説明

有害ガスの無害化処理方法およびその方法を実施するためのスクラバー

【課題】析出物の発生を抑制する有害ガスの無害化処理方法およびその方法を実施するためのスクラバーを提供する。
【解決手段】本発明のスクラバー10は、水素化物系ガスを含む処理対象ガスを導入するガス導入口12と、処理対象ガスを排出するガス排出口14と、ガス排出口14においてアルカリ水溶液を補給するアルカリ補給装置36と、ガス導入口12において中性水を補給する中性水補給装置26と、アルカリ水溶液と中性水が混合した処理液を貯留する貯留槽22と、貯留槽22に貯留された処理液をガス導入口12に移送する処理液循環ポンプ24を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有害ガスの無害化処理に関し、特に半導体製造過程で排出される有害ガスの無害化処理に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造過程、特にエピタキシャルウェハの製造過程においては、モノシラン、ジシラン、トリクロロシラン等の水素化物系ガスが多用されている。これらの水素化物系ガスは、空気中に放出すると発火する自燃性ガスであるため、使用後に大気放出する前段階においてスクラバーによる無害化処理が行われている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−284631号公報
【特許文献2】特開2001−7034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、水素化物系ガスを無害化する手段として、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液と接触させることで水素化物系ガスを吸収分解させる湿式法が紹介されている。しかし、水素化物系ガスと高濃度のアルカリ水溶液が急速に接触すると、特許文献2に記載されているように析出物が発生し、ガスインレット部の先端に付着することがある。付着した析出物は徐々に堆積していき、最終的にはガス通路の閉塞にまで至ることもある。ガス通路が狭くなるとガス流量が低下するため、スクラバーの処理能力を最大限に発揮させることができなくなる。従って、定期的にガスインレット部の分解清掃を行い、付着物を除去する必要があるが、その間はスクラバーの操業を停止せざるを得ない。このように析出物の発生に起因する処理能力の低下は従来のスクラバーが抱える大きな問題であった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、析出物の発生を抑制する有害ガスの無害化処理方法およびその方法を実施するためのスクラバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の有害ガスの無害化処理方法は、スクラバーに導入された水素化物系ガスを含む処理対象ガスに処理液を接触させて無害化処理を施す無害化処理方法であって、前記処理液は、処理対象ガスをスクラバーに導入するガス導入口においてアルカリ濃度が最も低く、処理対象ガスをスクラバーから排出するガス排出口においてアルカリ濃度が最も高いことを特徴とする。
【0007】
この方法では、水素化物系ガスを含む処理対象ガスが最初に接触する処理液のアルカリ濃度を低く抑えることにより、活性ガスと処理液との急激な反応を回避し、析出物の発生を抑制することができる。その後は活性力を弱めた処理対象ガスにアルカリ濃度を高めた処理液を接触させて無害化処理を施すので、安全かつ安定した無害化処理が実現できる。
【0008】
処理対象ガスの無害化処理の過程において、処理液のアルカリ濃度を段階的に高めることにより、処理対象ガスの活性力が徐々に低下し、処理液との過剰な反応が緩和された安全かつ安定した無害化処理が実現できる。
【0009】
ガス導入口において中性水を補給することにより、処理対象ガスと最初に接触する処理液のアルカリ濃度を低下させることができる。またガス排出口においてアルカリ水溶液を補給することにより、処理対象ガスと最後に接触する処理液のアルカリ濃度を上昇させることができる。
【0010】
なお、この方法に用いる処理液には、アルカリ水溶液と中性水が混合された混合液の他に、ガス排出口において補給されるアルカリ水溶液、すなわちガス導入口において補給される中性水と混合されていないアルカリ水溶液を含む。
【0011】
処理液は中性水と混合される前のアルカリ水溶液の段階が最もアルカリ濃度が高い状態にあるので、ガス排出口において補給するアルカリ水溶液を処理対象ガスに直接接触させることにより、処理対象ガスの無害化処理効果を最大限に高めることができる。
【0012】
ガス導入口において補給した中性水とガス排出口において補給したアルカリ水溶液の混合液は、アルカリ水溶液が中性水によって希釈されてアルカリ濃度が低下した状態にあるので、この混合液をガス導入口に移送することにより、ガス導入口における処理水のアルカリ濃度を低下させることができる。
