説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】面内における輝度ムラが少なく、面光源としての品位にも優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】有機発光層が電極層間に挟持されてなる有機発光部2を有し、面光源として用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機発光部がガラス缶3で封止された構造を有し、前記ガラス缶と接して、前記有機発光部を面内において選択的に加熱する加熱機構5を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明装置等において面光源として用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものであり、特に、面内での輝度ムラを解消するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の観点から、二酸化炭素等の温室効果ガスの削減が急務となっており、例えば蛍光灯等に代わる低消費電力光源の普及が不可欠となっている。蛍光灯には、水銀も含まれているため、この点からもこれに代わる照明の開発が望まれる。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と称する。)は、自発光型の光源であり、消費電力が小さく、大型化やフレキシブル化等が比較的容易であるため、照明装置における面光源としての応用が期待されている。
【0004】
有機EL素子の構成としては、例えば透明基板上に第1電極(例えば透明電極)、有機発光層を含む有機化合物多層膜、及び第2電極をこの順に積層することにより素子部を形成し、有機化合物多層膜に電流を流すことにより有機発光層で発生した光を前記透明基板側から取り出すようにしたものが一般的である。
【0005】
ところで、前述の有機EL素子においては、コストや寿命等の実用特性の面で課題が多く、特に照明装置の分野においては、ほとんど実用化に至っていないのが実情である。例えば、有機EL素子を構成する有機化合物多層膜等は、一般的に極めて不安定な有機材料から構成されるため、酸素や水分等の影響を受けて容易に劣化するという欠点がある。あるいは、有機EL素子からは光だけでなく熱も発生するが、この熱が素子内部に蓄積することにより有機材料を劣化させるという問題もある。
【0006】
このような状況から、有機EL素子に関して、様々な封止構造や放熱構造が提案されている(特許文献1〜4等を参照)。例えば、特許文献1には、外部からの水分の遮断性能が高く、長期に亘って素子性能の劣化を抑制することが可能な有機エレクトロルミネッセンス発光装置(照明装置)が開示されており、さらには放熱のための構造も開示されている。特許文献1に記載される有機エレクトロルミネッセンス発光装置は、いわゆる膜封止構造を有するものであり、有機発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子が光硬化性樹脂封止層や防湿層、熱硬化性樹脂接着層等で覆われ、さらには、その上に吸熱体や放熱体を設置した構造とされている。
【0007】
特許文献2には、一対の電極間に有機発光層を積層した積層物を基板の上に設け、所定の熱伝導率を有する金属板を絶縁層で覆った封止部材を積層物に貼って積層物を封止した有機発光素子が開示されている。特許文献2記載の有機発光素子では、前記封止部材を用いることで、水分や酸素の遮断性が高く、発光に際して発生する熱を速やかに除去することで、有機発光素子の発光特性を長時間にわたって安定して維持すると共に、発光ムラのない均一発光を実現し、かつ寿命の短縮や素子破壊の可能性を低減している。
【0008】
特許文献3記載の発明は、有機エレクトロルミネッセンス表示装置に関するものであるが、有機発光材料を含んで構成された有機発光層を有する発光素子を複数の画素に備える有機エレクトロルミネッセンスパネルに、面方向への熱伝導率が厚さ方向への熱伝導率より高い熱拡散層を設けることで、パネル内の温度を均一化し、表示領域全面で、焼き付き等の輝度ムラを視認することのない、均一な表示を可能としている。
【0009】
特許文献4記載の発明も表示装置に関するものであるが、第1電極と第2電極との間に発光層を含む層を備えた発光素子を備えた表示パネルに、冷却部と放熱部との間で冷媒を循環させる冷却装置を設置することで、輝度むらを防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−34142号公報
【特許文献2】特開2006−331695号公報
【特許文献3】特開2008−234890号公報
