説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】電子注入性が良好であり、駆動性及び保存安定性に優れた陰極構造を有し、さらには生産性をも良好にした、高分子型の有機EL素子を提供する。
【解決手段】陽極30と陰極50との間に有機発光層46を含む有機機能層40を挟持してなる有機エレクトロルミネッセンス素子60である。陰極50は、有機機能層40側に配置された電子注入層52と、陰極層56とを有してなる。電子注入層52は、仕事関数が2.9eV以下のアルカリ金属またはアルカリ土類金属と、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のうちの少なくとも一種の原子と、酸素原子とを含む無機膜からなる。陰極層56は、仕事関数が2.9eVを超える金属からなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器の多様化等に伴い、消費電力が少なく軽量化された平面表示装置のニーズが高まっている。この様な平面表示装置の一つとして、多数の有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)が知られている。
【0003】
有機EL素子としては、高分子材料からなる発光材料を塗布型プロセス(液相法)で成膜し、発光層を形成する高分子型有機EL素子が種々提案されている。ところが、このような高分子型有機EL素子は、要求される寿命に対してこれを十分に満足できないといった、寿命特性上の大きな課題がある。そこで、この課題を解決するため、従来では様々な施策が採られており、その一つとして、陰極構造の最適化が提案されている。
【0004】
高分子型有機EL素子に適用可能な陰極構成としては、例えば、仕事関数の小さな金属を仕事関数の大きな金属で覆うとした技術が知られている(特許文献1参照)。高分子発光層に対して十分な電子注入性を持たせるため、このように仕事関数の小さな金属を有機膜との界面に設置し、仕事関数の大きな金属で裏打ちをする構造は、一般的に用いられている。しかしながら、この構造でも、寿命に課題があるのが現状である。
【0005】
また、これに類似する技術についても、いくつか提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。しかし、いずれの技術も、現状の寿命特性に対して大きな効果をもたらすには至っていない。
また、電子注入層として有機化合物と炭酸セシウムとの共蒸着層を用いた構造が提案されており、この構造により、有機EL素子の耐久性が向上するとした効果が挙げられている(特許文献5参照)。
【特許文献1】特許第2760347号明細書
【特許文献2】特開昭60−165771号公報
【特許文献3】特開平04−212287号公報
【特許文献4】特開平05−121172号公報
【特許文献5】特表2005−510034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記の有機化合物と炭酸セシウムとの共蒸着層を電子注入層として用い、これを高分子発光材料からなる発光層を有する高分子型の有機EL素子に適用しても、素子寿命の向上は見られない。また、有機化合物と炭酸セシウムとの蒸着比率が変わると素子特性が大幅に変化するため、安定した有機EL素子を作製するのが極めて困難である。
また、仕事関数の小さな金属としては、例えばアルカリ金属やアルカリ土類金属が挙げられるが、一般にこれらの金属は酸素や水と反応し易いことなどから取り扱い性が非常に悪く、したがってこれらの金属を用いるプロセスは生産性に難があるといった課題もある。
【0007】
本発明は前記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、電子注入性が良好であり、駆動性及び保存安定性に優れた陰極構造を有し、さらには生産性をも良好にした、高分子型の有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極との間に有機発光層を含む有機機能層を挟持してなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極は、前記有機機能層側に配置された電子注入層と、該電子注入層の、前記有機機能層と反対の側に配置された陰極層とを有してなり、
前記電子注入層は、仕事関数が2.9eV以下のアルカリ金属またはアルカリ土類金属と、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のうちの少なくとも一種の原子と、酸素原子とを含む無機膜からなり、
前記陰極層は、仕事関数が2.9eVを超える金属からなっていることを特徴としている。
【0009】
この有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、電子注入層が、仕事関数が2.9eV以下のアルカリ金属またはアルカリ土類金属と、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のうちの少なくとも一種の原子と、酸素原子とを含む無機膜からなっているので、例えば有機化合物と炭酸セシウムとの共蒸着層からなる電子注入層を用いた場合に比べ、素子寿命が長くなる。
