説明

有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置

【課題】発光輝度が高く、外部取り出し量子効率が高く、且つ長寿命である有機エレクトロルミネッセンス素子、照明装置及び表示装置を提供すること。
【解決手段】一対の電極間に少なくとも燐光性発光層及び正孔阻止層を含む構成層を有し、該燐光性発光層もしくは該正孔阻止層のうち少なくとも一層が下記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。


(式中、A及びAは2価の芳香族複素環基を表す。Aはカルボリン基が置換した芳香族複素環基を表す。B及びBはカルボリン基を表す。nは0〜2の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光型の電子ディスプレイデバイスとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)がある。ELDの構成要素としては、無機エレクトロルミネッセンス素子や有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう)が挙げられる。無機エレクトロルミネッセンス素子は平面型光源として使用されてきたが、発光素子を駆動させるためには交流の高電圧が必要である。
【0003】
一方、有機EL素子は発光する化合物を含有する発光層を陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・リン光)を利用して発光する素子であり、数V〜数十V程度の電圧で発光が可能であり、更に自己発光型であるために視野角に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース、携帯性等の観点から注目されている。
【0004】
今後の実用化に向けた有機EL素子の開発としては、更に低消費電力で、効率よく高輝度に発光する有機EL素子が望まれているわけであり、例えば、スチルベン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体またはトリススチリルアリーレン誘導体に、微量の蛍光体をドープし、発光輝度の向上、素子の長寿命化を達成する技術(例えば、特許文献1参照。)、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体をホスト化合物として、これに微量の蛍光体をドープした有機発光層を有する素子(例えば、特許文献2参照。)、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体をホスト化合物として、これにキナクリドン系色素をドープした有機発光層を有する素子(例えば、特許文献3参照。)等が知られている。
【0005】
上記特許文献に開示されている技術では、励起一重項からの発光を用いる場合、一重項励起子と三重項励起子の生成比が1:3であるため発光性励起種の生成確率が25%であることと、光の取り出し効率が約20%であるため、外部取り出し量子効率(ηext)の限界は5%とされている。
【0006】
ところが、プリンストン大より、励起三重項からのリン光発光を用いる有機EL素子の報告(例えば、非特許文献1参照。)がされて以来、室温でリン光を示す材料の研究が活発になってきている(例えば、非特許文献2及び特許文献4参照。)。励起三重項を使用すると、内部量子効率の上限が100%となるため、励起一重項の場合に比べて原理的に発光効率が4倍となり、冷陰極管とほぼ同等の性能が得られ照明用にも応用可能であり注目されている。例えば、多くの化合物がイリジウム錯体系等重金属錯体を中心に合成検討がなされている(例えば、非特許文献3参照。)。
【0007】
また、ドーパントとしてトリス(2−フェニルピリジン)イリジウムを用いた検討がなされている(例えば、非特許文献2参照。)。その他、ドーパントとしてLIr(acac)、例えば、(ppy)Ir(acac)(例えば、非特許文献4参照。)を、またドーパントとして、トリス(2−(p−トリル)ピリジン)イリジウム(Ir(ptpy))、トリス(ベンゾ[h]キノリン)イリジウム(Ir(bzq))、Ir(bzq)ClP(Bu)等を用いた検討(例えば、非特許文献5参照。)が行われている。
【0008】
また、高い発光効率を得るためにホール輸送性の化合物をリン光性化合物のホストとして用いている(例えば、非特許文献6参照。)。
【0009】
また、各種電子輸送性材料をリン光性化合物のホストとして、これらに新規なイリジウム錯体をドープして用いている(例えば、非特許文献4参照)。更にホールブロック層の導入により高い発光効率を得ている(例えば、非特許文献5参照。)。
【0010】
また、含窒素芳香族環化合物の部分構造を含み、窒素原子もしくはアリールを中心として3方向または4方向に延びる化学構造であって、熱的に安定な正孔輸送材料が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、特許文献5においてはリン光発光の有機EL素子の開示は一切なされていない。
【0011】
また、含窒素芳香族環化合物であって、輝度が高い発光材料が開示されている(例えば、特許文献6参照。)。しかしながら、特許文献6においてはリン光発光の有機EL素子の開示は一切なされていない。
【0012】
更に、陰極との界面にドナー(電子供与性)ドーパントとして機能する金属でドーピングした有機化合物層を有することを特徴とする有機EL素子(例えば、特許文献7参照。)、陰極に接する有機層がアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、希土類金属イオンの少なくとも1種を含有する有機金属錯体化合物と電子輸送性有機物を含み、陰極材料として該有機層中の有機金属錯体化合物中に含まれる金属イオンを真空中で金属に還元しうる金属を用いた有機EL素子(例えば、特許文献8参照。)、陽極と陰極の間に有機発光層と電子輸送層を電子輸送層が陰極の側に配置されるように設け、電子輸送層に電子移動度が10−5cm/Vs以上の有機化合物とセシウムを含むことを特徴とする有機EL素子(例えば、特許文献9参照。)が知られている。また、種々の新規構造の化合物を含有する有機EL素子が開示されている(例えば、特許文献10、11参照。)。
【0013】
現在、このリン光発光を用いた有機EL素子の更なる発光の高効率化、長寿命化が検討されているが、緑色発光については理論限界である20%近くの外部取り出し効率が達成されているものの、低電流領域(低輝度領域)のみであり、高電流領域(高輝度領域)では、いまだ理論限界は達成されていない。更にその他の発光色についてもまだ十分な効率が得られておらず改良が必要であり、また今後の実用化に向けた有機EL素子では、更に低消費電力で効率よく高輝度に発光する有機EL素子の開発が望まれている。特に青色リン光発光の有機EL素子において、高効率に発光する素子が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第3093796号公報
【特許文献2】特開昭63−264692号公報
【特許文献3】特開平3−255190号公報
【特許文献4】米国特許第6,097,147号明細書
【特許文献5】特公平7−110940号公報
【特許文献6】特開2001−160488号公報
【特許文献7】特開平10−270171号公報
【特許文献8】特開2000−182774号公報
【特許文献9】特開2003−347060号公報
【特許文献10】特開平11−251060号公報
【特許文献11】特開2002−270374号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】M.A.Baldo et al.,nature、395巻、151−154ページ(1998年)
【非特許文献2】M.A.Baldo et al.,nature、403巻、17号、750−753ページ(2000年)
【非特許文献3】S.Lamansky et al.,J.Am.Chem.Soc.,123巻、4304ページ(2001年)
【非特許文献4】M.E.Tompson et al.,The 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence(EL’00、浜松)
【非特許文献5】Moon−Jae Youn.0g,Tetsuo Tsutsui et al.,The 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence(EL’00、浜松)
【非特許文献6】Ikai et al.,The 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence(EL’00、浜松)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、発光輝度が高く、外部取り出し量子効率が高く、且つ長寿命である有機エレクトロルミネッセンス素子、照明装置及び表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の上記目的は、下記構成により達成された。
【0018】
(1)
一対の電極間に少なくとも燐光性発光層及び正孔阻止層を含む構成層を有し、該燐光性発光層もしくは該正孔阻止層のうち少なくとも一層が下記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、A及びAは2価の芳香族複素環基を表す。Aはカルボリン基が置換した芳香族複素環基を表す。B及びBはカルボリン基を表す。nは0〜2の整数を表す。)
(2)
前記カルボリン基が下記一般式(5)で表されることを特徴とする前記1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0021】
【化2】

