説明

有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法

【課題】有機ELパネルの寿命の向上とリーク電流の低減との両方を実現することができる有機ELパネルを、容易に、かつ良好な形で製造する方法を提供する。
【解決手段】基板上に、陽極と、金属酸化物を含有する正孔輸送層と、発光層と、陰極とをこの順に有する有機エレクトロルミネッセンス素子を備える有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法であって、(1)上記製造方法は、金属酸化物層を成膜する工程と、該金属酸化物層上に正孔輸送材料溶液を塗布して金属酸化物層の少なくとも一部を溶解し、金属酸化物を含有する正孔輸送層を形成する工程とを含む、又は、(2)上記製造方法は、金属酸化物を含有する正孔輸送材料溶液を塗布して正孔輸送層を成膜する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL;electroluminescence)パネルの製造方法に関する。より詳しくは、正孔輸送層に金属酸化物を含有する有機ELパネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、一般的に、陽極及び陰極からなる一対の電極と、その一対の電極に挟持された発光層とで構成される自発光性の全固体素子であり、視認性が高く衝撃にも強いため、広く応用が期待されている。
【0003】
有機EL素子に用いられる発光材料としては、低分子材料や高分子材料等が挙げられる。現在、有機EL素子の実用化では、低分子材料を用いたデバイスが先行している。高分子材料は寿命や発光効率の点で低分子材料に及ばない点もあるが、印刷法を用いたプロセスの適用による低コスト化や大面積化等、将来的に低分子材料に勝る可能性を持っている。
【0004】
高分子材料を用いた一般的な有機EL素子は、例えば、ガラス基板上に、酸化インジウム錫(ITO;Indium Tin Oxide)からなる透明な陽極、高分子材料からなる発光層、及び、Ca/Al等からなる陰極が順次積層された構造を有している。
【0005】
しかしながらこのような従来の有機EL素子は、輝度や発光効率が充分に高いものの、寿命は実際の商品への応用化を考えると充分とはいえず、応用範囲が限られたものであった。そこで寿命特性を向上させるために、従来からさまざまな対策が検討されている。
【0006】
例えば、図6に示すように、高分子有機EL素子において発光層への正孔輸送効率を向上する観点から陽極と発光層との間に、正孔輸送材料を含む正孔輸送層を設け、下から順に基板1/陽極2/正孔輸送層5a/発光層4/陰極3の構成とすることが提案されている(従来例1)。正孔輸送材料としては、一般的には、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルフォン酸との混合物(以下、PEDOT−PSSともいう。)等が用いられている。このような構造の有機EL素子は、輝度が10000cd/m以上、発光効率が数lm/W〜十数lm/W、寿命が数千〜数万時間といった特性を達成することができると報告されている。しかし、これらの正孔輸送材料を用いたとしても実用化を考えた場合、素子寿命は不十分であった。
【0007】
そこで、素子寿命を向上させる他の手段として、PEDOT−PSSの代わりに金属酸化物層を設け、図7に示すように、下から順に基板1/陽極2/金属酸化物層6/発光層4/陰極3の構成とする素子が提案されている(従来例2)(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1によると、ポリフルオレン系化合物のバッファ層上にポリフルオレン系化合物を発光層として用いたとき、素子寿命を従来に比べて2倍以上にすることが可能になったとある。
【0008】
そこで本発明者らが、特許文献1に基づいて本素子を実際に作製したところ、高電圧側での電圧電流(I−V)特性の向上と、特定の材料での長寿命化とが確認されたが、他の特定の材料では逆に寿命が短くなってしまった。また、作製した素子すべてにおいて材料を問わずリーク電流の増大が確認された。更に、電流効率の低下を引き起こす等といった新たな課題も見出された。
【0009】
ここで改めてPEDOT−PSSや金属酸化物を用いた場合のそれぞれの課題について整理すると、PEDOT−PSSを用いた場合はリーク電流の低減や電流効率において優れているものの、実用化における寿命が達成されていない。これに対して金属酸化物を用いた場合は特定の色での長寿命化が実現されたが、リーク電流の増大や電流効率の低下等に改善の余地がある。
【0010】
一方、金属酸化物をPEDOT−PSS等の塗布タイプの正孔輸送材料にドーピングすることによって、素子寿命を向上させる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、正孔輸送材料に不溶又は難溶な金属酸化物を塗布タイプの正孔輸送材料へドーピングすることは、市販の金属酸化物を購入してそれをそのまま正孔輸送材料に溶かし込む方法では実現できない。
【0011】
低分子材料であれば共蒸着等によって正孔輸送材料に金属酸化物をドーピングすることは可能であると考えられるが、例えば、高分子材料で用いられるウェットプロセスにおいて、正孔輸送材料に不溶又は難溶な金属酸化物を塗布タイプの正孔輸送材料にドーピングすることは困難である。
【0012】
