説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び該製造方法により製造された有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】湿式法で安定に製造可能であり、高発光効率、長寿命である有機ELエレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に、対となる電極と、発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、少なくとも一層の有機層を湿式製膜により形成する工程と、湿式製膜後に乾燥する工程を有し、
1)該湿式製膜に用いる有機溶媒の含水率が50ppm以下であり、
2)該湿式製膜工程が含水率100ppm以下の常圧雰囲気中で行われ、
3)かつ該湿式製膜工程のウェット膜厚と乾燥工程のドライ膜厚の関係が、
下記式(1)を満たし、
前記有機層における各層のドライ膜厚が、有機発光層において最大である、
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスの製造方法。
式(1) 0.01≦hd/hw≦0.04
ただし、hd:ドライ膜厚(nm)、hw:ウェット膜厚(nm)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式製膜法で形成される発光素子は、三重項励起子を利用する発光素子(燐光発光素子)、一重項励起子を利用する発光素子(蛍光発光素子)の各々の発光形態において、蒸着型素子に比べ発光寿命、保存安定性に劣る。湿式製膜法で形成される発光素子は、安価で大面積が可能という大きなメリットがあるため、発光寿命、保存安定性に優れた発光素子の得られる湿式製膜法が望まれる。
【0003】
発光素子の分野において、蒸着型素子での製造では製造方法自体が昇華という材料の精製方法を兼ねるため、材料の不純物含有量に関し比較的厳しくなかった。一方、湿式型素子の製造では、製造過程に用いられる材料の不純物が素子の不純物として反映されるため、素子性能に影響する不純物を最小限にとどめる必要がある。
【0004】
例えば、塩素系溶媒をカラム処理精製する方法(例えば、特許文献1参照。)、溶媒を脱水、脱酸素して20ppm以下で用いる方法(例えば、特許文献2参照。)、溶媒の沸点以上の沸点を有する物質を0.01%以下とする方法(例えば、特許文献3参照。)、或いはケトン溶媒において、ケトン系不純物を0.01重量%以下とする方法(例えば、特許文献4参照。)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4307793号公報
【特許文献2】特開2005−302516号公報
【特許文献3】特開2007−95516号公報
【特許文献4】特開2008−16297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
湿式法で安定に製造可能であり、高発光効率、長寿命である有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために本発明者は、湿式製膜法による発光素子の製造方法、塗布液および塗布環境に問題を有することを見つけ、前記課題を解決するための手段を見出した。
【0008】
1.基板上に、対となる電極と、該電極間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
少なくとも一層の有機層を湿式製膜により形成する工程と、湿式製膜後に乾燥する工程を有し、
1)該湿式製膜に用いる有機溶媒の含水率が50ppm以下であり、
2)該湿式製膜工程が含水率100ppm以下の常圧雰囲気中で行われ、
3)かつ該湿式製膜工程のウェット膜厚と乾燥工程のドライ膜厚の関係が、
下記式(1)を満たし、
前記有機層における各層のドライ膜厚が、有機発光層において最大である、
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0009】
式(1) 0.01≦hd/hw≦0.04
ただし、hd:ドライ膜厚(nm)、hw:ウェット膜厚(nm)
2.前記有機溶媒の含水率が30ppm以下であることを特徴とする前記1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0010】
3.前記含水率100ppm以下の常圧雰囲気が、窒素、二酸化炭素、不活性ガス気流であることを特徴とする前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0011】
4.前記有機溶媒が、脂肪族エステル溶媒またはアルコール溶媒であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0012】
5.前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、発光層とそれに隣接する電子輸送層とを有し、該発光層が脂肪族エステル溶媒を用いて湿式製膜され、該電子輸送層はアルコール溶媒を用いて湿式製膜されたることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0013】
6.前記湿式製膜した有機層が100℃〜150℃の加熱乾燥の工程を経ることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0014】
7.前記有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層がホスト化合物とりん光発光型ドーパントを含有していることを特徴とする前記1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0015】
8.前記有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層がホスト化合物を2種以上含有することを特徴とする前記1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0016】
9.前記湿式製膜が、ディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法から選ばれるいずれかであることを特徴とする前記1〜8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0017】
10.前記有機溶媒により湿式製膜を行う際に、2種以上の溶媒を混合することを特徴とする前記1〜9のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0018】
11.前記1〜10の何れか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法で製造されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、湿式法に用いる溶液の安定性を増加させ、かつダークスポットの発生や発光ムラという問題を抑制できた均一な発光面をもつ、高効率、長寿命である有機エレクトロルミネッセンス素子、製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、塗布液、塗布環境の水分量および塗布条件を制御することで、湿式法において作製した素子の均一発光性を得る事ができ、効率、寿命を増加し得ることを見出し、本発明に至った。
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明は、発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する発光素子であり、規定されたウェット膜厚、ドライ膜厚の条件下、少なくとも一層を含水量の規定された溶媒、環境で塗布する製造工程である。
【0023】
本発明では湿式製膜に用いる有機溶媒の含水率が50ppm以下であることを特徴とする。更に好ましくは30ppm以下であり、20ppm以下がより好ましい。また湿式製膜工程における常圧雰囲気の含水率は100ppm以下であり、50ppm以下が好ましく、20ppm以下がより好ましい。これよりも水分量が多いと、発光寿命や発光効率の低下、ダークスポットの発生に繋がる。さらに、湿式製膜工程における雰囲気が、窒素、二酸化炭素、不活性ガス気流であることが好ましい。
【0024】
積層の条件として、ドライ膜厚とウェット膜厚の関係は、0.01≦hd/hw≦0.04とすることが必要であり、0.01≦hd/hw≦0.03が好ましい。これよりも低い値は、塗布液に固形分に対し水分量が相対的に多い事を意味しており、寿命劣化につながる。またこれよりも高い値では発光ムラが酷くなる。本発明の乾燥膜厚とウェット膜厚の比(hd/hw)を特定の範囲とすることにより均一な薄膜塗布が可能となり、得られる有機EL素子の発光が均一で、優れた性能を示すことを見いだしたものである。
【0025】
