説明

有機エレクトロルミネセンス素子及びその製造方法、並びに、有機エレクトロルミネセンス表示装置

【課題】 発光効率に優れた有機エレクトロルミネセンス素子及びその製造方法、並びに、有機エレクトロルミネセンス表示装置を提供する。
【解決手段】 第1電極と、発光層を含む有機層と、透光性の第2電極とを必須とし、基板上にこの順に積層されてなる有機エレクトロルミネセンス素子であって、上記第2電極は、金属酸化物からなる透明電極を含んで構成されるものであり、上記透明電極は、スパッタ法やイオンプレーディング法による有機層側の電極形成時に酸素を実質的に導入しない方法等により、有機層側に抵抗率が相対的に高い部分を形成した有機エレクトロルミネセンス素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンス素子及びその製造方法、並びに、有機エレクトロルミネセンス表示装置に関する。より詳しくは、トップエミッション型電界発光素子として好適な有機エレクトロルミネセンス素子及びその製造方法、並びに、有機エレクトロルミネセンス表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネセンス(Electroluminescence;以下、「EL」ともいう)素子は、少なくとも一方が透光性を有する一対の電極間に、有機化合物からなる発光層、及び、必要に応じてホ−ル注入輸送層、電子注入輸送層等を挟んだ構造を有するものである。このような有機EL素子は、低電圧駆動、高輝度の発光が可能であることから、その研究・開発が盛んに行われている。
【0003】
有機EL素子を用いた表示装置には、素子の駆動方法の違いにより、単純マトリクス方式とアクティブマトリクス方式とがある。単純マトリクス方式は、デューティー比の増加に応じて、各画素の瞬間発光輝度を高くする必要があるため、大型のパネルでは消費電力の増大を招いてしまう。このため、特に大型のパネルでは、アクティブマトリクス方式が主流になりつつある。
【0004】
アクティブマトリクス方式は、マトリクス状に配置された各画素に設けられた薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor;以下、「TFT」ともいう)を制御信号でON、OFFすることにより、有機EL素子の発光状態を制御し、画像を表示する方式である。しかしながら、アクティブマトリクス方式に必須のTFTは、光を透過しないポリシリコン、アモルファスシリコン等を用いて形成され、また、配線等も光を透過しない金属で形成されるため、従来の基板側から発光を取り出す方式(ボトムエミッション方式)では、画素面積に対する発光面積の割合(開口率)が小さくなってしまう。とりわけ、画素毎の表示性能のばらつきを抑え、有機EL材料の劣化によるパネル表示輝度の変化をより少なくするために、有機EL素子を用いた表示パネルに適しているとされる電流駆動方式を採用した場合には、画素毎のトランジスタの数が4つ程度必要となり、より単純だが画素毎の表示性能のばらつき等で劣る電圧駆動方式において必要なトランジスタの数(2つ)の倍になるため、開口率が更に小さくなってしまう。
【0005】
これを解決する技術として、基板と反対の側から発光を取り出す方式(トップエミッション方式)が考案されている。トップエミッション方式では、上部の電極を透光性の材料で形成する必要があるが、通常では、インジウム錫酸化物(Tin−doped Indium Oxide;以下、「ITO」ともいう)やインジウム亜鉛酸化物(Zinc−doped Indium Oxide;以下、「IZO」ともいう)等が用いられる。ITO膜やIZO膜の形成には、スパッタ法やイオンプレーティング法が用いられるのが一般的である。しかしながら、これらの方法は、比較的高エネルギーの粒子を発生させるため、先に形成した有機層に損傷を与え、素子特性を劣化させてしまう。
【0006】
これに対し、透明導電膜形成過程における有機層等のダメージを防ぐ技術として、陰極を電子注入電極層と非晶質透明導電膜との積層構造とした有機EL素子(例えば、特許文献1参照。)や、透明導電膜の成膜の初期には、スパッタリングに要する電力を低く設定し、成膜の進行に応じて該電力を高く設定する有機EL素子の製造方法(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。しかしながら、この技術によっても、有機EL素子の特性劣化を充分に防止することは困難である。その原因としては、スパッタ法やイオンプレーティング法で透明陰極(透明導電膜)の形成を行う場合、アルゴン(Ar)と酸素(O)との混合ガスを用いてプラズマを発生させるが、このとき発生するプラズマ中の活性な酸素原子による有機層の酸化が考えられる。従って、透明導電膜形成過程における有機層の酸化を効果的に低減し、これにより、素子の発光輝度を向上させるという点において未だ工夫の余地があった。
【0007】
なお、有機層の劣化防止に関しては、有機EL発光層(有機層)と、上部電極として機能する低抵抗透明酸化物の層と、高抵抗透明酸化物の層とを含む有機EL発光素子の構成が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、この構成は、上部電極からの酸素や水分等の浸入による有機EL発光層の劣化防止を目的とするものであり、特許文献3には、低抵抗酸化物層の全面を覆って高抵抗透明酸化物層が形成され、透明性が高い高抵抗透明酸化物層により透明酸化物層の膜厚を大きくして酸素や水分の侵入を防ぐことが記載されている。このため、透明導電膜形成過程における有機層の酸化による素子特性の劣化については、特に考慮されておらず、特許文献3において、低抵抗酸化物層は、酸素分圧が全圧の5%以下の雰囲気下で形成され、高抵抗酸化物層は、酸素分圧が全圧の20〜60%の雰囲気下で形成されることが記載されているが、低抵抗酸化物層の形成時に分圧が低いものの酸素が導入されている。従って、先に形成した有機層の酸化は避けられず、透明導電膜形成過程における有機層の酸化を充分に低減したものではなかった。
【0008】