今後、有機ELパネルの大面積化を考えたとき、ウェットプロセスで成膜されるというケースが想定される。このとき、ウェットプロセス中にドライプロセスを導入するということはコスト等の面を考慮すると、あまり好ましい方法とはいえない。
【特許文献1】特開2005−203339号公報
【特許文献2】特開2005−251639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、有機ELパネルの寿命の向上とリーク電流の低減との両方を実現することができる有機ELパネルを、容易に、かつ良好な形で製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、有機ELパネルの寿命を大幅に向上させ、かつリーク電流の低減を図る方法について種々検討したところ、金属酸化物を含有する正孔輸送層材料溶液を用いて正孔輸送層を作製することで、寿命の向上とリーク電流の低減との両方を実現することができる有機ELパネルが得られることに着目した。そして、そのような有機ELパネルを得るためには、正孔輸送材料に対して金属酸化物を溶解させること、特に、有機ELパネルの大面積化に好適なウェットプロセス条件で行うことは、従来の方法では困難であることを見いだすとともに、(1)ある一定の条件下で基板上に成膜した金属酸化物層を正孔輸送材料溶液に直接溶解させるか、又は、(2)ある一定の条件を有する他の工程で金属酸化物を含有する正孔輸送材料溶液を調製することによって、通常では正孔輸送材料溶液に不溶又は難溶な金属酸化物を正孔輸送材料に溶解させることができ、かつ、そのようにして作製された有機ELパネルは、寿命特性、リーク電流及び電流効率が改善されることを見いだした。
【0015】
これまでに金属酸化物を正孔輸送材料にドーピングするという方法は一般的に知られている。ドーピングとは、通常、半導体の性質を変える目的で、結晶に少量の不純物を添加することをいう。不純物の添加により電子や正孔(キャリア)の濃度を調整する他、禁制帯幅等のバンド構造や物理的特性等を様々に制御するのに用いられる。これに対して、本発明では、このようなドーピング方法による特性改善ではなく、従来不可能であった複数の材料の溶解液又は分散液を作製することで、個々の特性において長所のみを引き出すことができる。すなわち、本発明の有機ELパネルの製造方法によれば、PEDOT−PSSの注入特性及びバッファ特性と、金属酸化物が持つ寿命特性の向上といったそれぞれの長所を併せ持った有機ELパネルが得られることになる。また、異なる2種類の正孔輸送材料をドーピングすることによって新たな効果を発現したのではないため、個々の材料の短所を発現しにくくし、かつ長所のみを発現することができる構成となっている。こうして、本発明者らは、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0016】
すなわち、本発明は、基板上に、陽極と、金属酸化物を含有する正孔輸送層と、発光層と、陰極とをこの順に有する有機エレクトロルミネッセンス素子を備える有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法であって、上記製造方法は、金属酸化物層を成膜する工程と、該金属酸化物層上に正孔輸送材料溶液を塗布して金属酸化物層の少なくとも一部を溶解し、金属酸化物を含有する正孔輸送層を形成する工程とを含む有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法(以下、第一の有機ELパネルの製造方法ともいう。)である。
【0017】
また、本発明は、基板上に、陽極と、金属酸化物を含有する正孔輸送層と、発光層と、陰極とをこの順に有する有機エレクトロルミネッセンス素子を備える有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法であって、上記製造方法は、金属酸化物を含有する正孔輸送材料溶液を塗布して正孔輸送層を成膜する有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法(以下、第二の有機ELパネルの製造方法ともいう。)でもある。
【0018】
本発明の有機ELパネルの製造方法のうち、まず、第一の有機ELパネルの製造方法について以下に詳述する。
【0019】
本発明の第一の有機ELパネルの製造方法は、基板上に、陽極と、金属酸化物を含有する正孔輸送層と、発光層と、陰極とをこの順に有する有機EL素子を備える有機ELパネルの製造方法である。本発明によって製造される有機ELパネルが備える有機EL素子は、少なくとも陽極、正孔輸送層、発光層及び陰極を有する。陽極及び陰極間に一定の電圧を印加すると、陽極から正孔が発光層に向かって移動するとともに、陰極から電子が発光層に向かって移動する。そして、発光層中の分子のエネルギー状態は基底状態から励起状態に押し上げられ、陽極と陰極との間に設けられた発光層から光が発生し、この光が有機EL表示に用いられる。正孔輸送層は、このように陽極から正孔が移動することを円滑にするための層である。本発明によって製造される有機ELパネルの正孔輸送層は、金属酸化物を含有している。正孔輸送層に金属酸化物を含有させることで、有機EL素子の寿命の向上、リーク電流の低下、及び、電流効率の向上が可能となる。また、リーク電流の低下、及び/又は、電流効率の向上により低電圧での駆動が可能となる。本製法により作製される有機EL素子の構成としては、このような構成要素を必須として形成されるものである限り、その他の構成要素を含んでいても含んでいなくてもよく、例えば、更に、陽極と正孔輸送層との間に正孔注入層、発光層と陰極との間に電子輸送層及び/又は電子注入層等を有していてもよい。そして、このような有機EL素子に、例えば、透明なガラスやプラスチック等の封止基板が設けられ、有機ELパネルは作製される。
