説明

有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法

【課題】有機EL素子を簡便な工程で作製することが可能な有機EL装置の製造方法を提供する。
【解決手段】支持基板11と、該支持基板11上に設けられる複数の有機EL素子18と、前記有機EL素子18を区画する複数本の隔壁15とを備える有機EL装置10の製造方法。有機EL素子18は、第1電極12と、第2電極17と、第1および第2電極間に配置される有機化合物を含む発光層16とを有する。有機EL装置10の製造方法は、前記第1電極12が形成された支持基板11を用意する準備工程と、前記隔壁15となる材料を含むインキを当該隔壁15が設けられる部位に沿って液柱状に吐出しつつ供給し、さらに固化することにより複数本の隔壁15を形成する隔壁形成工程と、隔壁15間に前記発光層16を形成する発光層形成工程と、前記第2電極17を形成する第2電極形成工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置(以下、「エレクトロルミネッセンス」を「EL」ということがある。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光源として複数の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「エレクトロルミネッセンス」を「EL」と記載する場合がある。)を備える表示装置の研究開発が進められている。
【0003】
有機EL素子は電圧を印加することによって発光する発光素子であり、一対の電極と、該電極間に設けられる発光層とを含んで構成される。有機EL素子に電圧を印加すると、一方の電極から正孔が注入されるとともに、他方の電極から電子が注入され、これら正孔と電子とが発光層で結合することによって発光する。
【0004】
有機EL素子は通常、有機EL素子を構成する各層を所定の順序で積層することによって支持基板上に作製される。各層は、求められる特性および工程の簡易さなどを考慮して、適宜最適な方法によって形成される。たとえば工程の簡易さの観点から、発光層を塗布法で形成することが検討されている。
【0005】
塗布法で発光層を形成する場合、発光層を形成するために用いられるインキを各有機EL素子ごとに収容するための隔壁が、通常は支持基板上に設けられている。このような隔壁として、例えば格子状またはストライプ状の隔壁が支持基板上に設けられる。隔壁に囲まれる領域に前記インキを所定の塗布法によって選択的に供給し、さらに固化することによって発光層を形成することができる。
【0006】
隔壁は、いわば各有機EL素子を区画するために設けられるため、有機EL素子の配置に応じて所定のパターン(例えば格子状またはストライプ状)に形成する必要がある。そのため隔壁の形成にはフォトリソグラフィが一般的に用いられてきた。しかしながらフォトリソグラフィは工程数が多く、工程が複雑なために、より簡易な方法で隔壁をパターン形成する方法が求められていた。
【0007】
そこでインクジェットプリント法を用いて簡易に隔壁(バンク)を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。インクジェットプリント法は、インキを液滴として断続的に滴下するノズルを、所定のコースで移動することによって、所期の部位にインキを選択的に供給可能な塗布法の1つである。このインクジェットプリント法を用いて、隔壁となる材料を含むインキを所定のパターンで供給し、さらにこれを固化することにより、所定のパターンで簡易に隔壁を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−171365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したインクジェットプリント法では表面がなだらかな隔壁を形成することが難しい。前述したように塗布法で発光層を形成する場合には、発光層を形成するためのインキを、隔壁で囲まれる領域に供給し、これを固化することにより層を形成するため、凹凸のある隔壁側面に接触した状態で発光層が形成されることになる。形成される発光層の性状には、隔壁側面の性状が大きく影響するため、凹凸のある隔壁側面で囲まれた領域に、平坦で均一な膜厚の発光層を形成することは難しく、所期の発光層を形成することが難しいという問題がある。
【0010】
従って本発明の目的は、有機EL素子を簡便な工程で作製することが可能な有機EL装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明では、下記の構成を採用した。
[1] 支持基板と、
該支持基板上に設けられる複数の有機エレクトロルミネッセンス素子と、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子を区画する複数本の隔壁と、
を備え、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、第1電極と、第2電極と、第1および第2電極間に配置される有機化合物を含む発光層とを有する、
有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
前記第1電極が形成された支持基板を用意する準備工程と、
前記隔壁となる材料を含むインキを当該隔壁が設けられる部位に沿って液柱状に吐出しつつ供給し、さらに固化することにより複数本の隔壁を形成する隔壁形成工程と、
隔壁間に前記発光層を形成する発光層形成工程と、
前記第2電極を形成する第2電極形成工程と、
を含む、有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[2] 前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、複数の有機エレクトロルミネッセンス素子に共通する共通層を第1電極と発光層との間に備え、
前記準備工程後かつ前記隔壁形成工程前に、前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子に跨がって共通層を一体的に形成する共通層形成工程をさらに含む、上記[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[3] 前記共通層形成工程では、前記共通層をスピンコート法により形成する、上記[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[4] 前記共通層形成工程では、前記共通層を真空蒸着法または化学蒸着法により形成する、上記[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[5] 前記第1電極が陽極であり、
前記第2電極が陰極であり、
前記発光層が前記共通層に接して配置され、
前記共通層形成工程では、前記陽極に接する位置に配置される正孔注入層と、発光層に接する位置に配置される電子ブロック層とを含む共通層を形成する、上記[2]から[4]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[6] 前記共通層形成工程では、膜厚が0.5nm以上、20nm以下の前記正孔注入層を形成する、上記[5]に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[7] 前記共通層形成工程では、前記正孔注入層をシランカップリング材料により形成する、上記「5」又は[6]に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[8] 前記共通層形成工程では、膜厚が40nm以上、200nm以下の電子ブロック層を形成する、上記[5]から[7]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[9] 前記発光層形成工程では、発光層となる材料を含むインキを用いる塗布法により前記発光層を形成し、
前記隔壁形成工程では、発光層となる材料を含むインキに対する当該隔壁表面の接触角が40度以上の隔壁を形成する、上記[1]から[8]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[10] 前記隔壁形成工程では、高さが0.5nm以上、20nm以下隔壁を形成する、上記[1]から[9]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
