説明

有機エレクトロルミネセントデバイス

本発明は、より少ない労力で作製される有機エレクトロルミネセントデバイス1に関し、基板2と、基板2の上の基板電極3と、基板電極3の上の少なくとも1つの有機発光層を有するエレクトロルミネセント積層体4と、エレクトロルミネセント積層体4を少なくとも覆う対向電極5と、対向電極5を覆う短絡防止層6であって、対向電極5及び短絡防止層6の二重層DLを構築する当該短絡防止層6と、短絡防止層の上に少なくとも一部がある電気絶縁層とを有する有機エレクトロルミネセントデバイスであって、エレクトロルミネセント積層体4の上に二重層DLが設けられている或る領域において、少なくとも二重層DLに導入される切込み部近傍の電気絶縁層8の堆積後の二重層をロールアップするのに適した引張応力TSが短絡防止層6によって二重層DL内に引き起こされ、前記切込み部は対向電極5を基板電極3から電気的に切断するのに適し、電気絶縁層8は、切込み部7においてエレクトロルミネセント積層体4を部分的に溶解して切込み部付近において二重層DLをロールアップするため、切込み部近傍の前記エレクトロルミネセント積層体に対する二重層の接着力を弱めるために導入された切込み部7を持つ二重層の領域を少なくとも部分的に覆った、当該有機エレクトロルミネセントデバイスに関する。本発明は、また、そのようなOLEDデバイスの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より少ない労力で作製されるOLEDデバイス及びそのようなOLEDデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネセントデバイス(OLED)は、導電性であるが光学的に透明な酸化物、通常はインジウム−スズ酸化物(ITO)で被覆されたガラス基板の上に非常に薄い有機物質の層を有している。ITOは、基板電極、通常はアノードを形成し、有機積層体の上に蒸着されたアルミニウムの層(100nm)が、対向電極、通常はカソードを形成している。2から典型的には5Vの電圧が電極間に印加されると、有機層に電流が注入され、光が発生する。OLEDの作製は、長期にわたって信頼性の高い動作を与えるため、特に、OLEDを動作させるために、全ての個々の層の構造化を要し、両電極は、互いに電気的に絶縁されなければならない。従って、通常、少なくとも3マスクプロセス、すなわち、基板の上に堆積される基板電極の構造化(第1のマスクプロセス)と、事前に構造化された基板電極上への有機積層体の堆積(第1のマスクプロセスとは異なる第2のマスクプロセス)と、基板電極への電気的接触を与えることのない有機層の積層体上への対向電極の堆積(第1及び第2のマスクプロセスとは異なる第3のマスクプロセス)が必要になる。上記マスクプロセスは、所望の領域を堆積されるべき層で覆い、同時に他の領域への材料の堆積を防ぐために他の領域をシールドする異なる形状を有する所謂シャドウマスクを適用する。マスクは高い形状精度で製造されなければならないので、堆積(コーティング)プロセスのためのシャドウマスクの適用は費用がかかる。また、マスクは、堆積される材料で覆われるので、定期的に手入れされなければならない。マスクのずれは、例えば、対向電極のマスクのずれのために電気的に短絡した電極によりOLEDの動作を不可能にするという堆積の失敗につながってしまう。信頼性の高いコーティングプロセスを実現するために多くの更なる手段が適用される必要があり、これはこのプロセスを非常に費用のかかるものにしてしまう。例えば、欧州特許出願公開EP1202329A2号公報を参照されたい。これらの全ての手段は、良好な歩留まり(低い欠陥率)を実現するために結果的に莫大な労力を必要とする製造プロセスになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、より少ない製造労力で製造され得る信頼性の高い有機エレクトロルミネセントデバイス及び欠陥率が低減されるそのようなデバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的は、基板と、上記基板の上の基板電極と、上記基板電極の上の少なくとも1つの有機発光層を有するエレクトロルミネセント積層体と、上記エレクトロルミネセント積層体を少なくとも覆う対向電極と、上記対向電極を覆う短絡防止層であって、対向電極及び短絡防止層の二重層を構築する当該短絡防止層と、上記短絡防止層の上に少なくとも一部がある電気絶縁層とを有する有機エレクトロルミネセントデバイスによって解決される。上記エレクトロルミネセント積層体の上に上記二重層が設けられている或る領域において、少なくとも上記二重層に導入される切込み部近傍の上記電気絶縁層の堆積後の上記二重層をロールアップするのに適した引張応力が上記短絡防止層によって上記二重層内に引き起こされる。上記切込み部は、上記対向電極を上記基板電極から電気的に切断するのに適しており、上記電気絶縁層は、上記切込み部において上記エレクトロルミネセント積層体を部分的に溶解して上記切込み部付近において上記二重層をロールアップするため、上記切込み部近傍の上記エレクトロルミネセント積層体に対する上記二重層の接着力を弱めるために上記導入された切込み部を持つ上記二重層の上記領域を少なくとも部分的に覆っている。
【0005】
本発明に係る有機エレクトロルミネセントデバイスは、エレクトロルミネセント積層体を作製する1つのシャドウマスクのみを用いたエレクトロルミネセント積層体、対向電極及び短絡防止層の機能的積層体の作製を可能にする。エレクトロルミネセント積層体の上の層は、シャドウマスクを用いることなく作製され、これは、特に基板電極と対向電極との間の短絡の発生に対する信頼性が高められたより安価な製造プロセスをもたらす。
【0006】
上記基板電極は、基板の大きな領域を占有している。基板電極上のエレクトロルミネセント積層体は、基板電極の一部のみを覆っている。エレクトロルミネセント積層体上の対向電極は、好ましくは、有機エレクトロルミネセントデバイスを駆動させる駆動電圧をエレクトロルミネセント積層体全体に印加することができるようにエレクトロルミネセント層の領域を完全に覆っている。対向電極を堆積するためのシャドウマスクの回避は、基板電極を覆って延在する対向電極の堆積領域をもたらす。従って、「エレクトロルミネセント積層体を少なくとも覆う」という表現は、基板電極の少なくとも一部が、エレクトロルミネセント積層体が存在する領域以外で対向電極によって覆われていてもよいことを意味している。任意の追加の方策を伴わない場合、両電極は電気的に接続されるので、そのようなデバイスは動作しない。
