はピロメリット酸の残基であり、k=1かつl=0であることが好ましい。
【0031】
R2及びR3はアルキレンオキシドに由来する置換基であって、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族基、又は置換もしくは非置換の芳香族基であるか、あるいはR2とR3が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよい。
【0032】
R2及びR3の脂肪族基としては、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状の置換又は非置換のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、iso−ペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、1−メチル−1−エチル−n−ペンチル基、1,1,2−トリメチル−n−プロピル基、1,2,2−トリメチル−n−プロピル基、3,3−ジメチル−n−ブチル基、n−ヘプチル基、2−ヘプチル基、1−エチル−1,2−ジメチル−n−プロピル基、1−エチル−2,2−ジメチル−n−プロピル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基などが挙げられ、より好ましくはメチル基である。脂肪族基は、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルファニル基、シアノ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子、芳香族基などから選択される1又は複数の置換基で置換されていてもよい。
【0033】
R2及びR3の置換又は非置換の芳香族基としては、炭素数6〜10の置換又は非置換の芳香族基が好ましく、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基などの置換又は非置換の芳香族基が挙げられ、より好ましくはフェニル基である。芳香族基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基、フェニル基、ナフチル基などの芳香族基などから選択される1又は複数の置換基で置換されていてもよい。
【0034】
R2とR3は、互いに結合して置換又は非置換の環を形成してもよく、炭素数4〜10の置換又は非置換の脂肪族環を形成することが好ましい。例えば、R2とR3が−(CH2)4−を介して互いに結合した場合、シクロヘキサン環を形成する。このように形成された環は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基、フェニル基、ナフチル基などの芳香族基などから選択される1又は複数の置換基で置換されていてもよい。
【0035】
R2及び/又はR3の水素原子の一部又は全部をフッ素原子に置換することもできる。例えば、R2及び/又はR3がアルキル基の場合、ペルフルオロアルキル基を含む、任意の位置が1又は複数のフッ素原子で置換されたフルオロアルキル基とすることもできる。そのようなフルオロアルキル基として、例えば、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、ペルフルオロエチル基などが挙げられる。
【0036】
特に、R2及びR3の両方が水素原子、R2及びR3のいずれか一方がメチル基で他方が水素原子、又はR2及びR3のいずれか一方がフェニル基で他方が水素原子であるか、あるいはR2とR3が−(CH2)4−を介して互いに結合してシクロヘキサン環を形成することが好ましい。
【0037】
mはポリカルボナート鎖の重合度を表し、各カルボナート鎖について、それぞれ独立して、一般に1〜約10000の整数である。nは、星形ポリカルボナートのポリカルボナート鎖の数を表し、多官能性化合物の活性水素を有する官能基の数に対応する。nは3以上の整数であり、4以上の整数であることが好ましい。
【0038】
本発明の星形ポリカルボナートは、従来知られている脂肪族ポリカルボナートの製造方法に用いられる触媒を用いて合成できる。そのような触媒として、例えば、亜鉛錯体(G. W. Coates, et al., J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 14284-14285)、アルミニウム錯体(W. Kuran, et al., J. Macromol. Sci., Pure Appl. Chem., A35, 427-437 (1998))、ポルフィリン錯体(特開2006−241247号明細書)又はサレン錯体(G. W. Coates, et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 5484-5487)が挙げられる。これらの中で、ポルフィリン系化合物が配位した金属錯体が有利に使用できるため、そのような金属錯体を用いた製造方法を一例として以下詳細に説明する。
【0039】
本発明の一実施態様における星形ポリカルボナートの製造方法は、下記一般式(II)又は一般式(III):
【化9】
【化10】
で表されるポルフィリン系化合物が配位した金属錯体を用い、活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物の存在下で、アルキレンオキシドと二酸化炭素とを共重合させることを含む。
【0040】
R4は、フェニル環上の置換基を表し、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子である。一般式(III)におけるR4は、メチル基であることが好ましい。
【0041】
一般式(II)におけるM1は、コバルト(Co)又はマンガン(Mn)を含む金属塩を表し、Co(III)−Cl又はMn(III)−OC(=O)CH3であることが好ましく、Co(III)−Clであることがより好ましい(括弧内の数字は価数を表す。)。
【0042】
一般式(III)におけるM2は、ニッケル(Ni)を含む金属塩を表し、Ni(II)−Cl、Ni(II)−OC(=O)CH3であることが好ましく、Ni(II)−Clであることがより好ましい(括弧内の数字は価数を表す。)。
【0043】
一般式(II)及び(III)におけるnはそれぞれ独立して0〜5の整数を表し、nが1の場合、Rの置換位置はパラ位であることが好ましい。また、一般式(II)におけるnは0であること、すなわちフェニル環が非置換であることが好ましい。
【0044】
共重合反応速度が速く、交互共重合比率が高くかつ狭い分子量分布を有するポリカルボナートが得られることから、一般式(II)において、n=0、M1がCo(III)−Clである金属錯体すなわち(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリド[(TPP)CoCl]、又は一般式(III)において、n=1であってR4がメチル基、かつそのメチル基の置換位置がパラ位であり、M2がNi(II)−Clである金属錯体が好ましく、(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリド[(TPP)CoCl]がより好ましい。
【0045】
アルキレンオキシドが、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドの場合は、一般式(II)で表される金属錯体、特に(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリド[(TPP)CoCl]を用いることが望ましい。
【0046】
例えば超臨界二酸化炭素に対する溶解性が要求される場合、一般式(II)又は(III)においてnが2以上の多置換ポルフィリン系化合物の金属錯体を使用することができる。R4は、それぞれ異なる置換基であっても同じ置換基であってもよいが、製造がより容易であることから同じ置換基であることが好ましい。
【0047】
nが2のときは、R4の置換位置はメタ位であることが好ましく、R4がtert−ブチル基であることが好ましい。nが3のときは、R4の置換位置はオルト位及びパラ位であることが好ましく、R4がメトキシ基、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子であることが好ましい。nが5の全置換であってもよく、このときのR4は、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子であることが好ましい。
【0048】
また、本発明の一般式(II)又は(III)で表される金属錯体は、不溶性ポリスチレンビーズ、シリカゲルなどの有機又は無機高分子、ガラス、マイカ、金属などで形成される粒子などの担持体に、炭化水素鎖、ポリエーテル鎖、ポリエステル鎖、ポリアミド鎖、ポリシリルエーテル鎖などのリンカーを介して、固定化されていてもよい。金属錯体とリンカーの結合、及びリンカーと担持体の結合は、例えばアルキレン基、エーテル基、エステル基、アミド基、カルバメート基、シリルエーテル基などを介して行うことができる。
【0049】
使用する金属錯体の量は、反応させるアルキレンオキシド全量に対して、一般に0.05モル%〜1モル%であり、0.1モル%〜0.5モル%であることが好ましい。
【0050】
多官能性化合物は、活性水素を有する官能基を3つ以上有する。このような多官能性化合物が共重合中に存在すると、共重合中に生成したポリカルボナートの末端に結合した金属錯体と多官能性化合物の活性水素とが交換して、末端が水酸基のポリカルボナートを生成すると同時に、多官能性化合物のうち活性水素を除いた部分が金属錯体に配位する。このような金属錯体も共重合活性を有するため、多官能性化合物の官能基部分が重合開始点となり、そこからアルキレンオキシドと二酸化炭素の共重合によりポリカルボナート鎖が成長する。その結果、多官能性化合物の残基とポリカルボナート鎖とが多官能性化合物の官能基部分で結合された、星形ポリカルボナートが生成する。このような活性水素を有する官能基として、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、アミノ基などが挙げられ、水酸基及びカルボキシル基が好ましい。活性水素を有する官能基は、多官能性化合物の1分子内で同じであってもよく、異なっていてもよい。異なる種類の官能基を1分子内に有する多官能性化合物として、例えば、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸などが挙げられる。アルキレンオキシドと二酸化炭素の共重合に溶媒を使用する場合、多官能性化合物がその溶媒に対して溶解性を示すことが好ましい。
【0051】
そのような多官能性化合物として、下記一般式(IV):
【化11】
で表されるものが挙げられる。
【0052】
R1、k、nは、一般式(I)の星形ポリカルボナートについて上述したとおりである。
【0053】
