説明

有形成分含有液体の流動性を測定する方法

【課題】 本発明は、有形成分含有液体の流路となるフィルタを具備する装置を用いて有形成分含有液体の流動性を測定する方法において、当該液体の粘度の影響を除外した有形成分にのみ由来する有形成分含有液体の流動性、特には血液の流動性、を測定する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、前記フィルタを通過する際に有形成分含有液体の有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数を算出し、;当該指数を、流動性を定量評価する指数とすることによって、当該液体の粘度の影響を除外した有形成分のみに由来する有形成分含有液体の流動性、特に血液の流動性、を測定する方法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有形成分含有液体の流動性を測定する方法に関し、詳しくは、有形成分含有液体の流路となるフィルタを具備する装置を用いて有形成分含有液体の流動性を測定する方法において、前記フィルタを通過する際に有形成分含有液体の有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数を算出し、当該指数を、流動性を定量評価する指数とすることを特徴とする、当該液体の粘度の影響を除外した有形成分のみに由来する有形成分含有液体の流動性、特には血液の流動性、を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有形成分を含有する液体(有形成分含有液体)の流動性を測定する場合、検体である当該液体の一定の液体の量が流れきるまでの時間、あるいは、一定時間内に当該液体が流れた量を計測することにより、当該液体の流動性を測定する方法が一般的である。
有形成分含有液体として血液を例に挙げると、血液の検査において血液の流動性を測定する場合、通常は上記の「一定の液体の量が流れきるまでの時間」として測定する方法(例えば、非特許文献1参照)が用いられている。
【0003】
具体的に有形成分含有液体の流動性を測定する方法としては、有形成分含有液体の流路となるフィルタを具備する装置を用いることによって、特に血液の場合は、特許文献1や非特許文献2に記載のフィルタを具備する装置を用いることによって、上記の「一定の液体の量が流れきるまでの時間」として測定する方法が、一般的に行われている。
なお、血液の流動性を測定することは、循環器の予防のための情報を把握する上で重要であるが、特に、「血液の粘度の影響を除外した血球のみに由来する血液の流動性」を測定することは、血球の性質や病状、血小板機能を把握し、生活習慣病の兆候や脳血栓、肥満などの予防のための情報を把握する上で極めて重要である(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、上記従来の「一定の液体の量が流れきるまでの時間」を測定する方法においては、「有形成分含有液体の粘度に由来する流動性」と「当該液体に含有される有形成分に由来する流動性」の2つの要因によって影響された当該液体の流動性を測定したものとなる。
そのため、「当該液体の粘度の影響を除外した、有形成分のみに由来する当該液体の流動性」を、測定し評価することができなかった。
即ち、上記従来の測定方法では、血液の流動性のうち、「血液の粘度の影響を除外した、血球のみに由来する血液の流動性」を測定し評価することができなかった。
【0005】
さらには、上記従来の測定方法で求められる「一定の液体の量が流れきるまでの時間」は、粘度に影響を与えうる要因(温度、ヘマトクリット値、白血球数など)が異なる測定条件で測定した場合には、同一検体でも異なる測定値として測定されることがある。
そのため、異なる検体間の有形成分含有液体の流動性を比較する場合、上記の液体の粘性の影響や測定系における測定条件の違いなどを数学的に補正する必要があるが、これらの補正値を算出するモデルの選択によって補正値にバラツキが生じるため、同一の基準で検体間の液体の流動性を比較することは困難であった。
【0006】
【特許文献1】特許第2685544号公報
【非特許文献1】Microvascular Research vol.44, 226-240 (1992)
【非特許文献2】Thrombosis and circulation vol.14 N0.2 79-83 (2006)
【非特許文献3】日本ヘモレオロジー学会誌2003 6(1)53-55
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術の欠点を解消し、有形成分含有液体の流路となるフィルタを具備する装置を用いて有形成分含有液体の流動性を測定する方法において、当該液体の粘度の影響を除外した有形成分にのみ由来する有形成分含有液体の流動性、特には血液の流動性、を測定する方法を提供することを目的とする。
また本発明は、粘度の異なる検体間や、粘度に影響を与えうる異なる測定条件で測定した有形成分含有液体の検体間においても、測定値に数学的な補正を行うことなく検体間での比較が可能な、有形成分含有液体の流動性を測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行い、有形成分含有液体の流路となるフィルタを具備する装置を用いて有形成分含有液体の流動性を測定する方法において、前記フィルタを通過する際に有形成分含有液体の有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数を算出し、;当該指数を、流動性を定量評価する指数とすることによって、当該液体の粘度の影響を除外した有形成分のみに由来する有形成分含有液体の流動性、特に血液の流動性、を測定できることを見出した。
【0009】
具体的には、前記フィルタを通過した液体の量vを横軸とし、当該液体の量vが前記フィルタを通過した時間tを縦軸とするvt平面上にて、前記有形成分含有液体と同じ粘度を有する有形成分非含有の液体の量と、当該有形成分非含有の液体が前記フィルタを通過する時間とが、正の数aを定数とする等差増加関数t=avで表される関係にあり、当該直線上における前記有形成分非含有の液体の量vpが前記フィルタを通過する時間の理論値を表す点をP1とし、;前記有形成分含有液体の量と、当該有形成分含有液体が前記フィルタを通過する時間とが、vでの微分値が前記a以上になる増加曲線関数t=f(v)で表される関係にあり、当該曲線上における前記有形成分含有液体の量vpが前記フィルタを通過した時の時間の実測値を表す点をP2とし、;前記t=avで表される直線上における、前記装置の最少測定限界量である液体の量δvが前記フィルタを通過する時間を表す点のt軸値をδtとして、前記有形成分含有液体の量vqが前記フィルタを通過する時間の実測値を表す前記t=f(v)上の点のt軸値が、前記液体の量vqが前記フィルタを通過する時間の理論値を表す前記t=av上の点のt軸値の値に、前記δtを加えた値をt軸値とする点と同一になる前記t=f(v)上の点を、変曲点Qとし、;前記理論値を表す点P1および前記実測値を表す点P2のv軸値の値vpが、前記変曲点Qのv軸値の値vqよりも大きい値である場合において、前記理論値を表す点P1および前記実測値を表す点P2を結ぶ直線と、前記理論値を表す点P1および前記変曲点Qを結ぶ直線と、前記変曲点Qおよび前記実測値を表す点P2を結ぶ前記t=f(v)上の曲線と、で囲まれる面積Sを算出し、;当該面積Sの値を、前記有形成分含有液体の有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数とすることができることを見出した。