また、抵抗率とホール注入特性という2つの特性を両立させた透明電極の構成に関し、抵抗率が有機物層(有機層)と接する面から他面へ向かって徐々に低くなるように形成されてなる透明電極の構成が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。特許文献4では、「アルゴンガスに対する酸素ガスの混合比率を低くすると透明電極の抵抗率を下げることができ、アルゴンガスに対する酸素ガスの混合比率を高くすると、ホール注入効率を向上させ得ることが知られている」との記載があり、透明電極の形成に際し、有機物層と接する面の近傍領域においては、ホール注入効率を高めるため、酸素ガスの比率が高い条件が適用されており、有機物層と接する面の他面側においては、抵抗率を下げるため、酸素ガスの比率が低い条件が適用されている。従って、この技術も透明導電膜形成過程における有機層の酸化を低減することを目的とするものではなかった。
【特許文献1】特開平10−162959号公報(第1、10頁、第1図)
【特許文献2】特開2001−85163号公報(第1、7頁、第7図)
【特許文献3】特開2004−31102号公報(第2、3、6、11頁、第2図)
【特許文献4】特開2003−297585号公報(第1、2、7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、発光効率に優れた有機エレクトロルミネセンス素子及びその製造方法、並びに、有機エレクトロルミネセンス表示装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、第1電極と、発光層を含む有機層と、透光性の第2電極とを必須とし、基板上にこの順に積層されてなる有機エレクトロルミネセンス(EL)素子について種々検討したところ、第2電極を構成する金属酸化物からなる透明電極の形成過程に着目した。そして、スパッタ法やイオンプレーディング法にてこの電極を形成する際、発生したプラズマ中の活性な酸素原子により、発光層が損傷を受けることを見いだした。そこで、実質的に酸素を導入しない雰囲気下で透明電極の有機層側を形成し、透明電極の有機層側に抵抗率が相対的に高い部分を設けることにより、発光層の酸化を防ぐことができ、有機EL素子の発光効率を向上させることができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、第1電極と、発光層を含む有機層と、透光性の第2電極とを必須とし、基板上にこの順に積層されてなる有機エレクトロルミネセンス素子であって、上記第2電極は、金属酸化物からなる透明電極を含んで構成されるものであり、上記透明電極は、有機層側に抵抗率が相対的に高い部分を有し、上記抵抗率が相対的に高い部分は、抵抗率が相対的に低い部分よりも酸素空孔を多く含むものである有機エレクトロルミネセンス素子である。
本発明はまた、第1電極と、発光層を含む有機層と、透光性の第2電極とを必須とし、基板上にこの順に積層されてなる有機エレクトロルミネセンス素子であって、上記第2電極は、金属酸化物からなる透明電極を含んで構成されるものであり、上記透明電極は、有機層側に抵抗率が相対的に高い部分を有し、上記抵抗率が相対的に高い部分は、酸素を実質的に導入しない条件で形成されたものであり、かつ抵抗率が相対的に低い部分は、酸素を導入した条件で形成されたものである有機エレクトロルミネセンス素子でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
本発明の有機エレクトロルミネセンス(EL)素子は、第1電極と、発光層を含む有機層と、透光性の第2電極とを必須とし、基板上にこの順に積層されてなるものである。上記第1電極は、有機EL素子の陽極として機能するものであることが好ましく、第2電極は、陰極として機能するものであることが好ましい。上記発光層とは、第1電極と第2電極との間に電界を印加することにより、陽極から注入された正孔と、陰極から注入された電子との再結合によって放出されたエネルギーを発光に利用することができる材料(発光材料)を含んで構成される層のことである。発光層は、1層からなる単層構造を有していてもよく、2層以上からなる積層構造を有していてもよい。また、上記有機層は、少なくとも1層の発光層を含むものであれば特に限定されないが、更に正孔注入層等を含むものであることが好ましい。上記基板としては特に限定されないが、ガラス基板が好ましい。本発明の有機EL素子の好ましい形態としては、第1電極と、発光層及び正孔注入層を含む有機層と、透光性の第2電極とを必須とし、基板上にこの順に積層されてなる形態等が挙げられる。
本発明の有機EL素子は、第2電極が透光性を有することから、第2電極から発光を取り出すことができる。このような有機EL素子の発光を取り出す方式としては、第1、2電極の両方から発光を取り出す方式(デュアルエミッション方式)、第2電極のみから発光を取り出す方式(トップエミッション方式)が挙げられ、中でもトップエミッション方式が好ましい。
本発明の有機エレクトロルミネセンス素子は、このような構成要素を必須として構成されるものである限り、その他の構成要素を含んでいても含んでいなくてもよく、特に限定されるものではない。
【0013】
上記第2電極は、金属酸化物からなる透明電極を含んで構成されるものである。上記金属酸化物としては、インジウム亜鉛酸化物(亜鉛をドープした酸化インジウム)、ガリウムをドープした酸化亜鉛、アルミニウムをドープした酸化亜鉛やこれに類する化合物等が挙げられる。透明電極の形成方法としては、スパッタ法、イオンプレーティング法、化学的気相成長(Chemical Vapor Deposition;以下、「CVD」ともいう)法、蒸着法等が挙げられ、中でも、スパッタ法、イオンプレーティング法が好ましい。
【0014】
上記透明電極は、有機層側に抵抗率が相対的に高い部分を有するものである。すなわち、本発明においては、透明電極の有機層側の少なくとも一部に、透明電極の他の部分よりも抵抗率が相対的に高い部分が形成される。好ましくは、透明電極のうち、有機層に近い側(有機層側の界面全体)が、抵抗率が相対的に高い部分によって構成され、有機層から遠い側が、抵抗率が相対的に低い部分によって構成される。抵抗率が相対的に高い部分の25℃での抵抗率は、下限が1×10−3Ω・cm、上限が1×10−2Ω・cmであることが好ましく、抵抗率が相対的に低い部分の25℃での抵抗率は、下限が1×10−4Ω・cm、上限が1×10−3Ω・cmであることが好ましい。また、透明電極の全体としての抵抗率は、25℃で上限が1×10−3Ω・cmであることが好ましい。なお、抵抗率が相対的に高い部分と低い部分とでは、ホスト金属が同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0015】
