説明

有機ハロゲン汚染物無害化処理設備ならびに有機ハロゲン汚染物無害化処理方法

【課題】メンテナンス頻度を低減させ得る有機ハロゲン汚染物無害化処理設備ならびに処理効率の低下を抑制させ得る有機ハロゲン汚染物無害化処理方法の提供を課題としている。
【解決手段】有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露される作業空間を有し、前記作業空間を照明する光源を有しており、有機ハロゲン化合物に汚染された汚染物が前記作業空間において無害化処理される有機ハロゲン汚染物無害化処理設備であって、前記光源として、380nm以下の波長の光の強度が380nmを超える可視光の強度に対して1%以下に低減されている光を発する光源が用いられていることを特徴とする有機ハロゲン汚染物無害化処理設備などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハロゲン化合物に汚染された汚染物を無害化処理するための有機ハロゲン汚染物無害化処理設備ならびに有機ハロゲン汚染物無害化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ハロゲン化合物は、通常、人体に健康被害をもたらすことが多く、例えば、ポリ塩化ビフェニル(以下、「PCB」ともいう)や、ダイオキシンなどは深刻な健康被害をもたらすことが知られている。
このようなことから、有機ハロゲン化合物に汚染された汚染物(以下、単に「汚染物」ともいう)の無害化処理が広く実施されている。
【0003】
この有機ハロゲン化合物に汚染された汚染物の無害化処理は、作業者の安全を確保すべく、有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露されたり、有機ハロゲン化合物を含有する液体が飛散したりする作業空間を作業者が通常立ち入ることのない閉鎖された室内に形成させて実施されている。
例えば、下記特許文献1の段落〔0028〕には、作業者が透明なボード越しに遮蔽室内の装置類を操作して汚染物の無害化処理を実施することが記載されている。
【0004】
この有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露される遮蔽室が、仮に、大規模なものである場合には、遮蔽室内の装置メンテナンスは、人員が立ち入って実施することとなる。
また、この遮蔽室が、グローブボックスなどの小規模なものの場合には、このグローブボックスを開放して内部の装置メンテナンスを実施することとなる。
このことからメンテナンス作業前後における周辺の浄化が必要で、有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露される作業空間において装置類の故障などが生じると多大な手間が必要になる。
そして、通常、装置類の故障などが生じると処理を長期間中断させる必要が生じ処理効率を大きく低下させることとなる。
【0005】
このようなことから、従来、有機ハロゲン汚染物無害化処理設備においては、処理効率の低下を抑制させるべく、装置メンテナンスなどによる処理の中断を低減させることが求められている。
【0006】
しかし、従来の有機ハロゲン汚染物無害化処理設備は、装置メンテナンスの頻度が十分低減された状態とはなっていない。
したがって、有機ハロゲン汚染物無害化処理方法においては、従来、処理効率の低下を抑制させることが困難な状況となっている。
【特許文献1】特開2003−285041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、メンテナンス頻度を低減させ得る有機ハロゲン汚染物無害化処理設備ならびに処理効率の低下を抑制させ得る有機ハロゲン汚染物無害化処理方法の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露される作業空間を有し、前記作業空間を照明する光源を有している有機ハロゲン汚染物無害化処理設備においては、この照明光に含まれる紫外線によって有機ハロゲン化合物が脱ハロゲン化を起こして、例えば、ハロゲン化水素などの腐食性気体を発生させていることを見出し本発明の完成に到ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべく、有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露される作業空間を有し、前記作業空間を照明する光源を有しており、有機ハロゲン化合物に汚染された汚染物が前記作業空間において無害化処理される有機ハロゲン汚染物無害化処理設備であって、前記光源として、380nm以下の波長の光の強度が380nmを超える可視光の強度に対して1%以下に低減されている光を発する光源が用いられていることを特徴とする有機ハロゲン汚染物無害化処理設備を提供する。
