説明

暗視野対物レンズ装置

【課題】 暗視野観察用の対物レンズ装置は、照明装置を内蔵しない場合は、照明光を導入する構成が複雑となり、充分な光量を対象物に与えられない。またLEDを対物レンズ装置の先端に設けた構成では、コリメートした平行光を対象物に照射することができず、暗視野観察のためには充分ではない。また、暗視野観察用対物レンズ装置は明視野顕微鏡では使用できない。
【解決手段】 対物レンズ系の外側に円輪状のLED照明装置を設け、このLED照明装置からの出射光を先端のメリジオナル面で平行な光に変換して出射する光学素子によって、平行光に変換して斜めに観察対象物に照射する。対物レンズ装置の対物レンズ系を収納する内筒外周にネジ部を設け、明視野顕微鏡のレボルバに取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象物に暗視野照明を施してその拡散あるいは回折光を対物レンズに取り込んで観察する暗視野観察用顕微鏡で用いられる暗視野対物レンズ装置に関する。本発明は、暗視野対物レンズ装置の照明および取り付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ICパターンや液晶用ガラスの傷やゴミの有無の検査は、暗視野照明による観察が適しており、暗視野照明による観察が行われる。この暗視野照明は、光軸上で観察対象に対して照明光を照射する明視野照明と異なり、観察対象物の横あるいは斜め方向から光を当て、観察対象からの回折光あるいは拡散光を対物レンズに取り込んで観察するものである。
【0003】
この暗視野観察用の対物レンズ鏡筒は、観察対象物からの回折光あるいは拡散光を採り入れる対物レンズ系が収納された内筒と暗視野照明用の平行光を導く導光用の中空の外筒とからなるものである(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−281098号公報
【特許文献2】特開2000−121949号公報
【特許文献3】特開2006−039418号公報
【特許文献4】特開2001−154103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような、暗視野照明用の平行光を対物レンズ系の外側から導く方式の暗視野用対物レンズには次の問題があった。
【0006】
光源装置と光を平行光に変換するコリメート光学素子を備えた照明装置を顕微鏡の光学系とは別途に設け、そこから平行光にした光を顕微鏡の光学系に採り入れ、暗視野用対物レンズ鏡筒に導く光学系を備える必要があり、暗視野照明光の対物レンズ系から接眼レンズ系の光学系に漏れ込み(迷光)が発生するため、観察対象物からの回折光あるいは拡散光を見えにくくしてしまう。
【0007】
暗視野用対物レンズ鏡筒の暗視野照明を導く外側の環状の空間には、外筒を支えるため内筒との間に少なくとも3本の腕が必要であり、その影が照明光としてでてしまい、その影の部分により観察対象領域に照射する光量が少なくなる。またその影の影響を小さくするための光学素子を必要とする。
【0008】
照明光を対物レンズ系に導入しないように、円形のフィルタを設ける必要があり、そのため、暗視野観察領域に持ち込める光量が少なくなる。
【0009】
暗視野用対物レンズの鏡筒は、暗視野照明用の導光用外筒が設けられているため、明視野対物レンズ鏡筒に比べて径が大きく、明視野顕微鏡のレボルバにそのまま装着することはできず、明視野顕微鏡で暗視野顕微鏡観察はできなかった。また、明視野観察だけを行うとすると、明視野用対物レンズ鏡筒は暗視野顕微鏡のレボルバに対して径が足りないため、暗視野顕微鏡のレボルバに取り付けるには別途アタッチメントを必要とした。
【0010】
また、特許文献2のように、直接LEDで対象物を照明しても、これは明視野観察と同様であり、メリジオナル面で平行光を対象物に当てるものではないため、観察対象からの回折光や拡散光を観察する暗視野観察には向かない。
【0011】
さらに、特許文献3は、LED照明を用いるが、LED光を平行光として撮影カメラ、対物レンズ系が収納された内筒の外側を導光するため、従来の暗視野照明用の対物レンズ鏡筒と同様の問題が生ずる。また、この特許文献3の技術では、鏡筒内にカメラも設けるため同じ対物レンズを用いて明視野観察も併用することはできない。また、倍率の異なった対物レンズを一つの顕微鏡に取り付けて異なる倍率で観察することもできない。
【0012】
また、特許文献4は、暗視野用のリング状のLED照明を対物レンズ鏡筒とは別に設けるが、それらをどのようにメリジオナル面で平行光にして観察対象に照射するかについての提案はなく、顕微鏡内に設けられるため、対物レンズの倍率によって観察対象物への照射焦点距離が変化する場合を考慮したものではない。