【0020】
上記製造方法は、金属酸化物層を成膜する工程と、該金属酸化物層上に正孔輸送材料溶液を塗布して金属酸化物層の少なくとも一部を溶解し、金属酸化物を含有する正孔輸送層を形成する工程とを含む。このように、一度金属酸化物層を成膜し、そこに直接正孔輸送材料溶液を塗布することで、金属酸化物を含有する正孔輸送層を良好に形成することができる。特に本方法によれば、発光層に高分子材料を用いる場合であっても容易に正孔輸送材料に金属酸化物を溶解させることが可能となる。本発明によって溶解される金属酸化物層は、すべてが溶解されても一部が残っていてもよく、いずれの場合であっても一定量の寿命特性の向上、リーク電流の低減、及び、電流効率の向上が図れる。本明細書において「溶解」とは、分子レベルで分解、混合等していることをいい、例えば、分散を含む。「正孔輸送材料溶液」とは、一般的に用いられている少なくとも一種類の正孔輸送材料が、少なくとも一種類の溶媒に溶解されて形成された溶液をいう。また、正孔輸送材料溶液に含有される「金属酸化物」についても、少なくとも一種類存在していれば、溶液中に複数種類存在していてもよい。本発明において正孔輸送材料は、PEDOT−PSS等の水溶液系のものすべてを適用することができる。なお、本発明は、このような工程を必須とする限り、他の工程を含むものであってもよく、例えば、他の機能性を有する材料を混合すれば、その材料の特性を加えることができ、したがって、素子の特性に必要な機能性材料を本方式で混合することで、所望の特性を引き出すことができる。
【0021】
上記有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と正孔輸送層との間に金属酸化物層を有することが好ましい。陽極と正孔輸送層との間に金属酸化物層が形成されることで、より寿命特性が向上する。なお、上記有機EL素子において金属酸化物層を設けない場合には金属酸化物層を設ける場合と比べ、よりリーク電流が低減される。
【0022】
上記製造方法は、金属酸化物を含有する正孔輸送層中の金属酸化物の濃度が0.01〜1g/mlであることが好ましい。このような範囲に設定することで、寿命特性、リーク電流及び電流効率がより改善された有機EL素子を得ることができる。
【0023】
次に、本発明の有機ELパネルの製造方法のうち、第二の有機ELパネルの製造方法について以下に詳述する。
【0024】
本発明の第二の方法は、基板上に、陽極と、金属酸化物を含有する正孔輸送層と、発光層と、陰極とをこの順に有する有機EL素子を備える有機ELパネルの製造方法である。本発明の第二の有機ELパネルの製造方法によって製造される有機ELパネルもまた、本発明の第一の有機ELパネルの製造方法によって製造される有機ELパネルと同様の構成を有するため、上述に示したとおりであり、ここでは説明を省略する。
【0025】
上記製造方法は、金属酸化物を含有する正孔輸送材料溶液を用いて正孔輸送層を成膜する。このように、例えば、金属酸化物が溶解している等により金属酸化物を含有する正孔輸送材料溶液を用いることで、金属酸化物を含有する正孔輸送層を良好に作製することができる。本発明は、金属酸化物を含有する正孔輸送材料溶液を、完成品となる有機ELパネルとは別に調製することで得られる方法である。なお、本発明においても、このような工程を必須とする限り、他の工程を含むものであってもよく、例えば、他の機能性を有する材料を混合すれば、その材料の特性を加えることができ、したがって、素子の特性に必要な機能性材料を本方式で混合することで、所望の特性を引き出すことができる。
【0026】
上記製造方法は、金属酸化物層を調製用基板上に成膜する工程と、該金属酸化物層上に溶媒を塗布して金属酸化物溶液を作製する工程と、該金属酸化物溶液と正孔輸送材料溶液とを混合して、金属酸化物を含有する正孔輸送材料溶液を作製する工程と、該金属酸化物を含有する正孔輸送材料溶液を塗布して正孔輸送層を成膜する工程とを含むことが好ましい。このように、まず、金属酸化物を溶媒に溶解させて金属酸化物溶液を調製し、また、正孔輸送材料を溶媒に溶解させて正孔輸送材料溶液を調製した後、これらを混合させた溶液を用いることで、金属酸化物を含有する正孔輸送層を容易に、かつ効率的に作製することができる。特に、上述の方法と同様、本方法によっても、発光層に高分子材料を用いる場合であっても容易に正孔輸送材料に金属酸化物を溶解させることが可能となる。なお、正孔輸送材料を溶解するためには、溶媒1mlに対し、溶質を0.01〜1g添加することが好ましい。
【0027】
上記製造方法は、金属酸化物を含有する正孔輸送材料溶液中の金属酸化物の濃度が0.01〜1g/mlであることが好ましい。このような範囲に設定することで、寿命特性、リーク電流及び電流効率がより改善された有機EL素子を得ることができる。
【0028】
以下に、第一の有機ELパネルの製造方法及び第二の有機ELパネルの製造方法の両方に対して好適な形態について、詳述する。
【0029】
上記製造方法は、蒸着により金属酸化物を成膜することが好ましい。蒸着法によれば、金属酸化物層の膜厚を容易に調製することができるので、その後に行う金属酸化物層を正孔輸送材料に溶解させる工程の調整が容易となる。
【0030】