【0010】
また、さらに具体的には、前記フィルタを具備する装置として、前記有形成分非含有液体が流量に依存して当該フィルタ内を等差時間で流れる装置を用いることによって、;前記等差増加関数t=avと、前記増加曲線関数t=f(v)と、前記理論値を表す点P1と、前記実測値を表す点P2と、前記変曲点Qを計算することができ、前記面積Sを算出することができることを見出した。
【0011】
なお、さらに、前記方法で測定された血液の流動性、および、前記変曲点Qにおけるv軸値の値vqに基づいて、疾患病の判定ができることを見出した。
【0012】
本発明は以下に関するものである。
即ち、請求項1に係る発明は、表面に微細な溝を有して成る第1の基板と、上記溝を有する第1の基板の表面に接合される平面を有する第2の基板とから成り、上記第1の基板と上記第2の基板との接合部に上記溝によって形成される空間を有形成分含有液体の流路としたフィルタを具備する装置を用いて、有形成分含有液体の流動性を測定する方法において、前記フィルタを通過する際に前記有形成分含有液体の有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数を算出し、;当該指数を、流動性を定量評価する指数とすることを特徴とする、有形成分含有液体の流動性を測定する方法である。
請求項2に係る発明は、前記フィルタを通過する際に前記有形成分含有液体の有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数を算出するにあたり、前記フィルタを通過した液体の量vを横軸とし、当該液体の量vが前記フィルタを通過した時間tを縦軸とするvt平面上にて、前記有形成分含有液体と同じ粘度を有する有形成分非含有の液体の量と、当該有形成分非含有の液体が前記フィルタを通過する時間とが、正の数aを定数とする等差増加関数t=avで表される関係にあり、当該直線上における前記有形成分非含有の液体の量vpが前記フィルタを通過する時間の理論値を表す点をP1とし、;前記有形成分含有液体の量と、当該有形成分含有液体が前記フィルタを通過する時間とが、vでの微分値が前記a以上になる増加曲線関数t=f(v)で表される関係にあり、当該曲線上における前記有形成分含有液体の量vpが前記フィルタを通過した時の時間の実測値を表す点をP2とし、;前記t=avで表される直線上における、前記装置の最少測定限界量である液体の量δvが前記フィルタを通過する時間を表す点のt軸値をδtとして、前記有形成分含有液体の量vqが前記フィルタを通過する時間の実測値を表す前記t=f(v)上の点のt軸値が、前記液体の量vqが前記フィルタを通過する時間の理論値を表す前記t=av上の点のt軸値の値に、前記δtを加えた値をt軸値とする点と同一になる前記t=f(v)上の点を、変曲点Qとし、;前記理論値を表す点P1および前記実測値を表す点P2のv軸値の値vpが、前記変曲点Qのv軸値の値vqよりも大きい値である場合において、前記理論値を表す点P1および前記実測値を表す点P2を結ぶ直線と、前記理論値を表す点P1および前記変曲点Qを結ぶ直線と、前記変曲点Qおよび前記実測値を表す点P2を結ぶ前記t=f(v)上の曲線と、で囲まれる面積Sを算出し、当該面積Sの値を前記有形成分含有液体の有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数とする、請求項1に記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法である。
請求項3に係る発明は、前記関数t=f(v)が、正の数αを定数とし、kを1〜11の任意の正の整数とする次の式(I)である、請求項2に記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法である。
【0013】
【数1】

【0014】
請求項4に係る発明は、前記有形成分含有液体の流動性が、前記有形成分含有液体の粘度の影響を除外した、前記有形成分のみに由来する流動性を表すものである、請求項1〜3のいずれかに記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法である。
請求項5に係る発明は、前記フィルタを具備する装置が、前記有形成分非含有液体が流量に依存して当該フィルタ内を等差時間で流れる装置である、請求項1〜4のいずれかに記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法である。
請求項6に係る発明は、前記フィルタを具備する装置が、当該装置の外部の気温が0〜30℃である時に、当該装置の運転時の前記装置内の温度が34〜36℃の間で均一に保持される装置である、請求項5に記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法である。
請求項7に係る発明は、前記フィルタを具備する装置が、前記フィルタを収容する筐体と、前記筐体内の空間を上層と下層の二層に分ける分割板と、前記上層に前記筐体の壁面および前記分割板に接続しない状態で設置された、前記フィルタを備えた流動阻害部と、前記上層に前記筐体の壁面および前記分割板に接続しない状態で設置された、前記有形成分含有液体および前記有形成分非含有液体の垂直方向の液面の移動速度を測定するセンサと、前記上層に前記筐体の壁面および前記分割板に接続しない状態で設置された配管と、前記下層に設置された電源と、前記下層に設置された、電源により回転し外気を吸入するファンと、からなり、前記配管を通して、前記有形成分含有液体および前記有形成分非含有液体を、前記センサおよび前記流動阻害部に供給するようにした装置である、請求項5又は6のいずれかに記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法である。
請求項8に係る発明は、前記配管の素材がポリテトラフルオロエチレンである、請求項7に記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法である。
請求項9に係る発明は、前記最少測定限界量が、前記有形成分含有液体の量vpの5〜20%である、請求項2〜8のいずれかに記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法である。
請求項10に係る発明は、前記有形成分非含有の液体が生理食塩水又は10%以下のグリセリンである、請求項2〜9のいずれかに記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法である。
請求項11に係る発明は、前記有形成分含有液体の流動性が、血液の流動性を表すものである、請求項1〜10のいずれかに記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法である。
請求項12に係る発明は、請求項11の方法で測定された前記血液の流動性に基づいて、疾患病を判定する方法である。
