説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】平坦な有機層を備える有機EL素子を提供する。
【解決手段】一対の電極と、該電極間に設けられる1層以上の有機層とを備える有機EL素子の製造方法は、前記一対の電極のうちの一方の電極が設けられた基台を準備する工程と、1層以上の有機層を形成する工程と、前記一対の電極のうちの他方の電極を形成する工程とを含み、前記有機層を形成する工程では、1層以上の有機層のうちの少なくとも1層を、有機材料を含むインキを塗布成膜し、成膜された薄膜に、表面が平坦な部材を押し当てて前記薄膜を平坦化して形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence)素子(有機EL素子という場合がある)およびその製造方法、並びに有機EL素子を備える面状光源、表示装置および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は一対の電極と該電極間に設けられる1層以上の有機層とを備える。有機EL素子は1層以上の有機層として少なくとも発光層を備える。この有機EL素子の電極間に電圧を印加すると、一方の電極から正孔が注入されるとともに、他方の電極から電子が注入される。そしてこれら正孔と電子とが発光層において結合することによって発光が生じる。
【0003】
有機EL素子は、一般的に素子を構成する各層を順次積層することによって作製される。
【0004】
有機EL素子を構成する複数の要素のうちの有機層は、塗布法によって形成することができる。たとえば塗布法のひとつであるスプレーコート法によって有機層を形成し、さらにこの有機層上に電極を形成することによって有機EL素子を作製する方法が提案されている(たとえば特許文献1参照)。この方法では、有機層となる材料を含むインキを所定の基台上に噴霧し、さらにこれを固化することによって有機層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−232251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塗布法で形成した有機層は平坦性が十分ではないことがある。このような有機層上に電極を形成して有機EL素子を作製すると、この有機EL素子を発光させたときにたとえば発光ムラが生じることがある。
【0007】
したがって本発明の目的は、平坦な有機層を備える有機EL素子を作製することが可能な有機EL素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の〔1〕から〔7〕を提供する。
〔1〕 一対の電極と、該電極間に設けられる1層以上の有機層とを備える有機EL素子の製造方法であって、
前記一対の電極のうちの一方の電極が設けられた基台を準備する工程と、
1層以上の有機層を形成する工程と、
前記一対の電極のうちの他方の電極を形成する工程とを含み、
前記有機層を形成する工程では、1層以上の有機層のうちの少なくとも1層を、有機材料を含むインキを塗布成膜し、成膜された薄膜に、表面が平坦な部材を押し当てて前記薄膜を平坦化して形成する、有機EL素子の製造方法。
〔2〕 前記表面が平坦な部材を押し当てる際には、前記薄膜および前記表面が平坦な部材のうちの少なくともいずれか一方を加熱した状態で、前記表面が平坦な部材を前記成膜された薄膜に押し当てる、〔1〕に記載の有機EL素子の製造方法。
〔3〕 前記塗布成膜する工程では、スプレーコート法によって前記インキを塗布成膜する、〔1〕または〔2〕に記載の有機EL素子の製造方法。
〔4〕 〔1〕〜〔3〕のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法によって製造された有機EL素子。
〔5〕 〔4〕に記載の有機EL素子を備える面状光源。
〔6〕 〔4〕に記載の有機EL素子を備える表示装置。
〔7〕 〔4〕に記載の有機EL素子を備える照明装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば平坦な有機層を備える有機EL素子を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。なお以下の説明において、特に基台の厚み方向の一方を上といい、厚み方向の他方を下ということがある。
本発明の有機EL素子の製造方法は、一対の電極と、該電極間に設けられる1層以上の有機層とを備える有機EL素子の製造方法であって、前記一対の電極のうちの一方の電極が設けられた基台を準備する工程と、1層以上の有機層を形成する工程と、前記一対の電極のうちの他方の電極を形成する工程とを含み、前記有機層を形成する工程では、1層以上の有機層のうちの少なくとも1層を、有機材料を含むインキを塗布成膜し、成膜された薄膜に、表面が平坦な部材を押し当てて前記薄膜を平坦化して形成する。
【0011】
なお一対の電極間に複数の有機層が設けられる場合には、本発明の有機層を形成する方法、すなわち有機層となる材料を含むインキを塗布成膜し、成膜された薄膜に、表面が平坦な部材を押し当てて前記薄膜を平坦化する有機層を形成する方法によって、全ての有機層を形成してもよい。また複数の有機層のうちの少なくとも1層の有機層を本発明の有機層を形成する方法によって形成する限りにおいて、他の有機層を、本発明の有機層を形成する方法とは異なる方法によって形成してもよい。
