説明

有機−無機複合体及び多孔質体並びにそれらの製造法

【課題】ナノスケールの細孔径を有する空隙が高い割合で形成された多孔質体を製造可能な有機−無機複合体を提供する。
【解決手段】(a)下記一般式(1);
MXm−n (1)
(式(1)中、Rは、H原子若しくはF原子等を示し、Mは特定の族に属する原子等を示し、Xは加水分解性基を示す。)
で表される化合物、(b)下記一般式(2);
CH=C(R)−CO−Y (2)
(式(2)中、Rは、H原子等を示し、Yは特定の1価の有機基を示す。)
で表される化合物、及び、
(c)重合性不飽和結合を2つ以上有する化合物、
を必須原料として用いることにより得られるものであり、(a)成分の加水分解及び脱水縮合により得られる無機系樹脂に、(b)成分及び(c)成分の重合により得られる有機系テンプレート剤を添加して形成され、多孔質体の前駆体として用いられる有機−無機複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機−無機複合体及び多孔質体並びにそれらの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリカ系多孔質体の製造法としては、アルコキシシランの加水分解、及び、脱水縮合により得られるシリカ系樹脂にポリマー、界面活性剤等を添加した組成物を加熱処理することにより多孔質化する方法(例えば特許文献1、2、非特許文献1参照。)、キセロゲル又はエアロゲル等の気体の発泡によって多孔質化する方法、あるいは超臨界法により多孔質化する方法などが知られている。
【特許文献1】特開平11−310411号公報
【特許文献2】特開平11−322992号公報
【非特許文献1】Journal of Non−crystalline Solids 2003, 325, 124−132.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献等に記載のものを始めとする従来の方法によってシリカ系樹脂を多孔質化する場合、多孔質化のための添加材の選択や組成物中の各成分の組み合わせ及び多孔質体を得るための製造条件等を厳しく制御する必要がある。また、製造工程が複雑であったり、大型の装置を必要としたりするなど汎用性の点で問題となることがある。さらには、ポリマーを用いて多孔質化する場合、空隙が比較的大きくなり、その空隙の細孔径にばらつきが生じるなどの問題がある。また、高分子架橋ゲルを用いる場合、空隙率がそれほど高くならず、その上限には限りがある。
【0004】
そこで本発明の目的は、ナノスケールの細孔径を有する空隙が高い割合で形成された多孔質体を製造可能な有機−無機複合体、及びその製造法を提供することにある。本発明の目的はまた、かかる製造法により得られる多孔質体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、次のものに関する。
【0006】
[1](a)下記一般式(1);
MXm−n (1)
で表される化合物、(b)下記一般式(2);
CH=C(R)−CO−Y (2)
で表される化合物、及び、(c)重合性不飽和結合を2つ以上有する化合物を必須原料として用いることにより得られるものであり、(a)成分の加水分解及び脱水縮合により得られる無機系樹脂に、前記(b)成分及び前記(c)成分の重合により得られる有機系テンプレート剤を添加して形成され、多孔質体の前駆体として用いられる有機−無機複合体。
【0007】
ここで、式(1)中、Rは、H原子若しくはF原子、又は、炭素数1〜12の有機基を示し、MはIVa、Vb、Ib、IIb、IIIa、IIIb、Va及びIVb族に属する原子からなる群より選ばれる1種以上の原子であってC原子を除く原子を示し、Xは加水分解性基を示し、mは2以上の整数を示し、nは0〜2の整数を示し、m−n≧1であり、nが2のとき、各Rは互いに同一でも異なっていてもよく、m−n≧2のとき、各Xは互いに同一でも異なっていてもよい。また、式(2)中、Rは、H原子又はメチル基を示し、YはO原子を除くヘテロ原子を有する1価の有機基を示す。
【0008】
[2]一般式(1)で表される化合物において、mが2〜4の整数である、[1]記載の有機−無機複合体。
[3] 一般式(2)で表される化合物において、Yが下記一般式(21)、(22)及び/又は(23)で表される1価の有機基である[1]又は[2]に記載の有機−無機複合体。
−NR10 (21)
−SR10 (22)
−PR10 (23)
ここで、式中、R10はそれぞれ独立にH原子又は炭素数1〜12の有機基を示す。
[4] 一般式(1)で表される化合物において、MがSiであり、mが4である、[1]〜[3]のいずれかに記載の有機−無機複合体。
[5] 一般式(1)で表される化合物において、MがTiであり、mが4である、[1]〜[3]のいずれかに記載の有機−無機複合体。
[6] 一般式(1)で表される化合物において、MがCeであり、mが4である、[1]〜[3]のいずれかに記載の有機−無機複合体。
【0009】
[7] (c)成分が、下記一般式(3);
[CH=C(R)−CO−Y−R (3)
で表される化合物である[1]〜[6]のいずれかに記載の有機−無機複合体。
ここで、式(3)中、RはH原子又はメチル基を示し、Yはヘテロ原子を有する2価の有機基、Rはp価の有機基、pは2以上の整数を示す。
[8] 一般式(3)で表される化合物において、Yが下記一般式(31)、(32)及び/又は(33)で表される2価の有機基である[7]記載の有機−無機複合体。
−NR11− (31)
−S− (32)
−PR11− (33)
ここで、式中、R11はそれぞれ独立にH原子、又は、炭素数1〜12の有機基を示す。
[9] [1]〜[8]のいずれかに記載の有機−無機複合体から有機系テンプレート剤を除去することにより得られる多孔質体。
[10] 細孔径が1〜25nmの細孔を体積比で50〜90%有し、空隙率が65〜95%、比表面積が100m/g以上、嵩密度が0.6以下である[9]記載の多孔質体。
【0010】
[11] (a)下記一般式(1);
MXm−n (1)
で表される化合物の加水分解生成物、(b)下記一般式(2);
CH=C(R)−CO−Y (2)