請求項13に係る発明は、請求項11の方法で測定された前記血液の流動性、および、前記変曲点Qにおけるv軸値の値に基づいて、疾患病を判定する方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、有形成分含有液体の流路となるフィルタを具備する装置を用いて有形成分含有液体の流動性を測定する方法において、従来の方法では把握することができなかった、当該液体の粘度の影響を除外した有形成分のみに由来する有形成分含有液体の流動性、特には血液の流動性、を測定することができる。
従って、本発明によれば、粘度の異なる有形成分含有液体の検体間や、粘度に影響を与えうる異なる測定条件で測定した有形成分含有液体の検体間においても、測定値に数学的な補正を行うことなく比較が可能となる。
【0016】
また、本発明によれば、測定した血液の流動性から、血球の性質(血球の変形能など)や病状を把握することができる。
また、本発明によれば、生活習慣病、特には、糖尿病やメタボリックシンドロームなどの疾患の兆候を把握することができる。
さらに、本発明によれば、疾患病が、生活習慣病、特には糖尿病やメタボリックシンドロームの症状であるのか、それともそれ以外の疾患病(例えば、循環器系やアレルギー性の反応による症状等)であるのかを判定することができる。
また血流の流動性を阻害する主原因が、心臓循環系や脳循環系の疾患の状態にあるかどうかを想定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、詳細に説明する。
本発明は、有形成分含有液体の流路となるフィルタを具備する装置を用いて有形成分含有液体の流動性を測定する方法において、前記フィルタを通過する際に有形成分含有液体の有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数を算出し、;当該指数を、流動性を定量評価する指数とすることを特徴とする、当該液体の粘度の影響を除外した有形成分のみに由来する有形成分含有液体の流動性を測定することを特徴とするものである。
【0018】
本発明における、「有形成分含有液体の流動性」とは、液体に溶解しない有形成分を含有する液体の流動性を指し、具体的には、血液、尿などの体液、下水、工場の排水、不純物有形成分を含む燃料、食品工場における飲料水、食用油、乳製品などの流動性を測定することができる。特には、本発明は、血液の流動性の測定に用いることに好適である。
なお、有形成分含有液体の流動性が、血液の流動性である場合において、有形成分とは血球(即ち、赤血球、白血球(リンパ球、好中球、マクロファージなど)、血小板など)のことである。
【0019】
本発明の有形成分含有液体の流動性を測定する方法は、「当該液体の粘度の影響を除外した、有形成分のみに由来する有形成分含有液体の流動性」を測定することができる方法である。
従来、有形成分含有液体の流動性とは、“有形成分含有液体の粘度に由来する流動性”と“当該液体に含有される有形成分に由来する流動性”の2つの要因に影響されるものとして測定され評価に用いられていたが、本発明では、「当該液体の粘度の影響を除外した、有形成分のみに由来する有形成分含有液体の流動性」を測定する方法である。
即ち、本発明は、血液の流動性のうち、血液の粘度に由来する影響を除外した血球のみに由来する血液の流動性を測定することができる方法である。
【0020】
本発明の有形成分含有液体の流動性を測定する方法では、有形成分含有液体が前記フィルタを通過する際に、「有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合い」を表す指数を算出し、流動性を定量評価する指数とすることによって、「当該液体の粘度の影響を除外した有形成分のみに由来する有形成分含有液体の流動性」を測定する。
本発明における当該算出した指数は、流動性を定量評価することに用いることができる指数である。従って、当該指数を用いることによって、粘度の異なる有形成分含有液体の検体間や、粘度に影響を与えうる異なる測定条件で測定した有形成分含有液体の検体間においても、測定値に数学的な補正を行うことなく比較することが可能となる。
なお、ここで、当該液体の粘度に影響を与えうる測定条件とは、例えば、温度、物性、分子間力、有形成分の含有量や密度(血液の場合、ヘマトクリット値や白血球の密度))などを挙げることができる。
【0021】
本発明における、「有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数」は、前記フィルタを通過した液体の量vを横軸とし、当該液体の量vが前記フィルタを通過した時間tを縦軸とするvt平面上において、以下に記載の方法で求められる面積Sの値として算出することができる。
【0022】
即ち、前記フィルタを通過した液体の量vを横軸とし、当該液体の量vが前記フィルタを通過した時間tを縦軸とするvt平面上にて、前記有形成分含有液体と同じ粘度を有する有形成分非含有の液体の量と、当該有形成分非含有の液体が前記フィルタを通過する時間とが、正の数aを定数とする等差増加関数t=avで表される関係にあり、当該直線上における前記有形成分非含有の液体の量vpが前記フィルタを通過する時間の理論値を表す点をP1とし、;前記有形成分含有液体の量と、当該有形成分含有液体が前記フィルタを通過する時間とが、vでの微分値が前記a以上になる増加曲線関数t=f(v)で表される関係にあり、当該曲線上における前記有形成分含有液体の量vpが前記フィルタを通過した時の時間の実測値を表す点をP2とし、;前記t=avで表される直線上における、前記装置の最少測定限界量である液体の量δvが前記フィルタを通過する時間を表す点のt軸値をδtとして、前記有形成分含有液体の量vqが前記フィルタを通過する時間の実測値を表す前記t=f(v)上の点のt軸値が、前記液体の量vqが前記フィルタを通過する時間の理論値を表す前記t=av上の点のt軸値の値に、前記δtを加えた値をt軸値とする点と同一になる前記t=f(v)上の点を、変曲点Qとし、;前記理論値を表す点P1および前記実測値を表す点P2のv軸値の値vpが、前記変曲点Qのv軸値の値vqよりも大きい値である場合において、前記理論値を表す点P1および前記実測値を表す点P2を結ぶ直線と、前記理論値を表す点P1および前記変曲点Qを結ぶ直線と、前記変曲点Qおよび前記実測値を表す点P2を結ぶ前記t=f(v)上の曲線と、で囲まれる面積Sを算出することができる。
【0023】
ここで「有形成分非含有液体」とは、“有形成分を含まない”前記有形成分含有液体と同じ粘度を有する液体を指すものであるが、この“同じ粘度を有する液体”は、全く同じ粘度を有する液体ばかりでなく、近似粘稠度を有する液体をも含むものである(以下、“同じ粘度を有する液体”という用語は、この意で記載されたものである。)。なお、有形成分非含有液体の具体例としては、生理食塩水又は10%以下のグリセリンを用いることができる。
この有形成分非含有液体が前記フィルタを通過した液体の量vと、当該液体の量vが前記フィルタを通過した時間tとの関係は、“等差増加関数t=av”で表される関係にある。
即ち、等差増加関数t=avは、検体である有形成分含有液体が、有形成分を含まなかった液体であった場合に、前記液体の量vが前記フィルタを通過する時間の“理論値”を表すものである。
