説明

有機マトリックス複合材基材用の遮熱酸化防止コーティング及び被覆物品

【課題】金属部品の代わりに航空宇宙産業で用いられている有機マトリックス複合材料が性能を保持するコーティング系を提供する。
【解決手段】有機マトリックス複合材基材12用の遮熱酸化防止コーティング14を、ポリイミドマトリックス中に分散したナノ粒子を含むボンドコート24と、シルセスキオキサン又は無機ポリマーを含有する遮熱層22とを備える構造とする。ナノ粒子はクレイ小板、グラファイトフレーク又はカゴ状シルセスキオキサンを含む。被覆物品10は、ガスタービンエンジン用途、特に高温酸素含有環境に曝露される流路ダクトに使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、有機マトリックス複合材料用の遮熱酸化防止コーティング及び被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
有機マトリックス複合材料(OMC=organic matrix composite)は、金属部品の代わりに用いれば軽量化を達成できるので、航空宇宙産業で用いられている。しかし、高温環境への曝露がOMCの機械的特性を低下し、その酸化劣化の原因となる。そのため、PMR−15やAFR−PE−4などの耐熱性マトリックス材料を用いる現行の耐熱性OMC材料は用途が限られている。
【0003】
当業界で、上記問題を解決するために肉厚の部品を作成することが試みられている。しかし、厚さの増加は、部品への熱的作用と酸化作用を減らすことで実現できる効果と比較して、部品の重量とコストを増加する。
【0004】
別に、部品上に犠牲層を設けて材料劣化を遅らせることも試みられている。犠牲層は、PMC樹脂を含浸した薄い炭素ベールとすることができる。しかし、犠牲層による保護は時間経過と共に失われる。
【0005】
現在、OMC部品用の溶射コーティングとして設層される、セラミック充填材をポリイミドマトリックスに担持した材料の使用について研究されている。溶射コーティングは、有機マトリックス複合材の環境耐久性と耐侵食性を向上することを意図している。しかし、溶射法には、環境、健康、安全、エネルギー及び労働問題が付随する。その上、溶射堆積プロセス中に完全に硬化したコーティング系を得るのは困難である。
【特許文献1】米国特許第6271273号明細書
【非特許文献1】Vosevic et al., "Optimal Substrate Preheating Model for Therm. Spray Dep. of Thermosets Onto Polymer Matrix Comp.," NASA Tech Memo 2003-212120 (Mar. 03), http://ntrs.nasa.gov)
【非特許文献2】Erosion Coatings for High-Temp. Polymer Composites: A Collaborative Project With Allison Advanced Development Company, http//www.grc.nasa.gov/WWW/RT1999/5000/5150sutter.html
【非特許文献3】Properties of PMR Polyimides Improved by Preparation of a Polyhedral Oligometric Silsesquioxane (POSS) Nanocomposites, http://www.grc.nasa.gov/WWW/RM/RM05P-compbell.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、熱的酸化安定性及び機械的性能を向上させるコーティング系を設けることにより、有機マトリックス複合材からなる部品の高温性能を向上することができれば、望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した要求を満たすために、本発明の一実施形態は有機マトリックス複合材構造用の遮熱酸化防止コーティングを提供する。こうすれば、耐熱性OMC材料から形成された被覆構造を、例えば、未被覆の耐熱性OMC材料の最高作動温度より高い温度の環境において金属部品の代替品として使用することができる。他の実施形態では、低耐熱性OMC材料から形成された被覆構造を、未被覆の低耐熱性OMC材料の最高作動温度より高い温度の環境において使用することができる。
【0008】
一実施形態では、有機マトリックス複合材基材用の遮熱酸化防止コーティングが提供される。本コーティングは、基材の少なくとも第1表面上に設けられたボンドコートと、ボンドコートを実質的に覆う1以上の遮熱層とを含む。ボンドコートはポリイミドマトリックス中に分散したナノ粒子を含む。遮熱層はシルセスキオキサン又は無機ポリマーを含有する。
【0009】
