有極型帯域通過フィルタ
【課題】簡便で安価な構成で、過密な周波数使用状況下において、隣接チャンネル波による受信障害を効果的に防止できる有極型帯域通過フィルタを提供する。
【解決手段】信号伝送路86上に第一誘電体共振器CV2と主共振キャパシタVC2とが並列共振結合され、第二減衰極を形成するための主並列共振部と、当該主並列共振回路と直列共振するキャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子C2を有する主直列共振部とを備えた主回路Aを設ける。また、信号伝送路86から接地側に分岐する形で、インダクタをなす第二誘電体共振器CV1とトラップ用共振キャパシタVC1とを並列共振結合し、主直列共振部の直列共振通過ピークと重なる位置に第一減衰極を形成するトラップ回路Bを設ける。さらに、減衰調整用キャパシタC3,C4を有し、通過域の低域側及び高域側に隣接する阻止域の基底減衰量を調整する基底減衰量調整回路Cを設ける。
【解決手段】信号伝送路86上に第一誘電体共振器CV2と主共振キャパシタVC2とが並列共振結合され、第二減衰極を形成するための主並列共振部と、当該主並列共振回路と直列共振するキャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子C2を有する主直列共振部とを備えた主回路Aを設ける。また、信号伝送路86から接地側に分岐する形で、インダクタをなす第二誘電体共振器CV1とトラップ用共振キャパシタVC1とを並列共振結合し、主直列共振部の直列共振通過ピークと重なる位置に第一減衰極を形成するトラップ回路Bを設ける。さらに、減衰調整用キャパシタC3,C4を有し、通過域の低域側及び高域側に隣接する阻止域の基底減衰量を調整する基底減衰量調整回路Cを設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有極型帯域通過フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2006−67522号公報
【0003】
テレビ放送などの受信機においては、アンテナからの受信信号を同軸ケーブルなどの信号ケーブルを介して受信回路に入力するようにしている。周知の課題として、受信信号には、ノイズや電波干渉などの様々な要因により妨害波が重畳し、受信障害を生ずることがある。このような妨害波は、受信機が設置される地域や周辺環境によって程度も周波数帯も異なるため、必要な帯域をカバーするフィルタを受信機に外付けして解決を図ることが多い。
【0004】
近年、電波放送の形態は非常に多様化しており、多チャンネル化の傾向も著しいので、干渉・妨害に対する対策はより切実なものとなっている。例えば地上波放送のUHF帯の場合、アナログ放送のチャンネルが設定されていることに加え、最近になって同じUHF帯で地上波デジタル放送も開始された。地上波デジタル放送は将来的には現行のアナログ地上波放送を完全に置き換えるべく計画されているが、受信機普及なども考慮して2011年まではアナログ/デジタルのサイマル放送が行われることになっている。そのためUHF帯域の周波数使用状況は大幅に過密となり、隣接チャンネル波や同一チャンネル波による受信障害の問題が深刻化している。これらは、高調波的な妨害波などと異なり、希望波の受信周波数に非常に近接して現われるため、その除去に際しては使用するフィルタの狭帯域化が必要となる(特許文献1)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなUHF帯でのサイマル放送の場合、周波数使用状況が過密になるため、隣接チャンネル波や同一チャンネル波による受信障害がより発生しやすくなり、例えば、小電力送信のデジタルテレビ地域放送における弱中電界受信に際しては、その受信品質の劣化が大きな問題となる。デジタル放送はアナログ放送と異なり、受信レベルがある閾レベルまで低下すると、ブロックノイズ等による映像品質の劣化が非常に急峻に生じるので、小電力送信放送では映像品質を保証するための受信C/N比マージンがどうしても小さくなる。特に、大電力送信の広域デジタル放送チャンネル群とアナログ放送チャンネル群との間に、小電力送信の地域放送チャンネルが近接した形で挟まっている場合、それら広域デジタル放送チャンネル群と高レベルのアナログ放送チャンネル群の高受信電力がもたらす非線形歪の影響を受けて、該地域放送チャンネルの映像品質劣化がとりわけ生じやすい。
【0006】
本発明の課題は、簡便で安価な構成によりつつも、過密な周波数使用状況下において、隣接チャンネル波による受信障害を効果的に防止でき、特に、大電力送信放送群の周波数帯の隙間をぬって地域放送チャンネル等の小電力送信放送がなされている場合においても、それら大電力送信放送群からの非線形歪の影響を効果的に回避でき、かつ、それら大電力送信放送群の信号を過度に減衰させることなく、小電力送信放送の受信品質を大幅に向上できる有極型帯域通過フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明は、通過域の両端に低域側の第一減衰極と高域側の第二減衰極とを有する有極型帯域通過フィルタに係り、上記課題を解決するために、
一端が入力部とされ他端が出力部とされた信号伝送路と、
信号伝送路上においてインダクタをなす主誘電体共振器と主共振キャパシタとが並列共振結合され、第二減衰極を形成するための並列共振減衰ピークを生じさせる主並列共振部と、当該主並列共振回路と直列共振結合するキャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子を有するとともに第一減衰極に対応した位置に直列共振通過ピークを有する主直列共振部とを有した主回路と、
信号伝送路から接地側に分岐する形で設けられ、インダクタをなすトラップ用誘電体共振器と並列共振結合キャパシタとを並列共振結合したトラップ用並列共振部と、当該トラップ用並列共振部と直列共振結合するキャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子を有するとともに、主直列共振部の直列共振通過ピークに隣接する位置に第一減衰極を形成するための直列共振減衰ピークを生じさせるトラップ回路と、
前記信号伝送路から接地側に分岐する形で設けられた減衰調整用キャパシタを有し、通過域の低域側又は高域側に隣接する阻止域の基底減衰量を調整する基底減衰量調整回路とを備えたことを特徴とする。
【0008】
上記本発明の有極型帯域通過フィルタにおいて、通過域の基本形状を定めるのは主回路であり、Q値の大きい誘電体共振器が組み込まれた主並列共振部に、キャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子を有する主直列共振部を直結した構造をなす。その通過特性は、高域側阻止域か低域側阻止域の一方をなす第一基底レベルから、直列共振点に由来した極大値に向けて緩やかに増大して直列共振通過ピークを形成した後、第二減衰極をなす並列共振点レベルに向けて急峻に減少し、高域側か低域側の他方をなす第二基底レベルに向けてやや緩やかに復帰することにより、上記直列共振通過ピークと対になる並列共振減衰ピークを形成する。そして、その直列共振通過ピークに隣接する位置に直列共振減衰ピークを生じさせるトラップ回路を追加することにより、極両側が急峻な減衰特性となるトラップ回路特有の狭く深い第一減衰極が形成される。
【0009】
小電力送信となる選択希望チャンネルの帯域を上記のような通過域に合わせ込んだとき、この第一減衰極をなす減衰ピークは、該選択希望チャンネルの信号を、当該第一減衰極側に隣接する大電力送信チャンネルの信号からピンポイントで切り出しつつ通過させることができる。そして、本発明においては、通過域の低域側及び高域側に隣接する阻止域の基底減衰量(すなわち、上記第一ないし第二基底レベル)を調整する基底減衰量調整回路を設けたことで、大電力送信チャンネルの信号の通過レベルも適正化することができる。その結果、大電力送信放送群の周波数帯の隙間をぬって小電力送信放送がなされている場合においても、小電力送信放送の受信信号レベルにそれほど影響を与えることなく、隣接する大電力送信放送群の信号レベルを適度に減衰させることができる。その結果、小電力送信放送の受信信号への非線形歪の影響を効果的に回避でき、かつ、大電力送信放送群の信号を過度に減衰させることなく、小電力送信放送の受信品質を大幅に向上できる。すなわち、簡便で安価な構成によりつつも、過密な周波数使用状況下において、隣接チャンネル波による受信障害を効果的に防止できるようになる。
【0010】
基底減衰量調整回路は、主回路の前段側及び後段側にて接地側にそれぞれ分岐する形で設けられた1対の減衰調整用キャパシタを有する高低域π形フィルタ回路として構成することができる。このような高低域π形フィルタ回路は、減衰調整用キャパシタの静電容量設定値に応じて、低域側及び高域側の各阻止域の基底減衰量を独立かつ容易に調整できる。
【0011】
トラップ回路の直列共振減衰ピークに由来した第一減衰極と、主回路の並列共振減衰ピークに由来した第二減衰極とのいずれが高域側減衰極となり、いずれが低域側減衰極となるかは、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子としてキャパシタとインダクタとのいずれを選択するかに応じて、自由に変更できる。具体的には、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子をキャパシタで構成した場合、第一減衰極が低域側減衰極となり、第二減衰極が高域側減衰極となる。また、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子をインダクタで構成した場合、第一減衰極が高域側減衰極となり、第二減衰極が低域側減衰極となる。
【0012】
すなわち、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子がキャパシタで構成される場合、主回路に基づく第一減衰極が主並列共振回路に基づく高域側に位置し、第一減衰極の減衰ピーク幅が第二減衰極の減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成される。通過希望周波数帯の低域側直近に隣接して阻止(あるいは通過抑制)希望周波数帯が存在する場合は、近接周波数帯の切り分けに好適なピーク幅の狭い第一減衰極が、当該低域側に現われるよう直列共振結合素子をキャパシタで構成するのが好適であるといえる。減衰ピーク幅は、該減衰ピークに隣接する阻止域の通過曲線をベースラインとしてみたときのピーク半値幅により定量化できる。なお、直列共振結合素子と並列にダンプ抵抗を挿入しておくと、ダンプ抵抗の値に応じて第一減衰極の減衰深さを縮小することができる。
【0013】
特に、通過域の低域側に隣接する大電力送信放送群の信号を、放送受信品質は十分確保され、かつ通過域を通すべき小電力送信放送の信号への悪影響は十分軽減されるよう、適度に減衰させるためには、基底減衰量調整回路を、通過域の高域側に隣接する阻止域の基底減衰量が低域側に隣接する阻止域の基底減衰量よりも大きくなるように調整しておくことが望ましい。例えば、基底減衰量調整回路として前述の高低域π形フィルタ回路を使用する場合、主回路の前段側(入力側)の減衰調整用キャパシタの静電容量設定値により低域側阻止域の基底減衰量を調整でき、同じくの後段側(出力側)の減衰調整用キャパシタの静電容量設定値により高域側阻止域の基底減衰量を調整できる(この場合、静電容量の設定値が大きいほど、基底減衰量も大きくなる)。
【0014】
