説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】有機層の改良によって、より長寿命化を達成することができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】対向する2つの電極1,2間に、ホール輸送層4、有機発光層3、電子輸送層5をこの順に積層した有機層6を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。ホール輸送層4の有機発光層3に接する部位、有機発光層3内の部位、電子輸送層5の有機発光層3に接する部位のうち少なくとも一つの部位に、有機層6を構成する有機成分に絶縁物が0.1質量%以上20質量%以下含有される混合層7を設ける。有機層6を構成する有機成分に絶縁物が含有される混合層7を設けることによって、有機層6のキャリア輸送性を調整することができると共に、有機層6の膜質を安定化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明光源、バックライト、フラットパネルディスプレイ等に用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものであり、詳しくは、改良された有機発光層またはキャリア輸送層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
照明光源、バックライト、フラットパネルディスプレイなどとして用いられる発光体として、高効率照明器具の実現、照明器具形状の自由化、液晶表示機を備える電子機器の小型化、長時間駆動化、フラットパネルディスプレイの薄型化等のために、高効率であり、かつ薄く軽量であるものが近年強く要求されている。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、以前より、上記の要求を満たす可能性を有する発光体として注目を集めており、盛んに研究開発が行なわれている。特に近年、電流−光変換効率100%を原理的に有するリン光発光材料の登場に伴い、有機エレクトロルミネッセンス素子の効率は飛躍的に増大し、有機エレクトロルミネッセンス素子の実用化可能領域は大きく広がってきた。既に、緑、赤などの単色発光素子に関しては、実デバイスとして電流−光変換効率100%に相当すると考えられる高効率発光素子が実際に実現されている。また青色発光素子に関しては、青色発光のエネルギーが大きいためにそれに適した発光材料、周辺材料の開発が進まず、他の発光色を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に対して開発が遅れていたが、最近になって青色発光素子に適した発光材料や周辺材料が開発され、青色発光素子の効率も他色と同等以上に向上している。また、白色発光素子においても、60lm/W、外部量子効率30%といった高性能のものが報告されている。
【0004】
上記のように、有機エレクトロルミネッセンス素子において、効率はいわゆる理論値に近づきつつあるため、最近はむしろ、素子の長寿命化の観点での研究が盛んになっている。例えば新規材料を用いることによる長寿命化は、材料の熱安定性の向上、電気的安定性の向上などによって実現されていると考えられるが、初期輝度1000cd/mの場合に半減寿命10万時間、といった値も報告されるようになっている。
【0005】
また、デバイス構造の観点から長寿命化を達成する場合には、例えば特許文献1には、キャリア輸送層にキャリア輸送用のドーパントをドープする方法によって、また特許文献2には、キャリア輸送層に特定のエネルギー準位を有するドーパントをドープする方法によって、さらに特許文献3には、電子輸送層にその電子輸送材料よりも酸化電位が小さい正孔トラップ材料を含有させる方法によって、有機エレクトロルミネッセンス素子の寿命が向上することが記載されている。また特許文献4には、有機発光層と電子輸送層との間に、電子制限層を挿入して有機発光層への電子注入を抑制することによって、有機エレクトロルミネッセンス素子の寿命を向上させる方法が記載されている。
【特許文献1】特開2000−164362号公報
【特許文献2】特許3332491号公報
【特許文献3】特開2005−276665号公報
【特許文献4】特開2006−66872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子を照明に応用する場合、現状の蛍光灯の輝度、すなわち数千〜一万cd/mで使用することが必要となり、その際の寿命は上記の寿命より短くなり、例えば数千時間程度にまで低下する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子をディスプレイに応用する場合には、焼き付きの発生、すなわち5%程度の輝度劣化が寿命であると考えられるが、この場合にも寿命は数千時間程度に留まることになる。
【0007】
従って、材料の改良は勿論のこと、さらにデバイス構造の観点からも、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化をさらに検討する必要があるのが現状である。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する有機層の改良によって、より長寿命化を達成することができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、対向する2つの電極1,2間に、ホール輸送層4、有機発光層3、電子輸送層5をこの順に積層した有機層6を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子に於いて、ホール輸送層4の有機発光層3に接する部位、有機発光層3内の部位、電子輸送層5の有機発光層3に接する部位のうち少なくとも一つの部位に、有機層6を構成する有機成分に絶縁物が0.1質量%以上20質量%以下含有される混合層7を設けて成ることを特徴とするものである。
【0010】
この発明によれば、有機層6を構成する有機成分に絶縁物が含有される混合層7を設けることによって、有機層6のキャリア輸送性を調整することができると共に、また有機層6の膜質を安定化することができ、有機エレクトロルミネッセンス素子を長寿命化することができるものである。
【0011】
