説明

有機エレクトロルミネッセント素子及び有機エレクトロルミネッセント表示装置

【課題】高い発光効率を有し、駆動電圧を低減させることができる有機EL素子及びそれを用いた有機EL表示装置を得る。
【解決手段】陽極と、陰極と、陽極及び陰極の間に配置される発光層と、発光層及び陽極の間に配置される少なくとも3つの有機層とを備え、有機層のうち陽極側に設けられる第1の有機層1の最低空分子軌道のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と、第1の有機層1の陰極側に隣接して設けられる第2の有機層2の最低空分子軌道のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(B)│とが、│LUMO(A)│<│LUMO(B)│の関係にあり、第2の有機層2の陰極側に隣接して設けられる第3の有機層3の最高被占分子軌道のエネルギーレベルHOMO(C)と、第2の有機層2のLUMO(B)との差の絶対値が、│HOMO(C)−LUMO(B)│≦1.5eVの関係にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子及び有機エレクトロルミネッセント表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセント素子(有機EL素子)は、ディスプレイや照明への応用の観点から活発に開発が行われている。有機EL素子の駆動原理は、以下のようなものである。すなわち、陽極及び陰極からそれぞれホールと電子が注入され、これらが有機薄膜中を輸送され、発光層において再結合し励起状態が生じ、この励起状態から発光が得られる。発光効率を高めるためには、効率良くホール及び電子を注入させ、有機薄膜中を輸送させることが必要である。
【0003】
有機EL素子においては、電極と発光層の間にホールまたは電子を移送させるための電荷輸送層や電荷注入層等が一般に設けられている。
【0004】
特許文献1では、陽極側から陰極側にかけてホール注入層、ホール輸送層、電子捕獲層、発光層、及び電子輸送層が積層された構造において、電子捕獲層の母材の伝導帯最低準位が、ホール輸送層の母材の伝導帯最低準位及び発光層の母材の伝導帯最低準位よりも低くすることが提案されている。これにより、陽極側のホール輸送層の母材の劣化を防止している。
【0005】
特許文献2においては、隣り合う2層のホール輸送層の界面に、隣り合うホール輸送層の構成材料が混合されてなる混合層を介在させることが提案されており、これにより隣り合う2層の電荷輸送層間の密着性を向上させ、発光効率や輝度寿命を向上できる旨説明されている。
【0006】
特許文献3においては、陰極と発光層の間において、陰極バッファ層と電子輸送層とを交互に少なくとも2回以上積層することにより、電子輸送効率を制御することが提案されている。
【0007】
従来より、ホール輸送層としては、NPB(N,N′−ジ(ナフタセン−1−イル)−N,N′−ジフェニルベンジジン)などの3級アリールアミン系材料が用いられているが、キャビティを調整するため、このNPB等からなるホール輸送層の膜厚を厚くすると、NPB等のホール輸送性材料のキャリア移動度が低いため、駆動電圧が高くなるという問題があった。従って、従来より、NPB等の膜厚を厚くしても、駆動電圧を低減することができる有機EL素子の素子構造が求められている。
【特許文献1】特開2003−151776号公報
【特許文献2】特開2004−207000号公報
【特許文献3】特開2003−229269号公報
