説明

有機化処理粘土分散液及びその製造方法

【課題】困難であった有機化粘土の極性有機溶媒への微分散を可能とし、かつ低粘性である有機化粘土分散液を提供する。
【解決手段】極性有機溶媒中に有機化処理粘土を分散した有機化処理粘土分散液であって、粒度分布測定におけるメディアン径が0.5〜5μmであり、かつ、前記有機化処理粘土の濃度4質量%分散液の60回転/分での見掛け粘度が1〜200mPa・sである有機化処理粘土分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性有機溶媒に有機化処理粘土を微分散させた分散液、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化処理粘土は、スメクタイトに代表される層状ケイ酸塩の結晶の層間に存在する交換性陽イオンをカチオン性有機化合物に置き換えることによって得られる。
【0003】
有機化処理粘土は、水系以外の分散媒に分散することが可能となり、種々の化合物中に分散し、レオロジー特性の調整、及び改良を目的とし、例えば塗料、印刷インキ、化粧品、潤滑グリース等に利用されている。また、樹脂、ゴムなどの高分子材料への機能性フィラーとして用いられ、それらの剛性、強度、耐熱変形性、難燃性、ガスバリア性などの向上を目的として利用される。さらにガスバリア膜や、耐水膜等の膜の主剤として用いられる。ベントナイト(層状ケイ酸塩)の有機化反応は、一般的には、有機化合物からなる修飾剤の水溶液と粘土の水分散液とを攪拌・混合する反応によって行われている(非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、有機化処理粘土の微分散においては、トルエンやベンゼンといった非極性有機溶媒には容易に分散するものの、特に極性有機溶媒への分散に関しては、ホスト粘土の選択、有機化剤の種類の選定、分散溶媒の選定といった条件をそろえたうえで経験則的に微分散条件を見出すことが一般的であった。すなわち、それらの条件を見出すことが有機化処理粘土の分散液の作製において重要視されてきた。
【0005】
例えば、特許文献1では、有機化処理粘土の有機化剤をトリオクチルメチルアンモニウムイオンとすることで、高極性有機溶媒に対し分散性を向上させることを報告している。
また、特許文献2では、有機化処理剤としてポリオキシエチレン基を有する第四級アンモニウムイオンとポリオキシプロピレン基を有する第四級アンモニウムイオンの2種以上を用いることで、極性有機溶媒への分散性を向上させることを報告している。
このように、極性有機溶媒における有機化処理粘土の分散性の向上は、有機化処理剤の種類の選択やその混合によって図られていた。
【0006】
また、物理的に粒子を細かくし、微分散させる手法としてボールミル、あるいはビーズミルによる分散液の調製が考えられる。これらの手法では、ボールやビーズといった粉砕媒体成分のコンタミネーションやバッチ処理であるがゆえの処理能力の限界、十分な反応時間の必要性といった、生産性の問題が存在している。さらに、微細化することで粘性の上昇が見られ、特に増粘性を必要としない分野、例えば各種高分子中へのフィラーとしての使用、バリア膜の作製においては、高濃度化できないことで多量の分散媒とそれに伴った気化熱が必要とされるなどの問題が存在している。また、結晶の細断化の懸念もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「粘土ハンドブック(第3版)」日本粘土学会編、p550〜554
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−163014
【特許文献2】特開平7−187657
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来法では有機化処理粘土の分散において分散性を決定付ける要素としてホスト粘土、有機化処理剤、分散溶媒の種類などの条件が制限されており、限られた条件下でのみ極性溶媒への微分散が可能であった。また、ボールミルによる微分散法においては一般的に粘性の上昇がみられ、高濃度化、及び低粘性を要求される用途では、取り扱い性に難点があった。従って本発明は、困難であった有機化処理粘土の極性有機溶媒への微分散を可能とし、かつ低粘性である有機化処理粘土分散液、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、極性有機溶媒における有機化粘土のメディアン径が5〜100μmとなるように1次分散させた有機化処理粘土分散液を高圧粉砕装置にて処理することで、メディアン径が0.5〜5μmに微分散し、かつ、従来法に比べ粘性が低い有機化粘土分散液を作製できることを見出し、この知見に基づき本発明をなすに至った。
