説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】電極に印加する電圧の変化に対する色味の変化が少なく、しかも発光層から光を有効に取り出すことができる有機EL素子、該有機EL素子を用いた照明装置、面状光源、および照明装置を提供する。
【解決手段】陽極および陰極のうちのいずれか一方の透明な第1電極(陽極)2と、前記陽極および陰極のうちの他方の第2電極(陰極)4と、前記第1電極(陽極)2および第2電極(陰極)4の間において、高分子化合物を含み、かつ発光する光のピーク波長が長い層ほど前記陽極寄りに配置される3層以上の発光層7と、を備え、前記第2電極(陰極)4を基準にして透明な第1電極(陽極)2側の最表面に、高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸を有するシート10Aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ということがある。)、該有機EL素子を用いた照明装置、面状光源および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置や照明装置に有機EL素子を用いることが検討されている。有機EL素子は、例えば一対の電極と、有機蛍光色素を分散させた発光層とを含んで構成され、電極間に電圧を印加することによって所定のスペクトルで発光する。白色光を発光する発光素子として、複数種類の色素を分散させた1層の白色発光層を備える有機EL素子が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
有機EL素子は印加する電圧を変化させると発光する光の色味が変化する。例えば有機EL素子を照明装置に用いた場合には、明るさに応じて照明の色味が変化するという問題がある。また例えば表示装置の画素や液晶表示装置のバックライトに有機EL素子を用いた場合には、明るさに応じて表示される色が違ったものになり、表示品質が悪くなるという問題がある。従来の有機EL素子は、印加する電圧の変化に対する色味の変化の度合いが大きく、その改善が求められている。
【0004】
【特許文献1】特開平07−220871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで白色光を発光する有機EL素子として、1層の白色発光層を備える構成の有機EL素子とは別に、互いに異なる色で発光する複数の発光層を積層した構成の有機EL素子を本発明者は検討した。
また例えば外部環境との界面で生じる全反射などに起因して、発光層から放射される光の一部は外に取り出されず、有効に活用されていないのが現状であり、発光効率を高めるための改善は常に有機EL素子の開発に求められている。
【0006】
本発明は、上記従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、その課題は、電極に印加する電圧の変化に対する色味の変化が少なく、しかも発光層から光を有効に取り出すことができる有機EL素子、該有機EL素子を用いた照明装置、面状光源、および照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、下記構成を採用した有機エレクトロルミネッセンス素子、および該有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた照明装置、面状光源、及び表示装置を提供する。
[1] 陽極および陰極のうちのいずれか一方の透明な第1電極と、
前記陽極および陰極のうちの他方の第2電極と、
前記第1電極および第2電極の間において、発光する光のピーク波長が長い層ほど前記陽極寄りに配置され、かつ高分子化合物を含む3層以上の発光層と、を備え、
前記第2電極を基準にして透明な第1電極側の最表面に高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸が形成されている、有機エレクトロルミネッセンス素子。
[2] 表面に前記凹凸が形成され、かつ前記第2電極を基準にして第1電極側の最表面部に設けられた部材が、高分子化合物から成る、上記[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[3] 前記3層以上の発光層として、赤色の光を発する発光層と、緑色の光を発する発光層と、青色の光を発する発光層とを備える、上記[1]又は[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[4] 前記第1電極と第2電極との間に印加する電圧を変化させたときの、外に取出される光の色度座標における座標値xと座標値yの変化の幅が、それぞれ0.05以下である、上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[5] 上記[1]から[4]のうちのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、照明装置。
[6] 上記[1]から[4]のうちのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、面状光源。
[7] 上記[1]から[4]のうちのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、表示装置。
【0008】
なお、本明細書では、「透明な基板」、「透明な電極」とは、入射した光の少なくとも一部が透過する基板、電極を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発光する光のピーク波長に応じて、各発光層を所定の順序で配置しているので、電極に印加する電圧の変化に対して、色味の変化が少なく、かつ高効率で発光する有機EL素子を提供することができる。さらに有機EL素子の最表面が凹凸状に形成されているために、発光層からの光を正面方向(各発光層の厚み方向)に高い効率で取り出すことができる。これによってさらに高い輝度を示す有機EL素子を提供することができ、結果として色味の変化が少なく、かつ高効率で発光する有機EL素子を実現することができる。このような有機EL素子は、面状光源,フラットパネルディスプレイ等の装置に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の有機EL素子をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、以下の説明において示す図面における各部材の縮尺は実際のものとは異なる場合がある。
【0011】
本発明にかかる有機EL素子は、陽極および陰極のうちのいずれか一方の透明な第1電極と、前記陽極および陰極のうちの他方の第2電極と、前記第1電極および第2電極の間において、発光する光のピーク波長が長い層ほど前記陽極寄りに配置され、かつ高分子化合物を含む3層以上の発光層と、を備え、前記第2電極を基準にして透明な第1電極側の最表面に高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸が形成されている、ことを特徴としている。
【0012】
[第1の実施形態]
上記基本的構成を有する本発明の一実施形態の有機EL素子を図1に示す。なお以下の説明において支持基板1の厚み方向の一方を上方(または上)といい、支持基板1の厚み方向の他方を下方(または下)という場合がある。この上下関係の表記は、説明の便宜上設定したものであり、鉛直方向の上下を意味するものではなく、必ずしも実際に有機EL素子が製造される工程および使用される状況に対応するものではない。
【0013】
本実施の形態の有機EL素子は支持基板1と、透明の陽極(第1電極)2と、発光部3と、陰極(第2電極)4とがこの順に積層されて構成される。通常は、支持基板1上に配置された透明の陽極(第1電極)2と、発光部3と、陰極(第2電極)4とからなる発光機能部を保護するために、該発光機能部全体を保護する保護層(上部封止膜と呼称する場合もある)5が設けられる。なお、第1の実施形態では、第1電極2が陽極であり、第2電極4が陰極であるが、第1電極が陰極であり、第2電極が陽極である有機EL素子であっても本発明を好適に適用することができる。
【0014】
(発光部)
発光部3は、第1電極2と第2電極4とに挟持された部材に相当し、3層以上(本実施の形態では3層)の発光層7a、7b、7cを含んで構成される。以下の説明において3層以上の発光層を総称して発光層7という場合がある。なお発光部3は、発光層7とは異なる層を有していてもよく、図1にはその一例として発光層7および陽極2間に介在する正孔輸送層6と、発光層7および陰極4間に介在する電子輸送層8を備える有機EL素子を示している。
