説明

有害物質の分離除去方法

【課題】油分をはじめとしたさまざまな有害物質を汚染土壌等から効率的に分離除去する。
【解決手段】本発明に係る有害物質の分離除去方法においては、真空ポンプ6を作動させて収容体3内の空気を抜き、該収容体内の空気圧を下げる。このように収容体3内の空気圧を下げると、該収容体内では、空気圧低下に伴う油分の沸点降下が生じて油汚染土2内の油分が直ちに揮発するとともに、収容体3を気密性シート11で構成してあるため、該シートを介して大気圧が油汚染土2に作用する。そのため、油汚染土2に含まれている油分は、減圧による揮発作用に加えて大気圧の加圧作用により、収容体3外部への排出が促進され、より効率的な分離除去が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌、産業廃棄物等に含まれている油や有機塩素化合物といったさまざまな有害物質を該汚染土壌等から分離除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場跡地等で基礎工事を行う場合、燃料油や機械油が掘削土に混じって搬出されることがある。かかる油汚染土をそのまま放置すると、該土に混入している油分の臭いが周囲に拡散して周辺住民の生活に支障を来すとともに、雨水によって土粒子から遊離した場合には、地下水等に混入して水質を汚濁させる原因ともなる。
【0003】
そのため、かかる油汚染土は、一般廃棄物とは区別し、いわゆる管理型処分場に廃棄処分とすることで環境への拡散防止を図らねばならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−299945号公報
【特許文献2】特開平08−299946号公報
【特許文献3】特開平3−178675号公報
【特許文献4】登録実用新案第3006288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、最近では、環境保護の観点から廃棄物処分場の確保がかなり困難な状況になってきており、廃棄処分すべき処分場が見当たらないという問題や、浸出水に含まれる油分の処理設備が整っていない場合には油汚染土の受入れがそもそも困難であるという問題、あるいは、油含有量が一定量を越える場合には、焼却が必要となるが、その焼却土はやはり管理型処分場で廃棄処分しなければならないという問題を生じていた。
【0006】
また、環境への拡散を厳重に監視すべき有害物質として、水銀、カドミウム、シアン、有機隣、鉛、六価クロム、砒素、PCBなどがあるが、通電回収が可能なイオン性のものであればともかく、電気的に中性の有害物質を汚染土壌から効率的に分離除去する方法はいまだ確立されていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、油分をはじめとしたさまざまな有害物質を汚染土壌等から効率的に分離除去することが可能な有害物質の分離除去方法を提供することを目的とする。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る有害物質の分離除去方法は請求項1に記載したように、有害物質を含んだ対象物を気密空間内に密封し、該空間内の気圧を下げて前記対象物内から前記有害物質を揮発させるとともに揮発した有害物質を前記気密空間の外部に排出する有害物質の分離除去方法であって、前記対象物を気密性シートで収容した状態で袋状に密封することにより、該気密性シートを介した大気圧による加圧作用によって前記有害物質の揮発を促進させるものである。
【0009】
本発明に係る有害物質の分離除去方法においては、有害物質を含んだ対象物を気密空間内に密封し、しかる後に気密空間内の空気を抜いて空気圧を下げる。
【0010】
このようにすると、気密空間内では、空気圧低下に伴う有害物質の沸点降下が生じて対象物内の有害物質が揮発するので、これを気密空間の外部に排出することにより、対象物内に含まれる有害物質を分離除去する。
【0011】
なお、空気が抜かれた後についても、気密空間内の気体、すなわち揮発した有害物質を抜いて減圧状態を維持することにより、対象物内の有害物質を引き続き揮発させる。
【0012】
有害物質が含まれている対象物としては、主として汚染土であるが、これ以外にもスラグ、焼却灰、汚泥、コンクリート廃材、プラスチック廃材、廃棄木材等も含まれる。
【0013】
有害物質としては、油類や、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、PCBなどの有機塩素化合物、あるいはベンゼン、トルエン、ナフタレン、フェノールなどの芳香族炭化水素のほか、減圧下、特に、数mmHg以下のほぼ真空といえる状態で沸点が常温以下に下がるすべての物質が包摂される。
