説明

時分割多重無線システム及びその反射信号減衰方法

【課題】受信雑音指数の悪化が発生することなく、送信区間における受信増幅器の保護が可能な時分割多重無線システムの反射信号減衰方法を提供する。
【解決手段】送信増幅器21からの送信信号を分岐する第1の方向性結合器22、第1の方向性結合器で分岐された送信信号の振幅及び位相を調整する振幅位相調整回路1、振幅位相調整回路からの出力信号をアンテナからの反射電力と合成する第2の方向性結合器2を具備する。そして送信区間に振幅位相調整回路1でアンテナからの反射電力と同振幅、逆位相の反射電力減衰用信号を生成し、当該減衰用信号を第2の方向性結合器2によりアンテナからの反射電力と逆相合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時分割多重(TDD)方式の無線通信システム及びその反射信号減衰方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は従来の一般的な時分割多重TDD(Time Division Duplexing ;時分割双方向)方式の無線通信システムの高周波部の構成を示す回路図である。図3に示す無線通信システムは、送信増幅器21の出力に送信用サーキュレータ24を備えた送信部、受信用サーキュレータ32の出力に受信増幅器25を備えた受信部、送信部と受信部を切り替える送受切替スイッチ31から構成されている。
【0003】
TDD方式の無線通信システムは、送受同一周波数帯域を使用して時間軸上でフレーム毎に送信区間、受信区間を交互に切り替える通信方式であるため、送信区間は送信部のみ動作し、受信区間は受信部のみ動作すればよい。よって、送信区間は送信増幅器21に電源供給を行い、送信増幅器21を動作させると共に、受信増幅器25の電源供給を中断し、受信増幅器25の動作を停止させる。
【0004】
一方、受信区間は逆に送信増幅器21への電源供給を中断し、送信増幅器21の動作を停止させると共に、受信増幅器25に電源供給を行い、受信増幅器25を動作させる。送受切替スイッチ31は、送信増幅器21が動作して送信信号を出力する送信区間には送信用サーキュレータ24側に接続され、アンテナ端子12からの反射により受信増幅器25へ入力される反射電力により受信増幅器25が破損等を受けないように送信区間の受信経路へのアイソレーションを確保するものである。受信区間には、送受切替スイッチ31は受信用サーキュレータ32側に接続される。
【0005】
図3のシステムでは、送受切替スイッチ31が送信系、受信系の両方の経路に実装されているため、送受切替スイッチ31の通過損失は、送信特性、受信特性の両方に影響する。つまり、送受切替スイッチ31の通過損失を補うための送信増幅器21の出力電力の増加によって消費電力の増大が発生し、或いは送受切替スイッチ31の通過損失に相当する雑音指数の増加が発生する。なお、図3において、11は高周波部の送信入力端子(送信機側端子)、13は高周波部の受信出力端子(受信機側端子)、33及び34はサーキュレータ用終端器を示す。
【0006】
一方、図4は図3の構成に対して受信部及び送受切替スイッチ31の実装位置を変更した例を示す。図4のシステムでは、送信用サーキュレータ24とサーキュレータ用終端器34の間に送受切替スイッチ31が配置され、送受切替スイッチ31は受信部に配置されている。このシステム構成では、送信信号は送受切替スイッチ31を経由しないため、送信特性への影響は発生しない。
【0007】
それに対し、受信信号は図3の構成に比べてサーキュレータ1個分だけ余分に経由することになるため、図3に比べて通過損失が増大、即ち、雑音指数は増加する。よって、図4のシステムは、図3より送信系の低消費電力化を優先し、受信系の雑音指数を犠牲にした構成といえる。図3、図4のいずれの構成でも送受切替スイッチ31を使用することで送受切替スイッチ31の通過損失相当の受信雑音指数の悪化を伴う。TDD方式の無線通信システムとしては、例えば、特許文献1、2等に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−306370号公報
【特許文献2】特開平08−279705号公報
【特許文献3】特開平09−116459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように従来の無線通信システムにおいて送受切替スイッチを使用する構成では、送受切替スイッチの通過損失相当の受信雑音指数悪化を伴うこととなっていた。特許文献3には送信機接続用サーキュレータから受信機側に漏れる送信信号成分に対してレベルと位相を調整し、受信機側方向性結合器に入力される送信信号成分のレベルと位相を調整することによって送信信号による干渉を除去することが記載されているが、送信信号の干渉を除去することを目的としており、送受切替スイッチを用いた場合の通過損失相当の受信雑音指数の悪化を改善するものではない。
