説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】本発明は、フォトリソグラフィー法を用いて有機EL層をパターニングする有機EL素子の製造方法であって、寿命特性に優れる有機EL素子の製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、フォトリソグラフィー法を用いて有機EL層のパターニングを行う際に、有機EL層、保護層およびフォトレジスト層をこの順に積層し、パターニング後にフォトレジスト層および保護層の順に剥離することにより、上記目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィー法を用いた有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンスをELと略す場合がある。)素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EL素子は、対向する2つの電極から注入された正孔および電子が発光層内で結合し、そのエネルギーで発光層中の蛍光物質を励起し、蛍光物質に応じた色の発光を行うものであり、自発光の面状表示素子として注目されている。その中でも、有機物質を発光材料として用いた有機EL素子は、印加電圧が10V弱であっても高輝度な発光を実現できるなど発光効率が高く、単純な素子構造で発光が可能であり、特定のパターンを発光表示させる広告その他低価格の簡易表示ディスプレイへの応用が期待されている。
【0003】
一般に、有機EL素子を用いたディスプレイの製造にあっては、発光層等のパターニングがなされている。発光層のパターニング方法としては、発光材料をシャドウマスクを介して蒸着する方法、インクジェット法により塗り分ける方法、フォトリソグラフィー法等が提案されている。
【0004】
これらの方法の中でも、フォトリソグラフィー法では、蒸着によるパターニング方法と比較すると、高精度のアライメント機構を備えた真空設備等が不要であることから、比較的容易にかつ安価に有機EL素子を製造することができる。また、フォトリソグラフィー法は、インクジェット法によるパターニング方法と比較すると、パターニングを補助する構造物や基板に対する前処理等を行うことがない点で好ましい。さらに、インクジェットヘッドの吐出精度との関係から、フォトリソグラフィー法の方がより高精細なパターンの形成に対して有利である。
【0005】
フォトリソグラフィー法によって有機EL層をパターニングする際に、有機EL層上にフォトレジストを塗布する場合には、有機EL層に用いられる有機材料が、フォトレジスト溶媒だけでなく、フォトレジスト現像液、剥離液およびリンス液等に不溶であることが必要とされる。しかしながら、一般的に有機EL層に用いられる有機材料は多くの溶剤に可溶であるため、有機EL層上にフォトレジストを塗布してフォトレジスト層を形成するのが困難であった。
【0006】
そこで、例えば、基板上の全面に陽極、有機EL層、陰極および保護層を形成し、保護層上にフォトレジスト層を形成し、このフォトレジスト層を所望の形状にパターニングし、その後、反応性イオンエッチング(RIE)によりフォトレジスト層が除去された部分の陰極、保護層および有機EL層を連続してエッチングすることにより、有機EL層をパターニングする方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法を用いて、3色の発光層をパターニングするには、有機EL層上に陰極および保護層を真空成膜し、その後、陰極、保護層および有機EL層をエッチングし、フォトレジスト層を除去するという工程を繰り返し行うため、工程が非常に複雑であり、製造コストが増加するという問題がある。
【0007】
また、有機EL層を形成する有機材料を硬化・架橋処理することにより不溶化する方法が提案されている。例えば、特許文献2には、発光層および正孔輸送層に熱硬化性樹脂を含む有機材料を用い、この熱硬化性樹脂を含む有機材料を塗布した後に加熱硬化処理を行うことにより、不溶化する方法が開示されている。この方法によれば、発光層や正孔輸送層の上にフォトレジスト層を容易に形成することができる。
【0008】
この方法では、発光材料または正孔輸送性材料と熱硬化性樹脂と混合したものを発光層や正孔輸送層に用いている。この際、例えば熱硬化性樹脂と正孔輸送性材料との混合比を4:6に設定している。このような混合比では、実際には正孔輸送性材料の比率が低すぎて、正孔の注入および輸送特性が著しく低下する。
また、一般に、発光層に高分子系発光材料を用いる場合、発光効率および長寿命化のためには、高分子系発光材料の精製が重要となる。このため、高分子発光材料と感光性樹脂とを混合した場合に、反応開始剤や、反応物質としてのイオン等が不純物として作用し、特性劣化を引き起こす場合がある。このような理由から、上記特許文献2には、不純物のない熱硬化性樹脂が有効であると記載されている。しかしながら、熱硬化性樹脂であっても不純物として作用する場合がある。
【0009】
さらに、上記特許文献2には、1色目の発光層をドライエッチングによりパターニングした後に、一度フォトレジスト層を剥離し、熱硬化性樹脂を完全に硬化させ、1色目の発光層表面が露出した状態で、2色目の発光層を形成する方法が開示されている。この方法では、1色目の発光層表面は、2色目の発光層をパターニングするためのドライエッチングにさらされて、ダメージを受ける。そのため、正孔および電子の注入効率が著しく低下するという問題がある。
【0010】
また、有機EL層に用いられる有機材料に対して、フォトレジスト溶媒、フォトレジスト現像液および剥離液等の溶解度を適切に調整することにより、有機EL層上にフォトレジスト層を形成して、有機EL層をパターニングする方法が提案されている(特許文献3参照)。この方法では、まず、1色目の発光層上にフォトレジスト層を形成し、所望の形状にパターニングし、フォトレジスト層が除去された部分の1色目の発光層をエッチングする。その後、フォトレジスト層を除去することなく、2色目の発光層を形成し、2色目の発光層上にさらにフォトレジスト層を形成し、所望の形状にパターニングし、フォトレジスト層が除去された部分の2色目の発光層をエッチングする。そして、このような工程を繰り返し行って、複数色の発光層をパターニングした後に、各フォトレジスト層を除去する。
【0011】
この方法によれば、2色目の発光層形成時にも、1色目の発光層上にはフォトレジスト層が残されており、1色目の発光層が2色目の発光層を形成するための塗工液および2色目の発光層をパターニングするためのドライエッチングから保護されるので、ダメージを低減することができる。この方法においては、有機EL層上にフォトレジストを直接塗布している。
【0012】
【特許文献1】特開平9−293589号公報
【特許文献2】特開2001−237075公報
【特許文献3】特開2004−6231公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、有機EL層上にフォトレジストを直接塗布すると、寿命特性等が低下することがあった。これは、フォトレジスト層の剥離後もフォトレジスト成分が有機EL層表面にわずかに付着しており、この微量のフォトレジスト成分が寿命特性等に何らかの影響を及ぼしていると思料される。
【0014】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、フォトリソグラフィー法を用いて有機EL層をパターニングする有機EL素子の製造方法であって、寿命特性に優れる有機EL素子の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、有機EL層上にフォトレジストを直接塗布した場合に寿命特性を低下させる原因として、フォトレジスト成分の残留物に着目した。一般に、フォトレジストは、主成分である樹脂と感光剤と塗工性等を改善するための種々の添加剤とを含有するものである。また、主成分である樹脂は、現像性および剥離性を向上させるために、低分子量化等の工夫がなされている。このようなフォトレジストを有機EL層上に直接塗布した場合、フォトレジスト層の剥離後もフォトレジスト成分が有機EL層表面にわずかに残留し、この微量のフォトレジスト成分の残留物が寿命特性等に悪影響を与えることがある。そこで、本発明者らは、有機EL層とフォトレジストとが直接接しないように、フォトレジストを塗布する前に有機EL層上に保護層を形成することにより、寿命特性等が改善されることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は、電極層が形成された基板上に、少なくとも1層の有機EL層を形成する有機EL層形成工程と、上記有機EL層上に保護層を形成する保護層形成工程と、上記保護層上にフォトレジストを塗布し、フォトレジスト層を形成するフォトレジスト層形成工程と、上記フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、上記フォトレジスト層をパターニングするフォトレジスト層パターニング工程と、上記フォトレジスト層が除去された部分の上記保護層および上記有機EL層を除去することにより、上記有機EL層をパターニングする有機EL層パターニング工程と、残存する上記フォトレジスト層および上記保護層をこの順に剥離する剥離工程とを有することを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供する。
【0017】
本発明によれば、有機EL層上に保護層を形成し、またフォトレジスト層および保護層をこの順に剥離するので、有機EL層がフォトレジスト成分にさらされるのを防ぐことができる。したがって、長寿命の有機EL素子を得ることが可能である。
【0018】
上記発明においては、上記有機EL層形成工程にて、上記有機EL層として少なくとも発光層を形成することが好ましい。上述したように、発光層を含む有機EL層がフォトレジスト成分にさられるのを防ぐことができるので、さらなる長寿命化が可能となるからである。
【0019】
また、本発明は、電極層が形成された基板上に、少なくとも第1発光層を含む第1有機EL層を形成する第1有機EL層形成工程と、上記第1有機EL層上に第1保護層を形成する第1保護層形成工程と、上記第1保護層上にフォトレジストを塗布し、第1フォトレジスト層を形成する第1フォトレジスト層形成工程と、上記第1フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第1発光領域の上記第1フォトレジスト層が残存するように上記第1フォトレジスト層をパターニングする第1フォトレジスト層パターニング工程と、上記第1フォトレジスト層が除去された部分の上記第1保護層および上記第1有機EL層を除去することにより、上記第1有機EL層をパターニングする第1有機EL層パターニング工程と、上記第1有機EL層、上記第1保護層および上記第1フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、少なくとも第2発光層を含む第2有機EL層を形成する第2有機EL層形成工程と、上記第2有機EL層上に第2保護層を形成する第2保護層形成工程と、上記第2保護層上にフォトレジストを塗布し、第2フォトレジスト層を形成する第2フォトレジスト層形成工程と、上記第2フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第2発光領域の上記第2フォトレジスト層が残存するように上記第2フォトレジスト層をパターニングする第2フォトレジスト層パターニング工程と、上記第2フォトレジスト層が除去された部分の上記第2保護層および上記第2有機EL層を除去することにより、上記第2有機EL層をパターニングする第2有機EL層パターニング工程と、上記第1有機EL層、上記第1保護層および上記第1フォトレジスト層がパターン状に形成され、さらに上記第2有機EL層、上記第2保護層および上記第2フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、少なくとも第3発光層を含む第3有機EL層を形成する第3有機EL層形成工程と、上記第3有機EL層上に第3保護層を形成する第3保護層形成工程と、上記第3保護層上にフォトレジストを塗布し、第3フォトレジスト層を形成する第3フォトレジスト層形成工程と、上記第3フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第3発光領域の上記第3フォトレジスト層が残存するように上記第3フォトレジスト層をパターニングする第3フォトレジスト層パターニング工程と、上記第3フォトレジスト層が除去された部分の上記第3保護層および上記第3有機EL層を除去することにより、上記第3有機EL層をパターニングする第3有機EL層パターニング工程と、残存する上記第1フォトレジスト層、上記第2フォトレジスト層および上記第3フォトレジスト層、ならびに、上記第1保護層、上記第2保護層および上記第3保護層をこの順に剥離する剥離工程とを有することを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供する。
【0020】
本発明によれば、各有機EL層上に各保護層を形成するので、各有機EL層上にフォトレジストを直接塗布することがない。また、第2有機EL層をパターニングする際には、パターニングされた第1有機EL層および第1保護層の上に、第2有機EL層および第2保護層が形成され、この第2保護層上にフォトレジストが塗布されるので、第1有機EL層が第2フォトレジスト層と接触することもない。さらに、第3有機EL層をパターニングする際にも、同様に、第1有機EL層および第2有機EL層が第3フォトレジスト層と接触することがない。また、各フォトレジスト層および各保護層をこの順に剥離するので、各有機EL層がフォトレジスト成分にさらされるのを防ぐことができる。
さらに、上述したように、第2有機EL層をパターニングする際には、パターニングされた第1有機EL層および第1保護層の上に、第2有機EL層および第2保護層が形成されるので、第2有機EL層のエッチング時の第1有機EL層へのダメージを低減することができる。また、第3有機EL層をパターニングする際にも、同様に、第3有機EL層のエッチング時の第1有機EL層および第2有機EL層へのダメージを低減することができる。
したがって、長寿命の有機EL素子を得ることが可能である。
【0021】
上記発明においては、上記第1有機EL層、上記第1保護層および上記第1フォトレジスト層が、上記第2有機EL層および上記第3有機EL層の形成に用いる溶媒に不溶であり、上記第2有機EL層、上記第2保護層および上記第2フォトレジスト層が、上記第3有機EL層の形成に用いる溶媒に不溶であることが好ましい。これにより、各層を安定して積層することができるからである。
【0022】
また本発明においては、上記各保護層が、水溶性セルロース誘導体、有機溶剤可溶性の変性セルロース誘導体、水溶性ポリビニルアルコール誘導体およびフッ素系高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。このような材料を用いて保護層を形成した場合には、有機EL層、保護層およびフォトレジスト層を安定して積層することができるからである。
【0023】
さらに本発明においては、上記剥離工程が、上記各フォトレジスト層のみを剥離する工程と、上記各保護層のみを剥離する工程とを有していてもよい。フォトレジスト層および保護層を別々に除去することにより、有機EL層の表面がフォトレジスト成分にさらされるのを効果的に防ぐことができるからである。
【0024】
また、上記剥離工程が、上記各フォトレジスト層および上記各保護層を溶解する剥離液を用いて、上記各フォトレジスト層および上記各保護層を上層から徐々に剥離する工程であってもよい。このような工程は、工程数の削減やコスト低減の点で好ましい。
【0025】
さらに本発明においては、上記剥離工程後、上記各有機EL層の最表面を洗浄する洗浄工程を行うことが好ましい。有機EL層の表面に残留するフォトレジスト成分を効果的に除去することができるからである。
【0026】