[11] 前記発光層形成工程では、発光層となる材料を含むインキを、当該発光層が設けられる部位に沿って液柱状に吐出しつつ供給し、さらに固化することにより前記発光層を形成する、上記[1]から[10]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便な工程で、特性の高い有機EL素子を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の製造方法により製造された有機EL素子の第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】図2は、陽極と画素領域規定層を形成した支持基板の斜視図である。
【図3】図3は、支持基板上に正孔注入層を積層したときの支持基板の斜視図である。
【図4】図4は、電子ブロック層を積層したときの支持基板の斜視図である。
【図5】図5は、隔壁形成工程におけるノズルとパネルの移動の様子を示す図である。
【図6】図6は、隔壁形成工程におけるノズルの軌道を示す図である。
【図7】図7は、隔壁となる材料を含むインキを塗布する様子を模式的に示した斜視図である。
【図8】図8は、発光層形成工程におけるノズルの軌道を示す図である。
【図9】図9は、発光層となる材料を含むインクを塗布する様子を模式的に示した斜視図である。
【図10】図10は、発光層となる材料を含むインクを塗布する他の様子を模式的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。また本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。有機EL装置においては電極のリード線等の部材も存在するが、これらは本発明の説明において直接的に必要ではないためその記載を省略している。説明の便宜上、以下に示す例においては支持基板を下に配置した図と共に説明がなされるが、本発明の有機EL素子およびこれを搭載した有機EL装置は、必ずしもこの配置で、製造または使用等がなされるわけではない。なお以下の説明において支持基板の厚み方向の一方を「上」または「上方」といい、支持基板の厚み方向の他方を「下」または「下方」という場合がある。
【0015】
1.本発明の有機EL装置の製造方法
[第1の実施形態]
本発明の有機EL装置の製造方法(以下、本発明の製造方法という場合がある)は、複数の有機EL素子を備える有機EL装置の製造方法である。有機EL素子は表示装置としての有機EL装置において、それぞれ画素を構成する。
【0016】
本発明の製造方法は製造される特定の有機EL素子の実施形態によって限定されるものではないが、本発明の製造方法の理解を容易にするため、以下の実施形態の説明においては、有機EL素子として図1に示す例を適宜参照する。
【0017】
図1は、第1の実施形態の有機EL装置を示す断面図である。本実施形態の有機EL装置は、光透過性を有する平板状の支持基板11と、該支持基板11上に設けられる複数の有機EL素子18と、有機EL素子18を区画する複数本の隔壁15とを備える。有機EL素子18は、第1電極12と、第2電極17と、第1および第2電極12,17間に配置される有機化合物を含む発光層16とを有する。
【0018】
本実施形態では第1電極12として支持基板11上に光透過性を有する複数本の陽極12が配置されている。複数本の陽極12は、所定の間隔をあけて平行に配列されている。複数本の陽極12が形成された支持基板11上には、各有機EL素子18を互いに絶縁し、それぞれが画素として独立に駆動させるための画素領域規定層13が配置されている。画素領域規定層13は、陽極12が形成された支持基板11を覆って形成され、支持基板11の厚み方向の一方から見て(以下、「平面視で」という場合がある。)画素に相当する領域に開口が穿設されている。以下、画素領域規定層13に穿設された開口を画素開口21という場合がある。この画素開口21は、平面視で陽極12上に沿って離散的に形成される。画素領域規定層13は絶縁性を示す部材によって構成される。このような画素領域規定層13を設けることにより、複数本の陽極12が互いに電気的に絶縁されるとともに、陽極12の延伸する方向において、隣り合う画素開口21間が電気的に絶縁され、各有機EL素子18が電気的に絶縁される。
【0019】
本実施形態の有機EL素子18は、陽極12と発光層16との間に、複数の有機EL素子に共通する共通層14をさらに備える。なお他の実施の形態では共通層14を設けなくてもよい。この共通層14は画素領域規定層13上に設けられる。画素領域規定層13には画素開口21が形成されているため、共通層14はこの画素開口21に充填され、陽極12に接して配置されている。本実施形態では共通層14は、陽極に接する位置に配置される正孔注入層14aと、発光層に接する位置に配置される電子ブロック層14bとで構成されている。
【0020】
複数本の隔壁15は、陽極12の延伸する方向と同じ方向に延伸するように共通層14上に設けられ、平面視で、陽極12間に設けられる。換言すると、平面視で、隣り合う陽極12上に形成された画素開口21の間に各隔壁15は設けられる。
【0021】
発光層16は、隔壁15間において共通層14上に設けられている。
【0022】
さらに隔壁15および発光層16を覆って、第2電極17として陰極17が形成されている。
【0023】
以上のように支持基板11上に形成された陽極12、共通層14、発光層16および陰極17からなる積層体により有機EL素子18が形成される。なお陽極12、共通層14および陰極17は複数の有機EL素子18に跨って形成されているが、画素領域規定層13を設けることにより、各有機EL素子18は電気的に絶縁され、これにより各有機EL素子18は電気的に独立して駆動することができる。
【0024】
なお本明細書では「光透過性を有する支持基板」、「光透過性を有する電極」とは、入射した光の少なくとも一部が透過する支持基板、電極をそれぞれ意味する。
【0025】
本実施形態では、第1電極12が陽極であり、第2電極17が陰極であるが、第1電極が陰極であり、第2電極が陽極である有機EL素子であっても本発明を好適に適用することができる。
【0026】
次に図1から図9を参照しつつ、本発明の製造方法により有機EL素子を製造する工程について説明する。本実施形態の有機EL装置10の製造方法は、陽極12(第1電極)が形成された支持基板11を用意する準備工程と、隔壁15となる材料を含むインキを当該隔壁が設けられる部位に沿って液柱状に吐出しつつ供給し、さらに固化することにより複数本の隔壁15を形成する隔壁形成工程と、隔壁15間に発光層16を形成する発光層形成工程と、陰極17(第2電極)を形成する第2電極形成工程とを含む。
【0027】
<1.準備工程>
準備工程とは、陽極12が形成された支持基板11を用意する工程である。準備工程では、例えばTFT(Thin Film Transistor)基板のような有機EL素子18を駆動する回路と、該回路に電気的に接続された陽極12が予め形成された基板を入手してもよく、また支持基板11上に陽極12を形成することによって陽極12が形成された支持基板11を用意してもよい。
【0028】
陽極12の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。
【0029】
本実施形態ではさらに画素領域規定層13を形成する。図2は、陽極12と画素領域規定層13を形成した支持基板11の斜視図である。画素領域規定層13は前述したように画素開口21が形成される。この画素開口21は、平面視で例えば略矩形状、略楕円形状、または小判形状に形成される。
【0030】
画素領域規定層13の形成方法としては、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法等が挙げられる。また画素領域規定層13に画素開口21を形成する方法としては、例えば上記方法により薄膜を形成した後に、フォトリソグラフィにより所定の部位に開口を穿設する方法が挙げられる。
【0031】
<2.共通層形成工程>
本実施形態では、複数の有機EL素子に共通する共通層14が第1電極と発光層との間に設けられる。この共通層14は、隔壁を形成する前に形成され、共通層形成工程は、準備工程後かつ前記隔壁形成工程前に行われる。
【0032】
共通層形成工程では、複数の有機EL素子18に跨がって共通層を一体的に形成する。共通層は、有機EL素子18の種類に拘らずに共通に設けられる層である。例えば赤色発光、緑色発光、青色発光する3種類の有機EL素子を設ける場合、通常は素子の種類に応じて発光層を作り分けるが、本実施の形態のように有機EL素子18の種類に拘らずに共通に設けられる層を一体的に共通して形成することにより、工数を削減することができる。
