説明

有害又は有毒渦鞭毛藻類検出用プローブ及びマイクロアレイ

【課題】迅速に多種類の有害又は有毒渦鞭毛藻類を検出することができ、また海洋状況のモニタリングを行うことができるオリゴヌクレオチドプローブ及びマイクロアレイ等を提供する。
【解決手段】本発明は、有害又は有毒渦鞭毛藻類に由来する核酸の塩基配列のうちの少なくとも一部の塩基配列にハイブリダイズし得る塩基配列を含む、有害又は有毒渦鞭毛藻類検出用オリゴヌクレオチドプローブ、及び当該オリゴヌクレオチドプローブが基盤に配置された、有害又は有毒渦鞭毛藻類検出用マイクロアレイである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害又は有毒渦鞭毛藻類を検出するために用いられるオリゴヌクレオチドプローブ及びそれらが配置されたマイクロアレイ、並びに当該プローブ又はアレイを用いた有害又は有毒渦鞭毛藻類の検出方法及び海洋モニタリング方法に関する。詳しくは、迅速に所定の有害又は有毒渦鞭毛藻類の存否を確認することができるオリゴヌクレオチドプローブ、マイクロアレイ及び検出方法、並びに海洋環境の状況を迅速に把握できる海洋モニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化による水温上昇によって生じる沖合及び沿岸の物理的又は化学的な海洋環境の変化に伴う生物生態系に及ぼす悪影響が懸念されている。これまで日本沿岸では、麻痺性貝毒原因種であるAlexandrium属数種やGymnodinium catenatum、二枚貝を特異的に殺滅するHeterocapsa circularisquama、有害赤潮生物であるCochlodinium polykrikoidesなどの出現が報告されてきたが、瀬戸内海及び九州沿岸域において、シガテラ毒原因種のGambierdiscus toxicusなどの熱帯性の有毒プランクトンの出現も報告されている。
今後さらに、熱帯又は亜熱帯に分布する有害又は有毒プランクトンの顕在化、分布域の拡大、あるいはバラスト水による他海域からの移入などが予測され、その結果、食用魚介類の高毒化や、人体への健康被害の拡大が懸念される。
このような理由、特に水産食品の安全性確保の面から、海洋食料を生産する対象海域での有害又は有毒渦鞭毛藻類の出現状況を知る迅速な方法の確立を早急に進める必要性がある。
【0003】
ところで、従来、上記の有害又は有毒渦鞭毛藻類の分類は、顕微鏡下での目視観察により、検出及び同定がされ、数等の調査がされてきた。
しかしながら、有害又は有毒渦鞭毛藻類は、種間でその形態が酷似しており、鎧板配列等の形態的特徴の差や、遊泳法等で見分ける場合において、重きを置く形態形質が同定者によって異なり、主観的な判断を下されることがあった。また、形態形質が環境条件等によって変化しやすい、形態的特徴に基づく分類基準が十分統一されていないなど、客観的な分類が明確ではない等の問題もあった。さらに、実際の海水サンプル中には、複数種が同時に出現し、目視に頼る従来法では、正確な種同定、細胞密度の算出が難しく、現場モニタリング実施の大きな障害であった。
【0004】
近年、このような問題点を改善するため、分子生物学的手法による客観性のある手法の開発、例えば、PCR-RFLP(Restricted Enzyme Length Polymorphism)法(非特許文献1及び2参照)、RNAをターゲットとしたFISH(Fluorescence In Situ Hybridization)法(非特許文献3〜5参照)、SHA(RNA-DNA Sandwich Hybridization)法(非特許文献6及び7参照)、1細胞を用いた標的遺伝子のダイレクトシークエンスによる配列決定(非特許文献8参照)、リアルタイムPCR法(非特許文献9〜11参照)等の技術を利用した手法の開発が盛んに行われてきた。
しかしながら、これらの分子生物学的手法は、従来の顕微鏡下での目視調査と比較して客観性は向上したものの、簡便性、迅速性及び再現性の面で、さらに改善の必要性があった。
【0005】
他方、多数の核酸を一度に判定する分子生物学的手法の一つとしてDNAチップ(マイクロアレイ)が開発され、迅速に結果が取得できるようになってきた。
DNAチップ法を利用した有害又は有毒プランクトンにおける研究については、これまでに若干の報告があるのみであるが(非特許文献12〜14参照)、いずれもAlexandrium属の検出に特化したDNAチップであり、多種類の有毒渦鞭毛藻類を区別することができない。また、これらのDNAチップは熱帯性又は亜熱帯性の有害又は有毒プランクトンの検出プローブと、温帯性の有毒又は有害プランクトンの検出プローブとの両方を搭載したチップではないため、これらを同時に検出できず、海洋状況における温暖化の指標となる熱帯性プランクトンのモニタリングを行うことができないものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Adachi M. et al. J. Phycol. 30: 857-863 (1994).
【非特許文献2】Scholin CA and Anderson DM. J. Phycol. 30: 744-754 (1994).
【非特許文献3】Scholin CA. et al. J. Phycol. 35: 1356-1367 (1999).
【非特許文献4】Hosoi-Tanabe S and Sako Y. Harmful Algae 4: 319-328 (2005).
【非特許文献5】Anderson DM. et al. Deep Sea Research II 52: 2467-2490 (2005).
【非特許文献6】Tyrrell JV. et al. Harmful Algae 1: 205-214 (2002).
【非特許文献7】Greenfield DL. et al. Limnol Oceanogr Methods: 426-435 (2006).
【非特許文献8】Bolch CJS. Phycologia 40: 162-167 (2001).
【非特許文献9】Hosoi-Tanabe S、 Nagai S. and Sako Y. Mar Biotechnol 6: 30-34.
【非特許文献10】Kamikawa R、Hosoi-Tanabe S、Nagai S.et al. Fish Sci 71: 985-989 (2005).
【非特許文献11】Kamikawa R、 Nagai S. et al. Harmful Algae 6: 413-420 (2007).
【非特許文献12】Ki JS and Han MS. Biosens Bioelectron 21: 1812-1821 (2006).
【非特許文献13】Ahn SA. et al. Appl Environ Microbiol 72: 5742-5749 (2006).
【非特許文献14】Gescher C. et al. Harmful Algae 7: 485-494 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下において、迅速に多種類の有害又は有毒渦鞭毛藻類を検出することができ、また海洋状況のモニタリングを行うことができる、オリゴヌクレオチドプローブ及びマイクロアレイ等の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、有害又は有毒渦鞭毛藻類検出用オリゴヌクレオチドプローブ及びマイクロアレイ、有害又は有毒渦鞭毛藻類の検出方法、並びに海洋モニタリング方法等を提供するものである。
【0009】
(1)有害又は有毒渦鞭毛藻類に由来する核酸の塩基配列のうちの少なくとも一部の塩基配列にハイブリダイズし得る塩基配列を含む、有害又は有毒渦鞭毛藻類検出用オリゴヌクレオチドプローブ。
本発明のプローブにおいて、前記少なくとも一部の塩基配列としては、例えば、前記藻類の染色体DNA中の大サブユニットリボソームRNA遺伝子の塩基配列や、前記藻類の染色体DNA中の大サブユニットリボソームRNA遺伝子のD1領域又はD2領域の塩基配列が挙げられる。
本発明のプローブにおいて、有害又は有毒渦鞭毛藻類としては、例えば、Alexandrium属、Dinophysis属、Gambierdiscus属、Gymnodinium属、Karenia属、Ostreopsis属、Pfiesteria属、Prorocentrum属、Protoceratium属、Protoperidinium属及びPyrodinium属からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0010】
本発明のプローブとしては、例えば、下記(a)又は(b)のDNAの塩基配列を含むものが挙げられる。
(a) 配列番号4、7、8、10〜16、20、22、27、29、31〜35、39〜47及び50〜58に示される塩基配列からなるDNA
(b) 上記(a)のDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ有害又は有毒渦鞭毛藻類に由来する核酸の塩基配列のうちの少なくとも一部の塩基配列を検出し得る機能を有するDNA
【0011】
(2)上記(1)に記載のオリゴヌクレオチドプローブが基盤に配置された、有害又は有毒渦鞭毛藻類検出用マイクロアレイ。
(3)複数の貫通孔を有し、それら貫通孔にゲルが保持されているマイクロアレイであって、前記ゲルに上記(1)に記載のオリゴヌクレオチドプローブが保持されている、有害又は有毒渦鞭毛藻類検出用マイクロアレイ。
【0012】
(4)有害又は有毒渦鞭毛藻類の検出方法であって、
所定の海域から海水を採取して被検体とし、当該被検体中の生物に由来する核酸を抽出する工程、及び
前記抽出した核酸を上記(1)に記載のオリゴヌクレオチドプローブ又は上記(2)若しくは(3)記載のマイクロアレイに接触させる工程
を含む、前記方法。
本発明の検出方法において、前記被検体としては、例えば、所定の複数の海域から海水を採取して得られた複数の被験体が挙げられる。
【0013】
(5)上記(4)に記載の検出方法により得られた検出結果を解析し、当該解析結果を指標として海洋状況を推測することを特徴とする、海洋モニタリング方法。
(6)上記(4)に記載の検出方法により得られた前記複数の被験体ごとの検出結果を比較解析し、当該解析結果を指標として海洋状況に対する地球温暖化の影響を推測することを特徴とする、海洋モニタリング方法。
上記(6)のモニタリング方法としては、例えば、前記複数の被験体ごとに、所定の有害又は有毒渦鞭毛藻類が検出されたか否かを比較することを含む方法が挙げられる。ここで、当該所定の有害又は有毒渦鞭毛藻類としては、例えば、Pyrodinium属及び/又はGambierdiscus属が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、現場海水域において複数の有害又は有毒渦鞭毛藻類を簡便、迅速かつ網羅的に検出することができ、さらにそれらの出現消長の追跡も可能となる、有害又は有毒渦鞭毛藻類検出用のオリゴヌクレオチドプローブ及びマイクロアレイ、並びに有害又は有毒渦鞭毛藻類の検出方法を提供することができる。本発明は、熱帯又は亜熱帯性の新規有害又は有毒種の出現状況を把握し、赤潮及び貝毒の対策強化並びにそれらの迅速な予知システムの確立を可能とする点で、極めて有用なものである。
また、本発明のマイクロアレイ等を用いれば、熱帯又は亜熱帯に分布する有害又は有毒種の検出プローブを含むことにより、海洋状況における温暖化の指標である熱帯性プランクトンのモニタリングを迅速かつ正確に行うことができ、海洋環境に対する温暖化の影響把握が容易に可能となるため、本発明は極めて実用性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施例において製造したDNAチップ(DNAマイクロアレイ)の配列図を示す図である。図中の数字(外枠部分の数字を除く)はプローブ番号を表し、Bはプローブが配置されていないことを表す。また、外枠部分の数字及びアルファベットは、プローブの配置位置を特定するためのものである。
【図2】本実施例において製造したDNAチップ(DNAマイクロアレイ)の配列図を示す図である。図中の数字(外枠部分の数字を除く)はプローブ番号を表し、Bはプローブが配置されていないことを表す。また、外枠部分の数字及びアルファベットは、プローブの配置位置を特定するためのものである。
【図3】中空繊維束(中空繊維配列体)の製造用の配列固定治具を示す概略図である。
【符号の説明】
【0016】
11 孔
21 多孔板
31 中空繊維
41 板状物
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0018】