また請求項2の発明は、請求項1において、上記混合層7が、ホール輸送層4の有機発光層3と接する部位及び有機発光層3のホール輸送層4と接する部位のうち少なくとも一方に設けられ、この混合層7に有機層6を構成する有機成分として、ホール輸送層4を構成する主成分と有機発光層3のホスト材料の両者が含有されていることを特徴とするものである。
【0012】
この発明によれば、ホール輸送層4から有機発光層3へのホール注入障壁を低減することができるとともに、過剰の電子がホール輸送層4に注入されることや、過剰のホールが有機発光層3へ注入されることを抑制することができ、発光特性に悪影響を及ぼさずに長寿命化を実現することができるものである。
【0013】
また請求項3の発明は、請求項1において、上記混合層7が、電子輸送層5の有機発光層3と接する部位及び有機発光層3の電子輸送層5と接する部位のうち少なくとも一方に設けられ、この混合層7に有機層6を構成する有機成分として、電子輸送層5を構成する主成分と有機発光層3のホスト材料の両者が含有されていることを特徴とするものである。
【0014】
この発明によれば、電子輸送層5から有機発光層3への電子注入障壁を低減することができるとともに、過剰のホールが電子輸送層5に注入されることや、過剰の電子が有機発光層3に注入されることを抑制することができ、発光特性に悪影響を及ぼさずに長寿命化を実現することができるものである。
【0015】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、上記混合層7を構成する絶縁物が、10Ωcm以上の比抵抗を有するものであることを特徴とするものである。
【0016】
この発明によれば、10Ωcm以上の比抵抗を有する絶縁物を混合して混合層7を形成することによって、キャリアの輸送性を効果的に制御することができ、駆動電圧の極端な上昇や発光特性への悪影響を抑制することができるとともに長寿命化を実現することができるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、有機層6を構成する有機成分に絶縁物が含有される混合層7を設けるという有機層6の改良によって、有機エレクトロルミネッセンス素子を長寿命化することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0019】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、2つの電極1,2、すなわち陽極(アノード)と陰極(カソード)の間に有機層6を備えて形成されるものである。図2はこのような有機エレクトロルミネッセンス素子の構造の一例を示すものであり、陽極となる電極1と陰極となる電極2の間に、陽極側から順にホール輸送層4、有機発光層3、電子輸送層5を積層して有機層6を形成し、これらを基板8の表面に積層したものである。図2の実施の形態では、電極1は光透過性の電極として透明な基板8の表面に形成すると共に、電極2は光反射性の電極として形成してあり、有機発光層3で発光した光を光透過性の電極1及び透明な基板8を通して取り出すことができるようにしてある。また、ホール輸送層4や電子輸送層5の電極1,2側には、ホール注入層や電子注入層などを設けるようにしてもよいが、図2ではこれらの図示は省略してある。
【0020】
そして本発明では、ホール輸送層4の有機発光層3に接する部位、有機発光層3内の部位、電子輸送層5の有機発光層3に接する部位のうち、少なくとも一つの部位に、有機層6を構成する成分に絶縁物を混合して形成した混合層7を設けるようにしてある。
【0021】
図1(a)は、図2の構造の有機エレクトロルミネッセンス素子において、ホール輸送層4の有機発光層3に接する部位に混合層7(7a)を設けた形態を示すものであり、ホール輸送層4を構成する主成分に絶縁物を混合して混合層7aを形成することができる。また図1(b)は、電子輸送層5の有機発光層3に接する部位に混合層7(7b)を設けた形態を示すものであり、電子輸送層5を構成する主成分に絶縁物を混合して混合層7bを形成することができる。ホール輸送層4の有機発光層3に接する部位や、電子輸送層5の有機発光層3に接する部位とは、特に厚みが限定されるものではないが、例えば、有機発光層3との界面から0.1nm〜100nmの間の厚みの部位であり、より好ましくは1nm〜30nmの厚みの部位である。場合によってはホール輸送層4の全体もしくは電子輸送層5の全体が低濃度で絶縁物を含有する混合層7a,7bであってもよい。
【0022】
また図1(c)〜(e)は、有機発光層3内に混合層7(7c)を設けた形態を示すものであり、有機発光層3のホスト材料に絶縁物を混合して混合層7cを形成することができる。混合層7cを設ける有機発光層3内の位置や厚みは限定されるものではなく、図1(c)の形態は、有機発光層3のホール輸送層4や電子輸送層5と接しない内部に混合層7cを設けるようにしたものである。図1(d)の形態は、有機発光層3のホール輸送層4と接する界面付近の部位に0.1nm以上の薄い厚みで混合層7cを設けるようにしたものであり、図1(e)の形態は、有機発光層3の電子輸送層5と接する界面付近の部位に0.1nm以上の薄い厚みで混合層7cを設けるようにしたものである。場合によっては有機発光層3の全体が低濃度で絶縁物を含有する混合層7cであってもよく、有機発光層3の複数個所に混合層7cを設けてもよい。さらに、上記のようなホール輸送層4や電子輸送層5の有機発光層3に接する部位に設けた混合層7a,7bと、有機発光層3に設けた混合層7cの両方を備えるようにしてもよい。
【0023】
混合層7において、絶縁物の混合濃度は、0.1質量%以上20質量%以下の範囲に設定される。絶縁物の混合濃度が0.1質量%未満であると、絶縁物を混合することによる効果を好適に得ることができないものであり、また20質量%を超えると、有機層6におけるキャリアの輸送性の低下が著しくなって、駆動電圧の上昇や発光効率の低下があるために好ましくない。絶縁物の混合濃度のより好ましい範囲は、0.1質量%以上10質量%以下である。
【0024】
