説明

曲がり形状を有するフランジレス閉断面構造部品の製造方法及び装置

【課題】断面形状を変化させつつ、部品長手方向およびその垂直方向の曲がり、すなわち三次元形状を1回の成形で付与することが可能となり、金型数削減,組立て工程削減による製造工程簡略化の効果で、大幅なコストダウンを図る。
【解決手段】部品長手方向曲がりに対応する板長手方向曲がりを設け、部品溶接部11に板幅両端部を対応させた2枚の金属板を、部品断面内での非溶接曲がり部に対応する板部位に折目2が付くようにプレス成形し、次いで、その凸面側が外側となるように上下に重ね合わせて幅の左端同士、右端同士をそれぞれ長手方向に溶接して溶接部11を形成し、得られた閉断面構造体を、左右一対の回転ロール40a,40b或いは更に下方の回転ロール40cでガイドして搬送しつつ、前記回転ロールのロール間隔の変更或いは更に前記回転ロールの昇降により、前記折目及び前記溶接部を起点として立体化させて目標形状の部品となす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲がり形状を有するフランジレス閉断面構造部品の製造方法及び装置に関し、特に、従来、自動車、家電、その他分野において、個別成形してなる二体を接合して閉断面化することにより製造されていた部品について、軽量化と衝突特性、剛性性能向上を目的とした曲がり形状且つ部品全長にわたる異形断面形状を有利に付与しうる、曲がり形状を有するフランジレス閉断面構造部品の製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高張力鋼板をロール成形して一定断面形状を有する成形体を製造し、その後該成形体を高周波焼入れし、さらにその長手方向(断面に直交する方向)で一定曲率を有するように円弧状に曲げ加工(スイープ成形)して車両用衝撃吸収具としてのバンパーレインフォースメントを製造する技術が記載されている。
特許文献2には、金属薄板の搬送経路を挟むように配置された一対の回転ロールとその下方に配置された回転ロールとが設けられ、一対の回転ロールはロール間隔可変であり、その下方に配置された回転ロールは昇降可能であるロール成形装置、及び、該装置での部品製造方法として、長尺の金属薄板の一部が一対の回転ロール間を搬送されている時に一対の回転ロールのロール間隔を変化させるとともに、搬送されている金属薄板を局所的に変形させるように下方に設置された回転ロールを昇降させることによって、長手方向に関して、同一断面を有しないロール成形部品を製造する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−120227号公報
【特許文献2】特開2007−30023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、一般的なロール成形により、一定断面形状を有する閉断面部品を成形した後、高周波焼入れし、さらに3つの曲げ駒により曲率が付与され、曲げ閉断面部品が製造される。しかしながら、部品長手方向の断面形状が一定でない部品については成形不可能である。また曲率は二次元方向のみに限定される。
特許文献2の技術は、一対の回転ロールを有する一般的なロール成形に加えて、一対の回転ロールの下方に断面形状を部品長手方向で変化させるための回転ロールが付随した成形装置により、部品長手方向で断面形状を変化させることが可能となる成形技術であるが、同時に長手方向への曲がり形状を付与することは不可能である。
【0005】
以上のように、従来の技術では、断面形状(詳しくは部品長手方向に直交する方向すなわち部品短手方向の、断面形状)を部品長手方向で変化させる異形断面化と、部品長手方向の曲がり(或いは更に、ねじり)を付与する三次元形状付与とは、同時進行させるのが不可能であったため、部品各断面の異形化と三次元形状付与とを個別の成形工程とせざるをえず、その分コストがかかっていた。又、軽量化のために高強度鋼板を素材とした場合、部品各断面の異形化後の曲げ加工において成形不良が生じ易かった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討し、その結果、2枚の金属板から部品長手方向に曲がりを有する異形断面形状のフランジレス閉断面構造部品を、部品各断面の異形化と三次元形状付与とが同時進行する成形工程にて、製造しうる手段を見出し、本発明をなした。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)2枚の金属板から部品長手方向に曲がり及び溶接部を有する異形断面形状のフランジレス閉断面構造部品を製造する方法であって、