本発明の形態としては、(1)上記抵抗率が相対的に高い部分は、抵抗率が相対的に低い部分よりも酸素空孔を多く含むものである形態、(2)上記抵抗率が相対的に高い部分は、酸素を実質的に導入しない条件で形成されたものであり、かつ抵抗率が相対的に低い部分は、酸素を導入した条件で形成されたものである形態が挙げられる。なお、透明電極の抵抗率が相対的に高い部分に関し、上記(1)の形態は、構成(組成)から把握したものであり、上記(2)の形態は、製造プロセス面から把握したものである。本発明においては、上記(1)の形態及び上記(2)の形態のうち、少なくともいずれか一方の形態を有することとなる。
また、本発明において、酸素空孔とは、結晶格子で周期的に配列されているはずの酸素原子(イオン)が欠けて空になった格子点のことをいう。
更に、上記酸素を実質的に導入しない条件における酸素の分圧は、実質的に0であると評価できる程度あればよく、本発明の有機層の劣化防止の作用効果を得ることができる範囲であれば、0を超えるものであってもよい。抵抗率が相対的に低い部分を形成する際の酸素の25℃での分圧は、下限が1×10−4Pa、上限が1×10−2Paであることが好ましい。
【0016】
なお、透明電極の抵抗率(比抵抗)と透明電極形成時の酸素分圧との関係については、図2に示すように、成膜速度で規格化した酸素分圧が9×10−3(Pa/(nm/min))近傍のときに比抵抗が極小となるが、本発明において、抵抗率が相対的に高い部分は、酸素を実質的に導入しない条件で形成され、かつ抵抗率が相対的に低い部分は、酸素を導入した条件で形成されることから、比抵抗の極小点よりも低い酸素分圧(図2中、極小点の左側の領域)や比抵抗の極小点近傍の酸素分圧の条件で透明電極が形成されることとなる。一方、特許文献4に記載の透明電極は、有機層(有機物層)と接する面側で抵抗率が高くされ、有機層と接する面の他面側で抵抗率が低くされている点において、本発明における透明電極の特性と共通するが、酸素分圧(酸素ガスの濃度)という点では正反対の条件で形成されており、その構成(組成)において異なるものである。すなわち、特許文献4に記載の透明電極では、比抵抗の極小点よりも高い酸素分圧(図2中、極小点の右側の領域)の条件で有機層と接する面の他面側(抵抗率が相対的に低い部分)が形成され、更に高い酸素分圧の条件で有機層と接する面側(抵抗率が相対的に高い部分)が形成されている。
【0017】
このような本発明によれば、スパッタ法やイオンプレーティング法により透明電極の形成を行う際に、実質的に酸素を導入することなく、有機層側の抵抗率が相対的に高い部分を形成するものであるため、活性な酸素原子による有機層の損傷(酸化)を低減することができる。そして、抵抗率が相対的に高い部分を形成した後、透明電極の全体としての抵抗率を低くするために、抵抗率が相対的に高い部分の上(有機層と反対側)に、抵抗率が相対的に低い部分を形成する際には、酸素ガスを導入しても、先に形成した抵抗率が相対的に高い部分が防壁となって、有機層の損傷を防ぐことができる。従って、本発明の有機EL素子においては、透明電極の全体としての抵抗率を低くして、電極による電圧降下を低くすることが可能であり、高い発光輝度を得ることや、所望の発光輝度を得るのに要する電力を小さくして、素子の劣化を抑制し、高信頼性を得ること等が可能となる。このような発光効率に優れた本発明の有機EL素子は、有機EL表示装置等における電界発光素子として好適に用いることができるものである。
【0018】
以下、本発明の有機エレクトロルミネセンス素子の好ましい形態について詳しく説明する。
上記透明電極は、少なくとも抵抗率が相対的に高い部分がインジウム亜鉛酸化物(亜鉛をドープした酸化インジウム)、ガリウムをドープした酸化亜鉛、及び、アルミニウムをドープした酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種を含む材料により形成されたものであることが好ましい。これによれば、酸素を導入しない条件でも、抵抗が比較的低い透明電極を形成することができるため、第2電極の全体としての抵抗を低くして、高効率の有機EL素子を得ることができる。なお、亜鉛をドープした酸化インジウムにおける亜鉛のドープ量は、下限が5質量%、上限が15質量%であることが好ましい。また、ガリウムをドープした酸化亜鉛におけるガリウムのドープ量は、下限が5質量%、上限が15質量%であることが好ましい。更に、アルミニウムをドープした酸化亜鉛におけるアルミニウムのドープ量は、下限が5質量%、上限が15質量%であることが好ましい。なお、製造工程の簡略化の観点から、抵抗率が相対的に高い部分のみならず、抵抗率が相対的に低い部分も、上述した材料により形成されることがより好ましい。
【0019】
上記透明電極は、抵抗率が相対的に高い部分の厚さが5〜100nmであることが好ましい。これにより、有機層の損傷を充分に防ぐことができるとともに、透過率が充分に大きくかつ抵抗率が充分に小さい第2電極を形成することができ、高効率の有機EL素子を得ることができる。抵抗率が相対的に高い部分の厚さが5nm未満であると、スパッタ法、イオンプレーティング法等による電極形成過程において、活性な酸素原子による有機層の損傷を充分には防ぐことができないおそれがあり、100nmを超えると、透明電極の光透過率が低くなるとともに、第2電極の全体としての抵抗率が高くなり、第2電極における電圧降下が大きくなってしまうおそれがある。また、抵抗率が相対的に高い部分の厚さは、下限が5nm、上限が50nmであることがより好ましく、抵抗率が相対的に低い部分の厚さは、下限が50nm、上限が500nmであることが好ましい。
【0020】
上記有機エレクトロルミネセンス素子は、有機層と透明電極との間に絶縁物からなる電子注入層を有することが好ましい。これにより、第2電極を陰極とする場合、電極間に電界印加した際の有機層への電子の注入効率が高くなるため、高効率の有機EL素子を提供することができる。
【0021】
上記有機エレクトロルミネセンス素子は、有機層と透明電極との間、又は、電子注入層と透明電極との間に透光性の金属層を有することが好ましい。これにより、第2電極を陰極とする場合に、金属層の材料として低仕事関数金属やそれを含む合金等を用いることで、電極間に電界を印加した際の有機層への電子の注入効率を高くすることができ、高効率の有機EL素子を提供することができる。また、本発明においては、第2電極の透明電極が有する抵抗率が相対的に高い部分により、金属層の酸化を抑制することができる。金属層の厚さは、下限が1nm、上限が20nmであることが好ましい。金属層の厚さが1nm未満であると、有機層への電子の注入効率を充分に向上させることができないおそれがあり、20nmを超えると、透光性を充分には得られなくなるおそれがある。