【0033】
本実施形態では共通層14が2層の積層体によって構成される。共通層14は、陽極12に隣接する位置に設けられる正孔注入層14aと、発光層16に隣接する位置に設けられる電子ブロック層14bとによって構成される。
【0034】
図3は、支持基板11上に正孔注入層14aを積層したときの支持基板11の斜視図であり、図4は、正孔注入層14aの上に電子ブロック層14bを積層した時の支持基板11の斜視図である。図3、4中、符号21は画素開口に対応する部分を示す。
【0035】
図3、4に示すように、共通層14として正孔注入層14aを積層した後、電子ブロック層14bを積層する。なお画素領域規定層13に開口21が穿設されることにより陽極12の露出面12aが規定されるが、画素領域規定層13を設けない場合には陽極12の上面全面が露出面となる。
【0036】
本実施形態では共通層14として、正孔注入層14aと電子ブロック層14bの2つの層を設けるようにしているが、これに限定されるものではなく、1層の共通層14を構成してもよく、また3層以上の共通層14を構成してもよい。例えば共通層14を正孔注入層14aの一層だけで構成してもよい。
【0037】
共通層14である正孔注入層14a、電子ブロック層14bは各々一括して成膜される。共通層14を成膜する方法としては、平坦な共通層14を短時間で簡単に成膜することができる方法であればよく、真空蒸着法、化学蒸着法、工程が簡易な塗布法を挙げることができ、これらの中でも塗布法が好ましい。
【0038】
塗布法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などを挙げることができ、スピンコート法が好適である。スピンコート法を用いることにより、平坦な共通層14を短時間で簡単に成膜することができる。
【0039】
各有機EL素子に共通に用いられる層(本実施の形態では共通層)であっても、通常は、本実施の形態とは異なり、各有機EL素子ごとに設けられている。前述したように隔壁間に発光層を形成する場合、隔壁表面の性状が発光層の形状に影響する。これと同様に、共通層を隔壁間に形成すると隔壁表面の性状が共通層にまで影響する。そのため、共通層を隔壁間に形成すると、隔壁表面の影響が、共通層および発光層にまで及び、結果として素子全体における隔壁表面の影響が大きくなるが、本実施形態では各有機EL素子に共通する共通層を、隔壁を形成する前に形成するため、隔壁表面の影響が共通層に及ぶことを排して、平坦な共通層を形成することができ、この共通層上に形成される発光層を平坦に形成することができる。これによって特性の高い有機EL素子を実現することができる。
【0040】
<3.隔壁形成工程>
隔壁形成工程では、前記共通層形成工程により形成された共通層14の表面22に、前記隔壁15となる材料を含むインキ23を当該隔壁15が設けられる部位に沿って液柱状に吐出しつつ供給し、さらに固化することにより複数本の隔壁を形成する。ここで液柱とはインキが柱状に連続的に供給されている状態を意味する。なおインクジェットプリント法などの液滴塗布手法では液滴状のインキが断続的に供給されるが、液滴状のインキが断続的に供給されている状態と、インキが柱状に連続的に供給されている状態とは、本明細書では異なる状態を意味する。この隔壁15を形成することにより、発光層16を設ける領域を区画することができる。
【0041】
隔壁15を形成する塗布法としてはノズルプリンティング法を用いることができる。ノズルプリンティング法を用いることにより、共通層14上の所定の部位に、隔壁となる材料を含むインキ23を短時間で簡単に塗布することができる。
【0042】
また隔壁となる材料を含むインキ23を液柱状に吐出する装置としては、例えばノズルプリンティング装置などが挙げられる。ノズルプリンティング装置は、微小な開口を有するノズルからインクを連続的に吐出する装置である。ノズルプリンティング装置は、線幅を安定させて、連続的に微細な線状にインキを塗布することができる。この結果、インクジェットプリント法を用いて塗布する場合より隔壁15を短時間で形成することができる。
【0043】
図5ないし図7に隔壁形成工程の様子を示す。図5は、本実施形態の隔壁形成工程におけるノズルとパネルの移動の様子を示す図であり、図6は、隔壁形成工程におけるノズルの軌道を示す図である。図7は、隔壁となる材料を含むインキを塗布する様子を模式的に示した斜視図である。また図6ないし図7中、符号21は画素開口に対応する部分を示す。
【0044】
図5ないし図7に示すように、支持基板11上に4つのマトリクス部(表示エリア部)24が設けられたパネル25がDd方向へと搬送される。ノズルプリンティング装置(本体不図示)のノズル26から隔壁となる材料を含むインキ23が吐出される。ノズル26は、パネル25の搬送方向Ddおよび支持基板の厚み方向に対して垂直な方向Nmに往復移動する。
【0045】
インキ23の塗布は、Nm方向の一方から他方にノズル26が移動する工程と、隔壁15が配置されるピッチ分だけ搬送方向Ddにパネル25が移動する工程と、Nm方向の他方から一方にノズル26が移動する工程と、隔壁15のピッチが配置される分だけ搬送方向Ddにパネル25が移動する工程との4つの工程を繰り返すことにより行われ、ノズル26は軌道Ipを描くようにパネル25上を移動することになる(図6参照)。パネル25がノズル26の下方を通過する際に、隔壁となる材料を含むインキ23がノズル26から吐出され、図6に示すような軌跡を描きつつ、共通層14上の画素領域規定層13の上方にあたるところに隔壁となる材料を含むインキ23が塗布されていく。
【0046】
隔壁となる材料を含むインキ23はノズル26から吐出し、共通層14の上層に塗布された後、隔壁となる材料を含むインキ23から溶媒が蒸発してインクが乾燥し硬化する。隔壁となる材料を含むインキ23の乾燥を行う際には、隔壁となる材料を含むインキ23から溶媒を留去させ、隔壁15を形成する成分を固定させる。またノズル26から塗布される隔壁となる材料を含むインキ23は液状であり、表面張力を有し、また、乾燥する過程において収縮する。共通層14上に塗布された隔壁となる材料を含むインキ23は、乾燥し、隔壁15が形成される。これにより複数本のストライプ状に配列される隔壁15を共通層14上に形成することができる。作業速度効率の観点からは、隔壁となる材料を含むインキ23の乾燥は短時間で完了するのが好ましい。なお乾燥後、隔壁となる材料を含むインキ23を焼成する工程を設けてもよい。
【0047】
このように隔壁となる材料を含むインキ23を、ノズルプリンティング法を用いて共通層14上の画素領域規定層13の上方にあたるところに液柱状に吐出しつつ供給し、さらに固化することにより、共通層14上に並列する複数本の隔壁を容易に短時間で形成することができる。
【0048】
また前記隔壁形成工程の後に、さらに第2の隔壁形成工程を設け、前記第2の隔壁形成工程により、先に設けられた複数本の隔壁に略直交する方向に、複数本の隔壁を設け、格子状の隔壁15を形成するようにしてもよい。
【0049】
また隔壁15間には、後述するように発光層を形成するためのインキが供給されるため、隔壁15間に供給されるインキを隔壁15間で確実に保持し、収容するためにも、隔壁15の上部15aの表面が、発光層となる材料を含むインキ31に対して撥液性を示すことが好ましく、隔壁15の表面全体が撥液性を示すことがさらに好ましい。例えば隔壁を構成する成分に撥液性を示す成分を混合させておいてもよく、あるいは隔壁15の表面に撥液性を示す被膜を形成してもよい。具体的にはCFガスを含むプラズマ雰囲気中で隔壁15の表面を処理することにより、隔壁15の表面に撥液性を付与することができる。このように撥液性を示す隔壁15を用いることにより、隔壁15間に供給される発光層形成用のインキが隔壁によって弾かれるために、隔壁を越えてインキが隣の画素に流入することを防ぐことができる。
【0050】
隔壁となる材料を含むインキ23としては、隔壁となる材料と、この材料を溶解する溶媒とを含む溶液、または隔壁となる材料と、この材料を溶解する分散媒とを含む懸濁液が用いられる。なお以下において溶媒として例示する液体は、分散媒としても適宜好適に用いることができる。
【0051】
隔壁となる材料としては、例えばナフトキノンジアジド等の感光性材料を添加した感光性ノボラック樹脂や感光性ポリイミドなどのフォトレジスト材料を挙げることができる。
【0052】