【0012】
有機EL素子を構成する一対の電極は、一方の電極が陽極として機能し、他方の電極が陰極として機能する。陽極と陰極との間には、1層以上の有機層が設けられる。なお本明細書において有機層とは、有機物を含む層を意味する。本実施形態において陽極と陰極との間には、有機層として少なくとも発光層が設けられる。一対の電極間には、発光層だけでなく、発光層とは異なる有機層が必要に応じて設けられる。また一対の電極間には無機層が必要に応じて設けられていてもよい。
【0013】
必要に応じて設けられる層としては正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、および電子注入層などがあげられる。以下では、一例として陽極、正孔注入層、発光層、陰極がこの順で基台上に順次積層された構成の有機EL素子の製造方法について説明する。
【0014】
(基台準備工程)
本工程では、一対の電極のうちの一方の電極が設けられた基台を準備する。なお本実施形態では本工程において、一方の電極に相当する陽極が設けられた基台を準備する。本工程では陽極が予め形成された基台を市場から入手することによって、陽極が形成された基台を準備してもよく、また基台に陽極を形成することによって、一方の電極が形成された基台を準備してもよい。なお用意した基台には必要に応じて一方の電極上に所定の無機層を積層してもよい。
【0015】
(有機層を形成する工程)
本工程では一方の電極(本実施形態では陽極に相当)上に1層以上の有機層を形成する。本実施形態ではまず陽極上に正孔注入層を形成し、この正孔注入層上に発光層を形成する。この正孔注入層は、無機層であっても、有機層であってもよく、有機物を含む有機層の場合には後述する発光層を形成する方法と同様の方法により形成することが好ましい。
【0016】
正孔注入層の形成方法はとくに限定されないが、たとえば塗布法や真空蒸着法によって形成することができる。塗布法では、正孔注入層となる材料を含むインキを用意し、これを所定の塗布法によって塗布成膜する。なおインキの溶媒および正孔注入層となる材料については後述する。
【0017】
つぎに発光層を形成する。発光層を形成する工程では、まず発光層となる材料を含むインキを用意する。インキの溶媒および発光層となる材料については後述する。
【0018】
用意したインキを所定の塗布法によって塗布成膜する。塗布法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法およびインクジェットプリント法などをあげることができる。これらのなかでもスプレーコート法によってインキを塗布成膜することが好ましい。
【0019】
つぎに、塗布成膜された薄膜に、表面が平坦な部材の該表面(平坦な表面)を押し当てて、前記薄膜の膜厚が可能な限り均一になるように、かつ薄膜の表面が可能な限り平坦になるように平坦化する。
本工程は、前記部材の平坦な表面と基台の電極が形成される側の表面とが対向するように、表面が平坦な部材を配置して行われる。
なお本工程では表面が平坦な部材が薄膜に押し当てられればよく、たとえば薄膜を固定した状態で、表面が平坦な部材を薄膜に当接させて、当該部材を移動させることにより薄膜に押し当ててもよく、逆に表面が平坦な部材を固定した状態において、薄膜を表面が平坦な部材に当接させて、薄膜の側を移動させることにより表面が平坦な部材に押し当ててもよい。
【0020】
表面が平坦な部材としては、当該部材を薄膜に押し当てた後に、平坦化された薄膜から容易に剥離するものが好ましく、また薄膜と当接する表面の平坦性が高いものが好ましい。
【0021】
表面が平坦な部材としては、たとえばシリコン薄板、ガラス基板、金属基板などをあげることができる。
【0022】
また表面が平坦な部材の薄膜と当接する表面の算術平均粗さRaは、1nm以下が好ましく、さらに0.5nm以下が好ましい。
【0023】
表面が平坦な部材を薄膜に押し当てる際には、前記成膜された薄膜および前記表面が平坦な部材の少なくともいずれか一方を加熱した状態で、表面が平坦な部材を薄膜に押し当てることが好ましい。なお加熱する温度は、薄膜を構成する材料のガラス転移点よりも高いことが好ましい。薄膜を構成する材料にもよるが、成膜された薄膜および前記表面が平坦な部材の少なくともいずれか一方を加熱する温度は、120℃〜250℃程度であり、150℃〜200℃が好ましい。
【0024】
また表面が平坦な部材を押し当てる際の圧力は、0.01Mpa〜10Mpa程度であり、0.1Mpa〜1Mpaが好ましい。これらの温度、圧力を調整することによって、薄膜の表面の平坦性の程度を調整することができる。
【0025】
また表面が平坦な部材を薄膜に押し当てる前に、薄膜中の溶媒の一部を除去する工程を設けてもよい。このように薄膜中の溶媒の一部を除去することによって、表面が平坦な部材と薄膜との剥離性を向上することができ、表面が平坦な部材を薄膜に押し当てた後、当該部材を薄膜から剥離する際に、表面が平坦な部材に薄膜が付着することを防ぐことができる。
