説明

有機エレクトロルミネッセンス装置及びその製造方法、並びに電気機器及び光書き込みヘッド

【課題】 良好な封止性が得られるとともに、装置全体のコンパクト化を実現できる有機エレクトロルミネッセンス装置を提供する。
【解決手段】 有機エレクトロルミネッセンス装置Sは、基板1上に設けられた発光素子3と、発光素子3に接続され、発光素子3を覆う封止膜10と、基板1に接続され、発光素子3を覆う封止部材20と、基板1と封止部材20との間の封止空間2に設けられ、発光素子3を駆動する駆動素子30とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL:electroluminescence)装置及びその製造方法、並びに電子機器及び光書き込みヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL装置は、発光物質を含む発光層を陽極及び陰極の電極層で挟んだ構成の発光素子を有しており、陽極側から注入された正孔と、陰極側から注入された電子とを発光能を有する発光層内で再結合し、励起状態から失括する際に発光する現象を利用して、所望の光を射出する。発光素子は大気中の水分や酸素等によって劣化し易いため、有機EL装置においては、発光素子を大気から保護するために封止することが行われている。下記特許文献1には封止に関する技術の一例が開示されている。
【特許文献1】特開2004−265776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の技術は、発光素子を駆動するための駆動素子(チップ)を基板のうち封止板の外側に実装しているが、このような構成では装置全体の大型化を招く可能性がある。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、良好な封止性が得られるとともに、装置全体のコンパクト化を実現できる有機エレクトロルミネッセンス装置及びその製造方法、並びに電子機器及び光書き込みヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置は、基板上に設けられた発光素子と、前記発光素子に接続され、前記発光素子を覆う膜と、前記基板に接続され、前記発光素子を覆う封止部材と、前記基板と前記封止部材との間の空間に設けられ、前記発光素子を駆動する駆動素子とを備えたことを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、基板と封止部材との間の空間に駆動素子を設けたので、装置全体のコンパクト化を実現できる。また、駆動素子と発光素子との間の距離を短くすることができるので、駆動素子と発光素子とを電気的に接続する接続部を短くすることができ、発光素子又は駆動素子に対する電気的なノイズの影響を抑えることができる。また、発光素子は膜と封止部材とで封止されているので、良好に封止される。
【0007】
前記膜は無機材料を含む構成を採用することができる。これによれば、良好な封止性を得ることができるとともに、装置全体のコンパクト化を実現できる。
【0008】
前記膜は酸窒化珪素を含む構成を採用することができる。これによれば、良好な封止性を得ることができるとともに、装置全体のコンパクト化を実現できる。
【0009】
前記空間に設けられた乾燥剤を有する構成を採用することができる。これにより、良好な封止性を長期間維持することができる。
【0010】
前記空間は、前記発光素子を配置するための第1空間と、前記駆動素子を配置するための第2空間とを含む構成を採用することができる。これによれば、発光素子が配置された第1空間と外部空間との間に第2空間を介在させることができ、外部空間から第1空間に水分等が浸入することを良好に抑えることができ、高い封止性能を得ることができる。
【0011】
前記第2空間に設けられた乾燥剤を有する構成を採用することができる。これによれば、第1空間と外部空間との間に介在された第2空間の環境(乾燥状態)を所望状態に維持することができ、外部空間から第1空間に水分等が浸入することを良好に抑えることができ、高い封止性能を得ることができる。
【0012】
前記第2空間は前記第1空間を囲むように設けられている構成を採用することができる。これによれば、外部空間から第1空間に水分等が浸入することを良好に抑えることができ、高い封止性能を得ることができる。
【0013】
前記第1空間は第1方向に延びるように設けられ、前記第2空間は前記第1空間に対して前記第1方向と交わる第2方向に関して隣接する位置に設けられている構成を採用することができる。第1空間が第1方向を長手方向として形成されている場合、外部空間から第1空間に対して浸入する水分等は、基板と封止部材との間の隙間のうち、主に第1空間の長手部分の隙間を通過すると考えられる。したがって、第1空間に対して第1方向と交わる第2方向に関して隣接する位置に第2空間を設けることによって、外部空間から第1空間に水分等が浸入することを良好に抑えることができ、高い封止性能を得ることができる。
