説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 発光効率に優れ、かつ長寿命である有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】 透明電極12と、透明電極12に対向して配置される対向電極14と、透明電極12と前記対向電極14の間に、2層の有機発光層20,22が中間導電層30を介して積層している構造を1つ以上有し、中間導電層30の屈折率nと、前記有機発光層の少なくとも1層の屈折率nとの差が0.25以内であり、中間導電層30が、1種以上の希土類元素を含有する酸化物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。さらに詳しくは、中間導電層を介して2以上の有機発光層を積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、エレクトロルミネッセンスをELと略記する)の長寿命化、高効率化を図る技術の一つとして、陰極/有機発光層/陽極のユニットを複数積層する技術がある(例えば、特許文献1−3参照。)。この有機EL素子では、ユニットが単層である素子と比べ、同一の輝度を得るための電流密度を低下できることから、素子の長寿命化が図れるという長所がある。
しかしながらこの技術では、隣り合う有機発光層の中間に配置される注入電極(中間電極)に、電圧を印加するための引出電極を形成する必要があることから、配線が複雑になり、配線抵抗による電力ロスが無視できなくなるという問題点があった。
【0003】
これを回避する技術として、中間電極として、片側の面が正孔注入性を有し、他方の面が電子注入性を有する電極を採用したものが開示されている(例えば、特許文献4−5参照。)。この技術では、中間電極の引出電極が不要となるという長所がある。
しかしながら、発光素子を正面から観察したときと、斜めから観察したときで発光色が変わる、即ち素子の視野角依存性が悪いという問題点があった。また、発光効率も不十分という問題点もあった。
【0004】
この問題に対し、本出願人は特許文献6に、有機発光層と中間電極の屈折率の差が0.2以内となる材料を選定することによって、発光波長の視野角依存性を小さくする方法を開示している。
しかしながら、照明用途等では発光波長の視野角依存性が小さいことよりも、長寿命であることが重視される。従って、有機発光層を複数有することによる利点に加えて、素子の長寿命化が実現できれば、極めて高輝度かつ長寿命の光源を得ることが可能となる。
【特許文献1】特許第3189438号
【特許文献2】特開平11−312584号公報
【特許文献3】特開平11−312585号公報
【特許文献4】特開平11−329748号公報
【特許文献5】特開2003−45676号公報
【特許文献6】国際公開第2004/095892パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、発光効率に優れ、かつ長寿命である有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究したところ、中間導電層の屈折率と有機発光層の屈折率との差が0.25以内であり、かつ希土類元素の酸化物を含む材料を中間導電層に使用することにより、発光効率の向上とともに、長寿命化を実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明によれば、以下の有機EL素子が提供できる。
1.透明電極と、前記透明電極に対向して配置される対向電極と、前記透明電極と前記対向電極の間に、2層の有機発光層が中間導電層を介して積層している構造を1つ以上有し、前記中間導電層の屈折率nと、前記有機発光層の少なくとも1層の屈折率nとの差が0.25以内であり、前記中間導電層が、1種以上の希土類元素を含有する酸化物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。
2.前記中間導電層が、前記有機発光層の屈折率nよりも大きな屈折率を示す層と、屈折率nよりも小さな屈折率を示す層の積層体からなる1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
3.前記中間導電層が、前記有機発光層の屈折率nよりも大きな屈折率を示す材料と、屈折率nよりも小さな屈折率を示す材料の混合物からなる1に記載の有機EL発光素子。
4.前記中間導電層が、透明導電材料と金属ハロゲン化物の積層体、又は透明導電材料と金属ハロゲン化物との混合膜である2又は3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
5.前記透明導電材料が、Ce,Nd,Sm又はGdから選ばれる1つ以上の元素と、In,Zn又はSnから選ばれる1つ以上の元素を含む、酸化物からなる4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
