説明

最終糖化産物生成抑制剤

【課題】高血糖状態における生理機能の適正化を図ることが容易な最終糖化産物生成抑制剤を提供する。
【解決手段】最終糖化産物生成抑制剤は、丹参の水抽出物、芍薬の水抽出物、香附子の水抽出物又は冠元顆粒を有効成分として含有する。この最終糖化産物生成抑制剤は、高血糖状態において促進される最終糖化産物(AGEs)の生成、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の変性、活性酸素(O)の生成及び過酸化脂質の増加を抑制するとともに、同状態において活性化されるポリオール経路を抑制する。その結果、高血糖状態における生理機能の適正化を図るとともに、糖尿病合併症の発症及び進展を抑える。冠元顆粒は、丹参、香附子、木香、紅花、芍薬及びセンキュウの各構成生薬を所定の配合割合(例えば重量比で4:1:1:2:2:2)で調合したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品や食品等の用途に利用される最終糖化産物生成抑制剤に関する。より詳しくは、冠元顆粒又はその構成生薬を有効成分とする最終糖化産物生成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、国民病とも言われるほどにその患者数が多いうえ、いわゆる糖尿病予備軍と疑われる人の数も多く、その数はさらに上昇している。しかし、糖尿病では、その初期において自覚症状が少ないという問題があるうえ、適切な予防措置を行わなければ合併症の発症及び進展が大きな問題となるケースも多い。このため、現在、糖尿病合併症の成因の解明や治療法の確立が急務となっている。
【0003】
一方、従来より、冠元顆粒の薬理作用としては、血圧上昇抑制作用、脳血流量改善作用(脳卒中発症予防作用)、血液改善作用(抗トロンビン作用)等の血流改善作用が知られている。また、特許文献1には、老化促進モデルマウスの学習・記憶障害改善作用に基づいた抗痴呆剤が開示されている。その他、冠元顆粒には、月経困難症の改善作用、慢性肝炎の改善作用、難治性貧血の改善作用等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−56684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、冠元顆粒が持つ新規な薬理作用を解明したことによりなされたものである。その目的とするところは、高血糖状態における生理機能の適正化を図ることが容易な最終糖化産物生成抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の最終糖化産物生成抑制剤の発明は、丹参の水抽出物、芍薬の水抽出物、香附子の水抽出物、又は丹参、香附子、木香、紅花、芍薬、センキュウを構成生薬とする冠元顆粒を有効成分として含有することを要旨とする。
【0007】
この最終糖化産物生成抑制剤は、有効成分として丹参の水抽出物、芍薬の水抽出物、香附子の水抽出物、又は丹参、香附子、木香、紅花、芍薬、センキュウを構成生薬とする冠元顆粒を含有しているため、該有効成分の薬理作用により高血糖状態における生理機能の適正化が容易に図られる。即ち、前記有効成分としての冠元顆粒は、高血糖状態における血中総蛋白濃度及び血中アルブミン濃度の低下を抑えるとともに血糖値を低下傾向にする作用を有しており、糖尿病及び糖尿病前状態の人の高血糖状態における生理機能の適正化が図られる。なお、前記糖尿病としては1型糖尿病及び2型糖尿病の両方に効果がある。また、前記冠元顆粒が及ぼす薬理作用は、当該冠元顆粒の構成生薬である丹参、芍薬及び香附子が主に担っている。
【0008】
さらに、前記有効成分は、高い抗酸化活性を有しているため、高血糖状態において生成される活性酸素を消去して蛋白質や脂質の過酸化による変性を抑える。このため、前記有効成分は、血中及び細胞内において糖尿病合併症に関与する蛋白糖化反応を介した最終糖化産物の生成やスーパーオキシドジスムターゼ等の活性酸素を消去する酵素の変性を抑制
する。その結果、血中及び細胞内の活性酸素量が低下し、当該活性酸素によって引き起こされる糖尿病合併症の発症及び進展が抑えられる。
【0009】
またこのとき、前記有効成分は、細胞内のグルコース濃度の上昇に伴って活性化されるポリオール経路を抑制し、当該ポリオール経路を介してソルビトールが細胞内に蓄積されるのを抑える。細胞内へのソルビトールの蓄積は、浸透圧調節の異常をきたし、血管障害や神経障害等の糖尿病合併症の引き金となるが、前記有効成分は、細胞内へのソルビトールの蓄積を抑えることによって、細胞内の浸透圧調節を正常化させて生理機能の適正化を図るべく作用し、糖尿病合併症の発症及び進展を抑制する。
【0010】
また、最終糖化産物生成抑制剤は、高血糖状態において発生しやすくなる蛋白質や脂質の過酸化による変性等の酸化ストレス傷害を抑える作用に優れているため、糖尿病及び糖尿病前状態の人の生理機能の適正化を図る効果に優れている。なお、前記高血糖状態とは、血糖値が医学的な正常範囲よりも高い状態を意味し、通常は空腹時血糖値が100mg/dLよりも高い状態を指す。
【0011】
請求項2に記載の最終糖化産物生成抑制剤の発明は、請求項1に記載の発明において、糖尿病合併症の発症及び進展を抑える作用を有することを要旨とする。
この構成によれば、最終糖化産物生成抑制剤は、糖尿病及び糖尿病前状態の人の生理機能の適正化を図る効果に優れているため、それらの人々が糖尿病合併症を併発したり、悪化させたりするのを容易に抑えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高血糖状態における生理機能の適正化を図ることが容易な最終糖化産物生成抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の糖尿病合併症の発症及び進展メカニズムを模式的に示す。
【図2】(a)〜(c)はいずれも、実施例1の評価項目2における血清成分の測定結果を示すグラフ。
【図3】(a)は実施例1の評価項目3における糖化蛋白量の測定結果を示すグラフ、(b)は実施例1の評価項目4における過酸化脂質量の測定結果を示すグラフ、(c)は実施例1の評価項目5におけるスーパーオキシドラジカル量の測定結果を示すグラフ。
【図4】(a)は実施例1の評価項目6における腎組織中のSOD活性の測定結果を示すグラフ、(b)は実施例1の評価項目7における腎組織中のソルビトール含量の測定結果を示すグラフ。
【図5】(a)〜(g)はいずれも、実施例2における抗酸化活性の測定結果を示すグラフ。
【図6】(a)〜(g)はいずれも、実施例2におけるAGEs生成抑制活性の測定結果を示すグラフ。
【図7】(a)〜(g)はいずれも、実施例2における蛋白質の酸化抑制活性の測定結果を示すグラフ。
【図8】実施形態の高血糖状態における細胞内の生体反応を模式的に示す。
【図9】実施例3の細胞生存率の測定結果を示すグラフ。
【図10】(a)は実施例3におけるNO濃度の測定結果を示すグラフ、(b)は実施例3におけるスーパーオキシド濃度の測定結果を示すグラフ。
【図11】(a)は実施例3におけるパーオキシナイトライト濃度の測定結果を示すグラフ、(b)は実施例3における細胞内酸化ストレスの測定結果を示すグラフ。
【図12】実施例3におけるNF−κBに対する冠元顆粒の影響を表す蛍光顕微鏡写真。
【図13】実施例3におけるiNOS及びCOX−2のウェスタンブロッティング解析結果を示す染色像。
【図14】実施例4における血糖値の測定結果を示すグラフ。