また、上記剥離工程後、上記各有機EL層の最表面をプラズマ処理するプラズマ処理工程を行ってもよい。この場合も同様に、有機EL層の表面に残留するフォトレジスト成分を効果的に除去することができるからである。
【発明の効果】
【0027】
本発明においては、有機EL層上に保護層を形成し、またフォトレジスト層および保護層をこの順に剥離するので、有機EL層がフォトレジスト成分にさらされるのを防ぐことができ、長寿命の有機EL素子を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の有機EL素子の製造方法について詳細に説明する。本発明の有機EL素子の製造方法には、単色の発光層をパターン状に形成する場合、および、3色の発光層をパターン状に形成する場合の2つの態様がある。以下、各態様について説明する。
【0029】
I.第1態様
本発明の有機EL素子の製造方法の第1態様は、電極層が形成された基板上に、少なくとも1層の有機EL層を形成する有機EL層形成工程と、上記有機EL層上に保護層を形成する保護層形成工程と、上記保護層上にフォトレジストを塗布し、フォトレジスト層を形成するフォトレジスト層形成工程と、上記フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、上記フォトレジスト層をパターニングするフォトレジスト層パターニング工程と、上記フォトレジスト層が除去された部分の上記保護層および上記有機EL層を除去することにより、上記有機EL層をパターニングする有機EL層パターニング工程と、残存する上記フォトレジスト層および上記保護層をこの順に剥離する剥離工程とを有することを特徴とするものである。
【0030】
本態様の有機EL素子の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本態様の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。まず、基板1上に電極層2をパターン状に形成し、この電極層2のパターン間に絶縁層3を形成し、電極層2および絶縁層3の上に正孔注入層4および発光層5を形成し、有機EL層6とする(図1(a)、有機EL層形成工程)。次いで、発光層5上に保護層7を形成する(図1(b)、保護層形成工程)。
次に、保護層7上にポジ型フォトレジストを塗布して、フォトレジスト層8を形成する(図1(c)、フォトレジスト層形成工程)。次いで、少なくとも発光領域10のフォトレジスト層8が残存するように、フォトマスク11を介してフォトレジスト層8をパターン露光した後、フォトレジスト現像液により現像し、洗浄することにより、パターン状のフォトレジスト層8´を形成する(図1(d)、(e)、フォトレジスト層パターニング工程)。
次に、フォトレジスト層の除去により露出した部分の保護層7、発光層5および正孔注入層4を除去することにより、パターン状の保護層7´、発光層5´および正孔注入層4´を形成する(図1(f)、有機EL層パターニング工程)。
次いで、最上層に位置するフォトレジスト層8´を剥離し、さらに保護層7´を剥離する(図1(g)、(h)、剥離工程)。
最後に、発光層5´上に対向電極層9を形成する(図1(i)、対向電極層形成工程)。
【0031】
本態様においては、パターニングされる有機EL層上に保護層を形成するので、有機EL層上にフォトレジストを直接塗布することがない。また、有機EL層のパターニング後に、フォトレジスト層および保護層をこの順に剥離するので、フォトレジスト成分が有機EL層に接触する機会を減らすことができる。すなわち、保護層によって、フォトレジスト成分が有機EL層に接触するのを防ぐことができる。したがって、フォトレジスト成分による有機EL層の発光特性等の低下を回避することができ、発光特性等に優れる有機EL素子を得ることが可能である。
【0032】
また、図1に示す剥離工程においては、まずフォトレジスト層を剥離し、次いで保護層を剥離している。この場合、フォトレジスト層を溶解するが、保護層および有機EL層を溶解しないフォトレジスト剥離液を用いることにより、フォトレジスト層のみを除去することができる。次いで、保護層を溶解するが、有機EL層を溶解しない保護層剥離液を用いることにより、保護層のみを除去することができる。このような剥離工程では、フォトレジスト成分が有機EL層に全く接触しないように、フォトレジスト層および保護層を剥離することができる。これにより、有機EL層表面が、フォトレジスト成分、例えば、感光剤、添加剤、樹脂等によって汚染されるのを防ぐことができ、さらなる長寿命化が可能である。
以下、本態様の有機EL素子の製造方法の各工程について説明する。
【0033】
1.有機EL層形成工程
本態様における有機EL層形成工程は、電極層が形成された基板上に、少なくとも1層の有機EL層を形成する工程である。
以下、有機EL層、電極層および基板について説明する。
【0034】
(1)有機EL層
本態様における有機EL層は、1層もしくは複数層の有機層から構成されるものである。すなわち、有機EL層とは、その層構成が有機層1層以上の層をいう。通常、湿式法で有機EL層を形成する場合は、溶媒との関係で多数の層を積層することが困難であることから、1層もしくは2層の有機層を形成する場合が多いが、溶媒への溶解性が異なるように有機材料を工夫したり、真空蒸着法を組み合わせたりすることにより、さらに多数層とすることも可能である。
【0035】
中でも、有機EL層は、少なくとも発光層を含むことが好ましい。すなわち、有機EL層として少なくとも発光層を形成することが好ましい。この場合には、発光層がフォトレジスト成分によって汚染されるのを防ぐことができるので、さらなる長寿命化が可能となるからである。
【0036】
発光層以外の有機EL層を構成する有機層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等を挙げることができる。この正孔輸送層は、正孔注入層に正孔輸送の機能を付与することにより、正孔注入層と一体化される場合が多い。また、有機EL層を構成する有機層としては、正孔ブロック層や電子ブロック層のような正孔もしくは電子の突き抜けを防止し、さらに励起子の拡散を防止して発光層内に励起子を閉じ込めることにより、再結合効率を高めるための層等を挙げることができる。
【0037】
有機EL層の構成としては、一般的な構成であればよく、発光層のみ、正孔注入層/発光層、正孔注入層/発光層/電子注入層、正孔注入層/正孔ブロック層/発光層/電子注入層、正孔注入層/発光層/電子輸送層などを例示することができる。
【0038】
複数の有機層を積層する場合、例えば、発光層、または、正孔注入層および発光層をフォトリソグラフィー法によりパターニングした後に、パターン状の発光層上に、電子輸送層や電子注入層等を真空蒸着法によりパターン状に形成してもよい。また、例えば、正孔注入層を真空蒸着法によりパターン状に形成した後に、パターン状の正孔注入層上に発光層を成膜し、フォトリソグラフィー法によりパターニングしてもよい。さらに、例えば、正孔注入層をフォトリソグラフィー法によりパターニングした後に、パターン状の正孔注入層上に、発光層等を真空蒸着法によりパターン状に形成してもよい。
【0039】
また、有機EL層として、正孔注入層および発光層を形成する場合、基板上の全面に正孔注入層および発光層を形成した後に、正孔注入層および発光層をフォトリソグラフィー法によりパターニングしてもよく、発光層のみをフォトリソグラフィー法によりパターニングしてもよい。中でも、正孔注入層の導電性が高い場合には、素子のダイオード特性を保ち、クロストークを防ぐために、正孔注入層および発光層をフォトリソグラフィー法によりパターニングすることが好ましい。一方、正孔注入層の抵抗が高い場合には、正孔注入層をパターニングしてもよく、パターニングしなくてもよい。
【0040】
ここで、一般的に、膜の溶解性は、膜中の固体成分を溶剤に溶解した場合の溶解度(100×溶解した固形分重量/(溶解した固形分重量+溶剤量))で定義される。このような定義では、溶解度が0.1%を下回るような場合には、難溶もしくは不溶と判断されることが多い。しかしながら、上記定義において難溶もしくは不溶であると判断される溶剤を使用しても、膜を溶剤に浸漬した場合に、膜が溶解して膜減りが発生する。
特に、有機EL素子では、有機EL層の膜厚が非常に薄く、一般的に有機EL層を構成する有機層1層の膜厚は100nm以下である。このため、上記定義において溶解度が0.1%以下であり、難溶もしくは不溶であると判断された溶剤に膜を浸漬した場合でも、100nm程度の膜厚であれば厚みが容易に減少してしまう。
【0041】
そこで、本発明においては、膜の溶解性について、基板上に膜を形成し十分に乾燥させて、その膜を25℃で1分間溶剤に浸漬させた後、浸漬前後での膜厚を測定し、その差(浸漬前の膜厚−浸漬後の膜厚)により、以下のように定義することとした。
膜減り量が5nm以下/minの場合 … 不溶
膜減り量が5nm超/min〜20nm以下/minの場合 … 難溶
膜減り量が20nm超/minの場合 … 可溶
なお、膜の溶解性の定義については、有機EL層だけでなく、保護層およびフォトレジスト層等にも適用される。
【0042】
本発明においては、有機EL層上に保護層を形成するため、有機EL層を構成する有機層のうち、最上層の有機層は、後述する保護層形成用塗工液の溶媒および保護層の剥離液に不溶であることが好ましい。すなわち、有機EL層を構成する有機層のうち、最上層の有機層の溶解性は、保護層形成用塗工液の溶媒および保護層の剥離液に対して、5nm以下/minであることが好ましい。
以下、発光層、正孔注入層、電子輸送層および電子注入層について説明する。
【0043】
(i)発光層
本態様における発光層に用いられる発光材料としては、蛍光を発する材料を含み、発光するものであれば特に限定されるものではなく、発光機能と正孔輸送機能もしくは電子輸送機能とを兼ねていてもよい。
【0044】
発光層上に保護層を形成する場合には、発光材料が、後述する保護層形成用塗工液の溶媒および保護層の剥離液に不溶であることが好ましく、さらにフォトレジスト剥離液に不溶であることがより好ましい。すなわち、発光層の溶解性は、保護層形成用塗工液の溶媒および保護層の剥離液に対して、5nm以下/minであることが好ましく、さらにはフォトレジスト剥離液に対して、5nm以下/minであることがより好ましい。
【0045】
発光材料としては、色素系発光材料、金属錯体系発光材料、および高分子系発光材料を挙げることができる。
【0046】
色素系発光材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾ−ル誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー等を挙げることができる。
【0047】
金属錯体系発光材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、あるいは、中心金属に、Al、Zn、Be等またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等を挙げることができる。
【0048】
高分子系発光材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体等、あるいは、上記の色素系発光材料や金属錯体系発光材料を高分子化したもの等を挙げることができる。
【0049】
後述するように、発光層形成用塗工液を塗布することにより発光層を形成する場合には、フォトリソグラフィー法によって発光層を精度良くパターニングすることができるという利点を活かすという観点から、発光材料として、上記高分子系発光材料を用いることが好ましい。
【0050】
また、上記発光材料には、種々の添加剤を添加することが可能である。例えば、上記発光材料には、発光効率の向上、発光波長を変化させる等の目的でドーピング剤を添加してもよい。このようなドーピング剤としては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体を挙げることができる。
【0051】
発光層の形成方法としては、上記発光材料等を含む発光層形成用塗工液を塗布する方法、あるいは、真空蒸着法等を用いることができる。中でも、製造コスト低減の観点から、発光層形成用塗工液を塗布する方法が好ましい。
【0052】
本態様において、後述する正孔注入層を形成する場合であって、正孔注入層上に発光層形成用塗工液を塗布することにより発光層を形成する場合には、発光層の成膜の際に、正孔注入層を形成する材料と発光層形成用塗工液とが混合したり溶解したりするのを防ぐとともに、発光材料本来の発光特性を保つために、発光層形成用塗工液には、正孔注入層を溶解しない溶媒を用いることが好ましい。具体的には、発光層形成用塗工液に用いられる溶媒は、正孔注入層の溶解性が5nm以下/minであることが好ましい。
【0053】
例えば、後述する正孔注入層を形成する材料が水系溶媒やジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DIMSO)、アルコール等の極性溶媒に溶解する場合には、上記溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンの各異性体およびそれらの混合物、メシチレン、テトラリン、p−シメン、クメン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ブチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンの各異性体およびそれらの混合物等の芳香族系溶媒;アニソール、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、2−ブタノン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジグライム等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1−クロロナフタレン等のクロル系溶媒;シクロヘキサノンなどが好ましく用いられる。これらの溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
また、発光層形成用塗工液の塗布方法としては、例えば、ディップコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、キャスティング法、フレキソ印刷法等を挙げることができる。
【0055】
上記発光層形成用塗工液の塗布後は、乾燥を行ってもよい。
【0056】
本態様における発光層は硬化剤を含まないものであり、また発光層形成時には硬化・架橋処理を行わない。このため、乾燥後の発光層は、発光層形成用塗工液の溶媒に対して可溶な状態のままとなっている。
【0057】
発光層の膜厚としては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、具体的には10nm〜500nm程度とすることができる。
【0058】
(ii)正孔注入層
本態様における正孔注入層は、発光層に正孔の注入が容易に行われるように、陽極と発光層との間に設けられるものである。
【0059】
正孔注入層に用いられる材料としては、発光層内への正孔の注入を安定化させることができる、正孔注入性を有する材料であれば特に限定されるものではない。正孔注入性を有する材料としては、例えば、アリールアミン類、フタロシアニン類、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレンおよびこれらの誘導体等の導電性高分子などを挙げることができる。具体的には、アリールアミン類としてはビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられ、ポリチオフェン誘導体としてはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0060】
また、正孔注入層に硬化性樹脂を用いてもよい。さらに、正孔注入層として、無機酸化物のゾルゲル膜を用いてもよい。これにより、溶媒に不溶な正孔注入層とすることができるからである。なお、溶媒に不溶な正孔注入層については、後述の第2態様に詳しく記載するので、ここでの説明は省略する。