【0022】
(式中、Z及びZは芳香族複素環または芳香族炭化水素環を形成する原子群を表し、Zは2価の連結基または単なる結合手を表す。)
(3)
前記一般式(5)のZが芳香族炭化水素環を形成する原子群を表すことを特徴とする前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0023】
(4)
青色に発光することを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0024】
(5)
白色に発光することを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0025】
(6)
前記5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有することを特徴とする表示装置。
【0026】
(7)
前記5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有することを特徴とする照明装置。
【0027】
(8)
前記7に記載の照明装置と表示手段としての液晶素子を有することを特徴とする表示装置。
【0028】
また、次の態様も本発明と同様に好ましい。
【0029】
(T1)
一対の電極間に少なくとも燐光性発光層を含む構成層を有し、該構成層のうち少なくとも一層が下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0030】
【化3】

【0031】
(式中、A及びAは2価の芳香族複素環基を表す。Aは水素原子もしくは置換基を表す。B及びBはカルバゾール基もしくはカルボリン基を表す。)
(T3)
一対の電極間に少なくとも燐光性発光層を含む構成層を有し、該構成層のうち少なくとも一層が下記一般式(3)で表される化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0032】
【化4】

【0033】
(式中、A11及びA12はアリーレンもしくは2価の芳香族複素環基を表す。Aは置換基を表す。B及びBはカルバゾール基もしくはカルボリン基を表す。nは0〜2の整数を表す。)
(T4)
一対の電極間に少なくとも燐光性発光層を含む構成層を有し、該構成層のうち少なくとも一層が下記一般式(4)で表される化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0034】
【化5】

