説明

有機エレクトロルミネッセンス表示パネル

【課題】 高分子化合物膜として、例えば芳香族ポリ尿素膜を用いた従来の有機EL表示パネルでは、可視光領域の光のうち350〜400μmの波長領域の光を吸収し、高分子化合物膜が黄色に着色するという問題があった。
【解決手段】 基板11上に、第1及び第2の各表示電極21、23とこれらの各表示電極間に挟持され有機化合物から構成される1層以上の有機機能層22とを有する有機EL素子2と、有機EL素子及びその周囲の基板表面を覆う高分子化合物膜3と、この高分子化合物膜、その縁部及びその周辺の基板表面を覆う無機バリア膜4とを形成する。この場合、高分子化合物膜として脂肪酸ポリ尿素膜を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、「有機EL」という)素子を用いた有機EL表示パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL表示パネルは、比較的に安価に製造でき、その上、パネル自体の大型化を容易に図れることから、デジタル時計、電話、ラップトップ型コンピュータ、ページャ、携帯電話、計算機などの製品に用いることが有望視されている。一般に、有機EL表示パネルを構成する有機EL素子は、透明な基板表面に順次積層された陽極である透明電極、有機機能層及び陰極である金属電極とから構成され、有機機能層を陽極及び陰極で挟んだ形態で、両電極から注入された電子と正孔が再結合時に形成される励起子が励起状態から基底状態に戻り光を生じさせることで、基板側から発光を得るようになっている。
【0003】
この場合、有機機能層は、例えば、発光層の単一層、あるいは有機正孔輸送層、発光層及び有機電子輸送層の3層構造、または有機正孔輸送層及び発光層の2層構造、さらにこれらの適切な層間に電子或いは正孔の注入層やキャリアブロック層を設けた積層体である。
【0004】
ところで、有機EL素子は、大気に晒されると、水分、酸素などのガス、その他の使用環境中のある種の分子の影響を受けて劣化し易く、特に有機EL素子の電極と有機機能層の界面では特性劣化が顕著に起こり、輝度、色彩などの発光特性が低下する問題がある。
【0005】
この問題を解決するために、ガラスなどの基板表面に、第1及び第2の各表示電極とこれらの各表示電極間に挟持され有機化合物から構成される1層以上の有機機能層とを有する有機EL素子を設けた後、有機EL素子及びその周囲の基板の表面を覆うように高分子化合物膜と、この高分子化合物膜及びその縁部並びにその周囲の基板の表面を覆うように無機バリア膜とを順次積層することが知られている。この場合、高分子化合物膜として、原料モノマーを蒸着重合法により成膜した芳香族ポリ尿素膜が用いられ、無機バリア膜として、窒化シリコン又は窒化酸化シリコン膜が用いられている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−281247号公報(例えば、段落番号0012、0013の記載参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、芳香族ポリ尿素膜から構成される高分子化合物膜を用いた場合、図2に示すように、この芳香族ポリ尿素膜が可視光領域(350〜830nm)の光のうち350〜400μmの波長領域の光を吸収し、高分子化合物膜が黄色に着色するという問題がある。また、無機バリア膜として窒化シリコン又は窒化酸化シリコンを用いた場合、これらの窒化シリコン又は窒化酸化シリコン膜は脆いため、何等かの理由で外方から有機EL表示パネルに外力が加えられたとき、無機バリア膜に亀裂が入り封止性能が低下する虞がある。
【0007】
そこで、本発明の課題は、上記点に鑑み、特定の波長領域の光を受けても着色することが防止され、その上、耐衝撃性を有する有機EL表示パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示パネルは、第1及び第2の各表示電極とこれらの各表示電極間に挟持され有機化合物から構成される1層以上の有機機能層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子と、この有機エレクトロルミネッサンス素子を担持する基板とを備え、前記有機エレクトロルミネッセンス素子及びその周囲の基板表面を覆う高分子化合物膜と、この高分子化合物膜、その縁部及びその周辺の基板表面を覆う無機バリア膜とを設けた有機エレクトロルミネッセンス表示パネルにおいて、前記高分子化合物膜として、脂肪酸ポリ尿素膜を用いたことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、高分子化合物膜として脂肪酸ポリ尿素膜を用いたため、特に350〜400μmの波長領域の光を受けても着色することが抑制され、無色透明な状態を保持できる。