【0022】
本発明はまた、基板上に第1電極を形成する工程と、発光層を含む有機層を形成する工程と、透光性の第2電極を形成する工程とを含む有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法であって、上記第2電極を形成する工程は、金属酸化物からなる透明電極を形成する工程を含むものであり、上記金属酸化物からなる透明電極を形成する工程は、酸素ガスを実質的に導入しない条件で電極形成した後、酸素ガスを導入した条件で電極形成するものである有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法でもある。
第1電極の形成工程は、電子ビーム(Electron Beam;EB)法等を用いて金属膜や導電性金属酸化物膜を形成するものである。また、有機層の形成工程は、直接真空蒸着法、EB法、分子線エピタキシ(Molecular Beam Epitaxy;MBE)法等のドライプロセスや、スピンコート法、ドクターブレード法、吐出コート法、スプレーコート法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、マイクログラビアコート法等のウエットプロセス等を用いて、発光層や、必要に応じて正孔注入層、電子注入層、電荷輸送層(正孔輸送層及び電子輸送層)等を形成するものである。第2電極の形成工程は、金属酸化物からなる透明電極を形成する工程を含むものであり、透明電極の形成工程においては、スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法、蒸着法等が用いられる。
【0023】
本発明の有機EL素子の製造方法によれば、金属酸化物からなる透明電極を形成する工程において、透明電極の形成初期には酸素を実質的に導入しない条件で形成し、その後、酸素を導入して形成するため、有機層の酸化を充分に抑制した高効率の有機EL素子を製造することができる。
本発明の有機EL素子の製造方法の好ましい形態としては、第1電極を形成する工程、発光層を含む有機層を形成する工程、透光性の第2電極を形成する工程をこの順に行う形態が挙げられる。
【0024】
上記有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法は、有機層を形成する工程と透明電極を形成する工程との間に絶縁物からなる電子注入層を形成する工程を含むことが好ましい。これによれば、電極間に電界を印加した際の有機層への電子の注入効率が向上された高効率の有機EL素子を製造することができる。電子注入層の形成工程においては、抵抗加熱蒸着法やEB蒸着法等が用いられる。
【0025】
上記有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法は、有機層を形成する工程と透明電極を形成する工程との間、又は、絶縁物からなる電子注入層を形成する工程と透明電極を形成する工程との間に、透光性の金属層を形成する工程を含むことが好ましい。これにより、第2電極を陰極とする場合に、金属層の材料として仕事関数の低い金属材料を用いることで、電極間に電界を印加した際の有機層への電子の注入効率が向上された高効率の有機EL素子を製造することができる。また、本発明においては、第2電極を構成する透明電極を形成する工程にて、酸素ガスを実質的に導入しない条件で形成された電極部分が設けられることから、金属層の酸化を抑制することができる。金属層の形成工程においては、DC(直流)又はRF(高周波)スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法、蒸着法等が用いられる。
【0026】
本発明は更に、上記有機エレクトロルミネセンス素子、又は、上記有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法により製造された有機エレクトロルミネセンス素子を備えてなる有機エレクトロルミネセンス表示装置でもある。本発明の有機EL表示装置は、高効率の有機EL素子を備えることから、高輝度であるとともに、画素毎(有機EL素子毎)の輝度のばらつきの小さい良好な表示を実現することができる。本発明の有機EL表示装置の好ましい形態としては、例えば、本発明の有機EL素子、又は、本発明の有機EL素子の製造方法により製造された有機EL素子をマトリクス状に備えてなる形態等が挙げられる。なお、本発明の有機EL表示装置の駆動方式としては、アクティブマトリクス方式、パッシブマトリクス方式等が挙げられ、中でもアクティブマトリクス方式が好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の有機エレクトロルミネセンス(EL)素子によれば、透明電極の形成工程における有機層の損傷が低減されており、また、透明電極の全体としての抵抗率を充分に低くすることができることから、発光効率に優れた有機EL素子を提供することができる。このような有機EL素子は、有機EL表示装置等における電界発光素子として好適に用いることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に実施形態を掲げ、本発明について図面を参照して更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0029】
<実施形態1> 有機エレクトロルミネセンス(EL)素子
図1は、本発明に係る実施形態1の有機EL素子の構成を模式的に示す断面図である。なお、図1中の白抜き矢印方向は発光を取り出す方向を表す。
図1に示す有機EL素子100は、基板1の上に陽極(第1電極)2と、有機EL層(有機層)9と、陰極(第2電極)5とを順次有している。有機EL層9は、少なくとも発光層4を有していればよく、単層構造を有しても積層構造を有してもよい。なお、本実施形態では、有機EL層9は、正孔注入層3及び発光層4を基板1の側からこの順に積層した構造を有している。本実施形態の有機EL素子100は、発光層4からの光が陰極5側から取り出されるトップエミッション型であるため、陰極5は透光性を有している。陰極5は、有機EL層9の上に形成され、少なくとも2層の酸化物導電層7(透明電極のうち、抵抗率が相対的に高い部分)及び8(透明電極のうち、抵抗率が相対的に低い部分)を基板1の側からこの順で積層した構造を有している。