【0014】
本発明の電子機器は、上記記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、発光素子を良好に封止して、コンパクトで所望の性能を有する電子機器を提供することができる。
【0016】
本発明の光書き込みヘッドは、上記記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備え、感光体に対して光を照射することを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、発光素子を良好に封止して、コンパクトで所望の性能を有する光書き込みヘッドを提供することができる。
【0018】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、基板上に発光素子を設ける第1工程と、前記発光素子を覆うように該発光素子に膜を接続する第2工程と、前記基板上に前記発光素子を駆動するための駆動素子を実装する第3工程と、前記基板に封止部材を接続することによって、前記基板と前記封止部材との間に前記発光素子及び前記駆動素子を配置するための空間を形成する第4工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、発光素子を膜で封止した後、駆動素子を基板に実装するため、駆動素子の実装作業中においても、発光素子の劣化を防止することができる。そして、基板と封止部材とを接続することによって、良好な封止性を有し、コンパクト化が実現される有機エレクトロルミネッセンス装置を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。そして、水平面内における所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれに直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。更には、X軸、Y軸、及びZ軸まわりの回転方向をそれぞれ、θX、θY、及びθZ方向とする。
【0021】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態に係る有機EL装置の側断面図である。図1において、有機EL装置Sは、基板1と、基板1上に設けられた発光素子3と、発光素子3に接続され、発光素子3を覆う封止膜10と、基板1に接続され、発光素子3(封止膜10)を覆う封止部材20と、基板1と封止部材20との間の封止空間2に設けられ、発光素子3を駆動する駆動素子30とを備えている。発光素子3及び駆動素子30は基板1の表面(能動面)1Aに設けられており、基板1の表面1Aには、発光素子3と駆動素子30とを電気的に接続する接続部(配線)が設けられている。封止部材20は、基板1との間に発光素子3及び駆動素子30を配置するための封止空間2を形成しつつ、基板1に接着剤8を介して接続されている。
【0022】
封止部材20は断面視下向きコ状に形成されており、基板1との間で封止空間2を形成している。封止部材20は、基板1の第1領域41と貼り合わせられる第2領域42を有している。第1領域41は、基板1の表面1Aのうち発光素子3が設けられている部分の外側に設定されている。第2領域42は、封止部材20の下端面に設定されており、第1領域41と対向している。そして、第1領域41と第2領域42とが接着剤8を介して貼り合わせられることによって、平板状の基板1と封止部材20との間で、発光素子3を封止する封止空間2が形成される。
【0023】
発光素子3は、基板1の表面1Aに形成された陽極4と、正孔輸送層5と、発光層6と、陰極7とを備えている。封止空間2に設けられた発光素子3の陽極4は、駆動素子30と接続部(配線)を介して電気的に接続されている。また不図示ではあるが、発光素子3の陰極7も駆動素子30と電気的に接続されている。発光素子3の陽極4及び陰極7には、駆動素子30より駆動信号を含む電力が供給される。また、封止空間2にはゲッター剤と呼ばれる乾燥剤9が設けられている。乾燥剤9は、封止部材20のうち、基板1の表面1Aと対向する天井面20Bに設けられている。乾燥剤9により、発光素子3の水分等による劣化が抑制され、良好な封止性能を長期間維持することができる。
【0024】
封止膜10は、発光素子3の表面に直接的に被覆されている。ここで、発光素子3の表面とは、基板1に接している領域以外の面を意味する。封止膜10は、発光素子3の表面全体に被覆されており、封止膜10の下端部は基板1に接続されている。
【0025】
封止膜10は、発光素子3を封止する機能を有し、発光素子3に対して水分等が浸入することを抑制している。封止膜10は無機材料を含んで構成されている。封止膜10を形成するための形成材料としては、酸窒化珪素(SiON)、二酸化珪素(SiO)、窒化珪素(SiN)などを用いることができる。