一般式(IV)で表される多官能性化合物として、以下に限られないが、例えば、ペンタエリスリトール、1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,3,5−シクロヘキサントリオール、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラオール、1,3,5−アダマンタントリオール、1,3,5,7−アダマンタンテトラオール、単糖類(例えばグルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノースなど)、二糖類(例えばマルトース、スクロースなど)、クエン酸、イソクエン酸、cis−アコニット酸、trans−アコニット酸、リンゴ酸、オキサロコハク酸、アスコルビン酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,3,5−アダマンタントリカルボン酸、及び1,3,5,7−アダマンタンテトラカルボン酸、並びにこれらの誘導体などが挙げられる。これらの中でも、トリメシン酸又はピロメリット酸が好ましい。
【0054】
多官能性化合物は、1モルの金属錯体に対して1モル以上の活性水素が存在するように用いることが一般的であり、好ましくは、5モル以上、10モル以上、又は20モル以上の活性水素が存在するように用いられる。
【0055】
アルキレンオキシドとして、置換又は非置換の直鎖又は環状のアルキレンオキシドが使用できるが、これらに限られない。そのようなアルキレンオキシドとして、下記一般式(V)で表される化合物又はこれらの複数の組み合わせが挙げられる。置換基R2及びR3については、一般式(I)の星形ポリカルボナートについて上述したとおりである。
【0056】
【化12】
【0057】
特に、式(V)の化合物として、R2及びR3の両方が水素原子であるエチレンオキシド、R2及びR3のいずれか一方がメチル基で他方が水素原子であるプロピレンオキシド、又はR2及びR3のいずれか一方がフェニル基で他方が水素原子であるスチレンオキシド、並びにR2及びR3が−(CH2)4−を介して互いに結合してシクロヘキサン環を形成しているシクロヘキセンオキシドが好ましい。
【0058】
本発明の方法では、ルイス塩基の存在下で上述のような金属錯体を用いて共重合を行ってもよい。いかなる理論に拘束される訳ではないが、金属錯体の金属部分にルイス塩基が配位し、触媒としての機能をより高めていると考えられている。そのようなルイス塩基は、金属錯体の金属部分に配位しやすいよう、電子共有性の高い構造を有し、且つ不対電子を有する化合物であって、例えば、ピリジン系化合物、イミダゾール系化合物、ホスフィン系化合物などが挙げられる。
【0059】
ピリジン系化合物として、下記一般式(VI)で表される化合物が使用できる。
【0060】
【化13】
【0061】
R5は、ピリジン環上の1又は複数の位置に導入されうる置換基であって、置換又は非置換の、メチル基、ホルミル基又はアミノ基から選択され、メチル基、ホルミル基又はジメチルアミノ基であることが好ましく、ジメチルアミノ基であることがさらに好ましい。上記式(VI)において置換数を表すnは0〜5の整数であり、0又は1であることが好ましい。nが2以上の場合、複数のR5は、それぞれ異なる置換基であっても、同じ置換基であってもよい。R5の置換位置は、ピリジン環の3位又は4位であることが好ましく、4位であることがさらに好ましい。
【0062】
このようなピリジン系化合物として、一般に、ピリジン、4−メチルピリジン、4−ホルミルピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンなどが挙げられ、ピリジン、4−メチルピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンが好ましく、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンがより好ましい。
【0063】
イミダゾール系化合物として、下記一般式(VII)で表される化合物が使用できる。
【0064】
【化14】
【0065】
R6は、置換又は非置換のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基などである。そのようなイミダゾール化合物として、N−メチルイミダゾール、N−エチルイミダゾール、N−プロピルイミダゾールなどが挙げられ、N−メチルイミダゾールが好ましい。
【0066】
一般式(II)の金属錯体を使用する場合、ピリジン系化合物又はイミダゾール系化合物を使用することが好ましく、一般式(III)の金属錯体を使用する場合、ホスフィン系化合物例えばトリフェニルホスフィンを使用することが好ましい。
【0067】
ルイス塩基は、金属錯体1モルに対して、0.1〜5モル用いることが一般的である。5モルを超えると、反応速度が遅くなり、収率が低下して環状カルボナート(アルキレンオキシド1分子と二酸化炭素1分子が反応して環化した化合物)が生成しやすくなる。一方、0.1モルより低いと、反応速度が遅くなり、二酸化炭素が取り込まれず、アルキレンオキシドのみが反応したポリエーテルが生成しやすくなる。ピリジン系化合物を使用する場合、金属錯体1モルに対してピリジン系化合物が0.3〜5モルであるのが好ましく、0.3〜2モルであることがより好ましく、0.3〜1モルであることがさらに好ましい。イミダゾール系化合物を使用する場合、金属錯体1モルに対してイミダゾール系化合物が0.3〜1モルであるのが好ましく、0.4〜0.6モルであることがより好ましい。
【0068】
共重合時の全圧は、一般に0.1〜30MPaであり、2〜26MPaが好ましい。二酸化炭素分圧は、0.1〜25MPaであることが好ましく、2〜25MPaがより好ましい。二酸化炭素分圧は、二酸化炭素のみを充填して調整してもよいし、窒素との共存下で二酸化炭素分圧が上記範囲内となるように調整してもよい。二酸化炭素と窒素とを共存させる場合、窒素を1気圧とし、残りが二酸化炭素圧となるように調整することが好ましい。
【0069】
二酸化炭素は7.38MPa以上の臨界圧力下では超臨界状態となることが知られており、このような超臨界状態で共重合を行ってもよい。超臨界状態で共重合を行うと、後述の溶媒を使用しなくてもよい場合がある。溶媒を使用せずに共重合を行うと、溶媒の除去工程を省略でき、また不要な溶媒が共重合体中に残存しないという利点がある。
【0070】
アルキレンオキシドと二酸化炭素との共重合は、無溶媒で行ってもよく、溶媒中で行ってもよい。溶媒を使用する場合、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミドなどのアミド、テトラヒドロフランなどのエーテル、及びそれらの組み合わせを用いることができ、ジクロロメタン、トルエン、ジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフランが好ましく、ジクロロメタン及びテトラヒドロフランがより好ましい。溶媒を用いて反応を行う場合は、アルキレンオキシド1体積部に対して、溶媒は9体積部以下であることが好ましく、3体積部以下であることがより好ましい。
【0071】
本発明の方法に用いる金属錯体、多官能性化合物、アルキレンオキシド、ルイス塩基、及び必要に応じて使用される溶媒について、反応容器に添加する順序に特に制限はないが、溶媒を用いる場合は、その溶媒に錯体を予め溶解した溶液を調製しておくことが好ましい。
【0072】
反応温度は、一般に100℃以下とすることができ、室温〜80℃であることが好ましい。アルキレンオキシドとしてエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを用いる場合、反応温度は20〜60℃であることが好ましく、25〜50℃であることがより好ましい。アルキレンオキシドとしてシクロヘキセンオキシドを用いる場合、反応温度は特に80℃前後であることが好ましい。
【0073】
所望量のアルキレンオキシドが反応したら、メタノール、塩酸/メタノール混合物などを反応停止剤として反応混合物に投入し、必要に応じて昇温及び/又は攪拌して、反応を終了することができる。このとき、反応停止剤によってポリカルボナート鎖の開放末端は水酸基に変換される。反応終了後、ポリマー中に取り込まれた金属錯体は、錯体及びポリマーの溶解液から一方のみを析出させる方法、又は錯体及びポリマーの固体状混合物から一方のみを抽出する方法によって除去することができる。具体的には、錯体を溶解可能であるがポリマーに対しては貧溶媒である溶媒、ポリマーを溶解可能であるが錯体に対しては貧溶媒である溶媒、あるいは錯体の塩基性部位と反応して塩を形成可能な酸性物質などを用いて、錯体をポリマーと分離することが可能である。例えば、貧溶媒としてメタノール、ヘキサンなどを用いてポリマーを再沈殿してもよく、ソックスレー抽出器を利用して固体状混合物から錯体を抽出してもよい。また、カラムクロマトグラフィーなどの周知の手段を用いて、ポリマーをさらに精製してもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
コバルトポルフィリンクロリド錯体の合成
本実施例で使用したコバルトポルフィリンクロリド錯体[(TPP)CoCl]は以下のように合成した。
【0076】
2Lの二口ナスフラスコにプロピオン酸(2L)を入れて還流させた。加熱を停止してから、これにベンズアルデヒド(60mL、0.6mol)及びピロール(40mL、0.6moL)を加え、反応溶液が室温になるまで撹拌して一晩放置した。その後、吸引濾過し、得られた紫色固体を温水とメタノールで繰り返し洗浄した。この紫色固体をクロロホルム(800mL)/メタノール(1200mL)にて再結晶することにより、針状紫色結晶(テトラフェニルポルフィリン、TPPH2)(収量8.6g、収率9.6%)を得た。
【0077】
次に、2000mLの二口ナスフラスコに酢酸(1500mL)を入れて還流させた。これにTPPH2(2.4mmol、1.5g)、塩化コバルト(11.9mmol、2.85g)及び酢酸ナトリウム(2.0g)を加え、120℃で5分間還流した後、室温まで戻して一晩放置した。その後、吸引濾過し、濾物を水、重曹水、水の順で繰り返し洗浄して乾燥することにより、赤色固体(テトラフェニルポルフィナトコバルト、TPPCo)(収量1.13g、収率69%)を得た。
【0078】
1000mLの一口ナスフラスコに、TPPCo(1.0g、1.46mmol)、メタノール(1000mL)及び塩酸(10mL)を入れて室温で一晩撹拌した。これを減圧留去し、クロロホルム/ヘキサンで再結晶した後、乾燥することにより、紫色固体の(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリド錯体[(TPP)CoCl](収量0.98g、収率93%)を得た。メタノール中のUV−visスペクトルはそれぞれ文献値とよい一致を示した。
【0079】
【表1】
【0080】
評価装置及び方法
