説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】製造の歩留まりが高く、また素子寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】陽極1と陰極2の間に、非発光層3を介して積層した2つの発光層4,5を備えて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。陰極2側の発光層5は、ホスト材料中に発光性ドーパントと、第二のドーパントが添加されたものであり、第二のドーパントは、発光性ドーパントの最大発光波長より短い最大発光波長を有すると共に発光性ドーパントのイオン化ポテンシャルより小さいイオン化ポテンシャルを有し、且つホスト材料のイオン化ポテンシャルより大きいイオン化ポテンシャルを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ、液晶表示機用バックライト、照明用光源等に用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子(有機電界発光素子)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光色は発光層中に含まれる有機発光材料によって決定される。そして現在用いられる発光材料は、例えば青色、緑色、赤色など単色の発光材料であり、有機エレクトロルミネッセンス素子はこれらの色で発光することになる。しかし、例えば照明用光源などに有機エレクトロルミネッセンス素子を応用する場合、複数の発光色が含まれた光源とすることが好ましく、特に室内の主照明などに有機エレクトロルミネッセンス素子を応用する場合には、白色系発光の光源とすることが好ましい。
【0003】
ここで、白色系発光とは、可視光領域の波長の光をほぼ一通り含んでいるような発光であり、例えば水色と橙色など補色の関係にある2色の混色によって得ることが可能である。この場合、異なる発光色を呈する2つの発光層を積層することによって、白色系発光が得られる有機エレクトロルミネッセンス素子を形成することができる。そしてこのように2つの発光層を積層する場合、2つの発光層の間に発光を呈さない、電荷や励起子をブロックする非発光層を挿入することによって、発光特性が改善できることが報告されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−522276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1では、異なる発光色を呈する2つのリン光発光層間に、非発光層として正孔/励起子ブロック層を挿入することによって、発光色の調整を行なうようにしているが、特許文献1のこの構造では、非発光層を均一な膜厚で形成することが必要である。すなわち、2つの発光層の間に電荷をブロックする非発光層を挿入した構造の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光層と非発光層の界面に電荷が集中する一方で、一部の電荷が非発光層を通過して対向する電極へ(正孔が陰極へ、電子が陽極へ)と流れることによって、発光色が規定されるものであり、このとき、対向する電極へ流れる電荷の量は非発光層の膜厚で律速されるので、所定の発光色を得るために非発光層の膜厚を厳密に制御することが求められるのである。
【0006】
しかしながら、蒸着装置を用いて基板の表面に蒸着を行なう場合、基板の面内で蒸着膜厚に分布が生じるのが一般的である。従って、特に大きなマザー基板を用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を多数面取りする場合、マザー基板面内で蒸着膜厚が分布すると、多数面取りする各素子ごとに非発光層の膜厚が異なることになり、各素子の発光色が変化してしまうものであった。また蒸着装置に基板を順次流して、連続的に各基板に蒸着を行なって有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する場合においても、各基板ごとに蒸着膜厚をオングストロームオーダーで厳密に再現することは不可能であり、この場合も各基板に形成される素子の発光色が変化してしまうものであった。
【0007】
また、上記のように2つの発光層の間に電荷をブロックする非発光層を挿入した構造では、発光層と非発光層の界面に電荷が集中するため、発光層と非発光層の界面に電荷が蓄積して、この蓄積した電荷が発光層や非発光層を構成する材料の劣化を引き起こし、素子寿命を短くしてしまうおそれがあるという問題があった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、製造の歩留まりが高く、また素子寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極1と陰極2の間に、非発光層3を介して積層した2つの発光層4,5を備えて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子において、陰極2側の発光層5は、ホスト材料中に発光性ドーパントと、第二のドーパントが添加されたものであり、第二のドーパントは、発光性ドーパントの最大発光波長より短い最大発光波長を有すると共に発光性ドーパントのイオン化ポテンシャルより小さいイオン化ポテンシャルを有し、且つホスト材料のイオン化ポテンシャルより大きいイオン化ポテンシャルを有することを特徴とするものである。
【0010】
この発明によれば、陰極2側の発光層5に上記のような第二のドーパントをドープすることによって、非発光層3を通過して対向する電極へと流れる電荷の量をこの第二のドーパントでコントロールすることができるものであり、非発光層3の蒸着膜厚を厳密に制御する必要なく、発光色を均一にすることが可能になるものであって、目的とする発光色の有機エレクトロルミネッセンス素子を歩留まり高く得ることができるものである。また第二のドーパントが電荷の移動を補助するため、発光層5と非発光層3の界面に電荷が蓄積することを低減することができ、発光層5や非発光層3を構成する材料の劣化を抑制して素子寿命を長くすることができるものである。
【0011】
また請求項2の発明は、請求項1において、上記の第二のドーパントは、非発光層3を構成する主材料であることを特徴とするものである。
【0012】