【0026】
なお、図1においては、発光素子3の表面に無機材料からなる封止膜10が一層設けられているように示されているが、封止膜として、無機膜と合成樹脂等の接着機能を有する有機膜とを交互に複数積層してもよい。無機膜と有機膜とを複数積層することによりクラックの発生を防止することができる。また、無機膜を多層に設けてもよい。この場合、例えば酸窒化珪素を多層に設けるなど、1種類の材料からなる膜を多層に設けてもよいし、窒化珪素と二酸化珪素とを積層するなど、異なる材料からなる膜を多層に設けてもよい。無機膜を多層にすることにより、発光素子3に対する封止性能をより高めることができる。
【0027】
このように、封止膜10は、発光素子3との間に空間を形成すること無く、発光素子3に対して直接的に接続されている。また、封止膜10は発光素子3の表面全体を覆うように設けられており、発光素子3に対して所望の封止性能を発揮している。
【0028】
駆動素子(チップ)30は、基板1の表面1Aに実装されている。駆動素子30と基板1との接続には、チップオングラス(COG:chip on glass)、チップサイズパッケージ(CSP:chip size package)等の技術が用いられている。駆動素子30は基板1と封止部材20との間に設けられた封止空間2に設けられている。駆動素子30と発光素子3とは、基板1の表面1Aに設けられた不図示の配線(接続部)を介して電気的に接続されている。
【0029】
封止部材20は、外部空間から封止空間2に対して、水分及び酸素等を含む大気が侵入することを遮断するものである。封止部材20を形成するための形成材料としては、所望の封止性能を有していれば特に限定されず、例えばガラスや石英、合成樹脂、あるいは金属など水分透過率の小さい材料を用いることができる。ガラスとしては、例えば、ソーダ石灰ガラス、鉛アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、シリカガラスなどを用いることができる。合成樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルケトンなどの透明な合成樹脂などを用いることができる。金属としては、アルミニウムやステンレス等を用いることができる。
【0030】
乾燥剤9としては、封止空間2において所望の乾燥機能(吸湿機能)を有していれば特に限定されないが、例えば、シリカゲル、ゼオライト、活性炭、酸化カルシウム、酸化ゲルマニウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、五酸化リン、塩化カルシウムなどを用いることができる。
【0031】
接着剤8は、第1領域41(又は第2領域42)の全域に設けられる。接着剤8としては、安定した接着強度を維持することができ、気密性が良好なものであれば特に限定されない。本実施形態の接着剤8には、紫外光(UV)の照射により硬化する光硬化性エポキシ樹脂が用いられている。なお、接着剤8としては、光硬化性材料に限られず、熱硬化性材料でもよいし、互いに異なる2種類以上の材料を混合することによって硬化させるものであってもよい。
【0032】
本実施形態の有機EL装置Sは、発光素子3からの発光を基板1側から装置外部に取り出す形態、所謂ボトム・エミッションである。基板1は、光を透過可能な透明あるいは半透明材料、例えば、透明なガラス、石英、サファイア、あるいはポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルケトンなどの透明な合成樹脂などによって形成されている。
【0033】
陽極4は、印加された電圧によって正孔を正孔輸送層5に注入するものであり、例えば、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)などの透明導電膜により形成されている。
【0034】
正孔輸送層5は、陽極4の正孔を発光層6に輸送・注入するためのものであり、公知の材料を用いることができる。例えば、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールなどを用いることができる。更に具体的には、3,4−ポリエチレンジオシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)などを用いることができる。
【0035】
発光層6は、陽極4から正孔輸送層5を経て注入された正孔と、陰極7からの注入された電子とを結合して蛍光を発生させる機能を有する。発光層6を形成する材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料を用いることができる。例えば、ポリフルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などを用いることができる。