で表される化合物、(c)重合性不飽和結合を2つ以上有する化合物、(d)重合開始剤並びに重合促進剤、及び、(e)溶媒を含む組成物において、(a)成分の脱水縮合と(b)成分及び(c)成分の重合による有機系テンプレート剤の合成とを同時に行う[1]〜[8]のいずれかに記載の有機−無機複合体の製造法。
【0011】
ここで、式(1)中、Rは、H原子若しくはF原子、又は、炭素数1〜12の有機基を示し、MはIVa、Vb、Ib、IIb、IIIa、IIIb、Va及びIVb族に属する原子からなる群より選ばれる1種以上の原子であってC原子を除く原子を示し、Xは加水分解性基を示し、mは2以上の整数を示し、nは0〜2の整数を示し、m−n≧1であり、nが2のとき、各Rは互いに同一でも異なっていてもよく、m−n≧2のとき、各Xは互いに同一でも異なっていてもよい。また、式(2)中、Rは、H原子又はメチル基を示し、YはO原子を除くヘテロ原子を有する1価の有機基を示す。
【0012】
[12] (a)成分の加水分解が、酸触媒を用いて行われる[11]記載の有機−無機複合体の製造法。
[13] (b)成分の含有割合が(a)成分1モルに対し1〜150モルであり、(c)成分の含有割合が(b)成分1モルに対し0.001〜10モルである[11]又は[12]に記載の有機−無機複合体の製造法。
[14] [11]〜「13」のいずれかに記載の製造法で得られた有機−無機複合体を、30℃〜150℃で乾燥後、さらに有機系テンプレート剤を除去する[9]又は[10]のいずれかに記載の多孔質体の製造法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、ナノスケールの細孔径を有する空隙が高い割合で形成された多孔質体を製造可能な有機−無機複合体及びその製造法、並びにそれから得られる多孔質体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
まず、(a)下記一般式(1);
MXm−n (1)
で表される化合物について説明する。
【0015】
はH原子若しくはF原子、又は炭素数1〜12の有機基を示す。このうち有機基の炭素数は1〜6であることが好ましい。また有機基はアルキル基であることが好ましく、その炭素数は、1〜4であることが好ましい。nは0〜2の整数を示し、nが2の場合は、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0016】
Mとしては、IVa、Vb、Ib、IIb、IIIa、IIIb、Va及びIVb族に属する原子であってC原子を除く原子が挙げられる。それらの中でも、Si、Ti、Ce、Ta、Al、La、Ge、Hf、Zr、Zn、Snの各原子が、本発明の課題をより効果的かつ確実に解決する観点から好ましい。例えば、Si、Ti又はCe原子をMとして用いる場合、一般式(1)で表される化合物を加水分解及び脱水縮合すると、それぞれシロキサン樹脂、チタニア樹脂、セリア樹脂が形成される。
【0017】
またXとしては、アルコキシ基、ハロゲン基、アセトキシ基、イソシアネート基、ヒドロキシル基、アリールオキシ基等の加水分解性基が挙げられる。これらのなかでは、有機−無機複合体を形成するための組成物の液状安定性や被膜塗布特性等を良好にする観点から、アルコキシ基が好ましい。
【0018】
mは2以上の整数を示し、m−n≧1を満足する値である。有機テンプレート構造に追従して無機成分のネットワーク構造を構成する観点からmは2〜4の整数であると好ましい。一般式(1)で表される化合物の分子内にXが複数存在する場合、すなわちm−n≧2の場合、各Xは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0019】
Xがアルコキシ基である化合物のうち、MがSiであるアルコキシシランとしては、例えば、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジオルガノジアルコキシシランが挙げられる。なお、MがSiの場合、mは4である。
【0020】
テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシランが挙げられる。
【0021】
トリアルコキシシランとしては、例えば、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリ−iso−プロポキシシラン、メチルトリ−n−ブトキシシラン、メチルトリ−iso−ブトキシシラン、メチルトリ−tert−ブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−n−プロポキシシラン、エチルトリ−iso−プロポキシシラン、エチルトリ−n−ブトキシシラン、エチルトリ−iso−ブトキシシラン、エチルトリ−tert−ブトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリ−n−プロポキシシラン、n−プロピルトリ−iso−プロポキシシラン、n−プロピルトリ−n−ブトキシシラン、n−プロピルトリ−iso−ブトキシシラン、n−プロピルトリ−tert−ブトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリ−n−プロポキシシラン、iso−プロピルトリ−iso−プロポキシシラン、iso−プロピルトリ−n−ブトキシシラン、iso−プロピルトリ−iso−ブトキシシラン、iso−プロピルトリ−tert−ブトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、n−ブチルトリ−iso−プロポキシシラン、n−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、n−ブチルトリ−iso−ブトキシシラン、n−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、sec−ブチルトリメトキシシラン、sec−ブチルトリエトキシシラン、sec−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、sec−ブチルトリ−iso−プロポキシシラン、sec−