説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】光取出し量を増加させるとともに、ダークスポットの発生を抑えた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板1と、第1電極2と、発光層5を含む有機層6と、第2電極7とを備えている。発光層5は、この発光層5を構成する発光材料よりも低い屈折率の粒子8を、隣接する層との界面に接触しない状態で内部に有する。発光層5は、粒子8を含まない第1領域51と、粒子8を第1領域51との界面に含む第2領域52とが積層されて形成されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光素子として有機エレクトロルミネッセンス素子が知られている。図3により、有機エレクトロルミネッセンス素子の光の伝搬を説明する。この有機エレクトロルミネッセンス素子では、基板1上に、光透過性のある第1電極2、ホール注入層3とホール輸送層4と発光層5とを含む有機層6、及び、反射性のある第2電極7が、順次形成されている。なお、有機層6は、他の層、例えば、電子注入層や電子輸送層などを含んでもよいが、図3では省略している。このような有機エレクトロルミネッセンス素子では、発光層5内の発光源10で発生した光が基板に向かう方向に伝搬し、大気9に出射する。なお、第2電極7に向う光も存在するが、ここでは説明を省略する。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子に使用される基板1の材料としては、優れた透明性、強度、低コスト、ガスバリア層、耐薬品性、耐熱性等の観点から、ガラスが多く用いられている。一般的なガラス基板材料であるソーダライムガラス等の屈折率は1.52程度である。また、第1電極2が陽極であり、光透過性を示す場合、第1電極2には酸化インジウムに酸化錫をドープした酸化インジウム錫(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)がその優れた透明性と電気伝導性から広く用いられている。ここで、ITOやIZOの屈折率は、その組成、成膜方法、結晶構造等により変化するが、ITOはおよそ1.7〜2.3であり、IZOはおよそ1.9〜2.4であり、いずれにしても非常に高い屈折率を持つ材料である。なお、大気9の屈折率は1.0である。
【0004】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層5などの有機層6に用いられる発光材料、電子輸送性材料、ホール輸送性材料等の屈折率は、一般的にベンゼン環をその分子構造内に多く含んだπ共役結合系の材料であることが多い。そのため、有機層6の屈折率はおよそ1.6〜2.0程度のものが多く、一般的な有機材料に比べて屈折率が高い。
【0005】
従って、一般的な有機エレクトロルミネッセンス素子においては、各層の屈折率の大小関係は、大気<基板<有機層<第1電極(陽極)となっている。
【0006】
ところで、ある媒質から屈折率の異なる媒質へと光が伝搬する場合、特に屈折率の高い媒質から屈折率の低い媒質に伝搬するときには、その界面では媒質間の屈折率により、スネルの法則から臨界角が決定される。そして、その臨界角以上の光は界面で全反射し、屈折率の高い媒質に閉じ込められ、導波光として失われる。
【0007】
図3の形態においては、大気9、基板1、第1電極2、ホール輸送層4、発光層5の屈折率をそれぞれ、n、n、n、n、n、とする。このとき、基板1、第1電極2、ホール輸送層4、及び、発光層5が上記に示すような材料で形成されている場合、例えば、n=1.0、n=1.52、n=1.9、n=1.6、n=1.8、とすることができる。なお、ホール注入層3は、ホール輸送層4との屈折率差が小さいことが多いので、ホール注入層3とホール輸送層4との境界面での光の屈折は無視するとともにホール注入層3とホール輸送層4を一体の層のように考えてもよい。
【0008】
発光層5の発光源10から大気9及び基板1への光の伝搬はスネルの法則を用いて算出することができる。発光層5からホール輸送層4、ホール輸送層4から第1電極2、第1電極2から基板1、基板1から大気9への入射角をそれぞれ、θ5−4、θ4−2、θ2−1、θ1−9とし、大気9への出射角をθとすると、スネルの法則より次式(1)の関係が成り立つ。
【0009】
【数1】

【0010】
この式(1)より発光層5よりも低い屈折率を有するホール輸送層4、基板1、大気9に着目すると、
【0011】
【数2】

【0012】
【数3】

【0013】
【数4】

【0014】
となる。そして、上記の屈折率の値から、発光層5から見たときのホール輸送層4、基板1、大気9との臨界角はそれぞれ、63°、58°、34°となり、発光層5の発光源10から出射された光が、これらの角度以上で入射した場合、発光層5、第1電極2、基板1に閉じ込められて導波光として失われる。
【0015】