【0010】
また、前記有機エレクトロルミネッセンス素子においては、前記ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のうちの少なくとも一種の原子と、酸素原子とが、無機陰イオンを形成しているのが好ましい。また、前記無機陰イオンが、ホウ酸イオン、炭酸イオン、硝酸イオン、アルミン酸イオン、フッ素酸イオン、ケイ酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、塩素酸イオン、臭素酸イオン、ヨウ素酸イオンのうちの少なくとも一種であるのが好ましい。
前記の少なくとも一種の原子と酸素原子とが無機陰イオンを形成しているので、電子注入層中において比較的安定な状態となる。
【0011】
また、前記有機エレクトロルミネッセンス素子においては、前記電子注入層は、仕事関数が2.9eV以下のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと、前記無機陰イオンとからなるイオン化合物からなっているのが好ましい。
このようにすれば、電子注入層がより安定なものとなる。また、アルカリ金属やアルカリ土類金属は酸素や水と反応し易いことなどから取り扱い性が非常に悪いものの、これら金属をイオン化合物とすることにより、その取り扱いが容易になる。
【0012】
また、前記有機エレクトロルミネッセンス素子においては、前記電子注入層は、仕事関数が2.9eV以下のアルカリ金属またはアルカリ土類金属と、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のうちの少なくとも一種の原子と、酸素原子とを含む無機化合物を蒸着源として、蒸着法で成膜されてなる無機膜であるのが好ましい。
このようにすれば、取り扱い性が悪いアルカリ金属やアルカリ土類金属を無機化合物の形態で用い、これを蒸着源として蒸着法で電子注入層を成膜することができるので、アルカリ金属やアルカリ土類金属の取り扱いが容易になることで成膜プロセスが容易になり、生産性が向上する。
【0013】
また、前記有機エレクトロルミネッセンス素子においては、前記電子注入層の厚さが、0.1nm以上1.0nm以下であるのが好ましい。
厚さが0.1nm未満になると、例えば網目状になってしまうなど膜としての形態が十分に得られなくなるおそれがあり、1.0nmを超えると、絶縁性が高くなることなどから電子注入層としての機能が十分に発揮されなくなるおそれがある。これに対し、0.1nm以上1.0nm以下とすれば、良好な膜質が得られて電子注入層としての機能が十分に発揮されるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)を詳しく説明する。図1は、本発明の一実施形態となる有機EL素子を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)を、模式的に示す側断面図である。なお、図1では図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などを適宜異ならせてある。
【0015】
図1において符号1は有機EL装置であり、この有機EL装置1は、基板本体10と基板本体10上に形成された駆動素子(図示せず)等を備える素子層11とからなる基板10Aと、基板10A上に形成された画素電極(陽極)30と、画素電極30と平面的に重なる開口部を備えた画素隔壁層12と、画素隔壁層12の上に形成された共通隔壁層14と、を備えたものである。
【0016】
画素隔壁層12の開口部(図示せず)内、及びこれに連通する共通隔壁層14の開口部(図示せず)内には、有機機能層40が設けられており、この有機機能層40上には、該有機機能層40と共通隔壁層14の上面とを覆って陰極(共通電極)50が形成されている。そして、前記画素電極(陽極)30と陰極50と、これらの間に挟持されてなる有機機能層40とにより、本発明の一実施形態となる有機EL素子60が形成されている。
【0017】
有機機能層40は、本実施形態では画素電極30からの正孔の注入を容易にする正孔注入層42と、正孔注入層42からの正孔の移動を促す正孔輸送層44と、発光層(有機発光層)46とが、画素電極30上にこの順に積層されて構成されたものである。
陰極50は、有機機能層側に配置された電子注入層52と、該電子注入層52上に配置された陰極層56とからなるものである。
【0018】
ここで、本実施形態に係る有機EL装置1では、有機発光層46で生じる光が、基板10A側を透過して射出される、ボトムエミッション方式が採用されている。以下、各構成要素について順に説明する。