【図15】(a)〜(c)はそれぞれ、実施例4における血糖値、糖化蛋白量及び過酸化脂質量の測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
実施形態の糖尿病改善剤(糖尿病改善薬)は、有効成分として冠元顆粒を含有している。この糖尿病改善剤は、有効成分としての冠元顆粒が高血糖状態における生理機能の適正化を図る薬理作用を有しているため、糖尿病患者における合併症の発症及び進展の抑制を図るようになっている。さらに、この糖尿病改善剤は、糖尿病と疑われる人(いわゆる糖尿病予備軍の人)の健康状態の改善を図ることもできるようになっている。前記有効成分が及ぼす薬理作用は、冠元顆粒の構成生薬である丹参、芍薬及び香附子が主に担っており、丹参及び芍薬が重要であり、丹参が特に重要である。
【0015】
なお、前記高血糖状態とは、血糖値が医学的な正常範囲(例えば75g経口糖負荷試験にて診断される)よりも高い状態を意味し、通常は空腹時血糖値が100mg/dLよりも高い状態を指す。また、前記糖尿病患者としては1型糖尿病(インスリン依存性糖尿病、若年発症型糖尿病)、又は2型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病、成人発症型糖尿病)と診断された患者を指す。前記糖尿病と疑われる人としては、糖尿病と診断されていない人であって空腹時血糖値が100mg/dLよりも高くなる傾向のある人、又は糖尿病前状態(耐糖能異常(impaired glucose tolerance))と診断された人を指す。
【0016】
糖尿病は、膵のインスリン産生細胞(β細胞)におけるインスリン分泌不全又は標的細胞でのインスリン作用不全の結果生じる疾患であり、糖、蛋白質、脂質等の代謝異常を引き起こす。この糖尿病は、高血糖、糖尿、体蛋白質の崩壊、ケトン血症、アシドーシス等の症状を呈し、それらの症状が遷延すると網膜、腎糸球体、中枢神経系を中心とする血管障害等の合併症(糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性ニューロパシー等)を併発するという特徴を有する。
【0017】
冠元顆粒は、丹参(タンジン)、香附子(コウブシ)、木香(モッコウ)、紅花(コウカ)、芍薬(シャクヤク)及びセンキュウの6種類の構成生薬を所定の配合割合で調合した漢方薬(漢方方剤)である。この冠元顆粒は、1960年代に中国で脳・心血管疾患に対する治療薬の研究から誕生し、1969年には9種類の生薬からなる冠心一号方、続いて1978年には5種類の生薬(丹参、芍薬、センキュウ、紅花、降香)からなる冠心二号方が誕生し、さらに降香を木香、香附子に置き換えた冠元顆粒が1990年に日本で医薬品として承認された。
【0018】
冠元顆粒に含まれる各構成生薬の配合割合は、丹参2.6〜6.8重量部、香附子0.6〜1.7重量部、木香0.6〜1.7重量部、紅花1.1〜3.4重量部、芍薬1.1〜3.4重量部、センキュウ1.1〜3.4重量部が好ましく、丹参、香附子、木香、紅花、芍薬及びセンキュウが重量比で4:1:1:2:2:2であるのが最も好ましい。この冠元顆粒は、中年以降又は高血圧傾向のあるものの頭痛、頭重、肩こり、めまい、動悸等の諸症状を改善する効能・効果を有している。
【0019】
丹参はシソ科(Labiatae)の多年草タンジン(Salvia miltiorrhiza Bunge)の根からなる。香附子はカヤツリグサ科(Cyperaceae)の多年草ハマスゲ(Cyperus rotundus Linne)の根茎からなる。木香はキク科(Compositae)の多年草サウスレアラパア(Aucklandia lappa Decne (Saussurea lappa Clarke))の根からなる。紅花はキク科(Compositae
)の1〜2年草木ベニバナ(Carthamus tinctorius Linne)の管状花からなる。芍薬はボタン科(Paeoniaceae)の多年草シャクヤク(Paeonia lactiflora Pallas)の根からなる。センキュウはセリ科(Umbelliferae)の多年草センキュウ(Cnidium officinale Makino)の根茎からなる。
【0020】
この冠元顆粒は、前記構成生薬を所定の配合割合で混合し、この混合物全重量の5〜30倍量、好ましくは10〜20倍量の水にて熱水抽出した後、抽出された熱水抽出液(冠元顆粒エキス)を濃縮及び乾燥することにより製造される顆粒状品である。前記濃縮及び乾燥は常用手段、例えば減圧蒸発濃縮法、スプレードライ法、凍結乾燥法等により行われる。この冠元顆粒の製造方法によれば、例えば、丹参4.5g、香附子1.125g、木香1.125g、紅花2.25g、芍薬2.25g及びセンキュウ2.25g(合計13.5g)から、固形分4.5gの冠元顆粒が得られる。
【0021】
こうして得られた冠元顆粒(固形物)は、そのまま散剤、粉剤等の形態で糖尿病改善剤として使用してもよく、或いは適当な賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等の添加剤とともに顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等の形態で糖尿病改善剤として使用してもよい。また、前記乾燥前の熱水抽出液又はその濃縮液を基にドリンク剤等の形態で糖尿病改善剤として使用することもできる。この糖尿病改善剤は、有効成分としての冠元顆粒を成人1日当たり好ましくは1〜20g、特に好ましくは4.5g程度の摂取量を服用するとよく、好ましくは前記摂取量を1日複数回(3回程度)に分けて食間又は空腹時に服用するとよい。冠元顆粒を有効成分として含有する糖尿病改善剤の用途としては、漢方薬等の医薬品、又は健康食品や一般食品等の食品が挙げられる。この糖尿病改善剤は、血糖値が高めの人に摂取させることにより、それらの人々の生理機能の適正化を図ることができるようになっている。
【0022】
次に、糖尿病合併症の発症及び進展メカニズムについて図1を参照しながら説明する。なお、図1に図示される下向き太矢印は、冠元顆粒によって引き起こされる作用を示し、例えば高血糖状態で活性化されるポリオール経路に対し、冠元顆粒が該経路の活性化を抑える作用を示すことを表している。また、前記下向き太矢印の太さは、前記冠元顆粒の作用の強さを表現している。
【0023】
図1に模式的に示すように、高血糖状態の生体内では、血中及び細胞内における高い糖濃度によって非酵素的な蛋白糖化反応(メイラード反応、グリケーション)が進行しやすくなる。この蛋白糖化反応は、蛋白質のアミノ基と還元糖のアルデヒド基とが反応してシッフ塩基やアマドリ転位生成物のような蛋白糖化反応の前期生成物を生成した後、該前期生成物が脱水、酸化、縮合等の二次的な反応を経て、蛋白糖化反応の後期生成物である最終糖化産物(AGEs;advanced glycation endproducts)を生成させる。このAGEsは、糖尿病合併症に深く関与しているため、糖尿病合併症を直接引き起こし得る作用を有している。
【0024】
また、前記蛋白糖化反応は、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)やカタラーゼのような活性酸素の消去を行う酵素(蛋白質)をターゲットに進行すると、それらの酵素を変性させて酵素活性を低下させ、血中及び細胞内の活性酸素量を増大させる作用も有している。このSODの変性、前記AGEsの生成、及び前記蛋白糖化反応は、いずれも血中及び細胞内の活性酸素(フリーラジカル)の生成を促進させる作用を有しており、当該活性酸素の生成を介して直接的又は間接的に糖尿病合併症の発症及び進展を引き起こす。前記間接的に糖尿病合併症が引き起こされる場合には、活性酸素が脂質を酸化して過酸化脂質を生成させ、当該過酸化脂質が糖尿病合併症の発症及び進展に関与する。
