説明

有機エレクトロルミネッセンス素子、該素子の製造方法、およびその用途

【課題】発光効率と耐久性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法およびその用途を提供すること。
【解決手段】本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極と、発光層を含む一層または複数層の有機物層とを備え、前記発光層が、少なくとも発光性化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を用いて塗布成膜法により形成される有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光性化合物の双極子モーメントと、有機溶媒の双極子モーメントとの差の絶対値が1.0D以内であり、前記双極子モーメントが、密度汎関数理論に基づく汎関数を用いて、第一原理電子状態計算によって算出される電子密度の値から得られたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、該素子の製造方法、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
1987年にコダック社のC.W.Tangらにより有機エレクトロルミネッセンス素子(以下「有機EL素子」とも記す。)の高輝度の発光が示されて(非特許文献1参照)以来、有機EL素子の材料開発、素子構造の改良が急速に進み、最近になってカーオーディオや携帯電話用のディスプレイなどから有機EL素子の実用化が始まった。この有機EL(エレクトロルミネッセンス)の用途を更に拡大するために、発光効率向上、耐久性向上のための材料開発、フルカラー表示の開発などが現在活発に行われている。
【0003】
今日、有機EL素子の発光層を形成する方法としては、いわゆる真空蒸着法または溶液塗布法が一般的である。しかしながら、真空蒸着法を用いた場合、一般的に積層による素子作製を行うため、有機EL素子の製造工程が煩雑となる。また、溶液塗布法では均一な膜を作製することが困難であるため真空蒸着法に比べて発光特性や素子寿命が劣る傾向にある。これらの問題を解決するため、現在塗布法の研究開発が活発に行われている。
【0004】
特許文献1には、インクジェット法により良好な塗布膜を作製するためのインク組成物が開示されている。このインク組成物は、有機EL素子用有機材料が0.1以上4質量%未満の濃度でインク用溶媒に溶解されてなり、4〜20mPa・sの粘度を有しており、前記有機EL素子用有機材料は質量平均分子量が50万以下であり、前記インク用溶媒は、前記有機EL素子用有機材料を溶解する第1溶媒と、20mPa・s以上の粘度を有するとともに前記第1溶媒よりも低い沸点を有する第2溶媒と、の少なくとも2種類以上の溶媒を含むことを特徴としている。粘性の高い溶媒を用いることでインクジェットによる塗布成膜を可能にしていると考えられる。
【0005】
特許文献2には厚さ均一性が高く、発光特性が優れた発光層を形成するためのインク組成物が開示されている。高分子有機EL材料1重量部に対して、有機溶媒を9〜99重量部含み、前記有機溶媒は、分子量150以上であり、かつダイポールが2D以下である溶媒を含むことを特徴としている。
【0006】
特許文献3には塗布溶媒の条件として有機高分子材料との光散乱強度法から測定される第2ビリアル係数が1×10-3cm3・mol/g2以上のものを用いることで塗布成膜を可能にする方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に開示された方法で塗布成膜を行い作製した有機EL素子は、いずれにおいても発光効率、耐久性の面で特筆すべき性能を持つわけではなく、改善する余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−267299号公報
【特許文献2】特開2009‐246206号公報
【特許文献3】特開2009‐242601号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.、1987年、51巻、913頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、発光効率と耐久性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意検討した結果、均一な塗布膜を作製できない要因として、発光性化合物に対し溶解性の低い溶媒を塗布成膜時に使用すると微細な結晶が容易に生成しやすいことが挙げられ、発光性化合物の双極子モーメントに近い値を持つ溶媒を塗布溶媒として用いることで、結晶化を抑制でき均質性に優れた薄膜が形成され、発光効率、耐久性ともに良好な特性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、たとえば以下の[1]〜[9]に関する。
[1]
一対の電極と、発光層を含む一層または複数層の有機物層とを備え、
前記発光層が、少なくとも発光性化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を用いて塗布成膜法により形成される有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光性化合物の双極子モーメントと、有機溶媒の双極子モーメントとの差の絶対値が1.0D以内であり、
