説明

有機りん光発光デバイス

【課題】りん光体では、適切な比率の正孔と電子を発光層中に注入可能なデバイスを、励起子消光を可能にする材料、例えば導電性が低くデバイスの効率を下げる他の特性が低い有機材料を用いて作成することを含む可能性があるという問題があった。
【解決手段】OLEDの発光材料中に電子と正孔を注入する効率を、発光層の片側又は両側に整合層を追加することによって改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、りん光性の有機発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光ダイオード(OLED)は、2つの電極間に少なくとも1つの有機層を有する。OLEDの分野は、通常では、2つの広いカテゴリー、つまり熱的蒸発法によって処理される低分子(低分子量物質)と、溶液処理が可能なポリマー系OLEDとに分けられる。低分子系OLEDは、最適化することで、電荷閉じ込め、電子輸送と正孔輸送並びに励起子再結合(つまり結合した電子−正孔ペア、これが励起子再結合を成り立たせる)のような特定の機能を実行する層を有してよい。低分子系OLEDの任意の層中の再結合電流は、電子と正孔のブロック層の導入によって、層厚の変更によって、そしてドーパント濃度の調節によって制御することができる(B.W. D'Andrade and S.R. Forrest, Adv. Mater. 16, 1585, (2004))。D’Andradeにより記載された技術を用いた低分子デバイスの形成には、製造コストがかかることがある。
【0003】
低分子系OLEDは、幾つかの層を含みうる。例えば、図1を参照すると、OLED100は、基板110、例えば透明層、例えばガラス又はプラスチックを含む。下方電極、例えばアノード120は、基板110によって支持されている。アノード120は、透明材料、例えばインジウム−スズ酸化物(ITO)のような導電性材料から形成される。1種以上の、例えば共役ポリマー層又は低分子層のような有機層は、アノード120上に積み重ねられる。一般に、少なくとも2つの、輸送層及び発光層150のような有機層が存在する。しかしながら、他の有機層を形成させることもできる。幾つかのデバイスにおいて、正孔注入層130と、正孔輸送層140と、発光層150と、電子輸送層160と、電子注入層170とが有機層を構成する。上方電極、例えばカソード180は、該有機層を下方電極と共に交互重ねする。カソード180は、金属、例えば低仕事関数金属、例えばカルシウム、バリウム又はアルミニウム又は塩、例えばフッ化リチウム又はそれらの組合せから形成される。アノード120と、カソード180と、有機層とが発光スタック(light emitting stack)190を形成する。OLEDに発光をもたらすために、発光スタック190両端に電位差を生じさせる。一般に、OLEDは、アノードが正にバイアスされかつカソードが負にバイアスされていれば、順方向にバイアスされる。これにより、アノードでは発光層150へと正孔が向かい、カソードでは発光層150へと電子が向かうこととなる。電子と正孔が結合して、励起子が形成し、それは放射崩壊を介して光を発する。電子と正孔は互いに結合して、発光層の再結合領域において励起子を形成する。
【0004】
溶液処理が可能なポリマー系OLEDは、ポリマー材料を含む溶液を適用し、そして該溶液から溶剤を追い出して、有機層を形成させることで作成できる。溶液処理が可能なポリマー系OLEDには、2つほどの有機層、つまり正孔輸送層及び電子輸送層が含まれてよい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】B.W. D'Andrade and S.R. Forrest, Adv. Mater. 16, 1585, (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
OLEDは、蛍光又はりん光を発することが可能な材料から形成された1つの発光層を有することができる。りん光体は、蛍光体よりも効率的でありうるのは、りん光性材料が一重項と二重項の両方の励起状態から発光を得ることができるためである。しかしながら、りん光体での問題は、適切な比率の正孔と電子を発光層中に注入可能なデバイスを、励起子消光を可能にする材料、例えば導電性が低くデバイスの効率を下げる他の特性が低い有機材料を用いて作成することを含む可能性があることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
幾つかの実施において、本発明は、OLEDの発光材料中に電子と正孔を注入する効率を、発光層の片側又は両側に整合層(matching layer)を追加することによって改善することに関連するものである。整合層は、発光材料のエネルギー準位と同等のエネルギー準位を有する。幾つかの実施において、有機層の表面を整合材料で調整して、発光層への正孔と電子の輸送又は注入の効率を改善することができる。
【0008】
幾つかの実施においては、本発明は、OLEDの効率を、発光層に有機部分を追加することによって改善することに関連するものである。発光層内の有機部分は、整合層のエネルギー準位と同等のエネルギー準位を有する。本願に記載される技術の組合せを用いてOLEDデバイスを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、単独のOLEDピクセルの断面図である
【図2】図2は、整合層を有する単独のOLEDピクセルの断面図である
【図3】図3は、OLED中の材料のエネルギー図である
【図4】図4は、OLED中の材料のエネルギー図である
【図5】図5は、2つのOLEDデバイスそれぞれについての性能グラフである
【発明を実施するための形態】
【0010】
種々の図面中の参照記号は、それらの要素を指示している。そのOLEDデバイス上に示された層は、一定の比例に拡大して描かれていない。
【0011】
