説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】本発明は、確実に低電圧で駆動でき、発光効率が高く、劣化の少ない有機エレクトロルミネッセンス素子及びこれを用いた表示装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層は、金属錯体からなるホスト材料と、燐光材料からなるゲスト材料のみからなり、
前記ホスト材料が発光する励起状態のエネルギーが、前記ゲスト材料の一重項励起状態のエネルギーよりも高いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関し、特に、一対の電極間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、対向した電極間に2成分以上の材料で構成された発光層を有する有機発光素子において、発光層の主構成材料が金属錯体であり、かつ副構成材料が燐光発光性発光材料である発光素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかる特許文献1では、燐光発光材料を用いた発光素子において、低電圧駆動が可能で、発光劣化が少ない高効率な発光素子を得ることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO 2005/112520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、副構成材料の燐光発光性発光材料の含有率は6重量%とされており、一般的なレベルの混合比率で燐光発光性発光材料を含んでいる。
【0006】
燐光発光性発光材料を含む有機発光素子においては、発光層中でゲスト材料(副構成材料)が直接電荷をトラップし、再結合することにより発光する。従って、素子内の電荷移動に対してゲスト材料が妨げとなり、ゲスト濃度の増加に伴い駆動電圧が上昇する。一方、ゲスト濃度が低いと、ホスト−ゲスト間の効率的なエネルギー移動が発生しないため、高い発光効率が得られない。よって、通常の燐光発光性発光材料の最適なゲスト濃度は、6−10重量%程度とされている。
【0007】
上述の特許文献1に記載の有機発光素子においても、ゲスト濃度は6重量%であり、よって、素子の構成次第では通常素子と同程度の駆動電圧となり、駆動電圧を十分に低くすることができない場合があるという問題があった。また、ゲスト濃度を6重量%未満とすると、駆動電圧を低くできる可能性があるが、今度は高い発光効率を得ることができないおそれがあるという問題があった。
【0008】
更に、特許文献1に記載の有機発光素子においては、赤色素子以外の素子については考慮されておらず、各色を表示できる構成が不明であるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、発光効率が高く、確実に低電圧で駆動でき、各色を表示できる有機エレクトロルミネッセンス素子及びこれを用いた表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層は、金属錯体からなるホスト材料と、燐光材料からなるゲスト材料のみからなり、
前記ホスト材料が発光する励起状態のエネルギーが、前記ゲスト材料の一重項励起状態のエネルギーよりも高いことを特徴とする。
【0011】
これにより、電流励起により生成されたホスト材料の励起状態のエネルギーが効率的にゲスト材料に移動し、高い発光効率を得ることができる。
【0012】
また、前記ホスト材料は燐光材料からなり、
前記励起状態のエネルギーは、三重項励起状態のエネルギーであることを特徴とする。
【0013】
これにより、ホスト材料に燐光材料を用いた場合においても、ゲスト材料へのエネルギー移動を効率よく行い、発光効率を高めることができる。
【0014】
また、前記ホスト材料は、イリジウム錯体であることを特徴とする。
【0015】
これにより、一般的に用いられている燐光材料を利用しつつ、高効率発光を実現することができる。
【0016】
また、前記ホスト材料は蛍光材料からなり、
前記励起状態のエネルギーは、一重項励起状態のエネルギーであることを特徴とする。
【0017】
これにより、高価とされる燐光材料以外の材料をホストとして使用することが可能となり、低コスト化を図ることができる。
【0018】
また、前記ホスト材料は、ベリリウム錯体又は亜鉛錯体であることを特徴とする。
【0019】
また、前記ゲスト材料の混合比率が、1重量%以上6重量%未満であることを特徴とする。
【0020】
これにより、発光層に含まれるゲスト材料の混合比を低下させることにより、低コスト化を図ることができるとともに、ゲスト材料が電荷のトラップになることを抑制し、低電圧化が期待できる。
【0021】
前記ゲスト材料の発光波長は、前記ホスト材料の発光波長よりも長いことを特徴とする。
【0022】
これにより、所望の発光色で発光を行うことができ、カラー発光を行うことが可能となる。
【0023】
本発明の他の態様に係る表示装置は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた表示パネルと、
該表示パネルを駆動する駆動回路と、を有することを特徴とする。
【0024】
これにより、低電圧駆動が可能であり、発光効率が高く、寿命の長い表示装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、有機エレクトロルミネッセンス素子及びこれを用いた表示装置の発光効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子の一例を示した断面構成図である。
【図2】実施例1〜5及び比較例1〜3に係る有機EL素子の特性を示した表である。
【図3】実施例1〜3及び比較例1に係る有機EL素子のホスト材料の発光スペクトルを示した図である。
