説明

曝気強度の決定方法、水理学的滞留時間の決定方法及びそれを用いた曝気装置の設計方法

【課題】溶存カルシウムを排ガス中の二酸化炭素で除去するに際して、pH調整用のアルカリ添加の無駄が省けるような装置の設計手法を提案する。
【解決手段】ステップS100で設定した原水のカルシウム濃度と排ガス中の二酸化炭素濃度とから、ステップS200で二酸化炭素と曝気強度との関係を示す曝気強度関係式
を用いて曝気強度を算出する。この曝気強度を用いて、ステップS300でのベンチ試験に基づきステップS400でICの変動、処理時間を考慮し、ステップS500で水理学的滞留時間(HRT)を決定する。ステップS600でかかる曝気強度、HRTとから曝気装置の仕様を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水等の処理水に含まれる溶存カルシウムの排ガス中の二酸化炭素によるカルシウム除去技術に関し、特にpH調節用のアルカリ添加量を抑制して溶存カルシウムの除去を行うに際して使用する曝気装置の仕様決定等の設計プロセスに適用して有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、排水中のカルシウム(カルシウムイオン)の除去は、炭酸ナトリウムを添加することで、炭酸カルシウムとして沈殿し除去している。
【0003】
一方、建設現場で排出されるコンクリート作業中等に発生するアルカリ性排水に関しては、ガスボンベから100%の二酸化炭素を通じ、カルシウムを炭酸水素カルシウムにしてスケール発生を防止した状態で廃棄している。かかる方法では、殆どの場合、カルシウムを炭酸カルシウムとして沈殿分離させることは行っていない。
【0004】
一方、排水処理技術ではないが、炭酸カルシウムを製造する方法として、プラントや発電に際して発生した排ガスを二酸化炭素供給源として利用する技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。水酸化カルシウム含有水性懸濁液に5〜100%の二酸化炭素濃度である排ガスを通すことにより、質の高い軽質炭酸カルシウムを製造する技術が提案されている。5〜100%の高濃度に二酸化炭素を含む排ガスを積極的に利用することで、不要な二酸化炭素を大気中に放出することなく、炭酸カルシウムとして固定する技術である。
【0005】
また、本発明者は、5%未満の低濃度の二酸化炭素濃度の排ガスを用いて、効率的に溶存カルシウムの除去を行う技術を特許文献3において提案した。かかる提案において、本発明者は、pH変動幅からカルシウム濃度をモニタリングすることで、効率的に溶存カルシウムの排ガスによる除去が可能であることを示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−11941号公報
【特許文献2】特開2000−178024号公報
【特許文献3】特願2003−404886号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように排水処理におけるカルシウム除去技術としては、炭酸ナトリウムの添加による処理技術が一般的である。しかし、かかる処理方法では、カルシウム濃度に対して過剰量の炭酸ナトリウムを添加する必要があり、処理後の排水に際しての塩濃度の増加という新たな問題が発生する。
【0008】
そこで、本発明者は、二酸化炭素を直接的にカルシウム除去対象とする排水中に通じることにより、炭酸カルシウムとして沈殿させることで、上記塩濃度の増加という問題を回避しながら、容易にカルシウムの除去が行えるのではないかと考えた。
【0009】
特に、地球温暖化の原因ともなっている焼却場、発電所等で大量に発生する排ガス中の二酸化炭素を利用すれば、排ガス中の二酸化炭素対策としても有効な筈である。このように排ガスを利用することで、二酸化炭素ガスの供給に際して、供給目的のための新たなプラントやエネルギー投入を避けることもでき、排ガス中の二酸化炭素除去、排水中のカルシウム除去の双方を、環境負荷を低減しつつ低コストで併せて行うことができ、極めて優れた技術の提案が行えると考えた。
【0010】
排ガスを処理水中に曝気し、排ガス中の二酸化炭素で、処理水中の溶存カルシウムを炭酸カルシウムとして除去させることは極当たり前に思いつくことであるが、しかし、かかる除去を効率的に行う点については、これまで十分な研究がなされてこなかったのが現状である。
【0011】
そこで、本発明者は、排ガスの二酸化炭素を用いて溶存カルシウムの除去を行うに際して、二酸化炭素を過剰量投入してその処理を行ってみた。しかし、過剰量の二酸化炭素の投入は、pHが酸性に傾き、生成した炭酸カルシウムが再溶解するため、別途水酸化ナトリウムを投入して、pHをアルカリ側に傾けるようにpHの調節が必要となった。
【0012】
このように二酸化炭素を溶存カルシウムの除去に必要な量より過剰量に供給する場合には、常に、pHが酸性側に傾かないようにアルカリ添加を行わなければならず、かかるアルカリ添加の量は長い期間を通じては膨大な量となり、決して好ましい対応ではない。
