説明

有機エレクトロルミネッセンス装置及び電子機器

【課題】陰極側での光共振条件の調整が容易であり、良好な発光特性と、光共振器の高効率とを両立させることが可能な有機エレクトロルミネッセンス装置を提供すること、及び当該有機エレクトロルミネッセンス装置を用いた電子機器を提供すること。
【解決手段】有機EL装置1は、光透過性を有する基板10と、基板10上に順次積層された誘電体多層膜15、光透過性を有する陽極としての画素電極21、正孔注入層24、正孔輸送層25、有機発光層26、電子輸送層27、電子注入層28、ハーフミラー状に形成された陰極30、SiNからなる光学距離調整層31、反射層32、封止部材29を備える。誘電体多層膜15及び反射層32は光共振器を構成するため、有機EL装置1からは、スペクトルの半値幅が狭く色純度の高い光を高効率で取り出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性を有する基板と、当該基板上に形成された有機発光層を含む発光素子とを有し、当該発光素子で発光した光を前記基板側から取り出す構成の有機エレクトロルミネッセンス装置に関する。また、当該有機エレクトロルミネッセンス装置を搭載した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記構成の有機エレクトロルミネッセンス装置(以下「有機EL装置」とも略す)は、ボトムエミッション型と呼ばれる有機EL装置に含まれ、発光装置や表示装置として種々の電子機器に用いられている。こうしたボトムエミッション型の有機EL装置においては、発光素子内に光共振器を形成することによって、特定の波長域の光を高効率で取り出し、発光スペクトルの幅を狭める技術が知られている(特許文献1参照)。ここで、光共振器は、有機発光層を挟んで配置された半透明反射膜(ハーフミラー)と陰極によって構成される。
【0003】
【特許文献1】特許第2797883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、光取り出し効率の良い光共振器を構成するために、陰極に光反射性の良い銀等の金属を用いると、有機発光層におけるエレクトロルミネッセンス現象の効率が落ち、良好な発光特性が得られにくい。一方で、良好な発光特性を得るために、電子注入性は良いが光反射性の悪いアルミニウム等の金属を陰極に用いると、光取り出し効率の良い光共振器を構成するのが困難である。このように、発光特性と光共振器の効率とを両立させることが難しいという問題点があった。
【0005】
また、有機発光層の陽極側においては、陽極としてのITO(Indium Tin Oxide)の厚さを変更することで光共振条件の調整が可能であるが、陰極側には電子輸送層等の厚さの変更が困難な層しか存在しないため、陰極側の光共振条件の調整が難しいという問題点があった。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、陰極側での光共振条件の調整が容易であり、良好な発光特性と、光共振器の高効率とを両立させることが可能な有機エレクトロルミネッセンス装置を提供すること、及び当該有機エレクトロルミネッセンス装置を用いた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置は、光透過性を有する基板と、前記基板上に形成されたハーフミラーと、前記ハーフミラー上に形成された、光透過性を有する陽極と、前記陽極上に形成された、有機発光層を含む機能層と、前記機能層を挟んで前記陽極に対向するように形成された、光透過性を有する陰極と、前記陰極上に形成された、光透過性を有する薄膜と、前記薄膜上に形成された反射層と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、有機発光層で発光した光のうち陰極側へ進行した光は、陰極及び薄膜を透過することができ、その後反射層で反射されて陽極側へ進行する。一方、陽極側へ進行した光は、ハーフミラーで一部反射されて陰極側へ進行する。このため、ハーフミラー及び反射層が光共振器を構成する。そして、有機発光層で発光した光のうち、この光共振器の光共振条件に適合する波長の光がハーフミラー側(陽極側)から取り出される。
【0009】