ここで、「a」とは、等差増加関数t=avの傾きを表す正の数の定数であり、測定に用いるフィルタの種類(フィルタの種類によって当該定数に影響する固有の係数がある)と液体の粘度によって決まる定数である。
例えば、当該液体の粘度が大きい場合や、フィルタが当該液体を通しにくい構造である場合(流路が狭いなど)には、「a」の値は大きくなる。
逆に、当該液体の粘度が小さい場合や、フィルタが当該液体を通しやすい構造である場合(流路が広いなど)には、「a」の値は小さくなる。
【0024】
本発明においては、この等差増加関数t=avの直線上において、有形成分非含有の液体の量vpが前記フィルタを通過する時間の理論値を表す点を、P1(vp,avp)とする。
【0025】
また、本発明において、有形成分含有液体が前記フィルタを通過した液体の量vと、当該液体の量vが前記フィルタを通過した時間tの関係は、“増加曲線関数t=f(v)”で表される関係にある。
即ち、増加曲線関数t=f(v)は、検体である有形成分含有液体の量vが、前記フィルタを通過する時間の“実測値”を表すものである。
増加曲線関数t=f(v)は、前記vの増加とともに前記tが増加し、さらにtの増加率も増加する増加曲線を表す関数である。即ち、増加曲線関数t=f(v)は、当該液体が前記フィルタを通過した流量とともに(前記フィルタに詰まる有形成分の量とともに)、“当該液体の通過時間”および“通過時間の増加率”が増加する関係を表す、増加曲線関数である。
また、増加曲線関数t=f(v)は、vでの微分値が前記a以上になるものである。即ち、t=f(v)の接線の傾きを表すf'(v)の値が、前記等差増加関数t=avの傾きを表すa以上になるものである。
なお、増加曲線関数t=f(v)を具体的な一般式で表すと、次の式(I)として表すことができる。
【0026】
【数2】

【0027】
式(I)において「α」は、“有形成分”が液体の流動性の阻害に影響を与える度合いを表す係数で、有形成分によって決まる正の定数である。
また、「k」は、1〜11の任意の正の整数である。測定装置の種類によって決められる値である。具体的には、最少測定限界量(計測分解能)により、規格化された計測ポイントの番号を表す値である。値が大きいほど、装置の計測分解能が高く、式(I)における実測値の精度が高いものとなる。
【0028】
本発明においては、この増加曲線関数t=f(v)の曲線上において、有形成分含有の液体の量vpが前記フィルタを通過する時間の理論値を表す点を、P2(vp,f(vp))とする。
【0029】
本発明において、前記等差増加関数t=avで表される直線上における前記フィルタを具備する装置の最少測定限界量である液体の量「δv」が、前記フィルタを通過する時間を表す点のt軸値を「δt」とする。
ここで、本発明におけるδvとは、本発明に用いる前記フィルタを具備する装置における“測定することが可能な最少の限界量”を示す値(即ち、当該装置における解像度に相当する値)であり、装置の種類によって異なる値である。なお、本発明におけるδvの具体的な値は、前記有形成分含有液体の量vpの5〜20%の量、好ましくは8〜12%の量、さらに好ましくは10%の量である。
【0030】
本発明における「変曲点Q」とは、前記有形成分含有液体の量vqが前記フィルタを通過する時間の実測値を表す前記t=f(v)上の点のt軸値が、前記有形成分非含有液体の量vqが前記フィルタを通過する時間の理論値を表す前記t=av上の点のt軸値の値に、前記δtを加えた値をt軸値とする点と同一になる、t=f(v)上の点である。
即ち、変曲点Qは、図1に例示した如く、前記フィルタを前記有形成分含有液体の量vqが流れた時の、前記増加曲線関数t=f(v)上のt軸値であるf(vq)が、前記等差増加関数t=av上のt軸値であるavqにδtを加えた値となる時の点であり、t=f(v)上の点(vq,avq+δt)として表すことができる。
【0031】
本発明において、“有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数”である面積Sは、前記理論値を表す点P1および前記実測値を表す点P2を結ぶ直線と、前記理論値を表す点P1および前記変曲点Qを結ぶ直線と、前記変曲点Qおよび前記実測値を表す点P2を結ぶ前記t=f(v)上の曲線と、で囲まれる面積Sとして算出することができる。
なお、ここで、前記理論値を表す点P1および前記実測値を表す点P2のv軸値の値である「vp」は、任意の前記液体の量を表すものであるが、当該面積Sの算出する場合においては、前記変曲点Qのv軸値の値vqよりも大きい値でなければならない。
即ち、実際に前記フィルタを具備する装置を用いて、前記有形成分含有液体の流動性を測定する際には、前記フィルタを通過させる液体の量(vp)は、変曲点Qのv軸値の値vqよりも大きい値でなければ、本発明における“有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数”である当該面積Sを算出することができない。
【0032】
上記面積Sを具体的に示すと、図1のグレーで塗られた部分の面積Sとして示すことができる。
また、前記フィルタを具備する装置に、測定値を基に当該面積Sを算出させるようなプログラムを組み込み、測定後に即座に当該面積Sを算出させることもできる。
なお、当該面積Sの値の具体的な算出方法としては、例えば、次の式(II)を用いて算出することができる。
【0033】
【数3】

【0034】
当該面積Sは、「有形成分含有液体の有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合い」を表す指数であるため、当該液体の“粘度の影響を除外した”指数として算出されるものである。
即ち、当該面積Sの値は、前記有形成分含有液体の粘度が異なる検体間や、当該液体の粘度に影響を与える測定条件で測定した検体間においても、数学的な補正を行うことなく比較することが可能な指数である。
【0035】
本発明における、有形成分含有液体の流路となる「フィルタ」としては、「表面に微細な溝を有して成る第1の基板と、上記溝を有する第1の基板の表面に接合される平面を有する第2の基板とから成り、上記第1の基板と上記第2の基板との接合部に上記溝によって形成される空間を有形成分含有液体の流路としたフィルタ」を用いることができる。
例えば、本発明におけるフィルタの具体的な例として、図2および図3に、血液の流動性の測定に用いるフィルタの外観および拡大図を例示する。これらは、前記のように上記第1の基板と上記第2の基板との接合部に上記表面に微細な溝によって形成された空間を、前記液体の流路としたものである。
当該フィルタとして、血液の流動性の測定に用いるフィルタの場合には、具体的に、前記流路の幅が6.4μm程度、前記溝の高さが4.5μm程度、流路長が30μm程度のものを用いることが好適である。なお、図4に血液の有形成分である血球が通過する模式図を示す。
上記のような構造を有することで、有形成分含有液体の流路となる当該フィルタは、当該フィルタを通過する前記液体の流量とともに当該フィルタに詰まる有形成分の量が増加するものとなる。
なお、当該フィルタとしては、従来の血液検査に用いる血液の流動性(即ち、従来の粘度の影響も含んだ流動性)を測定するために用いるフィルタである、MCFANチップホルダーなどを流用して用いることができる。
【0036】