【0036】
また、発光層6と陰極7との間に電子輸送層を設けてもよい。電子輸送層は、発光層6に電子を注入する役割を果たすものである。電子輸送層を形成する材料としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン及びその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8−ヒドロキシキノリン及びその誘導体の金属錯体などを用いることができる。
【0037】
陰極7は、発光層6へ効率的に電子注入を行うことができる仕事関数の低い金属、例えばアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、金(Au)、銀(Ag)又はカルシウム(Ca)等の金属材料から形成されている。
【0038】
そして、駆動素子30より発光素子3に駆動信号が供給されると、陽極4と陰極7との間に電流が流れ、発光素子3が発光して透明な基板1の外面側に光が射出される。
【0039】
次に、上述した構成を有する有機EL装置Sを製造する方法について、図2に示す模式図を参照しながら説明する。以下で説明する製造工程の一部は、光学素子3の劣化を防ぐために、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。
【0040】
図2(a)に示すように、基板1の表面(能動面)1Aに発光素子3が設けられる。発光素子3は、陽極4、正孔輸送層5、発光層6、及び陰極7の順に所定の手法を用いて基板1上に設けられる。なお、図2には不図示であるが、基板1の表面1Aには既に配線(接続部)等が形成されている。基板1上に発光素子3の陰極7が設けられた後、所定の手法によって、発光素子3に封止膜10が被覆される。本実施形態においては、陰極7が真空蒸着の手法で形成された後、連続するように、真空蒸着の手法を用いて発光素子3の表面に封止膜10が被覆される。なお、発光素子3に封止膜10を被覆する手法としては、イオンプレーティング、スパッタリング(低温スパッタ)等の手法を用いることもできる。これにより、発光素子3を覆うように、発光素子3の表面に封止膜10が接続される。発光素子3の表面に所定の厚さを有する封止膜10が被覆されることにより、有機EL装置Sの製造工程中においても、発光素子3と水分等との接触を防止し、発光素子3を封止することができる。封止膜10は、発光素子3を長期間封止することは困難であるが、製造工程中など比較的短期間(例えば室温にて数十日程度)においては十分な封止性を有する。
【0041】
なお、上述のように、発光素子3上に無機膜と有機膜とを複数積層する場合には、所定の手法を用いて、無機膜と有機膜とが発光素子3上で積層される。こうすることにより、有機EL装置Sの製造工程中においても、クラックの発生を防止しつつ、発光素子3と水分等との接触を防止して、発光素子3を良好に封止することができる。
【0042】
基板1上に発光素子3及び封止膜10を設ける工程が完了した後、図2(b)に示すように、COGを行うための所定の実装装置50が、基板1に駆動素子30を実装する。このとき、発光素子3の大きさ、駆動素子30の大きさ、及び実装装置50の形状などに応じて、実装装置50と封止膜10(発光素子3)とが干渉しないように、実装装置50は、封止膜10に対して駆動素子30を所定距離D4だけ離れた位置に実装する。
【0043】
次に、図2(c)に示すように、基板1の第1領域41に接着剤8が塗布される。接着剤8を基板1上に塗布する際には、液滴吐出法を用いることができる。液滴吐出法とは、形成しようとする材料層を形成するための形成材料を液状体にし、その液状体をディスペンサやインクジェット装置などの液滴吐出装置を用いて定量的に吐出することによって、所望領域に前記形成材料を塗布する方法である。液滴吐出装置は、基板1上の第1領域41に接着剤8を所定のパターンで塗布する。基板1の第1領域41に接着剤8が塗布された後、基板1の第1領域41と乾燥剤9を備えた封止部材20の第2領域42とが接着剤8を介して貼り合わせられる。次いで、接着剤8として光硬化性接着剤が用いられている場合には、接着剤8に対して所定の波長を有する光(紫外光)が照射される。この場合、接着剤8を硬化させるための光が発光素子3に照射されないように、所定位置に光を遮るマスクを配置することができる。このように、基板1に封止部材20を接続することによって、基板1と封止部材20との間に、発光素子3及び駆動素子30を配置するための封止空間2が形成される。こうして、封止空間2に設けられた駆動素子30を有する有機EL装置Sが製造される。
【0044】