【0026】
以上のように表面が平坦な部材を薄膜に押し当てることによって、薄膜の表面を平坦化することができる。これによって表面が平坦な有機層(本実施形態では発光層)を形成することができる。
【0027】
複数ある塗布法のなかでもスプレーコート法で薄膜を形成した場合、薄膜の凹凸の最大高さ粗さRzが大きくなる傾向があるが、上述のように表面が平坦な部材を薄膜に押し当てることによって、とくに最大高さ粗さRzが顕著に小さくなる。
最大高さ粗さRzは大きな凹凸の存在の指標となる数値である。薄膜表面に大きな凹凸が存在すると、凹凸の凸部がこの薄膜上に設けられる所定の層を貫通するなど、素子設計上不都合なことが生じるおそれがある。しかしながらたとえインキを用いて塗布法で薄膜を成膜したときに大きな凹凸が存在したとしても、上述のように表面が平坦な部材を成膜された薄膜に押し当てることによって、大きな凹凸を平坦化することができ、大きな凹凸の少ない薄膜を得ることができる。
【0028】
発光層などの有機層を形成するために使用されるインキは、有機層(たとえば発光層)となる有機材料と、溶媒または分散媒とを含む液体である。有機材料を含むインキとしては、有機材料が溶解した液体、または有機材料が均一に分散した液体であることが好ましい。
【0029】
有機材料を含むインキにおける溶媒または分散媒としては、有機材料を溶解する液体、または有機材料を均一に分散させる液体であればとくに限定されず、有機材料の種類に応じて適宜最適な溶媒または分散媒が選択される。このような溶媒または分散媒としては、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、アニソールなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、および水などをその一例としてあげることができる。
【0030】
有機材料を含むインキとしては、有機層を構成する有機材料と、沸点が200℃以上の溶媒を含む良溶媒とのみからなることが好ましい。インキを構成する良溶媒は、1種類の溶媒のみからなってもよく、また複数種の溶媒を含んでいてもよい。
【0031】
本明細書において良溶媒とは、有機層を構成する有機材料を溶質としたときに、この溶質の溶解度が高い溶媒を意味し、100重量部の溶媒に有機材料が1重量部以上溶解する溶媒を意味する。またインキを構成する良溶媒は、沸点が230℃以上の溶媒のみからなることが好ましい。このような良溶媒としては、多数ある溶媒のなかから、溶質(本実施形態では有機材料)に基づいて適宜最適なものが選択され、たとえばトルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、アニソールなどをあげることができ、これらの中でもシクロヘキシルベンゼンが好ましい。
【0032】
スプレーコート法では、有機材料を含むインキをノズルから噴霧し、有機材料を含むインキを基台上に均一に塗布する。
【0033】
ノズルから噴霧されたインキは、基台上に付着するまでにその溶媒が順次気化する。そのため噴霧されたインキが基台上に付着するまでの間に、インキの有機材料の濃度(以下、固形分濃度という場合がある)がしだいに高くなり、結果としてインキの粘度もしだいに高くなる。基台上にインキが付着する際のインキの固形分濃度が高くなりすぎると、インキの粘度も高くなるため、基台上でインキが濡れ広がりにくくなり、基台上で薄膜の膜厚が均一化されにくくなる。そのため膜厚が均一で平坦な薄膜を形成するためには、インキが基台上に付着する際の溶液の固形分濃度が所定の値未満であることが好ましい。
【0034】
他方、基台上に付着する際のインキの固形分濃度が低すぎると、以下の理由から膜厚にムラが生じるおそれもある。基台上に付着したインキは一般に薄膜の周縁部から中央部に向かって溶媒の乾燥が進行するが、その際に中央部と周縁部とで濃度勾配が生じ、この濃度勾配に起因してインキに流れが生じる。インキは、固形分濃度が低いほどその粘度が低くなるため、基台上での移動が容易になる。基台上に付着する際のインキの固形分濃度が低い場合、インキが容易に移動するため、濃度勾配に起因して発生する流れによって基台上でインキが容易に移動し、移動した箇所でインキが固化するため、膜厚にムラが生じることがある。以上のことから、膜厚が均一で平坦な塗布膜を形成するためには、固形分濃度は所定の値以上であることが好ましい。
【0035】
インキが基台上に付着する際の固形分濃度はノズルと基台との間隔に大きく依存するが、インキを噴霧してからインキが基台上に付着するまでにインキの一部が気化することなどを勘案すると、インキを噴霧する際のインキの固形分濃度は、通常0.01重量%から4重量%程度であり、0.7重量%から1.3重量%が好ましい。
【0036】
スプレーコート法でインキを成膜する場合、インキに含まれる有機材料は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が小さい方が好ましい。重量平均分子量が小さいほど、スプレーコート法でインキを成膜したときの算術平均粗さRaが小さくなる傾向があるからである。このような観点から、インキに含まれる有機材料のポリスチレン換算の重量平均分子量は、1×10〜35×10が好ましい。