【0025】
また、同図に示すように、高血糖状態の細胞内では、グルコース濃度の上昇に伴って、
アルドース還元酵素の活性が高められてポリオール経路が活性化するようになっている。このポリオール経路は、前記アルドース還元酵素によってグルコースをソルビトールへと変換(還元)する経路であり、細胞内へのソルビトールの蓄積を促進させる。この細胞内へのソルビトールの蓄積は、浸透圧調節のために細胞外液が細胞内に多量に浸入するという現象を引き起こす。その結果、蛋白質の変性や失活を引き起こしたり細胞内を酸欠状態にしたりして細胞機能の低下や細胞死を引き起こし、糖尿病合併症の発症及び進展に深く関与している。またこのとき、前記ソルビトールの蓄積は、活性酸素や過酸化脂質の生成促進を介して糖尿病合併症の発症及び進展を引き起こす作用も有している。
【0026】
上述したような糖尿病合併症の発症及び進展メカニズムは、ストレプトゾトシン(STZ)を正常な実験動物に経口投与することにより作出した試験研究用のモデル動物を用いて研究され得る。前記モデル動物は、糖尿病(1型及び2型糖尿病)に罹患したのと同様な症状が現れるため、インビボ(in vivo)の試験研究に用いられる。また、自然発症糖尿病ラットのような2型糖尿病のモデル動物を用いて、インビボの試験研究を行うこともできる。また、細胞培養において培養液中のグルコース濃度を高めることによって、高血糖状態を模したインビトロ(in vitro)の試験研究もできるようになっている。
【0027】
このとき、前記蛋白糖化反応の進行度は、例えば、AGEs生成へと至る該蛋白糖化反応の中間生成物である糖化蛋白量を測定すること(図3(a)、図15(b)参照)、或いはAGEsの生成量を直接測定すること(図6参照)により定量可能である。前記活性酸素の生成度合いは、例えば、活性酸素量(スーパーオキシドラジカル量)、過酸化脂質量、SOD活性を測定することにより定量可能である(図3(b)、(c)、図4(a)、図15(c)参照)。前記ポリオール経路の活性化度は、細胞内のソルビトール含量を測定することにより定量可能である(図4(b)参照)。
【0028】
そして、図1の下向き太矢印で示すように、冠元顆粒は、高血糖状態に起因する糖尿病合併症の発症及び進展へと向かう上記流れの中で、AGEsの生成抑制、SOD変性の抑制、活性酸素の生成抑制、ポリオール経路の活性化の抑制及び過酸化脂質の増加抑制を引き起こし、糖尿病合併症の発症及び進展を抑える効果を発揮する。また、冠元顆粒は、高血糖状態における血中総蛋白濃度及び血中アルブミン濃度の低下を抑える作用を有するとともに血糖値を低下傾向にする作用を有しており、高血糖状態における生理機能の適正化を図るようになっている(図2(a)〜(c)、図14参照)。
【0029】
一方、図8に模式的に示すように、全ての細胞内には、普遍的に核内転写因子NF−κB(Nuclear factor-kappa B)が存在し、免疫グロブリン遺伝子、或いはサイトカイン遺伝子やその受容体遺伝子等の炎症関連遺伝子の転写調節領域に結合してこれらの遺伝子の転写を活性化している。このNF−κBは、I−κB(Inhibitor-kappa B)による調節を受けて活性化され、前記遺伝子の転写を促進するようになっている。
【0030】
さて、高血糖状態に曝された細胞内では、I−κBと複合体を形成して不活化状態で存在するNF−κBが、I−κBから解離して活性化されるとともに核内に移行し、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)遺伝子やシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)遺伝子等の炎症関連酵素遺伝子の転写を促進させる。さらに、同細胞内では、上述したように活性酸素(O,H,・OH等)が生成されやすくなっている。
【0031】
前記iNOSは、マクロファージや血管平滑筋等に存在しており、炎症反応が起こると活性化される。このiNOSは、前記細胞質内で発現して一酸化窒素(NO)を生成させる反応を触媒し、その反応によって生成されたNOに前記活性酸素(スーパーオキシド)が反応してパーオキシナイトライト(ONOO)を生成させる。このパーオキシナイトライトは、NOよりも強力な活性酸素であり、脂質や蛋白質の過酸化を引き起こす。また
、前記COX−2は、炎症に関わるプロスタグランジンの生成に関与しており、糖尿病合併症を始めとする多くの慢性疾患の病因となり得る。
【0032】
これに対し、冠元顆粒は、上述したように細胞内における活性酸素の生成を抑制する(図10(b)、図11(b)参照)とともに、細胞質内で前記NF−κBとI−κBとの解離を抑えてNF−κBの核内移行及び活性化を抑制する(図12参照)作用を有している。その結果、非特異的な炎症反応等の好ましくない生体反応を抑えて生理機能の適正化が図られるとともに、iNOS及びCOX−2の発現を抑制し(図13参照)、高血糖状態におけるNO及びパーオキシナイトライトの生成を抑える(図10(a)、図11(a)参照)。また、この冠元顆粒は、高血糖状態において増加する細胞死を抑える作用も有している(図9参照)。
【0033】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 実施形態の糖尿病改善剤は、冠元顆粒を有効成分として含有している。この糖尿病改善剤は、有効成分としての冠元顆粒が、高血糖状態における血中総蛋白濃度や血中アルブミン濃度の低下を抑える作用を有するとともに血糖値を低下傾向にする作用を有しているため、糖尿病及び糖尿病前状態の人の生理機能の適正化を図ることができる。さらに、この糖尿病改善剤は、前記有効成分が高血糖状態において生成されやすくなる活性酸素を消去して蛋白質や脂質の過酸化による変性を抑えることから、活性酸素によって引き起こされる糖尿病合併症の発症及び進展を抑える効果に優れている。また、この糖尿病改善剤は、前記有効成分が細胞内グルコース濃度の上昇に伴って活性化されるポリオール経路の進行を抑制し、血管障害や神経障害等の糖尿病合併症の引き金となる細胞内へのソルビトールの蓄積を抑えるとともに、細胞内の浸透圧調節を正常化させて生理機能の適正化を図るべく作用する。よって、この糖尿病改善剤は、糖尿病及び糖尿病前状態の人の生理機能の適正化を図ることができるとともに、糖尿病合併症の発症及び進展を抑えることができる。
【0034】
・ 糖尿病改善剤は、天然の植物を原料とするとともに既に広く使用されている漢方薬を基礎としていることから、副作用の心配がないうえ、その他の薬効(頭痛、頭重、肩こり、めまい、動悸等の諸症状を改善する効能・効果)を有している点にも優れている。
【実施例1】
【0035】
<糖尿病モデルラットに対する冠元顆粒の効果>
(冠元顆粒の調製)
本実験に用いた冠元顆粒の構成生薬及びその含有量は、2.25gの芍薬(Paeoniae Radix)、2.25gのセンキュウ(Cnidii Rhizoma)、2.25gの紅花(Carthami Flos)、1.125gの香附子(Cyperi Rhizoma)、1.125gの木香(Aucklandiae Radix)及び4.5gの丹参(Salviae Miltiorrhizae Radix)からなる。これらの構成生薬を調合したものに20倍量の水を加えて100℃、1時間熱水抽出した。次いで、ろ過後に減圧濃縮して溶媒を留去したところ、収率44%の冠元顆粒(冠元顆粒エキス)が得られた。
【0036】
(糖尿病モデルラットの作製と評価)