塗布液の溶媒は、溶解性、積層性の観点から脂肪族エステル溶媒またはアルコール溶媒であることが好ましい。脂肪族エステル溶媒は、例えば、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酪酸メチル、酪酸ブチル等を挙げることができる。アルコール溶媒は、例えば、含フッ素アルコールであるトリフルオロエタノール、テトラフルオロプロパノール(TFPO)、ペンタフルオロプロパノール等を挙げることができる。これらの溶媒は乾燥速度や溶解性の調整のため混合で用いることができる。前記有機溶媒は、シリカゲル、アルミナ、イオン交換樹脂から選ばれる少なくとも1種を充填剤として用いたカラムによって精製処理をされていることが好ましい。
【0026】
発光材料はりん光材料が効率の観点から望ましい。不安定な三重項状態を経るりん光では、蛍光材料を用いた時よりも不純物の影響を著しく受けるため、本発明の有効性がより顕著となる。
【0027】
本発明においては、湿式製膜した有機層が加熱乾燥の工程を経ることが好ましい。加熱乾燥の温度は、80〜200℃であることが好ましく、100℃〜150℃であることがより好ましい。加熱乾燥の時間は、5〜250分であることが好ましく、20〜150分であることがより好ましい。加熱乾燥の工程は、有機層を湿式製膜した後であればよく、複数の有機層や無機層の成膜後であってもよいが、湿式製膜後の有機層上に、次の有機層や無機層を積層する前に行うことが好ましい。
【0028】
湿式製膜方法に特に制限はないが、好ましくはスピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法、ダイコート法、スプレー法、ディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法、さらに好ましくは、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法、最も好ましくはディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法等の湿式流延塗布法による成膜が好ましい。
【0029】
本発明では、有機層における各層のドライ膜厚が、有機発光層において最大であることが望ましい。発光層の厚膜化により再結合領域が拡大するため、駆動変動による発光位置のずれが発生しても発光層内での発光が可能となり、長寿命となることが期待される。しかし湿式製膜法では厚膜化することにより溶媒からの発光層への不純物持ち込み量が増加してしまうため、不純物が多い条件下では発光層厚膜化の効果が発現しにくい。本発明では持ち込み水分量が抑えられるため、発光層厚膜化との組み合わせで長寿命化が達成できる。また、低含水率溶媒との組み合わせで、発光層厚膜化による電圧上昇をさらに抑制でき、高効率化も達成できる。
【0030】
以下に本発明の有機EL素子の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0031】
《有機エレクトロルミネッセンス素子の構成層》
本発明において、有機層とは、陽極と陰極との間に設けられている有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELともいう)を構成する各層をいう。有機層には、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、発光層、電子輸送層、電子注入層、正孔ブロック層等が含まれる。以下、本発明に係る有機ELの好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0032】
(i)可撓性支持基板/陽極/発光層/電子輸送層/陽極/熱伝導層/封止用接着剤/封止部材
(ii)可撓性支持基板/陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陽極/熱伝導層/封止用接着剤/封止部材
(iii)可撓性支持基板/陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陽極/熱伝導層/封止用接着剤/封止部材
(iv)可撓性支持基板/陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陽極/熱伝導層/封止用接着剤/封止部材
(v)可撓性支持基板/陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陽極/熱伝導層/封止用接着剤/封止部材
(vi)ガラス支持体/陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極/封止部材
(vii)ガラス支持体/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極/封止部材
(viii)ガラス支持体/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極/封止部材。
【0033】
《注入層:正孔注入層、電子注入層》
本発明の有機EL素子においては、注入層は必要に応じて設けることができる。注入層としては電子注入層と正孔注入層があり、上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
【0034】
本発明でいう注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層で、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層と電子注入層とがある。
【0035】
正孔注入層は、例えば、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、正孔注入層に適用可能な正孔注入材料としては、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体等を含むポリマーやアニリン系共重合体、ポリアリールアルカン誘導体、または導電性ポリマーが挙げられ、好ましくはポリチオフェン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体であり、さらに好ましくはポリチオフェン誘導体である。上記正孔注入層の膜厚は0.1nm〜5μm程度、好ましくは0.1〜100nm、さらに好ましくは1〜100nm、最も好ましくは10〜60nmである。
【0036】
電子注入層は、例えば、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的には、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。本発明においては、上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、フッ化カリウム、フッ化ナトリウムが好ましく、前記バッファー材料は単独、混合または複数種を積層で用いることができる。上記バッファー層の膜厚は0.1nm〜5μm程度、好ましくは0.1〜100nm、さらに好ましくは0.5〜10nm、最も好ましくは0.5〜4nmである。
【0037】
《正孔輸送層》
正孔輸送層を構成する正孔輸送材料としては、上記正孔注入層で適用するのと同様の化合物を使用することができるが、さらには、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0038】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、さらには、米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0039】
さらに、これらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0040】
また、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、特開2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)、特表2003−519432号公報に記載されているような、いわゆるp型半導体的性質を有するとされる正孔輸送材料を用いることもできる。
【0041】
正孔輸送層は、上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法、ダイコート法、スプレー法、ディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法等により、さらに好ましくは、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法、最も好ましくはディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法等の湿式流延塗布法による成膜が好ましい。正孔輸送層の膜厚については、特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nm、更に好ましくは5〜50nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0042】
以下、本発明の有機EL素子の正孔輸送材料に用いられる化合物の好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0043】
【化1】