【0010】
本発明の目的は、受信雑音指数の悪化が発生することなく、送信区間における受信増幅器の保護が可能な時分割多重無線システム及びその反射信号減衰方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、主信号系に高周波スイッチ等の送信受信切替器を用いる代わりに、送信増幅器が動作して送信信号を出力している送信区間に、送信増幅器の送信信号を分岐し、その分岐した送信信号の振幅及び位相を調整する振幅位相調整回路を有する。そして、振幅位相調整回路の出力信号をアンテナからの反射電力と逆相合成することによって反射電力を減衰させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、主信号系に送受切替スイッチを用いることなく、アンテナ端子からの反射により受信増幅器へ入力される反射電力を逆相で減衰させることができ、送受切替スイッチの通過損失による受信雑音特性の悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る反射信号減衰回路の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】振幅位相調整手段の一例を示すブロック図である。
【図3】従来の一般的な時分割多重(TDD)方式の無線通信システムの高周波部構成を示すブロック図である。
【図4】他の高周波部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。まず、本発明の概要について説明する。本発明は、WiMAX等の時分割多重(TDD)方式の無線通信システムの高周波部において、主信号系に高周波スイッチ等の送受切替器(図3、図4の送受切替スイッチ31)を用いることなく、主信号系とは別の経路に備えた振幅位相制御手段により送信信号のアンテナ端子からの反射電力を減衰させることで受信増幅器を保護するものである。
【0015】
即ち、送信増幅器の出力電力をアンテナ端子からアンテナに伝達する経路、アンテナからアンテナ端子を経由して受信増幅器に伝達する経路の2つの経路に加えて、送信増幅器の出力電力を分岐し、分岐した送信信号を振幅位相調整手段を経由して受信増幅器に伝達する経路を新たに備えている。
【0016】
そして、送信区間、即ち、送信増幅器が動作して送信信号を出力している送信区間において、アンテナ端子からの反射により受信増幅器へ入力される反射電力を、振幅位相調整手段を備えた経路の電力により逆相合成することにより減衰させる。そのため、送受切替器を用いることなく、受信増幅器が破損等を受けない入力最大定格電力以下まで減衰させることが可能となる。
【0017】
本発明は、このように受信系の高周波特性の主要な指標である雑音指数(Noise Figure、NF)を悪化させる要因である、主信号系に実装される送受切替器を不要とすることにより、TDD方式の無線通信システムにおいて、高周波部の高周波特性を改善することを可能とするものである。
【0018】
図1は本発明に係る時分割多重無線システムの一実施形態を示すブロック図である。図1では図3、図4と同一部分には同一符号を付して詳しい説明を省略する。図1において、図示しない送信機からの送信信号は高周波部の送信入力端子11から入力され、送信増幅器21で増幅される。
【0019】
送信増幅器21で増幅出力された信号電力は、方向性結合器22、送信用サーキュレータ24を通してアンテナ端子12に出力され、図示しないアンテナから放射される。この主信号系電力はアンテナ端子12でその反射損失に応じた一部電力が反射され、送信用サーキュレータ24を通して方向性結合器2に入力される。
【0020】
同様に、送信増幅器21で増幅出力された信号電力は、方向性結合器22の結合端子側を介して振幅位相調整手段1に入力され、振幅位相調整手段1を介して方向性結合器2に入力される。振幅位相調整手段1は、方向性結合器22から分岐した送信信号の振幅と位相を調整する。
【0021】
ここで、振幅位相調整手段1は、振幅量と位相量をアンテナ端子12からの反射電力と同振幅、逆位相に制御する。そのため、送信増幅器21が動作して送信信号を出力している送信区間において、方向性結合器2の出力電力、即ち、受信用サーキュレータ32を介して受信増幅器25に入力される入力電力は、受信増幅器25が破損等を受けない電力強度まで減衰される。
