説明

有機ポリシラザン塗料

【課題】
本発明は、均一な塗膜を形成することができる有機ポリシラザン塗料を提供することを目的とする。
【解決手段】
有機ポリシラザンとシリコーンオイルとを含有する有機ポリシラザン塗料である。なお、前記シリコーンオイルがジメチルシリコーンオイルであることが好ましく、また、前記有機ポリシラザンがメチルポリシラザン、ジメチルポリシラザンのいずれか又は両方の混合物であることが好ましい。それによって、有機ポリシラザンによる均一な塗膜形成が容易になり、有機ポリシラザンの塗膜が持つ撥水性、撥油性等の特性によって汚染防止性、汚染除去性等に優れた塗膜を容易にえることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスコンロ、湯沸し器、ガスストーブ、等のガス機器、石油ファンヒーター、石油ストーブ等の石油暖房器具、IHクッキングヒーター、電子レンジ等の電気調理器具、あるいは磁器タイル、天然石、ガラス、プラスチック、セラミック、金属、コンクリート、モルタル、煉瓦等の各種素材からなる被塗装物の汚染防止、表面保護等に用いる有機ポリシラザン塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機ポリシラザンを結合材とする塗料としては、例えば、希釈剤に油溶剤、芳香族系もしくは環式脂肪族系溶剤、エーテル類、ハロゲン化炭化水素またはテルペン混合物、あるいはこれらの溶剤の混合物を用いたものがある(特許文献1参照)。なお、これらの希釈剤は揮発性有機溶剤の一種である。
しかし、このような揮発性有機溶剤を用いた有機ポリシラザン塗料では、揮発性有機溶剤が大気中へ排出されることへの対策、あるいは揮発した有機溶剤を吸引する可能性がある製造作業者や塗装作業者の健康維持のための対策を講ずる必要があった。また、有機ポリシラザン塗料の乾燥塗膜中にこれらの揮発性有機溶剤が残存することで有機ポリシラザンの加水分解が阻害され、Si−O結合の形成が十分でない不均一な塗膜となり、塗膜の汚染防止性、汚染除去性、耐薬品性、表面硬度等の諸物性が低下するおそれがあった。これらの諸物性の低下は、塗膜形成初期において特に顕著であった。
【0003】
【特許文献1】特表2006−515641号公報(第2〜3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、均一な塗膜を形成することができる有機ポリシラザン塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、有機ポリシラザンとシリコーンオイルとを含有していることを最も主要な特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記シリコーンオイルがジメチルシリコーンオイルを含むことを最も主要な特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記有機ポリシラザンがメチルポリシラザン、ジメチルポリシラザンのいずれか又は両方の混合物を含むことを最も主要な特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記有機ポリシラザンが環状体を0.1〜30質量%含有することを最も主要な特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記シリコーンオイルの25℃における動粘度が0.2〜10mm/sであることを最も主要な特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、被塗装物に下塗り塗料を塗装した後に、請求項1〜5のいずれかに記載の発明の有機ポリシラザン塗料を塗装することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、有機ポリシラザンによる均一な塗膜形成が容易になるという利点がある。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、有機ポリシラザン塗料の乾燥性を向上させることができるという利点がある。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2に記載の発明の効果に加え、撥油性を向上させることができるという利点がある。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1〜3のいずれかに記載の発明に加え、耐熱性を向上させることができるという利点がある。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発明に加え、塗膜が常温で硬化しやすく、塗膜中の希釈剤の残存が少ないという利点がある。