【0044】
【化2】

【0045】
【化3】

【0046】
【化4】

【0047】
【化5】

【0048】
【化6】

【0049】
なお、上記例示化合物に記載のnは重合度を表し、重量平均分子量が50,000〜200,000の範囲となる整数であることが好ましい。重量平均分子量がこの範囲とすることにより、溶媒への適度な溶解性の高さから製膜時に他の層と混合を抑えることができる。
【0050】
これらの高分子化合物は、Makromol.Chem.,193,909頁(1992)等に記載の公知の方法で合成することができる。
【0051】
《電子輸送層》
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0052】
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、フルオレン誘導体、カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリゾール誘導体、シロール誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、8−キノリノール誘導体等の金属錯体等が挙げられる。
【0053】
その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。
【0054】
これらの中でもカルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、ピリジン誘導体等が本発明では好ましく、カルバゾール誘導体であって本発明に係るジベンゾフラン化合物であることがより好ましい。
【0055】
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法、ダイコート法、スプレー法、ディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法等により、さらに好ましくは、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法、最も好ましくはディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法等の湿式流延塗布法による成膜が好ましい。湿式法に用いる溶媒としてはアルコール溶媒が好ましく、更に好ましくは含フッ素アルコールであり、最も好ましくはトリフルオロエタノール、テトラフルオロプロパノール(TFPO)、ペンタフルオロプロパノール、の中から選ばれる少なくとも一種以上の溶媒である。電子輸送層塗布溶媒は、材料の溶解性、乾燥速度改良による製膜性増加の観点から混合して用いることもできる。
【0056】
前記有機溶媒の含水率は50ppm以下が好ましく、さらに好ましくは30ppm以下である。前記湿式法による塗布を行う際は、環境の湿度が100ppm以下であることが好ましい。前記湿式法を行う際のウェット膜厚hwとドライ膜厚hdの関係は0.01≦hd/hw≦0.04が好ましく、更に好ましくは0.01≦hd/hw≦0.03である。
【0057】
電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nm、更に好ましくは5〜100nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0058】
また、不純物をゲスト材料としてドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、同10−270172号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0059】
本発明における電子輸送層には、有機物のアルカリ金属塩を含有することが好ましい。有機物の種類としては特に制限はないが、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸、酪酸塩、吉草酸塩、カプロン酸塩、エナント酸塩、カプリル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩、イソフタル酸塩、テレフタル酸塩、サリチル酸塩、ピルビン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、アジピン酸塩、メシル酸塩、トシル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩が挙げられ、好ましくはギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、カプロン酸塩、エナント酸塩、カプリル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、より好ましくはギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩等の脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩が好ましく、脂肪族カルボン酸の炭素数が4以下であることが好ましい。最も好ましくは酢酸塩である。
【0060】
有機物のアルカリ金属塩のアルカリ金属の種類としては特に制限はないが、Na、K、Csが挙げられ、好ましくはK、Cs、さらに好ましくはCsである。有機物のアルカリ金属塩としては、前記有機物とアルカリ金属の組み合わせが挙げられ、好ましくは、ギ酸Li、ギ酸K、ギ酸Na、ギ酸Cs、酢酸Li、酢酸K、酢酸Na、酢酸Cs、プロピオン酸Li、プロピオン酸Na、プロピオン酸K、プロピオン酸Cs、シュウ酸Li、シュウ酸Na、シュウ酸K、シュウ酸Cs、マロン酸Li、マロン酸Na、マロン酸K、マロン酸Cs、コハク酸Li、コハク酸Na、コハク酸K、コハク酸Cs、安息香酸Li、安息香酸Na、安息香酸K、安息香酸Cs、より好ましくは酢酸Li、酢酸K、酢酸Na、酢酸Cs、最も好ましくは酢酸Csである。
【0061】
これらドープ材の含有量は、添加する電子輸送層に対し、好ましくは1.5〜35質量%であり、より好ましくは3〜25質量%であり、最も好ましくは5〜15質量%である。
【0062】
《発光層》
本発明の有機EL素子を構成する発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
【0063】
本発明に係る発光層は、含まれる発光材料が前記要件を満たしていれば、その構成には特に制限はない。
【0064】
また、同一の発光スペクトルや発光極大波長を有する層が複数層あってもよい。各発光層間には非発光性の中間層を有していることが好ましい。
【0065】
本発明における発光層の膜厚の総和は40nm以上あることが好ましく、さらに好ましくは、より低い駆動電圧を得ることができることから45〜120nm、最も好ましくは50〜80nmである。なお、本発明でいう発光層の膜厚の総和とは、発光層間に非発光性の中間層が存在する場合には、当該中間層も含む膜厚である。
【0066】
個々の発光層の膜厚としては1〜80nmの範囲に調整することが好ましい。青、緑、赤の各発光層の膜厚の関係については、特に制限はない。
【0067】
発光層は、各有機層膜において最も厚い事が好ましい。有機層の全膜厚と発光層の膜厚の関係は、0.27<(発光層の膜厚/有機層の全膜厚)<0.9が好ましく、0.3<(発光層の膜厚/有機層の全膜厚)<0.6が更に好ましい。
【0068】
発光層の作製には、後述する発光材料やホスト化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法、ダイコート法、スプレー法、ディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法等により、さらに好ましくは、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法、最も好ましくはディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法等の湿式流延塗布法による成膜が好ましい。前記湿式法に用いる溶媒として好ましくは脂肪族エステル溶媒であり、更に好ましくは酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酪酸メチル、酪酸ブチル、の中から選ばれる少なくとも一種以上の溶媒である。前記溶媒は、本発明のhd/hwの関係を満たす溶解性を得、かつ乾燥速度の最適化による塗布ムラ改善のために混合溶媒にして用いることもできる。
【0069】
前記有機溶媒の含水率は50ppm以下が好ましく、さらに好ましくは30ppm以下である。前記湿式法による塗布を行う際は、常圧雰囲気で環境の湿度が100ppm以下であることが好ましい。前記湿式法を行う際のウェット膜厚hwとドライ膜厚hdの関係は0.01≦hd/hw≦0.04が好ましく、更に好ましくは0.01≦hd/hw≦0.03である。
【0070】
本発明においては、各発光層には複数の発光材料を混合してもよく、また燐光発光材料と蛍光発光材料を同一発光層中に混合して用いてもよい。
【0071】
本発明においては、発光層の構成として、ホスト化合物、発光材料(発光ドーパント化合物ともいう)を含有し、発光材料より発光させることが好ましい。
【0072】
後述する発光材料を複数種用いることで異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
【0073】
本発明の有機EL素子の発光層に含有されるホスト化合物としては、室温(25℃)における燐光発光の燐光量子収率が0.1未満の化合物が好ましい。さらに好ましくは燐光量子収率が0.01未満である。また、発光層に含有される化合物の中で、その層中での体積比が50%以上であることが好ましい。
【0074】
ホスト化合物としては、公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、または複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。またホスト材料を複数種混合することでホスト材料の結晶化による析出が起こりにくくなるため、本発明のhd/hwの関係を満たす塗布溶液の溶解安定性が増加し、塗布工程に適した溶液とすることができる。
【0075】
混合するホストに制限はないが、下記一般式(A)で示されるジベンゾフラン化合物の混合が望ましい。
【0076】
【化7】