前記双極子モーメントが、密度汎関数理論に基づく汎関数を用いて、第一原理電子状態計算によって算出される電子密度の値から得られたものである有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0013】
[2]
前記溶媒の沸点が130℃以上であることを特徴とする[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0014】
[3]
前記発光性化合物が燐光発光性化合物であることを特徴とする[1]または[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
[4]
前記発光性化合物が金属錯体であることを特徴とする[1]または[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0016】
[5]
前記燐光発光性化合物がイリジウムを中心金属として有する金属錯体であることを特徴とする[3]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0017】
[6]
前記塗布成膜法がスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法から選択されることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0018】
[7]
陽極上に、発光層を含む一層または複数層の有機物層を形成する工程、および、前記有機層上に陰極を形成する工程を含み、
前記発光層が、少なくとも発光性化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を用いて塗布成膜法により形成され、
前記発光性化合物の双極子モーメントと、有機溶媒の双極子モーメントとの差の絶対値が1.0D以内であり、
前記双極子モーメントが、密度汎関数理論に基づく汎関数を用いて、第一原理電子状態計算によって算出される電子密度の値から得られたものである有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0019】
[8]
[1]〜[6]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えたことを特徴とする画像表示装置。
【0020】
[9]
[1]〜[6]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えたことを特徴とする面発光光源。
【発明の効果】
【0021】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光効率と耐久性に優れるため、ディスプレイや照明といった用途に好適に使用することができる。また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法によれば、簡便に発光効率と耐久性に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明について具体的に説明する。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極と、発光層を含む一層または複数層の有機物層とを備え、前記発光層が、少なくとも発光性化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を用いて塗布成膜法により形成される有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光性化合物の双極子モーメントと、有機溶媒の双極子モーメントとの差の絶対値が1.0D以内であることを特徴とする。
【0023】
本発明における双極子モーメントとは、外部電場存在下での分子の電荷の偏りを表わす物性値である。
双極子モーメントは、ユニバーサル(Universal)力場に代表される古典力場での分子動力学計算から求めた有機金属錯体および有機溶媒の局所安定構造を使用した第一原理電子状態計算によって算出される電子密度の値から得られる。第一原理電子状態計算には、密度汎関数理論に基づく汎関数を用いる。基底関数には、イリジウム原子にはLANL2DZやLANL2TZに代表されるエフェクティブコアポテンシャル基底を、その他の原子にはcc-pVTZに代表されるガウス基底を用いる。なお、新しい量子化学(上)電子構造の理論入門 A.ザボ、N.S.オストランド 著 大野公男、阪井健夫、望月祐志 訳 東京大学出版会や、電子構造論による化学の探求 第2版 James B.Foresman AEleen Frisch 共著 田崎健三 訳 ガウシアン社に記載されている内容に基づいて、双極子モーメントを求めることができる。
【0024】
前述のように本発明では、前記発光性化合物の双極子モーメントと、有機溶媒の双極子モーメントとの差の絶対値が1.0D以内であり、0.5D以内であることがより好ましい。
【0025】
上記発光性化合物の双極子モーメントと有機溶媒の双極子モーメントとの差の絶対値が1.0D以内であれば、発光層内における発光性化合物の結晶化が抑制され、均質性に優れた薄膜が形成されるため、発光効率が高く耐久性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。
【0026】
また、用いる有機溶媒の沸点は130℃以上であることが好ましく、150℃以上であることが特に好ましい。溶媒の沸点が130℃以上であれば、発光層内における発光性化合物の結晶化がより抑制され、均質性に優れた薄膜が形成されるため、発光効率が高く耐久性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。