部品長手方向曲がりに対応する板長手方向曲がりを設け、部品溶接部に板幅両端部を対応させた2枚の金属板を、部品断面内での非溶接曲がり部に対応する板部位に折目が付くようにプレス成形する第1工程と、
前記プレス成形後の2枚の金属板を、その凸面側が外側となるように上下に重ね合わせて幅の左端同士、右端同士をそれぞれ長手方向に溶接して溶接部を形成することで、閉断面構造体となす第2工程と、
得られた閉断面構造体を、左右一対の回転ロール或いは更に下方の回転ロールでガイドして搬送しつつ、前記回転ロールのロール間隔の変更或いは更に前記回転ロールの昇降により、前記折目及び前記溶接部を起点として立体化させて目標形状の部品となす第3工程と
を有することを特徴とするフランジレス閉断面構造部品の製造方法。
(2)2枚の金属板から部品長手方向に曲がり及び溶接部を有する異形断面形状のフランジレス閉断面構造部品を製造する装置であって、
部品長手方向曲がりに対応する板長手方向曲がりを設け、部品溶接部に板幅両端部を対応させた2枚の金属板を、部品断面内での非溶接曲がり部に対応する板部位に折目が付くようにプレス成形するプレス成形機と、
前記プレス成形後の2枚の金属板を、その凸面側が外側となるように上下に重ね合わせて幅の左端同士、右端同士をそれぞれ長手方向に溶接して溶接部を形成することで、閉断面構造体となす溶接機と、
得られた閉断面構造体を、左右一対の回転ロール或いは更に下方の回転ロールでガイドして搬送しつつ、前記回転ロールのロール間隔の変更或いは更に前記回転ロールの昇降により、前記折目及び前記溶接部を起点として立体化させて目標形状の部品となすロール成形機と
を有することを特徴とするフランジレス閉断面構造部品の製造装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、断面形状を変化させつつ、部品長手方向およびその垂直方向の曲がり、すなわち三次元形状を1回の成形で付与することが可能となり、金型数削減,組立て工程削減による製造工程簡略化の効果による大幅なコストダウンが可能となる。
さらに主として曲げ加工で所定の形状を得ることが可能であるため、超高張力鋼板を素材とした部品製造が容易となり、フランジレス化による更なる軽量化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る製造工程についての説明図である。
【図2】部品の目標形状の1例を示す概略立体図である。
【図3】実施例及び比較例の部品製造要領を示す概略図である。
【図4】六角形断面部品の製造工程についての説明図である。
【図5】六角形断面部品の目標形状の1例を示す概略立体図である。
【図6】六角形断面部品の製造要領を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図2は、本発明が製造対象とする部品(曲がり形状を有するフランジレス閉断面構造部品)10の1例を示す概略立体図である。
図2の例では、断面形状(短手方向断面形状の意、以下同じ)が四角形をなし、長手方向に曲がりを有し、尚且つ長手方向の始端部と終端部とでは断面形状が異なっている(すなわち、異形である)。四角形断面の始端部の一辺長は30mm、終端部の一辺長は20mm、長手方向全長(長手方向両端間の最短距離)が300mm、曲がりの曲率半径は始端側400mm、終端側で400mmであり、部品長手方向中央部(長手方向両端から150mmの位置)で曲がりの方向が左右逆転した形状である。又、四角形の対角位置にある二対の頂点の中の一対が溶接部11、もう一対が非溶接曲がり部12をなしている。フランジは存在しない。
【0010】
図1は、本発明に係る製造工程についての説明図である。ここでは図2の部品を製造する場合を例にとって説明する。図2の例の部品は図3(a)に示す実施例1の部品である。図3において、2枚の金属板1a,1bには、部品長手方向曲がりに対応する板長手方向曲がりを表すために、部品10の溶接部11に対応する幅端側の2本の曲げ線として、金属板1aでは曲げ線(B)(B)、金属板1bでは曲げ線(B’)(B’)がそれぞれ設けてあり、且つ、非溶接曲がり部12に対応する幅内側の1本の曲げ線として、金属板1aでは曲げ線(A)、金属板1bでは曲げ線(A’)がそれぞれ設けてある。
(第1工程)
第1工程は予成形工程である。パンチ3とダイ4を有するプレス成形機20を用い、金属板1に対し、部品四角断面の4つの頂点の中、非溶接曲がり部12に対応する幅内側の曲げ線(A)(A’)の部位に、折目2が付くようにプレス成形する。かかる折目2が付くように、パンチ3とダイ4の型形状は設計されている。尚、折目2の箇所における板幅方向の曲率半径は板の全長にわたって一定の値をとるようにした。