【0010】
また、本発明は、前記課題を解決すべく、有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露される作業空間を光源を用いて照明しつつ前記作業空間で有機ハロゲン化合物に汚染された汚染物の無害化処理を実施する有機ハロゲン汚染物無害化処理方法であって、前記光源として380nm以下の波長の光の強度が380nmを超える可視光の強度に対して1%以下に低減されている光を発する光源を用いて前記照明を実施することを特徴とする有機ハロゲン汚染物無害化処理方法を提供する。
【0011】
なお、本明細書中における“可視光”あるいは“可視光線”との用語は、“380nmを超え800nm以下の波長の光”を意図して用いている。また、通常の照明光においては200nm以下の遠紫外線(真空紫外線)が含まれていないことから、380nm以下の波長の光の強度については、200〜380nmの波長の光の強度を測定することによって通常求めることができる。なお、以降において“紫外線”あるいは“可視光線”との用語は、特段の記載がない限りにおいて“200〜380nmの波長の光”を意図している。
したがって、“380nm以下の波長の光の強度が380nmを超える可視光の強度に対して1%以下”となっているか否かについては、“200〜380nmの波長の光の強度の積分値をIUVとし、380nmを超え800nm以下の波長の光の強度の積分値をIVISとした時に、IUV≦0.01×IVISとなっていることを確認することで判断することができる。
この光の強度については、分光光度計などを用いることで測定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、作業空間におけるハロゲン化水素などの腐食性気体の発生を抑制させ得る。したがって、作業空間内に備えられている装置類の故障発生頻度などを低減させ得る。
すなわち、本発明によれば、有機ハロゲン汚染物無害化処理設備のメンテナンス頻度を低減させ得る。
また、メンテナンス頻度が低減されることで、汚染物の処理における中断期間を短縮させ得る。
すなわち、本発明によれば、有機ハロゲン汚染物無害化処理方法における処理効率の低下を抑制させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について(添付図面に基づき)説明する。
図1は、本実施形態における有機ハロゲン汚染物無害化処理設備を示す概略図であり、図中の1は、有機ハロゲン化合物に汚染された汚染物の無害化処理が実施される有機ハロゲン汚染物無害化処理設備を表している。
【0014】
2は、前記有機ハロゲン汚染物無害化処理設備1による無害化処理の内、主として、解体処理が実施される解体作業室であり、21は、前記解体作業室2への作業者Aの出入りのための扉である。
また、22は、解体作業室2の天井を表しており、23は、解体作業室2内を照明すべく前記天井22に設けられている照明装置(以下「天井灯23」ともいう)である。
さらに、24は、前記解体作業室2の床面を表している。
【0015】
3は、該解体作業室2の内部に備えられたグローブボックスであり、その内部には各種作業を実施し得るように装置類(図示せず)が備えられている。
31は、前記グローブボックス3の本体を形成する筐体であり、該筐体31は、下部が前記床面24よりも下方に埋設された状態で前記解体作業室2の略中央部に位置する箇所に設けられている。
31aは、前記筐体31の床面24よりも上方に露出された露出部を表し、この筐体31の露出部31aは、グローブボックス3の外部空間側から照射される前記天井灯23からの光をグローブボックス3の内部に取り入れて照明させるべく透明な板材により形成されている。
【0016】
32は、前記筐体31の露出部31aに設けられた開口部であり、該開口部32は、作業者Aの二の腕部分を余裕を持って挿通させ得る大きさに開口されている。
33は、該開口部32に挿通された状態でグローブボックス3に設けられているグローブであり、該グローブ33は、柔軟な素材によって形成されている。
