説明

時間フィルタによる医療画像エンハンス

本発明は、シーケンスの画像のノイズを低減し、エッジをエンハンスする画像処理システムに関する。該システムは、異なるコンテントのスライスを生成する空間画像信号を分解する手段と、そのコンテントに従ってスライスに異なるフィルタリングをする時間フィルタリング手段と、時間フィルタされたスライスからシーケンスの画像を再合成する手段と、を有する。分解は、ピラミッド分解手段を用いて実行される。時間フィルタリング手段は、動き補償及び/または巡回アダプティブフィルタリングを有してもよい。このシステムは、さらに、シーケンスの画像を表示する画像化手段を有してもよい。本発明は、さらに、このシステムに結合した医療診断装置にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズの時間フィルタリング手段を含む、ノイズを有する画像シーケンス中の画像を処理する医療画像化システムに関する。本発明は、上記のシステムを含む医療診断装置にも関する。本発明は、医療用X線診断装置の製造に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
画像シーケンス中のノイズの時間フィルタリング手段を有する医療用画像化システムは、米国特許公報第US6,151,417号にすでに記載されている。このシステムは、非常に細いオブジェクト(カテーテルや光ファイバ等)を表す画像シーケンス中のノイズを、動いているその非常に細いオブジェクトを表す画像部分を除外せずにフィルタリングする手段を有する。このシステムは、ノイズのある画像シーケンス中の画像を処理する手段を有し、その処理手段は、ノイズのある画像中の与えられた場所のノイズのある時間的サンプルを抽出し、ノイズフィルタされた画像を形成するために、対応する時間フィルタされたサンプル供給する手段を含む。このシステムは以下の構成要素を含む:
一組の過去(及び最終的には将来)のフレームからの時間的シーケンス中の画像の時間フィルタリング。時間フィルタは、フレームシーケンスのコンテント(動きの激しさ、ノイズレベルの大きさ)に応じてフィルタリングパワーを変調するアダプティブプロセスを含む。
【0003】
2次元空間フィルタリング手段。この手段は、空間的にコヒーレントなサンプルをエンハンスし、前記空間的にコヒーレントなサンプルとリンクした動きの確率の尺度を提供するために、前記差異画像に適用される。既知のシステムはリアルタイムで動作可能である。オブジェクトのエッジがぼけないで、動いている非常に小さなオブジェクトが失われないように、動いているオブジェクトがある画像部分とない画像部分に時間フィルタリングを適用する。ノイズのピークは低くなる。
【0004】
既知のシステムには、少なくとも2つの問題がある。
【0005】
1)第1の問題は、動いているシャープな境界面を有するオブジェクトを表すノイズのある画像に関する。このような画像が既知のシステムで処理されると、ノイズテールが生じる。これは、提案されたフィルタが、動いている境界面またはエッジの近くにおける時間的不連続に自分を適応させてしまうことによる。時間的不連続を検出すると、それに応じて、フィルタは時間インテグレーションのパワーを最小化する。これにより、ノイズが急に大きくなる。この欠陥は、シャープなエッジの場合に特に顕著である。ノイズは、動き予測と動き補償により減衰させることができる。しかし、この補償も決して完全ではない。
【0006】
2)第2の問題は、動いているバックグラウンド領域等の空間的にゆっくり変化する領域を有する、動いているオブジェクトを表す、ノイズのある画像に関する。時間フィルタは、時間的不連続を予測することを目的としている。このような、動いている空間的にゆっくり変化する領域の時間的コントラスト値は非常に小さいので、生成する時間グラディエントは低く、ノイズと間違ってしまう。この場合、フィルタパワーは高く、ゆっくり変化する領域をスムージングしてしまうので、好ましくない。処理された画像は、その考えられている領域にあるオブジェクトの前後にトレースを残す。その他、前記のスムージングされたオブジェクトは、時間フィルタリングプロセスでぼやかされる。この状況は、強度グレディエントがゆっくり変化するシーケンスの強度が時間的にゆっくり変化する場合にも見られる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、上記欠点を克服する手段を有する画像処理システムを提案することである。具体的に、本発明によるシステムは、以下の処理手段を有する:デジタル画像シーケンスの取得;時間的シーケンスの各画像のスライス(各スライスは区別できる空間的周波数帯域を表す)と呼ばれる副画像信号への分解;及び時間フィルタされたスライスからの画像の再構成。例えば、信号分解は、周知のラプラシアンまたはガウシアンピラミッドを用いて行われ、分解された各画像に対して異なる解像度の一組のスライスができる。スライスの時間フィルタリングは、アダプティブフィルタで実行されてもよい。そのアダプティブフィルタは動き補償を有していても、及び/または再帰的アダプティブフィルタであってもよい。