8週齢のウイスター系雄性ラット(体重180-220g)にストレプトゾトシン(STZ)50mg/kg体重を腹腔内投与することにより糖尿病モデルラットを作製した。STZ投与から10日後に採血し、一群につき11匹ずつ4群(コントロール群及び第1群〜第3群)にグループ分けをした。なお、各群に属するラットはそれぞれ血糖値と体重が概ね揃うようにグループ分けされた。次いで、第1群、第2群及び第3群の糖尿病モデルラットに対し、冠元顆粒をそれぞれ50mg/kg体重、100mg/kg体重及び200mg/kg体重の投与量となるように胃ゾンデで20日間、連日経口投与した。なおこのとき
、前記冠元顆粒は蒸留水に溶解した状態で経口投与された。一方、コントロール群(Control Rat;図2〜4ではCと略記)には蒸留水のみを与えた。連日経口投与終了後、血液及び腎臓を採取、最終投与後尿を採取するとともに、下記評価項目1〜7を測定した。また、前記STZを投与していない正常ラット(Normal Rat;図2〜4ではNと略記)についても比較のため同評価項目を測定した。
【0037】
評価項目1;ラットの形態学的及び生理学的測定
連日経口投与前後のラットの体重を求め、連日経口投与後のラットの体重の増加量を算出した。連日経口投与後の腎臓重量(ウェット状態)を測定した。さらに、前記最終投与後に採取した尿量の平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

表1より、20日間の連日経口投与期間中の体重増加は、糖尿病モデルラットで有意に低下していたが、冠元顆粒投与群(第1群〜第3群)では上昇傾向であった。一方、腎臓重量は糖尿病モデルラットで有意に上昇していたが、冠元顆粒投与群では濃度依存的に低下傾向であった。尿量は糖尿病モデルラットで有意に上昇していたが、冠元顆粒投与群ではさらに有意な上昇を示していた。
【0039】
評価項目2;血清成分の測定
採取した血液から血清を分離した後、該血清中の血糖値、総蛋白濃度、アルブミン濃度、尿素窒素量及びクレアチニンレベルを測定した。これら血清成分の測定は、いずれも市販キットであるグルコースCII−テストワコー、A/G B−テストワコー(和光純薬工業製)、BUNカイノス及びCRE−ENカイノス(カイノス製)を用いた比色法にて測定した。結果を図2(a)〜(c)及び表2に示す。
【0040】
【表2】

表2より、腎機能の指標である血清尿素窒素量及びクレアチニンレベルを測定した結
果、血清尿素窒素量は糖尿病によって有意に上昇し、冠元顆粒投与群では低下傾向にあった。しかしながら、クレアチニンレベルは糖尿病モデルラットでも変化は認められず、また冠元顆粒投与群においても変化していなかった。一方、図2(a)より、血糖値は糖尿病モデルラットで有意に上昇し、冠元顆粒投与群では低下傾向にあった。図2(b)、(c)より、血清中の総蛋白濃度及びアルブミン濃度は、いずれも糖尿病モデルラットで有意に低下していたが、冠元顆粒投与群では濃度依存的に有意に上昇していた。
【0041】
評価項目3;糖化蛋白量の測定
採取した血液から血清を分離した後、該血清を蒸留水で10倍希釈し、その1mLに0.75mLのシュウ酸(oxalic acid)を加え、100℃で270分間加熱後、40%トリクロロ酢酸を加えて混和後、3,000rpmで20分間遠心分離した。遠心分離後の上清1mLに0.25mLのチオバルビツール酸を加え、37℃で30分間反応後、443nmにおける吸光度を測定し、糖化蛋白量に換算した。結果を図3(a)に示す。図3(a)より、血清中の糖化蛋白量は糖尿病モデルラットで有意に上昇し、冠元顆粒投与群では濃度依存的に低下するとともに高濃度では有意な低下が認められた。
【0042】
評価項目4;過酸化脂質量の測定
血清150mL、0.05N塩酸1.5mL、0.67%チオバルビツール酸0.5mLを95℃で30分間反応させることにより、過酸化脂質量の指標としてのマロンジアルデヒド(MDA)構造を有するチオバルビツール酸反応物(TBA−RS)を生成させた。反応停止後に15%メタノール含有ブタノールを2mL加え、3,000rpmで10分間遠心分離後、535nmにおける吸光度を測定し、MDA量に換算した。結果を図3(b)に示す。図3(b)より、血清中の過酸化脂質量は糖尿病モデルラットで有意に上昇し、冠元顆粒投与群では濃度依存的に低下するとともに高濃度では有意な低下が認められた。
【0043】
評価項目5;スーパーオキシドラジカル量の測定
反応液(0.125μMethylenediamine-N,N,N’,N’-tetraacetic acid (EDTA)、62
μM nitro blue tetrazolium (NBT)、98μM nicotinamide adenine dinucleotide reduced form (NADH) をpH7.4の50mMリン酸緩衝液に溶かしたもの)200μLに、血清25μLと、33μMフェナジンメトサルフェート(phenazine methosulfate;PMS)含有50μMリン酸緩衝液25μLとを加え、5分間インキュベーション後、540nmにおける吸光度を測定した。結果を図3(c)に示す。図3(c)より、血清中のスーパーオキシドラジカル量は糖尿病モデルラットで有意に上昇し、冠元顆粒投与群では濃度依存的に低下するとともに高濃度では有意な低下が認められた。
【0044】
評価項目6;腎組織中のスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性の測定
腎臓の10%ホモジネートをそれぞれ10倍、100倍及び1000倍に希釈し、それぞれに緩衝液(65mM KH2PO4、35mM 四ホウ酸Na、0.5mM EDTA・2Na)0.2mL、0.5mMキサンチン溶液0.2mL、10mMヒドロキシルアミン0.1mLを加え、さらに0.2mg/mLキサンチンオキシダーゼ0.2mLを加えて30分間反応させた。次に、発色液(N-1-naphthylethylenediamine, sulfanilic acid, acetic acid)を加え、室温で30分間反応後、550nmにおける吸光度を測定し、SOD活性に換算した。結果を図4(a)に示す。図4(a)より、腎組織中のSOD活性は糖尿病モデルラットのコントロール群で有意に低下した。また、冠元顆粒投与群では、前記コントロール群と比べてSOD活性が上昇するとともに、高濃度(第3群)では有意な上昇を示していた。
【0045】
評価項目7;腎組織中のソルビトール含量の測定
腎臓の7%ホモジネート1mLに0.457M水酸化ナトリウム(NaOH)0.5mLと0.293M硫酸亜鉛(ZnSO)0.5mLとを加え、3,000rpmで15分間
遠心分離した。上清0.05mLに、0.33Mトリス塩酸緩衝液を0.25mL、0.1MのEDTA・2Na・2HOを0.05mL、250mg/dLのNAD(nicotinamide adenine dinucleotide)を0.5mL、40U/mLのソルビトールデヒドロゲナーゼ(sorbitoldehydrogenase)を0.025mL加え、37℃で30分間反応させた。その後、蛍光強度(励起波長 365nm、蛍光波長 450nm)を測定し、ソルビトール含量に換算した。結果を図4(b)に示す。図4(b)より、腎組織中のソルビトール含量は糖尿病モデルラットで有意に上昇し、冠元顆粒投与群(第2群、第3群)では有意に低下した。
【0046】
以下に、上記評価項目1〜7の評価結果より導出される考察を記載する。
本実施例においてSTZにて誘導された糖尿病モデルラットは、1型糖尿病及び2型糖尿病の両方に対するモデル動物として汎用されている。このため、本実施例にて得られた結果は、1型及び2型糖尿病の両方に当てはめて考えることができる。