【0007】
光を発することができる状態にある有機エレクトロルミネセントデバイスを作製するために、対向電極と基板電極とは、対向電極(及び対向電極上に堆積された他の全ての層)に導入された切込み部によって互いに分離されている。「少なくとも二重層に」という表現は、エレクトロルミネセント積層体上の対向電極の領域(第1の領域)を、基板電極に直接的に接している周囲の対向電極の領域(第2の領域)から少なくとも分離するという要件を意味している。切込み部は、更に、エレクトロルミネセント積層体又はエレクトロルミネセント積層体の一部を、一方は上記第1の領域の下に位置し、他方の領域は上記第2の領域の下に少なくとも部分的に位置する2つの分離された領域に分割する。切込み部は、対向電極と基板電極との間の短絡を防止するのに十分な対向電極の(第1及び第2の)両方の領域を互いに分離する。しかしながら、切込み部の縁部及び従って切込み部に沿った対向電極の縁部は、鋸歯状であるか、そうでなければ理想的な直線からずれている。そのような対向電極の縁部は、切込み部の縁部付近における局所的な電界強度の急増につながる鋭いスパイク又はエッジを有している。電界強度の増加は短絡を引き起こし得る。短絡の危険性を完全に回避するために、対向電極の縁部は切込み部の付近から取り除かれなければならない。対向電極の上に作製される短絡防止層は、対向電極及び短絡防止層の層システムに引張応力を引き起こす。これは、切込み部に沿って有機エレクトロルミネセント積層体に対する対向電極の接着力を弱める結果として切込み部に沿って二重層をロールアップするのに適するように対向電極及び対向電極に接着する短絡防止層の二重層の引張応力を調節することを可能にする。ここで、「ロールアップ」という用語は、ペーパロール上の紙に類似した二重層の巻き上げ又はカールを意味する。二重層のロールアップは、切込み部近傍に対向電極が存在しないおかげで、対向電極と基板電極との間の短絡を防止する。平坦な対向電極は、影響を受けていない有機エレクトロルミネセント層上に要求通り依然として存在する。上記「二重層」という用語は、2つの不可欠な要素(対向電極及び短絡防止層)が存在する積層体を意味している。この「二重層」という用語は、対向電極と短絡防止層との間の追加の層の可能性を明らかに含んでいる。ここでは、対向電極は、有機エレクトロルミネセントデバイスに電圧を印加する機能的要素であると理解されたい。対向電極は、電極の機能を果たすことができるように或る電気伝導度を築くために必要な層又は1つ若しくはそれ以上の層の積層体である。上記短絡防止層は、短絡防止層が接着する対向電極への或る引張応力を引き起こすための機能的要素であると理解されたい。短絡防止層は、或る引張応力を引き起こすために必要な層、又は1つ若しくはそれ以上の層の積層体である。
【0008】
上記短絡防止層は、真空蒸着によって堆積され、対向電極及び短絡防止層の二重層において引張応力を引き起こす。引張応力は、蒸着後、室温で存在し、更なる熱処理を全く伴うことなく切込み部付近における二重層の所望のロールアップの挙動を実現する。ロールアップの挙動は、切込み部に沿った短絡を防止する。従って、有機エレクトロルミネセントデバイスの動作前及び動作中の短絡が防がれ、これは、切込み部に沿った任意の漏れ電流を防ぎ、その後のこれらの漏れ電流に起因する任意の経年劣化効果を防止する。
【0009】
通常、層内の応力は、層が堆積された非常に薄い基板の曲り(bending)として最も明らかに現れる。堆積された層の存在する応力の指標としてそのような薄い基板の曲りを測定する幾つかの異なる方法が用いられている。最も一般的な方式は、カンチレバーを形成するために一端部を固定された、フィルムが堆積される薄いガラス片を用いることである。その場合、ガラス片が曲げられるので、例えば、顕微鏡を用いた自由端の光学的直接観測、可撓性のガラス片とこのガラス片と平行に且つガラス片の近くに保持された固定された導電性プレートとの間に形成される静電容量の測定によって又は自由端に触れるスタイラスのピックアップを用いたたわみの電気機械的測定によって測定される。一例として、(例えば対向電極のような)蒸着されるアルミニウム層は、10nm未満の層厚さにおいて高い引張応力を示す。そのような薄い層厚さを有するAl層は、電極として適用されるのに十分な電気伝導度を有していない。また、薄いAl層の表面張力も、Alの連続する層の代わりに島状構造(island)を作り上げる傾向がある。通常、20nm又はそれ以上の厚さのAl電極は、ほとんど応力を示さないか又は弱い広範囲にわたる応力を示す均質層を作り上げる。対向電極をロールアップするのに適した必要とされる引張応力は、対向電極上に作製され、対向電極に十分に接着している追加の層によって引き起こされなければならない。
【0010】
上記切込み部に沿った二重層のロールアップの挙動を得るために、電気絶縁層が切込み部付近のエレクトロルミネセント積層体を部分的に溶解する。「部分的に」という用語は、切込み部付近においてのみ生じる溶解プロセスを意味する。また、この溶解プロセスは、1つ又は幾つかの層のエレクトロルミネセント積層体のみに適用する。従って、電気絶縁層は、所望の溶解プロセスを起こすために少なくとも切込み部が存在する領域を覆わなければならない。代替として、電気絶縁層は、基板電極上に堆積された積層体全体を覆ってもよい。電気絶縁層の材料は、少なくとも対向電極と基板電極との間の有機積層体の電気抵抗と同じぐらい高い電気抵抗を有しており、電極間の漏れ電流が絶縁層を通って流れない。電気絶縁層は、有機エレクトロルミネセントデバイス全体に関して短絡の発生を防止し、追加の短絡防止手段を使われなくする。
【0011】
上記「付近」及び「近傍」という表現は、1mm又は数ミリメートルのオーダーの切込み部からの横方向の広がりを意味している。
【0012】
上記切込み部は、本発明の範囲内において任意の適切な技術によって、好ましくは、機械的切断及び/又はレーザ切断により、より好ましくは、少なくとも上記対向電極のレーザアブレーションにより有機エレクトロルミネセントデバイスに導入され得る。
【0013】
更に、(基板電極に直接的に接している)上記第2の領域に存在する対向電極は、部分的に基板電極の電気伝導度を改善し、これは、発光領域にわたってより均一な電流の分布及び従ってより均一な輝度の分布をもたらす。
【0014】