【0013】
かかるアルカリ添加は、溶存カルシウムの除去に必要な最小限度の二酸化炭素の供給が行えれば、当然に抑制できるものである。しかし、かかる溶存カルシウムの除去に必要な二酸化炭素の供給を常にモニターする技術はこれまでは提案されていない。
【0014】
一方、本発明者は、先の特許文献3で、pHの変動幅を監視することで、溶存カルシウムの濃度をモニターする技術を提案した。カルシウムと二酸化炭素は等モルで反応するものであるから、二酸化炭素の供給を適正に監視することについては、pHの変動幅を適切に監視することでも可能な筈である。
【0015】
しかし、先に提案した系は、二酸化炭素濃度が低い場合についての提案であり、二酸化炭素濃度が高い場合には、先に提案の技術はそのままでは適用できなかった。これは、二酸化炭素の濃度が高いと、二酸化炭素の溶解効率も上がって前述の如くアルカリの過剰添加が発生し、その状況下では、溶液中の無機炭素(IC:Inorganic Carbon、この場合は特に炭酸イオン、炭酸水素イオン)の量が多くなり、pHの変動幅が検出しにくいためではないかと考えた。
【0016】
特許文献3に提案の如く、排ガス中の二酸化炭素の濃度が低濃度の場合は、溶解効率が低いため、溶液中の無機炭素量も大きくなく、適切なpH変動幅の感度が得られていたものと思われる。実際に、溶液中のICの量が多いと、ICがバッファーとして機能してしまい、pH変動の感度が鈍くなることが確認された。
【0017】
本発明者の考察では、pHの変動幅を鋭敏に感知できる場合とは、Na/Ca比が理論値近くでなければならないことが分かった。かかるNa/Ca比を理論値に近づけるためには、二酸化炭素の適切な曝気強度と水理学的滞留時間(HRT:Hydraulic Residence Time)の設定が必要と考えた。
【0018】
しかし、これまでは、本発明者が提案するまでpH変動幅からカルシウム濃度をモニタリングするとの発想がないため、どのように適切な曝気強度、HRTを設定して、実機の処理装置の仕様構成を行えばよいかについては、参考となる知見は無かった。処理が求められる都度、種々の二酸化炭素濃度毎に、各種の溶存カルシウムに対して、種々の曝気強度、HRTで実験を行い、最適値を見出せば確かにその設定は可能ではあるが、しかし、種々の産業分野から排出される排ガス毎には、かかる実験を都度繰り返すことは現実的には不可能である。
【0019】
そこで、本発明者は、都度、使用する排ガス毎に膨大な実験を行うことなく、適切な曝気強度、HRTの設定が行える手法の確立が急務と考えた。
【0020】
排ガスの生成経緯によっては、二酸化炭素の濃度が高濃度の場合もある、あるいは低濃度の場合もある。現実的要請としては、二酸化炭素の濃度の如何に関係なく、種々の排ガスで処理が行えることが望ましい。複数の排ガスチャンネルを使用する場合には、低濃度の排ガスでも、高濃度の排ガスでも、同様に適用できることが望まれる。適切な曝気強度、HRTの設定が行えれば、かかる現実的要請に十分に応えられる筈である。
【0021】
本発明の目的は、溶存カルシウムを排ガス中の二酸化炭素で除去する装置において、pH調整用アルカリの過剰添加を抑制することにある。
【0022】
本発明の目的は、溶存カルシウムを排ガス中の二酸化炭素で除去するに際して、pH調整用アルカリの過剰添加を抑制する装置の設計手法を提案することにある。
【0023】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0025】
すなわち、本発明は溶存カルシウムを排ガス中の二酸化炭素の曝気で除去する際の曝気強度の決定方法であって、前記曝気強度は、前記二酸化炭素の濃度と前記曝気強度との関係を示す曝気強度関係式から算出されることを特徴とする。かかる構成において、前記曝気強度関係式は、アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)添加でpHを調節しながら溶存カルシウムを二酸化炭素で除去するに際してNa/Ca比が2.5以下である場合における前記二酸化炭素濃度と前記曝気強度の逆数の自然対数の相関から得られた曝気強度関係式であることを特徴とする。
【0026】
本発明は、溶存カルシウムを排ガス中の二酸化炭素の曝気で除去する際の水理学的滞留時間(HRT)の決定方法であって、HRT=(溶存カルシウム量/排ガスとして供給される二酸化炭素量)×100/(前記溶存カルシウムの前記二酸化炭素との反応効率)とで示される水理学的滞留時間関係式から算出されることを特徴とする。かかる構成において、前記反応効率は、アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)添加でpHを調節しながら溶存カルシウムを二酸化炭素で除去するに際してNa/Ca比が2である場合における前記二酸化炭素の曝気強度と前記反応効率との相関から得られた反応効率関係式であることを特徴とする。