【0047】
糖尿病合併症の成因の一つとして、非酵素的な蛋白糖化反応(メイラード反応)の後期生成物であるAGEsが注目されている。AGEsは、蛋白質のアミノ基と還元糖のアルデヒド基とが反応して、シッフ塩基、アマドリ転位生成物のような前期生成物を経由して、脱水、酸化、縮合等の反応を経て得られる後期反応生成物であり、糖尿病合併症、動脈硬化、老化等に深く関与している。そして、このAGEsを生成する過程で活性酸素が産生される。今回、AGEs生成の指標としてその中間生成物である糖化蛋白量を、STZ誘発糖尿病モデルラットを用いて測定したが、糖化蛋白の生成は冠元顆粒によって抑制された。しかしながら、高血糖に対する改善作用(血糖値の低下作用)が統計学的有意には見られなかったことから、冠元顆粒はAGEsの生成過程に作用して蛋白糖化反応の低下をもたらしているものと考えられる。
【0048】
一方、冠元顆粒によってSOD活性の上昇とスーパーオキシドラジカルの生成低下とが認められたことから、前記蛋白糖化反応の低下がSOD活性−スーパーオキシドラジカル系、又は直接活性酸素・フリーラジカル生成に好影響をもたらしたものと考えられる。また、脂質の過酸化は、脂質ラジカルの連鎖反応によって引き起こされる。その脂質過酸化の指標であるTBA−RSの生成が冠元顆粒投与群で抑制されたことから、冠元顆粒が脂質ラジカルの連鎖反応に対して好影響を及ぼしていることが示唆される。
【0049】
高血糖によってポリオール経路を介したアルドース還元酵素の活性化が引き起こされ、その結果ソルビトールが細胞内に蓄積されやすくなる。このソルビトールの蓄積は、細胞外液を細胞内に浸入させて浸透圧調節を行うべく作用するが、そのために細胞内の蛋白質等が変性したり、酸欠状態となったり、細胞が死滅したりしやすくなる。このことから、細胞内へのソルビトールの蓄積は、糖尿病症状の悪化と合併症の誘発及び進展の一因となるが、冠元顆粒が腎臓中のソルビトール蓄積を抑制したことは、アルドース還元酵素に対する抑制的作用を示唆している。
【0050】
冠元顆粒の構成生薬の1つである丹参は、腎機能改善作用を有することを本発明者らが報告している。そこで、本実験では、腎機能パラメーターである血清尿素窒素量、クレアチニンレベル及び尿量を測定した。しかしながら、本実験に用いた糖尿病モデルラットでは、正常ラットと比較して尿素窒素量が有意に上昇していたが、クレアチニンレベルについてはほとんど変わらなかった。また、前記糖尿病モデルラットの尿量は正常ラットと比べて著しく有意に増加していた。これに対し、冠元顆粒投与群では血清尿素窒素及びクレアチニンの血中レベルに有意な変化を認めなかったが、尿量についてはさらに有意に増加していた。しかし、腎重量には何ら影響を及ぼしていないことから、尿量が増加した原因として冠元顆粒の血流改善による利尿作用によるものと推測される。
【0051】
一方、血清中の蛋白質、中でも特に含量が多いアルブミンは肝臓で生合成されるが、糖尿病モデルラットではそのアルブミン濃度が著しく有意に低下していた。これに対し、冠元顆粒投与群では、投与量に依存してアルブミン濃度が有意に増加しているため、肝機能の改善と糖尿病による低栄養状態の改善とがなされているものと推測される。なお、この推測を裏付けるデータとして、糖尿病で減少した体重の改善傾向が認められている。
【0052】
従って、冠元顆粒は、高血糖状態によって引き起こされる蛋白糖化反応やポリオール経路の活性化を抑制していたが、これらの抑制作用は冠元顆粒の抗酸化作用に寄与しているものと考えられる。一方、この冠元顆粒は、血糖値への有意な改善作用は認められなかったが、前記高血糖状態によって引き起こされる様々な反応や経路を抑制していることから、高血糖が引き金となって起こる糖尿病合併症の発症及び進展を抑制する作用を有していることが強く示唆される。
【実施例2】
【0053】
<インビトロ実験>
冠元顆粒、丹参、芍薬、センキュウ、紅花、木香、香附子のそれぞれについて、抗酸化活性(DPPHラジカル消去活性)、AGEs生成抑制活性、及びAAPH(2,2’-azobis(2-amidinopropane)-dihydrochloride)による蛋白質の酸化抑制活性をインビトロで測定した。
【0054】
(抗酸化活性の測定)
DPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)ラジカル消去活性の測定は、波多野らの方法(Hatano, T., Edamatsu. R., Hiramatsu, M. , Mori, A., Fujita, Y. Yasuhara,T:' Yoshida, T. and Okuda, T. : Effects of the interaction of taninnins with co-existing substances. VI. Effects of tannins and related polyphenols on superoxide anion radical, and on 1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl radical. Chem. Pharm. Bull. 37, 2016-2021 (1989).)に従って測定した(540nmの吸光度)。このとき、試料としての冠元顆粒、丹参、芍薬、センキュウ、紅花、木香又は香附子を、それぞれ図5(a)〜(g)のグラフの横軸に示される濃度となるように添加した。試料を添加していないときの吸光度と、試料を各種濃度で添加したときの吸光度とによりラジカル消去活性を求めた。結果を図5(a)〜(g)のグラフに示すとともに、図5(a)〜(g)のグラフより導出されるラジカル消去活性の50%阻害濃度(IC50)を同図内に括弧書きにて示す。
【0055】
図5(a)〜(g)より、丹参、芍薬、紅花及び香附子に高い抗酸化活性があり、これらの活性、特に丹参の抗酸化活性が冠元顆粒の抗酸化作用に寄与していると考えられる。従って、冠元顆粒が糖尿病状態における酸化ストレス傷害を抑える作用に優れている一因として、丹参を中心とする高い抗酸化活性が関与しているものと考えられる。
【0056】
(AGEs生成抑制活性の測定)
10mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)、25mMグルコース及び25mMフルクトースを添加した高血糖状態の血清を模したリンゲル液に、試料としての冠元顆粒、丹参、芍薬、センキュウ、紅花、木香又は香附子を、それぞれ図6(a)〜(g)のグラフの横軸に示される濃度となるように添加し、37℃で2週間インキュベートした。そして、このリンゲル液中に生成されたAGEs量をVinsonとHowardの方法(Vinson,J.A.,Howard III,T.B. Inhibition of protein glycation and advanced glycation end products by ascorbic acid and other vitamins and nutrients. J.Nutr:Biochem.7:659-663(1996))に従って測定した。そして、試料を添加していないときのAGEs生成量と、試料を各種濃度で添加したときのAGEs生成量とによりAGEs生成阻害率を求めた。結果を図6(a)〜(g)のグラフに示すとともに、図6(a)〜(g)のグラフより導出さ
れるAGEs生成活性の50%阻害濃度(IC50)を同図内に括弧書きにて示す。
【0057】