上記の態様が特に適合する用途として、我国におけるUHF帯を使用した現行の地上波デジタルテレビ放送を例示できる。具体的には、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列の高域側に、それら広域放送チャンネ系列よりも送信電力レベルが小さい地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルが隣接設定されることがある。該地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルのさらに高域側には、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列側よりも広いチャンネル間周波数帯域を隔てた形で、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルよりも送信電力レベルが大きい地上波アナログ放送チャンネル系列が設定される。この場合、本発明の有極型帯域通過フィルタは、その通過域を地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの周波数帯と一致するように設定し、低域側阻止域が地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列の周波数帯と一致するように設定し、高側阻止域が地上波アナログ放送チャンネル系列周波数帯と一致するように設定することで、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの受信信号に対する、それら地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列と地上波アナログ放送チャンネル系列の高受信電力がもたらす非線形歪の影響を効果的に抑制でき、該地域放送チャンネルの映像品質を向上することができる。
【0015】
前述のごとく、デジタル放送は、受信信号のC/N比劣化に伴い、映像品質がある閾値にて急峻に劣化する特性を有しており、映像品質を担保しつつ受信レベルを広帯域に渡って平坦に減衰させる必要がある。つまり、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルに対しデジタル側(つまり、低域側)に、(アナログ放送よりも狭間隔で)隣接するデジタル広域放送チャンネルのみを急峻に減衰させ、そのさらに低域側に連なるデジタル広域放送チャンネルは、視聴に支障のない受信レベルを平坦に確保するために、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの低域側直近に隣接するチャンネルの周波数帯内に第一減衰極を位置させることが望ましい。一方、アナログ放送は、受信信号レベルの低下に伴う映像品質劣化の影響がデジタル放送と比較してはるかに緩やかであり、通過希望チャンネルの高域側に隣接するチャンネルの減衰をより優先させる観点から、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの高域側直近に隣接するチャンネルの周波数帯内に(よりブロードな)第二減衰極が位置するように、各減衰極の位置を調整しておくことが望ましい。この場合、第一減衰極の減衰深さは、隣接広域デジタル放送の受信信号に呈する減衰量を必要最小限とする観点から、第二減衰極の減衰深さよりも小さく設定されていることが望ましい。
【0016】
また、低域側阻止域の減衰レベルが12dB以上18dB以下とするのがよい。低域側阻止域の減衰レベルが12dB未満では地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列からの非線形歪の影響軽減効果が不十分となり、18dBを超えると該広域放送チャンネルの受信信号レベルが不足して該チャンネルの映像品質を確保できなくなる。高域側阻止域の減衰レベルは、該アナログ放送チャンネル電波による非線形歪の影響を十分に低減できるように、16dB以上20dB以下の範囲にて、低域側阻止域の減衰レベルよりも1dB以上大きく設定しておくことが望ましい。他方、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの受信映像品質を良好に確保するために、通過域における通過損失は5dB以下であることが望ましい。
【0017】
一方、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子がインダクタで構成される場合、主回路に基づく第一減衰極が主並列共振回路に基づく第二減衰極に対し高域側に位置し、第一減衰極の減衰ピーク幅が第二減衰極の減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成される。通過希望周波数帯の高域側直近に隣接して阻止(あるいは通過抑制)希望周波数帯が存在する場合は、近接周波数帯の切り分けに好適なピーク幅の狭い第一減衰極が、当該高域側に現われるよう直列共振結合素子をインダクタで構成するのが好適であるといえる。
【0018】
なお、第二減衰極の減衰深さを軽減するためには、信号伝送路上にて主回路に対し並列挿入される形で、ダンプ抵抗を設けておくことが望ましい。
【0019】
次に、本発明においては、主並列列共振部において主共振キャパシタに対して直列に、かつ誘電体共振器に対して並列となるように、通過域の高域端側又は低域端側の通過特性を急峻化するための分布定数線路部を設けることができる。これにより、よりシャープな通過特性を有した通過域を形成することができる。
【0020】
基底減衰量調整回路は、減衰調整用キャパシタと直列接続される分布定数線路部を有するものとして構成できる。主回路にこのような分布定数線路を並列接続することで、図3に示す直列共振点と並列共振点との間の傾斜をより急峻化することができる。
【0021】
この場合、主並列共振回路に組み込まれた誘電体共振器として、誘電体筐体表面が、信号伝送路の入力側に導通接続された金属被覆層により覆われたものを使用できる。また、有極型帯域通過フィルタの構成部品が実装されるとともに接地導体箔により被覆された基板の実装面に、金属被覆層を有する誘電体共振器が実装面との間に所定の隙間を生じさせた形で実装することができ、該金属被覆層は減衰調整用キャパシタを介して接地導体箔に導通接続することができる。これにより、金属被覆層と接地導体箔とにより上記分布定数線路部を形成することができ、帯域通過型フィルタの通過特性をさらに急峻化することができる。
【0022】
また、信号伝送路上にて複数の主回路をカスケード接続することができる。主並列共振回路をカスケード接続することで、通過域の端部形状をより急峻化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。図1は、本発明の有極型帯域通過フィルタの回路構成例を示すものである。また、図2は、その通過特性(上)と反射特性(下)との代表的な実測例を、異なる周波数スケールにて示すものである。この有極型帯域通過フィルタ1は、UHFテレビ放送受信用のものであり、図2に示すように、通過域PBの両端に第一減衰極PPと第二減衰極SPとを有する。図1に示すように、該回路は、一端が入力部PT1とされ他端がPT2とされた信号伝送路86と、主回路A、トラップ回路B及び基底減衰量調整回路Cとを備える。
【0024】
主回路Aは、図3に示すように、信号伝送路86上においてインダクタをなす主誘電体共振器CV1と主共振キャパシタVC2とが並列共振結合され、第二減衰極SP(図17)を形成するための並列共振減衰ピークを生じさせる主並列共振部と、当該主並列共振回路と直列共振結合するキャパシタ(直列共振結合素子)C2を有し、第一減衰極PP(図2)に対応した位置(正確には、第一減衰極PPよりも1〜4MHz高域側にシフトした位置である)に直列共振通過ピークを有する主直列共振部とを有する。第二減衰極SPの位置は、トリマコンデンサにて構成された主共振キャパシタVC2の静電容量に応じて可変設定できる。
【0025】
また、トラップ回路Bは、図4に示すように、信号伝送路86から接地側に分岐する形で設けられ、インダクタをなすトラップ用誘電体共振器CV1と並列共振結合キャパシタVC1とを並列共振結合したトラップ用並列共振部と、当該トラップ用並列共振部と直列共振結合する直列共振結合素子をなすキャパシタC1とを有し、主直列共振部の直列共振通過ピークと隣接する位置(正確には、主直列共振部の直列共振点よりも1〜4MHz低域側にシフトした位置である)に第一減衰極PP(図2)を形成するための直列共振減衰ピークを生じさせるものである。第一減衰極PPの位置は、トリマコンデンサにて構成された並列共振結合キャパシタVC1の静電容量に応じて可変設定できる。なお、信号伝送路86上にて主回路Aに対し並列挿入される形で、第二減衰極SPの減衰深さを軽減するためのダンプ抵抗R2が設けられている。
【0026】
基底減衰量調整回路Cは、通過域PBの低域側及び高域側に隣接する阻止域LEB,HEBの基底減衰量を調整するためのものであり、図1に示すように、信号伝送路86から接地側に分岐する形で設けられた減衰調整用キャパシタC3,C4を有する。基底減衰量調整回路Cは、主回路Aの前段側及び後段側にて接地側にそれぞれ分岐する形で設けられた1対の減衰調整用キャパシタC3,C4を有する高低域π形フィルタ回路である。
【0027】
図7に示すように、該有極型帯域通過フィルタ1は、テレビ受信用の屋内ケーブル上に取り付けて使用されるフィルタ内蔵型ケーブルコネクタユニットとして構成され、ケーブル接続用ベース42に、上記回路の各部品を実装した基板70を組み付け、その外側を円筒状のカバー2で覆った構成を有する。該ケーブルコネクタユニットの基本構成は特許文献1等により公知であり、詳細な説明は省略する。本発明の他の回路図と同様、図1の回路図は、後述のフィルタ特性評価用のシミュレーションソフト((株)エム・イー・エル社製の高周波・マイクロ波EDAツール:S−NAP/Pro)上にて作成したものであり、各部品の回路定数は、シミュレーションを行なう上での入力設定値として、図1内に個別の値が示されている。
【0028】
キャパシタ(C:C1,C2,VC1,VC2‥:VCは可変コンデンサ(ここでは、トリマコンデンサ)であることを示す)については、静電容量の値を単位Fにて、そのQ値(対象周波数Fは単位Hz)とともに示している(例えば、「1p」と記載されていれば、静電容量の値が1pFであることを示す)。抵抗(R:R1,‥)については、直流電気抵抗の値を単位Ωにて示している。誘電体共振器(CV:CV1,CV2)については、共振周波数fsの値を単位Hzにて(例えば、「575MEG」と記載されていれば、共振周波数fsが575MHzであることを示す)にて、Q値とともに示している。また、Erは比誘電率である。また、dは、正方形断面を有する誘電体共振器の断面辺長であり(単位:mm)、aは誘電体共振器の円筒空洞の内径である(単位mm)。また、図1には表れないが、インダクタ(L:L1,L2)についてはインダクタンスの値を単位Hにて、分布定数線路部(MSL,MSL1,MSL2)については、線路長(L:La,Lb)を単位mmにて、特性インピーダンスZ(:Za,Zb,‥)の値を単位Ωにて表わしている。また、Aは線路減衰量(単位:dB/m)である。
【0029】
上記本発明の有極型帯域通過フィルタ1において、通過域PBの基本形状を定めるのは主回路A及びトラップ回路Bであり、Q値の大きい誘電体共振器が組み込まれた主並列共振部に、キャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子C2を有する主直列共振部を直結した構造をなす。図3(シミュレーション:通過特性(太線)、反射特性(細線))、以下同じ)に示すように、その通過特性は、高域側阻止域HEBか低域側阻止域HEBの一方をなす第一基底レベルから、直列共振点に由来した極大値に向けて緩やかに増大して直列共振通過ピークを形成した後、第二減衰極SPをなす並列共振点レベルに向けて急峻に減少し、高域側か低域側の他方をなす第二基底レベルに向けてやや緩やかに復帰することにより、上記直列共振通過ピークと対になる並列共振減衰ピークを形成する。そして、その直列共振通過ピークに隣接する位置に直列共振減衰ピークを生じさせる図4のトラップ回路Bを追加することにより、図5(シミュレーション)に示すように、極両側が急峻な減衰特性となるトラップ回路B特有の狭く深い第一減衰極PPが形成される。小電力送信となる選択希望チャンネルの帯域を上記のような通過域PBに合わせ込んだとき、この第一減衰極PPをなす減衰ピークは、該選択希望チャンネルの信号を、当該第一減衰極PP側に隣接する大電力送信チャンネルの信号からピンポイントで切り出しつつ通過させることができる。