【0014】
気密空間内の気圧は、該空間内の温度における有害物質の蒸気圧以下となるように設定するのが望ましい。この程度まで気圧を下げれば、対象物内に含まれる有害物質は直ちに揮発する。なお、必ずしも有害物質の蒸気圧を下回る必要はなく、若干効率は落ちるものの、該蒸気圧に近い気圧であればかなりの揮発作用を期待できる。
【0015】
参考発明に係る有害物質の分離除去装置においては、まず、気密性の収容体内に有害物質を含んだ対象物を投入して密封する。次に、気密性の収容体内の気密空間に連通された排気管を介して該収容体内の空気を真空ポンプで引き抜いて空気圧を低下させる。
【0016】
このようにすると、収容体内では、空気圧低下に伴う有害物質の沸点降下が生じて対象物内の有害物質が揮発するので、これを収容体の外部に排出し、さらに捕集機器で回収する。なお、空気が抜かれた後についても、気密空間内の気体、すなわち揮発した有害物質を抜いて減圧状態を維持することにより、対象物内の有害物質を引き続き揮発させる。
【0017】
有害物質、それが含まれている対象物並びに気圧に関する説明については、上述したとほぼ同様であるのでここでは省略する。
【0018】
ここで、本発明においては、対象物を気密性シートで収容した状態で袋状に密封することにより、該気密性シートを介した大気圧による加圧作用によって前記有害物質の揮発を促進させるとともに、前記気密性の収容体を気密性シートで構成し、該シートを前記対象物を収容した状態で袋状に密封自在に構成したので、上述した揮発作用に大気圧による加圧作用が加わり、より効率的な分離除去が可能となる。また、収容体がシートであるため、保管や運搬の際にたたんでおくことができるという作用効果も得られる。
【0019】
なお、かかる本願発明は、対象物に大気圧が作用しても有害物質の揮発が妨げられるおそれがない場合、例えば、対象物が礫や砂利を多く含んだ汚染土である場合に特に有用である。
【0020】
なお、気密性シートの使用の際にはこれを拡げて対象物を載せた後、対象物を包み込むようにして袋状に密封し、しかる後に収容体内の気体を上述したように引き抜いて有害物質を揮発除去すればよい。気密性を有するシートとしては、ナイロン、ビニロン、ポリエステルターポリンなどの材料から任意に選択することができる。
【0021】
気密性シートで対象物を密封する際、該対象物を気密性シートで直接密封するようにしてもよいが、対象物との間に保護層を介在させることによって収容体の内面に保護層を設けるようにしたならば、対象物の重量が大きかったり、該対象物に突起物が含まれていたり、あるいは大気圧によって対象物に押し付けられたりしても、これらが原因で収容体が損傷を受けることはない。
【0022】
保護層としては、例えばクッション材で構成することが可能である。なお、保護層を収容体の底部に設ける場合には、例えばコンクリート型枠に使用されるような合板や薄手の鋼板をシートの上に載せて構成してもよいし、アスファルトやコンクリートで構成してもよい。後者の場合、アスファルト等に気密性を持たせることによって収容体の一部を兼用させることもできる。
【0023】
排気管については、収容体内の空気や揮発成分がスムーズに収容体の外部に排出されるのであればいかなる構成でもよいが、所定の通気体を前記収容体内に設置するとともに、該通気体内に前記排気管を埋設した場合、排気管に形成された孔が対象物で塞がれて空気や揮発した有害物質の排出が妨げられるおそれがなくなるとともに、対象物の広い範囲から有害物質を揮発させることも可能となる。通気体としては、一定の上載圧が作用しても内部に空気や有害物質の通路が確保されるのであればどのようなものでもよく、例えば、砂、砂利等を敷き均して構成してもよいし、高分子系材料で形成されたマットで構成してもよい。また、硬質塩化ビニル等で形成された有孔管を埋設しておいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係る有害物質の分離除去方法を実施するための分離除去装置の全体斜視図。
【図2】同じく本実施形態に係る有害物質の分離除去方法を実施するための分離除去装置を現場にて製作する手順を示した施工手順図。
【図3】本実施形態に係る有害物質の分離除去方法の作用を説明するグラフ。
【図4】本実施形態に係る有害物質の分離除去方法を実施するための分離除去装置の変形例を示した断面図。
【図5】収容体を構成するシートの変形例を示した詳細断面図。
【図6】分離除去装置の収容体を剛体容器で構成した場合の縦断面図。
【図7】剛体容器の内面に攪拌板を突設させた場合の横断面図。
【図8】本実施形態に係る有害物質の分離除去方法の変形例を示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る有害物質の分離除去方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0026】