【0077】
式中、R〜Rは、各々水素原子、アルキル基、アリール基、カルバゾリル基またはアザカルバゾリル基を表し、複数ある場合は異なるものを表していてもよく、また任意の置換基を有していてもよい。
【0078】
以下、一般式(A)として用いられる化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0079】
【化8】

【0080】
【化9】

【0081】
【化10】

【0082】
【化11】

【0083】
【化12】

【0084】
【化13】

【0085】
【化14】

【0086】
【化15】

【0087】
【化16】

【0088】
【化17】

【0089】
【化18】

【0090】
【化19】

【0091】
【化20】

【0092】
本発明に用いられるホスト化合物としては、従来公知の低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもよい。
【0093】
公知のホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS−K−7121に準拠した方法により求められる値である。
【0094】
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。例えば、特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等が挙げられる。
【0095】
本発明に用いられるホスト化合物は、カルバゾール誘導体であることが好ましく、カルバゾール誘導体であって、前記一般式(A)で示されるジベンゾフラン化合物であることがより好ましい。
【0096】
次に、発光材料について説明する。
【0097】
本発明に係る発光材料としては、蛍光性化合物、燐光発光材料(燐光性化合物、燐光発光性化合物等ともいう)を用いることができるが、燐光発光材料であることが好ましい。
【0098】
本発明において、燐光発光材料とは励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には室温(25℃)にて燐光発光する化合物であり、燐光量子収率が25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましい燐光量子収率は0.1以上である。
【0099】
上記燐光量子収率は第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中での燐光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明において燐光発光材料を用いる場合、任意の溶媒のいずれかにおいて上記燐光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
【0100】
燐光発光材料の発光原理としては2種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーを燐光発光材料に移動させることで燐光発光材料からの発光を得るというエネルギー移動型、もう一つは燐光発光材料がキャリアトラップとなり、燐光発光材料上でキャリアの再結合が起こり燐光発光材料からの発光が得られるというキャリアトラップ型であるが、いずれの場合においても、燐光発光材料の励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
【0101】
燐光発光材料は、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができるが、好ましくは元素の周期表で8〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0102】
以下に、リン光ドーパントとして用いられる化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。これらの化合物は、例えば、Inorg.Chem.,40巻、1704〜1711に記載の方法等により合成できる。
【0103】
【化21】