このように、第二のドーパントとして非発光層3を構成する材料と同じものを用いることによって、非発光層3から発光層5への正孔電荷の移動がスムーズになり、歩留まりや素子寿命の効果をより高く得ることができるものである。
【0013】
また請求項3の発明の発明は、請求項1又は2において、上記の陰極2側の発光層5は、非発光層3側の濃度が高く、陰極2側の濃度が低くなるように傾斜した濃度分布で、ホスト材料に第二のドーパントが添加されたものであることを特徴とするものである。
【0014】
このように第二のドーパントを非発光層3側(すなわち陽極1側)が高く陰極2側が低くなるように濃度を傾斜させてドープすることによって、正孔電荷が陰極2側へ流れ過ぎることを防ぐことができ、正孔電荷による電子輸送材料の劣化を抑制して、素子を長寿命化することができるものである。
【0015】
本発明の請求項4に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極1と陰極2の間に、非発光層3を介して積層した2つの発光層4,5を備えて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子において、陽極1側の発光層4は、ホスト材料中に発光性ドーパントと、この発光性ドーパントの最大発光波長より短い最大発光波長を有し且つホスト材料の電子移動度より小さい電子移動度を有する第三のドーパントが添加されたものであることを特徴とするものである。
【0016】
この発明によれば、陽極1側の発光層4に上記のような第三のドーパントをドープすることによって、非発光層3を通過して対向する電極へと流れる電荷の量をこの第三のドーパントでコントロールすることができるものであり、非発光層3の蒸着膜厚を厳密に制御する必要なく、発光色を均一にすることが可能になるものであり、目的とする発光色の有機エレクトロルミネッセンス素子を歩留まり高く得ることができるものである。また第三のドーパントが電荷の移動を補助するため、発光層4と非発光層3の界面に電荷が蓄積することを低減することができ、発光層4や非発光層3を構成する材料の劣化を抑制して素子寿命を長くすることができるものである。
【0017】
また請求項5の発明は、請求項4において、上記の第三のドーパントは、非発光層3を構成する主材料であることを特徴とするものである。
【0018】
このように、第三のドーパントとして非発光層3を構成する材料と同じものを用いることによって、非発光層3から発光層4への電子電荷の移動がスムーズになり、歩留まりや素子寿命の効果をより高く得ることができるものである。
【0019】
また請求項6の発明は、請求項4又は5において、上記の第三のドーパントの電子親和力は、上記の発光性ドーパントの電子親和力より大きいことを特徴とするものである。
【0020】
この発明によれば、第三のドーパントの電子親和力が発光性ドーパントより小さい場合のような、第三のドーパントが電子電荷をトラップして高電圧化を引き起こして発光効率が低下することを防ぐことができるものである。
【0021】
また請求項7の発明は、請求項4乃至6のいずれかにおいて、上記の陽極1側の発光層4は、非発光層3側の濃度が高く、陽極1側の濃度が低くなるように傾斜した濃度分布で、ホスト材料に第三のドーパントが添加されたものであることを特徴とするものである。
【0022】
このように第三のドーパントを非発光層3側(すなわち陰極2側)が高く陽極1側が低くなるように濃度を傾斜させてドープすることによって、電子電荷が陽極1側へ流れ過ぎることを防ぐことができ、電子電荷による正孔輸送材料の劣化を抑制して、素子を長寿命化することができるものである。
【0023】
また請求項8の発明は、請求項1乃至7のいずれかにおいて、陽極1側の発光層4の最大発光波長が600〜650nmの範囲内であり、陰極2側の発光層5の最大発光波長が450〜490nmの範囲内であることを特徴とするものである。
【0024】
このように最大発光波長が600〜650nmである赤系の発光層4を陽極1側に、最大発光波長が450〜490nmである青系の発光層5を陰極2側に配置することによって、非発光層3の両側の発光層4,5をバランス良く光らせることができ、また発光サイトが局在し易くなって高効率化することができるものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明は上記のように、陰極2側の発光層5にドープした第二のドーパントによって、非発光層3を通過して対向する電極へと流れる電荷の量をコントロールすることができるものであり、非発光層3の蒸着膜厚を厳密に制御する必要なく、発光色を均一にすることが可能になるものであって、目的とする発光色の有機エレクトロルミネッセンス素子を歩留まり高く得ることができるものである。また第二のドーパントが電荷の移動を補助するため、発光層4,5と非発光層3の界面に電荷が蓄積することを低減することができ、発光層4,5や非発光層3を構成する材料の劣化を抑制して素子寿命を長くすることができるものである。
【0026】
また本発明は上記のように、陽極1側の発光層4にドープした第三のドーパントによって、非発光層3を通過して対向する電極へと流れる電荷の量をコントロールすることができるものであり、非発光層3の蒸着膜厚を厳密に制御することなく、発光色を均一にすることが可能になるものであって、目的とする発光色の有機エレクトロルミネッセンス素子を歩留まり高く得ることができるものである。また第三のドーパントが電荷の移動を補助するため、発光層4,5と非発光層3の界面に電荷が蓄積することを低減することができ、発光層4,5や非発光層3を構成する材料の劣化を抑制して素子寿命を長くすることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0029】
図1は本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の実施の形態の一例を示すものであり、基板10の上に陽極1、正孔輸送層6、有機発光層11、電子輸送層7、陰極2の順に積層した層構成に形成してある。そして、陽極1と陰極2の間に電圧を印加することによって、電子輸送層7を介して有機発光層11に注入された電子と、正孔輸送層6を介して有機発光層11に注入された正孔とが、有機発光層11内で再結合することによって発光が起こる。このように有機発光層11で発光した光は、陽極1を透明電極で形成し、基板10を透明基板で形成している場合、陽極1と基板10を通して取り出されるようになっている。