1H−NMR測定は、Bruker DPX−400 分光測定装置において、溶媒としてCDCl3、内部標準としてテトラメチルシラン(δ=0.00ppm)を用いて27℃で行った。IR測定は、Horiba FT−210 分光測定装置を用い、液膜法で行った。GPC測定は、Viscotek社製90度光散乱検出器(外付け)、示差屈折率検出器及び波長可変UV−可視光検出器(ともに内蔵)を備えた、東ソー 8020 高速液体クロマトグラフにおいて、溶出剤としてTHF、及び標準ポリスチレン(TSK標準ポリスチレン、東ソー)で作成した校正曲線を用い、40℃、流量0.8mL/分で行った。DSC測定は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 DSC7020において、窒素下、測定温度範囲−30℃〜160℃、昇温速度10℃/分で行った。TG−TDA測定は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 TG/DTA6200において、窒素下、測定範囲25℃〜450℃、昇温速度20℃/分で行った。
【0081】
例1
カルボキシル基を4個有するピロメリット酸の残基をコア単位とする星形ポリカルボナートを以下のようにして合成した。
【0082】
マグネチックスターラーを入れ、内部を窒素パージしたオートクレーブに、(TPP)CoCl50μmol(35.3mg)、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP、Sigma−Aldrichより入手)37.5μmol(4.6mg)、ピロメリット酸500μmol(109mg)を入れ、そこへ溶媒としてジクロロメタン3.5mLを加えた後、プロピレンオキシド(PO)300mmol(17.4g)を入れた。圧力をかけて二酸化炭素を注入し、全圧が50気圧(5.07MPa)(二酸化炭素300mmol相当)となるように調整した。このとき、TPPCoCl:DMAP:ピロメリット酸:PO=1:0.75:10:6000(モル比)であった。この混合物を40℃にして12日間反応を行った後、反応混合物を室温まで冷却した。次に、過剰の二酸化炭素を解放し、少量のメタノールを加えて反応を停止させた後、この反応混合物をサンプリングして1H−NMR及びIRにより分析した。1H−NMRスペクトルからPOの反応転化率は77%であった。IRスペクトルでは、ポリカルボナート由来のC=O伸縮振動による吸収が見られたが、環状カルボナート由来のC=O伸縮振動による吸収はほとんどなかった。
【0083】
次に、反応混合物をオートクレーブから取り出してクロロホルム/メタノールから再沈殿した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(酢酸エチル:ヘキサン=1:1で錯体分離)し、減圧乾燥した後に、5.14gの生成物を得た。
【0084】
得られた生成物について、1H−NMR、IR、DSC、TG−TDAを測定した結果を以下に示す。また、図1A及び図1Bにそれぞれ、1H−NMRスペクトル及びその部分拡大図を示す。1H−NMRから、ポリプロピレンカルボナート鎖と、ピロメリット酸残基の芳香環が生成物中に存在することが分かる。また、カルボナート結合の割合を、カルボナート結合に隣接するメチン水素由来のシグナルとエーテル結合に由来するメチン水素由来のシグナルとの強度比から計算し、上述のIRスペクトルの結果と合わせると、ポリカルボナート(PC):ポリエーテル(PE):環状カルボナート(CC)=99:0:1(モル比)であった。
1H−NMR:δH(400MHz,CDCl3)8.06(Ar−H)、5.00(1H,s,CH)、4.10−4.30(2H,m,CH2)、1.33−1.34(3H,m,CH3)
IR(液膜法):1747cm-1(C=O)
DSC:Tg=30.6℃
TG−DTA:Td=237.7℃
【0085】
3種類の検出器(90度光散乱(LS)、UV、RI)によって作成された、GPCチャートを図3A〜図3C及び図5A〜図5Cに示す。図3Aのチャート(90度光散乱)のプロットでは頂部が部分的に2つに分かれたピークが観察される。図3Bのチャート(UV)のピークは、星形ポリプロピレンカルボナートに含まれるピロメリット酸残基の芳香環に由来する。図3Aと図3Bを重ね合わせたのが図3Cのチャートであり、このチャートは、図3Aにおいて頂部が部分的に2つに分かれたピークのうち、高分子量側のピークが星形ポリプロピレンカルボナートに相当し、このピークに含まれるポリマーがピロメリット酸のカルボキシル基から成長したことを示している。図3Aの低分子量側のピークは系中で同時に生成した直鎖状のポリプロピレンカルボナートであると考えられる。図5A(RI)、図5B(UV)、図5C(図5Aと図5Bの重ね合わせ)のチャートからも、ピロメリット酸残基の芳香環をコア単位として含む、より高分子量の星形ポリカルボナートが、直鎖状のポリプロピレンカルボナートとは別に生成していることが分かる。
【0086】
図5Bのチャートから計算した、星形ポリプロピレンカルボナートの数平均分子量Mn(UV)は11,000、重量平均分子量Mw(UV)は17,000であり、Mw/Mn=1.49であった。一方、図3Aのチャートの2本の基準線(縦線)で挟まれた領域で求めた星形ポリプロピレンカルボナートのMn(LS)は94,000、Mw(LS)は96,000であり、Mw/Mn=1.04であった。いかなる理論に拘束される訳ではないが、このように検出法によってMn及びMwの値にずれが生じるのは、星形ポリマーは同等の分子量を有する直鎖状ポリマーと比べて溶液中での体積が小さいため、その分子量が標準ポリスチレンを基準とした場合には過小評価されうるのに対して、LS検出器を用いた場合には絶対分子量測定に近い条件でポリマーの分子量が評価可能であることに起因すると考えられる。このことは、得られた星形ポリプロピレンカルボナートの分子形状が、少なくともGPC媒体中では、直鎖状のポリプロピレンカルボナートとは大きく異なった状態にあることを示唆している。
【0087】
例2
カルボキシル基を3個有するトリメシン酸500μmol(96mg)をピロメリット酸の代わりに用いた他は、例1と同様にPOと二酸化炭素の共重合を行って、トリメシン酸残基をコア単位とする星形ポリプロピレンカルボナートを合成した。このとき、TPPCoCl:DMAP:トリメシン酸:PO=1:0.75:10:6000(モル比)であった。1H−NMRスペクトルからPOの反応転化率は61%であった。IRスペクトルでは、ポリカルボナート由来のC=O伸縮振動による吸収が見られたが、環状カルボナート由来のC=O伸縮振動による吸収はほとんどなかった。
【0088】
次に、例1と同様に精製して3.2gの生成物を得た。得られた生成物について、1H−NMR、IR、DSC、TG−TDAを測定した結果を以下に示す。また、図2に1H−NMRスペクトルを示す。1H−NMRから、ポリプロピレンカルボナート鎖と、トリメシン酸残基の芳香環が生成物中に存在することが分かる。また、カルボナート結合の割合を、カルボナート結合に隣接するメチン水素由来のシグナルとエーテル結合に由来するメチン水素由来のシグナルとの強度比から計算し、上述のIRスペクトルの結果と合わせると、ポリカルボナート(PC):ポリエーテル(PE):環状カルボナート(CC)=99:0:1(モル比)であった。
1H−NMR:δH(400MHz,CDCl3)8.82(Ar−H)、5.00(1H,s,CH)、4.10−4.30(2H,m,CH2)、1.33−1.34(3H,m,CH3)
IR(液膜法):1747cm-1(C=O)
DSC:Tg=26.6℃
TG−DTA:Td=232.8℃
【0089】
3種類の検出器(90度光散乱(LS)、UV、RI)によって作成された、GPCチャートを図4A〜図4C及び図6A〜図6Cに示す。図4Aのチャート(90度光散乱)のピークは、図4Bのチャート(UV)のピーク(星形ポリプロピレンカルボナートに含まれるトリメシン酸残基の芳香環に由来する)よりブロードである。図4Aと図4Bを重ね合わせたのが図4Cのチャートであり、このチャートは、図4Aのブロードピークのうち、高分子量側の部分が星形ポリプロピレンカルボナートに相当し、この部分に含まれるポリマーがトリメシン酸のカルボキシル基から成長したことを示している。図4Aのブロードピークのうち、低分子量側の部分は系中で同時に生成した直鎖状のポリプロピレンカルボナートであると考えられる。図6A(RI)、図6B(UV)、図6C(図6Aと図6Bの重ね合わせ)のチャートからも、トリメシン酸残基の芳香環をコア単位として含む、より高分子量の星形ポリカルボナートが、直鎖状のポリプロピレンカルボナートとは別に生成していることが分かる。
【0090】
図6Bのチャートから計算した、星形ポリプロピレンカルボナートの数平均分子量Mn(UV)は12,000、重量平均分子量Mw(UV)は16,000であり、Mw/Mn=1.34であった。一方、図4Aのチャートの2本の基準線(縦線)で挟まれた領域で求めた星形ポリプロピレンカルボナートMn(LS)は22,000、Mw(LS)は23,000であり、Mw/Mn=1.04であった。
【0091】
図7A〜7Cは、多官能性化合物を用いずに共重合して得られた、直鎖状ポリプロピレンカルボナートのGPCチャートである。図7Aのチャート(RI)では分子量の異なるポリプロピレンカルボナートに相当する二峰性のピークが見られるが、図7B(UV)ではポリマーに相当するピークが見られない。このように、UV検出器を組み合わせてGPC測定を行うことは、芳香環を含むコア単位を有する星形ポリカルボナートの検出に有効である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレンオキシドと二酸化炭素との反応によって得られる星形ポリカルボナート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキレンオキシドと二酸化炭素との共重合によって得られる脂肪族ポリカルボナートは、二酸化炭素を合成樹脂の直接原料に利用する点で興味深い。また、脂肪族ポリカルボナートは、透明性を有しかつ所定温度以上に加熱すると完全に分解するため、一般成形物、フィルム、ファイバーなどの用途に使用できることに加えて、光ファイバー、光ディスクなどの光学材料、あるいはセラミックバインダー、ロストフォームキャスティングなどの熱分解性材料として利用することも可能である。さらに、脂肪族ポリカルボナートは、生体内で分解可能であるため、徐放性の薬剤カプセルなどの医用材料、生分解性樹脂の添加剤又は生分解性樹脂の主成分として応用できる。
【0003】
特許文献1には、コバルトポルフィリンクロリド錯体とピリジン系化合物又はイミダゾール系化合物との存在下で、脂肪族エポキシドと二酸化炭素とを反応させて得られた、脂肪族ポリカルボナートが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ポルフィリン系化合物が配位した金属錯体の存在下で、活性水素を有する連鎖移動剤を用いて、アルキレンオキシドと二酸化炭素の共重合体を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−241247号公報
