説明

有機エレクトロルミネッセンス装置、有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法並びに電子機器

【課題】キャリアの注入効率を向上し、高輝度化及び長寿命化を達成することのできる有機エレクトロルミネッセンス装置を提供する。
【解決手段】本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置1は、燐光材料を含む発光層5と、前記発光層5上に設けられた正孔ブロック層51と、前記発光層5及び前記正孔ブロック層51を含む3層以上の有機層からなる機能層7と、前記機能層7を挟持する一対の電極3,8とを備え、前記機能層7において、前記発光層5と前記正孔ブロック層51との界面を除く前記有機層同士の界面に、当該有機層の有機材料同士が混合した混合層4C,50,52が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燐光材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス装置の製造技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光型のディスプレイとして、発光層に有機発光材料を用いた有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子と称する)の開発が進められている。有機EL素子は、有機発光材料を含む機能層を一対の電極間で挟持し、該一対の電極から注入したキャリアを機能層中で再結合させることによって発光を行う素子である。このような有機EL素子を多数備えてなる有機EL装置は、薄型・軽量といった特徴を有し、次世代のフラットパネルディスプレイとして期待されている。また、下記特許文献1に記載された湿式成膜法によって塗布・成膜を行うようにすれば、機能層を広範囲に均一に成膜することができ、ディスプレイの大型化が可能になる。
【0003】
また、近年では、発光材料の三重項励起状態に起因する燐光を発光に用いるようにした高効率な有機EL素子が提案されており、より消費電力の小さいディスプレイへの応用が期待されている。燐光材料が特に注目されているのは、燐光材料が原理的に高効率化を実現し易い材料と考えられているからである。その理由は、次の通りである。すなわち、キャリア再結合により生成される励起子は1重項励起子と3重項励起子とからなり、その確率は1:3である。1重項を利用した有機EL素子は、1重項励起子から基底状態に遷移する際の蛍光を発光として取り出していたが、原理的にその発光収率は生成された励起子数に対して25%であり、これが原理的上限であった。しかし、3重項から発生する励起子からの燐光を用いれば、原理的に少なくとも3倍の収率が期待され、さらに、エネルギー的に高い1重項から3重項への項間交差による転移を考え合わせれば、原理的には4倍の100%の発光収率が期待できる。
【特許文献1】特開2002−289352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燐光材料を用いた有機EL素子をディスプレイに応用するためには、高効率で高輝度な光出力を確保する必要がある。このためには、ホールブロック層や電子注入層を挿入し、発光層内での励起子閉じ込め効果を向上することが重要となる。また、発光層が担うべき複数の機能を機能毎に分離し、それぞれを別々の層の担わせる機能分離という考え方も重要となる。機能分離の利点としては、機能分離することによって、1種類の有機材料に様々な機能(正孔注入機能、正孔輸送機能、電子ブロック機能、発光機能、正孔ブロック機能、電子輸送機能、電子注入機能等)を同時に持たせる必要がなくなり、分子設計等に幅広い自由度を持たせることができる点にある。つまり、発光特性の良い材料、キャリア輸送性の良い材料等を複数組み合わせることで、容易に高効率化を実現できる点にある。
【0005】
しかしながら、積層構造は、容易にキャリアの結合効率を高めることができ、なおかつ機能分離の観点から、材料選択の幅を広くできるというメリットを有する一方で、有機界面を多数作り出すことによって、キャリアの移動が妨げられ、駆動電圧や発光輝度の低下を引き起こすという問題が指摘されている。一般に、燐光材料を用いた有機EL素子では駆動電圧が高いことが知られているが、これは界面による影響が一因と考えられている。
【0006】
この問題に対して、特許文献1では、隣接する有機層の界面に、それらの有機材料の混合層を形成し、両者の間に明確な有機界面を形成しない方法が開示されている。この方法によれば、有機層と有機層との間に、それらの中間のバンドダイヤグラムを有する有機層(混合層)が形成されるため、各々の有機層の機能を維持しつつ、キャリアの注入障壁を緩和できる。
【0007】
しかしながら、有機界面に混合層を形成すると、それぞれの有機界面の機能が部分に減殺されるため、高機能化を図る上で不利になる場合もある。例えば、燐光材料を用いた有機EL素子では、正孔ブロッキング機能が非常に重要なファクターとなっており、正孔ブロッキング機能が損なわれると、十分な発光特性が得られないことが実験的に明らかとなっている。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、キャリアの注入効率を向上し、高輝度化及び長寿命化を達成することのできる有機エレクトロルミネッセンス装置及びその製造方法を提供することを目的とする。また、そのような有機エレクトロルミネッセンス装置を備えることにより、発光輝度が高く、消費電力の少ない電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置は、燐光材料を含む発光層と、前記発光層上に設けられた正孔ブロック層と、前記発光層及び前記正孔ブロック層を含む3層以上の有機層からなる機能層と、前記機能層を挟持する一対の電極とを備え、前記機能層において、前記発光層と前記正孔ブロック層との界面を除く前記有機層同士の界面に、当該有機層の有機材料同士が混合した混合層が設けられていることを特徴とする。この構成によれば、混合層が必要な部分にのみ選択的に配置されるため、正孔ブロック機能の低下を防止することができる。また、他の有機層の界面には混合層が設けられているので、キャリアの注入効率は最大限高めることができる。
【0010】
ここで、「混合層」とは、混合層を介して積層される第1有機材料と第2有機材料とが所定の割合で混合されている層をいう。第1有機材料と第2有機材料との混合比(濃度)は、混合層内で均一でも良く、連続的に変化していても良い。例えば、第2有機層の形成材料を含む溶液に第1有機層の一部を溶解させて混合層を形成する場合、混合層内には、第1有機層の形成材料と第2有機層の形成材料との混合比が徐々に変化するような濃度勾配が形成される。一方、第1有機層の表面に第1有機層の形成材料と第2有機層の形成材料との混合溶液を配置して混合層を形成する場合には、混合層内には、前記混合溶液の混合比に応じた均一な濃度分布が形成される。
