説明

有機エレクトロルミネッセント素子

【課題】高輝度かつ長寿命の有機エレクトロルミネッセント素子を提供すること。
【解決手段】陽極電極と陰極電極との間に、少なくとも1つの発光層を有する有機エレクトロルミネッセント素子であって、陽極電極上に、金属酸化物とアリールカルバゾール化合物を含有するホール注入層と、アリールカルバゾール化合物を含有するホール輸送層と、アリールカルバゾール化合物と燐光化合物を含有する発光層と、がこの順に積層されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子において、当該アリールカルバゾール化合物として芳香族炭化水素を有し、かつ当該ホール注入層、ホール輸送層、発光層に同一のアリールカルバゾール化合物が含まれることにより、駆動電圧が低く、発光効率の高い有機EL素子を作製することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面光源や表示素子に関し、有機層を備えた有機エレクトロルミネッセント素子に関する。なお、以下において、「有機EL素子」または「素子」ともいうことがある。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は電気エネルギーを光エネルギーに変える半導体素子である。有機EL素子は数V〜数十V程度の比較的低電圧で発光が可能であり、自己発光型、薄膜型であるという特徴を持つことから、視認性に富み、視野角が高く、省スペース、携帯性などの観点から注目され、平面光源や表示素子としての実用化が期待されている。
【0003】
しかしながら、有機EL素子にはまだ課題も多い。例えば、高輝度の有機EL素子を得るために、高い電圧を加えて電流密度を高めることも行われているが、通常、電流密度を高めることにより、有機薄膜そのものの劣化が促進されるといった問題がある。この問題を解決するためには、駆動電圧が低く、発光効率が高い有機EL素子の開発が必要である。
【0004】
有機EL素子の基本的な構成は、発光性の有機化合物を含有する発光層を陰極電極と陽極電極で挟んだものである。この素子に電圧を印加することにより、発光層に電子およびホールが注入され、再結合が起こる。このときに発光性の有機化合物が励起状態を形成し、その励起状態が基底状態に戻る際に光が放出され、有機ELが発光する。
【0005】
有機化合物が発光する際の励起状態の種類には、一重項励起状態と三重項励起状態があり、一重項励起状態からの発光が蛍光、三重項励起状態からの発光が燐光と呼ばれている。高効率な素子としては、励起三重項からの燐光発光を用いる有機EL素子の報告がされている(例えば、非特許文献1)。励起一重項からの蛍光発光の内部量子効率は上限が25%であるのに対し、燐光発光を利用すると、内部量子効率の上限が100%となるため、燐光素子の発光効率は原理的に蛍光素子の4倍になると考えられる。
【0006】
しかしながら、燐光性化合物を発光層の発光性ドーパントとして用いる場合、発光効率の高い素子を得るためには、励起三重項状態が消失しないように、発光層のホスト化合物や、発光層と隣接する層(ホール輸送層、電子輸送層)に使用する材料は、燐光性化合物よりも高い励起三重項エネルギー順位を有することが必要である。高い励起三重項エネルギーを持つ化合物を使用することにより、燐光性化合物の励起エネルギーを閉じ込めることができるため、有機EL素子の発光効率を低下させることなく高効率で発光させることが可能となる。
【0007】
非特許文献1では、ホール輸送層に4,4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(略称:α−NPDまたはNPB)が用いられているが、α−NPDの励起三重項エネルギーの閉じ込め効果は十分ではないため、燐光発光を用いた素子としては、十分に高い発光効率が得られておらず、また駆動電圧も高いという問題があった。
【0008】
一方で、駆動電圧を低減させるための手法としては、モリブデン酸化物等の比較的仕事関数の高い金属酸化物を陽極電極に用いることで素子の低駆動電圧化を達成し、長寿命化に対する効果も得ている(例えば、特許文献1)。さらに特許文献2に示すように、金属酸化物と有機化合物の混合層を用いた例も報告されており、有機化合物として特にアリールカルバゾール化合物用いることで、低駆動電圧化を実現している。また燐光発光を用いた有機EL素子の駆動電圧の低減と発光効率の両立を狙ったものとしては、酸化タングステンと4,4’,4’’−トリス(N−カルバゾリル)−トリフェニルアミン(略称:TCTA)を用いた構造も開示されている(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−63771号公報
【特許文献2】特開2006−303470公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.75,4(1999)
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.94,133303(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1および特許文献2では、いずれもホール注入性の向上による駆動電圧の低減について言及されているだけであり、発光効率の向上は達成できていないと考えられる。
【0012】
また非特許文献2の発明では、ホール注入層、ホール輸送層、発光層に、
【0013】
【化1】