【0061】
正孔注入層上に発光層形成用塗工液を塗布することにより発光層を形成する場合には、正孔注入層を形成する材料は、発光層形成用塗工液の溶媒に不溶であることが好ましい。すなわち、正孔注入層の溶解性は、発光層形成用塗工液の溶媒に対して、5nm以下/minであることが好ましい。
【0062】
正孔注入層の形成方法としては、上記の材料等を含む正孔注入層形成用塗工液を塗布する方法、あるいは、真空蒸着法等を用いることができる。中でも、製造コスト低減の観点から、正孔注入層形成用塗工液を塗布する方法が好ましい。
【0063】
正孔注入層形成用塗工液に用いられる溶媒としては、上記の材料が分散もしくは溶解するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、あるいは、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0064】
また、正孔注入層形成用塗工液の塗布方法としては、例えば、ディップコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、キャスティング法、フレキソ印刷法等を挙げることができる。
【0065】
また、正孔注入層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではなく、具体的には0.5nm〜1000nm程度とすることができ、中でも10nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0066】
(iii)電子輸送層
本態様における電子輸送層は、発光層に電子の輸送が容易に行われるように、陰極と発光層との間に設けられるものである。
【0067】
電子輸送層に用いられる材料としては、陰極から注入された電子を発光層内へ輸送することができる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、オキサジアゾール類、トリアゾール類、バソキュプロイン、バソフェナントロリン等のフェナントロリン類、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)等のアルミキノリノール錯体などが挙げられる。
【0068】
電子輸送層の形成方法としては、上記の材料等を含む電子輸送層形成用塗工液を塗布する方法、あるいは、真空蒸着法等を用いることができる。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0069】
電子輸送層の厚みとしては、その機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されない。
【0070】
(iv)電子注入層
本態様における電子注入層は、発光層に電子の注入が容易に行われるように、陰極と発光層との間に設けられるものである。
【0071】
電子注入層に用いられる材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、アルミリチウム合金、リチウム、セシウム等のアルカリ金属やその合金;フッ化リチウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属のハロゲン化物;ストロンチウム、カルシウム等のアルカリ土類金属;フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等のアルカリ土類金属のハロゲン化物;酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム等の酸化物;などが挙げられる。また、電子注入層に用いられる材料として、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0072】
電子注入層の形成方法としては、上記の材料等を含む電子注入層形成用塗工液を塗布する方法、あるいは、真空蒸着法等を用いることができる。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0073】
電子注入層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
【0074】
(2)電極層
本態様に用いられる電極層は、陽極であってもよく陰極であってもよい。一般に、有機EL素子を製造する際には、陽極側から積層する方が安定して有機EL素子を作製することができることから、電極層が陽極であることが好ましい。
【0075】
陽極には、正孔が注入し易いように仕事関数の大きい導電性材料が好ましく用いられる。一方、陰極には、電子が注入し易いように仕事関数の小さな導電性材料が好ましく用いられる。導電性材料としては、一般に金属材料が用いられるが、有機物や無機化合物を用いてもよい。また、電極層には、複数の材料を混合して用いてもよい。
【0076】
また、例えば図1(i)に示す有機EL素子においてボトムエミッション型とする場合には、電極層は透明性を有することが好ましい。透明性を有する導電性材料としては、In−Zn−O(IZO)、In−Sn−O(ITO)、ZnO−Al、Zn−Sn−O等を好ましいものとして例示することができる。さらに、例えば図1(i)に示す有機EL素子においてトップエミッション型とする場合には、電極層に透明性は要求されない。この場合、導電性材料として、金属を用いることができ、具体的にはAu、Ta、W、Pt、Ni、Pd、Cr、あるいは、Al合金、Ni合金、Cr合金等を挙げることができる。
【0077】
電極層が陽極および陰極のいずれであっても、抵抗が比較的小さいことが好ましい。
【0078】
電極層の成膜方法としては、一般的な電極の成膜方法を用いることができ、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等を挙げることができる。また、電極層のパターニング方法としては、フォトリソグラフィー法を挙げることができる。
【0079】
(3)基板
本態様に用いられる基板は、特に限定されるものではない。例えば図1(i)に示す有機EL素子においてボトムエミッション型とする場合には、基板は透明性を有することが好ましい。一方、例えば図1(i)に示す有機EL素子においてトップエミッション型とする場合には、基板に透明性は要求されない。
透明性を有する基板には、例えば、ガラス等の無機材料や、透明樹脂等を用いることができる。
【0080】
上記透明樹脂としては、フィルム状に成形可能であれば特に限定されるものではないが、透明性が高く、耐溶媒性、耐熱性の比較的高いことが好ましい。このような透明樹脂としては、具体的に、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフッ化ビニル(PFV)、ポリアクリレート(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、非晶質ポリオレフィン、またはフッ素系樹脂等が挙げられる。
【0081】
2.保護層形成工程
本態様における保護層形成工程は、有機EL層上に保護層を形成する工程である。
【0082】
本発明においては保護層上にフォトレジスト層を形成するので、保護層は、フォトレジスト溶媒に不溶もしくは難溶であることが好ましい。すなわち、保護層の溶解性は、フォトレジスト溶媒に対して、20nm以下/minであることが好ましく、5nm以下/minであることがより好ましい。
一方、保護層がフォトレジスト溶媒に可溶である場合には、保護層の膜厚を比較的厚くすることにより、フォトレジスト成分が有機EL層表面に到達するのを防ぐことができる。また、この場合には、保護層上に、フォトレジスト溶媒に不溶もしくは難溶であり、フォトレジスト成分を含まない層を形成してもよい。
【0083】
また、保護層は、フォトレジスト現像液に不溶もしくは難溶であることが好ましい。すなわち、保護層の溶解性は、フォトレジスト現像液に対して、20nm以下/minであることが好ましく、5nm以下/minであることがより好ましい。これにより、フォトレジスト層を安定にパターニングすることができ、また高解像度のディスプレイを作製することができるからである。
一方、保護層がフォトレジスト現像液に可溶である場合であっても、フォトレジスト現像液にさらされる保護層の露出部の面積は比較的小さいため、特に問題にはならない。
【0084】
さらに、保護層は、フォトレジスト剥離液に不溶もしくは難溶であることが好ましい。すなわち、保護層の溶解性は、フォトレジスト剥離液に対して、20nm以下/minであることが好ましく、5nm以下/minであることがより好ましい。この場合、後述する剥離工程にてフォトレジスト層および保護層を別々に剥離することが可能となり、有機EL層表面がフォトレジスト成分に接触する機会をさらに減らすことができるからである。
一方、保護層は、フォトレジストの剥離液に可溶であってもよい。この場合には、剥離工程にてフォトレジスト層および保護層を上層から徐々に剥離することができ、工程数の削減やコスト低減の点で好ましい。
【0085】
このような保護層を形成する材料としては、上述の性質を満たすものであれば特に限定されるものではなく、無機材料および有機材料のいずれも用いることができる。保護層を形成する有機材料としては、例えば、水溶性セルロース誘導体、水溶性セルロース誘導体を有機溶剤に可溶とした変性セルロース誘導体、水溶性ポリビニルアルコール誘導体、フッ素系高分子材料等が挙げられる。具体的には、保護層を形成する材料としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート、アセチルセルロース、テトラフルオロエチレンが好ましく用いられる。また、無機材料からなる保護層として、無機酸化物のゾルゲル膜を用いることができる。
【0086】
特に、正孔注入層、発光層、および保護層の順に積層し、各層を各塗工液を塗布することにより形成する場合であって、正孔注入層および発光層に形成に下記の溶媒を用い、フォトレジスト層の形成に下記のフォトレジストおよびフォトレジスト溶媒を用いた場合には、保護層に上記の材料が好ましく用いられる。ここで、正孔注入層形成用塗工液の溶媒として、水系溶媒、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DIMSO)、アルコール等の極性溶媒を用い、発光層形成用塗工液の溶媒として、キシレン、トルエン、アニソール、メシチレン、テトラリン、p−シメン、クメン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ブチルベンゼン、クロロベンゼン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶媒、あるいは、テトラヒドロフラン、2−ブタノン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒を用い、フォトレジストとして、一般的なノボラック系のポジ型フォトレジストを用い、フォトレジスト溶媒として、ケトン類、プロピレングルコールモノメチルエーテルアセテート等のセロソルブアセテート類、エーテル等のセロソルブ類、乳酸エチルを用いた場合である。
【0087】
保護層の膜厚は、保護層の種類により適宜選択される。例えば、保護層がフォトレジスト溶媒に不溶もしくは難溶である場合、保護層の膜厚は0.01μm以上であることが好ましい。また例えば、保護層がフォトレジスト溶媒に可溶である場合、保護層の膜厚は0.1μm以上であることが好ましい。保護層の膜厚の上限値は、1μm程度であることが好ましい。
【0088】
保護層の形成方法としては、上記の材料を含む保護層形成用塗工液を塗布する方法が用いられる。
【0089】
保護層形成用塗工液に用いられる溶媒は、有機EL層を構成する有機層のうち、最上層の有機層を溶解しないものであることが好ましい。具体的には、保護層形成用塗工液に用いられる溶媒は、最上層の有機層の溶解性が5nm以下/minであることが好ましい。例えば、有機EL層として正孔注入層および発光層が形成されており、発光層上に保護層を形成する場合、上記溶媒は、発光層を溶解しないものであることが好ましい。この場合、上記溶媒は、正孔注入層を溶解するものであってもよく、溶解しないものであってもよい。
【0090】
具体的には、上記溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;エチルセロソルブ、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート等のセロソルブ系溶媒;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DIMSO)、アルコール、γ−ブチロラクトン等の極性溶媒などを挙げることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0091】
また、保護層形成用塗工液が、最上層の有機層を溶解する溶媒を含んでいる場合であっても、最上層の有機層がその溶媒に難溶であればよい。すなわち、最上層の有機層の溶解性が20nm以下/minである溶媒であれば、使用可能である。
【0092】
また、保護層形成用塗工液の塗布方法としては、例えば、ディップコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、キャスティング法、フレキソ印刷法等を挙げることができる。
【0093】
3.フォトレジスト層形成工程
本態様におけるフォトレジスト層形成工程は、保護層上にフォトレジストを塗布し、フォトレジスト層を形成する工程である。
【0094】
本態様に用いられるフォトレジストは、ポジ型およびネガ型のいずれであってもよい。中でも、フォトレジストの剥離し易さを考慮すると、ポジ型フォトレジストが好ましい。フォトレジストとしては、一般的なものを用いることができ、例えば、ノボラック系樹脂、ゴム+ビスアジド系樹脂等を挙げることができる。
【0095】
また、フォトレジストに用いられるフォトレジスト溶媒としては、保護層上にフォトレジストを塗布した際に保護層とフォトレジストとが混合したり溶解したりするのを防ぐために、保護層を形成する材料が溶解しないものであることが好ましい。具体的には、フォトレジスト溶媒は、保護層の溶解性が5nm以下/minであることが好ましい。
【0096】
具体的には、フォトレジスト溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のセロソルブアセテート類;プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のセロソルブ類;メタノール、エタノール、1−ブタノール、2−ブタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;シクロヘキサン、デカリンなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0097】
フォトレジストの塗布方法としては、基板上の全面に塗布することができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、スピンコート法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、スプレーコート法、フレキソ印刷法等が用いられる。
【0098】
フォトレジスト層の膜厚は、特に限定されるものではないが、後述する有機EL層パターニング工程にて、保護層および有機EL層をドライエッチングする場合には、0.1μm〜10μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは0.5μm〜5μmの範囲内である。フォトレジスト層の膜厚が上記範囲であれば、レジスト機能を保ったまま、加工精度の高いドライエッチングが可能となるからである。
【0099】
4.フォトレジスト層パターニング工程
本態様におけるフォトレジスト層パターニング工程は、フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、発光領域のフォトレジスト層が残存するようにフォトレジスト層をパターニングする工程である。