【0008】
本発明は、さらに、ノイズのある画像シーケンス中の関心対象をエンハンスし、エンハンスした画像シーケンスを表示する画像観察システムにも関する。本発明は、前記システムで使用されるコンピュータにより実行可能な画像処理方法にも関する。本発明は、さらに、上記のシステムに結合した医療診断装置にも関する。この装置には、特に、画像化するオブジェクトの輝度が低い場合に、よりよい画像を供給できるという利点がある。いずれにせよ、オペレータは、画像シーケンスを表示中に、動いている非常に細いオブジェクトを正確に追跡できる。本発明は、電子的ノイズをフィルタリングしつつ、カテーテルやガイドワイヤ等の細くて動く関心対象のエンハンスができるので、例えば、心臓病学の分野に応用することができる。
【0009】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、観察システムに関し、特に、医療画像化システムに関し、及び、ノイズのある画像シーケンス中の関心対象のエンハンスと、エンハンスした画像シーケンスの表示のために、前記観察システムで使用される画像処理方法に関する。観察システムと方法は、リアルタイムで画像を取得、処理、及び表示する手段を有する。以下、本発明の観察システムと画像処理方法を、心臓病学の医学分野への応用を例にして説明する。前記のアプリケーションにおいて、関心対象は例えばカテーテルである。このオブジェクトは、血管形成と呼ばれる治療の際、一連のX線画像で観察される。このシステムと方法は、カテーテル以外の他のいかなるオブジェクトに適用してもよい。関心対象は参照画像に対して動いてもよく、背景は対象または臓器に対して動いてもよい。
【0011】
アダプティブ時間巡回フィルタリング(ATR)は、ノイズリダクション、特に、医療画像化の分野において重要な技術である。この技術は、画像シーケンスがあって、ほとんどの場合、その画像シーケンスが時間軸に沿って相関がほとんど無いノイズにより損なわれている時はいつでも適用できる。ATRフィルタリングの基本原理は、各ピクセルに対して、画像中の同じ空間的位置にあるが、時間軸に沿って異なる画像に属する一組のピクセルの値の重み付け平均を求めることにある。画像を損なっているノイズはこの軸にそってほとんど相関がないので、この平均化の結果得られる画像中のノイズレベルは低下する。通常、この重み付け平均化は巡回フィルタにより実現される。
【0012】
信号を保存するために、考えられているオブジェクトの自然な動きや明らかな動きを処理しなければならない。例えば、画像化システムは、各ピクセルにおいて、観察された時間的不連続の関数として時間巡回フィルタの積分係数を適応させる手段を有する。このように、与えられたピクセルの時間的不連続がノイズレベルよりもかなり大きい場合、動きを調べ、このピクセルの位置におけるフィルタリングを弱くし、必要に応じて完全にキャンセルする。逆に、動きの不連続性の大きさがノイズレベルのそれと同じオーダーである場合、そのピクセルの位置で動きがないことが確かな場合、フィルタリングのレベルを最大にする。
【0013】
しかし、この方法には少なくとも2つの欠点がある。
【0014】
一方では、画像の動いているオブジェクトのエッジ(動いているエッジと呼ぶ)の近くにおいて、フィルタのスイッチは自然にオフとなる。これにより、エッジの表示にポジティブな効果が生じるが、そのエッジ近くでローカルなノイズが非常に大きくなってしまう。
【0015】
他方では、大きなゆっくり動く、空間的にゆっくり変化するバックグラウンドの塊がある場合、時間的不連続はほんの少しだけであり、ノイズレベルより大きくはない。その場合、その大きな塊は時間的に積分されるので、幾分人工的に見える。
【0016】
本発明は、これらの欠点を両方とも克服する手段を有する画像処理システムを提案する。図1を参照して、このシステムは、
1)例えば、周知のラプラシアンまたはガウシアン複数解像度ピラミッド分解を用いて、スライスと呼ばれる複数の副画像中の考えられているシーケンスの画像Iのスペクトルをスライスする分解手段10と、
2)例えば、高周波にはラプラシアンピラミッドを用いたが低周波には用いなかった場合の、高周波に関係するピラミッドのすべてのサブバンドまたはスライスを時間フィルタリングするフィルタリング手段20と、を有する。これにより、複数の時間フィルタが異なるスライスに適用される。それぞれの時間フィルタは別々にチューニングされ、このチューニングは入力画像とその関係するスライスのスペクトルコンテントに適応される。好ましい実施形態において、本システムは、低周波数にはかけないが、ピラミッドの全てのサブバンドにアダプティブ時間巡回フィルタ(ATR)を適用するが、手段を有する。
3)低周波数から、かつフィルタされたサブバンドから得られた画像Rを再合成する再合成手段30。