基板本体10としては、ボトムエミッション方式であることから、透明基板が用いられる。透明基板としては、例えばガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子(樹脂)を用いることができる。また、光透過性を備えるならば、前記材料を積層または混合して形成された複合材料を用いることもできる。本実施形態では、基板本体10としてガラスが用いられている。
【0019】
素子層11は、有機EL装置1を駆動させるための各種配線や駆動素子、及びそれらを覆って形成される無機物または有機物の絶縁膜などにより、形成されている。各種配線や駆動素子は、フォトリソグラフィやエッチング等によりパターニングされて形成されており、また、絶縁膜は、蒸着法やスパッタ法など従来公知の手法によって形成されている。
【0020】
素子層11上には、画素電極(陽極)30が形成されている。この画素電極30の形成材料としては、仕事関数が5eV以上の材料が好適に用いられる。このような材料は、正孔注入効果が高いため画素電極30の形成材料として好ましい。また、本実施形態ではボトムエミッション方式であるため、画素電極30の形成材料としては、透明導電材料が用いられる。このような材料としては、例えばITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)等の金属酸化物を挙げることができ、本実施形態では、ITOが用いられている。
【0021】
また、素子層11上には、画素電極30の周端部に一部が乗り上げた状態で、画素隔壁層12が形成されている。画素隔壁層12は、平面視矩形状あるいは長円形状(トラック形状)等の開口部(図示せず)を有したもので、該開口部内に画素電極30を臨ませ、露出させたものである。この画素隔壁層12は、酸化シリコンや窒化シリコン等の無機絶縁材料で形成されたもので、開口部の位置に対応するマスクを用いたエッチング等の公知の手法で形成されている。
【0022】
画素隔壁層12上には共通隔壁層14が形成されている。共通隔壁層14は、画素隔壁層12の開口部に連通して画素電極30を露出させる開口部(図示せず)を有したもので、開口部の内壁面を順テーパ状に形成したものである。共通隔壁層14は、例えば光硬化性のアクリル樹脂やポリイミド樹脂等で形成されている。
【0023】
画素電極12の開口部内、及び共通隔壁層14の開口部内には、ここに露出した画素電極30の上面を覆って正孔注入層42が設けられている。正孔注入層42の形成材料としては、従来公知の材料が用いられる。本実施形態では、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT−PSS)の分散液、つまり分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液が、インクジェット法(液滴吐出法)で前記画素電極30上に吐出され、乾燥させられたことにより、正孔注入層42が形成されている。
【0024】
また、共通隔壁層14の開口部内には、正孔注入層42上に正孔輸送層44が設けられ、さらにその上に発光層46が設けられている。これら各層の形成材料としても、従来公知の材料が用いられる。
例えば、正孔輸送層44の形成材料としては、下記の[化学式1]で示されるADS259BE(American Dye Source社製、商品名)が用いられる。また、有機発光層46の形成材料としては、[化学式2]で示される緑色発光高分子材料ADS109GE(同社製、商品名)、[化学式3]で示される赤色発光高分子材料ADS111RE(同社製、商品名)、[化学式4]で示される青色発光高分子材料ADS136BE(同社製、商品名)が用いられる。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
これら各材料は、適宜な溶媒に溶解されて液状材料とされ、この液状材料がインクジェット法(液滴吐出法)でそれぞれの下地上に吐出され、乾燥させられている。これにより、正孔輸送層44、発光層46が形成されている。
発光層46の上には、前記したように該発光層46(有機機能層40)と共通隔壁層14の上面とを覆って陰極(共通電極)50が形成されている。この陰極50は、有機機能層側に配置された電子注入層52と、該電子注入層52上に配置された陰極層56とからなっている。
【0030】
前記電子注入層52は、仕事関数が2.9eV以下のアルカリ金属またはアルカリ土類金属と、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のうちの少なくとも一種の原子と、酸素原子とを含む無機膜からなっている。
ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のうちの少なくとも一種の原子と、酸素原子とは、無機陰イオンを形成しているのが好ましい。この無機陰イオンとしては、ホウ酸イオン(BO3−)、炭酸イオン(CO2−)、硝酸イオン(NO[NO等も含む])、アルミン酸イオン(AlO)、フッ素酸イオン[次亜フッ素酸イオン](FO)、ケイ酸イオン(SiO2−[SiO4−、Si6−等も含む])、リン酸イオン(PO3−[P4−、P105−等も含む])、硫酸イオン(SO2−[SO2−等も含む])、塩素酸イオン(ClO[ClO、ClO、ClO等も含む])、臭素酸イオン(BrO[BrO、BrO、BrO等も含む])、ヨウ素酸イオン(IO[IO、IO、IO等も含む])のうちの少なくとも一種であるのが好ましい。