すなわち上記課題は以下の手段により解決された。
(1)極性有機溶媒中に有機化処理粘土を分散した有機化処理粘土分散液であって、粒度分布測定におけるメディアン径が0.5〜5μmであり、かつ、前記有機化処理粘土の濃度4質量%分散液の60回転/分での見掛け粘度が1〜200mPa・sである有機化処理粘土分散液。
(2)1次分散液を、高圧流体の衝突による高圧微粉砕装置にて2次分散させることを特徴とする(1)に記載の有機化処理粘土分散液。
(3)前記1次分散液の粒度分布におけるメディアン径が5〜100μmであることを特徴とする(2)に記載の有機化処理粘土分散液。
(4)(a)有機化粘土を極性有機溶媒中へ1次分散させる工程と、
(b)前記1次分散液を高圧流体の衝突による高圧微粉砕装置にて2次分散させる工程
を含むことを特徴とする有機化処理粘土分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機化処理粘土分散液は、従来法では微分散しなかった有機化処理粘土を極性有機溶媒に微分散させた分散液であり、微細粒度、かつ、低粘性である。
本発明の有機化処理粘土分散液の製造方法によれば、分散媒を極性有機溶媒とすることができ、高濃度にしても微細粒度かつ低粘性の有機化処理粘土分散液を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】各種2次分散方法で分散液を調製したときの1次分散液に対する粒度比と粘度比の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(有機処理粘土1次分散液)
本発明における有機処理粘土分散液とは、層状ケイ酸塩、特にスメクタイトの層間にイオン交換反応によって有機化処理剤を入れ込んだ、あるいはその表面に吸着させたものである。特にホスト粘土、有機化剤、及び分散媒となる極性有機溶媒の組み合わせは限定しないが、分散媒と有機化処理粘土を一般的な攪拌機、あるいはホモミキサーを用いて、混合させた分散液の分散状態において、粒度分布測定におけるメディアン径が5〜100μmのものを1次分散液として使用するのが好ましい。
【0014】
(層状ケイ酸塩)
有機処理粘土の原料は有機化処理剤によって有機改質できる層状ケイ酸塩であり、スメクタイト、バーミキュライト、膨潤性マイカ、層状ポリケイ酸塩などがあげられる。また、それらは天然品、合成品のいずれでもよく、さらにスメクタイトとしてはモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト、サポナイトが好ましく、モンモリロナイトが特に好ましい。また、精製モンモリロナイトとしては、例えば、クニピアF(商品名、クニミネ工業(株)製)として上市されているものがある。
【0015】
(有機化処理剤)
本発明における層状ケイ酸塩の有機化処理に使用される有機化処理剤は特に限定されないが、極性を有する基をもつ有機化合物があげられ、さらに好ましくはカチオン性基を有する有機化合物があげられ、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、イミダゾリウム塩、及びピリジニウム塩があげられ、なかでも特に第四級アンモニウム塩が好ましい。
【0016】
有機処理剤について具体例をあげれば、ジポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウム塩、アルキルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩があげられ、なかでも特に側鎖に極性基を有するもの、例えば水酸基等の極性基を有するもの、例えばジポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウム塩、アルキルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩などが、極性有機溶媒への分散性が向上され、さらに好ましい。
【0017】
(極性有機溶媒)
本発明の製造方法において有機化処理粘土を分散する極性有機溶媒としては特に限定されないが、常温で液体である極性溶媒であることが好ましい。例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルホルムアミド、ホルムアミド、1−ブタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、エタノール、メタノール等があげられる。また、2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0018】