上記蒸着は、真空度が5×10−4〜5×10−3Pa、かつ成膜速度が0.1〜0.5nm/sで行われることが好ましい。蒸着条件をこのように設定することで、以下に示すような、成膜後の金属酸化物層中の酸素原子が欠損している、又は、酸素原子が過剰に含まれている、あるいは、成膜後の金属酸化物層が非晶質の状態を好適に作製することができるので、金属酸化物層に対して容易に正孔輸送材料を溶解させることができる。
【0031】
上記製造方法は、成膜された正孔輸送層の発光層側の表面に1〜10nmの凹凸が形成されるものであることが好ましい。このようにして製造された有機ELパネルは、正孔輸送層の発光層側の表面にナノオーダー単位の凹凸が形成されているため、例えば特許文献2に示されているような、共蒸着法等によって平坦に形成された膜よりも電荷の注入効率性が向上する。凹凸の形状は特に限定されないが、例えば、ドーム型が挙げられる。
【0032】
上記製造方法は、成膜された金属酸化物層中の酸素原子が欠損される、又は、酸素原子が過剰に含有されるものであることが好ましい。金属酸化物層をこのような状態で成膜することで、金属酸化物層に対して容易に正孔輸送材料を溶解させることができる。これは、極性のある溶液に酸素原子が欠損された、又は、酸素原子を過剰に含有した金属酸化物を混入させると、その金属酸化物はイオン化し、イオン性の溶液に溶解するためである。
【0033】
上記製造方法は、成膜された金属酸化物層が非晶質となるものであることが好ましい。金属酸化物層をこのような状態で成膜することで、金属酸化物層に対して容易に正孔輸送材料を溶解させることができる。これは、非晶質の形が金属酸化物の分子結合が弱い結合状態となっているときに形成されるものであり、溶液に非晶質の物質を混入させるとその構造は脆くなり、溶液中に分散するためである。なお、本明細書において「非晶質」は、アモルファス状ということもでき、例えば、球状や針状といったような一定の形態を持たない状態をいう。
【発明の効果】
【0034】
本発明の有機ELパネルの製造方法によれば、有機ELパネルの寿命の向上、リーク電流の低減、及び、電流効率の向上を実現する有機ELパネルを容易に、かつ効率的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に実施例を掲げ、本発明について図面を参照して更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
実施例1は、本発明の第一の有機ELパネルの製造方法に関する。図1は本実施例によって作製される有機ELパネルの構造を示す断面模式図である。図1に示すように、本実施例によって作製される有機ELパネルは、基板1上に、陽極2と、金属酸化物層6と、金属酸化物を含有する正孔輸送層5bと、発光層4と、陰極3とをこの順に有する有機EL素子を備える構造となっている。まず、実施例1で作製される有機ELパネルの各々の構造について詳述する。
【0037】
<基板>
本実施例に用いられる基板1としては、例えば、ガラスや石英等の無機材料、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック、アルミナ等のセラミックスからなる絶縁性の基板等を用いることができる。また、表面が二酸化ケイ素(SiO)や有機絶縁材料等からなる絶縁膜によりコートされた金属基板(アルミニウム(Al)、鉄(Fe)等)、陽極酸化法等により表面が絶縁化された金属基板(アルミニウム(Al)、鉄(Fe)等)によっても構成することができる。また、基板1上には、通常、有機EL表示の駆動制御を行うための各種配線、及び、薄膜トランジスタ(TFT)等のスイッチング素子が形成される。
【0038】
<陽極>
本実施例で作製される陽極2としては、仕事関数が高い材料により形成されていることが好ましい。仕事関数が高い材料としては、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。陽極2側から発光層4の発光を取り出す場合は、陽極2を透明なものとすることが好ましい。具体的には、陽極2をインジウムスズ酸化物(ITO)、In−ZnO系アモルファス透明導電膜(IDIXO(登録商標))、二酸化スズ(SnO)等の透明導電性酸化物により形成することが好ましい。このような陽極2は、蒸着法、EB(電子ビーム蒸着)法、MBE(分子線エピタキシー)法、スパッタ法、スピンコート法、印刷法、インクジェット法等を用いて形成することができる。
【0039】
<金属酸化物層>
本実施例で作製される金属酸化物層6としては、正孔輸送材料に不溶又は難溶なものであっても適用することができ、例えば、酸化アンチモン(V)、酸化イッテルビウム(III)、酸化イットリウム(III)、酸化インジウム(III)、酸化ウラン(IV)、酸化エルビウム(III)、酸化オスミウム(IV)、酸化カドミウム(I)、酸化ガドリニウム、酸化金(I)、酸化金(III)、酸化銀(I)、酸化クロム(II)、酸化クロム(III)、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(III)、酸化サマリウム(III)、酸化ジスプロシウム(III)、酸化ジルコニウム(IV)、酸化水銀(I)、酸化スズ(II)、酸化スズ(IV)、酸化セリウム(III)、酸化セリウム(IV)、酸化タリウム(III)、酸化タングステン(IV)、酸化タングステン(VI)、酸化タンタル(V)、酸化チタン(II)、酸化チタン(III)、酸化チタン(IV)、酸化鉄(III)、四酸化三鉄、酸化テルビウム(III)