【0035】
(式中、A11及びA12はアリーレンもしくは2価の芳香族複素環基を表す。Aは置換基を表す。B及びBはカルバゾール基もしくはカルボリン基を表す。nは0〜2の整数を表す。)
【発明の効果】
【0036】
本発明により、発光効率が高く、外部取り出し量子効率が高く、且つ長寿命である有機エレクトロルミネッセンス素子、照明装置及び表示装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。
【図2】表示部Aの模式図である。
【図3】画素を構成する駆動回路の等価回路図である。
【図4】パッシブマトリックス方式による表示装置の模式図である。
【図5】照明装置の概略図である。
【図6】照明装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、一対の電極間に少なくとも燐光性発光層を含む構成層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、該構成層のうち少なくとも一層が前記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴としている。前記一般式(1)、(2)、(3)または(4)で表される化合物を含有する構成層としては、燐光性発光層または正孔阻止層が好ましい。
【0039】
前記一般式(1)におけるA、前記一般式(2)、(3)、(4)におけるAが表す置換基としては、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えば、メチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えば、ビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えば、プロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えば、フェニル、p−メチルフェニル、ナフチルなどが挙げられる。)、アミノ基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜10、特に好ましくは炭素数0〜6であり、例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えば、フェニルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、アシル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、アセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜10であり、例えば、フェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えば、アセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えば、メトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えば、フェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、メタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜16、特に好ましくは炭素数0〜12であり、例えば、スルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイルなどが挙げられる。)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、メチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えば、フェニルチオなどが挙げられる。)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、メシル、トシルなどが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、メタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、ウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドなどが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、ジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。)、ヒドロキシル基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(ヘテロ原子として、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、セレン原子等を含む、好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20の、例えば、イミダゾリル、ピリジル、フリル、ピペリジル、モルホリノなどが挙げられる。)などが挙げられる。これらの置換基は更に置換されてもよい。また、可能な場合には連結して環を形成してもよい。
【0040】
前記一般式(1)、(2)におけるA及びA、前記一般式(3)、(4)におけるA11及びA12が表す2価の芳香族複素環基としては、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭化水素環の炭素原子の一つが更に窒素原子で置換されている環を示す)等の2価基が挙げられる。一般式(3)、(4)においては、A11及びA12はアリーレンも表すが、上記2価の芳香族複素環基が好ましい。
【0041】
前記一般式(5)において、Z及びZは芳香族複素環または芳香族炭化水素環を形成する原子群を表すが、芳香族複素環としては、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭化水素環の炭素原子の一つが更に窒素原子で置換されている環を示す)等が挙げられる。芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o−テルフェニル環、m−テルフェニル環、p−テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。更にこれら芳香族炭化水素環、芳香族複素環は置換基を有してもよい。
【0042】
が表す2価の連結基としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンなどの炭化水素基の他、ヘテロ原子を含むものであってもよく、またチオフェン−2,5−ジイル基やピラジン−2,3−ジイル基のような芳香族複素環を有する化合物(ヘテロ芳香族化合物ともいう)に由来する2価の連結基であってもよいし、酸素や硫黄などのカルコゲン原子であってもよい。また、アルキルイミノ基、ジアルキルシランジイル基やジアリールゲルマンジイル基のようなヘテロ原子を会して連結する基でもよい。
【0043】
単なる結合手とは、連結する置換基同士を直接結合する結合手である。
【0044】
以下に、一般式(1)、(2)、(3)または(4)で表される化合物の具体例を示すが、これらに限定されない。
【0045】
【化6】

【0046】
【化7】

【0047】
【化8】

【0048】
【化9】

【0049】
【化10】

【0050】
【化11】

【0051】
【化12】

【0052】
以下に代表的な合成例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0053】
合成例1(例示化合物1−5の合成)
【0054】
【化13】

【0055】
2−シアノ−5−ヨードピリジン6.90gに水素化ナトリウムを加え、160〜165℃で5時間加熱した。アセトニトリルで再結晶し、化合物(1)を得た。収量4.0g。次に窒素気流下、酢酸パラジウム0.225g、トリ(t−ブチル)ホスフィンの10%キシレン溶液7.8mlを加え、50〜60℃で30分間攪拌した。続いて、水素化ホウ素ナトリウム0.038g、脱水キシレン80ml、化合物(1)3.55g、化合物(2)2.9g、ナトリウムt−ブチラート1.78gを加え、8時間加熱還流を行った。減圧濃縮後、THFを加え不溶分を減圧濾過で除去した後、減圧下濃縮した。粗製品をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開液:酢酸エチル/トルエン/塩化メチレン)で精製し、更にTHFで再結晶して例示化合物1−5を得た。収量1.80g。構造はH−NMRスペクトル及び質量分析スペクトルによって確認した。
【0056】
合成例2(例示化合物3−1の合成)
【0057】
【化14】

【0058】
窒素雰囲気下、1.4−ジブロモベンゼン5.72gを脱水THF90mlに溶解し、−70℃に冷却した。この溶液にn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M)13.1mlを5分で滴下し、1時間攪拌した。次に、この混合物に2,6−ジクロロピラジン1.50gを脱水THF10mlに溶解した溶液を5分で加えた。室温まで昇温し、5時間攪拌した。この反応液に飽和食塩水を加え洗浄し、溶媒を減圧留去した。粗製品をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開液:酢酸エチル/トルエン/塩化メチレン)で精製し、化合物(4)を得た。収量1.63g
窒素気流下、酢酸パラジウム0.091g、トリ(t−ブチル)ホスフィンの10%キシレン溶液3.20mlを加え、50〜60℃で30分間攪拌した。続いて、脱水キシレン40ml、化合物(5)1.25g、化合物(4)1.21g、ナトリウムt−ブチラート0.78gを加え、8時間加熱還流を行った。減圧濃縮後、THFを加え不溶分を減圧濾過で除去した後、減圧下濃縮した。粗製品をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開液:酢酸エチル/トルエン/塩化メチレン)で精製し、更にTHFで再結晶して例示化合物3−1を得た。収量0.51g。構造はH−NMRスペクトル及び質量分析スペクトルによって確認した。
【0059】
合成例3(例示化合物4−6の合成)
【0060】
【化15】