よって、有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光層5の発光源10から斜めに高角度に出射した光は、基板1と大気9の界面及び第1電極2と基板1の界面で全反射する現象が発生する(図3の矢印参照)。そして、光の全反射が発生すると、光取り出し効率が低下するといった問題が生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Applied PhysicsLetters, 71(9), p.1145, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
全反射ロスを低減し光取り出し効率を高めるために、非特許文献1の方法が開示されている。この文献に開示された素子は、ガラス(基板1)上に、ITO(第1電極2)、ポリアニリン(ホール輸送層4)とポリ(2−メトキシ5−(2’−エチル)ヘキソキシ−フェニレンビニレン)(以下MEH−PPV、発光層5)、及び、Ca(陰極7)が形成された構造となっている。なお、図3におけるホール注入層3は有していない構造となっている。ところで、この文献においては、ポリアニリン層の役割は特に指定されていないが、ポリアニリンは一般にホール輸送性材料として知られているので、ポリアニリンをホール輸送層4として考えてもよい。
【0018】
そして、非特許文献1では、全反射のロスを少なくするため、MEH−PPV(発光層5)に発光材料であるMEH−PPVよりも低い屈折率を持つ粒径30〜80nmのSiOを混合している。そして、屈折率の比較的低いSiO粒子を混合することにより、発光層5の屈折率が低くなって量子効率が改善されている。しかしながら、この文献では、SiO粒子と発光材料を同一の溶媒に混合し、成膜しているため、ホール輸送層4と発光層5の界面や第2電極7と発光層5の界面にSiO粒子が存在しているものと考えられ、その結果、界面での電子、ホールの移動が阻害され、ダークスポットが発生するなどの問題が生じる。
【0019】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、光取出し量を増加させるとともに、ダークスポットの発生を抑えた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板と、第1電極と、発光層を含む有機層と、第2電極とを備え、前記発光層は、当該発光層を構成する発光材料よりも低い屈折率の粒子を、隣接する層との界面に接触しない状態で内部に有することを特徴とするものである。
【0021】
前記発光層は、前記粒子を含まない第1領域と、前記粒子を第1領域との界面に含む第2領域とが積層されて形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、発光層が発光材料よりも低い屈折率の粒子を含むことで、発光層の屈折率が低減し、発光層が発光材料のみからなる場合と比較して、光取り出し量を増加させることができるものであるとともに、粒子が発光層と隣接する層との界面に存在しないことで、ダークスポットの発生を抑制することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の実施形態の一例を示す概略断面図である。
【図2】有機エレクトロルミネッセンス素子の実施形態の他の一例を示す概略断面図である。
【図3】有機エレクトロルミネッセンス素子における光の伝搬を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に、有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成の一例を示す。この有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板1と、第1電極2と、発光層5を含む有機層6と、第2電極7とをこの順で備えている。本形態では、有機層6は、第1電極2と発光層5との間に、ホール注入層3及びホール輸送層4をこの順で備えている。有機層6には、発光層5以外に、他の層、例えば、電子輸送層、電子注入層などを適宜、設けてもよい。また、発光層5は、発光層5を構成する発光材料よりも低い屈折率の粒子8を、隣接する層との界面に接触しない状態で、発光層6の内部に有している。すなわち、発光層5に含まれる粒子8は、発光層5の界面に存在しておらず、発光層5と隣接する層(本形態ではホール輸送層4及び第2電極7)に接さない構造となっている。
【0025】
基板1としては、基板側片面発光や、両面発光の場合、光を透過させるものであれば特に制限されることなく、適宜の材料の基板1を使用することができる。例えばソーダガラスや無アルカリガラス等のリジッドな透明ガラス板、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート等のフレキシブルな透明プラスチック板など、任意のものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、基板反対側片面発光にしてもよい。この場合、基板1としては、上記のようなリジッドな透明ガラス板、透明プラスチック板、フレキシブルな透明プラスチック板に加え、光の透過性は無いが、優れた強度、低コスト、ガスバリア層、耐薬品性、耐熱性等を持つものを用いることができる。さらに、リジッドな金属板、フレキシブルな金属箔など、導電性を示すものは、電極としての機能を果たす可能性があるため、より好ましい。基板1とは反対面から光を取り出す場合も、発光層5の屈折率を下げることで光取り出し量が向上する。