【0013】
本発明は、このような問題を解決するもので、簡便であり、かつ充分な光量を観察対象領域に照射して暗視野観察を可能とする暗視野用対物レンズ装置を提供することを目的とする。また、本発明は、明視野顕微鏡のレボルバにそのまま取り付けて、暗視野観察が可能である暗視野対物レンズ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
対物レンズ鏡筒の対物レンズ系を収納する内筒の外側にリング状にLED素子を光源とするLED照明装置を設ける。そして、メリジオナル面で平行光に変換して観察対象物に斜めに出射する光学素子をLED素子と観察対象物との間に設け、LED素子からの照明光をメリジオナル面で平行光に変換して、観察対象領域に照射する。観察対象物から拡散あるいは回折された光は対物レンズ系に取り込まれ、顕微鏡の接眼レンズ光学系に導かれ、カメラ装置で撮影して画像処理を施され、あるいは目視観察される。この暗視野対物レンズ装置の顕微鏡への取り付け径は、内筒の端部外周に設けられたネジによって明視野顕微鏡のレボルバに螺合できるので、明視野観察用顕微鏡をそのまま暗視野観察に使用することが可能である。
【0015】
斜めに出射する光学素子としては、リング状のレンズや非球面ミラーおよびト口イド面レンズを用い、LED照明装置が収納された外筒の先端部に設け、観察視野部分にメリジオナル面で平行光を照射する。対物レンズの倍率により視野がそれぞれ異なり、さらに作動距離が異なるので、対物レンズの視野と作動距離によって異なる斜めに出射する光素子を用いる。
【0016】
斜めに出射する光学素子による出射光のメリジオナル面で平行度はLED素子と斜めに出射する光学素子のとの間隔、リングの幅((D−d)/2および斜めに出射する光学素子の焦点距離、視野で決まるので、下記条件を満たすように構成されていることがよい。
【0017】
リング状のレンズの場合、
リング状のレンズの焦点距離 0.9WD>f>1.1WD
照射域(視野)S≦(D−d)/2
LED光源装置と斜めに出射する光学素子の距離Lは、L>3.3(D−d)
ただし、WDは明視野レンズ作動距離、Dはリングの外径(外筒の内径)、dはリングの内径(対物レンズ系が収納された中筒の外径)とすることがよい。
【0018】
斜めに出射する光学素子が非球面ミラーの場合、
照射域(視野)Sは、S≦(D−d)/2
LED光源装置と非球面ミラーとの距離Lは、L>3.3(D−d)
とすることがよい。
【0019】
斜めに出射する光学素子が、斜めに出射する光学素子は、対物レンズ系部分が円状にくり抜かれたリング状のト口イド面レンズである場合、
リング状のト口イド面レンズがメリジオナル面での出射角αは、
α≧tan-1[(S+d)/2WD]
ト口イド面レンズの幅bは、b≧S×Cosα
LED光源装置とト口イド面レンズの距離Lは、L=fb
とすることがよい。
【0020】
光源の電源は外部から導入することもできるが、リング状の電池を用いれば、暗視野観察対物レンズ鏡筒を単体で顕微鏡に取り付けるだけで暗視野照明が可能となり、観察作業を容易にできる。また照明用電源の配線が不要となる。この電池を二次電池にし、鏡筒外筒に充電用端子を設けておけば、充電により常に使える状態に保つことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、暗視野観察用の光源を対物レンズ鏡筒内に内蔵し、しかも充分な光量を暗視野観察視野内に照射できるので、暗視野観察による検査機能を向上させることができる。また、対物レンズ単体での取り替えが可能であるため、検査の作業性も向上することができる。また、明視野顕微鏡に取り付けて使用できるため、特別に暗視野対物レンズ取り付け用レボルバを備えた暗視野顕微鏡を用いる必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0023】
(第一実施例)
図1は、本発明の第一実施例を示す対物レンズ鏡筒の断面図を示す。
【0024】
本実施例は、同心円の内筒1と外筒2とからなり、内筒1は、対物レンズ系3が収納されている。内筒1の観察物側の外径はd(リング内径)であり、対物レンズで明視野観察する場合の明視野レンズ外径にあたる。外筒2は、内筒1と同心円であり、内筒1との間のリング状の空間に、リング状の電池4、LED素子6がとり付けられた基板5、LED素子6からの照明光をメリジオナル面で平行光に変換して暗視野照射域Sに出射するリング状のレンズ6とが収納されている。基板5には、LED素子の点灯制御用の電源スイッチ8が設けられて外筒2の表面に現れており、また電池4は充電可能な二次電池であり、その充電用の端子9が外筒2の適宜な位置に設けられている。