図1は、本実施形態に係る有害物質の分離除去方法を実施するための分離除去装置を示した全体斜視図である。同図でわかるように、参考実施形態に係る有害物質の分離除去装置1は、重油、軽油、灯油、ガソリン等の油分を有害物質として含んだ対象物としての油汚染土2が収容される気密性の収容体3と、該収容体内の気密空間に連通された排気管4と、該排気管に気液分離タンク5を介して接続された真空ポンプ6と、該真空ポンプの下流側に接続された捕集機器7とからなり、真空ポンプ6は、排気管4を介して収容体3内の気体を引き抜いて収容体内の気圧を下げることにより、収容体3内の気圧低下に伴う油分の沸点降下作用で油汚染土2内の油分を揮発させ、さらに、揮発した油分を収容体3の外部に排出するようになっている。
【0027】
気密性の収容体3は、ナイロン、ビニロン、ポリエステルターポリンなどの材料で形成されたシート11を、後述するように油汚染土2を収容した状態で袋状に包み込んだ後、接着、溶着等の方法で密封して構成するのがよい。
【0028】
排気管4は、例えば硬質塩化ビニルで形成することが可能であり、多数の孔8が形成されたその先端部分を収容体3の底部に設置されたサンドマット9内に埋設してある。そして、該マット内を通過してきた収容体3内の空気や油汚染土2内からの油分を孔8から吸入するようになっている。
【0029】
すなわち、サンドマット9は、孔8を油汚染土2で目詰まりさせることなく空気や油分をスムーズに排出させるためのいわば通気体としての役目を果たすとともに、油汚染土2の重量や該土に含まれる礫等の突起物によって気密性シート11が破れたりしないようにする保護層としての役目も果たす。
【0030】
気液分離タンク5には気圧計10を取り付けてあり、連通する収容体3内の空気圧を計測できるようになっているとともに、該タンクの底面近傍にはドレインコック12を設けてあり、バルブ13を閉じた状態で該コックを開くことにより、気液分離タンク5に溜まった油分や、該油分と同様にして油汚染土2内から蒸発してきた水分を抜くことができるようになっている。
【0031】
捕集機器7は、活性炭吸着塔で構成してあり、真空ポンプ6から排出された気体から有害物質である揮発油分を吸着するとともに、油分が除去された空気等を排気口15から放出するようになっている。
【0032】
参考実施形態に係る有害物質の分離除去装置1を現場にて製造するには、まず、図2(a)に示すように気密性のシート11を地面上に拡げ、その上にサンドマット9を敷き均すとともに該マット内に排気管4の先端部分を埋設する。
【0033】
次に、同図(b)に示すようにサンドマット9の上に油汚染土2を盛り、しかる後に、気密性のシート11の縁部を持ち上げてサンドマット9及び油汚染土2を袋状に包み込む。そして、それらの縁部を重ね合わせて溶着、接着等の方法によって接合密封し、同図(c)に示すような、内部に気密空間が形成された収容体3とする。
【0034】
最後に、排気管4に気液分離タンク5、真空ポンプ6及び捕集機器7を図1に示したように順次接続する。
【0035】
本実施形態に係る有害物質の分離除去方法においては、上述した分離除去装置1を用いて油汚染土2内から油分を分離除去する。すなわち、まず真空ポンプ6を作動させて収容体3内の空気を抜き、該収容体内の空気圧を下げる。
【0036】
空気圧を下げる程度としては、収容体3内の空気圧が該収容体内の温度における油分の蒸気圧以下となるように真空ポンプ6を作動させるのが望ましい。具体的には、油分が灯油である場合には、その蒸気圧曲線は概ね図3のようになるので、気温が25゜C程度であるならば、60mmHg程度以下に下げればよい。また、夏期日中において地表面近傍の気温が45゜C程度まで上がっている場合には、300mmHg程度以下に空気圧を下げればよい。なお、同図には、参考までに水やエチルアルコールの蒸気圧曲線も描いてあり、同図から、水蒸気に先行して揮発油分が回収できることがわかる。
【0037】
このように収容体3内の空気圧を下げると、該収容体内では、空気圧低下に伴う油分の沸点降下が生じて油汚染土2内の油分が直ちに揮発するので、これを真空ポンプ6で収容体3から吸引して捕集機器7に送り、該捕集機器にて揮発油分を吸着させて回収する。なお、空気が抜かれた後についても、気密空間内の揮発油分を真空ポンプ6で抜いて減圧状態を維持することにより、油汚染土2内の油分を引き続き揮発させる。
【0038】
真空ポンプ6を作動させる時間については、どの程度まで油分を除去したいかによって適宜調節する。また、いったん所定の気圧まで下げた後においては、真空ポンプ6を断続運転あるいは出力を弱めて運転し、収容体3内で揮発した油分による圧力上昇の分だけ圧力が下がるようにすれば足りる。