【0016】
請求項6に記載の発明によれば、被塗装物の吸い込みや不陸を緩和でき、被塗装物に均一な塗膜を形成しやすくなるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施形態を説明する。
本発明の有機ポリシラザン塗料は、有機ポリシラザンとシリコーンオイルとを含有していることが必須である。
【0018】
有機ポリシラザンにシリコーンオイルを混合することによって、有機ポリシラザンによる均一な塗膜形成が容易になる。また、有機ポリシラザンの塗膜が持つ撥水性、撥油性等の特性によって、有機ポリシラザン塗料によって形成された塗膜は、汚染防止性、汚染除去性等に優れる。
【0019】
前記有機ポリシラザンは、側鎖に炭化水素を付与された有機シラザンを重合したものであり、例えば、化1のような化学式で表される。
【0020】
【化1】

【0021】
ここで、側鎖R1〜R2はアルキル基、アルコキシ基、又は水素原子である。なお、R1〜R2が全て水素原子の場合には無機ポリシラザンとなるが、無機ポリシラザンは親水性であるため、油等による汚れが付着しやすいため、本発明の塗料には有機ポリシラザンを用いるものとする。
【0022】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。
【0023】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基、長鎖アルキル基等が挙げられる。
【0024】
また、側鎖が異なるシラザンを共重合したものを用いてもよい。例えば、化1で表され、側鎖R1〜R2が異なるものが共重合されたものも有機ポリシラザンである。このようなものとしては、例えば、化2の化学式で表されるものがある。なお、化2は、側鎖R1,R2と側鎖R3,R4とが同一ではない。
【0025】
【化2】

【0026】
化2においては、側鎖R1〜R4が全て水素原子の場合には無機ポリシラザンであり、それ以外のものは有機ポリシラザンである。有機ポリシラザンの中でも、R1〜2のいずれか及びR3〜4のいずれかが水素原子以外のものである有機ポリシラザンを用いた方が、汚染防止性、汚染除去性が優れた塗料を得やすい。
また、化2は、化1で表され、側鎖R1〜R2が異なる2種類のシラザンを結合したものであるが、2種類以上のシラザンを結合したものであってもよい。
【0027】
前記有機ポリシラザンは加水分解により窒素原子がはずれてアンモニアガスを生成するとともに酸素原子と置き換わり、Si−Oが三次元に連続結合を形成して有機ポリシラザン塗膜となる。
【0028】
前記有機ポリシラザンの側鎖R1〜R2は、有機ポリシラザン塗料によって形成される塗膜に付与する物性に応じて任意に設定することができる。
【0029】
例えば、塗膜に柔軟性を付与する場合にはブチル基、フェニル基等の炭素数4以上のアルキル基を用いることが好ましく、塗膜に撥水性を付与する場合にはプロピル基、ブチル基、長鎖アルキル基等を用いることが好ましい。
【0030】
また、塗膜に撥油性を付与する場合には、メチル基又はエチル基等の炭素数2以下のアルキル基を用いることが好ましく、側鎖R1及びR2の双方にメチル基又はエチル基を付与することが好ましい。特に、メチルポリシラザン、ジメチルポリシラザンのいずれか又は両方を用いることが好ましく、ジメチルポリシラザンを用いることが最も好ましい。
【0031】
また、焼付け時に有機ポリシラザンの結合反応が促進されやすく、速やかに均一な塗膜を形成するためにはビニル基等の二重結合を有するアルキル基、又はメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基を用いることが好ましい。
【0032】
前記有機ポリシラザンは、直鎖状、分岐状、環状等の様々な構造のものを用いることができる。
【0033】