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、sec−ブチルトリ−iso−ブトキシシラン、sec−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、t−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、t−ブチルトリ−iso−プロポキシシラン、t−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、t−ブチルトリ−iso−ブトキシシラン、t−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリ−iso−プロポキシシラン、フェニルトリ−n−ブトキシシラン、フェニルトリ−iso−ブトキシシラン、フェニルトリ−tert−ブトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロエチルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0022】
ジオルガノジアルコキシシランとしては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−プロポキシシラン、ジメチルジ−iso−プロポキシシラン、ジメチルジ−n−ブトキシシラン、ジメチルジ−sec−ブトキシシラン、ジメチルジ−tert−ブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジ−n−プロポキシシラン、ジエチルジ−iso−プロポキシシラン、ジエチルジ−n−ブトキシシラン、ジエチルジ−sec−ブトキシシラン、ジエチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−プロピルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−n−プロピルジ−n−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−iso−プロピルジメトキシシラン、ジ−iso−プロピルジエトキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−n−プロポキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−n−ブトキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−ブチルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−n−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジメトキシシラン、ジ−sec−ブチルジエトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジメトキシシラン、ジ−tert−ブチルジエトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジ−n−プロポキシシラン、ジフェニルジ−iso−プロポキシシラン、ジフェニルジ−n−ブトキシシラン、ジフェニルジ−sec−ブトキシシラン、ジフェニルジ−tert−ブトキシシラン、ビス(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメトキシシランが挙げられる。
【0023】
MがSiであるシラン化合物のうち、上記のアルコキシシランの他には、例えば、上記のアルコキシシランのアルコキシ基をハロゲン原子に置き換えたものであるハロゲンシラン類、アルコキシ基をアセトキシ基に置き換えたものであるアセトキシシラン類、アルコキシ基をイソシアネート基に置き換えたものであるイソシアネートシラン類、アルコキシ基をヒドロキシル基に置き換えたものであるシラノール類、アルコキシ基をアリールオキシ基に置き換えたものであるアリールオキシシラン類が挙げられる。
【0024】
アルコキシ基をアリールオキシ基に置き換えたものであるアリールオキシシラン類としてはアリールオキシ基がフェノキシ基であるものが好ましく、例えば、テトラフェノキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリフェノキシシラン、n−プロピルトリフェノキシシラン、iso−プロピルトリフェノキシシラン、n−ブチルトリフェノキシシラン、sec−ブチルトリフェノキシシラン、t−ブチルトリフェノキシシラン、フェニルトリフェノキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、ジエチルジフェノキシシラン、ジ−n−プロピルジフェノキシシラン、ジ−iso−プロピルジフェノキシシラン、ジ−n−ブチルジフェノキシシラン、ジ−sec−ブチルジフェノキシシラン、ジ−tert−ブチルジフェノキシシラン、ジフェニルジフェノキシシランが挙げられる。
【0025】
これらMがSiであるシラン化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0026】
Xがアルコキシ基である化合物のうち、MがTiであるアルコキシチタンとしては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−iso−プロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−iso−ブトキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−tert−ブトキシチタンが挙げられる。なお、MがTiの場合、mは4であることが好ましい。
【0027】
MがTiであるチタン化合物のうち、上記のアルコキシチタンの他には、例えば、上記のアルコキシチタンのアルコキシ基をハロゲン原子に置き換えたものであるハロゲンチタン類、アルコキシ基をアセトキシ基に置き換えたものであるアセトキシチタン類、アルコキシ基をイソシアネート基に置き換えたものであるイソシアネートチタン類、アルコキシ基をヒドロキシル基に置き換えたものであるチタノール類、アルコキシ基をアリールオキシ基に置き換えたものであるアリールオキシチタン類が挙げられる。