【非特許文献1】SYNTHESIS,April,1994,378〜380頁“Improved Synthesis of 1,4,5,8,9,12-Hexaazatriphenylenehexacarboxylic Acid”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い発光効率を有し、駆動電圧を低減させることができる有機EL素子及び有機EL表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の有機EL素子は、陽極と、陰極と、陽極及び陰極の間に配置される発光層と、発光層及び陽極の間に配置される少なくとも3つの有機層とを備え、有機層のうち陽極側に設けられる第1の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と、第1の有機層の陰極側に隣接して設けられる第2の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(B)│とが、│LUMO(A)│<│LUMO(B)│の関係にあり、第2の有機層の陰極側に隣接して設けられる第3の有機層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルHOMO(C)と、第2の有機層のLUMO(B)との差の絶対値│HOMO(C)−LUMO(B)│が、│HOMO(C)−LUMO(B)│≦1.5eVの関係にあることを特徴としている。
【0010】
本発明においては、発光層及び陽極層の間に第1の有機層、第2の有機層、及び第3の有機層が配置されており、第1の有機層のLUMO(A)と、第2の有機層のLUMO(B)とが、
│LUMO(A)│<│LUMO(B)│ ………(1)
の関係にある。
【0011】
また、第2の有機層のLUMO(B)と、第3の有機層のHOMO(C)とが、
│HOMO(C)−LUMO(B)│≦1.5eV ………(2)
の関係にある。
【0012】
本発明においては、上記(2)式を満たしているので、第3の有機層のHOMO(C)と、第2の有機層のLUMO(B)との差が1.5eV以下となっている。このため、第2の有機層は、第3の有機層から容易に電子を引き抜くことができる。
【0013】
また、上記(1)式を満たしているので、第2の有機層が第3の有機層から引き抜いた電子は、第1の有機層によってブロックされ、第2の有機層中に電子が蓄積する。このため、局所的に高い電界がかかる。本発明に従えば、このように高い電界がかかるため、エネルギーバンドが変化し、駆動電圧の低下が生じるものと考えられる。
【0014】
本発明においては、第1の有機層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルの絶対値│HOMO(A)│と、第2の有機層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルの絶対値│HOMO(B)│とが、
│HOMO(A)│<│HOMO(B)│ ………(3)
の関係にあることが好ましい。
【0015】
上記(3)式を満たすことにより、第1の有機層から第2の有機層に流れようとするホールが、第2の有機層のエネルギー障壁によりブロックされるため、第1の有機層と第2の有機層の界面にホールが蓄積される。これにより、さらに局所的に高い電界をかけることができ、駆動電圧をより低下させることができると考えられる。
【0016】
本発明において、第1の有機層及び第3の有機層は、ホール輸送性材料から形成されていることが好ましい。このようなホール輸送性材料としては、例えば3級アリールアミン系材料を挙げることができる。
【0017】
本発明において、第2の有機層は、上記(1)及び(2)式を満たすような材料が用いられる。本発明における第2の有機層は、第3の有機層から電子を引き抜く電子引き抜き層として作用する。また、第2の有機層は、上記(3)式を満たすようなものであることが好ましい。このような第2の有機層を形成する材料として、以下に示す構造式で表されるピラジン誘導体が挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
(ここで、Arはアリール基を示し、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミン基、またはF、Cl、Br、IもしくはCNを示す。)
また、本発明における第2の有機層を形成する材料は、以下に示す構造式で表されるヘキサアザトリフェニレン誘導体であることがさらに好ましい。
【0020】
【化2】