本発明は、光電子デバイスに関する。発光ダイオードは、第一の電極と、第一の電極と接続した発光層と、発光層と接続した第二の電極とを有する。発光層は、りん光性有機材料を有する。第一の境界層(interfacial layer)は、発光層と第一の電極との間に配置され、その境界層は約3nm又はそれ未満の厚さを有し、かつ該境界層は、発光層への第一の電荷(first charge)の注入を促す有機材料を含有する。
【0012】
発光ダイオードの実施態様は、以下の特徴を1つも含まないか、1つ又はそれ以上を含む。りん光性有機材料は、HOMOレベルとLUMOレベルを有する。第一の境界層は、りん光性有機材料のHOMOレベル又はLUMOレベルにそれぞれ実質的に等しいHOMOレベル又はLUMOレベルを有することができる。第一の電極は、アノードであってよく、かつ第一の電荷は、正孔であってよい。第一の境界層は、りん光性有機材料のHOMOレベルと実質的に等しいHOMOレベルを有してよい。第一の境界層は、2つ以上の整合層を含んでよく、その際、第一の整合材料はりん光性有機材料のHOMOレベルと同等のHOMOレベルを有し、かつ第二の整合材料は、りん光性有機材料のHOMOレベルとアノードの仕事関数との間のHOMOレベルを有する。第一の境界層は、りん光性有機材料のHOMOレベルの0.2eV以内、例えば0.1eV以内のHOMOレベルを有してよい。第一の電極は、カソードであってよく、かつ第一の電荷は、電子であってよい。第一の境界層は、りん光性有機材料のLUMOレベルと実質的に等しいLUMOレベル又は前記材料の三重項エネルギー準位にほぼ等しいLUMOレベルを有してよい。第一の境界層は、2つ以上の材料を含んでよく、その際、第一の整合材料はりん光性有機材料のLUMOレベルと同等のLUMOレベルを有し、かつ第二の整合材料は、りん光性有機材料のLUMOレベルとカソードの仕事関数との間のLUMOレベルを有する。第一の境界層は、りん光性有機材料のLUMOレベル又は三重項エネルギー準位の0.2eV以内、例えば0.1eV以内のLUMOレベルを有してよい。該ダイオードは、第二の電極と発光層との間に配置された第二の境界層を有してよい。りん光性有機材料は、有機金属化合物であってよい。発光層は、有機金属化合物のHOMOレベルと実質的に等しいHOMOレベルを有する有機部分を含んでよい。第一の整合層は、該有機部分を含んでよい。発光層は、有機金属化合物のLUMOレベル又は三重項エネルギー準位と実質的に等しいLUMOレベルを有する有機部分を含んでよい。第一の境界層は、有機金属化合物を含むか又はそれからなってよい。カソードとアノードとの間の層は、低分子、ポリマー又はそれらの組合せを含んでよい。発光層は、インジウム錯体、ランタノイド錯体、有機三重項発光体(organic triplet emitter)、ポルフィリン又はオスミウム錯体の1種以上を含んでよい。
【0013】
発光ダイオードは、アノードと、アノード上の第一の有機層と、正孔注入層上の第一の境界層と、有機金属りん光性化合物を含む発光層と、発光層上の第二の境界層と、第二の境界層上の第二の有機層と、第二の有機層上のカソードとを含んでよい。第一の有機層は、正孔注入層、正孔輸送層、励起子ブロック層又は電子ブロック層又は電子閉じ込め層であってよい。第一の境界層は、約3nm又はそれ未満の厚さを有してよい。第一の境界層を選択することで、正孔を直接的に有機金属りん光性化合物中に注入することができる。第二の境界層は、約3nm又はそれ未満の厚さを有し、かつ該層は、電子を有機金属りん光性化合物中に直接的に注入可能にしうる。第二の有機層は、電子輸送層、電子注入層、励起子ブロック層又は正孔ブロック層の1つであってよい。
【0014】
発光ダイオードの実施態様は、以下の特徴を1つも含まないか、1つ又はそれ以上を含む。発光層は、調整された表面を有する有機層であってよく、かつ整合材料は、りん光性材料又はりん光性材料中に電子を注入又は輸送する発光層内の材料のLUMOエネルギー準位又は三重項エネルギー準位と同等のLUMOエネルギー準位を有してよい。調整された表面を有する有機層は、正孔輸送層、正孔注入層、励起子ブロック層又は電子ブロック層の1つであってよく、かつ整合材料は、りん光性材料又はりん光性材料中に正孔を注入又は輸送する発光層内の材料のHOMOエネルギー準位と同等のHOMOエネルギー準位を有してよい。整合材料は、有機金属りん光性材料であってよい。
【0015】
発光ダイオードは、アノードと、アノード上の有機層1つ以上と、有機層、例えば有機金属りん光性材料を含む発光層少なくとも1つと、発光層上のカソードとを含んでよい。1つ以上の有機層の少なくとも1つの表面は、整合材料で調整されていて、その結果、有機層の表面は、組成において有機層の中心部に対して変更に導かれ、そうして、その表面は、有機層の中心部と比較して有機金属りん光性材料中への注入について改善された正孔又は電子の注入特性を有する。
【0016】
発光ダイオードの製造方法は、以下の工程を含んでよい。上に電極が形成された基板を提供する。その基板上に、りん光性有機化合物を含む発光層を形成させる。境界層を発光層に隣接して形成させ、その際、境界層は、約3nm又はそれ未満の厚さを有し、かつ該層は、りん光性有機化合物に直接的に正孔又は電子を注入可能な材料を含み、かつ境界層は、発光層中の少なくとも1種の化合物のHOMOレベル、LUMOレベル又は三重項エネルギー準位と同等のHOMOレベル、LUMOレベルを有する。
【0017】
発光ダイオードの製造方法の実施態様は、以下の特徴を1つも含まないか、1つ又はそれ以上を含む。境界層の形成は、化合物を含む溶液を適用し、そしてその化合物の少なくとも一部を溶剤で洗い流し、それにより3nm厚未満の化合物層を残すことを含んでよい。発光層の形成は、有機金属りん光性化合物を含む層を適用することを含んでよく、かつ境界層の形成は、有機金属りん光性化合物の境界層の形成を含んでよい。発光層の形成は、有機金属りん光性化合物と有機部分を含む層を適用することを含み、その際、第一の有機部分は、有機金属りん光性化合物のHOMOレベルと実質的に等しいHOMOレベルを有し、かつ第二の有機部分は、有機金属りん光性化合物のLUMOレベル又は三重項エネルギー準位と実質的に等しいLUMOレベルを有する。境界層は、第一の有機部分又は第二の有機部分の少なくとも1つを含んでよい。境界層の形成は、境界層の蒸着を含んでよい。境界層の形成は、使用される溶剤とオルトゴナルな(orthogonal)溶剤を用いて、境界層に隣接した層を形成することを含んでよい。該発光層は、架橋させることができる。