6.前記中間導電層の吸収係数が2.5[1/μm]以下である1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長寿命で高効率な有機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の有機EL素子を具体的に説明する。
図1は、本発明の有機EL素子の一実施形態を示す図である。この有機EL素子は、2層の有機発光層が中間導電層を介して積層している構造を3つ形成した例である。
この有機EL素子1は、支持基板10上に、透明陽極(透明電極)12が設けられ、この透明陽極12に、陰極(対向電極)14が対向して設けられている。透明陽極12と陰極14の間には、有機発光層20,22,24,26と、中間導電層30,32,34が、1つの中間導電層が2つの有機発光層の間に介在するように、設けられている。有機発光層20,22,24,26が発する光は、透明陽極12を通して支持基板10から取り出す。
【0010】
図2は、図1が示す有機発光層22,24とその間に介在する中間導電層32の部分拡大図である。
有機発光層22,24は、それぞれ、正孔注入層200、発光層202、電子注入層204からなる。発光層202において、正孔注入層200から供給される正孔と、電子注入層204から供給され電子が結合して発光する。中間導電層32は、有機発光層22側の面が正孔注入性であり、有機発光層24側の面が電子注入性である。
【0011】
本発明において、少なくとも1つの任意の中間導電層、例えば、中間導電層32の屈折率をn、その中間導電層32を挟む有機発光層22,24の屈折率をnとしたとき、中間導電層の屈折率nと、この中間導電層を挟む有機発光層の屈折率nとの差が0.25以内である。これにより、発光層で発光した光の素子内部における屈折等を抑制できるため、光取出効率(素子の発光効率)が向上する。
また、中間導電層は後述するように、1種以上の希土類元素の酸化物を含有する透明導電材料を用いる。希土類元素の酸化物を添加することにより、素子の寿命を向上できる。
【0012】
尚、4層の有機発光層20,22,24,26、3層の中間導電層30,32,34は、それぞれ異なっていても、同一でもよい。
この場合、例えば、有機発光層22,24の屈折率が異なることがあるが、有機発光層(第1及び第2の有機発光層)22,24の屈折率をそれぞれn,nとしたとき、これら屈折率は以下のいずれかの関係を満たせばよい。
(i) |n−n|≦0.25
(ii) |n−n|≦0.25
(iii) |n−n|≦0.25、かつ、|n−n|≦0.25
好ましくは、(iii)の関係を満たし、さらに、好ましくは、中間導電層を挟む2つの有機発光層の全ての屈折率が上記の関係を満たす。
【0013】
尚、この実施形態では、有機発光層は4層積層されているが、有機発光層は、2層、3層又は5層以上積層してもよい。
また、この実施形態では透明電極は陽極であるが、陰極でも構わない。
以下、有機EL素子の各部材について説明する。
【0014】
1.支持基板
支持基板は、有機EL素子や、TFT等を支持するための部材であることから、機械的強度や、寸法安定性に優れていることが好ましい。このような基板としては、具体的には、ガラス板、金属板、セラミックス板、又はプラスチック板(ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等)等を挙げることができる。
【0015】
また、これらの材料からなる基板は、有機EL表示装置内への水分の侵入を避けるために、さらに無機膜を形成したり、フッ素樹脂を塗布したりして、防湿処理や疎水性処理を施してあることが好ましい。特に、有機発光媒体への水分の侵入を避けるために、基板における含水率及びガス透過係数を小さくすることが好ましい。具体的に、支持基板の含水率を0.0001重量%以下の値及びガス透過係数を1×10−13cc・cm/cm・sec.cmHg以下の値とすることがそれぞれ好ましい。
【0016】
尚、上記の実施形態では、支持基板側から光を取出すため、支持基板は可視光に対する透過率が50%以上の透明であることが望ましいが、その反対側、即ち、対向電極側からEL発光を取り出す場合には、基板は必ずしも透明性を有する必要はない。
【0017】
2.陽極(透明電極)
透明陽極としては仕事関数の大きい(例えば、4.0eV以上)金属、合金、電気電導性化合物又はこれらの混合物を使用することが好ましい。具体的には、インジウムチンオキサイド(ITO)、インジウム銅、スズ、酸化亜鉛、金、白金、パラジウム等の1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
陽極の厚さは、特に制限されるものではないが、10〜1000nmの範囲内の値とするのが好ましく、10〜200nmの範囲内の値とするのがより好ましい。さらに、透明陽極に関しては、有機発光層から放射された光を外部に有効に取り出すことが出来るように、実質的に透明、より具体的には、光透過率が50%以上の値であることが好ましい。
【0018】
3.陰極(対向電極)