1.本発明の概要
本発明者は、前述した課題、すなわち迅速に多種類の有害又は有毒渦鞭毛藻類を検出することができ、また海洋状況のモニタリングを行うことが可能なオリゴヌクレオチドプローブ及びマイクロアレイ等の開発を行うにあたり、鋭意研究を行った結果、有害又は有毒渦鞭毛藻類の染色体DNA中の大サブユニットリボソームRNA遺伝子(LSU rRNA,28S rRNA)に着目し、特に当該遺伝子中のD1及びD2領域について前記渦鞭毛藻類の各々の種間で比較検討を行ったところ、各々の種に特異的な塩基配列が存在することを見出した。そこで、この特異的な配列を含む核酸断片(オリゴヌクレオチドプローブ)及びそれらが配置されたDNAマイクロアレイを用いることにより、迅速に多種類の有害又は有毒渦鞭毛藻類を特異的に検出可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
以上のように、本発明は、各種有害又は有毒渦鞭毛藻類の染色体DNA、具体的にはLSU rRNAのD1及びD2領域の塩基配列に着目することにより完成されたものであり、当該塩基配列又はその一部にハイブリダイズする塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプローブが配置されたマイクロアレイに関するものである。すなわち、本発明は、各種有害又は有毒渦鞭毛藻類を迅速かつ特異的に検出することが可能なオリゴヌクレオチドプローブが配置されたマイクロアレイである。
【0019】