【0021】
(ここで、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミン基、またはF、Cl、Br、IもしくはCNを示す。)
本発明の有機エレクトロルミネッセント表示装置は、陽極と陰極に挟まれた素子構造を有する有機エレクトロルミネッセント素子と、表示画素毎に対応した表示信号を有機エレクトロルミネッセント素子に供給するための能動素子が設けられたアクティブマトリックス駆動基板とを備え、有機エレクトロルミネッセント素子をアクティブマトリックス駆動基板の上に配置し、陰極及び陽極のうち上記基板側に設けられる電極を透明電極としたボトムエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置であって、有機エレクトロルミネッセント素子が、陽極と、陰極と、陽極及び陰極の間に配置される発光層と、発光層及び陽極の間に配置される少なくとも3つの有機層とを備え、有機層のうち陽極側に設けられる第1の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と、第1の有機層の陰極側に隣接して設けられる第2の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(B)│とが、│LUMO(A)│<│LUMO(B)│の関係にあり、第2の有機層の陰極側に隣接して設けられる第3の有機層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルHOMO(C)と、第2の有機層のLUMO(B)との差の絶対値│HOMO(C)−LUMO(B)│が、│HOMO(C)−LUMO(B)│≦1.5eVの関係にあることを特徴としている。
【0022】
上記本発明の有機エレクトロルミネッセント表示装置において、有機EL素子が白色発光素子である場合、有機EL素子と基板との間にカラーフィルターを配置してから表示装置とすることができる。
【0023】
本発明の他の局面に従う有機エレクトロルミネッセント表示装置は、陽極と陰極に挟まれた素子構造を有する有機エレクトロルミネッセント素子と、表示画素毎に対応した表示信号を有機エレクトロルミネッセント素子に供給するための能動素子が設けられたアクティブマトリックス駆動基板と、該アクティブマトリックス駆動基板と対向して設けられる透明な封止基板とを備え、有機エレクトロルミネッセント素子をアクティブマトリックス駆動基板と封止基板の間に配置し、陰極及び陽極のうち封止基板側に設けられる電極を透明電極としたトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置であって、有機エレクトロルミネッセント素子が、陽極と、陰極と、陽極及び陰極の間に配置される発光層と、発光層及び陽極の間に配置される少なくとも3つの有機層とを備え、有機層のうち陽極側に設けられる第1の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と、第1の有機層の前記陰極側に隣接して設けられる第2の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(B)│とが、│LUMO(A)│<│LUMO(B)│の関係にあり、第2の有機層の陰極側に隣接して設けられる第3の有機層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルHOMO(C)と、第2の有機層のLUMO(B)との差の絶対値│HOMO(C)−LUMO(B)│が、│HOMO(C)−LUMO(B)│≦1.5eVの関係にあることを特徴としている。
【0024】
上記有機エレクトロルミネッセント表示装置において、有機EL素子が白色発光素子である場合、有機EL素子と封止基板との間にカラーフィルター装置を配置し、カラーフィルター表示装置とすることができる。
【0025】
本発明の有機EL表示装置は、上記本発明の有機EL素子を備えるものであるので、高い発光効率を示し、駆動電圧を低減させることができ、消費電力の低減化を図ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高い発光効率を有し、駆動電圧を低減することができる有機EL素子とすることができる。特に、有機EL素子のキャビティを調整するため、発光層と陽極の間に配置されるホール輸送性材料の層の厚みを厚くする必要が生じる場合があるが、そのような場合でも膜厚が厚くなることによる駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0027】