複数の発光層は、互いに異なるピーク波長の光を発し、発光する光のピーク波長が長い発光層ほど、陽極(第1電極)2寄りに配置されている。3つの発光層7a,7b,7cは、図1の配置では、それぞれ赤色、緑色、及び青色の光を発する発光層とされ、赤色を発光する発光層(以下、赤色発光層という場合がある)7aと、緑色を発光する発光層(以下、緑色発光層という場合がある)7bと、青色を発光する発光層(以下、青色発光層という場合がある)7cとが、陽極(第1電極)2側からこの順に積層されている。すなわち赤色発光層7aは、3つの発光層7a,7b,7cの中で、発光する光のピーク波長が最も長いので、3つの発光層7a,7b,7cの中で最も陽極(第1電極)2寄りに配置され、緑色発光層7bは、3つの発光層7a,7b,7cの中で発光する光のピーク波長が真中なので、3つの発光層7a,7b,7cの真中に配置され、青色発光層7cは、3つの発光層7a,7b,7cの中で発光する光のピーク波長が最も短いので、3つの発光層7a,7b,7cの中で最も陰極(第2電極)4寄りに配置される。なお、発光層7の発光するピーク波長とは、発光する光を波長領域で見たときに、最も強い光強度となる波長のことである。
【0015】
赤色発光層7aとしては、発光する光のピーク波長が例えば580nm〜660nmのものが用いられ、好ましくは600〜640nmのものが用いられる。緑色発光層7bとしては、発光する光のピーク波長が例えば500nm〜560nmのものが用いられ、好ましくは520nm〜540nmのものが用いられる。青色発光層7cとしては、発光する光のピーク波長が例えば400nm〜500nmのものが用いられ、好ましくは420nm〜480nmのものが用いられる。このようなピーク波長で発光する3つの発光層7a,7b,7cからそれぞれ発光される光を重ね合わせると白色光となる。よって赤色発光層7a、緑色発光層7b、および青色発光層7cの3層を備える本実施の形態の有機EL素子は、全体として白色光を放射する。
【0016】
各発光層7a,7b,7cは、本実施の形態ではそれぞれ塗布法によって形成される。特に第1の実施形態では、各発光層は、次に形成される発光層の塗布液が表面上に塗布される前において、塗布される塗布液に対して不溶化される。具体的には緑色発光層7bを塗布法によって成膜する前に、赤色発光層7aを不溶化させ、さらに青色発光層7cを塗布法によって成膜する前に、緑色発光層7bを不溶化させる。
【0017】
具体的には発光層7を主に構成する材料と架橋剤とを含む塗布液を用いて、塗布法により塗布膜を形成した後に、架橋剤を架橋することにより発光層7を不溶化することができる。なお本明細書においては、低分子の架橋剤が互いに重合することも含めて、架橋するという。架橋剤の架橋は、光または熱などの所定のエネルギーを加えることにより行うことができる。発光層7を主に構成する材料とは、発光層7において質量濃度の最も高い材料であり、発光層7を構成する材料のうちで、蛍光、及び/又は燐光を発光する材料(以下、発光材料という場合がある)に相当する。
【0018】
なお発光層7を主に構成する材料として、エネルギーを加えることにより架橋する基(以下、架橋基という場合がある)を分子内に有する材料を用いてもよい。この場合、塗布法を用いて発光層を形成する際に用いられる塗布液に、前述のような架橋剤を加える必要はない。
【0019】
前記架橋基としては、ビニル基などを挙げることができる。上記発光層7を主に構成する材料としては、具体的にはベンゾシクロブタン(BCB)から少なくとも1つの水素原子を除いた残基を主鎖及び/又は側鎖に含む高分子化合物を挙げることができる。
【0020】
また、上記発光層7を主に構成する材料の他に、塗布液に加える架橋剤としては、ビニル基、エチニル基、ブテニル基、アクリロイル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイル基、メタクリロイルアミノ基、ビニルオキシ基、ビニルアミノ基、シラノール基、シクロプロピル基、シクロブチル基、エポキシ基、オキセタニル基、ジケテニル基、エピチオ基、ラクトニル基、及びラクタムニル基からなる群から選ばれる重合可能な置換基を有する化合物を挙げることができる。なおオキセタニル基はオキセタンから水素原子1個を除いた残基、ジケテニル基はジケテンから水素原子1個を除いた残基、エピチオ基はエピスルフィドから水素原子1個を除いた残基、ラクトニル基はラクトンから水素原子1個を除いた残基、ラクタムニル基はラクタムから水素原子1個を除いた残基をそれぞれ意味する。かかる架橋剤用の化合物としては、例えば多官能アクリレートが好ましく、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)およびトリスペンタエリスリトールオクタアクリレート(TPEA)などがさらに好ましい。
【0021】
各発光層7は、蛍光及び/又は燐光を発光する有機物、若しくは該有機物と、ドーパントとを含んで構成される。ドーパントは、例えば発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で付加される。各発光層7a,7b,7cを主に構成する発光材料としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0022】
色素系の発光材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびピラゾリンダイマーなどを高分子化したものを挙げることができる。
【0023】
金属錯体系の発光材料としては、Tb、Eu、およびDyなどの希土類金属や、Al、Zn、Be、およびIrなどを中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを配位子に有する金属錯体を高分子化したものを挙げることができ、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリンユーロピウム錯体などを高分子化したものを挙げることができる。
【0024】
高分子系の発光材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、およびポリビニルカルバゾール誘導体などを挙げることができる。
【0025】
赤色発光層7aを主に構成する発光材料としては、前述の発光材料のうち、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0026】
緑色発光層7bを主に構成する材料としては、前述の発光材料のうち、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、チオフェン環化合物およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0027】
青色発光層7cを主に構成する材料としては、前述の発光材料のうち、ジスチリルアリーレン誘導体、及び/又はオキサジアゾール誘導体の重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0028】
各発光層7a,7b,7cを主に構成する発光材料としては、前述の発光材料の他に、例えば発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的でドーパント材料をさらに含んでいてもよい。このようなドーパント材料としては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。
【0029】
各発光層7a,7b,7cは、後述する正孔注入層を成膜する方法と同様の方法によって形成することができる。具体的には、正孔注入材料を溶解する溶媒と同様の溶媒に、各発光層7a,7b,7cを構成する材料を溶解した塗布液を、慣用の塗布法によって塗布することで成膜することができる。
【0030】
まず赤色発光層7aを成膜する。具体的には前述した赤色発光層7aを構成する材料が溶解した塗布液を、慣用の塗布法によって正孔輸送層6上に塗布する。次に、塗布した膜を加熱または光照射することによって、架橋した赤色発光層7aを得る。このように架橋した赤色発光層7aは、緑色発光層7bを形成するために塗布液を塗布したとしても溶出しない。
【0031】
次に緑色発光層7bを成膜する。具体的には前述した緑色発光層7bを構成する材料が溶解した塗布液を、慣用の塗布法によって赤色発光層7aの表面上に塗布する。次に、塗布した膜を加熱または光照射することによって、架橋した緑色発光層7bを得る。このように架橋した緑色発光層7bは、青色発光層7cを形成するために塗布液を塗布したとしても溶出しない。
【0032】