なお、有機ポリシラザン塗料においては、有機ポリシラザン全量中に、環状構造の有機ポリシラザン(以下、環状体という。)が含まれていることが好ましく、その含有率は好ましくは0.1〜30質量%であり、より好ましくは0.3〜8質量%であり、最も好ましくは0.5〜5質量%である。この範囲にあるとき、緻密な塗膜が形成されるため汚染防止性、汚染除去性に優れる。また、環状体が塗膜中で緩衝作用を有することで主鎖の切断を抑制するため耐熱性に優れ、高温時においても塗膜にひび割れ等の異常が発生せずに汚染防止性、汚染除去性を発揮できる。環状体の含有率が0.1質量%未満の場合には、耐熱性の効果が十分でない。逆に30質量%を超える場合には、環状体内部に他の有機ポリシラザンが侵入しづらいため、Si−Oの三次元構造が疎になりやすく、緻密な塗膜を形成しづらくなる。特に、側鎖のアルキル基の分子量が大きい場合に、Si−Oの三次元構造が疎になりやすい。
【0034】
前記有機ポリシラザンは、既知の製造方法で製造されたものを用いることができる。既知の製造方法としては、例えば、特表2006−515641号公報に記載されている製造方法等が挙げられる。
【0035】
有機ポリシラザンは、有機ポリシラザン塗料に含まれる揮発成分100質量部に対して、2〜65質量部含有されていることが好ましく、5〜50質量部含有されていることがより好ましく、10〜30質量部含有されていることが特に好ましい。この範囲にあるとき、緻密で均一な塗膜を形成することができる。前記シリコーンオイル100質量部に対する有機ポリシラザンの混合割合が2質量部未満の場合には、形成される塗膜が緻密になりにくく、また、Si−Oの形成が十分である均一な塗膜を形成しにくいため、塗膜の汚染防止性、汚染除去性が十分発揮されない恐れがある。逆に65質量部を超える場合には、有機ポリシラザン塗料が乾燥や焼成される過程においてひび割れ等の不具合が発生する恐れがある。
【0036】
前記シリコーンオイルとは、シロキサン結合からなる直鎖構造のポリマーであり、有機ポリシラザンの粘性調整のため、及び焼付又は乾燥時の塗膜形成を補助して有機ポリシラザンによる均一な塗膜を形成するために用いられる。シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、モノアミン変性シリコーンオイル、ジアミン変性シリコーンオイル、特殊アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、脂環式エポキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、ハイドロジェン変性シリコーンオイル、アミノ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ・アラルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アラルキル変性シリコーンオイル、フロロアルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸アミド変性シリコーンオイル、ポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、フェニル変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、側鎖アミノ・両末端メトキシ変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0037】
前記シリコーンオイルのうち、有機ポリシラザン塗料にはジメチルシリコーンオイルを用いることが特に好ましい。ジメチルシリコーンオイルを用いることにより、有機ポリシラザン塗料の乾燥性を向上させることができる。なお、ジメチルシリコーンオイルとは、化3に示すように、ポリシロキサンの側鎖及び末端がすべてメチル基であるシリコーンオイルである。
【0038】
【化3】

【0039】
前記シリコーンオイルのJIS K2238;2000に準拠して測定した25℃での動粘度(以下、動粘度とはこの条件で測定した動粘度をいう。)は、好ましくは0.2〜10mm/sであり、より好ましくは0.4〜5mm/sであり、最も好ましくは0.6〜2mm/sである。シリコーンオイルの動粘度が0.2〜10mm/sであることにより、有機ポリシラザン塗料が被塗装面に対してなじみやすくなるとともに、被塗装物に塗装された塗料が常温で乾燥しやすく塗膜中の希釈剤の残存が少ない。