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化トリウム(IV)、酸化鉛(II)、酸化鉛(IV)、四酸化三鉛、酸化ニオブ(II)、酸化ニオブ(V)、酸化ニッケル(II)、酸化ネオジム(III)、酸化ネプツニウム(IV)、酸化ネプツニウム(V)、八酸化ネプツニウム、酸化白金(IV)、酸化バナジウム(IV)、酸化バナジウム(V)、酸化パラジウム(II)、酸化パラジウム(IV)、酸化ビスマス(III)、酸化ビスマス(V)、酸化プラセオジウム(III)、酸化プルトニウム(IV)、酸化ベリリウム(I)、酸化正孔ミウム(III)、酸化マンガン(II)、酸化マンガン(III)、酸化マンガン(IV)、酸化マンガン(VII)、四酸化三マンガン、八酸化五マンガン、酸化モリブデン(II)、酸化モリブデン(IV)、酸化モリブデン(V)、酸化モリブデン(VI)、酸化ランタン等が挙げられる。
【0040】
<正孔輸送層>
本実施例で作製される正孔輸送層5bは、正孔輸送材料と金属酸化物とで構成されている。正孔輸送材料としては、例えば、PEDOT−PSSやカルバゾール−アドメチン−デンドリマー等の水溶液系のものすべてを適用することができる。金属酸化物としては、上述の金属酸化物層6で挙げた金属酸化物を適用することができる。
【0041】
<発光層>
発光層4としては、高分子有機発光材料又はその前駆体を含むものを用いることができる。具体的に高分子有機発光材料としては、例えば、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)DO−PPP、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2´−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF)、ポリスピロ(PS)等が挙げられる。
【0042】
本実施例で作製される発光層4は、その層厚が5Å〜1μmであることが好ましい。より好ましくは10〜200nmである。発光層4の層厚が10nm未満であるとピン正孔の発生確率が高くなる傾向にある。一方、発光層4の層厚が200nmより大きいと駆動電圧が高くなる傾向にある。
【0043】
<陰極>
本実施例に用いられる陰極3としては、例えば、仕事関数が低い材料により形成された低仕事関数層と、比較的に化学的耐久性の強い金属層との積層(例えば、Ca/Al、Ce/Al、Cs/Al、Ba/Al等)により構成することができる。また、仕事関数が低い材料を含む合金(例えば、Ca:Al合金、Mg:Ag合金、Li:Al合金等)、アルカリ金属フッ化物からなる層と導電層との積層(例えば、LiF/Al、LiF/Ca/Al、BaF/Ba/Al等)、仕事関数が低い材料がドープされた透明導電性酸化物(例えば、ITO:Cs、IDIXO:Cs、SnO:Cs等)、透明導電性酸化物からなる層と仕事関数が低い材料からなる層との積層(例えば、Ba/ITO、Ca/IDIXO、Ba/SnO等)等により構成してもよい。このような陰極3は、蒸着法、EB法、MBE法、スパッタ法、スピンコート法、印刷法、インクジェット法等を用いて形成することができる。
【0044】
<封止膜、封止基板>
有機ELパネルの耐久性を向上させるために、陽極2、発光層4及び陰極3等を封止するための封止基板や封止膜を有機EL素子の両側から更に設けてもよい。このような封止膜や封止基板の材質としては、例えば、ガラスや石英等の無機材料を用いることができる。
【0045】
なお、本実施例で製造される有機ELパネルは、この構成に限定されるものではなく、例えば、金属酸化物層6と陽極2との間に正孔注入層を更に設けてもよい。また、発光層4と陰極3との間に電子輸送層及び/又は電子注入層を更に設けてもよい。正孔注入層の材料としては、例えば、銅フタロシアニン(CuPc)等を用いることができ、電子輸送層及び/又は電子注入層の材料としては、例えば、ガリウム錯体等を用いることができる。また、本実施例で作製される有機ELパネルとしては、パッシブマトリクス駆動方式のものであっても、アクティブマトリクス駆動方式のものであってもよい。
【0046】
以上説明したような実施例によって作製される有機ELパネルはリーク電流が抑制されており、長寿命なものである。したがって、このような有機ELパネルを備えた有機EL表示装置もリーク電流が抑制されており、長寿命なものである。また、このような有機ELパネルを備えた有機EL照明装置もリーク電流が抑制されており、長寿命なものである。
【0047】
以下に、本実施例の有機ELパネルの製造方法について詳述する。
【0048】
まず、25mm四方のガラス基板上に膜厚15nmのITOからなる幅2mmのストライプ状の陽極が形成された基板1(旭硝子社製)を用意した。基板1上に2×10−3Paの圧力条件下、0.1nm/secの蒸着速度で三酸化モリブデン(MoO)を蒸着させ、層厚50nmのMoO層を形成した。なお、本実施例のように金属酸化物層としてMoOを用いる場合は膜厚を50nmとすることが好ましいが、その他の金属酸化物材料を使用する場合、適正な膜厚はそれぞれ異なるため、金属酸化物層の膜厚は50nmに特に限定されない。この工程によって成膜された金属酸化物層中には、酸素原子が欠損、又は、過剰に含まれた状態となっており、かつ金属酸化物層は、外見上は非晶質の状態であった。
【0049】