【0030】
他方、図1に示すように、有極型帯域通過フィルタ1には、高低域π形フィルタ回路として構成された基底減衰量調整回路Cが設けられている。図6(シミュレーション)に示すように、高低域π形フィルタ回路を追加することにより、減衰調整用キャパシタC3,C4の静電容量設定値に応じて、低域側及び高域側の各阻止域LEB,HEBの基底減衰量を独立かつ容易に調整できる。
【0031】
ここでは、主回路およびトラップ回路の直列共振結合素子がキャパシタC2,C1で構成されており、主回路Aに基づく第一減衰極PPが、主並列共振回路に基づく第二減衰極SPに対し低域側において、減衰ピーク幅が第二減衰極SPの減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成される。例えば、通過域PBの低域側に隣接する大電力送信放送群の信号を、放送受信品質は十分確保され、かつ通過域PBを通すべき小電力送信放送の信号への悪影響は十分軽減されるよう適度に減衰させることを考える。この場合、基底減衰量調整回路Cは、通過域PBの高域側に隣接する阻止域HEBの基底減衰量が低域側に隣接する阻止域LEBの基底減衰量よりも大きくなるように調整される。具体的には、高低域π形フィルタ回路からなる基底減衰量調整回路Cにおいて、主回路Aの前段側(入力側)の減衰調整用キャパシタC3の静電容量設定値により低域側阻止域LEBの基底減衰量を調整できる。また、後段側(出力側)の減衰調整用キャパシタC4の静電容量設定値により高域側阻止域HEBの基底減衰量を調整できる(静電容量の設定値が大きいほど、基底減衰量も大きくなる)。
【0032】
図1の回路においては、第二減衰極SPの減衰深さを軽減するために、信号伝送路86上にて主回路Aに対し並列挿入される形で、ダンプ抵抗R1が挿入されている。この場合、図8に示すように、基底減衰量調整回路Cの前段側の減衰調整用キャパシタC3を、トラップ回路の前段側に移動させることで、フィルタの通過特性及び反射特性をより向上させることができる。なお、この場合の通過特性及び反射特性の実測例を合わせて示している。
【0033】
また、図9は、図8の回路において、主並列共振部において主共振キャパシタVC2に対して直列となり、第一の誘電体共振器CV2に対して並列となるように、通過域PBの高域端側又は低域端側の通過特性を急峻化するための分布定数線路部MSL2を設けた例を示している。これにより、よりシャープな通過特性を有した通過域PBを形成することができる。図9中には、その通過特性(太線)と反射特性(細線)を、分布定数線路部MSL2がある場合(実線)と、同じくない場合(破線)とを、異なる周波数スケールにて対比して示している。
【0034】
図10及び図11は、基板70上における分布定数線路部MSL2の形成例を示すものであり、図11に示すごとく、線路パターンLPを基板70の第一面に形成する一方、図10に示すように、基板70の第二面の対応する位置に面導体MP2を形成することで、分布定数線路部をマイクロストリップラインとして形成している。
【0035】
例えば、図12に示すように、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列(ここでは、U13〜U22ch)の高域側に、それら広域放送チャンネ系列よりも送信電力レベルが小さい地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)が隣接設定されている場合を考える。該地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルのさらに高域側には、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列側よりも広いチャンネル間周波数帯域を隔てた形で(ここでは、U24chを空きとした形で)、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルよりも送信電力レベルが大きい地上波アナログ放送チャンネル系列(U25ch,U35ch)が設定されている。
【0036】
図1(ないし図5)の有極型帯域通過フィルタ1は、その通過域PBを地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの周波数帯と一致するように設定し、低域側阻止域LEBが地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列の周波数帯と一致するように設定し、高側阻止域HEBが地上波アナログ放送チャンネル系列周波数帯と一致するように設定する。これにより、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)の受信信号に対する、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列(U13ch〜U22ch)と地上波アナログ放送チャンネル系列(U25ch,U35ch)の高受信電力がもたらす非線形歪の影響を効果的に抑制でき、該地域放送チャンネルの映像品質を向上することができる。
【0037】
図13は、図9の回路を地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)の低域側直近に隣接する阻止チャンネル(U22ch)の周波数帯内に第一減衰極PPを位置させるように、各回路定数を適正化した例である。デジタル放送は、受信信号のC/N比劣化に伴い、映像品質がある閾値にて急峻に劣化する特性を有しており、映像品質を担保しつつ受信レベルを広帯域に渡って平坦に減衰させる必要がある。一方、アナログ放送は、受信信号レベルの低下に伴う映像品質劣化の影響がデジタル放送と比較してはるかに緩やかであり、通過希望チャンネルの高域側に隣接するチャンネルの減衰をより優先させることが可能である。図13のように設定を行なうことで、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)に対し低域側では、(アナログ放送よりも狭間隔で)隣接するデジタル広域放送チャンネル(U22ch)のみを急峻に減衰させ、そのさらに低域側に連なるデジタル広域放送チャンネル(U13ch〜U21ch)は、視聴に支障のない受信レベルを平坦に確保できていることがわかる。なお、低域側阻止域LEBの減衰レベルは12dB以上18dB以下であり、高域側阻止域HEBの減衰レベルは、16dB以上20dB以下の範囲にて、低域側阻止域LEBの減衰レベルよりも1dB以上大きく設定される。さらに、通過域PBにおける通過損失は5dB以下に設定される。
【0038】
図13の回路構成の有極型帯域通過フィルタを、上記のような地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)及びその周辺の受信に適用した場合の、効果を確認する実験を以下のようにして行なった。図14は、その実験に用いたシステムのブロック図である。まず、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル(U13、18〜22ch)の電波は市販のUHFアンテナを介して受信し、デジタルテレビヘッドエンド及び第一可変減衰器を介して第二ミキサに入力した。また、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)を想定した模擬信号をデジタルテレビ信号ジェネレータ(LG3802)により発生し第二ミキサに入力した。さらに、地上波アナログテレビ放送チャンネル(U25ch、U35ch)を想定した模擬信号を、前者については減衰器(15dB)を介して、後者については直接、それぞれ第一ミキサに入力し、その混合出力を、第二可変減衰器を介して第二ミキサに入力した。各チャンネルの入力信号レベルは図12に示す各値に設定した。
【0039】
そして、第二ミキサの出力を、図13に示す本発明の有極型帯域通過フィルタを設けたケーブルを介し、ホームブースタを経てデジタルシグナルアナライザ(Anritus社製、MS8901A)に入力し、デジタルテレビのU21ch、U22ch(広域放送チャンネル、74dB)及びU23ch(地域放送チャンネル、44dB)の変調エラー率MER(変調方式は64QAM(直交振幅変調))と、受信C/N比とを測定した。なお、比較のため、本発明の有極型帯域通過フィルタに代え、図15に示す通過/反射特性を示す市販のバンドエリミネートフィルタ(BEF)とハイパスフィルタ(HPF)とを用いた場合、及びフィルタを用いなかった場合についても同様の測定を行なった。以上の結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
まず、フィルタを用いなかった(1)について見ると、デジタル地域放送チャンネル(U23ch)の変調エラー率及びC/N比は、デジタル広域放送チャンネルであるU21ch及びU22chと比較して15dB以上の開きがあることがわかる。これは、地域放送チャンネルの信号状態に対して、低域側の複数のデジタル広域放送チャンネルから重畳的に作用する非線形歪の影響がことのほか大きいことを意味している。一般に、C/N比におけるデジタルテレビの受信限界は20.1dBと言われているのに対し、U23chのC/N比は14.9と該限界を大きく割り込んでおり、正常な受信が非常に困難であることがわかる。
【0042】
他方、フィルタを用いた場合は、市販のバンドエリミネートフィルタ(BEF)とハイパスフィルタ(HPF)とを用いた(2)、(3)については、U23chのC/N比が確かに向上してはいるものの、受信限界である20.1dBを超えるには至っていない。これに対し、本発明のフィルタを用いた(2)においては、U23chのC/N比が、受信限界を大きく上回り、問題なく受信できるレベルにまで高められていることがわかる。
【0043】
以下、本発明の有極型帯域通過フィルタの、種々の変形例について説明する。
図16は、図13の回路において、低域側基底減衰量に対し高域側基底減衰量を1dB差まで接近するように、各回路定数を最適化した(特に、減衰調整用キャパシタC4をゼロとした)例である。通過チャンネル(U23ch)の両側の隣接チャンネル(U22ch、U24ch)を阻止可能となっている。
【0044】
また、図17では、トラップ回路には、トラップ用共振キャパシタC1と並列にダンプ抵抗R1を挿入することができる。図18に示すように、ダンプ抵抗R1を接続することにより、その抵抗値に応じて第一減衰極PPの減衰深さを縮小することができる。
【0045】
また、図19に示すように、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子をインダクタL1,L2で構成することもできる。この場合、主回路に基づく第一減衰極PPは、主並列共振回路に基づく第二減衰極SPに対し高域側において、減衰ピーク幅が第二減衰極SPの減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成される。近接周波数帯の切り分けに好適なピーク幅の狭い第一減衰極PPが高域側に現われるので、通過希望周波数帯の高域側直近に隣接して阻止(あるいは通過抑制)希望周波数帯が存在する場合に好適である。