(分散装置)
本発明で2次分散に用いられる分散装置としては、流体を高圧で噴射させ、その噴流どうし、あるいは噴流と分散液とをノズル手段を介して衝突させる湿式微粒化装置であることが好ましい。湿式微粒化装置(高圧微粉砕装置)としては、例えば「スターバーストシステム」(商品名、(株)スギノマシン製)、「ナノジェットパル」(商品名、(株)常光製)、吉田機械興業(株)の湿式微粒化装置などが上市されており、好適に利用できる。
【0019】
本発明における有機化処理粘土分散液の製造方法は、
(a)有機化粘土を極性有機溶媒中へ1次分散させる工程と、
(b)前記1次分散液を高圧流体の衝突による高圧微粉砕装置にて2次分散させる工程
を含む。
上記製造方法について以下に説明する。
【0020】
<工程(a)>
前記有機化粘土を前記極性有機溶媒に対し混合させ、1次分散させる。その固体分散濃度は分散機にて混合可能な濃度の範囲であれば自由に設定することが可能であるが、1〜15質量%が好ましい。さらに好ましくは2〜10質量%である。1次分散においては極性有機溶媒に対し、有機化処理粘土を加えていくことで分散を行うことができ、市販の攪拌子による攪拌機、あるいはホモミキサーを用いることが可能である。
【0021】
<工程(b)>
前記1次分散液に対し、高圧微粉砕装置を通すことで、2次分散させる。2次分散における圧力は分散に十分なせん断力がかかっていればよく、70〜250MPaで行うことが可能である。
本発明の1次分散処理は有機化処理粘土粉体の凝集粒子を極性有機溶媒で破砕し、攪拌機等にて弱いせん断をかけ、高圧微粉砕処理に適した粒子サイズに分散させるために行なう。この処理により1次分散粒度を、粒度分布測定におけるメディアン径が5〜100μmとなるようにする。
本発明の2次分散処理は、1次分散処理によって得られた分散粒子を、有機化処理粘土結晶間にて凝集している結晶層ごとの剥離を目的とした強いせん断力にてさらに微分散させるために行なう。この処理により2次分散粒度を、粒度分布測定におけるメディアン径が0.5〜5μmとなるようにする。
1次分散液を高圧流体にして衝突させることで、強いせん断力をかけ、結晶を壊すことなく結晶層間の剥離を物理的に促進させることができる。すなわち、結晶の破壊による分散粒子数の増加ではなく、結晶サイズを損なわない微分散であるので、微細に分散して粘度の低い分散液を得ることができる。
【0022】
本発明の有機化処理粘土分散液の分散粒度は例えば粒度分布測定装置を用いて解析することができる。例えば、動的光散乱法、あるいはレーザー回折・散乱法による市販の粒度分布測定装置によって極性有機溶媒中に分散している有機化処理粘土の粒径を確認することができる。
本発明の有機化処理粘土分散液のメディアン径は0.5〜5μmであり、好ましくは0.8〜2.0μmである。
【0023】
本発明の有機化処理粘土分散液の粘性は例えばB型粘度計、あるいはE型粘度計等の一般的な粘度計を用いて評価することができる。
本発明の有機化処理粘土分散液の粘度は、4質量%濃度のときに、60回転/分での見掛け粘度が1〜200mPa・sであり、好ましくは1〜60mPa・s、より好ましくは2〜20mPa・sである。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
実施例1〜12、比較例1〜12
表1に示す有機化処理粘土を表1に示す極性有機溶媒に固形分濃度4質量%となるように加え、攪拌機にて1000rpmにて1時間攪拌させた。得られた1次分散液を表1に記載の条件で2次分散した。得られた2次分散液のメディアン径、及び粘度を後述の方法で測定、評価した。
【0026】
(有機化処理粘土)
・有機化処理粘土A
クニピアF(商品名、クニミネ工業(株)製)に対し有機化処理剤として塩化アルキル(C〜C18)ジメチルベンジルアンモニウム(ライオン・アクゾ(株)製;商品名 アーカードCB−50)を陽イオン交換容量の1.05倍反応させ、十分な蒸留水で洗浄、乾燥、粉砕した試料を作製した。
・有機化処理粘土B
クニピアF(商品名、クニミネ工業(株)製)に対し有機化処理剤として塩化オレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム(ライオン・アクゾ(株)製;商品名 エソカードO/12)を陽イオン交換容量の1.05倍反応させ、十分な蒸留水で洗浄、乾燥、粉砕した試料を作製した。
【0027】
(極性有機溶媒)
使用した極性有機溶媒は表1に以下のように示す。
DMA:N,N−ジメチルアセトアミド
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