【0100】
フォトレジスト層をパターン露光する方法としては、例えば、フォトマスクを介して露光する方法、レーザ描画法など、一般的な方法を用いることができる。
【0101】
パターン露光の際、ポジ型フォトレジストを用いた場合には、少なくとも発光領域が非露光領域となるように露光し、ネガ型フォトレジストを用いた場合には、少なくとも発光領域が露光領域となるように露光する。
【0102】
本態様に用いられるフォトレジスト現像液としては、保護層を形成する材料を溶解しないものであれば特に限定されるものではない。具体的には、フォトレジスト現像液は、保護層の溶解性が5nm以下/minであることが好ましい。このようなフォトレジスト現像液としては、一般的に使用されている有機アルカリ系現像液を使用できる。また、フォトレジスト現像液として、無機アルカリ系現像液や、第1フォトレジスト層の現像が可能な水溶液を使用することもできる。
【0103】
また、フォトレジスト層を現像した後は、水で洗浄するのが好ましい。
【0104】
5.有機EL層パターニング工程
本態様における有機EL層パターニング工程は、フォトレジスト層が除去された部分の保護層および有機EL層を除去することにより、有機EL層をパターニングする工程である。
【0105】
保護層および有機EL層の除去方法としては、保護層および有機EL層を溶解する溶媒を用いるウェットエッチング、およびドライエッチングのいずれも用いることができる。中でも、混色等が生じにくく、また高精細なパターニングが可能であることから、ドライエッチングが好ましい。
【0106】
ウェットエッチングでは、フォトレジスト層を溶解することなく、保護層および有機EL層を溶解することができる溶媒を用いて、フォトレジスト層が除去された部分の保護層および有機EL層を溶解して除去する。この際に使用できる溶媒としては、上述した発光層形成用塗工液、正孔注入層形成用塗工液、保護層形成用塗工液等に用いられる溶媒を例示することができる。
【0107】
また、ウェットエッチングでは、超音波浴中で保護層および有機EL層の除去を行ってもよい。超音波浴を用いることにより、例えば発光層のパターンの線幅が細くなったり、発光層から発光材料等が流出したりするのを防ぐことができ、高精度のパターニングが可能となるからである。また、短時間で高精度のパターニングが可能となる点でも好ましい。
【0108】
この超音波浴に用いる超音波の条件は、25℃、20〜100KHzの発振周波数で、0.1〜60秒間が好ましい。このような条件とすることで、短時間で精度の高いパターニングが可能となるからである。
【0109】
また、ドライエッチングでは、フォトレジスト層の膜厚が保護層および有機EL層よりもかなり厚いことから、基板に対して全体的にドライエッチングを行うことにより、フォトレジスト層が除去された部分の保護層および有機EL層を除去することができる。ドライエッチングを用いれば、エッチングの端部をよりシャープとすることができるため、保護層および有機EL層のパターンの端部に存在する膜厚不均一領域より狭くすることができ、その結果、より高精細なパターニングが可能となる。
【0110】
ドライエッチングの方法としては、例えば、大気圧プラズマエッチング、反応性イオンエッチング(RIE)、不活性ガスによるプラズマエッチング、レーザー、イオンビーム等によるエッチングなどを用いることができる。
【0111】
反応性イオンエッチングでは、有機膜が化学的に反応を受け、分子量の小さい化合物となることにより、気化・蒸発して除去される。このため、反応性イオンエッチングを用いた場合には、エッチング精度が高く、短時間での加工が可能となる。
【0112】
また、大気圧プラズマエッチングを用いた場合には、真空装置を要することがなく、処理時間の短縮およびコストの低減が可能である。大気圧プラズマエッチングでは、プラズマ化した大気中の酸素によって有機物が酸化分解することを利用する。この際、ガスの置換および循環によって、反応雰囲気のガス組成を任意に調整してもよい。
【0113】
さらに、ドライエッチングに際して、酸素単体または酸素を含むガスを用いてもよい。酸素単体または酸素を含むガスを用いることで、有機膜の酸化反応による分解除去が可能であり、不要な有機物を除去することができるからである。
【0114】
6.剥離工程
本態様における剥離工程は、残存するフォトレジスト層および保護層をこの順に剥離する工程である。
【0115】
剥離工程は、図1(f)〜(h)に例示するように、フォトレジスト層8´のみを剥離する工程と、保護層7´のみを剥離する工程とを有していてもよく、また図2(f)、(g)に例示するように、フォトレジスト層および保護層を溶解する剥離液を用いて、フォトレジスト層8´および保護層7´を上層から徐々に剥離する工程であってもよい。
剥離工程が、フォトレジスト層のみを剥離する工程と、保護層のみを剥離する工程とを有する場合は、フォトレジスト層および保護層を別々に剥離するので、有機EL層表面がフォトレジスト成分に触れることが全くない。このため、寿命特性を効果的に改善することができる。
また、剥離工程が、フォトレジスト層および保護層を溶解する剥離液を用いて、フォトレジスト層および保護層を上層から徐々に剥離する工程である場合は、工程数の削減やコスト低減の点で好ましい。この場合は、剥離液との接触面積が大きいフォトレジスト層の上面側から徐々に溶解が進行するため、実質的にはフォトレジスト層および保護層の順に除去される。このため、有機EL層表面がフォトレジスト成分にさらされる機会を減らすことができる。
【0116】
剥離工程が、フォトレジスト層のみを剥離する工程と、保護層のみを剥離する工程とを有する場合、フォトレジスト層を剥離する方法としては、フォトレジスト剥離液に基板を浸漬させる方法、フォトレジスト剥離液をシャワー状に基板に噴出する方法等を用いることができる。
【0117】
フォトレジスト剥離液は、保護層および有機EL層を溶解せずに、フォトレジスト層を溶解することができるものであれば特に限定されるものではなく、使用するフォトレジストおよび保護層を形成する材料の組み合わせ等により異なるものであり、適宜選択される。具体的には、フォトレジスト剥離液は、フォトレジスト層の溶解性が20nm超/minであり、保護層および有機EL層の溶解性がそれぞれ20nm以下/min、中でも5nm以下/minであることが好ましい。
【0118】
このようなフォトレジスト剥離液としては、上述したフォトレジスト溶媒を使用することができる。また、ポジ型フォトレジストを用いた場合は、フォトレジスト現像液をフォトレジスト剥離液として用いることができる。さらに、フォトレジスト剥離液として、強アルカリ水溶液、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等、それらの混合物、および、市販のフォトレジスト剥離液を用いてもよい。
【0119】
また、保護層を剥離する方法としては、保護層剥離液に基板を浸漬させる方法、保護層剥離液をシャワー状に基板に噴出する方法等を用いることができる。
【0120】
保護層剥離液は、有機EL層を溶解せずに、保護層を溶解することができるものであれば特に限定されるものではなく、使用するフォトレジストおよび保護層を形成する材料の組み合わせ等により異なるものであり、適宜選択される。具体的には、保護層剥離液は、保護層の溶解性が20nm超/minであり、有機EL層の溶解性が20nm以下/min、中でも5nm以下/minであることが好ましい。
【0121】
このような保護層剥離液としては、上述した保護層形成用塗工液の溶媒を使用することができる。
【0122】
例えば、フォトレジストとしてノボラック系樹脂を用い、保護層にヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレートを用いた場合には、フォトレジスト剥離液として、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒を用いることが好ましく、また保護層剥離液として酢酸エチル等のエステル系溶媒を用いることが好ましい。
【0123】
また、剥離工程が、フォトレジスト層および保護層を溶解する剥離液を用いて、フォトレジスト層および保護層を上層から徐々に剥離する工程である場合、フォトレジスト層および保護層を剥離する方法としては、剥離液に基板を浸漬させる方法、剥離液をシャワー状に基板に噴出する方法等を用いることができる。
【0124】
剥離液は、有機EL層を溶解せずに、フォトレジスト層および保護層を溶解することができるものであれば特に限定されるものではなく、使用するフォトレジストおよび保護層を形成する材料の組み合わせ等により異なるものであり、適宜選択される。具体的には、剥離液は、フォトレジスト層および保護層の溶解性がそれぞれ20nm超/minであり、有機EL層の溶解性が20nm以下/min、中でも5nm以下/minであることが好ましい。
【0125】
このような剥離液としては、上述のフォトレジスト剥離液、保護層剥離液を使用することができる。具体的には、剥離液としては、酢酸エチル等のエステル系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル系溶媒が挙げられる。
【0126】
7.洗浄工程
本態様においては、上記剥離工程後に、有機EL層の最表面を洗浄する洗浄工程を行うことが好ましい。これにより、有機EL層表面に残留する成分を取り除くことができるからである。
【0127】
本工程においては、洗浄液を用いて、有機EL層の最表面を洗浄する。洗浄液としては、フォトレジスト層および保護層を溶解し、かつ、有機EL層を溶解しない溶剤を用いることができる。この場合、有機EL層の最表面の残留成分を効果的に取り除くことができる。具体的には、洗浄液は、フォトレジスト層および保護層の溶解性がそれぞれ20nm超/minであり、有機EL層の溶解性が5nm以下/minであることが好ましい。
このような洗浄液としては、上述のフォトレジスト剥離液、保護層剥離液および剥離液を用いることができる。具体的には、洗浄液としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン等が好ましく用いられる。
【0128】
また、洗浄液としては、有機EL層の最表面、すなわち有機EL層を構成する有機層のうち、最上層の有機層を溶解する溶剤を用いることもできる。この場合には、残留成分により汚染された有機EL層の最表面を除去することができる。具体的には、洗浄液は、最上層の有機層の溶解性が20nm超/minであることが好ましい。
このような洗浄液としては、上述の発光層形成用塗工液の溶媒、正孔注入層形成用塗工液の溶媒などを用いることができる。
【0129】
この際、除去される最上層の有機層の厚みが20nm以下、中でも10nm以下となるように洗浄を調整することが好ましい。除去される最上層の有機層の厚みが上記範囲を超えると、有機EL層の最表面のみを除去するのが非常に困難となり、最上層の有機層の欠落、混色等が発生するおそれがあるからである。
【0130】
除去される最上層の有機層の厚みを上記範囲とするためには、洗浄液として、最上層の有機層のみを溶解する溶剤と、最上層の有機層が不溶もしくは難溶である溶剤とを混合したものを用いることが好ましい。すなわち、洗浄液として、最上層の有機層の溶解性が20nm超/minである溶剤と、最上層の有機層の溶解性が20nm以下/min、中でも5nm以下/minである溶剤とを混合したものを用いることが好ましい。
最上層の有機層が不溶もしくは難溶である溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0131】
また、除去される最上層の有機層の厚みを上記範囲とするために、洗浄液として最上層の有機層が難溶である溶剤を用いて、比較的長い時間をかけて洗浄を行ってもよい。
【0132】
8.プラズマ処理工程
本態様においては、上記剥離工程後に、有機EL層の最表面をプラズマ処理するプラズマ処理工程を行ってもよい。これにより、有機EL層表面に残留する成分を取り除くことができるからである。
【0133】
プラズマ処理の際に用いられる導入ガスとしては、一般的に用いられているガスを使用することが可能である。中でも、有機EL層の最表面のみを除去し、有機EL層への影響が少ないガスであることが好ましい。このようなガスとしては、フッ素またはフッ素化合物を含んだガス、塩素または塩素化合物を含んだガス、酸素、アルゴン、窒素等が挙げられる。導入ガスとして、2種類以上の混合ガスを用いてもよい。
【0134】
プラズマ処理の条件としては、用いる導入ガスの種類によって適宜選択される。例えば、導入ガスとしてアルゴンを使用する場合には、パワー:200W、チャンバー内の圧力:10mTorr、ガス流量:10sccm、処理時間:30秒程度でプラズマ処理を行うことができる。
【0135】
9.その他の工程
本態様においては、通常、上記剥離工程後に、有機EL層上に対向電極層を形成する対向電極層形成工程が行われる。上記の洗浄工程やプラズマ処理工程を行った場合には、これらの洗浄工程やプラズマ処理工程後に、対向電極層形成工程が行われる。
【0136】
対向電極層は、電極層と反対の電荷をもつ電極であり、陽極であってもよく陰極であってもよい。一般に、有機EL素子を製造する際には、陽極側から積層する方が安定して有機EL素子を作製することができることから、対向電極層が陰極であることが好ましい。
【0137】
また、例えば図1(i)に示す有機EL素子においてトップエミッション型とする場合には、対向電極層は透明性を有することが好ましい。さらに、例えば図1(i)に示す有機EL素子においてボトムエミッション型とする場合には、対向電極層には透明性は要求されない。
【0138】
なお、対向電極層を形成する材料および対向電極層の形成方法については、上記有機EL層形成工程の項に記載した電極層のものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0139】
また、本態様においては、基板上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程を行ってもよい。絶縁層を形成することにより、有機EL素子の短絡等を抑制し、安定に発光する有機EL素子とすることができる。
【0140】
絶縁層に用いられる材料としては、例えば、光硬化性樹脂等を挙げることができる。
また、絶縁層の膜厚としては、0.1μm〜10μm程度で設定することができる。中でも、ドライエッチングにより発光層をパターニングする場合には、ドライエッチング耐性が発現される程度の厚みであることが好ましい。
【0141】
絶縁層の形成方法としては、一般的な絶縁層の形成方法を用いることができる。絶縁層を形成する際には、発光領域が開口部となるように、あらかじめ絶縁層をパターン状に形成してもよい。
【0142】
II.第2態様