【0037】
また基台上に形成された層の表面の性状によっては、噴霧されたインキが表面上において濡れ広がりにくいことがあるため、必要に応じてインキが塗布される面の濡れ性を向上させる処理を施すことが好ましい。たとえばUV表面処理によりインキが塗布される面の濡れ性を向上させることができる。
【0038】
前述したように有機層を構成する材料と、沸点が200℃以上の溶媒を含む良溶媒とのみからなるインキを用いると、インキが気化しにくいために、固形分濃度が低い状態で、インキを基台上に付着させることができる。そのため噴霧されたインキが基台上で濡れ広がりやすく、膜厚が均一で平坦な有機層を形成することができる。
【0039】
スプレーコート法により膜厚が均一で平坦な薄膜を形成するためには、ノズルから噴霧される液滴の単位体積当りの数、および液滴の大きさは、ばらつきが少ない方が好ましい。またスプレーコート法により膜厚が均一で平坦な薄膜を形成するためには、噴霧した液滴の平均径が、1μm〜500μmであることが好ましく、10μm〜100μmであることがより好ましい。
【0040】
なおインキの噴霧は、基台とノズルとの相対位置を一定に保った状態で行ってもよく、また基台およびノズルのうちの少なくともいずれか一方を移動させることにより基台とノズルとの相対位置を変動させながら行ってもよい。基台またはノズルの移動速度、溶液の噴霧回数、および噴霧量などは、形成する発光層の膜厚に応じて適宜設定される。
【0041】
スプレーコート法により薄膜を形成したあとには、薄膜の膜厚を均一化するために所定の時間静置することが好ましい。なお薄膜の膜厚をより均一化するために、超音波振動を基台に与えつつインキを噴霧してもよく、スプレーコート法により薄膜を形成した後に、超音波振動を基台に与えてもよい。
【0042】
(他方の電極を形成する工程)
つぎに一対の電極のうちの他方の電極を形成する。なお本実施形態では他方の電極に相当する陰極を形成する。本実施形態では発光層の形成後に陰極を形成することにより有機EL素子とすることができる。
【0043】
以上説明した本実施形態の有機EL素子の製造方法では、有機層となる材料を含むインキを塗布成膜し、成膜された薄膜に、表面が平坦な部材を押し当てることにより、表面が平坦な有機層を形成することができる。このような表面が平坦な有機層上に他方の電極を形成することによって、たとえば発光時の輝度ムラの少ない有機EL素子を実現することができる。
【0044】
以上では、一対の電極(陽極および陰極)の間に、正孔注入層と発光層とが設けられた構成の有機EL素子の製造方法について説明したが、有機EL素子の構成はこれに限らず、必要に応じて様々な層構成をとりうる。以下本発明を適用可能な有機EL素子の構成、並びに各層の構成およびその形成方法についてさらに詳しく説明する。
【0045】
陰極と発光層との間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などをあげることができる。陰極と発光層との間に電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という。
【0046】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する。電子輸送層は、陰極、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する。
正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層、及び/又は電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
【0047】
正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、たとえばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することができる。
【0048】
陽極と発光層との間に設けられる層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などをあげることができる。陽極と発光層との間に、正孔注入層と正孔輸送層との両方の層が設けられる場合、陽極に接する層を正孔注入層といい、この正孔注入層を除く層を正孔輸送層という。
【0049】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する。正孔輸送層は、陽極、正孔注入層または陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する。
電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する。なお正孔注入層、及び/又は正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
【0050】
電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、たとえば電子電流のみを流す素子を作製し、測定された電流値の減少で電子の輸送を堰き止める効果を確認することができる。