【0030】
本発明において上記の有機発光層11は、2つの発光層4,5を非発光層3を介して積層して形成されるものである。図1の実施の形態では、非発光層3を挟む2つの発光層4,5は、それぞれ単層で形成するようにしているが、発光層4,5を複数層に形成することもできる。
【0031】
発光層3,4はホスト材料中に発光性ドーパントを添加してドープすることによって形成されるが、請求項1の発明では、2つの発光層4,5のうち、陰極2側の発光層5を、この発光性ドーパントとともに第二の発光性のドーパントをさらに添加してドープすることによって形成するようにしてある。この第二のドーパントとしては、発光層5を形成するホスト材料のイオン化ポテンシャルより大きいイオン化ポテンシャルを有し、且つ発光性ドーパントの最大発光波長より短い最大発光波長を有すると共に発光性ドーパントのイオン化ポテンシャルより小さいイオン化ポテンシャルを有するものが用いられるものである。
【0032】
第二のドーパントとホスト材料のイオン化ポテンシャルの差は、特に限定されるものではないが、0.5eV未満であることが好ましい。すなわち、第二のドーパントのイオン化ポテンシャルを(IP-dopant2)、ホスト材料のイオン化ポテンシャルを(IP-host)とすると、
0eV<(IP-dopant2)−(IP-host)<0.5eV
であることが好ましい。
【0033】
また本発明において第二のドーパントや発光性ドーパントの最大発光波長はPL法(photo luminescence法)で測定した値であり、第二のドーパントや発光性ドーパントの最大発光波長の差は、特に限定されるものではないが、20nm未満であることが好ましい。すなわち、第二のドーパントの最大発光波長を(λ-dopant2)、発光性ドーパントの最大発光波長を(λ-EML)とすると,
0nm<(λ-EML)−(λ-dopant2)<20nm
であることが好ましい。
【0034】
さらに、第二のドーパントのイオン化ポテンシャルと、発光性ドーパントのイオン化ポテンシャルの差は、特に限定されるものではないが、0.1〜0.5eVの範囲であることが好ましい。
【0035】
ここで、発光層4,5を形成するホスト材料としては、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)やトリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体(Alq3)、CBP(4,4’−N,N’−dicarbazole−biphenyl)やTAZ(1,2,4−トリアゾール誘導体)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
また発光層4,5のホスト材料に添加する発光性ドーパントとしては、公知の任意の化合物を挙げることができる。例えば、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ピラン、キナクリドン、ルブレン、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、および、これらの発光性化合物を分子内に有する化合物を挙げることができるが、これに限定されるものではない。また、これらの化合物に代表される蛍光色素由来の化合物のみならず、三重項状態からの燐光発光が可能な有機金属錯体、すなわちいわゆる燐光発光材料・三重項発光材料およびそれらからなる基を分子内の一部分に有する化合物も好適に用いることができる。
【0037】
そして上記の条件を満たす第二のドーパントとしては、例えば、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)などを代表例とするアリールアミン系化合物や、トリフェニレン誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
また非発光層3は、正孔電荷や電子電荷をブロックしてこれらの電荷が通過することを抑制する作用を有するものであり、この非発光層3を形成する材料としては、上記の第二のドーパントとして用いる材料と同じものを用いるのが好ましい。
【0039】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する他の部材である、積層された素子を保持する基板10、陽極1、陰極2、正孔輸送層6、電子輸送層7等には、従来から使用されているものをそのまま使用することができる。
【0040】
すなわち、基板10は、この基板10を通して光が出射される場合には光透過性を有するものであり、無色透明の他に、多少着色されているものであっても、すりガラス状のものであってもよい。例えば、ソーダライムガラスや無アルカリガラスなどの透明ガラス板や、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、エポキシ等の樹脂、フッ素系樹脂等から任意の方法によって作製されたプラスチックフィルムやプラスチック板などを用いることができる。またさらに、基板10内に基板母剤と屈折率の異なる粒子、粉体、泡等を含有し、あるいは表面に形状を付与することによって、光拡散効果を有するものも使用可能である。また、基板10を通さずに光を射出させる場合、基板10は必ずしも光透過性を有するものでなくてもかまわず、素子の発光特性、寿命特性等を損なわない限り、任意の基板10を使うことができる。特に、通電時の素子の発熱による温度上昇を軽減するために、熱伝導性の高い基板10を使うこともできる。
【0041】
陽極1は、有機発光層11中に正孔を注入するための電極であり、仕事関数の大きい金属、合金、電気伝導性化合物、あるいはこれらの混合物からなる電極材料を用いることが好ましく、仕事関数が4eV以上のものを用いるのがよい。このような陽極1の材料としては、例えば、金などの金属、CuI、ITO(インジウム−スズ酸化物)、SnO、ZnO、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)等、PEDOT、ポリアニリン等の導電性高分子及び任意のアクセプタ等でドープした導電性高分子、カーボンナノチューブなどの導電性光透過性材料を挙げることができる。陽極1は、例えば、これらの電極材料を基板10の表面に真空蒸着法やスパッタリング法、塗布等の方法により薄膜に形成することによって作製することができる。また、有機発光層11における発光を陽極1を透過させて外部に照射するためには、陽極1の光透過率を70%以上にすることが好ましい。さらに、陽極1のシート抵抗は数百Ω/□以下とすることが好ましく、特に好ましくは100Ω/□以下とするものである。ここで、陽極1の膜厚は、光透過率、シート抵抗等の特性を上記のように制御するために、材料により異なるが、500nm以下、好ましくは10〜200nmの範囲に設定するのがよい。