【特許文献2】特開2008−81518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリマーの物性は、その分子構造によって大きく影響されることが知られている。特に、ポリマー鎖の一端が1つのコア単位に複数結合して、当該コア単位から複数のポリマー鎖が放射状に伸びている多分岐構造を有するポリマー(以下、星形ポリマーという)は、一般的な直鎖構造のポリマーと比較して特異な物性を有することが多い。そのため、そのような多分岐構造を有する星形ポリカルボナートは、例えば、密度、流体力学体積、粘弾性、ガラス転移温度Tg、熱分解開始温度Td、熱分解速度などの特性が、一般的なポリカルボナートとは異なることが期待される。
【0007】
以上の観点から、本発明は、星形ポリカルボナート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様は、活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物と、アルキレンオキシドと、二酸化炭素との反応生成物を含む星形ポリカルボナートであって、当該星形ポリカルボナートに含まれる各ポリカルボナート鎖の一つの末端が、多官能性化合物の官能基部分を介して多官能性化合物の残基と結合している、星形ポリカルボナートである。
【0009】
本発明の他の実施態様によれば、星形ポリカルボナートが、下記一般式(I):
【化1】
(式中、R1は、多官能性化合物のn価の残基であって、その残基の炭素数は1〜100、R2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族基、又は置換もしくは非置換の芳香族基であるか、あるいはR2とR3が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよく、kはそれぞれ独立して0又は1、lはそれぞれ独立して0又は1、但し各ポリカルボナート鎖についてk=1の場合l=0でありk=0の場合l=1、mはそれぞれ独立して1〜10000の整数、nは3以上の整数である)で表されるものであってよい。
【0010】
本発明の他の実施態様によれば、上記一般式(I)において、R1が、ペンタエリスリトール、1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,3,5−シクロヘキサントリオール、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラオール、1,3,5−アダマンタントリオール、1,3,5,7−アダマンタンテトラオール、単糖類、二糖類、クエン酸、イソクエン酸、cis−アコニット酸、trans−アコニット酸、リンゴ酸、オキサロコハク酸、アスコルビン酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,3,5−アダマンタントリカルボン酸、及び1,3,5,7−アダマンタンテトラカルボン酸、並びにこれらの誘導体からなる群から選択される多官能性化合物の残基であってよい。
【0011】
本発明の他の実施態様によれば、上記一般式(I)において、R2及びR3の両方が水素原子、R2及びR3のいずれか一方がメチル基で他方が水素原子、又はR2及びR3のいずれか一方がフェニル基で他方が水素原子であるか、あるいはR2とR3が−(CH2)4−を介して互いに結合してシクロヘキサン環を形成してもよい。
【0012】
本発明の他の実施態様によれば、上記一般式(I)において、R1がトリメシン酸又はピロメリット酸の残基であり、k=1かつl=0であってよい。
【0013】
本発明の他の実施態様によれば、上記一般式(I)において、nが4以上の整数であってよい。
【0014】
また、本発明の別の実施態様は、下記一般式(II)又は一般式(III):
【化2】
【化3】
(式中、R4はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子、nはそれぞれ独立して0〜5の整数、一般式(II)のM1は、Co又はMnを含む金属塩、一般式(III)のM2は、Niを含む金属塩である)で表されるポルフィリン系化合物が配位した金属錯体を用い、活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物の存在下で、アルキレンオキシドと二酸化炭素とを共重合させる、星形ポリカルボナートの製造方法である。
【0015】
本発明の他の実施態様によれば、多官能性化合物が、下記一般式(IV):
【化4】
(式中、R1は、多官能性化合物のn価の残基であって、その残基の炭素数は1〜100、kはそれぞれ独立して0又は1、nは3以上の整数である)で表されるものであってよい。
【0016】
本発明の他の実施態様によれば、アルキレンオキシドが、下記一般式(V):
【化5】
(式中、R2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族基、又は置換もしくは非置換の芳香族基であるか、あるいはR2とR3が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよい)で表されるものであってよい。
【0017】
本発明の他の実施態様によれば、金属錯体が、(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリドであってよい。
【0018】
本発明の他の実施態様によれば、上記方法は、ピリジン系化合物、イミダゾール系化合物及びホスフィン系化合物からなる群から選択されるルイス塩基の存在下で共重合を行うことができる。
【0019】
本発明の他の実施態様によれば、ピリジン系化合物が、下記一般式(VI):
【化6】
(式中、R5は、置換又は非置換の、メチル基、ホルミル基又はアミノ基から選択され、nは0〜5の整数)で表されるものであってよい。
【0020】
本発明の他の実施態様によれば、イミダゾール系化合物が、下記一般式(VII):
【化7】
(式中、R6は、置換又は非置換のアルキル基)で表されるものであってよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、多官能性化合物の残基がコア単位となり、3つ以上のポリカルボナート鎖がそのコア単位から放射状に伸びている多分岐構造を有するポリマー、すなわち星形ポリカルボナートを得ることができる。
【0022】
また、本発明によれば、多官能性化合物の官能基部分を重合開始点とし、そこからアルキレンオキシドと二酸化炭素の共重合によりポリカルボナート鎖を成長させることによって、多官能性化合物の残基をコア単位とし3つ以上のポリカルボナート鎖がそのコア単位から放射状に伸びている星形ポリカルボナートを製造することができる。
【0023】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】ピロメリット酸残基をコア単位とした、例1の星形ポリプロピレンカルボナートの1H−NMRスペクトルである。
【図1B】芳香族水素の化学シフト領域を部分的に拡大した、図1Aの1H−NMRスペクトルである。
【図2】トリメシン酸残基をコア単位とした、例2の星形ポリプロピレンカルボナートの1H−NMRスペクトルである。
【図3A】例1の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:90度光散乱)である。
【図3B】例1の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:UV)である。
【図3C】図3Aと図3Bのチャートを重ね合わせたチャートである。
【図4A】例2の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:90度光散乱)である。
【図4B】例2の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:UV)である。
【図4C】図4Aと図4Bのチャートを重ね合わせたチャートである。
【図5A】例1の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:RI)である。
【図5B】例1の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:UV)である。
【図5C】図5Aと図5Bのチャートを重ね合わせたチャートである。
【図6A】例2の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:RI)である。
【図6B】例2の星形ポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:UV)である。
【図6C】図6Aと図6Bのチャートを重ね合わせたチャートである。
【図7A】多官能性化合物を用いずに共重合したポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:RI)である。
【図7B】多官能性化合物を用いずに共重合したポリプロピレンカルボナートのGPCチャート(検出法:UV)である。
【図7C】図7Aと図7Bのチャートを重ね合わせたチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0026】
本発明の星形ポリカルボナートは、活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物と、アルキレンオキシドと、二酸化炭素との反応生成物を含む。多官能性化合物の残基は、星形ポリカルボナートのコア単位を構成する。ここで「残基」とは、多官能性化合物から、上述の活性水素を有する官能基を除いた部分を指し、活性水素を有する官能基の数と同じ価数(例えば官能基数が3の場合は3価)を有する。アルキレンオキシドと二酸化炭素は共重合してポリカルボナート鎖を構成する。複数のポリカルボナート鎖の一つの末端は、多官能性化合物の官能基部分を介して多官能性化合物の残基すなわちコア単位と結合している。
【0027】
そのような星形ポリカルボナートの一実施態様として、下記一般式(I):
【化8】
で表されるものが挙げられる。
【0028】
R1は、多官能性化合物のn価の残基であって、星形ポリカルボナートのコア単位に相当する。残基の炭素数は一般に1〜約100であり、1〜約50であることが好ましい。そのようなR1として、以下に限られないが、例えば、ペンタエリスリトール、1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,3,5−シクロヘキサントリオール、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラオール、1,3,5−アダマンタントリオール、1,3,5,7−アダマンタンテトラオール、単糖類(例えばグルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノースなど)、二糖類(例えばマルトース、スクロースなど)、クエン酸、イソクエン酸、cis−アコニット酸、trans−アコニット酸、リンゴ酸、オキサロコハク酸、アスコルビン酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,3,5−アダマンタントリカルボン酸、及び1,3,5,7−アダマンタンテトラカルボン酸、並びにこれらの誘導体などの多官能性化合物の残基が挙げられる。