また、本実施形態では、酸化物導電層7と発光層4との間に、Al:Ca合金層(金属層)6を設けている。Al:Ca合金層6の膜厚は、透光性を持たせるために、下限が1nm、上限が20nmであることが好ましく、上限が10nmであることがより好ましく、上限が5nmであることが更に好ましい。金属層6の材質としては、Al:Ca合金以外にも、仕事関数が4eV以下の低仕事関数金属(例えばCe、Yb、Cs、Rb、Sr、Ba、Mg、Li等)やそれらを含む合金を用いてもよい。発光層4の材料として高分子材料を用いる場合には、金属層6には、低仕事関数金属として、Ca、Baが好適に用いられる。低仕事関数金属単体を用いて金属層6を形成することも可能であるが、上述した低仕事関数金属をホスト金属にドープすることによっても、金属層6を形成することができる。この場合、ホスト金属としては、化学的に比較的安定な金属(例えばNi、Os、Pt、Pd、Al、Au、Rh等)が好ましい。これにより、金属層6に含まれる低仕事関数金属の酸化を抑制することができる。
【0030】
図2は、酸化物透明導電膜(ITO膜)形成時の酸素分圧と膜抵抗率との関係を示す図である。
図2に示すように、一般的に、酸化物透明導電膜は、膜形成時の酸素分圧が0又は小さい場合には、膜中の酸素空孔が多すぎる状態になるため、結晶性が悪く、キャリアの移動度が低下するとともに、酸素空孔が有効にキャリアを発生できないため、キャリア密度も低く、膜の抵抗値が大きくなる。膜形成時の酸素分圧を増加させていくと、結晶欠陥が少なくなり、キャリアの移動度が上がるとともに、酸素空孔が有効にキャリアを発生することができるようになり、キャリア密度も上昇して膜の抵抗が小さくなる。膜形成時の酸素分圧を更に増加させると、キャリアの移動度が飽和する一方、酸素空孔ドナーそのものが少なくなるため、キャリア密度が減少し、膜の抵抗は再び大きくなる。本実施形態においては、酸化物導電層7が、酸素分圧0の条件で形成され、酸化物導電層8が、膜の抵抗が小さくなる適切な酸素分圧の条件で形成されている。
【0031】
有機EL素子100では、有機EL層9に近い側の酸化物導電層7は、酸素を導入しない条件で作製されているので、活性な酸素原子による有機EL層9の酸化がなく、有機EL素子100の発光効率の低下を抑えることができる。なお、本明細書中、「発光効率」とは、有機EL素子に入力した電力、又は、駆動に要する電流に対する取り出し光の輝度のことをいう。発光効率の低下を抑制できれば、要求される輝度を実現するために、有機EL素子に入力する電力を小さくすることができる。そのため、有機EL素子に印加する電流又は電圧を低減することができるので、有機EL素子の劣化を抑制することができ、その結果、有機EL素子の信頼性を向上させることが可能となる。
【0032】
有機EL素子100は、発光層4と陰極5との間に、絶縁膜(絶縁物)からなる電子注入層を形成することが好ましい。電子注入層を設けることにより、発光効率をより向上させることができる。電子注入層を構成する絶縁膜(絶縁物)としては、BaO、BaF、CaO、CaF、CsO、CsF、LiO、LiF、Ce、CeFからなる群より選択される1種の化合物又は2種以上の混合物であることが好ましい。
【0033】
陰極5が有する透光性の酸化物導電層7、8の形成方法としては、スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法、蒸着法等が挙げられる。酸化物導電層7(酸素を導入せずに形成する部分)と酸化物導電層8(酸素を導入して形成する部分)とは、同じ製法で形成してもよく、異なる製法で形成してもよい。また、材料は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0034】
また、酸化物導電層7(酸素を導入せずに形成する部分)の材料としては、酸素を導入しない条件であっても比較的抵抗率の低い膜が形成できるインジウム亜鉛酸化物、ガリウムをドープした酸化亜鉛、アルミニウムをドープした酸化亜鉛等を用いると、陰極5全体の抵抗率を下げることが可能である。
【0035】
有機EL層9は、高分子材料を用いた溶液から形成された有機層を含むことが好ましい。これにより、印刷法やインクジェット法等の真空条件を必要としない薄膜形成法を使用することができるので、より安価に有機EL素子を製造することができる。
【0036】
有機EL層9における発光層4は、単層構造を有しても多層構造を有してもよい。また、発光層4は、母体材料にドーパントをドープした層であってもよい。
本実施形態における有機EL層9は、図1に示すように、正孔注入層3及び発光層4を陽極2の側からこの順に有しているが、有機EL層9の構成は、図1に示す構成に限定されない。例えば、有機EL層9は、以下のような構成を有することができる。
(1)有機発光層
(2)正孔輸送層/有機発光層
(3)有機発光層/電子輸送層
(4)正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層
(5)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層
【0037】
発光層4に含まれる発光材料としては、高分子材料であってもよく、低分子材料であってもよく、有機EL素子用の従来公知の発光材料を用いることができる。従来公知の発光材料は、低分子発光材料、高分子発光材料、及び、高分子発光材料の前駆体等に分類することができる。それぞれの発光材料の具体的な化合物を以下に例示するが、発光材料はこれらに特に限定されるものではない。
【0038】
低分子発光材料としては、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−フェニル(DPVBi)等の芳香族ジメチルジエン化合物、5−メチル−2−[2−[4−(5−メチル−2−ベンゾオキサジリル)フェニル]ビニル]ベンゾオキサゾール等のオキサジアゾール化合物、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TZA)等のトリアゾール化合物、1,4−ビス(2−メチスチリル)ベンゼン等のスチリルベゼン化合物、チオビラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体等の蛍光性有機材料、アゾメチン亜鉛錯体、(8―ヒドロキシノリナート)アルミニウム錯体等の蛍光性有機金属化合物等を用いることができる。