【0018】
本発明の少なくとも1つの実施態様によれば、図2を参照すると、OLED200は、正孔と電子を発光層150の成分、例えば層中の発光材料又は別の材料中に直接的に注入する材料で、本願に記載されるように製造することができる。OLEDデバイスの形成に使用される材料は、特性、例えば仕事関数、最低非占有分子軌道(LUMO)及び/又は最高占有分子軌道(HOMO)を有し、これらは少なくとも近似的に定量することができる。仕事関数は、電子が材料表面から抜け出しうる前に電子によって獲得されねばならない最低エネルギー量を説明している。LUMOは、電子を含有しない分子の最低エネルギー分子軌道である。その分子が電子を受け入れるべきであれば、それは、おそらくこの軌道でなされる。HOMOは、電子を含有する分子の最高エネルギー分子軌道である。その分子の電子が疎になるべきであれば、おそらくこの軌道で電子が疎になる。
【0019】
発光層150中の発光材料の仕事関数又はエネルギー準位と同等の材料は、電子又は正孔を発光材料中に効率的に注入可能である。幾つかの実施において、発光層150は、りん光性材料、例えば有機金属化合物を、例えば発光材料として含む。発光層150中の成分に整合するエネルギー準位を有する材料を発光層に隣接して配置することで、整合層210、220を形成することができる。代替的に、又は整合層210、220の形成に加えて、整合材料を発光層150中に導入することができる。
【0020】
かかる一種の整合材料は、正孔を発光材料中に注入する。この整合材料は、発光材料と同等のHOMOを有する。本願で使用される、同等、とは、材料が、互いに約0.3eV以内、例えば約0.2eV以内、例えば約0.1eV以内のエネルギー準位を有することを指す。正孔を注入する整合材料を、HOMO整合材料と呼称する。別の種類の注入材料は、電子を発光材料中に注入する。該材料は、発光材料と同等のLUMOを有する。この材料を、LUMO整合材料と呼称する。代替的に、LUMO整合材料は、発光材料の三重項エネルギー準位と同等のLUMOエネルギー準位を有することができる。それというのも、LUMO整合材料は、電子を発光材料の三重項状態に直接的に注入することができるからである。HOMO整合材料とLUMO整合材料とは、非常に薄い層として、発光層と他の有機層又は電極との間に形成させることができ、それらの層を境界層と呼称することができる。
【0021】
HOMO整合材料は、HOMO整合層210を発光層150とアノード120との間に形成することができる。同様に、LUMO材料は、LUMO整合層220を発光層150とカソード180との間に形成させることができる。そして幾つかの実施態様においては、HOMO整合材料及び/又はLUMO整合材料は、発光層150中に導入される。ダイオードが、整合層と整合材料で同時ドープされた発光層との両者を含むのであれば、整合層に使用される材料は、発光層内で使用されるのと同じ材料又は同等のエネルギー特性を有する異なる材料であってよい。
【0022】
整合層、例えばHOMO整合層とLUMO整合層の一方又は両方を含むOLEDにおいて、整合層は非常に薄く作られる。整合層は、約5ナノメートルと等しいか、又はそれ未満であるか、又は更に約3ナノメートル厚未満、例えば約2ナノメートル未満又は1ナノメートル厚未満であってよい。整合層は、単一原子の幅より大きい厚さを有する。デバイスが2つの整合層を有する場合には、2つの整合層を一緒にした全厚さは、約10nmに等しいか又はそれ未満、例えば約6nm未満、約5nm未満、約4nm未満、約3nm未満、又は約2nm未満であってよいが、少なくとも2分子厚が好ましい。それらの層は非常に薄いので、該層はナノスケールの層である。幾つかの実施態様においては、これらの層は、発光層の表面全域に連続しないほど薄く形成されるが、個々の化合物又は部分でさえも、例えば官能基が有機層の表面全域に広がっている。場合によっては、整合層は、有機層に対する表面改質として見なすことができる。整合層は、更に本願に記載するように、別の層の表面に適用した、わずか数分子の整合材料だけを含んでよい。幾つかの実施においては、整合材料は、基板に適用されている有機層と相互作用し、かつ該整合材料は、それが適用される有機層の電子特性を変化させる。
【0023】
幾つかの実施態様において、整合層は、種々の仕事関数又は種々のHOMOエネルギー準位もしくはLUMOエネルギー準位を有する材料の混合物を含む。単独の層内で複数の材料を使用する場合には、これらの材料は、互いに種々のエネルギー準位を有するので、正孔注入又は電子注入は、その層内で段階的又は累進的に生じることができ、そして続いて電荷は、最終的に発光材料中に注入又は輸送される。
【0024】
図3を参照すると、薄い整合層は、発光層のどちらの側に形成することもできる。一例のOLEDについてのエネルギー図300を示すが、その際、その図300では、正孔輸送材料、発光層材料及びカソードの仕事関数を示している。全ての仕事関数/エネルギー準位の数は、近似値であり、そしてこれらは一般に、報告したものと若干量の誤差又は変動を足した又は引いた値を有することが知られていることを留意すべきである。
【0025】