上記のように有機層6に混合層7を設けるにあたって、混合層7が図1(a)や図1(d)のようにホール輸送層4と有機発光層5が接する部位に設けられている場合、混合層7には、有機層6を構成する有機成分として、ホール輸送層4を構成する主成分と有機発光層3のホスト材料の両者を含有するようにしてもよい。ホール輸送層4を構成する主成分と有機発光層3のホスト材料との混合比率は特に限定されないが、0.1:99.9〜99.9:0.1(両者の合計100)の質量比の範囲が好ましい。両者の電子親和力が近い場合には、ホール輸送層4を構成する主成分と有機発光層3のホスト材料との混合比率は例えば99.9:0.1〜80:20の質量比の範囲など、ホール輸送層4を構成する主成分の割合が大きいことが好ましく、逆に両者の電子親和力が離れている場合には、両者の混合比率は比較的50:50の質量比に近いことが好ましい。また混合層7において両者の混合様式は、厚み方向に一定の濃度でも良いし、あるいは、ホール輸送層4に接する側はホール輸送層4を構成する主成分の濃度が高く、有機発光層3に接する側は有機発光層3のホスト材料の濃度が高いといった分布を有するものでも良いし、あるいはその逆などであってもよい。また絶縁物の添加は、混合層7の厚み方向に一定の濃度になるようにしても良いし、あるいは、ホール輸送層4に接する部位において最も絶縁物の濃度が低くかつ有機発光層3に接する部位で絶縁物の濃度が最も高いといった傾斜的、あるいは絶縁物の濃度が段階的に変化するような添加様式や、有機発光層3やホール輸送層4に接する界面に於いて絶縁物の添加濃度が最も高く、界面から離れるとともに濃度が低くなるような、あるいはその逆の濃度勾配を有する、傾斜的あるいは段階的な添加様式なども適宜選択することができる。
【0025】
また、混合層7が図1(b)や図1(e)のように電子輸送層5と有機発光層3が接する部位に設けられている場合、混合層7には、有機層6を構成する有機成分として、電子輸送層5を構成する主成分と有機発光層3のホスト材料の両者を含有するようにしてもよい。電子輸送層5を構成する主成分と有機発光層3のホスト材料との混合比率は特に限定されないが、0.1:99.9〜99.9:0.1(両者の合計100)の質量比の範囲が好ましい。両者のイオン化ポテンシャルが近い場合には、電子輸送層5を構成する主成分と有機発光層3のホスト材料との混合比率は例えば99.9:0.1〜80:20の質量比の範囲など、電子輸送層5を構成する主成分の割合が大きいことが好ましく、逆に両者のイオン化ポテンシャルが離れている場合には、両者の混合比率は比較的50:50の質量比に近いことが好ましい。また混合層7において両者の混合様式は、厚み方向に一定の濃度でも良いし、あるいは、電子輸送層5に接する側は電子輸送層5を構成する主成分の濃度が高く、有機発光層3に接する側は有機発光層3のホスト材料の濃度が高いといった分布を有するものでも良いし、あるいはその逆などであってもよい。また絶縁物の添加は、混合層7の厚み方向に一定の濃度になるようにしても良いし、あるいは、電子輸送層5に接する部位において最も絶縁物の濃度が低くかつ有機発光層3に接する部位で絶縁物の濃度が最も高いといった傾斜的、あるいは絶縁物の濃度が段階的に変化するような添加様式や、有機発光層3や電子輸送層5に接する界面に於いて絶縁物の添加濃度が最も高く、界面から離れるとともに濃度が低くなるような、あるいはその逆の濃度勾配を有する、傾斜的あるいは段階的な添加様式なども適宜選択することができる。
【0026】
ここで上記の、ホール輸送層4を構成する主成分や、電子輸送層5を構成する主成分とは、ホール輸送層4中や、電子輸送層5中の含有比率が25質量%を超える有機材料をいうものである。25質量%を超える有機材料が複数種ある場合には、いずれの材料であってもよい。尚、イオン化ポテンシャルとは光電子分光測定によって算出される値であり、電子親和力とは、前記イオン化ポテンシャルから、光学的に見積もられるエネルギーギャップを差し引いた値である。
【0027】
また、混合層7を構成する絶縁物としては、10Ωcm以上の比抵抗を有するものが好ましい。絶縁物の種類は、その比抵抗が10Ωcm以上のものであれば特に限定されないが、例えば、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムなどの金属フッ化物をはじめとする金属ハロゲン化物、酸化アルミニウムなどの金属酸化物、金属窒化物、金属硫黄化物、金属ホウ化物、金属炭化物などに代表される金属化合物、Si化合物などを挙げることができる。また、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリナフタレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、各種ポリエステルなどに代表される各種ポリマーや、それらの共重合体およびそれらのオリゴマーなどや、パラフィンなど、いわゆる有機半導体材料ではない有機分子も好適に用いることができる。このように混合層7に添加する絶縁物として10Ωcm以上の比抵抗を有するものを用いることによって、後述のようなキャリアの輸送性の制御を効果的に行なうことができ、駆動電圧の極端な上昇や発光特性への悪影響を抑制することができるとともに長寿命化を実現することができるものである。絶縁物の比抵抗の上限は特に制限されるものではないが、実用的には1018Ωcm程度が上限である。
【0028】
混合層7への絶縁物の添加方法は、特に限定されない、混合層7を蒸着によって形成する場合には、有機層6を構成する材料と共に絶縁物を蒸着することによって添加混合するようにしてもよく、混合層7を塗布によって形成する場合には、塗布材料の溶液に絶縁物を添加するなどして混合するようにしても構わない。
【0029】
上記のように有機層6の特定の部分に絶縁物を添加混合した混合層7を設けることによって、長寿命かつ高効率を呈する有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができるものである。その理由は、絶縁物を混合した混合層7を設けることにより、この混合層7内のホール輸送性や電子輸送性、すなわちキャリア輸送性が制御され、ホール輸送層4や電子輸送層5の対向キャリアによる劣化が抑制されると推定される。特に、絶縁物をキャリア輸送性制御に用いることによって、たとえばキャリアトラップ性の材料を用いるような場合よりも、駆動電圧に優れ、発光特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。トラップ性の材料を本用途に用いる場合には、輸送性は同様に制御可能ではあるが、同時に駆動電圧が比較的大きく上昇することが、すなわち、輸送性の変化以上に駆動電圧が上昇することが問題となるものである。特にトラップ性材料の添加部位が有機発光層3内や有機発光層3とホール輸送層4や電子輸送層5との界面の場合には、トラップ材料からの発光が生じ、所望の発光色と異なる発光色となる問題が起こる可能性がある。本発明では、混合層7への添加物を絶縁物とすることによって、キャリア輸送性を好適に制御し、かつこれらのような問題を回避することが可能になるものである。特に、有機発光層3内に混合層7を設けた場合でも、発光特性に悪影響を及ぼさずにキャリア輸送性を制御することが可能であるため、キャリアバランスを向上させ、発光効率を向上させる手段としても活用が可能である。