一形態では、上記切込み部は、上記二重層の領域内に閉じたラインを形成し、好ましくは、上記エレクトロルミネセント積層体により覆われた領域の外縁部の近くに配された閉じたラインを形成している。上記切込み部は、閉じたラインの外側の非発光領域に位置する発光材料の無駄をできる限り少なくすることにより、閉じたラインの内側の1つの発光領域を閉じたラインの外側の非発光領域から分離する。切込み部は、エレクトロルミネセント積層体により覆われた領域の内側であるが、その境界の近くに位置している。
【0015】
上記「近くに」という表現は、1mm又は数ミリメートルのオーダーのエレクトロルミネセント積層体の切込み部により覆われた領域の境界からの横方向の広がりを意味している。
【0016】
他の形態では、上記対向電極は、対向電極を構造化するために切込み部によって2つより多くの分離領域に分割される。分離された対向電極の領域は、有機エレクトロルミネセントデバイスの裏面から(対向電極が位置する側から)、分離された対向電極の領域と接触することにより互いに独立して動作する。
【0017】
一形態では、上記短絡防止層は、真空蒸着により有機エレクトロルミネセント層の上に堆積された後、所望のロールアップの挙動を示す適切な引張応力を持つマンガン、銅、フッ化マンガン若しくは銀の群の少なくとも1つの材料、当該材料を有する合金又は当該材料と当該合金との組み合わせで作られている。
【0018】
上記有機エレクトロルミネセントデバイス(OLEDデバイス)は、当業者に既知の任意のOLEDデバイスである。更なる形態では、本発明のOLEDデバイスは、光源、ランプとして用いられるか、含まれ、又はモニタ、スイッチ若しくはディスプレイに含まれる。従って、本発明のELデバイスを有する光源、ランプ、モニタ、スイッチ及びディスプレイもまた本発明に含まれる。以下に、OLEDデバイスの基本的な構造が例示的に説明される。
【0019】
基板は、任意の適切な形状、形又は種類を有するが、好ましくは平坦であり、可撓性の材料が使用される場合には、必要とされる任意の三次元の形状に成形される又は曲げられ得る。本発明の好ましい形態では、基板は、ガラス、プラスチック又はセラミックから作られている。基板についての更なる好ましい材料は、ポリマシート又はフォイルを有しており、より好ましくは、湿気及び/又は酸素がOLEDデバイス内に入ることを本質的に防ぐ適切な防湿バリヤ及び酸素バリヤを伴っている。基板は、例えば、光出力の増強等のような光学的目的のために追加の層を更に有していてもよい。
【0020】
上記基板は、好ましくは透明であり、当業者には既知の任意の適切な材料を有している。本発明において、「透明」という用語は、或る材料、例えば基板又は電極中における50%以上の可視領域の光の透過を意味する。従って、残りの光は、反射及び/又は吸収される。「透明」は、10%以上50%未満の可視領域の光の透過を意味する「半透明」を含んでいる。従って、「透明な」材料について参照されるときはいつでも、これは、他に述べられていなければ「半透明な」材料も明示的に開示している。好ましくは、可視領域の光は、450nm以上700nm以下の波長を有している。従って、例えば、透明な基板又は電極は、入射光の50%未満を吸収及び/又は反射する。
【0021】
上記基板電極は、当業者には既知の任意の適切な材料から作られている。好ましい形態では、基板電極は、透明電極である。本発明の更に好ましい形態では、基板電極は、透明導電性電極(TCO)を有しており、より好ましくは、インジウム−スズ酸化物(ITO)、ZnO又はドープされたZnOを有している。オプションで、上記基板電極は、基板から電極への可動原子又はイオンの拡散を有利に抑制するためにSiO及び/又はSiOで下塗りされている。電極は、好ましくは60%以上100%以下、より好ましくは70%以上90%以下、最も好ましくは約80%の透過率を有するTCOを有している。
【0022】
本発明に関連して、エレクトロルミネセント積層体の概念は、基板電極と対向電極との間に作製される全ての層も意味する。EL積層体の一形態では、基板電極と対向電極との間に作製されたEL積層体は、少なくとも1つの発光有機エレクトロルミネセント層を有している。他の形態では、上記積層体は、基板電極と対向電極との間に作製された幾つかの層を有している。この幾つかの層は、1つ又はそれ以上の正孔輸送層、電子ブロッキング層、電子輸送層、正孔ブロッキング層、エミッタ層のような有機層又は有機層と非有機層との組み合わせである。非有機層は、積層体内の2つ又はそれ以上の発光層及び/又は電荷注入層の場合には追加の電極でもよい。1つよりも多い有機層の場合の有機エレクトロルミネセント層又は有機エレクトロルミネセント積層体は、当業者には既知の及び/又はOLEDデバイスに適した任意の層又は積層体である。上述したように、エレクトロルミネセント積層体は、EL分子を有する少なくとも1つのELエミッタ層を有している。単一のELエミッタ層は、好ましくは、約10nmの厚さを有している。
【0023】
好ましい有機エレクトロルミネセント積層体は、1つよりも多い発光層を有しており、それぞれは少なくとも1つのタイプのエレクトロルミネセント分子を有している。好ましくは、発光層は、異なる色の光を発する。これは、色可変OLEDデバイスが必要とされる場合に特に有利である。本発明の更なる形態では、有機エレクトロルミネセント積層体は、異なる発光色を有する少なくとも2つの発光層を有している。これは、本発明のOLEDデバイスが電圧/電流の印加によって光を発するように誘導される場合に、少なくとも2つの発光層のそれぞれが異なる波長で光を発することを意味する。異なる発光色は、通常、EL発光層を構成する異なるEL分子の使用によって実現される。各EL発光層は、単一の又は1つよりも多いタイプのEL分子を有している。より好ましい形態では、EL積層体は、赤色、緑色及び青色の光をそれぞれ発する3つのEL発光層を有している。
【0024】
上記有機エレクトロルミネセント積層体は、有機エレクトロルミネセント積層体として示される1つの有機エレクトロルミネセント層又は複数の有機エレクトロルミネセント層を有している。しかしながら、OLEDデバイスの種々の他の基本的な構造が当業者に知られており、これらの全ては、本発明に含まれるように意図されている。例示的な基本的なOLEDデバイスは、通常は、ガラス又はフレキシブルポリエチレンテレフタレート(PET)フォイルのような基板の上に配されるアノードとしての基板電極を有している。透明な基板電極の上には、少なくとも1つのタイプのエレクトロルミネセント(EL)分子を有する少なくとも1つのエミッタ層を有する有機層が配されている。対向電極、通常カソードは、上記有機積層体の上に配されている。当業者は、そのようなOLEDデバイスの作製に関して種々の他の層、例えば、アノードと接する正孔輸送層、カソードと接する電子輸送層、アノードと正孔輸送層との間に配された好ましくはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチロールスルホン酸(PEDOT/PSS)から作られた正孔注入層及び/又は電子輸送層とカソードとの間に配された電子注入層、好ましくは、フッ化リチウム又はフッ化セシウムから作られた非常に薄い層が組み込まれ得ることを認識するであろう。更に、OLEDデバイスは、1つよりも多いエミッタ層が存在する有機積層体を有していることが、当業者に知られている。