【0025】
内筒1の顕微鏡への取り付け側の上部外周には、顕微鏡のレボルバへの取り付け(螺合)用のネジ部10が設けられている。内筒1の外径は明視野対物レンズ装置の径と同じ(例えばφ20)であるので、そのまま明視野顕微鏡のレボルバに螺合できる。これにより明視野顕微鏡を用いて暗視野観察が可能となる。第一実施例の暗視野対物レンズ装置を明視野顕微鏡のレボルバ11に取り付けた様子を示す断面図を図2に示す。
【0026】
明視野顕微鏡には明視野照明系12が設けられており、明視野観察を行うときには、この明視野照明系12により照明を行い、暗視野観察を行うときには、暗視野対物レンズ装置の電源スイッチ8をオンにして暗視野照明を行う。これにより、明視野顕微鏡で、明視野観察、暗視野観察の双方を行うことが可能である。
【0027】
レンズ7は内筒1の外径に相当する系が打ち抜かれたリング状であり、外筒2の先端部に設けられている。レンズ7は、リング状のLED素子6からの照明光を暗視野照射域Sにメリジオナル面で平行な光に変換して斜めに出射するもので、
その焦点距離fは、対物レンズの作動距離(観察対象物と対物レンズとの距離)をWDとするとき、0.9WD>f>1.1WDの関係に設定されている。
【0028】
照射域Sは、内筒の外径(対物レンズ系が収納された内筒の外径)d、外筒の内径をDとするとき、S≦(D−d)/2の関係にあることがよい。
【0029】
さらにLED素子6とレンズ7との距離Lは、L>3.3(D−d)の関係にあることがよい。
【0030】
LED素子からの照明光を斜めに出射するレンズ7からの出射光のメリジオナル面での平行度は、距離L、リングの幅((D−d)/2)およびレンズの焦点距離f、視野Sからきまり、暗視野観察のためのコリメートされた照明光に必要な条件である。また斜めに出射された照明光の反射光が直接対物レンズに入らないようにするための条件でもある。
【0031】
なお、上記条件は、LED素子として、砲弾型LEDを用い、その照明光の拡がり角度が15°以下であることを条件とした。
【0032】
仮に拡がり角度が15°以上のものであると、単体のレンズ7によって平行度の高い照明光を斜めに出射することは難しくなる。
【0033】
(第二実施例)
つぎに第二実施例として、LED素子からの照明光を非球面ミラーで照射域Sに照射する暗視野観察用対物レンズ装置の例を図3を参照して説明する。
【0034】
図3は、外筒2の先端に非球面ミラー13を設けた対物レンズ装置の断面図である。非球面ミラー13以外の構造は第一実施例と同様であるので、非球面ミラー以外の説明は省略する。
【0035】
この第二実施例では、照射域Sは、第一実施例と同様で、内筒の外径(対物レンズ系が収納された内筒の外径)d、外筒の内径をDとするとき、S≦(D−d)/2の関係にあることがよく、さらにLED素子6と非球面ミラー13との距離Lは、L>3.3(D−d)の関係にあることがよい。
【0036】
非球面ミラー13は、トロイド面を形成し、入射した光をメリジオナル面で平行度のある光に変換できる。このため、非球面ミラー13を用いて、リング状のLED素子からの照明光をメリジオナル面で平行度のある光に変換して照射域Sに斜めに出射し、暗視野観察用の照明を行うことが可能である。
【0037】
(第三実施例)
つぎに第三実施例として、LED素子からの照明光をリング状のトロイド面レンズで照射域Sに照射する暗視野観察用対物レンズ装置の例を図4を参照して説明する。
【0038】
図4は、外筒2の先端にトロイド面レンズ14を設けた対物レンズ装置の断面図である。この第三実施例では、LED素子の取り付け構造が第一実施例、第二実施例と異なり、LED素子を照射域Sに対して光軸が変化することなく斜めに照明されるように、内筒2に対してLED素子を収容する外筒2の先端部を大きく拡げた円錐状の形態とした。すなわち、内筒1の中程から、先端にかけて傘状になるようにリング状のLED素子、基板、トロイド面レンズ14を収容する外筒2を取り付ける。そして、LED素子6からの光をリング状のトロイド面レンズ14によりメリジオナル面で平行な光に変換して照射域Sに照射する。
【0039】
内筒1の顕微鏡側取り付け部の径は明視野対物レンズ装置の径と同じであり、ここに明視野顕微鏡のレボルバに取り付けるためのネジ部10が設けられており、明視野顕微鏡のレボルバに直接取り付けることができる。
【0040】