【0030】
また、特に混合層7が有機成分として、有機発光層3のホスト材料と、ホール輸送層4あるいは電子輸送層5を構成する主成分の両者を含むような場合には、混合層7にホール輸送層4あるいは電子輸送層5と有機発光層3を構成する成分が含有されているため、有機発光層3とホール輸送層4あるいは電子輸送層5の界面におけるエネルギー障壁の形成を低減することができるものであり、駆動電圧の低減ができること、界面に蓄積されるキャリアの総数を減少させ、界面に蓄積されるキャリアによって有機発光層3やホール輸送層4や電子輸送層5の劣化を低減することができることも、更なる効果として期待することができる。また混合層7中のホール輸送層4あるいは電子輸送層5の主成分材料の対向キャリアによる劣化を、有機発光層3のホスト材料が抑制することも、長寿命化の理由の一つとして期待できる。またこの場合にも、混合層7のキャリア輸送性を低下させることによってホール輸送層4や電子輸送層5の対向キャリアによる劣化を抑制することができることも、同じく長寿命化の理由の一つとして期待できる。さらに、有機発光層3のホスト材料にトラップされたキャリアにより局所的な電界が生じ、対向キャリアがより効率よく注入され、結果として駆動電圧の低減や蓄積キャリアの消失による寿命特性の向上を実現することができることも期待できるものである。
【0031】
ここで、混合層7が、有機発光層3のホスト材料とホール輸送層4あるいは電子輸送層5を構成する主成分を混合しただけのものであると、場合によっては素子寿命が変化しないかまたはより短くなることもあり得る。これは、有機発光層3とホール輸送層4あるいは電子輸送層5の界面に明確なキャリア注入障壁が形成されないために、キャリアがより深く混合層7及びホール輸送層4あるいは電子輸送層5の側に進入し、かつ有機発光層3のホスト材料が上記のような効果を十分に発現できないことにより、ホール輸送層4あるいは電子輸送層5の劣化が低減されないかもしくは逆に促進されることによるものである。これに対して、本発明では混合層7に絶縁物を所定濃度の範囲で混合しているため、上記のようなキャリアのホール輸送層4あるいは電子輸送層5への到達を制限し、あるいはホール輸送層4あるいは電子輸送層5の劣化を抑制して、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化が可能となるものである。これは、有機発光層3内で再結合することなくホール輸送層4あるいは電子輸送層5側に進行してきたキャリアを、混合層7内で、有機発光層3のホスト材料がトラップすると共に、他の成分が混合層7のキャリア輸送性を抑制することにより、対向キャリアのホール輸送層4あるいは電子輸送層5への進行を強く制限することができること、などが理由として考えられるものであり、そして結果としてホール輸送層4あるいは電子輸送層5の対向キャリアによる劣化を抑制して有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化を達成することができるものである。
【0032】
また、上記のように絶縁物を添加することによって、膜質が改善されることも、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化の一つの理由として考え得る。すなわち、絶縁物の添加によって、有機層6を構成する材料が希釈され、あるいは添加した絶縁物との相互作用によって、有機層6を構成する材料の結晶化が抑制され、膜質が改善されることが期待できるものである。また添加した絶縁物が、有機層6を構成する材料の電気化学的特性を向上させることも期待し得る。その他の理由としては、例えば有機層6の隣接する各層3,4,5あるいは電極1,2との密着性の向上、熱安定性の向上、電気的エネルギーの変化などが考え得る。
【0033】
尚、絶縁物を添加した混合層7によって、有機層6のキャリア輸送性が調整されたことは、有機層6のキャリア輸送性の直接的、あるいは間接的評価によって判断することができる。直接的な評価方法の例としては、例えば、タイムオブフライト法による移動度評価、ダークインジェクション法による移動度評価、分光インピーダンス法による移動度評価など、移動度の値そのものを評価する方法が挙げられる。間接的な評価方法の例としては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動電圧の混合層7の厚みに対する依存性、ホールオンリー素子(ホールのみが有機膜を流れるように素子構造、電極材料などを選定した素子)、電子オンリー素子(電子のみが有機膜を流れるように素子構造、電極材料などを選定した素子)の特性、特にそれらの素子の厚み依存性あるいは、絶縁物の添加有無の場合の素子特性の比較結果によって判断することが可能である。
【0034】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、有機層6として、有機発光層3を備え、有機発光層3の陰極の電極2の側に電子輸送層5、有機発光層3の陽極の電極1の側にホール輸送層4を備えている構造であればよく、他の部分の構造は特に限定されるものではない。以下、図2に示した基板8/電極(陽極)1/ホール輸送層4/有機発光層3/電子輸送層5/電極(陰極)2からなる構造の有機エレクトロルミネッセンス素子について、その材料の例を説明する。
【0035】