別の実施形態では、有機マトリックス複合材基材と、前記基材の1以上の表面上に設けられた遮熱酸化防止コーティングとを備える物品が提供される。遮熱酸化防止コーティングはボンドコートと1以上の遮熱層とを含む。ボンドコートはポリイミドマトリックス中に分散したナノ粒子を含んでおり、遮熱層はシルセスキオキサン又は無機ポリマーを含有する。
【0010】
発明の要旨は特許請求の範囲に記載の通りである。しかし、貼付の図面を参照した以下の詳細な説明を参照することで本発明をもっとも良く理解できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図面を参照すると、図1は、特にガスタービンエンジンのような高温環境で用いる部品10を示すが、他の用途も本発明の範囲内で想定されている。部品10は基材12と、その少なくとも第1表面16上の遮熱酸化防止コーティング14とを含む。第1表面16は部品10の「高温側」18に位置する。部品10の高温側18での使用温度は約725°F(385℃)以下とすることができる。
【0012】
一実施形態は、タービンエンジン用途における耐熱性OMC用に遮熱酸化防止コーティングを用いることを想定している。遮熱酸化防止コーティングを複合材部品の少なくとも高温側に設けて、下側の基材の最高曝露温度を下げるとともに、構造体複合マトリックスの酸化に対するバリアを形成する。遮熱酸化防止コーティングの用途として、エンジン内に種々の流路を画定するダクトに適用することが挙げられる。
【0013】
遮熱コーティング(TBC=thermal barrier coating)の形態の熱保護システムは長年にわたって金属に用いられてきた。このような場合、低熱伝導率材料を部品の表面に被覆して、使用環境と部品との間に熱勾配を設定し、表面下の材料がその最高使用温度より高い温度にさらされないようにする。しかし、OMCのもつ特徴と目標は金属基材とは別のものでユニークである。したがって、本発明のコーティングは、金属基材に用いる遮熱コーティングと区別するために、「遮熱酸化防止コーティング」(thermal oxidative barrier coating)と表記する。
【0014】
一実施形態では、OMCマトリックス材料は、耐熱性ポリイミド系、例えばAFR−700B、PETI−375、PMR−II−50、HFPE、AFR−PE−4及びPMR−15である。しかし、本発明の遮熱酸化防止コーティングは、それより耐熱性の低い樹脂材料、例えば代表的には耐熱性ポリイミド材料と比較して低コストかつ加工容易であるビスマレイミド系ポリイミド材料(BMI)(例えばCycom5250−4(登録商標))と共に使用することもできる。遮熱酸化防止コーティングを設けることにより、低耐熱性材料をこれまで可能であったのより高温の環境で使用することが可能になる。
【0015】
遮熱酸化防止コーティング14は、外側の遮熱層22とボンドコート24を含む。ボンドコート24は、外側遮熱層22の密着に加えて、酸化バリヤとしても機能する。一実施形態では、ボンドコート24が遮熱層22で保護されているので、ボンドコート24のポリマーマトリックスは、基材12のポリマーマトリックスと同じか類似とすることができる。
【0016】
一実施形態では、遮熱層22として用いることを想定している材料を、熱伝導率、熱膨張係数(CTE)、損失重量の関数として測定される熱安定性、比重、曲げ強さ及びモジュラスについて評価する。一実施形態では、基材12のCTEと遮熱層22のCTEの差を小さくするのが望ましい。例えば、OMC基材のCTEは約1ppm/°F(1.8ppm/℃)程度であり、一方遮熱層のCTEは約3.5〜6ppm/°F(6.3〜10.8ppm/℃)の範囲にある。一実施形態では、遮熱層22の所望の密度はOMC基材12の密度以下である。しかし、許容可能な最高密度は通常、材料の熱伝導率に依存する。遮熱層の熱伝導率は、必要な熱的効果を実現するのに必要な厚さに影響する。
【0017】
一実施形態では、コーティング厚さは、基材/コーティング界面26で少なくとも100°F(56℃)の温度低下をもたらすのに十分である。したがって、一実施形態では、使用温度が約725°F(385℃)であれば、基材/コーティング界面26での曝露温度が約625°F(329℃)以下になる。一実施形態では、コーティング14の厚さが約0.030インチ(0.76mm)〜約0.060インチ(1.5mm)である。本発明の方法及びコーティングを用いれば、被覆された有機マトリックス複合材基材は、より高い使用温度で、即ち725°F(385℃)より高い温度で使用できると考えられる。
【0018】