【0027】
本発明は、上記説明の曝気強度の決定、水理学的滞留時間の決定等の曝気装置の仕様決定の設計プロセスに必要な要素構成を組み込むことで、排ガス中の二酸化炭素の濃度に拘わらず、溶存カルシウムの二酸化炭素による除去を、pHの変動幅を管理することで効率的に行うものである。すなわち、本発明は、溶存カルシウムを排ガス中の二酸化炭素の曝気で除去する曝気装置の仕様を決定する曝気装置の設計方法であって、上記いずれかの曝気強度の決定方法を使用するステップを有することを特徴とする。あるいは、上記構成のいずれかの水理学的滞留時間の決定方法を使用するステップを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0029】
本発明を適用することで効率的に排ガス中の二酸化炭素により溶存カルシウムの除去を行うために使用する曝気装置の設計が行える。例えば、ベンチ試験を行わなくても、関係式から設計仕様を得ることができる。
【0030】
そのため、アルカリの過剰添加がないため、無駄な曝気を減らすことができ、適切な装置仕様を設定することができるため、イニシャル・ランニングコストを削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る曝気装置の仕様決定方法の手順を示すフロー図である。
【図2】曝気強度と二酸化炭素濃度の関係を示す説明図である。
【図3】pHの変動幅とICとの関係を示す説明図である。
【図4】曝気装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【図5】反応効率と曝気強度の関係を示す説明図である。
【図6】バッチ処理の実験結果を示す説明図である。
【図7】HRT=2時間に設定した場合の連続処理でのIC変動とCa2+濃度の推移状況を示す説明図である。
【図8】HRT=3時間に設定した場合の連続処理でのIC変動とCa2+濃度の推移状況を示す説明図である。
【図9】HRTとICとの関係を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本発明は、排ガスをカルシウムが溶存している排水等の処理水中に曝気し、溶存カルシウムを除去する曝気装置の仕様決定に必要な要素技術、及びそれを用いた曝気装置の仕様決定方法に関わる設計プロセス技術である。
【0033】
図1は、本発明に係る曝気装置の仕様決定方法におけるフロー図である。ステップS100で、除去が必要なカルシウムが溶存している処理水中への排ガスを曝気するに際しての初期条件を設定する。かかる初期条件とは、カルシウム除去が必要な処理水等の原水中のカルシウム濃度と、かかる溶存カルシウムの除去に使用する排ガス等のガス中の二酸化炭素濃度である。
【0034】
本発明では、曝気装置の仕様決定における設計プロセスとして、図1に示すように、二通りのフローを考えた。すなわち、第一のルートは、ステップS100、ステップS200、ステップS300、ステップS400、ステップS500を経て、ステップS600で曝気装置のポンプ仕様、ブロア仕様、槽容量等の実機の仕様決定を行うルートである。
【0035】
第二のルートは、簡易設計プロセスとして利用できるもので、ステップS100から直接ステップS500の水理学的滞留時間(HRT)の決定を行い、ステップS600で実機の設計を行うルートである。
【0036】
以下、上記2ルートのそれぞれについて、設計プロセスをそのステップ毎に詳細に説明する。
【0037】
(実施の形態1)
本実施の形態1では、第一のルートについて説明する。すなわち、ステップS100、ステップS200、ステップS300、ステップS400、ステップS500を経て、ステップS600に至るルートである。
【0038】
ステップS100では、前述の如く、初期条件の設定を行う。通常は、実機設計にあたり与えられる条件としては、排ガス中の二酸化炭素濃度(CO2濃度)、原水の溶存カルシウム濃度(Ca濃度)であるため、かかる排ガス中の二酸化炭素濃度、処理水等の原水のカルシウム濃度を初期条件として設定する。
【0039】
かかる設定した初期条件に基づき、ステップS200で実機に必要とされる曝気強度を決定する。かかる曝気強度の決定に際して、本発明では、初めて、実験により求められた新規提案の実験式を用いて曝気強度を算出する。かかる実験式を用いて曝気強度の算出を行うため、使用する排ガス毎に初期条件に見合った適切な曝気強度を決定するための種々の曝気強度での溶存カルシウムの除去実験を繰り返す手間が省ける。
【0040】
尚、本発明では、アルカリ消費量を示す指標として、Na/Ca比を用いた。二酸化炭素を用いたCa除去では、式1のような化学反応が行われるため、Ca1molに対してNa2molが消費される。そのため、溶存カルシウムの除去に必要量の二酸化炭素が供給されたとした場合のNa/Ca比は理論的には2である。
【0041】
【数1】

