説明

有機エレクトロルミネッセンスデバイス

【課題】固体封止構造または膜封止構造を有する有機エレクトロルミネッセンスデバイスにおいて、封止層にダメージを与えることなく短絡箇所の修復を行うことが可能な有機エレクトロルミネッセンスデバイスを提供する。
【解決手段】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンスデバイスは、 少なくとも一方が金属層からなる第1および第2電極と、前記第1および第2電極の間に設けられた有機材料からなる有機機能層と、前記金属層を覆うバッファ層と、前記バッファ層を覆い且つ層内に複数の空隙を有する空隙含有層と、前記第1および第2電極、前記有機機能層、前記バッファ層および前記空隙含有層を含む積層構造体を被覆する封止層と、を含む。前記バッファ層は、前記金属層を構成する金属の融点よりも低い温度で気化する材料であって前記封止層と同一の材料を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンスデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンスデバイス(以下有機ELデバイスと称する)は、自己発光型の面発光デバイスであり、視認性が高い、低電圧駆動が可能、ブロードな発光スペクトルを有するといった理由から、ディスプレイや照明用途への実用化の研究が積極的に行われている。有機ELデバイスは、例えば、ガラス基板上に第1電極(陽極)、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、第2電極(陰極)を順次積層して構成される。有機ELデバイスは電流注入によりエレクトロルミネッセンスを得るデバイスであり、液晶ディスプレイのような電界デバイスに比して大きな電流を流す必要がある。
【0003】
有機ELデバイスでは、陽極と陰極との間に設けられる有機層の膜厚がサブミクロンオーダーであるため、微小なゴミや有機層の欠陥に起因して電流リークが発生する可能性がある。電流リークが生じると、非発光部が生じたり、発熱により周辺のセルにダメージが波及する場合もある。
【0004】
特許文献1には、電極間に逆バイアス電圧を印加してリーク部を形成する電極材料を蒸発させることにより、短絡箇所を自己修復する技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、短絡箇所にレーザを照射して溶融除去することにより、短絡箇所の修復を行う技術を開示している。
【0006】
特許文献3には、第1電極と有機発光層との間に有機導電性材料からなる剥離抑制膜を形成し、レーザ照射により剥離抑制層を蒸発させて空洞部を形成することにより短絡箇所の修復を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−214084号公報
【特許文献2】特開2003−229262号公報
【特許文献3】特開2006−269108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機ELデバイスは、酸素や水分によって急速に劣化することから封止構造を有する。封止構造としては、封止缶の如き中空封止構造が一般的である。上記した特許文献1および2に記載された逆バイアスまたはレーザ照射による短絡箇所の修復は、有機ELデバイスの封止構造が中空封止構造である場合には有効であると考えられる。中空封止構造の場合、除去すべき電極材料(金属)を飛散させるための空間が存在するからである。しかしながら、近年デバイスの薄型化やフレキシブル化の要求が高まりつつあるところ、中空封止構造ではこれらの要求に対応するのが困難である。
【0009】
デバイスの薄型化を可能とする封止構造としては、ガラス等からなる板材を上部電極に貼り付けて封止する固体封止構造やSiOやSiN等の無機材料からなる薄膜で有機EL素子全体を被覆して封止する膜封止構造がある。固体封止構造や膜封止構造の場合、上部電極と封止層との間に電極材料を飛散させるための空間が存在せず、上記した逆バイアスまたはレーザ照射による短絡箇所の修復は困難である。特に膜封止構造の場合、そのような修復を行うと溶融・蒸発した金属の熱や衝撃によって封止膜の破壊を引き起こすおそれがある。
【0010】
一方、デバイスのフレキシブル化に対応する場合、基板に樹脂フィルムを使用する。樹脂フィルムは高い防湿性能を望めないため、樹脂フィルム表面に防湿膜を形成する必要がある。このような、樹脂フィルムを用いたデバイスにおいても逆バイアスまたはレーザ照射による短絡箇所の修復は困難である。そのような修復を行うと、樹脂フィルム上を覆う防湿膜が破壊されるだけでなく、場合によっては溶融金属の熱により樹脂フィルムが溶融又は発火するおそれもある。