【0046】
次に、図20の回路構成では、信号伝送路86上にて、誘電体共振器CV3、主共振キャパシタVC1及び直列共振結合素子をなすキャパシタC1からなる第一主回路と、同じく主誘電体共振器CV2、主共振キャパシタVC2及び直列共振結合素子をなすキャパシタC2からなる第二主回路とがカスケード接続されている。基底減衰量調整回路Cは、3つの減衰調整用キャパシタC11,C12,C3からなり、このうち減衰調整用キャパシタC11,C12には、これらと各々直列接続される分布定数線路部MSL3及びMSL4が設けられている。また、トラップ回路は、トラップ用共振キャパシタC1、トラップ用誘電体共振器CV1及び並列共振結合キャパシタC4からなる。なお、第二主回路の後段にあるインダクタL1は、キャパシタC2のリード線長に由来した等価インダクタンスであり、そのインダクタL1の後段から第一主回路の前段に戻る形で、高域側の基底減衰阻止域HEBを形成するための並列抵抗R1が設けられている。
【0047】
主並列共振回路に組み込まれる誘電体共振器は、図21Aに示すように、誘電体筐体表面が、各々信号伝送路86の入力側に導通接続された金属被覆層MFにより覆われたものが使用される。また、有極型帯域通過フィルタ1の構成部品が実装されるとともに接地導体箔90により被覆された基板の実装面には、金属被覆層MFを有する誘電体共振器CV2,CV3が、実装面との間に所定の隙間hを生じさせた形で実装されている。そして、金属被覆層MFは減衰調整用キャパシタC12を介して接地導体箔90に導通接続されている。これにより、金属被覆層MFと接地導体箔90とにより分布定数線路部MSL3,MSL4が形成される。なお、図21Bは、図21Aの実装回路の等価回路を示したものである。
【0048】
図22は、その通過特性(上)と反射特性(下)との実測例を、異なる周波数スケールにて示すものである。2つの主回路がカスケード接続され、かつ、上記分定数線路部MSL3及びMSL4を設けたことで、通過域PBの端部形状がより急峻化できていることがわかる。なお、高域側基底減衰量と低域側基底減衰量とは、減衰調整用キャパシタC12の静電容量により調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の有極型帯域通過フィルタの回路構成例を示す図。
【図2】その通過特性(上)と反射特性(下)との代表的な実測例を、異なる周波数スケールにて示す図。
【図3】主回路の通過/反射特性を示すシミュレーション図。
【図4】トラップ回路の通過/反射特性を示すシミュレーション図。
【図5】主回路とトラップ回路とを組み合わせた場合の通過/反射特性を示すシミュレーション図。
【図6】基底減衰量調整回路をさらに追加した場合の通過/反射特性を示すシミュレーション図。
【図7】フィルタ内蔵型ケーブルコネクタユニットとして構成した場合の実例を分解状態で示す斜視図。
【図8】基底減衰量調整回路の前段側の減衰調整用キャパシタを、トラップ回路の前段側に移動させ場合の通過特性及び反射特性の実測例。
【図9】主直列共振部に分布定数線路部MSL2を設けた場合の回路と、その通過/反射特性のシミュレーション結果とを示す図。
【図10】分布定数線路部の形成例を示す基板のパターン図(表面側)。
【図11】分布定数線路部の形成例を示す基板のパターン図(裏面側)。
【図12】地上波テレビ放送のチャンネル割当状況の一例を示す図。
【図13】図9の回路を地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)の低域側直近に隣接する阻止チャンネル(U22ch)の周波数帯内に第一減衰極を位置させるように、各回路定数を適正化した例を示す図。
【図14】実験に用いたシステムのブロック図。
【図15】実験に用いた市販のバンドエリミネートフィルタ(BEF)とハイパスフィルタ(HPF)の特性図。
【図16】図13の回路において、各回路定数を変更することにより、低域側基底減衰量に対し高域側基底減衰量を1dB差まで接近させた例を示す図。
【図17】トラップ回路において、結合キャパシタと並列にダンプ抵抗を挿入した例を示す図。
【図18】その通過/反射特性を示す実測図。
【図19】主直列共振部の直列共振結合素子をインダクタで構成した例を示す図。
【図20】2つの主回路をカスケード接続した構成例を示す図。
【図21A】図20の回路の基板への部品実装状態を示す斜視図。
【図21B】図21Aの等価回路図。
【図22】図20の回路の通過/反射特性を示す実測図。
【符号の説明】
【0050】
1 有極型帯域通過フィルタ
86 信号伝送路
A 主回路
CV1 主誘電体共振器
VC2 共振キャパシタ
C2,L1 直列共振結合素子
R2 ダンプ抵抗
MSL2 分布定数線路部
B トラップ回路
CV1 トラップ用誘電体共振器
C1 トラップ用共振キャパシタ
VC1 並列共振結合キャパシタ
L2 直列インダクタ
R1 ダンプ抵抗
C 基底減衰量調整回路
C3,C4 減衰調整用キャパシタ
MSL3,MSL4 分布定数線路部
PB 通過域
PP 第一減衰極
SP 第二減衰極
【技術分野】
【0001】
この発明は、有極型帯域通過フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2006−67522号公報
【0003】
テレビ放送などの受信機においては、アンテナからの受信信号を同軸ケーブルなどの信号ケーブルを介して受信回路に入力するようにしている。周知の課題として、受信信号には、ノイズや電波干渉などの様々な要因により妨害波が重畳し、受信障害を生ずることがある。このような妨害波は、受信機が設置される地域や周辺環境によって程度も周波数帯も異なるため、必要な帯域をカバーするフィルタを受信機に外付けして解決を図ることが多い。
【0004】
近年、電波放送の形態は非常に多様化しており、多チャンネル化の傾向も著しいので、干渉・妨害に対する対策はより切実なものとなっている。例えば地上波放送のUHF帯の場合、アナログ放送のチャンネルが設定されていることに加え、最近になって同じUHF帯で地上波デジタル放送も開始された。地上波デジタル放送は将来的には現行のアナログ地上波放送を完全に置き換えるべく計画されているが、受信機普及なども考慮して2011年まではアナログ/デジタルのサイマル放送が行われることになっている。そのためUHF帯域の周波数使用状況は大幅に過密となり、隣接チャンネル波や同一チャンネル波による受信障害の問題が深刻化している。これらは、高調波的な妨害波などと異なり、希望波の受信周波数に非常に近接して現われるため、その除去に際しては使用するフィルタの狭帯域化が必要となる(特許文献1)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなUHF帯でのサイマル放送の場合、周波数使用状況が過密になるため、隣接チャンネル波や同一チャンネル波による受信障害がより発生しやすくなり、例えば、小電力送信のデジタルテレビ地域放送における弱中電界受信に際しては、その受信品質の劣化が大きな問題となる。デジタル放送はアナログ放送と異なり、受信レベルがある閾レベルまで低下すると、ブロックノイズ等による映像品質の劣化が非常に急峻に生じるので、小電力送信放送では映像品質を保証するための受信C/N比マージンがどうしても小さくなる。特に、大電力送信の広域デジタル放送チャンネル群とアナログ放送チャンネル群との間に、小電力送信の地域放送チャンネルが近接した形で挟まっている場合、それら広域デジタル放送チャンネル群と高レベルのアナログ放送チャンネル群の高受信電力がもたらす非線形歪の影響を受けて、該地域放送チャンネルの映像品質劣化がとりわけ生じやすい。
【0006】
本発明の課題は、簡便で安価な構成によりつつも、過密な周波数使用状況下において、隣接チャンネル波による受信障害を効果的に防止でき、特に、大電力送信放送群の周波数帯の隙間をぬって地域放送チャンネル等の小電力送信放送がなされている場合においても、それら大電力送信放送群からの非線形歪の影響を効果的に回避でき、かつ、それら大電力送信放送群の信号を過度に減衰させることなく、小電力送信放送の受信品質を大幅に向上できる有極型帯域通過フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明は、通過域の両端に低域側の第一減衰極と高域側の第二減衰極とを有する有極型帯域通過フィルタに係り、上記課題を解決するために、
一端が入力部とされ他端が出力部とされた信号伝送路と、
信号伝送路上においてインダクタをなす主誘電体共振器と主共振キャパシタとが並列共振結合され、第二減衰極を形成するための並列共振減衰ピークを生じさせる主並列共振部と、当該主並列共振回路と直列共振結合するキャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子を有するとともに第一減衰極に対応した位置に直列共振通過ピークを有する主直列共振部とを有した主回路と、
信号伝送路から接地側に分岐する形で設けられ、インダクタをなすトラップ用誘電体共振器と並列共振結合キャパシタとを並列共振結合したトラップ用並列共振部と、当該トラップ用並列共振部と直列共振結合するキャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子を有するとともに、主直列共振部の直列共振通過ピークに隣接する位置に第一減衰極を形成するための直列共振減衰ピークを生じさせるトラップ回路と、
前記信号伝送路から接地側に分岐する形で設けられた減衰調整用キャパシタを有し、通過域の低域側又は高域側に隣接する阻止域の基底減衰量を調整する基底減衰量調整回路とを備えたことを特徴とする。
【0008】
上記本発明の有極型帯域通過フィルタにおいて、通過域の基本形状を定めるのは主回路であり、Q値の大きい誘電体共振器が組み込まれた主並列共振部に、キャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子を有する主直列共振部を直結した構造をなす。その通過特性は、高域側阻止域か低域側阻止域の一方をなす第一基底レベルから、直列共振点に由来した極大値に向けて緩やかに増大して直列共振通過ピークを形成した後、第二減衰極をなす並列共振点レベルに向けて急峻に減少し、高域側か低域側の他方をなす第二基底レベルに向けてやや緩やかに復帰することにより、上記直列共振通過ピークと対になる並列共振減衰ピークを形成する。そして、その直列共振通過ピークに隣接する位置に直列共振減衰ピークを生じさせるトラップ回路を追加することにより、極両側が急峻な減衰特性となるトラップ回路特有の狭く深い第一減衰極が形成される。
【0009】
小電力送信となる選択希望チャンネルの帯域を上記のような通過域に合わせ込んだとき、この第一減衰極をなす減衰ピークは、該選択希望チャンネルの信号を、当該第一減衰極側に隣接する大電力送信チャンネルの信号からピンポイントで切り出しつつ通過させることができる。そして、本発明においては、通過域の低域側及び高域側に隣接する阻止域の基底減衰量(すなわち、上記第一ないし第二基底レベル)を調整する基底減衰量調整回路を設けたことで、大電力送信チャンネルの信号の通過レベルも適正化することができる。その結果、大電力送信放送群の周波数帯の隙間をぬって小電力送信放送がなされている場合においても、小電力送信放送の受信信号レベルにそれほど影響を与えることなく、隣接する大電力送信放送群の信号レベルを適度に減衰させることができる。その結果、小電力送信放送の受信信号への非線形歪の影響を効果的に回避でき、かつ、大電力送信放送群の信号を過度に減衰させることなく、小電力送信放送の受信品質を大幅に向上できる。すなわち、簡便で安価な構成によりつつも、過密な周波数使用状況下において、隣接チャンネル波による受信障害を効果的に防止できるようになる。
【0010】