【0028】
これらのチタン化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0029】
Xがアルコキシ基である化合物のうち、MがCeであるアルコキシセリウムとしては、例えば、テトラメトキシセリウム、テトラエトキシセリウム、テトラ−iso−プロポキシセリウム、テトラ−n−プロポキシセリウム、テトラ−iso−ブトキシセリウム、テトラ−n−ブトキシセリウム、テトラ−tert−ブトキシセリウムが挙げられる。なお、MがCeの場合、mは4であることが好ましい。
【0030】
MがCeであるセリウム化合物のうち、上記のアルコキシセリウムの他には、例えば、上記のアルコキシセリウムのアルコキシ基をハロゲン原子に置き換えたものであるハロゲンセリウム類、アルコキシ基をアセトキシ基に置き換えたものであるアセトキシセリウム類、アルコキシ基をイソシアネート基に置き換えたものであるイソシアネートセリウム類、アルコキシ基をヒドロキシル基に置き換えたものであるセリアノール類、アルコキシ基をアリールオキシ基に置き換えたものであるアリールオキシセリウム類などが挙げられる。これらのセリウム化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0031】
本発明は、上述のシラン化合物、チタン化合物、セリウム化合物及びその他の上記一般式(1)で表される化合物の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
また、(a)成分の加水分解及び脱水縮合において、反応を促進する触媒として酸性触媒が用いられる。酸性触媒としては、蟻酸、マレイン酸、フマル酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、酪酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、サリチル酸、安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−トルエンスルホン酸、フタル酸、スルホン酸、酒石酸、トリフルオロメタンスルフォン酸等の有機酸、塩酸、燐酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、フッ酸等の無機酸などを用いることができる。
【0033】
触媒の使用量は、(a)成分1モルに対して0.0001〜5モルの範囲が好ましい。触媒の使用量が、(a)成分1モルに対して5モルを超えると、ゲル化を促進する傾向があり、0.0001モルを下回ると、重合が進行しない傾向がある。
【0034】
反応を促進する触媒としては、細孔径などの観点から塩酸が好ましい。
【0035】
また、加水分解及び脱水縮合の反応系中に存在させる水の量も適宜決められるが、過剰に少ない場合や多すぎる場合には、保存安定性の低下等の問題があるので、水の量は(a)成分1モルに対して0.5〜20モルの範囲とすることが好ましい。
【0036】
本発明の有機−無機複合体は、有機系テンプレート剤の原料として(b)成分及び(c)成分を必須成分として含有する。
【0037】
このうち、(b)成分としては、下記一般式(2);
CH=C(R)−CO−Y (2)
で表される化合物が用いられる。上記一般式(2)において、RはH原子又はメチル基を示し、YはO原子を除くヘテロ原子を有する1価の基を示す。Yは、好ましくは下記一般式(21)、(22)及び/又は(23)で表される1価の有機基であり、下記一般式(21)で表される基であるとより好ましい。なお、本明細書において「O原子を除くヘテロ原子」とはN原子、S原子及びP原子を示すが、YがO原子を有することを妨げるものではない。
−NR10 (21)
−SR10 (22)
−PR10 (23)
【0038】
10はそれぞれ独立にH原子又は炭素数1〜12の有機基を示す。
【0039】
(b)成分はヘテロ原子を分子内に有するため、(a)成分との親和性が高く、規則的な構造を形成するのに効果があると推測される。またその重合速度が(a)成分の反応速度とのバランスが取れていて、後にナノスケールの細孔を形成する効果を発揮していると考えられる。
【0040】
(b)成分としては、例えば、アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−メチルプロパンスルホン酸アクリルアミド、N−iso−プロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、グリコール酸アクリルアミド1水和物、アクリルアミドプロピルトリメチルアミノアンモニウムクロライド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N−メチルプロパンスルホン酸メタクリルアミド、N−iso−プロピルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、グリコール酸メタクリルアミド1水和物、メタクリルアミドプロピルトリメチルアミノアンモニウムクロライド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。
【0041】
(b)成分の含有割合は、上記一般式(1)で表される化合物1モルに対して1〜150モルであると好ましく、2〜100モルであるとより好ましく、2〜80モルであると特に好ましい。
【0042】
(c)成分としては、重合性不飽和結合を2つ以上有する化合物であり、これは架橋にも寄与するものである。重合性不飽和結合を有する基としては、例えば、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基が挙げられ、アクリロイル基又はメタクリロイル基が好ましい。(c)成分は、1分子中に、重合性不飽和結合を2〜6つ有することが好ましい。
【0043】