本発明の有機EL表示装置は、上記本発明の有機EL素子を備えるものであるので、高い発光効率を有し、駆動電圧を低減化し、消費電力を低減させることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
図1(a)は、本発明の有機EL素子における第1の有機層1、第2の有機層2、及び第3の有機層3のHOMO及びLUMOのエネルギーレベルを模式的に示す図である。第1の有機層1のLUMOをL、HOMOをHとして示している。第2の有機層2のLUMOをL、HOMOをHとして示している。第3の有機層3のLUMOをL、HOMOをHとして示している。
【0030】
図1(a)に示すように、本発明に従う有機EL素子においては、第2の有機層2のLUMOエネルギーレベルLの絶対値は、第1の有機層1のLUMOのエネルギーレベルLよりも大きくなっている。また、第3の有機層3のHOMOのエネルギーレベルHと、第2の有機層2のLUMOのエネルギーレベルLとの差の絶対値は、1.5eV以下になっている。
【0031】
また、図1(a)に示す例においては、第2の有機層2のHの絶対値は、第1の有機層1のHの絶対値よりも大きくなっている。
【0032】
図1(b)は、第1の有機層1と第3の有機層3の間に、電子引き抜き層としての第2の有機層2を配置しない比較例のエネルギーレベルを示す図である。この例では、第1の有機層1と、第3の有機層3は同じ材料から形成されているので、第1の有機層1のLと第3の有機層3のLと同じレベルとなっており、同様にHとHも同じレベルとなっている。
【0033】
図2は、図1(a)及び(b)の積層構造に電圧を印加したときのエネルギーレベルを示す模式図である。
【0034】
図2(a)に示すように、本発明に従う有機EL素子においては、第3の有機層3のHと、第2の有機層2のLとの差が1.5eV以下であるので、第2の有機層2は、第3の有機層3から電子を容易に引き抜くことができる。
【0035】
また、第2の有機層2のLの絶対値が、第1の有機層1のLの絶対値よりも大きいので、第1の有機層1と第2の有機層2の界面がエネルギー障壁となり、引き抜いた電子は第2の有機層2に蓄積され、これによって局所的に高い電界がかかる。
【0036】
また、第2の有機層2のHの絶対値が、第1の有機層1のHの絶対値よりも大きいので、第2の有機層2と第1の有機層1の界面がエネルギー障壁となり、この界面にホールが蓄積される。このように蓄積されるホールによっても局所的に高い電界がかかる。
【0037】
本発明においては、上記のように有機EL素子に電圧を印加した際に、第1の有機層1と、第2の有機層2の界面において高い電界がかかるため、エネルギーバンドが変化し、図2(b)に示す比較例の場合に比べ、電圧がΔV低くなり、駆動電圧の低下が生じるものと考えられる。
(実施例1〜11及び比較例1〜3)
表1に示す陽極、ホール注入ユニット、ホール輸送ユニット、オレンジ色発光層、青色発光層、電子輸送層、及び陰極を有する実施例1〜11及び比較例1〜3の有機EL素子を作製した。以下の表において、( )内の数字は、各層の厚み(nm)を示している。
【0038】
陽極は、ITO(インジウム錫酸化物)膜が形成されたガラス基板の上に、フルオロカーボン(CFx)層を形成することにより作製した。フルオロカーボン層は、CHFガスのプラズマ重合により形成した。フルオロカーボン層の厚みは、1nmとした。
【0039】
以上のようにして作製した陽極の上に、ホール注入ユニット、ホール輸送ユニット、オレンジ色発光層、青色発光層、電子輸送層、及び陰極を順次堆積して形成した。以下の表1及び表2においてホール注入ユニット及びホール輸送ユニットは、便宜上それらを区別しているが、ホール注入ユニットとホール輸送ユニットは、特に区別されるものではなく、全体としてホール注入及びホール輸送の機能を示すものである。
【0040】
実施例1〜6及び比較例1〜3においては、NPB及びHAT−CN6を、表1に示す順序で積層することにより、ホール注入ユニット及びホール輸送ユニットが形成されている。
【0041】
HAT−CN6は、ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボンニトリルであり、以下の構造を有している。
【0042】
【化3】