【0027】
なお、一般的な有機溶媒の沸点および双極子モーメント(D)の値を表1に示す。下記表1における双極子モーメント(D)は、密度汎関数理論に基づく汎関数を用いて、第一原理電子状態計算によって算出される電子密度の値から得られたものである。
【0028】
【表1】

本発明に係る有機発光素子の構成の一例として、透明基板上に設けた陽極および陰極の間に、正孔輸送層、発光層および電子輸送層を、この順で積層した構成が挙げられる。他の有機発光素子の構成では、例えば、前記有機発光素子の陽極と陰極の間に、1)正孔輸送層/発光層、2)発光層/電子輸送層のいずれかを設けてもよい。また、3)正孔輸送材料、発光材料、電子輸送材料を含む層、4)正孔輸送材料、発光材料を含む層、5)発光材料、電子輸送材料を含む層、6)上記発光層のいずれかの層を1層のみ設けてもよい。さらに、発光層を2層以上積層してもよい。上記の有機層は基板上の電極面内に設けられた細孔(キャビティ)内部に形成されていてもよい。
【0029】
前記発光性化合物としては、燐光発光性化合物であることが好ましい。また、金属錯体であることも好ましい。また、前記燐光発光性化合物がイリジウムを中心金属として有する金属錯体であることがより好ましい。
【0030】
上記発光層は、発光性化合物として、燐光発光性化合物を含むことが好ましく、燐光発光性化合物の例として、アリールピリジンやカルベンなどの配位子を有するイリジウム錯体、白金錯体、オスミウム錯体などが挙げられる。イリジウム錯体のより具体的な例示として以下の化合物(E1−1)〜(E1−39)が挙げられる。
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
【化3】

【0034】
【化4】

上記発光性化合物は、発光層中でホスト化合物中に0.1〜30重量%含まれていることが好ましい。ホスト化合物としては公知の正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物などが用いられ、これらの化合物は低分子化合物であってもポリマー化合物であってもよい。
【0035】
前記有機溶媒としては、例えば、1,2-ジクロロベンゼン、1-クロロトルエン等の塩素系溶媒、アニソール、ベラトロール、エチレングリコールジブチルエステル等のエーテル系溶媒、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、シメン等の芳香族炭化水素系溶媒、3-メチルシクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、メチルベンゾエート、安息香酸メチル等のエステル系溶媒などが挙げられる。
【0036】
発光性化合物と有機溶媒との好ましい組み合わせの一例として、前記El−29とアニソールの組み合わせが挙げられる。
上記正孔輸送層を形成する正孔輸送材料、または発光層中に混合させる正孔輸送材料としては、例えば、TPD(N,N’−ジメチル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン);α−NPD(4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル);m−MTDATA(4、4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)等の低分子トリフェニルアミン誘導体;ポリビニルカルバゾール;上記トリフェニルアミン誘導体に重合性置換基を導入して重合した高分子化合物;ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアルキルフルオレン等の蛍光発光性高分子化合物などが挙げられる。上記高分子化合物としては、例えば、特開平8−157575号公報に開示されているトリフェニルアミン骨格の高分子化合物などが挙げられる。上記正孔輸送材料は、1種単独でも、2種以上を混合して用いてもよく、異なる正孔輸送材料を積層して用いてもよい。正孔輸送層の厚さは、正孔輸送層の導電率などに依存するため、一概に限定できないが、好ましくは1nm〜5μm、より好ましくは5nm〜1μm、特に好ましくは10nm〜500nmであることが望ましい。
【0037】
上記電子輸送層を形成する電子輸送材料、または発光層中に混合させる電子輸送材料としては、例えば、Alq3(アルミニウムトリスキノリノレート)等のキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体、トリアリールボラン誘導体等の低分子化合物;上記の低分子化合物に重合性置換基を導入して重合した高分子化合物などが挙げられる。上記高分子化合物としては、例えば、特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどが挙げられる。上記電子輸送材料は、1種単独でも、2種以上を混合して用いてもよく、異なる電子輸送材料を積層して用いてもよい。電子輸送層の厚さは、電子輸送層の導電率などに依存するため、一概に限定できないが、好ましくは1nm〜5μm、より好ましくは5nm〜1μm、特に好ましくは10nm〜500nmであることが望ましい。
【0038】
また、発光層の陰極側に隣接して、正孔が発光層を通過することを抑え、発光層内で正孔と電子とを効率よく再結合させる目的で、正孔ブロック層が設けられていてもよい。上記正孔ブロック層を形成するために、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体などの公知の材料が用いられる。