【0011】
また、上記特許文献3に記載の如きレーザ照射によって層間に空隙を形成する方法は、空隙の形状の保持が困難であり、修復した短絡箇所が元の状態に戻り、リークが再発するおそれがある。
【0012】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、固体封止構造または膜封止構造を有する有機エレクトロルミネッセンスデバイスにおいて、封止層にダメージを与えることなく短絡箇所の修復を行うことが可能な有機エレクトロルミネッセンスデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の有機エレクトロルミネッセンスデバイスは、少なくとも一方が金属層からなる第1および第2電極と、前記第1および第2電極の間に設けられた有機材料からなる有機機能層と、前記金属層を覆うバッファ層と、前記バッファ層を覆い且つ層内に複数の空隙を有する空隙含有層と、前記第1および第2電極、前記有機機能層、前記バッファ層および前記空隙含有層を含む積層構造体を被覆する封止層と、を含み、前記バッファ層は、前記金属層を構成する金属の融点よりも低い温度で気化する材料であって前記封止層と同一の材料を含むことを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1に係る有機エレクトロルミネッセンスデバイスの構成を示す断面図である。
【図2】図2(a)は本発明の実施例に係る有機エレクトロルミネッセンスの短絡部の修復前の状態を示す断面図、図2(b)は短絡部修復後の状態を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例2に係る有機エレクトロルミネッセンスデバイスの構成を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例3に係る有機エレクトロルミネッセンスデバイスの構成を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例4に係る有機エレクトロルミネッセンスデバイスの構成を示す断面図である。
【図6】本発明の実施例5に係る有機エレクトロルミネッセンスデバイスの構成を示す断面図である。
【図7】本発明の実施例6に係る有機エレクトロルミネッセンスデバイスの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンスデバイスは、少なくとも一方が金属層からなる第1および第2電極と、第1および第2電極の間に設けられた有機材料からなる有機機能層と、金属層に隣接し、且つ層内に複数の空隙を有する空隙含有層と、を含んでいる。
【0016】
このような本発明の構成によれば、第1および第2電極間を短絡せしめる金属を溶融させて短絡部を除去する修復を行った場合、溶融した金属を空隙含有層に吸収させることが可能となる。空隙含有層は、金属の吸収によって膨張または変形することはないので、有機ELデバイスが固体封止構造または膜封止構造を有する場合であっても封止層に損傷を与えることなく短絡箇所の修復を行うことが可能となる。
【0017】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。尚、以下に示す図において、実質的に同一又は等価な構成要素、部分には同一の参照符を付している。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例1に係る有機ELデバイス1の構造を示す断面図である。有機ELデバイス1は、基板10上に第1電極12、有機機能層14、第2電極16、空隙含有層18、封止層20を順次積層することにより形成される。有機ELデバイス1は、有機機能層14において生成された光を基板10側から光を取り出す所謂ボトムエミッション型の発光デバイスである。
【0019】
基板10は、ガラス等の光透過性を有する材料により構成される。陽極である第1電極(下部電極)12は、例えばスパッタリング法により厚さ100nm程度のITO(Indium Tin Oxide)またはIZO(Indium Zinc Oxide)などの光透過性を有する導電性金属酸化物を基板10上に成膜した後、エッチングによりパターニングすることで形成される。
【0020】
有機機能層14は、基板10上において第1電極12を覆うようにホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子注入層をこの順で積層することにより構成される。ホール注入層は例えば厚さ10nm程度の銅フタロシアニン(CuPc)により構成され、ホール輸送層は例えば厚さ50nm程度のα−NPD(Bis[N-(1-naphthyl)-N-pheny]benzidine)により構成され、発光層は例えば厚さ50nm程度のAlq3(tris-(8-hydroxyquinoline)aluminum)により構成され、電子注入層は例えば厚さ1nm程度のフッ化リチウム(LiF)により構成される。有機機能層14を構成する上記各層は例えばマスク蒸着法やインクジェット法などにより成膜することができる。