【0042】
また陰極2は、有機発光層11中に電子を注入するための電極であり、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物からなる電極材料を用いることが好ましく、仕事関数が5eV以下のものであることが好ましい。このような陰極2の材料としては、アルカリ金属、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属等、およびこれらと他の金属との合金、例えばナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウム、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金、Al/LiF混合物を例として挙げることができる。またアルミニウム、Al/Al混合物なども使用可能である。さらに、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、あるいは金属酸化物を陰極2の下地として用い、さらに金属等の導電材料を1層以上積層して用いてもよい。例えば、アルカリ金属/Alの積層、アルカリ金属のハロゲン化物/アルカリ土類金属/Alの積層、アルカリ金属の酸化物/Alの積層などが例として挙げられる。また、ITO、IZOなどに代表される透明電極を用い、陰極2側から光を取りだす構成としても良い。また陰極2の界面の有機物層にリチウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属をドープしても良い。
【0043】
陰極2は、例えば、これらの電極材料を真空蒸着法やスパッタリング法等の方法により、薄膜に形成することによって作製することができる。有機発光層11における発光を陽極1側から取り出す場合には、陰極2の光透過率を10%以下にして高反射性にすることが好ましい。また反対に、陰極2側から発光を取り出す場合(陽極1と陰極2の両方から光を取り出す場合も含む)には、陰極2の光透過率を70%以上にすることが好ましい。この場合の陰極2の膜厚は、陰極2の光透過率等の特性を制御するために、材料により異なるが、通常500nm以下、好ましくは100〜200nmの範囲とするのがよい。
【0044】
さらに、正孔輸送層6に用いる材料は、例えば正孔輸送性を有する化合物の群から選定することができる。この種の化合物としては、例えば、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、2−TNATA、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)、スピロ−NPD、スピロ−TPD、スピロ−TAD、TNBなどを代表例とする、アリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物、フルオレン誘導体を含むアミン化合物などを挙げることができるが、一般に知られる任意の正孔輸送材料を用いることが可能である。
【0045】
また電子輸送層8に用いる材料は、電子輸送性を有する化合物の群から選定することができる。この種の化合物としては、Alq等の電子輸送性材料として知られる金属錯体や、フェナントロリン誘導体、ピリジン誘導体、テトラジン誘導体、オキサジアゾール誘導体等のヘテロ環を有する化合物などが挙げられるが、この限りではなく、一般に知られる任意の電子輸送材料を用いることが可能である。
【0046】
有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する上記の各層は、蒸着装置を用いて、基板10の上に順次蒸着することによって形成することができるものである。そして各層の膜厚は特に限定されるものではないが、発光層4,5の膜厚はそれぞれ1〜40nm程度、非発光層3の膜厚は1〜5nm程度が好ましく、また正孔輸送層6の膜厚は10〜100nm程度、電子輸送層7の膜厚は10〜80nm程度が好ましい。
【0047】
また発光層4,5において、ホスト材料への発光性ドーパントの添加割合は、0.5〜30質量%の範囲であることが好ましく、発光層5においてホスト材料への第二のドーパントの添加割合は、5〜20質量%の範囲であることが好ましい。
【0048】
上記のように形成される有機エレクトロルミネッセンス素子にあって、二つの発光層4,5の間に電荷をブロックする非発光層3を介在させているため、電荷は各発光層4,5と非発光層3の界面に集中するものであり、正孔と電子の結合の効率を高めて、発光効率を高めることができるものである。
【0049】
そして請求項1の発明において、陰極2側の発光層5は、ホスト材料中に発光性ドーパントを添加すると共に、この発光性ドーパントの最大発光波長より短い最大発光波長を有し且つホスト材料のイオン化ポテンシャルより大きいイオン化ポテンシャルを有する第二のドーパントをも添加して形成されているので、非発光層3を通過して対向する電極1,2へと流れる電荷の量をこの第二のドーパントでコントロールすることができるものである。
【0050】
すなわち、正孔や電子の電荷は非発光層3と陰極2側の発光層5の界面に集中することになり、発光領域はこの界面を中心として両側へ一定の拡がりがあるが、陰極2側の発光層5に第二のドーパントが添加されていない場合、拡がり幅は狭いものとなる。そしてこの拡がりかたは非発光層3の膜厚に敏感に影響されるため、非発光層3の膜厚は厳密に制御する必要がある。これに対して、陰極2側の発光層5に第二のドーパントを添加すると、非発光層3と陰極2側の発光層5の界面部が発光中心であることに変りはないが、正孔電荷が陰極2側の発光層5へ入り易くなるため、発光領域が大きく広がることになり、その一方で、非発光層3と陰極2側の発光層5の界面への電荷の集中は低減されることになる。そしてこの結果、非発光層3の膜厚の厳密性は低減されるものである。
【0051】