2.有害又は有毒渦鞭毛藻類検出用オリゴヌクレオチドプローブ
本発明においてプローブとして使用されるオリゴヌクレオチドは、有害又は有毒渦鞭毛藻類に由来する核酸の塩基配列のうちの少なくとも一部の塩基配列とハイブリダイズすることができるものである。ここで、当該核酸は、DNA(染色体DNAやプラスミドDNA等)及びRNA(mRNA等)のいずれでもよく限定はされないが、染色体DNAであることが好ましい。具体的には、本発明においてプローブとして使用されるオリゴヌクレオチドは、前記渦鞭毛藻類の染色体DNA中の大サブユニットリボソームRNA遺伝子(LSU rRNA,28S rRNA)の塩基配列とハイブリダイズすることができるものであることが好ましく、より好ましくは、当該LSU rRNAのD1領域又はD2領域の塩基配列とハイブリダイズすることができるものである。すなわち、本発明のプローブは、ノーザンブロッティングやマイクロアレイ等の発現解析において、上記特定の領域中の少なくとも一部の塩基配列に対して相補的となるように設計され、ハイブリダイゼーションを行ったときにハイブリダイズすることができるものを意味する。
本発明のプローブ(特にマイクロアレイ用のプローブ)は、検出目的となる各種の前記渦鞭毛藻類に特異的な塩基配列となるような領域を選択してその領域の塩基配列を設計することが好ましい。一般的に、プローブの設計の際には、特異的な領域を選択することに加え、Tmがそろっていて、二次構造を形成しにくいものである必要があり、遺伝子等を検出目的とする場合はそのmRNAの3'末端からの距離が比較的近いものである必要がある。
【0020】
有害又は有毒渦鞭毛藻類の各々の種に対応する特異的な塩基配列は、例えば、マルチプルアラインメントをとり、種間で異なる領域にプローブを設計するなどの手段により見出すことができる。アラインメントをとるためのアルゴリズムには、特に限定はないが、より具体的な解析プログラムとしては、例えば、ClustalX1.8等のプログラムを利用することができる。アラインメントをとる際のパラメータは、各プログラムのデフォルト状態で実行してもよいが、プログラムの種類などに応じて適宜調整することができる。
本発明において、検出対象となる有害又は有毒渦鞭毛藻類としては、限定はされないが、Alexandrium属、Dinophysis属、Gambierdiscus属、Gymnodinium属、Karenia属、Ostreopsis属、Pfiesteria属、Prorocentrum属、Protoceratium属、Protoperidinium属及びPyrodinium属等の渦鞭毛藻類が挙げられ、これらうちの少なくとも1種、好ましくは2種以上を検出対象とすることが好ましい。また、例えば、海洋状況に対する地球温暖化の影響を推測する際には、Pyrodinium属及びGambierdiscus属を検出対象とすることが好ましい。
【0021】
本発明のプローブを設計する際は、ハイブリダイゼーションにおけるストリンジェンシーを考慮する必要がある。ストリンジェンシーをある程度緊密にすることによって、各種の前記渦鞭毛藻類において各々の核酸中の特定の領域間で類似する塩基配列領域が存在しても、他の異なる領域を区別してハイブリダイズすることができる。また、当該特定の領域間の塩基配列がほとんど異なる場合は、ストリンジェンシーを緩やかに設定することができる。
【0022】
このようなストリンジェンシーの条件としては、例えば緊密条件の場合は50〜60℃の条件下でのハイブリダイゼーションであり、ゆるやかな条件の場合は30〜40℃の条件下でのハイブリダイゼーションである。ハイブリダイゼーションの条件において、ストリンジェントな条件としては、例えば、「0.12M Tris・HCl/0.12M NaCl/0.05% Tween-20、40℃」、「0.12M Tris・HCl/0.12M NaCl/0.05% Tween-20、37℃」、「0.12M Tris・HCl/0.12M NaCl/0.05% Tween-20、30℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば「0.12M Tris・HCl/0.12M NaCl/0.05% Tween-20、50℃」、「0.12M Tris・HCl/0.12M NaCl/0.05% Tween-20、55℃」、「0.06M Tris・HCl/0.06M NaCl/0.05% Tween-20、60℃」等の条件を挙げることができる。より詳細には、プローブを添加して1時間以上50℃に保ってハイブリッド形成させ、その後、0.12M Tris・HCl/0.12M NaCl/0.05% Tween-20中、50℃で20分の洗浄を4回、最後に、0.12M Tris・HCl/0.12M NaCl、50℃で10分の洗浄を1回行う方法もある。ハイブリダイゼーション、あるいは洗浄の際の温度を上げることにより、よりストリンジェントな条件を設定することができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、条件を設定することができる。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press (1989)、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons (1987-1997)) 等を参照することができる。
【0023】
本発明のプローブの長さは、限定はされないが、例えば、10塩基以上が好ましく、さらに好ましくは16〜50塩基であり、さらに好ましくは18〜35塩基である。プローブの長さが適切であれば(上記範囲内であれば)、非特異的なハイブリダイゼーション(ミスマッチ)を抑制し、特異的な検出に使用することができる。
本発明のプローブの設計の際には、プローブの融解温度(Tm)を確認しておくことが好ましい。Tmとは、任意の核酸鎖の50%がその相補鎖とハイブリッド形成する温度を意味し、鋳型DNA又はRNAとプローブとが二本鎖を形成してハイブリダイズするためには、ハイブリダイゼーションの温度を最適化する必要がある。一方、この温度を下げすぎると非特異的な反応が起こりやすくなるため、温度は可能な限り高いことが望ましい。従って、設計しようとする核酸断片のTmはハイブリダイゼーションを行う上で重要な因子である。Tmの確認には、公知のプローブ設計用ソフトウエアを利用することができ、本発明で利用可能なソフトウエアとしては、例えばProbe Quest(登録商標;ダイナコム社)などが挙げられる。またTmの確認は、ソフトウエアを使わずに自ら計算することによっても行うことができる。その場合には、最近接塩基対法(Nearest Neighbor Method)、Wallance法、GC%法等に基づく計算式を利用することができる。本発明のプローブにおいては、限定はされないが、平均Tmが約35〜70℃あるいは45〜60℃であることが好ましい。なお、プローブとして特異的なハイブリダイズが可能な条件としては、その他にもGC含量等があり、その条件は当業者に周知である。
【0024】
また、本発明のプローブを構成するヌクレオチド(核酸)は、DNA及びRNA、あるいはPNAのいずれであってもよく、DNA、RNA及びPNAの2種以上のハイブリッドであってもよい。
本発明のプローブとしては、具体的には、以下の(a)又は(b)のDNAの塩基配列を含むものが好ましく挙げられる。
(a) 配列番号4、7、8、10〜16、20、22、27、29、31〜35、39〜47及び50〜58に示される塩基配列からなるDNA
(b) 上記(a)のDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ有害又は有毒渦鞭毛藻類に由来する核酸の塩基配列のうちの少なくとも一部の塩基配列を検出し得る機能を有するDNA
【0025】
上記(a)の各種DNAについて、それらの具体的な塩基配列、プローブ番号、プローブ名、検出対象となる渦鞭毛藻類については、後述する実施例及び表5等の記載が参照できる。
また、上記(b)のDNAは、上記(a)の各種DNA若しくはそれと相補的な塩基配列からなるDNA、又はこれらを断片化したものをプローブとして用い、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、及びサザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法を実施し、cDNAライブラリーやゲノムライブラリーから得ることができる。ライブラリーは、公知の方法で作製されたものを利用してもよいし、市販のcDNAライブラリーやゲノムライブラリーを利用してもよく、限定はされない。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、前記と同様のものを参照することができる。上記(b)のDNAに関し、「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄時の条件であって、バッファーの塩濃度が24〜390mM、温度が40〜65℃、好ましくは塩濃度が48.8〜195mM、温度が45〜60℃の条件を意味する。具体的には、例えば97.5mMで50℃等の条件を挙げることができる。さらに、このような塩濃度や温度等の条件に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、反応時間などの諸条件も考慮し、上記(b)のDNAを得るための条件を適宜設定することができる。ハイブリダイズするDNAとしては、上記(a)のDNAの塩基配列に対して少なくとも60%以上の相同性を有する塩基配列であることが好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。
【0026】
本発明のプローブは、例えば、通常のオリゴヌクレオチド合成法を使用して化学合成する(精製はHPLC等により行う)ことにより作製することができる。そのようなプローブは、例えば、Probe Quest(登録商標:ダイナコム社製)により設計することができる。また、本発明のプローブには、例えば、タグ配列などの付加配列が含まれていてもよい。
本発明において、検出目的となる前記各種渦鞭毛藻類が有する核酸の塩基配列は、当該塩基配列そのものである必要はなく、塩基配列の一部が欠失、置換、挿入等により変異が生じたものであってもよい。したがって、検出目的の核酸の塩基配列(例えば前記D1及びD2領域の塩基配列)は、当該塩基配列に相補的な配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつそれぞれの塩基配列に由来する機能や活性を有する変異型遺伝子も対象とすることができ、プローブは、このような変異型遺伝子の塩基配列を基礎として設計することもできる。ここで「ストリンジェントな条件」は、前記と同様の条件を適用することができる。
【0027】