MoO層を50nm成膜後、UVオゾン処理や加熱処理を行わずにMoO層上にPEDOT−PSSをスピンコート法によって塗布した。ここで、MoO層の膜厚が50nm以上であれば、PEDOT−PSSによってMoO層はすべては解けない。こうしてMoO層6の上に、MoOとPEDOT−PSSとの混合層5bが形成されることになる。PEDOT−PSSの塗布条件は、回転速度を3000rpm、回転時間を30秒とした。乾燥条件は、焼成温度を200℃、焼成時間を30分、雰囲気を窒素雰囲気とした。また、このとき溶液中の金属酸化物(MoO)の濃度はおよそ0.1g/mlであった。なお、成膜後のMoOとPEDOT−PSSとの混合層5bの表面には、1〜10nmのドーム型の微細な凹凸が形成されていた。この凹凸は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM;Atomic Force Microscope)によって確認することができる。
【0050】
次に、MoOとPEDOT−PSSとの混合層5b上に、上述したような有機EL発光材料を3000rpmで30秒間スピンコートし、その後、200℃で30分間乾燥焼成させることにより発光層4を作製した。
【0051】
次に、発光層4の上に、2×10−5Paの圧力条件下、0.1nm/secの蒸着速度でBaを蒸着させ、層厚5nmのBa膜を形成した。その上に10−5Paの圧力条件下、0.5nm/secの蒸着速度でAlを蒸着させ、層厚100nmのAl膜を形成することにより、Ba膜及びAl膜の積層からなる陰極を形成した。
【0052】
最後に、窒素雰囲気中にて、20mm四方の封止用硝子基板をUV硬化樹脂により接着して有機ELパネルを完成させた。このようにして作製された有機ELパネルは、図1に示すような、基板1側からITO2/MoO層6/MoOとPEDOT−PSSとの混合層5b/発光層4/陰極3の順に積層された有機EL素子を備える構造となった。
【0053】
本実施例で作製した有機EL素子(3)(図1)と、正孔輸送層として金属酸化物を含有しないPEDOT−PSSを用いた有機EL素子(1)(従来例1;図6)と、正孔輸送層の代わりに金属酸化物層を形成した有機EL素子(2)(従来例2;図7)とで、素子寿命、リーク電流及び製造効率のそれぞれの特性について比較した結果、下記表1のとおりとなった。なお、表中の数値は、正孔輸送層として有機EL素子(1)を100%としたときのそれぞれの特性値を示す。また、それぞれの特性値は、素子寿命は発光時間(h)、リーク電流はその電流量(A)、電流効率は輝度と印加電圧との比の計測結果で比較している。
【0054】
【表1】

【0055】
本実施例により、リーク電流が有機EL素子(2)(従来例2)よりも低減された有機EL素子を作製することができた。また、素子寿命も有機EL素子(1)(従来例1)に比べて20%、電流効率では10%程度向上した有機EL素子を作製することができた。
【0056】
また、有機EL素子(1)(従来例1)と有機EL素子(3)(実施例1)とで、電流の立ち上がりを比較するために、I−V特性試験を行った。このときの測定結果を示すグラフを図5に示す。図5に示すように、有機EL素子(3)(実施例1)の電流密度(mA/cm)の立ち上がりは、有機EL素子(1)(従来例1)の電流密度(mA/cm)の立ち上がりよりも低い電圧(V)で起こっており、このことから、有機EL素子(3)(実施例1)の方が電荷(正孔)の注入がされやすいことがわかる。
【0057】
(実施例2)
本実施例で作製される有機ELパネルは、図2に示すように、基板1側からITO2/MoO層6/MoOとPEDOT−PSSとの混合層5b/PEDOT−PSS層5a/発光層4/陰極3の順に積層された有機EL素子を備える構成となっている。すなわち、本実施例で作製される有機EL素子の構造は、実施例1で作製される有機EL素子が有するMoOとPEDOT−PSSとの混合層5bの上に、更に、単独のPEDOT−PSS層5aが設けられた構成となっている。PEDOT−PSS層5aの塗布条件は実施例1でのPEDOT−PSSの塗布条件と同様である。本実施例で作製した有機EL素子(4)(図2)と、正孔輸送層として金属酸化物を含有しないPEDOT−PSSを用いた有機EL素子(1)(従来例1;図6)と、正孔輸送層の代わりに金属酸化物層を形成した有機EL素子(2)(従来例2;図7)とで、素子寿命、リーク電流及び電流効率のそれぞれの特性について比較した結果、下記表2のとおりとなった。なお、表中の数値は、有機EL素子(1)を100%としたときのそれぞれの特性値を示す。また、それぞれの特性値は、素子寿命は発光時間(h)、リーク電流はその電流量(A)、電流効率は輝度と印加電圧との比の計測結果で比較している。
【0058】
【表2】

【0059】
本実施例によれば、リーク電流が実施例1の有機EL素子に比べて半分程度に低減された有機EL素子を作製することができた。また、素子寿命も実施例1の有機EL素子に比べて10%程度向上された有機EL素子を作製することができた。
【0060】
(実施例3)
本実施例で作製される有機ELパネルは、図3に示すように、基板1側からITO2/MoOとPEDOT−PSSとの混合層5b/発光層4/陰極3の順に積層された有機EL素子を備える構成となっている。すなわち、本実施例で作製される有機EL素子の構造は、実施例1で作製される有機EL素子と異なり、単独のMoO層が設けられておらず、ITO2上に、MoOとPEDOT−PSSとの混合層5bが形成されている。実施例1ではMoO層を形成する際に、膜厚を50nmに設定したが、このとき膜厚を20nmにすることで、MoO層はPEDOT−PSSにすべて溶解する。こうしてMoO層を有さない素子構造を得ることができる。