図6(a)〜(g)より、丹参及び芍薬に高いAGEs生成阻害活性があり、これらの活性、特に丹参のAGEs生成阻害活性が冠元顆粒のAGEs生成阻害作用に寄与していると考えられる。また、香附子にも丹参及び芍薬と比べると若干弱いがAGEs生成阻害活性があった。従って、血糖値が高い血中においても冠元顆粒がAGEsの生成を阻害している可能性が高く、糖尿病合併症の抑制に優れた効果を発揮し得ることが強く示唆される。また、この効果は、丹参又は芍薬でも発揮され得ることが示唆される。
【0058】
(蛋白質の酸化抑制活性の測定)
糖尿病状態では、AAPHが蛋白質の酸化変性を促進させる作用を有し、この作用が合併症の発症及び進展に大きく関わっている。そこで、蛋白質として蛍光性のあるアロフィコシアニン(allophycocyanin)を用い、AAPHによるアロフィコシアニンの分解(変性)促進作用を冠元顆粒又はその構成生薬が抑えられるか否かについて検討した。なお、前記AAPHによるアロフィコシアニンの分解量は、Courderot-Masuyerらの方法(Courderot-Masuyer,C.,Dalloz,F.,Maupoil,V.Rochette,L.Antioxidant properties of aminoguanidine. Fundam.Clin.Pharmacol.13:535-540(1999))に従って測定した。
【0059】
即ち、37.5nMのアロフィコシアニン及び3mMのAAPHを添加したリン酸緩衝液に、試料としての冠元顆粒、丹参、芍薬、センキュウ、紅花、木香又は香附子を5μg/mL添加した。試料添加後から0分、5分、10分、20分及び30分後に前記リンゲル液を少量ずつ採取し、励起波長598nm、蛍光波長651nmでそれぞれ蛍光強度を測定した。なお、コントロールとしては前記試料を添加していないものを用いた。結果を図7(a)〜(g)のグラフに示すとともに、図7(a)〜(g)のグラフより導出されるアロフィコシアニンの分解を50%阻害する時間(t1/2)を同図内に括弧書きにて示す。
【0060】
図7(a)〜(g)より、丹参及び芍薬にアロフィコシアニンの酸化抑制活性が高く、特に丹参による高い酸化抑制活性が冠元顆粒の酸化抑制作用に寄与していると考えられる。従って、冠元顆粒、丹参及び芍薬は、糖尿病状態における蛋白質の酸化変性を抑えて糖尿病合併症の抑制に優れた効果を発揮することが示唆される。
【実施例3】
【0061】
<高濃度グルコース誘導細胞毒性に対する冠元顆粒の効果>
本実施例では、高血糖状態における酸化ストレスに及ぼす冠元顆粒の影響を、細胞レベルで検討した。
【0062】
(細胞生存率と形態学的検討)
ブタ腎上皮細胞LLC−PK(ヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手)が2×10細胞/mLの濃度で懸濁された細胞懸濁液(DMEM/F−12培養液)200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、LLC−PK細胞の培養液中に5mMグルコースを添加し、さらに24時間培養した。次いで、5mM又は30mMグルコースと、5μg/mL、10μg/mL又は50μg/mLの冠元顆粒とを添加して24時間培養した。そして、細胞生存率をMTT法(Mosmann,T. Rapid colorimetric assay for cellular growth and survival :application to proliferation and cytotoxicity assays. J. Immunol. Methods 65,55-63,1983.)に従って測定した(540nmの吸光度)。結果を図9に示す。また、LLC−PK細胞の形態学的検討は、該細胞が2×10細胞/mLの濃度で懸濁された細胞懸濁液を6穴プレートに2mL播種し、上記と同様の方法で培養し、顕微鏡下で撮影した。
【0063】
図9より、高濃度グルコース処理による細胞毒性は、冠元顆粒処理によって濃度依存的に減少した。即ち、細胞生存率は、30mMグルコース処理によって30%程度減少したが、冠元顆粒処理群では5mMグルコース処理と同程度にまで回復していた。この効果は顕微鏡撮影による形態学的変化にも影響を及ぼしていた。なお、データは示さないが、前記MTT法の代わりにトリパンブルー法で同様の試験を行ったところ、得られた結果はほぼ同様であった。以上より、冠元顆粒は、高濃度のグルコースによって誘導される細胞毒性を軽減する効果に優れている。
【0064】
(一酸化窒素(NO)濃度の測定)
活性酸素の1種であるNOの測定は、グリース法に基づいた亜硝酸塩(nitrite)の定量法を利用して行った。LLC−PK細胞が2×10細胞/mLの濃度で懸濁された細胞懸濁液200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、LLC−PK細胞の培養液中に5mMグルコース(Glc)を添加し、さらに24時間培養した。次いで、5mM又は30mMグルコースと、5μg/mL、10μg/mL又は50μg/mLの冠元顆粒とを添加して24時間培養した(以下、このときの培養液を培養液Aと記載する)。100μLの培養液Aにグリース試薬(0.1%N-(-1-naphtyl) ethylendiamine, 1% sulfanilamide, 2.5% HPO)を加え、室温で5分間インキュベーション後、マイクロプレートリーダーで540nmにおける吸光度を測定し、NO濃度に換算した。結果を図10(a)に示す。
【0065】
(スーパーオキシド(O)濃度の測定)
反応液(0.125mM EDTA, 62μM NBT, 98μM NADH含有50mMリン酸緩衝液)に、前記培養液Aと33μMのPMSとを加え、5分間インキュベーション後、マイクロプレートリーダーで540nmにおける吸光度を測定した。結果を図10(b)に示す。
【0066】
酸化ストレスによって上皮細胞の機能障害が起こることが知られているが、本実験では、高血糖によって酸化ストレス状態が誘導された細胞に対する冠元顆粒の影響を調べるため、NO濃度及びスーパーオキシド濃度を測定した。図10(a)及び(b)に示すように、高濃度グルコースによってスーパーオキシド濃度及びNO濃度が上昇した。特に、スーパーオキシド濃度は、30mMグルコース処理によって、5mMグルコース処理群より20%程度上昇していた。一方、NO濃度は、30mMグルコース処理によって、5mMグルコース処理群より150%も上昇していた。これに対し、50μg/mLの冠元顆粒を投与した群では、スーパーオキシド濃度及びNO濃度は、それぞれ30mMグルコース処理のみの場合より34%及び44%低下していた。
【0067】
(パーオキシナイトライト(ONOO)濃度の測定)
ジヒドロローダミン123(dihydrorhodamine 123)は、パーオキシナイトライトによる酸化反応によって濃度依存的にローダミン123(rhodamine 123)を生成させる。前記培養液Aに、6.25μMのジヒドロローダミン123を含有する緩衝液(pH 7.4, 125μM diethylenetriamine-N,N,N',N",N"- pentaacetic acid)を加え、37℃で5分間インキュベーションした。パーオキシナイトライト濃度は、ローダミン123の吸収波長である500nmにおける吸光度を測定した後に濃度換算した。結果を図11(a)に示す。
【0068】
パーオキシナイトライトは、スーパーオキシドとNOとが反応して生成される強力な酸化物であるが、腎臓では腎虚血−再灌流の生理に関与していることが報告されている。図11(a)に示すように、30mMグルコース処理によって、5mMグルコース処理群と比較してパーオキシナイトライト濃度は80%程度上昇していた。これに対し、冠元顆粒は、高濃度グルコースによって上昇したパーオキシナイトライト濃度を濃度依存的に低下