また、このグローブ33は、作業者Aの腕全体を収容し得る長さを有しており、腕を挿入するための開口端を筐体31の開口部32の周縁部に接着させてグローブボックス3に設けられている。
【0017】
そして、このグローブ33の開口端の周縁全周が開口部32の周縁に接着されて、このグローブ33によって前記開口部32が封止されている。
すなわち、本実施形態の有機ハロゲン汚染物無害化処理設備1には、有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露される内部の作業空間と作業者Aが活動する有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露されない外部空間とを、露出部31aを形成する透明な板材とグローブ33とによって仕切るグローブボックス3が備えられている。
【0018】
34は、作業者Aが解体作業を実施する際に、露出部31aを形成する透明な板材を通じて天井灯23から照射される照明だけでは不足する場合にグローブボックス3の内部を照明すべく、グローブボックス3内に備えられた照明装置(以下、「作業灯34」ともいう)である。
【0019】
4は、前記グローブボックス3の内部において解体処理が実施される柱上トランスを表しており、該柱上トランス4は、1,2,4−トリクロロベンゼンと五塩化ビフェニルとを主たる成分とする絶縁油が用いられている。
すなわち、本実施形態の有機ハロゲン汚染物無害化処理設備1においては、有機ハロゲン化合物に汚染された汚染物として柱上トランス4が無害化処理され、前記グローブボックス3の内部の作業空間は、この柱上トランス4に用いられている1,2,4−トリクロロベンゼンと五塩化ビフェニルとを含む気体に曝露されることとなる。
【0020】
5は、有機ハロゲン汚染物無害化処理設備1において解体作業室2に隣接する前室(図示せず)から前記柱上トランス4を解体作業室2のグローブボックス3内に輸送するためのローラーコンベアである。
【0021】
なお、ここでは詳述しないが、前記グローブボックス3には、内部をやや負圧状態に維持し得るように排気手段(図示せず)が設けられており、該排気手段によって、汚染物の解体作業によって飛散、あるいは、揮発した有機ハロゲン化合物がグローブボックス3外部に漏出することが防止されている。
すなわち、本実施形態の有機ハロゲン汚染物無害化処理設備1は、有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露される作業空間をグローブボックス3の内部のみに形成させて、グローブボックス3よりも外部の解体作業室2内部空間(グローブボックス3の外部空間)を有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露されない清浄領域とし得るように形成されている。
【0022】
次に、図2、図3を参照しつつ前記天井灯23と前記作業灯34とについてさらに詳述する。
図2は、天井灯23の概略断面図を表しており、23aは、光源である蛍光灯を表している。
しかも、この天井灯23には、一般的な蛍光灯と同等の光度でありながら、その発する光には殆ど紫外線が含まれていない蛍光灯(以下「紫外線カット蛍光灯23a」ともいう)が用いられている。
【0023】
より具体的には、この紫外線カット蛍光灯23aは、一般的な蛍光灯に比べて紫外線が99%以上カットされた状態で発光し、その発する光は、380nm以下の波長の光の強度が380nmを超える可視光の強度に対して1%以下に低減されている。
23bは、紫外線カット蛍光灯23aから照射された光を床面24側に向けて反射すべく、前記紫外線カット蛍光灯23aを上方側から覆う状態に配置された反射笠である。
また、23dは、該紫外線カット蛍光灯23aの外殻部を形成するガラス管であり、該ガラス管23d内部には水銀蒸気が封入されている。
そして、前記ガラス管23d内部での放電によって電子線を発生させて、該電子線を前記水銀に衝突させて紫外線を発生させ得るようになっている。
23eは、ガラス管23d内部で発生された紫外線が照射されて可視光線が放出される蛍光体によって形成された蛍光体層であり、該蛍光体層23eは、前記ガラス管23dの内面側に形成されている。
23fは、前記蛍光体層23eと前記ガラス管23dとの間に形成された紫外線吸収層であり、紫外線カット蛍光灯23aは、この紫外線吸収層23fを有することで外部に紫外線が漏出することが防止されている。
【0024】