従って、非発光層3を蒸着で形成するにあたって、非発光層3の蒸着膜厚が厳密に制御されていなくとも、発光層4,5の発光色を均一にすることが可能になるものであり、目的とする発光色の有機エレクトロルミネッセンス素子を歩留まり高く得ることができるものである。また発光層5に添加した第二のドーパントが電荷の移動を補助するため、発光層4,5と非発光層3の界面に電荷が蓄積することを低減することができるものであり、蓄積する電荷で発光層4,5や非発光層3を構成する材料の劣化を抑制することができ、有機エレクトロルミネッセンス素子の素子寿命を長くすることができるものである。
【0052】
ここで、発光層5にドープする第二のドーパントとして、非発光層3を構成する材料と同じものを用いることによって、非発光層3から発光層5への正孔電荷の移動がスムーズになる。このため、非発光層3を通過して対向する電極1,2へと流れる電荷の量を第二のドーパントでコントロールすることが容易になり、上記の歩留まりや素子寿命の効果をより高く得ることができるものである。
【0053】
また上記のように第二のドーパントのイオン化ポテンシャルは、発光性ドーパントのイオン化ポテンシャルより小さい。第二のドーパントのイオン化ポテンシャルが発光性ドーパントのイオン化ポテンシャルより大きい場合、第二のドーパントが正孔電荷をトラップしてしまい、高電圧化を引き起こして発光効率が低下するおそれがあるが、第二のドーパントのイオン化ポテンシャルが発光性ドーパントのイオン化ポテンシャルより小さいことによって、正孔電荷のトラップによる高電圧化を防ぐことができるものである。
【0054】
ここで上記のように発光層5を蒸着で形成する場合、ホスト材料と、発光性ドーパントと、第二のドーパントを共蒸着することによって、ホスト材料に発光性ドーパントと第二のドーパントをドープした状態で発光層5を形成することができる。そしてホスト材料に対する発光性ドーパントと第二のドーパントの共蒸着量を調整することによって、ホスト材料に対する発光性ドーパントや第二のドーパントの添加割合を任意に制御することができるものである。
【0055】
また、このようにホスト材料と、発光性ドーパントと、第二のドーパントを共蒸着して発光層5を形成するにあたって、蒸着の開始から終了まで、ホスト材料に対する発光性ドーパントや第二のドーパントの共蒸着割合を一定にすることによって、ホスト材料に発光性ドーパントや第二のドーパントを均一に分散させた状態でドープすることができる。一方、例えば、非発光層3の上に発光層5を蒸着して形成する場合、蒸着の開始時点では、ホスト材料に対する第二のドーパントの共蒸着割合を高くしておき、そして徐々に、ホスト材料に対する第二のドーパントの共蒸着割合を下げて、蒸着の終了時点では、ホスト材料に対する第二のドーパントの共蒸着割合を最も低くすることによって、非発光層3側の濃度が高く、陰極2側の濃度が低くなるように傾斜した濃度分布で、ホスト材料に第二のドーパントをドープした発光層5を形成することができるものである。
【0056】
このように発光層5において、第二のドーパントを非発光層3側、すなわち陽極1側が高く陰極2側が低くなるように濃度を傾斜させてドープすることによって、正孔電荷が陰極2側へ流れ過ぎることを防ぐことができるものであり、正孔電荷による電子輸送材料の劣化を抑制することができるものである。従ってこれにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の素子を長寿命化することができるものである。
【0057】
次に、請求項4の発明について説明する。請求項4の発明では、2つの発光層4,5のうち、陽極1側の発光層4を、発光性ドーパントとともに第三の発光性のドーパントをさらに添加してドープすることによって形成するようにしてある。この第三のドーパントとしては、発光層4を形成するホスト材料の電子移動度より小さい電子移動度を有し、且つ発光層4に添加される発光性ドーパントの最大発光波長より短い最大発光波長を有するものが用いられるものである。
【0058】
第三のドーパントとホスト材料の電子移動度の差は、特に限定されるものではないが、ホスト材料の電子移動度が第三のドーパントの電子移動度の5倍を超える程度の差を有することが好ましい。すなわち、第三のドーパントの電子移動度を(μ-dopant3)、ホスト材料の電子移動度を(μ-host)とすると、
5<(μ-host)/(μ-dopant3)
であることが好ましい。上限値は特に設定されるものではないが、敢えて設定するとすれば10程度であり、(μ-host)/(μ-dopant3)<10である。
【0059】
また第三のドーパントと発光性ドーパントの最大発光波長の差は、特に限定されるものではないが、20nm未満であることが好ましい。すなわち、第三のドーパントの最大発光波長を(λ-dopant3)、発光性ドーパントの最大発光波長を(λ-EML)とすると,
0nm<(λ-EML)−(λ-dopant3)<20nm
であることが好ましい。
【0060】
さらに、第三のドーパントの電子親和力(エレクトロアンフィニティー)のレベルは、発光性ドーパントの電子親和力のレベルより小さいことが好ましい。第三のドーパントと発光性ドーパントの電子親和力の差は、特に限定されるものではないが、0.1〜0.5eVの範囲であることが好ましい。
【0061】
ここで、発光層4,5を形成するホスト材料、発光層4,5のホスト材料に添加する発光性ドーパント、さらに正孔輸送層6や電子輸送層7を形成する材料としては、上記のものを用いることができる。
【0062】
そして上記の条件を満たす第三のドーパントとしては、オキサジアゾール誘導体やトリアジン誘導体、トリアゾール誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
また非発光層3は、正孔電荷や電子電荷をブロックしてこれらの電荷が通過することを抑制する作用を有するものであり、この非発光層3を形成する材料としては、上記の第三のドーパントとして用いる材料と同じものを用いるのが好ましい。
【0064】
有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する上記の各層の膜厚は、上記と同様に、発光層4,5はそれぞれ1〜40nm程度、非発光層3は1〜5nm程度が好ましく、また正孔輸送層6は10〜100nm程度、電子輸送層7は10〜80nm程度が好ましい。また発光層4,5において、ホスト材料への発光性ドーパントの添加割合は、0.5〜30質量%の範囲であることが好ましく、発光層4において、ホスト材料への第三のドーパントの添加割合は、5〜20質量%の範囲であることが好ましい。
【0065】