【0026】
基板1においては、屈折率を、1.5〜1.7程度に設定することができる。また、基板1の厚みを、10〜1000μm程度に設定することができる。
【0027】
第1電極2及び第2電極7の少なくとも一方は、光を取り出すために光透過性の電極として形成される。第1電極2、第2電極7の材料としては、光透過性を持つ電極の場合、金などの金属、CuI、ITO(インジウム−スズ酸化物)、SnO、ZnO、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)、GZO(ガリウム−亜鉛酸化物)などの金属酸化物などが挙げられる。これらの材料を用い、真空蒸着法や、スパッタリング法などによって電極を形成することができる。ITOやIZOの屈折率は、その組成、成膜方法、結晶構造等により変化するが、ITOはおよそ1.7〜2.3であり、IZOはおよそ1.9〜2.4である。
【0028】
また、金属ナノ粒子、金属ナノワイヤーを保持する透過性物質をスピンコート、スクリーン印刷、ディップコート、ダイコート、キャスト、スプレーコート、グラビアコートすることでも光透過性の電極を形成することができる。この透過性物質としては、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン、ポリアクリルニトリル、ポリビニルアセタール、ポリアミド、ポリイミド、ジアクリルフタレート樹脂、セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、その他の熱可塑性樹脂や、これらの樹脂を構成する単量体の2種以上の共重合体が挙げられる。金属ナノ粒子、金属ナノワイヤーなどの導電性を持つ物質としては、銀、金等の金属の微粒子に加え、インジウム−錫酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、錫酸化物等の金属酸化物の微粒子、導電性高分子、導電性の有機材料、ドーパント(ドナーまたはアクセプタ)含有有機材料、導電体と導電性有機材料(高分子含む)の混合物などを挙げることができる。
【0029】
第1電極2又は第2電極7が光透過性を有さない電極の場合、電極材料として、Al、Agなどを用いることができるが、これらと他の電極材料を組み合わせて積層構造などとして構成するものであってもよい。このような電極材料の組み合わせとしては、アルカリ金属とAlまたはAgとの積層体、アルカリ金属のハロゲン化物とAlまたはAgとの積層体、アルカリ金属の酸化物とAlまたはAgとの積層体、アルカリ土類金属や希土類金属とAlまたはAgとの積層体、これらの金属種と他の金属との合金などが挙げられ、具体的には、例えばナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウム、バリウムなどとAlとの積層体、カルシウムとAgとの積層体、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金、LiF/Al混合物/積層体、Al/Al混合物などを例として挙げることができる。上記に挙げた材料や形態は一例であり、これらに限定されるものではない。なお、光透過性電極に対向する電極を光反射性の電極として形成した場合、本実施形態では、この反射性電極で反射した光の全反射ロスも低減することが可能である。
【0030】
第1電極2及び第2電極7の厚みとしては、特に限定されるものではないが、例えば、50〜200nm程度に設定することができる。また、光透過性電極においては、屈折率を、例えば、1.5〜2.4程度に設定することができる。
【0031】
有機層6において、発光層5を形成する発光材料(有機エレクトロルミネッセンス材料)としては、例えば、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、ピラン、キナクリドン、ルブレン、及びこれらの誘導体、あるいは、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、スチリルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、及び、これらの発光性化合物からなる基を分子の一部分に有する化合物あるいは高分子等が挙げられる。また、上記化合物に代表される蛍光色素由来の化合物のみならず、いわゆる燐光発光材料、例えばIr錯体、Os錯体、Pt錯体、ユーロピウム錯体等々の発光材料、又はそれらを分子内に有する化合物若しくは高分子も好適に用いることができる。これらの材料は、必要に応じて、適宜選択して用いることができる。
【0032】
有機層6における発光層5以外の層、具体的には、ホール注入層3及びホール輸送層4、並びに、電子輸送層、電子注入層は、電子又はホールを注入又は輸送する機能を有する適宜の材料で形成することができる。
【0033】
有機層6を構成する各層の厚みとしては、特に限定されるものではないが、例えば、発光層5を10〜100nm程度に、ホール注入層3を10〜100nm程度に、ホール輸送層4を10〜100nm程度に、電子注入層を1〜50nm程度に、電子輸送層を10〜100nm程度に、それぞれ設定することができる。また、有機層6を構成する各層の屈折率としては、特に限定されるものではないが、発光層5を1.6〜2.0程度に、ホール注入層3を1.5〜1.8程度に、ホール輸送層4を1.5〜1.8程度に、それぞれ設定することができる。