させた。
【0069】
(細胞内酸化ストレスの測定)
WangとJosephの方法(Wang,H. and Joseph,J.A.: Quantifying cellular oxidative stress by dichlorofluorescein assay using microplate reader. Free Radic. Biol. Med. 27,612-616,1999.)に従って細胞内の活性酸素量を定量することにより、細胞内における酸化ストレス状態を測定した。前記活性酸素量の定量は、安定な酸化変化を測定する方法であり、非蛍光物質であるDCFH−DA(2’,7’-Dichlorofluorescin diacetate)が活性酸素存在下で強い蛍光を示す蛍光物質DCF(2’,7’-Dichlorofluorescein)に変換されるという原理に基づく。
【0070】
即ち、LLC−PK細胞が2×10細胞/mLの濃度で懸濁された細胞懸濁液200μLを96穴プレートに播種し、5mMグルコース含有培養液で24時間予備培養した。次いで、5mM又は30mMグルコースと、5μg/mL、10μg/mL又は50μg/mLの冠元顆粒とを添加して24時間培養後、リン酸緩衝液で洗浄し、100μMのDCFH−DAを100μL加えて15分間培養した。その後、96穴プレート内から培養液を取り除いてDMEM/F−12培養液を加え、1時間培養した。この96穴プレートについて、マイクロプレートリーダー(Tecan;励起波長:485nm、蛍光波長:535nm)にて蛍光物質DCFの蛍光強度を測定した。結果を図11(b)に示す。
【0071】
図11(b)に示す結果は、5mMグルコース及び0μg/mLの冠元顆粒を含有する培養液で培養した細胞をコントロールとし、当該コントロールの蛍光強度を100%としたときの相対値で表されている。図11(b)より、細胞内活性酸素量をDCFH−DAアッセイにて測定した結果、30mMグルコース処理細胞における細胞内活性酸素量は、5mMグルコース処理細胞と比較して約2倍に増加していたが、冠元顆粒処理細胞では濃度依存的に低下していた。
【0072】
(核内転写因子NF−κBに対する冠元顆粒の影響)
図8に模式的に示すように、高血糖状態に曝された細胞質内では、上述したように活性酸素(O,H,・OH等)が生成されやすくなっている。また、高血糖状態に曝された細胞内では、細胞質内でI−κBと結合して不活化状態で存在するNF−κBが、I−κBから解離して活性化されるとともに核内に移行し、iNOS遺伝子やCOX−2遺伝子等の炎症関連酵素遺伝子の転写を促進させる。iNOSは、マクロファージや血管平滑筋等に存在し、炎症反応等により活性化される。このiNOSは、前記細胞質内で発現してNOを生成させる反応を触媒し、その反応によって生成されたNOに前記活性酸素(スーパーオキシド)が反応してパーオキシナイトライト(ONOO)を生成させる。パーオキシナイトライトはNOよりも高い活性を有する活性酸素であり、脂質や蛋白質の過酸化を引き起こす。また、前記COX−2は、炎症に関わるプロスタグランジンの生成に関与しており、多くの慢性疾患の病因となり得る。
【0073】
本実験では、高血糖状態に曝したLLC−PK細胞におけるNF−κBの局在を調べた。即ち、LLC−PK細胞が懸濁された細胞懸濁液を6穴プレートに播種し、5mMグルコース含有培養液で24時間予備培養した。次いで、5mM又は30mMグルコースと、5μg/mL、10μg/mL又は50μg/mLの冠元顆粒とを添加して24時間培養した。
【0074】
これらLLC−PK細胞の培養細胞を3.7%パラホルムアルデヒドで30分間、4℃で固定後、洗浄し、0.2%Triton X−100を30分間、4℃で浸透させた。次いで、前記細胞をリン酸緩衝液で洗浄し、2%BSAで1時間ブロッキング後、anti-NF−κB抗体(Santa Cruz Biotechnology Inc.から購入)を加えて2時間、4℃で処
理した。次に、anti-NF−κB抗体を結合させた細胞をリン酸緩衝液で洗浄し、FITC(Fluoresceinisothiocyanate)−共役 anti-rabbit IgGを加えて1時間、4℃でインキュベーションし洗浄した。最後に、これらの細胞に対し、DAPI(4',6-diamidino-phenylindole)を加えて5分間室温で染色後、リン酸緩衝液で2回洗浄し、蛍光顕微鏡で観察した。結果を図12に示す。
【0075】
NF−κBは、炎症関連酵素の発現を調節し、サイトカイン(cytokines)、ケモカイン(chemokines)、免疫受容体(immunoreceptors)等の免疫応答の中心的メディエーターの活性に関与している。図12に示すように、NF−κBは5mMグルコース処理細胞では細胞質にとどまっていたが、30mMグルコースで処理細胞では核内に移行していた。しかしながら、冠元顆粒処理した細胞では、5mMグルコースで処理細胞とほとんど変わらず、細胞質にとどまっていた。
【0076】
(iNOS及びCOX−2のウェスタンブロッティング解析)
本実験では、高血糖状態に曝したLLC−PK細胞におけるiNOS及びCOX−2の発現をウェスタンブロッティングにより調べた。即ち、LLC−PK細胞が懸濁された細胞懸濁液を10mLカルチャーディッシュに播種し、5mMグルコース含有培養液で24時間予備培養した。次いで、5mM又は30mMグルコースと、5μg/mL、10μg/mL又は50μg/mLの冠元顆粒とを添加して24時間培養した。
【0077】
これらLLC−PK細胞を10mLカルチャーディッシュの底面から剥離して回収した後、抽出緩衝液(25mM Tris-HCl (pH 7.5), 250mM NaCl, 5mM EDTA, 1% nonidet P-40, 1mMphenylmethylsulfonyl fluoride (PMSF), 1mM DTT, 50μLプロテアーゼインヒビターカクテル)を加え、細胞内の蛋白質を抽出した。抽出された蛋白質の量は、Bio-Rad protein assay kit(バイオラッド社製)で測定した。ウェスタンブロッティングは、30μgの蛋白質が含まれるように電気泳動用緩衝液に溶解させ、常法にてSDS−PAGEを行った後、ニトロセルロース膜にトランスファーし、当該ニトロセルロース膜について免疫ブロット解析(immunoblot analysis)を行った。
【0078】
この免疫ブロット解析では、anti-NOS2(iNOS)モノクローナル抗体、anti-COX−2モノクローナル抗体、蛋白質発現量の標準マーカーとしてのanti-COX−1モノクローナル抗体、及びペルオキシダーゼ標識化2次抗体(peroxidase-labeled secondary antibody)を用いた。これらの抗体は、いずれもSanta Cruz Biotechnology Inc.から購入した。なお、前記免疫ブロット解析は、ニトロセルロース膜をECL(enhanced chemiluminescence)法にて撮影することにより実施した。結果を図13に示す。
【0079】