発光層305は、発光材料320、例えば有機金属りん光性材料、つまりメチル置換されたトリス(2−4(4−トリル)フェニルピリジン)イリジウム(Ir(mppy)3)錯体を含む。Ir(mppy)3は、−5.4eVのHOMOエネルギー準位と−2.4eVのLUMOエネルギー準位を有する。ポリ(9,9−ジオクチル−フルオレン−コ−N−(4−ブチルフェニル)ジフェニルアミン)(TFB)の整合層(HOMO整合層360)は、Ir(mppy)3に正孔を注入するのに適しており、約−5.3eVのHOMOエネルギー準位を有し、それはおおよそ、Ir(mppy)3のHOMOエネルギー準位と同じ又は同等である。このように、TFBは、Ir(mppy)3中に直接的に正孔を注入することができる。TFBは、隣接する正孔輸送層370とりん光性材料の仕事関数の間のHOMOエネルギー準位を有する。該正孔輸送層370は、一般に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との組合せ(PEDOT:PSS、HC Starck社からBaytron Pとして入手できる)から形成される。PEDOT:PSSの仕事関数は、−4.9eVである。TFBは、りん光性材料のHOMOレベルとPEDOT:PSSの仕事関数との間の跳躍の橋渡しをし、それによりPEDOT:PSSからIr(mppy)3への正孔の注入はより有利になる。幾つかの実施において、TFBは、正孔輸送層370を調整し、これによりTFB又はPEDOT:PSSの一方の電子的特性が変化し、そうしてTFB調整を伴わないPEDOT:PSS層と比較して良好な発光層中への注入が提供される。
【0026】
2−(4−ビフェニリル−5−(4−t−ブチル−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)の層(LUMO整合層340)は、発光層305のカソード側に形成される。PBDは、ほぼ−2.4eVにLUMOレベルを有し、これは、Ir(mppy)3のそれとほぼ等しく、Ir(mppy)3中に電子を直接的に注入可能である。カソード層350は、フッ化セシウムとアルミニウム(CsF/Al)350とから形成される。カソード層の仕事関数は、Ir(mppy)3とは異なるが、発光層305上に整合層又は境界層を形成するPBD中に電子を注入することができる。PBDは、Ir(mppy)3中に電子を注入する。
【0027】
図4を参照すると、有機部分(この部分は官能基又は全分子を含みうる)は、発光層305と混ざっていてよく、かつ整合層を用いて、発光層中への正孔の注入効率を改善することができる。発光層305は、ホスト材料310、つまりポリ(9−ビニルカルバゾール)(PVK)と、発光材料320、つまり(Ir(mppy)3)と、第一の有機部分330、つまりトリフェニルジアミン(TPD)と、第二の有機部分335、つまりPBDとを含む。PVKのHOMOエネルギー準位とLUMOエネルギー準位は、それぞれ−2.2eVと−5.8eVである。このように、PVKは、大きなバンドギャップを有し、そしてIr(mppy)3りん光性分子の三重項励起状態を閉じ込め、消光を抑えることができる。
【0028】
Ir(mppy)3は、−5.4eVのHOMOエネルギー準位と−2.4eVのLUMOエネルギー準位を有する。TPDは、Ir(mppy)3のHOMOレベルとほぼ同じの約−5.5eVにHOMOレベルを有する。このように、TPDは、Ir(mppy)3中に直接的に正孔を注入するか、又はまず発光層中のTPDに正孔を注入することで、間接的にIr(mppy)3中に正孔を注入することのいずれかが可能である。PBDは、Ir(mppy)3のLUMOレベルとほぼ等しいLUMOレベルを有する。PBDは、前記の薄い整合層としてよりもむしろ、発光層中の一部分として使用される。PBDは、発光層305とカソード350との間のLUMO整合層(又は境界層)としても使用される。カソード350と、正孔輸送層370(PEDOT:PSS)と、HOMO整合層360(TFB)とは、図3に記載されるものと同等である。図3と図4中に記載される材料は、OLED中で使用することが可能な材料の単なる例にすぎない。他の可能な材料は、本願で議論される。ホスト材料310と、発光材料320と、第一の有機部分335と、第二の有機部分335とについて記載された以外の好適な材料も、本願に記載した特性に従って選択することもできる。
【0029】
本願で指摘されるように、発光層は、有機部分で、つまり整合材料で同時ドーピングされていてよい。有機部分が混ざることで、発光層内の再結合領域を増大させることができ、より多くの再結合を惹起し、より多くの光を放射することを可能にする。多くのOLEDにおいて、正孔と電子との結合、そして結合した電子−正孔再結合は、発光層表面の狭い領域で、例えば発光層表面の約10nm内で生ずる。有機部分が発光材料及びホスト材料と混ざっている場合に、その部分は、該層を通じて正孔と電子とを移動させ、これらを発光層に注入することができる。従って、正孔と電子は、発光層の中央部に輸送され、そうして結合と励起子形成が生じうる。このように、発光層中の有機部分は、再結合領域を拡張し、そうしてかかる部分を有さないOLEDデバイス中の他の発光層よりも発光層効率が高まる。
【0030】
幾つかの実施において、第一の電極はアノードとして機能する。アノードは導電層であり、該層は、正孔注入層としてはたらき、かつ約4.5より一般に大きい仕事関数、例えば約4.8〜5.1eVの範囲を有する材料を含有する。一般的なアノード材料は、金属(例えば白金、金、パラジウムなど)、金属酸化物(例えば酸化鉛、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO)など)、グラファイト、ドーピングされた無機半導体(例えばシリコン、ゲルマニウム、ガリウムヒ素など)及びドーピングされた導電性ポリマー(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなど)を含む。
【0031】
第一の電極は、デバイス内で生ずる光の波長に対して透明、半透明又は不透明であってよい。第一の電極の厚さは、約10nm〜約1000nm、例えば約50nm〜約200nm、例えば約100nmであってよい。幾つかの構成において、第一の電極層は、カソードとして機能する。カソードは、導電性層であり、該層は、一般に、電子注入層としてはたらき、かつ低い仕事関数を有する材料を含有する。アノードよりむしろカソードは、例えばトップエミッション型OLEDデバイスの場合には、基板110上に堆積される。
【0032】