(c)成分としては、例えば、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスメタクリルアミド、N,N−メチルトリアクリルアミド、フェニルグリシジルエーテルアクリレート、ヘキサメチレンジイソシアネート、フェニルグリシジルエーテルアクリレート、トリレンジイソシアネート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ウレタンジアクリレート、ウレタンジメタクリレートが挙げられる。
【0044】
これらの中では、良好な多孔質状態を形成できる点で、複数のアクリロイル基又はメタクリロイル基を結合する構造の中にヘテロ原子を有するものが好ましく、N原子を有するものがより好ましい。より具体的には、下記一般式(3);
[CH=C(R)−CO−Y−]−R (3)
で表される化合物であることが好ましい。一般式(3)において、RはH原子又はメチル基を示し、pは2以上の整数、好ましくは2又は3を示し、Rはp価の有機基を示し、Yはヘテロ原子を有する2価の基を示す。また、1分子内の複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のYは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
pが2である場合、Rは2価の有機基を示すが、アルキレン基であると好ましく、その炭素数が1〜10であるとより好ましく、その炭素数が2〜10であるとさらに好ましい。また、Yは下記一般式(31)、(32)及び/又は(33)で表される2価の有機基であると好ましく、下記一般式(31)で表される2価の有機基であるとより好ましい。
−NR11− (31)
−S− (32)
−PR11− (33)
【0046】
11はそれぞれ独立にH原子又は炭素数1〜12の有機基を示す。
【0047】
一般式(3)で表される化合物としては、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスメタクリルアミドが挙げられる。
【0048】
これらの有機系テンプレート剤の原料(例えば、上記(b)成分としてのN−iso−プロピルアクリルアミドなど)の含有割合が少なすぎると、外部表面まで到達した孔が形成されがたくなると推測される。外部表面まで到達した孔が形成されにくい現象は、パーコレーション転移が誘起される分率まで有機系テンプレート剤(の原料)が添加されていないことに起因すると考えられる。また、有機系テンプレート剤の原料の添加量が多すぎると、有機−無機複合体を焼成した時に、有機系テンプレート剤の気散に伴い発生する応力により、得られる多孔質体の崩壊が生じやすくなると考えられる。
【0049】
また、本発明では、(a)成分から無機系樹脂を合成すると同時に、(b)成分及び(c)成分から高分子を合成することにより、高い空隙率を有する多孔質体が得られると本発明者らは考えている。一方、(a)成分と共に、最初から既に重合してしまった高分子を有機−無機複合体の成分として添加して、その後に(a)成分から無機系樹脂を合成する場合は、本発明による場合ほどの空隙率は得られない傾向にあり、好ましくない。
【0050】
また、有機−無機複合体のハンドリング性及び多孔質体の細孔サイズを1nmオーダーに制御する観点から、(c)成分の含有割合は(b)成分1モルに対して0.001〜10モルであることが好ましく、0.005〜5.0モルであることがより好ましく、0.1〜5.0モルであることが更に好ましい。(c)成分の含有割合が(b)成分1モルに対して0.001モル未満であると、多孔質体の細孔サイズが大きくなりすぎる傾向があり、10モルを超えると有機−無機複合体の安定性等が劣る傾向がある。
【0051】
本発明の有機−無機複合体の製造法は、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を含む組成物において、(a)成分の加水分解及び脱水縮合と、(b)成分及び(c)成分の重合による有形テンプレート剤の合成とを同時に行うものである。あるいは、(a)成分の加水分解生成物の脱水縮合と、(b)成分の重合と、(c)成分の重合と、(b)成分及び(c)成分の重合による有機系テンプレート剤の合成とを同時に行うものである。なお、(b)成分及び(c)成分の重合とは、(b)成分の単重合、(c)成分の単重合、及び(b)成分と(c)成分との共重合のうち、少なくとも1つを含む概念である。これらのうち、少なくとも(b)成分と(c)成分との共重合が行われると好ましい。
【0052】
有機−無機複合体の製造法及びその方法に起因して生成する多孔質体の微細構造は本発明の最も特徴的な点である。有機−無機複合体は、例えば一般式(1)におけるMがSiであって、有機系テンプレート剤の原料がN−iso−プロピルアクリルアミドである場合、シラノールの脱水縮合とN−iso−プロピルアクリルアミドの重合及び架橋とが同時に進行して固化することにより形成される。(a)成分の加水分解性生物の脱水縮合と(b)成分等有機系テンプレート剤の原料の重合とを同時に行うことにより、100nmのオーダーでの(a)成分の縮合生成物(例えばシロキサン樹脂)と、(b)成分(例えばN−iso−プロピルアクリルアミド)及び/又はその重合生成物との複合化が起こると考えられる。その結果、最終的に得られる多孔質体におけるシリカマトリクス側には、多数のナノ孔構造が形成される。これにより、従来よりも遙かに空隙率が大きなシロキサン樹脂構造を得ることができる。また、有機系テンプレート剤の原料であるN−iso−プロピルアクリルアミド等の(b)成分自身は、シラン等の(a)成分との親和性が高い物質であるので、緻密な有機−無機複合体が安定に形成される点が特徴として挙げられる。これにより、(b)成分の分子構造並びにその分子集団の構造が、非常に忠実にシリカマトリクス側へ転写されると推測される。
【0053】
この方法により得られる、本発明の多孔質体は、細孔径が1〜25nmの細孔を体積比で50〜90%有し、空隙率が65〜95%であり、比表面積が100m/g以上であり、嵩密度が0.6以下のものとなる。本発明において、平均細孔径は、BET吸着法により77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、細孔径をBJH法により算出することにより導出される。また同様にして細孔分布を求めることにより、多孔質体における細孔の総体積に対する、細孔径が1〜25nmの細孔の体積比を導出することができる。