【0061】
本実施例で作製した有機EL素子(5)(図3)と、正孔輸送層として金属酸化物を含有しないPEDOT−PSSを用いた有機EL素子(1)(従来例1;図6)と、正孔輸送層の代わりに金属酸化物層を形成した有機EL素子(2)(従来例2;図7)とで、素子寿命、リーク電流及び電流効率のそれぞれの特性について比較した結果、下記表3のとおりとなった。なお、表中の数値は、正孔輸送層として有機EL素子(1)を100%としたときのそれぞれの特性値を示す。また、それぞれの特性値は、素子寿命は発光時間(h)、リーク電流はその電流量(A)、電流効率は輝度と印加電圧との比の計測結果で比較している。
【0062】
【表3】

【0063】
本実施例ではリーク電流を実施例2の有機EL素子(4)に比べて10%程度、有機EL素子(1)と同等程度にまで低減することが可能となった。また、電流効率は実施例1の有機EL素子(3)や実施例2の有機EL素子(4)と同等であるものの、素子寿命では有機EL素子(3)と比べて20%程度、有機EL素子(1)に比べて60%程度向上させることに成功した。以上のことから、本実施例によれば、PEDOT−PSS及び金属酸化物のそれぞれの長所を併せ持つ、優れた有機EL素子を作製することができる。
【0064】
(実施例4)
本実施例で作製される有機ELパネルは、図4に示すように、基板1側からITO2/MoOとPEDOT−PSSとの混合層5b/PEDOT−PSS層5a/発光層4/陰極3の順に積層された有機EL素子を備える構成となっている。すなわち、本実施例で作製される有機EL素子の構造は、実施例3で作製される有機EL素子が備えるMoOとPEDOT−PSSとの混合層5bの上に、更に、単独のPEDOT−PSS層5aが設けられた構成となっている。一方、実施例1で作製される有機EL素子と異なり、単独のMoO層が設けられておらず、ITO2上に、MoOとPEDOT−PSSとの混合層5bが形成されている。PEDOT−PSSの塗布条件は、実施例1でのPEDOT−PSS塗布条件と同様である。本実施例で作製した有機EL素子(6)(図4)と、正孔輸送層として金属酸化物を含有しないPEDOT−PSSを用いた有機EL素子(1)(従来例1;図6)と、正孔輸送層の代わりに金属酸化物層を形成した有機EL素子(2)(従来例2;図7)とで、素子寿命、リーク電流及び電流効率のそれぞれの特性について比較した結果、下記表4のとおりとなった。なお、表中の数値は、有機EL素子(1)を100%としたときのそれぞれの特性値を示す。また、それぞれの特性値は、素子寿命は発光時間(h)、リーク電流はその電流量(A)、電流効率は輝度と印加電圧との比の計測結果で比較している。
【0065】
【表4】

【0066】
本実施例ではリーク電流を実施例3の有機EL素子(5)や有機EL素子(1)と同等程度にまで低減することが可能となった。また、電流効率は有機EL素子(4)〜(6)と同等であるものの、素子寿命では有機EL素子(5)と比べて10%程度、有機EL素子(1)に比べて70%程度向上することに成功した。以上のことから、本実施例によれば、PEDOT−PSS及び金属酸化物のそれぞれの長所を併せ持つ、優れた有機EL素子を作製することができる。
【0067】
(実施例5)
実施例5は、本発明の第二の有機ELパネルの製造方法に関するものであり、実施例1〜4の有機ELパネルの製造方法の別例である。実施例1〜4では、MoOとPEDOT−PSSとの混合層5bを形成する工程として、MoO膜の上からPEDOT−PSSを塗布するというプロセスを用いたが、本実施例ではMoOとPEDOT−PSSとの混合溶液を塗布するというプロセスを用いる。ここでは一例として、実施例3で作製される有機EL素子を本実施例で作製する場合を示す。
【0068】
まず、ダミー基板(調製用基板)にMoOを実施例1のMoO層の蒸着条件と同様の条件で成膜する。成膜したMoO層をPEDOT−PSS又は水に溶かして、この溶液をビンに集める。このとき溶液中のMoO濃度はおよそ0.1g/mlである。その溶液をスピンコート法によって薄膜化すると、金属酸化物層中には、酸素原子が欠損している、又は、過剰に含まれた状態となる。これにより、PEDOT−PSSとMoOとの混合層5bが形成され、この構造は実施例3と同様の構造をとることになる。こうして作製された有機EL素子は、プロセスこそ異なるものの、I−V特性や素子寿命は、実施例3で作製した有機EL素子の特性と同等となった。
【0069】
また、このPEDOT−PSSとMoOとの混合層5bの上からPEDOT−PSS層5aを塗布し、成膜すると、その構造は実施例4と同様の構造となる。この有機EL素子もプロセスこそ異なるものの、I−V特性や素子寿命は実施例4で示したものと同等の特性を示した。
【0070】
これら2つのプロセスの利点は、オールウェットプロセスで素子を作製できるということにある。金属酸化物を成膜するとき、通常は真空蒸着法やスパッタ法を用いるため、ウェットプロセスでは成膜できない。しかし、本製造方法を用いることによって、オールウェットプロセスでの素子作製が可能となる。
【0071】
このダミー基板を用いる方法は、当然実施例1及び2にも利用できる。ただし、この場合はオールウェットプロセスでの作製はできない。まず、MoO層6を真空蒸着法によって成膜し、その上からPEDOT−PSSとMoOとの混合液5bを塗布し、スピンコート法によって薄膜化する。こうすることによって実施例1と同様の構造をとることができる。また、この上からPEDOT−PSSを塗布することによって実施例2と同様の構造となる。