隔壁となる材料を含むインキ23の溶媒としては、例えば、水、アルコール溶媒、グリコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、含塩素溶媒および芳香族炭化水素溶媒からなる群より選ばれる1種またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどが挙げられる。グリコール溶媒としては、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。エーテル溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、メトキシベンゼン等が挙げられる。エステル溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。含塩素溶媒としては、クロロホルム、クロロベンゼン、塩化メチレン等が挙げられる。芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等が挙げられる。
【0053】
なお本実施形態では隔壁15となる材料を含むインキ23の塗布法として、連続的な液柱を高精度に塗布できるという観点からノズルプリンティング法を例に挙げて説明したが、塗布法としては液柱状のインキを供給可能な方法であればよく、例えばノズルプリンティング法の他に、ディスペンサーなどの塗布法を挙げることができる。
【0054】
従来の技術では、インクジェットプリント法によって、液滴状のインキを断続的に滴下することによって隔壁を形成していたため、隔壁形成工程に要する時間が長くなっていたが、液柱状のインキを供給することにより、隔壁形成工程に要する時間を短縮することができ、より簡便に有機EL素子を作製することができる。またインクジェットプリント法ではでは隔壁をなだらかに形成することが困難であったが、これに対して上述したようにインキ23を液柱状に吐出しつつ供給し、さらに固化することにより、なだらかな隔壁15を形成することができる。
【0055】
<4.発光層形成工程>
発光層形成工程では、隔壁15により区画された領域に発光層16を形成する。具体的には共通層14上において隔壁15間に発光層16を形成する。
【0056】
発光層16は隔壁15を形成する場合と同様に塗布法によって形成し得る。発光層は、発光層となる材料を含むインキ31を隔壁15間に供給し、さらに固化することによって形成する。発光層16を形成する塗布法としては、液滴状または液柱状のインキを隔壁15間に塗布することができる方法であればよく、例えばノズルプリンティング法、インクジェットプリント法、フレキソ印刷法などを挙げることができ、ノズルプリンティング法が好ましい。ノズルプリンティング法を用いることにより、発光層となる材料を含むインキ31を隔壁15間に連続して吐出することができるため、隔壁15間に発光層16を短時間で容易に塗布することができる。
【0057】
図8、9に、発光層形成工程の様子を示す。図8は、発光層形成工程におけるノズルの軌道を示す図である。図9は、発光層となる材料を含むインキを塗布する様子を模式的に示した斜視図である。また図8、9中、符号21は画素開口に対応する部分を示す。
【0058】
インキ31の塗布は、Nm方向の一方から他方にノズル26が移動する工程と、隔壁15が配置されるピッチ分だけ搬送方向Ddにパネル25が移動する工程と、Nm方向の他方から一方にノズル26が移動する工程と、隔壁15のピッチが配置される分だけ搬送方向Ddにパネル25が移動する工程との4つの工程を繰り返すことにより行われ、ノズル26は軌道Iqを描くようにパネル25上を移動することになる(図8参照)。
【0059】
発光層となる材料を含むインキ31を吐出する装置としては、例えばノズルプリンティング装置などが挙げられる。ノズルプリンティング装置を用いることにより、線幅を安定させて、連続的に微細な線状にインキを塗布することができる。
【0060】
発光層となる材料を含むインキ31はノズル32から吐出された後、溶媒(または分散媒)が徐々に乾燥し、固化することにより発光層16が形成される。なお前述したように隔壁15がインキ31に対して撥液性を示す場合には、供給されたインキ31が隔壁15を超えて隣の画素に流出することを防ぐことができる。
【0061】
発光層16がその上に形成される共通層14は上記のように各有機EL素子に跨って一体的に形成されるため、各有機EL素子に渡って、均一な膜厚で平坦に形成される。このような平坦性が高い共通層14上に発光層16を形成することにより、膜平坦性が高く、均一な膜厚の発光層16を形成することができる。特にスピンコート法で共通層14を形成することにより、平坦性のより高い共通層を形成することができ、より平坦で均一な膜厚の発光層を形成することができる。
【0062】
このように平坦で均一な膜厚の共通層14上に発光層を形成することにより、設計通りの膜厚で平坦な発光層16を形成することができるため、各素子で均一な発光を実現することができる。
【0063】
またインクジェットプリント法では、画素開口21内においてインキ31を離散的に滴下するが、画素開口21内に着弾したインクは、ある程度画素開口21内において広がるものの、インキ31の表面張力などの影響で、画素開口21内の全域にまで十分にはインキ31が均一に広がらない場合がある。この場合、乾燥後にその部分に層が形成されない、あるいは層が設計された厚さに対して不十分になるおそれがあるなど発光層16に欠陥が生じることがある。
【0064】
しかしながら本実施形態では、インキ31を液柱状に吐出して隔壁15間に供給しているため、画素開口21内の端部にまで発光層となる材料を含むインキ31を供給することができ、発光層の形成不良を抑制することができる。
【0065】
また単に吐出するインク量を増やしたのでは、隔壁15間に供給されたインキが隔壁15を越えて隣接する画素に流出し、混色等の原因となる。他方、本実施形態のように、発光層となる材料を含むインキ31を隔壁15の長手方向に沿って連続的に塗布しているため、吐出するインク量を抑制したとしても、乾燥する過程で層厚が不足しがちな部分へ、発光層となる材料を含むインキ31を補足し得る。
【0066】
このように発光層となる材料を含むインキ31を液柱状に連続して塗布することにより、簡便なプロセスで、膜平坦性が高い有機EL素子を作製することができる。この結果、特性の高い有機EL素子を低コストで作製することができる。
【0067】
インクには、発光層となる材料と、この材料を溶解する溶媒とを含む溶液、または発光層となる材料と、この材料を溶解する分散媒とを含む懸濁液が用いられる。なお以下において溶媒として例示する液体は、分散媒としても適宜好適に用いることができる。溶媒または分散媒としては、隔壁となる材料を含むインキの溶媒または分散媒として例示した液体を、その一例として挙げることができる。
【0068】
発光層16となる材料としては蛍光および/または燐光を発光する有機物が用いられる。有機物としては低分子化合物および/または高分子化合物が用いられ、溶解性の観点からは高分子化合物が好適に用いられる。発光層は、ポリスチレン換算の数平均分子量が、103以上、108以下である高分子化合物を含むことが好ましい。また発光層には該有機物の他に、ドーパントなどの任意成分を含むように構成してもよい。例えば、ドーパントは、発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で付加される。発光層16を主に構成する発光材料としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0069】
(色素系の発光材料)
色素系の発光材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体およびピラゾリンダイマーなどを高分子化したものを挙げることができる。
【0070】
(金属錯体系の発光材料)
金属錯体系の発光材料としては、中心金属に、Al、Zn、Beなど、またはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体を高分子化したものを挙げることができ、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体などを高分子化したものを挙げることができる。
【0071】
(高分子系の発光材料)
高分子系の発光材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体およびポリビニルカルバゾール誘導体などを挙げることができる。
【0072】
(ドーパント材料)