【0042】
次に、かかるNa/Ca比を指標として、二酸化炭素濃度から式2を用いて曝気強度を決定する。
【0043】
【数2】

【0044】
上記式2を用いて、初期条件で設定した二酸化炭素濃度から曝気強度を求めることができる。かかる式2は、例えば、溶存カルシウムを、種々の二酸化炭素濃度、種々の曝気強度で除去する実験を行い、かかる実験によって得られたデータの中から、アルカリ添加量の無駄が少なかった(Na/Ca比が2.5以下)実験データを選抜し、図2に示すその二酸化炭素濃度と曝気強度逆数の対数の相関から得られたものである。
【0045】
図2に示す実際の回帰式から得られた値は、a=0.286、b=0.22であった。本発明者は、上記回帰式のa、bについては、回帰式の95%信頼区間を考慮して、a=0.189〜0.383、b=−0.651〜0.211の範囲に設定するのが適切と判断した。
【0046】
すなわち式2で示す曝気強度関係式を用いることで、使用するガスの二酸化炭素濃度が分かれば、Na/Ca比をほぼ理論値に抑制しながら、溶存カルシウムの除去を行うことが可能な曝気強度を推定することができる。
【0047】
このようにしてステップS200で、初期条件として設定した排ガス中の二酸化炭素濃度から曝気強度を決定するが、かかる決定した曝気強度からステップS300でベンチ試験を行い、実際に原水を用いてバッチ処理あるいは連続処理を行い、ステップS400で処理時間とIC変動とを実際に則して調べ、ステップS500でそれらの実測値を基に最適な水理学的滞留時間(HRT)を決定する。
【0048】
すなわち、ステップS300で原水をラボにてバッチ試験により処理し、ステップS400でCa濃度100mg/lを下回るのに要する処理時間と、IC(Inorganic Carbon)の変動を調べ、ステップS500で最適なHRTを決定する。より高精度にHRTを決定するためには、所定量貯留した原水に排ガスを曝気して処理するバッチ処理とは異なり、原水を曝気槽に連続的に流し入れ、曝気槽で排ガスを曝気させ、曝気槽から連続的に曝気された原水を沈殿槽に流し出すという連続処理試験で、溶液中のCa濃度と、ICの推移から設計HRTの検討を行ってもよい。
【0049】
連続処理においては推移しているIC量がCaに対するバッファー能力に当たるため、このIC量を増減させることでpHの変動幅の感度を調節することができる。このIC量とpHの変動幅の関係を、図3に示す。図3ではpHの変動とその時の平均IC濃度を示している。図3に示すように、IC濃度が低いほどpH変動が大きく、IC濃度が高くなると変動が小さくなることが分かる。IC濃度が低いほどpH変動幅の感度は上がるが、溶液のバッファー能力もさがるため、原水Ca濃度の変動に対応しきれない可能性もでてくる。逆にIC濃度が高ければ、バッファー能力は上がるがアルカリが過剰に添加されることになる。そこで、本発明者は、多くの実測値から連続処理における判定基準を式3の如く設定した。
【0050】
【数3】