基底減衰量調整回路は、主回路の前段側及び後段側にて接地側にそれぞれ分岐する形で設けられた1対の減衰調整用キャパシタを有する高低域π形フィルタ回路として構成することができる。このような高低域π形フィルタ回路は、減衰調整用キャパシタの静電容量設定値に応じて、低域側及び高域側の各阻止域の基底減衰量を独立かつ容易に調整できる。
【0011】
トラップ回路の直列共振減衰ピークに由来した第一減衰極と、主回路の並列共振減衰ピークに由来した第二減衰極とのいずれが高域側減衰極となり、いずれが低域側減衰極となるかは、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子としてキャパシタとインダクタとのいずれを選択するかに応じて、自由に変更できる。具体的には、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子をキャパシタで構成した場合、第一減衰極が低域側減衰極となり、第二減衰極が高域側減衰極となる。また、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子をインダクタで構成した場合、第一減衰極が高域側減衰極となり、第二減衰極が低域側減衰極となる。
【0012】
すなわち、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子がキャパシタで構成される場合、主回路に基づく第一減衰極が主並列共振回路に基づく高域側に位置し、第一減衰極の減衰ピーク幅が第二減衰極の減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成される。通過希望周波数帯の低域側直近に隣接して阻止(あるいは通過抑制)希望周波数帯が存在する場合は、近接周波数帯の切り分けに好適なピーク幅の狭い第一減衰極が、当該低域側に現われるよう直列共振結合素子をキャパシタで構成するのが好適であるといえる。減衰ピーク幅は、該減衰ピークに隣接する阻止域の通過曲線をベースラインとしてみたときのピーク半値幅により定量化できる。なお、直列共振結合素子と並列にダンプ抵抗を挿入しておくと、ダンプ抵抗の値に応じて第一減衰極の減衰深さを縮小することができる。
【0013】
特に、通過域の低域側に隣接する大電力送信放送群の信号を、放送受信品質は十分確保され、かつ通過域を通すべき小電力送信放送の信号への悪影響は十分軽減されるよう、適度に減衰させるためには、基底減衰量調整回路を、通過域の高域側に隣接する阻止域の基底減衰量が低域側に隣接する阻止域の基底減衰量よりも大きくなるように調整しておくことが望ましい。例えば、基底減衰量調整回路として前述の高低域π形フィルタ回路を使用する場合、主回路の前段側(入力側)の減衰調整用キャパシタの静電容量設定値により低域側阻止域の基底減衰量を調整でき、同じくの後段側(出力側)の減衰調整用キャパシタの静電容量設定値により高域側阻止域の基底減衰量を調整できる(この場合、静電容量の設定値が大きいほど、基底減衰量も大きくなる)。
【0014】
上記の態様が特に適合する用途として、我国におけるUHF帯を使用した現行の地上波デジタルテレビ放送を例示できる。具体的には、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列の高域側に、それら広域放送チャンネ系列よりも送信電力レベルが小さい地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルが隣接設定されることがある。該地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルのさらに高域側には、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列側よりも広いチャンネル間周波数帯域を隔てた形で、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルよりも送信電力レベルが大きい地上波アナログ放送チャンネル系列が設定される。この場合、本発明の有極型帯域通過フィルタは、その通過域を地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの周波数帯と一致するように設定し、低域側阻止域が地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列の周波数帯と一致するように設定し、高側阻止域が地上波アナログ放送チャンネル系列周波数帯と一致するように設定することで、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの受信信号に対する、それら地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列と地上波アナログ放送チャンネル系列の高受信電力がもたらす非線形歪の影響を効果的に抑制でき、該地域放送チャンネルの映像品質を向上することができる。
【0015】
前述のごとく、デジタル放送は、受信信号のC/N比劣化に伴い、映像品質がある閾値にて急峻に劣化する特性を有しており、映像品質を担保しつつ受信レベルを広帯域に渡って平坦に減衰させる必要がある。つまり、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルに対しデジタル側(つまり、低域側)に、(アナログ放送よりも狭間隔で)隣接するデジタル広域放送チャンネルのみを急峻に減衰させ、そのさらに低域側に連なるデジタル広域放送チャンネルは、視聴に支障のない受信レベルを平坦に確保するために、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの低域側直近に隣接するチャンネルの周波数帯内に第一減衰極を位置させることが望ましい。一方、アナログ放送は、受信信号レベルの低下に伴う映像品質劣化の影響がデジタル放送と比較してはるかに緩やかであり、通過希望チャンネルの高域側に隣接するチャンネルの減衰をより優先させる観点から、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの高域側直近に隣接するチャンネルの周波数帯内に(よりブロードな)第二減衰極が位置するように、各減衰極の位置を調整しておくことが望ましい。この場合、第一減衰極の減衰深さは、隣接広域デジタル放送の受信信号に呈する減衰量を必要最小限とする観点から、第二減衰極の減衰深さよりも小さく設定されていることが望ましい。
【0016】
また、低域側阻止域の減衰レベルが12dB以上18dB以下とするのがよい。低域側阻止域の減衰レベルが12dB未満では地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列からの非線形歪の影響軽減効果が不十分となり、18dBを超えると該広域放送チャンネルの受信信号レベルが不足して該チャンネルの映像品質を確保できなくなる。高域側阻止域の減衰レベルは、該アナログ放送チャンネル電波による非線形歪の影響を十分に低減できるように、16dB以上20dB以下の範囲にて、低域側阻止域の減衰レベルよりも1dB以上大きく設定しておくことが望ましい。他方、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの受信映像品質を良好に確保するために、通過域における通過損失は5dB以下であることが望ましい。
【0017】
一方、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子がインダクタで構成される場合、主回路に基づく第一減衰極が主並列共振回路に基づく第二減衰極に対し高域側に位置し、第一減衰極の減衰ピーク幅が第二減衰極の減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成される。通過希望周波数帯の高域側直近に隣接して阻止(あるいは通過抑制)希望周波数帯が存在する場合は、近接周波数帯の切り分けに好適なピーク幅の狭い第一減衰極が、当該高域側に現われるよう直列共振結合素子をインダクタで構成するのが好適であるといえる。
【0018】
なお、第二減衰極の減衰深さを軽減するためには、信号伝送路上にて主回路に対し並列挿入される形で、ダンプ抵抗を設けておくことが望ましい。
【0019】
次に、本発明においては、主並列列共振部において主共振キャパシタに対して直列に、かつ誘電体共振器に対して並列となるように、通過域の高域端側又は低域端側の通過特性を急峻化するための分布定数線路部を設けることができる。これにより、よりシャープな通過特性を有した通過域を形成することができる。
【0020】
基底減衰量調整回路は、減衰調整用キャパシタと直列接続される分布定数線路部を有するものとして構成できる。主回路にこのような分布定数線路を並列接続することで、図3に示す直列共振点と並列共振点との間の傾斜をより急峻化することができる。
【0021】
この場合、主並列共振回路に組み込まれた誘電体共振器として、誘電体筐体表面が、信号伝送路の入力側に導通接続された金属被覆層により覆われたものを使用できる。また、有極型帯域通過フィルタの構成部品が実装されるとともに接地導体箔により被覆された基板の実装面に、金属被覆層を有する誘電体共振器が実装面との間に所定の隙間を生じさせた形で実装することができ、該金属被覆層は減衰調整用キャパシタを介して接地導体箔に導通接続することができる。これにより、金属被覆層と接地導体箔とにより上記分布定数線路部を形成することができ、帯域通過型フィルタの通過特性をさらに急峻化することができる。
【0022】
また、信号伝送路上にて複数の主回路をカスケード接続することができる。主並列共振回路をカスケード接続することで、通過域の端部形状をより急峻化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。図1は、本発明の有極型帯域通過フィルタの回路構成例を示すものである。また、図2は、その通過特性(上)と反射特性(下)との代表的な実測例を、異なる周波数スケールにて示すものである。この有極型帯域通過フィルタ1は、UHFテレビ放送受信用のものであり、図2に示すように、通過域PBの両端に第一減衰極PPと第二減衰極SPとを有する。図1に示すように、該回路は、一端が入力部PT1とされ他端がPT2とされた信号伝送路86と、主回路A、トラップ回路B及び基底減衰量調整回路Cとを備える。
【0024】
主回路Aは、図3に示すように、信号伝送路86上においてインダクタをなす主誘電体共振器CV1と主共振キャパシタVC2とが並列共振結合され、第二減衰極SP(図17)を形成するための並列共振減衰ピークを生じさせる主並列共振部と、当該主並列共振回路と直列共振結合するキャパシタ(直列共振結合素子)C2を有し、第一減衰極PP(図2)に対応した位置(正確には、第一減衰極PPよりも1〜4MHz高域側にシフトした位置である)に直列共振通過ピークを有する主直列共振部とを有する。第二減衰極SPの位置は、トリマコンデンサにて構成された主共振キャパシタVC2の静電容量に応じて可変設定できる。
【0025】
また、トラップ回路Bは、図4に示すように、信号伝送路86から接地側に分岐する形で設けられ、インダクタをなすトラップ用誘電体共振器CV1と並列共振結合キャパシタVC1とを並列共振結合したトラップ用並列共振部と、当該トラップ用並列共振部と直列共振結合する直列共振結合素子をなすキャパシタC1とを有し、主直列共振部の直列共振通過ピークと隣接する位置(正確には、主直列共振部の直列共振点よりも1〜4MHz低域側にシフトした位置である)に第一減衰極PP(図2)を形成するための直列共振減衰ピークを生じさせるものである。第一減衰極PPの位置は、トリマコンデンサにて構成された並列共振結合キャパシタVC1の静電容量に応じて可変設定できる。なお、信号伝送路86上にて主回路Aに対し並列挿入される形で、第二減衰極SPの減衰深さを軽減するためのダンプ抵抗R2が設けられている。