3.有害又は有毒渦鞭毛藻類検出用マイクロアレイ
上述した本発明のプローブは、支持体となる基盤に複数配置される。プローブが配置された基盤は一般的にDNAチップ又はDNAマイクロアレイと称される。支持体となる基盤の形態としては、平板(ガラス板、樹脂板、シリコン板等)、棒状、ビーズ等のいずれの形態のものも使用できる。支持体として、平板を使用する場合は、その平板上に、所定の間隔もって、所定のプローブを種類毎に固定することができる(スポッティング法等;Science 270, 467-470 (1995)等参照)。また、平板上の特定の位置で、所定のプローブを種類毎に逐次合成していくこともできる(フォトリソグラフィー法等;Science 251, 767-773 (1991)等参照)。他の好ましい支持体の形態としては、中空繊維を使用するものが挙げられる。支持体として中空繊維を使用する場合は、所定のプローブを種類毎に各中空繊維に固定し、すべての中空繊維を集束させ固定した後、繊維の長手方向で切断を繰り返すことにより得られるマイクロアレイ(以下「繊維型マイクロアレイ」と言う)が好ましく例示できる。このマクロアレイは、貫通孔基板に核酸を固定化したタイプのものと説明することもでき、いわゆる「貫通孔型マイクロアレイ」とも言われる(特許第3510882号公報等参照)。
【0028】
支持体へのプローブの固定方法は、限定はされず、どのような結合様式でもよい。また、支持体に直接固定することに限定はされず、例えば、予め支持体をポリリジン等のポリマーでコーティング処理し、処理後の支持体にプローブを固定することもできる。さらに、支持体として中空繊維等の管状体を使用する場合は、管状体にゲル状物を保持させ、そのゲル状物にプローブを固定することもできる。
以下、「貫通孔型マイクロアレイ」の一形態である繊維型マイクロアレイに関して詳細に説明する。このマイクロアレイは、例えば、下記(i)〜(iv)の工程を経て作製することができる。
(i) 複数本の中空繊維を、中空繊維の長手方向が同一方向となるように3次元に配列して配列体を製造する工程
(ii) 前記配列体を包埋し、ブロック体を製造する工程
(iii) オリゴヌクレオチドプローブを含むゲル前駆体重合性溶液を前記ブロック体の各中空繊維の中空部に導入して重合反応を行い、プローブを含むゲル状物を中空部に保持させる工程
(iv) 中空繊維の長手方向と交差する方向で切断して、ブロック体を薄片化する工程
【0029】
中空繊維に使用される材料としては、限定はされないが、例えば、特開2004-163211号公報等に記載の材料が好ましく挙げられる。
中空繊維は、その長手方向の長さが同一となるように3次元に配列される(工程(i))。配列方法としては、例えば、粘着シート等のシート状物に複数本の中空繊維を所定の間隔をもって平行に配置し、シート状とした後、このシートを螺旋状に巻き取る方法(特開平11-108928号公報参照)や、複数の孔が所定の間隔をもって設けられた多孔板2枚を孔部が一致するように重ね合わせ、それらの孔部に中空繊維を通過させ、その後2枚の多孔板の間隔を開いて仮固定し、2枚の多孔板間における中空繊維の周辺に硬化性樹脂原料を充満させて硬化させる方法(特開2001-133453号公報参照)などが挙げられる。後者の方法に用いる配列固定治具については、図3に示す該略図が参照される。
製造された配列体はその配列が乱れないように包埋される(工程(ii))。包埋の方法としては、ポリウレタン樹脂及びエポキシ樹脂等を繊維間の隙間に流し込む方法のほか、繊維どうしを熱融着により接着する方法等が好ましく挙げられる。
【0030】
包埋された配列体には、各中空繊維の中空部に、オリゴヌクレオチドプローブを含むゲル前駆体重合性溶液(ゲル形成溶液)を充填し、中空部内で重合反応を行う(工程(iii))。これにより、各中空繊維の中空部に、プローブが固定されたゲル状物を保持させることができる。
ゲル前駆体重合性溶液とは、ゲル形成重合性モノマー等の反応性物質を含有する溶液であって、該モノマー等を重合、架橋させることにより該溶液がゲル状物となることが可能な溶液をいう。そのようなモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ビニルピロリドン、メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。この場合、溶液には重合開始剤等が含まれていてもよい。
中空繊維内にプローブを固定した後、中空繊維の長手方向と交差する方向(好ましくは直交する方向)で、ブロック体を切断して薄片化する(工程(iv))。このようにして得られた薄片は、DNAマイクロアレイとして使用できる。当該アレイの厚みは、0.01mm〜1mm程度であることが好ましい。ブロック体の切断は、例えば、ミクロトーム及びレーザー等により行うことができる。
上述した繊維型マイクロアレイとしては、例えば、三菱レイヨン社製DNAチップ(Genopal TM)等が好ましく挙げられる。
【0031】
繊維型マイクロアレイでは、上述のように、プローブはゲル内で3次元的に配列され、3次元構造を維持することが可能となる。そのため、表面をコートしたスライドガラスにプローブを結合させた平面マイクロアレイに比べて、検出効率が上昇し、高感度で高再現性の検査をすることが可能となる。
また、マイクロアレイに配置されるプローブの種類の数は、1つのマイクロアレイ上(中)に1000種類以下、好ましくは500種類以下、さらに好ましくは250種類以下が好ましい。このように配置されたプローブ数(種類)をある程度制限することにより、目的の渦鞭毛藻類をより高感度で検出することが可能となる。なお、プローブの種類は塩基配列によって区別される。従って、通常、同じ遺伝子に由来のプローブであっても塩基配列が1個でも異なれば別の種類として特定する。
なお、本明細書においては、DNAマイクロアレイ及びDNAチップ等の名称については、それぞれ区別はせず、同義語であるとする。
【0032】

4.有害又は有毒渦鞭毛藻類の検出方法
本発明の有害又は有毒渦鞭毛藻類の検出方法は、下記の工程を含む方法である。
(i) 所定の海域から海水を採取して被検体とし、当該被検体中の生物に由来する核酸を抽出する工程(抽出工程)
(ii) 上記抽出した核酸を、前述した本発明のオリゴヌクレオチドプローブ(前記2.項)又は本発明のマイクロアレイ(前記3.項)に接触させる工程(検出工程)
【0033】
以下に、本発明の検出方法の詳細を工程ごとに説明する。
(1) 工程(i)について
本工程(抽出工程)では、所定の海域から海水を採取して被検体とし、当該被検体中の生物に由来する核酸を抽出するが、被検体を採取する海域は特に限定はされない。採取する海水としては、限定はされないが、具体的には、海洋開発現場海域の海水、養殖場の海水、養殖場の海水、又は病気を発症している魚が生息する海水などが挙げられ、例えば、海洋の環境状況を知ろうとする目的で、その海域の海水を採取してもよい。また、当該被検体は、1つの海域から採取して得られた被験体であってもよいし、複数の海域から採取して得られた複数の被験体であってもよいが、複数の海域からサンプルを採取する場合は、例えば、複数の海域についての比較検討を行う、又は海域の状況ごとに海域のグループ分けを行うなど、多様化した様式の海洋モニタリングが可能である。
【0034】
次いで、当該被検体中の生物に由来する核酸の抽出を行うが、これについては、例えば、プランクトンネットを通した海水サンプルを、さらに孔径0.22μm程度のフィルターにかけ、フィルター上に残ったものを収集しサンプルとし、当該サンプルから核酸(ポリヌクレオチド)の抽出を行うことができる。核酸は、二本鎖ポリヌクレオチドとして回収することが好ましい。核酸の抽出方法は、常法に従って行うことができ、例えば、濾過、培養、遠心、溶解等を行い、回収することができる。
【0035】
上記サンプルから得られた核酸は、そのままマイクロアレイ等に接触させてもよいし、PCR等により所望の部位(塩基配列領域)を増幅し、その増幅断片をマイクロアレイ等に接触させてもよく、限定はされない。得られた核酸をテンプレートとして増幅する部位は、本発明のプローブ又は本発明のマイクロアレイに配置(搭載、固定)したオリゴヌクレオチドの塩基配列を含む核酸領域をコードする部位である。増幅する所望の部位は、限定はされず、前記渦鞭毛藻類の種を問わず保存性の高い領域の塩基配列を利用し、多種類の混合物を一度に増幅して得ることができる。このような増幅のための配列は、実験的に単離、精製し、単離されたポリヌクレオチドの塩基配列を解析し、その配列に基づいて決定してもよいし、また、塩基配列等の各種データベースで既知の塩基配列を検索し、アラインメントを取ることなどによって、In Silicoで決定してもよい。核酸又はアミノ酸などのデータベースは、特に限定されるものではないが、例えば、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)、EMBL(European Molecular Biology Laboratry, EMBL nucleic acid sequence data library)、GenBank(Genetic sequence data bank)、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のTaxonomyデータベース等を利用できる。
【0036】
具体的に、増幅する所望の部位としては、前記渦鞭毛藻類の染色体DNA中の大サブユニットリボソームRNA(LSU rRNA)遺伝子のD1又はD2領域であることが好ましい。当該領域の増幅に用い得るPCRプライマーとしては、例えば、下記のものが好ましく挙げられる。なお、PCR法による核酸の増幅は、定法に従って行うことができる。
【0037】
フォワードプライマー D1R:
5'-ACCCGCTGAATTTAAGCATA-3' (配列番号1)
リバースプライマー D2C:
5'-CCTTGGTCCGTGTTTCAAGA-3' (配列番号2)
【0038】
本工程において抽出した核酸及びその増幅断片は、適宜標識化し、ハイブリダイズさせた後の検出過程において利用することも可能である。具体的には、反応性のヌクレオチドアナログを逆転写反応時に取り込ませる方法、ビオチン標識したヌクレオチドを取り込ませる方法などが考えられる。さらに、調製後に蛍光標識試薬と反応させて標識することも可能である。蛍光試薬としては、例えば、各種レポーター色素(例えば、Cy5、Cy3、VIC、FAM、HEX、TET、フルオレセイン、FITC、TAMRA、Texas red、Yakima Yellow等)を用いることができる。
【0039】
(2) 工程(ii)について
本工程(検出工程)では、工程(i)で得た核酸又はその増幅断片を、本発明のオリゴヌクレオチドプローブ又は本発明のマイクロアレイに接触させるが、具体的には、当該核酸等を含むハイブリダイゼーション溶液を調製し、当該溶液中の核酸等を、マイクロアレイに搭載されたオリゴヌクレオチドプローブに結合(ハイブリダイズ)させる。ハイブリダイゼーション溶液は、SDSやSSC等の緩衝液を用いて、常法に従い、適宜調製することができる。
ハイブリダイゼーション反応は、ハイブリダイゼーション溶液中の核酸等が、マイクロアレイに搭載されたオリゴヌクレオチドプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るよう、反応条件(緩衝液の種類、pH、温度等)を適宜設定して行うことができる。なお、ここで言う「ストリンジェントな条件」とは、類似配列によるクロスハイブリダイゼーションを生じにくい、あるいは類似配列によってクロスハイブリダイゼーションした核酸を解離させる条件のことをいい、具体的には、ハイブリダイゼーション反応時又はハイブリダイゼーション後のマイクロアレイの洗浄条件を意味する。
【0040】
例えば、ハイブリダイゼーション反応時の条件としては、反応温度は、35〜70℃が好ましく、より好ましくは40〜65℃であり、ハイブリダイズさせる際の時間は、約1分〜16時間が好ましい。
また、ハイブリダイゼーション後のマイクロアレイの洗浄条件としては、洗浄液組成は、0.12M Tris・HCl/0.12M NaCl/0.05% Tween-20であることが好ましく、洗浄時の温度は、35〜80℃あるいは40〜65℃が好ましく、より好ましくは45〜60℃である。より具体的には、塩(ナトリウム)濃度が48〜780mMであり、温度が37〜80℃である条件が好ましく、より好ましくは塩濃度が97.5〜390mMであり、温度が45〜60℃である条件である。
【0041】
洗浄後は、プローブに結合した核酸等の標識を検出できる装置により、スポットごとに検出強度を測定する。例えば、上記核酸等を蛍光標識化していた場合は、各種蛍光検出装置、例えば、CRBIO(日立ソフトウェアエンジニアリング(株))、arrayWoRx(GE Healthcare社)、Affymetrix 428 Array Scanner(Affymetrix,社)、GenePix(Axon Instruments社)、ScanArray(PerkinElmer社)、三菱レイヨン社製の冷却CCD式蛍光検出装置などを用いて、蛍光強度を測定することができる。これらの装置については、蛍光スキャナーの場合は、例えば、レーザーの出力、検出部の感度を適宜調整してスキャンを行うことができ、CCDカメラ型のスキャナーの場合は、露光時間を適宜調節してスキャンを行うことができる。スキャンの結果に基づく定量方法は、定量ソフトウエアにより行う。定量ソフトウエアに特に限定はなく、スポットの蛍光強度の平均値、中央値等を用いて定量することができる。また、定量にあたっては、DNAフラグメントのスポット範囲の寸法精度などを考慮し、プローブを搭載していないスポットの蛍光強度をバックグラウンド(BG)として用いるなど、調整を行うことが好ましい。
このように、検出強度の測定により検出目的の有害又は有毒渦鞭毛藻類由来の核酸の検出を行い、その後は定法に従い、当該検出結果を指標として、各種当該渦鞭毛藻類の存在量などを測定することができる。
【0042】