【0031】
一方、仕事関数が2.9eV以下のアルカリ金属またはアルカリ土類金属としては、Li、Cs、Ca、Sr、Baが挙げられ、中でも、Cs及びBaが好適に用いられる。
このようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属と、前記の原子とは、特に、イオン化合物となっているのが好ましい。すなわち、前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと、前記無機陰イオンとからなるイオン化合物からなっているのが好ましい。具体的には、CsCO(炭酸セシウム)やBaCO(炭酸バリウム)、BaSO(硫酸バリウム)などが好適に用いられる。特に、BaSOは人体に対して無害であるので、プロセス上極めて有利であり、好ましい。
【0032】
また、アルカリ金属やアルカリ土類金属は酸素や水と反応し易く、したがってその取り扱いが非常に難しいものの、これら金属をイオン化合物とすることにより、その取り扱いが容易になる。
また、このようなイオン化合物からなる電子注入層52は、アルカリ金属やアルカリ土類金属が陽イオン化していることによって酸素や水との反応性が抑えられているため、より安定なものとなっている。したがって、プロセス上も非常に有利になっている。
【0033】
このような電子注入層52は、蒸着法によって形成される。すなわち、前記のイオン化合物を蒸着源とした真空蒸着法で成膜されることにより、前記有機機能層40及び共通隔壁14の上面を覆った状態に形成される。真空蒸着法としては、イオンビーム蒸着法や抵抗加熱式蒸着法が用いられる。
このようにして成膜される電子注入層52は、その厚さが0.1nm以上1.0nm以下程度とされ、好ましくは0.5nm程度とされる。厚さが0.1nm未満になると、例えば部分的に開口が形成されて網目状になってしまい、膜としての形態が十分に得られなくなるおそれがある。一方、1.0nmを超えると、絶縁性が高くなることなどから、電子注入層52としての機能が十分に発揮されなくなるおそれがある。したがって、0.1nm以上1.0nm以下程度とするのが好ましく、0.5nm程度とするのが望ましい。本実施形態では、電子注入層52は厚さ0.5nm程度のCsCOまたはBaCOによって形成されている。
【0034】
なお、蒸着法で形成された電子注入層52は、必ずしも無機イオン化合物の形態で膜を構成しているかは不明である。すなわち、部分的に無機陰イオンが分解し、陽イオンであるアルカリ金属またはアルカリ土類金属が金属化したり、酸化物化していることも考えられる。しかし、無機イオン化合物に由来する無機膜であれば、電子注入層としての機能や安定性等が確保されるため、本発明では、前記の無機イオン化合物に由来する無機膜であれば、本発明に係る電子注入層であるものとする。
【0035】
陰極層56は、仕事関数が2.9eVを超える金属からなっている。具体的には、Al、Ag、Cu、Ni、Au、Mg等を用いることができる。また、本実施形態では、ボトムエミッション方式であることから、この陰極層56を反射層としても機能させるのが好ましく、したがって本実施形態では、陰極層56をAlによって形成している。このAlからなる陰極層56については、良好な反射性と導電性を確保するため、厚さを200nm程度としている。
陰極50の上には、これを覆ってSiOなどの無機保護層(図示せず)が設けられ、さらにこの無機保護層上にはエポキシ樹脂を介してガラス基板(図示せず)が貼り合わされている。
【0036】
このような構成からなる有機EL装置1における有機EL素子60にあっては、電子注入層52が、低仕事関数のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと、無機陰イオンとからなる無機イオン化合物からなっているので、電子注入性が良好になり、これにより駆動性及び保存安定性に優れた陰極構造を有するものとなる。よって、例えば有機化合物と炭酸セシウムとの共蒸着層からなる電子注入層を用いた場合に比べて素子寿命が長くなり、有機EL装置1の長寿命化を図ることができる。
また、アルカリ金属やアルカリ土類金属は酸素や水と反応し易いことなどから、不安定で取り扱い性が非常に悪いものの、これら金属をイオン化合物としていることにより、電子注入層がより安定なものとなり、その取り扱いも容易になる。
【0037】
また、電子注入層52が、前記の無機イオン化合物を蒸着源とし、蒸着法で成膜された無機膜からなっているので、取り扱い性が悪いアルカリ金属やアルカリ土類金属を無機化合物の形態で用い、これを蒸着源として蒸着法で成膜することができ、したがってアルカリ金属やアルカリ土類金属の取り扱いを容易にして成膜プロセスを容易にし、生産性を向上することができる。