【0043】
HAT−CN6は、例えば、非特許文献1に記載された方法により製造することができる。
【0044】
NPBは、N,N′−ジ(ナフタセン−1−イル)−N,N′−ジフェニルベンジジンであり、以下の構造を有している。
【0045】
【化4】

【0046】
NPBは、3級アリールアミン系の材料であり、ホール輸送性材料である。実施例7〜10においては、3級アリールアミン系材料として、TPD、PhTPD、及びPPDを用いた。
【0047】
TPDは、N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−N,N′−ジフェニル−ベンジジンであり、以下の構造を有している。
【0048】
【化5】

【0049】
PhTPDは、N,N,N′,N′−テトラキス(4−フェニルフェニル)ベンジジンであり、以下の構造を有している。
【0050】
【化6】

【0051】
PPDは、N,N′−ビス(フェナントレン−9−イル)−N,N′−ジフェニル−ベンジジンであり、以下の構造を有している。
【0052】
【化7】

【0053】
実施例11においては、電子引き抜き層となる第2の有機層を形成する材料として、DTNを用いている。DTNは、2,3−ジフェニル−1,4,6,11−テトラアザ−ナフタセンであり、以下の構造を有している。
【0054】
【化8】

【0055】
各実施例における第1の有機層、第2の有機層、及び第3の有機層は、ホール注入ユニット及びホール輸送ユニットにおける以下のような積層構造に相当している。
【0056】
実施例1〜4においては、NPB/HAT−CN6/NPBの積層構造が、第1の有機層/第2の有機層/第3の有機層の積層構造に対応している。
【0057】
実施例5及び6においては、NPB/HAT−CN6/NPB/HAT−CN6/NPBが、第1の有機層/第2の有機層/第3の有機層(第1の有機層でもある)/第2の有機層/第3の有機層の積層構造に対応している。中央に位置するNPB層は、陽極側の積層構造に対しては、第3の有機層となり、陰極側の積層構造に対しては、第1の有機層となっている。
【0058】
実施例7においては、TPD/HAT−CN6/NPBの積層構造が、第1の有機層/第2の有機層/第3の有機層の積層構造に対応している。
【0059】
実施例8においては、TPD/HAT−CN6/TPDの積層構造が、第1の有機層/第2の有機層/第3の有機層の積層構造に対応している。
【0060】
実施例9においては、PhTPD/HAT−CN6/PhTPDの積層構造が、第1の有機層/第2の有機層/第3の有機層の積層構造に対応している。
【0061】
実施例10においては、PPD/HAT−CN6/PPDの積層構造が、第1の有機層/第2の有機層/第3の有機層の積層構造に対応している。
【0062】
実施例11においては、NPB/DTN/NPBの積層構造が、第1の有機層/第2の有機層/第3の有機層の積層構造に対応している。
【0063】
上記のように形成したホール輸送ユニットの上に、オレンジ色発光層及び青色発光層からなる白色発光の発光ユニットを形成している。オレンジ色発光層を陽極側に配置し、青色発光層を陰極側に配置している。なお、表において%は特に断らない限り、重量%である。
【0064】
オレンジ色発光層においては、NPBをホール輸送性のホスト材料として用い、TBADNを電子輸送性のホスト材料として用い、DBzRをドーパント材料として用いている。
【0065】
TBADNは、2−ターシャリー−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセンであり、以下の構造を有している。
【0066】
【化9】

【0067】
DBzRは、5,12−ビス{4−(6−メチルベンゾチアゾール−2−イル)フェニル}−6,11−ジフェニルナフタセンであり、以下の構造を有している。
【0068】
【化10】

【0069】
青色発光層は、TBADNを電子輸送性ホスト材料として用い、NPBをホール輸送性ホスト材料として用い、TBPをドーパント材料として用いている。
【0070】
TBPは、2,5,8,11−テトラ−ターシャリー−ブチルペリレンであり、以下の構造を有している。
【0071】
【化11】

【0072】
青色発光層の上には、Alq層とBCP層の積層構造からなる電子輸送層が形成されている。
【0073】
Alqは、トリス−(8−キノリラト)アルミニウム(III)であり、以下の構造を有している。
【0074】
【化12】

【0075】
BCPは、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンであり、以下の構造を有している。
【0076】
【化13】

【0077】
電子輸送層の上には、LiF層とAl層の積層構造からなる陰極が形成されている。
【0078】
【表1】

【0079】
(実施例12)
表2に示す陽極、ホール注入ユニット、ホール輸送ユニット、オレンジ色発光層、青色発光層、中間ユニット、オレンジ色発光層、青色発光層、電子輸送層、及び陰極を有する実施例12の有機EL素子を作製した。
【0080】
【表2】

【0081】
表2に示す積層構造とする以外は、上記各実施例と同様にして、実施例12の有機EL素子を作製した。
【0082】
実施例12に示す有機EL素子においては、中間ユニットを用いて、2つの白色発光ユニット(オレンジ色発光層+青色発光層)を積層している。中間ユニットは、陽極側から、BCP/LiO/HAT−CN6を積層することにより形成されている。中間ユニットにおいて、HAT−CN6は、電子引き抜き層であり、LiOは電子注入層であり、BCPは電子輸送層である。中間ユニット内の電子引き抜き層は、隣接するオレンジ色発光層から電子を引き抜き、この電子を電子注入層及び電子輸送層を介して陽極側の青色発光ユニットに供給し、陽極から供給されたホールと再結合させて発光する。また、中間ユニットの電子引き抜き層により電子を引き抜かれたオレンジ色発光層においては、ホールが発生し、このホールが、陰極から供給された電子と再結合し発光する。このように、上記2つの発光ユニットの間に中間ユニットを設けることにより、それぞれの発光ユニット内でそれぞれ再結合領域を形成することができ、効率良く発光させることができる。
【0083】
実施例12のホール注入ユニット及びホール輸送ユニットにおけるNPB/HAT−CN6/NPBの積層構造が、本発明における第1の有機層/第2の有機層/第3の有機層の積層構造に相当する。
【0084】
〔有機EL素子の評価〕
以上のようにして作製した各有機EL素子について、駆動電圧及び発光効率を測定した。測定結果を表3に示す。なお、測定結果は、20mA/cmの駆動電流における値である。
【0085】
【表3】