【0054】
また、空隙率は窒素の大気圧下での飽和吸着量から算出される。空隙率の算出は、吸着層を形成する窒素の有効重量密度がバルク状態での液体窒素の密度(8.1×10kg/m)と等しいと仮定して行う。窒素のSTP条件下での飽和吸着量をVmax[ccSTP/gsample]とすると、百分率で表した空隙率Φは、下記式(4);
【数1】



で与えられる。ただし、ρは多孔質体の真比重である。
【0055】
比表面積は、窒素によるBET吸着法で導出される。また、嵩密度は(固体の真密度)×(1−空隙率Φ)により導出される。
【0056】
本発明の有機−無機複合体の製造法において、(b)成分及び(c)成分の有機系テンプレート剤の重合を促進するために、(d)重合開始剤及び/又は重合促進剤を用いることが好ましく、重合開始剤及び重合促進剤を併用することがより好ましい。重合開始剤としては、例えば、アゾビス(イソブチロニトリル)、アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、アゾビス[(イミダゾリン−2−イル)プロパン]、アゾビス(ジメチルバレロニトリル)、アゾビス(メトキシジメチルバレロニトリル)、アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過塩素酸カリウム、過硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0057】
また重合促進剤としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルメチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルメチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロピレンジアミンが挙げられる。
【0058】
これら重合開始剤及び重合促進剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。その使用量は、(b)成分の総量に対して、0.01〜10重量%とすることが細孔サイズや有機−無機複合体の安定性の観点から好ましい。
【0059】
本発明の有機−無機複合体の製造法において、組成物が(e)溶媒を含有していてもよい。(e)成分としては、例えば、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0060】
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、iso−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、n−デカノール、sec−ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec−テトラデシルアルコール、sec−ヘプタデシルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコールが挙げられる。
【0061】
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−iso−ブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジエチルケトン、ジ−iso−ブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、ジアセトンアルコール、アセトフェノン、γ−ブチロラクトンが挙げられる。
【0062】
エーテル系溶媒としては、例えば、エチルエーテル、iso−プロピルエーテル、n−ブチルエーテル、n−ヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルエーテル、エチレンオキシド、1,2−プロピレンオキシド、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エトキシトリグリコール、テトラエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランが挙げられる。
【0063】
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸iso−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸ノニル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノプロピルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸i−アミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミルが挙げられる。
【0064】
これらの溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0065】
溶媒の使用量は、組成物中の(a)成分の含有割合が、組成物の総量に対して3〜25重量%となるような量であることが好ましい。溶媒の使用量が少なすぎると、安定性等が劣る傾向があり、多すぎると、最終的に得られる多孔質体について、所望の特性を得ることが困難となる傾向がある。
【0066】
本発明の有機−無機複合体は、好適には、(a)成分の加水分解生成物、(b)成分、(c)成分、(d)成分、及び(e)成分を含む組成物において、(a)成分の脱水縮合と(b)成分及び(c)成分の重合とを同時に行うことで製造することができる。
【0067】
この製造法で得られた有機−無機複合体は、好ましくは、30℃〜150℃で乾燥し、さらに引続き有機系テンプレートを除去することにより本発明の多孔質体とすることができる。
【0068】
除去の方法としては、焼成、薬液による化学処理、超臨界処理、電磁波処理、超音波処理などが挙げられるが、装置及びプロセスの簡便性などの観点から、焼成が一般的である。また2つ以上の方法を組み合わせて使うことも可能である。