遮熱層22は、例えば、Thermablock(登録商標)コーティングとして知られる市販のシステムの変種の1つ以上を含有する。このコーティングは、MicroPhase Coatings社により耐熱コーティングとして開発された2成分シルセスキオキサン/チタネート材料である。シルセスキオキサンは一般式:(RSO1.5で表され、各ケイ素原子が平均して1.5個(sesqui)の酸素原子及び1個(ane)の炭化水素基に結合している化合物である。シルセスキオキサンは多環式オリゴマー、ラダーポリマー及び線状ポリマーの形態で存在できる。このようなコーティングは、熱硬化OMCを含む種々の基材に強固に密着するとされている。2成分コーティングシステムは50〜100°F(10〜38℃)で硬化する。この材料は酸及び塩基に耐え、最高連続使用温度2000°F(1093℃)である。種々のコーティングのCTEは約3.5〜5ppm/°F(6.3〜9ppm/℃)の範囲にあり、熱伝導率は560°F(293℃)で0.15W/m・Kのように低い。
【0019】
別の実施形態では、遮熱層は、現在Cornerstone Research Group社が開発中のSialyte(登録商標)ポリ(シアレート)材料として知られる開発途上の材料を含んでもよい。ポリ(シアレート)(poly(sialate))は、1群の基本構造(−Si−O−Al−O−)を有する無機ポリマーである。ポリ(シアレート)の実際の構造及び特性は、Si対Alの原子比に依存する。CTEは代表的には純正樹脂の場合5ppm/°F(9ppm/℃)程度であり、充填材の添加により調整される。完全に硬化乾燥した注型サンプルは、相変態による有意な強度低下が起こる前に、1650°F(899℃)に耐える。未充填ポリ(シアレート)の公表データでは、熱伝導率は0.2〜0.4W/m・Kの範囲にある。
【0020】
一実施形態では、ボンドコート24はナノ粒子を含有するポリイミドマトリックスから構成できる。ナノ粒子の例には、カゴ状シルセスキオキサン、グラファイトフレーク及びクレイ小板(clay platelet)がある。ポリイミドとナノ粒子のそれぞれの量は、加工性、CTE、酸素バリヤ性能及びボンド強さなどの因子により決まる。
【0021】
ポリイミド樹脂の例には、フッ素化高熱安定性樹脂である未架橋MVK−19と、高Tg熱可塑性ポリイミドであるKapton(登録商標)ポリイミドの2つが挙げられる。第1のMVK−19系は膨張ナノクレイ充填材を含有する。第2のMVK−19系は膨張グラファイトフレークを含有する。ポリイミド系はカゴ状シルセスキオキサン・ナノ充填材を含有する。カゴ状シルセスキオキサン(POSS=polyhedral oligomeric silsesquioxane)は、Hybrid Plastics社から市販されている、ポリ(アミック酸)とカゴ状シルセスキオキサンのN−メチルピロリドン(NMP)への予備混合15重量%溶液から得られる。これらの3つの系それぞれを溶液として最適に調整し、フィルムとして試験し、最後に選択された遮熱層材料と試験する。
【0022】
加工性は、系の粘度及び粒子分布の均一性の関数として測定される。粘度と温度の関係をコーティング加工性について評価する。充填材分散は種々の回折法及び顕微鏡法により測定する。CTEは−65°F〜800°F(−53℃〜426℃)の温度範囲にわたって膨張試験法により測定する。
【0023】
耐酸素浸透性は、所定の処方から形成したフィルムについて酸素拡散度を測定することで測定される。被覆OMC基材サンプルを熱酸化環境に曝露して熱保護について評価する。例えば、熱酸化安定性試験では、サンプルをチャンバに入れ、チャンバに空気の一定流れをチャンバ容積を5回/時の割合で更新するのに十分な流量で流す。試験温度、圧力及び時間は、保護なしOMC基材サンプルで劣化が測定できる結果となるように選択する。コーティングの酸素バリヤ能力は、保護なしOMC基材と比較した保護ありOMC基材の重量損失により求められる。ボンドコート24の第一の役割は外側遮熱層22を密着することであり、酸素バリヤ能力は副次的な利点である。
【0024】
ボンド強さは室温及び高温で試験する。ボンドコートとOMC基材のポリイミドが化学的に類似しており、ボンドコートのポリイミドと遮熱層が化学的に類似していないので、初期ボンド強さの評価はボンドコート/遮熱層界面での密着について行う。ボンド強さは平面引張試験により測定する。
【実施例】
【0025】
遮熱層22用の2つの候補材料を選び、2つのOMC基材12にボンドコート24用の3つの候補材料で密着させる。OMC基材12はAFR−PE−4プリプレグ及びBMI(Cycom(登録商標)5250−4)プリプレグの硬化パネルを含む。これらの12の組合せを冷熱サイクル試験に供し、ボンドコート/遮熱層界面を評価する。冷熱サイクル試験中に遮熱層のクラック発生や剥落も評価する。冷熱サイクル試験は、等温最高温度(約750°F(398℃))に急速に加熱し、次いで室温まで急冷することにより行う。形成直後の及び冷熱試験後の同等サンプルに、室温で平面引張試験を行って、ボンド強さへの影響を測定する。選択したボンドコートを、冷熱サイクル性能、OMCへの酸素拡散及び熱酸化劣化からのOMCの保護について評価する。