すなわち、一般的な蛍光灯においては、水銀から発生した紫外線が蛍光体層23eによって可視光線に変換されるもののその一部は蛍光体層23eを通過して外部に放出される。一方、本実施形態の有機ハロゲン汚染物無害化処理設備1の天井灯23に用いられている紫外線カット蛍光灯23aでは前記紫外線吸収層23fで蛍光体層23eを通過した紫外線が捕捉され、その発する光は、380nm以下の波長の光の強度が380nmを超える可視光の強度に対して1%以下に低減されている。
【0025】
図3は、作業灯34の概略断面図を表しており、34aは、光源である白色発光ダイオードモジュール(以下「白色LEDモジュール34a」ともいう)を表している。
34dは、電圧が印加されることで側面部から青色光が発生される発光ダイオード(以下「青色LED34d」ともいう)であり、34eは、青色LED34dがマウントされ、且つ、青色LED34dを発光させるための電気回路が形成された回路基板である。
34fは、前記回路基板34eの表面がすり鉢状に凹入されて形成された凹入部であり、前記青色LED34dは、側面部から発生される光を凹入部34fの斜面に反射させて前面側に照射させるべく、凹入部34fの底部にマウントされている。
【0026】
34gは、回路基板34eの表面側を覆う透明樹脂層であり、該透明樹脂層34gには、前記凹入部34fを覆う位置において略球状に突出した突出部34hが形成されている。
この突出部34hは、青色LED34dから発生した光(凹入部34fの斜面から反射された光)を集光して前面側に照射するためのレンズとして機能すべく透明樹脂層34gに設けられている。
【0027】
また、回路基板34eの表面34jには、前記凹入部34fの斜面などを含めて、照射された青色光を黄色光に変換して反射する黄色蛍光体が塗布されており、白色LEDモジュール34aは、その動作時においては、青色LED34dから発光された青色光と黄色蛍光体から反射される黄色光とにより透明樹脂層34gを通じて前面側に照射される光が白色を呈するよう形成されている。
また、この白色LEDモジュール34aには、紫外線の発生を殆ど伴わない青色LED34dが用いられており、発する白色光は、380nm以下の波長の光の強度が380nmを超える可視光の強度に対して1%以下に低減されている。
【0028】
この作業灯34は、グローブボックス3の天井部分に備えられており、しかも、白色LEDモジュール34aの発光方向を下面側に向け、背面側をグローブボックス3の内面に当接させた状態で天井部分に備えられている。
すなわち、前記天井灯23が、有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露されない清浄領域に備えられていたのに対して、この作業灯34は、有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露される作業空間に備えられている。
【0029】
このように本実施形態の有機ハロゲン汚染物無害化処理設備1においては、有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露される作業空間(グローブボックス内)を照明するための光源として、天井灯23に用いられている蛍光灯23aと作業灯に用いられている白色LEDモジュール34aとが備えられており、これらの光源は、いずれも380nm以下の波長の光の強度が380nmを超える可視光の強度に対して1%以下に低減されている光が発生されるように形成されている。
【0030】
グローブボックス3においては、前述の通り1,2,4−トリクロロベンゼンと五塩化ビフェニルとを主たる成分とする絶縁油が付着した柱上トランス4の解体処理が実施されることとなるが、グローブボックス3内の作業空間を照明する光は、380nm以下の波長の光が十分低減された状態となっている。
したがって、1,2,4−トリクロロベンゼンや五塩化ビフェニルなどの有機ハロゲン化合物から塩化水素などの腐食性のガスが発生するおそれを低減させ得る。
すなわち、グローブボックス3自体や、その内部の装置類に腐食が発生することを抑制することができ、装置メンテナンスの頻度を低減させ得る。
【0031】
このことについて、さらに説明すると、光のエネルギーは、波長に逆比例して高くなる。したがって、380nm以下の波長の光が高強度な状態で有機ハロゲン化合物に照射されると、この光のエネルギーによって有機ハロゲン化合物の分子(原子間結合)が切断されてしまうこととなる。
このとき炭素原子とハロゲンとの結合箇所のような電気的偏りの大きな箇所においては、原子間結合の切断によって生じたラジカルの攻撃を受けやすく、このような分子構造を有する物質に380nm以下の波長の光が照射されると脱ハロゲン化を起こしてしまうこととなる。