NOSによるNO産生は、マクロファージ、肝細胞、好中球、上皮細胞等の種々の細胞で見られることが知られている。図13より、高濃度グルコース処理によってiNOS及びCOX−2が多量に発現していた。iNOSは、30mMグルコース処理群で過剰発現していたが、冠元顆粒処理により濃度依存的に発現量が低下していた。一方、NOとプロスタグランジンは、いずれも多くの慢性疾患の病因であることが知られているが、プロスタグランジンの合成過程を触媒するCOXはアラキドン酸をプロスタグランジンに変換する酵素である。COX−2は炎症に関わるプロスタグランジンの生成に関与しており、COX−1はほとんど全ての臓器に恒常的に発現している蛋白質であって、本実験では蛋白質発現量の標準マーカーとして用いた。本実験において、COX−2が高濃度グルコース処理によって過剰発現していたが、冠元顆粒はCOX−2の発現量を濃度依存的に低下させた。
【0080】
上述したように、腎上皮細胞に対して高濃度グルコースによる酸化ストレスを与えたところ、iNOS、COX−2及び活性酸素の産生が高められた。これに対し、冠元顆粒は
、図8に示される高血糖状態の細胞において、細胞内の転写因子NF−κBの核内への移行(活性化)を抑制するとともに活性酸素の生成を直接抑制した。さらに、冠元顆粒は、iNOS、COX−2及び様々な種類の活性酸素の産生を抑制し、糖尿病合併症の発症及び進展を抑える効果があることが示された。即ち、本実験により、新しい視点からの冠元顆粒の作用が明らかになった。
【実施例4】
【0081】
<自然発症糖尿病ラットに対する冠元顆粒の効果>
大塚製薬(株)より供与された自然発症糖尿病ラット(Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty Rat;OLETFラット)を用いて、2型糖尿病に対する冠元顆粒の効果を検討した。なお、OLETFラットは、肥満を伴うインスリン非依存性糖尿病を呈し、本邦の糖尿病患者の90%以上を占める2型糖尿病のモデル動物である。また、腎症、神経障害等の合併症を引き起こすことも知られている。
【0082】
まず、OLETF雄性ラットを22週齢まで飼育し、いずれも高血糖状態であったことを確認した後、OLETF対照群、第1群及び第2群の3つの群にグループ分けをした。なお、各群に属するラットはそれぞれ血糖値と体重が概ね揃うようにグループ分けされた。次いで、第1群及び第2群のラットには、蒸留水に溶かした冠元顆粒をそれぞれ50mg/kg体重/日、及び100mg/kg体重/日の投与量となるように胃ゾンデで15週間、連日経口投与した。一方、OLETF対照群には蒸留水のみを同様に投与した。
【0083】
その後、投与3週間毎に各ラットの尾静脈より採血を行い、それぞれ血糖値を測定した。結果を図14に示す。さらに、投与15週後に各ラットの腹部下大動脈より採血を行い、血糖値、糖化蛋白量及び過酸化脂質量をそれぞれ測定した。これらの結果を図15(a)〜(c)にそれぞれ示す。なお、糖尿病を発症せず、かつOLETFラットと遺伝的に近縁のLETO(Long-Evans Tokushima Otsuka)ラットを正常対照群(LETO対照群)として用い、前記OLETF対照群と同様に調べた。
【0084】
その結果、図14より、OLETF対照群の血糖値は、LETO対照群より高く、投与後12週目(34週齢)まではおよそ80%高い値を示していたが、OLETFラットに冠元顆粒を投与した第1群及び第2群では、いずれも血糖値が投与量依存的に低下していた。ところが、図14及び図15(a)に示すように、投与後15週目では、OLETF対照群及びLETO対照群いずれも著しく血糖値が上昇し、OLETF対照群と冠元顆粒投与群との間に有意な差は認められなくなった。
【0085】
一方、図15(b)に示すように、投与後15週目(37週齢)のラット血清中の糖化蛋白量(nmol/mgprotein)は、LETO対照群の16.5に対して、OLETF対照群では18.9にまで有意に上昇していた。これに対し、冠元顆粒を投与した第1群及び第2群では、それぞれ17.6及び17.8の値を示し、OLETF対照群に対して有意に低下していた。また、図15(c)に示すように、血清中の過酸化脂質量(nmol/mL)は、OLETF対照群では5.65であり、LETO対照群の3.15に対して有意に増加していたが、冠元顆粒を投与した第1群及び第2群では、それぞれ3.64及び3.79の値を示し、いずれもOLETF対照群に対して有意に低下していた。以上の結果から、冠元顆粒は、酸化ストレス状態を是正することにより、糖化蛋白質及び過酸化脂質の生成を有意に抑え、2型糖尿病状態の改善に寄与することが示唆された。
【0086】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 実施形態の糖尿病改善剤は冠元顆粒を有効成分として含有するものであったが、前記有効成分として丹参、芍薬及び香附子から選ばれる少なくとも1種の生薬の水抽出物(熱水抽出物)を含有するものであってもよい。このとき、糖尿病改善剤の有効成分は、丹
参、芍薬及び香附子から選ばれる少なくとも1種を、その全重量の5〜30倍量、好ましくは10〜20倍量の水にて熱水抽出した後、抽出された熱水抽出液を濃縮及び乾燥することにより製造される。このように構成した場合でも、上記実施形態の糖尿病改善剤の場合と同様に、高血糖状態における生理機能の適正化を図ることが容易である。
【0087】
・ 糖尿病改善剤は、ヒト以外にも、ウマ、ウシ、ブタのような家畜(非ヒト哺乳動物)、ニワトリ等の家禽、或いは犬や猫等のペットに投与してもよい。
・ 前記有効成分(冠元顆粒、丹参の水抽出物、芍薬の水抽出物又は香附子の水抽出物)を、パン、ケーキ、スナック菓子等の嗜好品、牛乳やヨーグルト等の乳製品、清涼飲料等の飲料品に含有させてもよい。
【0088】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 高血糖状態における血中総蛋白濃度の低下を抑える作用を有することを特徴とする請求項1に記載の最終糖化産物生成抑制剤。高血糖状態における血中アルブミン濃度の低下を抑える作用を有することを特徴とする請求項1に記載の最終糖化産物生成抑制剤。高血糖状態における蛋白糖化反応を抑える作用を有することを特徴とする請求項1に記載の最終糖化産物生成抑制剤。高血糖状態におけるポリオール経路の活性化を抑える作用を有することを特徴とする請求項1に記載の最終糖化産物生成抑制剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
丹参の水抽出物、芍薬の水抽出物、香附子の水抽出物、又は丹参、香附子、木香、紅花、芍薬、センキュウを構成生薬とする冠元顆粒を有効成分として含有する最終糖化産物生成抑制剤。
【請求項2】
糖尿病合併症の発症及び進展を抑える作用を有することを特徴とする請求項1に記載の最終糖化産物生成抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図15】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−180250(P2010−180250A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120332(P2010−120332)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【分割の表示】特願2005−220672(P2005−220672)の分割
【原出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月29日から31日 社団法人日本薬学会主催の「日本薬学会 第124年会」において発表
【出願人】(591082650)イスクラ産業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】