【0072】
この場合も、実施例3及び4と同様に、作製した有機EL素子はプロセスこそ異なるものの、I−V特性や素子寿命は実施例1及び2で示した有機EL素子とそれぞれ同等の特性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施例1又は5で製造される有機EL素子を示す断面模式図である。
【図2】本発明の実施例2又は5で製造される有機EL素子を示す断面模式図である。
【図3】本発明の実施例3又は5で製造される有機EL素子を示す断面模式図である。
【図4】本発明の実施例4又は5で製造される有機EL素子を示す断面模式図である。
【図5】実施例1の有機EL素子と従来例1の有機EL素子とを比較したI−V特性試験の測定結果を示すグラフである。
【図6】従来例1の有機EL素子を示す断面模式図である。
【図7】従来例2の有機EL素子を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0074】
1:基板
2:陽極(ITO)
3:陰極
4:発光層
5a:正孔輸送層(正孔輸送材料(PEDOT−PSS)のみ)
5b:正孔輸送層(金属酸化物(MoO)と正孔輸送材料(PEDOT−PSS)との混合層)
6:金属酸化物層(MoO

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、陽極と、金属酸化物を含有する正孔輸送層と、発光層と、陰極とをこの順に有する有機エレクトロルミネッセンス素子を備える有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法であって、
該製造方法は、金属酸化物層を成膜する工程と、該金属酸化物層上に正孔輸送材料溶液を塗布して金属酸化物層の少なくとも一部を溶解し、金属酸化物を含有する正孔輸送層を形成する工程とを含む
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項2】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と正孔輸送層との間に金属酸化物層を有することを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項3】
前記製造方法は、金属酸化物を含有する正孔輸送層中の金属酸化物の濃度が0.01〜1g/mlであることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項4】
基板上に、陽極と、金属酸化物を含有する正孔輸送層と、発光層と、陰極とをこの順に有する有機エレクトロルミネッセンス素子を備える有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法であって、
該製造方法は、金属酸化物を含有する正孔輸送材料溶液を塗布して正孔輸送層を成膜する
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項5】
前記製造方法は、金属酸化物層を調製用基板上に成膜する工程と、該金属酸化物層上に溶媒を塗布して金属酸化物溶液を作製する工程と、該金属酸化物溶液と正孔輸送材料溶液とを混合して、金属酸化物を含有する正孔輸送材料溶液を作製する工程と、該金属酸化物を含有する正孔輸送材料溶液を塗布して正孔輸送層を成膜する工程とを含む
ことを特徴とする請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項6】
前記製造方法は、金属酸化物を含有する正孔輸送材料溶液中の金属酸化物の濃度が0.01〜1g/mlであることを特徴とする請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項7】
前記製造方法は、蒸着により金属酸化物層を成膜することを特徴とする請求項1又は5記載の有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項8】
前記蒸着は、真空度が5×10−4〜5×10−3Pa、かつ成膜速度が0.1〜0.5nm/sで行われることを特徴とする請求項7記載の有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項9】
前記製造方法は、成膜された正孔輸送層の発光層側の表面に1〜10nmの凹凸が形成されるものであることを特徴とする請求項1又は4記載の有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項10】
前記製造方法は、成膜された金属酸化物層中の酸素原子が欠損される、又は、酸素原子が過剰に含有されるものであることを特徴とする請求項1又は5記載の有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。
【請求項11】
前記製造方法は、成膜された金属酸化物層が非晶質となるものであることを特徴とする請求項1又は5記載の有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−226464(P2008−226464A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58265(P2007−58265)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】