説明

有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法

【課題】本発明は、フォトリソグラフィー法を用いて有機EL層をパターニングする有機EL素子の製造方法であって、発光特性および寿命特性に優れる有機EL素子の製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、フォトリソグラフィー法を用いて有機EL層のパターニングを行う際に、有機EL層およびフォトレジスト層の間に導電保護層を設けることにより、上記目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィー法を用いた有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンスをELと略す場合がある。)素子の製造方法、およびそれにより得られるエレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EL素子は、対向する2つの電極から注入された正孔および電子が発光層内で結合し、そのエネルギーで発光層中の蛍光物質を励起し、蛍光物質に応じた色の発光を行うものであり、自発光の面状表示素子として注目されている。その中でも、有機物質を発光材料として用いた有機EL素子は、印加電圧が10V弱であっても高輝度な発光を実現できるなど発光効率が高く、単純な素子構造で発光が可能であり、特定のパターンを発光表示させる広告その他低価格の簡易表示ディスプレイへの応用が期待されている。
【0003】
一般に、有機EL素子を用いたディスプレイの製造にあっては、発光層等のパターニングがなされている。発光層のパターニング方法としては、発光材料をシャドウマスクを介して蒸着する方法、インクジェット法により塗り分ける方法、フォトリソグラフィー法等が提案されている。
【0004】
これらの方法の中でも、フォトリソグラフィー法では、蒸着によるパターニング方法と比較すると、高精度のアライメント機構を備えた真空設備等が不要であることから、比較的容易にかつ安価に有機EL素子を製造することができる。また、フォトリソグラフィー法は、インクジェット法によるパターニング方法と比較すると、パターニングを補助する構造物や基板に対する前処理等を行うことがない点で好ましい。さらに、インクジェットヘッドの吐出精度との関係から、フォトリソグラフィー法の方がより高精細なパターンの形成に対して有利である。
【0005】
フォトリソグラフィー法によって有機EL層をパターニングする際に、有機EL層上にフォトレジストを塗布する場合には、有機EL層に用いられる有機材料が、フォトレジスト溶媒だけでなく、フォトレジスト現像液、剥離液およびリンス液等に不溶であることが必要とされる。しかしながら、一般的に有機EL層に用いられる有機材料は多くの溶剤に可溶であるため、有機EL層上にフォトレジストを塗布してフォトレジスト層を形成するのが困難であった。
【0006】
そこで、例えば、基板上の全面に陽極、有機EL層、陰極および保護層を形成し、保護層上にフォトレジスト層を形成し、このフォトレジスト層を所望の形状にパターニングし、その後、反応性イオンエッチング(RIE)によりフォトレジスト層が除去された部分の陰極、保護層および有機EL層を連続してエッチングすることにより、有機EL層をパターニングする方法が開示されている(特許文献1および特許文献2参照)。この方法では、有機EL層上にフォトレジスト層を形成する必要がない。しかしながら、この方法を用いて3色の発光層をパターニングするには、有機EL層上に陰極および保護層を真空成膜し、保護層上にフォトレジスト層を形成して、その後、陰極、保護層および有機EL層をエッチングし、フォトレジスト層を除去するという工程を繰り返し行うため、工程が非常に複雑であり、製造コストが増加するという問題がある。
【0007】
さらに、特許文献2では、陰極の配線を設けるために、パターン状の有機EL層、陰極および保護層が設けられた基板上の全面に、再度、陰極および保護層を形成し、パターニングしている。この方法では、工程がさらに複雑になり、製造コストがさらに増加するだけでなく、有機EL層上に保護層が2層積層されることになるため、発光特性等の性能の低下につながるという問題がある。
【0008】
また、発光材料や、正孔もしくは電子輸送材性料等の有機材料と、感光性樹脂とを混合した材料を用いて有機EL層を形成し、パターン露光して、未露光部分の有機EL層を除去することにより、有機EL層をパターニングする方法が開示されている(特許文献3参照)。この方法においても、有機EL層上にフォトレジスト層を形成する必要がない。しかしながら、特に上記の文献では発光材料を感光性樹脂中に混合する必要があり、発光の失活サイトが多くなり、特性低下が著しい。
【0009】
さらに、発光材料や正孔輸送性材料等の有機材料と、熱硬化性樹脂とを混合した材料を用いて有機EL層を形成し、加熱硬化処理により有機EL層を硬化させた後に、有機EL層上にフォトレジスト層を形成して、有機EL層をパターニングする方法が開示されている(特許文献4参照)。この方法によれば、有機EL層上にフォトレジスト層を容易に形成することができる。
また、上記特許文献4では、1色目の発光層をドライエッチングによりパターニングした後に、一度フォトレジスト層を剥離し、1色目の発光層を完全に硬化させ、1色目の発光層の表面が露出した状態で、2色目の発光層を形成している。この方法では、1色目の発光層の表面が、2色目の発光層をパターニングするためのドライエッチングにさらされて、ダメージを受ける。そのため、発光特性が低下するという問題がある。
【0010】
さらに、フォトレジスト溶媒、フォトレジスト現像液および剥離液等に対して、有機EL層に用いられる有機材料の溶解度を適切に調整することにより、有機EL層上にフォトレジスト層を形成して、有機EL層をパターニングする方法が提案されている(特許文献5参照)。この方法では、まず、1色目の発光層上にフォトレジスト層を形成し、所望の形状にパターニングし、フォトレジスト層が除去された部分の1色目の発光層をエッチングする。その後、フォトレジスト層を除去することなく、2色目の発光層を形成し、2色目の発光層上にさらにフォトレジスト層を形成し、所望の形状にパターニングし、フォトレジスト層が除去された部分の2色目の発光層をエッチングする。そして、このような工程を繰り返し行って、複数色の発光層をパターニングした後に、各フォトレジスト層を除去する。この方法によれば、2色目の発光層形成時にも、1色目の発光層上にはフォトレジスト層が残されており、1色目の発光層が2色目の発光層を形成するための塗工液および2色目の発光層をパターニングするためのドライエッチングから保護されるので、ダメージを低減することができる。この方法においては、有機EL層上にフォトレジストを直接塗布している。
【0011】
【特許文献1】特開平9−293589号公報
【特許文献2】特開2000−113982号公報
【特許文献3】特開平10−69981号公報
【特許文献4】特開2001−237075号公報
【特許文献5】特開2004−6231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、有機EL層上にフォトレジストを直接塗布すると、発光特性や寿命特性等が低下することがあった。これは、フォトレジスト層の剥離後もフォトレジスト成分が有機EL層表面にわずかに付着しており、この微量のフォトレジスト成分が発光特性や寿命特性等に何らかの影響を及ぼしていると思料される。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、フォトリソグラフィー法を用いて有機EL層をパターニングする有機EL素子の製造方法であって、発光特性および寿命特性に優れる有機EL素子の製造方法を提供することを主目的とする。さらには、その有機EL素子の製造方法により得られる有機EL素子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、有機EL層上にフォトレジストを直接塗布した場合に発光特性や寿命特性を低下させる原因として、フォトレジスト成分の残留物に着目した。一般に、フォトレジストは、主成分である樹脂と感光剤と塗工性等を改善するための種々の添加剤とを含有するものである。また、主成分である樹脂は、現像性および剥離性を向上させるために、低分子量化等の工夫がなされている。このようなフォトレジストを有機EL層上に直接塗布した場合、フォトレジスト層の剥離後もフォトレジスト成分が有機EL層表面にわずかに残留し、この微量のフォトレジスト成分の残留物が発光特性や寿命特性等に悪影響を与えることがある。そこで、本発明者らは、有機EL層とフォトレジストとが直接接しないように、有機EL層とフォトレジスト層との間に導電保護層を設けることにより、発光特性や寿命特性等を改善できることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、第1電極層が形成された基板上に、少なくとも発光層を含む有機EL層を形成する有機EL層形成工程と、上記有機EL層上に、無機導電性材料を含有する導電保護層を形成する導電保護層形成工程と、上記導電保護層上にフォトレジストを塗布し、フォトレジスト層を形成するフォトレジスト層形成工程と、上記フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、上記フォトレジスト層をパターニングするフォトレジスト層パターニング工程と、上記フォトレジスト層が除去された部分の上記導電保護層および上記有機EL層を除去することにより、上記導電保護層および上記有機EL層をパターニングする有機EL層パターニング工程と、残存する上記フォトレジスト層を剥離する剥離工程と、上記剥離工程後に露出した上記導電保護層上に第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを有することを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供する。
【0016】
本発明によれば、有機EL層上に導電保護層を形成し、この導電保護層上にフォトレジスト層を形成するので、さらには、導電保護層上に形成されたフォトレジスト層のみを剥離するので、有機EL層がフォトレジスト成分にさらされるのを防ぐことができる。また、導電保護層を剥離せずに、この導電保護層上に第2電極層を形成するので、例えば第2電極層をスパッタリング法等により成膜する場合には、第2電極層成膜時の有機EL層のダメージを緩和することができる。したがって本発明においては、発光特性に優れ、長寿命の有機EL素子を製造することが可能である。
【0017】
また本発明は、N色(Nは2以上の整数)の発光層をパターン状に形成する有機EL素子の製造方法であって、第1電極層が形成され、第1色発光層を少なくとも含む第1色目の有機EL層から第(N−1)色発光層を少なくとも含む第(N−1)色目の有機EL層までがそれぞれパターン状に形成され、上記各有機EL層の表面にそれぞれ無機導電性材料を含有する導電保護層およびフォトレジスト層がこの順に積層された基板上に、少なくとも第N色発光層を含む第N色目の有機EL層を形成する有機EL層形成工程と、上記第N色目の有機EL層上に、無機導電性材料を含有する第N色用導電保護層を形成する導電保護層形成工程と、上記第N色用導電保護層上にフォトレジストを塗布し、第N色用フォトレジスト層を形成するフォトレジスト層形成工程と、上記第N色用フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第N色発光領域の上記第N色用フォトレジスト層が残存するように上記第N色用フォトレジスト層をパターニングするフォトレジスト層パターニング工程と、上記第N色用フォトレジスト層が除去された部分の上記第N色用導電保護層および上記第N色目の有機EL層を除去することにより、上記第N色用導電保護層および上記第N色目の有機EL層をパターニングする有機EL層パターニング工程と、残存する上記各フォトレジスト層を剥離する剥離工程と、上記剥離工程後に露出した上記各導電保護層上に第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを有することを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供する。
【0018】
本発明によれば、第N色目の有機EL層上に第N色用導電保護層を形成するので、第N色目の有機EL層上にフォトレジストを直接塗布することがない。また、第N色目の有機EL層をパターニングする際には、パターニングされた第1色目から第(N−1)色目までの有機EL層の表面にはそれぞれ導電保護層およびフォトレジスト層がこの順に積層されており、その上にさらに第N色目の有機EL層および第N色用導電保護層を形成し、この第N色用導電保護層上にフォトレジストを塗布するので、第1色目から第(N−1)色目までの有機EL層が第N色用フォトレジスト層と接触することもない。また、各導電保護層上に形成された各フォトレジスト層のみを剥離するので、各有機EL層がフォトレジスト成分にさらされるのを防ぐことができる。
さらに、上述したように、第N色目の有機EL層をパターニングする際には、パターニングされた第1色目から第(N−1)色目までの有機EL層の表面にはそれぞれ導電保護層およびフォトレジスト層がこの順に積層されており、その上にさらに第N色目の有機EL層および第N色用導電保護層を形成するので、第N色目の有機EL層のエッチング時の第1色目から第(N−1)色目までの有機EL層へのダメージを低減することができる。
また、各フォトレジスト層を剥離した後は、各導電保護層上に第2電極層を形成するので、例えば第2電極層をスパッタリング法等により成膜する場合には、第2電極層成膜時の有機EL層のダメージを緩和することができる。
したがって本発明においては、発光特性に優れ、長寿命の有機EL素子を製造することが可能である。
【0019】
上記発明においては、上記N色の発光層が3色の発光層であることが好ましい。一般的に、カラー表示には赤・緑・青の3色の発光層が用いられるからである。
【0020】
また本発明においては、上記各導電保護層形成工程にて、真空蒸着法により、上記各導電保護層を形成することが好ましい。真空蒸着法は、気体となった物質のもつ運動エネルギーが低いので、有機EL層に対して与えるエネルギーが小さいからである。
【0021】
さらに本発明においては、上記第2電極層形成工程にて、スパッタリング法により、上記第2電極層を形成することが好ましい。スパッタリング法は、成膜エネルギーが高いために、In−Zn−O(IZO)やIn−Sn−O(ITO)等の融点が高い材料も成膜することができ、さらに成膜効率が良いからである。
【0022】
また本発明においては、上記各有機EL層形成工程が、上記各発光層を含む2層以上の有機層を形成する工程であって、下層形成用塗工液を塗布して、下層の有機層を形成する下層形成工程と、上記下層の有機層上に上層形成用塗工液を塗布して、上層の有機層を形成する上層形成工程とを有しており、上記下層の有機層が上記上層形成用塗工液に含まれる溶媒に対して不溶であることが好ましい。これにより、各有機層を安定して積層することができるからである。
【0023】
この際、上記下層形成用塗工液が硬化性バインダを含有しており、上記下層形成工程にて、上記下層形成用塗工液を塗布して得られる塗膜に硬化処理を行ってもよい。これにより、上層の有機層形成時に、下層の有機層に含まれる有機材料等が溶出するのを防ぐことができるからである。
【0024】
また、上記下層形成用塗工液が、熱エネルギーまたは放射線の作用により溶解性が変化する材料を含有しており、上記下層形成工程にて、上記下層形成用塗工液を塗布して得られる塗膜に熱エネルギーを付与または放射線を照射して、上記塗膜の溶解性を変化させてもよい。上記の場合と同様に、これにより、上層の有機層形成時に、下層の有機層に含まれる有機材料等が溶出するのを防ぐことができるからである。
【0025】
さらに本発明においては、上記各有機EL層パターニング工程にて、ドライエッチングにより、上記各フォトレジスト層が除去された部分の上記各導電保護層および上記各有機EL層を除去することが好ましい。ドライエッチングでは、混色等が生じにくく、より高精細なパターンの形成が可能となるからである。
【0026】
また、本発明は、基板と、上記基板上に形成された第1電極層と、上記第1電極層上にパターン状に形成され、少なくとも発光層を含む有機EL層と、上記有機EL層上にパターン状に形成され、無機導電性材料を含有する導電保護層と、上記導電保護層上に形成された第2電極層とを有しており、上記有機EL層のパターン形状と、上記導電保護層のパターン形状とが同一であることを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0027】
本発明によれば、有機EL層上に導電保護層が形成され、有機EL層および導電保護層のパターン形状が同一であるので、本発明の有機EL素子をフォトリソグラフィー法を用いて作製する場合には、積層された有機EL層および導電保護層の上にフォトレジスト層を形成して、有機EL層および導電保護層を同時にパターニングすることで、有機EL素子を得ることができる。この場合、導電保護層上にフォトレジスト層を形成するので、有機EL層がフォトレジスト成分にさらされるのを防ぐことができる。