【0026】
12の組合せのパネルを、所定の機械的特性への等温酸化エージングの影響について評価する。曲げ強さ及びモジュラスの機械的特性をASTM C1161に準じて測定する。
【0027】
熱力学的計算、測定した材料特性及び酸化エージング分析を用いて、コーティング14が特定の使用条件で所望レベルの性能を達成するのに必要な、ボンドコート24及び遮熱層22の厚さを求める。
【0028】
一実施形態では、ナノ粒子改質ボンドコート前駆物質を選択した基材に液体として適用(塗工)し、次いで無機遮熱層前駆物質を液体、成形コンパウンド、プリプレグ又は溶射物として適用し、この際の方法は保護すべき特定の部品により決められる。プリプレグを、例えば不織ベール又は織物(例えば石英繊維布)で支持することができる。
【0029】
したがって、遮熱酸化防止コーティングを設けることで、有機複合マトリックス基材を高温環境で利用する見込みが立つ。
【0030】
以上の説明では具体例を挙げて最良の実施形態を含む本発明を開示するとともに、当業者が本発明を再現、利用できるようにしている。本発明の特許可能な範囲は、特許請求の範囲に規定したとおりであり、当業者に想起できる他の実施例も包含する。このような他の実施例も、特許請求の範囲の文言から相違しない構造的要素をもつか、特許請求の範囲の文言から非実質的な相違しかない均等な構造的要素をもつならば、本発明の要旨の範囲内に入るものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】遮熱酸化防止コーティングを有する基材を含む部品の一部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
10 部品
12 基材
14 遮熱酸化防止コーティング
16 第1表面
18 高温側
22 遮熱層
24 ボンドコート
26 基材/コーティング界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機マトリックス複合材基材(12)用の遮熱酸化防止コーティング(14)であって、
有機マトリックス複合材基材(12)の少なくとも第1表面(16)上に設けられたボンドコート(24)であってポリイミドマトリックス中に分散したナノ粒子を含むボンドコート(24)と、
ボンドコートを実質的に覆う1以上の遮熱層(22)であってシルセスキオキサン及び無機ポリマーから選択される1種以上を含有する遮熱層(22)と
を含んでなる、遮熱酸化防止コーティング(14)。
【請求項2】
前記ナノ粒子がクレイ小板、グラファイトフレーク及びカゴ状シルセスキオキサンから選択される1種以上を含有する、請求項1記載の遮熱酸化防止コーティング。
【請求項3】
前記コーティングが、約385℃以下の使用温度環境で基材の1以上の表面の曝露温度を少なくとも56℃低下させるように作用する、請求項1記載の遮熱酸化防止コーティング。
【請求項4】
有機マトリックス複合材基材(12)と、
上記基材の1以上の表面(16)上に設けられた遮熱酸化防止コーティング(14)と
を備える物品(10)であって、遮熱酸化防止コーティング(14)が、ボンドコート(24)と遮熱層(22)とを含んでなり、ボンドコート(24)がポリイミドマトリックス中に分散したナノ粒子を含んでおり、遮熱層(22)がシルセスキオキサン及び無機ポリマーから選択される1種以上を含有する、物品(10)。
【請求項5】
前記有機マトリックス複合材基材が耐熱ポリイミド樹脂系を含有する、請求項4記載の物品。
【請求項6】
前記有機マトリックス複合材基材がAFR−700B、PETI−375、PMR−II−50、HFPE、AFR−PE−4、PMR−15及びBMIからなる群から選択される1種以上の材料を含有する、請求項4記載の物品。
【請求項7】
前記ナノ粒子がクレイ小板、グラファイトフレーク及びカゴ状シルセスキオキサンから選択される1種以上を含有する、請求項4乃至請求項6のいずれか1項記載の物品。
【請求項8】
前記無機ポリマーがポリ(シアレート)材料を含有する、請求項4乃至請求項7のいずれか1項記載の物品。
【請求項9】
前記物品がガスタービンエンジンに用いる流路ダクトを含む、請求項4乃至請求項8のいずれか1項記載の物品。
【請求項10】
前記コーティングが、約385℃以下の使用温度環境で基材の1以上の表面の曝露温度を少なくとも56℃低下させるように作用する、請求項4乃至請求項9のいずれか1項記載の物品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−149712(P2008−149712A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307221(P2007−307221)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】