【0021】
陰極である第2電極16は、マスク蒸着法等により基板10上において有機機能層14を覆うように厚さ100nm程度のAlを成膜することで形成される。第2電極16の他の材料としては、Mg−AgやAl−Li等の比較的仕事関数の低い合金が好適である。
【0022】
空隙含有層18は、空隙含有構造を有する層であり、例えば内部に多数の空隙を有する多孔質材料により構成される。空隙含有層18は、例えば、ポリシラザンなどの絶縁性を有する材料を低温で焼成することによって形成される。ポリシラザンは、有機溶剤に可溶な無機ポリマーであり、有機溶媒溶液を塗布液として用い、大気中または水蒸気含有雰囲気で焼成することにより、アモルファスSiO膜が得られる。ポリシラザンは通常400℃程度で焼成を行うが、焼成温度を例えば100℃程度とすることにより有機機能層14にダメージを与えることなく多孔質のSiO膜が得られる。空隙含有層18は、基板10上において陰極16を全体的に覆うように形成される。空隙含有層18は、多孔質であるため水分を吸着しやすい。空隙含有層18が水分を吸着している状態で封止すると、有機ELデバイス1を構成する各層の劣化を引き起こすため、空隙含有層18を形成する前に有機機能層14を構成する有機材料のガラス転移温度Tg以下にて真空乾燥処理を実施することが好ましい。
【0023】
封止層20は、SiNx、SiON、SiOx、AlOx、AlN等の無機材料からなる薄膜により構成される。封止層20は、空隙含有層18上に設けられ、基板10上において第1電極12、有機機能層14、第2電極16、および空隙含有層18を封止する。封止層20は、外部からの酸素や水分の侵入を防止する役割を担う。封止層20の成膜方法としては、蒸着法、スパッタ法、CVD法などが挙げられる。特にCVD法はカバレッジ性が良好であり、防湿性の高い膜を容易に形成することができる。
【0024】
図2(a)は、有機機能層14に生じたピンホール内に第2電極16を構成する金属が侵入して短絡状態となった有機ELデバイス1の断面図である。短絡部16aにおいて第2電極16は、第1電極14に接続されて短絡状態となっている。図2(b)は、短絡部16aの修復後における有機ELデバイス1の断面図である。
【0025】
短絡箇所の修復は、例えば第1電極12と第2電極16との間に電力を印加して行う。電力印加によって短絡部16aに電流が集中し、これによって短絡部16aが発熱し、溶融する。第2電極16上に設けられた空隙含有層18は多孔質であるため溶融した金属は、毛細管現象によって空隙含有層18に含浸する。すなわち、ピンホール内に侵入した金属は、空隙含有層18に吸収され、これによって短絡部16aを構成する金属が除去される。空隙含有層18は、溶融した金属を取り込む複数の空隙を有する故、溶融金属を吸収したことにより膨張したり、形状が大きく変形することはない。従って、空隙含有層18上に設けられた封止層20が損傷することもないので、短絡部の修復に伴って封止層20の封止性能が害されることもない。尚、短絡部の修復方法としては、電極間に電力を印加する方法に限らず、短絡部16aにレーザを照射してピンホール内に侵入した金属を溶融させる方法であってもよい。また、上記の修復方法は、例えば第1および第2電極間に混入した電極材料以外の導電性異物を除去する場合も有効である。
【0026】
このように、本実施例に係る有機ELデバイスによれば、金属からなる第2電極16上に多孔質の空隙含有層18が設けられる。これにより、電力印加やレーザ照射により短絡部を形成する金属を溶融させて短絡部の除去を行う修復を実施した場合、溶融した金属を空隙含有層18に吸収させることができる。このとき、空隙含有層18は、膨張したり、大きく変形したりすることはないので、封止層をデバイス層に密着形成する膜封止構造であっても、封止層の破壊を回避することが可能となる。また、空隙含有層18に吸収された金属は、空隙含有層18内に保持されるため、短絡部が元の状態に戻り、リークが再発するといった不具合が生じるおそれもない。
【0027】
上記した実施例においては、上部電極である第2電極16が金属層を形成する場合を例に説明した。下部電極である第1電極12が金属層を形成する場合には、基板10と第1電極12との間に空隙含有層18を形成する。すなわち、空隙含有層18を第1電極12および/または第2電極16を構成する金属層に隣接して設けることにより、金属を溶融させて行うリーク箇所の修復に伴う弊害を防止することが可能となる。