【0022】
図2は振幅位相調整手段1の一例を示すブロック図である。図中41は可変位相器、42は可変減衰器、43は増幅器、44は可変位相器41の位相量と可変減衰器42の減衰量を制御する制御部である。振幅位相調整手段1は、上述のように方向性結合器22から分岐した送信信号の位相量と減衰量を制御することにより、アンテナ端子12からの反射により受信増幅器へ入力される反射電力を減衰させる。可変位相器41と可変減衰器42の配置は入れ替えても良い。
【0023】
一方、受信区間においては、アンテナ端子12からの受信信号は方向性結合器2を介して受信用サーキュレータ32に入力され、受信用サーキュレータ32から受信増幅器25に入力される。受信信号は受信増幅器25で増幅され、高周波部の受信入力端子13から受信機に入力される。
【0024】
具体的な例として、送信増幅器21の出力電力を10W(+40dBm)、アンテナ端子12の反射損失を15dB、受信増幅器25が破損等を受けない最大定格を+10dBmとする。方向性結合器22、2や送信用サーキュレータ24、受信用サーキュレータ32の通過損失は簡単のため無視するものとする。
【0025】
この条件では、振幅位相制御手段1の経路がない場合には、送信増幅器21から出力された電力がアンテナ端子12で反射され、受信増幅器25に入力される反射電力強度は、(+40dBm)−(15dB)=+25dBmとなり、受信増幅器25の最大定格+10dBmに対して15dB高い。
【0026】
方向性結合器22と2の主信号系に対する通過損失を、一般的な送受切替スイッチの通過損失0.3dBより少ない値に抑えると仮定し、方向性結合器22と2の結合量を15dBとする。振幅位相制御手段1により本経路と主信号系のアンテナ端子12からの反射電力とを方向性結合器2で逆相合成するためには、振幅位相制御手段1は利得15dB、出力電力+40dBmの性能が必要である。
【0027】
主信号系の送信増幅器21は無線特性の線形性を確保するため、送信出力40dBm出力時に、例えば、10dBcのバックオフをとって運用されており、送信増幅器21の飽和出力は(+40dBm)+(10dB)=+50dBm=100Wの能力を有するのが一般的である。しかしながら振幅位相制御手段1に必要な増幅器相当の能力は、出力信号に高い線形性は必要なく、単に出力電力+40dBmが出力可能であればよい。
【0028】
よって、主信号系の送信増幅器21が飽和出力100Wなのに対して、振幅位相制御手段11の飽和出力は10Wの出力でこと足りる。この振幅位相制御手段1の振幅位相を制御することで、アンテナ端子12からの反射電力と同一振幅、逆位相の信号を生成し、方向性結合器2による電力合成で15dBの減衰を実現でき、送信区間における受信増幅器25の破損を回避することができる。
【0029】
電力合成による15dBの減衰は、例えば、両系統の振幅誤差0dBなら位相誤差10°程度、位相誤差0°なら振幅誤差1.5dB程度に抑えることで達成できるため、容易に実現可能な性能である。
【符号の説明】
【0030】
1 振幅位相調整手段
2、22 方向性結合器
3、23 方向性結合器用終端器
11 送信機側端子
12 アンテナ端子
13 受信機側端子
21 送信増幅器
24 送信用サーキュレータ
25 受信増幅器
31 送受切替スイッチ
32 受信用サーキュレータ
33、34 サーキュレータ用終端器
41 可変位相器
42 可変減衰器
43 増幅器
44 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を増幅する送信増幅器を有する送信部と、受信信号を増幅する受信増幅器を有する受信部とを有し、
前記送信増幅器の送信信号をアンテナから送信する送信区間と、前記アンテナからの受信信号を前記受信増幅器で受信す受信区間とで、前記送信部と受信部の動作を切り替える時分割多重無線通信システムであって、
前記送信増幅器からの送信信号を分岐し、前記分岐した送信信号の振幅及び位相を調整する振幅位相調整回路を有し、前記振幅位相調整回路の出力信号を前記アンテナからの反射電力と逆相合成することによって前記反射電力を減衰させることを特徴とする時分割多重無線システム。
【請求項2】
送信信号を増幅する送信増幅器と、前記送信増幅器からの送信信号をアンテナに導く送信用サーキュレータとを有する送信部と、
前記アンテナからの受信信号を増幅する受信増幅器と、前記受信信号を前記受信増幅器に導く受信用サーキュレータとを有する受信部とを有し、
前記送信増幅器の送信信号を前記アンテナから出力する送信区間と、前記アンテナからの受信信号を前記受信増幅器で受信する受信区間とで、前記送信部と受信部の動作を切り替える時分割多重無線通信システムであって、