この第三実施例は、第一実施例や第二実施例のように、光軸を斜めに変換することなく、LED素子6−リング状トロイド面レンズ14−照射域Sとは光軸変化することなく直線で結ばれる関係にある。
【0041】
ここで、トロイド面レンズ14の出射角α、トロイド面レンズの幅b、LED素子とトロイド面レンズとの距離Lとの関係は、α≧tan-1[(S+d)/2WD]
ト口イド面レンズの幅bは、b≧S×Cosα、LED光源装置とト口イド面レンズの距離Lは、L=fbとすることがよい。
【0042】
これにより、LED素子からの照明光はメリジオナル面で平行な光に変換されて観察対象域Sに斜めに出射される。
【0043】
第二実施例および第三実施例も第一実施例と同様に内筒1の端部外周にネジ部が設けられており、明視野顕微鏡のレボルバに取り付けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、簡便な照明装置付き暗視野観察用対物レンズが提供され、暗視野観察用の光学装置を簡便化でき、検査装置の自動化等をさらに図ることが可能となる。IC、液晶産業への応用に資することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明第一実施例を示す断面図。
【図2】本発明第一実施例の暗視野対物レンズ装置を明視野顕微鏡のレボルバに取り付けた様子を示す断面図。
【図3】本発明第二実施例を示す断面図。
【図4】本発明第三実施例を示す断面図。
【符号の説明】
【0046】
1 内筒
2 外筒
3 対物レンズ系
4 電池
5 基板
6 LED素子
7 リング状レンズ
8 電源スイッチ
9 充電用端子
10 ネジ部
11 レボルバ
12 明視野照明系
13 非球面ミラー
14 トロイド面レンズ
S:照射域(視野)
d:リング内径(明視野レンズ外径)
D:リング外径
WD:明視野レンズ作動距離
L:LED光源装置と斜めに出射する光学素子の距離
α:リング状のト口イド面レンズがメリジオナル面での出射角
b:ト口イド面レンズの幅:
fb:メリジオナル面で状のト口イド面レンズのバックフォーカス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズ系が収納された内筒と、
前記内筒の外側にリング状に設けられ、照明光を出射するLED光源装置と、このLED光源装置からの光をメリジオナル面で平行光に変換して対象物に斜めに出射する光学素子とを収納する前記内筒と同心円の外筒と
を備え、
前記内筒の顕微鏡取り付け側の外周部分が露出し、当該露出部分に明視野顕微鏡のレボルバに螺合するためのネジ部が設けられた
暗視野対物レンズ装置。
【請求項2】
前記斜めに出射する光学素子は、対物レンズ系部分が円状にくり抜かれたリング状のレンズであり、前記外筒の先端部分に取り付けられ、且つ下記条件を満たすように構成されている請求項1記載の暗視野対物レンズ装置。
前記斜めに出射する光学素子の焦点距離fは、0.9WD>f>1.1WD
照射域(視野)Sは、S≦(D−d)/2
LED光源装置と斜めに出射する光学素子の距離Lは、L>3.3(D−d)
ただし、WDは明視野レンズ作動距離、Dはリングの外径(外筒の内径)、dはリングの内径(対物レンズ系が収納された中筒の外径)とする
【請求項3】
前記斜めに出射する光学素子は、前記外筒の先端に設けられた非球面ミラーであり、且つ下記条件を満たすように構成されている請求項1記載の暗視野対物レンズ装置。
照射域(視野)Sは、S≦(D−d)/2
LED光源装置と非球面ミラーとの距離Lは、L>3.3(D−d)
【請求項4】
前記LED照明装置は、前記外筒に照射域に向けて照射光が直進するように設けられ、
前記斜めに出射する光学素子は、対物レンズ系部分が円状にくり抜かれたリング状のト口イド面レンズであり、前記外筒の先端部分に取り付けられ、且つ下記条件を満たすように構成されている請求項1記載の暗視野対物レンズ装置。
リング状のト口イド面レンズがメリジオナル面での出射角
α≧tan-1[(S+d)/2WD]
ト口イド面レンズの幅bは、b≧S×Cosα
LED光源装置とト口イド面レンズの距離Lは、L=fb
【請求項5】
LED光源装置は充電可能な電池を内蔵した請求項2ないし4記載の暗視野対物レンズ装置。
【請求項6】
前記外筒に充電用端子および暗視野照明オンオフ用スイッチが設けられた請求項5記載の暗視野対物レンズ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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