カソードとして機能しうる多くの材料が当業者に公知であるが、アルミニウム、インジウム、銀、金、マグネシウム、カルシウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化ナトリウム及びバリウム又はそれらの合金を含む組成物を用いることができる。アルミニウム、アルミニウム合金及びマグネシウムと銀との組合せ又はそれらの合金を用いることもできる。幾つかの実施態様において、カソードは、熱的蒸発法によって、フッ化リチウムと、カルシウムと、アルミニウムとの種々の量での3層様式で作成される。
【0033】
第一の電極層と第二の電極層は、一般的に、薄膜を堆積させるために当該技術分野で知られる任意の技術、例えば真空蒸発、スパッタリング、電子線堆積、プラズマ堆積又は化学蒸着技術を用いて作成することができる。第二の電極の全厚さは、約10ナノメートル〜約1000ナノメートル(nm)、例えば約50nm〜約500nm、例えば約100nm〜約300nmであってよい。
【0034】
1種以上の有機材料を堆積させて、1層以上の有機層の有機スタックを形成させる。有機スタックは、第一の電極と接触している。ここで使用される場合には、有機スタックは、電極と接続されている。記載されたデバイスの層に対して本願で使用される、接続された、という用語は、層が互いに隣接しているか又は互いに近傍にある、例えば2つの接続された層間に1層以上の層があることを説明している。"上"という用語は、直上又はその上位にあることを意味し、必ずしも直接的に接触していることを意味しない。有機スタックは、一般的に、少なくとも正孔注入層/アノード緩衝層(anode buffer layer)("HIL/ABL")及び発光層を含む。第一の電極がアノードである場合には、HIL/ABLは第一の電極上にある。選択的に、第一の電極がカソードである場合には、能動電子層は第一の電極上にあり、そしてHIL/ABLは、発光層上にある。
【0035】
HIL/ABLは、良好な正孔伝導特性を有し、そして効率的に正孔を第一の電極から発光材料に注入するのに使用される。HIL/ABLは、一般的に、ポリマー又は低分子材料から構成される。例えばHIL/ABLは、第三級アミン又はカルバゾール誘導体から、その低分子形又はそのポリマー形の両者で、導電性ポリアニリン("PANI")又はPEDOT:PSSから構成されうる。HIL/ABLは、約5nm〜約1000nmの厚さを有してよく、かつ一般的に、約50〜約250nmである。
【0036】
HIL/ABLの他の例は、任意の低分子など、例えばプラズマ重合された約0.3〜3nm厚のフルオロカーボン膜(CFx)又は約10〜50nm厚の銅フタロシアニン(CuPc)膜を含む。
【0037】
HIL/ABLは、選択的堆積技術又は非選択的堆積技術を用いて形成させることができる。選択的堆積技術の例は、例えばインクジェット印刷、フレキソ印刷及びスクリーン印刷を含む。非選択的堆積技術の例は、例えばスピンコーティング、ディップコーティング、ウェブコーティング及びスプレーコーティングを含む。正孔輸送材料及び/又は緩衝材料は、第一の電極上に堆積して、次いで乾燥させて膜とすることができる。乾燥された膜は、HIL/ABLを表す。HIL/ABL用の他の堆積法は、プラズマ重合(CFx層について)、真空堆積又は気相蒸着(例えばCuPc膜について)を含む。
【0038】
OLEDについては、発光層は、発光を示す少なくとも1種の有機材料を含有する。該ポリマーは、性質として有機的又は有機金属的であってよい。幾つかのデバイスに関して言うと、有機、という用語は、有機金属材料をも含むと解すべきである。これらの材料における発光は、蛍光又はりん光又はその両者の結果として生じうる。発光層中の発光性有機ポリマーは、例えば共役繰り返し単位を有するELポリマー、特に隣接した繰返単位が共役して結合されているELポリマー、例えばポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリチオフェンビニレン又はポリ−p−フェニレンビニレン又はそれらのファミリー、コポリマー、誘導体又はそれらの混合物であってよい。より特定すれば、有機ポリマーは、ポリフルオレン、白色、赤色、青色、黄色又は緑色の光を発するポリ−p−フェニレンビニレンであってよく、該ポリマーは、2位で置換された又は2位、5位で置換されたポリ−p−フェニレンビニレン又はポリスピロポリマーである。
【0039】
これらのポリマーは、有機溶剤、例えばトルエン又はキシレン中で溶媒和されていてよく、かつ該ポリマーは、デバイス上にスピン(スピンコート)されてよいが、他の堆積法、例えば前記の堆積法も可能である。
【0040】
本発明の実施態様によれば、蛍光又はりん光によって発光する小さい有機分子は、発光層中に属する発光材料としてはたらきうる。溶液又は懸濁液として適用されるポリマー性材料とは異なって、低分子発光材料は、有利には、蒸発、昇華又は有機気相堆積法を通じて堆積される。また低分子材料は、溶液法によっても適用することができる。PLED材料及びより小さな有機分子の組合せは、能動電子層としてはたらくことができ、それによりハイブリッドデバイスが形成される。例えば、PLEDは、小さい有機分子と化学的に誘導体化されるか又は小さい有機分子と単純に混ぜて、発光層を形成することができる。エレクトロルミネッセンス低分子材料の例は、キレート、例えばトリス(8−ヒドロキシキノラート)アルミニウム(Alq3)及びトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)、有機材料、例えばアントラセン、ルブレン又はトリアジン又は任意の金属キレート化合物又は該有機材料又は低分子材料の誘導体を含む。
【0041】
発光層は、ホスト材料を有してよい。正孔材料は、主に正孔輸送特性を有する非共役ポリマーである前記のPVKであってよい。ホストは、電子輸送材料、正孔輸送材料又は双極輸送材料であってもよく、高いバンドギャップを有してよく(そのHOMOレベルとLUMOレベルとの間に大きな差を有する)、該材料は、ポリマー、低分子又はポリマーと低分子との混合物であってよい。幾つかの実施態様においては、りん光性化合物は、ホストなくして使用される、つまり発光層はホストを含まない。幾つかの実施態様においては、発光層は、絶縁されたマトリクスである材料、例えばポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)又はポリスチレンスルホネート(PSS)を含む、すなわちホストは輸送特性を有さない。