【0017】
本発明のシステムは2つの問題を解決する。一方では、このシステムは、低周波数には手をつけず、空間的にゆっくり変化するバックグラウンドの塊の表示を可能とする。主にスペクトルの低周波数部分にあるからである。他方、このシステムは、他のサブバンドに別のATRフィルタを適用する手段を有するので、このシステムにより、スペクトルのサブバンドの一部において、時間的な変化が少ないエッジピクセルをフィルタすることができる。
【0018】
図2を参照して、本発明による画像化システムは、より具体的に、以下の構成要素を有する:
1)画像シーケンスの画像Iのサブサンプリング(分解と呼ばれる)を実行する処理手段10。この処理手段は、N個のサブサンプリングされた画像を生成する。例えば、ラプラシアン分割の場合、これによりシーケンスの各画像に対して、サブバンドまたはスライスBi(i=0,...,N−1)と、低解像度スライスHi(i=0,...,N−1)が得られる。
【0019】
時間フィルタリング手段、好ましくは、アダプティブ時間巡回(ATR)フィルタ20。これは、サブサンプルBiと低解像度副画像HNを受け取り、時間フィルタされたサブサンプルFiとFNを生成する。
【0020】
再合成を実行する処理手段30。時間フィルタされたサブサンプルFiから、フィルタされた画像信号Rを生成する。
【0021】
図2を参照して、分解手段10は、ラプラシアンまたはガウシアンの複数解像度ピラミッド分解段階を有してもよい。ラプラシアン分解の場合、図3に示したように、入力画像Iのスペクトル分解をする。
【0022】
図4は、シーケンスの画像Iの、解像度が異なる4つの副画像への分解を示している。
【0023】
図2により示された例の分解手段は、3つの分解モジュール11、12、13を有する。これらの分解モジュールは3つのサブバンドB0、B1、B2(解像度の高い順)と、処理されない低周波数帯域のスライスH3を生成する。
【0024】
分析または分解はシーケンスの各画像に対して実行される。
【0025】
2)フィルタリング手段20は、複数のフィルタリングモジュール21、22、23、24を有し、各モジュールはそれぞれ対応するサブバンドすなわちスライスB0、B1、B2、及び(結局)低解像度のH3に適用される。これらのモジュールの時間フィルタは同一でも異なってもよい。その時間フィルタは、積分のパワーを制御するパラメータにより特徴付けられる。これらの複数の時間フィルタは、最も高い周波数のサブバンドを強くフィルタし、最も低い周波数のサブバンドを弱くフィルタするようになっている。
【0026】
異なるスライスは個別にフィルタされるので、フィルタのこのアンサンブルにより、上述の2つの問題を解決することができる。低周波数サブバンドに適用されたモジュール24は、低周波数を保存するために、アクティブでも弱いか、アクティブでない。しかし、サブバンドB0中の高周波数は強くフィルタされる。
【0027】
3)シーケンスの画像の再合成を実行する処理手段30。各画像の再合成の結果Rにおいて、低周波数は時間フィルタされていないか、弱くしか時間フィルタされていない。これにより、上記の第2の問題が解決する。それにも拘わらず、この結果Rにおいて、高い周波数は強くフィルタされるので、上述の第1の問題が解決する。
【0028】
スライスは小さいものが多数あるか、大きなものが少数だけある。スライス毎にその貢献は異なる。特に、最も高い周波数における貢献が大きい。事実上、高い周波数はなめらかな動きのシャープなエッジで特徴付けられる。よって、最も高い周波数において最も強いフィルタリングをしようすることが好ましい。
【0029】
例えば、血管の断面等のオブジェクトを有する画像シーケンスを考える。壁は血圧により動いているエッジである。壁は高い周波数のスライスに表されており、強く時間フィルタされるであろう。内腔は低周波数のスライスにあり、フィルタされないか、弱く時間フィルタされる。再合成した画像が最もよくなる。先行技術のシステムを用いるとこのようにはならない。その理由は、高周波数の壁と低周波数の内腔が同じようにフィルタされるからであろう。
【0030】
動きの空間的不連続性に関して、この不連続性はスライス中に均一には分布しない。時間的不連続性はスライス毎に異なってもよい。本発明の時間フィルタのシステムにより、この不均衡が解消される。
【0031】
モジュール20の時間フィルタは、例えば、米国特許第US6,151,417号に記載されたものである。記載されていないフィルタも使用することができる。時間フィルタは、再帰的であってもよく、動き補償及び登録する補償手段を含んでいてもよい。この特許には関数fが開示されている。この関数fは、積分の強さを制御するものである。関数の高さは積分パワーを与え、スロープはファジーさを規定し、横切片はノイズと動きの間の分離を特定する。これらのパラメータは各スライスについて適応させてもよい。
【0032】