(第2工程)
第2工程は幅端部溶接工程である。前記予成形後の金属板1a,1bを、その張り出し側(第1工程にて、曲げ成形により折目2が形成され、凸面となっている側)が外側となるように上下に重ね合わせて溶接機30内に配置し、その外面を、上下の押さえ治具6a,6bにて押さえ、上下に重なった幅の左端の曲げ線(B)(B’)部位同士、右端の曲げ線(B)(B’)部位同士をそれぞれ長手方向に溶接して溶接部11を形成し、閉断面構造体5となす。この溶接は、レーザ溶接、アーク溶接等で行うのが好適である。溶接装置(図示せず)は、公知のレーザ溶接装置等を用いることができる。
(第3工程)
第3工程はロール成形工程である。すなわち、前工程で得られた閉断面構造体5をロール成形機40に通す。ロール成形機40は、閉断面構造体5を、左右一対の回転ロール40a,40b、或いは更に下方の回転ロール40cでガイドして搬送しつつ、前記回転ロール40a,40bのロール間隔の変更、或いは更に前記回転ロール40cの昇降により、前記折目2及び前記溶接部11を起点として立体化させて目標形状の部品10となす。
【0011】
回転ロールの形状は、被加工材である閉断面構造体のロール当接部を、位置ずれ等させずに安定してガイドしうる形状に設定されている。図1の40a、40b、40cの回転ロールは1例としてV字形状を示しているが、これに限定されるものではない。回転ロールのロール間隔(閉断面構造体に対するロールによる左右からの押圧力に対応)及び回転ロールの昇降位置(閉断面構造体に対するロールによる下方からの押し上げ力に対応)は、部品目標形状が得られるように変化させる。その変化のさせ方は予め理論解析乃至実験で求めておくことができる。また、更に、下方の回転ロールに対応した回転ロールを、上方にも設置して、部品の目標形状を形成するために用いても良い。
【0012】
尚、この例では部品の目標形状がねじれの無い形状であったので、その形状を達成すべく、図3(a)において、2枚の金属板1の各々で、幅端側の2本の曲げ線と幅内側の1本の曲げ線との計3本の曲げ線に関し、曲率を同一とし且つ曲率中心点を同一直線上に乗せたが、部品の目標形状がねじれの有る形状である場合は、前記計3本の曲げ線に関し、曲率を相違させるか或いは曲率中心点を同一直線上に乗せないようにするかの何れか一方又は両方により、ねじれの有る目標形状を達成することが可能である。四角形以外の形状について、第1〜第3工程は、四角形状の部品の場合と同様、その部品形状に対応した形状を有する金型、回転ロール等を用いて閉断面構造部品を製造することができる。
【0013】
例えば図5に示すような六角形断面部品を製造対象とする場合、非溶接曲がり部12は図2の四角形断面の場合に比べて2つ増える。そこで、これに応じて、図6に示すように幅内側の曲げ線(A)(A’)を上側と下側のブランクに対し、2本ずつ設定する。
そして、製造工程としては、四角形断面を六角形断面に変更したことに対応して、図1において用いる装置部材に変更を加えてなる、例えば図4に示すような工程を採用する。すなわち、第1工程(予成形工程)に用いる金型形状を、図6の曲げ線(A)(A’)の箇所に折目2が付くような金型形状とする。第2工程(幅端部溶接工程)では、押さえ治具6を予成形後のブランク形状に合った断面形状のものとする。第3工程(ロール成形工程)では、下方の回転ロール40cのロールプロファイルを、例えば六角形の一辺部の安定的案内が可能な平底形状とする。これら変更点以外は図1と同様である。これにより、図6下側に示す成形後形状が、高精度且つ容易に達成される。
【実施例】
【0014】
実施例では、次の諸事項を共通事項とした。
[部品目標形状] 断面が部品長手方向に異形の四角(各角は直角)形状で、フランジは無く、部品長手方向にS字形の曲がりを有する形状である。
[素材金属板] 引張強度が1180MPaの冷延鋼板(板厚1.4mm)から、部品目標形状に対応するS字形の曲がりを有する2枚のブランクA,Bを切り出して素材とした。
[溶接条件] レーザ溶接、レーザ出力3.8kW、溶接速度2.5m/分、レーザフォーカス直径2mm
(実施例1)
図3(a)に示すように、1枚のブランク1a(ブランクA)は幅端側の2本の曲げ線(B)(B)間の中央の位置に、折目2となすべき曲げ線(A)を設定され、もう1枚のブランク1b(ブランクB)は幅端側の2本の曲げ線(B’)(B’)間の中央の位置に、折目2となすべき曲げ線(A’)を設定された。これら2枚のブランクA,Bを、第1工程で前述のとおり予成形して曲げ線(A)(A’)にそれぞれ沿った折目2を付け、第2工程で前述のとおり重ね合わせる際にブランクAを上側、ブランクBを下側とし、上下に向かい合った幅端側の曲げ線(B)(B’)部位をレーザ溶接し、得られた閉断面構造体5を第3工程で前述のとおりロール成形して、部品10を得た。