【0061】
窒素雰囲気下、1.4−ジブロモベンゼン5.72gを脱水THF90mlに溶解し、−70℃に冷却した。この溶液にn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M)13.1mlを5分で滴下し1時間攪拌した。次に、この混合物に2,4−ジクロロピリダジン1.50gを脱水THF10mlに溶解した溶液を5分で加えた。室温まで昇温し5時間攪拌した。この反応液に飽和食塩水を加え洗浄し、溶媒を減圧留去した。粗製品をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開液:酢酸エチル/トルエン/塩化メチレン)で精製し、化合物(6)を得た。収量1.45g。
【0062】
窒素気流下、酢酸パラジウム0.091g、トリ(t−ブチル)ホスフィンの10%キシレン溶液3.20mlを加え、50〜60℃で30分間攪拌した。続いて、脱水キシレン40ml、化合物(2)1.25g、化合物(6)1.21g、ナトリウムt−ブチラート0.78gを加え、8時間加熱還流を行った。減圧濃縮後、THFを加え不溶分を減圧濾過で除去した後、減圧下濃縮した。粗製品をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開液:酢酸エチル/トルエン/塩化メチレン)で精製し、更にTHFで再結晶して例示化合物4−6を得た。収量0.65g。構造はH−NMRスペクトル及び質量分析スペクトルによって確認した。
【0063】
一般式(1)、(2)、(3)または(4)で表される化合物は、各々有機EL素子用材料(バックライト、フラットパネルディスプレイ、照明光源、表示素子、電子写真用光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、光通信デバイスなど)等の用途に用いられるが、その他の用途しては、有機半導体レーザ用材料(記録光源、露光光源、読み取り光源光通信デバイス、電子写真用光源など)、電子写真用感光体材料、有機TFT素子用材料(有機メモリ素子、有機演算素子、有機スイッチング素子)、有機波長変換素子用材料、光電変換素子用材料(太陽電池、光センサーなど)などの広い分野に利用可能である。
【0064】
次に、本発明の有機EL素子の構成層について詳細に説明する。本発明において、有機EL素子の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0065】
(i)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(ii)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(v)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
なお、正孔輸送層は陽極に隣接し、電子輸送層は陰極に隣接していることが好ましい。
【0066】
《陽極》
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。更に膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0067】
《陰極》
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0068】
また、陰極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0069】
次に、本発明の有機EL素子の構成層として用いられる、注入層、阻止層、電子輸送層等について説明する。
【0070】
《注入層:電子注入層、正孔注入層》
注入層は必要に応じて設け、電子注入層と正孔注入層があり、上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
【0071】
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
【0072】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0073】
陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0074】
《阻止層:正孔阻止層、電子阻止層》
阻止層は、上記の如く、有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0075】
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層であり、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
【0076】
本発明の有機EL素子の正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられている。
【0077】
本発明では、正孔阻止層の正孔阻止材料として前述した本発明に係る化合物を含有させることが好ましい。これにより、より一層発光効率の高い有機EL素子とすることができる。更により一層長寿命化させることができる。
【0078】
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層であり、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
【0079】
《発光層》
本発明に係る発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
【0080】
(ホスト化合物)
本発明の有機EL素子の発光層には、以下に示すホスト化合物とリン光性化合物(リン光発光性化合物ともいう)が含有されることが好ましく、本発明においては、ホスト化合物として前述した本発明に係る化合物を用いることが好ましい。これにより、より一層発光効率を高くすることができる。また、ホスト化合物として上記の本発明に係る化合物以外の化合物を含有してもよい。
【0081】
ここで、本発明においてホスト化合物とは、発光層に含有される化合物の内で室温(25℃)においてリン光発光のリン光量子収率が、0.01未満の化合物と定義される。
【0082】
更に公知のホスト化合物を複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。また、リン光性化合物を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。リン光性化合物の種類、ドープ量を調整することで白色発光が可能であり、照明、バックライトへの応用もできる。
【0083】
これらの公知のホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、且つ発光の長波長化を防ぎ、なお且つ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。
【0084】
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。
【0085】
特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等。
【0086】
また、発光層はホスト化合物として更に蛍光極大波長を有するホスト化合物を含有していてもよい。この場合、他のホスト化合物とリン光性化合物から蛍光性化合物へのエネルギー移動で、有機EL素子としての電界発光は蛍光極大波長を有する他のホスト化合物からの発光も得られる。蛍光極大波長を有するホスト化合物として好ましいのは、溶液状態で蛍光量子収率が高いものである。ここで、蛍光量子収率は10%以上、特に30%以上が好ましい。具体的な蛍光極大波長を有するホスト化合物としては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素等が挙げられる。蛍光量子収率は、前記第4版実験化学講座7の分光IIの362頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定することができる。
【0087】
(リン光性化合物(リン光発光性化合物))
発光層に使用される材料(以下、発光材料という)としては、上記のホスト化合物を含有すると同時に、リン光性化合物を含有することが好ましい。これにより、より発光効率の高い有機EL素子とすることができる。
【0088】
本発明に係るリン光性化合物は、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物である。リン光量子収率は好ましくは0.1以上である。上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に用いられるリン光性化合物は、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率が達成されればよい。
【0089】
リン光性化合物の発光は原理としては2種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーをリン光性化合物に移動させることでリン光性化合物からの発光を得るというエネルギー移動型、もう一つはリン光性化合物がキャリアトラップとなり、リン光性化合物上でキャリアの再結合が起こりリン光性化合物からの発光が得られるというキャリアトラップ型であるが、いずれの場合においても、リン光性化合物の励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
【0090】
リン光性化合物は、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0091】
本発明で用いられるリン光性化合物としては、好ましくは元素の周期表で8族〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、更に好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0092】
以下に、リン光性化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。これらの化合物は、例えば、Inorg.Chem.40巻、1704〜1711に記載の方法等により合成できる。
【0093】
【化16】