【0010】
この場合、前記脂肪酸ポリ尿素膜は、原料モノマーを蒸着重合法によって成膜したものとすれば、溶媒を使用しないため高純度の高分子化合物膜が得られてよい。
【0011】
前記原料モノマーは、例えば、脂肪族ジアミンモノマー及び脂肪族ジイソシアネートモノマーを含むものとすればよい。
【0012】
また、前記無機バリア膜として、Al、ZrO、MgF及びITOの中から選択したものを用いるのがよい。これによれば、Al、ZrO、MgF及びITOの薄膜は内部応力が小さく、耐屈曲性(可撓性)を有することから、何等かの理由で外方から有機EL表示パネルに外力が加えられたときでもその外力を吸収して高い耐衝撃性を発揮し、その結果、無機バリア膜に亀裂が入って封止性能が低下する虞を抑制できる。また、これらの薄膜は、350〜400μmの波長領域の光をほぼ吸収せず、脂肪酸ポリ尿素膜から構成される高分子化合物膜上に積層することで、特に350〜400μmの波長領域の光を受けても着色することが抑制され、無色透明な状態を保持できる。
【0013】
この場合、前記無機バリア膜は、EB蒸着法によって成膜したものとすれば、内部応力が小さい状態で薄膜形成ができてよい。
【0014】
また、前記高分子化合物膜及び無機バリア膜を交互に複数積層しておけば、特に、高い防湿性能が得られてよい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明の有機EL表示パネルは、特定の波長領域の光を受けても着色することが防止され、その上、耐衝撃性を有するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1乃至図3を参照して、1は、本発明の有機EL表示パネルである。有機EL表示パネル1は、ガラスなどの無機物や高分子化合物などの有機物から選択された基板11を有し、この基板11表面には有機EL素子2が形成される。有機EL素子2は、陽極を構成する第1の表示電極21と、有機化合物から構成される1層以上の有機機能層22と、陰極を構成する第2の表示電極23とを順次積層して構成され、有機機能層22を陽極及び陰極で挟んだ形態になっている。
【0017】
第1の表示電極21は、例えばITO膜から構成され、EB蒸着法、スパッタリング法などの公知の方法で形成され、フォトリソグラフィー工程で所定形状にパターニングされている。有機機能層22は、公知の構造を有し、例えば、蒸着法によって、銅フタロシアニンからなる正孔注入層と、TPD(トリフェニルアミン誘導体)からなる正孔輸送層と、Alq3(アルミキレート錯体)からなる発光層と、Li2O(酸化リチウム)からなる電子注入層とを順次積層して構成されている。第2の表示電極23は、例えばAl膜から構成され、EB蒸着法、スパッタリング法などの公知の方法で形成され、フォトリソグラフィー工程で所定形状にパターニングされている。
【0018】
ところで、有機EL素子2は、大気に晒されると、水分、酸素などのガス、その他の使用環境中のある種の分子の影響を受けて劣化し易く、特に有機EL素子2の表示電極21、23と有機機能層22の界面では特性劣化が顕著に起こり、輝度、色彩などの発光特性が低下する。
【0019】
このため、有機EL素子2及びその周囲の基板3表面を覆う高分子化合物膜3と、この高分子化合物膜3、その縁部及びその周辺の基板11表面を覆う無機バリア膜4とを順次積層すればよいが、特定の波長領域の光を受けても着色することが防止され、その上、耐衝撃性を有するようにする必要がある。
【0020】
本実施の形態では、高分子化合物膜3として脂肪酸ポリ尿素膜を用いることとした。脂肪酸ポリ尿素膜3は、脂肪族ジアミンモノマー及び脂肪族ジイソシアネートモノマーを含む原料モノマーを蒸着重合法によって成膜され、この成膜に際しては、所定の開口を設けたマスクを用いて画素や有機EL素子を含む表示領域よりも大きい範囲で形成される。
【0021】