上記のホール輸送層4を構成する材料としては、ホールを輸送する能力を有し、陽極からのホール注入効果を有するとともに、有機発光層3に対して優れたホール注入効果を有し、また電子のホール輸送層4への移動を防止し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物を挙げることができる。このような化合物としては、例えば、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPBまたはα−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、スピロ−NPD、スピロ−TPD、スピロ−TAD、TNB(α−NPDのフェニル基がナフチル基であるもの)、TPBD(α−NPDのフェニル基、ナフチル基がビフェニル基であるものであり、置換結合位置は問わない)、p−MeO−TPDなどを代表例とするトリアリールアミン系化合物を挙げることができる。またトリアリールアミン化合物以外であっても、有機エレクトロルミネッセンス素子のホール輸送層として機能することが実際の系で確認できる材料、例えばチアントレン化合物などであれば、それも使用可能である。特にリン光発光素子の場合には、有機発光層3のドーパントのエネルギーギャップ及び/又はT1準位、及び有機発光層3のホストのエネルギーギャップ及び/又はT1準位より大きな、エネルギーギャップ及び/又はT1準位を有するワイドエネルギーギャップ材料であることが好ましく、このような化合物としては、例えばテトラフェニルシラン骨格を持つトリアリールアミン誘導体、シクロヘキサン環等共役環を持たない部位をトリアリールアミン残基間に備えるトリアリールアミン誘導体、メチル基置換ビフェニル骨格、クオーターフェニレン骨格や、ヘキサフェニルベンゼン骨格など広いエネルギーギャップを有する骨格を持つトリアリールアミン誘導体などを挙げることができる。あるいは、カルバゾール基を含むアミン化合物、フルオレン誘導体を含むアミン化合物なども前述の特性に応じて適宜使用される。
【0036】
また、上記の電子輸送層5を構成する材料としては、電子を輸送する能力を有し、陰極からの電子注入効果を有するとともに、有機発光層3に対して優れた電子注入効果を有し、さらにホールの電子輸送層5への移動を防止し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物を挙げることができる。このような化合物としては、例えば、バソフェナントロリン、バソクプロイン、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ピリジン、フラン、フェナントロリンなど、複素環を有する化合物およびそれらの誘導体を挙げることができる。特にリン光発光素子の場合には、有機発光層3のドーパントのエネルギーギャップ及び/又はT1準位、及び有機発光層3のホストのエネルギーギャップ及び/又はT1準位より大きな、エネルギーギャップ及び/又はT1準位を有するワイドエネルギーギャップ材料であることが好ましい。このような化合物としては、例えば、1,3,5-Tris[3,5-bis(3-pyridinyl)phenyl]benzene、1,3,5-tri(4-pyrid-3-yl-phenyl) benzeneなどピリジン環を含有する誘導体、トリメシチルボラン骨格を含有するピリジン誘導体などを挙げることができるが、勿論これらに限定されるものではない。
【0037】
また、ホール輸送層4と陽極(電極1)の間にはホール注入層を、電子輸送層5と陰極(電極2)との間には電子注入層を設けてもよい。これらのホール注入層や電子注入層は、上記のホール輸送層4や電子輸送層5を構成する物質やその他の材料で電極1,2からのキャリア注入に優れる材料を単独で用いて構成してもよく、あるいは、有機材料と電荷移動錯体を形成する金属、半導体、有機材料、金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属窒化物、アクセプタガス等、ルイス酸やルイス塩基としてあるいはブレンステッド酸やブレンステッド塩基として機能する材料を混合または積層して構成してもよい。例えば、ホール注入層は、フタロシアニン化合物、ポルフィリン化合物、スターバーストアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体、チオフェン誘導体等の電子供与が可能な低分子化合物、高分子化合物など任意のものを、単独で、あるいは、例えば酸化モリブデン、酸化レニウム、酸化タングステン、酸化バナジウム、臭素、塩化鉄、塩化チタン、FTCNQ、DDQ、酸無水物などと混合または積層して形成することができる。また電子注入層は例えば、上記の電子輸送層を構成する材料やフタロシアニン類、ポルフィリン類その他の電子受容が可能な低分子化合物、高分子化合物など任意のものを単独で、あるいはアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、あるいは[化1]のような有機ドナー類を混合もしくは積層した状態で用いて形成することができる。また、金属化合物を成膜時もしくは成膜後に分解や還元することによって金属成分を遊離させることによって混合もしくは積層膜を形成するような構造でもかまわない。例えば、BCP(バソクプロイン)にCsを混合する場合、AlqにLiq([化2])を積層した後にAlを蒸着することによってその還元によるLi金属を界面に発生させる場合、BCPにCsCOを積層または混合する場合、などがその例である。
【0038】
【化1】

【0039】
【化2】

【0040】
また有機発光層3の形成に使用される発光性のドーパントとしては、有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料として知られる任意の材料を用いることができる。例えばアントラセン誘導体、ピレン誘導体、テトラセン誘導体、フルオレン誘導体、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール、スチリルアミン誘導体、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、キナクリドン、ルブレン、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、及び各種蛍光色素等を始めとするものが挙げられるが、これらに限定するものではない。またこれらの化合物のうちから選択される発光材料を適宜混合して用いることも好ましい。また、前記化合物に代表される蛍光発光を生じる化合物のみならず、スピン多重項からの発光を示す材料系、例えば燐光発光を生じる燐光発光材料、およびそれらからなる部位を分子内の一部に有する化合物も好適に用いることができる。