また、導電保護層上に第2電極層が形成されているので、例えば第2電極層をスパッタリング法等により成膜した場合には、第2電極層成膜時の有機EL層への衝撃を緩和することができる。
したがって本発明においては、発光特性に優れ、長寿命の有機EL素子とすることができる。
【0028】
上記発明においては、上記有機EL層が、上記発光層を含む2層以上の有機層を有しており、隣接する2層の有機層のうち、下層の有機層が硬化性バインダを含有していてもよい。これにより、上層の有機層形成時に、下層の有機層に含まれる有機材料等が溶出するのを防ぐことができるからである。
【0029】
また、上記発明においては、上記有機EL層が、上記発光層を含む2層以上の有機層を有しており、隣接する2層の有機層のうち、下層の有機層が、熱エネルギーまたは放射線の作用により溶解性が変化する材料を含有していてもよい。上記の場合と同様に、これにより、上層の有機層形成時に、下層の有機層に含まれる有機材料等が溶出するのを防ぐことができるからである。
【発明の効果】
【0030】
本発明においては、有機EL層上に導電保護層を形成することより、有機EL層がフォトレジスト成分にさらされるのを防ぐとともに、第2電極層成膜時の衝撃から有機EL層を保護することができ、発光特性および寿命特性を改善することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の有機EL素子の製造方法および有機EL素子について詳細に説明する。
【0032】
A.有機EL素子の製造方法
まず、本発明の有機EL素子の製造方法について説明する。
本発明の有機EL素子の製造方法には、少なくとも1色の発光層をパターン状に形成する場合、および、N色(Nは2以上の整数)の発光層をパターン状に形成する場合の2つの態様がある。以下、各態様について説明する。
【0033】
I.第1態様
本発明の有機EL素子の製造方法の第1態様は、第1電極層が形成された基板上に、少なくとも発光層を含む有機EL層を形成する有機EL層形成工程と、上記有機EL層上に、無機導電性材料を含有する導電保護層を形成する導電保護層形成工程と、上記導電保護層上にフォトレジストを塗布し、フォトレジスト層を形成するフォトレジスト層形成工程と、上記フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、上記フォトレジスト層をパターニングするフォトレジスト層パターニング工程と、上記フォトレジスト層が除去された部分の上記導電保護層および上記有機EL層を除去することにより、上記導電保護層および上記有機EL層をパターニングする有機EL層パターニング工程と、残存する上記フォトレジスト層を剥離する剥離工程と、上記剥離工程後に露出した上記導電保護層上に第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを有することを特徴とするものである。
【0034】
本態様の有機EL素子の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本態様の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。まず、基板1上に第1電極層2をパターン状に形成し、この第1電極層2のパターン間に絶縁層3を形成し、第1電極層2および絶縁層3の上に正孔注入層4および発光層5を形成し、有機EL層6とする(図1(a)、有機EL層形成工程)。次いで、発光層5上に導電保護層7を形成する(図1(b)、導電保護層形成工程)。
次に、導電保護層7上にポジ型フォトレジストを塗布して、フォトレジスト層8を形成する(図1(c)、フォトレジスト層形成工程)。次いで、少なくとも発光領域10のフォトレジスト層8が残存するように、フォトマスク11を介してフォトレジスト層8をパターン露光した後、フォトレジスト現像液により現像し、洗浄することにより、パターン状のフォトレジスト層8´を形成する(図1(d)および(e)、フォトレジスト層パターニング工程)。
次に、フォトレジスト層の除去により露出した部分の導電保護層、発光層および正孔注入層を除去することにより、パターン状の導電保護層7´、発光層5´および正孔注入層4´を形成する(図1(f)、有機EL層パターニング工程)。
次いで、最上層に位置するフォトレジスト層8´を剥離する(図1(g)、剥離工程)。
最後に、導電保護層7´上に第2電極層9を形成する(図1(h)、第2電極層形成工程)。
【0035】
本態様においては、パターニングされる有機EL層上に導電保護層を形成するので、有機EL層上にフォトレジストを直接塗布することがない。また、有機EL層のパターニング後には、導電保護層上に形成されたフォトレジスト層のみを剥離するので、フォトレジスト成分が有機EL層に全く接触しないように、フォトレジスト層を剥離することができる。すなわち、導電保護層によって、有機EL層表面が、フォトレジスト成分、例えば、感光剤、添加剤、樹脂等によって汚染されるのを防ぐことができる。したがって、フォトレジスト成分による有機EL層の発光特性および寿命特性等の低下を回避することができる。
【0036】
また、本態様においては、導電保護層上に第2電極層を形成するので、第2電極層をスパッタリング法等により成膜する場合には、第2電極成膜時の有機EL層への衝撃を緩和することができる。
【0037】
従来、例えば、第2電極層をスパッタリング法により有機EL層上に成膜する場合、有機EL層が、数百ボルトで高エネルギー量のAr、スパッタリングされた粒子および電離した電子等による衝撃を受けるため、有機EL層の構造が変化し、正孔もしくは電子注入において、有機EL層と第2電極層との界面で無放射消光が引き起こされ、発光特性が低下することがあった。また例えば、第2電極層をスパッタリング法により有機EL層上に成膜する場合であって、発光層と第2電極層との間にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含有する電子注入層を形成する場合、これらの金属が酸化されやすいので、第2電極層成膜時の酸素導入またはターゲットからの酸素放出により、上記の金属が酸化し、電子注入機能が失われることがあった。
【0038】
これに対し、本態様においては、導電保護層上に第2電極層を形成するので、第2電極層をスパッタリング法により成膜する場合であっても、スパッタ時のプラズマガスイオン、スパッタリングされた粒子および電離した電子等による有機EL層への衝撃を緩和することができる。これにより、第2電極層成膜時の衝撃による発光特性等の素子特性および電子注入特性等の有機EL層の特性の低下を抑制することができる。
【0039】
したがって、本態様においては、有機EL層上に導電保護層を形成することにより、発光特性および寿命特性等の素子特性、ならびに電子注入特性等の有機EL層の特性に優れる有機EL素子を製造することが可能である。
【0040】
さらに、本態様における導電保護層は、無機導電性材料を含有しており、比較的電気抵抗が低いので、良好な電流−電圧特性を示す有機EL素子を得ることができる。
以下、本態様の有機EL素子の製造方法の各工程について説明する。
【0041】
1.有機EL層形成工程
本態様における有機EL層形成工程は、第1電極層が形成された基板上に、少なくとも発光層を含む有機EL層を形成する工程である。
以下、有機EL層、第1電極層および基板について説明する。
【0042】
(1)有機EL層
本態様における有機EL層は、少なくとも発光層を含む1層もしくは複数層の有機層から構成されるものである。すなわち、有機EL層とは、少なくとも発光層を含む層であり、その層構成が有機層1層以上の層をいう。通常、湿式法で有機EL層を形成する場合は、溶媒との関係で多数の層を積層することが困難であることから、1層もしくは2層の有機層を形成する場合が多いが、溶媒への溶解性が異なるように有機材料を工夫したり、真空蒸着法を組み合わせたりすることにより、さらに多数層とすることも可能である。
【0043】
発光層以外の有機EL層を構成する有機層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等を挙げることができる。この正孔輸送層は、正孔注入層に正孔輸送の機能を付与することにより、正孔注入層と一体化される場合が多い。また、有機EL層を構成する有機層としては、正孔ブロック層や電子ブロック層のような正孔もしくは電子の突き抜けを防止し、さらに励起子の拡散を防止して発光層内に励起子を閉じ込めることにより、再結合効率を高めるための層等を挙げることができる。
【0044】
有機EL層の構成としては、一般的な構成であればよく、発光層のみ、正孔注入層/発光層、正孔注入層/発光層/電子注入層、正孔注入層/電子ブロック層/発光層/電子注入層、正孔注入層/発光層/電子輸送層などを例示することができる。
【0045】
発光層を含む複数の有機層を積層する場合、例えば、発光層、または、正孔注入層および発光層をフォトリソグラフィー法によりパターニングした後に、パターン状の発光層上に、電子輸送層や電子注入層等を真空蒸着法によりパターン状に形成してもよい。また、例えば、正孔注入層を真空蒸着法によりパターン状に形成した後に、パターン状の正孔注入層上に発光層を成膜し、フォトリソグラフィー法によりパターニングしてもよい。
【0046】
また、有機EL層として、正孔注入層および発光層を形成する場合、基板上の全面に正孔注入層および発光層を形成した後に、正孔注入層および発光層をフォトリソグラフィー法によりパターニングしてもよく、発光層のみをフォトリソグラフィー法によりパターニングしてもよい。中でも、正孔注入層の導電性が高い場合には、素子のダイオード特性を保ち、クロストークを防ぐために、正孔注入層および発光層をフォトリソグラフィー法によりパターニングすることが好ましい。一方、正孔注入層の抵抗が高い場合には、正孔注入層をパターニングしてもよく、パターニングしなくてもよい。
【0047】
ここで、一般的に、膜の溶解性は、膜中の固体成分を溶剤に溶解した場合の溶解度(100×溶解した固形分重量/(溶解した固形分重量+溶剤量))で定義される。このような定義では、溶解度が0.1%を下回るような場合には、難溶もしくは不溶と判断されることが多い。しかしながら、上記定義において難溶もしくは不溶であると判断される溶剤を使用しても、膜を溶剤に浸漬した場合に、膜が溶解して膜減りが発生する。
特に、有機EL素子では、有機EL層の膜厚が非常に薄く、一般的に有機EL層を構成する有機層1層の膜厚は100nm以下である。このため、上記定義において溶解度が0.1%以下であり、難溶もしくは不溶であると判断された溶剤に膜を浸漬した場合でも、100nm程度の膜厚であれば厚みが容易に減少してしまう。
【0048】
そこで、本発明においては、膜の溶解性について、基板上に膜を形成し十分に乾燥させて、その膜を25℃で1分間溶剤に浸漬させた後、浸漬前後での膜厚を測定し、その差(浸漬前の膜厚−浸漬後の膜厚)により、以下のように定義することとした。
膜減り量が1nm以下/minの場合 … 不溶性
膜減り量が1nm超/min〜20nm以下/minの場合 … 難溶性
膜減り量が20nm超/min〜100nm以下/minの場合 … 可溶性
膜減り量が100nm超/minの場合 … 易溶性
なお、膜の溶解性の定義については、有機EL層だけでなく、導電保護層およびフォトレジスト層等にも適用される。
【0049】
例えば、後述するように、有機EL層上に、無機導電性材料を含有する導電保護層形成用塗工液を塗布して導電保護層を形成する場合には、有機EL層を構成する有機層のうち、最上層の有機層は、この導電保護層形成用塗工液の溶媒に難溶または不溶であることが好ましく、特に不溶であることが好ましい。
以下、有機EL層の各構成について説明する。
【0050】
(i)2層の有機層
本態様においては、有機EL層が、発光層を含む2層以上の有機層を有する場合であって、下層形成用塗工液を塗布して下層の有機層を形成し、この下層の有機層上に、上層形成用塗工液を塗布して上層の有機層を形成する場合、下層の有機層が上層形成用塗工液に含まれる溶媒に対して不溶であることが好ましい。すなわち、有機EL層形成工程が、発光層を含む2層以上の有機層を形成する工程であって、下層形成用塗工液を塗布して、下層の有機層を形成する下層形成工程と、下層の有機層上に上層形成用塗工液を塗布して、上層の有機層を形成する上層形成工程とを有する場合には、下層の有機層が上層形成用塗工液に含まれる溶媒に対して不溶であることが好ましい。これにより、上層の有機層の成膜の際に、上層形成用塗工液の溶媒が下層の有機層に接触しても、下層の有機層は溶解されないので、安定して上層の有機層を積層することができるからである。
【0051】
下層の有機層を上層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとするには、下層の有機層に、硬化性バインダ、または、熱エネルギーもしくは放射線の作用により溶解性が変化する材料を用いるか、あるいは、下層の有機層および上層の有機層にそれぞれ溶解性が異なる材料を用いればよい。
【0052】
また、下層の有機層を上層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとするために、下層の有機層に、光開始剤等を含有させてもよい。例えば、Applied physics letter, Vol 81, (2002)に記載されているような光開始剤等を、上記導電性高分子に混合することにより、紫外線照射によって硬化させることができる。
【0053】
中でも、下層の有機層を上層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとするには、下層の有機層が、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等である場合には、下層の有機層に、硬化性バインダ、または、熱エネルギーもしくは放射線の作用により溶解性が変化する材料を用いることが好ましい。すなわち、下層形成用塗工液が、硬化性バインダ、または、熱エネルギーもしくは放射線の作用により溶解性が変化する材料を含有することが好ましい。また、下層の有機層が発光層である場合には、下層の有機層に、熱エネルギーもしくは放射線の作用により溶解性が変化する材料を用いることが好ましい。すなわち、下層形成用塗工液が熱エネルギーもしくは放射線の作用により溶解性が変化する材料を含有することが好ましい。下層の有機層が上層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であれば、上層の有機層形成時に下層の有機層に含まれる有機材料等が溶出するのを防ぐことができ、下層の有機層の特性が低下するのを抑制することができる。
【0054】
以下、下層の有機層が、硬化性バインダを含有する場合と、熱エネルギーまたは放射線の作用により溶解性が変化する材料を含有する場合とに分けて説明する。
【0055】
(硬化性バインダ)
下層の有機層に用いられる硬化性バインダとしては、熱エネルギーまたは放射線の作用により硬化するものであることが好ましく、例えば、ゾルゲル反応液、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂を挙げることができる。なお、ゾルゲル反応液とは、硬化後にゲル化する反応液をいう。
【0056】
中でも、硬化性バインダは、オルガノポリシロキサンを含むことが好ましい。このオルガノポリシロキサンとしては、例えば特開2000−249821号公報に記載されているもの等を用いることができる。
【0057】
下層の有機層が、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等である場合には、下層の有機層は、上記硬化性バインダと、正孔もしくは電子注入性材料、または正孔もしくは電子輸送性材料とを含有することが好ましい。このような下層の有機層は、正孔もしくは電子の注入効率が良く、また硬化されたものとすることができ、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等として良好に機能するからである。
【0058】
下層形成用塗工液は、上記の硬化性バインダと、正孔もしくは電子注入性材料、または正孔もしくは電子輸送性材料等とを、溶媒に分散もしくは溶解して調製される。例えば、硬化性バインダがオルガノポリシロキサンを含む場合には、溶媒としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系が好ましく用いられる。
下層形成用塗工液の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、ビードコート法等が挙げられる。
【0059】
下層の有機層は、下層形成用塗工液を塗布して得られる塗膜に硬化処理を行うことにより、形成することができる。
硬化処理としては、熱エネルギーの付与、または放射線の照射が挙げられる。
【0060】
(熱エネルギーまたは放射線の作用により溶解性が変化する材料)
ここで、材料の溶解性が変化するとは、材料の主成分が溶解もしくは分散する溶媒の極性が変化することをいう。熱エネルギーまたは放射線の作用により溶解性が変化する材料を含有する層に対して、熱エネルギーを付与または放射線を照射することにより、材料の溶解性を変化させると、その層を形成するために用いた塗工液の溶媒と、熱エネルギー付与または放射線照射後の層が溶解する溶媒とでは、極性が異なるものとなる。
【0061】