なお、1枚の基板1上に複数の発光素子3及びその発光素子3に対応する封止部材20を設ける場合には、それら発光素子3及び封止部材20に応じて、基板1を切断する工程が設けられる。基板1を切断する工程は、例えば発光素子3に封止膜10を被覆した後に行うことができる。なお、基板1の表面1Aには発光素子3が設けられているため、基板1を切断するときには、表面1Aとは反対側の裏面1B側から切断することが好ましい。こうすることにより、切断作業に伴って基板1から発生する破片等が封止膜10(発光素子3)等に付着する不都合を防止できる。また、基板1を切断する際には、封止膜10(発光素子3)を傷付けないように、保護用治具で封止膜10(発光素子3)を保護しつつ、基板1の切断作業を行うことが望ましい。また、基板1を切断する工程は、例えば基板1に駆動素子30を実装した後や、基板1と封止部材20とを接続した後に行うこともできる。
【0045】
以上説明したように、発光素子3と封止膜10との間に空間を形成することなく、発光素子3と封止膜10とを直接的に接続するとともに、基板1との間に封止空間2を形成しつつ発光素子3(封止膜10)を覆う封止部材20を設けたので、封止膜10と封止部材20との二重封止構造によって、発光素子3に対する良好な封止性能を得ることができるとともに、接着剤を介して基板に接続される封止部材を二重に設ける構成に比べて、有機EL装置S全体のコンパクト化を実現することができる。
【0046】
また、発光素子3を封止膜10で封止した後、駆動素子30を実装する実装工程を行う構成であるため、例えば駆動素子30の実装工程中に、発光素子3と水分等とが接触するといった不都合を防止することができる。
【0047】
また、本実施形態においては、発光素子3と封止膜10との間に空間を形成することなく、発光素子3と封止膜10とを直接的に接続するようにしたので、封止膜10を設けた後、実装装置50と封止膜10(発光素子3)との干渉を抑えつつ、発光素子3の近くに駆動素子30を作業性良く実装することができる。そして、駆動素子30を実装した後、封止部材20を設けることによって、有機EL装置S全体のコンパクト化を実現しつつ、良好な封止性能を得ることができる。すなわち、封止空間2に駆動素子30を設けずに、図3に示すように、駆動素子30を封止部材20の外側に設ける構成の場合、基板1と封止部材20とを接着剤8を介して接続した後、実装装置50を用いて基板1に駆動素子30を実装することになるが、その場合、実装装置50と封止部材20とが干渉しないように、実装装置50は、封止部材20に対して駆動素子30を所定距離D4’だけ離れた位置に実装することになる。封止部材20は、基板1との間に封止空間2を形成しており、封止部材20の高さD8は、駆動素子30の高さD5よりも大きいため、駆動素子30の実装時において、実装装置50と封止部材20とが干渉する可能性が高い。したがって、封止部材20の大きさ、駆動素子30の大きさ、及び実装装置50の形状などに応じて、所定距離D4’を、図1等に示した所定距離D4よりも大きくする必要が生じる可能性が高くなる。距離D4’の巨大化に伴って、図3に示す駆動素子30と発光素子3との距離D7が巨大化すると、駆動素子30と発光素子3とを電気的に接続する配線(接続部)が長くなり、発光素子3又は駆動素子30に対する電気的なノイズの影響が大きくなる可能性がある。また、基板1には、発光素子3の大きさに応じた発光領域と、その発光領域の周囲の発光に寄与しない非発光領域(額縁領域)とが設けられるが、距離D7の巨大化に伴って、基板1の単位面積当たりの非発光領域の割合が大きくなる。非発光領域が大きくなると、1枚の基板1から形成可能な有機EL装置Sの数が少なくなってコスト上昇を招いたり、あるいは発光領域が小さい有機EL装置Sが形成されてしまうなどの不都合が生じる。ところが、本実施形態においては、距離D7(距離D4)を十分に小さくすることができるため、上述の不都合を抑えることができる。なお、図3に示す距離D4’は0.5mm程度であるが、図1等に示す距離D4は0.1〜0.2mm程度とすることができた。
【0048】
このように、駆動素子30を封止空間2に設けることにより、駆動素子30と封止膜10との距離D4、ひいては駆動素子30と発光素子3との間の距離D7を短くすることができる。したがって、基板1の単位面積当たりの発光領域を大きくすることができるとともに、有機EL装置S全体のコンパクト化を実現することができる。また、駆動素子30と発光素子3とを電気的に接続する接続部(配線)を短くすることができるため、発光素子3又は駆動素子30に対する電気的なノイズの影響を抑えることができる。
【0049】
また、封止部材20の内側の封止空間2に駆動素子30を設けることにより、封止空間2を有効利用することができる。また、例えば駆動素子30を合成樹脂等でモールド化しなくても、駆動素子30の劣化を防止することができる。駆動素子30をモールド化しなくてもすむため、有機EL装置S全体のより一層のコンパクト化を図ることができる。また、封止部材20を金属製にした場合、外部からの電磁波に対する駆動素子30の保護も期待できる。
【0050】