(空隙含有層の他の構成例)
上記した実施例においては、空隙含有層18を多孔質材料により構成する場合を例示したが、これに限定されるものではない。以下に空隙含有層18を実現する他の構成例をいくつか示す。
【0028】
空隙含有層18は、微細な三次元網目構造を有する繊維状材料で構成することができる。具体的には、ガラス繊維、セラミック繊維、有機繊維、バイオナノファイバ等を網目状に織ったものなどが挙げられる。網目構造内において複数の空隙が形成される。空隙含有層18は、例えば、ノボラック系樹脂等からなるバインダを用いて網目構造が保持されていてもよい。このような繊維材料からなる網目構造体は、第2電極16上に樹脂系接合材等を用いて固定される。このように、空隙含有層18を三次元網目構造を有する繊維状材料で構成する場合でも、溶融した金属を毛細管現象によって空隙含有層18に含浸させることが可能となり、上記した多孔質材料で空隙含有層18を構成する場合と同様の効果を得ることができる。
【0029】
また、空隙含有層18は、ガラス粒子やセラミック粒子等の粒状体を多数含む層により構成することができる。この場合、空隙は隣接する粒状体の間に形成される。粒状体は、樹脂バインダ等を用いて成膜することができる。粒状体の粒径やバインダの粘度等を調整することにより、空隙を残したまま成膜することが可能である。また、固体封止構造においては、予め封止基板上に粒状体を積層したものをデバイスに貼り付けてもよい。このように、空隙含有層18を複数の粒状体を含む層で構成する場合でも、溶融した金属を毛細管現象によって空隙含有層18に含浸させることが可能となり、上記した多孔質材料で空隙含有層18を構成する場合と同様の効果を得ることができる。
【0030】
また、空隙含有層18は、エンボス加工等により表面に複数の凹凸を形成したガラス板やセラミック板等の板材により構成することができる。この場合、板材に形成された凹部が空隙となり、短絡部の修復時において溶融した電極材料(金属)を受け入れる。このように、空隙含有層18を複数の凹凸を含む板材で構成する場合でも、溶融した金属を毛細管現象によって空隙含有層18に含浸させることが可能となり、上記した多孔質材料で空隙含有層18を構成する場合と同様の効果を得ることができる。
【0031】
また、空隙含有層18は、溶融した電極材料(金属)を吸収する機能を高めるために、空隙含有層自体が電極材料に対して良好な濡れ性を示す材料で構成されるか、少なくとも空隙含有層18内部における空隙を画定する壁部が電極材料に対して良好な濡れ性を示す材料で被覆されていることが好ましい。例えば第2電極16がAlからなる場合、空隙含有層18を窒化アルミニウム(AlN)で構成するか、空隙部を画定する隔壁部をAlNでコーティングすることにより、第2電極16に対する濡れ性の高い空隙含有層18を形成することができる。例えば、AlNの粒子をバインダで結合したもので空隙含有層18を構成してもよい。
【実施例2】
【0032】
図3は、本発明の実施例2に係る有機ELデバイス2の構成を示す断面図である。実施例2に係る有機ELデバイス2は、第2電極16と空隙含有層18との間にバッファ層30を有する点で上記した実施例1に係る有機ELデバイス1と異なる。
【0033】
バッファ層30は、第2電極16を構成する金属の融点よりも低い温度で気化(昇華まやは蒸発)溶融する材料、例えばAlq3やNPB(N,N-di(naphthalene-1-yl)-N,N-diphenyl- benzidene) 等の有機機能層14を構成する有機材料により構成することができる。空隙含有層18が例えば、粒状体を含む場合において、空隙含有層18を第2電極16上に直接形成すると、粒状体との接触によって第2電極16が損傷し、これに起因してリークが生じることが想定される。そこで、第2電極16と空隙含有層18との間にバッファ層30を挿入することにより、バッファ層30が第2電極16を保護するように作用するので、上記の不具合を回避することが可能となる。バッファ層30は第2電極16の融点よりも低い温度で気化するので、上記の如く電力印加やレーザ照射によって短絡部の修復を行う場合において、溶融した金属は、バッファ層30に阻害されることなく空隙含有層18に吸収される。
【0034】
このように、本実施例に係る有機ELデバイスによれば、第1実施例の場合と同様、リーク修復時における封止層の破壊を防止することができ、更に、バッファ層30の介在によって第2電極16の損傷を保護することができる。
【0035】
尚、バッファ層30は、封止層20と同一の材料により構成されていてもよい。すなわち、第1電極12、有機機能層14および第2電極16からなる積層構造体は、封止層20と同様の防湿機能層によって被覆される。
【0036】