材料の溶解性が変化する程度としては、熱エネルギー付与または放射線照射後の下層の有機層が、下層形成用塗工液に用いた溶媒に、実質的に溶解したり混和したりしない程度であればよい。具体的には、熱エネルギー付与または放射線照射後の下層の有機層が下層形成用塗工液に不溶であればよい。
【0062】
下層の有機層に用いられる、熱エネルギーまたは放射線の作用により溶解性が変化する材料としては、例えば、親水性有機材料の親水性基の一部または全部が親油性基に変換されたものであり、かつ、熱エネルギーまたは放射線の作用により親油性基の一部または全部が親水性基に戻るものが好適に用いられる。
【0063】
上記の材料においては、親水性有機材料の親水性基のすべてが親油性基に変換されている必要はない。親水性基が親油性基に変換されている割合としては、一般的な非水系有機溶剤に対して、所望の濃度以上の溶解性を保持し得る程度であればよい。具体的には、水、アルコール系溶剤に溶解もしくは分散する親水性有機材料が、一般的な非水系溶剤である、トルエン、キシレン、酢酸エチル、シクロヘキサノン等に0.5質量%以上溶解する程度に、親水性基が親油性基に変換されていることが好ましい。
【0064】
また、上記の材料においては、親油性基のすべてが親水性基に戻る必要はない。親油性基が親水性基に戻る割合としては、下層の有機層が上層形成用塗工液の溶媒に溶解しない程度であればよい。具体的には、トルエン、キシレン、酢酸エチル、シクロヘキサノン等に0.5質量%以上溶解する材料が、トルエン、キシレン、酢酸エチル、シクロヘキサノン等に不溶もしくは難溶になる程度に、親油性基が親水性基に戻ることが好ましい。この際、完全に当初の親水性有機材料に戻らなくてもよい。
【0065】
上記親水性有機材料としては、親水性基を有し、水に分散もしくは溶解するものであればよく、下層の有機層に求められる機能に応じて適宜選択される。例えば、正孔注入層(下層の有機層)上に発光層(上層の有機層)を形成する場合、正孔注入層に用いられる親水性有機材料としては、例えば特開2006−318876号公報に記載されているもの等を挙げることができる。
【0066】
親水性有機材料における親水性基を親油性基に変換する方法としては、熱エネルギーまたは放射線の作用により親油性基の一部または全部が親水性基に戻ることから、保護反応を利用する方法であることが好ましい。ここで、保護反応とは、親水性基を誘導体化して、一時的に親水性基に保護基を導入する反応をいう。保護反応としては、例えば特開2006−318876号公報に記載されているもの等を挙げることができる。
【0067】
下層形成用塗工液は、上記の親水性有機材料の親水性基の一部または全部が親油性基に変換された材料を、溶媒に分散もしくは溶解することにより調製することができる。この際、溶媒としては、親油性の材料を分散もしくは溶解できるものが用いられる。このような溶媒としては、例えば特開2006−318876号公報に記載されているもの等を用いることができる。
また、下層形成用塗工液中の、親水性有機材料の親水性基の一部または全部が親油性基に変換された材料の濃度としては、材料の成分または組成によって異なるものではあるが、通常、0.1質量%以上で設定され、好ましくは1質量%〜5質量%程度である。
【0068】
下層の有機層は、上記下層形成用塗工液を塗布して得られる塗膜に、熱エネルギーを付与または放射線を照射して、塗膜の溶解性を変化させることにより、得ることができる。上記下層形成用塗工液の塗布後には、乾燥を行ってもよい。熱エネルギーの付与および放射線の照射については、例えば特開2006−318876号公報に記載されている条件とすることができる。
なお、熱エネルギーまたは放射線の作用により材料の溶解性が変化するメカニズムについては、特開2006−318876号公報に詳しく記載されている。
【0069】
(ii)発光層
本態様における発光層に用いられる発光材料としては、蛍光または燐光を発する材料を含み、発光するものであれば特に限定されるものではなく、発光機能と正孔輸送機能もしくは電子輸送機能とを兼ねていてもよい。
【0070】
例えば、発光層上に導電保護層形成用塗工液を塗布して導電保護層を形成する場合には、発光材料が、導電保護層形成用塗工液の溶媒に不溶であることが好ましく、さらにフォトレジスト剥離液に不溶であることが好ましい。
【0071】
発光材料としては、色素系発光材料、金属錯体系発光材料、および高分子系発光材料を挙げることができる。
【0072】
色素系発光材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾ−ル誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー等を挙げることができる。
【0073】
金属錯体系発光材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、あるいは、中心金属に、Al、Zn、Be等またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等を挙げることができる。
【0074】
高分子系発光材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体等、あるいは、上記の色素系発光材料や金属錯体系発光材料を高分子化したもの等を挙げることができる。
【0075】
後述するように、発光層形成用塗工液を塗布して発光層を形成する場合には、フォトリソグラフィー法によって発光層を精度良くパターニングすることができるという利点を活かすという観点から、発光材料として、上記高分子系発光材料を用いることが好ましい。
【0076】
また、上記発光材料には、種々の添加剤を添加することが可能である。例えば、上記発光材料には、発光効率の向上、発光波長を変化させる等の目的でドーピング剤を添加してもよい。このようなドーピング剤としては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体を挙げることができる。
【0077】
本態様においては、少なくとも1色の発光層をパターン状に形成するものであり、発光層の色としては、例えば、フルカラーディスプレイの場合、赤・緑・青の3色、赤・緑・青・黄の4色、赤・緑・青・白の4色、赤・緑・青・黄・シアンの5色等とすることができる。また、エリアカラーディスプレイの場合、発光色の色には、表示させたい色を自由に組み合わせて用いることができる。
【0078】
発光層の形成方法としては、上記発光材料等を含む発光層形成用塗工液を塗布する方法、あるいは、真空蒸着法等を用いることができる。中でも、製造コスト低減の観点から、発光層形成用塗工液を塗布する方法が好ましい。
【0079】
本態様において、後述する正孔注入層を形成する場合であって、正孔注入層上に発光層形成用塗工液を塗布して発光層を形成する場合には、発光層の成膜の際に、正孔注入層を形成する材料が発光層形成用塗工液に混合したり溶解したりするのを防ぐとともに、発光材料本来の発光特性を保つために、発光層形成用塗工液には、正孔注入層を溶解しない溶媒を用いることが好ましい。
【0080】
例えば、後述する正孔注入層を形成する材料が水系溶媒やジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アルコール等の極性溶媒に溶解する場合には、上記溶媒としては、例えば特開2006−40741号公報に記載のものを用いることができる。
【0081】
また、発光層形成用塗工液の塗布方法としては、例えば、ディップコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、キャスティング法、フレキソ印刷法等を挙げることができる。
【0082】
上記発光層形成用塗工液の塗布後は、乾燥を行ってもよい。
【0083】
本態様における発光層は硬化剤を含まないものであり、また発光層形成時には硬化・架橋処理を行わない。このため、発光層は、発光層形成用塗工液の溶媒に対して可溶な状態のままとなっている。
【0084】
発光層の膜厚としては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、具体的には10nm〜500nm程度とすることができる。
【0085】
(iii)正孔注入層
本態様における正孔注入層は、発光層に正孔の注入が容易に行われるように、陽極と発光層との間に設けられるものである。
【0086】
正孔注入層に用いられる材料としては、発光層内への正孔の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではない。この正孔注入層に用いられる正孔注入性材料としては、例えば、アリールアミン類、フタロシアニン類、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレンおよびこれらの誘導体等の導電性高分子などを挙げることができる。導電性高分子は、酸によりドーピングされていてもよい。具体的には、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0087】
また、正孔注入層上に発光層形成用塗工液を塗布して発光層を形成する場合には、正孔注入層を形成する材料は、発光層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。
なお、正孔注入層を発光層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとすることについては、上記「(i)2層の有機層」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0088】
正孔注入層の形成方法としては、上記の正孔注入性材料等を含む正孔注入層形成用塗工液を塗布する方法、あるいは、真空蒸着法等を用いることができる。中でも、製造コスト低減の観点から、正孔注入層形成用塗工液を塗布する方法が好ましい。
【0089】
正孔注入層形成用塗工液に用いられる溶媒としては、上記の正孔注入性材料が分散もしくは溶解するものであれば特に限定されるものではなく、例えば特開2006−40741号公報に記載のものを用いることができる。
【0090】
なお、正孔注入層形成用塗工液の塗布方法については、発光層形成用塗工液の塗布方法と同様とすることができる。
【0091】
また、正孔注入層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではなく、具体的には0.5nm〜1000nm程度とすることができ、中でも10nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0092】
(iv)電子輸送層
本態様における電子輸送層は、発光層に電子の輸送が容易に行われるように、陰極と発光層との間に設けられるものである。
【0093】
電子輸送層に用いられる材料としては、陰極から注入された電子を発光層内へ輸送することができる材料であれば特に限定されるものではない。この電子輸送層に用いられる電子輸送性材料としては、例えば、オキサジアゾール類、トリアゾール類、バソキュプロイン、バソフェナントロリン等のフェナントロリン類、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)等のアルミキノリノール錯体などが挙げられる。
【0094】
電子輸送層の形成方法としては、上記の電子輸送性材料等を含む電子輸送層形成用塗工液を塗布する方法、あるいは、真空蒸着法等を用いることができる。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0095】
電子輸送層の厚みとしては、その機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されない。
【0096】
(v)電子注入層
本態様における電子注入層は、発光層に電子の注入が容易に行われるように、陰極と発光層との間に設けられるものである。
【0097】
電子注入層に用いられる材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、アルミリチウム合金、リチウム、セシウム等のアルカリ金属やその合金;フッ化リチウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属のハロゲン化物;ストロンチウム、カルシウム等のアルカリ土類金属;フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等のアルカリ土類金属のハロゲン化物;酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム等の酸化物;などが挙げられる。また、電子注入層に用いられる材料として、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0098】
電子注入層の形成方法としては、上記の材料等を含む電子注入層形成用塗工液を塗布する方法、あるいは、真空蒸着法等を用いることができる。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0099】
電子注入層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
【0100】
(2)第1電極層
本態様に用いられる第1電極層は、陽極であってもよく陰極であってもよい。一般に、有機EL素子を製造する際には、陽極側から積層する方が安定して有機EL素子を作製することができることから、第1電極層が陽極であることが好ましい。
【0101】
陽極には、正孔が注入し易いように仕事関数の大きい導電性材料が好ましく用いられる。一方、陰極には、電子が注入し易いように仕事関数の小さな導電性材料が好ましく用いられる。導電性材料としては、一般に金属材料が用いられるが、有機物や無機化合物を用いてもよい。また、第1電極層には、複数の材料を混合して用いてもよい。
【0102】
また、第1電極層は、透明性を有していても有さなくてもよく、光の取り出し面に応じて適宜選択される。例えば図1(h)に示す有機EL素子においてボトムエミッション型とする場合、第1電極層2は透明性を有することが好ましい。一方、例えば図1(h)に示す有機EL素子においてトップエミッション型とする場合、第1電極層2に透明性は要求されない。また、例えば図1(h)に示す有機EL素子において両面から光を取り出す場合には、第1電極層2は透明性を有することが好ましい。
【0103】
透明性を有する導電性材料としては、In−Zn−O(IZO)、In−Sn−O(ITO)、Zn−O−Al、Zn−Sn−O等を好ましいものとして例示することができる。また、透明性が要求されない場合、導電性材料としては、金属を用いることができ、具体的にはAu、Ta、W、Pt、Ni、Pd、Cr、あるいは、Al合金、Ni合金、Cr合金等を挙げることができる。
【0104】
第1電極層が陽極および陰極のいずれであっても、抵抗が比較的小さいことが好ましい。
【0105】
第1電極層の成膜方法としては、一般的な電極の成膜方法を用いることができ、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等を挙げることができる。また、第1電極層のパターニング方法としては、フォトリソグラフィー法を挙げることができる。
【0106】
(3)基板
本態様に用いられる基板は、透明性を有していても有さなくてもよい。例えば図1(h)に示す有機EL素子においてボトムエミッション型とする場合、基板1は透明性を有することが好ましい。一方、例えば図1(h)に示す有機EL素子においてトップエミッション型とする場合、基板1に透明性は要求されない。また、例えば図1(h)に示す有機EL素子において両面から光を取り出す場合には、基板1は透明性を有することが好ましい。
透明性を有する基板には、例えば、ガラス等の無機材料や、透明樹脂などを用いることができる。
【0107】
上記透明樹脂としては、フィルム状に成形可能であれば特に限定されるものではないが、透明性が高く、耐溶媒性、耐熱性の比較的高いことが好ましい。このような透明樹脂としては、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフッ化ビニル(PFV)、ポリアクリレート(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、非晶質ポリオレフィン、またはフッ素系樹脂等が挙げられる。
【0108】
2.導電保護層形成工程
本態様における導電保護層形成工程は、有機EL層上に導電保護層を形成する工程である。
【0109】
本態様においては、導電保護層上にフォトレジスト層を形成するので、導電保護層は、フォトレジスト溶媒に不溶もしくは難溶であることが好ましい。一方、導電保護層がフォトレジスト溶媒に可溶である場合には、導電保護層の膜厚を比較的厚くすることにより、フォトレジスト成分が有機EL層表面に到達するのを防ぐことができる。また、この場合には、導電保護層上に、フォトレジスト溶媒に不溶もしくは難溶であり、フォトレジスト成分を含まない層を形成してもよい。
【0110】
また、導電保護層は、フォトレジスト現像液に不溶もしくは難溶であることが好ましい。これにより、フォトレジスト層を安定にパターニングすることができ、また高解像度のディスプレイを作製することができるからである。一方、導電保護層がフォトレジスト現像液に可溶である場合であっても、フォトレジスト現像液にさらされる導電保護層の露出部の面積は比較的小さいため、特に問題にはならない。