【0094】
【化17】

【0095】
【化18】

【0096】
【化19】

【0097】
【化20】

【0098】
【化21】

【0099】
【化22】

【0100】
本発明においては、リン光性化合物のリン光発光極大波長としては特に制限されるものではなく、原理的には中心金属、配位子、配位子の置換基等を選択することで得られる発光波長を変化させることができるが、リン光性化合物のリン光発光波長が380〜480nmにリン光発光の極大波長を有することが好ましい。このような青色リン光発光の有機EL素子や、白色リン光発光の有機EL素子で、より一層発光効率を高めることができる。
【0101】
本発明の有機EL素子や本発明に係る化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
【0102】
発光層は上記化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の薄膜化法により製膜して形成することができる。発光層としての膜厚は特に制限はないが、通常は5nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で選ばれる。この発光層はこれらのリン光性化合物やホスト化合物が1種または2種以上からなる一層構造であってもよいし、あるいは同一組成または異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0103】
《正孔輸送層》
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0104】
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0105】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0106】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、更には米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0107】
更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0108】
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0109】
《電子輸送層》
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0110】
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。更に、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0111】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様に、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0112】
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0113】
《基体》
本発明の有機EL素子は、基体上に形成されているのが好ましい。
【0114】
本発明の有機EL素子に用いることのできる基体(以下、基板、基材、支持体等ともいう)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また、透明のものであれば特に制限はないが、好ましく用いられる基板としては、例えば、ガラス、石英、光透過性樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい基体は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0115】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよい。
【0116】
本発明の有機EL素子の発光の室温における外部取り出し効率は1%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上である。ここに、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
【0117】
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。色変換フィルターを用いる場合においては、有機EL素子の発光のλmaxは480nm以下が好ましい。
【0118】
《有機EL素子の作製方法》
本発明の有機EL素子の作製方法の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子の作製法について説明する。
【0119】
まず適当な基体上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10〜200nmの膜厚になるように、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陽極を作製する。次に、この上に有機EL素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、正孔阻止層の有機化合物薄膜を形成させる。
【0120】
この有機化合物薄膜の薄膜化の方法としては、前記の如く蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法)等があるが、均質な膜が得られやすく、且つピンホールが生成しにくい等の点から、真空蒸着法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法が特に好ましい。更に層毎に異なる製膜法を適用してもよい。製膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度10−6〜10−2Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、膜厚0.1nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
【0121】
これらの層を形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を、1μm以下好ましくは50nm〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極を設けることにより所望の有機EL素子が得られる。この有機EL素子の作製は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる製膜法を施しても構わない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行う等の配慮が必要となる。
【0122】
本発明の多色の表示装置は発光層形成時のみシャドーマスクを設け、他層は共通であるのでシャドーマスク等のパターニングは不要であり、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で膜を形成できる。発光層のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、印刷法である。蒸着法を用いる場合においては、シャドーマスクを用いたパターニングが好ましい。
【0123】
また作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。このようにして得られた多色の表示装置に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると、発光が観測できる。また交流電圧を印加してもよい。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0124】
本発明の表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。表示デバイス、ディスプレイにおいて、青、赤、緑発光の3種の有機EL素子を用いることにより、フルカラーの表示が可能となる。
【0125】
表示デバイス、ディスプレイとしてはテレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリックス(パッシブマトリックス)方式でもアクティブマトリックス方式でもどちらでもよい。
【0126】
本発明の照明装置は家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではない。
【0127】
また、本発明の有機EL素子に共振器構造を持たせた有機EL素子として用いてもよい。このような共振器構造を有した有機EL素子の使用目的としては、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。また、レーザ発振をさせることにより、上記用途に使用してもよい。
【0128】
《表示装置》
本発明の有機EL素子は、照明用や露光光源のような1種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリックス(パッシブマトリックス)方式でもアクティブマトリックス方式でもどちらでもよい。または、異なる発光色を有する本発明の有機EL素子を3種以上使用することにより、フルカラー表示装置を作製することが可能である。または、一色の発光色、例えば、白色発光をカラーフィルターを用いてBGRにし、フルカラー化することも可能である。更に有機ELの発光色を色変換フィルターを用いて他色に変換しフルカラー化することも可能であるが、その場合、有機EL発光のλmaxは480nm以下であることが好ましい。
【0129】
本発明の有機EL素子から構成される表示装置の一例を図面に基づいて説明する。
【0130】
図1は、有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。有機EL素子の発光により画像情報の表示を行う、例えば、携帯電話等のディスプレイの模式図である。
【0131】
ディスプレイ1は、複数の画素を有する表示部A、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査を行う制御部B等からなる。