5.海洋モニタリング方法
本発明の海洋モニタリング方法は、上記本発明の検出方法を用いて得られた検出結果を解析し、この解析結果を指標として海洋の状況を推測することを特徴とする方法である。
モニタリングの対象となる、所定の海域の海水から採取した被検体は、1つの海域から採取したものであってもよいし、複数の海域から採取したものであってもよく限定はされないが、複数の海域から採取したものを対象とする場合は、これら複数の被験体ごとの検出結果を比較解析し、その解析結果を指標とすることにより、例えば、海洋状況に対する地球温暖化の影響を推測することもできる。この場合は、複数の被験体ごとに、所定の前記渦鞭毛藻類が検出されたか否かを比較することが好ましく、具体的には、Pyrodinium属及びGambierdiscus属のいずれか又は両方について検出の有無や存在量の程度を比較することが好ましい。
【0043】
上記解析においては、具体的には、検出に使用したマイクロアレイ上での標識物質の検出パターンが、その海域の特徴を示すものと考えられる。例えば、1つの海域から被検体を採取した場合には、その海域に存在する有害又は有毒渦鞭毛藻類の有無及び海洋の環境状況を推定することができる。また、他の解析の態様としては、複数の海域から海水を採取して複数の被検体とし、それぞれの検出に使用したマイクロアレイ上での標識物質の検出パターンについて統計学的解析を行う態様が挙げられる。
統計的解析の方法としては、例えば、相関解析、階層的クラスタリング及び非階層的クラスタリングなどがある。より具体的には、相関解析時に用いる距離関数として、Pearson correlation、Cosine coefficient 等の手法が挙げられる。また、階層的クラスタリングとしては、UPGMA(unweighted-pair group methodusing arithmetic averages )などの手法が挙げられる。このような解析手法を用い、クラスター解析を行うことにより、各海域のグループ化が可能であり、さらには各海域の類比などを判別することができる。その結果、例えば前述したように、海洋状況に対する地球温暖化の影響を推測することもできる。
【0044】

以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
混合サンプルでのプローブの特異性の確認
以下のプランクトンのゲノムDNAを、独立行政法人水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所 赤潮環境部有毒プランクトン研究室および赤潮生物研究室で培養株を確立して継代培養したサンプルから抽出した。ゲノムDNA抽出は核酸抽出キット DNeasy Plant Mini Kit(QIGEN社)を用いて行った。
1 Cochlodinium Polykrikoides
2 Heterocapsa pygmaea
3 Heterocapsa triquetra
4 Heterocapsa ildefina
5 Heterocapsa arctica
6 Heterocapsa circularisquama
7 Chattonella ovata
8 Karenia mikimotoi
9 Gymnodinium catenatum
10 Alexandrium affine
11 Alexandrium catenella
12 Alexandrium fraterculus
13 Alexandrium tamiyavanichii
14 Alexandrium tamarense
15 Heterosigma akashiwo
16 Alexandrium minutum
17 Karenia degitata
18 Alexandrium taylori
19 Alexandrium ostenfeldii
【0046】
得られたゲノムDNA濃度を1ng/μlに調整し、PCRのテンプレートとして使用するまで-80℃で保存した。
引き続き、以下の表1にしたがって、ゲノムDNAを混合し、20種類のサンプルを調整した。表1において「○」印をつけた部分はそのゲノムDNAを1μl混合したことを示し、「×」印をつけた部分は、代わりに滅菌水1μlを混合したことを示す。すなわち、19μlのゲノムDNA混合溶液、20種類を作製した。
【0047】
【表1】

【0048】
<PCR反応>
次に、これら有害又は有毒渦鞭毛藻類の大サブユニットリボソームRNA(LSU rRNA)遺伝子D1、D2領域の配列を増幅した。
前述の有害又は有毒渦鞭毛藻類混合ゲノムDNAをテンプレートとし、以下の反応液組成及び反応条件でPCRを実施した。テンプレートDNAは、混合した19μlから1μlを用いた。PCR用キットは、QIGEN HotStarTaq Master Mix Kit(QIAGEN社)を用い、GeneAmp9700(アプライドバイオシステムズ社、50μl、9600エミュレーションモード)により行った。プライマーは下記の配列を有するプライマーを用いた。なお、リバースプライマーは5'末端がCy5で蛍光標識化されているものを用いた。
【0049】
フォワードプライマー D1R:
5'-ACCCGCTGAATTTAAGCATA-3' (配列番号1)
リバースプライマー D2C:
5'-Cy5-CCTTGGTCCGTGTTTCAAGA-3' (配列番号2)
【0050】
<反応液組成>
2×HotStarTaq Master Mix 25μl
プライマーmix(10μM each) 5μl
テンプレートDNA(ゲノム混合物) 1μl
滅菌水 19μl
合計 50μl
【0051】
<反応条件>
94℃で5分間加熱後、「解離:94℃(30sec)→アニーリング:50℃(60sec)→合成:72℃(30sec)」を1サイクルとして計50サイクル行い、次いで72℃で5分間加熱した後、4℃で冷却した。