【0042】
更に、発光層は、電荷輸送が可能な材料を含んでよい。電荷輸送材料は、電荷担体を輸送できるポリマー又は低分子を含む。例えば、有機材料、例えばポリチオフェン、誘導体化されたポリチオフェン、オリゴマー型のポリチオフェン、誘導体化されたオリゴマー型のポリチオフェン、ペンタセン、トリフェニルアミン及びトリフェニルジアミンである。
【0043】
他の有機層は、正孔を発光層中に注入することを支援するために、アノードで励起子消光(例えば電子−正孔ペアの結合による励起子の生成の解離)を減らして、電子輸送より良好な正孔輸送を提供するために、そして電子がHIL/ABLに入り、それを分解するのを遮断するために、正孔輸送層を含んでよい。幾つかの材料は、1つ又は2つの前記の所望の特性を有してよいが、中間層(interlayer)としての材料の効率は、示されたこれらの多くの特性とともに改善されると考えられる。正孔輸送材料の慎重な選択を通じて、効率的な中間層材料を見出すことができる。正孔輸送層は、正孔輸送材料から作成され、該材料は、少なくとも部分的に以下の1種以上の化合物、それらの誘導体、部分などからなるか又はそれらから得ることができる:ポリフルオレン誘導体、ポリ(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)−(1,4−フェニレン((4−s−ブチルフェニル)イミノ)−1,4−フェニレン)及び架橋可能な形を含む誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)の非発光形、トリアリールアミン型の材料(例えばTPD又はα−ナフチルフェニル−ビフェニル(NPB))、チオフェン、オキセタン官能化されたポリマー及び低分子など。本発明の幾つかの実施態様においては、正孔輸送層は、架橋可能な正孔輸送ポリマーを用いて作成される。
【0044】
電子注入層又は電子輸送層は、アルミニウムAlq3、PBD、3,5−ジフェニル−4−ナフチ−1−イル−1,2,3−トリアゾール(TAZ)及び1,3−ビス(N,N−t−ブチル−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(OXD7)の1種以上を有する材料から形成させることができる。
【0045】
ポリマー有機層は、基板に、種々の技術、例えば有機溶液のインクジェット印刷を用いて又はスピンコーティングによって適用することができる。選択的に、低分子材料を、ポリマーの代わりに使用するのであれば、該層は、蒸発、昇華、有機気相堆積によって又は他の堆積技術との組合せにおいて堆積させることができる。基板上に層を堆積させる場合に、該層は、基板の直上であってもよく又は該層と基板とが他の層、例えば以下のポケット層(pocket layer)又は平坦化層(planarization layer)によって隔離されていてよい。適用される有機溶液は、圧力下に流動可能な任意の流動的又は変形可能な材料であってよく、それは、溶液、インク、ペースト、エマルジョン、分散液、フォーム、ゲル、懸濁液などを含むことができる。堆積される小滴の粘度、接触角、増粘、親和性、乾燥、希釈などに影響を及ぼす他の物質が液体に含まれてよく又はそれを補ってもよい。
【0046】
更に、任意の又は全ての層は、架橋されていてよく又は、そうでなければ、後続の層の堆積に望まれる一定の表面特性の安定性及び保持に望ましいように物理的又は化学的に硬化させることもできる。
【0047】
整合層を有するダイオードにおいては、該層は非常に薄い層として形成させることができる。十分に薄い層の形成には種々の方法を利用できる。一つの方法においては、整合層を形成する材料を溶液で基板に適用する。他の層が既に基板に適用されてから、整合材料を有する溶液を適用することができる。該層は、任意の適切な溶液適用法、例えばスピンコーティング又は印刷を用いて形成させることができる。該溶液は、整合材料の他に溶剤を含む。該層を基板に適用した後に、溶液中の溶剤を用いて、殆どの溶液を基板から除去することができる。溶剤は、整合層材料の非常に薄い層以外の全てを除去する。
【0048】
過剰の整合層溶液を基板から除去するのに使用される溶剤が、整合層の下にある任意の層を溶解しうるのであれば、層の均一性と厚さを制御することができない。多くの場合に、適用されてOLEDを形成する多数の有機層は、同じ溶剤中に可溶である。従って、溶剤除去法は、発光層が同じ溶剤中に可溶である場合には、薄い整合層を発光層上に適用するには理想的でないことがある。従って整合層を適用する代替法を使用することができる。整合層は、蒸着又は熱的蒸発によって適用することができる。幾つかの実施において、蒸着を用いて、発光層の両側に整合層を適用する。
【0049】
幾つかの実施において、整合材料は、隣接する有機層、例えば発光層の適用に使用される溶剤とオルトゴナルな溶剤中で適用される。2つの溶剤が互いにオルトゴナルであると、一方の溶剤中に可溶な溶質は、他方の溶剤中に可溶ではない。オルトゴナルな溶剤中で適用された層を用いると、後続の層のすぐ下に適用された層の解離が抑えられる。例えば、発光層は、発光材料を溶解するのに使用されるトルエン又は他の有機溶剤から形成でき、そして整合層は、水溶性又はメタノール可溶性有機材料であってよい。後続の層、例えば整合層(該層は水溶液又はメタノール溶液から、存在する層上、例えばトルエンベースの溶液から形成された発光層上に形成される)のキャスティングは、存在する層を溶解しない。幾つかの実施においては、オルトゴナルな材料中に可溶な材料を用いることが可能でなければ、下方の有機層、例えば発光層を架橋させて、後続で適用される層による層の解離を抑える。
【0050】