【0032】
また、芳香族環を有する化合物などにおいては、π電子の軌道が結合性軌道から反結合性軌道に励起される電子遷移の吸収ピークが紫外線領域に存在し、しかも、π電子共役系の伸長が生じた場合には、電子遷移の吸収ピークが長波長側にシフトされる。
すなわち、380nm以下の領域において広い範囲の波長の光を吸収してしまうこととなる。
【0033】
1,2,4−トリクロロベンゼンや五塩化ビフェニルなどのポリ塩化ビフェニルにおいては、ベンゼン環に嵩高く電気的な偏りの大きい塩素が結合されていることから、380nm以下の領域において幅広い範囲の波長の光を吸収してπ電子の電子遷移を発生させ易い。
したがって、有機ハロゲン化合物の中でも、1,2,4−トリクロロベンゼンやポリ塩化ビフェニルは、脱ハロゲン化を起こしやすく、これらを含む気体に380nm以下の光が照射されると塩化水素ガスなどが発生されることとなる。
そして、発生された塩化水素ガスは、例えば、グローブボックス内に備えられえている装置類の金属部品に腐食を発生させることとなる。
このことから従来の有機ハロゲン化合物無害化処理設備においては、例えば、1,2,4−トリクロロベンゼンやポリ塩化ビフェニルを含む気体に曝露され、照明が実施される箇所においては高い頻度でメンテナンス作業を実施させる必要がある。
【0034】
しかも、例えば、メンテナンスによって部品の交換を実施するような場合においては、取り替える部品に、通常、有機ハロゲン化合物が付着されている。
したがって、人体に対して健康被害をもたらすおそれのあるポリ塩化ビフェニルなどを含む気体に曝露される空間に備えられた装置類のメンテナンスは、慎重な作業が必要となる。
また、1,2,4−トリクロロベンゼンについては、2分子の1,2,4−トリクロロベンゼンが脱塩酸して結合されるとコプラナーPCBとして知られているPCB118(2,3’,4,4’,5−pentachlorobiphenyl)が形成されるおそれを有する。
したがって、1,2,4−トリクロロベンゼンを含む気体に曝露される空間に備えられた装置類のメンテナンスについても慎重な作業が必要となる。
【0035】
また、水分の少ない空調管理区域内で塩化水素ガスが発生すると、少量の水分中に多量の塩化水素ガスが吸収され高濃度の塩酸が生成される。
この塩酸は、装置類の腐食の原因となると共に、有機ハロゲン化合物に暴露される作業空間に通じる換気系統のいたる箇所で発生するおそれがあり、本発明によれば、有機ハロゲン化合物に暴露される作業空間から離れた箇所において発生される腐食をも抑制させ得る。
すなわち、従来、予測が困難で、対策を講じることが困難であった配管腐食をも抑制させ得る。
【0036】
すなわち、本実施形態の有機ハロゲン汚染物無害化処理設備においては、塩化水素ガスの発生が従来の有機ハロゲン汚染物無害化処理設備に比べて低減されており、腐食などを原因とした装置メンテナンスを低減させることができる。
したがって、効率良く汚染物を無害化処理し得る有機ハロゲン汚染物無害化処理方法を実施させ得る。
【0037】
このように、本実施形態の有機ハロゲン汚染物無害化処理設備においては、塩化水素ガスの発生が従来の有機ハロゲン汚染物無害化処理設備に比べて低減されており、腐食などを原因とした装置類などのメンテナンスを低減させることができる。
したがって、効率良く汚染物を無害化処理し得る有機ハロゲン汚染物無害化処理方法を実施させ得る。
【0038】
しかも、ポリ塩化ビフェニルや1,2,4−トリクロロベンゼンを含む有機ハロゲン化合物によって汚染された汚染物の無害化処理に用いる場合においては、その効果をより顕著なものとさせ得る。
【0039】
なお、本実施形態においては、無害化処理する汚染物により近接した箇所に光源が設置されることで作業者の視認性が向上されて効率良く無害化処理が実施され得ることから照明装置(作業灯)をグローブボックス内に備えた有機ハロゲン汚染物無害化処理設備を例示したが、本発明においては、例えば、グローブボックス内には照明装置を設置せずに、解体作業室の天井灯などのようにグローブボックス外(外部空間)に備えられた照明装置からグローブボックスの露出部を形成する透明な板材を通じてグローブボックス内に光を入射させて照明を実施することも可能である。
【0040】
また、本実施形態においては、380nm以下の波長の光の強度が380nmを超える可視光の強度に対して1%以下に低減されている光を発生させる光源として、紫外線カット蛍光灯ならびに白色LEDなどを例示したが、本発明においては、光源をこのようなものに限定するものではなく、紫外線カット水銀灯、ナトリウムランプなども採用し得る。