【図4】実施例1〜3及び比較例1に係る有機EL素子の発光機構を示した図である。図4(A)は、実施例2に係る有機EL素子の発光層のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。図4(B)は、実施例3に係る有機EL素子のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。図4(C)は、実施例1に係る有機EL素子のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。図4(D)は、比較例1に係る有機EL素子のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。
【図5】実施例1〜5及び比較例1に係る有機EL素子の発光層のゲスト材料の吸収スペクトル及びホスト材料の発光スペクトルを示した図である。
【図6】比較例2、3に係る有機EL素子の測定結果である。図6(A)は、比較例2、3に係る有機EL素子の電圧−輝度特性を示した図であり、図6(B)は、比較例2、3に係る有機EL素子の電圧−電流密度特性を示した図である。また、図6(C)は、比較例2、3に係る有機EL素子の電流密度−外部量子効率特性を示した図であり、図6(D)は、比較例2、3に係る有機EL素子の電流密度−電力効率特性を示した図である。
【図7】比較例1、2に係る有機EL素子の波長−エレクトロルミネセンス強度特性を示した図である。
【図8】実施例6及び比較例4〜6に係る有機EL素子の特性を示した表である。
【図9】実施例6及び比較例4〜6に係る有機EL素子の発光スペクトルを示した図である。
【図10】実施例6及び比較例4、5に係る有機EL素子の発光機構を示した図である。図10(A)は、実施例6に係る有機EL素子の発光層のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。図10(B)は、比較例4に係る有機EL素子のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。図10(C)は、比較例5に係る有機EL素子のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子(Organic Electro-Luminescence、以下、「有機EL素子」と呼ぶ。)の一例を示した断面構成図である。図1において、本実施形態に係る有機EL素子は、基板10と、ITO(Indium Tin Oxide、酸化インジウム錫)電極20と、正孔注入層30と、正孔輸送層40と、発光層50と、電子輸送層60と、電極層70とを有する。
【0029】
本実施形態に係る有機EL素子は、基板10の表面上に、ITO電極20、正孔注入層30、正孔輸送層40、発光層50、電子輸送層60及び電極層70が順に積層された構成を有している。正孔注入層30、正孔輸送層40、発光層50、電子輸送層60は、総て有機材料からなる有機層として構成されているので、正孔注入層30を第1の有機層30、正孔輸送層40を第2の有機層40、発光層50を第3の有機層50、電子輸送層60を第4の有機層60と呼んでもよい。また、ITO電極20と電極層70は、所定間隔を有して対向配置されて対をなし、その間に正孔注入層30、正孔輸送層40、発光層50及び電子輸送層60が設けられた構成となっている。つまり、本実施形態に係る有機EL素子は、第1〜第4の有機層30〜60が一対のITO電極20と電極層70とでサンドイッチ状に挟まれた構成を有している。
【0030】
基板10は、光を透過する透明な基板が用いられ、例えば、ガラス基板やプラスチック基板が利用されてよい。基板10は、透明な材料であれば、用途に応じて種々の材料から構成され得る。
【0031】
ITO電極20は、光を透過する透明な金属薄膜からなり、透明な電極として構成される。ITO電極20は陽極として機能し、駆動時には正電圧が印加され、正孔が注入される。なお、本実施形態においては、陽極としてITO電極20を用いた例を挙げているが、透明電極を構成できれば、他の材料を用いてもよい。
【0032】
正孔注入層30は、ITO電極20と正孔輸送層40の中間の仕事関数を有し、ITO電極20に注入される正孔を正孔輸送層40に注入する橋渡しを行うバッファ層である。上述のように、正孔注入層30は、有機材料で構成される。正孔注入層30は、ITO電極20で注入された正孔を、正孔輸送層40に橋渡しできる機能を有する種々の有機材料から構成されてよいが、例えば、下記の式(1)に示す化合物(以下、「PEDOT:PSS」と呼ぶ。)から構成されてもよい。
【0033】
【化1】

正孔輸送層40は、正孔注入層30から注入された正孔を発光層50へと輸送する層である。正孔輸送層40も、有機材料で構成される。正孔輸送層40は、正孔を輸送する機能を有すれば、種々の有機材料を用いることができるが、例えば、下記の式(2)に示す化合物(以下、「α−NPD」と呼ぶ。)を用いるようにしてもよい。
【0034】
【化2】

電極層70は、駆動時に陰極として機能し、負電圧が印加される。電極層70は、金属薄膜で構成されてよく、例えば、アルミニウム、銀−マグネシウム合金、カルシウム等の金属薄膜として構成されてよい。
【0035】
電子輸送層60は、電極層70から注入された電子を発光層50に輸送するための層である。電子輸送層60は、有機材料から構成されてよい。有機材料は、電子を輸送する機能を果たすことができれば、種々の有機材料を用いることができるが、例えば、2,2',2"−(1,3,5−ベンゼントリイル)−トリス(1−フェニル−1−H−ベンゾイミダール)(又は2, 2',2"-(1, 3, 5-benzenetriyl)-tris(1-phenyl-1-H-benzimidazole))(以下、「TPBI」と呼ぶ。)を用いてもよい。なお、TPBIの化学式を、下記の式(3)に示す。
【0036】
【化3】