本発明における「前記フィルタを具備する装置」としては、前記フィルタを通過する前記液体の流量とともに(前記フィルタに詰まる有形成分の量とともに)増加する有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを、定量的に測定するために用いるものである。
即ち、前記フィルタを通過する前記液体の流量とともに前記フィルタに詰まる有形成分の量が増加し、それとともに増加する“有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合い”を、定量的に測定することができるものである。
【0037】
また、本発明における「前記フィルタを具備する装置」としては、前記有形成分非含有液体が流量に依存して当該フィルタ内を“等差時間”で流れる装置を用いることができる。
なお、ここで「有形成分非含有液体」としては、測定の対象である有形成分含有液体と同じ粘度を有するように調製された、生理食塩水又は10%以下のグリセリンを用いることができる。
【0038】
なお、従来の有形成分含有液体、具体的には、血液の流動性を測定する装置では、血液の体内における状態と近似させるため、検体である血液を体温に近い温度に保持している。しかし、血液に試薬等(通常は冷やした状態で保持)を混合した場合、血液は瞬間的に活性化し凝集化傾向となってしまう。
本発明における前記フィルタを具備する装置では、配管内において血液と生理食塩水の混合時に双方の温度差を無くし、血液の凝集傾向を起こすことが無いよう装置内、詳しくは筐体内、の温度を均一にしたものとなっている。
【0039】
即ち、本発明における前記フィルタを具備する装置としては、当該装置の外部の気温が0〜30℃である時に、当該装置の運転時の前記装置内、詳しくは筐体内、の温度が34〜36℃の間で均一に保持される装置である。
特に、血液の流動性を測定する場合には、前記装置内、詳しくは筐体内、の温度が34〜36℃の間で均一に保持することによって、前記装置内で血液と生理食塩水が混合される箇所での温度差による凝集を防ぐことができる。
【0040】
なお、本発明において血液の流動性を測定する場合、具体的には、凝集、凝固を防ぐため、ヘパリン採血したものを用いる。なお、通常、医療機関で使用している採血管などには、既にヘパリンが注入されている。
【0041】
本発明における前記フィルタを具備する装置としては、具体的には、血液の流動性を測定することができる、以下に記載の装置を用いることを要する。以下、図面を参照して説明する。
図5は、本発明における流動性の測定方法が実施可能となる、有形成分含有液体の流路となるフィルタを具備する装置を示す概略図の縦断面である。また、図6は、当該装置の内部における各構成の接続関係を示す図である。
【0042】
本発明における流動性の測定方法が実施可能となる、有形成分含有液体の流路となるフィルタを具備する装置1は、主に、筐体2と、分割板3と、流動阻害部11と、液面の移動速度を測定するセンサ12と、配管13(13a〜13g)と、電源21と、ファン22と、からなる。
【0043】
筐体2としては、前記フィルタを収容するためのものであり、筐体の外の温度が0〜30℃の範囲である時には、筐体の内の空間を前記所定の温度範囲内で一定に保持できるものであればよい。好ましくは、温度絶縁性が高い材質や形状であることが望ましい。
筐体2内の空間は、分割板3によって上層と下層の二層に分けられている。
なお、筐体の上層の空間に接する壁面には、上層部の空気が筐体外に抜けることができるような穴や構造を具備させることによって、筐体内全体の通気が行われ易くなり、筐体内全体の温度を均一に保持する上で望ましいものとなる。
【0044】
分割板3は、筐体2内の空間を上層と下層の二層に分ける板状の構造物であり、前記流動阻害部、前記センサ、前記配管などを上層に配置して安定に保持できる程度の強度を有し、且つ、下層に設置されたファン22によって下層に吸入された空気が上層に抜けることができる構造のものである。
なお、下層に吸入された空気が上層に抜けることができるくり抜き構造は、筐体内全体の温度を均一に保持するために、必須な構造である。
また、分割板3は、熱伝導性が高い材質であり、下層側の面に多数の放熱板4を具備するものであることが望ましい。
なお、放熱板4としては、分割板3に比べて比熱が低く表面積が大きいものである程、本発明の目的に適い好ましい。
【0045】
次に、前記上層の空間について説明する。
前記上層には、主に、流動阻害部11と、液面の移動速度を測定するセンサ12と、配管13(13a〜13e)が設置される。また、前記上層には、シリンジポンプ14、検体ノズル15なども備えられている。即ち、前記上層には、本発明における流動性を実際に捉える、測定系に関する構成が設置されている。
【0046】
配管13は、前記フィルタ内を前記有形成分非含有液体(生理食塩水又は10%以下のグリセリン)が流量に依存して等差時間で流れるために、配管全体の温度が均一になるように材質、配置が検討されたものである。
配管13の素材としては、温度絶縁性の高い素材のものが好ましく、具体的には、ポリテトラフルオロエチレンのものが好適である。
配管13は、筐体の壁面および前記分割板に接続しない状態で設置されたものであり、具体的には、筐体の壁面および前記分割板から一定の間隔で離れた位置に、好ましくは約3mm離れた位置に設置されたものである。
配管13は、当該配管の外径と滑らかに接触する内径を有する筒状の構造物を介して接続され、固定されたものである。この筒状の構造物の素材としては、当該配管の素材よりもやわらかく、温度絶縁性の高い素材である。具体的には、コルク樫のものを用いることができる。
当該配管は、このような形状および素材の筒状構造物を介して固定されることで、接触面の液体乱流を防ぐことができる。
このように、配管13として上記のようなものを用い、設置することで、配管全体の温度が均一に保持することができる。
【0047】
検体ノズル15は、配管13aと接続されており、配管13aは、流動阻害部11と接続されている。流動阻害部11は、さらに配管13bと接続されており、弁16aを介してシリンジポンプ14と接続されている。これらの配管13a,13b、流動阻害部11には、生理食塩水が充填されている。
流動性を測定したい前記有形成分含有液体は、まず検体ノズル15から、シリンジポンプ14の揚力によって、当該装置の測定系に注入され、配管13aを介して、流動阻害部11に充填される。
【0048】
流動阻害部11は、前記フィルタを備えたものであり、筐体の壁面および前記分割板に接続しない状態で設置されたものである。
具体的には、流動阻害部11は、前記フィルタをガラスとパッキンにより固定し、それをハウジングした(収容した)箱型の物である。
流動阻害部11では、具備された前記フィルタ内を前記有形成分非含有液体(生理食塩水など)や前記有形成分含有液体(血液検体など)が流れる。流動阻害部11は、具備する前記フィルタ内に前記有形成分非含有液体や前記有形成分含有液体を流入させるための配管13aと接続されており、さらに、前記フィルタを通過した側に、生理食塩水で充填された配管13bが接続されている。
なお、測定の際の流動阻害部に充填された液体は、接続された配管内の生理食塩水が、後述の廃液ボトルへ滴下する引力が、サイフォンの原理によって伝わることで、移動する力が付与される。
また、前記有形成分含有液体(血液検体など)は、流動阻害部から配管へ流出することはなく、測定毎に流動阻害部そのものが交換される。