ここで、上記薄膜は、光学距離調整層として機能する。すなわち、当該薄膜の厚さを変化させることによって、有機発光層から反射層までの光学距離を変化させることができ、有機発光層から見て陰極側の光共振条件を容易に調整することができる。したがって、上記構成によれば、所望の波長域の光であって、スペクトルの半値幅が狭く色純度の高い光を高効率で取り出すことが可能な有機エレクトロルミネッセンス装置が得られる。
【0010】
上記有機エレクトロルミネッセンス装置において、前記ハーフミラーは、誘電体多層膜であることが好ましい。誘電体多層膜によるハーフミラーは、可視光域においてほとんど光を吸収しない。このため、上記構成によれば、光共振条件に適合する波長の光を高効率で取り出すことが可能な有機エレクトロルミネッセンス装置が得られる。
【0011】
上記有機エレクトロルミネッセンス装置において、前記反射層は、銀を主成分とすることが好ましい。上記反射層は、機能層に接触していないことから、有機発光層におけるエレクトロルミネッセンス現象にほとんど関与しない。このため、材料選択に関して自由度が高く、銀を主成分とする光反射性の良い材料を用いることができる。これにより、光共振器からの光取り出し効率を向上させることができる。一方、陰極の材料は、光反射性を考慮して選択する必要がないため、例えば電子注入性の良いアルミニウム等とすることができる。これにより、良好な発光特性を実現できる。よって、上記構成によれば、良好な発光特性と、光共振器の高効率とを両立させることが可能な有機エレクトロルミネッセンス装置が得られる。
【0012】
上記有機エレクトロルミネッセンス装置において、前記薄膜は、絶縁性を有することことが好ましい。このように、上記薄膜に絶縁物質を用いた構成とすれば、陰極と反射層とが電気的に絶縁されるため、陰極から機能層へ安定した電子注入を行うことができる。ここで用いる絶縁物質としては、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO2)、SiONに代表されるような絶縁性無機物質が好ましい。
【0013】
上記有機エレクトロルミネッセンス装置において、前記薄膜は、導電性を有することが好ましい。このように、上記薄膜に導電性物質を用いた構成とすれば、十分な導電性を確保できないほどに陰極が薄く形成されている場合であっても、薄膜によってその導電性を補填することができる。ここで用いる導電性物質としては、ITOに代表される導電性無機物質が好ましい。
【0014】
本発明の電子機器は、上記有機エレクトロルミネッセンス装置を備えることを特徴とする。このような構成の電子機器によれば、色純度が高くかつ輝度の高い発光を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す各図においては、各構成要素を図面上で認識され得る程度の大きさとするため、各構成要素の寸法や比率を実際のものとは適宜に異ならせてある。
【0016】
(有機エレクトロルミネッセンス装置)
図1は、本発明の実施形態に係る有機EL装置1の平面図である。有機EL装置1は、透光性を有する基板10と、基板10上に配列された複数の発光素子5とを備えている。発光素子5は、基板10の長手方向に沿って等ピッチに配列されて列をなしている。そして、この発光素子5の列は、基板10上に2列に配列されている。また、各発光素子5は、隣接する他方の列の発光素子5に対して基板10の長手方向について半ピッチだけずれるようにして配置されている。つまり、発光素子5は、千鳥格子状に配列されている。
【0017】
次に、図2を用いて有機EL装置1の構造について詳述する。図2は、図1中のA−A線における断面図である。有機EL装置1は、基板10を基体とし、その上に各構成要素が積み上げられた構成となっている。ここで、基板10は、ガラス基板や石英基板等の上に公知の技術を用いてTFT(Thin Film Transistor)素子や各種配線(TFT素子を駆動するためのデータ線、走査線等)、絶縁膜等が形成された、いわゆるTFT素子基板である。
【0018】
基板10上には、誘電体多層膜15が形成されている。誘電体多層膜15は、屈折率の異なる2種類の無機物質を交互に積層したものであり、光反射性及び光透過性を併せもつ。本実施形態では、上記無機物質としてSiN及びSiO2を用いており、これらが交互に3層ずつ(計6層)積層されている。すなわち、誘電体多層膜15の層構造は、基板10に近い方からSiN/SiO2/SiN/SiO2/SiN/SiO2となっている。これらの層を適切な厚さで積層することにより、誘電体多層膜15に入射した光の各層の境界面での反射光が相加的に重なるようになり、光反射性が得られる。これらいずれの層でも反射されなかった光は、ほとんど吸収されることなく透過する。本実施形態では、SiNの各層の厚さは約25nm、SiO2の各層の厚さは約40nmに設定されており、誘電体多層膜15の全体の厚さは約200nmである。誘電体多層膜15は、本発明におけるハーフミラーに対応する。