図5は、医療診断装置50を示す図である。本装置は、画像シーケンスのデジタル画像データを取得する手段51を有し、上述の処理方法によりこれらのデータを処理する、上述の医療観察システム53と結合している。医療観察システムは、一般に、診療室または診療室の近くにおいて、リアルタイム画像を処理するために使用される。本発明のステップを格納した医療画像に、例えば医療パラメータを推定するために適用した場合、格納された画像のデータを処理するシステムは、医療観察ステーションと呼ばれる。医療検査装置は、接続57により画像データをシステム53に供給する。システムは処理した画像データを表示手段及び/または記憶手段に提供する。表示手段54はスクリーンである。記憶手段は、システム53のメモリである。前記記憶手段は、代替的に外部記憶装置であってもよい。この画像観察システム53は、本発明による方法ステップの機能を実行するように構成された、好適にプログラムされたコンピュータ、または、LUT、メモリ、フィルタ、論理演算子等の回路手段を有する特定用途プロセッサを有する。システム53は、キーボード55とマウス56も有する。マウスのクリックや特別なプッシュボタンにより駆動されるアイコンがスクリーンに設けられ、ユーザが、選択したフェーズにおいてシステムの処理手段を開始、長さを制御、または停止させるための制御手段58を構成する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のシステムの手段を示す機能ブロック図である。
【図2】複数解像度スキーム内の時間フィルタリングを示す、本発明のシステムの手段を示す、より詳細な機能ブロック図である。
【図3】ラプラシアンピラミッド分解の場合の信号スペクトルスライシングを示す図である。
【図4】図2の画像分解を示す図である。
【図5】本発明のシステムを用いる医療診断装置を示す機能ブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーケンスの画像のノイズを低減し、エッジをエンハンスする画像処理システムであって、
異なるコンテントのスライスを生成する空間画像信号を分解する手段と、
前記コンテントにより前記スライスに異なるフィルタリングをする時間フィルタリング手段と、
前記時間フィルタされたスライスから前記シーケンスの画像を再合成する手段と、を有することを特徴とする画像処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、
前記分解は、ピラミッド分解手段を用いて実行されることを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のシステムであって、
前記時間フィルタ手段は、アダプティブフィルタリングを有することを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項1に記載のシステムであって、
前記時間フィルタタリング手段は、動き補償を有することを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のシステムであって、
前記時間フィルタ手段は、巡回アダプティブフィルタリングを有することを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか一項に記載のシステムであって、
前記シーケンスの画像を表示する画像か手段をさらに有することを特徴とするシステム。
【請求項7】
好適にプログラムされたコンピュータ、または画像を処理するように構成された回路手段を有する特定目的プロセッサを有する画像化装置であって、請求項1ないし6いずれか一項に記載のシステムで使用されることを特徴とする画像化装置。
【請求項8】
コンピュータを請求項1ないし6いずれか一項に記載のシステムとして機能させる、画像処理を実行するための一組の命令を有することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項9】
医療画像シーケンスを取得する手段と、請求項1ないし6いずれか一項に記載の、前記画像シーケンスを処理して表示する観察システムとを有する、医療検査画像化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−505668(P2007−505668A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526711(P2006−526711)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【国際出願番号】PCT/IB2004/002891
【国際公開番号】WO2005/029409
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(501344315)コニンクリユケ フィリップス エレクトロニクス エヌ.ブイ. (174)
【Fターム(参考)】