【0086】
実施例1〜6と、各実施例に対応する比較例1〜3との比較から明らかなように、本発明に従い、第1の有機層/第2の有機層/第3の有機層の構造を、陽極と発光層との間に設けることにより、駆動電圧を低減することができ、発光効率を向上できることがわかる。
【0087】
また、実施例7〜10から明らかなように、NPB以外の3級アリールアミン系材料をホール輸送性材料として用いた場合にも、同様の効果が認められる。
【0088】
また、実施例11から明らかなように、第2の有機層(電子引き抜き層)を形成する材料として、HAT−CN6に代えて、DTNを用いた場合にも同様の効果が認められる。
【0089】
実施例12は、上述のように、2つの発光ユニットを中間ユニットを介して積層した構造を有する有機EL素子であるが、2つの発光ユニット積層しているので、駆動電圧は約2倍になっているが、発光効率が2倍に向上していることがわかる。
【0090】
また、実施例5及び6のように、第1の有機層/第2の有機層/第3の有機層(第1の有機層でもある)/第2の有機層/第3の有機層のように、複数の第2の有機層を介在させる場合には、駆動電圧をより低減できることがわかる。また、実施例5と実施例6の比較から明らかなように、複数の第2の有機層を介在させる場合には、陰極側に近づくにつれて、第2の有機層の膜厚を徐々に厚くすることにより、発光効率をより向上できることがわかる。
【0091】
以上の結果から明らかなように、本発明に従う有機EL素子は、陽極と発光層との間に、第1の有機層/第2の有機層/第3の有機層の積層構造を備えることにより、発光効率を高め、駆動電圧を低減できることがわかる。
【0092】
従って、陽極と発光層の間の距離を、キャビティの調整等により長くする場合においても、駆動電圧の低減を図ることができる。
【0093】
〔有機EL表示装置〕
図3は、本発明に従う実施例のボトムエミッション型の有機EL表示装置を示す断面図である。この有機EL表示装置においては、能動素子としてTFTを用いて各画素における発光を駆動している。なお、能動素子としてダイオードなども用いることができる。また、この有機EL表示装置においては、カラーフィルターが設けられている。この有機EL表示装置は、矢印で示しているように基板17の下方に光を出射して表示するボトムエミッション型の表示装置である。
【0094】
図3を参照して、ガラスなどの透明基板からなる基板17の上には、第1の絶縁層18が設けられている。第1の絶縁層18は、例えばSiO2及びSiNXなどから形成されている。第1の絶縁層18の上には、ポリシリコン層からなるチャネル領域20が形成されている。チャネル領域20の上には、ドレイン電極21及びソース電極23が形成されており、またドレイン電極21とソース電極23の間には、第2の絶縁層3を介してゲート電極22が設けられている。ゲート電極22の上には、第4の絶縁層4が設けられている。第2の絶縁層19は、例えばSiNX及びSiO2から形成されており、第3の絶縁層4は、SiO2及びSiNXから形成されている。
【0095】
第3の絶縁層4の上には、第4の絶縁層5が形成されている。第4の絶縁層5は、例えば、SiNXから形成されている。第4の絶縁層5の上の画素領域の部分には、カラーフィルター層7が設けられている。カラーフィルター層7としては、R(赤)、G(緑)、またB(青)などのカラーフィルターが設けられる。カラーフィルター層7の上には、第1の平坦化膜6が設けられている。ドレイン電極21の上方の第1の平坦化膜6にはスルーホール部が形成され、第1の平坦化膜6の上に形成されているITO(インジウムースズ酸化物)からなるホール注入電極8がスルーホール部内に導入されている。画素領域におけるホール注入電極(陽極)8の上には、ホール注入・輸送ユニット10が形成されている。画素領域以外の部分においては、第2の平坦化膜9が形成されている。
【0096】
ホール注入・輸送ユニット10は、本発明に従う第1の有機層/第2の有機層/第3の有機層の積層構造を有している。
【0097】
ホール注入・輸送ユニット10の上には、発光層11が設けられている。発光層11の上には、電子輸送層12が設けられ、電子輸送層12の上には、電子注入電極(陰極)13が設けられている。
【0098】
以上のように、本実施例の有機EL素子においては、画素領域の上に、ホール注入電極(陽極)8と、ホール注入・輸送ユニット10と、発光層11と、電子輸送層12と、電子注入電極(陰極)13とが積層されて有機EL素子が構成されている。
【0099】
本実施例の発光素子層11においては、オレンジ色発光層と青色発光層とを積層した発光ユニットを用いているので、発光層11からは白色の発光がなされる。この白色の発光は、基板1を通り外部に出射するが、発光側にカラーフィルター層7が設けられているので、カラーフィルター層7の色に応じて、R、GまたはBの色が出射される。単色で発光する素子の場合、カラーフィルター層7はなくてもよい。
【0100】
図4は本発明に従う実施例のトップエミッション型の有機EL表示装置を示す断面図である。本実施例の有機EL表示装置は、矢印で図示しているように基板17の上方に光を出射して表示するトップエミッション型の有機EL表示装置である。