【0026】
基底減衰量調整回路Cは、通過域PBの低域側及び高域側に隣接する阻止域LEB,HEBの基底減衰量を調整するためのものであり、図1に示すように、信号伝送路86から接地側に分岐する形で設けられた減衰調整用キャパシタC3,C4を有する。基底減衰量調整回路Cは、主回路Aの前段側及び後段側にて接地側にそれぞれ分岐する形で設けられた1対の減衰調整用キャパシタC3,C4を有する高低域π形フィルタ回路である。
【0027】
図7に示すように、該有極型帯域通過フィルタ1は、テレビ受信用の屋内ケーブル上に取り付けて使用されるフィルタ内蔵型ケーブルコネクタユニットとして構成され、ケーブル接続用ベース42に、上記回路の各部品を実装した基板70を組み付け、その外側を円筒状のカバー2で覆った構成を有する。該ケーブルコネクタユニットの基本構成は特許文献1等により公知であり、詳細な説明は省略する。本発明の他の回路図と同様、図1の回路図は、後述のフィルタ特性評価用のシミュレーションソフト((株)エム・イー・エル社製の高周波・マイクロ波EDAツール:S−NAP/Pro)上にて作成したものであり、各部品の回路定数は、シミュレーションを行なう上での入力設定値として、図1内に個別の値が示されている。
【0028】
キャパシタ(C:C1,C2,VC1,VC2‥:VCは可変コンデンサ(ここでは、トリマコンデンサ)であることを示す)については、静電容量の値を単位Fにて、そのQ値(対象周波数Fは単位Hz)とともに示している(例えば、「1p」と記載されていれば、静電容量の値が1pFであることを示す)。抵抗(R:R1,‥)については、直流電気抵抗の値を単位Ωにて示している。誘電体共振器(CV:CV1,CV2)については、共振周波数fsの値を単位Hzにて(例えば、「575MEG」と記載されていれば、共振周波数fsが575MHzであることを示す)にて、Q値とともに示している。また、Erは比誘電率である。また、dは、正方形断面を有する誘電体共振器の断面辺長であり(単位:mm)、aは誘電体共振器の円筒空洞の内径である(単位mm)。また、図1には表れないが、インダクタ(L:L1,L2)についてはインダクタンスの値を単位Hにて、分布定数線路部(MSL,MSL1,MSL2)については、線路長(L:La,Lb)を単位mmにて、特性インピーダンスZ(:Za,Zb,‥)の値を単位Ωにて表わしている。また、Aは線路減衰量(単位:dB/m)である。
【0029】
上記本発明の有極型帯域通過フィルタ1において、通過域PBの基本形状を定めるのは主回路A及びトラップ回路Bであり、Q値の大きい誘電体共振器が組み込まれた主並列共振部に、キャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子C2を有する主直列共振部を直結した構造をなす。図3(シミュレーション:通過特性(太線)、反射特性(細線))、以下同じ)に示すように、その通過特性は、高域側阻止域HEBか低域側阻止域HEBの一方をなす第一基底レベルから、直列共振点に由来した極大値に向けて緩やかに増大して直列共振通過ピークを形成した後、第二減衰極SPをなす並列共振点レベルに向けて急峻に減少し、高域側か低域側の他方をなす第二基底レベルに向けてやや緩やかに復帰することにより、上記直列共振通過ピークと対になる並列共振減衰ピークを形成する。そして、その直列共振通過ピークに隣接する位置に直列共振減衰ピークを生じさせる図4のトラップ回路Bを追加することにより、図5(シミュレーション)に示すように、極両側が急峻な減衰特性となるトラップ回路B特有の狭く深い第一減衰極PPが形成される。小電力送信となる選択希望チャンネルの帯域を上記のような通過域PBに合わせ込んだとき、この第一減衰極PPをなす減衰ピークは、該選択希望チャンネルの信号を、当該第一減衰極PP側に隣接する大電力送信チャンネルの信号からピンポイントで切り出しつつ通過させることができる。
【0030】
他方、図1に示すように、有極型帯域通過フィルタ1には、高低域π形フィルタ回路として構成された基底減衰量調整回路Cが設けられている。図6(シミュレーション)に示すように、高低域π形フィルタ回路を追加することにより、減衰調整用キャパシタC3,C4の静電容量設定値に応じて、低域側及び高域側の各阻止域LEB,HEBの基底減衰量を独立かつ容易に調整できる。
【0031】
ここでは、主回路およびトラップ回路の直列共振結合素子がキャパシタC2,C1で構成されており、主回路Aに基づく第一減衰極PPが、主並列共振回路に基づく第二減衰極SPに対し低域側において、減衰ピーク幅が第二減衰極SPの減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成される。例えば、通過域PBの低域側に隣接する大電力送信放送群の信号を、放送受信品質は十分確保され、かつ通過域PBを通すべき小電力送信放送の信号への悪影響は十分軽減されるよう適度に減衰させることを考える。この場合、基底減衰量調整回路Cは、通過域PBの高域側に隣接する阻止域HEBの基底減衰量が低域側に隣接する阻止域LEBの基底減衰量よりも大きくなるように調整される。具体的には、高低域π形フィルタ回路からなる基底減衰量調整回路Cにおいて、主回路Aの前段側(入力側)の減衰調整用キャパシタC3の静電容量設定値により低域側阻止域LEBの基底減衰量を調整できる。また、後段側(出力側)の減衰調整用キャパシタC4の静電容量設定値により高域側阻止域HEBの基底減衰量を調整できる(静電容量の設定値が大きいほど、基底減衰量も大きくなる)。
【0032】
図1の回路においては、第二減衰極SPの減衰深さを軽減するために、信号伝送路86上にて主回路Aに対し並列挿入される形で、ダンプ抵抗R1が挿入されている。この場合、図8に示すように、基底減衰量調整回路Cの前段側の減衰調整用キャパシタC3を、トラップ回路の前段側に移動させることで、フィルタの通過特性及び反射特性をより向上させることができる。なお、この場合の通過特性及び反射特性の実測例を合わせて示している。
【0033】
また、図9は、図8の回路において、主並列共振部において主共振キャパシタVC2に対して直列となり、第一の誘電体共振器CV2に対して並列となるように、通過域PBの高域端側又は低域端側の通過特性を急峻化するための分布定数線路部MSL2を設けた例を示している。これにより、よりシャープな通過特性を有した通過域PBを形成することができる。図9中には、その通過特性(太線)と反射特性(細線)を、分布定数線路部MSL2がある場合(実線)と、同じくない場合(破線)とを、異なる周波数スケールにて対比して示している。
【0034】
図10及び図11は、基板70上における分布定数線路部MSL2の形成例を示すものであり、図11に示すごとく、線路パターンLPを基板70の第一面に形成する一方、図10に示すように、基板70の第二面の対応する位置に面導体MP2を形成することで、分布定数線路部をマイクロストリップラインとして形成している。
【0035】
例えば、図12に示すように、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列(ここでは、U13〜U22ch)の高域側に、それら広域放送チャンネ系列よりも送信電力レベルが小さい地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)が隣接設定されている場合を考える。該地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルのさらに高域側には、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列側よりも広いチャンネル間周波数帯域を隔てた形で(ここでは、U24chを空きとした形で)、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルよりも送信電力レベルが大きい地上波アナログ放送チャンネル系列(U25ch,U35ch)が設定されている。
【0036】
図1(ないし図5)の有極型帯域通過フィルタ1は、その通過域PBを地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの周波数帯と一致するように設定し、低域側阻止域LEBが地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列の周波数帯と一致するように設定し、高側阻止域HEBが地上波アナログ放送チャンネル系列周波数帯と一致するように設定する。これにより、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)の受信信号に対する、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列(U13ch〜U22ch)と地上波アナログ放送チャンネル系列(U25ch,U35ch)の高受信電力がもたらす非線形歪の影響を効果的に抑制でき、該地域放送チャンネルの映像品質を向上することができる。
【0037】
図13は、図9の回路を地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)の低域側直近に隣接する阻止チャンネル(U22ch)の周波数帯内に第一減衰極PPを位置させるように、各回路定数を適正化した例である。デジタル放送は、受信信号のC/N比劣化に伴い、映像品質がある閾値にて急峻に劣化する特性を有しており、映像品質を担保しつつ受信レベルを広帯域に渡って平坦に減衰させる必要がある。一方、アナログ放送は、受信信号レベルの低下に伴う映像品質劣化の影響がデジタル放送と比較してはるかに緩やかであり、通過希望チャンネルの高域側に隣接するチャンネルの減衰をより優先させることが可能である。図13のように設定を行なうことで、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)に対し低域側では、(アナログ放送よりも狭間隔で)隣接するデジタル広域放送チャンネル(U22ch)のみを急峻に減衰させ、そのさらに低域側に連なるデジタル広域放送チャンネル(U13ch〜U21ch)は、視聴に支障のない受信レベルを平坦に確保できていることがわかる。なお、低域側阻止域LEBの減衰レベルは12dB以上18dB以下であり、高域側阻止域HEBの減衰レベルは、16dB以上20dB以下の範囲にて、低域側阻止域LEBの減衰レベルよりも1dB以上大きく設定される。さらに、通過域PBにおける通過損失は5dB以下に設定される。
【0038】
図13の回路構成の有極型帯域通過フィルタを、上記のような地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)及びその周辺の受信に適用した場合の、効果を確認する実験を以下のようにして行なった。図14は、その実験に用いたシステムのブロック図である。まず、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル(U13、18〜22ch)の電波は市販のUHFアンテナを介して受信し、デジタルテレビヘッドエンド及び第一可変減衰器を介して第二ミキサに入力した。また、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)を想定した模擬信号をデジタルテレビ信号ジェネレータ(LG3802)により発生し第二ミキサに入力した。さらに、地上波アナログテレビ放送チャンネル(U25ch、U35ch)を想定した模擬信号を、前者については減衰器(15dB)を介して、後者については直接、それぞれ第一ミキサに入力し、その混合出力を、第二可変減衰器を介して第二ミキサに入力した。各チャンネルの入力信号レベルは図12に示す各値に設定した。
【0039】