【特許文献4】特開2004−184035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述の各特許文献記載の発明のように、輝度ムラを放熱により解消しようとしても、十分な効果が得られず、却って輝度の低下を招く等の問題が生ずるおそれがある。また、前述の各特許文献記載の発明は、有機EL素子の全面に対して放熱手段を設置するものであり、有機EL素子全体の輝度については改善することができても、輝度ムラを解消することは難しい。
【0012】
前述の輝度ムラの問題は、特にある程度大きな面積を有する有機EL素子を照明装置として利用する場合に大きな問題となり、実用化の妨げになっている。面光源として用いられる有機EL素子においては、前記輝度ムラを解消するために、有機EL素子を面内で複数領域に分割することも検討されているが、その場合には、各有機EL素子間に無発光領域が形成されることになり、この無発光領域が線状に視認される等、照明としての品位を大きく損なうことになる。
【0013】
本発明は、前述のような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、面光源として用いられる有機EL素子の輝度ムラを効果的に解消し得る技術を提供することを目的とし、面内における輝度ムラを抑制することができ、見た目の品位にも優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、種々の研究を重ねた結果、有機EL面光源の一部を加熱すると、加熱した部分の電流値が上昇し輝度が上昇することを見出すに至った。そして、この現象を利用し、有機EL素子の輝度が低いところを選択的に加熱することで、加熱した部分の輝度が相対的に上昇し、結果として輝度ムラが解消されるとの知見を得るに至った。
【0015】
本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、有機発光層が電極層間に挟持されてなる有機発光部を有し、面光源として用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機発光部がガラス缶で封止された構造を有し、前記ガラス缶と接して、前記有機発光部を面内において選択的に加熱する加熱機構を有することを特徴とする。
【0016】
輝度ムラのある面光源(有機エレクトロルミネッセンス素子)において、有機発光部の輝度の低い部分を加熱すると、加熱した部分の輝度が増加し、もともと輝度が高かった部分との相対的な輝度の差が縮小する。その結果、輝度ムラが解消される。また、面光源として機能する有機発光部を分割する必要がないので、発光面内に無発光領域が形成されることがなく、発光の品位を損なうこともない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、輝度ムラがなく、面光源としての発光品位に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することが可能である。また、本発明によれば、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光面内において、任意の位置の輝度を増減することができ、様々な輝度ムラに対応して、これを解消することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用した有機EL素子の第1の実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明を適用した有機EL素子の第2の実施形態を示す概略断面図である。
【図3】実施例に使用した有機EL素子の概略平面図である。
【図4】(a)は加熱前の有機EL素子の輝度分布を示す図であり、(b)は加熱後の有機EL素子の輝度分布を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を適用した有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
本発明は、例えば白色発光で、発光面積が例えば50mm(好ましくは10mm×10mm=100mm)を越えるような大面積の面光源(例えば照明用の有機EL素子)等に適用して好適である。これは、大面積の有機EL素子では、熱分布に起因して発光面の場所により温度が変わり、あるいは電極抵抗に起因して発光面の場所により電流値が変わり、これに伴って輝度が変わる等、均一発光が難しいことによる。そこで、以下の実施形態においては、照明用の大面積有機EL素子を想定して説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
図1に本実施形態の有機EL素子の概略構成を示す。本実施形態の有機EL素子は、いわゆる缶封止構造を有する有機EL素子であり、図1に示すように、基板1上に形成された有機発光部2がガラス缶3で封止された構造を有する。