次に青色発光層7cを成膜する。具体的には前述した青色発光層7cを構成する材料を溶解した塗布液を、慣用の塗布法によって緑色発光層7bの表面上に塗布して、乾燥させることによって青色発光層7cを得る。
【0033】
このように塗布液が塗布される発光層を塗布液に対して予め不溶化させることによって、次に形成される発光層の塗布液を塗布したときに、先に形成されていた発光層が溶解してしまうことを防ぐことができる。これによって各発光層の膜厚の制御が容易になり、意図した膜厚の発光層を容易に形成することができる。
【0034】
各発光層7a,7b,7cの層厚は、陽極(第1電極)2側に配置される発光層ほど、その層厚が薄い方が好ましい。具体的には、赤色発光層7aの層厚よりも、緑色発光層7bの層厚が厚く、緑色発光層7bの層厚よりも、青色発光層7cの層厚が厚い方が好ましい。さらに具体的には、赤色発光層7aの層厚は、5nm〜20nmが好ましく、さらに好ましくは、10nm〜15nmである。また緑色発光層7bの層厚は、10nm〜30nmが好ましく、さらに好ましくは、15nm〜25nmである。また青色発光層7cの層厚は、40nm〜70nmが好ましく、さらに好ましくは、50nm〜65nmである。各発光層7a,7b,7cの層厚を以上のように設定することによって、電極に印加する電圧の変化に対して、色味の変化が少なく、高効率で発光する有機EL素子を実現することができる。
【0035】
また各発光層7a,7b,7cは、発光する光のピーク波長が長い発光層ほど、陽極(第1電極)2寄りに配置されるので、電極に印加する電圧の変化に対して、色味の変化が少なく、かつ発光効率の高い有機EL素子を実現することができる。
【0036】
なお発光層の最高占有分子軌道(Highest Occupied Molecular Orbital:略称HOMO)および最低非占有分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:略称LUMO)は、発光する光のピーク波長が長い発光層ほど低い傾向にある。本実施の形態では各発光層7a,7b,7cは、発光する光のピーク波長が長い発光層ほど陽極(第1電極)2寄りに配置されるので、結果としてHOMOおよびLUMOが低い発光層ほど陽極(第1電極)2寄りに配置されることになる。このように陽極(第1電極)2から陰極(第2電極)4に向けて、HOMOおよびLUMOが順次高くなるように各発光層7a,7b,7cが配置されるので、陽極(第1電極)2および陰極(第2電極)4からそれぞれ注入される正孔および電子を効率的に輸送することができ、これにより電極に印加する電圧の変化に対して色味の変化が少なく、かつ発光効率の高い有機EL素子を実現することができるものと推測される。
【0037】
以上のように、発光する光のピーク波長が長い発光層ほど、陽極(第1電極)2寄りに配置する構成の有機EL素子では、陽極と陰極との間に印加する電圧を変化させたときの、外に取出される光の色度座標における座標値xと座標値yの変化の幅を、それぞれ0.05以下に抑えることができる。ここで印加する電圧を変化させるときの印加電圧の範囲は、通常、輝度が100cd/m〜10000cd/mとなる範囲であり、少なくとも4000cd/m〜6000cd/mとなる範囲である。また外に取出される光は、各発光層7a,7b,7cからの光が重ね合わされた光のことであり、本実施の形態における色度座標とは、国際照明委員会(CIE)の定めるCIE1931のことである。
【0038】
第1の実施形態では発光部3が3つの発光層7a,7b,7cを備えることにより、有機EL素子が全体として白色を発光するとしたけれども、本実施の形態の各発光層7a,7b,7cの発光する波長とは異なる波長の光を発する3層以上の発光層を設けて、例えば白色とは異なる波長の光を発する発光部3を構成してもよく、また、4層以上の発光層を含む発光部3を構成してもよい。各発光層の発光する光の色は、それぞれの有機EL素子から取出される光の色に応じて適宜選択される。
【0039】
なお有機EL素子から取出される光の色が、白色であっても、白色とは異なる色であっても、また発光層7の層数が3層であっても、4層以上であったとしても、発光する光のピーク波長が長い発光層ほど陽極2寄りに配置することによって、電極に印加する電圧の変化に対して、色味の変化の少なく、かつ高効率で発光する有機EL素子を実現することができる。
【0040】
また本発明の有機EL素子は、第2電極(陰極)4を基準にして透明な第1電極(陽極)3側の表面に、高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸を有する。本実施の形態では、支持基板1の一対の主面のうちの、第1電極(陽極)2側とは反対側の主面にシート10Aが接着され、該シート10Aの支持基板1側とは反対側の表面に高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸が形成されている。高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸を有するシート10Aを支持基板1に貼合わせることにより、有機EL素子と外部環境(空気など)との界面での反射を抑制することができる。これによって発光層から放射される光の利用効率が高い有機EL素子を実現することができる。なお本実施の形態におけるシート10Aには厚みの薄いフィルムも好適に適用できる。
【0041】
表面の凹凸の形状については特に制限はないが、発光層から放射される光を有効に取り出すことができる形状であればよく、断面形状が略三角形または略半円形のものが複数本略並行に配列されている形状(いわゆるストライプ状)、および多角柱状または略半球状の複数の構造物がマトリクス状に配置された形状等を挙げることができる。
【0042】
ここで図3に示す有機EL素子の斜視図では、凹凸を表面に有するシート10Aの形状として、断面形状が略三角形のものが複数本略並行に配列されている形状を示している。また図4に示す有機EL素子の斜視図では、凹凸を表面に有するシート10Bの形状として、断面形状が略半円形のものが複数本略並行に配列されている形状を示している。
【0043】
凹凸を有するシート10A,10Bを有機EL素子に貼合する場合、有機EL素子表面との間に空気層を挟み込まないようにすることが好ましい。また、貼合には粘着剤や接着剤、又は光硬化型接着剤を用いて行うことが好ましく、粘着剤を用いた貼合が実際的である。さらに、貼合する場合は凹凸を有する基板、貼合剤、基板の屈折率の差が小さい方が好ましく、それぞれの材料の屈折率の差が0.2以内の材料を用いることが更に好ましく、特に好ましくは0.1以内である。
【0044】
凹凸面の大きさについては、パターンが大きければ発光が不均一に見え、微細なパターンを形成することは難しく工業的ではないことから、多角柱形状又は半球形状の凹凸部では、一辺又は直径が0.1μm以上0.2mm以下であり、好ましくは1μm以上0.1mm以下である。
またストライプ状の凹凸面では長手方向の幅、および繰り返し周期の間隔は、特に制限はないが、ストライプの長手方向の幅をシート10Aの長さに一致させることが好ましい。また繰り返しの周期は、0.1μm以上0.2mm以下であり、好ましくは1μm以上0.1mm以下である。凹凸の高さについては、凹凸の大きさや周期により決定されるが、通常、大きさや周期の値以下が好ましい。
凹凸面を有するシート10Aの厚みは特に制限はないが、シート10Aのハンドリング面及びコスト面より20〜300μmが好ましく、更に好ましくは70〜200μmである。なおシートの一例としては、高分子材料からなるシートがある。
【0045】
以上では、支持基板1とシート10Aとが別体のものであり、支持基板1にシート10Aを貼り合わせることにより最表面に凹凸が形成された構成の有機EL素子について説明したが、本発明はこの構成に限られるわけではなく、例えばシート10Aを用いずに、支持基板1の一対の表面のうちの第1電極2側とは反対側の表面を凹凸形状に形成することにより、有機EL素子の光が取り出される側の最表面を凹凸にすることができる。なお支持基板1の表面の凹凸形状は、前述したシート10Aの表面形状と同様の態様を適用することができる。
【0046】
他の形態としては、有機EL素子の各構成要素を支持基板1に順次積層した後に、支持基板1の第1電極2側とは反対側の表面を凹凸に加工する態様、一方の表面が凹凸状であり、他方の表面が平坦な支持基板の他方の表面(平坦な面)上に有機EL素子の各構成要素を順次積層する態様、または両方の表面が平坦な支持基板上に有機EL素子の各構成要素を順次積層し、さらに支持基板の第1電極2側とは反対側の表面に凹凸状のシートを形成する態様が挙げられる。なお支持基板1については、電極などを形成する工程において所定の熱が加えられるので、以下に例示するように耐熱性が高い材料から成ることが好ましい。有機EL素子の各構成要素を支持基板上1に形成した後に、凹凸状の表面を有するシートを支持基板1上に設ける形態では、該シートは耐熱性が高いものである必要がない。これに対して予め凹凸状の表面を有するシートを支持基板1上に設けた後に、有機EL素子の各構成要件を支持基板1上に形成する形態では、凹凸状の表面を有するシートは以下に例示するように耐熱性が高い材料から成ることが好ましい。