【0041】
また、有機発光層3の形成に使用されるホスト材料は、有機エレクトロルミネッセンス素子用ホスト材料として用いられる任意の材料であれば特に限定はなく用いることができる。例えばアントラセン誘導体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)、カルバゾール誘導体、スチリルアリーレン誘導体、テトラセン誘導体、フルオレン誘導体、トリアリールアミン誘導体などが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0042】
さらに、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成するその他の部材である、積層された素子を保持する基板8、陽極(電極1)、陰極(電極2)等には、従来から使用されているものをそのまま使用することができる。
【0043】
基板8は、有機発光層3で発光した光が基板8を通して出射される場合には、光透過性を有するものであり、無色透明の他に、多少着色されているものであっても、すりガラス状のものであってもよい。例えば、ソーダライムガラスや無アルカリガラスなどの透明ガラス板や、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、エポキシ、フッ素系樹脂等の樹脂、有機無機ハイブリッド材料などから任意の方法によって作製されたプラスチックフィルムやプラスチック板などを用いることができる。またさらに、基板8内に基板8の母剤と屈折率の異なる粒子、粉体、泡等を含有することによって、光拡散効果を有するものも使用可能である。表面形状を付与することによって光の取り出し効果を高くしたものも好ましい。また、基板8を通さずに光を出射させる場合、基板8は必ずしも光透過性を有するものでなくてもかまわないものであり、素子の発光特性、寿命特性等を損なわない限り、任意の基板8を使用することができる。特に、通電時の素子の発熱による温度上昇を軽減するために、熱伝導性の高い基板8を使うことが好ましい。
【0044】
上記陽極は、素子中にホールを注入するための電極であり、仕事関数の大きい金属、合金、電気伝導性化合物、あるいはこれらの混合物からなる電極材料を用いることが好ましく、仕事関数が4eV以上のものを用いるのがよい。このような陽極の材料としては、例えば、金などの金属、CuI、ITO(インジウム−スズ酸化物)、SnO、ZnO、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)等、PEDOT、ポリアニリン等の導電性高分子及び任意のアクセプタ等でドープした導電性高分子、カーボンナノチューブなどの導電性光透過性材料を挙げることができる。陽極は、例えば、これらの電極材料を、基板8の表面に真空蒸着法やスパッタリング法、塗布等の方法により薄膜に形成することによって作製することができる。また、有機発光層3における発光を陽極を透過させて外部に照射するためには、陽極の光透過率を70%以上にすることが好ましい。さらに、陽極のシート抵抗は数百Ω/□以下とすることが好ましく、特に好ましくは100Ω/□以下とするものである。ここで、陽極の膜厚は、陽極の光透過率、シート抵抗等の特性を上記のように制御するために、材料により異なるが、500nm以下、好ましくは10〜200nmの範囲に設定するのがよい。尚、前記好適条件は、ホール注入層の使用や、補助電極の使用によって適宜変化してもよい。すなわち、補助電極を適切に用いることにより、補助電極と組み合わせてのシート抵抗を実用に問題のない低い値に抑えることができ、結果として陽極として用いられる導電性光透過性材料単体としてはさほど低くない抵抗値を有するものでも使用可能となる。
【0045】
また上記陰極は、有機発光層3中に電子を注入するための電極であり、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物からなる電極材料を用いることが好ましく、仕事関数が5eV以下のものであることが好ましい。また、Alと他の電極材料を組み合わせて積層構造などとして構成するものであっても良い。このような陰極の電極材料の組み合わせとしては、アルカリ金属とAlとの積層体、アルカリ金属と銀との積層体、アルカリ金属のハロゲン化物とAlとの積層体、アルカリ金属の酸化物とAlとの積層体、アルカリ土類金属や希土類金属とAlとの積層体、これらの金属種と他の金属との合金などが挙げられ、具体的には、例えばナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウムなどとAlとの積層体、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金、LiF/Al混合物/積層体、Al/Al混合物などを例として挙げることができる。また、上記のようなアルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、あるいは金属酸化物を陰極の下地として用い、さらに上記の仕事関数が5eV以下である材料(あるいはこれらを含有する合金)を1層以上積層するようにしてもよい。また、ITO、IZOなどに代表される透明電極を用い、陰極側から光を取り出す構成にしても良い。この場合にも、透明電極の下地には、仕事関数が5eV以下の金属を用いることが好ましい。
【0046】
陰極は、例えば、これらの電極材料を真空蒸着法やスパッタリング法等の方法により、薄膜に形成することによって作製することができる。有機発光層3における発光を陽極側に照射するためには、陰極の光透過率を10%以下にすることが好ましい。また反対に、陰極を透明電極として形成して、陰極側から発光を取り出す場合、あるいは、透明電極とした後に何らかの手段で光を反射させ、陽極側に光を取り出す場合には、陰極の光透過率を70%以上にすることが好ましい。この場合の陰極の膜厚は、陰極の光透過率等の特性を制御するために、材料により異なるが、通常500nm以下、好ましくは100〜200nmの範囲とするのがよい。これらについても陽極と同様、電子注入層や補助電極の使用によって、好適な条件は適宜変化してもよい。
【0047】