【0051】
このようにしてステップS500で初期条件の二酸化炭素濃度、カルシウム濃度に最適なHRTが決定され、併せてステップS200で決定された曝気強度とから、ステップS600で、例えば、図4に示すような実機としての曝気装置10の仕様決定を行う。
【0052】
曝気装置10は、図4に示すように、その曝気槽10aが溶存カルシウムの除去を必要とする原水を貯留して置く調整槽20と、原水供給ポンプ21を介して連絡され、所定流量で原水が曝気装置10の曝気槽10a内に連続的に流入されるようになっている。併せて、曝気槽10aは、槽内の溶存カルシウムの二酸化炭素による除去に際してのpH調整用の水酸化ナトリウム貯留槽30と、水酸化ナトリウム注入ポンプ31を介して連絡され、必要に応じて所要の水酸化ナトリウムの供給が随時行えるようになっている。
【0053】
また、曝気槽10aには、二酸化炭素のガス供給原40としての燃焼装置40aが、その排ガス出入口41と、ブロア42を介して連絡され、曝気槽10a内に所要の曝気強度で排ガスの曝気が行えるようになっている。
【0054】
さらに、図4に示すように、曝気槽10a内には、pHコントローラ50のセンサ51が設けられ、溶存カルシウムの二酸化炭素による除去反応に際してのpHの監視が行えるようになっている。pHコントローラ50は、水酸化ナトリウム注入ポンプ31に連絡され、センサ51で検知されたpHに応じて、水酸化ナトリウムの注入の開始あるいは停止を随時水酸化ナトリウム注入ポンプ31で行えるようになっている。
【0055】
また、曝気槽10aには、図4に示すように、溶出口(オーバーフロー口)11が設けられ、二酸化炭素と溶存カルシウムの反応が終了した液が、図示はしないが、沈殿槽等に随時溶出されるようになっている。
【0056】
すなわち、かかる構成の曝気装置10において、原水についての水処理装置の日処理量からポンプの選定を行い、併せてステップS500で決定したHRTから曝気槽10aの容量を決定する。さらに、ステップS200で決定した曝気強度から曝気量を決定し、ブロア42の仕様を選定する。このようにして実機の曝気装置10の仕様決定を行えばよい。
【0057】
(実施の形態2)
本実施の形態では、第二のルートについて説明する。かかる第二のルートは、前記第一のルートで示すステップS300、ステップS400におけるベンチ試験を行うことができない場合の簡易設計方法として提案するものである。
【0058】
すなわち、予め種々の濃度の溶存カルシウムについて、種々の曝気強度、種々の二酸化炭素濃度の排ガスを用いて実際に溶存カルシウムの除去実験を行い、かかる実験データなに基づき得られた実験式に基づき、初期条件として与えられた原水のカルシウム濃度、排ガスの二酸化炭素濃度から、計算でHRTを決定するものである。すなわち、図1では、破線で示すように、ステップS100から直接にステップS500に至るルートである。
【0059】
本実施の形態では、ステップS100で、前記実施の形態で説明したと同様に、初期条件として原水のカルシウム濃度、排ガスの二酸化炭素濃度を設定する。次にステップS500で、先ず前述の式2の曝気強度関係式から初期条件で設定された二酸化炭素濃度に見合った曝気強度を算出する。かかる式2で算出した曝気強度に基づき、Na/Ca比が2となる場合の水理学的滞留時間を計算で求める。
【0060】
カルシウムが溶存している液体に排ガスを曝気させて、排ガス中の二酸化炭素で溶存カルシウムを除去するいわゆる気液接触反応では、その反応効率は、水温、気圧、水質等様々な因子に影響される。特に、本発明の適用を想定する処分場浸出水等の処理水では、水質変動が大きいため、計算で反応効率を導き出すことは容易ではない。
【0061】
そこで、本発明者は、様々な条件下で曝気実験を行い、かかる曝気実験のデータからNa/Ca比が2となる場合のデータを抽出し、かかるデータに基づいて曝気強度と反応効率との関係を定めることを着想した。図5に、このようにしてNa/Ca比が2となる場合のデータから得られた曝気強度と反応効率との関係を示した。かかる関係から、図5に示す直線で示される式4(回帰式)を得た。かかる式4は、曝気強度と反応効率との関係を示した反応効率関係式である。
【0062】
【数4】