そして、第二ミキサの出力を、図13に示す本発明の有極型帯域通過フィルタを設けたケーブルを介し、ホームブースタを経てデジタルシグナルアナライザ(Anritus社製、MS8901A)に入力し、デジタルテレビのU21ch、U22ch(広域放送チャンネル、74dB)及びU23ch(地域放送チャンネル、44dB)の変調エラー率MER(変調方式は64QAM(直交振幅変調))と、受信C/N比とを測定した。なお、比較のため、本発明の有極型帯域通過フィルタに代え、図15に示す通過/反射特性を示す市販のバンドエリミネートフィルタ(BEF)とハイパスフィルタ(HPF)とを用いた場合、及びフィルタを用いなかった場合についても同様の測定を行なった。以上の結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
まず、フィルタを用いなかった(1)について見ると、デジタル地域放送チャンネル(U23ch)の変調エラー率及びC/N比は、デジタル広域放送チャンネルであるU21ch及びU22chと比較して15dB以上の開きがあることがわかる。これは、地域放送チャンネルの信号状態に対して、低域側の複数のデジタル広域放送チャンネルから重畳的に作用する非線形歪の影響がことのほか大きいことを意味している。一般に、C/N比におけるデジタルテレビの受信限界は20.1dBと言われているのに対し、U23chのC/N比は14.9と該限界を大きく割り込んでおり、正常な受信が非常に困難であることがわかる。
【0042】
他方、フィルタを用いた場合は、市販のバンドエリミネートフィルタ(BEF)とハイパスフィルタ(HPF)とを用いた(2)、(3)については、U23chのC/N比が確かに向上してはいるものの、受信限界である20.1dBを超えるには至っていない。これに対し、本発明のフィルタを用いた(2)においては、U23chのC/N比が、受信限界を大きく上回り、問題なく受信できるレベルにまで高められていることがわかる。
【0043】
以下、本発明の有極型帯域通過フィルタの、種々の変形例について説明する。
図16は、図13の回路において、低域側基底減衰量に対し高域側基底減衰量を1dB差まで接近するように、各回路定数を最適化した(特に、減衰調整用キャパシタC4をゼロとした)例である。通過チャンネル(U23ch)の両側の隣接チャンネル(U22ch、U24ch)を阻止可能となっている。
【0044】
また、図17では、トラップ回路には、トラップ用共振キャパシタC1と並列にダンプ抵抗R1を挿入することができる。図18に示すように、ダンプ抵抗R1を接続することにより、その抵抗値に応じて第一減衰極PPの減衰深さを縮小することができる。
【0045】
また、図19に示すように、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子をインダクタL1,L2で構成することもできる。この場合、主回路に基づく第一減衰極PPは、主並列共振回路に基づく第二減衰極SPに対し高域側において、減衰ピーク幅が第二減衰極SPの減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成される。近接周波数帯の切り分けに好適なピーク幅の狭い第一減衰極PPが高域側に現われるので、通過希望周波数帯の高域側直近に隣接して阻止(あるいは通過抑制)希望周波数帯が存在する場合に好適である。
【0046】
次に、図20の回路構成では、信号伝送路86上にて、誘電体共振器CV3、主共振キャパシタVC1及び直列共振結合素子をなすキャパシタC1からなる第一主回路と、同じく主誘電体共振器CV2、主共振キャパシタVC2及び直列共振結合素子をなすキャパシタC2からなる第二主回路とがカスケード接続されている。基底減衰量調整回路Cは、3つの減衰調整用キャパシタC11,C12,C3からなり、このうち減衰調整用キャパシタC11,C12には、これらと各々直列接続される分布定数線路部MSL3及びMSL4が設けられている。また、トラップ回路は、トラップ用共振キャパシタC1、トラップ用誘電体共振器CV1及び並列共振結合キャパシタC4からなる。なお、第二主回路の後段にあるインダクタL1は、キャパシタC2のリード線長に由来した等価インダクタンスであり、そのインダクタL1の後段から第一主回路の前段に戻る形で、高域側の基底減衰阻止域HEBを形成するための並列抵抗R1が設けられている。
【0047】
主並列共振回路に組み込まれる誘電体共振器は、図21Aに示すように、誘電体筐体表面が、各々信号伝送路86の入力側に導通接続された金属被覆層MFにより覆われたものが使用される。また、有極型帯域通過フィルタ1の構成部品が実装されるとともに接地導体箔90により被覆された基板の実装面には、金属被覆層MFを有する誘電体共振器CV2,CV3が、実装面との間に所定の隙間hを生じさせた形で実装されている。そして、金属被覆層MFは減衰調整用キャパシタC12を介して接地導体箔90に導通接続されている。これにより、金属被覆層MFと接地導体箔90とにより分布定数線路部MSL3,MSL4が形成される。なお、図21Bは、図21Aの実装回路の等価回路を示したものである。
【0048】
図22は、その通過特性(上)と反射特性(下)との実測例を、異なる周波数スケールにて示すものである。2つの主回路がカスケード接続され、かつ、上記分定数線路部MSL3及びMSL4を設けたことで、通過域PBの端部形状がより急峻化できていることがわかる。なお、高域側基底減衰量と低域側基底減衰量とは、減衰調整用キャパシタC12の静電容量により調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の有極型帯域通過フィルタの回路構成例を示す図。
【図2】その通過特性(上)と反射特性(下)との代表的な実測例を、異なる周波数スケールにて示す図。
【図3】主回路の通過/反射特性を示すシミュレーション図。
【図4】トラップ回路の通過/反射特性を示すシミュレーション図。
【図5】主回路とトラップ回路とを組み合わせた場合の通過/反射特性を示すシミュレーション図。
【図6】基底減衰量調整回路をさらに追加した場合の通過/反射特性を示すシミュレーション図。
【図7】フィルタ内蔵型ケーブルコネクタユニットとして構成した場合の実例を分解状態で示す斜視図。
【図8】基底減衰量調整回路の前段側の減衰調整用キャパシタを、トラップ回路の前段側に移動させ場合の通過特性及び反射特性の実測例。
【図9】主直列共振部に分布定数線路部MSL2を設けた場合の回路と、その通過/反射特性のシミュレーション結果とを示す図。
【図10】分布定数線路部の形成例を示す基板のパターン図(表面側)。
【図11】分布定数線路部の形成例を示す基板のパターン図(裏面側)。
【図12】地上波テレビ放送のチャンネル割当状況の一例を示す図。
【図13】図9の回路を地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23ch)の低域側直近に隣接する阻止チャンネル(U22ch)の周波数帯内に第一減衰極を位置させるように、各回路定数を適正化した例を示す図。
【図14】実験に用いたシステムのブロック図。
【図15】実験に用いた市販のバンドエリミネートフィルタ(BEF)とハイパスフィルタ(HPF)の特性図。
【図16】図13の回路において、各回路定数を変更することにより、低域側基底減衰量に対し高域側基底減衰量を1dB差まで接近させた例を示す図。
【図17】トラップ回路において、結合キャパシタと並列にダンプ抵抗を挿入した例を示す図。
【図18】その通過/反射特性を示す実測図。
【図19】主直列共振部の直列共振結合素子をインダクタで構成した例を示す図。
【図20】2つの主回路をカスケード接続した構成例を示す図。
【図21A】図20の回路の基板への部品実装状態を示す斜視図。
【図21B】図21Aの等価回路図。
【図22】図20の回路の通過/反射特性を示す実測図。
【符号の説明】
【0050】
1 有極型帯域通過フィルタ
86 信号伝送路
A 主回路
CV1 主誘電体共振器
VC2 共振キャパシタ
C2,L1 直列共振結合素子
R2 ダンプ抵抗
MSL2 分布定数線路部
B トラップ回路
CV1 トラップ用誘電体共振器
C1 トラップ用共振キャパシタ
VC1 並列共振結合キャパシタ
L2 直列インダクタ
R1 ダンプ抵抗
C 基底減衰量調整回路
C3,C4 減衰調整用キャパシタ
MSL3,MSL4 分布定数線路部
PB 通過域
PP 第一減衰極
SP 第二減衰極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通過域の両端に第一減衰極と第二減衰極とを有する有極型帯域通過フィルタであって、
一端が入力部とされ他端が出力部とされた信号伝送路と、
前記信号伝送路上においてインダクタをなす主誘電体共振器と主共振キャパシタとが並列共振結合され、前記第二減衰極を形成するための並列共振減衰ピークを生じさせる主並列共振部と、当該主並列共振回路と直列共振結合するキャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子を有するとともに前記第一減衰極に対応した位置に直列共振通過ピークを有する主直列共振部とを有した主回路と、
前記信号伝送路から接地側に分岐する形で設けられ、インダクタをなすトラップ用誘電体共振器と並列共振結合キャパシタとを並列共振結合したトラップ用並列共振部と、当該トラップ用並列共振部と直列共振結合するキャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子を有するとともに、前記主直列共振部の前記直列共振通過ピークに隣接する位置に前記第一減衰極を形成するための直列共振減衰ピークを生じさせるトラップ回路と、
前記信号伝送路から接地側に分岐する形で設けられた減衰調整用キャパシタを有し、前記通過域の低域側及び高域側に隣接する阻止域の基底減衰量を調整する基底減衰量調整回路とを備えたことを特徴とする有極型帯域通過フィルタ。
【請求項2】
前記基底減衰量調整回路は、前記主回路の前段側及び後段側にて接地側にそれぞれ分岐する形で設けられた1対の減衰調整用キャパシタを有する高低域π形フィルタ回路である請求項1記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項3】
前記主回路及び前記トラップ回路の各前記直列共振結合素子がキャパシタで構成され、前記主回路に基づく前記第一減衰極が、前記主並列共振回路に基づく前記第二減衰極に対し低域側において、減衰ピーク幅が前記第二減衰極の減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成される請求項1又は請求項2に記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項4】
前記基底減衰量調整回路は、通過域の高域側に隣接する阻止域の基底減衰量が低域側に隣接する阻止域の基底減衰量よりも大きくなるように調整するものである請求項3記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項5】
前記トラップ回路において、前記直列共振結合素子と並列にダンプ抵抗が挿入されている請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項6】
地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列の高域側に、それら広域放送チャンネ系列よりも送信電力レベルが小さい地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルが隣接設定されるとともに、該地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルのさらに高域側に、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列側よりも広いチャンネル間周波数帯域を隔てた形で、前記地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルよりも送信電力レベルが大きい地上波アナログ放送チャンネル系列が設定されてなり、