【0039】
油汚染土2内の油分が所望の程度まで分離除去されたならば、真空ポンプ6を停止して気密性シート11を開き、該シート内から処理された土を取り出す。処理済みの土は、例えば盛土材料として使用すればよい。
【0040】
なお、捕集機器7の排気口15近傍に油検知センサを設置することによって該排気口15からの揮発油分の含有量を監視し、計測値が一定値を越えたときには、捕集機器7内の活性炭の吸着能力が低下したと判断し、捕集機器7内の活性炭を加熱する等の方法によって吸着能力を回復させるようにするのがよい。
【0041】
次に、実証試験を行って本実施形態に係る分離除去方法の作用効果を確認したので、以下にその実験概要と結果を説明する。
【0042】
実証試験では、まず、砂質土に灯油を0.5%添加混合して油汚染土を作製し、該油汚染土を内径10cmのシリンダに収容した。次に、該シリンダに接続された真空ポンプを作動させてシリンダ内の空気を抜き、空気圧を数mmHgまで低下させた。そして、かかる状態を約20時間にわたって維持した。
【0043】
その結果、油汚染土に含まれる油の含有量は、0.05%にまで低下した。ちなみに、油含有量が0.5%だと、強い油臭と水面油膜を伴うが、0.05%程度まで低下すると、油臭はほとんどなく、水中に投入した場合、水面にも油膜は発生しない。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る有害物質の分離除去方法によれば、気圧低下に伴う油分の沸点降下により、油汚染土2に含まれる油分を直ちに揮発させて収容体3の外側に排出することができる。
【0045】
そのため、発ガン性等も懸念されている有害な物質である油分を油汚染土から効率的に分離除去することが可能となり、油汚染土を処分するための廃棄物処分場を設置する必要がなくなるとともに、油含有量が多い汚染土をいったん焼却する手間も省ける。また、処理した後に脱水が必要となる水洗浄とは異なり、処理された土をすぐに再利用することができる。
【0046】
また、収容体3内の気圧が該収容体内の温度における油分の蒸気圧以下となるように真空ポンプ6を作動させるようにしたので、油汚染土2内に含まれる油分は直ちに揮発し、短時間に対象物内の油含有量を低下させることができる。
【0047】
また、収容体3を気密性シート11で構成したので、該シートを介して大気圧が油汚染土2に作用する。そのため、油汚染土2に含まれている油分は、減圧による揮発作用に加えて大気圧の加圧作用によって収容体3外部への排出が促進され、より効率的な分離除去が可能となる。また、収容体3がシート11であるため、保管や運搬の際にたたんでおくことができるという作用効果も得られる。
【0048】
また、収容体3の底部に保護層としてのサンドマット9を設けたので、油汚染土2の重量が大きかったり該汚染土に突起物が含まれていたとしても、それが原因で収容体3が損傷を受けることはない。そのため、収容体3の転用が可能となる。
【0049】
また、サンドマット9内に排気管4を埋設するようにしたので、該管に形成された孔8が油汚染土2で塞がれて空気や油分の排出が妨げられるおそれがなくなるとともに、油汚染土2の広い範囲から油分を揮発させることも可能となる。
【0050】
本実施形態では、有害物質を分離除去する対象物を汚染土としたが、本発明の対象物はかかる汚染土に限定されるものではなく、汚染土以外にも、スラグ、焼却灰、汚泥、コンクリート廃材、プラスチック廃材、廃棄木材等を対象物としてもよい。
【0051】
また、本実施形態では、有害物質である揮発油分を活性炭の吸着によって回収するようにしたが、これに代えて、例えば揮発油分を溶剤に溶け込ませる形で回収するようにしてもよいし、冷却液化によって回収するようにしてもよい。かかる冷却方法としては、捕集機器内に冷却パイプを設置する、大気で空冷する、地表よりも相対的に低い地中温度を利用して冷却するなどの方法が考えられる。
【0052】
また、本実施形態では、有害物質を油分としたが、本発明の有害物質は、かかる油分に限定されるものではなく、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、PCBなどの有機塩素化合物、あるいはベンゼン、トルエン、ナフタレン、フェノールなどの芳香族炭化水素のほか、減圧下、特に、数mmHg以下のほぼ真空といえる状態で沸点が常温以下に下がるすべての物質が包摂される。したがって、水銀等の重金属も本発明でいうところの有害物質に含まれる。
【0053】
なお、捕集機器内に充填する吸着剤としては、活性炭をはじめ、シリカ・アルミナ系吸着剤、モレキュラーシービングカーボン等の合成吸着剤、ゼオライト、活性白土とも呼ばれる酸性白土などから、有害物質の吸着特性に応じて適宜選択すればよい。