【0051】
本実施形態の有機EL素子のとりうる層構成の一例を以下に示す。
a)陽極/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
d)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
f)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
g)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
h)陽極/発光層/電子注入層/陰極
i)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。
以下同じ。)
本実施形態の有機EL素子は2層以上の発光層を有していてもよい。上記a)〜i)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極と陰極とに挟持された積層体を「構造単位A」とすると、2層の発光層を有する有機EL素子の構成として、以下のj)に示す層構成をあげることができる。なお2つある(構造単位A)の層構成は互いに同じでも、異なっていてもよい。
j)陽極/(構造単位A)/電荷発生層/(構造単位A)/陰極
ここで電荷発生層とは、電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。
電荷発生層としては、たとえば酸化バナジウム、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、酸化モリブデンなどから成る薄膜をあげることができる。
【0052】
また「(構造単位A)/電荷発生層」を「構造単位B」とすると、3層以上の発光層を有する有機EL素子の構成として、以下のk)に示す層構成をあげることができる。
k)陽極/(構造単位B)x/(構造単位A)/陰極
なお記号「x」は、2以上の整数を表し、「(構造単位B)x」は、構造単位Bがx段積層された積層体を表す。また複数ある(構造単位B)の層構成は同じでも、異なっていてもよい。
【0053】
なお電荷発生層を設けずに、複数の発光層を直接積層させた有機EL素子を構成してもよい。
【0054】
上記構成を備える有機EL素子は通常、基台上に設けられる。積層される層の順序、層数、および各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜設定することができる。有機EL素子は通常、本実施の形態のように陽極を基台側に配置して基台上に設けられるが、陰極を基台側に配置して基台上に設けてもよい。たとえばa)〜k)の各有機EL素子を基台上に作製する場合、陽極を基台側に配置する形態では陽極側(各構成a〜kの左側)から順に各層を基台上に積層し、陰極を基台側に配置する形態では陰極(各構成a〜kの右側)から順に各層を基台上に積層する。有機EL素子は、基台側から光を出射するボトムエミッション型のものでも、基台とは反対側から光を出射するトップエミッション型のものでもよい。
【0055】
つぎに有機EL素子を構成する各層の材料および形成方法について、より具体的に説明する。
【0056】
<基台>
基台は、有機EL素子を製造する工程において化学的に変化しないものが好適に用いられ、たとえばガラス、プラスチック、高分子フィルム、およびシリコン板、並びにこれらを積層したものなどが用いられる。なお基台には有機EL素子を駆動する駆動回路があらかじめ形成されていてもよい。
【0057】
<陽極>
発光層から放射される光が陽極を通して出射する構成の有機EL素子の場合、陽極には光透過性を示す電極が用いられる。光透過性を示す電極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物および金属などの薄膜を用いることができ、光透過率の高いものが好適に用いられる。たとえば酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、および銅などから成る薄膜が用いられ、これらの中でもITO、IZO、または酸化スズから成る薄膜が好適に用いられる。陽極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法などをあげることができる。また、該陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機物の透明導電膜を用いてもよい。
【0058】
陽極には、光を反射する材料を用いてもよく、その材料としては、仕事関数3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。
【0059】
陽極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度などを考慮して適宜決定することができ、たとえば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0060】
<正孔注入層>