【0019】
誘電体多層膜15上には、陽極としての画素電極21が積層されている。画素電極21は、厚さ約70nmの透光性を有するITO(Indium Tin Oxide)からなる。画素電極21及び上記誘電体多層膜15は、発光素子5の発光部を円形とするために、これと同心の円形に形成されている。画素電極21は、基板10に含まれるTFT素子を介して、データ線(不図示)に接続されている。
【0020】
誘電体多層膜15及び画素電極21の周囲には、遮光性を有する樹脂からなる隔壁22が形成されている。隔壁22は、画素電極21の外縁部において画素電極21に一部重なった状態に配置されている。隔壁22は、当該隔壁22上の構成要素と基板10中のTFTとの短絡を防ぐとともに、各発光素子5を互いに隔離する機能を果たす。隔壁22は、後述する正孔注入層24を均一な厚さに形成できるように、その高さ及び親水性(撥水性)が調整されている。隔壁22の親水性(撥水性)は、プラズマや紫外線照射による表面改質、あるいは隔壁22の材料組成の選択によって調整することができる。
【0021】
上記画素電極21及び隔壁22の上には、正孔注入層24、正孔輸送層25、有機発光層26、電子輸送層27、電子注入層28がこの順に積層されており、その厚さは順におよそ50nm、10nm、100nm、20nm、5nmである。正孔注入層24、正孔輸送層25、有機発光層26、電子輸送層27、電子注入層28を合わせたものが、本発明における機能層に相当する。さらに、隔壁22と上記機能層の全体を覆うようにして、陰極30が形成されている。陰極30は、光透過性を有する程度に薄く形成されたアルミニウムの層からなり、その厚さは5nmないし10nm程度である。
【0022】
上記有機発光層26は、エレクトロルミネッセンス現象を発現する有機発光物質の層である。画素電極21と陰極30との間に電圧を印加することによって、有機発光層26には、正孔輸送層25から正孔が、また、電子輸送層27から電子が注入される。有機発光層26は、これらの正孔と電子とが再結合したときに発光を行う。有機発光層26の発光スペクトルは、材料の発光特性や膜厚に依存する。本実施形態では、有機発光層26は赤色光を発する。
【0023】
ここで、正孔輸送層25及び電子輸送層27は、それぞれ有機発光層26への正孔輸送性、電子輸送性を高めて発光効率を向上させることを目的とする層である。また、正孔注入層24及び電子注入層28は、それぞれ画素電極21、陰極30からの正孔注入効率、電子注入効率を高めて発光効率を向上させることを目的とする層である。
【0024】
陰極30の上には、当該陰極30を覆うようにしてSiNからなる光学距離調整層31、銀からなる反射層32、及び発光素子5を保護するための封止部材29がこの順に積層されている。光学距離調整層31、反射層32の厚さはそれぞれ約140nm、約200nmである。光学距離調整層31は絶縁性を有するので、陰極30と反射層32とを絶縁する役割も果たす。これにより、陰極30から電子注入層28へ安定した電子注入を行うことができる。光学距離調整層31は、本発明における薄膜に対応する。
【0025】
次に、有機発光層26で発光した光の振る舞いについて説明するとともに、発光素子5内に形成された光共振器について述べる。
【0026】
図2中の有機発光層26を始点とする矢印は、有機発光層26で発光した光の振る舞いを示している。有機発光層26から陰極30側(図2における上方向)に進行した光は、ハーフミラー状に薄く形成された陰極30によって一部反射されて画素電極21側(図2における下方向)に向かうとともに、一部は陰極30を透過する。そして、陰極30を透過した光は、反射層32で反射されて画素電極21側に向かう。一方、有機発光層26から画素電極21側に進行した光は、誘電体多層膜15によって一部反射されて陰極30側に向かい、一部は誘電体多層膜15を透過して基板10側から有機EL装置1の外部に射出される。
【0027】
このように、有機発光層26で発光した光は、誘電体多層膜15と反射層32との間を反射しながら往復し、誘電体多層膜15を透過したものが外部に取り出される。このような構成の有機EL装置1は、全体として基板10側から光を取り出すいわゆるボトムエミッション型と呼ばれる有機EL装置である。