【0041】
また、本実施形態においては、作業者がグローブを介して汚染物に触れることができ汚染物の無害化処理が効率良く実施され得ることから、無害化処理のための作業室(作業空間)として、小規模なもの(グローブボックス)を備えた有機ハロゲン汚染物無害化処理設備を例に説明したが、本発明においては、有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露される作業室(作業空間)は、例えば、人員が出入り可能な大きさを有する大規模なものとすることもできる。
【0042】
また、本実施形態においては、有機ハロゲン汚染物無害化処理設備として柱上トランスの解体設備を例示したが、例えば、柱上トランスからの抜油や、柱上トランスを解体した後の解体物の洗浄といった無害化処理を行う設備なども本発明が有機ハロゲン汚染物無害化処理設備として意図しているものである。
【0043】
さらに、本実施形態においては、無害化処理する汚染物として柱上トランスを例示しているが、PCB含有絶縁油が用いられたコンデンサや、ダイオキシンや残留農薬を含有する土壌などといった汚染物を無害化処理するための各種の設備なども本発明が有機ハロゲン汚染物無害化処理設備として意図しているものである。
【実施例】
【0044】
次に、1,2,4−トリクロロベンゼンを用いた実験データを挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
【0045】
(前処理)
(劣化防止剤除去)
実験には、市販の1,2,4−トリクロロベンゼンを用いた。
なお、市販の1,2,4−トリクロロベンゼンには、通常、劣化防止剤が含有されていることから、この劣化防止剤の影響を排除すべく水での抽出を実施した。
より具体的には、市販の1,2,4−トリクロロベンゼンと水とを混合して分液漏斗に入れ、該分液漏斗を振とう攪拌機に装着して振とう攪拌を実施した。
その後、分液漏斗を静置して、1,2,4−トリクロロベンゼンと水とを分離させ、1,2,4−トリクロロベンゼンのみを分液漏斗から取り出した。
【0046】
(脱水)
分液漏斗から取り出した1,2,4−トリクロロベンゼンに無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、無水硫酸ナトリウムをろ別して実験に供する1,2,4−トリクロロベンゼンの前処理を完了した。
以下、特段の記載がない限りにおいては、「1,2,4−トリクロロベンゼン」とは、この「前処理を施した後の1,2,4−トリクロロベンゼン」を指す。
【0047】
(評価)
ガラス製のバイアル瓶に約25gの1,2,4−トリクロロベンゼンを入れた評価試料を13個用意し、この13個の試料の内1個は、初期状態の把握のため、即座にポリ塩化ビフェニル(PCB)の含有量を測定した。
このポリ塩化ビフェニルの含有量の測定には、電子捕獲検出器ガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography/Electron Capture Detector:以下「GC−ECD」ともいう)を用いた。
残りの12個の試料を6グループ(各2本づつ)に分けて、第一のグループは、バイアル瓶をアルミホイルで包み込んで遮光処理を施して、そのまま3日間静置状態で保管した後、第一グループと同様にGC−ECDによるPCB含有量の測定を実施した。
次いで、第二のグループは、253.7nmの波長の紫外光を3日間照射し続けた後に第一グループと同様にGC−ECDによるPCB含有量の測定を実施した。
次いで、第三のグループは、一般的な蛍光灯の明かりを3日間照射し続けた後に第一グループと同様にGC−ECDによるPCB含有量の測定を実施した。
次いで、第四のグループは、紫外線吸収フィルター(明和グラビア社製、窓飾りシート、型名「GES−4610CP」、JIS A5759に基づく紫外線除去率99%以上)で包み込んでバイアル瓶に遮光処理を施して253.7nmの波長の紫外光を5日間照射し続けた後に第一グループと同様にGC―ECDによるPCB含有量の測定を実施した。
次いで、第五のグループは、紫外線吸収フィルター(アサヒペン社製、目かくし用シート、型名「M−21」、JIS A5759に基づく紫外線除去率99%以上)で包み込んでバイアル瓶に遮光処理を施して253.7nmの波長の紫外光を5日間照射し続けた後に第一グループと同様にGC―ECDによるPCB含有量の測定を実施した。