発光層50は、電子と正孔の結合により発光する層である。発光層50は、電子と正孔の結合により励起され、励起状態から基底状態に戻る際に光を発光する。本実施形態に係る有機EL素子においては、励起状態(一重項状態)から直接基底状態に戻る際に発光する蛍光ではなく、一重項状態から、それよりもややエネルギー状態の低い三重項状態を介して基底状態に戻る際に発光する燐光を用いる。
【0037】
発光層50は、ホスト材料となる金属錯体と、ゲスト材料となる燐光材料のみから構成される。金属錯体は発光層50の主成分となり、燐光材料は、発光層50の少量成分となる。ホスト材料とゲスト材料は、混合した状態で発光層50中に存在し、主成分となるホスト材料中に、小量成分のゲスト材料が混合した状態で発光層50は構成される。発光層50において、発光の役割を担うのは、ゲスト材料である。本実施形態に係る有機EL素子の発光層50は、金属錯体と燐光材料のみからなり、その他の材料を含まない。
【0038】
ホスト材料となる金属錯体には、種々の金属錯体を用いることができる。金属錯体であれば、イリジウム錯体等の燐光材料を用いるようにしてもよい。また、蛍光材料を用いるようにしてもよい。金属錯体には、イリジウム(Ir)等の燐光材料と、亜鉛(Zn)やベリリウム(Be)等の蛍光材料の双方が含まれるが、燐光材料と蛍光材料の双方をホスト材料として用いることができる。
【0039】
なお、これら金属錯体をホスト材料に用いる場合には、ゲスト材料のバンドギャップ由来の吸収スペクトルの波長と同程度の発光波長の光を発光する金属錯体材料を用いることが好ましい。これにより、ホストである金属錯体からゲストへの効率的なエネルギー移動が可能となり、ゲスト材料の発光色で発光層50から光を発生させることができる。
【0040】
より詳細には、ホスト材料が発光する励起状態のエネルギーが、ゲスト材料が発光する一重項励起状態のエネルギーよりも高くなるように金属錯体を選択することが好ましい。具体的には、ホスト材料が燐光材料の場合には、ホスト材料が発光する励起状態は三重項励起状態であるので、ホスト材料の三重項励起状態のエネルギーが、ゲスト材料の一重項励起状態のエネルギーよりも高いことが必要とされる。一方、ホスト材料が蛍光材料の場合には、ホスト材料が発光する励起状態は一重項励起状態となるので、ホスト材料の一重項励起状態のエネルギーが、ゲスト材料の一重項励起状態のエネルギーよりも高いことが必要とされる。
【0041】
ホスト材料とゲスト材料との間で、かかるエネルギー関係を有することにより、ホスト材料で電荷の再結合により発生した発光しようとするエネルギーを、ゲスト材料が確実に吸収することができ、ゲスト材料による発光機能を十分に発揮させることができる。なお、ここで言うエネルギーとは、基底状態を基準としたエネルギーを意味する。また、ホスト材料とゲスト材料とのエネルギーの関係は、後に実施例を用いてより詳細かつ具体的に説明することとする。
【0042】
なお、エネルギーと波長は相関関係があるので、以後、ホスト材料とゲスト材料との関係は、エネルギーを用いて表現する場合もあるし、波長を用いて表現する場合もあるものとする。
【0043】
通常の燐光発光素子においては、発光層中でゲスト材料が直接電荷をトラップし再結合して発光する。従って、素子内の電荷移動に対してゲストが妨げとなり、ゲスト濃度の増加に伴い駆動電圧が上昇する。一方、ゲスト濃度が低いとホスト‐ゲスト間の効率的なエネルギー移動は起こらないため、高い発光効率が得られない。通常の燐光素子の最適ゲスト濃度は、6−10重量%程度とされている。
【0044】
これに対し、本実施形態に示したゲスト材料の吸収波長及びホスト材料の発光波長の適切な選択により、ゲスト材料の混合比率が低い場合でも、効率的なエネルギー移動が起こる。したがって、1重量%程度の混合比率でも高い発光効率が得られる。また、ゲスト材料の混合比率が低いため、ゲスト材料による電荷のトラップの影響が小さく、低い駆動電圧で素子を駆動することが可能となる。
【0045】
本実施形態に係る有機EL素子においては、発光層50内のゲスト材料の混合比率、つまりホスト材料とゲスト材料からなる発光層50内のゲスト材料の割合を、1重量%以上6重量%未満とすることが好ましい。上述のように、本実施形態に係る有機EL素子においては、ゲスト材料の混合比率を1重量%程度としても高い発光効率を得ることができる。また、ゲスト材料の混合比率を6重量%以上とすると、駆動電圧が上昇するおそれがあるため、駆動電圧を上昇させずに高い発光効率が得られるゲスト材料の混合比率の範囲を、1重量%以上6重量%未満に設定することが好ましい。
【0046】
なお、ホスト材料の金属錯体に燐光材料を用いる場合には、ゲスト材料に用いられる燐光材料よりも短い波長の光を発光する燐光材料を用いる。これにより、波長の長いゲスト材料の燐光材料からの発光が優先され、ゲスト材料の発光色で発光層50から光を発生させることができる。
【0047】
例えば、ホスト材料の金属錯体に波長500nm程度に発光スペクトルの立ち上がりを有する燐光材料を用い、ゲスト材料の燐光材料に赤色に発光する燐光材料でバンドギャップ由来の吸収スペクトルが500nm程度にピークをもつ材料を用いるようにすれば、ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルが重なりを有し、効率的なエネルギー移動が起こる。波長500nm程度に吸収スペクトルのピークを有する燐光材料は赤色に発光する材料であるため、このような2種類の材料を発光層に用いた場合には、ホスト材料の発光よりも、ゲスト材料である赤色の波長領域610〜750nmの発光が優先され、発光層50は赤色に発光する。この場合、ホスト材料の金属錯体材料は、例えば、下記の式(4)で表される化合物(以下、「Ir(ppy)acac」という。)を用いるようにしてもよい。また、ゲスト材料の赤色の燐光材料は、例えば、下記の式(5)で表される化合物(以下、「Ir(piq)」という。)を用いるようにしてもよい。
【0048】
【化4】

【0049】
【化5】

一方、ホスト材料の金属錯体に燐光材料を用いると、希少金属を含むため材料自体のコストが懸念される。これについては、下記の式(6)、(7)で示されるBeやZn等の安価な金属で構成される金属錯体(以下「Bebq」、「Zn(BTZ)」という。)を用いることも可能である。