【0132】
制御部Bは、表示部Aと電気的に接続され、複数の画素それぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号を送り、走査信号により走査線毎の画素が画像データ信号に応じて順次発光して画像走査を行って画像情報を表示部Aに表示する。
【0133】
図2は、表示部Aの模式図である。
【0134】
表示部Aは基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部と、複数の画素3等とを有する。表示部Aの主要な部材の説明を以下に行う。図2においては、画素3の発光した光が、白矢印方向(下方向)へ取り出される場合を示している。
【0135】
配線部の走査線5及び複数のデータ線6は、各々導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示せず)。
【0136】
画素3は、走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素を、適宜、同一基板上に並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
【0137】
次に、画素の発光プロセスを説明する。
【0138】
図3は、画素の模式図である。
【0139】
画素は、有機EL素子10、スイッチングトランジスタ11、駆動トランジスタ12、コンデンサ13等を備えている。複数の画素に有機EL素子10として、赤色、緑色、青色発光の有機EL素子を用い、これらを同一基板上に並置することでフルカラー表示を行うことができる。
【0140】
図3において、制御部Bからデータ線6を介してスイッチングトランジスタ11のドレインに画像データ信号が印加される。そして、制御部Bから走査線5を介してスイッチングトランジスタ11のゲートに走査信号が印加されると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号がコンデンサ13と駆動トランジスタ12のゲートに伝達される。
【0141】
画像データ信号の伝達により、コンデンサ13が画像データ信号の電位に応じて充電されるとともに、駆動トランジスタ12の駆動がオンする。駆動トランジスタ12は、ドレインが電源ライン7に接続され、ソースが有機EL素子10の電極に接続されており、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン7から有機EL素子10に電流が供給される。
【0142】
制御部Bの順次走査により走査信号が次の走査線5に移ると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフする。しかし、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフしてもコンデンサ13は充電された画像データ信号の電位を保持するので、駆動トランジスタ12の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで有機EL素子10の発光が継続する。順次走査により次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスタ12が駆動して有機EL素子10が発光する。
【0143】
すなわち、有機EL素子10の発光は、複数の画素それぞれの有機EL素子10に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタ11と駆動トランジスタ12を設けて、複数の画素3それぞれの有機EL素子10の発光を行っている。このような発光方法をアクティブマトリックス方式と呼んでいる。
【0144】
ここで、有機EL素子10の発光は、複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフでもよい。
【0145】
また、コンデンサ13の電位の保持は、次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。
【0146】
本発明においては、上述したアクティブマトリックス方式に限らず、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて有機EL素子を発光させるパッシブマトリックス方式の発光駆動でもよい。
【0147】
図4は、パッシブマトリックス方式による表示装置の模式図である。図4において、複数の走査線5と複数の画像データ線6が画素3を挟んで対向して格子状に設けられている。
【0148】
順次走査により走査線5の走査信号が印加されたとき、印加された走査線5に接続している画素3が画像データ信号に応じて発光する。パッシブマトリックス方式では画素3にアクティブ素子がなく、製造コストの低減が計れる。
【0149】
本発明に係わる有機EL材料は、また、照明装置として、実質白色の発光を生じる有機EL素子に適用できる。複数の発光材料により複数の発光色を同時に発光させて混色により白色発光を得る。複数の発光色の組み合わせとしては、青色、緑色、青色の3原色の3つの発光極大波長を含有させたものでもよいし、青色と黄色、青緑と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有したものでもよい。
【0150】
また、複数の発光色を得るための発光材料の組み合わせは、複数のリン光または蛍光を発光する材料(発光ドーパント)を、複数組み合わせたもの、蛍光またはリン光を発光する発光材料と、該発光材料からの光を励起光として発光する色素材料とを組み合わせたもののいずれでもよいが、本発明に係わる白色有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光ドーパントを複数組み合わせる方式が好ましい。
【0151】
複数の発光色を得るための有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成としては、複数の発光ドーパントを、一つの発光層中に複数存在させる方法、複数の発光層を有し、各発光層中に発光波長の異なるドーパントをそれぞれ存在させる方法、異なる波長に発光する微小画素をマトリックス状に形成する方法等が挙げられる。
【0152】
本発明に係わる白色有機エレクトロルミネッセンス素子においては、必要に応じ製膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもいいし、電極と発光層をパターニングしてもいいし、素子全層をパターニングしてもいい。
【0153】
発光層に用いる発光材料としては特に制限はなく、例えば液晶表示素子におけるバックライトであれば、CF(カラーフィルター)特性に対応した波長範囲に適合するように、本発明に係わる白金錯体、また公知の発光材料の中から任意のものを選択して組み合わせて白色化すればよい。
【0154】
このように、白色発光有機EL素子は、前記表示デバイス、ディスプレイに加えて、各種発光光源、照明装置として、家庭用照明、車内照明、また、露光光源のような1種のランプとして、液晶表示装置のバックライト等、表示装置にも有用に用いられる。
【0155】
その他、時計等のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体等の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等、更には表示装置を必要とする一般の家庭用電気器具等広い範囲の用途が挙げられる。
【実施例】
【0156】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0157】
実施例1
《有機EL素子1−1〜1−23の作製》
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nm製膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行なった。この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方、モリブデン製抵抗加熱ボートにα−NPDを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにホスト化合物としてCBPを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにバソキュプロイン(BCP)を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにIr−12を100mg入れ、更に別のモリブデン製抵抗加熱ボートにAlqを200mg入れ、真空蒸着装置に取付けた。
【0158】
次いで真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、α−NPDの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で透明支持基板に蒸着し、正孔輸送層を設けた。更にCBPとIr−12の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.2nm/秒、0.012nm/秒で前記正孔輸送層上に共蒸着して発光層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。更にBCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記発光層の上に蒸着して膜厚10nmの正孔阻止層を設けた。その上に、更にAlqの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記正孔阻止層の上に蒸着して、更に膜厚40nmの電子輸送層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。
【0159】
引き続き、フッ化リチウム0.5nm及びアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子1−1を作製した。
【0160】
有機EL素子1−1の作製において、発光層のホスト化合物として用いているCBPを表1に示す各化合物に置き換えてホスト化合物とした以外は、有機EL素子1−1と同じ方法で有機EL素子1−2〜1−21を作製した。上記で使用した化合物の構造を以下に示す。
【0161】
【化23】