さらに、陰極上にAl等の金属をスパッタで積層したり、フッ素系化合物、フッ素系高分子、その他の有機分子、高分子等を蒸着、スパッタ、CVD、プラズマ重合、塗布した後の紫外線硬化、熱硬化その他の方法で薄膜として形成し、保護膜としての機能をもたせるようにすることも可能である。
【0048】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、複数の有機発光層が中間層である等電位面を形成する層もしくは電荷発生層を介して積層された、いわゆるマルチフォトン型、マルチユニット型、積層型、タンデム型構造を有するものであってもよい。等電位面形成層もしくは電荷発生層の材料としては、例えばAg、Au、Al等の金属薄膜、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化レニウム、酸化タングステン等の金属酸化物、ITO、IZO、AZO、GZO、ATO、SnO等の透明導電膜、いわゆるn型半導体とp型半導体の積層体、金属薄膜もしくは透明導電膜とn型半導体及び/又はp型半導体との積層体、n型半導体とp型半導体の混合物、n型半導体及び/又はp型半導体と金属との混合物、などを挙げることができる。n型半導体やp型半導体としては、無機材料であっても、有機材料であってもよく、あるいは有機材料と金属との混合物や、有機材料と金属酸化物や、有機材料と有機系アクセプタ/ドナー材料や、無機系アクセプタ/ドナー材料等の組み合わせによって得られるものであってもよく、特に制限されることなく必要に応じて選定して使用することができる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0050】
尚、以下の例で絶縁物として用いられるLiF、パラフィン、MgF、SiOの比抵抗は、いずれも10Ωcm以上である。
【0051】
(実施例1)
厚み110nmのITOが陽極の電極1として図3のパターンのように成膜された0.7mm厚のガラス基板8を用意した。陽極を形成するITOのシート抵抗は、約12Ω/□である。そしてこれを洗剤、イオン交換水、アセトンで各10分間超音波洗浄をした後、IPA(イソプロピルアルコール)で蒸気洗浄して乾燥し、さらにUV/O処理した。この後、この基板8をヨウ素のIPA溶液(ヨウ素濃度50質量%)に3分間浸漬した後、表面に液滴が残らないように乾燥し、120℃で真空下、2分間焼成した。
【0052】
次に、この基板8を真空蒸着装置にセットし、1×10−4Pa以下の減圧雰囲気下で、ホール輸送層4として、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)を膜厚50nmに蒸着した。
【0053】
次いでホール輸送層4の上に、有機発光層3として、TBADN([化3])にsty−NPD([化4])を4質量%ドープした厚み40nmの層を蒸着した。
【0054】
【化3】

【0055】
【化4】

【0056】
次に有機発光層3の上に混合層7として、Alq(電子輸送層の主成分)に4質量%のLiF(絶縁物)を添加した厚み5nmの層を蒸着した。
【0057】
さらにこの上に電子輸送層5として、Alqを膜厚5nmに蒸着した。
【0058】
引き続いて、電子輸送層5の上に、LiFを膜厚0.5nm、アルミニウムを膜厚80nmで成膜して電極2としてAl陰極を図3のパターンで形成することによって、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た(図1(b)参照)。
【0059】
尚、有機エレクトロルミネッセンス素子の形状は図3に示す通りである(図3において有機膜はホール輸送層、有機発光層、混合層、電子輸送層からなる)。
【0060】
(実施例2)
混合層7として、TBADN(有機発光層のホスト材料)、Alq(電子輸送層の主成分)、LiF(絶縁物)の3成分を48:48:4の質量比で混合して蒸着した層を形成したこと以外は実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を得た(図1(b)(e)参照)。
【0061】
(実施例3)
実施例1において、ホール輸送層4を形成した後、この上にTBADNとsty−NPDを質量比96:4で混合した厚み35nmの層と、TBADNとsty−NPDとLiFを質量比92:4:4で混合した厚み5nm層を蒸着して有機発光層3を形成し、実施例1と同様にこの上にAlq(電子輸送層の主成分)とLiF(絶縁物)からなる混合層7を形成した後に、この上にAlqからなる厚み10nmの電子輸送層5を形成した。その他は、実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を得た(図1(b)参照)。
【0062】
(実施例4)
実施例1と同様にして、ホール輸送層4としてα−NPDを45nmの膜厚で形成した後、この上に混合層7としてα−NPD(ホール輸送層の主成分)に4質量%のLiF(絶縁物)を混合した層を5nmの膜厚で形成し、この上にTBADNとsty−NPDを質量比96:4で混合した有機発光層3を40nmの膜厚で形成し、さらにこの上に電子輸送層5としてAlqを10nmの膜厚で形成した。その他は実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た(図1(a)参照)。
【0063】
(実施例5)
混合層7として、α−NPD(ホール輸送層の主成分)とTBADN(有機発光層のホスト材料)とLiF(絶縁物)の3成分を質量比48:48:4で混合した膜厚5nmの層を形成するようにした他は、実施例4と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を得た(図1(a)(d)参照)。
【0064】
(実施例6)
実施例1と同様にして、ホール輸送層4としてα−NPDを45nmの膜厚で形成した後、この上に混合層7としてα−NPD(ホール輸送層の主成分)とTBADN(有機発光層のホスト材料)とLiF(絶縁物)の3成分を質量比48:48:4で混合した層を5nmの膜厚で形成し、この上にTBADNとsty−NPDを質量比96:4で混合した有機発光層を40nmの膜厚で形成し、この上に混合層7として、TBADN(有機発光層のホスト材料)とAlq(電子輸送層の主成分)とLiF(絶縁物)の3成分を質量比86:10:4で混合した膜厚5nmの層を形成し、さらにこの上に電子輸送層5としてAlqを5nmの膜厚で形成した。その他は実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た(図4参照)。