更に、バッファ層30は、有機機能層14を構成する有機材料と、封止層20と同一の材料からなる積層構造であってもよい。
【0037】
これにより、空隙含有層18を形成する工程においてもバッファ層30による防湿性能が発揮され、信頼性の高いデバイスを実現することができる。
【実施例3】
【0038】
図4は、本発明の実施例3に係る有機ELデバイス3の構成を示す断面図である。実施例3に係る有機ELデバイス3は、有機ELデバイスの上面側から光を取り出す所謂トップエミッション型のデバイスである。
【0039】
トップエミッション型の有機ELデバイスの場合、基板10は不透明であってもよい。上部電極を構成する第2電極16はITOまたはIZO等からなる光透過性を有する導電性酸化物により構成される。尚、第2電極16と有機機能層14との間にMgやAgなどの金属薄膜を挿入するか、有機機能層14に化学ドーピングしてキャリア注入特性を向上させる処理を行うことが好ましい。第2電極16上には、光透過性を有する封止層20が設けられる。陽極である第1電極12は、AgやAl等の光反射性を有する金属により構成される。このように、第1電極12の材料として金属を用いることにより、第1電極12は、有機機能層14から放射された光を上面に向けて反射せしめる光反射層として機能する。空隙含有層18は、金属層を形成する第1電極12と基板10との間に設けられる。この場合、電力印加やレーザ照射によるリーク箇所の修復を行うと、溶融した金属は、基板10上に形成された空隙含有層18に吸収される。本実施例に係る有機ELデバイスによれば、トップエミッション型の有機ELデバイスにおいても、ボトムエミッション型の場合(第1実施例)と同様、リーク修復時における封止層の破壊を防止することができる。
【実施例4】
【0040】
図5は、本発明の実施例4に係る有機ELデバイス4の構成を示す断面図である。有機ELデバイス4は、固体封止構造を有する点が膜封止構造を有する上記各実施例のものと異なる。基板10上には、第1電極12、有機機能層14、第2電極16、空隙含有層18をこの順序で積層して構成される有機EL素子が設けられている。これらの各層の材料および形成方法は、上記各実施例の場合と同様である。基板10上には接着層32を介して封止部材34が設けられている。接着層32は、例えば熱硬化型または紫外線硬化型のシリコーン樹脂等により構成される。有機EL素子は、接着層32の内部に埋設される。封止部材34は、例えばガラス板、プラスチック板または金属板等の板材であり、接着層32上に設けられる。
【0041】
このような、固体封止構造を有する有機ELデバイスにおいても、金属からなる第2電極16上に多孔質の空隙含有層18が設けられる故、電力印加やレーザ照射により短絡部を形成する金属を溶融させて短絡部の除去を行う修復を実施した場合、溶融した金属を空隙含有層18に吸収させることができる。このとき、空隙含有層18は、膨張したり、大きく変形したりすることはないので、接着層32や封止部材34の破壊を回避することが可能となる。また、空隙含有層18に吸収された金属は、空隙含有層18内に保持されるため、短絡部が元の状態に戻り、リークが再発するといった不具合が生じるおそれもない。
【実施例5】
【0042】
図6は、本発明の実施例5に係る有機ELデバイス5の構成を示す断面図である。有機ELデバイス5は、中空封止構造を有する点が上記各実施例のものと異なる。基板10上には、第1電極12、有機機能層14、第2電極16、空隙含有層18をこの順序で積層して構成される有機EL素子が設けられている。これらの各層の材料および形成方法は、上記各実施例の場合と同様である。有機EL素子の周囲を囲む基板10の周縁部には有機EL素子の厚さよりも厚い接着剤42が設けられている。接着剤42は、例えば紫外線硬化型のエポキシ樹脂等により構成される。基板10上には、接着剤42によって間隙を介して基板10に接合された封止部材としてのガラスキャップ44が設けられている。すなわち、有機ELデバイス5は、基板10とガラスキャップ44との間に中空部46を有する。尚、中空部46内にはBaOやCaOからなる吸着乾燥剤が設けられていてもよい。
【0043】
このような中空封止構造を有する有機ELデバイスにおいても、金属からなる第2電極16上に多孔質の空隙含有層18が設けられる故、電力印加やレーザ照射により短絡部を形成する金属を溶融させて短絡部の除去を行う修復を実施した場合、溶融した金属を空隙含有層18に吸収させることができる。中空封止構造の場合、短絡部の修復に伴って封止層が破壊されるといった問題は生じることはないものの、本実施例に係る有機ELデバイスによれば、空隙含有層18に吸収された金属は、空隙含有層18内に保持されるため、短絡部が元の状態に戻りリークが再発するといった不具合を防止する効果が得られる。