【0014】
で表されるTCTAを用いているが、アミン骨格を有することからホール輸送性のみが高いことが予想される。そのためTCTAを発光層に用いて高効率の素子を実現するためには、TCTAと電子輸送材料との混合や、TCTAを用いた発光層以外にもう一つの発光層を設けることが必要であり、複雑な工程を必要としていた。そこで本発明では、従来の素子よりも、駆動電圧が低く、高効率で発光する有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の構成により、駆動電圧が低く、高効率で発光する有機EL素子構造を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち本発明は、陽極電極と陰極電極との間に、少なくとも1つの発光層を有する有機エレクトロルミネッセント素子であって、陽極電極上に、金属酸化物とアリールカルバゾール化合物を含有するホール注入層と、アリールカルバゾール化合物を含有するホール輸送層と、アリールカルバゾール化合物と燐光化合物を含有する発光層と、がこの順に積層されており、当該アリールカルバゾール化合物が下記一般式(1)で表される芳香族炭化水素を有し、かつ当該ホール注入層、ホール輸送層、発光層に同一のアリールカルバゾール化合物が含まれることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子に関する。
【0017】
【化2】

【0018】
(但し、式中Arは炭素数6〜42の芳香族炭化水素を表し、R1〜R4は水素、または1〜4のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基を表す。)
好ましい実施態様は、上記アリールカルバゾール化合物において、下記一般式(1)のArが構造式(1−1)〜(1−10)に示した芳香族炭化水素のいずれかで表されることを特徴とする上記有機エレクトロルミネッセント素子に関する。
【0019】
【化3】

【0020】
(但し、式中R1〜R4は水素、または炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基を表す。)
好ましい実施態様は、上記アリールカルバゾール化合物が、4,4’−ビス(N−カルバゾリル)ビフェニルであることを特徴とする上記有機エレクトロルミネッセント素子に関する。
【0021】
好ましい実施態様は、上記金属酸化物は、酸化モリブデン(MoO)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化タングステン(WO)、酸化バナジウム(VO)から選択される少なくとも1つを含有することを特徴とする上記有機エレクトロルミネッセント素子に関する。
【0022】
好ましい実施態様は、上記有機エレクトロルミネッセント素子を含むディスプレイ装置に関する。
【0023】
好ましい実施態様は、上記有機エレクトロルミネッセント素子を含む照明器具に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の有機EL素子は、「陽極電極と陰極電極との間に、少なくとも1つの発光層を有する有機エレクトロルミネッセント素子であって、陽極電極上に、金属酸化物とアリールカルバゾール化合物を含有するホール注入層と、アリールカルバゾール化合物を含有するホール輸送層と、アリールカルバゾール化合物と燐光化合物を含有する発光層と、がこの順に積層されており、当該アリールカルバゾール化合物が下記一般式(1)
【0025】
【化4】