【0011】
本発明においては、前記発光層は、架橋構造を有するホスト材料と、前記燐光材料からなる発光ドーパントとを含むことが望ましい。この構成によれば、発光層が溶媒に溶解しにくい架橋構造を備えているため、発光層上に正孔ブロッキング層の溶液を塗布しても、発光層と正孔ブロック層との界面に混合層は形成されない。したがって、正孔ブロック機能の高い有機EL装置が提供できる。架橋構造としては、2次元又は3次元の網目構造(高分子ネットワーク)が含まれ、溶媒に対する溶解性の観点からは、3次元の網目構造を有することが望ましい。
【0012】
ここで、「ホスト材料」と「発光ドーパント」の意味及び特徴を、以下に記す。
(1)ホスト材料は、ホールと電子の両方を流すことができる材料。
(2)発光ドーパントを具備しない発光層においては、ホスト材料からの発光が観察されるが、発光ドーパントとホスト材料とを併用した場合には、ホスト材料からの発光はほとんど観察されなくなり、発光ドーパントが主として発光するようになる。
(3)ホスト材料と発光ドーパントとを併用した発光層において観察される発光スペクトルは、発光ドーパント中の発光中心の燐光である。ここで言う発光中心とは、発光ドーパントの一部分であって、強い燐光を発することが可能な有機分子骨格を意味し、発光の波形がこの部分によってほぼ決定される部分骨格を意味する。
【0013】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、燐光材料を含む発光層と、前記発光層上に設けられた正孔ブロック層と、前記発光層及び前記正孔ブロック層を含む3層以上の有機層からなる機能層と、前記機能層を挟持する一対の電極とを備えた有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、前記機能層を形成する工程は、前記発光層上に前記正孔ブロック層を形成する工程と、前記発光層以外の第1有機層上に前記正孔ブロック層以外の第2有機層を形成する工程とを含み、前記第1有機層上に前記第2有機層を形成する工程は、前記第1有機層上に、前記第1有機層の形成材料を溶解可能な溶媒と前記第2有機層の形成材料とを含む溶液を配置し、前記溶液を乾燥することにより、前記第1有機層上に前記第2有機層を形成する工程と、前記溶液を乾燥する過程で、前記溶液に前記第1有機層の一部を溶解させることにより、前記第1有機層と前記第2有機層との界面に、前記第1有機層の形成材料と前記第2有機層の形成材料とが混合された混合層を形成する工程とを含むことを特徴とする。この方法によれば、混合層が必要な部分にのみ選択的に配置されるため、正孔ブロック機能の低下を防止することができる。また、他の有機層の界面には混合層が設けられているので、キャリアの注入効率は最大限高めることができる。
【0014】
本発明においては、前記第1有機層上に前記溶液を配置する前に、前記第1有機層をアニール処理する工程と、前記第1有機層を前記第1有機層を溶解可能な溶媒の雰囲気に曝す工程とを含むことが望ましい。或いは、前記第1有機層上に前記溶液を配置する前に、前記第1有機層をアニール処理する工程と、前記第1有機層上に、前記第1有機層を溶解可能な溶媒を配置する工程とを含むことが望ましい。この方法によれば、アニール処理によって、有機材料の配向状態を良好にし、分子間の電気伝導性(ホッピング伝導等)を向上することができる。アニール処理を行うと、第1有機層の表面は緻密化されるため、溶媒に対して難溶性となるが、本発明では、第1有機層の表面を溶媒雰囲気に曝し若しくは第1有機層の表面に溶媒を配置することによって、第1有機層の表面に溶媒を浸透させているため、第1有機層上に第2有機層の溶液を配置した際に容易に第1有機層を溶解することができる。この場合、溶媒が浸透する領域は第1有機層の表層部のみなので、第1有機層の機能は高い状態に維持される。したがって、第1有機層の電気特性を向上しつつ、第1有機層の溶解(混合層の形成)に要する時間を短縮することができる。
【0015】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、燐光材料を含む発光層と、前記発光層上に設けられた正孔ブロック層と、前記発光層及び前記正孔ブロック層を含む3層以上の有機層からなる機能層と、前記機能層を挟持する一対の電極とを備えた有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、前記機能層を形成する工程は、前記発光層上に前記正孔ブロック層を形成する工程と、前記発光層以外の第1有機層上に前記正孔ブロック層以外の第2有機層を形成する工程とを含み、前記第1有機層上に前記第2有機層を形成する工程は、前記第1有機層上に、前記第1有機層の形成材料を溶解可能な第1溶媒と前記第2有機層の形成材料とを含む第1溶液を配置し、前記第1溶液を乾燥することにより、前記第1有機層上に、前記第1有機層と前記第2有機層との混合層を形成する工程と、前記混合層上に、前記第1有機層の形成材料に対する溶解度が前記第1溶媒よりも小さい第2溶媒と前記第2有機層の形成材料とを含む第2溶液を配置し、前記第2溶液を乾燥することにより、前記混合層上に前記第2有機層を形成する工程とを含むことを特徴とする。この方法によれば、混合層が必要な部分にのみ選択的に配置されるため、正孔ブロック機能の低下を防止することができる。また、他の有機層の界面には混合層が設けられているので、キャリアの注入効率は最大限高めることができる。
【0016】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、燐光材料を含む発光層と、前記発光層上に設けられた正孔ブロック層と、前記発光層及び前記正孔ブロック層を含む3層以上の有機層からなる機能層と、前記機能層を挟持する一対の電極とを備えた有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、前記機能層を形成する工程は、前記発光層上に前記正孔ブロック層を形成する工程と、前記発光層以外の第1有機層上に前記正孔ブロック層以外の第2有機層を形成する工程とを含み、前記第1有機層上に前記第2有機層を形成する工程は、前記第1有機層上に、前記第1有機層の形成材料及び前記第2有機層の形成材料を含む第1溶液を配置し、該第1溶液を乾燥することにより、前記第1有機層上に、前記第1有機層の形成材料と前記第2有機層の形成材料とが混合された混合層を形成する工程と、前記混合層上に、前記第2有機層の形成材料を含む第2溶液を配置し、該第2溶液を乾燥することにより、前記混合層上に前記第2有機層を形成する工程とを含むことを特徴とする。この方法によれば、混合層が必要な部分にのみ選択的に配置されるため、正孔ブロック機能の低下を防止することができる。また、他の有機層の界面には混合層が設けられているので、キャリアの注入効率は最大限高めることができる。