【0039】
陽極と発光層との間に、正孔注入において注入障壁を緩和するために、正孔注入層が設けられていてもよい。上記ホール注入層を形成するためには、銅フタロシアニン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)の混合体、フルオロカーボンなどの公知の材料が用いられる。
【0040】
陰極と電子輸送層との間、または陰極と陰極に隣接して積層される有機層との間に、電子注入効率を向上するために、厚さ0.1〜10nmの絶縁層が設けられていてもよい。上記絶縁層を形成するために、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、アルミナなどの公知の材料が用いられる。
【0041】
上記陽極材料としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化錫、酸化亜鉛、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子など、公知の透明導電材料が用いられる。この透明導電材料によって形成された電極の表面抵抗は、1〜50Ω/□(オーム/スクエアー)であることが好ましい。陽極の厚さは50〜300nmであることが好ましい。
【0042】
上記陰極材料としては、例えば、Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属;Mg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属;Al;MgAg合金;AlLi、AlCa等のAlとアルカリ金属またはアルカリ土類金属との合金など、公知の陰極材料が用いられる。陰極の厚さは、好ましくは10nm〜1μm、より好ましくは50〜500nmであることが望ましい。アルカリ金属、アルカリ土類金属などの活性の高い金属を陰極として使用する場合には、陰極の厚さは、好ましくは0.1〜100nm、より好ましくは0.5〜50nmであることが望ましい。また、この場合には、上記陰極金属を保護する目的で、この陰極上に、大気に対して安定な金属層が積層される。上記金属層を形成する金属として、例えば、Al、Ag、Au、Pt、Cu、Ni、Crなどが挙げられる。上記金属層の厚さは、好ましくは10nm〜1μm、より好ましくは50〜500nmであることが望ましい。
【0043】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の基板としては、上記発光材料の発光波長に対して透明な絶縁性基板が使用され、ガラスのほか、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート等の透明プラスチックなどが用いられる。
【0044】
上記の正孔輸送層および電子輸送層の成膜方法としては、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、インクジェット法、スピンコート法、印刷法、スプレー法、ディスペンサー法などが用いられる。低分子化合物の場合は、抵抗加熱蒸着または電子ビーム蒸着が好適に用いられ、高分子材料の場合は、インクジェット法、スピンコート法、または印刷法が好適に用いられる。
【0045】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子では、前記発光層が、少なくとも発光性化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を用いて塗布成膜法により形成されるが、前記塗布成膜法がスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法から選択されることが好ましい。
【0046】
また、上記陽極材料の成膜方法としては、例えば、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、化学反応法、コーティング法などが用いられ、上記陰極材料の成膜方法としては、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが用いられる。
【0047】
本発明に係る有機EL素子は、公知の方法で、マトリックス方式またはセグメント方式による画素として画像表示装置に好適に用いられる。また、上記有機EL素子は、画素を形成せずに、面発光光源としても好適に用いられる。
【0048】
本発明に係る有機EL素子は、具体的には、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダー等の表示装置、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、光通信などに好適に用いられる。
【実施例】
【0049】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0050】
〔実施例1〕
25mm角のガラス基板の一方の面に、陽極としての幅4mmの2本のITO電極がストライプ状に形成されたITO(酸化インジウム錫)付き基板(ニッポ電機、Nippo Electric Co., LTD.)を用いて有機EL素子を作製した。はじめに、上記ITO付き基板のITO(陽極)上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)・ポリスチレンスルホン酸(バイエル社製、商品名「バイトロンP」)を、スピンコート法により、回転数3500rpm、塗布時間40秒の条件で塗布した後、真空乾燥器で減圧下、60℃で2時間乾燥を行い、陽極バッファ層を形成した。得られた陽極バッファ層の膜厚は約50nmであった。