【0069】
焼成においては、乾燥工程に引続き400℃以上の温度、好ましくは400〜1200℃、より好ましくは500〜1000℃の温度で焼成することにより本発明の多孔質体とすることができる。焼成はAir、N、Ar、He等の雰囲気下で行うことが好ましい。また、焼成時の加熱時間は1時間〜24時間が好ましく、2時間〜12時間であることがより好ましい。加熱時間が24時間を超えると、多孔質体が破壊される傾向があり好ましくない。また焼成に用いる装置としては、石英チューブ炉、ホットプレート、ラピッドサーマルアニール炉等の加熱処理装置が好ましい。なお、有機系テンプレート剤は、上述の乾燥の段階及び/又は焼成の段階で除去される。
【0070】
上述の本発明の有機−無機複合体及びその製造法によると、サブミクロン以下の細孔径を有する空隙を高い比率で有する多孔質体が得られる。また、乾燥、焼成プロセスでの亀裂の発生を抑えることができ、各種の応用にも充分耐えられる機械的強度を有すると同時に、高い比率で空隙を有する多孔質体が得られる。
【0071】
本発明の有機−無機複合体及び多孔質体は、塗料及び樹脂の低誘電フィラー、保温フィラーを始めとする添加剤、ガラス等の無機材料の添加剤、接合剤、表面処理剤の添加剤等、あるいは、浄水ろ過フィルタ、さらに表面に適当な修飾を施すことによって分析カラム用担持材、ナノケミカルリアクタ、バイオリアクタ用マイクロセル、ドラッグデリバリー用担体、触媒担体、光電変換素子として使用できる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1〜4及び比較例1〜3)
表1に示すTEOS(テトラエトキシシラン;(a)成分)又はTIPT(テトラ−iso−プロポキシチタン;(a)成分)の加水分解を、塩酸(HCl)触媒を用い、室温下(25℃)で1時間行ってゾルを得た。TEOS若しくはTIPT、及びHClの使用量はそれぞれ0.1mol、1mmolとした。
【表1】



【0074】
それとは別に、表1に示すNIPA(N−iso−プロピルアクリルアミド;(b)成分)、HEMA(ヒドロキシエチルメタアクリレート)、又はゼラチンの表1に示す添加量(単位:mol)、及びBIS(N,N’−メチレンビスアクリルアミド;(c)成分)3mmolを水100g中へ磁気攪拌子を用いて1時間ほどかけて溶解させた。ここに、重合促進剤としてN,N,N’,N’−テトラエチルメチレンジアミン(液体)を約700mg加え、さらに重合開始剤として過硫酸アンモニウムの4重量%水溶液を0.5g加えた。得られた水溶液に、上述のゾル又は気相合成シリカを加え、組成物を得た。
【0075】
なお、ゼラチンは、試薬1級(和光純薬工業製)を用いた。また気相合成シリカとしてはレシノール9S102(徳山曹達社製)を用いた。
【0076】
次に、この組成物を室温で1時間かけて強く撹拌することにより、TEOS又はTIPTの加水分解及び脱水縮合、NIPA、HEMA等の重合による有機系テンプレート剤の合成、及びそれらの相互作用による構造形成を並行して進行させた。その後、50℃、90℃での乾燥を経て、空気中1℃/minで600℃まで昇温して有機系テンプレート剤を除去し、多孔質体を得た。
【0077】
得られた多孔質体の平均細孔径、細孔分布、空隙率、比表面積、嵩密度を下記の方法により導出し、併せてTEM観察による形状観察も行った。表2に得られた多孔質体の特性、図1〜3に実施例2,4、比較例3に係る多孔質体の形状を示す。また図4に実施例2における多孔質体の窒素吸着等温線を、図5に細孔分布曲線をそれぞれ示す。
【0078】
【表2】



【0079】
〔平均細孔径、細孔分布〕
BET吸着法により77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、平均細孔径及び細孔分布をBJH法により算出した。また、細孔分布から、細孔径が1〜25nmの細孔の、全細孔体積に対する割合(体積比)を導出した。
【0080】
〔空隙率〕
空隙率を、窒素の大気圧下での飽和吸着量から、以下のようにして算出した。すなわち、吸着層を形成する窒素の有効重量密度がバルク状態での液体窒素の密度(8.1×10kg/m)と等しいと仮定して、窒素のSTP条件下での飽和吸着量をVmax[ccSTP/gsample]として、百分率で表した空隙率Φが、上記式(4)でによって算出された。ただし、ρは多孔質体の真比重である。
【0081】
〔比表面積、嵩密度〕
比表面積は、窒素によるBET吸着法で導出された。また、嵩密度は(固体の真密度)×(1−空隙率Φ)により導出された。
【0082】
HEMAを有機系テンプレート剤の原料に用いた比較例1では、空隙率が小さく、形状も粉体となり、多数の細孔を有するバルク体は得られなかった。また、予めゲル化した有機系テンプレート剤を用いた比較例2の場合、比表面積や空隙率が低く、さらに、気相合成した多孔質体(シリカ)を用いた場合も空隙率が低かった。これに対して、本発明の実施例1〜4の多孔質体は、比表面積が150m/g以上、平均細孔径が1〜25nm、空隙率が65〜95%の全ての条件を満足するものであった。
【0083】
実施例2の多孔質体を撮影したTEM写真である図1では、一つ一つの細孔が微細であり、iso−プロピルアクリルアミドの重合体の集合体のテンプレーティングにより形成されたと思われる塊状ナノ孔、並びに、iso−プロピルアクリルアミドの重合体自身のテンプレーティングにより形成されたと思われる線状ナノ孔が観察された。また、実施例4の多孔質体を撮影したTEM写真である図2でも、1つ1つの孔が微細であり、線状ナノ孔がより顕著に観察された。
【0084】
一方、比較例3の多孔質体を撮影したTEM写真である図3では、1つ1つの細孔が実施例2に係るものよりも大きく、細孔の分散性が低下していることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例2に係る多孔質体のTEM写真である。
【図2】実施例4に係る多孔質体のTEM写真である。
【図3】比較例3に係る多孔質体のTEM写真である。