【0047】
次に凹凸の表面を有する支持基板1、または凹凸状のシート10Aの材料について説明する。表面に前記凹凸が形成され、かつ第2電極を基準にして第1電極側の最表面部に設けられた部材は、高分子化合物から成ることが好ましい。該部材は、本実施の形態では凹凸状のシート10Aに相当する。なお該部材としては、支持基板1であってもよい。
電極が形成されている基材の表面を直接加工することにより凹凸の表面を有する支持基板を得る場合には、該基材としてはガラスや透明又は半透明な高分子材料から成るシートが例示される。高分子材料の場合、単体のものに限らず、高分子材料からなる第1のシート上に、該第1のシートと同一または別の高分子材料を用いて凹凸面を有する第2のシートを形成してもよい。
【0048】
支持基板の表面を直接加工することにより凹凸の表面を有する支持基板を得る態様における支持基板の材料としては、高い耐熱性を有し、透明又は半透明であれば特に制限がないが、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが例示され、好ましくはポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが例示される。
【0049】
支持基板上に凹凸面を有するシートを形成する際に用いる高分子材料、又は凹凸面を有し、かつ支持基板に貼り合わせるシートを形成する際に用いる高分子材料としては、ポリメチルメタクリレート、ポリ−n−ブチルメタクリレート、ポリ−t−ブチルメタクリレート、ポリグリコールメタクリレートなどのポリメタクリル酸誘導体やポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレートなどのポリアクリル酸誘導体やポリビニルアセテート、ポリビニルブチレート、ポリオキシメチルフェニルシリレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが例示される。これらのなかでもポリメチルメタクリレート、ポリ−n−ブチルメタクリレート、ポリ−t−ブチルメタクリレートが好ましい。
【0050】
成形することにより凹凸面を有するシートまたは支持基板を形成する場合には、該シートまたは支持基板の材料としては、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアリレート、2酢酸セルロース、3酢酸セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが例示され、好ましくはポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが例示される。
【0051】
次に、表面に凹凸を形成する方法について説明する。
凹凸面を形成する方法としては、ガラスなどの無機材料では、フォトレジストをパターン形成した後、化学的又は気相エッチングする方法が例示される。また、高分子材料では凹凸面を有する金属面を加熱下で押し付け、凹凸を転写する方法、凹凸面を有するロールでシートを圧延する方法、凹凸の形状を有するスリットから高分子材料を押し出してキャストする方法、凹凸面を有する基台上に高分子材料をキャストし、成膜する方法、さらにはモノマーを成膜後、パターン状に光重合し、未重合部を除去する方法等が例示される。
これらの中で、高分子材料では、凹凸面を有する金属面を加熱下で押し付け、凹凸を転写する方法、凹凸面を有するロールでシートを圧延する方法又は凹凸面を有する面上に高分子材料をキャストし、成膜する方法が実際的で好ましい。
【0052】
第1の実施形態の有機EL素子の特徴は、上述のように、陽極と陰極との間において、3層以上の発光層が、互いに異なるピーク波長の光を発し、発光する光のピーク波長がより長い発光層ほど、より前記陽極寄りに配置されていると共に、光が放射される第1電極(陽極)2の外側に、高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸を表面に有するシート10Aを有することにある。発光層7および凹凸を表面に有するシート10Aの詳細は、上述の通りである。
【0053】
続いて、発光層7および凹凸を表面に有するシート10A以外の有機EL素子の構成要素について、以下に詳しく説明する。
【0054】
(基板)
支持基板1としては、有機EL素子を形成する工程において変化しないもの、すなわち、電極を形成し、有機物の層を形成する際に変化しないものであればよく、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよく、例えば、ガラス板、プラスチック板、高分子フィルムおよびシリコン板、並びにこれらを積層した積層板などが好適に用いられる。さらに、プラスチック、高分子フィルムなどに低透水化処理を施したものを用いることもできる。前記基板としては、市販のものが使用可能である。また前記基板を公知の方法により製造することもできる。
【0055】
図1に示すような発光部3からの光を支持基板1側から取出すいわゆるボトムエミッション型の有機EL素子では、支持基板1は、可視光領域の光の透過率が高いものが好適に用いられる。
なお、後述する図2に示す第2の実施形態の有機EL素子のような発光部23からの光を陰極24側から取出すトップエミッション型においては、支持基板21は、透明のものでも、不透明のものでもよい。
【0056】
(陽極と発光層との間に設けられる層)
上記発光部3の任意構成要素である陽極と発光層との間に設けられる層としては、正孔注入層・正孔輸送層、電子ブロック層等が挙げられる。
【0057】
上記正孔注入層は、陽極(第1電極)2からの正孔注入効率を改善する機能を有する層であり、上記正孔輸送層とは、正孔注入層または陽極により近い層(正孔輸送層)からの正孔注入を改善する機能を有する層である。また、正孔注入層または正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層を電子ブロック層と称することがある。電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0058】
(陰極と発光層との間に設けられる層)
上記発光部3の任意構成要素である陰極と発光層との間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。
【0059】
上記電子注入層は、陰極(第2電極)4からの電子注入効率を改善する機能を有する層であり、上記電子輸送層は、電子注入層または陰極により近い層(電子輸送層)からの電子注入を改善する機能を有する層である。また、電子注入層もしくは電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層を正孔ブロック層と称することがある。正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、ホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0060】
有機EL素子の具体的な層構成の一例を以下のa)〜k)に示す。
a)陽極/発光層/陰極
b)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
c)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
d)陽極/電荷注入層/発光層/陰極
e)陽極/発光層/電荷注入層/陰極
f)陽極/電荷注入層/発光層/電荷注入層/陰極
g)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
h)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷注入層/陰極
i)陽極/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
j)陽極/電荷注入層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
k)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