【0054】
また、本実施形態では、保護層としてサンドマットを採用したが、これに代えて、合板を気密性シートの上に載せて保護層としてもよいし、アスファルトやコンクリートで構成してもよい。なお、かかる構成においては、図4(a)に示すように、気密性シート11の縁部を保護層としてのアスファルト層41に埋設するようにするのがよい。かかる構成によれば、アスファルト層41は収容体の一部となり、気密性シート11と一体となって内部の気密性を保持することができる。なお、内部の通気性を高めるため、同図(b)に示すように、通気体としてのサンドマット9と対象物である油汚染土2とを順次積層するようにしてもよい。
【0055】
また、本実施形態では、サンドマットからなる保護層9を収容体3の底面、すなわち油汚染土2の下方にのみ配置するようにしたが、保護層の配置はこのような位置に限定されるものではなく、例えば油汚染土2の上方に配置してもよい。
【0056】
かかる構成によれば、大気圧によってシート11が油汚染土2に押し付けられた場合でも、該汚染土との間に保護層が介在するので、シート11が破損したりするのを未然に防止することができる。
【0057】
一方、気密性シート自体に強度を持たせるようにすれば、あるいは対象物の重量等による破損のおそれがないのであれば、かかる保護層を省略してもよい。
【0058】
また、本実施形態では、通気体としてサンドマット9を採用したが、かかる通気体は、一定の上載圧が作用しても内部に空気や揮発油分の通路が確保されるのであればどのようなものでもよく、例えば、砂や砂利を敷き均す代わりに、高分子系材料で形成された立体網目状マットを使用してもよい。また、敷き均された砂や砂利内に硬質塩化ビニル等で形成した有孔管を埋設して通気性をさらに向上させるようにしてもよい。
【0059】
なお、かかる通気体は、例えば、排気管の先端を分岐することによって対象物の広い範囲から油分を排出することができるのであれば、あるいは、油汚染土2が礫、砂利等を多く含んだ通気性の高いものであれば、これを省略してもよい。
【0060】
また、本実施形態では、シート11を一重シートとしたが、これに代えて、図5に示すように、気密性シート51及び透気透水性シート52からなる二重シート53で構成し、該気密性シート51と透気透水性シート52の間に排気管4の先端を配置するようにしてもよい。かかる構成によれば、通気体としてのサンドマット9を省略することが可能となるとともに、油汚染土2の表面全体から揮発油分を揮発させ、該揮発油分を同図矢印に示すように透気透水性シート52を介して排気管4から収容体3の外側に排気することが可能となるので、油分の分離除去効率が著しく向上する。
【0061】
なお、かかる構成においては、同図に示すように、気密性シート51と透気透水性シート52との間に、同じく透気透水性のマット54を介在させておけば、揮発油分をスムーズに排気管4まで導くことができる。また、透気透水性シート52を上述した立体網目状マットのようなクッション材で構成しておけば、気密性シート51の破損を防止する保護層としての機能を併せ持たせることも可能となる。
【0062】
また、本実施形態では、気密性のシート11を用いて収容体3を構成したが、かかる構成に代えて図6(a)に示すように、剛性の高い、例えば鋼製の容器21を収容体とし、かかる容器21の内部を油汚染土2を収容するための気密空間とするとともに、該容器21に排気管22を介して図1と同様の気液分離タンク5、真空ポンプ6及び捕集機器7を順次接続するようにしてもよい。
【0063】
かかる構成によれば、対象物である油汚染土2に大気圧が作用すると有害物質の揮発が妨げられることが懸念される場合において、有害物質を対象物内からスムーズに揮発させることが可能となる。なお、この場合、同図(b)に示すように有孔の排気管23を用いてもよい。
【0064】
なお、図7に示すように、かかる剛体容器21の内面に攪拌板61を突設するとともに、該剛体容器を同図矢印方向に回動自在となるように保持する構成としてもよい。かかる構成によれば、剛体容器21を回動させることによって容器内部に収容された油汚染土2を攪拌させ、該汚染土からの油分の揮発を促進させることができる。なお、回動のさせ方としては、同図矢印方向に代えてあるいはそれに加えて、円筒状の剛体容器21を揺動させる形で回動させてもよい。
【0065】
また、本実施形態では、収容体3を用いて気密空間を形成するようにしたが、実際に汚染された地盤を対象物とするならば、図8に示すように、地盤31内の汚染領域32を取り囲むようにして地中壁33を不透水層36まで貫通させるとともに、その上部を気密シート若しくは剛性板34で覆って気密空間を形成し、さらに地中壁33に排気管35を貫通させて、気液分離タンク5、真空ポンプ6及び捕集機器7を順次接続するようにしてもよい。なお、地中壁33の下端については、必要に応じて気密処理を適宜行う。