【0026】
(但し、式中Arは炭素数6〜42の芳香族炭化水素を表し、R1〜R4は水素、または1〜4のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基を表す。)
で表される芳香族炭化水素を有し、かつ当該ホール注入層、ホール輸送層、発光層に同一のアリールカルバゾール化合物が含まれる」ことを特徴としており、この構成により、駆動電圧が低減され、高効率で発光する有機EL素子が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかる有機EL素子の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の有機EL素子においては、一つの電極間(すなわち陽極電極と陰極電極の間)に複数の層を有するものである。当該複数の層は、上記の電極から離れたところに発光領域が存在する、すなわち電極から離れた部位でキャリアの再結合が起こるように、上記発光層と電極との間にキャリア注入性の高い物質や、キャリア輸送性の高い物質からなる層を組み合わせて積層されたものである。
【0029】
以下、本発明に係わる実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0030】
図1は、第一の実施形態にかかる有機EL素子の略示断面構成を示している。図1に示す素子は、基板1上に、陽極電極2、有機EL層3、陰極電極4をこの順に積層したものである。
【0031】
有機EL素子の支持体となる基板1については特に制限は無く、例えば、ガラスのような透明基板、シリコン基板、フレキシブルなフィルム基板やプラスチック基板などから適宜選択され用いられる。中でも、ガラスのような透明基板や、透明なフィルム基板などが透明性や加工性の良さの点から好ましく用いられる。
【0032】
上記基板1上に設けられる陽極電極2としては、特に制限は無いが、仕事関数の大きい(仕事関数4.0eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などで形成されていることが好ましい。仕事関数が上記範囲の陽極電極を用いることで、この上に形成するホール注入層へのホール注入性が高くなると考えられるため好ましい。例えば、インジウム・スズ酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)、インジウム・亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:IZO)、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物の他、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)のような金属などがあげられ、中でも有機EL素子の発光層から発生した光を効果的に取り出すための観点から、透明性が高いITOあるいはIZOをより好ましく使用することができる。
【0033】
有機EL層3は、陽極電極2と陰極電極4との間に設けられ、少なくとも一つの発光層を有し、主に有機化合物からなる複数の層から構成された層である。図1の有機EL層3は従来の有機EL素子を構成するものから、陽極電極2と陰極電極4を取り除いた残りの構成要素に相当するものである。有機EL層3を構成する各層の成膜方法については特に制限は無く、真空蒸着法の他に、例えばスピンコート法などの方法によって形成することができる。このとき、各層を同じ成膜方法で形成してもよく、また異なる方法で形成してもよい。
【0034】
有機EL層3は、前述したように複数の層から構成されている。本発明における複数の層は、少なくともホール注入層5、ホール輸送層6、発光層7をこの順に有する。その他の構成に関しては、特に制限するものではないが、上記発光層7と上記陰極電極4の間に、電子輸送層8や電子注入を促す層(以下「電子注入層」とする)などを適宜設けることが好ましい。
【0035】
本発明における有機EL層3としては、陽極電極2上に、金属酸化物とアリールカルバゾール化合物を含有するホール注入層5と、アリールカルバゾール化合物を含有するホール輸送層6と、アリールカルバゾール化合物と燐光化合物を含有する発光層7と、がこの順に積層されていることを特徴としている。
【0036】
以下に、本発明における有機EL層3の各層について詳細に説明する。
【0037】
本発明におけるホール注入層5は、金属酸化物と、下記一般式(1)で表される芳香族炭化水素を有するアリールカルバゾール化合物とを含有する層からなる。ここで、「芳香族炭化水素を有するアリールカルバゾール化合物」とは、カルバゾール以外の部位が、芳香族炭化水素のみからなるアリールカルバゾール化合物を指す。
【0038】
【化5】

【0039】
(但し、式中Arは炭素数6〜42の芳香族炭化水素を表し、R1〜R4は水素、または1〜4のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基を表す。)
上記アリールカルバゾール化合物としては、下記一般式(1)のArが構造式(1−1)〜(1−10)に示した芳香族炭化水素のいずれかで表される化合物であることが好ましい。
【0040】
【化6】

【0041】
(但し、式中R1〜R4は水素、または炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基を表す。)
上記一般式において、アルキル基として好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基であり、アリール基として好ましくは、フェニル基、トリル基、2−ビフェニリル基、4−ビフェニリル基である。)
上記アリールカルバゾール化合物としては、
【0042】
【化7】