上記のように形成される有機エレクトロルミネッセンス素子にあって、請求項4の発明では、陽極1側の発光層4は、ホスト材料中に発光性ドーパントを添加すると共に、この発光性ドーパントの最大発光波長より短い最大発光波長を有し且つホスト材料の電子移動度より小さい電子移動度を有する第三のドーパントをも添加して形成されているので、非発光層3を通過して対向する電極1,2へと流れる電荷の量をこの第三のドーパントでコントロールすることができるものである。
【0066】
すなわち、正孔や電子の電荷は非発光層3と陽極1側の発光層4の界面に集中することになり、発光領域はこの界面を中心として両側へ一定の拡がりがあるが、陽極1側の発光層4に第二のドーパントが添加されていない場合、拡がり幅は狭いものとなる。そしてこの拡がりかたは非発光層3の膜厚に敏感に影響されるため、非発光層3の膜厚は厳密に制御する必要がある。これに対して、陽極1側の発光層4に第二のドーパントを添加すると、非発光層3と陽極1側の発光層4の界面部が発光中心であることに変りはないが、電子電荷が陽極1側の発光層4へ入り易くなるため、発光領域が大きく広がることになり、その一方で、非発光層3と陽極1側の発光層4の界面への電荷の集中は低減されることになる。そしてこの結果、非発光層3の膜厚の厳密性は低減されるものである。
【0067】
従って、非発光層3を蒸着で形成するにあたって、非発光層3の蒸着膜厚が厳密に制御されていなくとも、発光層4,5の発光色を均一にすることが可能になるものであり、目的とする発光色の有機エレクトロルミネッセンス素子を歩留まり高く得ることができるものである。また発光層4に添加した第三のドーパントが電荷の移動を補助するため、発光層4,5と非発光層3の界面に電荷が蓄積することを低減することができるものであり、蓄積する電荷で発光層4,5や非発光層3を構成する材料の劣化を抑制することができ、有機エレクトロルミネッセンス素子の素子寿命を長くすることができるものである。
【0068】
ここで、発光層4にドープする第三のドーパントとして、非発光層3を構成する材料と同じものを用いることによって、非発光層3から発光層4への電子電荷の移動がスムーズになる。このため、非発光層3を通過して対向する電極1,2へと流れる電荷の量を第三のドーパントでコントロールすることが容易になり、上記の歩留まりや素子寿命の効果をより高く得ることができるものである。
【0069】
また上記のように第三のドーパントの電子親和力が、発光性ドーパントの電子親和力より大きいことが好ましい。第三のドーパントの電子親和力が発光性ドーパントの電子親和力より小さい場合、第三のドーパントが電子電荷をトラップしてしまい、高電圧化を引き起こして発光効率が低下するおそれがあるが、第三のドーパントの電子親和力が発光性ドーパントの電子親和力より大きいことによって、電子電荷のトラップによる高電圧化を防ぐことができるものである。
【0070】
ここで上記のように発光層4を蒸着で形成する場合、ホスト材料と、発光性ドーパントと、第三のドーパントを共蒸着することによって、ホスト材料に発光性ドーパントと第三のドーパントをドープした状態で発光層4を形成することができる。そしてホスト材料に対する発光性ドーパントと第三のドーパントの共蒸着量を調整することによって、ホスト材料に対する発光性ドーパントや第二のドーパントの添加割合を任意に制御することができるものである。
【0071】
また、このようにホスト材料と、発光性ドーパントと、第三のドーパントを共蒸着して発光層4を形成するにあたって、蒸着の開始から終了まで、ホスト材料に対する発光性ドーパントや第三のドーパントの共蒸着割合を一定にすることによって、ホスト材料に発光性ドーパントや第三のドーパントを均一に分散させた状態でドープすることができる。一方、例えば、発光層4を蒸着した後にこの上に非発光層3を形成する場合、蒸着の開始時点では、ホスト材料に対する第三のドーパントの共蒸着割合を低くしておき、そして徐々に、ホスト材料に対する第三のドーパントの共蒸着割合を上げて、蒸着の終了時点では、ホスト材料に対する第三のドーパントの共蒸着割合を最も高くすることによって、非発光層3側の濃度が高く、陽極1側の濃度が低くなるように傾斜した濃度分布で、ホスト材料に第三のドーパントをドープした発光層4を形成することができるものである。
【0072】
このように発光層4において、第三のドーパントを非発光層3側、すなわち陰極2側が高く陽極1側が低くなるように濃度を傾斜させてドープすることによって、電子電荷が陽極1側へ流れ過ぎることを防ぐことができるものであり、電子電荷による正孔輸送材料の劣化を抑制することができるものである。従ってこれにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の素子を長寿命化することができるものである。
【0073】
上記のように非発光層3を介して2つの発光層4,5を形成するにあたって、発光層4,5は異なる色で発光するものとして形成されるものである。ここで、発光ホスト材料のエネルギーレベル・エネルギーギャップは発光色と相関があり、青系発光ホスト材料のほうが赤系発光ホスト材料よりもエネルギーギャップが大きく、イオン化ポテンシャルは小さい(電子親和力は同程度)。このため陽極1側の発光層4を赤系に、陰極2側の発光層5を青系にすることによって、発光サイトは非発光層3を中心として両発光層4,5へ広がることになり、両側の発光層4,5をバランスよく光らせることが可能になり、且つ発光サイトが局在し易くなって、発光効率が向上する。そこで本発明では、陽極1側の発光層4の最大発光波長を600〜650nmの範囲内に設定して赤系発光にし、陰極2側の発光層5の最大発光波長を450〜490nmの範囲内に設定して青系発光にするのが好ましい。
【実施例】
【0074】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0075】
基板サイズ200mm×200mm×厚み0.7mmのマザーガラス基板を用い、この基板の表面に、実施例1〜5及び比較例1〜5の方法で蒸着して成膜することによって、40mm×40mmサイズの有機エレクトロルミネッセンス素子を3個×3列の配置で合計9個、マザーガラス基板の上に作製した。各素子の発光面積は30mm×30mmとなるように設計されている。そして10枚のマザーガラス基板を蒸着装置に連続して送ることによって、各マザーガラス基板にこのような9個の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製する作業を行なった。