即ち、真空チャンバ内を所定圧力まで真空排気した後、脂肪族ジアミンモノマー及び脂肪族ジイソシアネートモノマーの各原料モノマーを所定の温度にそれぞれ加熱することで蒸発させて気化させる。次いで、基板11及び有機EL素子2上で接触、反応させて堆積させ、有機分子を重合させる。これにより、以下に示すように、有機EL素子2及びその周囲の基板11表面を覆うように脂肪酸ポリ尿素膜3が所定の厚さで形成される。この場合、脂肪族ポリ尿素膜3の厚さは特に限定されることはないが、無機バリア膜4の応力緩和のため、300nm〜1000nmの範囲とすることが好ましい。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
脂肪族ジアミンモノマーとしては、1,12−ジアミノドデカン、1,10−ジアミノデカン、1,8−ジアミノオクタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどがあげられる。また、脂肪族ジイソシアネートモノマーとしては、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネートなどがあげられる。
【0025】
脂肪酸ポリ尿素膜3上に形成される無機バリア膜4としては、Al、ZrO、MgF及びITOの中から選択され、この無機バリア膜4は、EB蒸着法により形成される。即ち、公知構造のEB蒸着装置を用い、真空チャンバ内を所定圧力まで真空排気した後、真空チャンバ内に酸素やフッ素などの反応性ガスを導入しつつAlやZrなどの金属を電子ビームで加熱することで蒸発させ、脂肪族ポリ尿素膜3上で反応させて堆積させ、脂肪酸ポリ尿素膜3、その縁部及びその周辺の基板11表面を覆うように所望の薄膜を形成する。この場合、無機バリア膜4の厚さは特に限定されることはないが、耐屈曲性及びバリア性を考慮すると、50nm〜200nmの範囲とすることが好ましい。これによれば、元素ごとに蒸着レートを決定でき、薄膜の組成制御が容易になり、プラズマ方式のように薄膜を傷つけてその特性を劣化させることはなく、その上、薄膜の内部応力も小さくできる。
【0026】
この場合、高い防湿性能が得られるように、高分子化合物膜3及び無機バリア膜4を交互に積層する多層構造とすることができ、また、無機バリア膜4の形成に先立って、有機EL素子2上に脂肪族ポリ尿素膜3を真空やN2などの不活性ガス中で有機機能層22にダメージを与えない程度の所定温度以下でアニール処理して、膜中のガス出しを行うようにしてもよい。
【0027】
上記のように、脂肪酸ポリ尿素膜3及び無機バリア膜4を形成することで、特に350〜400μmの波長領域の光を受けても着色することが抑制され、無色透明な状態を保持できる。また、Al、ZrO、MgF及びITOの薄膜は内部応力が小さく、耐屈曲性を有することから、何等かの理由で外方から有機EL表示パネル1に外力が加えられたときでもその外力を吸収することで高い耐衝撃性を発揮し、無機バリア膜4に亀裂が入って封止性能が低下する虞を抑制できる。さらに、これらの薄膜は、350〜400μmの波長領域の光をほぼ吸収せず、脂肪酸ポリ尿素膜3から構成される脂肪酸ポリ尿素膜3上に積層することで、特に350〜400μmの波長領域の光を受けても着色することが抑制され、無色透明な状態を保持できる。
【実施例1】
【0028】
基板として、厚さ50μmのポリエステル(PET)製フィルム基板を用い、このフィルム基板上に、原料モノマーとして、1,12−ジアミノドデカンと、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンとをそれぞれ用い、蒸着重合法で1μmの膜厚で第1の脂肪族ポリ尿素膜を形成した。次いで、この脂肪族ポリ尿素膜上に、EB蒸着法により0.1μmの膜厚でAlの第1の無機バリア膜を積層した。次いで、第1の無機バリア膜上に、上記と同手順で第2の脂肪族ポリ尿素膜、第2の無機バリア膜を上記と同じ膜厚で積層し、さらに、第2の無機バリア膜上に、第3の脂肪族ポリ尿素膜を上記と同じ膜厚で積層して(5層構造)、実施例1の試料Aを得た。
【0029】
また、基板として、上記同様、厚さ50μmのポリエステル(PET)製フィルム基板を用い、このフィルム基板上に、原料モノマーとして、1,12−ジアミノドデカンと、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンとを用い、蒸着重合法で1μmの膜厚で脂肪族ポリ尿素膜を形成した。次いで、この脂肪族ポリ尿素膜上に、EB蒸着法により0.1μmの膜厚でAlを積層し(2層構造)、実施例1の試料Bを得た。
(比較例1)
【0030】