【0028】
ここで、誘電体多層膜15及び反射層32は、いわゆる光共振器を構成している。このため、有機発光層26において発せられた光のうち、当該光共振器の光共振条件に適合する波長の光が高い効率で基板10側から取り出される。これにより、ピーク強度が高く半値幅の狭いスペクトルを有する光を取り出すことができ、有機EL装置1による発光の色純度を向上させることができる。
【0029】
上記光共振条件は、有機発光層26から誘電体多層膜15までの距離、及び有機発光層26から反射層32までの距離で定まる。このうち、有機発光層26から誘電体多層膜15までの距離は、ITOからなる画素電極21の厚さを変更することで調整することができる。また、有機発光層26から反射層32までの距離は、SiNからなる光学距離調整層31の厚さを変更することで調整することができる。すなわち、本実施形態のように陰極30の外側に光学距離調整層31が配置された構成によれば、有機発光層26から見て陰極30側の光共振条件を容易に調整することができる。なお、光共振条件の調整のために正孔注入層24、正孔輸送層25、有機発光層26、電子輸送層27、電子注入層28の厚さを変更することは好ましくない。これらの層は、好適な発光特性が得られる厚さが限られているため、その厚さを無闇に変更すると有機EL装置1の発光特性の低下を招くためである。
【0030】
ところで、ハーフミラー状に形成された陰極30も光反射性を有するので、誘電体多層膜15及び陰極30も光共振器を構成する。しかしながら、この光共振器は、上記した誘電体多層膜15及び反射層32からなる光共振器に比べて、所望の波長の光を効率よく取り出すのが難しい。これは、有機発光層26の陰極30側に厚さの変更が容易な層がなく、光共振条件の調整が困難なためである。したがって、この光共振器には多くの光が入らないのが望ましい。このため、陰極30の反射率は低いほど好ましく、換言すれば陰極30の厚さは小さいほど好ましい。
【0031】
以下では、本実施形態の構成の有機EL装置1によって得られる効果を説明するために、従来の構成の有機EL装置との比較を行う。図7は、従来の構成の有機EL装置2aの、発光素子5を含む位置における断面図であり、図8は、従来の構成の有機EL装置2bの、発光素子5を含む位置における断面図である。以下、図7、図8の有機EL装置2a,2bについて、図2の有機EL装置1と異なる点を中心に説明する。なお、図2の実施形態と同じ要素には同じ符号を付して示すことにして、その説明は省略する。
【0032】
図7に示す有機EL装置2aは、誘電体多層膜15、光学距離調整層31、反射層32をもたない点、及びアルミニウムからなる陰極30の厚さが約200nmと厚く、反射層としての機能を兼ねている点において図1の有機EL装置1と異なる。この有機EL装置2aにおける光の振る舞いは以下の通りである。すなわち、有機発光層26で発光した光のうち、陰極30側に進行した光は、陰極30によって反射されて画素電極21側に向かい、その後基板10側から有機EL装置2aの外部に射出される。一方、有機発光層26から画素電極21側に進行した光は、そのまま画素電極21を透過して基板10側から有機EL装置2aの外部に射出される。このように、有機EL装置2aは、光共振器をもたず、有機発光層26で発せられた光を単に基板10側から取り出す方式のボトムエミッション型の有機EL装置である。
【0033】
図8に示す有機EL装置2bは、図7に示す有機EL装置2aにおいて、基板10と画素電極21との間に厚さ約5nmのアルミニウムからなるハーフミラー16を形成したものである。この有機EL装置2bにおける光の振る舞いは以下の通りである。すなわち、有機発光層26で発せられた光のうち、陰極30側に進行した光は、陰極30によって反射されて画素電極21側に向かう。一方、有機発光層26から画素電極21側に進行した光は、ハーフミラー16によって一部反射されて陰極30側に向かい、一部はハーフミラー16を透過して基板10側から有機EL装置2bの外部に射出される。ここで、ハーフミラー16及び陰極30は、いわゆる光共振器を構成している。このため、有機発光層26において発せられた光のうち、当該光共振器の光共振条件に適合する波長の光が高い効率で基板10側から取り出される。このような構成の有機EL装置2bは、全体としては有機発光層26で発せられた光を基板10側から取り出すボトムエミッション型の有機EL装置である。