発光層16を主に構成する発光材料としては、前述の発光材料の他に、例えば発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的でドーパント材料をさらに含んでいてもよい。このようなドーパント材料としては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なおこのような発光層の厚さは、通常約2nm以上、200nm以下である。
【0073】
また本実施形態では、発光層16は塗布法として、上述の隔壁15を形成する場合と同様に、短時間で簡単に発光層16を形成することができるという観点からノズルプリンティング法を用いたが、その他、発光層を成膜する塗布法としてはパターン塗布可能な手法であればよく、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができる。
【0074】
<5.陰極形成工程>
陰極形成工程では、発光層16および隔壁15を覆うように陰極17を設ける。陰極17を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法等が挙げられる。
【0075】
以上説明した本実施形態の有機EL素子の製造方法によれば、簡便なプロセスで低コストであり、かつ膜平坦性が高く、均一発光が可能な発光性能に優れた有機EL素子を製造することができる。
【0076】
2.有機EL素子および他の部材の構造
【0077】
<A>支持基板
支持基板11としては、有機EL素子を形成する工程において変化しないものが好ましく、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよく、例えば、ガラス板、プラスチック板、高分子フィルムおよびシリコン板、並びにこれらを積層した積層板などが好適に用いられる。発光層16から放射される光を支持基板11側から取出すいわゆるボトムエミッション型の有機EL素子では、支持基板11は、可視光領域の光の透過率が高いものが好適に用いられる。なお発光層16から放射される光を基板とは反対側から取出すトップエミッション型の有機EL素子では、支持基板は不透明のものでもよい。
【0078】
<B>陽極
本実施形態における陽極は、第1電極として設けられ、発光層16からの光を透過させる光透過性を有する透明電極である。陽極12には、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率が高いものが好適に利用でき、発光層16の構成材料に応じて適宜選択して用いることができる。
【0079】
陽極12の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO(Indium Tin Oxide:インジウムスズ酸化物)、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム亜鉛酸化物)、金、白金、銀、銅、アルミニウム、またはこれらの金属を2種類以上含む合金等の薄膜が用いられる。これらの中でも、ITO、IZO、酸化スズが好ましい。
【0080】
また陽極12の構成材料として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体等の有機物の透明導電膜を用いてもよい。
【0081】
陽極12の膜厚は、求められる特性と工程の簡易さなどを考慮して適宜選択することができ、例えば5nm以上、10μm以下であり、好ましくは10nm以上、1μm以下であり、より好ましくは20nm以上、500nm以下である。
【0082】
<C>画素領域規定層
画素領域規定層は、各有機EL素子を電気的に絶縁するために設けられる。支持基板11上の陽極12間には図示しない回路、配線等が設けられているため、画素領域規定層13は、例えば絶縁層などで構成し、図示しない回路、配線等を保護するようにしている。本実施形態では、画素領域規定層13は支持基板11上に設けるようにしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、支持基板11上に設けなくてもよい。
【0083】
画素領域規定層を構成する材料としては絶縁性をもつ材料であればよく、例えばナフトキノンジアジド等の感光性材料を添加した感光性ノボラック樹脂や感光性ポリイミドなどのフォトレジスト材料、二酸化珪素などの無機酸化膜、窒化珪素などの無機窒化膜などを用いることができる。
【0084】
<D>共通層
図1に示す有機EL素子18では、陽極12と発光層16との間に、共通層14が設けられた形態を示しており、正孔注入層14a、電子ブロック層14bとからなり、支持基板11側から順に正孔注入層14a、電子ブロック層14bの順に積層される。
【0085】
正孔注入層14aの膜厚は0.5nm以上、20nm以下であるのが好ましい。正孔注入層14aの膜厚が0.5nmより小さいと、正孔注入層14aにピンホールが発生する場合があるためである。また正孔注入層14aの膜厚が厚くなると、支持基板11の厚み方向に垂直な横方向の正孔注入層14aの抵抗が低くなる。正孔注入層14aは画素間に共通に設けられているので、横方向の抵抗が低くなると、隣接する画素に意図しない電流が流れることがあるため、正孔注入層14aの膜厚を20nm以下として、膜厚を薄くすることで電流が正孔注入層14aの横方向に移動することを防ぐことができる。また正孔注入層14aの抵抗が高いものを用いるようにしてもよい。
【0086】
また電子ブロック層14bの膜厚は、40nm以上、200nm以下であるのが好ましい。電子ブロック層14bの膜厚が40nmより小さいと、電極12表面の凹凸を電子ブロック層14bで吸収できず、局所的な電界集中により絶縁破壊を起こしてしまう可能性があるためである。また電子ブロック層14bの膜厚が200nmより大きいと、電極12と電極17の間の抵抗が高くなり、電流が流れず十分なEL発光が得られない可能性がある。また電子ブロック層14bは抵抗が低いものを用いるようにしてもよく、さらに電子ブロック層14bは、抵抗が低いものを厚く形成することが好ましい。
【0087】
また、陽極12と発光層16との間に設けられる層の構成としては、図1に示す構成例には限られるわけではない。第1電極として陽極12を設けた場合には、共通層14として正孔注入層14a、電子ブロック層14bなどを設けられればよい。また第1電極として陰極を設ける場合には、共通層14電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等を設けてもよい。
【0088】
なお本実施形態では共通層を設けるが、他の実施形態では共通層を設けなくてもよく、本実施形態において共通層として説明した層を、隔壁間に設けてもよい。
【0089】
<E>隔壁
隔壁は、図1では共通層の一部に接して設けられる。
【0090】
隔壁15の高さは、0.5nm以上、20nm以下であるのが好適である。隔壁15の高さが0.5nmより小さいと、均一な高さの隔壁を形成することが困難となり、部分的に隔壁の形成不良や隔壁が形成されない領域が生じてしまう可能性があるためである。また隔壁15の高さが20nmより大きいと、隔壁側面部へのインキ31の付着量が多くなり、発光層の膜厚のばらつきが大きくなり、均一なEL発光が得られない可能性があるためである。
【0091】
また隔壁15表面は、発光層となる材料を含むインキ31に対して40度以上の接触角を示すことが好ましい。接触角が40度より小さいと、隔壁15間に供給されたインキ31が隔壁内に保持されず、溢れが生じ、発光むらや混色の原因となる可能性があるためである。
【0092】
なお共通層を設けない形態では、隔壁は共通層に設けられるのではなく、例えば画素領域規定層上に設けられる。
【0093】
<F>発光層
図1に示す有機EL素子18では、発光層16は、共通層14と陰極17との間に設けられ、隔壁15により区画されている。発光層16は、共通層14と陰極17との間に、必要に応じて2以上設けられる。
【0094】
発光層を構成する材料、成膜方法は、上記「有機EL素子の製造方法」の欄で説明した通りである。
【0095】
<G>陰極
本実施形態における陰極は、第1電極に対向して配置される第2電極として設けられる。陰極17の材料としては、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易な材料が好ましい。また陰極の材料としては電気伝導度が高く、可視光反射率の高い材料が好ましい。かかる陰極材料としては、金属、金属酸化物、合金、グラファイトまたはグラファイト層間化合物、酸化亜鉛(ZnO)等の無機半導体などを挙げることができる。
【0096】