【0104】
【化22】

【0105】
【化23】

【0106】
【化24】

【0107】
【化25】

【0108】
【化26】

【0109】
【化27】

【0110】
【化28】

【0111】
【化29】

【0112】
【化30】

【0113】
【化31】

【0114】
【化32】

【0115】
【化33】

【0116】
【化34】

【0117】
【化35】

【0118】
【化36】

【0119】
【化37】

【0120】
【化38】

【0121】
《陽極》
有機EL素子を構成する陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状パターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合(100μm以上程度)は、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常は、10〜1000nmの範囲であり、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0122】
《陰極》
一方、陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0123】
また、陰極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に形成することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する有機EL素子を作製することができる。
【0124】
《支持基板》
本発明の有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等ともいう)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。リジットな基板よりもフレキシブルな基板において、高温保存安定性や色度変動を抑制する効果が大きく現れるため、特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な可撓性を備えた樹脂フィルムである。
【0125】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)あるいはアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
【0126】
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/(m・24h)以下のバリア性フィルムであることが好ましく、さらには、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定した酸素透過度が、10−3cm/(m・24h・atm)以下、水蒸気透過度が10−3g/(m・24h)以下の高バリア性フィルムであることが好ましく、前記の水蒸気透過度が10−5g/(m・24h)以下であることがさらに好ましい。
【0127】
バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素等の有機EL素子の劣化を招く因子の浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。さらに該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0128】
バリア膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0129】
不透明な支持基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
【0130】
本発明の有機EL素子において、発光の室温における外部取り出し効率は、1%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上である。
【0131】
ここに、
外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100
である。
【0132】
《封止》
本発明の有機EL素子に適用可能な封止手段としては、例えば、封止部材と電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。
【0133】
封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されておればよく、凹板状でも平板状でもよい。また透明性、電気絶縁性は特に問わない。
【0134】
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコーン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属または合金からなるものが挙げられる。
【0135】
本発明においては、素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。さらには、ポリマーフィルムは、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10−3cm/(m・24h・atm)以下、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が1×10−3g/(m・24h)以下のものであることが好ましい。
【0136】
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
【0137】
接着剤としては、具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
【0138】
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0139】
また、有機層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に該電極と有機層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。さらに該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0140】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相を形成することを目的として、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0141】
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0142】
封止にはケーシングタイプの封止(缶封止)と密着タイプの封止(固体封止)があるが、薄型化の観点からは固体封止が好ましい。また、可撓性の有機EL素子を作製する場合は、封止部材にも可撓性が求められるため、固体封止が好ましい。
【0143】
以下に、固体封止を行う場合の好ましい態様を説明する。
【0144】