【0076】
1枚目のマザーガラス基板の中央部に作製した有機エレクトロルミネッセンス素子を基準の素子として、10mA/cmの電流を通電して発光させたときのCIE−x,y値(色度)を求めた。そして10枚のマザーガラス基板上に作製した他の有機エレクトロルミネッセンス素子を同様に発光させて色度を求め、基準素子との色度のズレ量が0.02以下の場合を合格、0.02を超える場合を不合格として、歩留まり率を算出した。結果を表1に示す。
【0077】
尚、各実施例及び比較例で使用した材料の化学構造式を次に示す。
【0078】
【化1】

(実施例1)
陽極1として厚み150nmのITO膜が成膜されたマザーガラス基板10を、洗剤、イオン交換水、アセトンで各10分間超音波洗浄した後、IPA(イソプロピルアルコール)で蒸気洗浄して乾燥し、さらにUV/O処理を施した。
【0079】
次に、この基板10を真空蒸着装置にセットし、1×10−4Pa以下の減圧雰囲気下で、陽極1の上にNPDを40nmの膜厚で蒸着して正孔輸送層6を形成した。
【0080】
次いで、この正孔輸送層6の上に、ホスト材料としてNPDを、発光性ドーパントとしてDCM2を、100:5の質量比率で共蒸着することによって、膜厚20nmの発光層4を形成した。
【0081】
次にこの発光層4の上に、NPDを5nmの膜厚で蒸着して非発光層3を形成した。
【0082】
次いで、この非発光層3の上に、ホスト材料としてDPvBiを、発光性ドーパントとしてBCzVBiを、第二のドーパントとしてNPDを、100:5:5の質量比率で共蒸着することによって、膜厚30nmの発光層5を形成した。
【0083】
次にこの発光層5の上に、Alq3を30nmの膜厚で蒸着して電子輸送層7を形成した。
【0084】
この後に、電子輸送層7の上にLiFを1nmの膜厚で、さらにAlを80nmの膜厚で蒸着することによって陰極2を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。尚、この有機エレクトロルミネッセンス素子において、陽極1側の発光層4はDCM2により645nmの最大発光波長で発光し、陰極2側の発光層5はBCzVBiにより470nmの最大発光波長で発光するものであった。
【0085】
(実施例2)
非発光層3の上に、ホスト材料としてDPvBiを、発光性ドーパントとしてBCzVBiを、第二のドーパントとしてHMTPDを、100:5:5の質量比率で共蒸着することによって、膜厚30nmの発光層5を形成した。
【0086】
その他は、実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0087】
(実施例3)
非発光層3の上に、ホスト材料としてDPvBiを、発光性ドーパントとしてBCzVBiを、第二のドーパントとしてNPDを、共蒸着することによって、膜厚30nmの発光層5を形成するにあたって、DPvBiとBCzVBiとNPDの質量比率が蒸着開始時点では100:5:10、蒸着終了時点では100:5:5となるように、DPvBiに対するNPDの共蒸着比率を、蒸着開始から蒸着終了まで徐々に低く変化させることによって、発光層5の非発光層3との境界界面でNPDのドーパント濃度が10質量%、発光層5の電子輸送層8との境界界面でNPDのドーパント濃度が5質量%となるよう、濃度勾配を付けるようにした。
【0088】
その他は、実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0089】
(比較例1)
非発光層3の上に、ホスト材料としてDPvBiを、発光性ドーパントとしてBCzVBiを、100:5の質量比率で共蒸着することによって、膜厚30nmの発光層5を形成した。
【0090】
その他は、実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0091】
(比較例2)
非発光層3の上に、ホスト材料としてDPvBiを、発光性ドーパントとしてBCzVBiを、第二のドーパントとしてrubreneを、100:5:5の質量比率で共蒸着することによって、膜厚30nmの発光層5を形成した。
【0092】
その他は、実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0093】
(比較例3)
非発光層3の上に、ホスト材料としてDPvBiを、発光性ドーパントとしてBCzVBiを、第二のドーパントとしてTPTEを、100:5:5の質量比率で共蒸着することによって、膜厚30nmの発光層5を形成した。
【0094】
その他は、実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0095】
上記の実施例1〜3及び比較例1〜3で作製した有機エレクトロルミネッセンス素子について、電力効率と素子寿命を測定した。電力効率の測定は、有機エレクトロルミネッセンス素子を電源(KEYTHLEY2400)に接続し、電流密度10mA/cmの定電流を通電して、積分球(ラブスフェア社製SLMS−CDS)を用いて行ない、実施例1を1.0としたときの相対値で評価して表1に示した。また同じ電流密度で連続発光させたときの輝度を輝度計(ミノルタ社製「LS−110」)で評価し、輝度が半減する半減寿命を素子寿命とし、実施例1を1.0としたときの相対値を表1に示した。
【0096】
【表1】

表1にみられるように、実施例1〜3のものは、歩留まり高く製造することができ、また長寿命な素子寿命が得られることが確認され、さらに高い効率を維持することも確認された。
【0097】
一方、発光層5に第二のドーパントを添加しない比較例1、第二のドーパントとして、最大発光波長が発光性ドーパントより長く、イオン化ポテンシャルが発光性ドーパントと同じものを用いた比較例2、第二のドーパントとしてイオン化ポテンシャルが発光性ドーパントより小さいものを用いた比較例3は、歩留まりが低く、また素子寿命が短く、さらに効率も低いものであった。
【0098】
(実施例4)
陽極1として厚み150nmのITO膜が成膜されたマザーガラス基板10を、洗剤、イオン交換水、アセトンで各10分間超音波洗浄した後、IPA(イソプロピルアルコール)で蒸気洗浄して乾燥し、さらにUV/O処理を施した。
【0099】
次に、この基板10を真空蒸着装置にセットし、1×10−4Pa以下の減圧雰囲気下で、陽極1の上にNPDを40nmの膜厚で蒸着して正孔輸送層6を形成した。
【0100】