本願で指摘されるように、非常に薄い層の形成方法は、既に存在する層の表面を、そこに層を形成する代わりに改質することとして考慮することができる。存在する層の表面を、例えば整合層をその表面中に混ぜるか又は存在する層中の材料と整合材料との間での化学反応によって変化させることができる。表面調整により、存在する層の表面は、その組成において、層の他の部分、例えば層の中心領域又は非改質表面と異なることとなる。例えばTFBをPEDOT:PSSの層上位に適用することは、TFBの層を単に追加するか又はPEDOT:PSSとTFBとを混合することよりむしろ、PEDOT:PSS層の表面の状態を単に変化させるに過ぎない。表面調整は、PEDOT:PSSの電子的特性を変化させることができ、こうして、正孔の段階的輸送(例えば正孔が最終的に発光材料中に注入されて励起子が形成するまで、同等のHOMOエネルギー準位を有する材料間で輸送される)を可能にする電子的特性を有するアノードが作成される。他の表面改質は、他の層及び他の材料で実施することができる。例えば、発光層の表面をPBDで改質させることができる。
【実施例】
【0051】
図5を参照すると、りん光性発光化合物を有する発光デバイスは整合層を伴って、そして伴わずに形成される。対照デバイス430(整合層を伴わない)は、ITOのアノードと、PEDOT:PSSの正孔輸送層と、発光層と、CsF/Alのカソードとで形成される。発光層は、61%のPVKと、24%のPBDと、9%のTPDと、6%のIr(mppy)3とを含む。整合層デバイス440においては、整合層を形成することで、正孔と電子は直接的にIr(mppy)3に注入される。整合層デバイス440は、対照デバイスと同じ層と寸法で形成されるが、TBFの層とPBDの層も含む。TFBの層は、Ir(mppy)3と同等のHOMOエネルギー準位を有し、該層は、発光層とPEDOT:PSSの正孔輸送層との間にある。PBDの層は、Ir(mppy)3と同等のLUMOレベルを有し、該層は、発光層とカソードとの間にある。整合層デバイス440は、対照デバイス430より高められた外部量子効率と電力効率を有する。グラフ430は、電流密度(mA/cm2)と発光効率(Cd/A)を比較し、グラフ412は、電流密度(mA/cm2)と発光効率又は電力変換効率(lm/W)を比較している。グラフ410とグラフ412は、対照デバイス430のピーク発光効率電力(peak luminance efficacy power)を29lum/ワットとして示しており、発光効率は40cd/Aに達する。整合層デバイス440は、約50lm/Wのピーク発光効率を有し、発光効率は約55cd/Aに達する。
【0052】
理想的には、電極の仕事関数は、発光材料のHOMOレベルとLUMOレベルに整合させたい。理想的な電極と発光材料の組合せは共通していないので、正孔と電子を発光材料に十分に伝達することを抑える材料間にエネルギー差が存在しうる。このエネルギー障壁は、発光を減退させ、デバイスの効率を下げることがある。デバイスの有機層に整合層及び/又は有機部分を追加することで、ダイオードの全体の厚さとダイオードの駆動に必要な電圧を著しく高めることなく、正孔と電子の直接的な注入を可能にすることができる。デバイス効率を改善するための更なる解決策は、正孔又は電子の注入材料、例えば10nm又はそれより厚い層をデバイスに追加することを含んでよい。そのような解決策は、構造を複雑にし、デバイスの駆動電圧を高めて、それによりデバイス効率を低下させることがある。高い電力効率のための一つのパラメータは、低い電圧駆動であり、これは本願に記載される構造で達成することができる。すなわち、電子と正孔を注入する超薄層(整合層)の導入又は発光層のカソード側とアノード側での境界の調整は、高い効率のデバイスを形成しうる。
【0053】
発光層中への分子の導入を、整合層と同じ材料又は整合材料と同等のエネルギー準位を有する有機材料のいずれかから形成させると、発光層内の再結合領域が拡張しうる。発光層内に整合材料が存在しないと、りん光性材料が正孔と電子を輸送する。更に、該りん光性材料は、励起子の形成を促進する。正孔輸送と電子輸送を発光材料中の整合材料にシフトさせることによって、電荷輸送を励起子形成と切り離すことができる。りん光性材料は、発光層中にも整合材料が存在するのであれば、励起子形成と、正孔−電子ペアが結合して励起子が生成する再結合とに専ら向けられうる。りん光性材料のより効率的な使用には、デバイス全体に殆ど電圧印加が必要ないことがある。また、りん光性材料が正孔と電子の輸送を担う慣例のデバイスにおいては、発光層の表面で、例えば表面の最第一のの10nm内で励起子の形成が生ずる見込みが高いことがある。再結合領域の拡張によって、発光層全体にわたって励起子の形成が可能となる。
【0054】
整合層と同じ材料から形成される発光層又は整合材料と同等のエネルギー準位を有する発光層中に分子を導入すると、発光層内の再結合領域が拡張されるだけでなく、デバイスの寿命も延長させることができる。発光層内に整合材料が存在しないと、りん光性材料が正孔と電子の輸送機能の殆どを行う。更に、りん光性材料は、励起子の形成のための位置である。正孔輸送と電子輸送の一部を発光材料中の整合材料にシフトさせることによって、電荷輸送を励起子形成と切り離すことができる。このように、りん光性デバイスの寿命を高めることができる。
【0055】
更に、特定量の正孔と電子の注入材料を発光層内で使用することによって、発光層内の電荷バランスを最適化することができる。整合層を発光層中に導入することで、発光層内の電荷バランスを制御することもできる。例えば、発光層が、正孔支配的である場合に、電子を注入する整合層の追加は、発光層中の電子量を高めることができる。該デバイスの駆動に殆ど電荷が必要とされえないのは、正孔と電子の輸送が最適化されているからである。発光層内での最適化された電荷バランスは、デバイスの寿命を高めることができる。薄い整合層の形成用のLUMO材料又はHOMO材料について材料を選択するにあたって、該材料のエネルギー準位は、高い電力効率を有するデバイスを形成するための材料の輸送特性よりも重要となることがある。
【0056】