【0043】
で表される4,4’−ビス(N−カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)がより好ましく用いられる。
【0044】
上記金属酸化物の具体例としては、特に酸化モリブデン(MoO)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化タングステン(WO)、酸化バナジウム(VO)などから選択される酸化物を含有することが好ましい。この中でも三酸化モリブデン(MoO)は組成比が変わることなく、安定に真空蒸着が可能であるため特に好ましく用いられる。
【0045】
本発明におけるホール注入層5とは、陽極電極2から効率よくホールを注入する機能を有し、かつ注入されたホールを次の層、すなわちホール輸送層6に伝達する機能を有する層のことである。
【0046】
上記ホール注入層5は、電子吸引性のある金属酸化物の効果により、アリールカルバゾールがラジカルカチオン化しやすくなるため、ホール注入性に優れ、導電性が高い層を形成し、膜厚を厚くした場合でも駆動電圧の上昇を抑制することができる。よって、駆動電圧の上昇を招くことなく厚くすることができる為、ゴミなどに起因する素子の短絡を抑制することができる。
【0047】
本発明におけるホール輸送層6とは、ホール注入層5から受け取ったホールを次の層、すなわち発光層7に伝達する機能を有する層のことである。
【0048】
本発明におけるホール輸送層6は、上記一般式(1)で表されるアリールカルバゾール化合物を含有したものである。この場合のアリールカルバゾール化合物としては、上記一般式(1)のArが構造式(1−1)〜(1−10)に示した芳香族炭化水素のいずれかで表されるものが好ましく、中でもCBPを特に好ましく用いることができる。ホール輸送層6は上記アリールカルバゾール化合物単独で構成されていても良く、また他の化合物を混合したもので構成されていても良い。
【0049】
本発明における発光層7は、上記一般式(1)で表されるアリールカルバゾール化合物と、燐光化合物を含有する。この場合のアリールカルバゾール化合物としては、上記一般式(1)のArが構造式(1−1)〜(1−10)に示した芳香族炭化水素のいずれかで表されるものが好ましく、中でもCBPを特に好ましく用いることができる。
【0050】
本発明における「燐光性化合物」とは励起三重項からの発光が確認され、燐光量子効率が25℃において0.1%以上の化合物である。中でも、燐光量子効率は好ましくは1%以上であり、更に好ましくは10%以上である。
【0051】
本発明で用いられる燐光性化合物は公知のものを使用することができ、好ましくは元素の周期律表でVIII族の金属を含有する錯体系化合物であり、更に好ましくはイリジウム化合物、白金化合物、又はオスミウム化合物であり、中でも高い燐光量子効率を示すものが多いことから、最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0052】
以下に、本発明で用いられる燐光化合物の具体例を示す。例えば、ビス(2−ベンゾ[b]チオフェン−2−イル−ピリジン)(アセチルアセトナト)イリジウム(III)(略称:Ir(Btp)(acac))、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)(略称:Ir(piq))、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(略称:Ir(ppy))、ビス(3,5−ジフルオロ−2−(2−ピリジル)フェニル−(2−カルボキシピリジル)イリジウム(III)(略称:FIrpic)、ビス(4’,6’−ジフルオロフェニルピリジナト)テトラキス(1−ピラゾリル)ボレート イリジウム(III)(略称:FIr)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
上記発光層7は、陽極電極および陰極電極から注入されるキャリア(ホールおよび電子)が再結合して発光する層である。この層は発光性物質であるドーパントとその発光性物質を分散状態にする物質であるホストで構成される。発光性ドーパントとしては蛍光または燐光を発するものがあるが、本発明では特に燐光を発する燐光化合物を用いることができ、またホスト化合物としては、上記で示したアリールカルバゾール化合物を用いることができる。
【0054】
また発光性ドーパントとして燐光化合物を用いる場合、有機EL素子の発光効率の点から、ホスト化合物としては、当該燐光化合物よりも高い励起三重項エネルギーを示す化合物を用いることが好ましい。この場合、上記燐光性化合物の励起エネルギーを閉じ込めることができ、また有機EL素子の発光効率を低下させることなく高効率で発光させることができる。同様の理由から、燐光化合物を含む発光層に接する層(ホール輸送層や電子輸送層)も、燐光化合物よりも高い三重項エネルギーを有する化合物から構成されることが好ましい。
【0055】
上記のホール注入層5、ホール輸送層6、発光層7に用いられるアリールカルバゾール化合物は、同一の化合物である。同一の化合物を用いることで、異なる化合物を使用したときに生じる、ホール注入層5/ホール輸送層6、およびホール輸送層6/発光層7の各層間におけるエネルギー障壁を無くし、低い駆動電圧で動作する有機EL素子が得られる。このとき、同一の化合物として、発光性ドーパントである燐光化合物よりも、高い励起三重項エネルギーを持つアリールカルバゾール化合物をホスト化合物として用いることで、比較的簡単に発光層7やホール輸送層6に燐光の励起エネルギーを閉じ込めることができる。その結果、駆動電圧が低く、かつ発光効率が高い有機EL素子を得ることができる。また、同一の化合物を用いることで層構造が単純化するため、異なる化合物を用いる場合に比べ、製造プロセスにおいても簡略化を図ることができ、また製造コストを下げる効果も得られる。
【0056】