【0066】
また、本実施形態では、気液分離タンク5、真空ポンプ6、捕集機器7の順で収容体3に接続したが、まず、気液分離タンクは、真空ポンプがいわゆるドライタイプのものであればこれを省略してもよいし、真空ポンプと捕集機器との順序を入れ替えてもよい。
【0067】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、有害物質を含んだ対象物を気密空間内に密封する際、該対象物に所定の気化促進剤を添加するようにしてもよい。
【0068】
このようにすると、気密空間内では、気化促進剤の作用によって有害物質が気化しやすい状態となるとともに気圧低下に伴う有害物質の沸点降下が生じるので、減圧操作を行っても気化しない有害物質であっても、すみやかに揮発させて対象物から分離除去することが可能となる。
【0069】
かかる具体例としては、酸性溶液を加えることによって青酸ガスとして揮発するシアン、同じく酸性溶液を加えるとともに酸化剤を加えて酸化還元電位を高くすることによってアルシンガスとして揮発する砒素、塩酸を加えることによって非常に気化しやすくなる水銀などが含まれ、シアンの場合、酸性溶液が気化促進剤となり、砒素の場合、酸性溶液及び酸化剤が気化促進剤となり、水銀の場合、塩酸が気化促進剤となる。なお、本実施形態で対象とした油等の有害物質であれば、気化促進剤を添加せずとも減圧操作のみでスムーズに気化させることができるが、かかる減圧操作に加えて気化促進剤を添加すれば、有害物質の除去効率を著しく高めることができることは言うまでもない。
【0070】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、有害物質を含んだ対象物を気密空間内に密封して減圧する際、予め該空間内の温度を上げるようにしてもよい。
【0071】
このようにすると、空間内の温度上昇によって有害物質の蒸気圧が大きくなり、気化しやすい状態となるので、かかる状態で気密空間内の気圧を下げると、気圧低下による有害物質の沸点降下により、有害物質の気化は一層進行する。
【0072】
気密空間内の温度を上昇させる具体例としては、直射日光や地熱といった自然のエネルギーを利用して気密空間内を加熱する、電磁波を照射して加熱する、ゴミ焼却炉等の余剰熱を温風の形で気密空間内に送り込む、電熱手段等の発熱体を気密空間内に設置する、温水を通す、発熱反応を生じる化学物質を気密空間内に投入するなどの方法が考えられるが、生石灰等の石灰系材料、セメント系材料等の水反応性発熱剤を対象物とともに気密空間内に密封するようにすれば、該対象物に含まれる水分との間で発熱反応が生じ、比較的簡単な方法で気密空間内の温度を上昇させることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 有害物質の分離除去装置
2 油汚染土(対象物)
3 収容体
4、22、23、35 排気管
6 真空ポンプ
7 捕集機器
9 サンドマット(通気体、保護層)
11 気密性のシート
21 鋼製容器(収容体)
32 汚染領域(対象物)
33 地中壁(気密空間)
34 剛性板
41 アスファルト(保護層)
51 気密性シート
52 透気透水性シート(保護層、通気体)
53 シート(収容体)
61 攪拌板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害物質を含んだ対象物を気密空間内に密封し、該空間内の気圧を下げて前記対象物内から前記有害物質を揮発させるとともに揮発した有害物質を前記気密空間の外部に排出する有害物質の分離除去方法であって、前記対象物を気密性シートで収容した状態で袋状に密封することにより、該気密性シートを介した大気圧による加圧作用によって前記有害物質の揮発を促進させることを特徴とする有害物質の分離除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−73000(P2011−73000A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273614(P2010−273614)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【分割の表示】特願2007−147705(P2007−147705)の分割
【原出願日】平成9年7月11日(1997.7.11)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】