【0040】
動粘度が10mm/sを超えるシリコーンオイルは、分子量が大きく揮発が遅いため、シリコーンオイルが塗膜中に残存して均一な塗膜の形成を阻害する恐れがある。また、動粘度が高いものは、被塗装物になじみにくいため膜厚に斑ができやすく、平滑で膜厚が均一な塗膜を容易に形成できない恐れがある。逆に、動粘度が0.2mm/s未満のシリコーンオイルは、分子量が小さく揮発が速すぎるため、塗装する際には、塗装中にシリコーンオイルが揮発してしまい、平滑で膜厚が均一な塗膜を容易に形成できない恐れがある。
塗装後の膜厚が均一でないと、乾燥時や焼成時にひび割れが発生する等の不具合が生じやすい。また、膜厚に斑が生じた場合には、膜厚が厚い部分と薄い部分とで、シリコーンオイルの揮発速度に差が生じ、膜厚が厚い部分が疎になりやすく、緻密で均一な塗膜が形成できず、塗膜の汚染防止性、汚染除去性が十分発揮されない恐れがある。
【0041】
なお、動粘度が上記範囲にあるシリコーンオイルの中でも、JIS K 2241;2000の表面張力試験法に準拠して測定した25℃での表面張力が13〜23mN/m、より好ましくは15〜22mN/mのものを用いることで、有機ポリシラザン塗料が被塗装面に対してよりなじみやすくなり、均一な塗膜を形成しやすい。なお、表面張力が13mN/m未満のものは、塗膜は均一になるものの塗膜の厚みが確保しにくい。
【0042】
前記シリコーンオイルは、有機ポリシラザン塗料に含まれる揮発成分中に60質量%以上含まれることが好ましく、80質量%以上含まれることが特に好ましい。前記揮発成分中にシリコーンオイルが多く含まれることによって、均一な塗膜の形成が容易となる。揮発成分中のシリコーンオイルの含有量が少なすぎると、有機ポリシラザンの加水分解によるSi−O結合の形成が十分ない、緻密な塗膜が形成されない等の不具合を生じる恐れがある。なお、シリコーンオイル以外の揮発成分としては、希釈剤、揮発性の添加剤などが挙げられる。
【0043】
前記有機ポリシラザン塗料には本発明の効果を損なわない範囲において、一般の塗料に用いられるタルク、クレー、炭酸カルシウム等の体質顔料、酸化チタン等の白色顔料、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー等の着色顔料、増粘剤、分散剤、湿潤剤、消泡剤、繊維等の添加剤、シリコーンオイル以外の希釈剤を含有させてもよい。希釈剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤など、シリコーンオイルとの相溶性がよいものを使用する。
【0044】
なお、添加剤の中でも、有機ポリシラザンの結合反応を促進させる触媒作用のある物質(以下、単に触媒ともいう。)を添加することが好ましい。
【0045】
前記触媒としては、例えば、1−メチルピペラジン、1−メチルピペリジン、4,4’−トリメチレンジピペリジン、4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)、ジアザビシクロ−[2,2,2]オクタン、シス−2,6−ジメチルピペラジン、4−(4−メチルピペリジン)ピリジン、ピリジン、ジピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ピペリジン、ルチジン、ピリミジン、ピリダジン、4,4’−トリメチレンジピリジン、2−(メチルアミノ)ピリジン、ピラジン、キノリン、キノキサリン、トリアジン、ピロール、3−ピロリン、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、1−メチルピロリジンなどのN−ヘテロ環状化合物;メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ジヘプチルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、フェニルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミンなどのアミン類;更にDBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]7−ウンデセン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]5−ノネン)、1,5,9−トリアザシクロドデカン、1,4,7−トリアザシクロノナンなどが挙げられる。