【0029】
k及びlは、多官能性化合物の、活性水素を有する官能基に由来する部分、及び当該官能基部分とポリカルボナート鎖との連結部分に関係している。kはそれぞれ独立して0又は1、lはそれぞれ独立して0又は1であり、各ポリカルボナート鎖についてk=1の場合l=0でありk=0の場合l=1である。k=0の場合、多官能性化合物の活性水素を有する官能基が水酸基であったことを意味し、その水酸基にはポリカルボナートのうち二酸化炭素に由来する単位が結合しているため、l=1となる。一方、k=1の場合、多官能性化合物の活性水素を有する官能基がカルボキシル基であったことを意味し、そのカルボキシル基にはポリカルボナートのうちアルキレンオキシドに由来する単位が結合しているため、l=0となる。
【0030】
上記一般式(I)において、R1がトリメシン酸又はピロメリット酸の残基であり、k=1かつl=0であることが好ましい。
【0031】
R2及びR3はアルキレンオキシドに由来する置換基であって、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族基、又は置換もしくは非置換の芳香族基であるか、あるいはR2とR3が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよい。
【0032】
R2及びR3の脂肪族基としては、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状の置換又は非置換のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、iso−ペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、1−メチル−1−エチル−n−ペンチル基、1,1,2−トリメチル−n−プロピル基、1,2,2−トリメチル−n−プロピル基、3,3−ジメチル−n−ブチル基、n−ヘプチル基、2−ヘプチル基、1−エチル−1,2−ジメチル−n−プロピル基、1−エチル−2,2−ジメチル−n−プロピル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基などが挙げられ、より好ましくはメチル基である。脂肪族基は、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルファニル基、シアノ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子、芳香族基などから選択される1又は複数の置換基で置換されていてもよい。
【0033】
R2及びR3の置換又は非置換の芳香族基としては、炭素数6〜10の置換又は非置換の芳香族基が好ましく、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基などの置換又は非置換の芳香族基が挙げられ、より好ましくはフェニル基である。芳香族基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基、フェニル基、ナフチル基などの芳香族基などから選択される1又は複数の置換基で置換されていてもよい。
【0034】
R2とR3は、互いに結合して置換又は非置換の環を形成してもよく、炭素数4〜10の置換又は非置換の脂肪族環を形成することが好ましい。例えば、R2とR3が−(CH2)4−を介して互いに結合した場合、シクロヘキサン環を形成する。このように形成された環は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基、フェニル基、ナフチル基などの芳香族基などから選択される1又は複数の置換基で置換されていてもよい。
【0035】
R2及び/又はR3の水素原子の一部又は全部をフッ素原子に置換することもできる。例えば、R2及び/又はR3がアルキル基の場合、ペルフルオロアルキル基を含む、任意の位置が1又は複数のフッ素原子で置換されたフルオロアルキル基とすることもできる。そのようなフルオロアルキル基として、例えば、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、ペルフルオロエチル基などが挙げられる。
【0036】
特に、R2及びR3の両方が水素原子、R2及びR3のいずれか一方がメチル基で他方が水素原子、又はR2及びR3のいずれか一方がフェニル基で他方が水素原子であるか、あるいはR2とR3が−(CH2)4−を介して互いに結合してシクロヘキサン環を形成することが好ましい。
【0037】
mはポリカルボナート鎖の重合度を表し、各カルボナート鎖について、それぞれ独立して、一般に1〜約10000の整数である。nは、星形ポリカルボナートのポリカルボナート鎖の数を表し、多官能性化合物の活性水素を有する官能基の数に対応する。nは3以上の整数であり、4以上の整数であることが好ましい。
【0038】
本発明の星形ポリカルボナートは、従来知られている脂肪族ポリカルボナートの製造方法に用いられる触媒を用いて合成できる。そのような触媒として、例えば、亜鉛錯体(G. W. Coates, et al., J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 14284-14285)、アルミニウム錯体(W. Kuran, et al., J. Macromol. Sci., Pure Appl. Chem., A35, 427-437 (1998))、ポルフィリン錯体(特開2006−241247号明細書)又はサレン錯体(G. W. Coates, et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 5484-5487)が挙げられる。これらの中で、ポルフィリン系化合物が配位した金属錯体が有利に使用できるため、そのような金属錯体を用いた製造方法を一例として以下詳細に説明する。
【0039】
本発明の一実施態様における星形ポリカルボナートの製造方法は、下記一般式(II)又は一般式(III):
【化9】
【化10】
で表されるポルフィリン系化合物が配位した金属錯体を用い、活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物の存在下で、アルキレンオキシドと二酸化炭素とを共重合させることを含む。
【0040】
R4は、フェニル環上の置換基を表し、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子である。一般式(III)におけるR4は、メチル基であることが好ましい。
【0041】
一般式(II)におけるM1は、コバルト(Co)又はマンガン(Mn)を含む金属塩を表し、Co(III)−Cl又はMn(III)−OC(=O)CH3であることが好ましく、Co(III)−Clであることがより好ましい(括弧内の数字は価数を表す。)。
【0042】
一般式(III)におけるM2は、ニッケル(Ni)を含む金属塩を表し、Ni(II)−Cl、Ni(II)−OC(=O)CH3であることが好ましく、Ni(II)−Clであることがより好ましい(括弧内の数字は価数を表す。)。
【0043】
一般式(II)及び(III)におけるnはそれぞれ独立して0〜5の整数を表し、nが1の場合、Rの置換位置はパラ位であることが好ましい。また、一般式(II)におけるnは0であること、すなわちフェニル環が非置換であることが好ましい。
【0044】
共重合反応速度が速く、交互共重合比率が高くかつ狭い分子量分布を有するポリカルボナートが得られることから、一般式(II)において、n=0、M1がCo(III)−Clである金属錯体すなわち(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリド[(TPP)CoCl]、又は一般式(III)において、n=1であってR4がメチル基、かつそのメチル基の置換位置がパラ位であり、M2がNi(II)−Clである金属錯体が好ましく、(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリド[(TPP)CoCl]がより好ましい。
【0045】
アルキレンオキシドが、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドの場合は、一般式(II)で表される金属錯体、特に(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリド[(TPP)CoCl]を用いることが望ましい。
【0046】
例えば超臨界二酸化炭素に対する溶解性が要求される場合、一般式(II)又は(III)においてnが2以上の多置換ポルフィリン系化合物の金属錯体を使用することができる。R4は、それぞれ異なる置換基であっても同じ置換基であってもよいが、製造がより容易であることから同じ置換基であることが好ましい。
【0047】
nが2のときは、R4の置換位置はメタ位であることが好ましく、R4がtert−ブチル基であることが好ましい。nが3のときは、R4の置換位置はオルト位及びパラ位であることが好ましく、R4がメトキシ基、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子であることが好ましい。nが5の全置換であってもよく、このときのR4は、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子であることが好ましい。
【0048】
また、本発明の一般式(II)又は(III)で表される金属錯体は、不溶性ポリスチレンビーズ、シリカゲルなどの有機又は無機高分子、ガラス、マイカ、金属などで形成される粒子などの担持体に、炭化水素鎖、ポリエーテル鎖、ポリエステル鎖、ポリアミド鎖、ポリシリルエーテル鎖などのリンカーを介して、固定化されていてもよい。金属錯体とリンカーの結合、及びリンカーと担持体の結合は、例えばアルキレン基、エーテル基、エステル基、アミド基、カルバメート基、シリルエーテル基などを介して行うことができる。
【0049】
使用する金属錯体の量は、反応させるアルキレンオキシド全量に対して、一般に0.05モル%〜1モル%であり、0.1モル%〜0.5モル%であることが好ましい。
【0050】
