説明

曝光耐性を有する可塑性油脂組成物及びこれを用いたベーカリー食品またはその生地

【課題】本発明の目的は、曝光耐性の有するバター由来の油脂及びこれを用いたベーカリー食品またはその生地に関するものである。
【解決手段】本発明は、バター由来の油脂にトコフェロール及びポリフェノール系抗酸化剤を含有した曝光耐性可塑性油脂組成物であり、シート状の可塑性油脂組成物である。またこの可塑性油脂組成物を使用したベーカリー食品またはその生地である。そのベーカリー食品がペストリーである食品またはその生地である。可塑性油脂組成物中にトコフェロール、ポリフェノール系抗酸化剤(ルチン及び/又はヤマモモ)を含有するベーカリー食品にバター風味を損ねることなく賞味期限が延長でき、曝光耐性のある製品が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曝光耐性を有する可塑性油脂組成物及びこれを用いたベーカリー食品またはその生地に関する。
【背景技術】
【0002】
バター使用のパイ等のペストリーは風味の変化が大きく賞味期間が短い。特に蛍光灯などの光照射下で、風味変化が加速されたために、容器や展示の制約があり、曝光下の保存が困難であった。
【0003】
購入者にとってパイ菓子が見えない容器にあるため、見ての判断を出来ないことがあり、場合によっては購買意識を低下させる要因となっている。またパイ菓子製造者にとっても包材のコストも多くかかると共に、賞味期限が他の焼き菓子より短いため詰め合わせ菓子での組み合わせの制約があった。
【0004】
これまで賞味期限を延長する方法としてバター風味安定性のある植物性油脂を配合することが行われているが、バターの持つ良好な風味が減少する傾向であった。またバターには酸化防止剤の添加はされていないのが現状である。
【0005】
特許文献1では天然物を起源とするヤマモモ抽出物が食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、又は飼料などの製品に用いて、油脂や油脂類の酸化による酸敗臭の発生、変色や樹脂化などによる品質劣化を防止しようとすることが開示されているが曝光耐性については教示がない。
【特許文献1】特開平9−87619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようにバター等のペストリーは、日持ちが悪く、曝光下の保存が困難であったのが現状である。
本発明は曝光耐性のあるバター、コンパウンドマーガリン、可塑性油脂組成物及びその利用食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究を行い、パイ菓子等作成する時に、数々の抗酸化剤を試した結果、特定の組み合わせのみにこの曝光耐性効果が得られることを見出した。即ち本発明の第1はバター由来の油脂、トコフェロール及びポリフェノール系抗酸化剤を含有することを特徴とする曝光耐性を有する可塑性油脂組成物である。第2は上記第1のポリフェノール系抗酸化剤がルチン及び/又はヤマモモである。第3はシート状である第1の可塑性油脂組成物である。第4は第1の可塑性油脂組成物を使用してなる曝光耐性のあるベーカリー食品またはその生地である。第5はベーカリ食品がペストリーである第4の食品またはその生地である。
【発明の効果】
【0008】
バター由来の油脂にトコフェロール及びポリフェノール系抗酸化防止剤を配合する事で、曝光耐性の有するベーカリー食品またはその生地を提供する事が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
バター由来の油脂はバターそのもので、スイートバターや発酵バターを使用出来る。またバターを配合したコンパウンドマーガリンであっても良い。
可塑性油脂はバター由来の油脂の他に各種の動植物性油脂及びそれらの硬化油脂の単独又は2種以上の混合物或いはエステル交換、分別などの数々の化学処理又は物理処理を施したものが例示出来る。かかる油脂としては、大豆油、綿実油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、パーム油、菜種油、米ぬか油、ゴマ油、カポック油、ヤシ油、パーム核油、カカオ脂、乳脂、ラード、牛脂、魚油、鯨油等の加工油脂(融点10〜45℃程度のもの)が例示される。可塑性油脂は乳化剤、香料、着色料無添加でも使用出きる。
【0010】
トコフェロールは、天然の植物から抽出した精製品でも未精製品でもよく、合成品でもよい。また、α−トコフェロール等の単品でもα、β、γ、δートコフェロールの混合物でもよい。また、油脂、デキストリン等で希釈された製剤でもよい。市販品としては理研ビタミン株式会社製トコフェロール製剤(商品名:理研Eオイル805−D、総トコフェロール64%含有)などが例示出きる。
本発明の可塑性油脂組成物中に用いるトコフェノールの含量としては0.006〜0.7重量%、好ましくは0.03〜0.4重量%、最も好ましくは0.05〜0.2重量%の範囲で使用するのが望ましい。
【0011】
ポリフェノール系抗酸化剤は、ルチンやヤマモモが例示され、いずれも市販品として入手可能である。ただしルチンは元来、水にはほとんど溶けないが、酵素処理され、水溶性を格段に高めたものが特に適しており、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のルチン系酵素処理品(商品名:サンメリンАOー1007 ルチン15%含量)が例示出きる。