【0050】
【化6】

【0051】
【化7】

波長は、青色<緑色<黄色<橙色<赤色であるので、ホスト材料の金属錯体材料と、ゲスト材料に用いられる燐光材料の波長を適切に選択し、ゲスト材料の発光波長がホスト材料の発光波長より長くなるような組み合わせとすれば、赤色以外の発光を得ることも可能である。
【0052】
例えば、ホスト材料の金属錯体に、波長420nm程度に発光の立ち上がりを有する金属錯体材料を用い、ゲスト材料の燐光材料に、橙色に発光する燐光材料でバンドギャップ由来の吸収スペクトルが420nm程度にピークをもつ材料を用いるようにすれば、ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルが重なりを持ち、効率的なエネルギー移動が起こる。波長420nm程度に吸収スペクトルのピークを有する燐光材料は橙色に発光する材料であるため、このような2種類の材料を発光層に用いた場合には、ホスト材料の発光よりも、ゲスト材料である赤色の波長領域560〜710nmの発光が優先され、発光層50は橙色に発光する。この場合、ホスト材料の金属錯体材料は、例えば、式(7)で表されるZn(BTZ)を用いるようにしてもよい。また、ゲスト材料の橙色の燐光材料は、例えば、下記の式(8)で表される化合物(以下、「m−PF−py」という。)を用いるようにしてもよい。
【0053】
【化8】

このように、ホストとなる金属錯体の発光波長とゲストとなる燐光材料の吸収スペクトルの相関から適切な材料選択を行うことができれば、緑や青色の発光を得ることも可能である。
【0054】
なお、本実施形態に係る有機EL素子は、スピンコート法や真空蒸着法等の成膜方法を用いて製造することができる。基板10上に形成されたITO電極20、第1〜第4の有機層30〜60及び電極層70は、総て成膜により形成可能であるので、種々の成膜方法により本実施形態に係る有機EL素子を製造することができる。
【0055】
また、発光層50については、ホスト材料とゲスト材料とが混合した状態で形成されるので、例えば、共蒸着等により、ホスト材料とゲスト材料とを同時に成膜して構成してもよい。
【0056】
次に、具体的な実施例により、本発明の有機EL素子についてより詳細に説明する。
【実施例】
【0057】
本発明の実施例に係る有機EL素子は、図1において説明した本実施形態に係る有機EL素子と同様に構成した。具体的には、以下のようにして実施例に係る有機EL素子を作製した。なお、今まで説明した構成要素に対応する構成要素には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0058】
まず、ITO電極20の薄膜が形成された基板10上に、正孔注入層30となるPEDOT:PPSをスピンコート法により成膜した。次いで、正孔輸送層40、発光層50、電子輸送層60となる有機層と、電極層70とを、10−4Paの真空チャンバ内で抵抗加熱により真空蒸着し、連続的に成膜した。具体的には、以下の材料及び厚さで成膜を行い、実施例1に係る有機EL素子を構成した。
【0059】
正孔注入層30 (35nm):PEDOT:PSS
正孔輸送層40 (40nm):α−NPD
発光層50 (35nm):所定のホスト/所定のゲスト
電子輸送層60 (40nm):TPBI
電極層70(0.5nm/100nm):LiF/Al
なお、発光層50の構成は、具体的な実施例に応じて材料が変化するため、所定のホストと所定のゲストとしている。
【0060】
次に、作製された本実施例に係る有機EL素子のITO電極20側を陽極とし、電極層70側を陰極として電圧を印加し、電流、輝度及び発光スペクトルの測定を行った。このような測定は、酸素や水が素子劣化の原因として問題となるので、その要因を除去するために真空チャンバからドライボックスに、空気に触れないようにして取り出し、ガラスキャップで封止を行った後に測定を行った。
【0061】
次に、具体的な比較例及び実施例に係る有機EL素子ついて説明する。なお、比較例に係る有機EL素子は、本実施例に係る有機EL素子の効果を確認するため、比較対象として作製された従来の構成を有する有機EL素子を意味する。
【0062】
〔実施例1〕
式(5)で表される化合物(Ir(piq))をゲスト材料、式(4)で表される化合物(Ir(ppy)acac)をホスト材料とし、発光層50中のゲスト材料の混合比率が極めて低い1重量%となるように、共蒸着によるドーピングを行って発光層50を形成し、実施例1に係る有機EL素子を構成した。
【0063】
〔実施例2〕
式(5)で表される化合物(Ir(piq))をゲスト材料、式(7)で表される化合物Bebq2をホスト材料とし、発光層50中のゲスト材料の混合比率が極めて低い1重量%となるように、共蒸着によるドーピングを行って発光層50を形成し、実施例2に係る有機EL素子を構成した。
【0064】
〔実施例3〕
式(5)で表される化合物(Ir(piq))をゲスト材料、式(6)で表される化合物Zn(BTZ)をホスト材料とし、発光層50中のゲスト材料の混合比率が極めて低い1重量%となるように、共蒸着によるドーピングを行って発光層50を形成し、実施例3に係る有機EL素子を構成した。
【0065】
〔実施例4〕
式(5)で表される化合物(Ir(piq))をゲスト材料、式(7)で表される化合物Bebqをホスト材料とし、発光層50中のゲスト材料の混合比率が通常の燐光有機EL素子で最適混合比率とされる6重量%となるように、共蒸着によるドーピングを行って発光層50を形成し、実施例4に係る有機EL素子を構成した。なお、比較例1に係る有機EL素子は、ホスト材料及びゲスト材料の種類は実施例2に係る有機EL素子と同様であるが、ゲスト材料の混合比率が異なっている。
【0066】
〔実施例5〕