【0111】
さらに、導電保護層は、フォトレジスト剥離液に不溶もしくは難溶であることが好ましい。
【0112】
また、導電保護層は、透明性を有していても有さなくてもよく、光の取り出し面に応じて適宜選択される。例えば図1(h)に示す有機EL素子においてトップエミッション型とする場合、導電保護層7´は透明性を有することが好ましい。一方、例えば図1(h)に示す有機EL素子においてボトムエミッション型とする場合、導電保護層7´に透明性は要求されない。また、例えば図1(h)に示す有機EL素子において両面から光を取り出す場合、導電保護層7´は透明性を有することが好ましい。
【0113】
具体的には、導電保護層が透明性を有する場合には、可視光領域(380nm〜780nm)における平均透過率が10%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上である。導電保護層の平均透過率が上記範囲であれば、トップエミッション型に適した有機EL素子とすることができるからである。
なお、上記平均透過率は、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製 UV−2200A)を用い、室温、大気中で測定した値とする。
【0114】
さらに、後述する第2電極層形成工程にて、第2電極層をスパッタリング法等により成膜する場合には、第2電極層成膜時の衝撃から有機EL層を保護するために、導電保護層は、第2電極層成膜時の衝撃を緩和する機能(衝撃緩和機能)を有していることが好ましい。
【0115】
また、導電保護層は、有機EL層に衝撃を与えない成膜方法により成膜されるものであることが好ましい。すなわち、無機導電性材料は、有機EL層に衝撃を与えない成膜方法により成膜できるものであることが好ましい。
【0116】
本態様においては、有機EL層、導電保護層および第2電極層の順に積層するので、無機導電性材料の仕事関数は、有機EL層を構成する有機層のうち、最も第2電極層側に配置されている有機層を形成する材料の仕事関数と、第2電極層を形成する材料の仕事関数と、の間の値をとることが好ましい。
【0117】
このような導電保護層に用いられる無機導電性材料としては、導電保護層に要求される性質および機能に応じて適宜選択される。例えば、透明性を有する導電保護層に用いられる無機導電性材料としては、衝撃緩和機能を得るために必要な膜厚において透明性を有するものであり、有機EL層に衝撃を与えない成膜方法により成膜できるものであることが好ましい。このような無機導電性材料としては、具体的に、金属または合金、金属酸化物、金属ハロゲン化物、半導体、金属がドープされた無機材料、炭素を主成分とする材料等を挙げることができる。
【0118】
金属または合金としては、衝撃緩和機能を得るために必要な膜厚において透明性を有するものであり、有機EL層に衝撃を与えない成膜方法により成膜できるものであれば特に限定されるものではない。このような金属または合金としては、例えば、Li、Mg、Ca、Ba、Al、Cu、Ag、Au、Cr、Fe、Ni、Pt、Pd、Zn、Sn等、あるいはこれらの組み合わせてできる合金を例示することができる。
【0119】
金属酸化物としては、衝撃緩和機能を得るために必要な膜厚において透明性を有するものであり、有機EL層に衝撃を与えない成膜方法により成膜できるものであれば特に限定されるものではない。このような金属酸化物としては、上記の金属の酸化物を例示することができる。
【0120】
金属ハロゲン化物としては、衝撃緩和機能を得るために必要な膜厚において透明性を有するものであり、有機EL層に衝撃を与えない成膜方法により成膜できるものであれば特に限定されるものではない。このような金属ハロゲン化物としては、上記の金属のハロゲン化物を例示することができる。
【0121】
半導体としては、衝撃緩和機能を得るために必要な膜厚において透明性を有するものであり、有機EL層に衝撃を与えない成膜方法により成膜できるものであれば特に限定されるものではない。このような半導体としては、周期表の2族および6族の元素から構成される化合物等の広いバンドギャップ半導体を挙げることができ、例えば、ZnSe、ZnS、ZnSSe1−x等が挙げられる。
【0122】
金属がドープされた無機材料としては、衝撃緩和機能を得るために必要な膜厚において透明性を有するものであり、有機EL層に衝撃を与えない成膜方法により成膜できるものであれば特に限定されるものではない。ドープされる金属としては、例えば、Li、Cs、Ba、Sr、Ca、Be、Mg、Sc、Y、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Ti、Sn、Pb、Bi等が挙げられる。また、これらの金属がドープされる無機材料としては、例えば、上記の金属または半導体の酸化物、窒化物、フッ化物、硫化物、およびこれらの混合物等が挙げられる。この場合、導電保護層中の金属ドーパントの含有量(金属濃度)としては、体積率で金属ドーパントの含有量が30%以下であることが好ましい。金属ドーパントの含有量が多すぎると、導電保護層が不透明になるおそれがあるからである。
【0123】
炭素を主成分とする材料としては、衝撃緩和機能を得るために必要な膜厚において透明性を有するものであり、有機EL層に衝撃を与えない成膜方法により成膜できるものであれば特に限定されるものではない。このような炭素を主成分とする材料からなる導電保護層としては、ダイヤモンドライクカーボン膜、アモルファスカーボン膜、フラーレン類の膜、カーボンナノチューブ類の膜等を用いることができる。
なお、ダイヤモンドライクカーボン膜とは、炭素のSP結合成分およびSP結合成分ならびにポリマー成分を含有する非晶質炭素膜をいう。ダイヤモンドライクカーボン膜は、高い硬度を有し、化学的に不活性であり、可視光から赤外線に対して透明であり、高い平滑性を有し、緻密な構造を有する。そのため、外部からの水分、酸素の侵入を防ぐことができる。特に、電子注入層がアルカリ金属やアルカリ土類金属を含有する場合、アルカリ金属やアルカリ土類金属は酸素による影響を受けやすいが、炭素を主成分とする材料からなる導電保護層は化学的に不活性であるため、電子注入層を効果的に保護することができる。
【0124】
また、炭素を主成分とする材料は、実質的に炭素のみを含むものであってもよく、炭素以外の金属を含んでいてもよい。炭素と組み合わせて使用することが可能な金属としては、特に限定されるものではなく、仕事関数、透過率、成膜方法等に応じて適宜選択される。例えば、炭素を主成分とする材料が、炭素と、Li、Na、K等のアルカリ金属、または、Mg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属とを含有する場合、キャリアドープ効果および電気伝導度を向上させることができる。
【0125】
さらに、化学的気相成長法により炭素を主成分とする材料からなる導電保護層を成膜する場合、原料ガスとして使用する炭化水素系ガスの配合割合を制御することによって、炭素を主成分とする材料の仕事関数を調整することができる。
なお、炭素を主成分とする材料からなる導電保護層については、特開2004−335206公報を参考にすることができる。
【0126】
また、導電保護層に透明性が要求されない場合においても、上述の無機導電性材料を用いることができる。
【0127】
導電保護層は、単一層であってもよく、2層以上が積層されたものであってもよい。
【0128】
導電保護層の膜厚としては、導電保護層に要求される性質および機能(透明性、導電性、衝撃緩和機能等)、無機導電性材料の種類、ならびに、導電保護層の成膜方法に応じて適宜設定される。
【0129】
例えば、導電保護層がフォトレジスト溶媒に不溶もしくは難溶である場合、導電保護層の膜厚は0.5nm以上であることが好ましい。一方、導電保護層がフォトレジスト溶媒に可溶である場合、導電保護層の膜厚は100nm以上であることが好ましい。
【0130】
また例えば、導電保護層が透明性を有する場合、導電保護層の膜厚としては、衝撃緩和機能が発揮され、上記の透過率を満たし、所定の導電性を満たす厚みであることが好ましく、無機導電性材料の種類や、導電保護層の成膜方法に応じて適宜設定される。具体的には、導電保護層が金属または合金からなる層である場合、導電保護層の膜厚は1nm〜30nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは5nm〜20nmの範囲内である。また、導電保護層が、半導体からなる層、あるいは、金属がドープされた無機材料からなる層である場合、導電保護層の膜厚は0.5nm〜1000nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは50nm〜500nmの範囲内である。一方、導電保護層に透明性が要求されない場合、導電保護層の膜厚としては、所定の導電性を満たす厚みであれば、上述の範囲よりも厚くてもよい。
【0131】
導電保護層の成膜方法としては、有機EL層に衝撃を与えない方法であることが好ましい。このような成膜方法としては、例えば、化学的気相成長法(CVD法)や、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD法)が挙げられる。中でも、CVD法、真空蒸着法が好ましい。CVD法や真空蒸着法では、気体となった物質のもつ運動エネルギーが低いので、有機EL層に対して与えるエネルギーが小さいからである。
【0132】
また、導電保護層の成膜方法としては、上記の無機導電性材料を含有する導電保護層形成用塗工液を塗布する方法を用いることもできる。さらに、導電保護層がフィルム状に成形されている場合は、直接または粘着剤を介して、有機EL層上に導電保護層を積層または転写することもできる。
【0133】
特に、導電保護層の成膜方法としては真空蒸着法が好適である。真空蒸着法では、上述した利点があるだけではなく、酸素等の反応性を有する気体が導入されないからである。このため、電子注入層がアルカリ金属やアルカリ土類金属等の反応性の高い金属を含有する場合であっても、この金属の酸化を回避することができる。
したがって、CVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法を用いる場合においても、酸素等の反応性を有する気体を導入せず、希ガス等の反応性のない気体を導入することが好ましい。
【0134】
真空蒸着法としては、抵抗加熱蒸着法、フラッシュ蒸着法、アーク蒸着法、レーザー蒸着法、高周波加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法等を挙げることができる。
【0135】
また、有機EL層上に導電保護層形成用塗工液を塗布して導電保護層を形成する場合、この導電保護層形成用塗工液に用いられる溶媒は、有機EL層を構成する有機層のうち、最上層の有機層を溶解しないものであることが好ましい。例えば、有機EL層として正孔注入層および発光層が形成されており、発光層上に導電保護層を形成する場合、上記溶媒は、発光層を溶解しないものであることが好ましい。この場合、上記溶媒は、正孔注入層を溶解するものであってもよく、溶解しないものであってもよい。
【0136】
このような溶媒としては、上記の無機導電性材料を溶解もしくは分散することができ、上記の性質を満たすものであればよく、例えば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0137】
また、導電保護層形成用塗工液が、最上層の有機層を溶解する溶媒を含んでいる場合であっても、最上層の有機層がその溶媒に難溶もしくは不溶であればよい。
【0138】
導電保護層形成用塗工液の塗布方法としては、例えば、ディップコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、キャスティング法、フレキソ印刷法等を挙げることができる。
【0139】
3.フォトレジスト層形成工程
本態様におけるフォトレジスト層形成工程は、導電保護層上にフォトレジストを塗布し、フォトレジスト層を形成する工程である。
【0140】
本態様に用いられるフォトレジストは、ポジ型およびネガ型のいずれであってもよい。中でも、フォトレジストの剥離し易さを考慮すると、ポジ型フォトレジストが好ましい。フォトレジストとしては、一般的なものを用いることができ、例えば、ノボラック系樹脂、ゴム+ビスアジド系樹脂等を挙げることができる。
【0141】
また、フォトレジストに用いられるフォトレジスト溶媒としては、導電保護層上にフォトレジストを塗布した際に導電保護層がフォトレジストに混合したり溶解したりするのを防ぐために、無機導電性材料等を溶解しないものであることが好ましい。このようなフォトレジスト溶媒としては、例えば特開2006−318876号公報に記載のものを用いることができる。
【0142】
フォトレジストの塗布方法としては、基板上の全面に塗布することができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、スピンコート法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、スプレーコート法、フレキソ印刷法等が用いられる。
【0143】
フォトレジスト層の膜厚は、特に限定されるものではないが、後述する有機EL層パターニング工程にて、導電保護層および有機EL層をドライエッチングする場合には、0.1μm〜10μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは0.5μm〜5μmの範囲内である。フォトレジスト層の膜厚が上記範囲であれば、レジスト機能を保ったまま、加工精度の高いドライエッチングが可能となるからである。
【0144】
4.フォトレジスト層パターニング工程
本態様におけるフォトレジスト層パターニング工程は、フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、発光領域のフォトレジスト層が残存するようにフォトレジスト層をパターニングする工程である。
【0145】
フォトレジスト層をパターン露光する方法としては、例えば、フォトマスクを介して露光する方法、レーザー描画法など、一般的な方法を用いることができる。
【0146】
パターン露光の際、ポジ型フォトレジストを用いた場合には、少なくとも発光領域が非露光領域となるように露光し、ネガ型フォトレジストを用いた場合には、少なくとも発光領域が露光領域となるように露光する。
【0147】
本態様に用いられるフォトレジスト現像液としては、無機導電性材料等を溶解しないものであれば特に限定されるものではない。このようなフォトレジスト現像液としては、一般的に使用されている有機アルカリ系現像液を使用できる。また、フォトレジスト現像液として、無機アルカリ系現像液や、第1色用フォトレジスト層の現像が可能な水溶液を使用することもできる。
【0148】
また、フォトレジスト層を現像した後は、水で洗浄するのが好ましい。
【0149】
5.有機EL層パターニング工程
本態様における有機EL層パターニング工程は、フォトレジスト層が除去された部分の導電保護層および有機EL層を除去することにより、導電保護層および有機EL層をパターニングする工程である。
【0150】
導電保護層および有機EL層の除去方法としては、導電保護層および有機EL層を溶解する溶媒を用いるウェットエッチング、およびドライエッチングのいずれも用いることができる。中でも、混色等が生じにくく、また高精細なパターニングが可能であることから、ドライエッチングが好ましい。
【0151】
ウェットエッチングでは、フォトレジスト層を溶解することなく、導電保護層および有機EL層を溶解することができる溶媒を用いて、フォトレジスト層が除去された部分の導電保護層および有機EL層を溶解して除去する。この際に使用できる溶媒としては、上述した発光層形成用塗工液、正孔注入層形成用塗工液、導電保護層形成用塗工液等に用いられる溶媒を例示することができる。
【0152】
また、ウェットエッチングでは、超音波浴中で導電保護層および有機EL層の除去を行ってもよい。超音波浴を用いることにより、例えば発光層のパターンの線幅が細くなったり、発光層から発光材料等が流出したりするのを防ぐことができ、高精度のパターニングが可能となるからである。また、短時間で高精度のパターニングが可能となる点でも好ましい。
【0153】
この超音波浴に用いる超音波の条件は、25℃、20〜100KHzの発振周波数で、0.1〜60秒間が好ましい。このような条件とすることで、短時間で精度の高いパターニングが可能となるからである。
【0154】
また、ドライエッチングでは、フォトレジスト層の膜厚が導電保護層および有機EL層よりもかなり厚いことから、基板に対して全体的にドライエッチングを行うことにより、フォトレジスト層が除去された部分の導電保護層および有機EL層を除去することができる。ドライエッチングを用いれば、エッチングの端部をよりシャープとすることができるため、導電保護層および有機EL層のパターンの端部に存在する膜厚不均一領域をより狭くすることができ、その結果、より高精細なパターニングが可能となる。
【0155】
ドライエッチングの方法としては、例えば、大気圧プラズマエッチング、反応性イオンエッチング(RIE)、不活性ガスによるプラズマエッチング、レーザー、イオンビーム等によるエッチングなどを用いることができる。