【0162】
【化24】

【0163】
《有機EL素子1−1〜1−21の評価》
以下のようにして、作製した有機EL素子1−1〜1−21の評価を行った。
【0164】
(輝度)
分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)で測定した輝度を用いて輝度(cd/m)を求めた。
【0165】
(外部取り出し量子効率)
作製した有機EL素子について、23℃、乾燥窒素ガス雰囲気下で2.5mA/cm定電流を印加した時の外部取り出し量子効率(%)を測定した。なお測定には同様に分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)を用いた。
【0166】
下表に記載の輝度、外部取りだし量子効率の測定結果は、有機EL素子1−1の測定値を100とした時の相対値で表した。以上により得られた結果を下表に示す。
【0167】
【表1】

【0168】
上記表に記載の結果より明らかなように、比較に比べて、本発明の有機EL素子は、輝度が高く、且つ外部取り出し量子効率に非常に優れていることが分かった。
【0169】
実施例2
《有機EL素子2−1〜2−20の作製》
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nm製膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行なった。この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方モリブデン製抵抗加熱ボートにα−NPDを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにCBPを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに正孔阻止材料としてBCPを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにIr−1を100mg入れ、更に別のモリブデン製抵抗加熱ボートにAlqを200mg入れ、真空蒸着装置に取付けた。
【0170】
次いで真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、α−NPDの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で透明支持基板に蒸着し、正孔輸送層を設けた。更に、CBPとIr−1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.2nm/秒、0.012nm/秒で前記正孔輸送層上に共蒸着して発光層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。更にBCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記発光層の上に蒸着して膜厚10nmの正孔阻止層を設けた。その上に、更にAlqの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記正孔阻止層の上に蒸着して更に膜厚40nmの電子輸送層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。
【0171】
引き続き、フッ化リチウム0.5nm及びアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子2−1を作製した。
【0172】
有機EL素子2−1の作製において、正孔阻止材料として用いているBCPを下表に示す化合物に置き換えた以外は、有機EL素子2−1と同じ方法で2−2〜2−20を作製した。
【0173】
《有機EL素子2−1〜2−20の評価》
実施例1と同様にして有機EL素子2−1〜2−20の輝度、外部取り出し量子効率の評価を行った。更に下記に示す測定法に従って、寿命の評価を行った。
【0174】
(寿命)
2.5mA/cmの一定電流で駆動したときに、輝度が発光開始直後の輝度(初期輝度)の半分に低下するのに要した時間を測定し、これを半減寿命時間(τ0.5)として寿命の指標とした。なお測定には分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)を用いた。
【0175】
以上により得られた結果を下表に示す。なお、下表に記載の輝度、外部取り出し量子効率、寿命の測定結果は、有機EL素子2−1を100とした時の相対値で表した。
【0176】
【表2】