【0049】
シリンジポンプ14は、弁16aを介して配管13b及び配管13cに接続されており、配管内を生理食塩水で充填させるための揚力や、前記有形成分含有液体(血液検体など)を、検体ノズル15から当該装置の測定系に注入するための揚力を付与するためのものである。
【0050】
配管13cは、弁16bを介して配管13dと配管13eとに分枝している。配管13dは、液面の移動速度を測定するセンサ12と接続されている。また、配管13eは、弁16cを介してさらに配管13f、13g、13hに分枝し、下層に設置された廃液ボトル17、生理食塩水ボトル18、精製水ボトル19に接続されている。なお、配管13c〜13gは、生理食塩水で充填されている。
【0051】
液面の移動速度を測定するセンサ12は、計測中部内に精製水が充填され、配管13dを介して接続されたものであり、当該生成水の液面移動をセンシングするユニットとして、筐体の壁面および前記分割板に接続しない状態で設置されたものである。
測定操作において、前記有形成分含有液体が流動阻害部11へ流入し、前記フィルタを通過する際に、当該センサの計測中部内の精製水の液面が移動する。
当該センサ12は、この液面の移動する度合いを検知し、移動速度(本発明では、単位液体の量あたりの移動時間に換算された値)を計測することができる。好ましくは、筐体の外部に、当該センサからの信号を演算処理して測定値を表示できる機器を設置し、当該機器と接続されていることが望ましい。
【0052】
次に前記下層の空間について説明する。
前記下層は、主に、電源21とファン22が設置される。また、廃液ボトル17、生理食塩水ボトル18も設置される。なお、廃液ボトル17は、装置外に置くこともできるが、配管を流れる当該液体の温度の均一化(平衡化)の点から、前記下層に設置することが望ましい。
【0053】
廃液ボトル17の上部は配管13fと接続されており、配管13fは弁16cを介して配管13e(上層からひかれた配管)と接続されている。測定時においては、弁16cの配管13f側は開いた状態にあり、生理食塩水ボトル18に接続された配管13g側(および精製水ボトル19に接続された配管13h側)は閉じた状態となる。
従って、配管13eを介して流れてくる生理食塩水は、廃液ボトル17に廃液として溜められる。
【0054】
生理食塩水ボトル18は、生理食塩水の入ったボトルである。生理食塩水ボトル18の上部は配管13gと接続されており、配管13gは弁16cを介して配管13e(上層からひかれた配管)と接続されている。
弁16cの配管13g側は、当該装置の測定時には閉じられているが、測定系内に生理食塩水を充填する時には開かれ(この時、廃液ボトル17に接続された配管13e側、および、精製水ボトル19に接続された配管13h側は閉じられ)、前記シリンジポンプ14を用いることで、廃液ボトル17を除く上記測定系全体に生理食塩水が充填される。
また、精製水ボトル19は、精製水の入ったボトルである。精製水ボトル19の上部は配管13hと接続されており、配管13hは弁16cを介して配管13e(上層からひかれた配管)と接続されている。前記シリンジポンプ14を用いることで、上記測定系全体を精製水で洗浄することができる。
【0055】
電源21は、ファン22、シリンジポンプ14などに電気を供給するための内部電源であり、また、当該装置内を、前記所定の温度内の間で均一に保持をすることに貢献する熱源としても機能するものである。
また、電源21は、熱伝導性の高い放熱板5を介して、分割板3と接合された構造をとるものであることが好ましい。放熱板5としては、多数の突起や板状物などを多数具備した、表面積が大きいものであることが、望ましい。
当該構造は、電源21の熱は、分割板3を介して、装置内の下層に均一に放熱させる上で有効である。
なお、当該装置が、電源21以外の熱源である、前記演算装置の制御基板などを具備するものである場合、当該下層に設置する。
【0056】
ファン22は、前記電源により回転し外気を吸入するためのものである。詳しくは、電源21の近くの前記筐体の下層の外壁に設置されたものであり、当該装置内に外気を吸入し、電源21などの熱を装置内に吹き込むことで、当該装置内の温度を均一に保持するためのものである。
電源の熱や、さらには分割板や放熱板からの熱は、ファン22の吹き込みによって、前記分割板のくり抜き構造を通して、下層の空気を上層に送ることで、筐体内全体の温度を均一に保持することができる。
なお、前記したように、筐体の上層の空間に接する壁面に、上層部の空気が筐体外に抜けることができるような穴や構造を具備させることによって、より筐体内全体の通気が行われ易くなり、筐体内全体の温度を均一に保持する上で望ましい。
なお、上記構成を有する当該装置内の温度は、通常電源投入後5〜7分で安定化し、筐体内全体の温度を均一にすることができる。
【0057】
なお、筐体の外部には、前記液面の移動速度を測定するセンサからの信号を演算処理して測定値を表示できる機器を設置し、当該機器と接続されていることが望ましい。
さらには、前記等差増加関数t=avと、前記増加曲線関数t=f(v)と、前記理論値を表す点P1と、前記実測値を表す点P2と、前記変曲点Qを求め、面積Sの値を算出し(演算し)出力できるものであることが望ましい。
【0058】
本発明における前記フィルタを具備する装置は、上記構成を具備することによって、当該装置の外部の気温が0〜30℃である時に、当該装置の運転時の前記装置内、詳しくは筐体内、の温度が34〜36℃の間で均一に保持することができ、前記有形成分非含有液体(即ち、生理食塩水又は10%以下グリセロール)が流量に依存して当該フィルタ内を“等差時間”で流れる装置とすることができる。
【0059】
本発明における前記フィルタを具備する装置を用いて、前記有形成分含有液体の流動性を測定するのには、前記検体ノズルから当該装置の測定系に注入し、実測値を計測する。
当該装置を用いた場合、実際に前記フィルタを通過させる液体の量(vp)としては、具体的には100μlを通過させて実測値の計測を行う。また、当該装置を用いた場合、の前記最少測定限界量δvの値としては、具体的には、前記有形成分含有液体の量vpの10%の量である10μlとなる。
【0060】
また、当該装置を用いて流動性を測定する際には、流動性を測定したい有形成分含有液体と同じ粘度になるように調製した“有形成分非含有液体”(即ち、生理食塩水又は10%以下グリセロール)を検体ノズルから測定系に注入し、理論値を計測する。
なお、ここで、“有形成分非含有液体”の粘度の調製は、当該装置を用いて流動性を測定したい有形成分含有液体と、「流速の初速度」(具体的には最少測定限界量δv(当該装置では10μl)を流した時の流速)、が同じになるような粘度を求めることで、当該有形成分含有液体と同じ粘度に調製する。
なお、特に血液の流動性を測定する場合において、上記のように測定系の配管を生理食塩水に充填し、実際に測定を行う流動阻害部およびその付近の配管にのみに検体である有形成分含有液体(血液検体)を通過させることで、配管内の凝集傾向を無くす事ができ、前記流速の初速度を再現性よく安定させることができる。
【0061】
上記の計測結果と数値とを基に、前記等差増加関数t=avと、前記増加曲線関数t=f(v)と、前記理論値を表す点P1と、前記実測値を表す点P2と、前記変曲点Qを求め、面積Sを算出する。