また上記アリールカルバゾール化合物として、上記一般式(1)に示すような芳香族炭化水素を有するものを用いることにより、アミン骨格を有するもの(例えばTCTAなど)を用いた場合に比べ、発光層でのキャリアの再結合確率を高めることができると考えられ、その結果、発光効率を向上させることができると考えられる。
【0057】
上記アリールカルバゾール化合物としては、上記一般式(1)のArが構造式(1−1)〜(1−10)に示した芳香族炭化水素のいずれかで表されるものが好ましく、中でもCBPを用いることが特に好ましい。比較的高い三重項エネルギーを持つCBPを用いることにより、発光層7やホール輸送層6に燐光の励起エネルギーを閉じ込めることができる。結果として駆動電圧が低く、発光効率が高い有機EL素子が得られ、さらに製造プロセスの簡略化することが可能となる。
【0058】
電子輸送層8を形成する電子輸送性材料としては、電子輸送性の高い公知の材料を用いることができる。例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Alq)、トリス(5−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Almq)、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]−キノリナト)ベリリウム(略称:BeBq)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−フェニルフェノラト−アルミニウム(略称:BAlq)などキノリン骨格またはベンゾキノリン骨格を有する金属錯体等を好ましく用いることができる。また、この他ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)−ベンゾオキサゾラト]亜鉛(略称:Zn(BOX))、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)−ベンゾチアゾラト]亜鉛(略称:Zn(BTZ))などのオキサゾール系、チアゾール系配位子を有する金属錯体なども用いることができる。さらに、金属錯体以外にも、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)や、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:p−EtTAZ)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)なども用いることができる。上記の材料は、主に10−6cm/Vs以上の電子移動度を有するものであり、駆動電圧の低減の点から好ましい。なお、正孔よりも電子の輸送性の高い物質であれば、上記以外の物質を用いても構わない。また、電子輸送層8は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層したものとしてもよい。
【0059】
陰極電極4を形成する物質としては、仕事関数の小さい(仕事関数3.8eV以下) 金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることができる。具体的には、元素周期表のI族またはII族に属する元素、すなわちリチウム(Li)やセシウム(Cs)等のアルカリ金属、およびマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属、およびこれらを含む合金(Mg:Ag、Al:Li)などが挙げられる。仕事関数が上記範囲のものを用いることで、電子注入性が高くなると考えられるため好ましい。しかしながら、電子注入層を、陰極電極4と発光層7との間に、陰極電極4と隣接するように積層することにより、仕事関数の大小に関わらず、Al、Ag、ITO、珪素を含むITO等様々な導電性材料を陰極電極4として用いることができる。
【0060】
なお、上記電子注入層としては、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化カルシウム(CaF)等のようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属の化合物を好ましく用いることができる。また、上記電子注入層として、電子輸送性を有する物質からなる層中にアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有させたもの、例えばAlq中にマグネシウム(Mg)を含有させたもの等も好ましく用いることができる。
【0061】
本発明において上記発光層7には、上記発光性ドーパントとして使用する燐光化合物とは異なる発光性ドーパントを複数添加しても構わない。また有機EL層3を構成する他の層、例えば電子輸送層8やホール輸送層6などに、異なる発光性ドーパントを添加しても良い。上記異なる発光性ドーパントを用いることにより、複数の発光色が見られるため、望まれる混色発光が得られる。
【0062】
本発明の有機EL素子は、自発光デバイスであるため、バックライト等が不要であり、ディスプレイとして超薄型化が可能である。また消費電力も少なく省エネルギーという観点から、ディスプレイ装置や照明器具に有効に適応することができる。
【実施例】
【0063】
次に、本発明の具体的な実施例およびこれらの実施例に対する比較例の有機EL素子の作製手順と、これらの評価結果を説明する。
【0064】
(実施例1)
ガラス基板にパターニングされた陽極電極(ITOを使用、膜厚150nm)上に、2mm×2mmの発光領域とするボトム型評価素子を作製した。
【0065】
陽極電極上に、ホール注入層として4,4’−ビス(N−カルバゾリル)ビフェニル(以下、CBPと略す)と三酸化モリブデンの混合層を用い、真空蒸着法にて90nmの膜厚で形成した。ホール注入層のCBPと三酸化モリブデンは共蒸着法にて膜厚比率で9:1となるように成膜した。
【0066】
次いで、ホール輸送層としてCBPを用い、真空蒸着法により20nm(蒸着速度0.8nm〜1.2nm/sec)の膜厚で形成した。
【0067】
次いで、発光層としてCBPをホスト材料、ドーパントとして
【0068】
【化8】