陰極には、仕事関数の小さい(例えば、4.0eV未満)金属、合金、電気電導性化合物又はこれらの混合物を使用することが好ましい。具体的には、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、リチウム、ナトリウム、セシウム、銀等の1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
陰極の厚さは、特に制限されるものではないが、10〜1000nmの範囲内の値とするのが好ましく、10〜200nmの範囲内の値とするのがより好ましい。
【0019】
4.有機発光層
有機発光層は、電子と正孔とが再結合して、EL発光が可能な発光層を含む媒体と定義することができる。かかる有機発光層は、例えば、陽極上に、以下の各層を積層して構成することができる。
a.発光層
b.正孔注入層/発光層
c.発光層/電子注入層
d.正孔注入層/発光層/電子注入層
e.有機半導体層/発光層
f.有機半導体層/電子障壁層/発光層
g.正孔注入層/発光層/付着改善層
これらの中で、dの構成が、より高い発光輝度が得られ、耐久性にも優れていることから通常好ましく用いられる。
【0020】
発光層を形成する発光材料としては、例えば、p−クオーターフェニル誘導体、p−クィンクフェニル誘導体、ベンゾチアゾール系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物、ベンゾオキサゾール系化合物、金属キレート化オキシノイド化合物、オキサジアゾール系化合物、スチリルベンゼン系化合物、ジスチリルピラジン誘導体、ブタジエン系化合物、ナフタルイミド化合物、ペリレン誘導体、アルダジン誘導体、ピラジリン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ピロロピロール誘導体、スチリルアミン誘導体、クマリン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、8−キノリノール誘導体を配位子とする金属錯体、ポリフェニル系化合物等の1種単独又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0021】
また、これらの有機発光材料のうち、芳香族ジメチリディン系化合物としての、4,4’−ビス(2,2−ジ−t−ブチルフェニルビニル)ビフェニルや、4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBiと略記する。)及びこれらの誘導体がより好ましい。
さらに、ジスチリルアリーレン骨格等を有する有機発光材料をホスト材料とし、当該ホスト材料に、ドーパントとしての青色から赤色までの強い蛍光色素、例えば、クマリン系材料、あるいはホストと同様の蛍光色素をドープした材料を併用することも好適である。より具体的には、ホスト材料として、上述したDPVBi等を用い、ドーパントとして、N,N−ジフェニルアミノベンゼン等を用いることが好ましい。
尚、発光層は単層でもよく、同色又は異なる発色をする発光層を2層以上積層して形成してもよい。
【0022】
また、有機発光層における正孔注入層には、1×10〜1×10V/cmの範囲の電圧を印加した場合に測定される正孔移動度が、1×10−6cm/V・秒以上であって、イオン化エネルギーが5.5eV以下である化合物を使用することが好ましい。このような正孔注入層を設けることにより、発光層への正孔注入が良好となり、高い発光輝度が得られたり、あるいは、低電圧駆動が可能となる。
【0023】
このような正孔注入層の構成材料としては、具体的に、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、縮合芳香族環化合物、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルや、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン等の有機化合物が挙げられる。
また、正孔注入層の構成材料として、p型−Siやp型−SiC等の無機化合物を使用することも好ましい。尚、上述した正孔注入層と、陽極層との間、あるいは、上述した正孔注入層と、発光層との間に、導電率が1×10−10S/cm以上の有機半導体層を設けることも好ましい。このような有機半導体層を設けることにより、さらに発光層への正孔注入がより良好となる。
正孔注入層の厚さは、特に制限されるものではないが、10〜300nmとするのが好ましい。
【0024】
有機発光層における電子注入層には、1×10〜1×10V/cmの範囲の電圧を印加した場合に測定される電子移動度が、1×10−6cm/V・秒以上であって、イオン化エネルギーが5.5eVを超える化合物を使用することが好ましい。このような電子注入層を設けることにより、発光層への電子注入が良好となり、高い発光輝度が得られたり、あるいは、低電圧駆動が可能となる。このような電子注入層の構成材料としては、具体的に、8−ヒドロキシキノリンの金属錯体(Alキレート:Alq)、又はその誘導体、あるいは、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。
【0025】