【0013】
また混合液は、ガス排出口におけるアルカリ水溶液よりはアルカリ濃度が低く、ガス導入口において中性水と混合することによって希釈された混合液よりはアルカリ濃度が高いため、この混合液をガス導入口からガス排出口へ向かう処理対象ガスに接触させることにより、処理対象ガスの活性力が徐々に低下し、処理液との過剰な反応が緩和された安全かつ安定した無害化処理が実現できる。
【0014】
本発明のスクラバーは、水素化物系ガスを含む処理対象ガスを導入するガス導入口と、前記処理対象ガスを排出するガス排出口と、前記ガス排出口においてアルカリ水溶液を補給するアルカリ補給手段と、前記ガス導入口において中性水を補給する中性水補給手段と、前記アルカリ水溶液と前記中性水の混合液を貯留する貯留槽と、前記貯留槽に貯留された前記混合液を前記ガス導入口に移送する混合液移送手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
中性水補給手段を設けることにより、水素化物系ガスを含む処理対象ガスが処理液と最初に接触するガス導入口における処理液のアルカリ濃度を低下させることができる。またアルカリ補給手段を設けることにより、処理対象ガスと最後に接触するガス排出口における処理液のアルカリ濃度を上昇させることができる。またアルカリ水溶液と中性水の混合液を貯留する貯留槽を設け、さらに、この混合液を導入口に移送する混合液移送手段を設けることにより、アルカリ濃度が低下した混合液をガス導入口における処理液として再利用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水素化物系ガスを含む処理対象ガスが最初に接触する処理液のアルカリ濃度を低く抑えることにより、活性ガスと処理液との急激な反応を回避し、導入直後の析出物の発生を抑制することが可能になる。処理対象ガスは、最初にアルカリ濃度の低い処理液に接触することで活性力を弱め、その後にアルカリ濃度を高めた処理液と接触して無害化処理が施されるため、反応が緩和され、安全かつ安定した無害化処理が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態のスクラバーにおける処理対象ガスの処理工程を示すシステム図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態のスクラバーについて、添付した図面を参照して説明する。スクラバー10は、処理対象ガスを導入するためのガス導入口12、処理対象ガスを排出するためのガス排出口14、ガス導入口12とガス排出口14を結ぶ第一の経路16、第二の経路18および第三の経路20、処理水を貯留するための貯留槽22を主要な構成としている。
【0019】
ガス導入口12はスクラバー10の最上部に設けられている。貯留槽22はスクラバー10の最下部に設けられている。貯留槽22に貯留された処理水は処理液循環ポンプ24によってガス導入口12に移送される。またガス導入口12には中性水補給装置26から中性水が供給される。ガス導入口12から導入された処理対象ガスは最初に中性水と接触し、その後、中性水と処理液の混合液と接触する。
【0020】
ガス導入口12の直下から貯留槽22の直上までは、鉛直下方に向かうガス流路を有する第一の経路16が設けられている。第一の経路16の上部はガス導入口12と直結されており、ガス導入口12から導入された処理対象ガスは中性水および処理液とともに第一の経路16を鉛直下方に向けて移動する。この過程において処理対象ガスには最初の無害化処理(第一段階処理)が施される。第一段階処理に用いられた中性水および処理液はそのまま貯留槽22に落下し、貯留される。また第一段階処理を経た処理対象ガスは第二の経路18に移動し、そこで第二段階処理が施される。
【0021】
第一の経路16に隣接する位置に、鉛直上方に向かうガス流路を有する第二の経路18が設けられている。第一の経路16と第二の経路18は下部に設けられたガス通孔28によって内部のガス流路が連通している。第二の経路18には複数の噴霧器30が鉛直方向に適宜の間隔をおいて設けられている。各噴霧器30には処理液循環ポンプ24によって処理液が供給される。各噴霧器30は処理液を噴霧し、第二の経路18のガス流路内に霧状の処理液を充満させる。この霧状の処理液に晒されながら処理対象ガスは第二の経路を鉛直上方に移動する。この過程において処理対象ガスには二回目の無害化処理(第二段階処理)が施される。第二段階処理に用いられた処理液はそのまま貯留槽22に落下し、貯留される。第二段階処理を経た処理対象ガスは第三の経路20に移動し、そこで第三段階処理が施される。
【0022】