本発明の有機EL素子の製造方法の第2態様は、電極層が形成された基板上に、少なくとも第1発光層を含む第1有機EL層を形成する第1有機EL層形成工程と、上記第1有機EL層上に第1保護層を形成する第1保護層形成工程と、上記第1保護層上にフォトレジストを塗布し、第1フォトレジスト層を形成する第1フォトレジスト層形成工程と、上記第1フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第1発光領域の上記第1フォトレジスト層が残存するように上記第1フォトレジスト層をパターニングする第1フォトレジスト層パターニング工程と、上記第1フォトレジスト層が除去された部分の上記第1保護層および上記第1有機EL層を除去することにより、上記第1有機EL層をパターニングする第1有機EL層パターニング工程と、上記第1有機EL層、上記第1保護層および上記第1フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、少なくとも第2発光層を含む第2有機EL層を形成する第2有機EL層形成工程と、上記第2有機EL層上に第2保護層を形成する第2保護層形成工程と、上記第2保護層上にフォトレジストを塗布し、第2フォトレジスト層を形成する第2フォトレジスト層形成工程と、上記第2フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第2発光領域の上記第2フォトレジスト層が残存するように上記第2フォトレジスト層をパターニングする第2フォトレジスト層パターニング工程と、上記第2フォトレジスト層が除去された部分の上記第2保護層および上記第2有機EL層を除去することにより、上記第2有機EL層をパターニングする第2有機EL層パターニング工程と、上記第1有機EL層、上記第1保護層および上記第1フォトレジスト層がパターン状に形成され、さらに上記第2有機EL層、上記第2保護層および上記第2フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、少なくとも第3発光層を含む第3有機EL層を形成する第3有機EL層形成工程と、上記第3有機EL層上に第3保護層を形成する第3保護層形成工程と、上記第3保護層上にフォトレジストを塗布し、第3フォトレジスト層を形成する第3フォトレジスト層形成工程と、上記第3フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第3発光領域の上記第3フォトレジスト層が残存するように上記第3フォトレジスト層をパターニングする第3フォトレジスト層パターニング工程と、上記第3フォトレジスト層が除去された部分の上記第3保護層および上記第3有機EL層を除去することにより、上記第3有機EL層をパターニングする第3有機EL層パターニング工程と、残存する上記第1フォトレジスト層、上記第2フォトレジスト層および上記第3フォトレジスト層、ならびに、上記第1保護層、上記第2保護層および上記第3保護層をこの順に剥離する剥離工程とを有することを特徴とするものである。
【0143】
本態様の有機EL素子の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図3〜図5は、本態様の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。まず、基板1上に電極層2をパターン状に形成し、この電極層2のパターン間に絶縁層3を形成し、電極層2および絶縁層3の上に第1正孔注入層4aおよび第1発光層5aを形成し、第1有機EL層6aとする(図3(a)、第1有機EL層形成工程)。次いで、第1発光層5a上に第1保護層7aを形成する(図3(b)、第1保護層形成工程)。次に、第1保護層7a上にポジ型フォトレジストを塗布して、第1フォトレジスト層8aを形成する(図3(c)、第1フォトレジスト層形成工程)。次いで、少なくとも第1発光領域10aの第1フォトレジスト層8aが残存するように、フォトマスク11を介して第1フォトレジスト層8aをパターン露光した後、フォトレジスト現像液により現像し、洗浄することにより、パターン状の第1フォトレジスト層8a´を形成する(図3(d)、(e)、第1フォトレジスト層パターニング工程)。次に、第1フォトレジスト層の除去により露出した部分の第1保護層7a、第1発光層5aおよび第1正孔注入層4aを除去することにより、パターン状の第1保護層7a´、第1発光層5a´および第1正孔注入層4´を形成する(図3(f)、第1有機EL層パターニング工程)。
【0144】
次に、パターン状の第1フォトレジスト層8a´、第1保護層7a´、第1発光層5a´および第1正孔注入層4a´が形成された基板1上に、第2正孔注入層4bおよび第2発光層5bを形成し、第2有機EL層6bとする(図3(g)、第2有機EL層形成工程)。次いで、第2発光層5b上に第2保護層7bを形成する(図3(h)、第2保護層形成工程)。次に、第2保護層7b上にポジ型フォトレジストを塗布して、第2フォトレジスト層8bを形成する(図4(a)、第2フォトレジスト層形成工程)。次いで、少なくとも第2発光領域10bの第2フォトレジスト層8bが残存するように、フォトマスク11を介して第2フォトレジスト層8bをパターン露光した後、フォトレジスト現像液により現像し、洗浄することにより、パターン状の第2フォトレジスト層8b´を形成する(図4(b)、(c)、第2フォトレジスト層パターニング工程)。次に、第2フォトレジスト層の除去により露出した部分の第2保護層7b、第2発光層5bおよび第2正孔注入層4bを除去することにより、パターン状の第2保護層7b´、第2発光層5b´および第2正孔注入層b´を形成する(図4(d)、第2有機EL層パターニング工程)。
【0145】
次に、パターン状の第1フォトレジスト層8a´、第1保護層7a´、第1発光層5a´および第1正孔注入層4a´、ならびにパターン状の第2フォトレジスト層8b´、第2保護層7b´、第2発光層5b´および第2正孔注入層4b´が形成された基板1上に、第3正孔注入層4cおよび第3発光層5cを形成し、第3有機EL層6cとする(図4(e)、第3有機EL層形成工程)。次いで、第3発光層5c上に第3保護層7cを形成する(図4(f)、第3保護層形成工程)。次に、第3保護層7c上にポジ型フォトレジストを塗布して、第3フォトレジスト層8cを形成する(図4(g)、第3フォトレジスト層形成工程)。次いで、少なくとも第3発光領域10cの第3フォトレジスト層8cが残存するように、フォトマスク11を介して第3フォトレジスト層8cをパターン露光した後、フォトレジスト現像液により現像し、洗浄することにより、パターン状の第3フォトレジスト層8c´を形成する(図5(a)、(b)、第3フォトレジスト層パターニング工程)。次に、第3フォトレジスト層の除去により露出した部分の第3保護層7c、第3発光層5cおよび第3正孔注入層4cを除去することにより、パターン状の第3保護層7c´、第3発光層5c´および第3正孔注入層4c´を形成する(図5(c)、第2有機EL層パターニング工程)。
【0146】
次いで、最上層に位置する第1フォトレジスト層8a´、第2フォトレジスト層8b´および第3フォトレジスト層8c´を剥離し、さらに第1保護層7a´、第2保護層7b´および第3保護層7c´を剥離する(図5(d)、剥離工程)。
最後に、第1発光層5a´、第2発光層5b´および第3発光層5c´の上に対向電極層9を形成する(図5(e)、対向電極層形成工程)。
【0147】
本態様においては、各フォトレジスト層を形成する前に、パターニングされる各有機EL層上に各保護層を形成するので、各有機EL層上にフォトレジストを直接塗布することがない。また、第2有機EL層をパターニングする際には、パターニングされた第1有機EL層および第1保護層の上に、第2有機EL層および第2保護層が形成され、この第2保護層上にフォトレジストが塗布されるので、第1有機EL層が第2フォトレジスト層と接触することもない。さらに、第3有機EL層をパターニングする際にも、同様に、第1有機EL層および第2有機EL層が第3フォトレジスト層と接触することがない。また、すべての有機EL層のパターニング後に、各フォトレジスト層および各保護層をこの順に剥離するので、パターニングされた各有機EL層の表面が、フォトレジスト成分、例えば、感光剤、添加剤、樹脂等にさらされるのを抑制することができる。このため、各保護層によって、フォトレジスト成分が各有機EL層に接触するのを防止することができる。したがって、フォトレジスト成分による寿命特性等の低下を回避することができる。
【0148】
また、上述したように、第2有機EL層をパターニングする際には、パターニングされた第1有機EL層および第1保護層の上に、第2有機EL層および第2保護層が形成されるので、第2有機EL層を除去するときの第1有機EL層へのダメージを低減することができる。また、第3有機EL層をパターニングする際にも、同様に、第3有機EL層を除去するときの第1有機EL層および第2有機EL層へのダメージを低減することができる。
したがって、長寿命の有機EL素子を得ることが可能である。
【0149】
さらに、第2フォトレジスト層パターニング工程にて、第2発光領域の第2フォトレジスト層が残存するように第2フォトレジスト層をパターニングするので、パターニングされた第1有機EL層上に、第2フォトレジスト層が残存することがない。すなわち、パターニングされた第1有機EL層上に積層されているフォトレジスト層は第1フォトレジスト層のみである。さらに、第2フォトレジスト層の除去により露出した部分の第2有機EL層も、第2有機EL層パターニング工程にて、除去されることから、第1有機EL層上に、第2有機EL層が残存することもない。したがって、パターニングされた第1有機EL層上に、余分な層が積層されている状態を回避することができる。これにより、複数の層を積層することから生じる膜厚ムラ等を解消することが可能となる。
【0150】
また、第1有機EL層上には、剥離工程にて剥離される第1フォトレジスト層および第1保護層が積層されているだけであり、これらの第1フォトレジスト層および第1保護層は、各有機EL層パターニング工程後において、最上層に位置することとなる。したがって、第1フォトレジスト層および第1保護層を容易に速やかに剥離することができる。
【0151】
なお、第1フォトレジスト層パターニング工程、第1有機EL層パターニング工程、第2フォトレジスト層パターニング工程、第2有機EL層パターニング工程、第3フォトレジスト層パターニング工程、第3有機EL層パターニング工程および剥離工程については、上記第1態様のフォトレジスト層パターニング工程、有機EL層パターニング工程および剥離工程とそれぞれ同様であるので、ここでの説明は省略する。
以下、本態様の有機EL素子の製造方法の上記以外の各工程について説明する。
【0152】
1.第1有機EL層形成工程
本態様における第1有機EL層形成工程は、電極層が形成された基板上に、少なくとも第1発光層を含む第1有機EL層を形成する工程である。
【0153】
本態様においては、複数回にわたりフォトリソグラフィー法を用いてパターニングすることにより、複数色の発光層をパターン状に形成することができる。したがって、第1、第2および第3有機EL層形成工程では、それぞれ異なる種類の発光材料が用いられる。この際、製造コスト低減の観点から、発光層形成用塗工液を塗布することにより発光層を形成することが好ましい。
【0154】
第1有機EL層が第1正孔注入層および第1発光層から構成されている場合であって、後述する第2有機EL層形成工程にて、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第2正孔注入層形成用塗工液を塗布することにより第2正孔注入層を形成する場合には、第1正孔注入層は、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。すなわち、第1正孔注入層の溶解性は、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して5nm以下/minであることが好ましい。これにより、第2正孔注入層の成膜の際に、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒が第1正孔注入層のパターンの端部に接触しても、第1正孔注入層は溶解されないので、安定して第2正孔注入層を積層することができるからである。
【0155】
第1正孔注入層を第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとするためには、第1正孔注入層に、熱もしくは放射線エネルギーにより硬化する硬化性バインダを用いることができる。加熱または活性放射線照射によって、硬化性バインダを硬化させることにより、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に不溶な第1正孔注入層とすることができるからである。
【0156】
この際、第1正孔注入層を形成する材料としては、硬化性バインダと正孔注入性を有する材料とを混合したもの、あるいは、分子内に水酸基(−OH)またはカルボキシル基(−COOH)を有する水溶性または水分散性の導電性材料に不溶化処理を施したものを用いることができる。
後者の場合、例えば、高分子発光材料を用いた発光層を有する有機EL素子において、正孔注入層を形成する材料として非常に有効である、ポリ(3,4−アルケンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)およびそれら誘導体からなる導電性高分子材料は、一般的に加熱乾燥後には不溶化しない。しかしながら、Applied physics letter, Vol 81, (2002)に記載されているような光開始剤等を上記導電性高分子材料に混合することにより、紫外線照射によって硬化させることができる。
【0157】
硬化性バインダとしては、熱もしくは放射線エネルギーの作用により硬化するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ゾルゲル反応液、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂を挙げることができる。なお、ゾルゲル反応液とは、硬化後にゲル化する反応液をいう。
【0158】
中でも、硬化性バインダは、オルガノポリシロキサンを含むことが好ましい。オルガノポリシロキサンは、汎用性が高く、入手が容易だからである。また、特殊な反応条件を必要とせず、簡便な方法によりオルガノポリシロキサンの架橋反応を進行させることができるので、オルガノポリシロキサンは取扱い易いという利点も有する。
【0159】
上記オルガノポリシロキサンとしては、例えば特開2000−249821号公報に記載されているもの等を用いることができる。
【0160】
第1正孔注入層形成用塗工液は、上記の硬化性バインダおよび正孔注入性を有する材料等を、溶媒に分散もしくは溶解して調製される。例えば、硬化性バインダがオルガノポリシロキサンを含む場合には、溶媒としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系が好ましく用いられる。
第1正孔注入層形成用塗工液の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、ビードコート法等が挙げられる。
【0161】
第1正孔注入層は、第1正孔注入層形成用塗工液を塗布して得られる塗膜に硬化処理を行うことにより、形成することができる。
硬化処理としては、熱エネルギーの付与、または放射線の照射が挙げられる。熱エネルギーの付与としては、80〜250℃程度、好ましくは100〜200℃程度の温度で加熱すればよい。これにより、シランカップリング反応を進行させて、第1正孔注入層を架橋硬化することができる。
【0162】
また、第1正孔注入層を第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとするために、第1正孔注入層に熱もしくは放射線エネルギーの作用により溶解性が変化する材料を用いるか、第1正孔注入層および第2正孔注入層にそれぞれ溶解性が異なる材料を用いてもよい。
【0163】
ここで、材料の溶解性が変化するとは、材料の主成分が溶解もしくは分散する溶媒の極性が変化することをいう。熱もしくは放射線エネルギーの作用により溶解性が変化する材料を含有する層に対して、熱エネルギーを付与または放射線を照射することにより、材料の溶解性を変化させると、その層を形成するために用いた塗工液の溶媒と、熱エネルギー付与または放射線照射後の層が溶解する溶媒とでは、極性が異なるものとなる。
【0164】
材料の溶解性が変化する程度としては、熱エネルギー付与または放射線照射後の第1正孔注入層が、第1正孔注入層形成用塗工液に用いた溶媒に、実質的に溶解したり混和したりしない程度であればよい。具体的には、熱エネルギー付与または放射線照射後の第1正孔注入層の溶解性が、第1正孔注入層形成用塗工液に用いた溶媒に対して、5nm以下/minとなることを指標にすることができる。
【0165】
第1正孔注入層に用いられる、熱もしくは放射線エネルギーの作用により溶解性が変化する材料としては、例えば、親水性有機材料の親水性基の一部または全部が親油性基に変換されたものであり、かつ、熱もしくは放射線エネルギーの作用により親油性基の一部または全部が親水性基に戻るものが好適に用いられる。
【0166】