上記PCR後の反応液を、QIAGEN PCR MinElute精製キット(QIGEN社)でカラム精製し、22μl、1回で溶出した。約20μlのPCR産物を回収した。
【0052】
<DNAチップ:有害又は有毒渦鞭毛藻類検出基板の製造>
貫通孔型のDNAチップを、特開2007-74950号公報(メチル化DNA及び/又は非メチル化DNAの検出方法)の実施例1に記載の方法と同様の方法で製造を行った。
ただし、搭載させたオリゴヌクレオチドプローブ(キャプチャープローブ)は、下記配列番号3〜23に示す配列情報をもつプローブを用いた。また、図1に、製造したDNAチップの配列図を示した。図中の番号は、配列番号3〜23に示されるプローブの番号を示している。ここで、配列番号3、5、7、17、18、23に示されるプローブは公知配列である。
【0053】
プローブ番号1 Bax-28F620_A.tamarense
GGTGTATGTGTGTGTTCCTGTGCTT (配列番号3)

プローブ番号2 No1_1_A.tamarense
TGGGCTGTGGGTGTAATGATTCTTTC (配列番号4)

プローブ番号3 Bac-28F630_A.catenella
GTTTGTGTCCTTGTCCTTGAGGTTG (配列番号5)

プローブ番号4 No4_9_A.catenella
CTTGTCCTTGAGGTTGCTTTCTCCCTT (配列番号6)

プローブ番号5 Atamiy-602_A.tamiyavanichii
TGTGTGCACATATTGTTCTTCAGGA (配列番号7)
【0054】
プローブ番号6 No7_2_A.tamiyavanichii
GCATGCGTGTATAAGCATTTGTGTGC (配列番号8)

プローブ番号7 No7_3_A.tamiyavanichii
CATGAATGGTATTATTCCTGTGGGGG (配列番号9)

プローブ番号8 No8_6_Afraterculus
GTGTGTGCTAGTTATTTGTGCATGTGCTGAC (配列番号10)

プローブ番号9 No8_9_Afraterculus
GCAATGTTTGTTGCTGTGTGTGCTAG (配列番号11)

プローブ番号10 No13_3_A.affine
TTCTTGAAGCTGGGCCTACCCTACTAGAG (配列番号12)
【0055】
プローブ番号11 GC01_G.catenatum
ACAAGCTAATGGTGACGAAATGGT (配列番号13)

プローブ番号12 GC02_G.catenatum
ACACGCGTGGCACCTTCCTTACAAGC (配列番号14)

プローブ番号13 No17_1_Gcatenatum
CAACAAACAGTTCAACCTTTGTGGGG (配列番号15)

プローブ番号14 No.17_629_Gcatenatum
GTTGCTTCGTGTTGCGTGCTCTGGCG (配列番号16)

プローブ番号15 Ki_and_Han_2006_Chattonella marina
TTACTCTCCTGTTGCTGTTTCTGTC (配列番号17)
【0056】
プローブ番号16 BCp-28F689_C.polykrikoides
CTTGGGTTGATCGTGGGTCCTGACA (配列番号18)

プローブ番号17 Kg01_K.degitata
AGAACTCATTTCTTAACTGATCTCTGC (配列番号19)

プローブ番号18 Kg02_K.degitata
TGCTTCGGGTCTGGAGCTTCGGCTCT (配列番号20)

プローブ番号19 No26_30_Karenia-degitata
CTTAACTGATCTCTGCATGTCTGGTCGC (配列番号21)

プローブ番号20 No33_1_Karenia mikimotoi
GATCTTCTGCTCTGCATGAAGGTTGTTG (配列番号22)

プローブ番号21 Bha-28F618_H.akashiwo
GTATGCTGGTGTCTACTGCTTGCAG (配列番号23)
【0057】
<DNAチップへのハイブリダイゼーション>
以下のように各溶液を混合し、ハイブリダイゼーション溶液を調製した。

表1に示した各サンプル番号のサンプル 19μl
滅菌水 80μl
1M Tris/HCl(pH7.5) 18μl
1M NaCl 18μl
0.5% Tween-20 15μl
合計 150μl

150μlのハイブリダイゼーション溶液を、前記DNAチップに接触させ(アプライし)、50℃で16時間ハイブリダイゼーション反応を行った。
【0058】
<洗浄>
ハイブリダイゼーション反応後、以下の手順(a)〜(d)でDNAチップを洗浄した
(a) 滅菌済みの遠心管に0.12M Tris・HCl/0.12M NaCl/0.05% Tween-20を10ml入れ、これを2本用意した。同様に、滅菌済みの遠心管に0.12M Tris・HCl/0.12M NaClを10ml入れ、これを1本用意した。
(b) 0.12M Tris・HCl/0.12M NaCl/0.05% Tween-20溶液が入った2本は50℃に保温し、残りの1本は室温に置いた。
(c) 保温した洗浄液が50℃に温まったところで、チャンバーからDNAチップを取り出して20分間浸漬した。その後、もう1本の洗浄液にDNAチップを取り出して移し入れ、再度20分間浸漬した。
(d) その後、50℃の洗浄液から室温の洗浄液にDNAチップを移した。
【0059】
<検出>
上記洗浄後、三菱レイヨン社製の冷却CCD式蛍光検出装置(型番:0060304)を用い、下記検出条件で、各スポットの蛍光強度を測定した。
<検出条件>
中心励起波長 :630nm
蛍光フィルター:Cy5フィルター
露光時間 :1000msec
【0060】
<バックグラウンドの減算>
チップごとに、バックグラウンド値(プローブを搭載していないスポットの上下20%を除いた中央値)を各スポットの蛍光強度から減算し、ハイブリダイゼーションに由来する蛍光強度(以後、シグナル強度と呼ぶ)を算出した。
【0061】
<結果>
サンプル番号1〜20のシグナル強度の検出結果(算出結果)を下記の表2に示した。
例えば、サンプル番号15番についての結果を考える。サンプル番号15番は、表1よりA.tamarenseのゲノムDNAを含んでいないので、DNAチップで検出されないはずである。表2の結果を見ると、サンプル15番を用いた時、プローブ番号1番、2番のシグナル強度は他のサンプルと比較して極端に低い値となっており、プローブ番号1番、2番ともに特異的に検出できていると考えられた。
【0062】
同様に、サンプル番号12番についての結果を考える。サンプル番号12番は、表1よりA.catenellaのゲノムDNAを含んでいないので、DNAチップで検出されないはずである。表2の結果を見ると、サンプル12番を用いた時、プローブ番号3番、4番のシグナル強度は他のサンプルと比較して極端に低い値となっており、プローブ番号3番、4番ともに特異的に検出できていると考えられた。
以下同様にして、他のプローブについても特異性を確認することができた。
【0063】
【表2】

【実施例2】
【0064】
熱帯、亜熱帯性プランクトン用プローブ、追加試験プローブの追加
実施例1で使用した貫通孔型のDNAチップのプローブに、以下のプローブを追加して新規に貫通孔型のDNAチップを作製した。
【0065】
プローブ番号22 90622tamarense1
TTGGTGGGAGTGTTGCACT (配列番号24)

プローブ番号23 90622tamarense2
ACTTGCTTGACAAGAGCTTTGGGC (配列番号25)

プローブ番号24 90622tamarense3
CTGGTGTATGTGTGTGTTCC (配列番号26)