本発明に係る封止用接着剤には、熱硬化接着剤や紫外線硬化樹脂などを用いることができるが、好ましくはエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂など熱硬化接着剤、より好ましくは耐湿性、耐水性に優れ、硬化時の収縮が少ないエポキシ系熱硬化型接着性樹脂である。
【0145】
本発明に係る封止用接着剤の含水率は、300ppm以下であることが好ましく、0.01〜200ppmであることがより好ましく、0.01〜100ppmであることが最も好ましい。
【0146】
本発明でいう含水率は、いかなる方法により測定しても構わないが、例えば容量法水分計(カールフィッシャ−)、赤外水分計、マイクロ波透過型水分計、加熱乾燥重量法、GC/MS、IR、DSC(示差走査熱量計)、TDS(昇温脱離分析)が挙げられる。また、精密水分計AVM−3000型(オムニテック社製)等を用い、水分の蒸発によって生じる圧力上昇から水分を測定でき、フィルムまた固形フィルム等の水分率の測定を行うことができる。
【0147】
本発明おいて、封止用接着剤の含水率は、例えば、露点温度が−80℃以下、酸素濃度0.8ppmの窒素雰囲気下に置き時間を変化させることで調整することが出来る。また、100Pa以下の真空状態で置き時間を変化させて乾燥させることもできる。また、封止用接着材は接着剤のみで乾燥させることも出来るが、封止部材へ予め配置し乾燥させることも出来る。
【0148】
密着封止(固体封止)を行う場合、封止部材としては、例えば、50μm厚のPET(ポリエチレンテレフタレート)にアルミ箔(30μm厚)をラミネートしたものを用いる。これを封止部材として、アルミニウム面にディスペンサを使用して均一に塗布し封止用接着剤を予め配置しておき、樹脂基板1と封止部材5を位置合わせ後、両者を圧着して(0.1〜3MPa)、温度80〜180℃で密着・接合(接着)して、密着封止(固体封止)する。
【0149】
接着剤の種類また量、そして面積等によって加熱また圧着時間は変わるが0.1〜3MPaの圧力で仮接着、また80〜180℃の温度で、熱硬化時間は5秒〜10分間の範囲で選べばよい。
【0150】
加熱した圧着ロールを用いると圧着(仮接着)と加熱が同時にでき、且つ内部の空隙も同時に排除でき好ましい。
【0151】
また、接着層の形成方法としては、材料に応じて、ディスペンサを用い、ロールコート、スピンコート、スクリーン印刷法、スプレーコートなどのコーティング法、印刷法を用いることができる。
【0152】
固体封止は以上のように封止部材と有機EL素子基板との間に空間がなく硬化した樹脂で覆う形態である。封止部材としては、ステンレス、アルミニウム、マグネシウム合金等の金属、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ナイロン、ポリ塩化ビニル等のプラスチック、およびこれらの複合物、ガラス等が挙げられ、必要に応じて、特に樹脂フィルムの場合には、樹脂基板と同様、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素等のガスバリア層を積層したものを用いることができる。ガスバリア層は、封止部材成形前に封止部材の両面若しくは片面にスパッタリング、蒸着等により形成することもできるし、封止後に封止部材の両面若しくは片面に同様な方法で形成してもよい。これについても、酸素透過度が1×10−3ml/(m・24h・atm)以下、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m・24h)以下のものであることが好ましい。
【0153】
封止部材としては、アルミニウム等の金属箔をラミネートしたフィルム等でも良い。金属箔の片面にポリマーフィルムを積層する方法としては、一般に使用されているラミネート機を使用することができる。接着剤としてはポリウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系、アクリル系等の接着剤を用いることができる。必要に応じて硬化剤を併用してもよい。ホットメルトラミネーション法やエクストルージョンラミネート法および共押出しラミネーション法も使用できるがドライラミネート方式が好ましい。
【0154】
また、金属箔をスパッタや蒸着等で形成し、導電性ペースト等の流動性電極材料から形成する場合は、逆にポリマーフィルムを基材としてこれに金属箔を成膜する方法で作成してもよい。
【0155】
《保護膜、保護板》
有機層を挟み支持基板と対向する側の封止膜、あるいは封止用フィルムの外側に、有機EL素子の機械的強度を高めるため、保護膜あるいは保護板を設けてもよい。特に、封止が封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0156】
本発明において、可撓性支持基板から陽極との間、あるいは可撓性支持基板から光出射側の何れかの場所に光取出し部材を有することが好ましい。
【0157】
光取出し部材としては、プリズムシートやレンズシートおよび拡散シートが挙げられる。また、全反射を起こす界面もしくはいずれかの媒質中に導入される回折格子や拡散構造等が挙げられる。
【0158】
通常、基板から光を放射するような有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光層から放射された光の一部が基板と空気との界面において全反射を起こし、光を損失するという問題が発生する。この問題を解決するために、基板の表面にプリズムやレンズ状の加工を施す、もしくは基板の表面にプリズムシートやレンズシートおよび拡散シートを貼り付けることにより、全反射を抑制して光の取り出し効率を向上させる。
【0159】
また、光取り出し効率を高めるためには、全反射を起こす界面もしくはいずれかの媒質中に回折格子を導入する方法や拡散構造を導入する方法が知られている。
【0160】
《用途》
本発明の有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。発光光源として、例えば、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源、さらには表示装置を必要とする一般の家庭用電気器具等広い範囲の用途が挙げられるが、特にカラーフィルターと組み合わせた液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
【0161】
本発明の有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよく、素子の作製においては、従来公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0162】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0163】
実施例1
《有機EL素子の作製》
〔有機EL素子101の作製〕
(ガスバリア性の可撓性フィルムの作製)
可撓性フィルムとして、ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン社製フィルム、以下、PENと略記する)の第1電極を形成する側の全面に、特開2004−68143号に記載の構成からなる大気圧プラズマ放電処理装置を用いて、連続して可撓性フィルム上に、SiO(xは2以下)からなる無機物のガスバリア膜を厚さ500nmとなるように形成し、酸素透過度0.001ml/m/day以下、水蒸気透過度0.001g/m/day以下のガスバリア性の可撓性フィルムを作製した。