【0034】
ここで、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層5に用いられる発光材料は、ベンゼン環をその分子構造内に多く含んだπ共役結合系の材料が多く、その屈折率は1.6〜2.0程度のものが多い。そのため、発光材料よりも屈折率の低い粒子8は、屈折率が1.6より低い物質を用いることが好ましい。屈折率の下限は特にないが、現実的には大気9よりも高いものであり、例えば、1.1より高いものであってよい。
【0035】
粒子8の材料としては、シリカ、炭酸カルシウム、フッ化マグネシウムなどの金属や金属化合物などからなる粒子8が挙げられる。また、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、その他の樹脂や、フッ素を含む低分子化合物などにより構成される粒子8が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0036】
さらに、上記に示した金属や金属化合物などからなる粒子8のなかでも、粒子内に空隙を含み通常(空隙がない場合)よりも低い屈折率を示す、金属化合物や金属酸化物などからなる多孔質粒子がさらに好ましい。これらの多孔質粒子としてはシリカ多孔質粒子が挙げられる。シリカ多孔質粒子としては、中空シリカ、ナノポーラスシリカ、メソポーラスシリカなどが挙げられる。
【0037】
多孔質シリカの屈折率は、その空隙率[体積%]より、
(シリカの屈折率)×(1−空隙率/100) + 空隙率/100
で求められる。
【0038】
この空隙率は高い方が好ましく、例えば、空隙率を20〜40体積%にすることができる。
【0039】
発光層5に混合する発光材料よりも屈折率の低い粒子8は、一般的な有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層5が数十nm〜数百nmであるため、その大きさ(粒径)は10〜100nmが好ましい。なお、粒子8の粒径は、レーザー回折粒度分布計などを用いたレーザー回折散乱法や、電子顕微鏡などにより測定することができる。
【0040】
メソポーラスシリカは、例えば、メソ孔に界面活性剤を有する界面活性剤複合シリカ微粒子を調製し、この界面活性剤複合シリカ微粒子から界面活性剤を抽出して除去することにより製造することができる。具体的には、例えば、まず、水、NH水溶液、エチレングリコール、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)、1,3,5−トリメチルベンゼン(TMB)、テトラエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランを混合し撹拌して界面活性剤複合シリカ微粒子を作製する。次に、イソプロパノール、5N−HCl、ヘキサメチルジシロキサンを混合して攪拌しておき、これに界面活性剤複合シリカ微粒子の合成反応液を添加し、攪拌・還流する。以上の操作により、界面活性剤複合シリカ微粒子から界面活性剤及び疎水部含有添加物が抽出され、粒子表面がトリメチルシリル化されたメソポーラスシリカ微粒子が得られる。そして、トリメチルシリル化後の溶液を遠心分離後、液を除去し、沈殿した固相にエタノールを加え、振とう機で粒子をエタノール中で振とうすることでメソポーラスシリカ微粒子が洗浄される。さらに、作製したメソポーラスシリカ微粒子にイソプロパノールを加えて、振とう機で再分散させることにより、イソプロパノールに分散したメソポーラスシリカ微粒子が得られる。以上の例は、メソポーラスシリカの製法の一例であり、この製法に限定されるものではない。
【0041】
発光層5に含まれる粒子8が、発光層5と隣接する層との界面に接触しないようにするには、図2に示すように、発光層5が複数の領域が積層されて形成されていることが好ましい。具体的には、次のようにして発光層5を形成することができる。まず、基板1の表面に光透過性のある第1電極2、ホール注入層3、ホール輸送層4を順に成膜した積層体を形成する。次に、この積層体のホール輸送層4の表面に対して、発光材料のみを成膜し、発光層5の第1領域51を形成する。そして、発光層5の第1領域51の表面に、発光材料よりも屈折率の低い粒子8のみを積層する。この粒子8の積層は、粒子分散液の塗布や、粒子の吹き付けなどにより行うことができる。そしてさらに、粒子8が積層された表面に、発光材料のみを成膜し、発光層5の第2領域52を形成する。このとき、粒子8は第1領域51に付着したり、粒子8同士で付着したりしているので、第2領域52によって埋め込まれることとなる。そして、第2領域52は、第1領域51との界面に粒子8が存在する領域として形成される。そして、必要に応じ有機層の他の層を積層した後、第2電極7をその上に成膜することで、図2に示すような有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。この有機エレクトロルミネッセンスでは、複数の粒子8が発光層5の内部において略同一平面上に配置されている。また、第1領域51と第2領域52とは同じ発光材料が用いられることによって、積層後は一体化した発光層5を形成する。なお、発光層5の作製方法は、この方法に限定されるものではない。例えば、上記のように作製した発光層5の第1領域51(発光材料領域)の上に、粒子8と発光材料とを混合した混合領域を成膜して形成し、さらにその上に発光材料のみを成膜して発光材料領域を形成するようにしてもよい。
【0042】
発光層5内における粒子8の量としては、特に限定されるものではないが、屈折率の低下と発光性の確保の観点から、例えば、発光層5全体に対しての体積率が、20〜40体積%であることが好ましい。
【0043】
上記の有機エレクトロルミネッセンス素子では、発光層5が発光材料よりも低い屈折率の粒子を含むことで、発光層5の屈折率が低減される。また、発光層5に存在する屈折率の低い粒子8は、発光源10から斜めに高角度に出射した光など、発光源10からの光を全反射しにくいものとすることができる(図3参照)。これは、第1電極2と基板1の界面、及び、基板1と大気9の界面での臨界角を大きくすることができるためであると推測される。また、光の角度を発光層5で変化させて全反射しにくい角度で発光層5から基板1に向かって光を出射するためであると推測される。このように、本実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光層5に粒子8が含まれていることにより、発光層5が発光材料のみからなる場合と比較して、第1電極2から基板1への光取出し量、及び、基板1から大気9への光取出し量を増加させることができるので、光取り出し効率を向上することができるものである。また、低屈折率の粒子8が発光層5と隣接する層との界面に存在しないことで、ダークスポットの発生を抑制することができるものである。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
(低屈折率粒子の調製)
冷却管、攪拌機、温度計を取り付けたセパラブルフラスコに、HO:120g、25%NH水溶液:5.4g、エチレングリコール:20g、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB):1.2g、1,3,5−トリメチルベンゼン(TMB):1.58g(物質量比TMB/CTAB=4)、TEOS:1.29g、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン:0.23gを混合し、60℃で4時間攪拌することで、界面活性剤複合シリカ微粒子を作製した。
【0045】
次に、イソプロパノール:30g、5N−HCl:60g、ヘキサメチルジシロキサン:26gを混合し、72℃で攪拌しておき、界面活性剤複合シリカ微粒子の合成反応液を添加し、30分間攪拌・還流した。以上の操作により、界面活性剤複合シリカ微粒子から界面活性剤及び疎水部含有添加物が抽出され、粒子表面がトリメチルシリル化されたメソポーラスシリカ微粒子を得た。
【0046】
トリメチルシリル化後の溶液を20,000rpm,20分間で遠心分離後、液を除去した。沈殿した固相にエタノールを加え、振とう機で粒子をエタノール中で振とうすることでメソポーラスシリカ微粒子を洗浄した。20,000rpm,20分間で遠心分離し、液を除去しメソポーラスシリカ微粒子を得た。
【0047】
作製したメソポーラスシリカ微粒子0.2gにイソプロパノール3.8gを加えて、振とう機で再分散させたところ、イソプロパノールに分散したメソポーラスシリカ微粒子を得た。メソポーラスシリカ微粒子の粒子径は、約50nmであった。また、同様の方法にて、メソポーラスシリカ微粒子を1−ブタノールに再分散させた溶液を調製した。メソポーラスシリカ微粒子の屈折率(波長650nm)は、1.3であった。
【0048】
(素子の作製)
基板1として無アルカリガラス板(コーニング社製「No.1737」、屈折率1.50〜1.53(波長500nm)、厚み0.7μm)を用いた。この基板1上に、ITO(スズドープ酸化インジウム)ターゲット(東ソー製)を用いてスパッタを行い、膜厚150nmのITO層を形成した。得られたITO層付ガラス基板を、Ar雰囲気下200℃で1時間アニール処理を行い、シート抵抗18Ω/□の第1電極2を形成した。第1電極2の波長650nmでの屈折率をSCI社製FilmTekで測定したところ2.05であった。
【0049】
次に、第1電極2上にポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)(H.C.Starck社製「CLEVIOS P AI4083」、PEDOT:PSS=1:6)を膜厚30nmになるようにスピンコーターで塗布し、150℃で10分間焼成することにより、ホール注入層3を作製した。ホール注入層3の波長650nmでの屈折率をSCI社製FilmTekで測定したところ1.55であった。
【0050】
次に、TFB(Poly[(9,9-dioc tylfluorenyl-2,7-diyl)-co-(4,4’-(N-(4-sec-butylphenyl))diphenylamine)])(アメリカンダイソース社製「HoleTransport Polymer ADS259BE」)をTHF溶媒に溶解した溶液を、ホール注入層3の上に膜厚12nmになるようにスピンコーターで塗布してTFB被膜を作製し、これを200℃で10分間焼成することによって、ホール輸送層4を作製した。ホール輸送層4の波長650nmでの屈折率をSCI社製FilmTekで測定したところ1.7であった。
【0051】
次に、赤色高分子(アメリカンダイソース社製「LightEmittingpolymer ADS111RE」、波長650nmでの屈折率約1.7)をTHF溶媒に溶解した溶液を、ホール輸送層4の上に膜厚が20nmになるようにスピンコーターで塗布し、100℃で10分間焼成することによって、発光層5のうちの、発光材料のみを含む第1領域51を作製した。この第1領域51の上に、上記で調製したメソポーラスシリカを1−ブタノールに分散させた溶液を塗布した。さらにその上に、赤色高分子(アメリカンダイソース社製「Light Emitting polymer ADS111RE」)をTHF溶媒に溶解した溶液を、スピンコーターで塗布し、100℃で10分間焼成することによって、発光層5のうち、発光材料よりも低い屈折率を持つ粒子を、第1領域51との界面に有する第2領域52を作製した。このとき、発光層5の全体の膜厚が100nmになるように成膜した。発光層5の波長650nmでの屈折率をSCI社製FilmTekで測定したところ1.60であった。
【0052】
発光層5の上に電子注入層として、Ba(高純度化学製)を5nmの膜厚で真空蒸着により形成した。そして、電子注入層の上にAl(高純度化学社製)を80nmの膜厚で真空蒸着し、陰極として第2電極7を形成した。これにより有機エレクトロルミネッセンス素子が得られた。
【0053】
この後、上記の各層を形成した基板1を露点−80℃以下のドライ窒素雰囲気のグローブボックスに大気に暴露することなく搬送した。一方、硝子製の封止キャップに吸水剤(ダイニック社製)を貼り付けると共に封止キャップの外周部に紫外線硬化樹脂製のシール剤を塗布したものを予め用意した。そしてグローブボックス内で各層を囲むように封止キャップを基板1にシール剤で張り合わせ、紫外線照射してシール剤を硬化させることによって、各層を封止キャップで封止し、封止された有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0054】
(比較例1)
発光層5について、赤色高分子(アメリカンダイソース社製「Light Emitting polymer ADS111RE」)をTHF溶媒に溶解した溶液を、ホール輸送層4の上に膜厚が100nmになるようにスピンコーターで塗布し、100℃で10分間焼成することによって、発光層5を成膜した。それ以外は、実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。発光層5の波長650nmでの屈折率をSCI社製FilmTekで測定したところ1.70であった。
【0055】
(比較例2)
発光層5について、赤色高分子(アメリカンダイソース社製「Light Emitting polymer ADS111RE」)と、実施例1にて調製したメソポーラスシリカとをTHF溶媒に混合した溶液(発光材料:メソポーラスシリカは体積比で4:1)を、ホール輸送層4の上に膜厚が100nmになるようにスピンコーターで塗布し、100℃で10分間焼成することによって、発光層5を成膜した。それ以外は、実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。発光層5の波長650nmでの屈折率をSCI社製FilmTekで測定したところ1.60であった。
【0056】
(評価)
実施例、比較例で得られた有機エレクトロルミネッセンス素子の特性の評価を表1に示す。
【0057】
表1にみられるように、発光層5に低屈折率の粒子8を含み、発光層5の屈折率を低減させた実施例1の素子は、粒子8を含まない通常の屈折率の発光層5を有する比較例1に比べて、光取出し効率が向上している。また、低屈折率の粒子8が、ホール輸送層4、及び、電子注入層と接している比較例2では、ダークスポットが発生し、光取り出し性を評価することができなかった。
【0058】
【表1】

【符号の説明】
【0059】
1 基板
2 第1電極
3 ホール注入層
4 ホール輸送層
5 発光層
6 有機層
7 第2電極
8 粒子
9 大気
51 第1領域
52 第2領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、第1電極と、発光層を含む有機層と、第2電極とを備え、前記発光層は、当該発光層を構成する発光材料よりも低い屈折率の粒子を、隣接する層との界面に接触しない状態で内部に有することを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光層は、前記粒子を含まない第1領域と、前記粒子を第1領域との界面に含む第2領域とが積層されて形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−248696(P2012−248696A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119538(P2011−119538)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】