なお、当該装置において、前記有形成分含有液体の量である100μlが一定時間内、具体的には100秒以内、に流れきらなかった場合(阻害の度合いが大きく実際の操作で測定しきれなかった場合)、まず、実際に流れた量をvpとして、前記等差増加関数t=avと、前記増加曲線関数t=f(v)と、前記理論値を表す点P1と、前記実測値を表す点P2と、前記変曲点Qを求め、面積を算出し、これをS1とする。
次に、流れきらなかった量(100μl−vp)と、100秒から実際に流れた量vpの理論値の時間(100秒−avp)との積を算出し(即ち、当該面積SからS1を引いた未測定部分の面積を、値が近似する長方形の面積として算出し)、これをS2とする。
最後に、S1とS2の面積を加算し、これを当該面積Sの近似値とすることができる。
【0062】
如上の如く、本発明では、有形成分含有液体の有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数を算出し、;当該指数を、流動性を定量評価する指数とすることによって、当該液体の粘度の影響を除外した、有形成分のみに由来する有形成分含有液体の流動性、特に血液の流動性、を測定することができる。
また、特には、血液の流動性のうち、血液の粘度に由来する影響を除外した血球のみに由来する血液の流動性を測定することができる。
【0063】
本発明では、上記の方法で測定した血液の流動性の測定結果に基づいて、疾患の判定を行うことができる。具体的には、血球が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数である前記面積Sの値を指標にして、疾患病の判定を行うことができる。
疾患病の人と疾患病でない人の差違が、従来の評価方法である“一定液体の量が流れる時間”を計測した血液流動性の測定結果では、把握できなかった場合でも、本発明における前記面積Sの値を指標にすることで、疾患の判定を行うことができる。
なお、具体的には、疾患者である糖尿病の人の血液と、疾患者でないストレスが多いだけの人の血液を、判定することができる。
【0064】
また、さらには、上記の方法で測定した血液の流動性を表す前記面積Sの値に加えて、前記変曲点Qにおけるv軸値の値vq(変曲点Qにおける当該液体が通過した流量)を考慮することで、さらに詳しい疾患病の判定を行うことができる。
当該判定によって、疾患病が、生活習慣病、特には糖尿病やメタボリックシンドロームの症状、であるのか、それともそれ以外の疾患病(例えば、循環器系やアレルギー性の反応による症状等)なのかを判定することができる。
なお、具体的には、前記面積Sの値が同じ値であっても、糖尿病やメタボリックシンドロームの症状では、その他の疾患病に比べて変曲点Qは、流量の値の少ない時点で現れる傾向がある。そのため、変曲点は流量の値を比較することで、糖尿病やメタボリックシンドロームの症状と、その他の疾患を判定することができる。
また、当該判定結果は、上記生活習慣病、特には、糖尿病やメタボリックシンドロームの予防に役立てることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
実施例1
血液の流動性を測定する装置(エムシーファン (株)アルファテクノ製)を用いて、血液の流動性を測定した。なお、当該装置に具備される血液の流路となるフィルタとしては、ディスポーザブルチップホルダー((株)エムシー研究所製)を用いた。
血液検体としては、検体1:疾患者ではないがストレスが多い人の血液、検体2:糖尿病患者で血糖値がコントロールされている人の血液、検体3:糖尿病患者で血糖値がコントロールされていない人の血液、検体4:健常者の血液を用いた。
測定は、5ml真空採血管による250単位ヘパリン採血を行ない、常温下にて5分間静置後転倒混和を行い、同血液検体サンプルを上記装置にセットし、自動測定することによって行なわれた。
この自動測定の結果から、血球が引き起こす血液の流動性を阻害する度合いを表す指数となる、前記面積Sの値が算出された。結果を表1に示す。なお、変曲点Qのv軸の値vq(変曲点Qにおける流量の値)についても同様に表1に示す。
また、従来の評価方法である、“一定液体の量が流れる時間”を計測した結果(比較対照)を図7に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
図7が示すように、従来の評価方法である一定液体の量が流れる時間を計測した結果では、疾患者ではないがストレスが多い人の血液(検体1)がもっとも流れが悪く、糖尿病患者で血糖値がコントロールされていない人の血液(検体3)よりも悪い結果を示し、疾患者(検体2,3)と疾患病でない者(検体1,4)の相関は取れないように見えていた。
【0069】
しかし、表1が示すように、流動性を阻害する度合いを表す指数である面積Sの値にを比較すると、糖尿病患者で血糖値がコントロールされていない人の血液(検体3)の当該面積Sの値は800、変曲点Qにおける流量は30であった。また、糖尿病患者で血糖値がコントロールされている人の血液(検体2)では、当該面積Sの値は200、変曲点Qにおける流量は30であった。
それに対して、健常人の血液(検体4)では、当該面積Sの値は0、変曲点Qにおける流量は100であった。また、疾患者ではないがストレスが多い人の血液(検体1)では、当該面積Sの値210、変曲点Qにおける流量は70であった。
【0070】
上記の結果から、従来の評価方法である一定液体の量が流れる時間を計測した結果では、把握できなかった疾患病の人と疾患病でない人の差違、特に、糖尿病で血糖値がコントロールされていない人(検体3)と、疾患者ではないがストレスが多い人(検体1)の差違が明確に区別できることが明らかになった。
また、糖尿病患者の人の場合、血糖値のコントロールがされている人(検体2)であっても血糖値のコントロールがされていない人(検体3)であっても、変曲点Qにおける流量の値が、少ない時点(表1では30)で現れることが分った。
従って、当該面積Sの値が同じ値であっても、糖尿病(メタボリック症候群の症状も同様と推測される)では変曲点Qは流量の値の少ない時点で現れるため、変曲点Qは流量の値を比較することで、その他の疾患病(例えば、循環系の疾患病)であるかどうかの判定もできることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の有形成分含有液体の流動性の測定方法は、医療分野、特に糖尿病、メタボリックシンドローム、各生活習慣病の判定や予防に活用できる。
さらには、本発明の有形成分含有液体の流動性の測定方法は、燃焼機関における燃料噴射過程のシミュレーションにより、燃料制御システムの最適化測定などに活用できるができる。また、さらに本発明は、集合住宅における下水管配管シミュレーションを行なうことにより、メンテンスフリーの構造設計に応用できる。また、さらに、本発明は、工場プラントにおける温度変化をきたす環境において源体の流れ、排水の流れなどの設計分野への利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】“有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数”である面積Sを示す図である。
【図2】血液の流動性の測定に用いるフィルタの構造を示す図である。
【図3】血液の流動性の測定に用いるフィルタの構造を示す図である。