【0164】
(第1電極層の形成)
準備したガスバリア性の可撓性フィルム上に厚さ120nmのITO(インジウムチンオキシド)をスパッタ法により成膜し、フォトリソグラフィー法によりパターニングを行い、第1電極層を形成した。なお、パターンは発光面積が50mm平方になるようなパターンとした。
【0165】
(正孔注入層の形成)
パターニング後のITO基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。この基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(表1にはPEDOT/PSSと略記、Bayer製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液をスリットコート法により製膜した後、140℃にて1時間乾燥し、膜厚50nmの正孔注入層を設けた。
【0166】
(正孔輸送層の形成)
この基板を、窒素ガス(グレードG1)を用いて含水率10ppmに調整した窒素雰囲気下に移し、前記正孔輸送材料である例示化合物(9)(平均Mw=80,000)をクロロベンゼンに0.5%溶解した溶液をスリットコート法により製膜した後、140℃で30分間保持し、膜厚20nmの正孔輸送層とした。
【0167】
(発光層の形成)
次いで、例示化合物A−4、A−67、例示化合物D−66、例示化合物D−67、例示化合物D−80の合計固形分濃度が1.4%となるように酢酸イソプロピル(含水率10ppm)で溶解した。前記溶液をhw5.0μmとなる条件下スリットコート法により製膜した後、120℃で30分間保持し膜厚70nmの発光層を形成した。
【0168】
(電子輸送層の形成)
発光層形成時と同じ雰囲気含水率を保ち、続いて、例示化合物A−77と酢酸Csを、合計固形分濃度が1.1%となるようテトラフルオロプロパノール(TFPO、含水率10ppm)に溶解した。前記TFPO溶液をhw3.5μmとなる条件下スリットコート法により製膜した後、120℃で30分間保持し、膜厚40nmの電子輸送層とした。
【0169】
(電子注入層、陰極の形成)
続いて、基板を大気に曝露することなく真空蒸着装置へ取り付けた。また、モリブデン製抵抗加熱ボートにフッ化ナトリウムおよびフッ化カリウムを入れたものを真空蒸着装置に取り付け、真空槽を4×10−5Paまで減圧した後、前記ボートに通電して加熱してフッ化ナトリウムを0.02nm/秒で前記電子輸送層上に膜厚1nmの薄膜を形成し、続けて同様にフッ化カリウムを0.02nm/秒でフッ化ナトリウム上に膜厚1.5nmの電子注入層を形成した。引き続き、アルミニウム100nmを蒸着して陰極を形成した。
【0170】
(封止及び有機EL素子の作製)
引き続き、市販のロールラミネート装置を用いて封止部材を接着し、有機EL素子101を製作した。
【0171】
なお、封止部材として、可撓性の厚み30μmのアルミニウム箔(東洋アルミニウム株式会社製)に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(12μm厚)をドライラミネーション用の接着剤(2液反応型のウレタン系接着剤)を用いラミネートした(接着剤層の厚み1.5μm)ものを用いた。
【0172】
アルミニウム面に封止用接着剤として、熱硬化性接着剤を、ディスペンサを使用してアルミ箔の接着面(つや面)に沿って厚み20μmで均一に塗布した。これを100Pa以下の真空下で12時間乾燥させた。さらに露点温度が−80℃以下、酸素濃度0.8ppmの窒素雰囲気下へ移動し、12時間以上乾燥させ、封止用接着剤の含水率を100ppm以下となるように調整した。
【0173】
熱硬化接着剤としては下記の(A)〜(C)を混合したエポキシ系接着剤を用いた。
【0174】
(A)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)
(B)ジシアンジアミド(DICY)
(C)エポキシアダクト系硬化促進剤
以上のようにして、図1に記載の形態になるよう、封止基板を、取り出し電極がおよび電極リードの接合部を覆うようにして密着・配置して、圧着ロールを用いて厚着条件、圧着ロール温度120℃、圧力0.5MPa、装置速度0.3m/minで密着封止して、有機EL素子101を作製した。
【0175】
図1において、ELは有機EL素子を表し、1は可撓性基板、2は陽極、3はジベンゾフラン化合物及びクラウンエーテル化合物を含有する電子輸送層を含む有機層、4は陽極、5は可撓性封止部材で、6は封止用接着剤を表す。
【0176】
〔有機EL素子102〜108の作製〕
上記有機EL素子101の作製において、発光層の形成に用いる溶媒の含水率と雰囲気の含水率、hwの条件を表1に記載の組み合わせに変更し、かつ、電子輸送層の形成をhw4.5μmとなる条件下スリットコート法により製膜した後、120℃で30分間保持し、膜厚40nmの電子輸送層とした以外は同様にして、有機EL素子102〜108を作製した。
【0177】
〔有機EL素子112〜118の作製〕
上記有機EL素子101の作製において、発光層の形成をhw6.0μmとなる条件下スリットコート法により製膜した後、120℃で30分間保持し、膜厚50nmの発光層とし、かつ、電子輸送層の形成に用いる溶媒の含水率と雰囲気の含水率、hwの条件を表2に記載の組み合わせに変更した以外は同様にして、有機EL素子112〜118を作製した。
【0178】
《有機EL素子の評価》
上記作製した有機EL素子101〜108、及び112〜118について、下記の各評価を行った。
【0179】
(電力効率の測定)
各有機EL素子を室温(約23〜25℃)、1,000cd/mの定輝度条件下による点灯を行い、分光放射輝度計CS−2000(コニカミノルタセンシング社製)を用いて、各有機EL素子の発光輝度を測定し、発光輝度1000cd/mにおける電力効率を求めた。表1及び表2には、有機EL素子101の結果を100とした時の相対値を示す。
【0180】
(連続駆動安定性の評価)
各有機EL素子を半径5cmの円柱に巻きつけ、有機EL素子を折り曲げた状態で連続駆動し、分光放射輝度計CS−2000(コニカミノルタセンシング社製)を用いて測定した輝度が半減する時間(LT50)を求めた。駆動条件は、連続駆動開始時に4000cd/mとなる電流値とした。表1及び表2には、有機EL素子101の結果を100とした時の相対値を示す。
【0181】
(黒点)
黒点は、各EL素子を発光させた状態でマイクロスコープ(株式会社モリテックス製MS−804、レンズA−1468)で観察し、1mm当たりの数を目視で計測し、下記要領で評価した。
【0182】
◎:発生数0個/mm(黒点の発生が全くない。)
○:発生数0個より多く2個未満/mm
△:発生数2個以上〜5個未満/mm
×:発生数5個以上/mm
(発光ムラ)
直流電源(株式会社テクシオ製直流安定化電源PA13−B)を用いて、素子を発光させて、マイクロスコープを用いて発光面の観察を行い、発光面の発光ムラを下記のように目視評価した。
【0183】
◎:ムラがなく問題がないレベル
○:僅かにムラが見られるが使用上は問題がないレベル
×:ムラの発生が大きく、使用上問題となるレベル
【0184】
【表1】