次いで、この正孔輸送層6の上に、ホスト材料としてAlq3を、発光性ドーパントとしてDCM1を、第三のドーパントとしてTBADNを、100:5:7の質量比率で共蒸着することによって、膜厚20nmの発光層4を形成した。
【0101】
次にこの発光層4の上に、TBADNを5nmの膜厚で蒸着して非発光層3を形成した。
【0102】
次いで、この非発光層3の上に、ホスト材料としてTBADNを、発光性ドーパントとしてBCzVBiを、100:5の質量比率で共蒸着することによって、膜厚30nmの発光層5を形成した。
【0103】
次にこの発光層5の上に、Alq3を30nmの膜厚で蒸着して電子輸送層7を形成した。
【0104】
この後に、電子輸送層7の上にLiFを1nmの膜厚で、さらにAlを80nmの膜厚で蒸着することによって陰極2を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0105】
(実施例5)
正孔輸送層6の上に、ホスト材料としてAlq3を、発光性ドーパントとしてDCM1を、第三のドーパントとしてTBADNを、共蒸着することによって、膜厚20nmの発光層4を形成するにあたって、Alq3とDCM1とTBADNの質量比率が蒸着開始時点では100:5:5、蒸着終了時点では100:5:10となるように、Alq3に対するTBADNの共蒸着比率を、蒸着開始から蒸着終了まで徐々に高くなるように変化させることによって、発光層4の非発光層3との境界界面でTBADNのドーパント濃度が10質量%、発光層4の正孔輸送層6との境界界面でTBADNのドーパント濃度が5質量%となるよう、濃度勾配を付けるようにした。
【0106】
その他は、実施例4と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0107】
(比較例4)
正孔輸送層6の上に、ホスト材料としてAlq3を、発光性ドーパントとしてDCM1を、100:5の質量比率で共蒸着することによって、膜厚20nmの発光層4を形成した。
【0108】
その他は、実施例4と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0109】
(比較例5)
正孔輸送層6の上に、ホスト材料としてAlq3を、発光性ドーパントとしてDCM1を、第三のドーパントとしてBPhen、100:5:7の質量比率で共蒸着することによって、膜厚20nmの発光層4を形成した。
【0110】
その他は、実施例4と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0111】
上記の実施例4〜5及び比較例4〜5で作製した有機エレクトロルミネッセンス素子について、電力効率と素子寿命を上記と同様にして測定し、表2に示した。
【0112】
【表2】

表2にみられるように、実施例4〜5のものは、歩留まり高く製造することができ、また長寿命な素子寿命が得られることが確認され、さらに高い効率を維持することも確認された。
【0113】
一方、発光層4に第三のドーパントを添加しない比較例3、第三のドーパントとして電子移動度が発光性ドーパントより小さいものを用いた比較例4は、歩留まりが低く、また素子寿命が短く、さらに効率も低いものであった。
【符号の説明】
【0114】
1 陽極
2 陰極
3 非発光層
4 発光層
5 発光層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極の間に、非発光層を介して積層した2つの発光層を備えて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子において、陰極側の発光層は、ホスト材料中に発光性ドーパントと、第二のドーパントが添加されたものであり、第二のドーパントは、発光性ドーパントの最大発光波長より短い最大発光波長を有すると共に発光性ドーパントのイオン化ポテンシャルより小さいイオン化ポテンシャルを有し、且つホスト材料のイオン化ポテンシャルより大きいイオン化ポテンシャルを有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
上記の第二のドーパントは、非発光層を構成する主材料であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
上記の陰極側の発光層は、非発光層側の濃度が高く、陰極側の濃度が低くなるように傾斜した濃度分布で、ホスト材料に第二のドーパントが添加されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
陽極と陰極の間に、非発光層を介して積層した2つの発光層を備えて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子において、陽極側の発光層は、ホスト材料中に発光性ドーパントと、この発光性ドーパントの最大発光波長より短い最大発光波長を有し且つホスト材料の電子移動度より小さい電子移動度を有する第三のドーパントが添加されたものであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
上記の第三のドーパントは、非発光層を構成する主材料であることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
上記の第三のドーパントの電子親和力は、上記の発光性ドーパントの電子親和力より大きいことを特徴とする請求項4又は5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
上記の陽極側の発光層は、非発光層側の濃度が高く、陽極側の濃度が低くなるように傾斜した濃度分布で、ホスト材料に第三のドーパントが添加されたものであることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
陽極側の発光層の最大発光波長が600〜650nmの範囲内であり、陰極側の発光層の最大発光波長が450〜490nmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−28955(P2011−28955A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172422(P2009−172422)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】