【0017】
本発明においては、前記第2溶液に含まれる溶媒の前記第1有機層に対する溶解度は、前記第1溶液に含まれる溶媒の前記第1有機層に対する溶解度よりも小さいことが望ましい。この方法によれば、第1有機層からの溶出が抑えられるため、混合層内の第1有機層の形成材料の濃度分布を混合層の厚み方向において略均一なものとすることができる。
【0018】
本発明においては、前記発光層上に前記正孔ブロック層を形成する前に、前記発光層をアニール処理することが望ましい。この方法によれば、アニール処理によって、発光層の発光特性を良好にすることができる。また、アニール処理を行うと、発光層の表面は緻密化されるため、溶媒に対して難溶な層となり、正孔ブロック層の溶液を配置しても、容易に溶解されなくなる。したがって、発光層と正孔ブロック層との境界部に明確な界面が形成され、正孔ブロック機能が最大限向上する。
【0019】
本発明においては、前記発光層の形成工程は、基板上に前記燐光材料と架橋性材料とを含む溶液を配置する工程と、前記架橋性材料を架橋させる工程とを含むことが望ましい。この方法によれば、発光層に溶媒に溶解しにくい架橋構造を形成できるため、発光層上に正孔ブロッキング層の溶液を塗布しても、発光層と正孔ブロック層との界面に混合層が形成されなくなる。したがって、正孔ブロック機能の高い有機EL装置が提供できる。
【0020】
本発明においては、前記正孔ブロック層の形成工程に用いる溶媒は、前記発光層を溶解しない溶媒であることが望ましい。この方法によれば、アニール処理等の付加的な工程を行わずに、容易に本発明の構造を実現できる。
【0021】
本発明の電子機器は、前述した本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置又は前述した本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法により製造されてなる有機エレクトロルミネッセンス装置を備えたことを特徴とする。この構成によれば、発光輝度が高く、消費電力の少ない電子機器が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではない。下記の実施形態において、各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0023】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の一実施形態である有機EL装置1の概略構成図である。有機EL装置1は、基板2上に、第1電極3、機能層7及び第2電極8を備えている。機能層7は、正孔注入輸送層4、発光層5、正孔ブロック層51、及び電子注入輸送層6からなる複数の有機層を備えており、第1電極3、機能層7及び第2電極8によって、発光素子である有機EL素子9が構成されている。本実施形態の場合、第1電極3は陽極であり、第2電極8は陰極であるが、第1電極3を陰極、第2電極8を陽極としても良い。第1電極3としては、ITO(インジウム錫酸化物)が用いられ、第2電極8としては、LiF(フッ化リチウム)と、Mag、Ca又はBaの共蒸着膜の上にAlの膜を蒸着したものが用いられるが、電極の材料はこれに限定されない。
【0024】
正孔注入輸送層4は、陽極側から、正孔注入層4Aと正孔輸送層4Bとを備えている。正孔注入層4Aは、陽極から発光層5に正孔を注入することが可能な公知の材料を含む。具体的には、スターバーストアミン、オリゴアミン等(特開平3−308688号公報、WO96/22273号パンフレットを参照)を用いることができる。正孔輸送層4Bは、発光層5に対して正孔を輸送することが可能な公知の材料を含む。具体的には、トリフェニルアミン系の材料を用いることができる。
【0025】
正孔注入層4Aと正孔輸送層4Bとの間には、正孔注入層4Aの形成材料(正孔注入層形成材料)と正孔輸送層4Bの形成材料(正孔輸送層形成材料)との混合材料からなる混合層4Cが設けられている。混合層4Cは、正孔の注入に関して、正孔注入層4Aと正孔輸送層4Bとの中間のバンドダイヤグラムを有する層であり、正孔注入層4Aから正孔輸送層4Bへの正孔の注入障壁を緩和する機能を有する。混合層4C内での正孔注入層形成材料と正孔輸送層形成材料との混合比(濃度)は、混合層4C内で均一でも良く、連続的に変化していても良い。
【0026】
発光層5は、燐光を発光することが可能な公知の発光材料(燐光材料)を含む。具体的には、PtOEP(白金ポルフィリン錯体)、BtpIr(イリジウム錯体)、PAT(ポリアルキルチオフェン)、Ir(ppy)(イリジウム錯体)、FIrpic(イリジウム錯体)誘導体等を用いることができる。PtOEP、BtpIr、PATは赤色燐光材料であり、Ir(ppy)は緑色燐光材料であり、FIrpicは青色燐光材料である。発光層5は、ホスト材料としてCBP(4,4−ジカルバゾール−4,4−ビフェニル)等を含んでも良い。ホスト材料中に燐光材料を発光ドーパントとして含むことにより、発光効率の高い有機EL装置が提供できる。
【0027】
発光層5と正孔注入輸送層4との間には、発光層5の形成材料(発光層形成材料)と正孔注入輸送層4の形成材料(正孔注入輸送層形成材料)との混合材料からなる混合層50が設けられている。本実施形態の場合、発光層5と正孔注入輸送層4との界面には正孔輸送層4Bが設けられているので、混合層50は発光層5の形成材料と正孔輸送層4Bの形成材料(正孔輸送層形成材料)との混合材料によって構成されている。混合層50は、正孔の注入に関して、発光層5と正孔注入輸送層4(本実施形態の場合、正孔輸送層4B)との中間のバンドダイヤグラムを有する層であり、正孔注入輸送層4から発光層5への正孔の注入障壁を緩和する機能を有する。混合層50内での発光層形成材料と正孔注入輸送層形成材料(本実施形態の場合、正孔輸送層形成材料)との混合比(濃度)は、混合層50内で均一でも良く、連続的に変化していても良い。
【0028】
正孔ブロック層51は、正孔の注入に関して発光層5よりも高いバンド障壁を有する公知の材料を含む。具体的には、トリアゾール誘導体、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン等を用いることができる。正孔ブロック層51は、正孔注入輸送層4から発光層5に輸送された正孔が発光層内で再結合せずに陰極側に流れてしまうことを防止する機能を有する。正孔ブロック層51と発光層5との間には混合層は形成されておらず、明確な界面が存在する。
【0029】
電子注入輸送層6は、陰極から発光層5に電子を注入及び輸送することが可能な公知の材料を含む。具体的には、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導阿智、フェナンソロリン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン誘導体、フルオレン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン誘導体、ジフェノキノン誘導体、ヒドロキシキノリン誘導体の金属錯体等を用いることができる。