前記送信増幅器からの送信信号を分岐し、前記分岐された送信信号の振幅及び位相を調整する振幅位相調整回路と、
前記振幅位相調整回路からの出力信号を前記アンテナからの反射電力と合成する合成手段とを有し、
前記送信区間に前記振幅位相調整回路からの出力信号を前記合成手段により前記アンテナからの反射電力と逆相合成することによって前記反射電力を減衰させることを特徴とする時分割多重無線システム。
【請求項3】
送信信号を増幅する送信増幅器と、前記送信増幅器からの送信信号を前記アンテナに導く送信用サーキュレータとを有する送信部と、
前記アンテナからの受信信号を増幅する受信増幅器と、前記受信信号を前記受信増幅器に導く受信用サーキュレータとを有する受信部とを有し、
前記送信増幅器の送信信号を前記アンテナから出力している送信区間と、前記アンテナからの受信信号を前記受信増幅器で受信している受信区間とで、前記送信部と受信部の動作を切り替える時分割多重無線通信システムであって、
前記送信増幅器からの送信信号を分岐する第1の方向性結合器と、
前記第1の方向性結合器で分岐された送信信号の振幅及び位相を調整する振幅位相調整回路と、
前記振幅位相調整回路からの出力信号を前記アンテナからの反射電力と合成する第2の方向性結合器とを有し、
前記送信区間に前記振幅位相調整回路で前記アンテナからの反射電力と同振幅、逆位相の反射電力減衰用信号を生成し、当該減衰用信号を前記第2の方向性結合器により前記アンテナからの反射電力と逆相合成することによって前記反射電力を減衰させることを特徴とする時分割多重無線システム。
【請求項4】
送信信号を増幅する送信増幅器を有する送信部と、受信信号を増幅する受信増幅器を有する受信部とを有し、
前記送信増幅器の送信信号をアンテナから送信する送信区間と、前記アンテナからの受信信号を前記受信増幅器で受信す受信区間とで、前記送信部と受信部の動作を切り替える時分割多重無線通信システムの反射信号減衰方法であって、
前記送信区間に振幅位相調整回路により前記送信増幅器から分岐された送信信号の振幅及び位相を調整し、前記振幅位相調整回路の出力信号を前記アンテナからの反射電力と逆相合成することによって前記反射電力を減衰させることを特徴とする時分割多重無線システムの反射信号減衰方法。
【請求項5】
送信信号を増幅する送信増幅器と、前記送信増幅器からの送信信号をアンテナに導く送信用サーキュレータとを有する送信部と、
前記アンテナからの受信信号を増幅する受信増幅器と、前記受信信号を前記受信増幅器に導く受信用サーキュレータとを有する受信部とを有し、
前記送信増幅器の送信信号を前記アンテナから出力する送信区間と、前記アンテナからの受信信号を前記受信増幅器で受信する受信区間とで、前記送信部と受信部の動作を切り替える時分割多重無線通信システムの反射信号減衰方法であって、
前記送信区間に振幅位相調整回路により前記送信増幅器から分岐された送信信号の振幅及び位相を調整し、
合成手段により前記振幅位相調整回路からの出力信号を前記アンテナからの反射電力と逆相合成することによって前記反射電力を減衰させることを特徴とする時分割多重無線システムの反射信号減衰方法。
【請求項6】
送信信号を増幅する送信増幅器と、前記送信増幅器からの送信信号を前記アンテナに導く送信用サーキュレータとを有する送信部と、
前記アンテナからの受信信号を増幅する受信増幅器と、前記受信信号を前記受信増幅器に導く受信用サーキュレータとを有する受信部とを有し、
前記送信増幅器の送信信号を前記アンテナから出力している送信区間と、前記アンテナからの受信信号を前記受信増幅器で受信している受信区間とで、前記送信部と受信部の動作を切り替える時分割多重無線通信システムの反射信号減衰方法であって、
前記送信区間に第1の方向性結合器により前記送信増幅器からの送信信号を分岐し、
振幅位相調整回路により前記第1の方向性結合器で分岐された送信信号の振幅及び位相を調整し、
第2の方向性結合器により前記振幅位相調整回路からの出力信号を前記アンテナからの反射電力と逆相合成することによって前記反射電力を減衰させることを特徴とする時分割多重無線システムの反射信号減衰方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−55078(P2011−55078A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199878(P2009−199878)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】