【0038】
(実験例)
本実施形態の有機EL装置1における有機EL素子60と、電子注入層52として有機化合物と炭酸セシウムとの共蒸着層を用いた従来構造の有機EL素子とをそれぞれ駆動させ、それぞれの素子寿命と電流効率とを調べた。なお、本実施形態に係る有機EL素子60では、電子注入層52を炭酸セシウム(CsCO)で形成した。
その結果、本実施形態に係る有機EL素子60の素子寿命、電流効率をそれぞれ1とすると、従来構造の有機EL素子の素子寿命は0.25、電流効率は0.7となった。したがって、本実施形態に係る有機EL素子60は、共蒸着層を用いた従来構造の有機EL素子に比べて優れた素子特性を有していることが確認された。
【0039】
次に、本発明の有機EL素子の他の実施形態を説明する。
本実施形態の有機EL素子が、前記実施形態における有機EL素子60と異なるところは、前記有機EL素子60が画素電極(陽極)30側から光を射出するボトムエミッション方式であるのに対し、本実施形態の有機EL素子は、陰極50側から光を射出するトップエミッション方式である点である。
【0040】
すなわち、本実施形態の有機EL素子は、図1に示した構造において、画素電極(陽極)30の構成と陰極50の構成とが、前記実施形態の有機EL素子60と基本的に異なっている。
まず、本実施形態の有機EL素子においては、図1における基板本体10として、トップエミッション方式であることから、透明基板に加えて不透明基板が使用可能となる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。
【0041】
素子層11については、特に有機EL装置1を駆動させるための駆動素子や各種配線について、画素電極30の直下に配置することが可能になる。
また、画素電極30については、透明導電層としてITOを用いるが、その外側、すなわち下地側に、反射層として例えばAl(アルミニウム)とNd(ネオジム)との合金薄膜が設けられる。すなわち、トップエミッション方式である本実施形態では、反射層とこれの上に積層されたITOからなる透明導電層により、画素電極30が構成されている。
【0042】
画素電極30上に形成配置される有機機能層40は、前記実施形態と同様に、正孔注入層42、正孔輸送層44、発光層46によって構成されている。
また、この有機機能層40上に形成配置される電子注入層52も、前記実施形態と同じく、仕事関数が2.9eV以下のアルカリ金属またはアルカリ土類金属と、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のうちの少なくとも一種の原子と、酸素原子とを含む無機膜からなっている。
【0043】
ただし、この電子注入層52とともに陰極50を構成する陰極層56としては、本実施形態ではトップエミッション方式であることから、透明導電材料が用いられる。具体的には、MgとAgとを体積比で10:1にした共蒸着膜が好適に用いられ、本実施形態では、このMgとAgとの共蒸着膜が、厚さ15nm程度に形成されて用いられている。
【0044】
陰極50の上には、これを覆ってSiOなどの無機保護層(図示せず)が設けられ、さらにこの無機保護層上にはエポキシ樹脂を介してガラス基板(図示せず)が貼り合わされている。ただし、本実施形態ではトップエミッション方式であるため、当然ながら前記無機保護層やガラス基板は、無色透明のものが用いられている。
【0045】
このような構成からなる有機EL素子にあっても、電子注入層52が、低仕事関数のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと、無機陰イオンとからなる無機イオン化合物からなっているので、電子注入性が良好になり、これにより駆動性及び保存安定性に優れた陰極構造を有するものとなる。よって、例えば有機化合物と炭酸セシウムとの共蒸着層からなる電子注入層を用いた場合に比べて素子寿命が長くなり、有機EL装置1の長寿命化を図ることができる。
また、アルカリ金属やアルカリ土類金属は酸素や水と反応し易いことなどから、不安定で取り扱い性が非常に悪いものの、これら金属をイオン化合物としていることにより、電
子注入層がより安定なものとなり、その取り扱いも容易になる。
【0046】
また、電子注入層52が、前記の無機イオン化合物を蒸着源とし、蒸着法で成膜された無機膜からなっているので、取り扱い性が悪いアルカリ金属やアルカリ土類金属を無機化合物の形態で用い、これを蒸着源として蒸着法で成膜することができ、したがってアルカリ金属やアルカリ土類金属の取り扱いを容易にして成膜プロセスを容易にし、生産性を向上することができる。
【0047】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、前記実施形態では、有機機能層40を正孔注入層42と正孔輸送層44と発光層(有機発光層)46とによって構成したが、正孔輸送層44についてはこれを省略して、正孔注入層42と発光層46とのみから、本発明の有機機能層40を構成することもできる。さらには、発光層46上に高分子材料からなる電子輸送層を形成し、正孔注入層42と正孔輸送層44と発光層(有機発光層)46と電子輸送層との四層構造、あるいは正孔注入層42と発光層(有機発光層)46と電子輸送層との三層構造により、有機機能層40を構成することもできる。