【0156】
反応性イオンエッチングでは、有機膜が化学的に反応を受け、分子量の小さい化合物となることにより、気化・蒸発して除去される。このため、反応性イオンエッチングを用いた場合には、エッチング精度が高く、短時間での加工が可能となる。
【0157】
また、大気圧プラズマエッチングを用いた場合には、真空装置を要することがなく、処理時間の短縮およびコストの低減が可能である。大気圧プラズマエッチングでは、プラズマ化した大気中の酸素によって有機物が酸化分解することを利用する。この際、ガスの置換および循環によって、反応雰囲気のガス組成を任意に調整してもよい。
【0158】
さらに、ドライエッチングに際して、酸素単体または酸素を含むガスを用いてもよい。酸素単体または酸素を含むガスを用いることで、有機膜の酸化反応による分解除去が可能であり、不要な有機物を除去することができるからである。
【0159】
6.剥離工程
本態様における剥離工程は、残存するフォトレジスト層を剥離する工程である。
【0160】
フォトレジスト層を剥離する方法としては、フォトレジスト剥離液に基板を浸漬させる方法、フォトレジスト剥離液をシャワー状に基板に噴出する方法等を用いることができる。
【0161】
フォトレジスト剥離液は、導電保護層および有機EL層を溶解せずに、フォトレジスト層を溶解することができるものであれば特に限定されるものではなく、使用するフォトレジストおよび無機導電性材料の組み合わせ等により異なるものであり、適宜選択される。
【0162】
このようなフォトレジスト剥離液としては、上述したフォトレジスト溶媒を使用することができる。また、ポジ型フォトレジストを用いた場合は、フォトレジスト現像液をフォトレジスト剥離液として用いることができる。さらに、フォトレジスト剥離液として、例えば特開2006−318876号公報に記載のものを用いてもよい。
【0163】
7.第2電極層形成工程
本態様における第2電極層形成工程は、上記剥離工程後に露出した導電保護層上に第2電極層を形成する工程である。
【0164】
本態様に用いられる第2電極層は、陽極であってもよく陰極であってもよい。一般に、有機EL素子を製造する際には、陽極側から積層する方が安定して有機EL素子を作製することができることから、第2電極層が陰極であることが好ましい。
【0165】
また、第2電極層は、透明性を有していても有さなくてもよく、光の取り出し面に応じて適宜選択される。例えば図1(h)に示す有機EL素子においてトップエミッション型とする場合、第2電極層9は透明性を有することが好ましい。一方、例えば図1(h)に示す有機EL素子においてボトムエミッション型とする場合、第2電極層9に透明性は要求されない。また、例えば図1(h)に示す有機EL素子において両面から光を取り出す場合には、第2電極層9は透明性を有することが好ましい。
【0166】
第2電極層には、上記有機EL層形成工程の第1電極層の項に記載した導電性材料を用いることができる。中でも、本態様においては、導電保護層によって第2電極層成膜時の衝撃による有機EL層へのダメージを緩和することができることから、第2電極層に用いられる導電性材料としては、融点が高く、スパッタリング法またはイオンプレーティング法等のような成膜時のエネルギーが高い成膜方法によって成膜できるものであることが好ましい。
【0167】
このような導電性材料としては、In−Zn−O(IZO)、In−Sn−O(ITO)、Zn−O−Al、Zn−Sn−O等の無機酸化物、または、Ag等の反応性の比較的低い金属を挙げることができる。特に、上記導電性材料としては、上記無機酸化物が好ましい。無機酸化物は、スパッタリング法またはイオンプレーティング法等により成膜可能であり、緻密な膜を得ることができるからである。
【0168】
また、第2電極層の厚みとしては、特に限定されるものではなく、用いる導電性材料に応じて適宜設定される。具体的には、第2電極層の厚みとしては、無機酸化物を用いた場合は40nm〜500nmの範囲内であることが好ましく、金属を用いた場合は1nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。第2電極層の厚みが薄すぎると、抵抗が高くなり、第2電極層の厚みが厚すぎると、透過率が低くなる場合があるからである。
【0169】
第2電極層の成膜方法としては、例えばCVD法、または真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法が挙げられる。中でも、スパッタリング法、イオンプレーティング法等が好ましい。これらの方法は、成膜エネルギーが高いために、上記無機酸化物等の融点が高い材料も成膜することができ、さらに成膜効率が良いからである。
【0170】
8.その他の工程
本態様の有機EL素子の製造方法は、少なくとも1色の発光層をパターン状に形成するものであり、上記の有機EL層形成工程、導電保護層形成工程、フォトレジスト層形成工程、フォトレジスト層パターニング工程、および有機EL層パターニング工程を複数回繰り返し行うことにより、2色、3色、4色または5色の発光層をパターン状に形成することができる。
【0171】
また、本態様においては、上記剥離工程後に、導電保護層の表面を洗浄する洗浄工程を行ってもよい。これにより、導電保護層表面に残留する成分を取り除くことができるからである。
【0172】
洗浄工程においては、洗浄液を用いて、導電保護層表面を洗浄する。洗浄液としては、フォトレジスト層を溶解し、かつ、導電保護層および有機EL層を溶解しない溶剤を用いることができる。このような洗浄液としては、上述のフォトレジスト剥離液を用いることができる。
【0173】
さらに、本態様においては、上記剥離工程後に、導電保護層の表面をプラズマ処理するプラズマ処理工程を行ってもよい。これにより、導電保護層表面に残留する成分を取り除くことができるからである。
【0174】
プラズマ処理の際に用いられる導入ガスとしては、一般的に用いられているガスを使用することが可能である。中でも、フォトレジスト残渣のみを除去し、導電保護層および有機EL層への影響が少ないガスであることが好ましい。このようなガスとしては、フッ素またはフッ素化合物を含んだガス、塩素または塩素化合物を含んだガス、酸素、アルゴン、窒素等が挙げられる。導入ガスとして、2種類以上の混合ガスを用いてもよい。
【0175】
II.第2態様
本発明の有機EL素子の製造方法の第2態様は、N色(Nは2以上の整数)の発光層をパターン状に形成する有機EL素子の製造方法であって、第1電極層が形成され、第1色発光層を少なくとも含む第1色目の有機EL層から第(N−1)色発光層を少なくとも含む第(N−1)色目の有機EL層までがそれぞれパターン状に形成され、上記各有機EL層の表面にそれぞれ無機導電性材料を含有する導電保護層およびフォトレジスト層がこの順に積層された基板上に、少なくとも第N色発光層を含む第N色目の有機EL層を形成する有機EL層形成工程と、上記第N色目の有機EL層上に、無機導電性材料を含有する第N色用導電保護層を形成する導電保護層形成工程と、上記第N色用導電保護層上にフォトレジストを塗布し、第N色用フォトレジスト層を形成するフォトレジスト層形成工程と、上記第N色用フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第N色発光領域の上記第N色用フォトレジスト層が残存するように上記第N色用フォトレジスト層をパターニングするフォトレジスト層パターニング工程と、上記第N色用フォトレジスト層が除去された部分の上記第N色用導電保護層および上記第N色目の有機EL層を除去することにより、上記第N色用導電保護層および上記第N色目の有機EL層をパターニングする有機EL層パターニング工程と、残存する上記各フォトレジスト層を剥離する剥離工程と、上記剥離工程後に露出した上記各導電保護層上に第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを有することを特徴とするものである。
【0176】
本態様の有機EL素子の製造方法は、第N色発光層をパターニングする工程を表現したものであるが、第2色から第(N−1)色までの発光層についても上記の第N色発光層をパターニングする工程と同様にしてパターニングすることができる。また、第1色発光層についても上記の第N色発光層をパターニングする工程と同様にしてパターニングすることができる。
以下、具体例として、3色の発光層をパターン状に形成する有機EL素子の製造方法について説明する。
【0177】
すなわち、本態様の3色の発光層をパターン状に形成する有機EL素子の製造方法は、第1電極層が形成された基板上に、少なくとも第1色発光層を含む第1色目の有機EL層を形成する第1色目の有機EL層形成工程と、上記第1色目の有機EL層上に、無機導電性材料を含有する第1色用導電保護層を形成する第1色用導電保護層形成工程と、上記第1色用導電保護層上にフォトレジストを塗布し、第1色用フォトレジスト層を形成する第1色用フォトレジスト層形成工程と、上記第1色用フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第1色発光領域の上記第1色用フォトレジスト層が残存するように上記第1色用フォトレジスト層をパターニングする第1色用フォトレジスト層パターニング工程と、上記第1色用フォトレジスト層が除去された部分の上記第1色用導電保護層および上記第1色目の有機EL層を除去することにより、上記第1色目の有機EL層パターニング工程と、上記第1色目の有機EL層、上記第1色用導電保護層および上記第1色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、少なくとも第2色発光層を含む第2色目の有機EL層を形成する第2色目の有機EL層形成工程と、上記第2色目の有機EL層上に、無機導電性材料を含有する第2色用導電保護層を形成する第2色用導電保護層形成工程と、上記第2色用導電保護層上にフォトレジストを塗布し、第2色用フォトレジスト層を形成する第2色用フォトレジスト層形成工程と、上記第2色用フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第2色発光領域の上記第2色用フォトレジスト層が残存するように上記第2色用フォトレジスト層をパターニングする第2色用フォトレジスト層パターニング工程と、上記第2色用フォトレジスト層が除去された部分の上記第2色用導電保護層および上記第2色目の有機EL層を除去することにより、上記第2色用導電保護層および上記第2色目の有機EL層をパターニングする第2色目の有機EL層パターニング工程と、上記第1色目の有機EL層、上記第1色用導電保護層および上記第1色用フォトレジスト層がパターン状に形成され、さらに上記第2色目の有機EL層、上記第2色用導電保護層および上記第2色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、少なくとも第3色発光層を含む第3色目の有機EL層を形成する第3色目の有機EL層形成工程と、上記第3色目の有機EL層上に、無機導電性材料を含有する第3色用導電保護層を形成する第3色用導電保護層形成工程と、上記第3色用導電保護層上にフォトレジストを塗布し、第3色用フォトレジスト層を形成する第3色用フォトレジスト層形成工程と、上記第3色用フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第3色発光領域の上記第3色用フォトレジスト層が残存するように上記第3色用フォトレジスト層をパターニングする第3色用フォトレジスト層パターニング工程と、上記第3色用フォトレジスト層が除去された部分の上記第3色用導電保護層および上記第3色目の有機EL層を除去することにより、上記第3色用導電保護層および上記第3色目の有機EL層をパターニングする第3色目の有機EL層パターニング工程と、残存する上記第1色用フォトレジスト層、上記第2色用フォトレジスト層および上記第3色用フォトレジスト層を剥離する剥離工程と、上記剥離工程後に露出した上記第1色用導電保護層、上記第2色用導電保護層および上記第3色用導電保護層の上に第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを有することを特徴とするものである。
【0178】
本態様の有機EL素子の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図2〜図4は、本態様の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。まず、基板1上に第1電極層2をパターン状に形成し、この第1電極層2のパターン間に絶縁層3を形成し、第1電極層2および絶縁層3の上に第1色用正孔注入層4aおよび第1色発光層5aを形成し、第1色目の有機EL層6aとする(図2(a)、第1色目の有機EL層形成工程)。次いで、第1色発光層5a上に第1色用導電保護層7aを形成する(図2(b)、第1色用導電保護層形成工程)。次に、第1色用導電保護層7a上にポジ型フォトレジストを塗布して、第1色用フォトレジスト層8aを形成する(図2(c)、第1色用フォトレジスト層形成工程)。次いで、少なくとも第1色発光領域10aの第1色用フォトレジスト層8aが残存するように、フォトマスク11を介して第1色用フォトレジスト層8aをパターン露光した後、フォトレジスト現像液により現像し、洗浄することにより、パターン状の第1色用フォトレジスト層8a´を形成する(図2(d)および(e)、第1色用フォトレジスト層パターニング工程)。次に、第1色用フォトレジスト層の除去により露出した部分の第1色用導電保護層、第1色発光層および第1色用正孔注入層を除去することにより、パターン状の第1色用導電保護層7a´、第1色発光層5a´および第1色用正孔注入層4a´を形成する(図2(f)、第1色目の有機EL層パターニング工程)。
【0179】
次に、パターン状の第1色用フォトレジスト層8a´、第1色用導電保護層7a´、第1色発光層5a´および第1色用正孔注入層4a´が形成された基板1上に、第2色用正孔注入層4bおよび第2色発光層5bを形成し、第2色目の有機EL層6bとする(図2(g)、第2色目の有機EL層形成工程)。次いで、第2色発光層5b上に第2色用導電保護層7bを形成する(図2(h)、第2色用導電保護層形成工程)。次に、第2色用導電保護層7b上にポジ型フォトレジストを塗布して、第2色用フォトレジスト層8bを形成する(図3(a)、第2色用フォトレジスト層形成工程)。次いで、少なくとも第2色発光領域10bの第2色用フォトレジスト層8bが残存するように、フォトマスク11を介して第2色用フォトレジスト層8bをパターン露光した後、フォトレジスト現像液により現像し、洗浄することにより、パターン状の第2色用フォトレジスト層8b´を形成する(図3(b)および(c)、第2色用フォトレジスト層パターニング工程)。次に、第2色用フォトレジスト層の除去により露出した部分の第2色用導電保護層、第2色発光層および第2色用正孔注入層を除去することにより、パターン状の第2色用導電保護層7b´、第2色発光層5b´および第2色用正孔注入層4b´を形成する(図3(d)、第2色目の有機EL層パターニング工程)。
【0180】
次に、パターン状の第1色用フォトレジスト層8a´、第1色用導電保護層7a´、第1色発光層5a´および第1色用正孔注入層4a´、ならびにパターン状の第2色用フォトレジスト層8b´、第2色用導電保護層7b´、第2色発光層5b´および第2色用正孔注入層4b´が形成された基板1上に、第3色用正孔注入層4cおよび第3色発光層5cを形成し、第3色目の有機EL層6cとする(図3(e)、第3色目の有機EL層形成工程)。次いで、第3色発光層5c上に第3色用導電保護層7cを形成する(図3(f)、第3色用導電保護層形成工程)。次に、第3色用導電保護層7c上にポジ型フォトレジストを塗布して、第3色用フォトレジスト層8cを形成する(図3(g)、第3色用フォトレジスト層形成工程)。次いで、少なくとも第3色発光領域10cの第3色用フォトレジスト層8cが残存するように、フォトマスク11を介して第3色用フォトレジスト層8cをパターン露光した後、フォトレジスト現像液により現像し、洗浄することにより、パターン状の第3色用フォトレジスト層8c´を形成する(図4(a)および(b)、第3色用フォトレジスト層パターニング工程)。次に、第3色用フォトレジスト層の除去により露出した部分の第3色用導電保護層、第3色発光層および第3色用正孔注入層を除去することにより、パターン状の第3色用導電保護層7c´、第3色発光層5c´および第3色用正孔注入層4c´を形成する(図4(c)、第2色目の有機EL層パターニング工程)。
【0181】
次いで、最上層に位置する第1色用フォトレジスト層8a´、第2色用フォトレジスト層8b´および第3色用フォトレジスト層8c´を剥離する(図4(d)、剥離工程)。
最後に、第1色用導電保護層7a´、第2色用導電保護層7b´および第3色用導電保護層7c´の上に第2電極層9を形成する(図4(e)、第2電極層形成工程)。
【0182】