また、封止膜10を発光素子3上に被覆するときの被覆精度は、例えば基板1と封止部材20とを貼り合わせるために接着剤8を基板1の第1領域41に塗布するときの塗布精度に比べてラフでよいため、二重封止構造を実現する場合、保護膜10と封止部材20とを用いた二重封止構造のほうが、接着剤を介して基板に接続される封止部材を二重に設ける構成に比べて、有機EL装置Sの製造工程を簡単化することができる。ここで、保護膜10を発光素子3上に被覆するときの被覆精度とは、保護膜10の膜厚のばらつき精度や、膜を形成するときの基板1に対する位置精度を含む。同様に、接着剤8を基板1の第1領域41に塗布するときの塗布精度とは、接着剤8の膜厚のばらつき精度や、接着剤8を塗布するときの基板1に対する位置精度を含む。
【0051】
なお、有機EL装置Sの製造工程は、基板1と封止部材20とを接続するまでは不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましいが、発光素子3の表面に封止膜10を被覆した後においては、例えばドライエア雰囲気下で行ったとしても、水分等に起因する発光素子3の劣化を抑制することができる。
【0052】
なお、本実施形態の接着剤8は有機材料によって形成されているが、接着剤8として低融点ガラスや金属を用いた場合、外部空間から封止空間2への基板1と封止部材20との貼り合わせ部分を介した水分や酸素の浸入を良好に抑制することができるので、乾燥剤9を省略することも可能である。
【0053】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について図4及び図5を参照しながら説明する。図4は第2実施形態に係る有機EL装置の側断面図、図5は図4のA−A線断面矢視図である。本実施形態の特徴的な部分は、基板1と封止部材2との間に、発光素子3を配置するための第1空間2Aと、駆動素子30を配置するための第2空間2Bとが設けられている点にある。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0054】
図4及び図5において、封止部材20は、基板1との間に第1空間2Aと第2空間2Bとを形成するための内周壁21を有している。内周壁21は、封止部材20の天井面20Bから基板1に向けて延びるように設けられており、基板1の表面1Aと平行なXY平面に対して垂直な方向から見たとき、略ロ字状に形成されている。封止部材20の一部である内周壁21の下端部と基板1とは接着剤8を介して接続されている。また、封止部材20は、内周壁21を囲む外周壁22を有しており、外周壁22の下端部と基板1とは接着剤8を介して接続されている。そして、内周壁21の内側に、発光素子3を配置するための第1空間2Aが形成され、内周壁21と外周壁22との間に、駆動素子30を配置するための第2空間2Bが形成されている。第1空間2Aと第2空間2Bとは分離されており、第1空間2Aの基板1上には発光素子3が設けられ、第2空間2Bの基板1上には駆動素子30が設けられている。そして、第2空間2Bは、第1空間2Aを囲むように、第1空間2Aの外側に設けられている。
【0055】
また、第2空間2Bには乾燥剤9が設けられている。乾燥剤9は、第2空間2Bの天井面20Bに設けられている。
【0056】
基板1と封止部材20との間の封止空間2として、発光素子3を配置するための第1空間2Aと、駆動素子30を配置するための第2空間2Bとを設けたことにより、発光素子3が配置された第1空間2Aと、封止空間2の外側の外部空間との間に第2空間2Bを介在させることができる。これにより、発光素子3が設けられた第1空間2Aと外部空間との間の気体(大気)が通る流路の実質的な距離(実効封止長)を大きくすることができるため、外部空間から第1空間2Aに水分等が浸入することを良好に抑えることができ、高い封止性能を得ることができる。そして、第2空間2Bに乾燥剤9を設けることによって、第2空間2Bの環境(乾燥状態)を所望状態にすることができ、外部空間から第2空間2Bを介して第1空間2Aに水分等が浸入することを良好に抑えることができ、高い封止性能を得ることができる。この場合、第1空間2Aに乾燥剤9を設けなくても、第1空間2Aの環境(乾燥状態)を所望状態に維持することができる。なお、第2空間2Bに加えて、第1空間2Aにも乾燥剤9を設けることにより、更に良好な封止性を実現することができる。
【0057】
また、本実施形態の第2空間2Bは第1空間2Aを囲むように設けられているため、第1空間2Aを囲む全ての方向からの水分等の浸入を良好に抑えることができ、高い封止性能を得ることができる。
【0058】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態について図6及び図7を参照しながら説明する。図6は第3実施形態に係る有機EL装置の側断面図、図7は図6のB−B線断面矢視図である。本実施形態の特徴的な部分は、第1空間2Aが第1方向(Y軸方向)に延びるように設けられ、第2空間2Bが第1空間2Aに対して第1方向(Y軸方向)と交わる第2方向(X軸方向)に関して隣接する位置に設けられている点にある。