正孔注入層を構成する正孔注入材料としては、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、および酸化アルミニウムなどの酸化物や、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、アモルファスカーボン、ポリアニリン、およびポリチオフェン誘導体などをあげることができる。
【0061】
正孔注入層の成膜方法としては、たとえば正孔注入材料を含むインキからの成膜をあげることができる。なお正孔注入層は上述の実施形態において発光層の形成方法として説明した方法と同様の方法、またはこの方法とは異なる所定の公知の方法によって形成することができる。
【0062】
正孔注入層の膜厚は、用いる材料によって最適値が異なり、求められる特性および成膜の簡易さなどを勘案して適宜決定され、たとえば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0063】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などをあげることができる。
【0064】
これらのなかでも正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などの高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0065】
正孔輸送層の成膜方法には、とくに制限はないが、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーと正孔輸送材料とを含む混合液からの成膜をあげることができ、高分子の正孔輸送材料では、正孔輸送材料を含むインキからの成膜をあげることができる。
【0066】
正孔輸送層を形成する方法としては、上述の実施形態において発光層の形成方法として説明した方法と同様の方法、またはこの方法とは異なる所定の公知の方法によって形成することができる。
【0067】
正孔輸送層の膜厚は、用いる材料によって最適値が異なり、求められる特性および成膜の簡易さなどを勘案して適宜決定される。正孔輸送層の膜厚は、たとえば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0068】
<発光層>
発光層は、通常、主として蛍光及び/又はりん光を発光する有機物、または該有機物とこれを補助するドーパントとを含む。ドーパントは、たとえば発光効率の向上や、発光波長を変化させるために加えられる。なお有機物としては、低分子化合物でも高分子化合物でもよく、溶解性の観点からは高分子化合物が好ましい。発光層は、ポリスチレン換算の数平均分子量が、10〜10である高分子化合物を含むことが好ましい。発光層を構成する発光材料としては、たとえば以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、ドーパント材料をあげることができる。
【0069】
(色素系材料)
色素系材料としては、たとえば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体などをあげることができる。
【0070】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、たとえばTb、Eu、Dyなどの希土類金属、またはAl、Zn、Be、Pt、Irなどを中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを配位子に有する金属錯体をあげることができ、例えばイリジウム錯体、白金錯体などの三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリンユーロピウム錯体などをあげることができる。
【0071】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素系材料や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどをあげることができる。
【0072】
(ドーパント材料)
ドーパント材料としては、たとえばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどをあげることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm〜200nmである。
【0073】
発光層の成膜方法としては、発光材料を含むインキを塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。なお発光層は上述の実施形態において説明した方法とは異なる所定の公知の方法によって形成してもよい。
【0074】
<電子輸送層>
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、公知のものを使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体などをあげることができる。
【0075】
これらのうち、電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0076】