高分子発光材料としては、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)(DO−PPP)、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]―1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニルレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)等を用いることができる。
高分子発光材料の前駆体としては、ポリ(p−フェニレンビニレン)前駆体(Pre−PPV)、ポリ(p−ナフタレンビニレン)前駆体(Pre−PNV)等を用いることができる。
【0039】
発光層4は、従来公知の方法で形成することができる。例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム(EB)法、分子線エピタキシ(MBE)法等のドライプロセスを用いて、有機発光材料を堆積させることにより、形成することができる。また、有機発光材料を含む有機発光層形成用溶液を、スピンコート法、ドクターブレード法、吐出コート法、スプレーコート法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、マイクログラビアコート法等のウエットプロセスを用いて付与することにより、形成してもよい。
【0040】
ウエットプロセスを用いる場合、有機発光層形成用溶液は、少なくとも1種類の発光材料を含有すればよく、2種類以上の発光材料を含有していてもよい。また、発光材料の他に、レベリング剤、発光アシスト剤、添加剤(ドナー、アクセプター等)電荷輸送剤、発光性のドーパント等を含有してもよい。また、有機発光層形成用溶液の溶剤としては、発光材料を溶解又は分散することができる溶剤であればよく、例えば、純水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran;THF)、クロロホルム、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等であってもよい。
【0041】
正孔輸送層及び電子輸送層(以下、合わせて、「電荷輸送層」ともいう)は、それぞれ単層構造を有しても多層構造を有してもよい。電荷輸送層は、例えば、発光層4の形成方法として例示した従来公知の方法(ドライプロセス又はウエットプロセス)で形成することができる。ウエットプロセスで電荷輸送層を形成する場合、電荷輸送層形成用溶液の溶剤としては、電荷輸送材料を溶解又は分散することができる溶剤であればよく、有機発光層形成用溶液の溶剤として例示した溶剤であってもよい。電荷輸送層に含まれる電荷輸送材料としては、従来公知の材料を用いることができる。以下に、これらの具体的な化合物を示すが、電荷輸送材料はこれらに特に限定されるものではない。
【0042】
正孔輸送層に含まれる正孔輸送材料としては、例えば、ポルフィリン化合物、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(NPD)等の芳香族第3級アミン化合物、ヒドラゾン化合物、キナクリドン化合物、スチルアミン化合物等の低分子材料、ポリアニリン、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)、ポリ(トリフェニルアミン誘導体)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等の高分子材料、Pre−PPV、Pre−PNV等の高分子材料前駆体を用いることができる。
【0043】
電子輸送層に含まれる電子輸送材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、フルオレノン誘導体等の低分子材料、ポリ[オキサジアゾール]等の高分子材料を用いることができる。
【0044】
陽極2及び陰極5は、以下に例示するような電極材料から形成できる。
陽極2は、例えば、Au、Ni、Pt等の仕事関数の大きな金属材料やITO、IZO、SnO等の導電性金属酸化物等の電極材料からなる単層構造を有してもよく、上述した電極材料からなる層を含む多層構造を有してもよい。また、上述した電極材料からなる層の有機EL層9の側に、この層の導電性を大きく妨げない程度の厚さ(例えば1nm程度)のSiO層を設けた構造であってもよい。SiO層の表面は、有機発光層形成用溶液や電荷輸送層形成用溶液との親和性(濡れ性)に優れているため、SiO層の付加によって、陽極2と有機EL層9との密着性を向上させることができる。
【0045】
(実施例1)
本発明に係る実施例1の有機EL素子(図1)を以下の方法で作製する。
5cm角の絶縁性の基板1の上に、陽極2として、電子ビーム(EB)蒸着装置でストライプ状のPt電極(陽極、第1電極)2(幅:2mm、長さ:5cm、厚さ:約150nm)を形成する。次に、陽極2の上に、PEDOTとPSSとの混合水溶液をスピンコート法により塗布し、150℃で20分間乾燥することにより、ホール注入層3を形成する。このとき、溶液の濃度、スピンコート時の回転数等を制御することにより、ホール注入層3の厚さを約60nmとする。次に、ホール注入層3と同様に、ポリフルオレン誘導体の溶液をスピンコート法で塗布、乾燥することにより、発光層4を形成する。
【0046】
続いて、発光層4の上に陰極(第2電極)5を形成する。まず、Caを5質量%含むAlを蒸着源(出発材料)として用い、抵抗加熱蒸着法により金属層6(厚さ:5nm)を形成する。金属層6の形状は、陽極2と直交する方向に沿ったストライプ状の層(幅:2mm、長さ:5cm)とする。この後、酸化物導電層として、IZO焼結ターゲットを用いてDCスパッタ法によりIZO層7及び8を形成する。このとき、IZO形成の初期にはArガスのみを用いてスパッタリングを行い、酸素ガスを用いないでIZO層7(透明電極のうち、抵抗率が相対的に高い部分)を形成する。その後、Arガスと酸素ガスとを用いて、IZO層8(透明電極のうち、抵抗率が相対的に低い部分)を形成する。IZO層7及び8は、金属層6と同じストライプパターンを有するように形成される。これにより、実施例1の有機EL素子が得られる。なお、金属層6及び酸化物導電(IZO)層7、8の形成時には、いずれも基板を加熱する処理は行わないものとする。
【0047】
(比較例1)
図4は、比較例1の有機EL素子の構成を模式的に示す断面図である。なお、図4中の白抜き矢印方向は発光を取り出す方向を表す。
実施例1の有機EL素子100と比較するために、図4に示すように、比較例1の有機EL素子300を作製する。本比較例の有機EL素子300は、IZO層を、全てArガスと酸素ガスとを用いて形成する(IZO層8のみを形成する)以外は、実施例1の有機EL素子100と同様の構成を有し、同様の方法で作製される。なお、比較例1の有機EL素子300は、本発明には含まれない。
【0048】
(発光特性評価)
実施例1及び比較例1の有機EL素子のそれぞれに、Pt電極2が正、IZO層8が負になるように直流電圧を印加し、IZO層8の上部からの発光を観察した。その結果、実施例1の有機EL素子100では、発光層4からの緑色発光が蛍光灯下でも観察されたが、比較例1の有機EL素子300では、暗所でやっと確認できる程度の(輝度の小さい)発光しか得られなかった。従って、比較例1の有機EL素子300の発光輝度は、実施例1の有機EL素子100の発光輝度よりも大幅に小さい。すなわち、比較例1の有機EL素子300の発光効率は、実施例1の有機EL素子100の発光効率よりも大幅に低い。
【0049】
この原因は以下のように考えられる。
比較例1の有機EL素子300では、IZO層8の形成時に発生するプラズマ中の活性な酸素原子(又はイオン)により、金属層6及び発光層4が酸化されたためと考えられる。金属層6が酸化されると、陰極5から発光層4への電子の注入効率が低下してしまう。そのため、発光層4において、充分な発光が得られない。また、発光層4が酸化されると、発光層4自体が劣化し、発光効率が低下する。
一方、実施例1の有機EL素子100では、IZO層の形成初期(IZO層7の形成時)には酸素ガスを使用しないため、金属層6及び発光層4の酸化が起こらない。その後、酸素ガスを用いてIZO層8を形成しても、先に酸素ガスを使用しないで形成したIZO層7が防壁(バリア層)となるため、金属層6及び発光層4の酸化が起こらない。このため、金属層6の酸化による電子注入効率の減少、発光層4の酸化による劣化が起こらないため、高効率の有機EL素子を提供することができる。
【0050】
<実施形態2> 有機EL表示装置
図3は、本発明に係る実施形態1の有機EL素子100を搭載した本発明に係る実施形態2の有機EL表示装置の構成を模式的に示す断面図である。なお、図3中の白抜き矢印方向は、有機EL素子100からの発光を取り出す方向を表す。
図3に示す有機EL表示装置200は、アクティブマトリクス基板101の上に有機EL素子100が形成されている。アクティブマトリクス基板101は、基板1と、基板1の上に画素毎に形成された複数の薄膜トランジスタ(TFT)と、これらのTFTを覆う平坦化膜14とを有している。各TFTは、ゲート電極12と、ゲート電極12の上にゲート絶縁膜13を介して形成された島状半導体層17と、島状半導体層17の両端部をそれぞれ覆うように設けられた電極(ソース、ドレイン電極)10とを有する構造、いわゆるボトムゲート構造を有している。各TFTは、ソース電極10及びゲート電極12にて、ソース配線(図示せず)及びゲート配線11とそれぞれ接続されている。平坦化膜14には、各TFTのドレイン電極10に達するスルーホール15が設けられている。また、平坦化膜14の上には、有機EL素子100が形成されている。有機EL素子100の陽極(第1電極)2は、平坦化膜14の上及びスルーホール15の内部に堆積された導電層20、21をパターニングすることにより、画素毎に形成されている。各陽極2は、スルーホール15を介して、対応するTFTのドレイン電極10と接続されている。これらの陽極2は、そのエッジ部及びスルーホール15を覆うように形成された絶縁膜16によって互いに絶縁されている。陽極2及び絶縁膜16の上には、ホール注入層3、発光層4、金属層6、酸化物導電層(酸素ガスを使用しないで形成したIZO層7と酸素ガスを使用して形成したIZO層8との積層膜、透明電極)がこの順で形成されている。
【0051】
図3に示す有機EL表示装置200は、上述したような構成を有し、本発明の有機EL素子100を搭載しているので、金属層6の酸化に起因する電子注入効率の低下、発光層の酸化による発光効率の低下を抑えることにより、高い発光効率を有する。そのため、高精細で明るい表示を実現することができる。また、画素毎(すなわち、有機EL素子100毎)の輝度のばらつきも小さく、高品位な表示が得ることができる。
【0052】
本実施形態の有機EL表示装置200の構成は、上述した構成に特に限定されない。例えば、TFTはトップゲート構造を有していてもよい。また、搭載される有機EL素子100の構成も上述した構成に特に限定されず、実施形態1にて説明したような様々な構成を適用することができる。更に、表示装置の駆動方式としては、画素毎に2個のTFTを必要とする電圧駆動方式を採用してもよいし、画素毎に4個のTFTを必要とする電流駆動方式を採用してもよい。あるいは、有機EL素子100を用いて、単純マトリクス方式の表示装置も構成することができる。
【0053】
(実施例2)
本発明に係る実施例2の有機EL表示装置(図3)を以下の方法で作製する。
絶縁性の基板1の上に、半導体層17としてポリシリコンを用いたボトムゲート構造のTFTを形成した後、基板1の表面の凹凸をなくすために、TFTを平坦化膜14で覆う。次に、平坦化膜14の上及び平坦化膜14に設けたスルーホール15の内部に、陽極(第1電極)2としてAl層20、IZO層21を形成する。Al層20、IZO層21は、スルーホール15によって、TFTのドレイン電極10と接続されている。Al層20、IZO層21のうち、平坦化膜14の上に形成された部分の厚さは150nmとする。次いで、スルーホール15及び陽極2のエッジ部を覆うように、SiO膜16を形成する。続いて、この基板に、実施例1と同様の方法で、ホール注入層3(厚さ:約60nm)及び発光層4をこの順で形成する。発光層4の上には、AlとCaとの共蒸着により、透光性を有する金属層6(厚さ:例えば15nm)を形成する。AlはEB法、Caは抵抗加熱蒸着法によりそれぞれ蒸着を行う。次に、DCスパッタ法によりIZO層7(透明電極のうち、抵抗率が相対的に高い部分)及び8(透明電極のうち、抵抗率が相対的に低い部分)の形成を行う。IZO層7、8の形成時、初期の10nmは酸素ガスを導入せずに成膜(IZO層7を形成)し、その後、酸素ガスを導入してIZO層8(合計厚さ:100nm)を形成する。