本態様においては、各フォトレジスト層を形成する前に、パターニングされる各有機EL層上に各導電保護層を形成するので、各有機EL層上にフォトレジストを直接塗布することがない。また、第2色目の有機EL層をパターニングする際には、パターニングされた第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層の上に、第2色目の有機EL層および第2色用導電保護層が形成され、この第2色用導電保護層上にフォトレジストが塗布されるので、第1色目の有機EL層が第2色用フォトレジスト層と接触することもない。さらに、第3色目の有機EL層をパターニングする際にも、同様に、第1色目の有機EL層および第2色目の有機EL層が第3色用フォトレジスト層と接触することがない。また、すべての有機EL層のパターニング後に、各フォトレジスト層を剥離するので、パターニングされた各有機EL層の表面が、フォトレジスト成分、例えば、感光剤、添加剤、樹脂等にさらされるのを防ぐことができる。したがって、各導電保護層によって、フォトレジスト成分が各有機EL層に接触するのを防止することができ、フォトレジスト成分による発光特性等の低下を回避することができる。
【0183】
また、上述したように、第2色目の有機EL層をパターニングする際には、パターニングされた第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層の上に、第2色目の有機EL層および第2色用導電保護層が形成されるので、第2色目の有機EL層を除去するときの第1色目の有機EL層へのダメージを低減することができる。また、第3色目の有機EL層をパターニングする際にも、同様に、第3色目の有機EL層を除去するときの第1色目の有機EL層および第2色目の有機EL層へのダメージを低減することができる。
【0184】
さらに、本態様においては、各導電保護層上に第2電極層を形成するので、第2電極層をスパッタリング法により成膜する場合であっても、スパッタ時のプラズマガスイオン、スパッタリングされた粒子および電離した電子等による有機EL層への衝撃を緩和することができる。これにより、第2電極層成膜時の衝撃による発光特性等の素子特性および電子注入特性等の有機EL層の特性の低下を抑制することができる。
【0185】
したがって、本態様においては、発光特性および寿命特性等の素子特性、ならびに電子注入特性等の有機EL層の特性に優れる有機EL素子を製造することが可能である。
【0186】
また、第2色用フォトレジスト層パターニング工程にて、第2色発光領域の第2色用フォトレジスト層が残存するように第2色用フォトレジスト層をパターニングするので、パターニングされた第1色目の有機EL層上に、第2色用フォトレジスト層が残存することがない。すなわち、パターニングされた第1色目の有機EL層上に積層されているフォトレジスト層は第1色用フォトレジスト層のみである。さらに、第2色用フォトレジスト層の除去により露出した部分の第2色目の有機EL層も、第2色目の有機EL層パターニング工程にて、除去されることから、第1色目の有機EL層上に、第2色目の有機EL層が残存することもない。したがって、パターニングされた第1色目の有機EL層上に、余分な層が積層されている状態を回避することができる。これにより、複数の層を積層することから生じる膜厚ムラ等を解消することが可能となる。
【0187】
さらに、第1色用導電保護層上には、剥離工程にて剥離される第1色用フォトレジスト層が積層されているだけであり、この第1色用フォトレジスト層は、各有機EL層パターニング工程後において、最上層に位置することとなる。したがって、第1色用フォトレジスト層を容易に速やかに剥離することができる。また、第2色用フォトレジスト層および第3色用フォトレジスト層も、同様に、各有機EL層パターニング工程後において、最上層に位置するものであり、容易に速やかに剥離することができる。
【0188】
また、本態様における導電保護層は、無機導電性材料を含有しており、比較的電気抵抗が低いので、良好な電流−電圧特性を示す有機EL素子を得ることができる。
【0189】
なお、第1色用フォトレジスト層パターニング工程、第1色目の有機EL層パターニング工程、第2色用フォトレジスト層パターニング工程、第2色目の有機EL層パターニング工程、第3色用フォトレジスト層パターニング工程、第3色目の有機EL層パターニング工程、剥離工程および第2電極層形成工程については、上記第1態様のフォトレジスト層パターニング工程、有機EL層パターニング工程、剥離工程および第2電極層形成工程とそれぞれ同様であるので、ここでの説明は省略する。
以下、本態様の有機EL素子の製造方法の上記以外の各工程について説明する。
【0190】
1.第1色目の有機EL層形成工程
本態様における第1色目の有機EL層形成工程は、第1電極層が形成された基板上に、少なくとも第1色発光層を含む第1色目の有機EL層を形成する工程である。
【0191】
本態様においては、複数回にわたりフォトリソグラフィー法を用いてパターニングすることにより、複数色の発光層をパターン状に形成することができる。したがって、第1色目、第2色目および第3色目の有機EL層形成工程では、それぞれ異なる種類の発光材料が用いられる。この際、製造コスト低減の観点から、発光層形成用塗工液を塗布して発光層を形成することが好ましい。
【0192】
第1色目の有機EL層が第1色用正孔注入層および第1色発光層から構成されている場合であって、後述する第2色目の有機EL層形成工程にて、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第2色用正孔注入層形成用塗工液を塗布して第2色用正孔注入層を形成する場合には、第1色用正孔注入層は、第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。これにより、第2色用正孔注入層の成膜の際に、第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒が第1色用正孔注入層のパターンの端部に接触しても、第1色用正孔注入層は溶解されないので、安定して第2色用正孔注入層を積層することができるからである。
【0193】
また、第1色目の有機EL層が第1色用正孔注入層および第1色発光層から構成されている場合であって、後述する第3色目の有機EL層形成工程にて、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第3色用正孔注入層形成用塗工液を塗布して第3色用正孔注入層を形成する場合には、第1色用正孔注入層は、第3色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。
【0194】
なお、第1色用正孔注入層を第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒または第3色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとすることについては、上記第1態様の有機EL層形成工程の「(1)有機EL層 (i)2層の有機層」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0195】
第1色目の有機EL層が第1色用正孔注入層および第1色発光層から構成されている場合であって、後述する第2色目の有機EL層形成工程にて、上記第2色用正孔注入層上に、第2色発光層形成用塗工液を塗布して第2色発光層を形成する場合には、第1色発光層は、第2色発光層形成用塗工液の溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。第2色発光層形成前において、第1色発光層は、第2色用正孔注入層によって覆われているため、第2色発光層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0196】
また、第1色目の有機EL層が第1色用正孔注入層および第1色発光層から構成されている場合であって、後述する第3色目の有機EL層形成工程にて、上記第3色用正孔注入層上に、第3色発光層形成用塗工液を塗布して第3色発光層を形成する場合には、第1色発光層は、第3色発光層形成用塗工液の溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。
【0197】
なお、第1色目の有機EL層形成工程のその他の点については、上記第1態様の有機EL層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0198】
2.第1色用導電保護層形成工程
本態様における第1色用導電保護層形成工程は、第1色目の有機EL層上に第1色用導電保護層を形成する工程である。
【0199】
後述する第2色目の有機EL層形成工程にて、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第2色用正孔注入層形成用塗工液を塗布して第2色用正孔注入層を形成する場合には、第1色用導電保護層は、第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。これにより、第2色用正孔注入層の成膜の際に、第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒が第1色用導電保護層のパターンの端部に接触しても、第1色用導電保護層は溶解されないので、安定して第2色用正孔注入層を積層することができるからである。
【0200】
第1色用導電保護層を第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとするためには、第1色用導電保護層および第2色用正孔注入層に溶解性が異なる材料を用いればよい。
【0201】
さらに、後述する第2色用導電保護層形成工程にて、第2色目の有機EL層上に第2色用導電保護層形成用塗工液を塗布して第2色用導電保護層を形成する場合には、第1色用導電保護層は、第2色用導電保護層形成用塗工液の溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。第2色用導電保護層形成前において、第1色用導電保護層は、第2色目の有機EL層によって覆われているため、第2色用導電保護層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0202】
なお、第1色用導電保護層形成工程のその他の点については、上記第1態様の導電保護層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0203】
3.第1色用フォトレジスト層形成工程
本態様における第1色用フォトレジスト層形成工程は、第1色用導電保護層上にフォトレジストを塗布し、第1色用フォトレジスト層を形成する工程である。
本態様においては、フォトレジスト層に第1色用、第2色用および第3色用の3種類を用いているが、いずれも便宜上使い分けているだけであり、すべて同様のフォトレジスト層であってもよい。
【0204】
後述する第2色目の有機EL層形成工程にて、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第2色用正孔注入層形成用塗工液を塗布して第2色用正孔注入層を形成する場合には、第1色用フォトレジスト層は、第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。これにより、第2色用正孔注入層の成膜の際に、第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒が第1色用フォトレジスト層に接触しても、第1色用フォトレジスト層は溶解されないので、安定して第2色用正孔注入層を積層することができるからである。
【0205】
第1色用フォトレジスト層を第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとするために、第1色用フォトレジスト層および第2色用正孔注入層に溶解性が異なる材料を用いればよい。
【0206】
さらに、第1色用フォトレジスト層は、第2色用フォトレジスト層形成工程にて用いられるフォトレジスト溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。第2色用フォトレジスト層形成前において、第1色用フォトレジスト層は、第2色目の有機EL層および第2色用導電保護層によって覆われているため、フォトレジスト溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0207】
なお、第1色用フォトレジスト層形成工程のその他の点については、上記第1態様のフォトレジスト層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0208】
4.第2色目の有機EL層形成工程
本態様における第2色目の有機EL層形成工程は、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、少なくとも第2色発光層を含む第2色目の有機EL層を形成する工程である。
【0209】
第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第2色用正孔注入層形成用塗工液を塗布して第2色用正孔注入層を形成する場合には、第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒は、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層を溶解しないものであることが好ましい。これは、第2色用正孔注入層の成膜の際に、第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒が、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層に接触するためである。具体的には、第2色用正孔注入層の成膜の際に、第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒が、第1色目の有機EL層および第1色用導電保護層のパターンの端部、ならびに、第1色用フォトレジスト層のパターンの表面および端部に接触する。
【0210】
上記の場合、第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒が、第1色用フォトレジスト層のパターンの表面および端部に接触する面積に比べて、第1色目の有機EL層および第1色用導電保護層のパターンの端部に接触する面積は非常に小さい。このため、第2色用正孔注入層を安定に積層する、あるいは、1画素の最小寸法値が100μmよりも小さい部分を有する場合には、第2色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒が、第1色目の有機EL層および第1色用導電保護層を溶解しないことが非常に有効である。
【0211】
また、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第2色発光層形成用塗工液を塗布して第2色発光層を形成する場合には、第2色発光層形成用塗工液の溶媒は、第1色用フォトレジスト層を溶解しないものであることが好ましい。
【0212】
例えば、第1色用フォトレジスト層に一般的なノボラック系ポジ型フォトレジストを用いた場合、上記溶媒としては、上記第1態様の有機EL層形成工程の項に記載した、発光層形成用塗工液に用いられる溶媒が好ましく用いられる。
【0213】
第2色目の有機EL層が第2色用正孔注入層および第2色発光層から構成されている場合であって、後述する第3色目の有機EL層形成工程にて、第2色目の有機EL層、第2色用導電保護層および第2色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第2色用正孔注入層形成用塗工液を塗布して第2色用正孔注入層を形成する場合には、第2色用正孔注入層は、第3色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。
【0214】
なお、第2色用正孔注入層を第3色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとすることについては、上記第1態様の有機EL層形成工程の「(1)有機EL層 (i)2層の有機層」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0215】
また、第2色目の有機EL層が第2色用正孔注入層および第2色発光層から構成されている場合であって、後述する第3色目の有機EL層形成工程にて、上記第3色用正孔注入層上に、第3色発光層形成用塗工液を塗布して第3色発光層を形成する場合には、第2色発光層は、第3色発光層形成用塗工液の溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。第3色発光層形成前において、第2色発光層は、第3色用正孔注入層によって覆われているため、第3色発光層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0216】
また、第2色目の有機EL層形成工程のその他の点については、上記第1態様の有機EL層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0217】
5.第2色用導電保護層形成工程
本態様における第2色用導電保護層形成工程は、第2色目の有機EL層上に第2色用導電保護層を形成する工程である。
【0218】