有機発光層における付着改善層は、かかる電子注入層の一形態とみなすことができる。即ち、電子注入層のうち、特に陰極との接着性が良好な材料からなる層であり、8−ヒドロキシキノリンの金属錯体又はその誘導体等から構成することが好ましい。尚、上述した電子注入層に接して、導電率が1×10−10S/cm以上の有機半導体層を設けることも好ましい。このような有機半導体層を設けることにより、さらに発光層への電子注入性が良好となる。
電子注入層の厚さは、特に制限されるものではないが、10〜300nmとするのが好ましい。
【0026】
有機発光層の厚さについては,好ましくは5nm〜5μmの範囲内で設定することができる。この理由は、有機発光層の厚さが5nm未満となると、発光輝度や耐久性が低下する場合があり、一方、有機発光層の厚さが5μmを超えると、印加電圧の値が高くなる場合があるためである。従って有機発光層の厚さを10nm〜3μmの範囲内の値とすることがより好ましく、20nm〜1μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0027】
5.中間導電層
中間導電層は、図2に示すように、隣り合う有機発光層の間に介在し、一方の面から正孔を注入し、他方の面から電子を注入する機能を有するものであれば各種用いることができる。
【0028】
中間導電層を構成する材料としては、例えば、In、ITO(インジウムチンオキサイド)、IZO(インジウム亜鉛オキサイド)、SnO、ZnO、TiN、ZrN、HfN、TiOx、VOx、MoOx、CuI、InN、GaN、CuAlO、CuGaO、SrCu、LaB、RuO等に、希土類元素の酸化物を添加した透明導電材料を用いることができる。
【0029】
この中でも、透明導電材料は、Ce,Nd,Sm又はGdから選ばれる1つ以上の希土類元素と、In,Zn又はSnから選ばれる1つ以上の元素を含む酸化物からなることが好ましい。
透明導電材料に占める希土類元素の酸化物の添加量は、導電性を損なわない範囲で決定され、具体的には1〜30重量%とすることが好ましい。
【0030】
本発明では、発光素子の光取出効率を向上するため、中間導電層の屈折率と有機発光層の屈折率との差を0.25以内とする。そこで、中間導電層は、有機発光層の屈折率nよりも大きな屈折率を示す層と、屈折率nよりも小さな屈折率を示す層の積層体であるか、又は有機発光層の屈折率nよりも大きな屈折率を示す材料と、屈折率nよりも小さな屈折率を示す材料の混合物からなることが好ましい。
具体的には、中間導電層の電荷注入性を損なわない範囲で、例えば、LiFに代表される金属弗化物等の金属ハロゲン化物のような低屈折率材料と、有機発光層の屈折率よりも高屈折率を示す上記の透明導電材料との混合物からなる膜や、金属弗化物と透明導電材料とを積層した多層膜を用いることができる。
【0031】
透明導電材料と金属ハロゲン化物等の低屈折率材料を混合した中間導電層は、例えば、二つの蒸着源を用意し、各々の材料を蒸着源に充填し共蒸着することにより成膜することができる。屈折率は各々の蒸着のレートで制御することができる。低屈折率材料がLiFのような金属ハロゲン化物の場合、その比率が増えると、中間導電層の導電性が悪化するとともに、均質に混合しなくなる傾向にあるため好ましくない。具体的には、膜中の金属ハロゲン化物の比率は、0.6(重量比)より小さいことが好ましい。
【0032】
透明導電材料からなる膜と低屈折率材料からなる膜を積層する場合、電子、正孔それぞれの電荷を注入するという中間導電層の機能を維持していれば、どのような積層構造も可能であるが、透明導電材料/低屈折率材料/透明導電材料という3層構造となっていることが好ましい。中間導電層の膜厚に対する低屈折率材料の膜厚比率は、0.6より小さいことが好ましい。
【0033】
有機発光層の発光を効率よく素子の外部に取出すという観点で、可視光に対する中間導電層の吸収係数は2.5[1/μm]以下であることが好ましく、特に、0.5[1/μm]以下であることが好ましい。吸収係数が2.5[1/μm]以下の場合、例えば、中間導電層の膜厚が30nmとすると、中間導電層一層の透過率は92%である。これが二層では86%、3層では80%というように、透過率が減衰していくものの、ある程度高く保つことができる。透明導電材料は一般に、消衰係数として0.1を越える値を持つものが多いが、LiFに代表される材料は消衰係数がほとんど0である。そのため、透明導電材料と低屈折率材料の混合あるいは積層により吸収係数を低減し、素子の発光効率を高められるという作用も生じる。
【0034】
尚、中間導電層を複数有する場合、全ての中間導電層の吸収係数が2.5[1/μm]以下であることがより好ましい。
また、中間導電層の吸収係数を2.5[1/μm]以下とするためには、例えば、スパッタリング法で形成する場合には、スパッタ中の酸素分圧[酸素/(酸素+アルゴン)]を調整する等の方法がある。
【0035】
有機発光層及び/又は中間導電層が積層体の場合、有機発光層と中間導電層の屈折率は等価屈折率として定義される。
例えば、高屈折率材料からなる膜と低屈折率材料からなる膜を積層した場合における、波長λの光に対する中間導電層の屈折率の定義について説明する。高屈折率材料の膜厚をd、屈折率をn、低屈折率材料層の膜厚をd、屈折率をnとし、さらに量δ、δを数式(1)のように定義する。