多官能性化合物は、活性水素を有する官能基を3つ以上有する。このような多官能性化合物が共重合中に存在すると、共重合中に生成したポリカルボナートの末端に結合した金属錯体と多官能性化合物の活性水素とが交換して、末端が水酸基のポリカルボナートを生成すると同時に、多官能性化合物のうち活性水素を除いた部分が金属錯体に配位する。このような金属錯体も共重合活性を有するため、多官能性化合物の官能基部分が重合開始点となり、そこからアルキレンオキシドと二酸化炭素の共重合によりポリカルボナート鎖が成長する。その結果、多官能性化合物の残基とポリカルボナート鎖とが多官能性化合物の官能基部分で結合された、星形ポリカルボナートが生成する。このような活性水素を有する官能基として、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、アミノ基などが挙げられ、水酸基及びカルボキシル基が好ましい。活性水素を有する官能基は、多官能性化合物の1分子内で同じであってもよく、異なっていてもよい。異なる種類の官能基を1分子内に有する多官能性化合物として、例えば、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸などが挙げられる。アルキレンオキシドと二酸化炭素の共重合に溶媒を使用する場合、多官能性化合物がその溶媒に対して溶解性を示すことが好ましい。
【0051】
そのような多官能性化合物として、下記一般式(IV):
【化11】
で表されるものが挙げられる。
【0052】
R1、k、nは、一般式(I)の星形ポリカルボナートについて上述したとおりである。
【0053】
一般式(IV)で表される多官能性化合物として、以下に限られないが、例えば、ペンタエリスリトール、1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,3,5−シクロヘキサントリオール、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラオール、1,3,5−アダマンタントリオール、1,3,5,7−アダマンタンテトラオール、単糖類(例えばグルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノースなど)、二糖類(例えばマルトース、スクロースなど)、クエン酸、イソクエン酸、cis−アコニット酸、trans−アコニット酸、リンゴ酸、オキサロコハク酸、アスコルビン酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,3,5−アダマンタントリカルボン酸、及び1,3,5,7−アダマンタンテトラカルボン酸、並びにこれらの誘導体などが挙げられる。これらの中でも、トリメシン酸又はピロメリット酸が好ましい。
【0054】
多官能性化合物は、1モルの金属錯体に対して1モル以上の活性水素が存在するように用いることが一般的であり、好ましくは、5モル以上、10モル以上、又は20モル以上の活性水素が存在するように用いられる。
【0055】
アルキレンオキシドとして、置換又は非置換の直鎖又は環状のアルキレンオキシドが使用できるが、これらに限られない。そのようなアルキレンオキシドとして、下記一般式(V)で表される化合物又はこれらの複数の組み合わせが挙げられる。置換基R2及びR3については、一般式(I)の星形ポリカルボナートについて上述したとおりである。
【0056】
【化12】
【0057】
特に、式(V)の化合物として、R2及びR3の両方が水素原子であるエチレンオキシド、R2及びR3のいずれか一方がメチル基で他方が水素原子であるプロピレンオキシド、又はR2及びR3のいずれか一方がフェニル基で他方が水素原子であるスチレンオキシド、並びにR2及びR3が−(CH2)4−を介して互いに結合してシクロヘキサン環を形成しているシクロヘキセンオキシドが好ましい。
【0058】
本発明の方法では、ルイス塩基の存在下で上述のような金属錯体を用いて共重合を行ってもよい。いかなる理論に拘束される訳ではないが、金属錯体の金属部分にルイス塩基が配位し、触媒としての機能をより高めていると考えられている。そのようなルイス塩基は、金属錯体の金属部分に配位しやすいよう、電子共有性の高い構造を有し、且つ不対電子を有する化合物であって、例えば、ピリジン系化合物、イミダゾール系化合物、ホスフィン系化合物などが挙げられる。
【0059】
ピリジン系化合物として、下記一般式(VI)で表される化合物が使用できる。
【0060】
【化13】
【0061】
R5は、ピリジン環上の1又は複数の位置に導入されうる置換基であって、置換又は非置換の、メチル基、ホルミル基又はアミノ基から選択され、メチル基、ホルミル基又はジメチルアミノ基であることが好ましく、ジメチルアミノ基であることがさらに好ましい。上記式(VI)において置換数を表すnは0〜5の整数であり、0又は1であることが好ましい。nが2以上の場合、複数のR5は、それぞれ異なる置換基であっても、同じ置換基であってもよい。R5の置換位置は、ピリジン環の3位又は4位であることが好ましく、4位であることがさらに好ましい。
【0062】
このようなピリジン系化合物として、一般に、ピリジン、4−メチルピリジン、4−ホルミルピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンなどが挙げられ、ピリジン、4−メチルピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンが好ましく、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンがより好ましい。
【0063】
イミダゾール系化合物として、下記一般式(VII)で表される化合物が使用できる。
【0064】
【化14】
【0065】
R6は、置換又は非置換のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基などである。そのようなイミダゾール化合物として、N−メチルイミダゾール、N−エチルイミダゾール、N−プロピルイミダゾールなどが挙げられ、N−メチルイミダゾールが好ましい。
【0066】
一般式(II)の金属錯体を使用する場合、ピリジン系化合物又はイミダゾール系化合物を使用することが好ましく、一般式(III)の金属錯体を使用する場合、ホスフィン系化合物例えばトリフェニルホスフィンを使用することが好ましい。
【0067】
ルイス塩基は、金属錯体1モルに対して、0.1〜5モル用いることが一般的である。5モルを超えると、反応速度が遅くなり、収率が低下して環状カルボナート(アルキレンオキシド1分子と二酸化炭素1分子が反応して環化した化合物)が生成しやすくなる。一方、0.1モルより低いと、反応速度が遅くなり、二酸化炭素が取り込まれず、アルキレンオキシドのみが反応したポリエーテルが生成しやすくなる。ピリジン系化合物を使用する場合、金属錯体1モルに対してピリジン系化合物が0.3〜5モルであるのが好ましく、0.3〜2モルであることがより好ましく、0.3〜1モルであることがさらに好ましい。イミダゾール系化合物を使用する場合、金属錯体1モルに対してイミダゾール系化合物が0.3〜1モルであるのが好ましく、0.4〜0.6モルであることがより好ましい。
【0068】
共重合時の全圧は、一般に0.1〜30MPaであり、2〜26MPaが好ましい。二酸化炭素分圧は、0.1〜25MPaであることが好ましく、2〜25MPaがより好ましい。二酸化炭素分圧は、二酸化炭素のみを充填して調整してもよいし、窒素との共存下で二酸化炭素分圧が上記範囲内となるように調整してもよい。二酸化炭素と窒素とを共存させる場合、窒素を1気圧とし、残りが二酸化炭素圧となるように調整することが好ましい。
【0069】
二酸化炭素は7.38MPa以上の臨界圧力下では超臨界状態となることが知られており、このような超臨界状態で共重合を行ってもよい。超臨界状態で共重合を行うと、後述の溶媒を使用しなくてもよい場合がある。溶媒を使用せずに共重合を行うと、溶媒の除去工程を省略でき、また不要な溶媒が共重合体中に残存しないという利点がある。
【0070】
アルキレンオキシドと二酸化炭素との共重合は、無溶媒で行ってもよく、溶媒中で行ってもよい。溶媒を使用する場合、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミドなどのアミド、テトラヒドロフランなどのエーテル、及びそれらの組み合わせを用いることができ、ジクロロメタン、トルエン、ジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフランが好ましく、ジクロロメタン及びテトラヒドロフランがより好ましい。溶媒を用いて反応を行う場合は、アルキレンオキシド1体積部に対して、溶媒は9体積部以下であることが好ましく、3体積部以下であることがより好ましい。
【0071】
本発明の方法に用いる金属錯体、多官能性化合物、アルキレンオキシド、ルイス塩基、及び必要に応じて使用される溶媒について、反応容器に添加する順序に特に制限はないが、溶媒を用いる場合は、その溶媒に錯体を予め溶解した溶液を調製しておくことが好ましい。
【0072】
反応温度は、一般に100℃以下とすることができ、室温〜80℃であることが好ましい。アルキレンオキシドとしてエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを用いる場合、反応温度は20〜60℃であることが好ましく、25〜50℃であることがより好ましい。アルキレンオキシドとしてシクロヘキセンオキシドを用いる場合、反応温度は特に80℃前後であることが好ましい。
【0073】
所望量のアルキレンオキシドが反応したら、メタノール、塩酸/メタノール混合物などを反応停止剤として反応混合物に投入し、必要に応じて昇温及び/又は攪拌して、反応を終了することができる。このとき、反応停止剤によってポリカルボナート鎖の開放末端は水酸基に変換される。反応終了後、ポリマー中に取り込まれた金属錯体は、錯体及びポリマーの溶解液から一方のみを析出させる方法、又は錯体及びポリマーの固体状混合物から一方のみを抽出する方法によって除去することができる。具体的には、錯体を溶解可能であるがポリマーに対しては貧溶媒である溶媒、ポリマーを溶解可能であるが錯体に対しては貧溶媒である溶媒、あるいは錯体の塩基性部位と反応して塩を形成可能な酸性物質などを用いて、錯体をポリマーと分離することが可能である。例えば、貧溶媒としてメタノール、ヘキサンなどを用いてポリマーを再沈殿してもよく、ソックスレー抽出器を利用して固体状混合物から錯体を抽出してもよい。また、カラムクロマトグラフィーなどの周知の手段を用いて、ポリマーをさらに精製してもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
コバルトポルフィリンクロリド錯体の合成
本実施例で使用したコバルトポルフィリンクロリド錯体[(TPP)CoCl]は以下のように合成した。
【0076】
2Lの二口ナスフラスコにプロピオン酸(2L)を入れて還流させた。加熱を停止してから、これにベンズアルデヒド(60mL、0.6mol)及びピロール(40mL、0.6moL)を加え、反応溶液が室温になるまで撹拌して一晩放置した。その後、吸引濾過し、得られた紫色固体を温水とメタノールで繰り返し洗浄した。この紫色固体をクロロホルム(800mL)/メタノール(1200mL)にて再結晶することにより、針状紫色結晶(テトラフェニルポルフィリン、TPPH2)(収量8.6g、収率9.6%)を得た。
【0077】