式(5)で表される化合物(Ir(piq))をゲスト材料、式(6)で表される化合物Zn(BTZ)をホスト材料とし、発光層50中のゲスト材料の混合比率が通常の燐光有機EL素子で最適混合比率とされる6重量%となるように、共蒸着によるドーピングを行って発光層50を形成し、実施例5に係る有機EL素子を構成した。なお、実施例5に係る有機EL素子は、ホスト材料及びゲスト材料の種類は実施例3に係る有機EL素子と同様であるが、ゲスト材料の混合比率が異なっている。
【0067】
〔比較例1〕
式(5)で表される化合物(Ir(piq))をゲスト材料、式(8)で表される化合物m−PF−pyをホスト材料とし、発光層50中のゲスト材料の混合比率が極めて低い1重量%となるように、共蒸着によるドーピングを行って発光層50を形成し、比較例1に係る有機EL素子を構成した。
【0068】
〔比較例2〕
式(5)で表される化合物(Ir(piq))をゲスト材料、式(3)で表されるTPBIをホスト材料とし、発光層50中のゲスト材料の混合比率を極めて低い1重量%とし、共蒸着によるドーピングを行って、発光層50を形成し、比較例2に係る有機EL素子を構成した。
【0069】
〔比較例3〕
比較例1と同様に、式(5)で表される化合物(Ir(piq))をゲスト材料、式(3)で表されるTPBIをホスト材料とし、ゲスト材料の混合比率を通常の燐光有機EL素子で最適混合比とされる6重量%とし、共蒸着によるドーピングを行って、発光層50を形成し、比較例3に係る有機EL素子を構成した。
【0070】
図2は、実施例1〜5及び比較例1〜3に係る有機EL素子の特性を示した表である。図2の表において、実施例1〜5及び比較例1〜3に係る有機EL素子の発光層50のホスト材料及びゲスト濃度が示されるとともに、特性項目として、光度が100cd、1000cdのときの駆動電圧、電流密度が1mA/cmのときの駆動電圧、外部量子効率EQE、光度100cdのときの発光効率(電力効率)PE、CIE色度及びホスト発光の有無が挙げられている。
【0071】
図2の表において、実施例1〜3は、比較例2、3のTPBIホストの系と比較して、ゲスト濃度1重量%でも高い外部量子効率が得られている。また、駆動電圧も比較的低い値で駆動できており、ホストの発光もほとんど見られていないため、良好な赤色発光が得られている。これはつまり、1重量%のゲスト濃度でも、ホスト‐ゲスト間の効率的なエネルギー移動により、高い発光効率が得られたと考えられる。電流密度1mA/cmのときの駆動電圧が比較例3と実施例3で同等である原因は、ホスト材料の電荷移動度の違いによるものであると考えられる。
【0072】
図2の表において、ホスト材料に燐光材料の金属錯体が用いられている比較例1は、実施例1〜3に係る有機EL素子に比べて、発光効率が低い。
【0073】
図3は、実施例1〜3及び比較例1に係る有機EL素子のホスト材料の発光スペクトルを示した図である。図3において、白丸ドットで示された特性が実施例2に係る有機ELの発光スペクトル、三角ドットで示された特性が比較例1に係る有機EL素子の発光スペクトル、四角ドットで示された特性が実施例3に係る有機ELの発光スペクトル、ダイヤドットで示された特性が実施例1に係る有機EL素子の発光スペクトルを示している。
【0074】
図3に示されるように、三角ドットで示された比較例1に係る有機EL素子のみホスト材料の発光が550nm〜580nm付近で観測されており、色度も赤色発光から若干ずれた発光となっている。
【0075】
次に、図4及び図5を用いて、実施例1〜3に係る有機EL素子と、比較例1に係る有機EL素子の発光層50の構成の相違を説明する。図4は、実施例1〜3及び比較例1に係る有機EL素子の発光(エネルギー移動)機構を示した図である。図4(A)は、実施例2に係る有機EL素子の発光層50のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。図4(B)は、実施例3に係る有機EL素子の発光層50のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。図4(C)は、実施例1に係る有機EL素子の発光層50のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。図4(D)は、比較例1に係る有機EL素子の発光層50のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。
【0076】
また、図5は、実施例1〜5及び比較例1に係る有機EL素子の発光層50のゲスト材料の吸収スペクトル及びホスト材料の発光スペクトルを示した図である。
【0077】
図4(A)〜(D)において、発光層50を構成するホスト材料及びゲスト材料の一重項励起状態S、三重項励起状態T及び基底状態S0が各々示されている。なお、一重項励起状態Sおよび三重項励起状態Tのエネルギー関係は、図5に示された各種材料の吸収スペクトル・発光スペクトルから求めた。
【0078】
図4(A)〜(D)に示すように、陽極であるITO電極20から注入された正孔と陰極である電極層70から注入された電子がホスト材料中で再結合することで、S及びTの2つのホスト材料の励起状態が生成する。
【0079】
図4(C)に示すように、ホスト材料がIr錯体の場合には、燐光材料であるので、項間交差により生成した一重項励起状態Sは瞬時に三重項励起状態Tに移る。従って、発光が生じる励起状態は、Ir(ppy)acacがホスト材料の場合には、三重項励起状態Tのみとなる。
【0080】
ここで、燐光材料からなるゲスト材料が発光するためには、一重項励起状態S又は三重項励起状態Tのエネルギーよりも高いエネルギーが供給されることが必要とされる。よって、ホスト材料で発生する三重項励起状態Tのエネルギーが、ゲスト材料の一重項励起状態S1よりも高ければ、ホスト材料で発生した発光しようとするエネルギーは、総てゲスト材料の一重項励起状態S又は三重項励起状態Tに移動することができ、効率よくエネルギー移動が行われる。
【0081】