【数1】

さらに、2×2行列Mを数式(2)のように定義する。
【数2】

このとき、積層膜の等価屈折率Nを数式(3)のように定義する。
【数3】

【0036】
有機発光層全体の屈折率は、有機発光層を形成する正孔注入材料、発光材料、電子注入材料等の屈折率が分かっていれば、上述した数式(1)〜(3)と同様な方法で定義することができる。これら有機発光層を形成する材料の屈折率は、1.7〜1.8程度のものが多く、結果として有機発光層の等価屈折率も1.7〜1.8程度の値となる。従って、中間導電層の屈折率としては1.5〜2.0の範囲のものが好ましく、吸収係数が2.5[1/μm]以下という観点では、その消衰係数が0.1以下であることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
実施例1
(1)ITO付きガラス基板の準備
25mm×75mmの支持基板(OA2ガラス:日本電気硝子社製)を純水及びイソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、エアブローにて乾燥後、UV洗浄した。次に、この基板をスパッタ装置に移動し、ITOを150nmの厚みになるように成膜した。
【0038】
(2)有機発光層の成膜
次に、この基板を有機蒸着装置に移動し、基板ホルダーに基板を固定し、真空槽を5×10−7torrまで減圧した後、正孔注入層、発光層、電子注入材料を順次成膜した。
まず、正孔注入層として、4,4’,4”−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミン(MTDATA)を蒸着し、膜厚55nmとした。
次に、発光層としては、ホストとして4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を蒸着速度0.1〜0.3nm/秒、ドーパントとして1,4−ビス[4−(N,N−ジフェニルアミノスチリルベンゼン)](DPAVB)を蒸着速度0.003〜0.008nm/秒にて共蒸着し、膜厚40nmとした。
次に、電子注入層としてトリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)を蒸着し、膜厚20nmとした。
【0039】
(3)中間導電層の成膜
スパッタリング源として、ITOと酸化セリウムの混合物(In:SnO:CeO=90:5:5(重量比、以下同じ)、以下この混合物をITCOと略記する)、蒸着源として弗化リチウム(LiF)をそれぞれ独立に準備し、ITCOを10nm、LiFを10nm、ITCOを10nmの順序で順次成膜した。
【0040】
(4)有機発光層、中間導電層、有機発光層及び陰極の成膜
上記(3)で成膜した中間導電層の上に、有機発光層、中間導電層及び有機発光層を、さらに、上記(1)、(2)の有機発光層と中間導電層と同じ要領で成膜した。
次に、陰極としてアルミニウムを150nmの膜厚になるように成膜し、有機EL素子(有機発光層を3層、中間導電層を2層含む)を得た。
【0041】
(5)有機発光層と中間導電層の屈折率測定
ガラス基板(OA2ガラス:日本電気硝子社製)上に、上記(2)の方法により正孔注入層、発光層、電子注入層をそれぞれ0.2ミクロンの厚みで単独に成膜し、エリプソメータにて波長500nmの光に対する屈折率を測定した。そして上記(2)のそれぞれの膜厚値を用いて有機発光層の等価屈折率を求めたところ、1.79であった。
また、ガラス基板上に、上記(3)の方法により、ITCOと弗化リチウムをそれぞれ単独に成膜し、エリプソメータにて波長500nmの光に対する屈折率を測定した。ITCOの屈折率は、2.1であり、弗化リチウムの屈折率は、1.4であった。
上記(3)のそれぞれの膜厚値を用いて中間導電層の等価屈折率を測定したところ1.85であった。
以上から、有機発光層の等価屈折率と中間導電層の等価屈折率の差は、0.06であった。
中間導電層の吸光度計を用い吸収係数を測定したところ2.13[1/μm]であった。
【0042】
(6)有機EL素子の発光性能測定
電流密度が1.4mA/cmとなるようにITOとアルミニウム陰極の間に通電したところ青い発光を得た。分光放射輝度計(ミノルタ製CS1000)を用い、素子正面方向での輝度を測定したところ、輝度は387cd/m、であった。
次に、この素子を2000cd/mで光らせ、輝度が半分の1000cd/mになるまでの時間(半減寿命)を測定したところ、2400時間であった。
【0043】
実施例2
中間導電層を、Inと酸化セリウムの混合物(In:CeO=95:5:屈折率2.2)とLiFの共蒸着(膜厚30nm、InとCeOの混合物:LiF=8:2、重量比)としたこと以外は、実施例1と同様の方法で有機EL素子を作製し、評価した。
その結果、中間導電層の屈折率は1.95、吸収係数は2.12[1/μm]であった。有機発光層の等価屈折率と中間導電層の等価屈折率の差は、0.16であった。
有機EL素子の正面方向の輝度は355nit、半減寿命は2250時間であった。
【0044】
実施例3