(ここで、/は各層が隣接して積層されていることを示す。以下同様。)
なお以上の例示では、3層以上の発光層を省略して1層しか記載していないが、前述したように有機EL素子は3層以上の発光層を備える。3層以上の発光層は、発光層間に所定の層が介在せずに、直接3層以上の発光層が積層されていてもよく、また発光層間に所定の層が介在していてもよい。
【0061】
(第1電極)
第1の実施形態における第1電極(図1の構成では陽極2)は、発光層7からの光を透過させる透明電極であって、主に本発明の有機EL素子の陽極となるものであるが、後述のように、透明な第1電極を陰極として用いる構成の有機EL素子も可能である。このような第1電極2は、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率が高いものが好適に利用でき、発光部3の構成材料に応じて適宜選択して用いることができる。第1電極2の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウムスズ酸化物(略称ITO)、インジウム亜鉛酸化物(略称IZO)、金、白金、銀、銅等の薄膜が用いられる。これらの中でも、ITO、IZO、酸化スズが好ましい。
【0062】
かかる第1電極2の構成材料として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体等の有機物の透明導電膜を用いてもよい。
【0063】
また、発光層7への電荷注入を容易にするという観点から、このような第1電極2の発光層7側の表面上に、フタロシアニン誘導体、ポリチオフェン誘導体等の導電性高分子、Mo酸化物、アモルファスカーボン、フッ化カーボン、ポリアミン化合物等の1〜200nmの層、或いは金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる平均膜厚10nm以下の層を設けてもよい。
【0064】
このような第1電極2の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して適宜選択することができ、例えば5nm〜10μmであり、好ましくは10nm〜1μmであり、より好ましくは20nm〜500nmである。
【0065】
また、第1電極を電気的に分離された複数のセルに仕切る構造としてもよく、このような場合には、隣接するセル間の間隔は、好ましくは1μm〜50μmであり、より好ましくは5μm〜30μmである。隣接するセルとの間の間隔が前記下限未満では、第1電極2の面方向に導波する光を十分に抑制することができない傾向となり、他方、前記上限を超えると、素子全体の実際の発光面積が小さくなるため、発光効率が低下する傾向となる。
【0066】
(正孔注入層)
正孔注入層は、上述のように、陽極と正孔輸送層との間、または陽極と発光層との間に設けることができる。正孔注入層を構成する材料としては、公知の材料を適宜用いることができ、特に制限はない。例えば、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0067】
正孔注入層の成膜方法としては、例えば正孔注入層となる材料(正孔注入材料)を含む溶液からの成膜を挙げることができる。溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔注入材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、および水を挙げることができる。
【0068】
溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができる。
【0069】
また、このような正孔注入層の厚みとしては、5〜300nm程度であることが好ましい。この厚みが5nm未満では、製造が困難になる傾向があり、他方、300nmを超えると、駆動電圧、および正孔注入層に印加される電圧が大きくなる傾向となる。
【0070】
(正孔輸送層)
正孔輸送層を構成する材料としては、特に制限はないが、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体などが例示される。
【0071】
これらの中でも、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0072】
正孔輸送層の成膜方法としては、特に制限はないが、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーと正孔輸送材料とを含む混合液からの成膜を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、正孔輸送材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。
【0073】
溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒などを挙げることができる。
溶液からの成膜方法としては、前述した正孔注入層の成膜法と同様の塗布法を挙げることができる。
【0074】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収の弱いものが好適に用いられ、例えばポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0075】
正孔輸送層の厚みは、特に制限されないが、目的とする設計に応じて適宜変更することができ、1〜1000nm程度であることが好ましい。この厚みが前記下限値未満となると、製造が困難になる、または正孔輸送の効果が十分に得られないなどの傾向があり、他方、前記上限値を超えると、駆動電圧および正孔輸送層に印加される電圧が大きくなる傾向がある。したがって正孔輸送層の厚みは、上述のように、好ましくは、1〜1000nmであるが、より好ましくは、2nm〜500nmであり、さらに好ましくは、5nm〜200nmである。
【0076】
(電子輸送層)
電子輸送層を形成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体等が例示される。
【0077】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0078】
(電子注入層)
電子注入層は、先に述べたように、電子輸送層と陰極との間、または発光層と陰極との間に設けられる。電子注入層としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、あるいは前記金属を一種類以上含む合金、あるいは前記金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物、あるいは前記物質の混合物などが挙げられる。
【0079】
前記アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。
【0080】
前記アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0081】
さらに、金属、金属酸化物、金属塩をドーピングした有機金属化合物、および有機金属錯体化合物、またはこれらの混合物も、電子注入層の材料として用いることができる。
【0082】
この電子注入層は、2層以上を積層した積層構造を有していても良い。具体的には、Li/Caなどが挙げられる。この電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。
この電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0083】
(第2電極)
第1の実施形態における第2電極4は、前記第1電極2に対向して配置される電極であって、有機EL素子の陰極となるものであるが、本発明においては、後述の第2の実施形態に示すように、陽極である場合も可能である。このような陰極の材料としては、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易な材料および/または電気伝導度が高い材料および/または可視光反射率の高い材料が好ましい。かかる陰極材料としては、具体的には、金属、金属酸化物、合金、グラファイトまたはグラファイト層間化合物、酸化亜鉛(ZnO)等の無機半導体などを挙げることができる。
【0084】
上記金属としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属や周期表の13族金属等を用いることができる。これら金属の具体的例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等を挙げることができる。
