説明

春巻の皮用乳化剤組成物、及びそれを使用した春巻の皮

【課題】強度が維持され、かつ焼きムラの少ない春巻皮であり、油ちょう後の経時的な食感低下を抑制して、パリパリした歯切れの良い食感が長時間持続する春巻用の皮が得られる乳化剤組成物、及びこれを用いて得られる春巻の皮を提供する。
【解決手段】HLB値が10以上のショ糖脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリドとを、ショ糖脂肪酸エステル25〜75重量%、有機酸モノグリセリド25〜75重量%となる配合割合で含有してなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、春巻の皮用乳化剤組成物、及びそれを使用して製造した春巻の皮に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に春巻は、皮のパリパリとした食感と皮に巻かれた具材のソフトな食感との両方が同時に味わえることが望まれており、通常、油ちょう直後の春巻においてはこのような食感が得られる。しかし、油ちょう後に放置したり、またはお弁当の惣菜として密閉容器等に保存したりすると、油ちょう直後のパリパリ感や歯切れの良さは徐々に低下していく。この問題を解決するために種々の試みがなされているが、いずれにおいても満足できる結果は得られていない。
【0003】
例えば、低粘度澱粉を原料粉中に1〜50重量%配合することが提案されているが、皮の強度が低下したり、焼成後焼きムラが発生するといった問題がある(特許文献1)。
【0004】
また、乳化剤としてポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル及び/又はプロプレングリコール不飽和脂肪酸エステルを含有する油脂組成物を皮表面に塗布又は噴霧することで皮の食感を改良することが提案されているが、操作的に煩雑であり、実用化は困難である(特許文献2)。
【0005】
また、小麦粉又は澱粉と乳化剤とからなる熱処理混合物を間接加熱して得られる熱処理混合物を、穀粉類に対して内割りで2〜100質量%含有することにより、皮の食感や歯切れを改良することが提案されているが、使用する乳化剤がステアリン酸モノグリセリドとコハク酸モノグリセリドでは、皮の食感や焼成後の焼きムラにおいて満足できる結果が得られない(特許文献3)。
【0006】
さらに、小麦粉と置換澱粉との配合割合を99〜30:1〜70とし、これに未加工澱粉、加工澱粉又はその双方の混合物をさらに配合することが提案されているが、皮の強度が低下したり、焼成後に焼きムラが発生するといった欠点がある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3995573号公報
【特許文献2】特開2007−209206号公報
【特許文献3】特開2007−151508号公報
【特許文献4】特開2008−22753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、強度が維持され、かつ焼きムラの少ない春巻の皮であり、油ちょう後の経時的な食感低下が抑制され、パリパリした歯切れの良い食感が長時間持続する春巻用の皮を得るための乳化剤組成物、及びこれを用いて得られ、上記のような特性を有する春巻の皮を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の春巻の皮用乳化剤組成物は、HLB値が10以上のショ糖脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリドとを、ショ糖脂肪酸エステル25〜75重量%、有機酸モノグリセリド25〜75重量%となる配合割合で含有してなるものとする。
【0010】
上記において、有機酸モノグリセリドはコハク酸モノグリセリド及びジアセチル酒石酸モノグリセリドから選択された1種又は2種以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の春巻の皮は、主として小麦粉及び澱粉からなる原料粉に乳化剤組成物が配合されてなる春巻の皮であって、上記ショ糖脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリドの合計量が小麦粉及び澱粉の合計量に対して0.3〜3重量%となる割合で、上記本発明の乳化剤組成物が配合されてなるものとする。
【0012】
上記春巻の皮は、DE値が20%以下のデキストリンが小麦粉及び澱粉の合計量に対し5重量%以上20重量%以下の割合でさらに配合されたものとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、春巻の皮において、焼成後の皮の強度の低下やムラを抑制することができ、油ちょう後の食感の経時的な低下を抑制して、歯切れの良いパリパリした食感を長時間持続させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の春巻の皮用乳化剤組成物は、HLB値が10以上のショ糖脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリドとを必須成分として含有するものである。
ショ糖脂肪酸エステルはHLB値が10以上のものであればよく、その他の条件、例えば構成脂肪酸等は特に限定されない。HLB値が10より低いと油ちょう直後のパリパリ感が低下する。
【0015】
HLB値が10以上のショ糖脂肪酸エステルは、乳化剤組成物全体に占める割合が25〜75重量%であるものとする。25重量%未満であると焼成後の皮の焼きムラが多くなり、75重量%を越えるとパリパリ感が低下する。
【0016】
有機酸モノグリセリドは、コハク酸脂肪酸モノグリセリド若しくはジアセチル酒石酸モノグリセリド、又はこれらの混合物であることが好ましい。あるいは、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリドをアルカリ中和し、ナトリウム塩及び/又はカリウム塩としたものも好適に使用できる。これら以外の有機酸モノグリセリド、例えばクエン酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、酢酸モノグリセリド等は、本発明の効果を損なわない範囲で使用できる。
【0017】
有機酸モノグリセリドも、乳化剤組成物全体に占める割合が25〜75重量%であることが好ましい。25重量%未満であるとパリパリ感が低下し、75重量%を越えると焼成後の皮の焼きムラが多くなる。
【0018】
本発明の乳化剤組成物は上記以外の成分を含有していてもよいが、HLB値が10以上のショ糖脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリドとを、配合比率が重量比でショ糖脂肪酸エステル:有機酸モノグリセリド=25:75〜75:25となる割合で含有するものであることが好ましい。
【0019】
本発明の春巻の皮は、小麦粉及び澱粉からなる原料粉に、水、食塩等の調味料等の通常用いられる材料を加え、さらに上記した本発明の乳化剤組成物を配合してなるものである。本発明の乳化剤組成物の使用量は、HLB値が10以上のショ糖脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリドの合計量が小麦粉及び澱粉の合計量に対して0.3〜3重量%となる割合が好ましい。0.3重量%未満ではパリパリ感が不十分であり、3重量%を超えると風味の点で問題となる。
【0020】
本発明の春巻の皮は、好ましくはDE(dextrose equivalent)値が2〜20%であるデキストリンをさらに含有するものとする。DE値が20%を超えるデキストリンでは経時的な食感の低下を抑制することができない。また、デキストリンの含有量は小麦粉及び澱粉の合計量に対して5%重量以上20重量%以下であることが好ましい。5重量%未満では経時的な食感の低下を抑制する効果が不十分であり、添加による効果が得られない。20重量%を越えると、皮がもろくなり、品質低下を来し、また作業性にも影響を及ぼし、好ましくない。
【0021】
小麦粉は、春巻皮の製造に従来から用いられている小麦粉であればいずれのものでもよく、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉を用いることができるが、皮の強度を維持するためには総粗蛋白質が8.0重量%以上であることが好ましい。
【0022】
春巻皮の材料としては、上記した小麦粉、澱粉、水及び調味料以外に、油脂、粉末油脂、加工澱粉、糖類、増粘安定剤、食物繊維、活性グルテン、加水分解グルテン、小麦グリアジン、小麦グルテニン等の小麦由来蛋白質、卵白、乳清蛋白質等の小麦由来以外の蛋白質を配合してもよい。
【0023】
また、本発明の乳化剤組成物以外の乳化剤を、本発明の目的を外れない範囲で使用することもできる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
<調製方法>
表1に示す処方で、小麦粉、α化澱粉のプレミックスに、下記表3〜5に示す乳化剤、デキストリン、食塩水(5℃)、大豆油を添加後、ホバートミキサーで攪拌し(5℃、stage2×12分)、小麦粉バッターを調製した。これを5℃で1時間熟成後焼成し、厚さ0.3〜0.5mmの春巻皮を製造した。
【0026】
この春巻皮を170mm×170mmにカットし、野菜、肉、調味料を用いて製造した具材13gを載せ、巻き上げて、揚げ用春巻を製造した。この揚げ用春巻を一晩冷凍した後、180℃のコーン油で5分間油ちょうし、30分間室温放置、又は所定時間密閉容器内で保存した後に春巻の食感試験に供した。
【0027】
【表1】