さらに、第六のグループは、紫外線吸収フィルター(リンテックコマース社製、ホームガラスメイト光やわらか目かくしシート、型名「HGM−16」、JIS A5759に基づく紫外線除去率95%以上)で包み込んでバイアル瓶に遮光処理を施して253.7nmの波長の紫外光を5日間照射し続けた後に第一グループと同様にGC―ECDによるPCB含有量の測定を実施した。
結果を、表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
次いで、各グループの試料に含有されているPCBをガスクロマトグラフ質量分析計(Gas Chromatograph Mass Spectrometer:以下「GC−MS」ともいう)によって定性分析したところ五塩化ビフェニルが全PCBの内の95%以上を占めていることがわかった。
【0050】
このことから下記式(1)に示す反応が生じていると考えられ、380nm以下の光によって1,2,4−トリクロロベンゼンの脱ハロゲン化ならびに2量体化が発生していると考えられる。
【0051】
【化1】

【0052】
この実験結果からも、紫外線フィルターによって紫外線を十分低減させることにより1,2,4−トリクロロベンゼンの脱ハロゲン化を抑制させ得ることがわかる。
すなわち、本発明によれば、メンテナンス頻度を低減させ得る有機ハロゲン汚染物無害化処理設備ならびに処理効率の低下を抑制させ得る有機ハロゲン汚染物無害化処理方法を提供し得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】一実施形態の有機ハロゲン汚染物無害化処理設備を示す概略図。
【図2】照明装置の一例を示す概略断面図。
【図3】照明装置の他の例を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0054】
1 有機ハロゲン汚染物無害化処理設備
2 解体作業室
3 グローブボックス
4 柱上トランス
22 天井
23 天井灯
23a 蛍光灯(紫外線カット蛍光灯)
23d ガラス管
23e 蛍光体層
23f 紫外線吸収層
24 床面
31 筐体
31a 露出部
32 開口部
33 グローブ
34 作業灯
34a 白色LEDモジュール
34e 回路基板
34f 凹入部
34g 透明樹脂層
34h 突出部
34j 表面
A 作業者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露される作業空間を有し、前記作業空間を照明する光源を有しており、有機ハロゲン化合物に汚染された汚染物が前記作業空間において無害化処理される有機ハロゲン汚染物無害化処理設備であって、
前記光源として、380nm以下の波長の光の強度が380nmを超える可視光の強度に対して1%以下に低減されている光を発する光源が用いられていることを特徴とする有機ハロゲン汚染物無害化処理設備。
【請求項2】
前記有機ハロゲン化合物としてポリ塩化ビフェニルが前記気体に含有されている請求項1記載の有機ハロゲン汚染物無害化処理設備。
【請求項3】
前記有機ハロゲン化合物として1,2,4−トリクロロベンゼンが前記気体に含有されている請求項1または2記載の有機ハロゲン汚染物無害化処理設備。
【請求項4】
有機ハロゲン化合物を含有する気体に曝露される作業空間を光源を用いて照明しつつ前記作業空間で有機ハロゲン化合物に汚染された汚染物の無害化処理を実施する有機ハロゲン汚染物無害化処理方法であって、
前記光源として、380nm以下の波長の光の強度が380nmを超える可視光の強度に対して1%以下に低減されている光を発する光源を用いて前記照明を実施することを特徴とする有機ハロゲン汚染物無害化処理方法。
【請求項5】
前記有機ハロゲン化合物としてポリ塩化ビフェニルが前記気体に含有されている請求項4記載の有機ハロゲン汚染物無害化処理方法。
【請求項6】
前記有機ハロゲン化合物として1,2,4−トリクロロベンゼンが前記気体に含有されている請求項4または5記載の有機ハロゲン汚染物無害化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−66593(P2009−66593A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194649(P2008−194649)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】