金属としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属や周期表の13族金属等を用いることができる。これら金属の具体的例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等を挙げることができる。
【0097】
また合金としては、上記金属の少なくとも一種を含む合金を挙げることができ、具体的には、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等を挙げることができる。
【0098】
陰極17は、例えば陰極側から光を取出す場合などのように、必要に応じて光透過性を有する電極とされる。このような光透過性を有する陰極の材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム亜鉛酸化物)などの導電性酸化物、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの導電性有機物を挙げることができる。
【0099】
なお陰極17を2層以上の積層構造としてもよい。また電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0100】
陰極17の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm以上、10μm以下であり、好ましくは20nm以上、1μm以下であり、さらに好ましくは50nm以上、500nm以下である。
【0101】
<H>封止部材
有機EL素子を形成した後、この有機EL素子を保護するための封止部材を設けてもよい。
<I>任意の構成層
図1に示す有機EL素子18では、陽極12と陰極17との間に、共通層14、発光層16が設けられ、共通層14として正孔注入層14a、電子ブロック層14bが設けられた形態を示している。陽極12と陰極17との間に設けられる層の構成としては、図1に示す構成例には限られるわけではなく、陽極12と陰極17との間には正孔注入層14a、電子ブロック層14bの他に、例えば正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等を設けてもよい。
【0102】
陽極12と発光層16との間に設け得る層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等が挙げられる。陽極12と発光層16との間に、正孔注入層と正孔輸送層との両方が設けられる場合、陽極12に近い側に位置する層を正孔注入層といい、発光層16に近い側に位置する層を正孔輸送層という。
【0103】
陰極17と発光層16との間に設け得る層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。陰極17と発光層16との間に、電子注入層と電子輸送層との両方が設けられる場合、陰極17に近い側に位置する層を電子注入層といい、発光層16に近い側に位置する層を電子輸送層という。
【0104】
なお正孔注入層および電子注入層を総称して電荷注入層ということがある。正孔輸送層および電子輸送層を総称して電荷輸送層ということがある。また電子ブロック層および正孔ブロック層を総称して電荷ブロック層ということがある。
【0105】
以下、陽極12と陰極17との間に設けられる層について説明する。
<I−1>正孔注入層
正孔注入層は、陽極12からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔注入層は、陽極12と正孔輸送層との間、または陽極12と発光層16との間に設けることができる。正孔注入層を構成する材料としては、公知の材料を適宜用いることができ、特に制限はない。例えば、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体およびシランカップリング材料等が挙げられ、シランカップリング材料が好ましい。
【0106】
正孔注入層の成膜方法としては、上述の塗布法、蒸着法など挙げることができる。
【0107】
<I−2>正孔輸送層
正孔輸送層は、陽極12、正孔注入層または陽極12により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層であり、正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する層である。
【0108】
正孔輸送層を構成する材料としては、特に制限はないが、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体などが例示される。
【0109】
これらの中でも、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、シランカップリング材料であるポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0110】
正孔輸送層の成膜方法としては、特に制限はないが、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーと正孔輸送材料とを含む混合液からの成膜を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、正孔輸送材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。
【0111】
溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒などを挙げることができる。
【0112】
溶液からの成膜方法としては、前述した正孔注入層の成膜法と同様の塗布法を挙げることができる。
【0113】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収の弱いものが好適に用いられ、例えばポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0114】
<I−3>電子ブロック層
電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層および/または正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
【0115】
電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0116】
電子ブロック層としては、例えば上記正孔注入層または正孔輸送層の材料として例示した各種材料を用い得る。
【0117】
<I−4>電子注入層
電子注入層は、陰極17からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子注入層は、電子輸送層と陰極17との間、または発光層16と陰極17との間に設けられる。電子注入層としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、あるいは前記金属を一種類以上含む合金、あるいは前記金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物、あるいは前記物質の混合物などが挙げられる。
【0118】
アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。
【0119】
前記アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0120】
さらに金属、金属酸化物、金属塩をドーピングした有機金属化合物および有機金属錯体化合物、またはこれらの混合物も、電子注入層の材料として用いることができる。
【0121】
この電子注入層は、2層以上を積層した積層構造を有していても良い。具体的には、Li/Caなどが挙げられる。この電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。
【0122】
この電子注入層の膜厚としては、1nm以上、1μm以下程度が好ましい。
【0123】
<I−5>電子輸送層
電子輸送層は、陰極17、電子注入層または陰極17により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層であり、電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する層である。
【0124】
電子輸送層を形成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体等が例示される。