【0028】
評価項目と判定基準は以下の通りである。結果を表3〜5に示す。
【0029】
<焼成後の皮>
皮のムラは目視で判定し、皮の弾力は手で引っ張って判定した。判定基準は次表2に示した通りである。
【0030】
【表2】

【0031】
<油ちょう後の春巻の食感>
5 パリパリ感が強く簡単に噛み切れる
4 パリパリ感があり噛み切りやすい
3 パリパリ感が少しあり普通に噛み切れる
2 パリパリ感が弱いが普通に噛み切れる
1 パリパリ感が全くなく噛み切りにくい
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

【0035】
表3〜5に示された結果から分かるように、本願発明に係る実施例の乳化剤組成物を用いた春巻の皮はいずれも焼成後の強度が維持され、焼きムラもほとんど生じず、パリパリした歯切れの良い食感が長時間持続したのに対し、比較例のものはいずれも食感が短時間で低下し、また、多くが強度や焼きムラにおいても劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLB値が10以上のショ糖脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリドとを、ショ糖脂肪酸エステル25〜75重量%、有機酸モノグリセリド25〜75重量%となる配合割合で含有することを特徴とする春巻の皮用乳化剤組成物。
【請求項2】
前記有機酸モノグリセリドがコハク酸モノグリセリド及びジアセチル酒石酸モノグリセリドから選択された1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の春巻の皮用乳化剤組成物。
【請求項3】
主として小麦粉及び澱粉からなる原料粉に乳化剤組成物が配合されてなる春巻の皮であって、
前記ショ糖脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリドの合計量が小麦粉及び澱粉の合計量に対して0.3〜3重量%となる割合で、請求項1又は2に記載の乳化剤組成物が配合されてなる春巻の皮。
【請求項4】
DE値が20%以下のデキストリンが小麦粉及び澱粉の合計量に対し5重量%以上20重量%以下の割合でさらに配合されたことを特徴とする、請求項3に記載の春巻の皮。