【0034】
以上に述べた有機EL装置2a,2b,1の各構成要素と、それぞれの厚さを下表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
また、図3に、有機EL装置2a,2b,1それぞれの発光スペクトルを示す。図3中の発光スペクトルa,b,cは、それぞれ有機EL装置2a,2b,1の発光素子5の正面方向の発光スペクトルに対応する。これらの発光スペクトルa,b,cについて、相対輝度及び半値幅を比較したものを下表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
図3及び表2から分かるように、有機EL装置2bの発光スペクトルbの半値幅(63.5nm)は、有機EL装置2aの発光スペクトルaの半値幅(104.4nm)に対して狭くなっている。これは、有機EL装置2bが有する光共振器の作用によるものである。
【0039】
そして、本発明の実施形態に係る有機EL装置1の発光スペクトルcの半値幅(23.0nm)は、有機EL装置2bの発光スペクトルbの半値幅よりさらに狭くなっている。これは、有機EL装置1においては、光学距離調整層31によって有機発光層26の陰極30側においても光共振条件が好適な状態に調整されているためである。よって、有機EL装置1は、光学距離調整層31をもたない有機EL装置2bよりも色純度の高い発光を行うことができる。こうした特徴を有する有機EL装置1は、特定波長の光を供給することができるので、例えばレンズ系による波長分散が懸念されるような用途に適している。
【0040】
また、有機EL装置2aの発光輝度を1とした場合の有機EL装置2bの相対輝度は1.07であり、有機EL装置2bの構成とした場合の発光輝度の向上はほとんどない。これに対し、有機EL装置1の発光輝度は、有機EL装置2aの発光輝度の1.79倍にまで高められている。特に波長640nmの光に着目すれば(図3参照)、有機EL装置2aの約4倍の強度の光を取り出すことができる。これは、上記したように光共振条件が適切であることに加えて、光共振器を構成する陰極30側の反射層32に光反射性の良い銀を用いていること、及び画素電極21側のハーフミラーに、可視光域においてほとんど吸収のない誘電体多層膜15を用いていることによる。このように、陰極30と異なる構成要素(反射層32)によって光共振器を構成することで、反射層32に光反射性のよい銀等を採用することができるので、光共振器の光取り出し効率を高めることができる。同時に、陰極30の材料は、光反射性を考慮して選択する必要がなくなるため、例えば電子注入性の良いアルミニウム等とすることができる。これにより、良好な発光特性を実現できる。よって、有機EL装置1は、良好な発光特性と、光共振器の高効率とを両立させることができる。
【0041】
(電子機器)
上述の有機EL装置1は、図4の斜視図に示すように、光書き込みヘッドモジュール101Kに組み込まれて用いられる。光書き込みヘッドモジュール101Kは、円柱状の感光体ドラム41Kと平行に、これと対向した状態で用いられる。光書き込みヘッドモジュール101Kは、感光体ドラム41Kと平行な方向に配設された箱体37と、箱体37と感光体ドラム41Kとの間に位置するように箱体37に取り付けられた光学部材38とを備えている。箱体37は、感光体ドラム41K側に開口部を有しており、その開口部に向かって光が射出するように有機EL装置1が固定されている。
【0042】
また、図5は、光書き込みヘッドモジュール101Kの断面図である。この図に示すように、光学部材38は、有機EL装置1と対向する位置に備えられている。この光学部材38は、内部にセルフォック(登録商標)レンズアレイ39を備えており、有機EL装置1の発光素子5から射出され、一端に入射した光を、他端側から射出して感光体ドラム41Kの表面で集光、照射(描画)する。
【0043】
上記光書き込みヘッドモジュール101Kは、例えば、図6に示す「電子機器」としての画像形成装置80に用いられる。図6は、画像形成装置80の構造を示す断面図である。画像形成装置80は、上記有機EL装置1が組み込まれた光書き込みヘッドモジュール101K,101C,101M,101Yを備えており、これらに対応して4個の感光体ドラム(像担持体)41K,41C,41M,41Yを配置したタンデム方式として構成されたものである。
【0044】