【0030】
電子注入輸送層6と正孔ブロック層51との間には、電子注入輸送層6の形成材料(電子注入輸送層形成材料)と正孔ブロック層51の形成材料(正孔ブロック層形成材料)との混合材料からなる混合層52が設けられている。混合層52は、電子の注入に関して、電子注入輸送層6と正孔ブロック層51との中間のバンドダイヤグラムを有する層であり、電子注入輸送層6から正孔ブロック層51への電子の注入障壁を緩和する機能を有する。混合層52内での電子注入輸送層形成材料と正孔ブロック層形成材料との混合比(濃度)は、混合層52内で均一でも良く、連続的に変化していても良い。
【0031】
次に、図2〜図5を用いて有機EL装置1の製造方法を説明する。まず、図2(a)に示すように、第1電極3が形成された基板2上に、インクジェット法、スピンコート法等の湿式成膜法を用いて、正孔注入層形成材料を含む溶液を配置し、該溶液を減圧乾燥(常温、10−2〜10−6Torr)することにより、正孔注入層4Aを形成する。該溶液の溶媒としては、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン等の無極性溶媒が用いられる。この溶媒は、一般的に有機EL素子の作製に用いられるもので良い。減圧乾燥により、溶液中に含まれる溶媒のうち90%〜99%程度が除去される。この乾燥工程では、正孔注入層4A中の溶媒は完全には除去しない。僅かに溶媒を含んだ状態とすることで、再溶解が容易な状態となる。
【0032】
減圧乾燥を行った後、アニール処理を行っても良い。アニール処理を行うことで、正孔注入層4Aの電気特性を向上することができる。この場合、アニール処理によって正孔注入層4Aは溶媒に対して再溶解しにくい状態となるため、アニール処理後、正孔注入層4Aを溶解可能な溶媒に接触させ、正孔注入層4Aの表面に溶媒を浸透させることが望ましい。溶媒に接触させる方法としては、正孔注入層4Aを溶媒雰囲気に曝す方法と、正孔注入層4A上にインクジェット法、スピンコート法等を用いて溶媒を直接配置する方法が挙げられる。こうすることで、再溶解が容易な状態となる。
【0033】
ここで用いる溶媒としては、正孔注入層4Aの形成工程で用いた溶媒のみならず、当該溶媒と相溶性のある溶媒を用いることができる。具体的には、上述したシクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン等の無極性溶媒が用いられる。溶媒に接触させる時間は、正孔注入層形成材料によって最適化される。例えば、溶媒雰囲気に曝す場合には、5分以上が良い。
【0034】
次に、図2(b)に示すように、正孔注入層4A上に、インクジェット法、スピンコート法等の湿式成膜法を用いて、正孔輸送層形成材料を含む溶液60を配置する。溶液60の溶媒としては、正孔注入層4Aを溶解可能な溶媒、すなわち正孔注入層4Aの形成工程で用いた溶媒と相溶性のある溶媒が用いられる。具体的には、上述したシクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン等の無極性溶媒が用いられる。
【0035】
溶液60を正孔注入層4A上に塗布して放置すると、図2(c)に示すように、正孔注入層4Aの表層部が溶解され、正孔注入層4Aの表面に正孔注入層形成材料と正孔輸送層形成材料との混合領域61が形成される。混合領域61の厚みは、溶液60の放置時間によって決定される。
【0036】
次に、図2(d)に示すように、溶液60を減圧乾燥(常温、10−2〜10−6Torr)することにより、正孔輸送層4Bを形成する。減圧乾燥により、混合領域61中の溶媒も除去され、正孔注入層4Aと正孔輸送層4Bとの界面に、正孔注入層形成材料と正孔輸送層形成材料との混合材料からなる混合層4Cが形成される。なお、混合領域61内には、正孔注入層形成材料と正孔輸送層形成材料との混合比が混合領域61の厚み方向に徐々に変化する濃度勾配が形成されるため、混合層4C内にも、正孔注入層形成材料と正孔輸送層形成材料との混合比が徐々に変化するような濃度勾配が形成される。
【0037】
減圧乾燥により、溶液60中に含まれる溶媒のうち90%〜99%程度が除去される。この乾燥工程では、正孔輸送層4B中の溶媒は完全には除去しない。僅かに溶媒を含んだ状態とすることで、再溶解が容易な状態となる。
【0038】
減圧乾燥を行った後、アニール処理を行っても良い。アニール処理を行うことで、正孔輸送層4Bの電気特性を向上することができる。この場合、アニール処理によって正孔輸送層4Bは溶媒に対して再溶解しにくい状態となるため、アニール処理後、正孔輸送層4Bを溶解可能な溶媒に接触させ、正孔輸送層4Bの表面に溶媒を浸透させることが望ましい。溶媒に接触させる方法としては、正孔輸送層4Bを溶媒雰囲気に曝す方法と、正孔輸送層4B上にインクジェット法、スピンコート法等を用いて溶媒を直接配置する方法が挙げられる。こうすることで、再溶解が容易な状態となる。
【0039】
ここで用いる溶媒としては、正孔輸送層4Bの形成工程で用いた溶媒のみならず、当該溶媒と相溶性のある溶媒を用いることができる。具体的には、上述したシクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン等の無極性溶媒が用いられる。溶媒に接触させる時間は、正孔輸送層形成材料によって最適化される。例えば、溶媒雰囲気に曝す場合には、5分以上が良い。
【0040】
次に、図3(a)に示すように、正孔輸送層4B上に、インクジェット法、スピンコート法等の湿式成膜法を用いて、発光層形成材料を含む溶液62を配置する。溶液62の溶媒としては、正孔輸送層4Bを溶解可能な溶媒、すなわち正孔輸送層4Bの形成工程で用いた溶媒と相溶性のある溶媒が用いられる。具体的には、上述したシクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン等の無極性溶媒が用いられる。
【0041】
溶液62を正孔輸送層4B上に塗布して放置すると、図3(b)に示すように、正孔輸送層4Bの表層部が溶解され、正孔輸送層4Bの表面に正孔輸送層形成材料と発光層形成材料との混合領域63が形成される。混合領域63の厚みは、溶液62の放置時間によって決定される。
【0042】
次に、図3(c)に示すように、溶液62を減圧乾燥(常温、10−2〜10−6Torr)することにより、発光層5を形成する。減圧乾燥により、混合領域63中の溶媒も除去され、正孔輸送層4Bと発光層5との界面に、正孔輸送層形成材料と発光層形成材料との混合材料からなる混合層50が形成される。なお、混合領域63内には、正孔輸送層形成材料と発光層形成材料との混合比が混合領域63の厚み方向に徐々に変化する濃度勾配が形成されるため、混合層50内にも、正孔輸送層形成材料と発光層形成材料との混合比が徐々に変化するような濃度勾配が形成される。