【0125】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0126】
電子輸送層の成膜法としては、特に制限はないが、低分子電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、または溶液若しくは溶融状態からの成膜による方法などが例示される。また高分子電子輸送材料では、溶液または溶融状態からの成膜による方法などが例示される。
【0127】
また溶液または溶融状態からの成膜時には、高分子バインダーを併用してもよい。
【0128】
溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔注入層を成膜する方法と同様の成膜法が挙げられる。
【0129】
この電子輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択され、少なくともピンホールが発しないような厚さが必要であり、厚すぎると素子の駆動電圧が高くなるので好ましくない。従って、電子輸送層の膜厚としては、例えば1nm以上、1μm以下であり、好ましくは2nm以上、500nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上、200nm以下である。
【0130】
<I−6>正孔ブロック層
正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層および/または電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
【0131】
正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0132】
<J>有機EL素子の層構成の組合せ
上記のように、有機EL素子は、その実施形態として、様々な層構成を採用し得る。電荷注入層、電荷輸送層、電荷ブロック層を選択肢に加えた場合の有機EL素子のとり得る層構成を具体的な例を以下に示す。
Aa)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
Ab)陽極/正孔注入層/電子ブロック層/発光層/陰極
Ba)陽極/発光層/電子注入層/陰極
Bb)陽極/発光層/正孔ブロック層/電子注入層/陰極
Ca)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
Cb)陽極/正孔注入層/電子ブロック層/発光層/電子注入層/陰極
Cc)陽極/正孔注入層/発光層/正孔ブロック層/電子注入層/陰極
Cd)陽極/正孔注入層/電子ブロック層/発光層/正孔ブロック層/電子注入層/陰極
Da)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
Db)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子ブロック層/発光層/陰極
Ea)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
Eb)陽極/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極
Fa)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
Fb)陽極/正孔注入層/電子ブロック層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
Fc)陽極/正孔注入層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極
Fd)陽極/正孔注入層/電子ブロック層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極
Ga)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
Gb)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子ブロック層/発光層/電子注入層/陰極
Gc)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔ブロック層/電子注入層/陰極
Gd)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子ブロック層/発光層/正孔ブロック層/電子注入層/陰極
Ha)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
Hb)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子ブロック層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
Hc)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極
Hd)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子ブロック層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
【0133】
図1に示す実施形態では、1層の発光層16を設けているが、その変形例として、2層以上の発光層を重ねて設ける形態も採用し得る。ここで、上記(Aa)〜(Hd)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極と陰極とに挟持された部分の積層体を「構造単位A」とすると、例えば下記(I)に示す層構成なども採用し得る。なお2つある(構造単位A)の層構成は互いに同じでも、異なっていてもよい。
I)陽極/(構造単位A)/電荷発生層/(構造単位A)/陰極
【0134】
また3層以上の発光層を有する有機EL素子としては、「(構造単位A)/電荷注入層」を「構造単位B」とすると、例えば下記(J)に示す層構成などを挙げることができる。
J)陽極/(構造単位B)/(構造単位A)/陰極
【0135】
なお記号「n」は、2以上の整数を表し、(構造単位B)は、構造単位Bがn層積層された積層体を表す。また複数ある(構造単位B)の層構成は同じでも、異なっていてもよい。
【0136】
電荷発生層とは、電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、ITO、酸化モリブデンなどから成る薄膜を挙げることができる。
【0137】
有機EL素子においては、通常基板側に陽極が配置されるが、基板側に陰極を配置するようにしてもよい。
【0138】
図1に示す実施形態では、支持基板11上に陽極12を設ける形態を示している。これらの場合、上記Aa)からJ)の各形態では、左側(陽極側)に示された層から順に支持基板11上に配置されることになる。
【0139】
他方、本発明の有機EL素子としては、支持基板上に陰極を配置する形態も採用し得る。この場合、上記Aa)からJ)の各形態では、右側(陰極側)に示された層から順に支持基板上に配置されることになる。この場合、陰極と発光層との間に設けられる層を共通層として複数の有機EL素子に跨って形成してもよい。
【0140】
[第2の実施形態]
次に、本発明の製造方法により製造された有機EL素子の第2の実施形態を図10を参照して説明する。図10は、発光層となる材料を含むインクを塗布する様子を模式的に示した斜視図である。図10中、第1の実施形態と同様である部材については、図1乃至図9と同一符号を付して重複した説明は省略する。以下、第1の実施形態と異なる点を主として説明する。
【0141】
本実施形態では、前記隔壁形成工程により形成された隔壁によって区画された領域に、各列毎にそれぞれ発光色が異なる発光層を形成する。すなわち前記隔壁形成工程により形成された隔壁15によって区画された第1の領域に第1の発光層を形成し、第1の領域に並行に隣接する第2の領域に、第1の発光層とは発光色の異なる第2の発光層を形成し、第2の領域に並行に隣接する第3の領域に、第1および第2の発光層のいずれとも異なる発光色の第3の発光層を形成するものである。
【0142】