本発明の幾つかの実施態様を記載した。それにも拘わらず、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な変更がなされてよいと解される。例えば、本願に記載した技術は、低分子OLED、溶液処理が可能なポリマー系OLED又はその2つのハイブリッドであるOLEDにも適用することができる。整合層は、励起子遮断特性又は電子遮断特性を有してよい。代替的に又は加えて、該デバイスは、励起子ブロック層及び/又は電子ブロック層を含んでよい。従って、他の実施態様は、特許請求の範囲の範囲内である。
【符号の説明】
【0057】
100、200 OLED、 110 基板、 120 アノード、 130、370 正孔注入層、 140 正孔輸送層、 150、305 発光層、 160 電子輸送層、 170 電子注入層、 180 カソード、 190 発光スタック、 210、220 整合層、 300 エネルギー図、 320 発光材料、 340、380 LUMO整合層、 350 カソード層、 360 HOMO整合層、 410、412 グラフ、 430 対照デバイス、 440 整合層デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光ダイオードであって、
アノードと、該アノード上の1層又はそれ以上の有機層と、カソードとを有し、
前記1層又はそれ以上の有機層は、発光層を含み、その際、該発光層は、有機金属りん光性材料を含み、
前記カソードは、前記発光層上にあり、
前記1層又はそれ以上の有機層の少なくとも1層の表面は、整合材料で調整されており、これにより、該有機層の表面は、該表面が該有機層の中心部と比較して前記有機金属りん光性材料中への注入について改善された正孔又は電子の注入特性を有するように、組成において該有機層の中心部とは変化している、
ことを特徴とする、発光ダイオード。
【請求項2】
請求項1記載の発光ダイオードであって、
前記発光層が前記調整された表面を有する有機層であり、かつ
前記整合材料が、前記りん光性材料のLUMOエネルギー準位又は三重項エネルギー準位と同等のLUMOエネルギー準位、又は、前記りん光性材料中に電子を注入又は輸送する前記発光層内の材料の、LUMOエネルギー準位又は三重項エネルギー準位と同等のLUMOエネルギー準位を有する
発光ダイオード。
【請求項3】
請求項1又は2記載の発光ダイオードであって、
前記調整された表面を有する有機層は、正孔輸送層、正孔注入層、励起子ブロック層又は電子ブロック層又は電子閉じ込め層のいずれか1つであり、かつ
前記整合材料が、前記りん光性材料のLUMOエネルギー準位又は三重項エネルギー準位と同等のLUMOエネルギー準位、又は、前記りん光性材料中に正孔を注入又は輸送する発光層内の材料の、HOMOエネルギー準位と同等のHOMOエネルギー準位を有する
発光ダイオード。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の発光ダイオードであって、前記整合材料が、有機金属りん光性材料である発光ダイオード。
【請求項5】
請求項1記載の発光ダイオードであって、前記有機層がPEDOT:PSSの層であり、前記整合材料がポリ(9,9−ジオクチル−フルオレン−コ−N−(4−ブチルフェニル)ジフェニルアミン)である発光ダイオード。
【請求項6】
請求項2記載の発光ダイオードであって、前記整合材料が2−(4−ビフェニリル−5−(4−t−ブチル−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾールである発光ダイオード。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の発光ダイオードであって、前記有機層が材料を含み、前記整合材料を前記有機層の表面の前記材料と混合することにより前記有機層が調整されている発光ダイオード。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか1項記載の発光ダイオードであって、前記有機層が材料を含み、前記有機層中の前記材料と前記整合材料との化学反応により前記有機層が調整されている発光ダイオード。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の発光ダイオードであって、前記発光層が蛍光性材料を更に含む発光ダイオード。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載の発光ダイオードであって、少なくともいずれか1つの層が架橋されているか、または、そうでなければ物理的又は化学的に硬化されている発光ダイオード。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載の発光ダイオードであって、前記発光層がイリジウム錯体、ランタノイド錯体、有機三重項発光体、ポルフィリン又はオスミウム錯体の1つ又はそれ以上を含む発光ダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−191234(P2012−191234A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−129678(P2012−129678)
【出願日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【分割の表示】特願2006−263189(P2006−263189)の分割
【原出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(599133716)オスラム オプト セミコンダクターズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (586)
【氏名又は名称原語表記】Osram Opto Semiconductors GmbH
【住所又は居所原語表記】Leibnizstrasse 4, D−93055 Regensburg, Germany
【Fターム(参考)】