電子輸送層の成膜法にはとくに制限はないが、低分子の電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、または溶液若しくは溶融状態からの成膜をあげることができ、高分子の電子輸送材料では溶液または溶融状態からの成膜をあげることができる。なお溶液または溶融状態からの成膜を実施する場合には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、上述の実施形態において発光層の形成方法として説明した方法と同様の方法、またはこの方法とは異なる所定の公知の方法によって形成することができる。
【0077】
電子輸送層の膜厚は、用いる材料によって最適値が異なり、求められる特性および成膜の簡易さなどを勘案して適宜決定される。電子輸送層の膜厚は、たとえば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0078】
<電子注入層>
電子注入層を構成する材料としては、発光層の種類に応じて最適な材料が適宜選択され、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの1種類以上を含む合金、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、またはこれらの物質の混合物などをあげることができる。アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、ハロゲン化物、および炭酸塩の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウムなどをあげることができる。また、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどをあげることができる。電子注入層は、2層以上を積層した積層体で構成されてもよく、たとえばLiF/Caなどをあげることができる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成され、上述の実施形態において発光層の形成方法として説明した方法と同様の方法、またはこの方法とは異なる所定の公知の方法によって形成することができる。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0079】
<陰極>
陰極の材料としては、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易で、電気伝導度の高い材料が好ましい。また陽極側から光を取出す有機EL素子では、発光層から放射される光を陰極で陽極側に反射することが発光効率を向上するためには好ましく、そのため、陰極の材料としては可視光反射率の高い材料が好ましい。陰極には、たとえばアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属および周期表第13族金属などを用いることができる。陰極の材料としては、たとえばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、前記金属のうちの2種以上の合金、前記金属のうちの1種以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうちの1種以上との合金、またはグラファイト若しくはグラファイト層間化合物などが用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などをあげることができる。また、陰極としては導電性金属酸化物および導電性有機物などから成る透明導電性電極を用いることができる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、およびIZOをあげることができ、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などをあげることができる。なお、陰極は、2層以上を積層した積層体で構成されていてもよい。なお、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0080】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して適宜設定され、たとえば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。陰極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法などをあげることができる。
【0081】
以上説明した有機EL素子は、曲面状や平面状の照明装置、たとえばスキャナの光源として用いられる面状光源、および表示装置に好適に用いることができる。
【0082】