なお、実施例3においては、ホスト材料がIr(ppy)acacである場合を例に挙げて説明しているが、このホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係は、ホスト材料が燐光材料である場合には、総て適用することができる。
【0082】
一方、図4(A)、(B)に示すように、蛍光材料であるBebq、Zn(BTZ)がホスト材料の場合には、発光が生じる励起状態は一重項励起状態Sとなる。なお、蛍光材料であっても、低温に冷却すると、三重項励起状態Tで発光させることができるが、ここでは、常温下での挙動を考える。
【0083】
ホスト材料が蛍光材料の場合、発光する一重項励起状態S1のエネルギーが、燐光材料であるゲスト材料の一重項励起状態Sのエネルギーよりも高くなるような組み合わせとすれば、ホスト材料で発生する発光しようとするエネルギーは、総てゲスト材料の一重項励起状態S又は三重項励起状態Tに移動することができ、効率よくホスト材料からゲスト材料へのエネルギー移動を行うことができる。
【0084】
なお、蛍光材料の場合、常温下で発光する励起状態は一重項励起状態のみであるが、三重項励起状態もエネルギーとしては発生する。この三重項励起状態のエネルギーは、ゲスト材料の三重項励起状態に移動できるので、エネルギー移動は効率よく行われる。ゲスト材料も、ホスト材料と同様に金属錯体の一種であるので、類似したエネルギー構造を有し、一重項励起状態のエネルギーの高低関係は、三重項励起状態のエネルギー関係にも当てはまる。つまり、一重項励起状態のエネルギー関係において、ゲスト材料<ホスト材料の関係があれば、三重項励起状態のエネルギー関係においても、ゲスト材料<ホスト材料となる。
【0085】
よって、ホスト材料が蛍光材料の場合には、ホスト材料の一重項励起状態のエネルギーがゲスト材料の一重項励起状態のエネルギーよりも高くなるように組み合わせれば、効率よいエネルギー移動を実現でき、発光効率を高めることができる。
【0086】
なお、実施例2、3においては、ホスト材料がBebq、Zn(BTZ)である場合を例に挙げて説明したが、ホスト材料が他の蛍光材料の場合であっても、上述のエネルギー関係を同様に適用することができる。
【0087】
図4(D)においては、ホスト材料が燐光材料のm−PF−pyの場合の比較例1に係る有機EL素子のエネルギー関係が示されているが、ホスト材料が発光する三重項励起状態のエネルギーが、ゲスト材料の三重項励起状態Tのエネルギーよりは高いが、一重項励起状態Sのエネルギーよりも低い状態となっている。かかる状態では、ホスト材料で発生した三重項励起状態Tのエネルギーは、三重項励起状態Tには移動できるものの、一重項励起状態Sに移動することはできない。よって、ホスト‐ゲスト間のエネルギー移動が効率的に起こらず、ホストの発光が観測され、また発光効率も低くなると考えられる。
【0088】
なお、図4におけるエネルギー関係を用いた説明は、図5に示したホスト材料の発光スペクトル及びゲスト材料の吸収スペクトルを用いても説明することができる。
【0089】
図5において、実施例1〜3及び比較例1に係る有機EL素子の発光層50のゲスト材料であるIr(piq)の吸収スペクトルIr(piq) Absと、実施例3のホスト材料Zn(BTZ)の一重項励起状態の発光スペクトルZn(BTZ) Fluor及び三重項励起状態の発光スペクトルZn(BTZ) Phosと、実施例2のホスト材料Bebqの一重項励起状態の発光スペクトルBebq Fluoro及び三重項励起状態の発光スペクトルBebq Phosと、実施例1のホスト材料Ir(ppy)acacの三重項励起状態の発光スペクトルIr(ppy)acacと、比較例1のホスト材料m−PF−py Phosの発光スペクトルが各々示されている。
【0090】
図5において、実施例3のホスト材料の一重項励起状態の発光スペクトルZn(BTZ) Fluor、実施例2のホスト材料Bebqの一重項励起状態の発光スペクトルBebq Fluoro及び実施例1のホスト材料Ir(ppy)acacの三重項励起状態の発光スペクトルIr(ppy)acacは、ゲスト材料の吸収スペクトルIr(piq) AbsのS由来の吸収スペクトルの立ち上がり部分と重なる領域を多く有し、共有する波長領域を多く有することが分かる。これにより、共有する波長領域でエネルギーの移動が効率よく行われる。なお、吸収スペクトルの場合は、長波長側から吸収が開始されるので、長波長側が立ち上がり部分となる。
【0091】
一方、比較例1のホスト材料m−PF−py Phosの発光スペクトルは、ゲスト材料の吸収スペクトルIr(piq) AbsのT由来の吸収スペクトルとは重なりがあるものの、S由来のスペクトルとは重なる領域があまり多くなく、実施例1〜3と比較すると、波長領域の共有が少ないことが示されている。よって、ホスト−ゲスト間のエネルギー移動は、あまり効率よく行われない。
【0092】
このように、効率的なエネルギー移動が起こるエネルギー関係、波長を考慮したホスト材料とゲスト材料の選択を行うことで、低い駆動電圧で高い発光効率が得られる素子が実現できる。本実施例に係る有機EL素子により、ゲスト材料である燐光材料の使用量を減らすことができ、低コスト化にも有効であると考えられる。
【0093】
次に、図2の表に戻り、実施例4、5について説明する。
【0094】
また、図2の表において、実施例4、5に示す通り、ゲスト濃度を6wt%とした場合でも、多少電圧の上昇がみられるものの、比較的良好な特性を得ることができる。従って、図4において説明したホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を満たせば、本実施例に係る有機EL素子は、極めて低いゲスト濃度(1wt%程度)から、通常の燐光素子の最適ゲスト濃度の下限値(6wt%程度)までの低いゲスト濃度範囲で適用可能である。
【0095】
次に、比較例2、3について説明する。比較例2、3は、発光層50のホスト材料に、有機材料であるTPBIを用いた構成を有する。また、比較例2、3は、ゲスト材料の混合比率がそれぞれ1重量%、6重量%である点で異なっている。
【0096】