この画像形成装置80は、駆動ローラ91と従動ローラ92とテンションローラ93とを備え、これら各ローラに中間転写ベルト90を、図6中矢印方向(反時計方向)に循環駆動するよう張架したものである。この中間転写ベルト90に対して、感光体ドラム41K,41C,41M,41Yが所定間隔で配置されている。これら感光体ドラム41K,41C,41M,41Yは、その外周面が像担持体としての感光層となっている。
【0045】
ここで、上記符号中のK,C,M,Yは、それぞれ黒、シアン、マゼンタ、イエローを意味し、それぞれ黒、シアン、マゼンタ、イエロー用の感光体であることを示している。なお、これら符号(K,C,M,Y)の意味は、他の部材についても同様である。感光体ドラム41K,41C,41M,41Yは、中間転写ベルト90の駆動と同期して、図6中矢印方向(時計方向)に回転駆動するようになっている。
【0046】
各感光体ドラム41(K,C,M,Y)の周囲には、それぞれ感光体ドラム41(K,C,M,Y)の外周面を一様に帯電させる帯電手段(コロナ帯電器)42(K,C,M,Y)と、この帯電手段42(K,C,M,Y)によって一様に帯電させられた外周面を感光体ドラム41(K,C,M,Y)の回転に同期して順次ライン走査する光書き込みヘッドモジュール101(K,C,M,Y)とが設けられている。
【0047】
また、光書き込みヘッドモジュール101(K,C,M,Y)で形成された静電潜像に現像剤であるトナーを付与して可視像(トナー像)とする現像装置44(K,C,M,Y)と、現像装置44(K,C,M,Y)で現像されたトナー像を一次転写対象である中間転写ベルト90に順次転写する転写手段としての一次転写ローラ45(K,C,M,Y)とが設けられている。また、転写された後に感光体ドラム41(K,C,M,Y)の表面に残留しているトナーを除去するクリーニング手段としてのクリーニング装置46(K,C,M,Y)が設けられている。
【0048】
各光書き込みヘッドモジュール101(K,C,M,Y)は、各有機EL装置1のアレイ方向(発光素子5の整列方向)が感光体ドラム41(K,C,M,Y)の回転軸に平行となるように設置されている。そして、各光書き込みヘッドモジュール101(K,C,M,Y)の主発光波長と、感光体ドラム41(K,C,M,Y)の感度ピーク波長とが略一致するように設定されている。
【0049】
現像装置44(K,C,M,Y)は、例えば、現像剤として非磁性一成分トナーを用いる。そして、その一成分現像剤を例えば供給ローラで現像ローラへ搬送し、現像ローラ表面に付着した現像剤の膜厚を規制ブレードで規制し、その現像ローラを感光体ドラム41(K,C,M,Y)に接触させあるいは押圧せしめることにより、感光体ドラム41(K,C,M,Y)の電位レベルに応じて現像剤を付着させ、トナー像として現像するものである。
【0050】
このような4色の単色トナー像形成ステーションにより形成された黒、シアン、マゼンタ、イエローの各トナー像は、一次転写ローラ45(K,C,M,Y)に印加される一次転写バイアスによって中間転写ベルト90上に順次一次転写される。そして、中間転写ベルト90上で順次重ね合わされてフルカラーとなったトナー像は、二次転写ローラ66において用紙等の記録媒体Pに二次転写され、さらに定着部である定着ローラ対61を通ることで記録媒体P上に定着される。その後、排紙ローラ対62によって装置上部に形成された排紙トレイ68上に排出される。
【0051】
なお、図6中の符号63は多数枚の記録媒体Pが積層保持されている給紙カセット、64は給紙カセット63から記録媒体Pを一枚ずつ給送するピックアップローラ、65は二次転写ローラ66の二次転写部への記録媒体Pの供給タイミングを規定するゲートローラ対、67は二次転写後に中間転写ベルト90の表面に残留しているトナーを除去するクリーニング手段としてのクリーニングブレードである。
【0052】
この画像形成装置80は、上述したように、本発明に係る有機EL装置1を有する光書き込みヘッドモジュール101(K,C,M,Y)が露光手段として備えられている。したがって、光書き込みヘッドモジュール101(K,C,M,Y)は、ピーク強度が高く、スペクトルの半値幅の狭い高品位な発光を行うことができ、画像形成装置80は、高画質の印刷を行うことができる。
【0053】
なお、本発明を適用した有機EL装置1は、上記画像形成装置80の他、プリンタヘッド、光ディスク用光源等の各種電子機器に搭載して用いることができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に対しては、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができる。変形例としては、例えば以下のようなものが考えられる。