【0063】
図5に示す実際の回帰式から得られた値は、α=−49.16、β=74.94であった。本発明者は、上記回帰式のα、βについては、回帰式の95%信頼区間を考慮して、α=−73.11〜−25.22、β=57.33〜92.54の範囲に設定するのが適切と判断した。
【0064】
かかる式4から、式2の曝気強度関係式から算出した曝気強度に基づき、反応効率を求める。このようにして求めた反応効率から、式5で示す水理学的滞留時間関係式により、水理学的滞留時間(HRT)を求めればよい。
【0065】
【数5】

【0066】
このようにして第二のルートによる場合は、ステップS500で、式2、式4、式5を用いて、ステップS100で設定した初期条件に見合った曝気強度、水理学的滞留時間(HRT)を計算から求めることとなる。その後は、前記実施の形態1で説明したと同様に、ステップS600で、ステップS500で算出した曝気強度、HRTに基づき実機の曝気装置のブロア等の仕様を決定すればよい。
【0067】
尚、図5では、横軸の曝気強度に対して、縦軸では反応効率を示しているが、かかる反応効率は、以下の式6、式7を用いて、図5の作成に使用した実験データから算出した。
【0068】
【数6】

【0069】
【数7】

【0070】
次に、上記説明の実施の形態1、2について、下記の実施例に基づきより具体的に説明する。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
本実施例では、前記実施の形態1で説明した図1に示す第一のルートにより実機の曝気装置の仕様決定に関係する設計プロセスについて説明する。
【0072】
例えば、ステップS100では、初期条件を、原水Ca濃度1100mg/l、排ガスCO2濃度2.2%として設定した。
【0073】
ステップS200では、かかる初期条件に基づき、式2を用いて曝気強度を算出した。曝気強度の算出は、式8に示すようにして行った。尚、式8では、式2に示すa、bを、図2に示す直線から得られた値、すなわちaを0.286、bを−0.22に設定している。
【0074】
【数8】

【0075】
この曝気強度0.66に従い、ステップS300でベンチ試験(曝気槽12リットル、曝気量8 l/min)を行った。先ず、バッチでCa除去を行った。その結果を図6に示す。さらにステップS400として、処理時間、ICの変動をチェックした。2時間辺りではCaは目標値である100mg/lを下回り、ICは増加傾向が見られ始めた。この結果から、HRT=2h(2時間)前後で、Ca除去が可能であることが分かった。
【0076】
次に、この結果を受けて、ステップS500で示すように、最適のHRTの決定を行う。すなわち、HRT=2hとHRT=3h(3時間)に設定して連続処理実験を行った。図7にHRT=2hの結果を、図8にHRT=3hの結果を示す。
【0077】
かかる実験の結果、両処理ともCa濃度が100 mg/l以下は満足した。HRT=2hではICの減少傾向とCa濃度の増加が見られ、HRT=3hではICの高濃度での推移とCa濃度の低下傾向が確認された。かかる結果から、HRT=2hでは、目標値を満足することは可能と思われるが、ICに余裕が無い状態になると考えられ、式3からHRT=3hではアルカリが過剰に投入されている状態と考えられた。
【0078】
Ca濃度が100mg/l以下のIC濃度とHRTは、図9に示すように、二酸化炭素の溶解効率分だけICは増加するため線形の関係になる。そのため図7、8に示した連続処理HRT=2h、3hで推定されたIC濃度(HRT=2hのときIC=80mg/l、HRT=3hのときIC=330mg/l)から本連続処理におけるICとHRTとの関係を、式9として求めることができる。一方、式3より推移ICを200mg/lに設定すると、この事例に関する最適HRTは2.5時間であると決定された。
【0079】
【数9】

【0080】
このようにして第一のルートのステップS200、ステップS500で設定された曝気強度、HRTに基づき曝気装置10の仕様を決定すればよい。
【0081】
(実施例2)
本実施例では、図1に示す第二のルートでの実機の曝気装置の仕様決定に関係する設計プロセスについて説明する。
【0082】
かかる第二のルートでは第一のルートとは異なり、ステップS100で設定された初期条件の原水のカルシウム濃度、排ガスの二酸化炭素濃度とから、直接的に、式2、式4を用いて曝気強度、HRTを算出するものである。
【0083】
すなわち、式2の曝気強度関係式から、ステップS100で設定した初期条件に見合った曝気強度を算出する。例えば、本実施例でも、初期条件は上記実施例1と同様に設定すると、上記式8に示す要領で、曝気強度が算出される。
【0084】
かかる算出された曝気強度を、式4の反応効率関係式に代入して、以下の式10に示すように反応効率を算出する。
【0085】
【数10】