【図4】血液の流動性の測定に用いるフィルタ内を、血球が通過する模式図を示す図である。
【図5】有形成分含有液体の流路となるフィルタを具備する装置の概略図の縦断面を示す図である。
【図6】有形成分含有液体の流路となるフィルタを具備する装置の内部における、各構成の接続関係を示す図である。
【図7】実施例1の比較対照である“一定液体の量が流れる時間”を計測した結果である。
【符号の説明】
【0073】
1 有形成分含有液体の流路となるフィルタを具備する装置
2 筐体
3 分割板
4 放熱板
5 放熱板
11 流動阻害部
12 液面の移動速度を測定するセンサ
13(13a〜13g) 配管
14 シリンジポンプ
15 検体ノズル
16(16a〜16c) 弁
17 廃液ボトル
18 生理食塩水ボトル
19 精製水ボトル
21 電源
22 ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に微細な溝を有して成る第1の基板と、
上記溝を有する第1の基板の表面に接合される平面を有する第2の基板とから成り、
上記第1の基板と上記第2の基板との接合部に上記溝によって形成される空間を有形成分含有液体の流路としたフィルタを具備する装置を用いて、有形成分含有液体の流動性を測定する方法において、
前記フィルタを通過する際に前記有形成分含有液体の有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数を算出し、;
当該指数を、流動性を定量評価する指数とすることを特徴とする、有形成分含有液体の流動性を測定する方法。
【請求項2】
前記フィルタを通過する際に前記有形成分含有液体の有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数を算出するにあたり、
前記フィルタを通過した液体の量vを横軸とし、当該液体の量vが前記フィルタを通過した時間tを縦軸とするvt平面上にて、
前記有形成分含有液体と同じ粘度を有する有形成分非含有の液体の量と、当該有形成分非含有の液体が前記フィルタを通過する時間とが、正の数aを定数とする等差増加関数t=avで表される関係にあり、当該直線上における前記有形成分非含有の液体の量vpが前記フィルタを通過する時間の理論値を表す点をP1とし、;
前記有形成分含有液体の量と、当該有形成分含有液体が前記フィルタを通過する時間とが、vでの微分値が前記a以上になる増加曲線関数t=f(v)で表される関係にあり、当該曲線上における前記有形成分含有液体の量vpが前記フィルタを通過した時の時間の実測値を表す点をP2とし、;
前記t=avで表される直線上における、前記装置の最少測定限界量である液体の量δvが前記フィルタを通過する時間を表す点のt軸値をδtとして、
前記有形成分含有液体の量vqが前記フィルタを通過する時間の実測値を表す前記t=f(v)上の点のt軸値が、前記液体の量vqが前記フィルタを通過する時間の理論値を表す前記t=av上の点のt軸値の値に、前記δtを加えた値をt軸値とする点と同一になる前記t=f(v)上の点を、変曲点Qとし、;
前記理論値を表す点P1および前記実測値を表す点P2のv軸値の値vpが、前記変曲点Qのv軸値の値vqよりも大きい値である場合において、
前記理論値を表す点P1および前記実測値を表す点P2を結ぶ直線と、前記理論値を表す点P1および前記変曲点Qを結ぶ直線と、前記変曲点Qおよび前記実測値を表す点P2を結ぶ前記t=f(v)上の曲線と、で囲まれる面積Sを算出し、
当該面積Sの値を前記有形成分含有液体の有形成分が引き起こす流動性を阻害する度合いを表す指数とする、請求項1に記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法。
【請求項3】
前記関数t=f(v)が、正の数αを定数とし、kを1〜11の任意の正の整数とする次の式(I)である、請求項2に記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法。
【数1】

【請求項4】
前記有形成分含有液体の流動性が、前記有形成分含有液体の粘度の影響を除外した、前記有形成分のみに由来する流動性を表すものである、請求項1〜3のいずれかに記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法。
【請求項5】
前記フィルタを具備する装置が、前記有形成分非含有液体が流量に依存して当該フィルタ内を等差時間で流れる装置である、請求項1〜4のいずれかに記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法。
【請求項6】
前記フィルタを具備する装置が、当該装置の外部の気温が0〜30℃である時に、当該装置の運転時の前記装置内の温度が34〜36℃の間で均一に保持される装置である、請求項5に記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法。
【請求項7】
前記フィルタを具備する装置が、
前記フィルタを収容する筐体と、
前記筐体内の空間を上層と下層の二層に分ける分割板と、
前記上層に前記筐体の壁面および前記分割板に接続しない状態で設置された、前記フィルタを備えた流動阻害部と、
前記上層に前記筐体の壁面および前記分割板に接続しない状態で設置された、前記有形成分含有液体および前記有形成分非含有液体の垂直方向の液面の移動速度を測定するセンサと、
前記上層に前記筐体の壁面および前記分割板に接続しない状態で設置された配管と、
前記下層に設置された電源と、
前記下層に設置された、電源により回転し外気を吸入するファンと、
からなり、
前記配管を通して、前記有形成分含有液体および前記有形成分非含有液体を、前記センサおよび前記流動阻害部に供給するようにした装置である、請求項5又は6のいずれかに記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法。
【請求項8】
前記配管の素材がポリテトラフルオロエチレンである、請求項7に記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法。
【請求項9】
前記最少測定限界量が、前記有形成分含有液体の量vpの5〜20%である、請求項2〜8のいずれかに記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法。
【請求項10】
前記有形成分非含有の液体が生理食塩水又は10%以下のグリセリンである、請求項2〜9のいずれかに記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法。
【請求項11】
前記有形成分含有液体の流動性が、血液の流動性を表すものである、請求項1〜10のいずれかに記載の有形成分含有液体の流動性を測定する方法。
【請求項12】
請求項11の方法で測定された前記血液の流動性に基づいて、疾患病を判定する方法。
【請求項13】
請求項11の方法で測定された前記血液の流動性、および、前記変曲点Qにおけるv軸値の値に基づいて、疾患病を判定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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