【0022】
基板1は、有機発光部を支持する支持体として機能する他、水分、酸素等の有機発光部2への侵入を阻止するバリア層としても機能する。この基板1の構成材料は、特に限定されないが、本実施形態の有機EL素子はボトムエミッション型の有機EL素子であり、基板1を通して発光が取り出されることから、光透過性材料であることが好ましい。したがって、例えばガラスやプラスチック等を用いることができる。ガラスは、水分や酸素等のバリア性にも優れることから、好ましい材料である。プラスチックを用いる場合には、前記バリア性が不足する場合があるので、その場合には、表面にバリア層を形成することが好ましい。
【0023】
有機発光部2は、例えば第1電極、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層、電子注入層、及び第2電極等を積層することにより構成され、第1電極及び第2電極間に電圧を印加することにより有機発光層が発光する。ここで、発光面側に配される第1電極は基板1と同様に透明である必要があり、例えばITO電極等が用いられる。一方、第2電極は透明である必要はなく、例えばアルミニウム電極等が用いられる。
【0024】
ガラス缶3の内部は、例えば乾燥した窒素ガス等が封入されており、酸素による有機発光部2の酸化を防止している。本実施形態の場合、ガラス缶3内に乾燥剤4が貼り付けられており、ガラス缶3内に侵入した水分を除去するようになっている。
【0025】
以上が有機EL素子の基本的な構造であるが、本実施形態の有機EL素子では、有機発光部2の面内の一部を加熱するための加熱板5が加熱機構として設置されており、前記加熱板5によって有機発光部2を選択的に加熱することで面内での輝度分布を変え、有機EL素子における輝度ムラを解消する構造とされている。
【0026】
前記加熱機構について説明すると、前記加熱板5は、例えばステンレス板等の熱伝導に優れた材質により形成されており、その端部を熱源に接触させることで熱が伝達され、反対側の端部に接している有機EL素子が加熱される。また、前記加熱板5は、有機EL素子の背面側(発光面とは反対側)において、ガラス缶3と接するように取り付けられており、したがって有機発光部2は熱伝導によって間接的に加熱されることになる。
【0027】
前記加熱板5の取り付け位置であるが、本実施形態の有機EL素子の場合、図中右側に有機発光部2の取出し電極が設置されていることから、これとは反対側に加熱板5が取り付けられている。有機発光部2においては、第1電極や第2電極の電気抵抗等に起因して、取出し電極から離れた位置と近い位置とで有機発光層に流れる電流が異なり、取出し電極から離れた位置では電流が流れ難い(すなわち、輝度が低い)。前記のように取出し電極から離れた位置に加熱板5を取り付け、取出し電極から離れた位置の有機発光部2を加熱すると、面内での電流の流れ方が変わり、加熱部分の有機発光部2に流れる電流が増加して輝度が上昇する。
【0028】
前記現象を言い換えると、輝度ムラのあるところ(特に輝度が低いところ)を加熱することにより、定電流駆動される有機EL素子の有機発光部2において、輝度ムラを解消することができる、ということになる。定電流駆動される有機EL素子においては、第1電極や第2電極の電気抵抗に起因して電流分布を生じ、これにより輝度ムラが発生する。このような輝度ムラのある面光源において、輝度の低い箇所を加熱すると、加熱した箇所の電流値が上昇して輝度が増加し、もともと輝度が高かった部分の輝度(電流値)が相対的に低下することになり、輝度ムラが解消される。
【0029】
(第2の実施形態)
本発明者は、封止形態の異なる有機EL素子の発熱特性を検証することで、発熱が面内の輝度ムラを助長していることを突き止めた。また、封止をシート封止(膜封止)化することで、面内の温度分布を均一化し、輝度ムラの発生を抑制できることを確認した。これらの知見から、輝度ムラの解消にはシート封止構造を採用することが有利であると考えられる。そこで、本実施形態の有機EL素子では、シート封止構造を採用することに加えて加熱機構を設けることで、より一層の輝度ムラの解消を実現している。
【0030】
図2は、シート封止構造を採用した本実施形態の有機EL素子の概略構成を示す断面図である。本実施形態の有機EL素子11は、基板12上に陽極13、1種類以上の有機材料により多層成膜される有機層14及び陰極15をこの順に積層してなる有機発光部16を有しており、この有機発光部16が各種シート(膜)によって封止され、大気(酸素)や水分の侵入を防ぐ構造とされている。具体的には、有機発光部16の表面が平坦化層17によって被覆され、さらに平坦化層17上にシールド層18や接着層19、ガラス板20が積層されている。
【0031】
本実施形態の有機EL素子11も、有機発光部16中の有機発光層からの発光を、基板12側から取り出すようにしており、したがって、基板12としては、例えばガラス、プラスチック等の光透過性を有する基板を用いることが好ましい。