【0051】
次に、発光層を形成するための塗布溶液を調製した。すなわち、イリジウム錯体化合物(El−29)15mg、ポリ(N−ビニルカルバゾール)135mgをアニソール(和光純薬工業製、特級)(沸点154℃)9850mgに溶解し、得られた溶液を孔径0.2μmのフィルターでろ過して塗布溶液とした。
【0052】
次に、陽極バッファ層上に、調製した塗布溶液をスピンコート法により、回転数3000rpm、塗布時間30秒の条件で塗布し、室温(25℃)にて30分間乾燥することにより、発光層を形成した。得られた発光層の膜厚は約100nmであった。
【0053】
次に発光層を形成した基板を蒸着装置内に載置し、バリウムを蒸着速度0.01nm/sで5nmの厚さに蒸着し、続いて陰極としてアルミニウムを蒸着速度1nm/sで150nmの厚さに蒸着し、素子1を作製した。
【0054】
尚、バリウムとアルミニウムの層は、陽極の延在方向に対して直交する2本の幅3mmのストライプ状に形成し、1枚のガラス基板当たり、縦4mm×横3mmの有機EL素子を4個作製した。
【0055】
なお、イリジウム錯体化合物(El−29)およびアニソールの双極子モーメントは、それぞれ1.78Debye(D)および1.30Debye(D)であった。
よって、イリジウム錯体化合物(El−29)(発光性化合物)の双極子モーメントと、アニソール(有機溶媒)の双極子モーメントとの差の絶対値は、0.48Dであった。
【0056】
(株)アドバンテスト製 プログラマブル直流電圧/電流源 TR6143を用いて上記有機EL素子に電圧を印加して発光させ、その発光輝度を(株)トプコン製 輝度計 BM−8を用いて測定した。その結果得られた、100cd/m2点灯時の外部量子効率および初期輝度100cd/m2で定電流駆動させたときの輝度半減時間を表2に示す。なお、外部量子効率および輝度半減時間の値は1枚の基板に形成された有機EL素子4個の平均値である。
【0057】
〔比較例1〕
アニソール9850mgの代わりにトルエン9850mgを用いた以外は、実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0058】
なお、トルエンの双極子モーメントは0.37Dであった。よって、イリジウム錯体化合物(El−29)(発光性化合物)の双極子モーメントと、トルエン(有機溶媒)の双極子モーメントとの差の絶対値は、1.41Dであった。
100cd/m2点灯時の外部量子効率および初期輝度100cd/m2で定電流駆動させたときの輝度半減時間を表2に示す。
【0059】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、発光層を含む一層または複数層の有機物層とを備え、
前記発光層が、少なくとも発光性化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を用いて塗布成膜法により形成される有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光性化合物の双極子モーメントと、有機溶媒の双極子モーメントとの差の絶対値が1.0D以内であり、
前記双極子モーメントが、密度汎関数理論に基づく汎関数を用いて、第一原理電子状態計算によって算出される電子密度の値から得られたものである有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記溶媒の沸点が130℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記発光性化合物が燐光発光性化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記発光性化合物が金属錯体であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記燐光発光性化合物がイリジウムを中心金属として有する金属錯体であることを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記塗布成膜法がスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法から選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
陽極上に、発光層を含む一層または複数層の有機物層を形成する工程、および、前記有機層上に陰極を形成する工程を含み、
前記発光層が、少なくとも発光性化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を用いて塗布成膜法により形成され、
前記発光性化合物の双極子モーメントと、有機溶媒の双極子モーメントとの差の絶対値が1.0D以内であり、
前記双極子モーメントが、密度汎関数理論に基づく汎関数を用いて、第一原理電子状態計算によって算出される電子密度の値から得られたものである有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えたことを特徴とする面発光光源。

【公開番号】特開2011−119307(P2011−119307A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272908(P2009−272908)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】