また、有機酸、無機酸、金属カルボン酸塩、アセチルアセトナ錯体、金属微粒子も好ましい触媒としてあげられる。有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、マレイン酸、ステアリン酸などが、また無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、過酸化水素、塩素酸、次亜塩素酸などが挙げられる。金属カルボン酸塩は、式:(RCOO)nM〔式中、Rは脂肪族基、または脂環族基で、炭素数1〜22のものを表し、MはNi、Ti、Pt、Rh、Co、Fe、Ru、Os、Pd、Ir、Alからなる群より選択された少なくとも1種の金属を表し、nはMの原子価である。〕で表わされる化合物である。金属カルボン酸塩は無水物でも水和物でもよい。アセチルアセトナ錯体は、アセチルアセトン(2,4−ペンタジオン)から酸解離により生じた陰イオンであるアセチルアセトナート(acac)が金属原子に配位した錯体であり、一般的には、式(CHCOCHCOCH)nM〔式中、Mはn価の金属を表す。〕で表される。好適な金属Mとしては、例えば、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム、ロジウムなどが挙げられる。金属微粒子としては、Au、Ag、Pd、Niが好ましく、特にAgが好ましい。金属微粒子の触媒効果を効率よく得るためには、金属微粒子の粒径は、0.5μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましく、0.05μm以下がさらに好ましい。これら以外にも、過酸化物、メタルクロライド、フェロセン、ジルコノセンなどの有機金属化合物も用いることができる。これら触媒は、有機ポリシラザン100質量部に対して0.01〜30質量部、好ましくは0.1〜10質量部、特に好ましくは0.5〜7質量部の量で配合される。
【0046】
以上のように構成される有機ポリシラザン塗料の具体的な実施形態を以下に示す。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0047】
<第一実施形態>
前記有機ポリシラザン塗料は、例えば、電気調理器具であるIHクッキングヒーターのガラストッププレートのコーティング剤として用いることができる。
【0048】
ガラストッププレートは、使用によって油汚れ、水汚れが付着すため、汚染防止性、汚染除去性といった性能が求められる。本発明の有機ポリシラザン塗料をガラストッププレートに塗装して、ガラストッププレートをコーティングすることにより、ガラストッププレートが汚染防止性、汚染除去性に優れたものとなり、油汚れ、水汚れを容易に落とすことができる。
【0049】
また、有機ポリシラザンによる塗膜が耐熱性を有するため、ガラストッププレートが高温になってもコーティングが劣化することなく、高温の油が付着することや、ガラストッププレートが高温になることでこびり付いた油汚れに対してもコーティング効果を得ることが出来る。
【0050】
ガラストッププレートに塗装する有機ポリシラザン塗料は、前記した組成のものを用いればよい。具体例としては、以下のような組成のものを用いることができる。
【0051】
有機ポリシラザン塗料の組成例:塗膜を形成する有機ポリシラザンとしてのジメチルポリシラザン(直鎖)100質量部、ジメチルシリコーン(動粘度1.5mm/s)310質量部、触媒としてのジメチルアミン2質量部。
【0052】
前記有機ポリシラザン塗料の成膜工程は以下の通りである。
まず、被塗装物に有機ポリシラザン塗料を塗装する。その際の塗装方法や塗装器具は、一般に塗料の塗装に用いられるものであればよく、例えば、ローラー、ハケ、エアスプレー、エアレススプレー、ディッピング、フローコーター等の塗装器具や塗装機を使って塗装すればよい。
【0053】
有機ポリシラザン塗料の塗布量は、有機ポリシラザン塗料による硬化後の塗膜の厚みが1〜80μmになるように設定することが好ましく、塗膜の厚みが2〜50μmになるように設定することがより好ましく、塗膜の厚みが5〜30μmになるように設定することが特に好ましい。