本発明の可塑性油脂組成物中ルチン酵素処理品のルチンの含量は0.015〜0.4重量%、好ましくは0.025〜0.35重量%、最も好ましくは0.026〜0.3重量%の範囲で使用が望ましい。ルチンの使用量が少なすぎると、期待される効果が得られにくく、多すぎると、ベーカリー製品の風味が苦くなる。
【0012】
ヤマモモ抽出物はヤマモモ科植物として、ヤマモモ属ヤマモモ及び/又はヤチヤナギから有機溶剤による有効成分の抽出に先立って、ヤマモモ科の植物の樹皮、根茎、枝または葉などを粉砕機を用いて粉砕し、ヤマモモ科植物粉砕物を得る。該植物粉砕物からタンニンなどの水溶性物質を除去することにより、熱安定性のすぐれた抗酸化防止剤を使用する。本発明では酵素処理されたことにより、水溶性を格段に高めたものが適しており、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のヤマモモ抽出物(商品名:サンメリンYーАF ヤマモモ20%含量)が例示出きる。
本発明の可塑性油脂組成物中ヤマモモの含量は0.02〜0.5重量%、好ましくは0.03〜0.45重量%、最も好ましくは0.03〜0.4重量%の範囲で使用が望ましい。
【0013】
本発明の可塑性油脂組成物を製造する設備としては、上記成分を溶解しコンビネーター、コンプレクター、パーフェクター、オンレーターなどで冷却して可塑性化することが例示されるが、充分な可塑性を油脂に与える設備であれば特に問わない。
【0014】
本発明の可塑性油脂油脂組成物の形状としては、パイ等ペストリーなどの生地に使用する上でシート状が好ましいが、キューブ状、ペレット状、ペンシル状、ストロー状、ブロック状であっても良い。本発明においてはパイ等ペストリーなどの積層組織を作る機能があれば特に問わない。
【0015】
本発明においてベーカリー食品とは、小麦粉を代表とする澱粉含有物と油脂、砂糖、鶏卵などを混合しオーブンにて焼成した食品である。ベーカリー食品には、ペストリー、パン、ビスケット、クッキー、クラッカー、サブレ、パウンドケーキ、シュー等があげられる。
【0016】
本発明においてペストリー生地とは、小麦粉を代表とする澱粉含有物と、油脂を層状に折り込んだ層状構造を有するベーカリー生地である。ペストリー生地は、パイ生地、イーストパイ生地、デニュッシュ生地などがある。
パイ生地の製法には、折りパイ製法、練りパイ製法、練り折りパイ製法などがあるが、本発明においては何れの製法も実施できる。
澱粉含有物には小麦、大麦、米、トウモロコシ等の穀物、或いは、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、レンコン等を原料とするスターチ、片栗粉等の澱粉、化工澱粉、デキストリン類等が挙げられ、目的の風味、食感等に応じて適宜選択し、これらを単独であるいは組み合わせて使用することができる。これらの原料の中で小麦粉が好ましく、ロール粉砕とふすまの篩別など常法により製造されたものであればその種類に制限はなく、例えば強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、超薄力粉など含有グルテンの量を問わない。ペストリー生地には必要に応じ、全粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、牛乳などの乳製品や鶏卵、砂糖、香料、乳化剤などの食品素材、食品添加物が使用される。
【実施例】
【0017】
以下に本発明の実施例を示し本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実 施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部は、いずれも重量基準を意味す る。
【0018】
実施例1
加熱溶解したバター100部に対し、トコフェロール製剤0.1部(理研ビタミン社製 理研Eオイル805−D)、ヤマモモ抽出物0.6部(三栄源エフ・エフ・アイ社製 サンメリンYーАF)を添加し攪拌乳化する。これを急冷、レスチングチューブを通し、厚み2cmのシート状に伸ばした可塑性油脂組成物(可塑性油脂組成物に対しトコフェロール0.064重量%、ヤマモモ0.12重量%含有)を得た。このシート状の可塑性油脂組成物を賽の目より大きめに切った(2cmx4cmx2cm角)。パイ生地は一般的な練りパイの作成方法により作成した。強力粉1400部、薄力粉600部に上記可塑性用油脂組成物を1700部を加え低速で可塑性油脂組成物の表面に小麦粉が十分着くまでミキサー(愛工舎製作所製)にて攪拌した。その後食塩、水を加え中低速で全体がまとまるまで攪拌した。出来上がった生地を取り出し、麺棒でシート状に伸ばし、3つ折り、4つ折りを2回行い、最終的に厚み1.7mm〜1.9mmに伸ばしたパイ生地の調製した。パイの成型、焼成の調製はパイ生地の全面にピケを入れ、抜き型で木の葉型に成型した。成型したパイ生地を天板に置き、砂糖を振りかけ、オーブンで185〜195℃、20〜25分焼成した。焼成したパイの粗熱を取って、焼成したパイを、シリカゲル製乾燥剤を入れて、透明ビニール袋に入れ、ヒートシールし密閉しサンプルとした。作成したサンプルを18℃室温、1800ルックス蛍光灯下で保管し、曝光性テストの評価サンプルとした。