【0025】
一形態では、有機発光層は、光を発するポリマ(PLED)又は小分子(SMOLED)のような有機発光分子を有している。他の好ましい形態では、OLEDデバイスは、リン光有機発光ダイオード(PHOLED)デバイスである。本発明は、上述したような有機発光分子がOLEDデバイスにおけるエレクトロルミネセント分子として用いて好適であれば、特定の有機分子に限定されない。種々の有機発光分子が当業者に知られており、これらの全ては、本発明に含まれるように意図されている。本明細書において用いられる「発光分子」は、好ましくは「有機エレクトロルミネセント分子」を意味する。好ましい形態では、PLEDのポリマは、ポリ(p−フェニレン−ビニル)(PPV)の誘導体のような共役高分子であり、SMOLEDの小分子は、例えばAlq3のような有機金属キレート及び/又は共役デンドリマである。
【0026】
本発明に関連して、対向電極の概念は、基板から遠くの電極を意味する。一般的な有機エレクトロルミネセントデバイスの対向電極は、通常、非透明であり、電極が反射するような十分な厚さのAl又はAgの層(典型的には、Alに関して100nm、Agに関して200nm)より成っている。上記対向電極は、通常はカソードであるが、アノードとしてもバイアスをかけられ得る。トップエミッティング型の又は透明なエレクトロルミネセントデバイスの場合、対向電極は透明でなければならない。透明な対向電極は、薄い(5ないし15nm)Ag若しくはAl層又は他の先に堆積された層の上に堆積されたITO層より成っている。本発明の好ましい実施の形態では、対向電極の厚さは、短絡防止層によってロールアップされることができるように、140nm未満、好ましくは10から100nmの間、より好ましくは20から80nmの間、更により好ましくは30から50nmの間である。
【0027】
上記電極は、導体を介して電圧/電流源に接続され得る。
【0028】
本発明に係る有機エレクトロルミネセントデバイスは、エレクトロルミネセント積層体を封入する封入手段を有している。この封入手段は、また、エレクトロルミネセントデバイスの全ての層の積層体又は積層体全体の一部分を形成する単に複数の層も封入する。好ましくは、封入手段は、少なくとも有機エレクトロルミネセント層と対向電極とを覆う気密素子である。気密性の封入手段を用いることにより、水又は酸素のような環境因子が封入された層にダメージを与えることが防止される。封入手段は、気密性の蓋を形成し得る。この蓋は、ガラス又は金属により形成され得る。エレクトロルミネセントデバイスに与えられる1つ若しくは複数の層又は単にその一部によって封入手段を形成することも可能である。上記層は、シリコン、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム又はシリコン酸窒化物を有している。全ての指名された封入手段は、機械的及び/又は環境因子がエレクトロルミネセントデバイスの積層体に悪影響を及ぼすことを防止する。一例として、封入手段は、金属、ガラス若しくはセラミック又はこれらの組み合わせから作られている。封入手段は、非導電性の接着剤、溶融ガラス材料又は金属接合により基板に取り付けられる。従って、封入手段は、エレクトロルミネセントデバイスに機械的安定性も与える。
【0029】
他の形態では、上記短絡防止層は、上記絶縁層の堆積後、上記切込み部近傍の上記対向電極をロールアップするのに適した応力を与える層厚さを有し、好ましくは、20nmよりも大きい、より好ましくは40nmよりも大きい、更により好ましくは60nmよりも大きい層厚さを有している。この厚さは、引張応力の影響を受けていない領域(切込み部が存在しない領域)において二重層のロールアップを開始する厚さを超えるべきではない。上記厚さは、引張応力を所望の値に調節することを可能にする1つのパラメータであり、切込み部が存在しない時は二重層が下部の有機層に接着し、切込み部の付近では二重層がロールアップの挙動を示し、下部の有機層に対する接着力が絶縁層により弱められる。当業者であれば、本発明の範囲内において短絡防止層の下部の積層体(材料及び/又は層の厚さ及び/又は作製条件)に依存して塗布される短絡防止層の層厚さを必要な厚さに調節することができる。
【0030】
上記電気絶縁層は、短絡防止層の上に、短絡防止層を少なくとも部分的に覆うように堆積されている。電気絶縁層の材料は、少なくとも対向電極と基板電極との間の有機積層体の電気抵抗と同じぐらい高い電気抵抗を有しており、電極間の漏れ電流が絶縁層を通って流れない。少なくとも部分的に堆積される絶縁層の厚さは、切込み部の領域全体を満たすためにエレクトロルミネセント積層体よりも大きいべきであり、例えば、少なくとも1マイクロメートルの、好ましくは少なくとも1.5マイクロメートルの、より好ましくは2マイクロメートルよりも大きい、更により好ましくは5マイクロメートルよりも大きい層厚さを有している。より大きい(例えば、10マイクロメートルよりも大きい)層厚さも、例えば、OLEDデバイスに10000hよりも長い寿命を与えるように環境ガスからOLEDデバイスを保護するためにOLEDデバイスを封入する覆い蓋との機械的接触に対するエレクトロルミネセント積層体の構造安定性(robustness)を改善する。有機エレクトロルミネセントデバイスの発せられる光の約2倍以上の著しい低減が、寿命の終わりであると理解されたい。
【0031】
好ましい形態では、上記電気絶縁層は、高分子層であり、好ましくは、溶媒又は反応成分を有する高分子層である。そのような高分子層は、有機層を部分的に破壊することによって有機エレクトロルミネセント積層体の一番上の有機層に対する対向電極の接着力を弱める。塗布後、これらのポリマは固められる又は硬化される必要があり、これは、溶媒の蒸発によって又は成分の反応によって実現される。硬化プロセスは、熱によって又は紫外光の利用によって開始又は加速される。
【0032】
本発明は、更に、
基板電極で覆われた基板を与えるステップと、