【実施例6】
【0044】
図7は、本発明の実施例6に係る有機ELデバイス6の構成を示す断面図であり、フレキシブル基板上に有機EL素子を形成する場合の構成例である。
【0045】
有機ELデバイス6は、基板10上に第1電極12、有機機能層14、第2電極16、空隙含有層18、封止層20を順次積層することにより形成される。基板10は、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルホン(PES)等の可撓性を有する樹脂フィルムにより構成される。樹脂フィルムは、ガラス基板よりも防湿性能が劣るため、樹脂フィルムの表面には、必要に応じて例えばSiN、SiON、Al等の無機材料からなる防湿膜50が設けられる。有機EL素子は、防湿膜50上に形成される。
【0046】
第1電極12または第2電極16は、基板10を構成する樹脂材料の融点よりも低い融点を持つ金属により構成されていることが好ましい。これにより、短絡部の修復の際に生じる熱を抑えることができ、基板10へのダメージをなくすことが可能となる。そのような低融点金属の一例としてスズ、ビスマス、鉛などを主成分とした合金、より具体的には、錫基の合金であるはんだや、ウッドメタル、ローズ合金、ニュートン合金などが挙げられる。また、第1電極12または第2電極16は、キャリア注入効率を考慮して仕事関数が比較的低い金属(例えばMg−Ag、Al−Li)と上記したような低融点金属とを積層した積層構造を有していてもよい。この場合、低融点金属からなる層を空隙含有層18に隣接させ、低仕事関数の金属からなる層を有機機能層14に隣接させることが好ましい。また、トップエミッション型の場合、防湿膜50と金属からなる第1電極12との間に空隙含有層18を形成することにより、リーク修復時における防湿膜50の破壊を防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0047】
1〜6 有機ELデバイス
10 基板
12 第1電極
14 有機機能層
16 第2電極
18 空隙含有層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が金属層からなる第1および第2電極と、
前記第1および第2電極の間に設けられた有機材料からなる有機機能層と、
前記金属層を覆うバッファ層と、
前記バッファ層を覆い且つ層内に複数の空隙を有する空隙含有層と、
前記第1および第2電極、前記有機機能層、前記バッファ層および前記空隙含有層を含む積層構造体を被覆する封止層と、を含み、
前記バッファ層は、前記金属層を構成する金属の融点よりも低い温度で気化する材料であって前記封止層と同一の材料を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスデバイス。
【請求項2】
前記空隙含有層は、窒化アルミニウムを含み、前記金属層を構成する金属に対してぬれ性を有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイス。
【請求項3】
前記空隙含有層は、複数の窒化アルミニウムからなる粒状体を含むことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイス。
【請求項4】
前記空隙含有層は、前記空隙を画定する壁部が前記金属層に対してぬれ性を有する窒化アルミニウムで被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイス。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイスの前記第1および第2電極間で生じた短絡部を修復する短絡部の修復方法であって、
前記第1および第2電極間に電力を印加して前記短絡部を溶融させるステップを含むことを特徴とする修復方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイスの前記第1および第2電極間で生じた短絡部を修復する短絡部の修復方法であって、
前記短絡部にレーザを照射して前記短絡部を溶融させるステップを含むことを特徴とする修復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−190781(P2012−190781A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−266904(P2011−266904)
【出願日】平成23年12月6日(2011.12.6)
【分割の表示】特願2011−546506(P2011−546506)の分割
【原出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】