有機ポリシラザン塗料による塗膜の厚みが薄すぎると、その塗膜による汚染防止性、汚染除去性が十分に発揮されない恐れがある。逆に、塗膜の厚みが厚すぎると、塗料の乾燥や焼成の工程においてひび割れ等の不具合が発生して健全な塗膜が形成できない恐れ、あるいは塗膜が疎になりやすく、緻密な塗膜が形成できず、塗膜の汚染防止性、汚染除去性が十分発揮されない恐れがある。
【0054】
被塗装物に有機ポリシラザン塗料を塗装した後、常温(一般的な室温。具体的には温度5〜40℃程度の温度)にて乾燥を行う。常温で塗膜を形成させた後、50℃〜500℃にて焼付けを行う。その後、高温多湿条件下(好ましくは、温度40〜80℃、湿度50%以上)で養生を行う。焼付け工程と高温多湿条件下での養生工程を設けることによって、有機ポリシラザンの硬化反応を促進させて、有機ポリシラザン塗料による緻密で均一な塗膜をより早く形成することができる。
【0055】
なお、前記焼付け温度は好ましくは50〜500℃であり、より好ましくは60〜400℃であり、最も好ましくは80〜300℃である。この範囲にあるとき、均一な塗膜を速やかに形成することができる。焼付け温度が低すぎると、有機ポリシラザンの硬化反応を十分に促進させることができない。逆に、焼付け温度が高すぎると、被塗装物との熱膨張率の違いによる塗膜のひび割れや剥離といった不具合が生じやすくなる。
【0056】
また、焼付けの際には、2段階に分けて焼付けを行うことが望ましい。例えば、第一段階では、50℃〜100℃で焼付けを行い、その後、100℃〜500℃で焼付けを行う。2段階で焼付けすることにより、焼付け時に発生しやすいひび割れ等の不具合を軽減することができる。
【0057】
<第二実施形態>
本発明の有機ポリシラザン塗料は、トンネル内壁のコーティング剤として用いることができる。前記トンネル内壁には、砂埃、排気ガスなどの粉塵が付着することによる汚れがつきやすい。また、ラッカースプレーなどによる落書きによって汚れることも考えられる。ポリシラザン含有塗料をトンネル内壁に塗装して壁面に汚染防止性、汚染除去性をもたせることによって、それらの汚れが壁面に付着しにくくし、また、壁面に付着した汚れを容易に除去することができる。
【0058】
トンネル内壁のコーティング用の有機ポリシラザン塗料としては、前記した組成のものを用いればよい。具体例としては、以下のような組成のものを用いることができる。
【0059】
有機ポリシラザン塗料の組成例:塗膜を形成する有機ポリシラザンとしてのメチルポリシラザン(直鎖)100質量部、有機ポリシラザンとしてのビニルポリシラザン(直鎖60質量%、環状体40質量%)(n=20〜30)20質量部、ジメチルシリコーンオイル(動粘度0.65mm/s)350質量部。
【0060】
前記有機ポリシラザン塗料の成膜工程は以下の通りである。
まず始めに、コンクリート製のトンネル内壁に下塗り塗料としての水性アクリル樹脂塗料をウールローラーによって100g/mの塗付量で塗装する。水性アクリル樹脂塗料が乾燥した後に、有機ポリシラザン塗料をウールローラーによって50g/mの塗付量で塗装する。
【0061】
前記下塗り塗料は、コンクリート面への密着が良好で有機ポリシラザン塗料との密着が良好なものを適宜で用いることができる。その組成はアクリルに限定されず、一般に用いられている塗料を使用することができ、水性でも油性でも良い。
【0062】
前記下塗り塗料を用いることで、被塗装物の吸い込みや不陸を緩和でき、被塗装物に厚みが均一な塗膜を形成しやすくなる。例えば、被塗装物がコンクリートのように多孔質で吸い込みが大きい場合であっても、下塗り塗料によって吸い込み量を調節することができるため、その後に塗装する有機ポリシラザン塗料がコンクリートに吸い込まれてしまい、コンクリート表面に十分な膜厚の塗膜を形成できないため、塗膜の汚染防止性、汚染除去性が十分に発揮されないなどといった不具合を抑制することができる。
【0063】
なお、下塗り塗料は、着色されていることが好ましい。前記下塗り塗料を着色することにより、被塗装面に自由に着色することができる。
【0064】
前記下塗り塗料の塗膜硬度はJIS K5600;1999に規定されている引っかき硬度(鉛筆法)で好ましくはHB以上、より好ましくはH以上、最も好ましくは2H以上である。この範囲にあるとき、下塗り塗料の塗膜上に有機ポリシラザン塗膜を形成させた場合に、有機ポリシラザン塗膜のひび割れを抑制することができる。前記下塗り塗料の塗膜の引っかき硬度(鉛筆法)がHB未満である場合には、下塗り塗料の塗膜上に形成させた有機ポリシラザン塗膜がひび割れるおそれがある。