【0101】
基板17から陽極8までの部分は、図3に示す実施例とほぼ同様にして作製されている。但し、カラーフィルター層7は、第4の絶縁層5の上に設けられておらず、有機EL素子の上方に配置されている。具体的には、ガラスなどからなる透明な封止基板16の上にカラーフィルター層7を取り付け、この上にオーバーコート層15をコーティングし、これを透明接着剤層14を介して陽極8の上に貼り付けることにより取り付けられている。また、本実施例では、陽極と陰極の位置を図3に示す実施例とは逆にしている。
【0102】
陽極8として、透明な電極が形成されており、例えば、膜厚100nm程度のITOと膜厚20nm程度の銀とを積層することにより形成されている。陰極13としては、反射電極が形成されており、例えば、膜厚100nm程度のアルミニウム、クロム、または銀の薄膜が形成されている。オーバーコート層15は、アクリル樹脂などにより厚み1μm程度に形成されている。カラーフィルター層7は、顔料タイプのものであってもよいし染料タイプのものであってもよい。その厚みは1μm程度である。
【0103】
発光層11から発光された白色光は、封止基板16を通り外部に出射されるが、発光側にカラーフィルター層7が設けられているので、カラーフィルター層7の色に応じてR、GまたはBの色が出射される。本実施例の有機EL表示装置はトップエミッション型であるので、薄膜トランジスタが設けられている領域も画素領域として用いることができ、図3に示す実施例よりも広い範囲にカラーフィルター層7が設けられている。本実施例によれば、より広い領域を画素領域として用いることができ、開口率を高めることができる。また、複数の発光ユニットを有する発光層の形成も、アクティブマトリックスによる影響を考慮せずに行うことができるので、設計の自由度を高めることができる。
【0104】
上記実施例では、封止基板としてガラス板を用いているが、本発明において封止基板はガラス板に限定されるものではなく、例えば、SiO2などの酸化膜やSiNxなどの窒化膜などの膜状のものも封止基板として用いることができる。この場合、素子上に膜状の封止基板を直接形成できるので、透明接着剤層を設ける必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明における第1の有機層、第2の有機層及び第3の有機層におけるLUMO及びHOMOのエネルギーレベルを示す模式図。
【図2】図1に示す第1の有機層、第2の有機層及び第3の有機層のLUMO及びHOMOの電圧印加時におけるエネルギーレベルの状態を示す模式図。
【図3】本発明に従う実施例のボトムエミッション型の有機EL表示装置を示す断面図。
【図4】本発明に従う実施例のトップエミッション型の有機EL表示装置を示す断面図。
【符号の説明】
【0106】
1…第1の有機層
2…第2の有機層
3…第3の有機層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極及び前記陰極の間に配置される発光層と、前記発光層及び前記陽極の間に配置される少なくとも3つの有機層とを備える有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記有機層のうち前記陽極側に設けられる第1の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と、前記第1の有機層の前記陰極側に隣接して設けられる第2の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(B)│とが、
│LUMO(A)│<│LUMO(B)│の関係にあり、
前記第2の有機層の前記陰極側に隣接して設けられる第3の有機層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルHOMO(C)と、前記第2の有機層のLUMO(B)との差の絶対値│HOMO(C)−LUMO(B)│が、
│HOMO(C)−LUMO(B)│≦1.5eVの関係にあることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項2】
前記第1の有機層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルの絶対値│HOMO(A)│と、前記第2の有機層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルの絶対値│HOMO(B)│とが、
│HOMO(A)│<│HOMO(B)│の関係にあることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項3】
前記第1の有機層及び前記第3の有機層の少なくともいずれか一方が、3級アリールアミン系材料から形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項4】
前記第2の有機層が、以下に示す構造式で表されるピラジン誘導体から形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【化1】