【0059】
本実施形態の有機EL装置Sは、所定方向(Y軸方向)を長手方向とし、基板1の表面1Aと平行なXY平面に対して垂直な方向から見たとき、全体として略長方形状に形成されている。所定方向を長手方向とする平面視略長方形状に形成された有機EL装置Sは、感光体(感光ドラム)に対して光を照射する光書き込みヘッドに好適に用いることができる。
【0060】
封止部材20は、基板1との間に第1空間2Aと第2空間2Bとを形成するための仕切壁23を有している。仕切壁23は、封止部材20の天井面20Bから基板1に向けて延びるように設けられている。仕切壁23によって、発光素子3を配置するための第1空間2Aと、第1空間2Aに隣接する第2空間2Bとが形成されている。発光素子3を配置するための第1空間2Aは、Y軸方向に延びるように設けられ、Y軸方向を長手方向とする平面視略長方形状に形成されている。
【0061】
第2空間2Bは、第1空間2Aに対してX軸方向に関して隣接する位置に設けられている。本実施形態においては、第1空間2Aの+X側(一方側)と−X側(他方側)とのそれぞれに第2空間2Bが設けられている。以下の説明においては、第1空間2Aの+X側に設けられた第2空間2Bを適宜、「右側空間2Ba」と称し、第1空間2Aの−X側に設けられた第2空間2Bを適宜、「左側空間2Bb」と称する。
【0062】
右側空間2Ba及び左側空間2Bbのそれぞれは、第1空間2Aに対応するように、Y軸方向に延びるように設けられ、Y軸方向を長手方向とする平面視略長方形状に形成されている。本実施形態においては、右側空間2Baは左側空間2Bbよりも小さく、左側空間2Bbには駆動素子30が設けられている。右側空間2Baには駆動素子30は設けられていない。また、右側空間2Ba及び左側空間2Bbのそれぞれの天井面20Bには乾燥剤9が設けられている。
【0063】
第1空間2Aが所定方向(ここではY軸方向)を長手方向として形成されている場合、外部空間から第1空間2Aに対して浸入する水分等は、基板1と封止部材20との間の隙間のうち、主に第1空間2Aの長手部分の隙間を通過すると考えられる。更に具体的には、水分等は、封止部材20の+X側の外周壁22と基板1との間の隙間G1、及び封止部材20の−X側の外周壁22と基板1との間の隙間G2を通過すると考えられる。したがって、第1空間2Aに対してX軸方向に関して隣接する位置に第2空間2B(2Ba、2Bb)を設けることによって、発光素子3が設けられた第1空間2Aと外部空間との間の気体(大気)が通る流路の実質的な距離(実効封止長)を大きくすることができるため、封止効果を高めることができる。このように、第1方向(Y軸方向)を長手方向とする第1空間2Aに対して、少なくとも第2方向(X軸方向)に関して隣接する位置に第2空間2B(2Ba、2Bb)を設けることによって、外部空間から第1空間2Aに水分等が浸入することを良好に抑えることができ、高い封止性能を得ることができる。
【0064】
なお本実施形態においては、第2空間2Bは、第1空間2AのX軸方向両側のそれぞれに設けられているが、上述の第2実施形態同様、第1空間2Aを囲むように設けられてもよい。
【0065】
<光書き込みヘッド>
図8は、上述の有機EL装置Sを、電子写真方式プリンタの光書き込みヘッド(プリンタヘッド)に適用した場合の一例を示す図である。図8において、有機EL装置Sの基板1の上方には光学系60が設けられており、光学系60の上方には感光ドラム(感光体)61が設けられている。有機EL装置Sは、光学系60を介して、感光ドラム61に対して光を照射する。有機EL装置Sの基板1から射出された光は、光学系60を通って感光ドラム61上に集光されるようになっている。有機EL装置Sはコンパクト化されているため、感光ドラム61を小さくすることができる。したがって、電子写真方式プリンタ全体のコンパクト化を実現することができる。
【0066】
<電子機器>
次に、上記実施の形態の有機EL装置Sを備えた電子機器の例について説明する。
図9(A)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図9(A)において、符号1000は携帯電話本体を示し、符号1001は上記の有機EL装置Sを用いた表示部を示している。
【0067】
図9(B)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図9(B)において、符号1100は時計本体を示し、符号1101は上記の有機EL装置Sを用いた表示部を示している。
【0068】
図9(C)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図9(C)において、符号1200は情報処理装置、符号1202はキーボードなどの入力部、符号1204は情報処理装置本体、符号1206は上記の有機EL装置Sを用いた表示部を示している。