上記基板電極の上に、上記基板電極を部分的に覆うエレクトロルミネセント積層体を堆積するステップであって、好ましくは、上記エレクトロルミネセント積層体により覆われる上記基板電極の領域を規定するマスクを用いる当該ステップと、
上記エレクトロルミネセント積層体を少なくとも覆う対向電極を堆積するステップと、
対向電極及び短絡防止層の少なくとも二重層に導入される切込み部近傍の上記二重層をロールアップするのに適した引張応力を上記二重層にもたらす短絡防止層を上記対向電極の上に堆積するステップと、
上記二重層が、上記エレクトロルミネセント積層体の上に設けられた或る領域、好ましくは上記エレクトロルミネセント積層体の上記領域の外縁部の近くに設けられた或る領域において少なくとも上記二重層に上記切込み部を導入するステップと、
上記切込み部が導入された上記二重層の領域を少なくとも覆う電気絶縁層を上記二重層の上に堆積するステップと、
上記切込み部近傍の上記エレクトロルミネセント積層体に対する上記二重層の接着力を弱めるために、先に堆積された上記電気絶縁層によって上記切込み部近傍の上記基板電極と上記対向電極との間に配されている上記エレクトロルミネセント積層体を溶解するステップと、
上記切込み部付近の上記二重層がロールアップするステップと、
上記電気絶縁層を固める又は硬化するステップと
を有する本発明に係る有機エレクトロルミネセントデバイスを製造する方法に関連している。
【0033】
上記方法の一形態では、切込み部を導入するステップが、機械的切断及び/又はレーザ切断を有し、好ましくは、少なくとも上記二重層のレーザアブレーションを有している。一例として、機械的切断は、メス(scalpel)により手作業で高い精度で行われる。代替として、機械的切取りプロセスは、適切な切断機によって自動的に行われる。代替として、レーザ切断のような方法は、所望の切断深さに依存して作製されるように積層体全体又は下部の他の層を残して幾つかの層のみを切り取ることを可能にする非接触式の技術である。切込み部の形状及び切断線の形状が、焦点径、レーザ出力、処理速度及び(二重スキャン等のような)処理間隔のような適用されるレーザパラメータによって要求通りに調節され得る。レーザの切込み部は、非常に速く作製され、有機エレクトロルミネセントデバイスの製造速度を向上させる。好ましい形態では、切込み部が幾つかの層のみを貫通し、損なわれていない下部の他の層を残す場合、レーザアブレーション(レーザ切断の特別な分野)が適用される。
【0034】
上記方法の好ましい形態では、上記切込み部が、上記二重層の領域内に閉じたラインを形成し、好ましくは、上記エレクトロルミネセント積層体により覆われた領域の外縁部の近くに配された閉じたラインを形成する。
【0035】
上記エレクトロルミネセント積層体の層の堆積は、任意の適切な手段により行われる。当業者に広く知られている好ましい堆積技術のグループは、気相成長技術である。そのような技術は、減圧CVD法(LPCVD)のような化学的気相成長法(CVD)又はスパッタリング若しくは電子ビーム蒸着のような物理的気相成長法(PVD)を有している。好ましい形態では、上記短絡防止層は、先に他の層で覆われた基板の上に堆積される際、層に容易に再現可能な応力の状態を与える真空蒸着によって堆積される。短絡防止層は、典型的には、直接又は間接的に加熱されたるつぼを用いて室温に保たれた基板上に堆積される。銅及びマンガンに関する堆積速度は、0.1から1nm/秒までに及んでいる。上記電気絶縁層は、環境条件、例えば周囲圧力の下で室温で堆積される。この堆積は、乾燥雰囲気中、好ましくは乾燥窒素雰囲気中で行われる。全部のエレクトロルミネセント積層体の堆積後に絶縁層を塗布する可能性は、プロセスコストを下げ、液体の形態の絶縁層の塗布も可能である。電気絶縁層は、好ましくは、対向電極及び短絡防止層を完全に覆っている。好ましい形態では、電気絶縁層は、スプレーコーティング又は印刷により堆積され、好ましくは、スクリーン印刷又はタンポン印刷により堆積される。スプレーコーティングの利点は、速く、簡単且つ安価な技術であることである。堆積速度も高く、マイクロメートルの範囲の厚さで層を堆積することを可能にする。電気絶縁層の材料は、ポリマであり、好ましくは、絶縁層を凝固させるために熱及び/又は紫外線硬化に適した溶媒又は反応成分(例えば、二成分の混合物)を有するポリマである。二成分の混合物は、この場合、硬化剤及び結合剤を有している。利点は、絶縁層が更なるプロセスステップを伴うことなくそれ自体によって凝固することにある。そのようなポリマは、有機層を部分的に溶解することによって有機エレクトロルミネセント積層体の一番上の有機層に対する対向電極の接着力を弱める。
【0036】
上記方法の好ましい形態では、上記電気絶縁層は、対向電極及び短絡防止層を完全に覆っている。このケースでは、切込み部は、要求通りに任意の場所において積層体に導入されている。部分的にのみ与えられる電気絶縁層は、電気絶縁層により覆われた領域に対する切込み部の数及び切込み部の形状を制限する。完全に覆われたエレクトロルミネセントデバイスは、適用される切れ込み部に最大の範囲の変化を与える。1つの単一のデバイスは、単に要求に応じて必要とされる場所に切込み部を適用して異なって構造化された製品に変更され得る。
【0037】
本発明は、更に、有機エレクトロルミネセントデバイスの初起動の前の対向電極と基板電極との間の短絡を防ぐために、切込み部付近の基板電極と対向電極との間に配されている少なくとも1つの有機エレクトロルミネセント層を部分的に溶解した後、上記切込み部付近において対向電極及び短絡防止層の二重層をロールアップするのに適した引張応力を持つ好ましくは銅又はマンガンで作られた短絡防止層の本発明に係る有機エレクトロルミネセントデバイスにおける使用に関連している。
【0038】
切込み部に沿った短絡を防止するための短絡防止層の使用は、任意の種類のOLEDデバイスに容易に適用可能であり、代替の解決策と比較して有利である。また、有機エレクトロルミネセントデバイスを動作させる前も短絡が防止され、これは、任意の漏れ電流を防ぎ、その後のこれらの漏れ電流に起因するエレクトロルミネセント積層体の任意の経年劣化効果を防止する。
【0039】
上記OLEDデバイスに関する説明を読むと、本発明に係る方法の好ましい形態は、当業者には容易に明らかであろう。しかしながら、以下に好ましい実施の形態の幾つかが明示的に開示される。
【0040】