【0032】
基板12上に形成される有機発光部16は、例えば陽極13、有機層14及び陰極15をこの順に積層することにより構成される。ここで、陽極13は、ITO(インジウム錫酸化物)やインジウム亜鉛酸化物等の光透過性を有する導電材料が例えばスパッタ等により成膜されて構成される。陽極13上に重ねられる有機層14は、例えば陽極13側から、正孔注入層、発光層及び電子注入層等が順次積層されたものである。また、有機層14は、発光層と正孔注入層との間に正孔輸送層が存在する構成や、発光層と電子注入層との間に電子輸送層が存在する構成、さらには単層でもよい。さらに、有機層14としては前述の構造に限定されず、種々の構造をとることが可能である。有機層14上に重ねられる陰極15は、例えばアルミニウム等の金属や合金等がスパッタや蒸着等により成膜されて構成される。
【0033】
有機発光部16を覆う平坦化層17は、その上に形成されるシールド層18の膜質を良好にしてシールド層18のバリア性を高める観点から、有機発光部16の表面の段差や凹凸、ピンホール等を均一に被覆する平滑性が要求される。それとともに、平坦化層17には、有機発光部16を酸素や水分等から保護するためのガスバリア性、有機発光部16から発生した熱を速やかにガラス板10等へ伝えるための高い熱伝導性、及びシールド層を成膜する時に発生する素子のダメージを軽減させる機能を有することが好ましい。これらの観点から、キシリレン系高分子化合物、ポリイミド系高分子化合物、アクリル系高分子化合物、エポキシ系高分子化合物、ポリ尿素系高分子化合物等の有機絶縁材料を、プラズマCVD等のCVD法や抵抗加熱蒸着等のPVD法などの気相法(ドライプロセス)により成膜して平坦化層17を形成することが好ましい。あるいは、トリフェニルアミン化合物、トリアリールアミン化合物、トリス(アリールアミン)ベンゼン化合物等を真空蒸着法等で成膜することにより平坦化層17を形成することも可能である。例えば、塗布等のウェットプロセスにより平坦化層を形成する方法もあるが、平坦化層17を形成する材料を溶かすために使用する溶媒及びその溶媒に含まれる水分等が有機発光部16に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0034】
平坦化層17上には、シールド層18が積層されるが、当該シールド層18には、接着層19の硬化時に有機層14等の有機発光部16の受ける悪影響を遮断する機能が要求される。例えば接着層19が光硬化性接着層である場合には、硬化の際に使用されるUV光や可視光等の光を吸収又は反射して遮断するように、シールド層18を形成することが好ましい。光を遮断する材料としては、アルミニウム、金、銀等の金属類、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セシウム等の金属酸化物類、硫酸バリウム等の金属硫酸化物類、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等から少なくとも1種を用いることができる。中でも、バリア性に優れることから、アルミニウム、金、銀等の金属類を用いることが好ましい。光硬化性接着層の硬化の際に、UV光等の光をシールド層18で遮断することで、接着層19の光硬化時に有機発光部16が保護され、ガラス板20を固着する際に有機層14等が劣化することを抑えることができる。
【0035】
また、接着層19が熱硬化性接着層である場合には、硬化時に熱硬化性樹脂から発生するアウトガスを遮断するようにシールド層18を形成することが好ましい。熱硬化性樹脂から発生するガスを遮断するガスバリア性を有する材料としては、前述の光硬化性接着層の硬化時に使用する光を遮断する材料や、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム等の金属フッ化物類、窒化アルミニウム等の金属窒化物類、二酸化けい素等のけい素酸化物類、窒化けい素等のけい素窒化物類等から少なくとも1種を用いることができる。中でも、バリア性に優れ、硬化時のアウトガスを防ぐ効果が高いことから、アルミニウム、金、銀等の金属類、二酸化けい素や酸化アルミニウム等の酸化物類、窒化けい素や窒化アルミニウム等の窒化物類等を用いることが好ましい。このように、熱硬化性接着層の硬化時に発生するアウトガスをシールド層18で遮断することで、接着層19の硬化時に発生するガスから有機発光部16が保護され、ガラス板20を固定する際に有機層14等が劣化することを抑えることができる。
【0036】