(ここで、Arはアリール基を示し、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミン基、またはF、Cl、Br、IもしくはCNを示す。)
【請求項5】
前記第2の有機層が、以下に示す構造式で表されるヘキサアザトリフェニレン誘導体から形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【化2】

(ここで、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミン基、またはF、Cl、Br、IもしくはCNを示す。)
【請求項6】
陽極と陰極に挟まれた素子構造を有する有機エレクトロルミネッセント素子と、表示画素毎に対応した表示信号を前記有機エレクトロルミネッセント素子に供給するための能動素子が設けられたアクティブマトリックス駆動基板とを備え、前記有機エレクトロルミネッセント素子を前記アクティブマトリックス駆動基板の上に配置し、前記陰極及び前記陽極のうち前記基板側に設けられる電極を透明電極としたボトムエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置であって、
前記有機エレクトロルミネッセント素子が、前記陽極と、前記陰極と、前記陽極及び前記陰極の間に配置される発光層と、前記発光層及び前記陽極の間に配置される少なくとも3つの有機層とを備え、
前記有機層のうち前記陽極側に設けられる第1の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と、前記第1の有機層の前記陰極側に隣接して設けられる第2の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(B)│とが、
│LUMO(A)│<│LUMO(B)│の関係にあり、
前記第2の有機層の前記陰極側に隣接して設けられる第3の有機層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルHOMO(C)と、前記第2の有機層のLUMO(B)との差の絶対値│HOMO(C)−LUMO(B)│が、
│HOMO(C)−LUMO(B)│≦1.5eVの関係にあることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント表示装置。
【請求項7】
前記有機エレクトロルミネッセント素子が白色発光素子であり、前記有機エレクトロルミネッセント素子と前記基板との間に、カラーフィルターが配置されていることを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセント表示装置。
【請求項8】
陽極と陰極に挟まれた素子構造を有する有機エレクトロルミネッセント素子と、表示画素毎に対応した表示信号を前記有機エレクトロルミネッセント素子に供給するための能動素子が設けられたアクティブマトリックス駆動基板と、該アクティブマトリックス駆動基板と対向して設けられる透明な封止基板とを備え、前記有機エレクトロルミネッセント素子を前記アクティブマトリックス駆動基板と前記封止基板の間に配置し、前記陰極及び前記陽極のうち前記封止基板側に設けられる電極を透明電極としたトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置であって、
前記有機エレクトロルミネッセント素子が、前記陽極と、前記陰極と、前記陽極及び前記陰極の間に配置される発光層と、前記発光層及び前記陽極の間に配置される少なくとも3つの有機層とを備え、
前記有機層のうち前記陽極側に設けられる第1の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と、前記第1の有機層の前記陰極側に隣接して設けられる第2の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(B)│とが、
│LUMO(A)│<│LUMO(B)│の関係にあり、
前記第2の有機層の前記陰極側に隣接して設けられる第3の有機層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルHOMO(C)と、前記第2の有機層のLUMO(B)との差の絶対値│HOMO(C)−LUMO(B)│が、
│HOMO(C)−LUMO(B)│≦1.5eVの関係にあることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント表示装置。
【請求項9】
前記有機エレクトロルミネッセント素子が白色発光素子であり、前記有機エレクトロルミネッセント素子と前記封止基板との間に、カラーフィルターが配置されていることを特徴とする請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセント表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−123611(P2007−123611A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314791(P2005−314791)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】