実施例2
加熱溶解したバター100部に対し、トコフェロール製剤0.1部(理研ビタミン社製 理研Eオイル805−D)、ルチン酵素処理品0.6部(三栄源エフ・エフ・アイ社製 サンメリンАOー1007)を添加した。実施例1と同様な方法により実施例2の可塑性油脂組成物(可塑性油脂組成物に対しトコフェロール0.064重量%、ルチン0.09重量%含有)を得た。実施例1と同様にパイ生地を作成し、パイを焼成して、曝光性テストを行った。

実施例3
加熱溶解したバター100部に対し、トコフェロール製剤0.1部(理研ビタミン社製 理研Eオイル805−D)、ヤマモモ抽出物0.6部(三栄源エフ・エフ・アイ社製 サンメリンYーАF)、ルチン酵素処理品0.6部(三栄源エフ・エフ・アイ社製 サンメリンАOー1007)を添加した。実施例1と同様な方法により実施例3の可塑性油脂組成物(可塑性油脂組成物に対しトコフェロール0.064重量%、ヤマモモ0.12重量%含有、ルチン0.09重量%含有)を得た。実施例1と同様にパイ生地を作成し、パイを焼成して、曝光性テストを行った。

実施例4
加熱溶解したバター100部に対し、トコフェロール製剤0.1部(理研ビタミン社製 理研Eオイル805−D)、ヤマモモ抽出物0.2部(三栄源エフ・エフ・アイ社製 サンメリンYーАF)、ルチン酵素処理品0.2部(三栄源エフ・エフ・アイ社製 サンメリンАOー1007)を添加した。実施例1と同様な方法により実施例4の可塑性油脂組成物(可塑性油脂組成物に対しトコフェロール0.064重量%、ヤマモモ0.04重量%含有、ルチン0.03重量%含有)を得た。実施例1と同様にパイ生地を作成し、パイを焼成して、曝光性テストを行った。