本発明のこれらの観点及び他の観点は、以下に説明される実施の形態から明らかであり、以下に説明される実施の形態を参照して理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る有機エレクトロルミネセントデバイスの製造中のエレクトロルミネセント積層体を堆積するステップである。
【図2】対向電極及び短絡防止層の堆積後の本発明に係る有機エレクトロルミネセントデバイスの模式的な断面図である。
【図3】導入された切込み部を有する本発明に係る有機エレクトロルミネセントデバイスの模式的な断面図である。
【図4】導入された切込み部を有する本発明に係る有機エレクトロルミネセントデバイスの模式的な平面図である。
【図5】切込み部を導入した後の本発明に係る有機エレクトロルミネセントデバイスの模式的な断面図である。
【図6】電気絶縁層及び切込み部付近のロールアップした二重層を有する本発明に係る有機エレクトロルミネセントデバイスの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1は、エレクトロルミネセント積層体を堆積した後の有機エレクトロルミネセント(OLED)デバイスの模式的な断面図である。この製造の状態では、OLEDデバイスは、例えば、平坦なガラス基板2を有しており、ガラス基板2の上に、基板電極3としての120nmの層厚さの透明なITOアノードがスパッタリング又はCVDにより堆積されている。基板電極3の上に、25nmの厚さの4%F4−TCNQがドープされたNHT−5α−NPDの正孔注入層と、10nmの厚さのα−NPDの正孔輸送層と、30nmの厚さの埋め込まれた発光小分子を有するマトリクス材料の有機発光層と、50nmの厚さのTPBIの電子輸送層とを有する有機エレクトロルミネセント積層体4が真空蒸着により堆積されている。当業者であれば、本発明の範囲内において、追加の層を伴う、より少ない数の層を伴う又は有機発光層のみを伴う場合さえもある代替のエレクトロルミネセント積層体を選択することも可能である。真空蒸着は、堆積される材料が蒸着源から基板まで直線経路をたどり、指向性の堆積がもたらされる蒸着技術である。エレクトロルミネセント積層体4はシャドウマスクMによって構造化されており、シャドウマスクMは、破線によって示されているシャドウマスクMの下で基板電極3の領域をシールドして、エレクトロルミネセント積層体4で被覆されないようにしている。
【0043】
図2は、上記エレクトロルミネセント積層体の上に対向電極5及び短絡防止層6を堆積した後の有機エレクトロルミネセント(OLED)デバイスの模式的な断面図である。一例として、対向電極5は、有機エレクトロルミネセント積層体4の上に蒸着された100nmの厚さのアルミニウム層である。対向電極5の上には、銅よりなる短絡防止層6が100nmの層厚さで作製されている。短絡防止層6及び対向電極5は、銅の短絡防止層6の調整状況、ここでは真空蒸着であって選択される層の厚さが、ここでは100nmにより引き起こされる引張応力TSを備える接着二重層DLを形成する。上記引張応力は、下部の層、ここでは有機エレクトロルミネセント積層体4に対する対向電極5の接着性が弱い場合、二重層DLをロールアップすることが考えられる。いかなる切り取りによっても妨げられない領域では二重層DLのロールアップを防ぐために、短絡防止層6の引張応力は、対向電極5の上に短絡防止層6を堆積した後、二重層DLをロールアップするのに十分ではないように調節される。二重層DLの堆積に関してシャドウマスクは用いられない。従って、二重層DLはエレクトロルミネセント積層体4によって先に覆われていない基板電極3の領域まで延在し、これは、この製造の中間ステップにおいてOLEDを非動作状態にする基板電極3と対向電極5との直接的な電気的接触を与える。しかしながら、二重層の堆積プロセスに関する労力及び精度の要求は低減され、これは、より安価でより信頼性の高い堆積プロセスをもたらす。層のずれによる欠陥率は、このプロセスステップのために妨げられ、これは歩留まりの上昇をもたらす。
【0044】
図3は、導入された切込み部7を有する本発明に係る有機エレクトロルミネセントデバイスの模式的な断面図を示している。切込み部7は、対向電極5及び短絡防止層6の二重層DLを基板電極3から電気的に絶縁された第1の領域A1(破線矢印)と基板電極3に電気的に接続された第2の領域A2(破線矢印)とに分割する(電極が短絡する。)。二重層DLの第2の領域A2の下に位置するエレクトロルミネセント層4の部分は、電極が短絡するので、光を発することができない。両電極は、導入された切込み部7によって互いに電気的に絶縁され、電極に動作電圧を与えるために電極供給部に個々に接続され得るので、二重層DLの第1の領域A1の下部のエレクトロルミネセント層4は、従来通り動作し、OLEDのこの部分から発光が与えられる。切込み部7は、少なくとも二重層DL(を通り抜けて)まで導入されなければならない。ここでは、切込み部7は、基板電極3まで伸びている。切込み部7は、本発明の範囲内において第1及び第2の領域A1,A2に位置する二重層を切り離す任意の適切な切取り手段71によってもたらされる。一例として、機械的切取り手段71は、メス(scalpel)である。機械的切取りプロセスは、メスを備えた適切な切断機によって自動的に行われる。代替として、切取り手段71は、二重層をレーザ切断する適切なレーザである。レーザ技術の利点は、損なわれていない下部の他の層を残す選択を与える非接触式の切断プロセスである。また、切込み部7の形状及び切断線の形状が、焦点径、レーザ出力、処理速度及び(二重スキャン等のような)処理間隔のような適用されるレーザパラメータによって要求通りに調節され得る。レーザの切込み部7は、非常に速く作製され、有機エレクトロルミネセントデバイスの製造速度を向上させる。好ましい実施の形態では、切込み部7が幾つかの層のみを貫通し、損なわれていない下部の他の層を残す場合、レーザアブレーション(レーザ切断の特別な分野)が適用される。
【0045】
図4は、導入された切込み部7を有する本発明に係るOLEDデバイス1の模式的な平面図を示している。切込み部7は、発光する第1の領域A1の外縁部を形成する閉じたライン、ここでは矩形のラインである。上記発光領域は、図4では、Lで示されている太陽の印によって表されている。基板2は、基板電極3によって部分的に覆われている。基板電極3は、二重層DLによって部分的に覆われており、この図では二重層DLは一番上の層としての短絡防止層6のみが示されている。閉じた切込み部7は、二重層(ここでは、対向電極上の短絡防止層6)を第2の領域A2(外側領域)とこの場合は光Lを発することができる第1の領域A1(内側領域)とに分割している。
【0046】