有機EL素子を備える表示装置としては、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置などをあげることができる。ドットマトリックス表示装置には、アクティブマトリックス表示装置およびパッシブマトリックス表示装置などがある。有機EL素子は、アクティブマトリックス表示装置、パッシブマトリックス表示装置において、各画素を構成する発光素子として用いられる。また有機EL素子は、セグメント表示装置において、各セグメントを構成する発光素子またはバックライトとして用いられ、液晶表示装置において、バックライトとして用いられる。
【実施例】
【0083】
平面視で矩形状のガラス基板(サイズ:200mm×200mm)を準備し、UV表面処理としてエキシマUVをガラス基板の表面に120秒間照射した。
【0084】
つぎに重量比1:1のアニソール(沸点154℃)とシクロヘキシルベンゼン(沸点240℃)との混合溶媒に、発光材料(サメイション社製、製品名「Lumation GP1300」)を溶解し、発光層となる材料を含むインキを調製した。インキにおける発光材料の割合は2重量%とした。
【0085】
旭サナック社製のスプレーコート装置を用いて、スプレーコート法によってガラス基板上にインキを塗布成膜した。ノズルと基板との間隔を55mmとし、塗り重ねピッチを10mmとし、霧化エア圧を0.12MPaとし、パターンエア圧を0.20MPaとした。
【0086】
インキを塗布成膜した後、膜厚の均一化(レベリング)のために常温下で5分静置した。そののちガラス基板をホットプレート上に置き、90℃で120秒間加熱乾燥した。
【0087】
つぎに、得られた塗布膜に、シリコンミラーウェハ(表面粗さ:算術平均粗さRa=0.56nm)を押し当てて、塗布膜(薄膜)を平坦化した。具体的にはガラス基板を所定のステージ上に配置し、薄膜にシリコンミラーウェハを当接した。加圧ステージによってシリコンミラーウェハを加圧して薄膜に押し当てた。
なおガラス基板が配置されるステージおよびシリコンミラーウェハを加圧する加圧ステージは、いずれもヒーターを有しており、ステージによって薄膜を加熱し、かつ加圧ステージによってシリコンミラーウェハを加熱しつつ薄膜にシリコンミラーウェハを押し当て、薄膜を平坦化した(熱プレス工程と称する)。熱プレス工程には株式会社マルニ社製のMNI-1000HCを使用した。熱プレス工程では、各ステージの温度を150℃とし、圧力を0.4MPaとし、加圧時間を5秒間とした。
【0088】
熱プレス工程前と熱プレス工程後の薄膜の表面の算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzを測定した。測定には光干渉式表面粗さ計(Veeco社製、NT3300)を用いた。測定結果を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1に示すように、熱プレス工程を施すことによって、算術平均粗さRaがシリコンミラーウェハと同程度まで小さくなり、さらに最大高さ粗さRzが大幅に小さくなった。
【0091】
(参考例)
実施例とは発光材料の種類のみを異ならせて、実施例と同様にインキを塗布成膜し、熱プレス工程前の各薄膜の算術平均粗さRaと最大高さ粗さRzとをそれぞれ測定した。当該参考例では発光材料のポリスチレン換算の重量平均分子量の異なる3種類の発光材料を使用した。参考例1では重量平均分子量が413×10の発光材料、参考例2では重量平均分子量が340×10の発光材料、参考例3では重量平均分子量が170×10の発光材料をそれぞれ使用した。測定結果を表2に示す。
【0092】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、該電極間に設けられる1層以上の有機層とを備える有機EL素子の製造方法であって、
前記一対の電極のうちの一方の電極が設けられた基台を準備する工程と、
1層以上の有機層を形成する工程と、
前記一対の電極のうちの他方の電極を形成する工程とを含み、
前記有機層を形成する工程では、1層以上の有機層のうちの少なくとも1層を、有機材料を含むインキを塗布成膜し、成膜された薄膜に、表面が平坦な部材を押し当てて前記薄膜を平坦化して形成する、有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記表面が平坦な部材を押し当てる際には、前記薄膜および前記表面が平坦な部材のうちの少なくともいずれか一方を加熱した状態で、前記表面が平坦な部材を前記成膜された薄膜に押し当てる、請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記塗布成膜する工程では、スプレーコート法によって前記インキを塗布成膜する、請求項1または2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法によって製造された有機EL素子。
【請求項5】
請求項4に記載の有機EL素子を備える面状光源。
【請求項6】
請求項4に記載の有機EL素子を備える表示装置。
【請求項7】
請求項4に記載の有機EL素子を備える照明装置。

【公開番号】特開2012−119083(P2012−119083A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265172(P2010−265172)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】