【0043】
減圧乾燥により、溶液62中に含まれる溶媒のうち90%〜99%程度が除去される。減圧乾燥を行ったら、アニール処理(100℃、10分程)を行う。これにより、発光層5内に残留する溶媒を完全に除去する。溶媒を完全に除去することにより、再溶解が発生しにくい状態となる。
【0044】
溶液62としては、燐光材料と架橋性材料とを含む溶液を用いることもできる。この場合、架橋性材料を架橋させることで、発光層5内に2次元又は3次元の高分子ネットワーク(架橋構造)を形成することができる。高分子ネットワークは溶媒に対して不溶な構造であるため、発光層5も溶媒に対して不溶な層となる。架橋性材料は、ホスト材料の前駆体であることが望ましい。これにより、架橋構造を有するホスト材料と、燐光材料からなる発光ドーパントとを含む高効率な発光層5が形成できる。
【0045】
次に、図4(a)に示すように、発光層5上に、インクジェット法、スピンコート法等の湿式成膜法を用いて、正孔ブロック層形成材料を含む溶液を配置し、該溶液を減圧乾燥(常温、10−2〜10−6Torr)することにより、正孔ブロック層51を形成する。。該溶液の溶媒としては、発光層5を溶解可能な溶媒、すなわち発光層5の形成工程で用いた溶媒と相溶性のある溶媒が用いられる。具体的には、上述したシクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン等の無極性溶媒が用いられる。発光層5は、アニール処理によって該溶媒に溶解しにくい状態となっているので、発光層5と正孔ブロック層51との間には混合層は形成されず、両者の間には明確な界面が形成される。減圧乾燥により、溶液中に含まれる溶媒のうち90%〜99%程度が除去される。この乾燥工程では、正孔ブロック層51中の溶媒は完全には除去しない。僅かに溶媒を含んだ状態とすることで、再溶解が容易な状態となる。
【0046】
減圧乾燥を行った後、アニール処理を行っても良い。アニール処理を行うことで、正孔ブロック層51の電気特性を向上することができる。この場合、アニール処理によって正孔ブロック層51は溶媒に対して再溶解しにくい状態となるため、アニール処理後、正孔ブロック層51を溶解可能な溶媒に接触させ、正孔ブロック層51の表面に溶媒を浸透させることが望ましい。溶媒に接触させる方法としては、正孔ブロック層51を溶媒雰囲気に曝す方法と、正孔ブロック層51上にインクジェット法、スピンコート法等を用いて溶媒を直接配置する方法が挙げられる。こうすることで、再溶解が容易な状態となる。
【0047】
ここで用いる溶媒としては、正孔ブロック層51の形成工程で用いた溶媒のみならず、当該溶媒と相溶性のある溶媒を用いることができる。具体的には、上述したシクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン等の無極性溶媒が用いられる。溶媒に接触させる時間は、正孔ブロック層形成材料によって最適化される。例えば、溶媒雰囲気に曝す場合には、5分以上が良い。
【0048】
次に、図4(b)に示すように、正孔ブロック層51上に、インクジェット法、スピンコート法等の湿式成膜法を用いて、電子注入輸送層形成材料を含む溶液64を配置する。溶液64の溶媒としては、正孔ブロック層51を溶解可能な溶媒、すなわち正孔ブロック層51の形成工程で用いた溶媒と相溶性のある溶媒が用いられる。具体的には、上述したシクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン等の無極性溶媒が用いられる。
【0049】
溶液64を正孔ブロック層51上に塗布して放置すると、図4(c)に示すように、正孔ブロック層51の表層部が溶解され、正孔ブロック層51の表面に正孔ブロック層形成材料と電子注入輸送層形成材料との混合領域65が形成される。混合領域65の厚みは、溶液64の放置時間によって決定される。
【0050】
次に、図5(a)に示すように、溶液64を減圧乾燥(常温、10−2〜10−6Torr)することにより、電子注入輸送層6を形成する。減圧乾燥により、混合領域65中の溶媒も除去され、電子注入輸送層6と正孔ブロック層51との界面に、電子注入輸送層形成材料と正孔ブロック層形成材料との混合材料からなる混合層52が形成される。なお、混合領域65には、正孔ブロック層形成材料と電子注入輸送層形成材料との混合比が混合領域65の厚み方向に徐々に変化する濃度勾配が形成されるため、混合層52内にも、正孔ブロック層形成材料と電子注入輸送層形成材料との混合比が徐々に変化するような濃度勾配が形成される。
【0051】
減圧乾燥により、溶液64中に含まれる溶媒のうち90%〜99%程度が除去される。減圧乾燥を行ったら、アニール処理(100℃、10分程)を行う。これにより、電子注入輸送層6内に残留する溶媒を完全に除去する。
【0052】
次に、図5(b)に示すように、電子注入輸送層6上にインクジェット法、スピンコート法等の湿式成膜法、或いは真空蒸着法等の乾式成膜法を用いて、第2電極8を形成する。以上により、有機EL装置1が完成する。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の有機EL装置1においては、機能層7において、発光層5と正孔ブロック層51との界面を除く有機層同士の界面に、当該有機層の有機材料同士が混合した混合層が設けられている。このため、正孔ブロック機能の低下を防止しつつ、キャリアの注入効率を最大限高めることができる。
【0054】
なお、本実施形態では、発光層5の表面を不溶化処理することにより、発光層5と正孔ブロック層51との間に明確な界面を設けた。不溶化処理としては、発光層5の表面をアニール処理すること、発光層5に架橋構造を形成すること、の2つの処理を挙げた。しかし、このような不溶化処理を行わなくても、正孔ブロック層51を形成するための溶媒の種類を適切に選択することで、発光層5と正孔ブロック層51との間に明確な界面を設けることもできる。例えば、発光層5の溶媒をトリメチルベンゼンとし、正孔ブロック層51の溶媒をシクロヘキシルベンゼンとした場合、シクロヘキシルベンゼンは、発光層4の形成材料によっては全く溶解しないか或いは低い溶解性しか示さないため、発光層5上に当該溶媒を配置しても、溶媒中に発光層5は殆ど溶解せず、両者の間に明確な界面が形成される場合がある。すなわち、発光層5の溶媒と正孔ブロック層51の溶媒が互いに相溶性のある溶媒同士であっても、対象となる有機層に対して溶解度に差がある場合には、その差を利用して、2つの有機層の間に混合が生じないようにすることができる。
【0055】
[第2の実施の形態]
図6は、混合層を形成する方法の第2の実施形態である。図6では、正孔注入層4A上に正孔輸送層4B及び混合層4Cを形成する方法のみを示すが、正孔輸送層4C上に発光層及び混合層を形成する方法や正孔ブロック層上に電子注入輸送層及び混合層を形成する方法も同様である。また、これ以外の工程は、第1実施形態の方法と同一であるとし、詳細な説明は省略する。