上記の材料においては、親水性有機材料の親水性基のすべてが親油性基に変換されている必要はない。親水性基が親油性基に変換されている割合としては、一般的な非水系有機溶剤に対して、所望の濃度以上の溶解性を保持し得る程度であればよい。具体的には、水、アルコール系溶剤に溶解もしくは分散する親水性有機材料が、一般的な非水系溶剤である、トルエン、キシレン、酢酸エチル、シクロヘキサノン等に0.5質量%以上溶解する程度に、親水性基が親油性基に変換されていることが好ましい。
【0167】
また、上記の材料においては、親油性基のすべてが親水性基に戻る必要はない。親油性基が親水性基に戻る割合としては、第1正孔注入層が第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に溶解しない程度であればよい。具体的には、トルエン、キシレン、酢酸エチル、シクロヘキサノン等に0.5質量%以上溶解する材料が、トルエン、キシレン、酢酸エチル、シクロヘキサノン等に不溶もしくは難溶になる程度に、親油性基が親水性基に戻ることが好ましい。この際、完全に当初の親水性有機材料に戻らなくてもよい。
【0168】
上記親水性有機材料としては、親水性基を有し、水に分散もしくは溶解するものであればよく、例えば、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリアニリン誘導体、トリフェニルアミンやトリフェニルジアミン等のアリールアミン類などが挙げられる。ポリアルキルチオフェン誘導体およびポリアニリン誘導体は、ポリスチレンスルホン酸等の酸によりドーピングされていてもよい。
また、親水性基としては、変換反応の容易さから、塩を含まない、スルホン酸基、カルボン酸基、水酸基が好ましい。
【0169】
第1正孔注入輸送層に用いられる親水性有機材料としては、変換処理に対する耐久性、精製の容易さ、コストの点から、ポリスチレンスルホン酸もしくはポリチオフェンスルホン酸またはそれらの誘導体を含んでいることが好ましい。
【0170】
親水性有機材料における親水性基を親油性基に変換する方法としては、熱もしくは放射線エネルギーの作用により親油性基の一部または全部が親水性基に戻ることから、保護反応を利用する方法であることが好ましい。ここで、保護反応とは、親水性基を誘導体化して、一時的に親水性基に保護基を導入する反応をいう。保護反応としては、エステル化、アセチル化、トシル化、トリフェニルメチル化、アルキルシリル化、またはアルキルカルボニル化であることが好ましい。
【0171】
具体的な保護反応としては、スルホン酸基やカルボン酸基の少なくとも一部を、五酸化リンや塩化チオニルなどの塩素化剤により、スルホクロリド基やカルボニルクロリド基に変換し、これらの塩化物にメタノールやエタノール等のアルコールを反応させてエステル化する方法が挙げられる。
【0172】
このように親水性有機材料の親水性基の一部または全部が親油性基に変換された材料は、親水性基に保護基が導入されたために、溶解性が親水性から親油性に変化する。
【0173】
第1正孔注入層形成用塗工液は、上記の親水性有機材料の親水性基の一部または全部が親油性基に変換された材料を、溶媒に分散もしくは溶解することにより調製することができる。この際、溶媒としては、親油性の材料を分散もしくは溶解できるものが用いられる。このような溶媒としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル等が挙げられる。
また、第1正孔注入層形成用塗工液中の、親水性有機材料の親水性基の一部または全部が親油性基に変換された材料の濃度としては、材料の成分または組成によって異なるものではあるが、通常、0.1質量%以上で設定され、好ましくは1質量%〜5質量%程度である。
【0174】
第1正孔注入層は、上記第1正孔注入層形成用塗工液を塗布して得られる塗膜に、熱エネルギーを付与または放射線を照射して、塗膜の溶解性を変化させることにより、得ることができる。上記第1正孔注入層形成用塗工液の塗布後には、乾燥を行ってもよい。第1正孔注入層形成用塗工液塗布後の塗膜の溶解性は、親油性となっている。
【0175】
この塗膜に熱エネルギーを付与または放射線を照射すると、上記保護反応により導入された保護基が脱離し、揮散する。具体的には、エステル化されたスルホン酸基やカルボン酸基に、熱エネルギーを付与または放射線を照射すると、エステル結合が分解され、フリーまたは塩の状態のスルホン酸基やカルボン酸基が復元される。
【0176】
保護基が脱離すると、膜の溶解性が親油性から親水性に変化する。このように親水性となった膜は、第1正孔注入層形成用塗工液に用いた溶媒には混和しなくなる。すなわち、熱エネルギー付与または放射線照射後の第1正孔注入層は、第1正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶となる。
【0177】
熱エネルギーの付与としては、例えば、約200〜220℃で約60〜90分間加熱処理すればよい。この加熱処理は、第1正孔注入層形成用塗工液塗布後の乾燥と同時に行ってもよい。
【0178】
また、放射線としては、例えば、紫外線や電子線が挙げられる。紫外線の照射条件としては、例えば、200〜250mJ/cm程度(波長:400nm以下)で設定することができる。また、電子線の照射条件としては、例えば、500kV以上、35mAで設定することができる。
【0179】
また、第1有機EL層が第1正孔注入層および第1発光層から構成されている場合であって、後述する第2有機EL層形成工程にて、上記第2正孔注入層上に、第2発光層形成用塗工液を塗布することにより第2発光層を形成する場合には、第1発光層は、第2発光層形成用塗工液の溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。第2発光層形成前において、第1発光層は、第2正孔注入層によって覆われているため、第2発光層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0180】
さらに、第1有機EL層が第1正孔注入層および第1発光層から構成されている場合であって、後述する第3有機EL層形成工程にて、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第3正孔注入層形成用塗工液を塗布することにより第3正孔注入層を形成する場合には、第1正孔注入層は、第3正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。
【0181】
なお、第1正孔注入層を第3正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとすることについては、上述した第1正孔注入層を第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとする場合と同様である。
【0182】
また、第1有機EL層が第1正孔注入層および第1発光層から構成されている場合であって、後述する第3有機EL層形成工程にて、上記第3正孔注入層上に、第3発光層形成用塗工液を塗布することにより第3発光層を形成する場合には、第1発光層は、第3発光層形成用塗工液の溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。
【0183】
なお、第1有機EL層形成工程のその他の点については、上記第1態様の有機EL層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0184】
2.第1保護層形成工程
本態様における第1保護層形成工程は、第1有機EL層上に第1保護層を形成する工程である。
【0185】
後述する第2有機EL層形成工程にて、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第2正孔注入層形成用塗工液を塗布することにより第2正孔注入層を形成する場合には、第1保護層は、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。すなわち、第1保護層の溶解性は、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して5nm以下/minであることが好ましい。これにより、第2正孔注入層の成膜の際に、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒が第1保護層のパターンの端部に接触しても、第1保護層は溶解されないので、安定して第2正孔注入層を積層することができるからである。
【0186】
第1保護層を第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとするために、第1保護層および第2正孔注入層に溶解性が異なる材料を用いればよい。
【0187】
さらに、後述する第2保護層形成工程にて、第2有機EL層上に第2保護層形成用塗工液を塗布することにより第2保護層を形成する場合には、第1保護層は、第2保護層形成用塗工液の溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。第2保護層形成前において、第1保護層は、第2有機EL層によって覆われているため、第2保護層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0188】
なお、第1保護層形成工程のその他の点については、上記第1態様の保護層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0189】
3.第1フォトレジスト層形成工程
本態様における第1フォトレジスト層形成工程は、第1保護層上にフォトレジストを塗布し、第1フォトレジスト層を形成する工程である。
本態様においては、フォトレジスト層に第1、第2および第3の3種類を用いているが、いずれも便宜上使い分けているだけであり、全て同様のフォトレジスト層であってもよい。
【0190】
後述する第2有機EL層形成工程にて、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第2正孔注入層形成用塗工液を塗布することにより第2正孔注入層を形成する場合には、第1フォトレジスト層は、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。すなわち、第1フォトレジスト層の溶解性は、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して5nm以下/minであることが好ましい。これにより、第2正孔注入層の成膜の際に、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒が第1フォトレジスト層に接触しても、第1フォトレジスト層は溶解されないので、安定して第2正孔注入層を積層することができるからである。
【0191】
第1フォトレジスト層を第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとするために、第1フォトレジスト層および第2正孔注入層に溶解性が異なる材料を用いればよい。
【0192】
さらに、第1フォトレジスト層は、第2フォトレジスト層形成工程にて用いられるフォトレジスト溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。第2フォトレジスト層形成前において、第1フォトレジスト層は、第2有機EL層および第2保護層によって覆われているため、第2保護層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0193】
なお、第1フォトレジスト層形成工程のその他の点については、上記第1態様のフォトレジスト層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0194】
4.第2有機EL層形成工程
本態様における第2有機EL層形成工程は、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、少なくとも第2発光層を含む第2有機EL層を形成する工程である。
【0195】
第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第2正孔注入層形成用塗工液を塗布することにより第2正孔注入層を形成する場合には、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒は、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層を溶解しないものであることが好ましい。すなわち、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒は、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層の溶解性がそれぞれ5nm以下/minであることが好ましい。これは、第2正孔注入層の成膜の際に、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒が、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層に接触するためである。具体的には、第2正孔注入層の成膜の際に、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒が、第1有機EL層および第1保護層のパターンの端部、ならびに、第1フォトレジスト層のパターンの表面および端部に接触する。
【0196】
上記の場合、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒が、第1フォトレジスト層のパターンの表面および端部に接触する面積に比べて、第1有機EL層および第1保護層のパターンの端部に接触する面積は非常に小さい。このため、第2正孔注入層を安定に積層する、あるいは、1画素の最小寸法値が100μmよりも小さい部分を有する場合には、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒が、第1有機EL層および第1保護層を溶解しないことが非常に有効である。
【0197】
また、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第2発光層形成用塗工液を塗布することにより第2発光層を形成する場合には、第2発光層形成用塗工液の溶媒は、第1フォトレジスト層を溶解しないものであることが好ましい。すなわち、第2発光層形成用塗工液の溶媒は、第1フォトレジスト層の溶解性が5nm以下/minであることが好ましい。
【0198】
例えば、第1フォトレジスト層に一般的なノボラック系ポジ型フォトレジストを用いた場合、上記溶媒としては、上記第1態様の有機EL層形成工程の項に記載した、発光層形成用塗工液に用いられる溶媒が好ましく用いられる。
【0199】
第2有機EL層が第2正孔注入層および第2発光層から構成されている場合であって、後述する第3有機EL層形成工程にて、第2有機EL層、第2保護層および第2フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第2正孔注入層形成用塗工液を塗布することにより第2正孔注入層を形成する場合には、第2正孔注入層は、第3正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。
【0200】
なお、第2正孔注入層を第3正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとすることについては、上述した第1正孔注入層を第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとする場合と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0201】
また、第2有機EL層が第2正孔注入層および第2発光層から構成されている場合であって、後述する第3有機EL層形成工程にて、上記第3正孔注入層上に、第3発光層形成用塗工液を塗布することにより第3発光層を形成する場合には、第2発光層は、第3発光層形成用塗工液の溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。第3発光層形成前において、第2発光層は、第3正孔注入層によって覆われているため、第3発光層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0202】