しかしながら、短絡防止層6の上に堆積された電気絶縁層のようないかなる追加の層も伴わない場合、図5に示されているように切込み部7に沿った層の縁部において短絡9の危険性が生じる。有機エレクトロルミネセントデバイスの動作中、カソード層5と基板電極層3との間に2ないし10Vが印加される。そのような電圧は、エレクトロルミネセント積層体の厚さ及び印加電圧に依存して有機層内に20ないし100kV/mmの電界をもたらす。上記有機層は、非常に高抵抗の半導体とみなされ得る。有機エレクトロルミネセント層4は対向電極5を基板電極3から絶縁しないので、切込み部7の周りに臨界領域が存在する。導電性の基板電極3の表面は、切込み部7に沿って、有機層についてよりも非常に低い絶縁破壊電界を切込み部7に沿ってもたらす有機層よりも非常に低い誘電率を有する環境ガスに曝され、動作中、切込み部7に沿って対向電極5と基板電極3との間に短絡9を引き起こす。そのような短絡9は、OLEDデバイス1を破壊してしまう。いかなる追加の方策も伴わない場合、切込み部7の縁部における対向電極3の小さい曲率半径は、層の縁部における電界を著しく集中させ、短絡9を招く。
【0047】
図6は、短絡防止層6及び対向電極5が短絡防止層6及び対向電極5の二重層DLの上に堆積された電気絶縁層8で覆われた本発明に係るエレクトロルミネセントデバイスを示している。積層体の上に堆積される際の電気絶縁層8の粘性は低いので、電気絶縁層8は、切込み部7の周囲及び内部の領域も覆うことができ、これは、層構造体内の切込み部7の縁部においてロールアップされた対向電極5から基板電極3に電流が流れることを防止する。電気絶縁層8は、有機エレクトロルミネセント積層体4の一部を溶解し、従って、対向電極5の下部の有機層4への対向電極5の接着力を弱める。対向電極5の下部の有機層4への対向電極5の接着力が弱められた領域に関して、短絡防止層6により引き起こされる引張応力TS(破線矢印)は、対向電極5及び短絡防止層6の二重層DLをロールアップ10するのに十分である。二重層DLの第2の領域A2の下部に存在するエレクトロルミネセント層4は、図5と図6との比較から導かれるように、電気絶縁層8によって生じる溶解プロセス中に完全に消滅する。
【0048】
ロールアップ部10は、対向電極5と基板電極3との間の短絡9を防止するための対向電極の縁部の必要とされる形状である。(所謂ロゴスキープロファイルに似た)この形状は、対向電極縁部における電界が影響を受けていない有機エレクトロルミネセント積層体4内の平均電界よりも決して大きくないことを保証する。従って、電界強度の高まりの完全な回避が可能である。図2に示されているような対向電極の形状(ロールアップ)は、切込み部7の縁部における短絡9の発生を完全に回避する。
・第1に、対向電極5は、有機層4に直接接して、例えばアルミニウム又は銀で作られる。
・第2に、柔らかいアルミニウムよりも強い残留内部応力を持つより硬い金属の層が、短絡防止層6として対向電極5の上に堆積される。テストでは銅が好ましく用いられたが、マンガンのような他の金属も適している。例えばMgFのような高い引張応力を持つ非金属層も用いられ得る。引張応力が有機層への対向電極の接着力を超えることは対向電極の完全な層剥離を招くので、引張応力が有機層への対向電極の接着力を超えないようにこの層の厚さを調節する注意がなされなければならない。一例として、そのような結果は50nmよりも厚いマンガンの層の場合に生じ得る。
・第3に、この層構造体は、電気絶縁層8としての高分子溶液、例えば、最も簡単な事例では絶縁性ラッカー又はスプレーによりコーティングされる。
【0049】
上記コーティング部の溶媒又は反応物質は、切込み部7付近の有機層を溶解する。対向電極層5が損なわれていない場合、溶媒又は反応物質の攻撃(層の溶解)は阻止される。溶媒の有機層4との相互作用は、切込み部7付近において対向電極の金属5を部分的に分離する。その後、短絡防止層6に起因する誘導応力が、基板電極3からの対向電極及び短絡防止層の二重層DLのロールアップ10を引き起こし、切込み部7に沿った電界強度を低下させる。
【0050】
ロールアップされた二重層DLの新しい形状は、切込み部7に沿って電界を著しく低下させる。分離し、ロールアップされた二重層DL間に作られる自由空間は電気絶縁層8により埋められ、2つの電極が確実に絶縁される。
【0051】
一例として、電気絶縁層8は、絶縁性のラッカースプレー(Farnell社からのURETHAN 71スプレー)から作られ、2マイクロメートルの層厚さである。上記コーティング部は、OLEDを30分間60℃に加熱し、1時間真空乾燥させることにより熱硬化される。対向電極5は切込み部に沿って分離するので、ロールアップ後に対向電極によって覆われていないエレクトロルミネセント積層体の最も外側の領域は、光を発しない。ラッカー層の乾燥後、デバイスは正常に動作し、ブレイクスルーは起こらなかった。
【0052】
上述した実施の形態は、有機エレクトロルミネセント積層体4を有している。全ての上述したプロセスは、エレクトロルミネセント積層体が1つの有機発光層4のみを含む場合にも有効である。
【符号の説明】
【0053】
1 有機エレクトロルミネセントデバイス(OLED)
2 基板
3 基板電極
4 エレクトロルミネセント積層体、少なくとも1つの有機発光層
5 対向電極
6 短絡防止層
7 切込み部
71 切取り手段
8 電気絶縁層
9 切込み部に沿った層の縁部における電気的短絡
10 切込み部付近のロールアップされた二重層
DL 二重層
TS 引張応力
L 発光領域
M シャドウマスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の上の基板電極と、前記基板電極の上の少なくとも1つの有機発光層を有するエレクトロルミネセント積層体と、前記エレクトロルミネセント積層体を少なくとも覆う対向電極と、前記対向電極を覆う短絡防止層であって、対向電極及び短絡防止層の二重層を構築する当該短絡防止層と、前記短絡防止層上に少なくとも一部がある電気絶縁層とを有する有機エレクトロルミネセントデバイスであって、前記エレクトロルミネセント積層体の上に前記二重層が設けられている或る領域において、少なくとも前記二重層に導入される切込み部近傍の前記電気絶縁層の堆積後の前記二重層をロールアップするのに適した引張応力が前記短絡防止層によって前記二重層内に引き起こされ、前記切込み部は前記対向電極を前記基板電極から電気的に切断するのに適し、前記電気絶縁層は、前記切込み部において前記エレクトロルミネセント積層体を部分的に溶解して前記切込み部付近において前記二重層をロールアップするため、前記切込み部近傍の前記エレクトロルミネセント積層体に対する前記二重層の接着力を弱めるために前記導入された切込み部を持つ前記二重層の前記領域を少なくとも部分的に覆った、当該有機エレクトロルミネセントデバイス。