【図4】実施例2に係る多孔質体の窒素吸着等温線を示すチャートであり、曲線αは脱離曲線、曲線βは吸着曲線である。
【図5】実施例2に係る多孔質体の細孔分布を示すチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(1);
MXm−n (1)
(式(1)中、Rは、H原子若しくはF原子、又は、炭素数1〜12の有機基を示し、MはIVa、Vb、Ib、IIb、IIIa、IIIb、Va及びIVb族に属する原子からなる群より選ばれる1種以上の原子であってC原子を除く原子を示し、Xは加水分解性基を示し、mは2以上の整数を示し、nは0〜2の整数を示し、m−n≧1であり、nが2のとき、各Rは互いに同一でも異なっていてもよく、m−n≧2のとき、各Xは互いに同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物、
(b)下記一般式(2);
CH=C(R)−CO−Y (2)
(式(2)中、Rは、H原子又はメチル基を示し、YはO原子を除くヘテロ原子を有する1価の有機基を示す。)
で表される化合物、及び、
(c)重合性不飽和結合を2つ以上有する化合物、
を必須原料として用いることにより得られるものであり、
前記(a)成分の加水分解及び脱水縮合により得られる無機系樹脂に、前記(b)成分及び前記(c)成分の重合により得られる有機系テンプレート剤を添加して形成され、
多孔質体の前駆体として用いられる有機−無機複合体。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物において、mが2〜4の整数である、請求項1記載の有機−無機複合体。
【請求項3】
前記一般式(2)で表される化合物において、Yが下記一般式(21)、(22)及び/又は(23)で表される1価の有機基である、請求項1又は2に記載の有機−無機複合体。
−NR10 (21)
−SR10 (22)
−PR10 (23)
(式中、R10はそれぞれ独立にH原子又は炭素数1〜12の有機基を示す。)
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物において、MがSiであり、mが4である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機−無機複合体。
【請求項5】
前記一般式(1)で表される化合物において、MがTiであり、mが4である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機−無機複合体。
【請求項6】
前記一般式(1)で表される化合物において、MがCeであり、mが4である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機−無機複合体。
【請求項7】
前記(c)成分が、下記一般式(3);
[CH=C(R)−CO−Y−R (3)
(式(3)中、RはH原子又はメチル基を示し、Yはヘテロ原子を有する2価の有機基、Rはp価の有機基、pは2以上の整数を示す。)
で表される化合物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機−無機複合体。
【請求項8】
前記一般式(3)で表される化合物において、Yが下記一般式(31)、(32)及び/又は(33)で表される2価の有機基である、請求項7記載の有機−無機複合体。
−NR11− (31)
−S− (32)
−PR11− (33)
(式中、R11はそれぞれ独立にH原子又は炭素数1〜12の有機基を示す。)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機−無機複合体から有機系テンプレート剤を除去することにより得られる多孔質体。
【請求項10】
細孔径が1〜25nmの細孔を体積比で50〜90%有し、空隙率が65〜95%、比表面積が100m/g以上、嵩密度が0.6以下である、請求項9記載の多孔質体。
【請求項11】
(a)下記一般式(1);
MXm−n (1)
(式(1)中、Rは、H原子若しくはF原子、又は、炭素数1〜12の有機基を示し、MはIVa、Vb、Ib、IIb、IIIa、IIIb、Va及びIVb族に属する原子からなる群より選ばれる1種以上の原子であってC原子を除く原子を示し、Xは加水分解性基を示し、mは2以上の整数を示し、nは0〜2の整数を示し、m−n≧1であり、nが2のとき、各Rは互いに同一でも異なっていてもよく、m−n≧2のとき、各Xは互いに同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物の加水分解生成物、
(b)下記一般式(2);
CH=C(R)−CO−Y (2)
(式(2)中、Rは、H原子又はメチル基を示し、YはO原子を除くヘテロ原子を有する1価の有機基を示す。)
で表される化合物、
(c)重合性不飽和結合を2つ以上有する化合物、
(d)重合開始剤並びに重合促進剤、及び、
(e)溶媒、
を含む組成物において、前記(a)成分の脱水縮合と前記(b)成分及び前記(c)成分の重合による有機系テンプレート剤の合成とを同時に行う有機−無機複合体の製造法。
【請求項12】
前記(a)成分の加水分解が、酸触媒を用いて行われる、請求項11記載の有機−無機複合体の製造法。
【請求項13】
前記(b)成分の含有割合が前記(a)成分1モルに対し1〜150モルであり、前記(c)成分の含有割合が前記(b)成分1モルに対し0.001〜10モルである、請求項11又は12に記載の有機−無機複合体の製造法。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか一項に記載の製造法で得られた有機−無機複合体を、30℃〜150℃で乾燥後、さらに有機系テンプレート剤を除去する、多孔質体の製造法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−176768(P2006−176768A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342551(P2005−342551)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】