図10に示すように、発光層となる材料を含むインキ31の供給には、3つのノズルを有する3連ノズル33が備えられた装置(付図示)が用いられる。3連ノズル33は、赤色発光材料を含むインキを吐出する赤色ノズルNR、緑色発光材料を含むインキを吐出する緑色ノズルNG、青色発光材料を含むインキを吐出する青色ノズルNBを有している。3連ノズル33の3つのノズルNR、NG、NBから各々インキ31a〜31cを隔壁15の長手方向に沿って吐出しながら、移動方向Nmの他方に移動する。このように隔壁15によって区画された各領域に発光層となる材料を含むインキ31a〜31cを塗布することにより、赤色発光層16a、緑色発光層16b、青色発光層16cが同時に形成される。
【0143】
次に隣接する他の隔壁15によって区画された領域に発光層となる材料を含むインキ31a〜31cが塗布される。このような稼働を繰り返し、順次支持基板11上の隔壁によって区画された複数の領域に発光層となる材料を含むインキ31a〜31cが塗布される。
【0144】
このように、前記隔壁形成工程により形成された隔壁15によって区画された複数の領域のうちの第1の領域に、赤色(R)、緑色(G)または青色(B)を発光する第1の有機EL素子を形成し、第1の列の一方に隣接する列に、第1の有機EL素子の発光色とは異なる1色を発光する第2の有機EL素子を形成し、第1の列の他方に隣接する列に、第1および第2の有機EL素子の発光色とは異なる1色を発光する有機EL素子が形成される。
【0145】
以上説明した方法により、異なる発光色の発光層を備える有機EL素子を形成することができ、第1の実施形態と同様に、簡便な工程で特性の高い有機EL素子を製造することができる。
【0146】
[第3の実施形態]
第1の実施形態によって作製される有機EL装置に備えられる有機EL素子は、発光層から放射される光を、陽極および支持基板を通して外部に出射するボトムエミッション型の素子構造を有しているが、第3の実施形態によって作製される有機EL装置に備えられる有機EL素子は、光透過性を有する陰極を用いて、支持基板とは反対側から光を出射するトップエミッション型の素子構造の有機EL素子としたものである。このような第3の実施形態によって作製される有機EL装置に備えられる有機EL素子においても、本発明は適用可能である。
【0147】
このような透明陰極には、例えば金属薄膜を透明陰極として用いることができる。透明陰極に用いられる金属薄膜は、光が透過可能な程度に薄膜に形成されるので、シート抵抗が高くなる。したがって透明陰極は、金属薄膜上にITO薄膜などの透明電極を積層させた積層体によって構成されることが好ましい。また陽極と支持基板との間に、例えば銀などの反射率の高い反射膜を設けることが好ましく、このような反射膜を設けることによって、支持基板側に向かう光を透明陰極側に反射することができ、光の取出し効率を向上させることができる。
【0148】
また前述の各実施形態では第1電極がストライプ状に形成されるとしたが、各有機EL素子ごとに第1電極を設けてもよく、第1電極が離散的に島状に設けられてもよい。また前述の各実施形態の有機EL装置は、例えばアクティブマトリクス駆動方式、或いはパッシブマトリクス駆動方式の回路を構成することにより、表示装置として機能させることができる。
【0149】
<有機EL装置>
本発明の製造方法により製造し得る有機EL装置は、上記のようにして有機EL素子で構成された画素が複数実装された装置である。電気的配線、駆動手段等の設置については、通常の有機EL装置の製造における様々な態様を採用し得る。
【0150】
本発明の製造方法により製造し得る有機EL装置は、曲面状や平面状の照明装置、例えば面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0151】
10 有機EL装置
11 支持基板
12 陽極(第1電極)
12a 露出面
13 画素領域規定層
14 共通層
14a 正孔注入層
14b 電子ブロック層
15 隔壁
16 発光層
17 陰極(第2電極)
18 有機EL素子
21 画素開口
22 共通層の表面
23 隔壁となる材料を含むインキ
24 マトリクス部(表示エリア部)
25 パネル
31、31a〜31c 発光層となる材料を含むインク
32、NR、NG、NB ノズル
33 3連ノズル
Dd パネルの搬送方向
Ip、Iq ノズルの軌道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
該支持基板上に設けられる複数の有機エレクトロルミネッセンス素子と、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子を区画する複数本の隔壁と、
を備え、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、第1電極と、第2電極と、第1および第2電極間に配置される有機化合物を含む発光層とを有する、
有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
前記第1電極が形成された支持基板を用意する準備工程と、
前記隔壁となる材料を含むインキを当該隔壁が設けられる部位に沿って液柱状に吐出しつつ供給し、さらに固化することにより複数本の隔壁を形成する隔壁形成工程と、
隔壁間に前記発光層を形成する発光層形成工程と、
前記第2電極を形成する第2電極形成工程と、
を含む、有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項2】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、複数の有機エレクトロルミネッセンス素子に共通する共通層を第1電極と発光層との間に備え、
前記準備工程後かつ前記隔壁形成工程前に、前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子に跨がって共通層を一体的に形成する共通層形成工程をさらに含む、請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項3】
前記共通層形成工程では、前記共通層をスピンコート法により形成する、請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項4】
前記共通層形成工程では、前記共通層を真空蒸着法または化学蒸着法により形成する、請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1電極が陽極であり、
前記第2電極が陰極であり、
前記発光層が前記共通層に接して配置され、
前記共通層形成工程では、前記陽極に接する位置に配置される正孔注入層と、発光層に接する位置に配置される電子ブロック層とを含む共通層を形成する、請求項2から4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項6】
前記共通層形成工程では、膜厚が0.5nm以上、20nm以下の前記正孔注入層を形成する、請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項7】
前記共通層形成工程では、前記正孔注入層をシランカップリング材料により形成する、請求項5または6に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項8】
前記共通層形成工程では、膜厚が40nm以上、200nm以下の電子ブロック層を形成する、請求項5から7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項9】
前記発光層形成工程では、発光層となる材料を含むインキを用いる塗布法により前記発光層を形成し、
前記隔壁形成工程では、発光層となる材料を含むインキに対する当該隔壁表面の接触角が40度以上の隔壁を形成する、請求項1から8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項10】
前記隔壁形成工程では、高さが0.5nm以上、20nm以下隔壁を形成する、請求項1から9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項11】
前記発光層形成工程では、発光層となる材料を含むインキを、当該発光層が設けられる部位に沿って液柱状に吐出しつつ供給し、さらに固化することにより前記発光層を形成する、請求項1から10のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−205528(P2010−205528A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49008(P2009−49008)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】