前述の平坦化層17及びシールド層18の膜構成としては、基本的には1層の平坦化層17上に1層のシールド層18を積層すればよいが、これに限らず、平坦化層17やシールド層18のいずれか一方、あるいは双方を2層以上とすることも可能である。具体的には、シールド層18、平坦化層17、シールド層18の順に3層積層したり、平坦化層17、シールド層18、平坦化層17の順に3層積層する等の膜構成を挙げることができる。さらには、平坦化層17とシールド層18を1組として、これらを複数組繰り返し積層することも可能である。
【0037】
次に、この上に形成される接着層19であるが、接着層19には、光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂材料、具体的には、アクリル系高分子化合物、エポキシ系高分子化合物等を用いることができる。これらの中では、熱硬化性接着剤を用いることが好ましく、特に、シート状とされた熱硬化性接着剤(いわゆるホットメルト接着剤)を用いることにより、例えば発光面積の大きな有機EL素子においても、均一な厚さの接着層19を形成することができ、また接着層19の形成に際して、液状接着剤を塗布する場合に発生するエアかみの問題を解消することができ、素子面積拡大に伴う塗布時間の増加を抑えることが可能である。
【0038】
前記シート状の熱硬化性接着剤は、加熱によって流動性を示し、接着性を発揮する。ここで、有機EL素子11では、素子構造が薄膜の多段構成となっており、良好な被覆性を得るためには、高い流動性が必要となる。したがって、前記シート状の熱硬化性接着剤は、流動開始温度や粘度が低いことが必要である。一方で、有機EL素子は、耐熱温度が110℃程度であり、これを超える温度での熱処理は、有機EL素子の特性を劣化させる要因となる。これらの事項を加味すると、前記シート状の熱硬化性接着剤は、110℃以下の環境下で被覆に十分な流動性及び硬化性が得られることが必要であり、接着層19の形成に際しては、硬化温度を110℃以下とすることが好ましいことになる。
【0039】
接着層19には、高い熱伝導性を有するフィラー、ガス吸着性を有するフィラー、吸湿性を有するフィラー等のフィラーが分散されていてもよい。接着層19にフィラーを含有させることで、フィラーの種類に応じて、有機EL素子の放熱性、酸素や水分等に対するバリア性等をさらに高めることができる。
【0040】
ガラス板20は、有機発光部16上に密着形成された膜の表面に固定され、酸素や水分等が素子内部へ侵入することを抑える封止材としての機能を有するものであり、封止膜のガスバリア性を補強する機能も兼ねるものである。厚み方向のガスバリア性をより一層高めるためには、ガラス板20の面積は有機発光部16の面積より大きいことが好ましい。なお、ここではガラス板20を設置するようにしたが、例えばアルミニウム、銅、ステンレス、窒化アルミニウム、銅タングステン等の高い熱伝導性を有する金属板あるいは合金板等を用いることも可能である。
【0041】
以上がシート封止構造を有する有機EL素子11の基本的な構成であるが、本実施形態の有機EL素子11は、前述のシート封止構造に加えて放熱構造が付加されている。具体的には、前記ガラス板20の上に、さらに熱拡散板21や放熱板22が積層されている。前記熱拡散板は、例えばアルミニウム等からなり、これら熱拡散板21や放熱板22をガラス板20上に設置することにより、有機EL素子の熱的な負担が軽減され、面内の温度分布(輝度分布)をある程度均一化することができる。
【0042】
以上のようなシート封止構造を有する有機EL素子11においても、有機発光部16の面内の一部を加熱するための抵抗膜23が加熱機構としてガラス板20上に設置されており、前記抵抗膜23によって有機発光部16を選択的に加熱することで面内での輝度分布を変え、有機EL素子11における輝度ムラを解消する構造とされている。
【0043】
前記抵抗膜23は、例えば所定の抵抗値を有する導電材料を成膜することにより形成されており、電流を流すことによって発熱し、いわゆるヒータとして機能する。抵抗膜23は、有機EL素子11の取出し電極(例えば陽極13の取出し電極13A)の取り出し位置とは反対側の領域に形成されており、先の第1の実施形態と同様、この抵抗膜23によって有機発光部16の取出し電極13Aから離れた部分を加熱することで、輝度ムラが解消される。
【0044】
以上、本発明を適用した有機EL素子の実施形態について説明したが、本発明の有機EL素子の構成がこれら実施形態のものに限られるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0045】
例えば、加熱機構は前述の加熱板や抵抗膜に限られるわけではなく、有機発光部を選択的に加熱することができるものであれば如何なるものであってもよい。また、その設置位置についても任意であり、有機EL素子(有機発光部)の温度分布に応じて適宜設計すればよい。さらに、有機EL素子についても、公知の有機EL素子のいずれにも適用することが可能である。
【実施例】
【0046】