【0056】
本実施形態では、まず図6(a)に示すように、正孔注入層4A上に、インクジェット法、スピンコート法等の湿式成膜法を用いて、正孔輸送層形成材料を含む第1溶液66を配置する。第1溶液66の溶媒(第1溶媒)としては、正孔注入層4Aを溶解可能な溶媒が用いられる。具体的には、上述したシクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン等の無極性溶媒が用いられる。
【0057】
正孔注入層4Aには、アニール処理等の不溶化処理は行っていないため、第1溶液66を正孔注入層4A上に塗布して放置すると、図6(b)に示すように、正孔注入層4Aの表層部が溶解され、正孔注入層4Aの表面に正孔注入層形成材料と正孔輸送層形成材料との混合領域67が形成される。混合領域67の厚みは、第1溶液66の放置時間によって決定される。
【0058】
次に、図6(c)に示すように、第1溶液66を減圧乾燥(常温、10−2〜10−6Torr)することにより、第1正孔輸送層4B1を形成する。減圧乾燥により、混合領域61中の溶媒も除去され、正孔注入層4Aと第1正孔輸送層4B1との界面に、正孔注入層形成材料と正孔輸送層形成材料との混合材料からなる混合層4Cが形成される。なお、混合領域67内には、正孔注入層形成材料と正孔輸送層形成材料との混合比が混合領域67の厚み方向に徐々に変化する濃度勾配が形成されるため、混合層4C内にも、正孔注入層形成材料と正孔輸送層形成材料との混合比が徐々に変化するような濃度勾配が形成される。
【0059】
次に、図6(d)に示すように、第1正孔輸送層4B1上に、インクジェット法、スピンコート法等の湿式成膜法を用いて、正孔輸送層形成材料を含む第2溶液を配置し、該第2溶液を減圧乾燥(常温、10−2〜10−6Torr)することにより、第2正孔輸送層4B2を形成する。第2溶液の溶媒(第2溶媒)としては、正孔注入層4Aに対する溶解度が第1溶液に含まれる第1溶媒よりも小さい溶媒が用いられる。このような溶媒としては、シクロヘキシルベンゼン等が挙げられる。シクロヘキシルベンゼンは、発光層4の形成材料によっては、極めて低い溶解性しか示さない場合がある。以上により、第1正孔輸送層4B1と第2正孔輸送層4B2とからなる2層構造の正孔輸送層4Bが形成される。
【0060】
この方法においては、混合層4C内における正孔輸送層形成材料の濃度と正孔輸送層4Bの厚みとを別個に制御できるため、プロセスの自由度が高くなる。例えば、正孔輸送層4Bを厚く形成したい場合、第1実施形態の方法では、溶液60内の正孔輸送層形成材料の濃度を大きくしなければならないが、この場合、混合層4C内における正孔輸送層形成材料の濃度も高くなってしまうため、要求性能に応じて両者を適切に制御することができない。しかし、本実施形態の方法では、第2溶液における正孔輸送層形成材料の濃度を高くして正孔輸送層4Bの厚みを大きくしつつ、第1溶液66中の正孔輸送層形成材料の濃度を小さくして、混合層4C内の正孔輸送層形成材料の濃度を小さくすることが可能である。このため、要求性能に応じた適切な制御が可能となる。
【0061】
[第3の実施の形態]
図7は、混合層を形成する方法の第3の実施形態である。図7では、正孔注入層4A上に正孔輸送層4B及び混合層4Cを形成する方法のみを示すが、正孔輸送層4C上に発光層及び混合層を形成する方法や正孔ブロック層上に電子注入輸送層及び混合層を形成する方法も同様である。また、これ以外の工程は、第1実施形態の方法と同一であるとし、詳細な説明は省略する。
【0062】
本実施形態では、まず図7(a)に示すように、正孔注入層4A上に、インクジェット法、スピンコート法等の湿式成膜法を用いて、正孔輸送層形成材料及び正孔注入層形成材料を含む第1溶液を配置し、該溶液を減圧乾燥(常温、10−2〜10−6Torr)することにより、混合層4Cを形成する。
【0063】
正孔注入層4Aには、アニール処理等の不溶化処理は行っていないため、混合層4Cには、正孔注入層4Aの一部が混入している。この混入量は、第1溶液の溶媒を適切に選択することで、制御することができる。例えば、第1溶液の溶媒を、正孔注入層形成材料に対して溶解度が低く、正孔輸送層形成材料に対して溶解度の高い溶媒(例えば、シクロヘキシルベンゼン)を用いることで、正孔注入層4Aからの溶出を抑えることができる。この場合、混合層4C内の正孔注入層形成材料の濃度分布は混合層4Cの厚み方向において略均一なものとなる。
【0064】
次に、図7(b)に示すように、混合層4C上に、インクジェット法、スピンコート法等の湿式成膜法を用いて、正孔輸送層形成材料を含む第2溶液を配置し、該第2溶液を減圧乾燥(常温、10−2〜10−6Torr)することにより、正孔輸送層4Bを形成する。第2溶液に含まれる溶媒の正孔注入層4Aに対する溶解度は、第1溶液に含まれる溶媒の正孔注入層4Aに対する溶解度よりも小さいことが望ましい。こうすることで、正孔注入層4Aが第2溶液に溶解しにくくなり、混合層4C内における正孔注入層形成材料の濃度勾配を均一に制御することができる。
【0065】
本実施形態においては、第1溶液として、正孔注入層形成材料と正孔輸送層形成材料とを含む溶液を用いている、このため、確実に混合層4Cを形成することができる。また、第1溶液に含まれる溶媒を適切に選択することによって、混合層4C内における正孔注入層形成材料と正孔輸送層形成材料との混合比(濃度)を均一に制御することができる。このため、電気特性の高い有機EL装置が提供できる。
【0066】
[画像形成装置]
次に、本発明の発光装置を備えた電子機器の第1実施形態である画像形成装置について説明する。図8は、有機EL装置をラインヘッドとして備えた画像形成装置100を示す概略構成図である。
【0067】
画像形成装置100は、転写媒体22の走行経路の近傍に、像担持体としての感光体ドラム16を備えている。感光体ドラム16の周囲には、感光体ドラム16の回転方向(図中に矢印で示す)に沿って、露光装置15、現像装置18及び転写ローラ21が順次配設されている。感光体ドラム16は、回転軸17の周りに回転可能に設けられており、その外周面には、回転軸方向中央部に感光面16Aが形成されている。露光装置15及び現像装置18は感光体ドラム16の回転軸17に沿って長軸状に配置されており、その長軸方向の幅は、感光面16Aの幅と概ね一致している。
【0068】
この画像形成装置100では、まず、感光体ドラム16が回転する過程において、露光装置15の上流側に設けられた図示略の帯電装置により感光体ドラム16の表面(感光面16A)が例えば正(+)に帯電され、次いで露光装置15により感光体ドラム16の表面が露光されて表面に静電潜像LAが形成される。さらに、現像装置18の現像ローラ19により、トナー(現像剤)20が感光体ドラム16の表面に付与され、静電潜像LAの電気的吸着力によって静電潜像LAに対応したトナー像が形成される。なお、トナー粒子は正(+)に帯電されている。