第2色目の有機EL層上に、第2色用導電保護層形成用塗工液を塗布して第2色用導電保護層を形成する場合には、第2色用導電保護層形成用塗工液の溶媒は、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層を溶解するものであってもよく溶解しないものであってもよい。第2色用導電保護層形成前において、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層は、第2色目の有機EL層によって覆われているため、第2色用導電保護層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0219】
また、後述する第3色目の有機EL層形成工程にて、第2色目の有機EL層、第2色用導電保護層および第2色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第3色用正孔注入層形成用塗工液を塗布して第3色用正孔注入層を形成する場合には、第2色用導電保護層は、第3色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。これにより、第3色用正孔注入層の成膜の際に、第3色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒が第2色用導電保護層のパターンの端部に接触しても、第2色用導電保護層は溶解されないので、安定して第3色用正孔注入層を積層することができるからである。
【0220】
第2色用導電保護層を第3色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとするために、第2色用導電保護層および第3色用正孔注入層に溶解性が異なる材料を用いればよい。
【0221】
さらに、後述する第3色用導電保護層形成工程にて、第3色目の有機EL層上に第3色用導電保護層形成用塗工液を塗布して第3色用導電保護層を形成する場合には、第2色用導電保護層は、第3色用導電保護層形成用塗工液の溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。第3色用導電保護層形成前において、第2色用導電保護層は、第3色目の有機EL層によって覆われているため、第3色用導電保護層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0222】
なお、第2色用導電保護層形成工程のその他の点については、上記第1態様の導電保護層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0223】
6.第2色用フォトレジスト層形成工程
本態様における第2色用フォトレジスト層形成工程は、第2色用導電保護層上にフォトレジストを塗布し、第2色用フォトレジスト層を形成する工程である。
【0224】
本工程に用いられるフォトレジスト溶媒は、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層を溶解するものであってもよく溶解しないものであってもよい。第2色用フォトレジスト層形成前において、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層は、第2色目の有機EL層および第2色用導電保護層によって覆われているため、フォトレジスト溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0225】
また、後述する第3色目の有機EL層形成工程にて、第2色目の有機EL層、第2色用導電保護層および第2色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第3色用正孔注入層形成用塗工液を塗布して第3色用正孔注入層を形成する場合には、第2色用フォトレジスト層は、第3色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。これにより、第3色用正孔注入層の成膜の際に、第3色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒が第2色用フォトレジスト層に接触しても、第2色用フォトレジスト層は溶解されないので、安定して第3色用正孔注入層を積層することができるからである。
【0226】
第2色用フォトレジスト層を第3色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとするために、第2色用フォトレジスト層および第3色用正孔注入層に溶解性が異なる材料を用いればよい。
【0227】
さらに、第2色用フォトレジスト層は、第3色用フォトレジスト層形成工程にて用いられるフォトレジスト溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。第3色用フォトレジスト層形成前において、第2色用フォトレジスト層は、第3色目の有機EL層および第3色用導電保護層によって覆われているため、フォトレジスト溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0228】
なお、第2色用フォトレジスト層形成工程のその他の点については、上記第1態様のフォトレジスト層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0229】
7.第3色目の有機EL層形成工程
本態様における第3色目の有機EL層形成工程は、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層がパターン状に形成され、さらに第2色目の有機EL層、第2色用導電保護層および第2色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、少なくとも第3色発光層を含む第3色目の有機EL層を形成する工程である。
【0230】
第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層および第1色用フォトレジスト層がパターン状に形成され、さらに第2色目の有機EL層、第2色用導電保護層および第2色用フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第3色用正孔注入層形成用塗工液を塗布して第3色用正孔注入層を形成する場合には、第3色用正孔注入層形成用塗工液の溶媒は、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層、第1色用フォトレジスト層、第2色目の有機EL層、第2色用導電保護層および第2色用フォトレジスト層を溶解しないものであることが好ましい。
【0231】
なお、第3色目の有機EL層形成工程のその他の点については、上記第1態様の有機EL層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0232】
8.第3色用導電保護層形成工程
本発明における第3色用導電保護層形成工程は、第3色目の有機EL層上に第3色用導電保護層を形成する工程である。
【0233】
第3色目の有機EL層上に、第3色用導電保護層形成用塗工液を塗布して第3色用導電保護層を形成する場合には、第3色用導電保護層形成用塗工液の溶媒は、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層、第1色用フォトレジスト層、第2色目の有機EL層、第2色用導電保護層および第2色用フォトレジスト層を溶解するものであってもよく溶解しないものであってもよい。第2色用導電保護層形成前において、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層、第1色用フォトレジスト層、第2色目の有機EL層、第2色用導電保護層および第2色用フォトレジスト層は、第3色目の有機EL層によって覆われているため、第3色用導電保護層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0234】
なお、第3色用導電保護層形成工程のその他の点については、上記第1態様の導電保護層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0235】
9.第3色用フォトレジスト層形成工程
本発明における第3色用フォトレジスト層形成工程は、第3色用導電保護層上にフォトレジストを塗布し、第3色用フォトレジスト層を形成する工程である。
【0236】
本工程に用いられるフォトレジスト溶媒は、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層、第1色用フォトレジスト層、第2色目の有機EL層、第2色用導電保護層および第2色用フォトレジスト層を溶解するものであってもよく溶解しないものであってもよい。第2色用フォトレジスト層形成前において、第1色目の有機EL層、第1色用導電保護層、第1色用フォトレジスト層、第2色目の有機EL層、第2色用導電保護層および第2色用フォトレジスト層は、第3色目の有機EL層および第3色用導電保護層によって覆われているため、フォトレジスト溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0237】
なお、第3色用フォトレジスト層形成工程のその他の点については、上記第1態様のフォトレジスト層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0238】
10.その他の工程
本態様においては、上記剥離工程後、各導電保護層の表面を洗浄する洗浄工程を行ってもよい。また、上記剥離工程後、各導電保護層の表面をプラズマ処理するプラズマ処理工程を行ってもよい。
なお、洗浄工程およびプラズマ処理工程については、上記第1態様の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0239】
B.有機EL素子
次に、本発明の有機EL素子について説明する。
本発明の有機EL素子は、基板と、上記基板上に形成された第1電極層と、上記第1電極層上にパターン状に形成され、少なくとも発光層を含む有機EL層と、上記有機EL層上にパターン状に形成され、無機導電性材料を含有する導電保護層と、上記導電保護層上に形成された第2電極層とを有しており、上記有機EL層のパターン形状と、上記導電保護層のパターン形状とが同一であることを特徴とするものである。
【0240】
本発明の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。図5は、本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。図5に例示するように、有機EL素子20においては、基板21上に第1電極層22がパターン状に形成され、この第1電極層22のパターン間に絶縁層23が形成され、第1電極層22上に、パターン状の正孔注入層24および発光層25から構成される有機EL層26と、パターン状の導電保護層27とが順に積層され、導電保護層27上に第2電極層29が形成されている。また、有機EL層26のパターン形状と、導電保護層27のパターン形状とは同一である。
【0241】
本発明においては、有機EL層上に導電保護層が形成されており、有機EL層および導電保護層のパターンの形状が同一であるので、本発明の有機EL素子をフォトリソグラフィー法を用いて作製する場合には、例えば、上記「A.有機EL素子の製造方法」の項に記載した図1に示すような工程により、有機EL素子を得ることができる。
【0242】
図1に例示するような工程により有機EL素子を作製した場合には、有機EL層および導電保護層の上にフォトレジスト層が形成されるので、有機EL層上にフォトレジストを直接塗布することがない。また、有機EL層のパターニング後には、導電保護層上に形成されているフォトレジスト層のみを剥離するので、フォトレジスト成分が有機EL層に接触するのを防ぐことができる。これにより、有機EL層表面が、フォトレジスト成分、例えば、感光剤、添加剤、樹脂等によって汚染されるのを防ぐことができる。したがって、有機EL素子をフォトリソグラフィー法を用いて作製する場合には、本発明の構成とすることにより、フォトレジスト成分による有機EL層の発光特性および寿命特性等の低下を回避することができる。
【0243】
また、本発明においては、有機EL層と第2電極層との間に導電保護層が形成されているので、第2電極層がスパッタリング法等により成膜された場合には、スパッタ時のプラズマガスイオン、スパッタリングされた粒子および電離した電子等による有機EL層への衝撃を緩和することができる。これにより、第2電極層成膜時の衝撃による発光特性等の素子特性および電子注入特性等の有機EL層の特性の低下を抑制することができる。
【0244】
したがって本発明においては、有機EL層上に導電保護層が形成されていることにより、発光特性および寿命特性等の素子特性、ならびに電子注入特性等の有機EL層の特性に優れる有機EL素子とすることが可能である。
【0245】
さらに、本発明における導電保護層は、無機導電性材料を含有しており、比較的電気抵抗が低いので、電流−電圧特性を良好に保ちつつ、有機EL層を保護することができる。
【0246】
また、上述したように、導電保護層は無機導電性材料を含有するので比較的導電性が高いが、導電保護層のパターン形状が有機EL層のパターン形状と同一であるので、導電保護層の面方向に漏れ電流が流れて、隣接する有機EL層のパターン間にてクロストークが発生するのを回避することができる。
【0247】
本発明の有機EL素子は、ボトムエミッション型、トップエミッション型、および両面発光型のいずれであってもよい。中でも、トップエミッション型または両面発光型が好ましい。一般に、IZOやITO等の透明電極はスパッタリング法やイオンプレーティング法等の成膜エネルギーの高い方法で成膜されるものである。本発明においては、導電保護層により、第2電極層成膜時の有機EL層への衝撃を緩和することができるので、第2電極層が透明電極である場合に有用である。
【0248】
なお、導電保護層、有機EL層、第1電極層、第2電極層および基板については、上記「A.有機EL素子の製造方法」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0249】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0250】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これら実施例により本発明が制限されるものではない。
【0251】
[実施例1]
(第1色用正孔注入層の成膜)
6インチ□、板厚0.7mmのパターン済みITOガラス基板を洗浄し、基板および第1電極とした。この基板上に下記組成の第1色用正孔注入層形成用塗工液をスピンコーターにより塗布し、150℃、10分間の加熱・乾燥処理を行い、硬化させ、膜厚80nmの透明な第1色用正孔注入層を得た。
<第1色用正孔注入層形成用塗工液の組成>
・脱イオン水 96.7wt%
・PEDOT/PSS(Bayer社製) 3wt%
・オルガノアルコキシシラン(東芝シリコーン(株)社製TSL8350) 0.3wt%
【0252】
(第1色発光層の成膜)
第1色発光層として、第1色用正孔注入層上に下記組成の第1色発光層形成用塗工液をスピンコーターにより塗布し、130℃、10分間の間加熱・乾燥処理を行い、膜厚80nmの発光層を得た。
<第1色発光層形成用塗工液の組成>
・モノクロロベンゼン 97.98wt%
・ポリビニルカルバゾール 1.4wt%
・オキサジアゾール 0.6wt%
・ジシアノメチレンピラン誘導体 0.02wt%
【0253】
(第1色用導電保護層の成膜)
第1色発光層上に、Ca:Ag混合膜(10nm)/Ag(40nm)を真空蒸着法により成膜した。
【0254】
(第1色用フォトレジスト層の成膜)
第1色用導電保護層上に、ポジ型フォトレジスト溶液(東京応化工業(株)社製 OFPR−800)を滴下し、スピンコーターにより塗布し、さらに110℃で5分間プリベイクを行い、膜厚約1.5μmのフォトレジスト層を得た。
【0255】
(第1色発光部パターニング)
その後、アライメント露光機に露光マスクと共に設置し、第1色発光部以外の発光層を除去したい部分に紫外線照射した。レジスト現像液(東京応化工業(株)社製 NMD−3)でレジストを現像後、水洗し、露光部のフォトレジストを除去した。110℃で5分間ポストベイクし、アルゴンガスを用いたプラズマエッチングによりフォトレジスト層が除去された部分の第1色用導電保護層を除去し、さらに酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチングにより第1色用正孔注入層、第1色発光層を除去した。これにより、第1色発光部がパターン状に形成された基板を得た。
【0256】
(第2色用正孔注入層の成膜)
上記により得られた基板上に、第1色用正孔注入層形成用塗工液と同じ組成の第2色用正孔注入層形成用塗工液を同様に滴下し、スピンコートにより塗布し、加熱・乾燥処理を行って硬化させ、膜厚80nmの透明な第2色用正孔注入層を得た。第1色用正孔注入層形成時と第2色用正孔注入層形成時で同じ塗工液を用いたが、第1色用正孔注入層が硬化されているため、第2色用正孔注入層形成用塗工液を塗布しても第1色用正孔注入層が第2色用正孔注入層形成用塗工液に溶出することはなかった。
【0257】
(第2色発光層の成膜)