プローブ番号25 90622tamarense4
GCTTGGGGATGCTTCCTTCCTTGGA (配列番号27)

プローブ番号26 90622catenella1
TAACAATGGGTTTTGGCTGCA (配列番号28)
【0066】
プローブ番号27 90622catenella2
TGTGCCAGTTTTTATGTGGA (配列番号29)

プローブ番号28 90622catenella3
GCATATGCATGTAATGATTTGCATGT (配列番号30)

プローブ番号29 90622catenella4
TCCTTGTCCTTGAGGTTGCTTTCTC (配列番号31)

プローブ番号30 90622fraterculus1
TGCATGTCGATGTGAATTGC (配列番号32)

プローブ番号31 90622fraterculus2
GTGTGTGCTAGTTATTTGTGCATG (配列番号33)
【0067】
プローブ番号32 90622fraterculus3
CATGCATGCATGTGTGCTCAGG (配列番号34)

プローブ番号33 90622fraterculus4
TGGGTGTTGTTCGCTGTATGG (配列番号35)

プローブ番号34 90622ostenfeldii1
GAGATTGTTGCGTCCACTTGT (配列番号36)

プローブ番号35 90622ostenfeldii2
GTGTGCCCTCTTGCCAAATG (配列番号37)

プローブ番号36 90622ostenfeldii3
GGGCTCTCCTCCCTGGGCAC (配列番号38)
【0068】
プローブ番号37 90622bahamense1
GATTGTTGTGTGTTAGTGAC (配列番号39)

プローブ番号38 90622bahamense2
AGTGACATAGGTCACCATGCAC (配列番号40)

プローブ番号39 90622bahamense3
ACCTTGACATGTGTGCTGCAAG (配列番号41)

プローブ番号40 90622bahamense4
TGTGCACCTTCTGGAACAACCC (配列番号42)

プローブ番号41 90622mexicanum1
CTTGCTCCTCGCGCCCAGC (配列番号43)
【0069】
プローブ番号42 90622mexicanum2
GCTCCTCGCACCCAGCGCTCGGG (配列番号44)

プローブ番号43 90622mexicanum3
CTTGGACGTGCTTGGGCGTGGGAGCTT (配列番号45)

プローブ番号44 90622lima1
CATTCCCTTGCCAATTAATGCAA (配列番号46)

プローブ番号45 90622lima2
CATTCCCTTGCCAACTAATGCAA (配列番号47)

プローブ番号46 90622lima3
TGCAGCTCCCTGCCTACGAGGCA (配列番号48)
【0070】
プローブ番号47 90622lima4
AGCGCTCCATGCCTATCAGGCA (配列番号49)

プローブ番号48 90622montis1
CTGTTGCAATGATTTTTTGTATCGTGATGC (配列番号50)

プローブ番号49 90622montis2
GCAAGGCTATTGCAATGATTTTTTGTATAGTGATGC (配列番号51)

プローブ番号50 90622montis3
AGAGCTTGCAATTGCTGAACTGATAAGC (配列番号52)

プローブ番号51 90622Karenia brevis1
GGGACATGGTAATTTGCTTCCGGGC (配列番号53)
【0071】
プローブ番号52 90622Karenia brevis2
GTGTCTGGTCGCACTGCTCCG (配列番号54)

プローブ番号53 90622Karenia brevis3
AATCTTCTGCTTGGCATGAAGGTTGCTA (配列番号55)

プローブ番号54 90622taylory1
GCATGGGTTTAATGTGTAAATTGTATGAGC (配列番号56)

プローブ番号55 90622taylory2
TTAGCTCGCATGTAGAGTGTCTGTGC (配列番号57)

プローブ番号56 90622taylory3
CTGTGCAATGTAACATTGCAAC (配列番号58)
【0072】
プローブ番号57 90622 convolutum 1
GATGACAAAATGGTTCCATACG (配列番号59)

プローブ番号58 90622 convolutum 2
GACAAAATGGTTCCATACGAC (配列番号60)

プローブ番号59 90622 convolutum 3
GATGACAAAATGGTTCCATACGAC (配列番号61)

プローブ番号60 90622toxicus1
GRAAGTGGAGTGYAAAGTGGGTGGTA (配列番号62)

プローブ番号61 90622toxicus2
TGAGGGAARYGTGAAAAGGACTTTGGA (配列番号63)

プローブ番号62 90622toxicus3
ACTTGCTGAWGDGCAAGCATACAG (配列番号64)
【0073】
製造したDNAチップの配列図を図2に示した。
図中の番号1〜21は、実施例1でのプローブ番号(配列番号3〜23に示したプローブの番号)であり、番号22〜62は、本実施例2で列挙したプローブ番号(配列番号24〜64に示したプローブの番号)を示している。
【0074】
実施例1と同様に以下のプランクトンのゲノムDNAを抽出・入手し、1ng/μlに調整して使用するまで-80℃に保存しておいた。
20 Pyrodinium bahamense
21 Prorocentrum mexicanum
22 Prorocentrum lima
23 Karenia brevis
24 Alexandrium taylori
25 Cochlodinium convolutum
26 Gambierdiscus toxicus
27 Coolia montis
28 Ostreopsis siamensis
【0075】
<PCR反応>
次に、これら9種類の有毒渦鞭毛藻類の大サブユニットリボソームRNA(LSU rRNA)遺伝子D1、D2領域の配列を増幅した。
1ng/μl ゲノムDNA 1μlをテンプレートとし、以下の反応液組成及び反応条件でPCRを実施した。PCR用キットは、QIGEN HotStarTaq Master Mix Kit(QIAGEN社)を用い、GeneAmp9700(アプライドバイオシステムズ社、50μl、9600エミュレーションモード)により行った。プライマーは下記の配列を有するプライマーを用いた。なお、リバースプライマーは5'末端がCy5で蛍光標識化されているものを用いた。
【0076】
フォワードプライマー D1R:
5'-ACCCGCTGAATTTAAGCATA-3' (配列番号1)
リバースプライマー D2C:
5'-Cy5-CCTTGGTCCGTGTTTCAAGA-3' (配列番号2)
【0077】
<反応液組成>
2×HotStarTaq Master Mix 25μl
プライマーmix(10μM each) 5μl
テンプレートDNA(ゲノムDNA) 1μl
滅菌水 19μl
合計 50μl
【0078】
<反応条件>
94℃で5分間加熱後、「解離:94℃(30sec)→アニーリング:68℃(60sec)→合成:72℃(30sec)」を1サイクルとして計50サイクル行い、次いで72℃で5分間加熱した後、4℃で冷却した。

上記PCR後の反応液を、QIAGEN PCR MinElute精製キット(QIGEN社)でカラム精製し、22μl、1回で溶出した。約20μlのPCR産物を回収した。回収したPCR産物を電気泳動したところ、約700〜800bp付近に単一のバンドを認めた。
これら9種類の精製後のPCRをDNAチップにハイブリダイゼーションし、プローブの特異性を確認した。
【0079】
<DNAチップへのハイブリダイゼーション>
以下のように各溶液を混合し、ハイブリダイゼーション溶液を調製した。

精製後のPCR産物サンプル 15μl
滅菌水 84μl
1M Tris/HCl(pH7.5) 18μl
1M NaCl 18μl
0.5% Tween-20 15μl
合計 150μl