実施例5
加熱溶解したバター100部に対し、トコフェロール製剤0.1部(理研ビタミン社製 理研Eオイル805−D)、ヤマモモ抽出物1.8部(三栄源エフ・エフ・アイ社製 サンメリンYーАF)、ルチン酵素処理品1.8部(三栄源エフ・エフ・アイ社製 サンメリンАOー1007)を添加した。実施例1と同様な方法により実施例3の可塑性油脂(可塑性油脂全体に対しトコフェロール0.064重量%、ヤマモモ0.36重量%含有、ルチン0.27重量%含有)を得た。実施例1と同様にパイ生地を作成し、パイを焼成して、曝光性テストを行った。
【0019】
表1から(実施例1〜2)トコフェロールにポリフェノール系抗酸化剤を単品で実施例1、2についてはバター風味を損なうことなく良好であり、さらにトコフェロールにポリフェノール抗酸化剤2種を併用した添加したものは(実施例3〜5)ポリフェノール抗酸化剤単品で使用するより、バター風味損なうことなく良好なものが出来る。実施例3が一番良好な曝光耐性のある組み合わせで良好なバター風味を呈する。
【0020】
比較例1
加熱したバター100部に対しトコフェロールやポリフェノール系抗酸化剤を含まない、従来の製法であった。実施例1と同様にパイ生地を作成し、パイを焼成して、曝光性テストを行った。
比較例2
加熱したバター100部に対しトコフェロール製剤0.1部(理研ビタミン社製 理研Eオイル805−D)のみ添加した。実施例1と同様な方法により比較例2の可塑性油脂組成物(可塑性油脂組成物に対しトコフェロール0.064重量%)を得た。実施例1と同様にパイ生地を作成し、パイを焼成して、曝光性テストを行った。
比較例3
加熱したバター100部に対しトコフェロール製剤0.1部(理研ビタミン社製 理研Eオイル805−D)、ヤマモモ抽出物3部(三栄源エフ・エフ・アイ社製 サンメリンYーАF)、ルチン酵素処理品4部(三栄源エフ・エフ・アイ社製 サンメリンАOー1007)を添加した。実施例1と同様な方法により比較例3の可塑性油脂組成物(可塑性油脂組成物に対しトコフェロール0.064重量%、ヤマモモ0.6重量%含有、ルチン0.6重量%含有)を得た。実施例1と同様にパイ生地を作成し、パイを焼成して、曝光性テストを行った。
比較例4
加熱したバター100部に対しトコフェロールを添加しないで、ヤマモモ抽出物4.5部(三栄源エフ・エフ・アイ社製 サンメリンYーАF)、ルチン酵素処理品0.6部(三栄源エフ・エフ・アイ社製 サンメリンАOー1007)を添加した。実施例1と同様な方法により比較例4の可塑性油脂組成物組成物(可塑性油脂組成物に対し、ヤマモモ0.12重量%含有、ルチン0.09重量%含有)を得た。実施例1と同様にパイ生地を作成し、パイを焼成して、曝光性テストを行った。
【0021】
(比較例1〜4)比較例1の何も添加していないものは、バター風味がなく、油の劣化臭がして、異臭があり商品価値なし。比較例2ではトコフェロール添加はバター風味は薄く、油の劣化臭がして商品価値なし。比較例3ではトコフェロールにヤマモモ抽出物、ルチン酵素処理品を併用しポリフェノール系抗酸化剤が多いとバター風味薄く、苦味があり特有の異臭がした。比較例4はトコフェロールを添加しないで、ヤマモモ抽出物、ルチン酵素処理品を併用しポリフェノール系抗酸化剤を併用したものは、バター風味薄く、劣化臭がした。特にルチンが多いと苦味が出て来たり、ヤマモモ抽出物が多いとパイの色調も緑色を呈してきて商品価値がなくなる傾向であった。
【0022】
比較例5
トコフェロールやポリフェノール系抗酸化剤を加熱したバターに添加しないで、直接パイ生地配合中に実施例3と同配合の抗酸化剤を可塑性油脂組成物100部対しトコフェロール製剤0.1部を、水にはポリフェノール系抗酸化剤(ヤマモモ抽出物0.6部、ルチン酵素処理品0.6部)を添加しての効果を見た。パイ生地中に可塑性油脂組成物に対しトコフェロール0.064重量%、ヤマモモ0.12重量%含有、ルチン0.09重量%含有されている。実施例1と同様にパイ生地を作成し、パイを焼成して、曝光性テストを行った。パイの保管テストでは、2日目では実施例3と違いバター風味が悪く、劣化臭が出て曝光耐性のないのものが出来た。
【0023】
よって、パイ生地配合中に各抗酸化剤添加するよりも、可塑性油脂組成物に溶解し添加する方が曝光耐性の効果があった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、曝光耐性の有するバター由来の油脂に関する。更に詳しくは曝光耐性の有するベーカリー食品またはその生地に関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バター由来の油脂、トコフェロール及びポリフェノール系抗酸化剤を含有す ることを特徴とする可塑性油脂組成物。
【請求項2】
ポリフェノール系抗酸化剤がルチン及び/又はヤマモモである請求項1の組成物。
【請求項3】
シート状である請求項1の可塑性油脂組成物。
【請求項4】
請求項1の可塑性油脂組成物を使用してなる曝光耐性のあるベーカリー食品 またはその生地。
【請求項5】
ベーカリー食品がペストリーである請求項4の食品またはその生地。

【公開番号】特開2007−143430(P2007−143430A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339556(P2005−339556)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】