【0177】
上表に記載の結果より明らかなように、比較に比べて、本発明の有機EL素子は、輝度が高く、外部取り出し量子効率に優れ、且つ長寿命化が達成されていることが分かった。
【0178】
実施例3
《有機EL素子3−1〜3−8の作製》
実施例1に記載の有機EL素子1−1の作製において、発光層のホスト化合物を下表に記載の化合物に変更し、Ir−12をIr−1に変更し、更にBCPをB−Alqに変更した以外は同様にして、有機EL素子3−1〜3−8を作製した。
【0179】
【化25】

【0180】
《有機EL素子3−1〜3−8の評価》
下記に示す測定法に従って、保存性の評価を行った。
【0181】
(保存性)
各有機EL素子を、85℃で24時間保存した後、保存前後における2.5mA/cmの定電流駆動での各輝度を測定し、各輝度比を下式に従って求め、これを保存性の尺度とした。
【0182】
保存性(%)=保存後の輝度(2.5mA/cm)/保存前の輝度(2.5mA/cm)×100
以上により得られた結果を下表に示す。
【0183】
【表3】

【0184】
上表に記載の結果より明らかなように、比較に比べて、本発明の有機EL素子は、保存性に優れていることが分かった。
【0185】
実施例4
《有機EL素子4−1〜4−8の作製》
実施例2に記載の有機EL素子2−1の作製において、発光層のホスト化合物(CBP)を、例示化合物1−5に変更し、更に正孔阻止層の正孔阻止材料を下表のように変更した以外は同様にして、有機EL素子4−1〜4−8を作製した。
【0186】
《有機EL素子4−1〜4−8の評価》
実施例3と同様にして有機EL素子4−1〜4−8の保存性の評価を行い、得られた結果を下表に示す。
【0187】
【表4】

【0188】
上表に記載の結果より明らかなように、比較に比べて、本発明の有機EL素子は、保存性に優れていることが分かった。
【0189】
実施例5
実施例1で作製した本発明の有機EL素子1−5と、実施例2で作製した本発明の有機EL素子2−4と、本発明の有機EL素子2−4のリン光性化合物を例示化合物、Ir−9に置き換えた以外は同様にして作製した赤色発光有機EL素子を同一基板上に並置し、第1図に示すアクティブマトリクス方式フルカラー表示装置を作製した。第2図には作製したフルカラー表示装置の表示部Aの模式図のみを示した。即ち同一基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部と、並置した複数の画素3(発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素等)とを有し、配線部の走査線5及び複数のデータ線6はそれぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示せず)。前記複数の画素3は、それぞれの発光色に対応した有機EL素子、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタと駆動トランジスタそれぞれが設けられたアクティブマトリクス方式で駆動されており、走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。このように各赤、緑、青の画素を適宜、並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
【0190】
フルカラー表示装置を駆動することにより、鮮明なフルカラー動画表示が得られた。
【0191】
実施例6
《照明装置の作製》
有機EL素子1−6、2−6及び有機EL素子2−6のリン光性化合物をIr−9で置き換えた素子各々の非発光面をガラスケースで覆い、照明装置とした。照明装置は、発光効率が高く、発光寿命の長い白色光を発する薄型の照明装置として使用することができた。図5は照明装置の概略図で、図6は照明装置の断面図である。有機EL素子101をガラスカバー102で覆った。105は陰極で106は有機EL層、107は透明電極付きガラス基板である。なおガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
【符号の説明】
【0192】
1 ディスプレイ
3 画素
5 走査線
6 データ線
7 電源ライン
10 有機EL素子
11 スイッチングトランジスタ
12 駆動トランジスタ
13 コンデンサ
A 表示部
B 制御部
102 ガラスカバー
105 陰極
106 有機EL層
107 透明電極付きガラス基板
108 窒素ガス
109 捕水剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に少なくとも燐光性発光層及び正孔阻止層を含む構成層を有し、該燐光性発光層もしくは該正孔阻止層のうち少なくとも一層が下記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

(式中、A及びAは2価の芳香族複素環基を表す。Aはカルボリン基が置換した芳香族複素環基を表す。B及びBはカルボリン基を表す。nは0〜2の整数を表す。)
【請求項2】
前記カルボリン基が下記一般式(5)で表されることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】

(式中、Z及びZは芳香族複素環または芳香族炭化水素環を形成する原子群を表し、Zは2価の連結基または単なる結合手を表す。)
【請求項3】
前記一般式(5)のZが芳香族炭化水素環を形成する原子群を表すことを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
青色に発光することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
白色に発光することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有することを特徴とする表示装置。
【請求項7】
請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有することを特徴とする照明装置。
【請求項8】
請求項7に記載の照明装置と表示手段としての液晶素子を有することを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−176333(P2011−176333A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81529(P2011−81529)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【分割の表示】特願2004−340275(P2004−340275)の分割
【原出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】