また、第2有機EL層形成工程のその他の点については、上記第1態様の有機EL層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0203】
5.第2保護層形成工程
本態様における第2保護層形成工程は、第2有機EL層上に第2保護層を形成する工程である。
【0204】
第2有機EL層上に、第2保護層形成用塗工液を塗布することにより第2保護層を形成する場合には、第2保護層形成用塗工液の溶媒は、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層を溶解するものであってもよく溶解しないものであってもよい。第2保護層形成前において、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層は、第2有機EL層によって覆われているため、第2保護層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0205】
また、後述する第3有機EL層形成工程にて、第2有機EL層、第2保護層および第2フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第3正孔注入層形成用塗工液を塗布することにより第3正孔注入層を形成する場合には、第2保護層は、第3正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。すなわち、第2保護層の溶解性は、第3正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して5nm以下/minであることが好ましい。これにより、第3正孔注入層の成膜の際に、第3正孔注入層形成用塗工液の溶媒が第2保護層のパターンの端部に接触しても、第2保護層は溶解されないので、安定して第3正孔注入層を積層することができるからである。
【0206】
第2保護層を第3正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとするために、第2保護層および第3正孔注入層に溶解性が異なる材料を用いればよい。
【0207】
さらに、後述する第3保護層形成工程にて、第3有機EL層上に第3保護層形成用塗工液を塗布することにより第3保護層を形成する場合には、第2保護層は、第3保護層形成用塗工液の溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。第3保護層形成前において、第2保護層は、第3有機EL層によって覆われているため、第3保護層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0208】
なお、第2保護層形成工程のその他の点については、上記第1態様の保護層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0209】
6.第2フォトレジスト層形成工程
本態様における第2フォトレジスト層形成工程は、第2保護層上にフォトレジストを塗布し、第2フォトレジスト層を形成する工程である。
【0210】
本工程に用いられるフォトレジスト溶媒は、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層を溶解するものであってもよく溶解しないものであってもよい。第2フォトレジスト層形成前において、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層は、第2有機EL層および第2保護層によって覆われているため、フォトレジスト溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0211】
また、後述する第3有機EL層形成工程にて、第2有機EL層、第2保護層および第2フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第3正孔注入層形成用塗工液を塗布することにより第3正孔注入層を形成する場合には、第2フォトレジスト層は、第3正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶であることが好ましい。すなわち、第2フォトレジスト層の溶解性は、第3正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して5nm以下/minであることが好ましい。これにより、第3正孔注入層の成膜の際に、第3正孔注入層形成用塗工液の溶媒が第2フォトレジスト層に接触しても、第2フォトレジスト層は溶解されないので、安定して第3正孔注入層を積層することができるからである。
【0212】
第2フォトレジスト層を第3正孔注入層形成用塗工液の溶媒に対して不溶なものとするために、第2フォトレジスト層および第3正孔注入層に溶解性が異なる材料を用いればよい。
【0213】
さらに、第2フォトレジスト層は、第3フォトレジスト層形成工程にて用いられるフォトレジスト溶媒に対して、不溶、難溶および可溶のいずれであってもよい。第3フォトレジスト層形成前において、第2フォトレジスト層は、第3有機EL層および第3保護層によって覆われているため、第3保護層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0214】
なお、第2フォトレジスト層形成工程のその他の点については、上記第1態様のフォトレジスト層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0215】
7.第3有機EL層形成工程
本態様における第3有機EL層形成工程は、第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層がパターン状に形成され、さらに第2有機EL層、第2保護層および第2フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、少なくとも第3発光層を含む第3有機EL層を形成する工程である。
【0216】
第1有機EL層、第1保護層および第1フォトレジスト層がパターン状に形成され、さらに第2有機EL層、第2保護層および第2フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、第3正孔注入層形成用塗工液を塗布することにより第3正孔注入層を形成する場合には、第3正孔注入層形成用塗工液の溶媒は、第1有機EL層、第1保護層、第1フォトレジスト層、第2有機EL層、第2保護層および第2フォトレジスト層を溶解しないものであることが好ましい。すなわち、第2正孔注入層形成用塗工液の溶媒は、第1有機EL層、第1保護層、第1フォトレジスト層、第2有機EL層、第2保護層および第2フォトレジスト層の溶解性がそれぞれ5nm以下/minであることが好ましい。
【0217】
なお、第3有機EL層形成工程のその他の点については、上記第1態様の有機EL層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0218】
8.第3保護層形成工程
本発明における第3保護層形成工程は、第3有機EL層上に第3保護層を形成する工程である。
【0219】
第3有機EL層上に、第3保護層形成用塗工液を塗布することにより第3保護層を形成する場合には、第3保護層形成用塗工液の溶媒は、第1有機EL層、第1保護層、第1フォトレジスト層、第2有機EL層、第2保護層および第2フォトレジスト層を溶解するものであってもよく溶解しないものであってもよい。第2保護層形成前において、第1有機EL層、第1保護層、第1フォトレジスト層、第2有機EL層、第2保護層および第2フォトレジスト層は、第3有機EL層によって覆われているため、第3保護層形成用塗工液の溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0220】
なお、第3保護層形成工程のその他の点については、上記第1態様の保護層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0221】
9.第3フォトレジスト層形成工程
本発明における第3フォトレジスト層形成工程は、第3保護層上にフォトレジストを塗布し、第3フォトレジスト層を形成する工程である。
【0222】
本工程に用いられるフォトレジスト溶媒は、第1有機EL層、第1保護層、第1フォトレジスト層、第2有機EL層、第2保護層および第2フォトレジスト層を溶解するものであってもよく溶解しないものであってもよい。第2フォトレジスト層形成前において、第1有機EL層、第1保護層、第1フォトレジスト層、第2有機EL層、第2保護層および第2フォトレジスト層は、第3有機EL層および第3保護層によって覆われているため、フォトレジスト溶媒に対して可溶であっても、その溶媒に接触することがなく、溶解しないからである。
【0223】
なお、第3フォトレジスト層形成工程のその他の点については、上記第1態様のフォトレジスト層形成工程の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0224】
10.その他の工程
本態様においては、剥離工程後、各有機EL層の最表面を洗浄する洗浄工程を行ってもよい。また、剥離工程後、各有機EL層の最表面をプラズマ処理するプラズマ処理工程を行ってもよい。
なお、洗浄工程およびプラズマ処理工程については、上記第1態様の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0225】
さらに、本態様においては、通常、上記剥離工程後に、各有機EL層上に対向電極層を形成する対向電極層形成工程が行われる。
なお、対向電極層形成工程については、上記第1態様の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0226】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0227】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
【0228】
[実施例1]
(電極層および絶縁層の形成)
透明ガラス基板上に、電極層として、幅85μm、ピッチ100μmの酸化インジウム錫(ITO)膜が形成された基板を準備した。この基板上の全面に、ポジ型フォトレジスト(東京応化社製、OFPR-800)をスピンコーティング法により塗布し、乾燥させ、膜厚1μmの絶縁膜を形成した。次に、発光領域が開口部となるように設計されたフォトマスク(クロムライン幅(遮光部)70μm、開口幅(透過部)30μm)を用いて、ITO膜の端部が覆い隠されるようにアライメント露光機により紫外線照射を行った。次いで、フォトレジスト現像液(東京応化社製、NMD-3)により露光部の絶縁膜を除去し、その後、ホットプレート上で230℃、1時間加熱処理を行い、絶縁膜を完全に加熱硬化させ、絶縁層を形成した。
【0229】
(有機EL層の形成)
ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)の水溶液(スタルク社製 Baytron P CH-8000)に、有機官能基としてグリシド基(-CHOCH2)を有するγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東芝シリコーン社製 TSL8350)を、PEDOT/PSS固形分に対して10重量%添加し、正孔注入層形成用塗工液を調製した。上記絶縁層が形成された基板上の全面に、この正孔注入層形成用塗工液をスピンコーティング法により塗布し、加熱乾燥させ、膜厚100nmの正孔注入層を形成した。
【0230】
次に、赤色の発光を示すポリフルオレン誘導体(American Dye Source社製、ADS100RE)の1wt%トルエン溶液を調製し、発光層形成用塗工液を得た。上記正孔注入層上の全面に、この発光層形成用塗工液をスピンコーティング法により塗布し、加熱乾燥させて、膜厚100nmの発光層を形成した。これにより、有機EL層を形成した。
【0231】
(保護層の形成)
酢酸セルロース(ダイセル化学社製)を、酢酸メチルおよびメタノールの混合溶媒(酢酸メチル:メタノール=9:1)に溶解させ、酢酸セルロースの2wt%混合溶液を調製し、保護層形成用塗工液とした。上記発光層上の全面に、この保護層形成用塗工液をスピンコーティング法により塗布し、加熱乾燥させ、膜厚0.1μmの保護層を形成した。
【0232】
(フォトレジスト層の形成)
上記保護層上の全面に、ポジ型フォトレジスト(東京応化社製、OFPR-800)をスピンコーティング法により塗布し、乾燥させ、膜厚1μmのフォトレジスト層を形成した。
【0233】
(有機EL層のパターニング)
発光領域が遮光部となるように設計されたフォトマスク(ライン幅(遮光部)85μm、スペース幅(透過部)15μm)を用いて、アライメント露光機により紫外線照射を行った。次いで、レジスト現像液(東京応化社製、NMD-3)により露光部のフォトレジスト層を除去した。その後、真空プラズマ装置によりドライエッチングを行い、フォトレジスト層が除去された部分の有機EL層および保護層を完全に除去した。
【0234】
(フォトレジスト層および保護層の剥離)
次に、未露光部の残ったフォトレジスト層および保護層を、酢酸エチルに室温で20分間浸漬し、その後、再度、酢酸エチルにより基板の表裏面を十分に洗浄し、フォトレジスト成分および保護層を十分に洗い流し、フォトレジスト層および保護層を完全に除去した。
【0235】
(対向電極層の形成)
次に、露出した有機EL層上に、カルシウムを1000Åの厚さで蒸着し、さらに、酸化保護層として銀を2000Åの厚さで蒸着して、対向電極層を形成した。
さらに、ガラス基板上に熱硬化性接着剤が塗布されたものを封止板として、窒素ガス置換されたグローブボックス中で、この封止板を有機EL層が完全に密閉されるように接着し、80℃で1時間加熱を行い、完全に密閉した。
【0236】
[実施例2]
実施例1において、フォトレジスト層および保護層の除去後に、基板をγ−ブチロラクトンに5分間浸漬した以外は、実施例1と同様して有機EL素子を作製した。
【0237】
[実施例3]
実施例1において、下記のようにしてフォトレジスト層および保護層を除去した以外は、実施例1と同様して有機EL素子を作製した。
未露光部の残ったフォトレジスト層を、メチルイソブチルケトンに室温で10分間浸漬し、その後、再度、メチルイソブチルケトンにより基板の表裏面を十分に洗浄し、フォトレジスト成分を十分に洗い流し、フォトレジスト層のみを完全に除去した。次に、別チャンバーにて、未露光部の残った保護層を、酢酸エチルに室温で10分間浸漬し、保護層のみを完全に除去した。
【0238】
[実施例4]
実施例1において、下記のようにしてフォトレジスト層および保護層を除去した以外は、実施例1と同様して有機EL素子を作製した。
未露光部の残ったフォトレジスト層を、メチルイソブチルケトンに室温で10分間浸漬し、その後、再度、メチルイソブチルケトンにより基板の表裏面を十分に洗浄し、フォトレジスト成分を十分に洗い流し、フォトレジスト層のみを完全に除去した。次に、別チャンバーにて、未露光部の残った保護層を、酢酸エチルに室温で10分間浸漬し、保護層のみを完全に除去した。次いで、フォトレジスト層および保護層の除去後に、基板をγ−ブチロラクトンに5分間浸漬した。
【0239】
[実施例5]
(電極層および絶縁層の形成)
透明ガラス基板上に、電極層として、幅85μm、ピッチ100μmの酸化インジウム錫(ITO)膜が形成された基板を準備した。この基板上の全面に、ポジ型フォトレジスト(東京応化社製、OFPR-800)をスピンコーティング法により塗布し、乾燥させ、膜厚1μmの絶縁膜を形成した。次に、発光領域が開口部となるように設計されたフォトマスク(クロムライン幅(遮光部)70μm、開口幅(透過部)30μm)を用いて、ITO膜の端部が覆い隠されるようにアライメント露光機により紫外線照射を行った。次いで、フォトレジスト現像液(東京応化社製、NMD-3)により露光部の絶縁膜を除去し、その後、ホットプレート上で230℃、1時間加熱処理を行い、絶縁膜を完全に加熱硬化させ、絶縁層を形成した。