【請求項2】
前記切込み部が、前記二重層の領域内に閉じたラインを形成し、好ましくは、前記エレクトロルミネセント積層体により覆われた領域の外縁部の近くに配された閉じたラインを形成していることを特徴とする、請求項1記載の有機エレクトロルミネセントデバイス。
【請求項3】
前記短絡防止層が、マンガン、銅、フッ化マンガン若しくは銀の群の少なくとも1つの材料、当該材料を有する合金又は当該材料と当該合金との組み合わせで作られたことを特徴とする、請求項1又は2記載の有機エレクトロルミネセントデバイス。
【請求項4】
前記短絡防止層が、前記絶縁層の堆積後、前記切込み部近傍の前記対向電極をロールアップするのに適した応力を与える層厚さを有し、好ましくは、20nmよりも大きい、より好ましくは40nmよりも大きい、更により好ましくは60nmよりも大きい層厚さを有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセントデバイス。
【請求項5】
前記対向電極の厚さが、140nm未満、好ましくは10から100nmの間、より好ましくは20から80nmの間、更により好ましくは30から50nmの間であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセントデバイス。
【請求項6】
前記電気絶縁層が、少なくとも1マイクロメートルの、好ましくは少なくとも1.5マイクロメートルの、より好ましくは2マイクロメートルよりも大きい、更により好ましくは5マイクロメートルよりも大きい層厚さを有することを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセントデバイス。
【請求項7】
前記電気絶縁層は高分子層であり、好ましくは、溶媒又は反応成分を始めに有する高分子層であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセントデバイス。
【請求項8】
基板電極で覆われた基板を与えるステップと、
前記基板電極の上に、前記基板電極を部分的に覆うエレクトロルミネセント積層体を堆積するステップであって、好ましくは、前記エレクトロルミネセント積層体により覆われる前記基板電極の領域を規定するマスクを用いる当該ステップと、
前記エレクトロルミネセント積層体を少なくとも覆う対向電極を堆積するステップと、
対向電極及び短絡防止層の少なくとも二重層に導入される切込み部近傍の前記二重層をロールアップするのに適した引張応力を前記二重層にもたらす短絡防止層を前記対向電極の上に堆積するステップと、
前記二重層が、前記エレクトロルミネセント積層体の上に設けられた或る領域、好ましくは前記エレクトロルミネセント積層体の前記領域の外縁部の近くに設けられた或る領域において少なくとも前記二重層に前記切込み部を導入するステップと、
前記切込み部が導入された前記二重層の領域を少なくとも覆う電気絶縁層を前記二重層の上に堆積するステップと、
前記切込み部近傍の前記エレクトロルミネセント積層体に対する前記二重層の接着力を弱めるために、先に堆積された前記電気絶縁層によって前記切込み部近傍の前記基板電極と前記対向電極との間に配されている前記エレクトロルミネセント積層体を溶解するステップと、
前記切込み部付近の前記二重層がロールアップするステップと、
前記電気絶縁層を固める又は硬化するステップと
を有する、請求項1記載の有機エレクトロルミネセントデバイスを製造する方法。
【請求項9】
前記切込み部を導入するステップが、機械的切断及び/又はレーザ切断を有し、好ましくは、少なくとも前記二重層のレーザアブレーションを有することを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記切込み部が、前記二重層の領域内に閉じたラインを形成し、好ましくは、前記エレクトロルミネセント積層体により覆われた領域の外縁部の近くに配された閉じたラインを形成することを特徴とする、請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
前記短絡防止層が真空蒸着により堆積されることを特徴とする、請求項8ないし10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記電気絶縁層が前記対向電極及び前記短絡防止層を完全に覆うことを特徴とする、請求項8ないし11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記電気絶縁層がスプレーコーティング又は印刷により堆積され、好ましくは、スクリーン印刷又はタンポン印刷により堆積されることを特徴とする、請求項8ないし12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
堆積後に前記電気絶縁層を硬化するステップを更に有し、好ましくは、堆積された前記電気絶縁層の紫外光への露光及び/又は温度の上昇を介して前記電気絶縁層を硬化するステップを更に有することを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
有機エレクトロルミネセントデバイスの初起動の前の対向電極と基板電極との間の短絡を防ぐために、切込み部付近の基板電極と対向電極との間に配されている少なくとも1つの有機エレクトロルミネセント層を部分的に溶解した後、前記切込み部付近において対向電極及び短絡防止層の二重層をロールアップするのに適した引張応力を持つ好ましくは銅又はマンガンで作られた短絡防止層の請求項1記載の有機エレクトロルミネセントデバイスにおける使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2013−512540(P2013−512540A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540519(P2012−540519)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【国際出願番号】PCT/IB2010/055216
【国際公開番号】WO2011/064692
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】