【0085】
また、合金としては、上記金属の少なくとも一種を含む合金を挙げることができ、具体的には、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等を挙げることができる。
【0086】
陰極は、必要に応じて透明電極もしくは半透明電極とされるが、それらの材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、IZOなどの導電性酸化物、
ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの導電性有機物を挙げることができる。
【0087】
なお、陰極(第2電極)4を2層以上の積層構造としてもよい。また、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0088】
陰極(第2電極)4の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0089】
上述の陰極(第2電極)4を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法等が挙げられる。なお、この第2電極を2層以上の積層構造としてもよい。
【0090】
(保護層)
上述のように陰極(第2電極)4が形成された後、基本構造として第1電極(陽極)2−発光部3−第2電極(陰極)4を有してなる発光機能部を保護するために、該発光機能部を封止する保護層(上部封止膜)5が形成される。この保護層5は、通常、少なくとも一つの無機層と少なくとも一つの有機層を有する。積層数は、必要に応じて決定され、基本的には、無機層と有機層は交互に積層される。
【0091】
なお、プラスチック基板はガラス基板に比べて、ガスおよび液体の透過性が高く、また発光層7などの発光物質は酸化されやすく、水と接触することにより劣化しやすいため、前記基板1としてプラスチック基板が用いられる場合には、基板1および保護層5により発光機能部が被包されていても経時変化し易いので、プラスチック基板上にガスおよび液体に対するバリア性の高い下部封止膜を積層し、その後、この下部封止膜の上に上記発光機能部を積層する。この下部封止膜は、通常、上記保護層(上部封止膜)と同様の構成、同様の材料にて形成される。
【0092】
[有機EL素子の製造方法]
本実施形態の有機EL素子の製造は、上述の各層の材料説明のところでそれぞれ説明した形成方法を組み合わせることによって実現することができる。すなわち本実施形態の有機EL素子の製造方法は、
(1)上述した構成の基板から適宜に選択した基板を用意する工程、
(2)基板上に上述した方法により第1電極を形成する工程、
(3)第1電極上に上述した方法により複数の層からなる発光部を形成する工程、
(4)発光部の上に上述した方法により第2電極を形成する工程、
(5)第1電極の外側に、高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸を表面に有するシートを貼合する工程、を有する。
【0093】
[第2の実施形態]
次に本発明に係る有機EL素子の第2の実施形態を、図2を参照して説明する。
第2の実施形態と上述の第1の実施形態との違いは、上述の第1の実施形態の有機EL素子が発光部3からの光を透明な陽極(第1電極)2を透過させて透明な支持基板1から外部へ出射するボトムエミッション型の素子であったのに対し、第2の実施形態の有機EL素子では発光部23からの光を透明な陰極(第1電極)24を透過させて透明な保護層25から外部へ出射するトップエミッション型の素子である点にある。
【0094】
第2の実施形態では、発光部23からの光を透過させる透明な第1電極が透明陰極24である。
【0095】
第2の実施形態においても、陽極(第2電極)22と陰極(第1電極)24との間に配置される発光部23の配置構成、寸法、構成材料は、上述の第1の実施形態における発光部3と同一でよい。すなわち、発光部23は、3層以上の発光層27を有し、必要に応じて陽極(第2電極)22と発光層27との間に設けられる層26と、必要に応じて陰極(第1電極)24と発光層27との間に設けられる層28とを有する。そして、発光部23に含まれる発光層27は、陽極(第2電極)22から陰極(第1電極)24に向けて、赤色発光層27aと、緑色発光層27bと、青色発光層27cとがこの順で積層されて構成される。
【0096】
また図2に示すように、陽極(第2電極)22を基準にして透明な陰極(第1電極)24側の最表面に高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸が形成されている。具体的には陽極(第2電極)22を基準にして透明な陰極(第1電極)24側の砕最表面部に、高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸を表面に有するシート10Bが設けられている。
【0097】
本発明にかかる有機EL素子を、上記第2の実施形態のように構成しても、上述の第1の実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。
すなわち、本発明の有機EL素子は、前記第1の実施形態によっても、第2の実施形態によっても、発光する光のピーク波長に応じて、各発光層を所定の順序で配置しているので、電極に印加する電圧の変化に対して、色味の変化が少なく、かつ高効率で発光することができる。さらに高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸を有するシート10Aを貼合わせることにより、有機EL素子と外部環境(空気など)との界面での反射を抑制することができる。これによって発光層からの光の利用効率が高い有機EL素子を実現することができる。
【0098】
上記第1の実施形態の有機EL素子は、発光部からの光を透明陽極(第1電極)を透過させて透明な支持基板から外部に出射するボトムエミッション型の素子構造を有している。この第1の実施形態の有機EL素子の素子構造を第1の構造と仮称すると、同じボトムエミッション型の素子構造であって、透明基板側に透明陰極(第1電極)を設け、透明陰極(第1電極)を基準にして基板とは反対側に陽極を設けた構造(第2の構造)の有機EL素子も作製可能である。このような第2の構造の有機EL素子に対しても、本発明は適用可能である。
【0099】
また、上記第2の実施形態の有機EL素子は、発光部からの光を透明陰極(第1電極)を透過させて外部に出射するトップエミッション型の素子構造を有している。この第2の実施形態の有機EL素子の素子構造を第3の構造と仮称すると、同じトップエミッション型の素子構造であって、支持基板側に陰極(第2電極)を設け、陰極(第2電極)を基準にして基板とは反対側に透明陽極(第1電極)を設けた構造(第4の構造)の有機EL素子も作製可能である。このような第4の構造の有機EL素子に対しても、本発明は適用可能である。
【0100】
以上説明した本発明の各実施形態の有機EL素子は、曲面状や平面状の照明装置、例えばスキャナの光源として用いられる面状光源、および表示装置に好適に用いることができる。
【0101】
有機EL素子を備える表示装置としては、アクティブマトリックス表示装置、パッシブマトリックス表示装置、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、および液晶表示装置などを挙げることができる。なお有機EL素子は、アクティブマトリックス表示装置、パッシブマトリックス表示装置において、各画素を構成する発光素子として用いられ、セグメント表示装置において、各セグメントを構成する発光素子として用いられ、ドットマトリックス表示装置においてバックライトまたは各画素を構成する発光素子として用いられ、液晶表示装置において、バックライトとして用いられる。
【0102】
本発明の実施の形態の有機EL素子は、陽極と陰極との間に印加する電圧を変化させたときの、取出される光の色度座標における座標値xと、座標値yとの変化の幅が、それぞれ0.05以下なので、色味の変化が少なく、上述のような面状光源、照明装置、および表示装置に好適に用いられる。
特に、照明装置としては、陽極と陰極との間に印加する電圧を変化させることによって明るさを調整したときに、色味が変化しないものが好ましく、照明装置からの光の色度座標における座標値xと、座標値yとの変化の幅が、それぞれ0.05以下のものが好ましいので、本発明の実施の形態の有機EL素子が照明装置に好適に用いられる。
また、同様に、ドットマトリックス表示装置および液晶表示装置のバックライトとしては、明るさを調整したときに、色味が変化しないものが好ましく、バックライトからの光の色度座標における座標値xと、座標値yとの変化の幅が、それぞれ0.05以下のものが好ましいので、本発明の実施の形態の有機EL素子がバックライトに好適に用いられる。