【0065】
前記トンネル内壁への塗装方法は、特に限定しないが、ローラーによる塗装が好ましい。前記トンネル内壁に塗装した有機ポリシラザン塗膜は常温で乾燥される。トンネル内壁の場合、第一の実施形態に示したガラストッププレートのような焼付け工程と高温多湿条件下での養生工程を行なうことは難しいが、十分な養生期間を経ることで汚染防止性、汚染除去性などの性能が得られる。例えば、常温で2週間ほど養生すれば塗膜の硬化反応が十分進み、汚染防止性、汚染除去性などの性能が発揮される。
【0066】
本実施形態は、以下に示す効果を発揮することができる。
・被塗装物の表面に、前記有機ポリシラザン塗料を塗布して有機ポリシラザンの塗膜を形成させることにより、汚染防止性、汚染除去性を向上させることができる。
・前記シリコーンオイルで有機ポリシラザンを希釈することによりその粘性調整及び焼付又は乾燥時の塗膜形成を補助して、有機ポリシラザンによる均一な塗膜を形成することができる。
・前記ジメチルシリコーンオイルの動粘度が0.2〜10mm/sであることにより、平滑で膜厚が均一な塗膜を容易に形成できる。
【0067】
なお、本発明の前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
【0068】
・前記実施形態においては、有機ポリシラザン塗料を電気調理器具のコーティング剤及びトンネルの内壁のコーティング剤として用いたが、被塗装物は任意に設定することができる。例えば、浴槽、台所のシンク、洗面台等の水まわり製品、磁器タイル、天然石、ガラス、プラスチック、セラミック、金属、コンクリート、モルタル、煉瓦等の各種素材からなる建築資材などが挙げられる。
これらのうち、施釉前の陶磁器の表面に有機ポリシラザン塗料を塗布することにより、釉薬を使用しなくても陶磁器表面にガラス質の被膜を形成することができ、陶磁器を保護すると共に、汚染防止性、汚染除去性を付与することが出来る。
【0069】
・前記第二実施形態においては、トンネル内壁に有機ポリシラザン塗料による塗膜を設けたが、地下道通路や建築物の外壁など、汚れが付着しやすい場所や落書きの恐れがある場所等に有機ポリシラザン塗料による塗膜を設けても良い。
【0070】
・前記第二実施形態においては、トンネル内壁に有機ポリシラザン塗料による塗膜を設けたが、工場の床などの床面に有機ポリシラザン塗料による塗膜を設けても良い。
床に使用した場合、粉塵による汚れに対してだけでなく、フォークリフトのスリップ痕や、靴底のゴムなどによる汚れに対しても汚染防止性、汚染除去性が発揮される。
【0071】
次に、前記実施形態から把握される請求項に記載した発明以外の技術的思想について、それらの効果と共に記載する。
(1)施釉前の陶磁器表面に請求項1〜請求項5に記載の有機ポリシラザン塗料が塗装されていることを特徴とする陶磁器。このように構成した場合、釉薬を使用しなくても陶磁器表面にガラス質の被膜を形成することが出来る。
【実施例】
【0072】
以下に本発明の実施例及び比較例を示す。
【0073】
本実施例に用いた有機ポリシラザンは以下の通りである。なお、1〜5の有機ポリシラザンの含有率はいずれも100質量%である。
1:メチルポリシラザン(直鎖)n=10〜30
2:ジメチルポリシラザン(直鎖)n=50〜150
3:ジメチルポリシラザン(直鎖80質量%、環状体20質量%)n=40〜100
4:ブチルポリシラザン(直鎖)n=20〜60
5:化4に示す有機ポリシラザン(直鎖)n=5〜25
【0074】
【化4】

【0075】
シリコーンオイルは以下のものを用いた。
A:ジメチルシリコーンオイル 動粘度:0.65mm/s
B:ジメチルシリコーンオイル 動粘度:1.5mm/s
C:ジメチルシリコーンオイル 動粘度:5mm/s
D:ジメチルシリコーンオイル 動粘度:10mm/s
E:フェノール変性シリコーンオイル 動粘度:100mm/s
【0076】
シリコーンオイル以外の希釈剤として以下の有機溶剤を用いた。
F:トルエン
G:キシレン
H:酢酸ブチル
【0077】
実施例1〜21、比較例1〜4の有機ポリシラザン塗料の組成を表1〜5に示す。なお、表に示す組成は、各原材料の配合量を質量部で示すものである。