次に、2000mLの二口ナスフラスコに酢酸(1500mL)を入れて還流させた。これにTPPH2(2.4mmol、1.5g)、塩化コバルト(11.9mmol、2.85g)及び酢酸ナトリウム(2.0g)を加え、120℃で5分間還流した後、室温まで戻して一晩放置した。その後、吸引濾過し、濾物を水、重曹水、水の順で繰り返し洗浄して乾燥することにより、赤色固体(テトラフェニルポルフィナトコバルト、TPPCo)(収量1.13g、収率69%)を得た。
【0078】
1000mLの一口ナスフラスコに、TPPCo(1.0g、1.46mmol)、メタノール(1000mL)及び塩酸(10mL)を入れて室温で一晩撹拌した。これを減圧留去し、クロロホルム/ヘキサンで再結晶した後、乾燥することにより、紫色固体の(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリド錯体[(TPP)CoCl](収量0.98g、収率93%)を得た。メタノール中のUV−visスペクトルはそれぞれ文献値とよい一致を示した。
【0079】
【表1】
【0080】
評価装置及び方法
1H−NMR測定は、Bruker DPX−400 分光測定装置において、溶媒としてCDCl3、内部標準としてテトラメチルシラン(δ=0.00ppm)を用いて27℃で行った。IR測定は、Horiba FT−210 分光測定装置を用い、液膜法で行った。GPC測定は、Viscotek社製90度光散乱検出器(外付け)、示差屈折率検出器及び波長可変UV−可視光検出器(ともに内蔵)を備えた、東ソー 8020 高速液体クロマトグラフにおいて、溶出剤としてTHF、及び標準ポリスチレン(TSK標準ポリスチレン、東ソー)で作成した校正曲線を用い、40℃、流量0.8mL/分で行った。DSC測定は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 DSC7020において、窒素下、測定温度範囲−30℃〜160℃、昇温速度10℃/分で行った。TG−TDA測定は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 TG/DTA6200において、窒素下、測定範囲25℃〜450℃、昇温速度20℃/分で行った。
【0081】
例1
カルボキシル基を4個有するピロメリット酸の残基をコア単位とする星形ポリカルボナートを以下のようにして合成した。
【0082】
マグネチックスターラーを入れ、内部を窒素パージしたオートクレーブに、(TPP)CoCl50μmol(35.3mg)、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP、Sigma−Aldrichより入手)37.5μmol(4.6mg)、ピロメリット酸500μmol(109mg)を入れ、そこへ溶媒としてジクロロメタン3.5mLを加えた後、プロピレンオキシド(PO)300mmol(17.4g)を入れた。圧力をかけて二酸化炭素を注入し、全圧が50気圧(5.07MPa)(二酸化炭素300mmol相当)となるように調整した。このとき、TPPCoCl:DMAP:ピロメリット酸:PO=1:0.75:10:6000(モル比)であった。この混合物を40℃にして12日間反応を行った後、反応混合物を室温まで冷却した。次に、過剰の二酸化炭素を解放し、少量のメタノールを加えて反応を停止させた後、この反応混合物をサンプリングして1H−NMR及びIRにより分析した。1H−NMRスペクトルからPOの反応転化率は77%であった。IRスペクトルでは、ポリカルボナート由来のC=O伸縮振動による吸収が見られたが、環状カルボナート由来のC=O伸縮振動による吸収はほとんどなかった。
【0083】
次に、反応混合物をオートクレーブから取り出してクロロホルム/メタノールから再沈殿した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(酢酸エチル:ヘキサン=1:1で錯体分離)し、減圧乾燥した後に、5.14gの生成物を得た。
【0084】
得られた生成物について、1H−NMR、IR、DSC、TG−TDAを測定した結果を以下に示す。また、図1A及び図1Bにそれぞれ、1H−NMRスペクトル及びその部分拡大図を示す。1H−NMRから、ポリプロピレンカルボナート鎖と、ピロメリット酸残基の芳香環が生成物中に存在することが分かる。また、カルボナート結合の割合を、カルボナート結合に隣接するメチン水素由来のシグナルとエーテル結合に由来するメチン水素由来のシグナルとの強度比から計算し、上述のIRスペクトルの結果と合わせると、ポリカルボナート(PC):ポリエーテル(PE):環状カルボナート(CC)=99:0:1(モル比)であった。
1H−NMR:δH(400MHz,CDCl3)8.06(Ar−H)、5.00(1H,s,CH)、4.10−4.30(2H,m,CH2)、1.33−1.34(3H,m,CH3)
IR(液膜法):1747cm-1(C=O)
DSC:Tg=30.6℃
TG−DTA:Td=237.7℃
【0085】
3種類の検出器(90度光散乱(LS)、UV、RI)によって作成された、GPCチャートを図3A〜図3C及び図5A〜図5Cに示す。図3Aのチャート(90度光散乱)のプロットでは頂部が部分的に2つに分かれたピークが観察される。図3Bのチャート(UV)のピークは、星形ポリプロピレンカルボナートに含まれるピロメリット酸残基の芳香環に由来する。図3Aと図3Bを重ね合わせたのが図3Cのチャートであり、このチャートは、図3Aにおいて頂部が部分的に2つに分かれたピークのうち、高分子量側のピークが星形ポリプロピレンカルボナートに相当し、このピークに含まれるポリマーがピロメリット酸のカルボキシル基から成長したことを示している。図3Aの低分子量側のピークは系中で同時に生成した直鎖状のポリプロピレンカルボナートであると考えられる。図5A(RI)、図5B(UV)、図5C(図5Aと図5Bの重ね合わせ)のチャートからも、ピロメリット酸残基の芳香環をコア単位として含む、より高分子量の星形ポリカルボナートが、直鎖状のポリプロピレンカルボナートとは別に生成していることが分かる。
【0086】
図5Bのチャートから計算した、星形ポリプロピレンカルボナートの数平均分子量Mn(UV)は11,000、重量平均分子量Mw(UV)は17,000であり、Mw/Mn=1.49であった。一方、図3Aのチャートの2本の基準線(縦線)で挟まれた領域で求めた星形ポリプロピレンカルボナートのMn(LS)は94,000、Mw(LS)は96,000であり、Mw/Mn=1.04であった。いかなる理論に拘束される訳ではないが、このように検出法によってMn及びMwの値にずれが生じるのは、星形ポリマーは同等の分子量を有する直鎖状ポリマーと比べて溶液中での体積が小さいため、その分子量が標準ポリスチレンを基準とした場合には過小評価されうるのに対して、LS検出器を用いた場合には絶対分子量測定に近い条件でポリマーの分子量が評価可能であることに起因すると考えられる。このことは、得られた星形ポリプロピレンカルボナートの分子形状が、少なくともGPC媒体中では、直鎖状のポリプロピレンカルボナートとは大きく異なった状態にあることを示唆している。
【0087】
例2
カルボキシル基を3個有するトリメシン酸500μmol(96mg)をピロメリット酸の代わりに用いた他は、例1と同様にPOと二酸化炭素の共重合を行って、トリメシン酸残基をコア単位とする星形ポリプロピレンカルボナートを合成した。このとき、TPPCoCl:DMAP:トリメシン酸:PO=1:0.75:10:6000(モル比)であった。1H−NMRスペクトルからPOの反応転化率は61%であった。IRスペクトルでは、ポリカルボナート由来のC=O伸縮振動による吸収が見られたが、環状カルボナート由来のC=O伸縮振動による吸収はほとんどなかった。
【0088】
次に、例1と同様に精製して3.2gの生成物を得た。得られた生成物について、1H−NMR、IR、DSC、TG−TDAを測定した結果を以下に示す。また、図2に1H−NMRスペクトルを示す。1H−NMRから、ポリプロピレンカルボナート鎖と、トリメシン酸残基の芳香環が生成物中に存在することが分かる。また、カルボナート結合の割合を、カルボナート結合に隣接するメチン水素由来のシグナルとエーテル結合に由来するメチン水素由来のシグナルとの強度比から計算し、上述のIRスペクトルの結果と合わせると、ポリカルボナート(PC):ポリエーテル(PE):環状カルボナート(CC)=99:0:1(モル比)であった。
1H−NMR:δH(400MHz,CDCl3)8.82(Ar−H)、5.00(1H,s,CH)、4.10−4.30(2H,m,CH2)、1.33−1.34(3H,m,CH3)
IR(液膜法):1747cm-1(C=O)
DSC:Tg=26.6℃
TG−DTA:Td=232.8℃
【0089】
3種類の検出器(90度光散乱(LS)、UV、RI)によって作成された、GPCチャートを図4A〜図4C及び図6A〜図6Cに示す。図4Aのチャート(90度光散乱)のピークは、図4Bのチャート(UV)のピーク(星形ポリプロピレンカルボナートに含まれるトリメシン酸残基の芳香環に由来する)よりブロードである。図4Aと図4Bを重ね合わせたのが図4Cのチャートであり、このチャートは、図4Aのブロードピークのうち、高分子量側の部分が星形ポリプロピレンカルボナートに相当し、この部分に含まれるポリマーがトリメシン酸のカルボキシル基から成長したことを示している。図4Aのブロードピークのうち、低分子量側の部分は系中で同時に生成した直鎖状のポリプロピレンカルボナートであると考えられる。図6A(RI)、図6B(UV)、図6C(図6Aと図6Bの重ね合わせ)のチャートからも、トリメシン酸残基の芳香環をコア単位として含む、より高分子量の星形ポリカルボナートが、直鎖状のポリプロピレンカルボナートとは別に生成していることが分かる。
【0090】
図6Bのチャートから計算した、星形ポリプロピレンカルボナートの数平均分子量Mn(UV)は12,000、重量平均分子量Mw(UV)は16,000であり、Mw/Mn=1.34であった。一方、図4Aのチャートの2本の基準線(縦線)で挟まれた領域で求めた星形ポリプロピレンカルボナートMn(LS)は22,000、Mw(LS)は23,000であり、Mw/Mn=1.04であった。
【0091】
図7A〜7Cは、多官能性化合物を用いずに共重合して得られた、直鎖状ポリプロピレンカルボナートのGPCチャートである。図7Aのチャート(RI)では分子量の異なるポリプロピレンカルボナートに相当する二峰性のピークが見られるが、図7B(UV)ではポリマーに相当するピークが見られない。このように、UV検出器を組み合わせてGPC測定を行うことは、芳香環を含むコア単位を有する星形ポリカルボナートの検出に有効である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物と、アルキレンオキシドと、二酸化炭素との反応生成物を含む星形ポリカルボナートであって、当該星形ポリカルボナートに含まれる各ポリカルボナート鎖の一つの末端が、前記多官能性化合物の前記官能基部分を介して前記多官能性化合物の残基と結合している、星形ポリカルボナート。
【請求項2】