NMP:N−メチルピロリドン
【0028】
(2次分散方法 条件)
・高圧粉砕機 シングルノズル
以下の湿式微粒化装置で2次分散した。
装置:スターバーストラボ(HJP−25005、商品名、スギノマシン社製)
チャンバー:シングルノズル(ノズル径0.17mm)
圧力:100MPa
・高圧粉砕機 斜向衝突ノズル
以下の湿式微粒化装置で2次分散した。
装置:スターバーストラボ(HJP−25005、商品名、スギノマシン社製)
チャンバー:斜向衝突ノズル(ノズル径0.12mm)
圧力:100MPa
【0029】
・ボールミル 24h
装置:ポットミル回転台(ANZ−50S、商品名、日陶科学社製)、ポット(MT印、1L容量、(株)三商より購入)
処理方法:200gの試料に対し、200gアルミナボール(30g/個)をとりポット内へ移し、24時間処理した。
【0030】
(メディアン径)
装置:LA950V2(商品名、HORIBA社製)
測定方法:石英セルに分散媒と適量の試料を入れ、粒度分布を測定した。
【0031】
(粘度)
装置:TV−10M型回転粘度計(東機産業社製)
測定方法:各試料を1000rpmにて5分間攪拌機を用いて攪拌し、その後、60回転/分にて60秒間、少量サンプルアダプターを用いて各試料の見掛け粘度を測定した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1より、比較例1〜6の2次分散をしていないものに比べ、実施例1〜12の高圧粉砕機処理による2次分散処理を実施した試料のメディアン径が小さくなっていることがわかる。さらに同様にボールミルによる2次分散処理でもメディアン径が小さくなっている。
【0034】
一方、実施例1〜12の高圧粉砕機処理を実施したものと比較例7〜12のボールミルによる粉砕処理では分散粒子のメディアン径はほとんど変わらないものの、同組成分散液における粘性を比較するとボールミル処理に比べ、高圧粉砕機処理では低くなっている。
【0035】
また、各2次分散法における粒度と粘度の差異を示すにあたり、以下の表2に1次分散状態(比較例1〜6)と2次分散状態での粒度比と粘度比の関係を示した。なお粒度比とは同組成分散液(有機化処理粘土種と溶媒種)においての1次分散状態と2次分散状態におけるメディアン径の比を表し、以下の式で求めるものとする。
(粒度比)=(1次分散液のメディアン径)/(2次分散液のメディアン径)
粘度比とは、同組成分散液においての1次分散状態と2次分散状態における粘度(η60)の比を表し、以下の式で求めるものとする。
(粘度比)=(1次分散液の粘度)/(2次分散液の粘度)
【0036】
【表2】

【0037】
表2の結果をプロットすると図1に示すグラフを得ることができる。図1より粘度比と粒度比とは相関関係が見られ、粘度比は粒度比に対し指数関数的に増加していることがわかる。さらに、2次分散法の違いによる差異として、ボールミルによる2次分散試料のほうが粒度比に対する粘度比は一様に高い傾向にある。すなわち、本発明における有機化処理粘土の分散液は粒度が微細であるにもかかわらず、ボールミル処理による2次分散液に比べ、粘性がより低いものが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性有機溶媒中に有機化処理粘土を分散した有機化処理粘土分散液であって、粒度分布測定におけるメディアン径が0.5〜5μmであり、かつ、前記有機化処理粘土の濃度4質量%分散液の60回転/分での見掛け粘度が1〜200mPa・sである有機化処理粘土分散液。
【請求項2】
1次分散液を、高圧流体の衝突による高圧微粉砕装置にて2次分散させることを特徴とする請求項1に記載の有機化処理粘土分散液。
【請求項3】
前記1次分散液の粒度分布におけるメディアン径が5〜100μmであることを特徴とする請求項2に記載の有機化処理粘土分散液。
【請求項4】
(a)有機化粘土を極性有機溶媒中へ1次分散させる工程と、
(b)前記1次分散液を高圧流体の衝突による高圧微粉砕装置にて2次分散させる工程
を含むことを特徴とする有機化処理粘土分散液の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−201550(P2012−201550A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67360(P2011−67360)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000104814)クニミネ工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】