(実施例2)
図3(b)に示すように、1枚のブランク1a(ブランクA)は幅端側の2本の曲げ線(B)(B)間の中央より左寄りの位置に、折目2となすべき曲げ線(A)を設定され、もう1枚のブランク1b(ブランクB)は幅端側の2本の曲げ線(B’)(B’)間の中央より右寄りの位置(中央の位置に関して前記左寄りの位置と対称の位置)に、折目2となすべき曲げ線(A’)を設定された。これら2枚のブランクA,Bを、第1工程で前述のとおり予成形して曲げ線(A)(A’)にそれぞれ沿った折目2を付け、第2工程で前述のとおり重ね合わせる際にブランクAを上側、ブランクBを下側とし、上下に向かい合った幅端側の曲げ線(B)(B’)部位をレーザ溶接し、得られた閉断面構造体5を第3工程で前述のとおりロール成形して、部品10を得た。
(比較例)
実施例と同じ鋼板から、実施例とは異なる形状に切り出した1枚のブランクを素材とし、従来通りロール成形にて成形開始部分と成形終了部分とが異形の断面形状となるように成形加工(異形断面化)を行い、図3(c)に示す、フランジレスの中間形状部品15となし、これをロール成形にて三点曲げの要領で曲げ加工し、最終形状部品16を得た。
【0015】
実施例と比較例とについて、成形可否を評価した。その結果、何れの実施例でも、第1〜第3工程の全てにおいて成形が可能であり、且つ、第3工程後の部品10は、目標形状を達成し、破断、座屈、しわ等の成形不良発生箇所は皆無であった。一方、比較例では、異形断面化後の中間形状部品15には成形不良発生箇所が無かったが、曲げ加工後の最終形状部品16には図示の箇所に座屈が発生していた。
【符号の説明】
【0016】
1 金属板(a,bは2枚の何れか一方と他方、ブランクともいう)
2 折目(曲げ線(A)(A’)に対応)
3 パンチ
4 ダイ
5 閉断面構造体
6 押さえ治具(a,bは上と下)
10 部品(本発明が製造対象とする曲がり形状を有するフランジレス閉断面構造部品)
11 溶接部
12 非溶接曲がり部
15 比較例の中間形状部品
16 比較例の最終形状部品
20 プレス成形機
30 溶接機
40 ロール成形機
40a、40b 回転ロール
40c 回転ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の金属板から部品長手方向に曲がり及び溶接部を有する異形断面形状のフランジレス閉断面構造部品を製造する方法であって、
部品長手方向曲がりに対応する板長手方向曲がりを設け、部品溶接部に板幅両端部を対応させた2枚の金属板を、部品断面内での非溶接曲がり部に対応する板部位に折目が付くようにプレス成形する第1工程と、
前記プレス成形後の2枚の金属板を、その凸面側が外側となるように上下に重ね合わせて幅の左端同士、右端同士をそれぞれ長手方向に溶接して溶接部を形成することで、閉断面構造体となす第2工程と、
得られた閉断面構造体を、左右一対の回転ロール或いは更に下方の回転ロールでガイドして搬送しつつ、前記回転ロールのロール間隔の変更或いは更に前記回転ロールの昇降により、前記折目及び前記溶接部を起点として立体化させて目標形状の部品となす第3工程と
を有することを特徴とするフランジレス閉断面構造部品の製造方法。
【請求項2】
2枚の金属板から部品長手方向に曲がり及び溶接部を有する異形断面形状のフランジレス閉断面構造部品を製造する装置であって、
部品長手方向曲がりに対応する板長手方向曲がりを設け、部品溶接部に板幅両端部を対応させた2枚の金属板を、部品断面内での非溶接曲がり部に対応する板部位に折目が付くようにプレス成形するプレス成形機と、
前記プレス成形後の2枚の金属板を、その凸面側が外側となるように上下に重ね合わせて幅の左端同士、右端同士をそれぞれ長手方向に溶接して溶接部を形成することで、閉断面構造体となす溶接機と、
得られた閉断面構造体を、左右一対の回転ロール或いは更に下方の回転ロールでガイドして搬送しつつ、前記回転ロールのロール間隔の変更或いは更に前記回転ロールの昇降により、前記折目及び前記溶接部を起点として立体化させて目標形状の部品となすロール成形機と
を有することを特徴とするフランジレス閉断面構造部品の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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