【0185】
【表2】

【0186】
表1、2から明らかなように、発光層、電子輸送層塗布溶媒の含水率、雰囲気含水率が本発明の範囲にある素子は、電力効率、LT50が比較例に対して優れている。またドライ膜厚、ウェット膜厚の関係を規定することで黒点や発光ムラが抑えられた、発光性の均一な素子を得られることが明らかである。
【0187】
実施例2
《有機EL素子の作製》
〔有機EL素子201〜205の作製〕
前記有機EL素子101の作製において、発光層の溶媒を、含水率10ppmである表3に記載の溶媒に変更した以外は同様にして、有機EL素子201〜205を作製した。
【0188】
【表3】

【0189】
〔有機EL素子211〜214の作製〕
前記有機EL素子101の作製において、電子輸送層の溶媒を、含水率10ppmである表4に記載の溶媒に変更した以外は同様にして、有機EL素子211〜214を作製した。
【0190】
【表4】

【0191】
表3及び表4から本発明の条件下では、発光層に脂肪族エステル溶媒、電子輸送層にアルコール溶媒を用いると、発光ムラがより低減されることが明らかである。
【0192】
実施例3
《有機EL素子の作製》
〔有機EL素子301〜306の作製〕
前記有機EL素子101の作製において、発光層、電子輸送層の加熱乾燥の温度を、表5に記載の組み合わせに変更した以外は同様にして、有機EL素子301〜306を作製した。電力効率、LT50は、有機EL素子301の性能を100とした時の相対値で示す。
【0193】
【表5】

【0194】
表5から明らかな通り、加熱乾燥の温度が低い条件では、黒点が増加する。また、加熱乾燥の温度が高すぎると、発光ムラを生じ、電力効率が低下する。本発明に係る加熱乾燥の温度の範囲では優位な性能を示すことが明らかである。また有機EL素子302から明らかなように、塗布直後でなくとも、塗布後のいずれかの段階で本発明に係る加熱乾燥をすればよい。
【0195】
実施例4
《塗布溶媒の溶液安定性》
(実験番号401)
ホストとして例示化合物A−4、ドーパントとして例示化合物D−66、例示化合物D−67、例示化合物D−80の合計固形分濃度が1.4%となるように酢酸イソプロピル(含水率10ppm)で溶解した後、容器を移し替えるショックを与えた液の72時間経過後の溶液安定性を目視で下記のように評価した。
【0196】
○:析出無
×:析出有
(実験番号402〜405)
上記実験番号401の作製において、ホストを表6に記載の通りに変更した以外は同様に作製を行い、実験番号402〜405を得た。
【0197】
【表6】

【0198】
表6から明らかな通り、ホストを混合することで溶液の安定性が増加する。湿式製造の工程では液が長時間安定していることが好ましく、ホストを混合することでより工程に適した液の調整が可能となる。液の安定性を増加させる方法として、実験番号402の作製において、溶媒を酢酸イソプロピルと酢酸nプロピルの混合溶媒に変えた以外は同様に作製したサンプルも72時間の溶液安定性が得られることを確認している。
【0199】
実施例5
《有機EL素子の作製》
〔有機EL素子501〜506の作製〕
前記有機EL素子101の作製において、A−4:A−67=1:9の割合で使用し、発光層の水分量、膜厚を表7の通りに変更した以外は同様にして有機EL素子501〜506の作製を行った。
【0200】
【表7】

【0201】
表7から明らかな通り、含水量が低いと膜厚増加に伴う電圧の増加が抑えられ、電力効率の低下の少ない状態で寿命を大幅に増加することができる。また発光層中のトータル水分量も抑えられるため、黒点の発生も抑制できることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、対となる電極と、該電極間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
少なくとも一層の有機層を湿式製膜により形成する工程と、湿式製膜後に乾燥する工程を有し、
1)該湿式製膜に用いる有機溶媒の含水率が50ppm以下であり、
2)該湿式製膜工程が含水率100ppm以下の常圧雰囲気中で行われ、
3)かつ該湿式製膜工程のウェット膜厚と乾燥工程のドライ膜厚の関係が、
下記式(1)を満たし、
前記有機層における各層のドライ膜厚が、有機発光層において最大である、
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
式(1) 0.01≦hd/hw≦0.04
ただし、hd:ドライ膜厚(nm)、hw:ウェット膜厚(nm)
【請求項2】
前記有機溶媒の含水率が30ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記含水率100ppm以下の常圧雰囲気が、窒素、二酸化炭素、不活性ガス気流であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、脂肪族エステル溶媒またはアルコール溶媒であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、発光層とそれに隣接する電子輸送層とを有し、該発光層が脂肪族エステル溶媒を用いて湿式製膜され、該電子輸送層はアルコール溶媒を用いて湿式製膜されたることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記湿式製膜した有機層が100℃〜150℃の加熱乾燥の工程を経ることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層がホスト化合物とりん光発光型ドーパントを含有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層がホスト化合物を2種以上含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記湿式製膜が、ディップコート法、ブレード法、及びスリットコート法から選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
前記有機溶媒により湿式製膜を行う際に、2種以上の溶媒を混合することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法で製造されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【公開番号】特開2012−89398(P2012−89398A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236241(P2010−236241)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】