通過域が前記地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの周波数帯と一致するように設定され、低域側阻止域が前記地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列の周波数帯と一致するように設定され、高域側阻止域が前記地上波アナログ放送チャンネル系列周波数帯と一致するように設定されてなる請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項7】
前記地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの低域側直近に隣接するチャンネルの周波数帯内に前記第一減衰極が位置し、同じく高域側直近に隣接するチャンネルの周波数帯内に前記第二減衰極が位置するように、各減衰極の位置が調整されてなる請求項6記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項8】
前記主回路及び前記トラップ回路の各前記直列共振結合素子がインダクタで構成され、前記主回路に基づく前記第一減衰極が前記主並列共振回路に基づく前記第二減衰極に対し高域側に位置し、前記第一減衰極の減衰ピーク幅が前記第二減衰極の減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成される請求項1記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項9】
前記信号伝送路上にて前記主回路に対し並列挿入される形で、前記第二減衰極の減衰深さを軽減するためのダンプ抵抗が設けられてなる請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項10】
前記主並列共振部において前記主共振キャパシタに対して直列に、かつ前記誘電体共振器に対して並列となるように、前記通過域の高域端側又は低域端側の通過特性を急峻化するための分布定数線路部が設けられている請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項11】
前記基底減衰量調整回路は、前記減衰調整用キャパシタと直列接続される分布定数線路部を有する請求項1記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項12】
前記主並列共振回路に組み込まれた前記誘電体共振器は、誘電体筐体表面が、前記信号伝送路の入力側に導通接続された金属被覆層により覆われてなり、
前記有極型帯域通過フィルタの構成部品が実装されるとともに接地導体箔により被覆された基板の実装面に、前記金属被覆層を有する前記誘電体共振器が前記実装面との間に所定の隙間を生じさせた形で実装されてなり、該金属被覆層が前記減衰調整用キャパシタを介して前記接地導体箔に導通接続されてなり、
前記金属被覆層と前記接地導体箔とが前記分布定数線路部を形成してなる請求項11記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項13】
前記信号伝送路上にて、複数の前記主回路がカスケード接続されてなり、
前記基底減衰量調整回路は、前記減衰調整用キャパシタと前記分布定数線路部との組が各前記主並列共振回路に個別に随伴して設けられている請求項12記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項1】
通過域の両端に第一減衰極と第二減衰極とを有する有極型帯域通過フィルタであって、
一端が入力部とされ他端が出力部とされた信号伝送路と、
前記信号伝送路上においてインダクタをなす主誘電体共振器と主共振キャパシタとが並列共振結合され、前記第二減衰極を形成するための並列共振減衰ピークを生じさせる主並列共振部と、当該主並列共振回路と直列共振結合するキャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子を有するとともに前記第一減衰極に対応した位置に直列共振通過ピークを有する主直列共振部とを有した主回路と、
前記信号伝送路から接地側に分岐する形で設けられ、インダクタをなすトラップ用誘電体共振器と並列共振結合キャパシタとを並列共振結合したトラップ用並列共振部と、当該トラップ用並列共振部と直列共振結合するキャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子を有するとともに、前記主直列共振部の前記直列共振通過ピークに隣接する位置に前記第一減衰極を形成するための直列共振減衰ピークを生じさせるトラップ回路と、
前記信号伝送路から接地側に分岐する形で設けられた減衰調整用キャパシタを有し、前記通過域の低域側及び高域側に隣接する阻止域の基底減衰量を調整する基底減衰量調整回路とを備えたことを特徴とする有極型帯域通過フィルタ。
【請求項2】
前記基底減衰量調整回路は、前記主回路の前段側及び後段側にて接地側にそれぞれ分岐する形で設けられた1対の減衰調整用キャパシタを有する高低域π形フィルタ回路である請求項1記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項3】
前記主回路及び前記トラップ回路の各前記直列共振結合素子がキャパシタで構成され、前記主回路に基づく前記第一減衰極が、前記主並列共振回路に基づく前記第二減衰極に対し低域側において、減衰ピーク幅が前記第二減衰極の減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成される請求項1又は請求項2に記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項4】
前記基底減衰量調整回路は、通過域の高域側に隣接する阻止域の基底減衰量が低域側に隣接する阻止域の基底減衰量よりも大きくなるように調整するものである請求項3記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項5】
前記トラップ回路において、前記直列共振結合素子と並列にダンプ抵抗が挿入されている請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項6】
地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列の高域側に、それら広域放送チャンネ系列よりも送信電力レベルが小さい地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルが隣接設定されるとともに、該地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルのさらに高域側に、地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列側よりも広いチャンネル間周波数帯域を隔てた形で、前記地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルよりも送信電力レベルが大きい地上波アナログ放送チャンネル系列が設定されてなり、
通過域が前記地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの周波数帯と一致するように設定され、低域側阻止域が前記地上波デジタルテレビ広域放送チャンネル系列の周波数帯と一致するように設定され、高域側阻止域が前記地上波アナログ放送チャンネル系列周波数帯と一致するように設定されてなる請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項7】
前記地上波デジタルテレビ地域放送チャンネルの低域側直近に隣接するチャンネルの周波数帯内に前記第一減衰極が位置し、同じく高域側直近に隣接するチャンネルの周波数帯内に前記第二減衰極が位置するように、各減衰極の位置が調整されてなる請求項6記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項8】
前記主回路及び前記トラップ回路の各前記直列共振結合素子がインダクタで構成され、前記主回路に基づく前記第一減衰極が前記主並列共振回路に基づく前記第二減衰極に対し高域側に位置し、前記第一減衰極の減衰ピーク幅が前記第二減衰極の減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成される請求項1記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項9】
前記信号伝送路上にて前記主回路に対し並列挿入される形で、前記第二減衰極の減衰深さを軽減するためのダンプ抵抗が設けられてなる請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項10】
前記主並列共振部において前記主共振キャパシタに対して直列に、かつ前記誘電体共振器に対して並列となるように、前記通過域の高域端側又は低域端側の通過特性を急峻化するための分布定数線路部が設けられている請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項11】
前記基底減衰量調整回路は、前記減衰調整用キャパシタと直列接続される分布定数線路部を有する請求項1記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項12】
前記主並列共振回路に組み込まれた前記誘電体共振器は、誘電体筐体表面が、前記信号伝送路の入力側に導通接続された金属被覆層により覆われてなり、
前記有極型帯域通過フィルタの構成部品が実装されるとともに接地導体箔により被覆された基板の実装面に、前記金属被覆層を有する前記誘電体共振器が前記実装面との間に所定の隙間を生じさせた形で実装されてなり、該金属被覆層が前記減衰調整用キャパシタを介して前記接地導体箔に導通接続されてなり、
前記金属被覆層と前記接地導体箔とが前記分布定数線路部を形成してなる請求項11記載の有極型帯域通過フィルタ。
【請求項13】
前記信号伝送路上にて、複数の前記主回路がカスケード接続されてなり、
前記基底減衰量調整回路は、前記減衰調整用キャパシタと前記分布定数線路部との組が各前記主並列共振回路に個別に随伴して設けられている請求項12記載の有極型帯域通過フィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【図22】
【図12】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【図22】
【図12】
【公開番号】特開2008−283478(P2008−283478A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125914(P2007−125914)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(593029112)サイトウ共聴特殊機器株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(593029112)サイトウ共聴特殊機器株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
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