【0240】
(第1有機EL層の形成)
ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)の水溶液(スタルク社製 Baytron P CH-8000)に、有機官能基としてグリシド基(-CHOCH2)を有するγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東芝シリコーン社製 TSL8350)を、PEDOT/PSS固形分に対して10重量%添加し、正孔注入層形成用塗工液を調製した。上記絶縁層が形成された基板上の全面に、この正孔注入層形成用塗工液をスピンコーティング法により塗布し、加熱乾燥させ、膜厚100nmの第1正孔注入層を形成した。
【0241】
次に、赤色の発光を示すポリフルオレン誘導体(American Dye Source社製、ADS100RE)の1wt%トルエン溶液を調製し、赤色発光層形成用塗工液を得た。上記第1正孔注入層上の全面に、この赤色発光層形成用塗工液をスピンコーティング法により塗布し、加熱乾燥させて、膜厚100nmの第1発光層を形成した。これにより、第1有機EL層を形成した。
【0242】
(第1保護層の形成)
酢酸セルロース(ダイセル化学社製)を、酢酸メチルおよびメタノールの混合溶媒(酢酸メチル:メタノール=9:1)に溶解させ、酢酸セルロースの2wt%混合溶液を調製し、保護層形成用塗工液とした。上記第1発光層上の全面に、この保護層形成用塗工液をスピンコーティング法により塗布し、加熱乾燥させ、膜厚0.1μmの第1保護層を形成した。
【0243】
(第1フォトレジスト層の形成)
上記第1保護層上の全面に、ポジ型フォトレジスト(東京応化社製、OFPR-800)をスピンコーティング法により塗布し、乾燥させ、膜厚1μmの第1フォトレジスト層を形成した。
【0244】
(第1有機EL層のパターニング)
第1発光領域が遮光部となるように設計されたフォトマスク(ライン幅(遮光部)85μm、スペース幅(透過部)215μm)を用いて、アライメント露光機により紫外線照射を行った。次いで、レジスト現像液(東京応化社製、NMD-3)により露光部の第1フォトレジスト層を除去した。その後、真空プラズマ装置によりドライエッチングを行い、第1フォトレジスト層が除去された部分の第1有機EL層および第1保護層を完全に除去した。
【0245】
(第2有機EL層の形成)
次に、残った第1フォトレジスト層を剥離することなく、上記基板上の全面に、上記正孔注入層形成用塗工液をスピンコーティング法により塗布し、加熱乾燥させ、膜厚100nmの第2正孔注入層を形成した。
【0246】
次に、緑色の発光を示すポリフルオレン誘導体(American Dye Source社製、ADS132GE)の1wt%トルエン溶液を調製し、緑色発光層形成用塗工液を得た。上記第2正孔注入層上の全面に、この緑色発光層形成用塗工液をスピンコーティング法により塗布し、加熱乾燥させて、膜厚100nmの第2発光層を形成した。これにより、第2有機EL層を形成した。
【0247】
(第2保護層の形成)
上記第2発光層上の全面に、上記保護層形成用塗工液をスピンコーティング法により塗布し、加熱乾燥させ、膜厚0.1μmの第2保護層を形成した。
【0248】
(第2フォトレジスト層の形成)
上記第2保護層上の全面に、ポジ型フォトレジスト(東京応化社製、OFPR-800)をスピンコーティング法により塗布し、乾燥させ、膜厚1μmの第2フォトレジスト層を形成した。
【0249】
(第2有機EL層のパターニング)
第2発光領域が遮光部となるように設計されたフォトマスク(ライン幅(遮光部)85μm、スペース幅(透過部)215μm)を用いて、アライメント露光機により紫外線照射を行った。次いで、レジスト現像液(東京応化社製、NMD-3)により露光部の第2フォトレジスト層を除去した。その後、真空プラズマ装置によりドライエッチングを行い、第2フォトレジスト層が除去された部分の第2有機EL層および第2保護層を完全に除去した。
【0250】
(第3有機EL層の形成)
次に、残った第1フォトレジスト層および第2フォトレジスト層を剥離することなく、上記基板上の全面に、上記正孔注入層形成用塗工液をスピンコーティング法により塗布し、加熱乾燥させ、膜厚100nmの第3正孔注入層を形成した。
【0251】
次に、青色の発光を示すポリフルオレン誘導体(American Dye Source社製、ADS135BE)の1wt%トルエン溶液を調製し、青色発光層形成用塗工液を得た。上記第3正孔注入層上の全面に、この青色発光層形成用塗工液をスピンコーティング法により塗布し、加熱乾燥させて、膜厚100nmの第3発光層を形成した。これにより、第3有機EL層を形成した。
【0252】
(第3保護層の形成)
上記第3発光層上の全面に、上記保護層形成用塗工液をスピンコーティング法により塗布し、加熱乾燥させ、膜厚0.1μmの第3保護層を形成した。
【0253】
(第3フォトレジスト層の形成)
上記第3保護層上の全面に、ポジ型フォトレジスト(東京応化社製、OFPR-800)をスピンコーティング法により塗布し、乾燥させ、膜厚1μmの第3フォトレジスト層を形成した。
【0254】
(第3有機EL層のパターニング)
第3発光領域が遮光部となるように設計されたフォトマスク(ライン幅(遮光部)85μm、スペース幅(透過部)215μm)を用いて、アライメント露光機により紫外線照射を行った。次いで、レジスト現像液(東京応化社製、NMD-3)により露光部の第3フォトレジスト層を除去した。その後、真空プラズマ装置によりドライエッチングを行い、第3フォトレジスト層が除去された部分の第3有機EL層および第3保護層を完全に除去した。
【0255】
(フォトレジスト層および保護層の剥離)
次に、未露光部の残った各フォトレジスト層および各保護層を、酢酸エチルに室温で20分間浸漬し、その後、再度、酢酸エチルにより基板の表裏面を十分に洗浄し、各フォトレジスト成分および各保護層を十分に洗い流し、各フォトレジスト層および各保護層を完全に除去した。
【0256】
(対向電極層の形成)
次に、露出した有機EL層上に、カルシウムを1000Åの厚さで蒸着し、さらに、酸化保護層として銀を2000Åの厚さで蒸着して、対向電極層を形成した。
さらに、ガラス基板上に熱硬化性接着剤が塗布されたものを封止板として、窒素ガス置換されたグローブボックス中で、この封止板を有機EL層が完全に密閉されるように接着し、80℃で1時間加熱を行い、完全に密閉した。
【0257】
[実施例6]
実施例5において、各フォトレジスト層および各保護層の除去後に、基板をγ−ブチロラクトンに5分間浸漬した以外は、実施例5と同様して有機EL素子を作製した。
【0258】
[実施例7]
実施例5において、下記のようにして各フォトレジスト層および各保護層を除去した以外は、実施例5と同様して有機EL素子を作製した。
未露光部の残った各フォトレジスト層を、メチルイソブチルケトンに室温で10分間浸漬し、その後、再度、メチルイソブチルケトンにより基板の表裏面を十分に洗浄し、フォトレジスト成分を十分に洗い流し、各フォトレジスト層のみを完全に除去した。次に、別チャンバーにて、未露光部の残った各保護層を、酢酸エチルに室温で10分間浸漬し、各保護層のみを完全に除去した。
【0259】
[実施例8]
実施例5において、下記のようにして各フォトレジスト層および各保護層を除去した以外は、実施例5と同様して有機EL素子を作製した。
未露光部の残った各フォトレジスト層を、メチルイソブチルケトンに室温で10分間浸漬し、その後、再度、メチルイソブチルケトンにより基板の表裏面を十分に洗浄し、フォトレジスト成分を十分に洗い流し、各フォトレジスト層のみを完全に除去した。次に、別チャンバーにて、未露光部の残った各保護層を、酢酸エチルに室温で10分間浸漬し、各保護層のみを完全に除去した。次いで、各フォトレジスト層および各保護層の除去後に、基板をγ−ブチロラクトンに5分間浸漬した。
【0260】
[比較例1]
実施例1において、保護層を形成しなかった以外は、実施例1と同様して有機EL素子を作製した。
【0261】
[比較例2]
実施例5において、各保護層を形成しなかった以外は、実施例5と同様して有機EL素子を作製した。
【0262】
[素子寿命の評価]
実施例1〜8および比較例1,2の有機EL素子について、ITO電極側を正極、金属電極側を負極として、ソースメーターに接続し、直流電流を印加し、それぞれの例において同一の輝度になる電流値を確認した。その後、その電流値を維持するように電圧を変化させながら輝度を測定した。結果を下記表1に示す。
【0263】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0264】
【図1】本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図3】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図4】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図5】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
【符号の説明】
【0265】
1 … 基板
2 … 電極層
3 … 絶縁層
4、4´ … 正孔注入層
5、5´ … 発光層
6 … 有機EL層
7、7´ … 保護層
8、8´ … フォトレジスト層
9 … 対向電極層
10 … 発光領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極層が形成された基板上に、少なくとも1層の有機エレクトロルミネッセンス層を形成する有機エレクトロルミネッセンス層形成工程と、
前記有機エレクトロルミネッセンス層上に保護層を形成する保護層形成工程と、
前記保護層上にフォトレジストを塗布し、フォトレジスト層を形成するフォトレジスト層形成工程と、
前記フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、前記フォトレジスト層をパターニングするフォトレジスト層パターニング工程と、
前記フォトレジスト層が除去された部分の前記保護層および前記有機エレクトロルミネッセンス層を除去することにより、前記有機エレクトロルミネッセンス層をパターニングする有機エレクトロルミネッセンス層パターニング工程と、
残存する前記フォトレジスト層および前記保護層をこの順に剥離する剥離工程と
を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記有機エレクトロルミネッセンス層形成工程にて、前記有機エレクトロルミネッセンス層として少なくとも発光層を形成することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
電極層が形成された基板上に、少なくとも第1発光層を含む第1有機エレクトロルミネッセンス層を形成する第1有機エレクトロルミネッセンス層形成工程と、
前記第1有機エレクトロルミネッセンス層上に第1保護層を形成する第1保護層形成工程と、
前記第1保護層上にフォトレジストを塗布し、第1フォトレジスト層を形成する第1フォトレジスト層形成工程と、
前記第1フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第1発光領域の前記第1フォトレジスト層が残存するように前記第1フォトレジスト層をパターニングする第1フォトレジスト層パターニング工程と、
前記第1フォトレジスト層が除去された部分の前記第1保護層および前記第1有機エレクトロルミネッセンス層を除去することにより、前記第1有機エレクトロルミネッセンス層をパターニングする第1有機エレクトロルミネッセンス層パターニング工程と、
前記第1有機エレクトロルミネッセンス層、前記第1保護層および前記第1フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、少なくとも第2発光層を含む第2有機エレクトロルミネッセンス層を形成する第2有機エレクトロルミネッセンス層形成工程と、
前記第2有機エレクトロルミネッセンス層上に第2保護層を形成する第2保護層形成工程と、
前記第2保護層上にフォトレジストを塗布し、第2フォトレジスト層を形成する第2フォトレジスト層形成工程と、
前記第2フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第2発光領域の前記第2フォトレジスト層が残存するように前記第2フォトレジスト層をパターニングする第2フォトレジスト層パターニング工程と、
前記第2フォトレジスト層が除去された部分の前記第2保護層および前記第2有機エレクトロルミネッセンス層を除去することにより、前記第2有機エレクトロルミネッセンス層をパターニングする第2有機エレクトロルミネッセンス層パターニング工程と、
前記第1有機エレクトロルミネッセンス層、前記第1保護層および前記第1フォトレジスト層がパターン状に形成され、さらに前記第2有機エレクトロルミネッセンス層、前記第2保護層および前記第2フォトレジスト層がパターン状に形成された基板上に、少なくとも第3発光層を含む第3有機エレクトロルミネッセンス層を形成する第3有機エレクトロルミネッセンス層形成工程と、
前記第3有機エレクトロルミネッセンス層上に第3保護層を形成する第3保護層形成工程と、
前記第3保護層上にフォトレジストを塗布し、第3フォトレジスト層を形成する第3フォトレジスト層形成工程と、
前記第3フォトレジスト層をパターン露光し、現像することにより、第3発光領域の前記第3フォトレジスト層が残存するように前記第3フォトレジスト層をパターニングする第3フォトレジスト層パターニング工程と、
前記第3フォトレジスト層が除去された部分の前記第3保護層および前記第3有機エレクトロルミネッセンス層を除去することにより、前記第3有機エレクトロルミネッセンス層をパターニングする第3有機エレクトロルミネッセンス層パターニング工程と、
残存する前記第1フォトレジスト層、前記第2フォトレジスト層および前記第3フォトレジスト層、ならびに、前記第1保護層、前記第2保護層および前記第3保護層をこの順に剥離する剥離工程と
を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1有機エレクトロルミネッセンス層、前記第1保護層および前記第1フォトレジスト層が、前記第2有機エレクトロルミネッセンス層および前記第3有機エレクトロルミネッセンス層の形成に用いる溶媒に不溶であり、前記第2有機エレクトロルミネッセンス層、前記第2保護層および前記第2フォトレジスト層が、前記第3有機エレクトロルミネッセンス層の形成に用いる溶媒に不溶であることを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記各保護層が、水溶性セルロース誘導体、有機溶剤可溶性の変性セルロース誘導体、水溶性ポリビニルアルコール誘導体およびフッ素系高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記剥離工程が、前記各フォトレジスト層のみを剥離する工程と、前記各保護層のみを剥離する工程とを有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記剥離工程が、前記各フォトレジスト層および前記各保護層を溶解する剥離液を用いて、前記各フォトレジスト層および前記各保護層を上層から徐々に剥離する工程であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記剥離工程後、前記各有機エレクトロルミネッセンス層の最表面を洗浄する洗浄工程を行うこと特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記剥離工程後、前記各有機エレクトロルミネッセンス層の最表面をプラズマ処理するプラズマ処理工程を行うことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate