説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】光取り出し効率をさらに高めることができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。第一電極又は第二電極が金属含有光反射性電極であり、有機層が一層以上の発光層を有し、金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層における発光領域が金属含有光反射性電極の側に存在する場合に式(1)を満たす。


λは金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の発光ピーク波長、nは金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の屈折率、nは金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層に隣接する1番目の有機層の屈折率、dは1番目の有機層の実膜厚、nはi番目の有機層の屈折率、dはi番目の有機層の実膜厚、nはx番目の有機層の屈折率、dはx番目の有機層の実膜厚を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7は従来の有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示すものであり、これは、基板1、第一電極2、一層以上の有機層3、第二電極4の順に積層して形成されている。有機層3は、第一電極2の側から、ホール注入層9、ホール輸送層10、発光層6、電子注入層12の順に積層して形成されている。図7において、発光層6の発光源から放射された光は屈折率の高い媒質から屈折率の低い媒質へ伝搬する場合、その界面では媒質間の屈折率により、スネルの法則から臨界角が決定され、その臨界角以上の光は界面で全反射する。その際、有機層3の基板1とは逆の側に第二電極4として光反射性の金属を用いることで、発光層6から第二電極4(光反射性の金属)の側に放射された光や、有機層3と基板1との間で全反射された光を基板1の側に反射させることで、それらの一部を外部に取り出すことができる。しかし、発光層6の発光源から放射された光の多くは有機層3内や基板1内に閉じ込められ、導波光として失われる。
【0003】
このとき、基板1の表面に対して垂直方向に振動方向を持つ双極子モーメントから放射されるP偏光成分の光は、第二電極4による光吸収、表面プラズモン励起、有機層3内横伝搬による光吸収により失活する。なお、P偏光は基板1の表面に対して垂直な面を入射面としたとき、その入射面に対して光の電界成分の振動方向が垂直な光成分と定義する。これに対して、入射面に対して電界の振動方向が水平な光成分をS偏光と定義する。また、基板1に対して垂直な双極子モーメントから放射される光をTMモード(Transverse Magnetic Wave)、水平な双極子モーメントから放射される光をTEモード(Transverse Electric Wave)と定義する。
【0004】
上記の失活のうち、図7に示す一般的な有機エレクトロルミネッセンス素子の構造において、発光層6内の発光領域と第二電極4との距離は1/4波長程度で設計されるため、表面プラズモンの励起による光損失が生じることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
固体中のプラズモンとは自由電荷の疎密波であり、有機エレクトロルミネッセンス素子の第二電極4のように自由電荷を持つ物質表面では、表面電荷の集団振動である表面プラズモンが存在する。この集団振動が外部から与えた電磁波と結合した系は、表面プラズモンポラリトン又は表面プラズモンと呼ばれる。この表面波は磁場が横波であるTMモードであるため、TMモードのP偏光成分が第二電極4に入射されることによって表面プラズモンが励起され、入射したTMモードのP偏光成分のエネルギーが表面プラズモンの励起によって奪われる。したがって、表面プラズモンの励起を抑制することによって有機エレクトロルミネッセンス素子の光取り出し効率の向上が期待できる。
【0006】
非特許文献1では有機エレクトロルミネッセンス素子の光エネルギー分布と電子輸送層との関係について計算しているが、着眼点は表面プラズモンではなく基板の屈折率であって、表面プラズモンの抑制を考慮した有機エレクトロルミネッセンス素子は設計されていない。しかも発光波長が単一であり、複数の発光波長を持つ有機エレクトロルミネッセンス素子の設計には不十分である。
【0007】
また、非特許文献2においても、表面プラズモン強度を計算しているが、発光波長が単一であり、干渉効果と表面プラズモン強度の両者を同時に考慮しておらず、光取り出し効率の高い有機エレクトロルミネッセンス素子の構造の設計指針を提示するには至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】第三回次世代照明技術展OSRAM社講演資料
【非特許文献2】三上明義、有機EL討論会第10回例会予稿集、p.55−56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、従来の光学干渉効果による光取り出し効率の向上効果だけでなく、表面プラズモンの抑制を考慮することで、TMモードのP偏光成分を有機層の外部へ取り出して光取り出し効率をさらに高めることができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板、第一電極、一層以上の有機層、第二電極の順に積層して形成された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記第一電極又は前記第二電極が金属材料を含みかつ光反射性を有する金属含有光反射性電極であり、前記有機層が一層以上の発光層を有し、前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層における発光領域が前記金属含有光反射性電極の側に存在する場合に下記式(1)を満たすことを特徴とするものである。
【0011】
【数1】

上記式(1)中、λは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の発光ピーク波長(複数の発光ピーク波長を有する場合には最も長波長側の発光ピーク波長)、nは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の発光ピーク波長での屈折率、nは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の前記金属含有光反射性電極の側に隣接する1番目の有機層の発光ピーク波長での屈折率、dは前記1番目の有機層の実膜厚、nは前記1番目の有機層から数えてi番目の有機層の発光ピーク波長での屈折率、dは前記i番目の有機層の実膜厚、nは前記1番目の有機層から数えてx番目の有機層(前記金属含有光反射性電極に隣接する有機層)の発光ピーク波長での屈折率、dは前記x番目の有機層の実膜厚を示す。
【0012】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板、第一電極、一層以上の有機層、第二電極の順に積層して形成された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記第一電極又は前記第二電極が金属材料を含みかつ光反射性を有する金属含有光反射性電極であり、前記有機層が一層以上の発光層を有し、前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層における発光領域が前記金属含有光反射性電極と逆の側に存在する場合に下記式(2)を満たすことを特徴とするものである。
【0013】
【数2】

上記式(2)中、λは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の発光ピーク波長(複数の発光ピーク波長を有する場合には最も長波長側の発光ピーク波長)、nは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の発光ピーク波長での屈折率、dは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の実膜厚、nは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の前記金属含有光反射性電極の側に隣接する1番目の有機層の発光ピーク波長での屈折率、dは前記1番目の有機層の実膜厚、nは前記1番目の有機層から数えてi番目の有機層の発光ピーク波長での屈折率、dは前記i番目の有機層の実膜厚、nは前記1番目の有機層から数えてx番目の有機層(前記金属含有光反射性電極に隣接する有機層)の発光ピーク波長での屈折率、dは前記x番目の有機層の実膜厚を示す。
【0014】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子において、下記式(3)を満たすことが好ましい。
【0015】
【数3】

【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の光学干渉効果による光取り出し効率の向上効果だけでなく、表面プラズモンの抑制を考慮することで、TMモードのP偏光成分を有機層の外部へ取り出して光取り出し効率をさらに高めることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の他の一例を示す概略断面図である。
【図3】実施例1〜3の有機エレクトロルミネッセンス素子を示す概略断面図である。
【図4】実施例4〜7の有機エレクトロルミネッセンス素子を示す概略断面図である。
【図5】実施例1〜3及び比較例1〜3の有機エレクトロルミネッセンス素子について、発光位置/金属含有光反射性電極間光学距離と全放射束との関係を示すグラフである。
【図6】実施例4〜7及び比較例4〜6の有機エレクトロルミネッセンス素子について、発光位置/金属含有光反射性電極間光学距離と全放射束との関係を示すグラフである。
【図7】従来の有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
(実施形態1)
図1は実施形態1の有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示すものであり、これは、基板1、第一電極2、一層以上の有機層3、第二電極4の順に積層して形成されている。図1では有機層3は、第一電極2の側から、ホール注入層9、ホール輸送層10、発光層6、電子輸送層11、電子注入層12の順に積層して形成されているが、これに限定されるものではなく、さらにホールブロック層及び電子ブロック層(いずれも図示省略)を積層してもよい。
【0020】
また、図1では有機層3は一層の発光層6のみを有しているが、二層以上の発光層6を有していてもよい。この場合、発光層6の層数は特に限定されるものではないが、層数が増大すると光学的及び電気的な素子設計の難易度が増大するので、五層以下であることが好ましく、三層以下であることがより好ましい。また、有機層3が二層以上の発光層6を有する場合には、発光層6同士の間に電荷供給層(図示省略)を介在させることができる。なお、発光層6と電荷供給層との間に他の有機層3が介在していてもよい。
【0021】
ここで、電荷供給層としては、例えば、Ag、Au、Al等の金属薄膜、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化レニウム、酸化タングステン等の金属酸化物、ITO、IZO、AZO、GZO、ATO、SnO等の透明導電膜、いわゆるn型半導体とp型半導体の積層体、金属薄膜もしくは透明導電膜とn型半導体及び/又はp型半導体との積層体、n型半導体とp型半導体の混合物、n型半導体及び/又はp型半導体と金属との混合物等を挙げることができる。n型半導体やp型半導体としては、無機材料であっても、有機材料であってもよく、あるいは有機材料と金属との混合物や、有機材料と金属酸化物や、有機材料と有機系アクセプタ/ドナー材料や、無機系アクセプタ/ドナー材料等の組み合わせによって得られるものであってもよく、特に制限されることなく必要に応じて選定して使用することができる。
【0022】
以下では、図1に示すように、有機層3が一層の発光層6のみを有する有機エレクトロルミネッセンス素子について説明するが、本発明がこれに限定されないのはいうまでもない。
【0023】
基板1としては、例えば、ソーダライムガラスや無アルカリガラス等の透明ガラス板や、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、エポキシ等の樹脂、フッ素系樹脂等から任意の方法によって作製されたプラスチックフィルムやプラスチック板等を用いることができる。また、鉛等の重金属を混合したガラスでもよい。第一電極2から光を取り出す場合(ボトムエミッションの場合)には基板1は透明であるが、第二電極4から光を取り出す場合(トップエミッションの場合)には基板1は透明でも不透明でもよい。
【0024】
第一電極2及び第二電極4は、発光層6にホールを注入するための電極(陽極)又は発光層6に電子を注入するための電極(陰極)である。すなわち、第一電極2が陽極である場合、第二電極4は陰極であり、第一電極2が陰極である場合、第二電極4は陽極である。また第一電極2又は第二電極4のいずれか一方は、金属材料を含み、かつ、光反射性を有する金属含有光反射性電極5である。金属含有光反射性電極5は、自由電荷を持ち、可視光領域の発光において、P偏光成分が入射することによって表面プラズモンが励起され得る。また第一電極2又は第二電極4のいずれか他方は、光透過性を有する光透過性電極8である。すなわち、第一電極2が金属含有光反射性電極5である場合、第二電極4は光透過性電極8であり、第一電極2が光透過性電極8である場合、第二電極4は金属含有光反射性電極5である。第一電極2又は第二電極4が光透過性電極8である場合、その光透過率は70%以上であることが好ましい。
【0025】
第一電極2又は第二電極4がホールを注入する電極(陽極)である場合には、この電極材料は、仕事関数の大きい金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物からなるものであることが好ましく、仕事関数が4eV以上のものであることがより好ましい。このような電極材料としては、例えば、金、銀等の金属、ITO(インジウム−スズ酸化物)、SnO、ZnO、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)、GZO(ガリウム−亜鉛酸化物)等、PEDOT、ポリアニリン等の導電性高分子及び任意のアクセプタ等でドープした導電性高分子、カーボンナノチューブ等の導電性光透過性材料を挙げることができる。第一電極2又は第二電極4は、例えば、上記のような電極材料を用いて基板1又は有機層3の表面に真空蒸着法、スパッタリング法、塗布等の方法により、薄膜状に形成することができる。このとき膜厚を調整することによって、第一電極2又は第二電極4を光透過性電極8又は金属含有光反射性電極5とすることができる。電極材料の材質によるが、例えば、金、銀等の金属であれば、50nm以下の程度で成膜すると光透過性電極8となり、50nmを超える程度で成膜すると金属含有光反射性電極5となる。
【0026】
第一電極2又は第二電極4が電子を注入する電極(陰極)である場合には、この電極材料は、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物からなるものであることが好ましく、仕事関数が5eV以下のものであることがより好ましい。このような電極材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属等及びこれらと他の金属との合金、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウム、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金、Al/LiF混合物を挙げることができる。またアルミニウム、Al/Al混合物等も使用可能である。さらに、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、あるいは金属酸化物を下地として用い、さらに金属等の導電材料を一層以上積層して用いてもよい。例えば、アルカリ金属/Alの積層、アルカリ金属のハロゲン化物/アルカリ土類金属/Alの積層、アルカリ金属の酸化物/Alの積層等が例として挙げられる。また、陰極である第一電極2又は第二電極4と有機層3との界面にリチウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属をドープしてもよい。第一電極2又は第二電極4は、例えば、上記のような電極材料を用いて基板1又は有機層3の表面に真空蒸着法、スパッタリング法、塗布等の方法により、薄膜状に形成することができる。このとき膜厚を調整することによって、第一電極2又は第二電極4を光透過性電極8又は金属含有光反射性電極5とすることができる。電極材料の材質によるが、例えば、50nm以下の程度で成膜すると光透過性電極8となり、50nmを超える程度で成膜すると金属含有光反射性電極5となる。
【0027】
また、第一電極2及び第二電極4のシート抵抗は数百Ω/□以下であることが好ましく、100Ω/□以下であることがより好ましい。ここで、第一電極2及び第二電極4の膜厚は、光透過率やシート抵抗等の特性を制御する場合、電極材料により異なるが、500nm以下であることが好ましく、10〜200nmの範囲であることがより好ましい。
【0028】
以下では、図1に示すように、基板1が光透過性を有し、第一電極2が陽極かつ光透過性電極8であり、第二電極4が陰極かつ金属含有光反射性電極5であるボトムエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス素子について説明するが、本発明がこれに限定されないのはいうまでもない。
【0029】
ホール注入層9は、陽極(図1では第一電極2)からのホールを発光層6に向けて注入するための層である。ホール注入層9を形成するための材料(ホール注入材料)としては、例えば、銅フタロシアニン(CuPc)等の低分子量の有機化合物や、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)等の高分子材料が挙げられるが、この限りではなく、一般に知られる任意のホール注入材料を用いることが可能である。
【0030】
ホール輸送層10は、ホールを発光層6に向けて輸送するための層である。ホール輸送層10を形成するための材料(ホール輸送材料)としては、例えば、ホール輸送性を有する化合物の群から選定することができる。この種の化合物としては、例えば、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、2−TNATA、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)、スピロ−NPD、スピロ−TPD、スピロ−TAD、TNB等を代表例とする、トリアリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物、フルオレン誘導体を含むアミン化合物等を挙げることができるが、一般に知られる任意のホール輸送材料を用いることが可能である。
【0031】
発光層6は、ホールと電子とが再結合して発光する発光領域7を有する層である。ここで、発光層6のホール輸送性が強く、電子輸送性が弱い場合には、図1に示すように、発光領域7は陰極(第二電極4)の側に存在しやすい。逆に、発光層6のホール輸送性が弱く、電子輸送性が強い場合には、後述の図2に示すように、発光領域7は陽極(第一電極2)の側に存在しやすい。発光層6を形成するための材料(発光材料)としては、有機エレクトロルミネッセンス素子用の材料として知られる任意の材料が使用可能である。例えば、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体(Alq3)、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ピラン、ポリフルオレン誘導体、キナクリドン、ルブレン、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ジスチリルアミン誘導体、ポリ(2−メトキシ5−(2’−エチル)ヘキソキシ−フェニレンビニレン)及び各種蛍光色素等、上述の材料系及びその誘導体を始めとするものが挙げられるが、これらに限定するものではない。またこれらの化合物のうちから選択される発光材料を適宜混合して用いることも好ましい。また、上記の化合物に代表される蛍光発光を生じる蛍光発光材料のみならず、スピン多重項からの発光を示す材料系、例えば、燐光発光を生じる燐光発光材料、及びそれらからなる部位を分子内の一部に有する化合物も好適に用いることができる。また、これらの材料からなる発光層6は、蒸着、転写等乾式プロセスによって成膜して形成してもよいし、スピンコート、スプレーコート、ダイコート、グラビア印刷等、塗布によって成膜して形成してもよい。
【0032】
電子輸送層11は、電子を発光層6に向けて輸送するための層である。電子輸送層11を形成するための材料(電子輸送材料)としては、電子輸送性を有する化合物の群から適宜選定することができる。この種の化合物としては、例えば、Alq3等の電子輸送材料として知られる金属錯体や、フェナントロリン誘導体、ピリジン誘導体、テトラジン誘導体、オキサジアゾール誘導体等のヘテロ環を有する化合物等が挙げられるが、この限りではなく、一般に知られる任意の電子輸送材料を用いることが可能である。特に電荷輸送性の高いものを用いることが好ましい。
【0033】
電子注入層12は、陰極(図1では第二電極4)からの電子を発光層6に向けて注入するための層である。電子注入層12を形成するための材料(電子注入材料)としては、例えば、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物、有機化合物及びこれらの混合物からなる材料を用いること可能である。具体的には、電子注入材料としては、アルカリ金属、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属等、及びこれらと他の金属との合金、例えば、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウム、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金、Al/LiF混合物を挙げることができる。また、これらの電子注入材料にリチウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属をドープしてもよい。
【0034】
有機層3を構成する各層は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、塗布等の方法により、薄膜状に形成することができる。
【0035】
実施形態1の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、有機層3が一層以上の発光層6を有する場合、金属含有光反射性電極5に最も近い側に位置する発光層6における発光領域7が金属含有光反射性電極5の側に存在している。これを図1で説明すると、この有機エレクトロルミネッセンス素子において金属含有光反射性電極5は第二電極4(陰極)である。また発光層6は一層のみであり、この発光層6は、ホール輸送性が強く、電子輸送性が弱い材料で形成されているので、発光領域7が、第一電極2(陽極)の側よりも、金属含有光反射性電極5である第二電極4(陰極)の側に存在している。そして、この場合、実施形態1の有機エレクトロルミネッセンス素子は、下記式(1)を満たすものである。
【0036】
【数4】

上記式(1)中、λ、n、n、d、n、d、n、dは次のとおりである。
【0037】
λ:金属含有光反射性電極5に最も近い側に位置する発光層6の発光ピーク波長(複数の発光ピーク波長を有する場合には最も長波長側の発光ピーク波長)、
:金属含有光反射性電極5に最も近い側に位置する発光層6の発光ピーク波長(λ)での屈折率、
:金属含有光反射性電極5に最も近い側に位置する発光層6の金属含有光反射性電極5の側に隣接する1番目の有機層3の発光ピーク波長(λ)での屈折率、
:1番目の有機層3の実膜厚、
:1番目の有機層3から数えてi番目の有機層3の発光ピーク波長(λ)での屈折率、
:i番目の有機層3の実膜厚、
:1番目の有機層3から数えてx番目の有機層3(金属含有光反射性電極5に隣接する有機層3)の発光ピーク波長(λ)での屈折率、
:x番目の有機層3の実膜厚を示す。
【0038】
これを図1で説明すると、発光層6は一層のみであるから、λはこの発光層6の発光ピーク波長を示し、nはこの発光層6の発光ピーク波長(λ)での屈折率を示す。
【0039】
また、発光層6と金属含有光反射性電極5(第二電極4)との間に二層の有機層3(電子輸送層11及び電子注入層12)が積層されているから、i=1、2(=x)である。
【0040】
また、発光層6の金属含有光反射性電極5(第二電極4)の側に隣接する1番目の有機層3は電子輸送層11であるから、nは電子輸送層11の発光ピーク波長(λ)での屈折率を示し、dは電子輸送層11の実膜厚を示す。
【0041】
また、2番目の有機層3(金属含有光反射性電極5に隣接する有機層3)は電子注入層12であるから、nは電子注入層12の発光ピーク波長(λ)での屈折率を示し、dは電子注入層12の実膜厚を示す。
【0042】
そして、図1に示すような有機エレクトロルミネッセンス素子が上記式(1)を満たすと、従来の光学干渉効果による光取り出し効率の向上効果に加えて次のような効果を得ることができる。すなわち、発光層6から放射された光のうち、表面プラズモンの励起によって損失するTMモードのP偏光成分の光を有機層3の外部へ取り出すことができ、光取り出し効率をさらに高めることができるものである。
【0043】
また、実施形態1の有機エレクトロルミネッセンス素子は、下記式(3)を満たすことが好ましい。
【0044】
【数5】

これを図1で説明すると、上述のようにnは発光層6の発光ピーク波長(λ)での屈折率を示し、またi=1、2であるから、nは電子輸送層11の発光ピーク波長(λ)での屈折率を示し、nは電子注入層12の発光ピーク波長(λ)での屈折率を示す。よって、上記式(3)は、n≧n、かつ、n≧nとなる。
【0045】
そして、図1に示すような有機エレクトロルミネッセンス素子が上記式(3)をも満たすと、光取り出し効率をさらに高めることができ、良好な発光特性を得ることができるものである。
【0046】
(実施形態2)
図2は実施形態2の有機エレクトロルミネッセンス素子の他の一例を示すものであり、これは、基板1、第一電極2、一層以上の有機層3、第二電極4の順に積層して形成されている。
【0047】
実施形態2は実施形態1と共通する点が多いので、以下では、共通する点については説明を省略し、相違する点について説明する。
【0048】
実施形態2の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、有機層3が一層以上の発光層6を有する場合、金属含有光反射性電極5に最も近い側に位置する発光層6における発光領域7が金属含有光反射性電極5と逆の側に存在している。これを図2で説明すると、この有機エレクトロルミネッセンス素子において金属含有光反射性電極5は第二電極4(陰極)である。また発光層6は一層のみであり、この発光層6は、ホール輸送性が弱く電子輸送性が強い材料で形成されているので、発光領域7が、金属含有光反射性電極5である第二電極4(陰極)の側よりも、第一電極2(陽極)の側に存在している。そして、この場合、実施形態2の有機エレクトロルミネッセンス素子は、下記式(2)を満たすものである。
【0049】
【数6】

上記式(2)中、λ、n、d、n、d、n、d、n、dは次のとおりである。
【0050】
λ:金属含有光反射性電極5に最も近い側に位置する発光層6の発光ピーク波長(複数の発光ピーク波長を有する場合には最も長波長側の発光ピーク波長)、
:金属含有光反射性電極5に最も近い側に位置する発光層6の発光ピーク波長(λ)での屈折率、
:金属含有光反射性電極5に最も近い側に位置する発光層6の実膜厚、
:金属含有光反射性電極5に最も近い側に位置する発光層6の金属含有光反射性電極5の側に隣接する1番目の有機層3の発光ピーク波長(λ)での屈折率、
:1番目の有機層の実膜厚、
:1番目の有機層から数えてi番目の有機層3の発光ピーク波長(λ)での屈折率、
:i番目の有機層3の実膜厚、
:1番目の有機層3から数えてx番目の有機層3(金属含有光反射性電極5に隣接する有機層3)の発光ピーク波長(λ)での屈折率、
:x番目の有機層3の実膜厚を示す。
【0051】
これを図2で説明すると、発光層6は一層のみであるから、λはこの発光層6の発光ピーク波長を示し、nはこの発光層6の発光ピーク波長(λ)での屈折率を示し、dはこの発光層6の実膜厚を示す。
【0052】
また、発光層6と金属含有光反射性電極5(第二電極4)との間に二層の有機層3(電子輸送層11及び電子注入層12)が積層されているから、i=1、2(=x)である。
【0053】
また、発光層6の金属含有光反射性電極5(第二電極4)の側に隣接する1番目の有機層3は電子輸送層11であるから、nは電子輸送層11の発光ピーク波長(λ)での屈折率を示し、dは電子輸送層11の実膜厚を示す。
【0054】
また、2番目の有機層3(金属含有光反射性電極5に隣接する有機層3)は電子注入層12であるから、nは電子注入層12の発光ピーク波長(λ)での屈折率を示し、dは電子注入層12の実膜厚を示す。
【0055】
そして、図2に示すような有機エレクトロルミネッセンス素子が上記式(2)を満たすと、従来の光学干渉効果による光取り出し効率の向上効果に加えて次のような効果を得ることができる。すなわち、発光層6から放射された光のうち、表面プラズモンの励起によって損失するTMモードのP偏光成分の光を有機層3の外部へ取り出すことができ、光取り出し効率をさらに高めることができるものである。
【0056】
また、実施形態2の有機エレクトロルミネッセンス素子は、下記式(3)を満たすことが好ましい。
【0057】
【数7】

これを図2で説明すると、上述のようにnは発光層6の発光ピーク波長(λ)での屈折率を示し、またi=1、2であるから、nは電子輸送層11の発光ピーク波長(λ)での屈折率を示し、nは電子注入層12の発光ピーク波長(λ)での屈折率を示す。よって、上記式(3)は、n≧n、かつ、n≧nとなる。
【0058】
そして、図2に示すような有機エレクトロルミネッセンス素子が上記式(3)をも満たすと、光取り出し効率をさらに高めることができ、良好な発光特性を得ることができるものである。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0060】
(実施例1)
図3に示す有機エレクトロルミネッセンス素子を次のようにして製造した。
【0061】
まず基板1として厚み0.7mmの無アルカリガラス板(No.1737、コーニング製)を用い、ITO(スズドープ酸化インジウム)ターゲット(東ソー株式会社製)を用いてスパッタを行い、基板1の上に厚み150nmのITO層を形成した。得られたITO層付ガラス基板にAr雰囲気下において200℃で1時間アニール処理を行うことによって、シート抵抗が18Ω/□の第一電極2(陽極かつ光透過性電極8)を形成した。
【0062】
次に、第一電極2の上に、ホール注入材料としてポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)(スタルクヴィテック社製「Baytron P AI4083」、PEDOT:PSS=1:6)を膜厚が40nmになるようにスピンコーターで塗布し、200℃で10分間焼成した後、窒素雰囲気中で1時間冷却することによって、ホール注入層9を形成した。
【0063】
次に、ホール注入層9の上に、発光材料として緑色高分子(住友化学株式会社製「GreenK2」)を膜厚が40nmになるようにスピンコーターで塗布し、100℃で10分間焼成することによって、発光層6を形成した。なお、発光層6の発光ピーク波長(λ)は520nmであり、この波長での発光層6の屈折率(n)を分光エリプソメータで測定したところ、n=1.93であった。
【0064】
次に、発光層6の上に、電子輸送材料として(トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体(Alq3))を光学膜厚331nm(実膜厚d=190nm)になるように真空蒸着することによって、電子輸送層11を形成した。なお、発光ピーク波長(λ=520nm)での電子輸送層11の屈折率(n)を分光エリプソメータで測定したところ、n=1.74であった。
【0065】
次に、電子輸送層11の上に、Al(株式会社高純度化学研究所製)を膜厚が80nmになるように真空蒸着することによって、第二電極4(陰極かつ金属含有光反射性電極5)を形成した。
【0066】
その後、上記の各層を形成した基板1を露点−80℃以下のドライ窒素雰囲気のグローブボックスに大気に暴露することなく搬送した。一方、硝子製の封止キャップに吸水剤(ダイニック株式会社製)を貼り付けると共に封止キャップの外周部に紫外線硬化樹脂製のシール剤を塗布したもの(図示省略)を用意した。そして、グローブボックス内で各層を囲むように封止キャップを基板1にシール剤で張り合わせると共に、紫外線を照射してシール剤を硬化させて各層を封止キャップで封止することによって、実施例1の有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0067】
ここで、図3に示すように、実施例1の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層6は一層であり、この発光層6は、ホール輸送性が強く、電子輸送性が弱い材料で形成されているので、発光領域7は、金属含有光反射性電極5(陰極である第二電極4)の側に存在する。また、λ=520nm、n=1.93、i=x=1、n=1.74、d=190nmであるから、実施例1の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記式(1)及び式(3)を満たしている。
【0068】
(実施例2)
電子輸送層11の光学膜厚を383nm(実膜厚d=220nm)とした以外は、実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。ここで、λ=520nm、n=1.93、i=x=1、n=1.74、d=220nmであるから、実施例2の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記式(1)及び式(3)を満たしている。
【0069】
(実施例3)
電子輸送層11の光学膜厚を435nm(実膜厚d=250nm)とした以外は、実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。ここで、λ=520nm、n=1.93、i=x=1、n=1.74、d=250nmであるから、実施例3の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記式(1)及び式(3)を満たしている。
【0070】
(比較例1)
電子輸送層11の光学膜厚を52nm(実膜厚d=30nm)とした以外は、実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。ここで、λ=520nm、n=1.93、i=x=1、n=1.74、d=30nmであるから、比較例1の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記式(1)を満たしていない。
【0071】
(比較例2)
電子輸送層11の光学膜厚を104nm(実膜厚d=60nm)とした以外は、実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。ここで、λ=520nm、n=1.93、i=x=1、n=1.74、d=60nmであるから、比較例2の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記式(1)を満たしていない。
【0072】
(比較例3)
電子輸送層11の光学膜厚を157nm(実膜厚d=90nm)とした以外は、実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。ここで、λ=520nm、n=1.93、i=x=1、n=1.74、d=90nmであるから、比較例3の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記式(1)を満たしていない。
【0073】
(評価試験1)
実施例1〜3及び比較例1〜3の有機エレクトロルミネッセンス素子において、有機層3から基板1を透過して大気まで到達した発光について全放射束を測定した。その結果を図5に示す。なお、図5において、グラフの横軸の「発光位置/金属含有光反射性電極間光学距離」は、上記式(1)の中央の辺、つまり、下記式(4)の値である。
【0074】
【数8】

図5から明らかなように、上記式(1)及び式(3)を満たす実施例1〜3は、比較例1〜3に比べて全放射束が1.0倍以上であり、特に実施例2は1.43倍である。
【0075】
よって、上記式(1)を満たすように設計すれば、プラズモン励起による光損失を抑制し、良好な発光特性を示す有機エレクトロルミネッセンス素子が得られることが確認された。
【0076】
(実施例4)
図4に示す有機エレクトロルミネッセンス素子を次のようにして製造した。
【0077】
まず基板1として厚み0.7mmの無アルカリガラス板(No.1737、コーニング製)を用い、ITO(スズドープ酸化インジウム)ターゲット(東ソー株式会社製)を用いてスパッタを行い、基板1の上に厚み150nmのITO層を形成した。得られたITO層付ガラス基板にAr雰囲気下において200℃で1時間アニール処理を行うことによって、シート抵抗が18Ω/□の第一電極2(陽極かつ光透過性電極8)を形成した。
【0078】
次に、第一電極2の上に、ホール注入材料としてポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)(スタルクヴィテック社製「Baytron P AI4083」、PEDOT:PSS=1:6)を膜厚が40nmになるようにスピンコーターで塗布し、200℃で10分間焼成した後、窒素雰囲気中で1時間冷却することによって、ホール注入層9を形成した。
【0079】
次に、ホール注入層9の上に、ホール輸送材料としてTFB(Poly[(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl)-co-(4,4'-(N-(4-sec-butylphenyl))diphenylamine)])(アメリカンダイソース社製「Hole Transport Polymer ADS259BE」)をTHF溶媒に溶解した溶液を膜厚が12nmになるようにスピンコーターで塗布してTFB被膜を形成し、これを200℃で10分間焼成することによって、ホール輸送層10を形成した。
【0080】
次に、ホール輸送層10の上に、発光材料として赤色高分子(アメリカンダイソース社製「Light Emitting polymer ATS111RE」)を膜厚が40nm(実膜厚d=40nm)になるようにスピンコーターで塗布し、100℃で10分間焼成することによって、発光層6を形成した。なお、発光層6の発光ピーク波長(λ)は620nmであり、この波長での発光層6の屈折率(n)を分光エリプソメータで測定したところ、n=1.68であった。
【0081】
次に、発光層6の上に、電子輸送材料として(トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体(Alq3))を光学膜厚が398nm(実膜厚d=240nm)になるように真空蒸着することによって、電子輸送層11を形成した。なお、発光ピーク波長(λ=620nm)での電子輸送層11の屈折率(n)を分光エリプソメータで測定したところ、n=1.66であった。
【0082】
次に、電子輸送層11の上に、Al(株式会社高純度化学研究所製)を膜厚が80nmになるように真空蒸着することによって、第二電極4(陰極かつ金属含有光反射性電極5)を形成した。
【0083】
その後、上記の各層を形成した基板1を露点−80℃以下のドライ窒素雰囲気のグローブボックスに大気に暴露することなく搬送した。一方、硝子製の封止キャップに吸水剤(ダイニック株式会社製)を貼り付けると共に封止キャップの外周部に紫外線硬化樹脂製のシール剤を塗布したもの(図示省略)を用意した。そして、グローブボックス内で各層を囲むように封止キャップを基板1にシール剤で張り合わせると共に、紫外線を照射してシール剤を硬化させて各層を封止キャップで封止することによって、実施例4の有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0084】
ここで、図4に示すように、実施例4の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層6は一層であり、この発光層6は、ホール輸送性が弱く、電子輸送性が強い材料で形成されているので、発光領域7は、金属含有光反射性電極5(陰極である第二電極4)と逆の側に存在する。また、λ=620nm、n=1.68、d=40nm、i=x=1、n=1.66、d=240nmであるから、実施例4の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記式(2)及び式(3)を満たしている。
【0085】
(実施例5)
電子輸送層11の光学膜厚を465nm(実膜厚d=280nm)とした以外は、実施例4と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。λ=620nm、n=1.68、d=40nm、i=x=1、n=1.66、d=280nmであるから、実施例5の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記式(2)及び式(3)を満たしている。
【0086】
(実施例6)
電子輸送層11の光学膜厚を532nm(実膜厚d=320nm)とした以外は、実施例4と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。λ=620nm、n=1.68、d=40nm、i=x=1、n=1.66、d=320nmであるから、実施例6の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記式(2)及び式(3)を満たしている。
【0087】
(実施例7)
発光層6の上に、電子輸送材料として2-(4'-tert-Butylphenyl)-5-(4”-bihenyl)-1,3,4-oxadiazole(Bu-PBD)を光学膜厚が408nm(実膜厚d=240nm)になるように真空蒸着することによって、電子輸送層11を形成した以外は、実施例4と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。なお、発光ピーク波長(λ=620nm)での電子輸送層11の屈折率(n)を分光エリプソメータで測定したところ、n=1.70であった。λ=620nm、n=1.68、d=40nm、i=x=1、n=1.70、d=240nmであるから、実施例7の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記式(2)を満たしているが、上記式(3)は満たしていない。
【0088】
(比較例4)
電子輸送層11の光学膜厚を66nm(実膜厚d=40nm)とした以外は、実施例4と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。λ=620nm、n=1.68、d=40nm、i=x=1、n=1.66、d=40nmであるから、比較例4の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記式(2)を満たしていない。
【0089】
(比較例5)
電子輸送層11の光学膜厚を133nm(実膜厚d=80nm)とした以外は、実施例4と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。λ=620nm、n=1.68、d=40nm、i=x=1、n=1.66、d=80nmであるから、比較例5の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記式(2)を満たしていない。
【0090】
(比較例6)
電子輸送層11の光学膜厚を199nm(実膜厚d=120nm)とした以外は、実施例4と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。λ=620nm、n=1.68、d=40nm、i=x=1、n=1.66、d=120nmであるから、比較例6の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記式(2)を満たしていない。
【0091】
(評価試験2)
実施例4〜7及び比較例4〜6の有機エレクトロルミネッセンス素子において、有機層3から基板1を透過して大気まで到達した発光について全放射束を測定した。その結果を図6に示す。なお、図6において、グラフの横軸の「発光位置/金属含有光反射性電極間光学距離」は、上記式(2)の中央の辺、つまり、下記式(5)の値である。
【0092】
【数9】

図6から明らかなように、上記式(2)を満たす実施例4〜7は、比較例4〜6に比べて全放射束が1.0倍以上であり、特に実施例5は1.08倍である。
【0093】
また、上記式(3)をも満たす実施例4〜6と上記式(3)は満たさない実施例7とを対比すると、実施例4〜6の方が実施例7に比べて光取り出し効率が高いことが分かる。
【0094】
よって、上記式(2)及び式(3)を満たすように設計すれば、プラズモン励起による光損失を抑制し、良好な発光特性を示す有機エレクトロルミネッセンス素子が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0095】
1 基板
2 第一電極
3 有機層
4 第二電極
5 金属含有光反射性電極
6 発光層
7 発光領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、第一電極、一層以上の有機層、第二電極の順に積層して形成された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記第一電極又は前記第二電極が金属材料を含みかつ光反射性を有する金属含有光反射性電極であり、前記有機層が一層以上の発光層を有し、前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層における発光領域が前記金属含有光反射性電極の側に存在する場合に下記式(1)を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【数1】

上記式(1)中、λは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の発光ピーク波長(複数の発光ピーク波長を有する場合には最も長波長側の発光ピーク波長)、nは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の発光ピーク波長での屈折率、nは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の前記金属含有光反射性電極の側に隣接する1番目の有機層の発光ピーク波長での屈折率、dは前記1番目の有機層の実膜厚、nは前記1番目の有機層から数えてi番目の有機層の発光ピーク波長での屈折率、dは前記i番目の有機層の実膜厚、nは前記1番目の有機層から数えてx番目の有機層(前記金属含有光反射性電極に隣接する有機層)の発光ピーク波長での屈折率、dは前記x番目の有機層の実膜厚を示す。
【請求項2】
基板、第一電極、一層以上の有機層、第二電極の順に積層して形成された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記第一電極又は前記第二電極が金属材料を含みかつ光反射性を有する金属含有光反射性電極であり、前記有機層が一層以上の発光層を有し、前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層における発光領域が前記金属含有光反射性電極と逆の側に存在する場合に下記式(2)を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【数2】

上記式(2)中、λは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の発光ピーク波長(複数の発光ピーク波長を有する場合には最も長波長側の発光ピーク波長)、nは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の発光ピーク波長での屈折率、dは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の実膜厚、nは前記金属含有光反射性電極に最も近い側に位置する発光層の前記金属含有光反射性電極の側に隣接する1番目の有機層の発光ピーク波長での屈折率、dは前記1番目の有機層の実膜厚、nは前記1番目の有機層から数えてi番目の有機層の発光ピーク波長での屈折率、dは前記i番目の有機層の実膜厚、nは前記1番目の有機層から数えてx番目の有機層(前記金属含有光反射性電極に隣接する有機層)の発光ピーク波長での屈折率、dは前記x番目の有機層の実膜厚を示す。
【請求項3】
下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【数3】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−30585(P2013−30585A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165076(P2011−165076)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】