【0065】
(実施例7)
混合層7として、Alq(電子輸送層の主成分)とパラフィン(絶縁物)を質量比96:4で混合した膜厚5nmの層を形成するようにした他は、実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た(図1(b)参照)。
【0066】
(実施例8)
混合層7として、TBADN(有機発光層のホスト材料)とAlq(電子輸送層の主成分)とMgF(絶縁物)を質量比80:16:4で混合した膜厚5nmの層を形成するようにした他は、実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た(図1(b)(e)参照)。
【0067】
(実施例9)
混合層7として、TBADN(有機発光層のホスト材料)とAlq(電子輸送層の主成分)とSiO(絶縁物)を質量比80:16:4で混合した膜厚5nmの層を形成するようにした他は、実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た(図1(b)(e)参照)。
【0068】
(比較例1)
実施例1において、電子輸送層5をAlqを10nmの膜厚に成膜した層で形成し、混合層を形成しないようにした。その他は実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0069】
(比較例2)
実施例1において、混合層7を、絶縁物を添加しないで、TBADN(有機発光層のホスト材料)とAlq(電子輸送層の主成分)の質量比50:50の混合物で形成するようにした。その他は実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0070】
(比較例3)
実施例1において、混合層7を、Alq(電子輸送層の主成分)とLiF(絶縁物)を質量比60:40で混合して、絶縁物の添加量が過剰な層で形成するようにした。その他は実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0071】
(比較例4)
実施例1において、電子輸送層5をLiFを10nmの膜厚に成膜した層で形成するようにした。その他は実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0072】
上記のようにして得た実施例1〜9及び比較例1〜4の有機エレクトロルミネッセンス素子について、20mA/cmの定電流を通電し、評価初期の駆動電圧と、輝度が80%にまで低下するのに要した時間を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1にみられるように、混合層を備えない比較例1の有機エレクトロルミネッセンス素子は寿命が短いものであったが、本発明の混合層を備えた各実施例の有機エレクトロルミネッセンス素子は、長寿命素子となるとともに、駆動電圧の上昇もほとんどないことが確認された。
【0075】
一方、混合層は備えるものの本発明の組成とは異なる組成の混合層である比較例2の素子は寿命が短いものであった。また混合比が本発明の範囲外の混合層を備える比較例3の素子は、駆動電圧が高く、また長寿命化の効果がさほど強く表れなかった。さらに電子輸送層の全体が絶縁物である比較例4の素子は、発光しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施の形態を示すものであり、(a)乃至(e)はそれぞれ素子構成の概略図である。
【図2】有機エレクトロルミネッセンス素子の基本的な素子構成を示す概略図である。
【図3】実施例及び比較例の有機エレクトロルミネッセンス素子を示す平面図である。
【図4】実施例6の有機エレクトロルミネッセンス素子の素子構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0077】
1 電極
2 電極
3 有機発光層
4 ホール輸送層
5 電子輸送層
6 有機層
7 混合層
8 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する2つの電極間に、ホール輸送層、有機発光層、電子輸送層をこの順に積層した有機層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子に於いて、ホール輸送層の有機発光層に接する部位、有機発光層内の部位、電子輸送層の有機発光層に接する部位のうち少なくとも一つの部位に、有機層を構成する有機成分に絶縁物が0.1質量%以上20質量%以下含有される混合層を設けて成ることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
上記混合層が、ホール輸送層の有機発光層と接する部位及び有機発光層のホール輸送層と接する部位のうち少なくとも一方に設けられ、この混合層に有機層を構成する有機成分として、ホール輸送層を構成する主成分と有機発光層のホスト材料の両者が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
上記混合層が、電子輸送層の有機発光層と接する部位及び有機発光層の電子輸送層と接する部位のうち少なくとも一方に設けられ、この混合層に有機層を構成する有機成分として、電子輸送層を構成する主成分と有機発光層のホスト材料の両者が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
上記混合層を構成する絶縁物が、10Ωcm以上の比抵抗を有するものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−243958(P2008−243958A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79628(P2007−79628)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、「高効率有機デバイスの開発事業」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【出願人】(501231510)
【Fターム(参考)】