本実施例においては、本発明の効果を確認するため、実際に有機EL素子を作製し、輝度ムラの状況について調べた。
【0047】
実施例1
本実施例で作製した有機EL素子は、図1に示すような缶封止構造のものである。図3に、作製した有機EL素子の平面配置及び寸法を示す。作製した有機EL素子のサイズは、50mm×50mmである。図中の斜線領域が発光エリアであり、発光エリアのサイズは29mm×34mmである。発光エリア(有機層31)の周囲には、シールエリア32が形成されており、第1電極33や第2電極34の取出し電極は、図中下辺に配置されている。
【0048】
封止缶の取出し電極形成位置とは反対側に加熱板を設置し、初期状態(27℃)から順に加熱し、輝度分布の様子を調べた。加熱は、定電流(60mA)下で下記の順に行った。
27℃→35℃→45℃→32℃(自然冷却)→55℃→30℃(自然冷却)
【0049】
結果として、有機EL素子の一部を温度上昇させると、その位置の輝度が上昇した。温度を低下させると初期の輝度分布に戻ることから、この現象は再現性があることを確認した。
【0050】
実施例2
本実施例で作製した有機EL素子は、図2に示すような膜封止構造(シート封止構造)のものである。ただし、本実施例で作製した有機EL素子では、ガラス板上の熱拡散板や放熱板は設置していない。作製した有機EL素子の大きさは、基板サイズ100mm×100mm、発光面積74mm×81mmである。また、基板(ガラス基板)及びガラス板の厚さは、いずれも0.7mmである。
【0051】
作製した有機EL素子では、基板の一辺に沿って+−+、対辺に+++の電極を有しており、そのためこれら2辺を挟んで輝度ムラが発生しており、図4(a)に示すように、電極から最も遠い(電極を構成するITOのシート抵抗の累積が最も大きい)中央部が暗くなっている。
【0052】
そこで、輝度の低い中央部に外部ヒータを配置し、15℃程度加熱したところ、加熱後、図4(b)に示すように輝度ムラが改善した。具体的には、表1に示す通り、平均輝度は定電流駆動を行っているためにほとんど変わっていないが、均一性が10%以上改善されており、面内の輝度バラツキが小さくなっている。これは、輝度が低い部分(電流が流れていない部分)を加熱することで、電流が流れるようになって輝度が上昇したことによるもので、有機EL素子に注入される電流総量が固定されているために、面内の輝度分布が均一化されている。
【0053】
【表1】

【符号の説明】
【0054】
1 基板、2 有機発光部、3 ガラス缶、4 乾燥剤、5 加熱板、12 基板、13 陽極、14 有機層、15 陰極、16 有機発光部、17 平坦化層、18 シールド層、19 接着層、20 ガラス板、21 熱拡散板、22 放熱板、23 抵抗膜、31 有機層、32 シールエリア、33 第1電極、34 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機発光層が電極層間に挟持されてなる有機発光部を有し、面光源として用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機発光部がガラス缶で封止された構造を有し、
前記ガラス缶と接して、前記有機発光部を面内において選択的に加熱する加熱機構を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記電極層の取出し電極から離れた位置に前記加熱機構が設置されていることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記加熱機構は、ヒータとして機能する抵抗体膜を成膜することにより形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記加熱機構は、外部の熱源に接続された伝熱体を接触させる形で設置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記加熱機構は、発光面とは反対側の面に設置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
定電流駆動されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−253819(P2011−253819A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155295(P2011−155295)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【分割の表示】特願2008−295994(P2008−295994)の分割
【原出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(508344062)有限会社 Q−Lights (3)
【Fターム(参考)】