【0069】
現像装置18によるトナー像の形成後は、感光体ドラム16の更なる回転によりトナー像が転写媒体22に接触し、転写ローラ21により転写媒体22の背面からトナー像のトナー粒子とは逆極性の電荷(ここでは負(−)の電荷)が付与され、これに応じて、トナー像を形成するトナー粒子が感光体ドラム16の表面から転写媒体22に吸引され、トナー像が転写媒体22の表面に転写される。
【0070】
露光装置15は、複数の有機EL素子9を有するラインヘッド1と、該ラインヘッド1から放射された光Lを正立等倍結像させる複数のレンズ素子13を有する結像光学素子12とを備えている。ラインヘッド1と結像光学素子12とは、互いにアライメントされた状態で図示略のヘッドケースによって保持され、感光体ドラム16上に固定されている。
【0071】
ラインヘッド1は、複数の有機EL素子9を感光体ドラム16の回転軸17に沿って配列してなる発光素子列10と、有機EL素子9を駆動させる図示略の駆動素子からなる駆動素子群と、これら駆動素子(駆動素子群)の駆動を制御する制御回路群11とを備えている。有機EL素子9、駆動素子群及び制御回路群11は長細い矩形の素子基板(基体)2上に一体形成されている。
【0072】
結像光学素子12は、日本板硝子株式会社製のセルフォック(登録商標)レンズ素子と同様の構成からなるレンズ素子13を感光体ドラム16の回転軸17に沿って千鳥状に2列配列(配置)してなるレンズ素子列14を備えている。
【0073】
この画像形成装置100は、ラインヘッド1に形成された有機EL素子9が、上述した本発明の発光素子の構造を備えている。そのため、発光輝度が高く、露光不良の生じない画像形成装置となる。
【0074】
[有機EL表示装置]
次に、本発明の発光装置を備えた電子機器の第2実施形態である有機EL表示装置について説明する。図9は、有機EL素子を画素としてマトリクス状に備えた有機EL表示装置200の概略構成図である。
【0075】
有機EL表示装置200は、基体2上に、回路素子としての薄膜トランジスタを含む回路素子部30、陽極である画素電極(第1電極)3、発光層を含む有機機能層7、陰極である対向電極(第2電極)8、及び封止部32等を備えている。
【0076】
基体2としては、例えば、ガラス基板が用いられる。本発明における基板としては、ガラス基板の他に、シリコン基板、石英基板、セラミックス基板、金属基板、プラスチック基板、プラスチックフィルム基板等、電気光学装置や回路基板に用いられる公知の様々な基板が適用される。
【0077】
基体2上には、発光領域としての複数の画素領域Aがマトリクス状に配列されており、カラー表示を行う場合、例えば、赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)の各色に対応する画素領域Aが所定の配列で形成される。各画素領域Aには、画素電極3が配置され、その近傍には信号線42、共通給電線43、走査線41及び図示しない他の画素電極用の走査線等が配置されている。画素領域Aの平面形状は、図に示す矩形の他に、円形、長円形など任意の形状が適用可能である。
【0078】
封止部32は、水や酸素の侵入を防いで対向電極8あるいは有機機能層7の酸化を防止するものであり、基体2に貼り合わされる封止基板(又は封止缶)34を含む。封止基板34は、ガラスや金属等からなり、基体2と封止基板34とはシール剤を介して貼り合わされている。基体2の内側には乾燥剤が配置されており、基板間に形成された空間には不活性ガスを充填した不活性ガス充填層33が形成されている。
【0079】
画素領域Aには、走査線41を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用の第1の薄膜トランジスタ44と、この薄膜トランジスタ44を介して信号線42から供給される画像信号を保持する保持容量capと、保持容量capによって保持された画像信号がゲート電極に供給される駆動用の第2の薄膜トランジスタ45と、この薄膜トランジスタ45を介して共通給電線43に電気的に接続したときに共通給電線43から駆動電流が流れ込む画素電極3と、画素電極3と対向電極8との間に挟み込まれる有機機能層7とが設けられている。有機機能層7は発光層を含み、発光素子である有機EL素子9は、画素電極3、対向電極8、及び有機機能層7等を含んで構成される。
【0080】
画素領域Aでは、走査線41が駆動されて第1の薄膜トランジスタ44がオンになると、そのときの信号線42の電位が保持容量capに保持され、この保持容量capの状態に応じて、第2の薄膜トランジスタ45の導通状態が決まる。また、第2の薄膜トランジスタ45のチャネルを介して共通給電線43から画素電極3に電流が流れ、さらに有機機能層7を通じて対向電極8に電流が流れる。そして、このときの電流量に応じて、有機機能層7が発光する。
【0081】
有機EL表示装置200においては、有機機能層7から基体2側に発した光が、回路素子部30及び基体2を透過して基体2の下側(観測者側)に射出されるとともに、有機機能層7から基体2の反対側に発した光が対向電極8により反射されて、その光が回路素子部30及び基体2を透過して基体2の下側(観測者側)に射出される(ボトムエミッション型)。なお、対向電極8として、透明な材料を用いることにより対向電極側から発光する光を射出させることもできる(トップエミッション型)。この場合、対向電極用の透明な材料としては、ITO、Pt、Ir、Ni、もしくはPdを用いることができる。
【0082】
この有機EL表示装置200は、画素領域Aに形成された有機EL素子9が、上述した本発明の発光素子の構造を備えている。そのため、発光輝度が高く、明るい表示が可能な有機EL表示装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】第1実施形態の有機EL装置の概略構成図である。
【図2】同有機EL装置の製造方法の説明図である。
【図3】同有機EL装置の製造方法の説明図である。
【図4】同有機EL装置の製造方法の説明図である。
【図5】同有機EL装置の製造方法の説明図である。
【図6】第2実施形態の有機EL装置の製造方法の説明図である。
【図7】第3実施形態の有機EL装置の製造方法の説明図である。
【図8】電子機器の第1実施形態である画像形成装置の概略構成図である。
【図9】電子機器の第2実施形態である有機EL表示装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0084】
1…有機EL装置(有機エレクトロルミネッセンス装置)、2…基板、3…第1電極、4…正孔注入輸送層(有機層)、4A…正孔注入層(有機層)、4B…正孔輸送層(有機層)、4C…混合層、5…発光層(有機層)、6…電子注入輸送層(有機層)、7…機能層、8…第2電極、50…混合層、51…正孔ブロック層、52…混合層、60,62,64,66…溶液、100…画像形成装置(電子機器)、200…有機EL表示装置(電子機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燐光材料を含む発光層と、