さらに、有機EL素子の最表面が凹凸状に形成されているために、発光層からの光を正面方向(各発光層の厚み方向)に高い効率で取り出すことができる。これによってさらに高い輝度を示す有機EL素子を提供することができ、結果として色味の変化が少なく、かつ高効率で発光する有機EL素子を実現することができる。
【実施例】
【0103】
以下、作製例及び参考例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の例示に限定されるものではない。
【0104】
(作製例1)
この作製例1では、発光する光のピーク波長が異なる複数の発光層を所定の順序で配置することによる効果を確認するために、透明陽極の基板側の表面に凹凸を有するシートを配置せず、陽極から陰極に向けて、赤色発光層、緑色発光層、青色発光層の順に各発光層を配置した有機EL素子を製造した。
【0105】
支持基板としては、ガラス基板を用い、このガラス基板上にスパッタリング法によって成膜され、所定の形状にパターニングされたITO膜を陽極(第1電極)として用いた。陽極としては、厚みが150nmのものを用いた。陽極が形成された基板を、アルカリ洗剤および超純水で洗浄し、乾燥させた後に、UV−O3装置(テクノビジョン株式会社製、商品名「モデル312 UV−O3クリーニングシステム」)を用いてUV−O3処理を行った。
【0106】
次に、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(HC スタルクヴィテック社製、商品名「BaytronP TP AI4083」)の懸濁液を、孔径が0.2μmのメンブランフィルターで濾過した。濾過して得られた液体を、スピンコートすることによって、陽極上に薄膜を形成した。次に、ホットプレート上において200℃で10分間加熱する処理を行い、膜厚が70nmの正孔注入層を得た。
【0107】
次に、赤色発光層を上記正孔注入層上に積層した。まず、溶媒としてキシレンを用い、赤色発光層を主に構成する材料として、発光材料(サメイション社製、商品名「PR158」)を用い、架橋剤として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬製、商品名「KAYARAD DPHA」)を用いて塗布液を調合した。発光材料と架橋剤との重量比を4:1とし、発光材料と架橋剤とを合わせた材料の塗布液における割合を1.0質量%とした。このようにして得られた塗布液を、スピンコートすることによって、正孔注入層上に薄膜を形成した。次に、窒素雰囲気において200℃で20分間加熱して、膜厚が10nmの赤色発光層を得た。このような加熱処理を行うことによって、薄膜を乾燥させて溶媒を除去するとともに、架橋剤を架橋させて、次に塗布される塗布液に対して赤色発光層を不溶化した。
【0108】
次に緑色発光層を上記赤色発光層上に積層した。まず、溶媒としてキシレンを用い、緑色発光層を主に構成する材料として、発光材料(サメイション社製、商品名「Green1300」)を用い、架橋剤として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬製、商品名「KAYARAD DPHA」)を用いて塗布液を調合した。発光材料と架橋剤との重量比を、4:1とし、発光材料と架橋剤とを合わせた材料の塗布液における割合を1.0質量%とした。このようにして得られた塗布液を、スピンコートすることによって、上記赤色発光層上に薄膜を形成した。次に、窒素雰囲気において200℃で20分間加熱して、膜厚が15nmの緑色発光層を得た。このような加熱処理を行うことによって、薄膜を乾燥させて溶媒を除去するとともに、架橋剤を架橋させて、次に塗布される塗布液に対して緑色発光層を不溶化した。
【0109】
次に青色発光層を上記緑色発光層上に積層した。まず、溶媒としてキシレンを用い、青色発光層を主に構成する材料として、発光材料(サメイション社製、商品名「BP361」)を用いて塗布液を調合した。塗布液における青色発光材料の割合を、1.5質量%とした。このようにして得られた塗布液を、スピンコートすることによって、上記緑色発光層上に薄膜を形成した。次に、窒素雰囲気において130℃で20分間加熱して、膜厚が55nmの青色発光層を得た。なお、各発光層の厚み方向に垂直な平面で切った断面の形状は、2mm×2mmの正方形とした。
【0110】
次に、上述のようにして青色発光層を成膜した基板を、真空蒸着機に導入して、バリウムを青色発光層上に蒸着させて、膜厚が約5nmのバリウムからなる薄膜を形成し、さらにバリウムからなる薄膜上にアルミニウムを蒸着させて、膜厚が約80nmのアルミニウムからなる薄膜を形成して、バリウムからなる薄膜と、アルミニウムからなる薄膜との積層体によって構成される陰極を形成した。なお、真空度が5×10-5Pa以下に達してから、バリウムおよびアルミニウムの蒸着を開始した。
【0111】
(参考例1)
参考例1として、白色の波長領域で発光する一層の発光層(以下、白色発光層という場合がある)のみから成る発光部を備える有機EL素子を作製した。白色発光層以外の製造工程は、上記作製例1の有機EL素子の製造工程と同じなので、重複する説明を省略して、白色発光層の製造工程についてのみ説明する。
【0112】
まず、溶媒としてキシレンを用い、白色発光層を主に構成する材料として、発光材料(サメイション社製、商品名「WP1330」)を用いて塗布液を調合した。塗布液における発光材料の割合は、1.0質量%とした。このようにして得られた塗布液を、正孔注入層が形成された基板上にスピンコートすることによって、正孔注入層上に薄膜を形成した。次に、窒素雰囲気において130℃で20分間加熱して、膜厚が80nmの白色発光層を得た。
【0113】
(参考例2)
参考例2として、赤色発光層、緑色発光層、および青色発光層の3層の積層順のみが、作製例1の有機EL素子とは異なる有機EL素子を作製した。陽極に最も近い層に、青色発光層を配置し、真中の層に、緑色発光層を配置し、陰極に最も近い層に赤色発光層を配置した。赤色発光層、緑色発光層、および青色発光層以外の製造工程は、作製例1の有機EL素子の製造工程と同じなので、赤色発光層、緑色発光層、および青色発光層の製造工程についてのみ説明する。
【0114】
まず青色発光層を正孔注入層上に積層した。塗布液の溶媒としてキシレンを用い、青色発光層を主に構成する材料として、発光材料(サメイション社製、商品名「BP361」)を用い、架橋剤として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬製、商品名「KAYARAD DPHA」)を用いて塗布液を調合した。発光材料と架橋剤との重量比を、4:1とし、発光材料と架橋剤とを合わせた材料の塗布液における割合を1.0質量%とした。このようにして得られた塗布液を、スピンコートすることによって、正孔注入層上に薄膜を形成した。次に、窒素雰囲気において130℃で20分間加熱して、膜厚が55nmの青色発光層を得た。このような加熱処理を行うことによって、薄膜を乾燥させて溶媒を除去するとともに、架橋剤を架橋させて、次に塗布される塗布液に対して青色発光層を不溶化した。
【0115】
次に緑色発光層を上記青色発光層に積層した。まず、溶媒としてキシレンを用い、緑色発光層を主に構成する材料として、発光材料(サメイション社製、商品名「Green1300」)を用い、架橋剤として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬製、商品名「KAYARAD DPHA」)を用いて塗布液を調合した。発光材料と架橋剤との重量比を、4:1とし、発光材料と架橋剤とを合わせた材料の塗布液における割合を1.0質量%とした。このようにして得られた塗布液を、スピンコートすることによって、上記青色発光層上に薄膜を形成した。次に、窒素雰囲気において200℃で20分間加熱して、膜厚が15nmの緑色発光層を得た。このような加熱処理を行うことによって、薄膜を乾燥させて溶媒を除去するとともに、架橋剤を架橋させて、次に塗布される塗布液に対して緑色発光層を不溶化した。
【0116】
次に赤色発光層を上記緑色発光層上に積層した。まず、溶媒としてキシレンを用い、赤色発光層を主に構成する材料として、発光材料(サメイション社製、商品名「PR158」)を用いて塗布液を調合した。塗布液における発光材料の割合を1.0質量%とした。このようにして得られた塗布液を、スピンコートすることによって、上記緑色発光層上に薄膜を形成した。次に、窒素雰囲気において200℃で20分間加熱して、膜厚が10nmの赤色発光層を得た。
【0117】