図6は、比較例2、3に係る有機EL素子の測定結果である。図6(A)は、比較例2、3に係る有機EL素子の電圧−輝度特性を示した図であり、図6(B)は、比較例2、3に係る有機EL素子の電圧−電流密度特性を示した図である。また、図6(C)は、比較例2、3に係る有機EL素子の電流密度−外部量子効率特性を示した図であり、図6(D)は、比較例2、3に係る有機EL素子の電流密度−電力効率特性を示した図である。なお、図6(A)〜(D)において、三角のドットが比較例2に係る有機EL素子の特性を示し、黒丸のドットが比較例3に係る有機ELの特性を示している。
【0097】
また、図7は、比較例1、2に係る有機EL素子の波長−エレクトロルミネセンス強度特性を示した図である。図7において、実線が比較例2に係る有機EL素子の特性を示し、破線が比較例3に係る有機EL素子の特性を示している。
【0098】
図6(C)に示すように、ゲスト材料の混合比が1重量%の比較例2に係る有機EL素子に比べて、ゲスト材料の混合比が6重量%の比較例3に係る有機EL素子の方が、高い外部量子効率(EQE、External Quantum Efficiency)を得ることができている。これは、図7に示すように、ゲスト材料の混合比率が、1重量%の比較例2に係る有機EL素子では、ホスト材料の発光が観測されており、エネルギー移動が十分起こっていないことに起因するものであると考えられる。
【0099】
同様に、図6(D)においても、比較例2に係る有機EL素子の方が、比較例3に係る有機EL素子よりも高い電力効率を示している。図6(D)においては、単位電力当たりの全光束(lm/W)で電力効率が示されており、発光効率と同義であるので、図6(C)の外部量子効率と同様の結果を示している。
【0100】
一方、図6(B)に示すように、同じ電流密度の電流を発生させる有機EL素子の駆動電圧は、ゲスト材料の混合比が1重量%の比較例1に係る有機EL素子の方が低い。これは、比較例3に係るゲスト材料混合比が6重量%の有機EL素子では、ゲスト材料の混合比が高いため、電荷がゲスト材料に直接トラップされていることを反映している。つまり、通常の燐光素子では高い発光効率を得るためには比較的高いゲスト濃度とする必要があり、その際には駆動電圧が高くなってしまうという問題を生じる。従って、低いゲスト濃度でホスト−ゲスト間の効率的なエネルギー移動が起これば、低い駆動電圧で高い発光効率が得られることが期待できる。
【0101】
また、図6(A)に示すように、電圧−輝度特性においては、比較例2、3に係る有機EL素子は、ほぼ同様の特性を示しており、輝度にはあまり差が無いことが分かる。
【0102】
次に、本発明の有機EL素子が、各種発光色に対して有用であることを、実施例6及び比較例4〜6を用いて説明する。
【0103】
〔実施例6〕
式(8)で表される化合物(m−PF−py)をゲスト材料、式(6)で示されるZn(BTZ)をホスト材料とし、発光層50中のゲスト材料の混合比率が1重量%となるように、共蒸着によるドーピングを行って発光層50を形成し、実施例6に係る有機EL素子を構成した。実施例6に係るゲスト材料(m−PF−py)は、橙色に発光する燐光材料であり、実施例1〜5の赤色に発光するゲスト材料(Ir(piq))とは異なる発光色を有する。実施例6においては、橙色の発光色を有する化合物(m−PF−py)を用いた例を挙げ、本実施形態に係る有機EL素子が、橙色の発光色にも有用であることを説明する。
【0104】
〔比較例4〕
式(8)で表される化合物(m−PF−py)をゲスト材料とし、ホスト材料をIr(ppy)acacとし、発光層50中のゲスト材料の混合比率が1重量%となるように、共蒸着によるドーピングを行って発光層50を形成し、比較例4に係る有機EL素子を構成した。
【0105】
〔比較例5〕
式(8)で表される化合物(m−PF−py)をゲスト材料、式(7)で示されるBebqをホスト材料とし、発光層50中のゲスト材料の混合比率が1重量%となるように、共蒸着によるドーピングを行って発光層50を形成し、比較例5に係る有機EL素子を構成した。
【0106】
〔比較例6〕
式(8)で表される化合物(m−PF−py)をゲスト材料、式(3)で表されるTPBIをホスト材料とし、発光層50中のゲスト材料の混合比率が1重量%となるように、共蒸着によるドーピングを行って発光層50を形成し、比較例6に係る有機EL素子を構成した。
【0107】
図8は、実施例6及び比較例4〜6に係る有機EL素子の特性を示した表である。図8の表において、図2の表と同様に、実施例6及び比較例4〜6に係る有機EL素子の発光層50のホスト材料及びゲスト濃度が示されるとともに、特性項目として、光度が100cd、1000cdのときの駆動電圧、電流密度が1mA/cmのときの駆動電圧、外部量子効率EQE、光度100cdのときの発光効率(電力効率)PE、CIE色度及びホスト発光の有無が挙げられている。
【0108】
図9は、実施例6及び比較例4〜6に係る有機EL素子の発光スペクトルを示した図である。なお、図9において、白丸ドットで示された特性が比較例5に係る有機ELのホスト材料の発光スペクトル、ダイヤドットで示された特性が比較例4に係る有機EL素子のホスト材料の発光スペクトル、実線で示された特性が比較例6に係る有機EL素子のホスト材料の発光スペクトル、四角ドットで示された特性が実施例6に係る有機EL素子のホスト材料の発光スペクトルを示している。
【0109】
図8の表において、比較例4、5に係る有機EL素子は、実施例1、2に係る有機EL素子と比較して、同程度の外部量子効率が得られているものの、図9に示すように、500〜540nm付近にホスト材料の発光が観測された。一方、実施例6においては、ホスト材料の発光が見られず、高い発光効率が得られている。また、比較例6では、図9にも示すように、比較例2と同様にホスト材料の発光が観測され、発光効率も高い値は得られなかった。
【0110】