【0086】
尚、式10では、α、βの値は図5に示す直線から得られた値に、すなわちα=−49.16、β=74.938に設定した。
【0087】
このようにして算出された反応効率を、式5の水理学的滞留時間関係式に代入して、HRTを以下の式11に示すようにして求める。
【0088】
【数11】

【0089】
式11から算出したHRTは、1.8時間となったが、ステップS100で設定した初期条件の下、先の図7に示すように、実際にHRT=2時間において連続処理した際のアルカリ消費量の実測値が、ほぼNa/Ca比の理論値2と同等であったことから、第一のルートとは異なり、ステップS300、S400でのベンチ試験等の実験を経なくても、かなりの高精度でHRTの試算ができることが分かる。すなわち、第二のルートは十分に利用できる方法である。
【0090】
以上の如く、本発明を適用することで、Na/Ca比が理論値に近い(アルカリの過剰添加のない)状態で溶存カルシウムの除去処理を行うことができ、Na/Ca比を理論値に近づけることで、過剰添加アルカリ量を削減し、溶液中のIC量を削減することができる。そのため、ICに基づくバッファー能が下がり、pH変動が現れやすくなりカルシウム濃度も管理しやすくなる。
【0091】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の排ガスの二酸化炭素による溶存カルシウムの除去処理に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
10 曝気装置
10a 曝気槽
11 溶出口(オーバーフロー口)
20 調整槽
21 原水供給ポンプ
30 水酸化ナトリウム貯留槽
31 水酸化ナトリウム注入ポンプ
40 ガス供給原
40a 燃焼装置
41 排ガス出入口
42 ブロア
50 pHコントローラ
51 センサ
S100、S200、S300、S400、S500 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶存カルシウムを排ガス中の二酸化炭素の曝気で除去する際の曝気強度の決定方法であって、
前記曝気強度は、前記二酸化炭素の濃度と前記曝気強度との関係を示す曝気強度関係式から算出されることを特徴とする曝気強度の決定方法。
【請求項2】
請求項1記載の曝気強度の決定方法において、
前記曝気強度関係式は、アルカリ添加でpHを調節しながら溶存カルシウムを二酸化炭素で除去するに際してNa/Ca比が2.5以下である場合における前記二酸化炭素濃度と前記曝気強度の逆数の相関から得られた関係式であることを特徴とする曝気強度の決定方法。
【請求項3】
溶存カルシウムを排ガス中の二酸化炭素の曝気で除去する際の水理学的滞留時間(HRT)の決定方法であって、
前記水理学的滞留時間(HRT)は、HRT=(溶存カルシウム量/排ガスとして供給される二酸化炭素量)×100/(前記溶存カルシウムの前記二酸化炭素との反応効率)で示される水理学的滞留時間関係式から算出されることを特徴とする水理学的滞留時間の決定方法。
【請求項4】
請求項3記載の水理学的滞留時間の決定方法において、
前記反応効率は、アルカリ添加でpHを調節しながら溶存カルシウムを二酸化炭素で除去するに際してNa/Ca比が2である場合における前記二酸化炭素の曝気強度と前記反応効率との相関から得られた反応効率関係式であることを特徴とする水理学的滞留時間の決定方法。
【請求項5】
溶存カルシウムを排ガス中の二酸化炭素の曝気で除去する曝気装置の仕様を決定する曝気装置の設計方法であって
請求項1または2記載の曝気強度の決定方法を使用するステップを有することを特徴とする曝気装置の設計方法。
【請求項6】
溶存カルシウムを排ガス中の二酸化炭素の曝気で除去する曝気装置の仕様を決定する曝気装置の設計方法であって、
請求項3または4記載の水理学的滞留時間の決定方法を使用するステップを有することを特徴とする曝気装置の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−221217(P2010−221217A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129919(P2010−129919)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【分割の表示】特願2005−101416(P2005−101416)の分割
【原出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【出願人】(592141927)三井造船環境エンジニアリング株式会社 (15)
【出願人】(591052239)財団法人エンジニアリング振興協会 (8)
【Fターム(参考)】