【0069】
図9(A)〜(C)に示す電子機器は、上記実施の形態の有機EL装置Sを備えているので、コンパクトで所望の性能を有する電子機器を提供することができる。
【0070】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0071】
例えば、上記実施形態では、発光素子3の発光が基板1を介して外面側に射出される形式、所謂ボトム・エミッションの例を用いて説明したが、発光素子3の発光が基板1と逆側の陰極7側から封止部材20を介して射出される形式、所謂トップ・エミッションであっても適用可能である。この場合、封止膜10や封止部材20、陰極7としては、光の取り出しが可能な透明あるいは半透明材料が用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】第1実施形態に係る有機EL装置を示す要部断面図である。
【図2】第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法を説明するための図である。
【図3】有機EL装置の製造方法の一例を説明するための図である。
【図4】第2実施形態に係る有機EL装置を示す要部断面図である。
【図5】図4のA−A線断面矢視図である。
【図6】第3実施形態に係る有機EL装置を示す要部断面図である。
【図7】図6のB−B線断面矢視図である。
【図8】有機EL装置を光書き込みヘッドに適用した例を説明するための図である。
【図9】有機EL装置を備えた電子機器の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
1…基板、2…封止空間、2A…第1空間、2B…第2空間、3…発光素子、9…乾燥剤、10…封止膜、20…封止部材、30…駆動素子
間、R…第1領域、S…有機EL装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた発光素子と、
前記発光素子に接続され、前記発光素子を覆う膜と、
前記基板に接続され、前記発光素子を覆う封止部材と、
前記基板と前記封止部材との間の空間に設けられ、前記発光素子を駆動する駆動素子とを備えた有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
前記膜は無機材料を含む請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
前記膜は酸窒化珪素を含む請求項1又は2記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
前記空間に設けられた乾燥剤を有する請求項1〜3のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
前記空間は、前記発光素子を配置するための第1空間と、前記駆動素子を配置するための第2空間とを含む請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
前記第2空間に設けられた乾燥剤を有する請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項7】
前記第2空間は前記第1空間を囲むように設けられている請求項5又は6記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項8】
前記第1空間は第1方向に延びるように設けられ、
前記第2空間は前記第1空間に対して前記第1方向と交わる第2方向に関して隣接する位置に設けられている請求項5又は6記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えた電子機器。
【請求項10】
請求項1〜請求項8のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備え、感光体に対して光を照射する光書き込みヘッド。
【請求項11】
基板上に発光素子を設ける第1工程と、
前記発光素子を覆うように該発光素子に膜を接続する第2工程と、
前記基板上に前記発光素子を駆動するための駆動素子を実装する第3工程と、
前記基板に封止部材を接続することによって、前記基板と前記封止部材との間に前記発光素子及び前記駆動素子を配置するための空間を形成する第4工程とを含む有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−236745(P2006−236745A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48646(P2005−48646)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】