図10は、実施例6及び比較例4、5に係る有機EL素子の発光(エネルギー移動)機構を示した図である。図10(A)は、実施例6に係る有機EL素子の発光層50のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。図10(B)は、比較例4に係る有機EL素子の発光層50のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。図10(C)は、比較例5に係る有機EL素子の発光層50のホスト材料とゲスト材料のエネルギー関係を示した図である。
【0111】
図10(A)〜(C)において、発光層50を構成するホスト材料及びゲスト材料の一重項励起状態S、三重項励起状態T及び基底状態Sが各々示されている。なお、一重項励起状態S及び三重項励起状態Tのエネルギー関係は、図5に示された各種材料の吸収スペクトル・発光スペクトルから求めた。図5には、実施例6及び比較例4〜6に係る有機EL素子のゲスト材料であるm−PF−pyの吸収スペクトルm−PF−py Absも記載されている。
【0112】
図10(B)に示すように、燐光材料であるIr(ppy)acacをホスト材料に用いた場合には、ゲスト材料の一重項励起状態Sのエネルギーが、ホスト材料の発光を発生させる三重項励起状態Tのエネルギーより大きいため、効率的なエネルギー移動ができず、ホスト材料の発光が観測されている。
【0113】
図10(B)に示すように、蛍光材料であるBebqをホスト材料に用いた場合には、ゲスト材料の一重項励起状態Sのエネルギーが、ホスト材料を発光する一重項励起状態Sのエネルギーより大きいため、効率的なエネルギー移動ができず、ホスト材料の発光が観測されている。
【0114】
一方、図10(A)に示すように、蛍光材料であるZn(BTZ)をホストに用いた場合には、ゲスト材料の一重項励起状態Sのエネルギーが、ホスト材料を発光する一重項励起状態Sのエネルギーより小さいため、効率的なエネルギー移動ができ、良好な橙色発光が得られている。
【0115】
なお、実施例6においては橙色の発光色、実施例1〜5においては赤色の発光色を得ているが、ゲスト材料を各色種々選択し、適切に組み合わせたホスト材料を用いることにより、所望の色に発光させることができる。
【0116】
このように、発光層50を構成するホストである金属錯体材料およびゲストである燐光材料は、発光色に応じて種々の材料を用いることができることが分かる。ここで、実施例で示したBebq及びZn(BTZ)は電子輸送性の材料であるが、Ir(ppy)acacは正孔輸送性の材料である。したがって、ホスト材料として用いる金属錯体材料の選択性は非常に広いことが分かる。
【0117】
また、発光層50のホスト材料を構成する金属錯体材料は、用途に応じて種々の材料を用いることができる。本実施例においては、Ir、Be、Zn錯体を用いたが、その他、Pt、Os、Ru、Eu、Mg、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu錯体も用いることができる。
【0118】
同様に、発光層50のゲスト材料を構成する燐光材料は、用途に応じて種々の材料を用いることができる。本実施例では、イリジウム錯体及びm−PF−pyを用いたが、その他、Pt、Os、Ru、Eu錯体も用いることができる。
【0119】
なお、本実施形態及び本実施例において説明した有機EL素子は、これを画素として表示パネルを作製し、表示パネルを駆動させる駆動回路を備えることにより、表示装置として構成することができる。
【0120】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、有機EL素子及びこれを用いた表示装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0122】
10 基板
20 ITO電極
30 正孔注入層
40 正孔輸送層
50 発光層
60 電子輸送層
70 電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層は、金属錯体からなるホスト材料と、燐光材料からなるゲスト材料のみからなり、
前記ホスト材料が発光する励起状態のエネルギーが、前記ゲスト材料の一重項励起状態のエネルギーよりも高いことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記ホスト材料は燐光材料からなり、
前記励起状態のエネルギーは、三重項励起状態のエネルギーであることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記ホスト材料は、イリジウム錯体であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記ホスト材料は蛍光材料からなり、
前記励起状態のエネルギーは、一重項励起状態のエネルギーであることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記ホスト材料は、ベリリウム錯体又は亜鉛錯体であることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記ゲスト材料の混合比率が、1重量%以上6重量%未満であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記ゲスト材料の発光波長は、前記ホスト材料の発光波長よりも長いことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた表示パネルと、
該表示パネルを駆動する駆動回路と、を有することを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−243983(P2012−243983A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113385(P2011−113385)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】