【0055】
(変形例1)
上記実施形態において、本発明の薄膜としての光学距離調整層31には絶縁性を有するSiNを用いているが、これ以外にもSiO2、SiONを始めとする各種絶縁性物質を用いることができる。
【0056】
また、光学距離調整層31には導電性を有する物質を用いてもよく、例えば、ITOを用いることができる。こうした構成によれば、陰極30の反射率を下げるために十分な導電性を確保できないほどに陰極30が薄く形成されている場合であっても、光学距離調整層31によってその導電性を補填することができる。
【0057】
(変形例2)
上記実施形態においては、本発明のハーフミラーとして誘電体多層膜15を用いているが、これに代えて金属からなるハーフミラーとしてもよい。こうした構成によっても、光反射性の良い反射層32とハーフミラーとの間で光取り出し効率の良い光共振器を構成でき、かつ光学距離調整層31の厚さを変更することによって有機発光層26の陰極30側における光共振条件を容易に調整可能な有機EL装置が得られる。
【0058】
(変形例3)
上記実施形態においては、本発明の機能層として、正孔注入層24、正孔輸送層25、有機発光層26、電子輸送層27、電子注入層28を積層したものが用いられているが、これに限定する趣旨ではない。これらのうち、有機発光層26以外の層は、必要に応じて、若しくは製造工程の便宜を考慮して省略することができる。例えば、機能層を正孔輸送層25及び有機発光層26の2層としてもよい。また、上記の層以外にも、正孔ブロック層又は電子ブロック層等の層を必要に応じて積層することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL装置の平面図。
【図2】図1に示す有機EL装置のA−A線における断面図。
【図3】図2,7,8に示す有機EL装置の発光スペクトルを示す図。
【図4】有機EL装置が組み込まれた光書き込みヘッドモジュールの斜視図。
【図5】図4に示す光書き込みヘッドモジュールの断面図。
【図6】本発明に係る有機EL装置を搭載した画像形成装置の断面図。
【図7】従来の構成の有機EL装置の断面図。
【図8】従来の構成の有機EL装置の断面図。
【符号の説明】
【0060】
1…有機EL装置、2a,2b…従来の構成の有機EL装置、5…発光素子、10…基板、15…ハーフミラーとしての誘電体多層膜、21…陽極としての画素電極、22…隔壁、24…正孔注入層、25…正孔輸送層、26…有機発光層、27…電子輸送層、28…電子注入層、29…封止部材、30…陰極、31…薄膜としての光学距離調整層、32…反射層、80…電子機器としての画像形成装置、101K…光書き込みヘッドモジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基板と、
前記基板上に形成されたハーフミラーと、
前記ハーフミラー上に形成された、光透過性を有する陽極と、
前記陽極上に形成された、有機発光層を含む機能層と、
前記機能層を挟んで前記陽極に対向するように形成された、光透過性を有する陰極と、
前記陰極上に形成された、光透過性を有する薄膜と、
前記薄膜上に形成された反射層と、
を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置であって、
前記ハーフミラーは、誘電体多層膜であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置であって、
前記反射層は、銀を主成分とすることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置であって、
前記薄膜は、絶縁性を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置であって、
前記薄膜は、導電性を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−299689(P2007−299689A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128164(P2006−128164)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】