【0054】
(発光特性評価)
実施例2にて作製された有機EL表示装置のTFTに制御信号を印加すると、発光層4からの緑色発光がIZO層8の上部から観察された。従って、有機EL素子100の金属層6、発光層4の酸化が充分に抑制されていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る実施例1の有機EL素子の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】酸化物透明導電膜(ITO膜)形成時の酸素分圧と膜抵抗率との関係を示す図である。
【図3】本発明に係る実施例2の有機EL表示装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】比較例1の有機EL素子の構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1:基板
2:陽極(第1電極)
3:ホール注入層
4:発光層
5:陰極(第2電極)
6:合金層(金属層)
7:酸化物導電層(透明電極のうち、抵抗率が相対的に高い部分)
8:酸化物導電層(透明電極のうち、抵抗率が相対的に低い部分)
9:有機EL層(有機層)
10:ソース、ドレイン電極
11:配線
12:ゲート電極
13:ゲート絶縁膜
14:平坦化膜
15:スルーホール
16:絶縁膜
17:半導体層
20:Al層
21:IZO層
100、300:有機EL素子
101:アクティブマトリクス基板
200:有機EL表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、発光層を含む有機層と、透光性の第2電極とを必須とし、基板上にこの順に積層されてなる有機エレクトロルミネセンス素子であって、
該第2電極は、金属酸化物からなる透明電極を含んで構成されるものであり、
該透明電極は、有機層側に抵抗率が相対的に高い部分を有し、
該抵抗率が相対的に高い部分は、抵抗率が相対的に低い部分よりも酸素空孔を多く含むものである
ことを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項2】
第1電極と、発光層を含む有機層と、透光性の第2電極とを必須とし、基板上にこの順に積層されてなる有機エレクトロルミネセンス素子であって、
該第2電極は、金属酸化物からなる透明電極を含んで構成されるものであり、
該透明電極は、有機層側に抵抗率が相対的に高い部分を有し、
該抵抗率が相対的に高い部分は、酸素を実質的に導入しない条件で形成されたものであり、かつ抵抗率が相対的に低い部分は、酸素を導入した条件で形成されたものである
ことを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項3】
前記透明電極は、少なくとも抵抗率が相対的に高い部分がインジウム亜鉛酸化物、ガリウムをドープした酸化亜鉛、及び、アルミニウムをドープした酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種を含む材料により形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項4】
前記透明電極は、抵抗率が相対的に高い部分の厚さが5〜100nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項5】
前記有機エレクトロルミネセンス素子は、有機層と透明電極との間に絶縁物からなる電子注入層を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項6】
前記有機エレクトロルミネセンス素子は、有機層と透明電極との間、又は、電子注入層と透明電極との間に透光性の金属層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項7】
基板上に第1電極を形成する工程と、発光層を含む有機層を形成する工程と、透光性の第2電極を形成する工程とを含む有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法であって、
該第2電極を形成する工程は、金属酸化物からなる透明電極を形成する工程を含むものであり、
該金属酸化物からなる透明電極を形成する工程は、酸素ガスを実質的に導入しない条件で電極形成した後、酸素ガスを導入した条件で電極形成するものである
ことを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法は、有機層を形成する工程と透明電極を形成する工程との間に絶縁物からなる電子注入層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項7記載の有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法は、有機層を形成する工程と透明電極を形成する工程との間、又は、絶縁物からなる電子注入層を形成する工程と透明電極を形成する工程との間に、透光性の金属層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項7又は8記載の有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子、又は、請求項7〜9のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法により製造された有機エレクトロルミネセンス素子を備えてなることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−40583(P2006−40583A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214802(P2004−214802)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】