第二の経路18に隣接する位置に、鉛直下方に向かうガス流路を有する第三の経路20が設けられている。第二の経路18と第三の経路20は上部に設けられたガス通孔32によって内部のガス流路が連通している。第三の経路20の下部には噴霧器34が設けられている。噴霧器34はアルカリ補給装置36から供給されたアルカリ水溶液を下方に向けて噴霧する。ガス排出口14は噴霧器34の直下に設けられており、ガス排出口14を通る処理対象ガスは霧状のアルカリ水溶液に晒されながら大気に排出される。この過程において処理対象ガスには三回目の無害化処理(第三段階処理)が施される。第三段階処理に用いられたアルカリ水溶液はそのまま貯留槽22に落下し、貯留される。
【0023】
このようにスクラバー10においては処理対象ガスに対して三段階の無害化処理が施される。各段階の無害化処理に用いられる処理液はそれぞれアルカリ濃度が異なるように設定されている。第三段階処理において用いられる処理液は、アルカリ補給装置36から補給されたアルカリ水溶液そのものであるため、最もアルカリ濃度が高い。逆に第一段階処理で用いられる処理液は、アルカリ水溶液と中性水が混合した循環液にさらに補給水として中性水が混合したものであるため、最もアルカリ濃度が低い。第二段階処理において用いられる処理液は循環液であるため、アルカリ濃度は第三段階処理において用いられる処理液と第一段階処理で用いられる処理液との間となる。
【0024】
例えば、第三段階処理において補給するアルカリ水溶液のアルカリ濃度を2%とし、アルカリ水溶液の補給量と第一段階処理において補給する中性水の補給量を同量とし、さらには第一段階処理においてガス導入口12の移送する循環液の移送量と中性水の補給量を同量とした場合、第三段階処理におけるアルカリ濃度は2%、第二段階処理におけるアルカリ濃度は1%、第一段階処理におけるにおけるアルカリ濃度は0.5%となる。
【0025】
スクラバー10では、水素化物系ガスを含む処理対象ガスが最初に接触する処理液のアルカリ濃度を低く抑えることで、活性ガスと処理液との急激な反応を回避し、析出物の発生を抑制する。その後は活性力を弱めた処理対象ガスにアルカリ濃度を高めた処理液を接触させて無害化処理を施すので、安全かつ安定した無害化処理が実現できる。
【符号の説明】
【0026】
10 スクラバー
12 ガス導入口
14 ガス排出口
16 第一の経路
18 第二の経路
20 第三の経路
22 貯留槽
24 処理液循環ポンプ
26 中性水補給装置
30 噴霧器
34 噴霧器
36 アルカリ補給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクラバーに導入された水素化物系ガスを含む処理対象ガスに処理液を接触させて無害化処理を施す無害化処理方法であって、
前記処理液は、処理対象ガスをスクラバーに導入するガス導入口においてアルカリ濃度が最も低く、処理対象ガスをスクラバーから排出するガス排出口においてアルカリ濃度が最も高い、方法。
【請求項2】
前記処理対象ガスの無害化処理の過程において、前記処理液のアルカリ濃度を段階的に高める、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガス導入口において中性水を補給する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガス排出口においてアルカリ水溶液を補給する、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記ガス導入口において補給した中性水と前記ガス排出口において補給したアルカリ水溶液の混合液を前記ガス導入口に移送する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記ガス導入口から前記ガス排出口へ向かう前記処理対象ガスに前記混合液を接触させる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
水素化物系ガスを含む処理対象ガスを導入するガス導入口と、
前記処理対象ガスを排出するガス排出口と、
前記ガス排出口においてアルカリ水溶液を補給するアルカリ補給手段と、
前記ガス導入口において中性水を補給する中性水補給手段と、
前記アルカリ水溶液と前記中性水の混合液を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽に貯留された前記混合液を前記ガス導入口に移送する混合液移送手段、
を備えた、スクラバー。
【請求項8】
前記ガス導入口から前記ガス排出口に至る経路に前記貯留槽に貯留された前記混合液を供給する混合液供給手段を備えた、請求項7に記載のスクラバー。

【図1】
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【公開番号】特開2013−99719(P2013−99719A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245001(P2011−245001)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(511164721)エヌ・ティ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】