150μlのハイブリダイゼーション溶液を、前記DNAチップに接触させ(アプライし)、50℃で16時間ハイブリダイゼーション反応を行った。
【0080】
<洗浄>,<検出>,<バックグラウンドの減算>
これらについては、実施例1と同様の方法で実施した。
【0081】
<結果>
シグナル強度の検出結果(算出結果)を下記の表3に示した。ここでプローブ番号19、20はKarenia brevisをハイブリダイゼーションしたときに、シグナル強度が上昇しているため、使用すべきプローブではないことが分かった。
また表3の結果から以下のことも分かった。
プローブ番号37、38、39、40の比較では、40番のプローブがもっともシグナル強度が高く、また特異的に検出できていることが明らかとなった。すなわち、Pyrodinium bahamenseの検出には、プローブ番号40番の配列のものが適していることが分かった。
プローブ番号60、61、62の比較では、60、61番のプローブは、Gambierdiscus toxicus以外のものでもシグナル強度が上昇しており、62番のみ使用できることが分かった。すなわち、Gambierdiscus toxicusの検出には、プローブ番号62番の配列のものが適していることが分かった。
【0082】
プローブ番号41、42、43の比較では、43番のプローブがもっともシグナル強度が高く、また特異的に検出できていることが明らかとなった。すなわち、Prorocentrum mexicanumの検出には、プローブ番号43番の配列のものが適していることが分かった。
プローブ番号57、58、59の比較では、59番のプローブがもっともシグナル強度が高く、また特異的に検出できていることが明らかとなった。すなわち、Cochlodinium convolutumの検出には、プローブ番号59番の配列のものが適していることが分かった。
プローブ番号51、52、53の比較では、51もしくは52番のプローブがもっともシグナル強度が高く、また特異的に検出できていることが明らかとなった。すなわち、Karenia brevisの検出には、プローブ番号51、もしくは52番の配列のものが適していることが分かった。
【0083】
プローブ番号48、49、50の比較では、48番のプローブがもっともシグナル強度が高く、また特異的に検出できていることが明らかとなった。すなわち、Coolia montisの検出には、プローブ番号48番の配列のものが適していることが分かった。
プローブ番号44、45、46、47の比較では、44番のプローブがもっともシグナル強度が高く、また特異的に検出できていることが明らかとなった。すなわち、Prorocentrum limaの検出には、プローブ番号44番の配列のものが適していることが分かった。
プローブ番号54、55、56、の比較では、55番のプローブがもっともシグナル強度が高く、また特異的に検出できていることが明らかとなった。すなわち、Alexandrium tayloriの検出には、プローブ番号55番の配列のものが適していることが分かった。
【0084】
【表3】

【実施例3】
【0085】
海水に特定のプランクトンを添加したサンプルでの評価
より実際的な評価に耐えうるDNAチップとするために、実施例2で製造したDNAチップを用いて、引き続きプローブの評価を実施した。
【0086】
<サンプルの調製>
2009年07月28日の広島湾桟橋海水を1リットル程度とり、これをオートクレーブして滅菌海水を得た。この滅菌海水50mlに、下記の(1)〜(12)及び(N)の組み合わせで、培養細胞を1種につき50細胞ずつ加えて、13種類のサンプルを作製した。その後、これらの溶液50mlを5マイクロのヌクレポアフィルター(直径24mm)上にろ過した。25mM NaOH に、Chelex100 Resin(Bio-Rad社製)が10%(w/vol)になるように懸濁した溶液を作製した。この溶液500μlに、上記のろ過したろ紙を入れ、100℃で10分間加熱した。氷上で冷却後、ボルテックスで混合し、さらに100mM Tris-HCl(pH7.5)を100μl加えてボルテックスで混合した。その後、卓上遠心機で遠心し、沈殿を底に沈ませ、上清をDNA抽出溶液として用いた。このようにして、12種類の混合DNA溶液とネガティブコントロール溶液を準備した。
【0087】
<サンプル番号,組み合わせの種類>
(1) A.tamarense、A.catenella、A.fraterculus
(2) A.tamarense、A.catenella
(3) A.fraterculus、A.ostenfeldii、H.akashiwo
(4) H.akashiwo、G.catenatum、K.mikimotoi
(5) G.catenatum、K.mikimotoi、K.brevis
(6) K.brevis, C.polykrikoides,H.circularisquama
(7) C.polykrikoides,H.circularisquama,A.affine
(8) A.affine、A.tamiyavanichii、A.taylori
(9) A.tamiyavanichii、A.taylori、C.montis
(10) C.montis、Chattonella ovata、P.bahamense
(11) Chattonella ovata、P.bahamense、P.lima
(12) P.lima、P.mexicanum、A.tamarense
(N) 上記の培養細胞を全く加えていない海水のみ(Negative-Control)

これらすべて26種類のDNA溶液をPCR反応のテンプレートとして1μl使用した。
【0088】
<PCR反応>,<PCR反応後の精製>,<ハイブリダイゼーション>,<洗浄>,
<検出>,<バックグラウンドの減算>
これらについては、実施例1と同様の方法で実施した。ただし、DNAチップは実施例2で製造したものを用いた。DNAチップでのシグナル強度の検出結果(算出結果)を下記表4に示した。表4中、太い四角で囲んである部分は海水に添加したプランクトンの種類である。また、灰色で示されている部位は、予期せぬクロスハイブリダイゼーションが起こった部位である。添加していないにもかかわらず、シグナル強度が500以上となった場合、クロスハイブリダイゼーションが起こったと判断した。
下記表4の結果と、実施例1、2の結果とを合わせた総合的な判断より、すべてのサンプルでクロスハイブリダイゼーションがなく、特異的に検出ができると考えられた新規なプローブを見出した。これら新規プローブを表5に示した。
【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【配列表フリーテキスト】
【0091】
配列番号1〜64:合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害又は有毒渦鞭毛藻類に由来する核酸の塩基配列のうちの少なくとも一部の塩基配列にハイブリダイズし得る塩基配列を含む、有害又は有毒渦鞭毛藻類検出用オリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項2】
前記少なくとも一部の塩基配列が、前記藻類の染色体DNA中の大サブユニットリボソームRNA遺伝子の塩基配列である、請求項1記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項3】
前記少なくとも一部の塩基配列が、前記藻類の染色体DNA中の大サブユニットリボソームRNA遺伝子のD1領域又はD2領域の塩基配列である、請求項1記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項4】
有害又は有毒渦鞭毛藻類が、Alexandrium属、Dinophysis属、Gambierdiscus属、Gymnodinium属、Karenia属、Ostreopsis属、Pfiesteria属、Prorocentrum属、Protoceratium属、Protoperidinium属及びPyrodinium属からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項5】
下記(a)又は(b)のDNAの塩基配列を含むものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
(a) 配列番号4、7、8、10〜16、20、22、27、29、31〜35、39〜47及び50〜58に示される塩基配列からなるDNA
(b) 上記(a)のDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ有害又は有毒渦鞭毛藻類に由来する核酸の塩基配列のうちの少なくとも一部の塩基配列を検出し得る機能を有するDNA
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチドプローブが基盤に配置された、有害又は有毒渦鞭毛藻類検出用マイクロアレイ。
【請求項7】
複数の貫通孔を有し、それら貫通孔にゲルが保持されているマイクロアレイであって、前記ゲルに請求項1〜5のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチドプローブが保持されている、有害又は有毒渦鞭毛藻類検出用マイクロアレイ。
【請求項8】
有害又は有毒渦鞭毛藻類の検出方法であって、
所定の海域から海水を採取して被検体とし、当該被検体中の生物に由来する核酸を抽出する工程、及び
前記抽出した核酸を請求項1〜5のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチドプローブ又は請求項6若しくは7記載のマイクロアレイに接触させる工程
を含む、前記方法。
【請求項9】
前記被検体が、所定の複数の海域から海水を採取して得られた複数の被験体である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項8又は9記載の方法により得られた検出結果を解析し、当該解析結果を指標として海洋状況を推測することを特徴とする、海洋モニタリング方法。
【請求項11】
請求項9記載の方法により得られた前記複数の被験体ごとの検出結果を比較解析し、当該解析結果を指標として海洋状況に対する地球温暖化の影響を推測することを特徴とする、海洋モニタリング方法。
【請求項12】
前記複数の被験体ごとに、所定の有害又は有毒渦鞭毛藻類が検出されたか否かを比較することを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
所定の有害又は有毒渦鞭毛藻類が、Pyrodinium属及び/又はGambierdiscus属である、請求項12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−182650(P2011−182650A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48242(P2010−48242)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度地球温暖化対策推進費委託事業のうち「分子生物学的手法を用いた有害・有毒プランクトンの迅速・簡便モニタリング手法の開発」(産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【Fターム(参考)】