【0048】
[電子機器]
次に、本発明の応用例としての電子機器について説明する。図2は、本発明に係る有機EL装置を用いた電子機器の一例を示す斜視図である。図2に示す携帯電話(電子機器)1300は、本発明の有機EL素子を有した有機EL装置を小サイズの表示部1301として備え、複数の操作ボタン1302、受話口1303、及び送話口1304を備えて構成されている。これにより、本発明に係る有機EL装置により構成された、寿命特性に優れた表示部を具備した携帯電話1300を提供することができる。
【0049】
なお、本発明に係る有機EL装置は、前記携帯電話に限らず、電子ブック、プロジェクタ、パーソナルコンピュータ、ディジタルスチルカメラ、テレビジョン受像機、ビューファインダ型あるいはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等々の画像表示手段として好適に用いることができる。かかる構成とすることで、寿命特性に優れ、したがって信頼性に優れた表示部を備えた電子機器を提供できる。
【0050】
さらには、前記各実施形態の有機EL装置をラインヘッドとして用いることができ、その場合に、該ラインヘッドを光源として備えた画像形成装置(光プリンタ)に適用することができる。このようにすると、輝度ムラが無く信頼性に優れた光プリンタとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機EL装置を模式的に示す側断面図である。
【図2】本発明に係る電子機器の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
1…有機EL装置(有機エレクトロルミネッセンス装置)、30…画素電極(陽極)、40…有機機能層、42…正孔注入層、44…正孔輸送層、46…発光層(有機発光層)、50…陰極、52…電子注入層、56…陰極層、60…有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に有機発光層を含む有機機能層を挟持してなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極は、前記有機機能層側に配置された電子注入層と、該電子注入層の、前記有機機能層と反対の側に配置された陰極層とを有してなり、
前記電子注入層は、仕事関数が2.9eV以下のアルカリ金属またはアルカリ土類金属と、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のうちの少なくとも一種の原子と、酸素原子とを含む無機膜からなり、
前記陰極層は、仕事関数が2.9eVを超える金属からなっていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のうちの少なくとも一種の原子と、酸素原子とが、無機陰イオンを形成していることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記無機陰イオンが、ホウ酸イオン、炭酸イオン、硝酸イオン、アルミン酸イオン、フッ素酸イオン、ケイ酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、塩素酸イオン、臭素酸イオン、ヨウ素酸イオンのうちの少なくとも一種であることを特徴とする請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記電子注入層は、仕事関数が2.9eV以下のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと、前記無機陰イオンとからなるイオン化合物からなっていることを特徴とする請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記電子注入層は、仕事関数が2.9eV以下のアルカリ金属またはアルカリ土類金属と、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のうちの少なくとも一種の原子と、酸素原子とを含む無機化合物を蒸着源として、蒸着法で成膜されてなる無機膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記電子注入層は、厚さが0.1nm以上1.0nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−93007(P2010−93007A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260367(P2008−260367)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】