【0069】
で表されるトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(以下、Ir(ppy)と略す)を用い、真空蒸着法により20nmの膜厚で形成した。発光層のCBPとIr(ppy)は共蒸着法にて膜厚比率で97:3となるように成膜した。
【0070】
次いで、電子輸送層として
【0071】
【化9】

【0072】
で表されるバソキュプロイン(以下、BCPと略す)を用い、真空蒸着法により50nm(蒸着速度0.8nm〜1.2nm/sec)の膜厚で形成した。
【0073】
次いで、電子注入層としてLiFを用い、真空蒸着法にて1nm(蒸着速度0.3〜0.5nm/sec)の膜厚で成膜し、最後に陰極電極としてAlを真空蒸着法にて150nm(蒸着速度3.0nm〜5.0nm/sec)の膜厚で形成した。
【0074】
(比較例1)
実施例1の作製手順において、ホール注入層として
【0075】
【化10】

【0076】
で表される4,4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(以下、α−NPDと略す)と三酸化モリブデンの混合層(膜厚比率 9:1)とした。それ以外は、全く同様の方法で有機EL素子を作製し、比較例1とした。
【0077】
(比較例2)
実施例1の作製手順において、ホール注入層をα−NPDと三酸化モリブデンの混合層(膜厚比率 9:1)とし、さらに、ホール輸送層をα−NPDとした。それ以外は、全く同様の方法で有機EL素子を作製し、比較例2とした。
【0078】
(比較例3)
実施例1の作製手順において、ホール輸送層をα−NPDとした。それ以外は、全く同様の方法で有機EL素子を作製し、比較例3とした。
【0079】
(比較例4)
実施例1の作製手順において、CBPの代わりに4,4’,4’’−トリス(N−カルバゾリル)−トリフェニルアミン(TCTA)を用いた。それ以外は、全く同様の方法で有機EL素子を作製し、比較例4とした。
【0080】
以上のようにして作製した本発明の有機EL素子と、比較例の有機EL素子について、発光輝度、発光効率(cd/A)、駆動電圧(V)について評価を行った。表1に、発光輝度1000cd/m時における発光効率(cd/A)と、そのときの駆動電圧(V)についてまとめた。
【0081】
【表1】

【0082】
表1からも分かるように、比較例1〜3では、発光層にアリールカルバゾール化合物であるCBPを用い、ホール注入層または/およびホール輸送層にアリールカルバゾール化合物以外の異なる化合物(α−NPD)を用いて有機EL素子を作製しており、比較例1では駆動電圧が比較的高く、発光効率も低い。また、比較例2、3では、駆動電圧は比較的低いものの、発光効率も低い。また、比較例4のように、同一であるがアミン骨格を有する(炭化水素骨格を有さない)アリールカルバゾール化合物(TCTA)を用いて作製した有機EL素子は、駆動電圧は低くなっているものの、発光効率は低い。これらに対し実施例1の有機EL素子は、芳香族炭化水素を有し、かつ同一のアリールカルバゾール化合物を用いたことにより、高い発光効率を示し、低い駆動電圧で動作していることが明らかである。
【0083】
上記のように、陽極電極上に、金属酸化物とアリールカルバゾール化合物を含有するホール注入層と、アリールカルバゾール化合物を含有するホール輸送層と、アリールカルバゾール化合物と燐光化合物を含有する発光層と、がこの順に積層されている有機EL素子において、当該アリールカルバゾール化合物が芳香族炭化水素骨格を有し、かつホール注入層、ホール輸送層、発光層に同一のアリールカルバゾール化合物である場合、高い発光効率を示し、低い駆動電圧で動作させることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 基板
2 陽極電極
3 有機EL層
4 陰極電極
5 ホール注入層
6 ホール輸送層
7 発光層
8 電子輸送層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極電極と陰極電極との間に、少なくとも1つの発光層を有する有機エレクトロルミネッセント素子であって、
陽極電極上に、金属酸化物とアリールカルバゾール化合物を含有するホール注入層と、
アリールカルバゾール化合物を含有するホール輸送層と、
アリールカルバゾール化合物と燐光化合物を含有する発光層と、
がこの順に積層されており、当該アリールカルバゾール化合物が下記一般式(1)で表される芳香族炭化水素を有し、かつ当該ホール注入層、ホール輸送層、発光層に同一のアリールカルバゾール化合物が含まれることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【化2】

(但し、式中Arは炭素数6〜42の芳香族炭化水素を表し、R1〜R4は水素、または1〜4のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基を表す。)
【請求項2】
上記アリールカルバゾール化合物において、下記一般式(1)のArが構造式(1−1)〜(1−10)に示した芳香族炭化水素のいずれかで表されることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【化3】

(但し、式中R1〜R4は水素、または炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基を表す。)
【請求項3】
上記アリールカルバゾール化合物が、4,4’−ビス(N−カルバゾリル)ビフェニルであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項4】
上記金属酸化物は、酸化モリブデン(MoO)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化タングステン(WO)、酸化バナジウム(VO)から選択される少なくとも1つを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセント素子を含むディスプレイ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセント素子を含む照明器具。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−151212(P2011−151212A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11333(P2010−11333)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】