前記発光層上に設けられた正孔ブロック層と、
前記発光層及び前記正孔ブロック層を含む3層以上の有機層からなる機能層と、
前記機能層を挟持する一対の電極とを備え、
前記機能層において、前記発光層と前記正孔ブロック層との界面を除く前記有機層同士の界面に、当該有機層の有機材料同士が混合した混合層が設けられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
前記発光層は、架橋構造を有するホスト材料と、前記燐光材料からなる発光ドーパントとを含むことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
燐光材料を含む発光層と、前記発光層上に設けられた正孔ブロック層と、前記発光層及び前記正孔ブロック層を含む3層以上の有機層からなる機能層と、前記機能層を挟持する一対の電極とを備えた有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
前記機能層を形成する工程は、
前記発光層上に前記正孔ブロック層を形成する工程と、
前記発光層以外の第1有機層上に前記正孔ブロック層以外の第2有機層を形成する工程とを含み、
前記第1有機層上に前記第2有機層を形成する工程は、
前記第1有機層上に、前記第1有機層の形成材料を溶解可能な溶媒と前記第2有機層の形成材料とを含む溶液を配置し、前記溶液を乾燥することにより、前記第1有機層上に前記第2有機層を形成する工程と、
前記溶液を乾燥する過程で、前記溶液に前記第1有機層の一部を溶解させることにより、前記第1有機層と前記第2有機層との界面に、前記第1有機層の形成材料と前記第2有機層の形成材料とが混合された混合層を形成する工程とを含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1有機層上に前記溶液を配置する前に、
前記第1有機層をアニール処理する工程と、
前記第1有機層を前記第1有機層を溶解可能な溶媒の雰囲気に曝す工程とを含むことを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1有機層上に前記溶液を配置する前に、
前記第1有機層をアニール処理する工程と、
前記第1有機層上に、前記第1有機層を溶解可能な溶媒を配置する工程とを含むことを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項6】
燐光材料を含む発光層と、前記発光層上に設けられた正孔ブロック層と、前記発光層及び前記正孔ブロック層を含む3層以上の有機層からなる機能層と、前記機能層を挟持する一対の電極とを備えた有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
前記機能層を形成する工程は、
前記発光層上に前記正孔ブロック層を形成する工程と、
前記発光層以外の第1有機層上に前記正孔ブロック層以外の第2有機層を形成する工程とを含み、
前記第1有機層上に前記第2有機層を形成する工程は、
前記第1有機層上に、前記第1有機層の形成材料を溶解可能な第1溶媒と前記第2有機層の形成材料とを含む第1溶液を配置し、前記第1溶液を乾燥することにより、前記第1有機層上に、前記第1有機層と前記第2有機層との混合層を形成する工程と、
前記混合層上に、前記第1有機層の形成材料に対する溶解度が前記第1溶媒よりも小さい第2溶媒と前記第2有機層の形成材料とを含む第2溶液を配置し、前記第2溶液を乾燥することにより、前記混合層上に前記第2有機層を形成する工程とを含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項7】
燐光材料を含む発光層と、前記発光層上に設けられた正孔ブロック層と、前記発光層及び前記正孔ブロック層を含む3層以上の有機層からなる機能層と、前記機能層を挟持する一対の電極とを備えた有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
前記機能層を形成する工程は、
前記発光層上に前記正孔ブロック層を形成する工程と、
前記発光層以外の第1有機層上に前記正孔ブロック層以外の第2有機層を形成する工程とを含み、
前記第1有機層上に前記第2有機層を形成する工程は、
前記第1有機層上に、前記第1有機層の形成材料及び前記第2有機層の形成材料を含む第1溶液を配置し、該第1溶液を乾燥することにより、前記第1有機層上に、前記第1有機層の形成材料と前記第2有機層の形成材料とが混合された混合層を形成する工程と、
前記混合層上に、前記第2有機層の形成材料を含む第2溶液を配置し、該第2溶液を乾燥することにより、前記混合層上に前記第2有機層を形成する工程とを含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項8】
前記第2溶液に含まれる溶媒の前記第1有機層に対する溶解度は、前記第1溶液に含まれる溶媒の前記第1有機層に対する溶解度よりも小さいことを特徴とする請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項9】
前記発光層上に前記正孔ブロック層を形成する前に、前記発光層をアニール処理することを特徴とする請求項3〜8のいずれかの項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項10】
前記発光層の形成工程は、
基板上に前記燐光材料と架橋性材料とを含む溶液を配置する工程と、
前記架橋性材料を架橋させる工程とを含むことを特徴とする請求項3〜8のいずれかの項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項11】
前記正孔ブロック層の形成工程に用いる溶媒は、前記発光層を溶解しない溶媒であることを特徴とする請求項3〜8のいずれかの項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項12】
請求項1若しくは2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置又は請求項3〜11のいずれかの項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法により製造されてなる有機エレクトロルミネッセンス装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−235327(P2008−235327A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68534(P2007−68534)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】