第2色発光層として、第2色用正孔注入層上に下記組成の第2色発光層形成用塗工液をスピンコーターにより塗布し、130℃、10分間の間加熱・乾燥処理を行い、膜厚80nmの発光層を得た。
<第2色発光層形成用塗工液の組成>
・モノクロロベンゼン 97.98wt%
・ポリビニルカルバゾール 1.4wt%
・オキサジアゾール 0.6wt%
・クマリン誘導体 0.02wt%
【0258】
(第2色用導電保護層の成膜)
第2色発光層上に、Ca:Ag混合膜(10nm)/Ag(40nm)を真空蒸着法により成膜した。
【0259】
(第2色用フォトレジスト層の成膜)
第2色用導電保護層上に、ポジ型フォトレジスト溶液(東京応化工業(株)社製 OFPR−800)を滴下し、スピンコーターにより塗布し、さらに110℃で5分間プリベイクを行い、膜厚約1.5μmのフォトレジスト層を得た。
【0260】
(第2色発光部パターニング)
その後、アライメント露光機に露光マスクと共に設置し、第2色発光部以外の発光層を除去したい部分に紫外線照射した。レジスト現像液(東京応化工業(株)社製 NMD−3)でレジストを現像後、水洗し、露光部のフォトレジストを除去した。110℃で5分間ポストベイクし、アルゴンガスを用いたプラズマエッチングによりフォトレジスト層が除去された部分の第2色用導電保護層を除去し、さらに酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチングにより第2色用正孔注入層、第2色発光層を除去した。これにより、第1色発光部および第2色発光部がパターン状に形成された基板を得た。
【0261】
(第3色用正孔注入層の成膜)
上記により得られた基板上に、第1および第2色用正孔注入層形成用塗工液と同じ組成の第3色用正孔注入層形成用塗工液を同様に滴下し、スピンコートにより塗布し、加熱・乾燥処理を行って硬化させ、膜厚80nmの透明な第3色用正孔注入層を得た。第1および第2色用正孔注入層形成時と第3色用正孔注入層形成時で同じ塗工液を用いたが、第1および第2色用正孔注入層が硬化されているため、第3色用正孔注入層形成用塗工液を塗布しても第1色用正孔注入層および第2色用正孔注入層が第3色用正孔注入層形成用塗工液に溶出することはなかった。
【0262】
(第3色発光層の成膜)
第3色発光層として、第3色用正孔注入層上に下記組成の第3色発光層形成用塗工液をスピンコーターにより塗布し、130℃、10分間の間加熱・乾燥処理を行い、膜厚80nmの発光層を得た。
<第3色発光層形成用塗工液の組成>
・モノクロロベンゼン 97.98wt%
・ポリビニルカルバゾール 1.4wt%
・オキサジアゾール 0.6wt%
・ペリレン誘導体 0.02wt%
【0263】
(第3色用導電保護層の成膜)
第3色発光層上に、Ca:Ag混合膜(10nm)/Ag(40nm)を真空蒸着法により成膜した。
【0264】
(第3色用フォトレジスト層の成膜)
第3色用導電保護層上に、ポジ型フォトレジスト溶液(東京応化工業(株)社製 OFPR−800)を滴下し、スピンコーターにより塗布し、さらに110℃で5分間プリベイクを行い、膜厚約1.5μmのフォトレジスト層を得た。
【0265】
(第3色発光部パターニング)
その後、アライメント露光機に露光マスクと共に設置し、第3色発光部以外の発光層を除去したい部分に紫外線照射した。レジスト現像液(東京応化工業(株)社製 NMD−3)でレジストを現像後、水洗し、露光部のフォトレジストを除去した。110℃で5分間ポストベイクし、アルゴンガスを用いたプラズマエッチングによりフォトレジスト層が除去された部分の第3色用導電保護層を除去し、さらに酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチングにより第3色用正孔注入層、第3色発光層を除去した。これにより、第1色発光部、第2色発光部および第3色発光部がパターン状に形成された基板を得た。
【0266】
(フォトレジスト剥離)
基板をアセトンで洗浄し、フォトレジスト層を除去し、パターニングされた有機EL層を得た。その後、130℃で1時間乾燥させた。
【0267】
(第2電極の形成)
さらに、得られた基板上に第2電極層としてCaを10nm、保護電極としてAgを300nm真空蒸着法により成膜して、有機EL素子を作製した。
【0268】
[実施例2]
第1色用導電保護層、第2色用導電保護層および第3色用導電保護層の成膜において、フッ化リチウムを真空蒸着法で3nm成膜し、また、第2電極としてCa(10nm)/Ag(300nm)を真空蒸着法により成膜した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0269】
[評価]
実施例1および実施例2で作製した有機EL素子において、第1電極(ITO電極)を電源の正極、第2電極(Ag保護電極)を電源の負極に接続し、直流電圧を印加した。その結果、正電圧印加時に第1色、第2色、第3色発光部より発光が確認された。実施例1および実施例2において、各種導電保護層を用いて、発光層を高精細にパターニングした有機EL素子を比較的容易に作製することができた。
【0270】
[実施例3]
実施例1の有機EL素子の性能を簡易的に評価するための有機EL素子を作製した。
(正孔注入層の成膜)
1インチ□、板厚0.7mmのパターン済みITOガラス基板を洗浄し、基板および第1電極とした。この基板上に実施例1で用いた第1色用正孔注入層形成用塗工液と同じ組成の正孔注入層形成用塗工液をスピンコーターにより塗布し、150℃、10分間の加熱・乾燥処理を行い、硬化させ、膜厚80nmの透明な正孔注入層を得た。
【0271】
(発光層の成膜)
発光層として、正孔注入層上に実施例1で用いた第1色発光層形成用塗工液と同じ組成の発光層形成用塗工液をスピンコーターにより塗布し、130℃、10分間の間加熱・乾燥処理を行い、膜厚80nmの発光層を得た。
【0272】
(導電保護層の成膜)
発光層上に、Ca:Ag混合膜(10nm)/Ag(40nm)を真空蒸着法により成膜した。
【0273】
(フォトレジスト層の成膜)
導電保護層上に、ポジ型フォトレジスト溶液(東京応化工業(株)社製 OFPR−800)を滴下し、スピンコーターにより塗布し、さらに110℃で5分間プリベイクを行い、膜厚約1.5μmのフォトレジスト層を得た。
【0274】
(有機EL層パターニング)
その後、アライメント露光機に露光マスクと共に設置し、発光層を除去したい部分に紫外線照射した。レジスト現像液(東京応化工業(株)社製 NMD−3)でレジストを現像後、水洗し、露光部のフォトレジストを除去した。110℃で5分間ポストベイクし、アルゴンガスを用いたプラズマエッチングによりフォトレジスト層が除去された部分の導電保護層を除去し、さらに酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチングにより正孔注入層、発光層を除去した。
【0275】
(フォトレジスト剥離)
基板をアセトンで洗浄し、フォトレジスト層を除去し、パターニングされた有機EL層を得た。その後、130℃で1時間乾燥させた。
【0276】
(第2電極の形成)
さらに、得られた基板上に第2電極層としてCaを10nm、保護電極としてAgを300nmマスク真空蒸着法により成膜して、有機EL素子を作製した。
【0277】
[比較例1]
上記実施例3において、導電保護層の成膜、フォトレジスト層の成膜、有機EL層パターニング、およびフォトレジスト剥離を行わないこと以外は全く同様に、有機EL層がパターニングされていない通常の有機EL素子を作製した。
【0278】
[比較例2]
上記実施例3において、導電保護層の成膜を行わないこと以外は全く同様に有機EL素子を作製した。
【0279】
[評価]
実施例3および比較例1,2の性能比較として、比較例1の値を100としたときの、ある輝度における相対的な効率、輝度半減時間を表に示す。
【0280】
【表1】

【0281】
この結果より、特に寿命に関しては、有機EL層がパターニングされていない通常の素子である比較例1に対して、従来のフォトリソグラフィーによる製造法の素子である比較例2と、本発明による製造法の素子である実施例3とを比較すると、実施例3の方が寿命の特性に優れており、本発明による導電保護層の挿入により大幅に改善されることがわかった。また、効率の極端な低下は起こらなかった。
【0282】
[実施例4]
実施例2の有機EL素子の性能を簡易的に評価するための有機EL素子を作製した。
導電保護層の成膜において、フッ化リチウムを真空蒸着法で3nm成膜し、また、第2電極としてCa(10nm)/Ag(300nm)を真空蒸着法により成膜した以外は、実施例3と同様にして有機EL素子を作製した。
【0283】
[比較例3]
上記実施例4において、導電保護層の成膜、フォトレジスト層の成膜、有機EL層パターニング、およびフォトレジスト剥離を行わないこと以外は全く同様に、有機EL層がパターニングされていない通常の有機EL素子を作製した。
【0284】
[比較例4]
上記実施例4において、導電保護層の成膜を行わないこと以外は全く同様に有機EL素子を作製した。
【0285】
[評価]
実施例4および比較例3,4の性能比較として、比較例3の値を100としたときの、ある輝度における相対的な効率、輝度半減時間を表に示す。
【0286】
【表2】

【0287】
この結果より、特に寿命に関しては、有機EL層がパターニングされていない通常の素子である比較例3に対して従来のフォトリソグラフィーによる製造法の素子である比較例4と、本発明による製造法の素子である実施例4を比較すると、実施例4の方が優れた寿命特性を示し、本発明による導電保護層の挿入により大幅に改善されることがわかった。また、効率の極端な低下は起こらなかった。
【図面の簡単な説明】
【0288】
【図1】本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図3】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図4】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図5】本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0289】
1、21 … 基板
2、22 … 第1電極層
3、23 … 絶縁層
4、4´、24 … 正孔注入層
5、5´、25 … 発光層
6、26 … 有機EL層
7、7´、27 … 導電保護層
8、8´ … フォトレジスト層
9、29 … 第2電極層
10 … 発光領域
20 … 有機EL素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極層が形成された基板上に、少なくとも発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス層を形成する有機エレクトロルミネッセンス層形成工程と、
前記有機エレクトロルミネッセンス層上に、無機導電性材料を含有する導電保護層を形成する導電保護層形成工程と、
前記導電保護層上にフォトレジストを塗布し、フォトレジスト層を形成するフォトレジスト層形成工程と、
前記フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、前記フォトレジスト層をパターニングするフォトレジスト層パターニング工程と、
前記フォトレジスト層が除去された部分の前記導電保護層および前記有機エレクトロルミネッセンス層を除去することにより、前記導電保護層および前記有機エレクトロルミネッセンス層をパターニングする有機エレクトロルミネッセンス層パターニング工程と、
残存する前記フォトレジスト層を剥離する剥離工程と、
前記剥離工程後に露出した前記導電保護層上に第2電極層を形成する第2電極層形成工程と
を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
N色(Nは2以上の整数)の発光層をパターン状に形成する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
第1電極層が形成され、第1色発光層を少なくとも含む第1色目の有機エレクトロルミネッセンス層から第(N−1)色発光層を少なくとも含む第(N−1)色目の有機エレクトロルミネッセンス層までがそれぞれパターン状に形成され、前記各有機エレクトロルミネッセンス層の表面にそれぞれ無機導電性材料を含有する導電保護層およびフォトレジスト層がこの順に積層された基板上に、少なくとも第N色発光層を含む第N色目の有機エレクトロルミネッセンス層を形成する有機エレクトロルミネッセンス層形成工程と、
前記第N色目の有機エレクトロルミネッセンス層上に、無機導電性材料を含有する第N色用導電保護層を形成する導電保護層形成工程と、
前記第N色用導電保護層上にフォトレジストを塗布し、第N色用フォトレジスト層を形成するフォトレジスト層形成工程と、
前記第N色用フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第N色発光領域の前記第N色用フォトレジスト層が残存するように前記第N色用フォトレジスト層をパターニングするフォトレジスト層パターニング工程と、
前記第N色用フォトレジスト層が除去された部分の前記第N色用導電保護層および前記第N色目の有機エレクトロルミネッセンス層を除去することにより、前記第N色用導電保護層および前記第N色目の有機エレクトロルミネッセンス層をパターニングする有機エレクトロルミネッセンス層パターニング工程と、
残存する前記各フォトレジスト層を剥離する剥離工程と、
前記剥離工程後に露出した前記各導電保護層上に第2電極層を形成する第2電極層形成工程と
を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記N色の発光層が3色の発光層であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記各導電保護層形成工程にて、真空蒸着法により、前記各導電保護層を形成することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記第2電極層形成工程にて、スパッタリング法により、前記第2電極層を形成することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記各有機エレクトロルミネッセンス層形成工程が、前記各発光層を含む2層以上の有機層を形成する工程であって、下層形成用塗工液を塗布して、下層の有機層を形成する下層形成工程と、前記下層の有機層上に上層形成用塗工液を塗布して、上層の有機層を形成する上層形成工程とを有しており、前記下層の有機層が前記上層形成用塗工液に含まれる溶媒に対して不溶であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記下層形成用塗工液が硬化性バインダを含有しており、前記下層形成工程にて、前記下層形成用塗工液を塗布して得られる塗膜に硬化処理を行うことを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記下層形成用塗工液が、熱エネルギーまたは放射線の作用により溶解性が変化する材料を含有しており、前記下層形成工程にて、前記下層形成用塗工液を塗布して得られる塗膜に熱エネルギーを付与または放射線を照射して、前記塗膜の溶解性を変化させることを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記各有機エレクトロルミネッセンス層パターニング工程にて、ドライエッチングにより、前記各フォトレジスト層が除去された部分の前記各導電保護層および前記各有機エレクトロルミネッセンス層を除去することを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
基板と、前記基板上に形成された第1電極層と、前記第1電極層上にパターン状に形成され、少なくとも発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス層と、前記有機エレクトロルミネッセンス層上にパターン状に形成され、無機導電性材料を含有する導電保護層と、前記導電保護層上に形成された第2電極層とを有しており、前記有機エレクトロルミネッセンス層のパターン形状と、前記導電保護層のパターン形状とが同一であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記有機エレクトロルミネッセンス層が、前記発光層を含む2層以上の有機層を有しており、隣接する2層の有機層のうち、下層の有機層が硬化性バインダを含有することを特徴とする請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記有機エレクトロルミネッセンス層が、前記発光層を含む2層以上の有機層を有しており、隣接する2層の有機層のうち、下層の有機層が、熱エネルギーまたは放射線の作用により溶解性が変化する材料を含有することを特徴とする請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−251270(P2008−251270A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89118(P2007−89118)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】