中間導電層を、IZOと酸化セリウムの単層膜(In:ZnO:CeO=85:10:5、膜厚30nm)とした以外は、実施例1と同様の方法で有機EL素子を作製し、評価した。
その結果、中間導電層の屈折率は2.04、吸収係数は2.58[1/μm]であった。有機発光層の等価屈折率と中間導電層の等価屈折率の差は、0.25であった。
有機EL素子の正面方向の輝度は280nit、半減寿命は1800時間であった。
【0045】
実施例4
発光層を以下に述べるように青色発光層と橙色発光層の積層型とした以外は、実施例3と同様の方法で有機EL素子を作製し、評価した。
尚、正孔注入層の上に、橙色発光層を先に積層して、その後に青色発光層を積層した。
橙色発光媒体は、下記式(1)に示す材料と下記式(2)に示す材料を5:0.01の重量比で、膜厚5nmとなるように成膜した。
青色発光媒体は、下記式(1)に示す材料と下記式(3)に示す材料を35:0.8の重量比で、膜厚35nmとなるように成膜した。
【0046】
【化1】

【0047】
この有機EL素子において、有機発光層の屈折率は他の実施例と同様に1.79であった。中間導電層の屈折率は1.95、吸収係数は2.52[1/μm]であった。有機発光層の等価屈折率と中間導電層の等価屈折率の差は、0.16であった。
有機EL素子の正面方向の輝度は338nit、半減寿命は2900時間であった。
【0048】
比較例1
中間導電層を、Vの単層膜(膜厚30nm)としたこと以外は、実施例1と同様の方法で有機EL素子を作製し、評価した。
その結果、中間導電層の屈折率は2.20、吸収係数は3.02[1/μm]であった。有機発光層の等価屈折率と中間導電層の等価屈折率の差は、0.41であった。
有機EL素子の正面方向の輝度は320nit、半減寿命は1200時間であった。
【0049】
比較例2
中間導電層で使用したITCOをITO(In:SnO=90:10、重量比)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で有機EL素子を作製し、評価した。
その結果、中間導電層の屈折率は1.90、吸収係数は1.95[1/μm]であった。有機発光層の等価屈折率と中間導電層の等価屈折率の差は、0.16であった。
有機EL素子の正面方向の輝度は160nit、半減寿命は800時間であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の有機EL素子は、公知の構成と組み合わせて、民生用TV、大型表示ディスプレイ、携帯電話用表示画面等の各種表示装置や、各種照明装置の光源として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の有機EL素子の一実施形態を示す図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0052】
1 有機EL素子
10 支持基板
12 透明陽極(透明電極)
20,22,24,26 有機発光層
30,32,34 中間導電層
14 陰極(対向電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極と、
前記透明電極に対向して配置される対向電極と、
前記透明電極と前記対向電極の間に、
2層の有機発光層が中間導電層を介して積層している構造を1つ以上有し、
前記中間導電層の屈折率nと、前記有機発光層の少なくとも1層の屈折率nとの差が0.25以内であり、
前記中間導電層が、1種以上の希土類元素を含有する酸化物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記中間導電層が、前記有機発光層の屈折率nよりも大きな屈折率を示す層と、屈折率nよりも小さな屈折率を示す層の積層体からなる請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記中間導電層が、前記有機発光層の屈折率nよりも大きな屈折率を示す材料と、屈折率nよりも小さな屈折率を示す材料の混合物からなる請求項1に記載の有機EL発光素子。
【請求項4】
前記中間導電層が、透明導電材料と金属ハロゲン化物の積層体、又は透明導電材料と金属ハロゲン化物との混合膜である請求項2又は3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記透明導電材料が、Ce,Nd,Sm又はGdから選ばれる1つ以上の元素と、In,Zn又はSnから選ばれる1つ以上の元素を含む、酸化物からなる請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記中間導電層の吸収係数が2.5[1/μm]以下である請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−318697(P2006−318697A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138354(P2005−138354)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】