前記星形ポリカルボナートが、下記一般式(I):
【化1】
(式中、R1は、前記多官能性化合物のn価の残基であって、その残基の炭素数は1〜100、R2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族基、又は置換もしくは非置換の芳香族基であるか、あるいはR2とR3が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよく、kはそれぞれ独立して0又は1、lはそれぞれ独立して0又は1、但し各ポリカルボナート鎖についてk=1の場合l=0でありk=0の場合l=1、mはそれぞれ独立して1〜10000の整数、nは3以上の整数である)
で表される、請求項1に記載の星形ポリカルボナート。
【請求項3】
R1が、ペンタエリスリトール、1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,3,5−シクロヘキサントリオール、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラオール、1,3,5−アダマンタントリオール、1,3,5,7−アダマンタンテトラオール、単糖類、二糖類、クエン酸、イソクエン酸、cis−アコニット酸、trans−アコニット酸、リンゴ酸、オキサロコハク酸、アスコルビン酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,3,5−アダマンタントリカルボン酸、及び1,3,5,7−アダマンタンテトラカルボン酸、並びにこれらの誘導体からなる群から選択される多官能性化合物の残基である、請求項2に記載の星形ポリカルボナート。
【請求項4】
R2及びR3の両方が水素原子、R2及びR3のいずれか一方がメチル基で他方が水素原子、又はR2及びR3のいずれか一方がフェニル基で他方が水素原子であるか、あるいはR2とR3が−(CH2)4−を介して互いに結合してシクロヘキサン環を形成する、請求項2又は3のいずれかに記載の星形ポリカルボナート。
【請求項5】
R1がトリメシン酸又はピロメリット酸の残基であり、k=1かつl=0である、請求項3又は4のいずれかに記載の星形ポリカルボナート。
【請求項6】
nが4以上の整数である、請求項2〜5のいずれか1つに記載の星形ポリカルボナート。
【請求項7】
下記一般式(II)又は一般式(III):
【化2】
【化3】
(式中、R4はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子、nはそれぞれ独立して0〜5の整数、一般式(II)のM1は、Co又はMnを含む金属塩、一般式(III)のM2は、Niを含む金属塩である)
で表されるポルフィリン系化合物が配位した金属錯体を用い、活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物の存在下で、アルキレンオキシドと二酸化炭素とを共重合させる、星形ポリカルボナートの製造方法。
【請求項8】
前記多官能性化合物が、下記一般式(IV):
【化4】
(式中、R1は、前記多官能性化合物のn価の残基であって、その残基の炭素数は1〜100、kはそれぞれ独立して0又は1、nは3以上の整数である)
で表される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アルキレンオキシドが、下記一般式(V):
【化5】
(式中、R2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族基、又は置換もしくは非置換の芳香族基であるか、あるいはR2とR3が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよい)
で表される、請求項7又は8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記金属錯体が、(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリドである、請求項7〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
ピリジン系化合物、イミダゾール系化合物及びホスフィン系化合物からなる群から選択されるルイス塩基の存在下で共重合が行われる、請求項7〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記ピリジン系化合物が、下記一般式(VI):
【化6】
(式中、R5は、置換又は非置換の、メチル基、ホルミル基又はアミノ基から選択され、nは0〜5の整数)で表される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記イミダゾール系化合物が、下記一般式(VII):
【化7】
(式中、R6は、置換又は非置換のアルキル基)で表される、請求項11に記載の方法。
【請求項1】
活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物と、アルキレンオキシドと、二酸化炭素との反応生成物を含む星形ポリカルボナートであって、当該星形ポリカルボナートに含まれる各ポリカルボナート鎖の一つの末端が、前記多官能性化合物の前記官能基部分を介して前記多官能性化合物の残基と結合している、星形ポリカルボナート。
【請求項2】
前記星形ポリカルボナートが、下記一般式(I):
【化1】
(式中、R1は、前記多官能性化合物のn価の残基であって、その残基の炭素数は1〜100、R2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族基、又は置換もしくは非置換の芳香族基であるか、あるいはR2とR3が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよく、kはそれぞれ独立して0又は1、lはそれぞれ独立して0又は1、但し各ポリカルボナート鎖についてk=1の場合l=0でありk=0の場合l=1、mはそれぞれ独立して1〜10000の整数、nは3以上の整数である)
で表される、請求項1に記載の星形ポリカルボナート。
【請求項3】
R1が、ペンタエリスリトール、1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,3,5−シクロヘキサントリオール、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラオール、1,3,5−アダマンタントリオール、1,3,5,7−アダマンタンテトラオール、単糖類、二糖類、クエン酸、イソクエン酸、cis−アコニット酸、trans−アコニット酸、リンゴ酸、オキサロコハク酸、アスコルビン酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,3,5−アダマンタントリカルボン酸、及び1,3,5,7−アダマンタンテトラカルボン酸、並びにこれらの誘導体からなる群から選択される多官能性化合物の残基である、請求項2に記載の星形ポリカルボナート。
【請求項4】
R2及びR3の両方が水素原子、R2及びR3のいずれか一方がメチル基で他方が水素原子、又はR2及びR3のいずれか一方がフェニル基で他方が水素原子であるか、あるいはR2とR3が−(CH2)4−を介して互いに結合してシクロヘキサン環を形成する、請求項2又は3のいずれかに記載の星形ポリカルボナート。
【請求項5】
R1がトリメシン酸又はピロメリット酸の残基であり、k=1かつl=0である、請求項3又は4のいずれかに記載の星形ポリカルボナート。
【請求項6】
nが4以上の整数である、請求項2〜5のいずれか1つに記載の星形ポリカルボナート。
【請求項7】
下記一般式(II)又は一般式(III):
【化2】
【化3】
(式中、R4はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子、nはそれぞれ独立して0〜5の整数、一般式(II)のM1は、Co又はMnを含む金属塩、一般式(III)のM2は、Niを含む金属塩である)
で表されるポルフィリン系化合物が配位した金属錯体を用い、活性水素を有する官能基を3つ以上有する多官能性化合物の存在下で、アルキレンオキシドと二酸化炭素とを共重合させる、星形ポリカルボナートの製造方法。
【請求項8】
前記多官能性化合物が、下記一般式(IV):
【化4】
(式中、R1は、前記多官能性化合物のn価の残基であって、その残基の炭素数は1〜100、kはそれぞれ独立して0又は1、nは3以上の整数である)
で表される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アルキレンオキシドが、下記一般式(V):
【化5】
(式中、R2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族基、又は置換もしくは非置換の芳香族基であるか、あるいはR2とR3が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよい)
で表される、請求項7又は8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記金属錯体が、(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリドである、請求項7〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
ピリジン系化合物、イミダゾール系化合物及びホスフィン系化合物からなる群から選択されるルイス塩基の存在下で共重合が行われる、請求項7〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記ピリジン系化合物が、下記一般式(VI):
【化6】
(式中、R5は、置換又は非置換の、メチル基、ホルミル基又はアミノ基から選択され、nは0〜5の整数)で表される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記イミダゾール系化合物が、下記一般式(VII):
【化7】
(式中、R6は、置換又は非置換のアルキル基)で表される、請求項11に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【公開番号】特開2010−202711(P2010−202711A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47092(P2009−47092)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(899000024)株式会社東京大学TLO (50)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(899000024)株式会社東京大学TLO (50)
【Fターム(参考)】
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