(発光波長の異なった複数の発光層の所定順の配置による効果の評価)
作製例1、参考例1、参考例2の各有機EL素子にそれぞれ電圧を印加して、輝度および色度を測定した。測定では、印加する電圧を段階的に変化させ、印加する電圧毎に輝度および色度を測定した。測定結果を(表1)に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
印加する電圧を変えて輝度を100cd/m2〜10000cd/m2まで変化させたときの、作製例1、参考例1、参考例2の各有機EL素子のCIE色度座標における座標値x,yのそれぞれの変化幅を下記(表2)に示す。
【0120】
【表2】

【0121】
(表1)および(表2)に示すように、作製例1の有機EL素子は、印加する電圧を変えて輝度を100cd/m2〜10000cd/m2まで変化させたときの、取出される光の色度座標における座標値xと座標値yの変化の幅が、それぞれ0.016以下であった。
【0122】
(表1)に示すように、作製例1の有機EL素子は、3層の発光層を設けることによって、1層の発光層のみからなる参考例1の有機EL素子よりも電流効率の最大値が向上した。また、作製例1の有機EL素子は、3層の発光層を所定の配置にすることによって、参考例2の有機EL素子よりも電流効率の最大値が向上した。
【0123】
また、(表2)に示すように、作製例1の有機EL素子は、3層の発光層を設けることによって、1層の発光層のみからなる参考例1の有機EL素子よりも、電圧の変化に対する色味の変化が少なかった。また、作製例1の有機EL素子は、3層の発光層を所定の配置にすることによって、参考例2の有機EL素子よりも、電圧の変化に対する色味の変化が少なかった。
【0124】
(作製例2)
この作製例2では、高分子蛍光体を用いて発光層を形成した有機EL素子とし、この素子に凹凸を有するシートを形成したものである。
<高分子蛍光体1の合成>
2,5−ジオクチルオキシ−p−キシリレンジブロミドをN,N−ジメチルホルムアミド溶媒中、トリフェニルホスフィンと反応させてホスホニウム塩を合成した。得られたホスホニウム塩47.75重量部、及びテレフタルアルデヒド6.7重量部を、エチルアルコールに溶解させた。5.8重量部のリチウムエトキシドを含むエチルアルコール溶液をホスホニウム塩とジアルデヒドのエチルアルコール溶液に滴下し、室温で3時間重合させた。一夜室温で放置した後、沈殿を濾別し、エチルアルコールで洗浄後、クロロホルムに溶解、これにエタノールを加え再沈生成した。これを減圧乾燥して、重合体8.0重量部を得た。これを高分子蛍光体1という。モノマーの仕込み比から計算される高分子蛍光体1の繰り返し単位とそのモル比を下記に示す。
ここで、数平均分子量については、クロロホルムを溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算の数平均分子量を求めた。
【0125】
【化1】

(モル比=50:50。二つの繰り返し単位は交互に結合している。)
該高分子蛍光体1のポリスチレン換算の数平均分子量は、1.0×104であった。該高分子蛍光体1の構造については赤外吸収スペクトル、NMRで確認した。
【0126】
<素子の作成及び評価>
作製した有機EL素子の構造の概略図を図4に示す。
スパッタリングによって、40nmの厚みでITO膜〔陽極(透明電極)2〕を付けたガラス基板1に、ポリビニルカルバゾールの1.0wt%クロロホルム溶液を用いて、ディッピングにより50nmの厚みで成膜した(正孔輸送層6)。更に、高分子蛍光体の1.0wt%トルエン溶液を用いて、スピンコートにより50nmの厚みで成膜した(発光層7)。更に、これを減圧下150℃で1時間乾燥した後、電子輸送層8として、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq3)を0.1〜0.2nm/sの速度で35nm蒸着した。電子輸送層8の上に陰極4の金属層としてリチウム−アルミニウム合金(リチウム濃度:1wt%)を40nm蒸着して有機EL素子を作製した。蒸着のときの真空度はすべて8×10-6Torr以下であった。
【0127】
得られた有機EL素子に、凹凸を表面に有するシート10Bとして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成した断面が半円のストライプ状である紫外線硬化樹脂層レンズを有する商品名「ルミスルー」(住友化学株式会社製、ストライプレンズのピッチが約110μm、レンズ厚み約60μm、ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚み約100μm)を、得られた有機EL素子のガラス基板1の上に粘着材を用いて貼合した。
得られた有機EL素子に、12.5Vを印加し、測定した結果、電流密度75.6mA/cm2の電流が流れ、垂直方向での輝度は4220cd/m2であった。また、その発光強度の角度依存性を測定した結果を、図5に貼合前の結果(参考例3)と合わせて示した。
【0128】
(参考例3)
凹凸を表面に有するシートを貼合することはせずに得られた有機EL素子に、12.5Vの電圧を印加し、作製例2と同様に測定した結果、電流密度75.6mA/cm2の電流が流れ、垂直方向での輝度は3136cd/m2であった。また、その発光強度の角度依存性を測定したところ、図5に示すようになった。
このように、作製例2の有機EL素子は、発光層からの光の利用効率が高い特性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の第1の実施形態の有機EL素子の断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態の有機EL素子の断面図である。
【図3】本発明の有機EL素子の層構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の他の有機EL素子の層構成を示す斜視図である。
【図5】発光強度の角度依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0130】
1 支持基板
2 透明陽極(第1電極)
3 発光部
4 陰極(第2電極)
5 保護層(上部封止膜)
6 正孔輸送層
7 発光層
7a 赤色発光層
7b 緑色発光層
7c 青色発光層
8 電子輸送層
10A、10B シート
21 支持基板
22 陽極(第2電極)
23 発光部
24 透明陰極(第1電極)
25 保護層(上部封止膜)
26 正孔注入層
27 発光層
27a 赤色発光層
27b 緑色発光層
27c 青色発光層
28 電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極および陰極のうちのいずれか一方の透明な第1電極と、
前記陽極および陰極のうちの他方の第2電極と、
前記第1電極および第2電極の間において、発光する光のピーク波長が長い層ほど前記陽極寄りに配置され、かつ高分子化合物を含む3層以上の発光層と、を備え、
前記第2電極を基準にして透明な第1電極側の最表面に高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸が形成されている、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
表面に前記凹凸が形成され、かつ前記第2電極を基準にして第1電極側の最表面部に設けられた部材が、高分子化合物から成る、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記3層以上の発光層として、赤色の光を発する発光層と、緑色の光を発する発光層と、青色の光を発する発光層とを備える、請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記第1電極と第2電極との間に印加する電圧を変化させたときの、外に取出される光の色度座標における座標値xと座標値yの変化の幅が、それぞれ0.05以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、照明装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、面状光源。
【請求項7】
請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−153091(P2010−153091A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327524(P2008−327524)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】