基板として、厚さ50μmのポリエステル(PET)製フィルム基板を用い、このフィルム基板上に、原料モノマーとして、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと、4,4’−ジアミノジフェニルメタンとを用い、蒸着重合法で1μmの膜厚で芳香族ポリ尿素膜を形成した。次いで、この芳香族ポリ尿素膜上に、反応性スパッタリング法により0.1μmの膜厚で窒化シリコン膜を積層し(2層構造)、比較例1の試料を得た。
【0031】
そして、上記各試料について、圧力上昇法(真空 第35巻第3号 P317(1992))により水蒸気透過率を測定し、このときの水蒸気透過率を、ポリエステル(PET)製フィルム基板の水蒸気透過率と共に表1に示す。これによれば、試料Bのものでは、0.1g/mdayの水蒸気透過率が達成され、多層構造とした試料Aのものでは、上記水蒸気透過率の測定限界を超える防湿性能が得られていることが判る。尚、実施例1の試料を、半径30mmの円筒に20回繰り返し巻きつけ、上記同様の測定方法で水蒸気透過率を再度測定したが、その透過率に変化はなかった。これにより、無機バリア膜が、高い耐屈曲性を有し、封止性能が低下する虞を抑制できることが判る。
【0032】
【表1】

【0033】
次いで、実施例1の試料A、試料B及び比較例1の試料の各表面に、10mW/cm2の紫外線強度で紫外線を照射し、波長380mmの光の透過率を測定した。このときの光透過率の測定結果を、紫外線を照射前の各試料の透過率と共に表2に示す。これによれば、比較例1の試料では、紫外線照射後の光透過率が約10%低下し、黄色に変色した。それに対して、試料A及び試料Bでは、紫外線を照射しても光透過率が変化せず、無色透明の状態であることが確認できた。
【0034】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の有機EL表示パネルを説明する断面図。
【図2】従来の有機EL素子の着色を説明する図。
【符号の説明】
【0036】
1 有機EL表示パネル
11 基板
21、23 表示電極
22 有機機能層
3 高分子化合物膜
4 無機バリア膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の各表示電極とこれらの各表示電極間に挟持され有機化合物から構成される1層以上の有機機能層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子と、この有機エレクトロルミネッサンス素子を担持する基板とを備え、前記有機エレクトロルミネッセンス素子及びその周囲の基板表面を覆う高分子化合物膜と、この高分子化合物膜、その縁部及びその周辺の基板表面を覆う無機バリア膜とを設けた有機エレクトロルミネッセンス表示パネルにおいて、前記高分子化合物膜として、脂肪酸ポリ尿素膜を用いたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示パネル。
【請求項2】
前記脂肪酸ポリ尿素膜は、原料モノマーを蒸着重合法によって成膜したものであることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス表示パネル。
【請求項3】
前記原料モノマーは、脂肪族ジアミンモノマー及び脂肪族ジイソシアネートモノマーを含むことを特徴とする請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス表示パネル。
【請求項4】
前記無機バリア膜として、Al、ZrO、MgF及びITOの中から選択したものを用いることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス表示パネル。
【請求項5】
前記無機バリア膜は、EB蒸着法によって成膜したものであることを特徴とする請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス表示パネル。
【請求項6】
前記高分子化合物膜及び無機バリア膜を交互に複数積層したことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス表示パネル。



【図1】
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【図2】
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