【0078】
なお、表1〜5には、以下の手順で形成した各有機ポリシラザン塗料の塗膜の厚みと、その塗膜の成膜性、汚染防止性、汚染除去性、及び耐熱性の評価結果も記載する。
【0079】
(塗膜の形成)
実施例1〜21、比較例1〜4の各有機ポリシラザン塗料を長さ100mm×幅100mm×厚さ5.0mmのガラス板にスプレー塗装した。塗装後、25℃,湿度60%で3時間養生して乾燥させ、その後、100℃で1時間焼付けを行い、更に150℃で1時間焼付けを行った後、25℃,湿度60%で12時間養生し、試験体(焼付け工程あり。以下、試験体αという。)を作製した。
また、上記のものとは別に、焼付けを行なわず、各有機ポリシラザン塗料を長さ100mm×幅100mm×厚さ5.0mmのガラス板にスプレー塗装した後に、25℃,湿度60%で2週間養生して乾燥させた試験体(焼付け工程なし。以下、試験体βという。)を作製した。
【0080】
(成膜性の評価方法)
焼付け、養生の完了した試験体を顕微鏡(倍率500倍)で観察して、塗膜のひび割れの有無を確認し、以下のように評価した。
○:ひび割れなし
×:ひび割れあり
【0081】
また、塗膜の結合反応の促進の程度をフーリエ変換型赤外分光 (FT−IR)を用いて評価した。有機ポリシラザンは加水分解によって窒素原子がはずれてアンモニアガスを生成するとともに酸素原子と置き換わり、最終的にH−Nの結合はなくなる点に着目し、FT−IRの測定結果により以下のように評価した。
○:H−N結合のピークがみられないもの
×:H−N結合のピークがみられたもの
【0082】
(汚染防止性の評価方法)
試験体βを水平に置いて、その上に機械油5mlを垂らして1時間放置した後、乾いた布で機械油を軽く拭き取って、試験体の状態を観察し、以下のように評価した。
◎:実施例1の試験体αほど汚れていない
○:実施例1の試験体αと同じ程度の汚れがみられる
△:実施例1の試験体αと比較して僅かに汚れが目立つ
×:実施例1の試験体αと比較して汚れている
【0083】
(汚染除去性の評価方法)
試験体βを水平に置いて、その上に機械油5mlを垂らして200℃で30分間加熱して、機械油を試験体にこびり付かせる。その後、試験体を中性洗剤と水とスポンジを用いて洗浄し、試験体の状態を観察し、以下のように評価した。
◎:実施例1の試験体αほど汚れていない
○:実施例1の試験体αと同じ程度の汚れがみられる
△:実施例1の試験体αと比較して僅かに汚れが目立つ
×:実施例1の試験体αと比較して汚れている
【0084】
(耐熱性の評価方法)
試験体βを4枚準備し、それぞれの試験体を、電気炉にて100℃、200℃、300℃、400℃の各温度で1時間加熱した後、塗膜の状態を観察し、以下のように評価した。
○:異常なし
×:ひび割れの発生
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリシラザンとシリコーンオイルとを含有することを特徴とする有機ポリシラザン塗料。
【請求項2】
前記シリコーンオイルがジメチルシリコーンオイルを含むことを特徴とする請求項1に記載の有機ポリシラザン塗料。
【請求項3】
前記有機ポリシラザンがメチルポリシラザン、ジメチルポリシラザンのいずれか又は両方の混合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の有機ポリシラザン塗料。
【請求項4】
前記有機ポリシラザンが環状体を0.1〜30質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機ポリシラザン塗料。
【請求項5】
前記シリコーンオイルの25℃における動粘度が0.2〜10mm/sであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機ポリシラザン塗料。
【請求項6】
被塗装物に下塗り塗料を塗装した後に、請求項1〜5のいずれかに記載の有機ポリシラザン塗料を塗装することを特徴とする有機ポリシラザン塗料の塗装方法。

【公開番号】特開2011−148844(P2011−148844A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8628(P2010−8628)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】